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特許異議申立

2024-701156

潤滑油組成物

審判番号
2024-701156
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2020-170072
登録番号
7492426
請求日
2024年11月29日
審決日
2025年09月03日
公報発行日
2025年11月28日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】ENEOS株式会社
  • 【権利者代理人】弁理士法人セントクレスト国際特許事務所
  • 【異議申立人】林 紀美江
審判長/審判官
  • 審判長 光本 美奈子
  • 審判官 弘實 由美子
  • 審判官 渡辺 陽子
分類
P1651.113-YAA(C10M) / P1651.121-YAA(C10M) / P1651.536-YAA(C10M) / P1651.537-YAA(C10M)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法120条の8第1項特許法135条
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第2条第3項第1号、特許法第120条の8第1項
データ出所
審決公報(XML)

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特許第7492426号発明「潤滑油組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7492426号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~3〕、〔4~6〕について訂正することを認める。 特許第7492426号の請求項4~6に係る特許を維持する。 特許第7492426号の請求項1~3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7492426号の請求項1~6に係る特許についての出願は、令和2年10月7日を出願日とする出願であって、令和6年5月21日にその特許権の設定登録がされ、同年同月29日に特許掲載公報が発行され、その後、令和6年11月29日に特許異議申立人 林 紀美恵(以下「申立人」という。)により全請求項に係る特許に対して特許異議の申立てがされ、当審は、令和7年3月27日に取消理由を通知した。特許権者は、その指定期間内である令和7年5月30日に意見書の提出及び訂正の請求を行い、(以下「本件訂正請求」といい、その内容を「本件訂正」という。)を行い、当審から、特許権者から訂正請求があったこと及び意見書が提出されたことを、同年6月17日付けで申立人に通知したが、その指定期間内に申立人から応答がなかったものである。 第2 訂正の適否についての判断 1 訂正の内容 本件訂正請求による訂正の内容は、以下の(1)~(6)のとおりである。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項4に「前記潤滑油組成物中に含まれる潤滑油基油が、15℃における密度が0.800~0.850g/cm2のものであることを特徴とする請求項1~3のうちのいずれか一項に記載の潤滑油組成物。」と記載されているのを、「下記(A)~(C): (A)API分類がグループII又はIIIであること、 (B)硫黄分の濃度が100質量ppm以下であること、 (C)窒素分の濃度が100質量ppm以下であること、 に示す条件を全て満たす鉱油系基油を潤滑油基油全量基準で80質量%以上含み、80℃における動粘度が2.0~6.0mm2/sであり、かつ、15℃における密度が0.800~0.850g/cm3である潤滑油基油と、摩耗防止剤と、無灰分散剤と、 を含有し、 前記潤滑油基油の含有量は潤滑油組成物の全量を基準として80~99質量%であり、前記摩耗防止剤の含有量は潤滑油組成物の全量を基準として0.05~1.0質量%であり、 前記無灰分散剤の含有量は潤滑油組成物の全量を基準として0.5~5.0質量%であり、 80℃における動粘度が3.5~6.0mm2/sであり、 80℃におけるトラクション係数が0.0100~0.0250であり、 80℃における動粘度と80℃におけるトラクション係数との積が0.035~0.110であり、かつ、 はすば歯車機構用の潤滑油組成物であること、 を特徴とする潤滑油組成物。」に訂正する。(請求項4の記載を直接的又は間接的に引用する請求項5、6も同様に訂正する。) (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項1を削除する。 (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項2を削除する。 (4)訂正事項4 特許請求の範囲の請求項3を削除する。 (5)訂正事項5 特許請求の範囲の請求項5に「請求項1~4のうちのいずれか一項に記載の潤滑油組成物。」と記載されているのを、「請求項4に記載の潤滑油組成物」に訂正する。 (6)訂正事項6 明細書の段落【0010】、段落【0029】、段落【0031】~【0032】にそれぞれ「g/cm2」と記載されているのを、「g/cm3」に訂正する。 