特許異議申立
2023-700254
樹脂改質剤
- 審判番号
- 2023-700254
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-509080
- 登録番号
- 7137688
- 請求日
- 2023年03月07日
- 審決日
- 2023年10月30日
- 公報発行日
- 2024年02月22日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】三洋化成工業株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人WisePlus
- 【異議申立人】浅野 幸義
- 審判長/審判官
- 審判長 近野 光知
- 審判官 小出 直也
- 審判官 海老原 えい子
- 分類
- P1651.113-YAA(C08F) / P1651.121-YAA(C08F)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第29条第1項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7137688号発明「樹脂改質剤」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7137688号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-8〕について訂正することを認める。
特許第7137688号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7137688号(請求項の数8。以下、「本件特許」という。)は、令和2年3月16日(優先権主張 平成31年3月26日,日本国(JP))を国際出願日とする特願2021-509080号に係る特許であって、令和4年9月6日に特許権の設定登録がされたものである(特許掲載公報の発行日は同年9月14日である。)。
その後、令和5年3月7日に、本件特許の請求項1~8に係る特許に対して、特許異議申立人である浅野 幸義(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされた。
以降の経緯は次のとおりである。
令和5年7月10日付け 取消理由通知
同年8月24日 意見書及び訂正請求書の提出(特許権者)
同年同月31日付け 訂正請求があった旨の通知書(申立人宛)
同年9月25日 意見書の提出(申立人)
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
令和5年8月24日に提出された訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである。
(1)訂正事項1(下線は訂正箇所を示す。)
特許請求の範囲の請求項1において、
「前記ポリオレフィン(A)の構成単量体であるエチレンと炭素数3~8のα-オレフィンとの重量比[エチレン/炭素数3~8のα-オレフィン]が9/91~50/50であって、」を、
「前記ポリオレフィン(A)の構成単量体であるエチレンと炭素数3~8のα-オレフィンとの重量比[エチレン/炭素数3~8のα-オレフィン]が10/90を超え、50/50以下であって、」と訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2~8も同様に訂正する)。
2 一群の請求項について
訂正前の請求項1~8について、請求項2~8は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項1~8に対応する訂正後の請求項1~8は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
したがって、訂正事項1による本件訂正は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項ごとに請求されたものである。
3 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1による請求項1についての訂正は、訂正前の「前記ポリオレフィン(A)の構成単量体であるエチレンと炭素数3~8のα-オレフィンとの重量比[エチレン/炭素数3~8のα-オレフィン]」を「9/91~50/50」から「10/90を超え、50/50以下」に限定することで、特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しないため、同法同条第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
そして、上記訂正は、訂正前の「9/91~50/50」という範囲から、「9/91~10/90」という範囲を除いて限定するものであるから、願書に添付した明細書及び特許請求の範囲に記載した事項との関係において新たな技術的事項を導入するものとはいえず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。
4 本件訂正後の独立特許要件について
特許異議の申立ては、訂正前の請求項1~8に対してされているので、当該請求項における訂正を認める要件として、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。
5 まとめ
以上のとおり、本件訂正は、特許法120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、また、同法同条第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合する。