本件訂正前の請求項2~6は、本件訂正前の請求項1を直接的又は間接的に引用したものであるから、本件訂正前の請求項1~6は、一群の請求項を構成する。そして、本件訂正請求は、訂正事項1により、本件訂正前の請求項1~6の記載を訂正しようとするものであり、一群の請求項1~6に対して請求されたものである。また、訂正事項6による明細書についての訂正は、一群の請求項である請求項1~6の全てに関係するものである。 また、本件訂正請求においては、訂正後の請求項4と、訂正後の請求項4の記載を引用する請求項5及び6については、当該請求項についての訂正が認められる場合には、一群の請求項の他の請求項とは別途訂正することを求めている。 2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正事項1による訂正について 訂正事項1は、訂正前の請求項4が請求項1~3のうちのいずれか一項を引用する記載であったものを、請求項間の引用関係を解消して、請求項1~3をいずれも引用しないものとし、独立形式請求項へ改めるための訂正であって、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものである。 また、「80℃における動粘度」、「80℃における動粘度と80℃におけるトラクション係数との積」、及び、潤滑油基油の「硫黄分の濃度」と「窒素分の濃度」と「鉱油系基油」の含有量を、明細書の段落【0016】、【0017】、【0024】及び【0026】~【0029】の記載に基づいて減縮すると共に、明細書の段落【0018】の記載に基づき「80℃におけるトラクション係数が0.0100~0.0250であり」との記載を追加して80℃におけるトラクション係数を特定し、明細書の段落【0033】、【0036】及び【0038】~【0040】の記載に基づき「摩耗防止剤と、無灰分散剤と、を含有し、前記潤滑油基油の含有量は潤滑油組成物の全量を基準として80~99質量%であり、前記摩耗防止剤の含有量は潤滑油組成物の全量を基準として0.05~1.0質量%であり、前記無灰分散剤の含有量は潤滑油組成物の全量を基準として0.5~5.0質量%であり」との記載を追加して、成分およびその含有量を特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 さらに、潤滑油の密度の単位を「g/cm2」から「g/cm3」とするものであるから、誤記の訂正を目的とするものである。 そして、これらの訂正は、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 さらに、訂正前の請求項5、6は請求項4の記載を引用する記載であることから、訂正後の請求項5、6においても同様に、訂正事項1により、これらの訂正と同様の訂正がなされている。 したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第2号及び第4号に規定する事項を目的とするものであり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項及び第6項に適合するものである。 (2)訂正事項2による訂正について 訂正事項2は訂正前の請求項1を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、新規事項を追加するものでもない。 (3)訂正事項3による訂正について 訂正事項3は訂正前の請求項2を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、新規事項を追加するものでもない。 (4)訂正事項4による訂正について 訂正事項4は訂正前の請求項3を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、新規事項を追加するものでもない。 (5)訂正事項5による訂正について 訂正事項5は訂正前の請求項5において「請求項1~4のうちのいずれか一項に記載の潤滑油組成物。」と記載されているのを、「請求項4に記載の潤滑油組成物」に訂正することで引用する請求項を減らすものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、新規事項を追加するものでもない。 (6)訂正事項6による訂正について 訂正事項6に係る明細書についての訂正は、請求項1~6の記載を技術的に不明りょうにし得る誤記を訂正するものであるから、一群の請求項1~6と関連するものである。 明細書の段落【0010】、段落【0029】、段落【0031】~【0032】にそれぞれ「g/cm2」と記載されているのを、「g/cm3」とする訂正は、密度の単位として技術的に誤りである「g/cm2」を正しく記載されている【0051】の「g/cm3」に訂正するものであるから、明細書中の誤記の訂正を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 3 独立特許要件について 本件特許異議の申立ては、訂正前の全ての請求項である請求項1~6に対してされているので、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。 4 小括 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第2号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 したがって、明細書、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~3〕、〔4~6〕について訂正することを認める。 第3 訂正後の本件発明 本件訂正請求により訂正された請求項1~6に係る発明(以下、「請求項1」~「請求項6」に係る発明を「本件発明1」~「本件発明6」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~6に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 (削除) 【請求項2】 (削除) 【請求項3】 (削除) 【請求項4】 下記(A)~(C): (A)API分類がグループII又はIIIであること、 (B)硫黄分の濃度が100質量ppm以下であること、 (C)窒素分の濃度が100質量ppm以下であること、 に示す条件を全て満たす鉱油系基油を潤滑油基油全量基準で80質量%以上含み、80℃における動粘度が2.0~6.0mm2/sであり、かつ、15℃における密度が0.800~0.850g/cm3である潤滑油基油と、摩耗防止剤と、無灰分散剤と、 を含有し、 前記潤滑油基油の含有量は潤滑油組成物の全量を基準として80~99質量%であり、前記摩耗防止剤の含有量は潤滑油組成物の全量を基準として0.05~1.0質量%であり、 前記無灰分散剤の含有量は潤滑油組成物の全量を基準として0.5~5.0質量%であり、 80℃における動粘度が3.5~6.0mm2/sであり、 80℃におけるトラクション係数が0.0100~0.0250であり、 80℃における動粘度と80℃におけるトラクション係数との積が0.035~0.110であり、かつ、 はすば歯車機構用の潤滑油組成物であること、 を特徴とする潤滑油組成物。 【請求項5】 粘度調整剤を含むことを特徴とする請求項4に記載の潤滑油組成物。 【請求項6】 前記粘度調整剤が、重量平均分子量が5,000~20,000のポリマーであることを特徴とする請求項5に記載の潤滑油組成物。」 第4 特許異議の申立の概要について 1 特許異議申立書に記載された理由の概要 (1) 申立理由1(甲第1号証を主たる引用例とした新規性) 本件発明1は、本件特許に係る出願(以下「本件出願」ともいう。)前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、下記2の甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、本件発明1に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 (2) 申立理由2(甲第1号証を主たる引用例とした進歩性) 本件発明1、2、5、6は、本件出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった後記2の甲第1号証に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件発明1、2、5、6に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。 (3) 申立理由3(実施可能要件) 本件特許の発明の詳細な説明は、特定の潤滑油基油以外の潤滑油組成物については具体的に記載されておらず、80℃における動粘度が70mm2/s以下であり{条件(I)}、80℃における動粘度と80℃におけるトラクション係数との積が0.110以下である{条件(II)}という条件を満たす潤滑油組成物を、どのような成分をどのような配合割合で混合すれば製造できるのかについての具体的内容は記載されていないから、当業者が本件発明1~6について、実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないため、本件特許の請求項1~6に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。 (4) 申立理由4(サポート要件) 本件発明1~6には、潤滑油組成物中には潤滑油基油を含むことさえも特に規定されておらず、配合成分に潤滑油基油をほとんど含まないような潤滑油組成物を用いた場合において、従来技術に比べて、はすば歯車機構に用いた場合に、特異的に、幅広い温度域において高速回転時の動力伝達効率を十分に発揮させるという効果を得ることができることは、本願の詳細な説明には、具体的な根拠とともに記載されておらず、当該事項が技術常識であったとも直ちに認められるものではないので、本件発明の課題を解決できない態様が含まれるといえるから、本件発明1~6についての特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、それらの発明に係る特許は、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。 2 証拠方法 甲第1号証:特開2012-201808号公報 甲第2号証:自動車のトライボロジー,株式会社養賢堂 甲第3号証:平成22年(行ケ)第10256号審決取消請求事件 (以下、「甲第1号証」~「甲第3号証」をそれぞれ「甲1」~「甲3」ともいい、これらをまとめて「甲号証」ともいう。) 