したがって、本件訂正は適法なものであり、結論のとおり、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-8〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2で示したとおり、本件訂正は認められたため、本件特許の請求項1~8に係る発明(以下、順に「本件発明1」のようにいい、本件発明1~8を総称して「本件発明」ともいう。)は、それぞれ、訂正特許請求の範囲の請求項1~8に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
ポリオレフィン(A)と不飽和カルボン酸(B)とを構成単位として含む酸変性ポリオレフィン(X)を含有してなり、前記ポリオレフィン(A)の構成単量体であるエチレンと炭素数3~8のα-オレフィンとの重量比[エチレン/炭素数3~8のα-オレフィン]が10/90を超え、50/50以下であって、前記不飽和カルボン酸(B)は、不飽和モノカルボン酸、不飽和ポリカルボン酸、及び/又は不飽和ポリカルボン酸無水物であり、前記酸変性ポリオレフィン(X)が下記要件(1)~(3)のいずれも満たす樹脂改質剤(K):
(1) 酸価が、1~100mgKOH/g;
(2) 数平均分子量(Mn)が1,000~60,000;
(3) α-オレフィン部分のアイソタクティシティーが1~50%。
【請求項2】
前記ポリオレフィン(A)の数平均分子量が800~50,000である請求項1記載の樹脂改質剤(K)。
【請求項3】
前記ポリオレフィン(A)が、炭素数1,000個当たり0.5~20個の二重結合を有する請求項1又は2記載の樹脂改質剤(K)。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の樹脂改質剤(K)を含有してなるプラスチック成形品用プライマー。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか1項に記載の樹脂改質剤(K)と、ポリオレフィン樹脂(D)とを含有してなる熱可塑性樹脂組成物(Y)。
【請求項6】
前記樹脂改質剤(K)とポリオレフィン樹脂(D)との重量比[樹脂改質剤(K)/ポリオレフィン樹脂(D)]が0.1/99.9~50/50である請求項5記載の熱可塑性樹脂組成物(Y)。
【請求項7】
請求項5又は6記載の熱可塑性樹脂組成物(Y)を成形してなる成形品。
【請求項8】
請求項7記載の成形品に塗装及び/又は印刷を施してなる成形物品。」
なお、以下、本件特許の願書に添付した明細書を「本件明細書」という。
第4 特許異議申立書に記載された申立理由の概要、証拠方法及び取消理由の概要
1 特許異議申立書(以下、「申立書」という。)に記載された申立理由の概要は、以下のとおりである。
申立理由1(甲第1号証を主引用文献とする進歩性)
本件発明1~8は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証~甲第4号証に記載された発明に基いて、本件特許の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1~8についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
申立理由2(甲第5号証を主引用文献とする新規性・進歩性)
本件発明1,2は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第5号証に記載された発明であるから、本件発明1,2についての特許は特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、また、本件発明1~8は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第5号証に記載された発明に基いて、本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1~8についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、本件発明1~8についての特許は同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
2 証拠方法
甲第1号証:特開2016-117888号公報
甲第2号証:特表2013-532197号公報
甲第3号証:特開2004-292716号公報
甲第4号証:特表2013-507479号公報
甲第5号証:特開2018-131591号公報
参考資料1:特許第6600345号公報
参考資料2:山下雄也監修,物質工学講座 高分子合成化学,学校法人 東京電機大学発行,2001年3月20日,第1版第3刷,p124~127
(以下、これらを「甲1」~「甲5」,「参1」,「参2」のようにいう。)
3 取消理由通知の概要
令和5年7月10日付けで通知した取消理由の概要は次のとおりである。
取消理由1(甲第1号証を主引用文献とする進歩性)
本件発明1~8は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明に基いて、本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1~8についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
第5 当審の判断
当審は、以下に述べるとおり、申立書に記載した理由及び取消理由で通知した理由によっては、本件発明に係る特許を取り消すことはできないと判断する。
1 申立理由1,取消理由1について