第5 取消理由通知に記載した取消理由について 1 取消理由の概要 訂正前の請求項1~6に係る特許に対して、当審において、令和7年3月27日に特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。 取消理由1(進歩性): 請求項1、2、及び、請求項1又は2の引用形式で記載される請求項5、6に係る発明は、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に想到することができたものであるから、請求項1、2、5、6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。 取消理由2(サポート要件): 請求項1~6に係る特許は、発明の詳細な説明に記載された発明とはいえず、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものでないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。 実施例1~11以外の非常に様々な「80℃における動粘度」や「80℃におけるトラクション係数」を包含し、基油や添加剤の種類や配合量も様々な態様をも包含する本件発明1の全体にわたり、実施例1~11と同様に「40℃~120℃といった広い温度域において、はすば歯車機構の高速回転時の動力伝達効率を十分に向上させること」が明らかとはいえない。 そうすると、本件明細書の発明の詳細な説明における「はすば歯車機構用」の「潤滑油組成物」についての記載は、実施例による裏付けがあるとはいえず、本件発明1の「はすば歯車機構用の潤滑油組成物」は「はすば歯車機構に用いた場合に、特異的に、幅広い温度域において高速回転時の動力伝達効率を十分に向上させる潤滑油組成物」であって、発明の課題を解決できるものであることを、当業者は認識できない。 2 取消理由で採用した甲号証 甲1:特開2012-201808号公報 3 甲号証の記載 (1) 甲1には、次の記載がある。 「【0001】 本発明は潤滑油組成物に関し、詳しくは、省燃費性の高い、自動車用の自動変速機、手動変速機、無段変速機に好適な潤滑油組成物に関する。 【背景技術】 【0002】 近年、炭酸ガス排出量の削減など、環境問題への対応から自動車、建設機械、農業機械等の省エネルギー化、すなわち、省燃費化が急務となっており、エンジンや変速機、終減速機、圧縮機、油圧装置等の装置には省エネルギーへの寄与が強く求められている。そのため、これらに使用される潤滑油には、従来に比べより攪拌抵抗や摩擦抵抗を減少することが求められている。 【0003】 省燃費化手段のひとつとして、潤滑油の低粘度化が挙げられる。例えば、自動車用自動変速機や無段変速機はトルクコンバータ、湿式クラッチ、歯車軸受機構、オイルポンプ、油圧制御機構などを有し、また、手動変速機や終減速機は歯車軸受機構を有しており、これらに使用される潤滑油をより低粘度化することにより、トルクコンバータ、湿式クラッチ、歯車軸受機構およびオイルポンプ等の攪拌抵抗および摩擦抵抗が低減され、動力の伝達効率が向上することで自動車の燃費の向上が可能となる。」 「【0011】 本発明の潤滑油組成物は、従来品からさらに潤滑にかかる抵抗を低減できるため、例えば自動車用手動変速機用、自動変速機用、無段変速機用又は手動変速機用あるいは自動車用終減速機用、そのなかでも特に無段変速機用として使用することで自動車の燃費の向上に寄与することが可能となる。 【発明を実施するための形態】 【0012】 以下、本発明を説明する。 本発明における(A)潤滑油基油は、%CAが2以下であり、100℃における動粘度が1.5~4.5mm2/sに調整してなる潤滑油基油であり、鉱油系潤滑油基油、合成系潤滑油基油及びこれらの混合物を用いることができる。」 「【0021】 本発明の変速機用潤滑油組成物における(A)潤滑油基油は、100℃における動粘度が1.5~4.5mm2/sに調整してなる潤滑油基油である。 (A)成分としては、具体的には以下の(A-a)~(A-c)から選ばれる1種又は2種以上を混合して用いることが好ましい。 (A-a)100℃における動粘度が1.5~3.5mm2/s未満、好ましくは1.9~3.2mm2/sの鉱油系基油 (A-b)100℃における動粘度が3.5~7mm2/s未満、好ましくは3.6~4.5mm2/sの鉱油系基油 (A-c)100℃における動粘度が1.5~7mm2/s未満、好ましくは3.8~4.5mm2/sのポリα-オレフィン系基油 【0022】 ここで、(A-a)~(A-b)の潤滑油基油の%CAは2以下であり、1以下であることが好ましく、0.5以下であることがさらに好ましく、実質的に0であることが特に好ましい。(A-c)の%CAは実質的に0である。(A)潤滑油基油の%CAを2以下とすることでより酸化安定性に優れ、かつ本発明の条件であるトラクション係数0.02以下の潤滑油組成物を得ることができる。 なお、本発明において%CAとは、ASTM D 3238-85に準拠した方法により求められる芳香族炭素数の全炭素数に対する百分率を示す。 【0023】 また、(A-a)~(A-c)の潤滑油基油は、その粘度指数に格別の限定はないが、粘度指数は80以上が好ましく、より好ましくは100以上、特に好ましくは120以上であり、通常200以下、好ましくは160以下であることが望ましい。粘度指数を80以上とすることによって、低温から高温にわたり良好な粘度特性を示す組成物を得ることができるとともに、トラクション係数も低いものが得られる。また粘度指数が高すぎると組成的にノルマルパラフィン量が増えすぎ、低温流動性が悪化する。 【0024】 また、本発明における(A-a)~(A-b)の潤滑油基油は、その硫黄含有量に格別の限定はないが、0.1質量%以下であることが好ましく、0.05質量%以下がより好ましく、0.02質量%以下がさらに好ましく、0.01質量%以下が特に好ましく、0.005質量%以下が最も好ましい。なお、(A-c)の硫黄含有量は実質的に0%である。(A)成分の硫黄含有量を低減することで組成物の酸化安定性により優れた組成物を得ることができる。 【0025】 本発明においては、上記(A-a)~(A-c)をそれぞれ単独でも使用することができるが、任意に混合使用することができる。中でも、(A-a)と、(A-b)及び/又は(A-c)を併用することが好ましい。なお、(A-a)成分及び/又は(A-b)成分と(A-c)成分を併用する場合、(A-c)成分の含有量は、基油全量基準で、好ましくは1~50質量%、より好ましくは3~20質量%、さらに好ましくは3~10質量%である。特に、(A-c)成分を3~10質量%程度配合することで、安価かつ効果的に、疲労寿命、低温特性、酸化安定性に優れた効果を発現することができる。 【0026】 本発明における(A)潤滑油基油の100℃における動粘度は1.5~4.5mm2/sであり、好ましくは2.8~4.0mm2/s、特に好ましくは3.6~3.9mm2/sである。100℃における動粘度を4.5mm2/s以下とすることによって、流体抵抗が小さくなるため潤滑箇所での摩擦抵抗がより小さい潤滑油組成物を得ることが可能となり、低温粘度に優れた組成物(例えば、-40℃におけるブルックフィールド粘度が2万mPa・s以下)とすることができる。また、100℃における動粘度を1.5mm2/s以上とすることによって、油膜形成が十分となり、潤滑性により優れ、また、高温条件下での基油の蒸発損失がより小さい潤滑油組成物を得ることが可能となる。 【0027】 また、本発明における(A)潤滑油基油の%CAは2以下であり、1以下であることが好ましく、0.5以下であることがさらに好ましく、実質的に0であることが特に好ましい。(A)潤滑油基油の%CAを2以下とすることでより酸化安定性に優、かつ本発明の条件である、トラクション係数0.02以下の組成物を得ることができる。 【0028】 また、本発明における(A)潤滑油基油は、その粘度指数に格別の限定はないが、粘度指数は80以上が好ましく、より好ましくは100以上、特に好ましくは120以上であることが望ましい。粘度指数を80以上とすることによって、低温から高温にわたり良好な粘度特性を示す組成物を得ることができるとともに、トラクション係数も低いものが得られる。 【0029】 また、本発明における(A)潤滑油基油は、その硫黄含有量に格別の限定はないが、0.1質量%以下であることが好ましく、0.05質量%以下がより好ましく、0.02質量%以下がさらに好ましく、0.01質量%以下が特に好ましく、0.005質量%以下が最も好ましい。(A)成分の硫黄含有量を低減することで組成物の酸化安定性により優れた組成物を得ることができる。 【0030】 本発明における(A)潤滑油基油は前述の通りであるが、潤滑油組成物としての疲労寿命に問題がある場合は、この基油に動粘度20mm2/s~50mm2/sの溶剤精製基油を、(A)%CAが2以下であり、100℃における動粘度が1.5~4.5mm2/sに調整してなる潤滑油基油となり、潤滑油組成物の40℃、平均速度 3.0m/s、すべり率10%、面圧0.4GPaにおけるトラクション係数が0.02以下となる範囲で混合して使用することができる。 この動粘度20mm2/s~50mm2/sの溶剤精製基油としては、硫黄分が0.3質量%~0.7質量%であり、%CAが5以上9以下のものが好ましく使用される。」 「【0042】 本発明における(B)成分は粘度指数向上剤として、少なくとも2種類の重量平均分子量をもつ、(B1)重量平均分子量50,000以下のポリ(メタ)クリレートを組成物全量基準で1~10質量%、および(B2)重量平均分子量100,000~250,000のポリ(メタ)クリレートを組成物全量基準で0.1~5質量%使用する。 【0043】 (B1)の重量平均分子量は50,000以下、好ましくは40,000以下、さらに好ましくは30,000以下であり、5,000以上、好ましくは10,000以上、さらに好ましくは15,000以上である。50,000を超えると(B2)との組み合わせにおいて剪断安定性が低すぎ、潤滑油組成物としての必要粘度を維持することができない。また5,000より小さいと高剪断粘度が高くなるため、80℃における動粘度(Vk:mm2/s)と高剪断粘度(Vs:mPa・s)の比(Vs/Vk)が1未満を満足させることができない。」 「【0049】 本発明の潤滑油組成物における(B)成分のポリ(メタ)アクリレート系添加剤の配合量は上記のとおりであるが、潤滑油組成物の80℃における動粘度が5~10mm2/s、好ましくは6~9mm2/s、かつ、潤滑油組成物の粘度指数が120~270、好ましくは150~250、より好ましくは170~220となるような量であることが好ましい。」 