申立理由1及び取消理由1は、いずれも甲1を主引用文献とするものであるから、まとめて検討する。
(1)甲1に記載された発明
本件特許の優先日(平成31年3月26日)前に公知となったことが明らかな甲1には、その請求項1及び2の記載からみて、次の発明が記載されている。
「ポリオレフィン(A)と、不飽和(ポリ)カルボン酸(無水物)(B)とを構成単位とする酸変性ポリオレフィン(X)を含有してなり、該(X)が下記(1)~(4)をいずれも満たし、ポリオレフィン(A)の(エチレン単位)と(プロピレン単位)との重量比[(エチレン単位)/(プロピレン単位)]が、1/99~10/90であるポリオレフィン樹脂用改質剤(K)。
(1)酸価が1~60
(2)数平均分子量(Mn)が1,000~40,000
(3)160℃での溶融粘度が10~50,000mPa・s
(4)示差走査熱量計(DSC)で測定される融解熱が1~80J/g」
以下、上記発明を「甲1発明」という。
(2)本件発明1について
ア 甲1発明と本件発明1との対比
甲1発明と本件発明1を対比すると、甲1発明の「不飽和(ポリ)カルボン酸(無水物)」は、甲1の【0014】に「なお、本発明において不飽和(ポリ)カルボン酸(無水物)は、不飽和モノカルボン酸、不飽和ポリカルボン酸および/または不飽和ポリカルボン酸無水物を意味する。」と記載されていることからみて、本件発明1の「不飽和モノカルボン酸、不飽和ポリカルボン酸、及び/又は不飽和ポリカルボン酸無水物」に相当する。
甲1発明の「酸変性ポリオレフィン(X)」が満たしている「(1)酸価が1~60」は、甲1の【0019】に酸価の単位が「mgKOH/g」と記載されていることからみて、本件発明1の「(1)酸価が、1~100mgKOH/g」に相当する。
甲1発明の「酸変性ポリオレフィン(X)」が満たしている「(2)数平均分子量(Mn)が1,000~40,000」は、本件発明1の「(2)数平均分子量(Mn)が1,000~60,000」に相当する。
甲1発明の「エチレン単位」及び「プロピレン単位」は、本件発明1の「ポリオレフィン(A)の構成単量体」である「エチレン」及び「炭素数3・・・のα-オレフィン」に相当する。
そうすると、両者は、
「ポリオレフィン(A)と不飽和カルボン酸(B)とを構成単位として含む酸変性ポリオレフィン(X)を含有してなり、前記不飽和カルボン酸(B)は、不飽和モノカルボン酸、不飽和ポリカルボン酸、及び/又は不飽和ポリカルボン酸無水物であり、前記酸変性ポリオレフィン(X)が下記要件(1)~(2)のいずれも満たす樹脂改質剤(K):
(1)酸価が、1~100mgKOH/g;
(2)数平均分子量(Mn)が1,000~60,000。」
である点において一致し、以下の2点において相違する。
<相違点1-1>
ポリオレフィン(A)の構成単量体であるエチレンと炭素数3~8のα-オレフィンとの重量比[エチレン/炭素数3~8のα-オレフィン]が、本件発明1では「10/90を超え、50/50以下」であるのに対し、甲1発明では「1/99~10/90」である点
<相違点1-2>
酸変性ポリオレフィン(X)が、本件発明1では「(3)α-オレフィン部分のアイソタクティシティーが1~50%」を満たすのに対し、甲1発明ではそのことが不明な点
イ 相違点についての判断
相違点1-1について検討する。
甲1発明の目的に関して、【0004】には、「本発明の目的は、機械的強度を損なうことなく、ポリオレフィン樹脂に優れた改質効果を付与するポリオレフィン樹脂用改質剤を提供することである。」と記載されている。
そして、甲1発明では、(エチレン単位)と(プロピレン単位)との重量比[(エチレン単位)/(プロピレン単位)]が、「1/99~10/90」とされており、甲1の【0008】にも、「(A)の(エチレン単位)と(プロピレン単位)の重量比[(エチレン単位)/(プロピレン単位)]は、後述のポリオレフィン樹脂組成物の成形性および後述のポリオレフィン樹脂用改質剤(K)の改質特性の観点から、好ましくは1/99~10/90、さらに好ましくは、2/98~8/92である。」と記載されている。
そうすると、「機械的強度を損なうことなく、ポリオレフィン樹脂に優れた改質効果(を付与するポリオレフィン樹脂用改質剤を提供すること」を目的とする甲1発明において、「後述のポリオレフィン樹脂組成物の成形性および後述のポリオレフィン樹脂用改質剤(K)の改質特性の観点から、好ましくは1/99~10/90」とされている(エチレン単位)と(プロピレン単位)との重量比を、「1/99~10/90」の範囲を超えて「10/90を超え、50/50以下」にしようとする動機付けがあるとはいえず、当業者が容易に想到することではない。
また、甲2の【0179】には、
「エチレン含有量の影響
エチレン含有量の効果もまた、官能性化VERSIFY(商標)試料の接着促進性能で明瞭に目に見える。エチレン含有量を増加させると、図11に示されるように、性能が改良される。図4は6wt%OH-TEMPO官能性化されたVERSIFY(商標):A)VERSIFY(商標)3000、B)VERSIFY(商標)3200、C)VERSIFY(商標)3300、D)VERSIFY(商標)3401(15~17wt%のAFFINITY(商標)PL1280を含有)の接着促進性能を示す。」
と記載され、甲2に図は図6までしかないことから、上記「図11」は「図4」の誤記と認められるところ、図4は「6wt%OH-TEMPO官能性化された」VERSIFY(商標):A等の性能を表したもので、この「6wt%OH-TEMPO官能性化されたVERSIFY」というのは、【0177】に「The Dow Chemical Companyから商業的に入手可能な、商品名VERSIFY(商標)下の、種々のグレードのプロピレンエチレンコポリマー(230℃、および2.16kgで測定した種々のエチレン含有量および/またはメルトフローレート(MFR)、および/または分子量)を表1Aに示したように4-ヒドロキシ-TEMPO(OH-TEMPOとも言われる)で官能性化した。」と記載されていることからみて、4-ヒドロキシ-TEMPOで官能性化したプロピレンエチレンコポリマーのことである。