「【0052】 また本発明の潤滑油組成物は40℃、平均速度 3.0m/s、すべり率10%、面圧0.4GPaにおけるトラクション係数が0.02以下である。 このトラクション係数はスチールボール-ディスク装置で測定されたものである。これは半径13cmの円盤を286.7rpmで回転させ、半径10cmのところに半径1.27cmのボールに20Nの荷重をかけ、40℃で平均速度 3.0m/s、すべり率10%、面圧0.4GPaにおけるボールにかかる回転トルクから算出されたものである。 【0053】 この条件はいわゆる完全な弾性流体潤滑条件までには至らず、まだ流体潤滑条件と弾性流体潤滑条件の中間の領域である。従来の技術では高い面圧、具体的には1GPaを超える面圧でトラクション係数を測定し、その潤滑油組成物の高い面圧条件化での油膜の形成のしやすさ、すなわちトラクション係数が高い組成物ほど油膜を形成しやすく過酷な条件での潤滑性が良好であると判断されていた。 【0054】 しかし本発明でのトラクション係数の測定条件は前述したとおり0.4GPaという中間面圧条件下での測定値であり、玉軸受やころ軸受での潤滑を除けば、機械の潤滑領域のうち、トラクション係数が潤滑にかかわる抵抗となっている部分の代表条件と考えても良い。したがって、本条件下のトラクション係数を低減することは、機械の潤滑条件でトラクション係数にかかる抵抗を下げることになる。すなわち、本発明では40℃で平均速度 3.0m/s、すべり率10%、面圧0.4GPaにおけるトラクション係数を0.02以下とすることで、より省燃費効果を確保することができるのである。 この条件下でのトラクション係数は0.02以下であり、低ければ低いほど良いが、先に述べたように、より高い面圧下に玉軸受やころ軸受等の潤滑性を確保するため0.005以上であることが好ましい。」 「【0057】 また本発明の潤滑油組成物は、自動車用の手動変速機、自動変速機、無段変速機、終減速機、エンジン油、農業機械や建設用機械、等さまざまな用途に使用可能である。もっとも好適に使用されるのは無段変速機、である。これは潤滑において剪断がかかる箇所が多く、面圧も高い分が多いため、本発明の性能が最も効果的に使用されうるためである。 【0058】 本発明の潤滑油組成物には、その性能をさらに向上させる目的で、又は潤滑油組成物に必要な性能を付与するために、必要に応じて、粘度指数向上剤、極圧剤、分散剤、金属系清浄剤、摩擦調整剤、酸化防止剤、腐食防止剤、防錆剤、抗乳化剤、金属不活性化剤、流動点降下剤、シール膨潤剤、消泡剤、着色剤等の各種添加剤を単独で又は数種類組み合わせて配合しても良い。 【0059】 粘度指数向上剤としては、前記した(B)成分のポリ(メタ)アクリレートのほか、非分散型または分散型エチレン-α-オレフィン共重合体またはその水素化物、ポリイソブチレンまたはその水素化物、スチレン-ジエン水素化共重合体、スチレン-無水マレイン酸エステル共重合体、ポリアルキルスチレンおよび構造式(1)で表される(メタ)アクリレートモノマーとエチレン/プロピレン/スチレン/無水マレイン酸のような不飽和モノマーとの共重合体等の粘度指数向上剤をさらに用いることができる。 本発明の潤滑油組成物に粘度指数向上剤((B)成分を除く)を配合する場合、その配合量は、組成物の100℃における動粘度及び粘度指数の規定を満たす限り制限はなく、通常、組成物全量基準で0.1~15質量%、好ましくは0.5~5質量%である。」 「【0075】 (実施例1~2、比較例1~5) 表1に示す組成に従い、本発明に係る変速機用潤滑油組成物(実施例1~2)を調製した。これらの組成物につき、以下に示す性能評価試験を行い、その結果を表1に示した。 また、表1に示す組成に従い、比較のための変速機用潤滑油組成物(比較例1~5)を調製し、これらの組成物についても同様の性能評価試験を行い、その結果も表1に示した。 【0076】 [ポンプ試験 消費電力低減率] ポンプ、圧力弁およびオイルタンクからなる試験装置を用いて、ポンプ回転数を一定として潤滑油を循環した際のポンプ消費電力を計測する。潤滑油はオイルタンクよりポンプにて汲み出され、圧力弁を通過してオイルタンクへ戻る構造となっている。圧力弁は潤滑 油循環時の負荷を任意に設定可能であり、オイルタンクはヒーターを有しており潤滑油温度を任意に設定可能である。実施例では、潤滑油温度を80℃、負荷を13MPaに設定した際のオイルの消費電力を比較した。 【0077】 【表1】 [図:0001429017000001.jpg] 【0078】 表1の結果から明らかにように、実施例1~2の潤滑油組成物は、Vs/Vkが1未満であり、かつトラクション係数が0.02以下である。また音波剪断試験8時間後の80℃での粘度低下率が8%以下である。これに対し、比較例1はVs/Vkが1未満を満足せず、比較例2~4はいずれも粘度低下率が8%を超え、比較例5はVs/Vkが1未満を満足せず、またトラクション係数が0.032と大きいものであった。 【産業上の利用可能性】 【0079】 本発明の潤滑油組成物は省燃費性に優れ、手動変速機用、自動変速機用、無段変速機用、終減速機用として有用に使用される。」 4 取消理由についての当審における判断 (1) 取消理由1(甲1を主引例とした進歩性)について 前記第5 1のとおり、取消理由は、訂正前の請求項1及び2、並びに、それらの引用形式で記載される請求項5及び6に係る特許に対して通知されたものであり、本件訂正により、取消理由の対象となる請求項が削除されたため、取消理由の対象とした発明が存在しないものとなった。 (2) 取消理由2(サポート要件)について ア サポート要件の判断基準 特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものとされている。 イ サポート要件の判断 (ア) 本件発明が解決しようとする課題 本件明細書の【0004】、【0012】によると、本件発明の解決しようとする課題(以下「発明の課題」という。)は「はすば歯車機構に用いた場合に、特異的に、幅広い温度域において高速回転時の動力伝達効率を十分に向上させることを可能とする潤滑油組成物を提供すること」と認められる。 (イ) 本件発明1~3について 本件訂正により、請求項1~3は削除されたため、請求項1~3に係る特許についての特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しないものとなった。 (ウ) 本件発明4について 本件発明4は「下記(A)~(C):(A)API分類がグループII又はIIIであること、(B)硫黄分の濃度が100質量ppm以下であること、(C)窒素分の濃度が100質量ppm以下であること、に示す条件を全て満たす鉱油系基油を潤滑油基油全量基準で80質量%以上含み、80℃における動粘度が2.0~6.0mm2/sであり、かつ、15℃における密度が0.800~0.850g/cm3である潤滑油基油と、摩耗防止剤と、無灰分散剤と、を含有し、前記潤滑油基油の含有量は潤滑油組成物の全量を基準として80~99質量%であり、前記摩耗防止剤の含有量は潤滑油組成物の全量を基準として0.05~1.0質量%であり、前記無灰分散剤の含有量は潤滑油組成物の全量を基準として0.5~5.0質量%であり」、「80℃における動粘度が3.5~6.0mm2/sであり、80℃におけるトラクション係数が0.0100~0.0250であり、80℃における動粘度と80℃におけるトラクション係数との積が0.035~0.110であり」、かつ、「はすば歯車機構用の潤滑油組成物であること、を特徴とする潤滑油組成物。」を特定事項とするものである(下線は当審が付した)。 本件明細書の【0053】及び表1を参照すると、潤滑油基油の含有量の単位の「inmass%」は潤滑油基油の全量に対する鉱油(A)~(H)の含有量(質量%)を表しており、実施例1~11では鉱油(A)~(D)が100(inmass%)であるから、「(A)API分類がグループII又はIIIであること、(B)硫黄分の濃度が100質量ppm以下であること、(C)窒素分の濃度が100質量ppm以下であること」、に示す条件を全て満たす鉱油(A)~(D)を、「潤滑油基油全量基準で」100質量%含んでいる。 また、添加剤の含有量の単位の「mass%」は潤滑油組成物全量に対する各添加剤の含有量(質量%)であるから、摩耗防止剤の含有量の最小値は実施例6の0.1(質量%)、最大値は実施例7の0.6(質量%)であり、無灰分散剤の含有量の最小値は実施例9の1(質量%)であり、最大値は実施例1~5、8、10、11の4(質量%)である。 さらに、潤滑油基油の潤滑油組成物の全量を基準とした含有量は、潤滑油組成物全量から添加剤の含有量を除いた値であるから、最小値は実施例11の(100-2.0-9-0.1=)88.9(質量%)であり、最大値は実施例9の(100-1-0.3=)98.7(質量%)である。 すなわち、実施例1~11には、本件発明4に特定される条件を全て満たす鉱油系基油を潤滑油基油全量基準で100質量%含み、潤滑油基油の含有量は潤滑油組成物の全量を基準として88.9~98.7質量%であり、摩耗防止剤の含有量は潤滑油組成物の全量を基準として0.1~0.6質量%であり、無灰分散剤の含有量は潤滑油組成物の全量を基準として1~4質量%である態様について、「FZG平歯車試験」は動力伝達効率の効率向上値が0.1~0.2程度のところ、「はすば歯車試験」で試験(A)~(C)の効率向上値の平均値が0.50~0.67であることが示されていることから、当業者は、本件発明4は、発明の詳細な説明に記載された発明であり、「40℃~120℃といった広い温度域において、はすば歯車機構の高速回転時の動力伝達効率を十分に向上させることが可能なものである」と理解するといえる。 したがって、本件発明4は、発明の詳細な説明に記載された発明であり、発明の詳細な説明の記載により当業者が上記(ア)の課題を解決できると認識できると認識できる範囲内のものである。 (エ) 本件発明5、6について 本件発明5、6は本件発明4をすべて包含する発明であるから、上記(ウ)に記載したとおり、発明の詳細な説明の記載により当業者が上記(ア)の課題を解決できると認識できるものといえる。 ウ 小括 以上のとおりであるから、本件発明4~6についての特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものである。 第6 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について 1 申立理由1(甲1を主たる引用例とした新規性) 申立人は、特許異議申立書において、甲1には「A.80℃における動粘度が7.0mm2/sであり、B.80℃における動粘度と80℃におけるトラクション係数との積が0.110以下」であることが記載されており、はすば歯車機構用という構成要件は甲1に直接的な記載はないものの変速機用潤滑油組成物であることは明記されており、はすば歯車機構に用いた場合に、特異的に、動力伝達効率を十分に向上させることは明らかであるため、甲1発明にはすば歯車用という用途が実質的に開示されているといえるから、本件発明1は、本件特許に係る出願(以下「本件出願」ともいう。)前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、甲1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、本件発明1に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである旨を主張する。 しかしながら、本件訂正請求により、訂正前の本件発明1は削除されたから、請求項1に係る特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しないものとなった。 したがって、当該主張は採用できない。 2 申立理由3(実施可能要件) (1) 前提 特許法第36条第4項第1号は、明細書の発明の詳細な説明の記載は、「その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したもの」でなければならないと定める。そして、物の発明における発明の実施とは、その物の生産、使用等をする行為をいうから(特許法第2条第3項第1号)、同法第36条第4項第1号の「その実施をすることができる」とは、その物を作ることができ、かつ、その物を使用できることであり、物の発明については、明細書にその物を生産する方法及び使用する方法についての具体的な記載が必要であるが、そのような記載がなくても、明細書及び図面の記載並びに出願当時の技術常識に基づき、当業者がその物を作ることができ、かつ、その物を使用できるのであれば、上記の実施可能要件を満たすということができる。 (2) 申立人の主張 申立人は、訂正前の請求項1の「80℃における動粘度が7.0mm2/s以下」(以下、条件(I)ともいう)であり、「80℃における動粘度と80℃におけるトラクション係数との積が0.110以下」(以下、条件(II)ともいう)であり、かつ、「はすば歯車機構用の潤滑油組成物であること、を特徴とする潤滑油組成物」という特定事項について、条件(I)及び(II)を満たす潤滑油組成物がどのような成分をどのような配合割合で混合すれば製造できるのかについての具体的内容は記載されていない旨を主張していた。 (3)判断 本件訂正により、請求項1~3は削除されたため、請求項1~3に係る特許についての特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しないものとなった。 本件発明4~6は、「潤滑油組成物」という物の発明である。 本件明細書の発明の詳細な説明には、実施例又は比較例として、潤滑油組成物が「80℃における動粘度が7.0mm2/s以下であり、80℃における動粘度と80℃におけるトラクション係数との積が0.110以下」である実施例1~11と、潤滑油組成物が「80℃における動粘度が7.0mm2/s以下」であるが、「80℃における動粘度と80℃におけるトラクション係数との積が0.110」より大きい比較例2、4、及び、潤滑油組成物が「80℃における動粘度が7.0mm2/s」より大きく、「80℃における動粘度と80℃におけるトラクション係数との積が0.110」より大きい比較例3が記載されている(【0062】~【0063】、【表3】)。 このように、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、条件(I)~(III)を満たす具体的な潤滑油組成物が実施例1~11に具体的に記載されており、本願明細書の【0024】~【0035】等の潤滑油基油についての記載に加え、実施例1と実施例4、6~10や実施例3と実施例5との対比参照に基づいて添加剤の配合量や種類を変更することにより、また、実施例1と実施例2及び実施例3、実施例4と実施例5、実施例10と実施例11との対比参照に基づいて潤滑油基油の種類を変更することにより、当業者は過度の試行錯誤を要することなく本件発明4~6の特定事項を満たす潤滑油組成物を調製し、使用できるといえる。 したがって、請求項4~6に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、申立理由3によっては、取り消すことはできない。 第7 むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、請求項4~6に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項4~6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 そして、本件訂正により請求項1~3は削除されたため、請求項1~3についての特許異議の申立ては、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下すべきものである。 よって、結論のとおり決定する。

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2024-701156

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