そうすると、甲2の【0179】の記載は、「4-ヒドロキシ-TEMPOで官能性化したプロピレンエチレンコポリマー」について、エチレンの含有量が増えると接着促進性能が向上することを示すものにすぎず、甲1発明のような「ポリオレフィン(A)と、不飽和(ポリ)カルボン酸(無水物)(B)とを構成単位とする酸変性ポリオレフィン(X)」についての話ではない。
また、甲3の実施例1~3では、エチレン含有量の異なる3種類の酸変性ポリオレフィン樹脂(a)1~(a)3の試験体1,2への接着強度を比較したところ、エチレン含有量が2.5モル%の(a)1よりもエチレン含有量が8モル%の(a)2及びエチレン含有量が6モル%の(a)3の方が接着強度が大きいことが示されている。
しかし、(a)1~(a)3は、エチレン含有量だけが異なるものではなく、プロピレンと共重合するコモノマーや、重量平均分子量、変性に用いる酸成分やその含有量も異なるものであるから、実施例1~3の比較のみからプロピレン-エチレン共重合体において、エチレンの含有量が多くなるほど試験体に対する接着強度が向上するということまでを読み取ることはできないし、甲3にそのように解すべき記載もない。
そして、甲4の【0048】には、ポリプロピレン系樹脂を用いた塗料について、「アイソタクチック連鎖のモル分率Lが大きければ、ポリプロピレン基剤との接着力は向上するが、溶解性が悪く」なることが記載されているものの、[エチレン/炭素数3~8のα-オレフィン]の重量比を10/90を超え、50/50以下」とすることについては記載されていない。
そうすると、甲2~甲4の記載を参酌しても、甲1発明において、エチレン/プロピレン比を「10/90を超えて50/50以下」の範囲とすることが当業者に容易であるということはできない。
そして、相違点1-1の構成とすることが当業者にとって容易に想到することでない以上、相違点1-2について検討するまでもなく、本件発明1は甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 申立人の主張について
申立人は、申立書及び令和5年9月25日に提出した意見書(以下「意見書」という。)において、甲2及び甲3には、ポリオレフィン中のエチレン単位の量が基材密着性に関係し、エチレン単位の量を増加させると基材密着性が増大することが開示されており、甲1発明において、甲2及び甲3の周知技術を適用し、相違点1-1の構成とすることは当業者が容易に想到することである旨主張する(申立書29頁4行~32頁17行,意見書2頁下から2行~下から5行)。
しかし、この点については、上記イで述べたように、甲1発明において(エチレン単位)と(プロピレン単位)との重量比を、「1/99~10/90」の範囲を超えて調節しようとする動機付けがあるとはいえないし、甲2及び甲3には、「ポリオレフィンと不飽和カルボン酸を構成単位として含む酸変性ポリオレフィンにおいて、エチレン単位の量を増加させると基材密着性が増大する」という知見が記載されているとも、また、甲2,甲3の記載からそのような知見を読み取ることができるともいえない。
よって、申立人の主張は採用することができない。
エ 本件発明1についてのまとめ
よって、本件発明1についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。
(3)本件発明2~8について
本件発明2~8は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるから、本件発明1が甲1~甲4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでない以上、本件発明2~8についても甲1~甲4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(4)申立理由1、取消理由1についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件発明1~8についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとはいえず、取消理由1及び申立理由1によっては本件発明1~8についての特許を取り消すことはできない。
2 申立理由2について
(1)甲5に記載された発明
本件特許の優先日前に公知となったことが明らかな甲5には、「不飽和カルボン酸及びその無水物から選ばれる1種以上のモノマー(a-1)由来の構成単位とプロピレンモノマー(a-2)由来の構成単位を含むポリカルボン酸変性プロピレン系ポリマー(A)と、有機溶媒(B)とを含有する水系インクであって、
該ポリマー(A)が、ペンタッドシーケンスにおけるmmmm分率が5モル%以上50モル%以下であるプロピレン系ポリマー(A’)を酸変性してなり、下記一般式(I)で表される構造を含むポリマーであり、
該ポリマー(A)の水系インク中の含有量が、固形分として5質量%以上15質量%以下である、水系インク。
【化1】
[図:0001406701000001.jpg]
(一般式(I)中、X1は、不飽和カルボン酸及びその無水物から選ばれる1種以上のモノマー(a-1)由来の構成単位を示し、p及びqは整数であり、nは2以上の整数である。)」が記載されており(請求項1)、その水系インクが「更にポリカルボン酸変性プロピレン系ポリマー(A)以外のポリマー(C)を含有し、ポリマー(C)の水系インク中の含有量が0.05質量%以上5質量%以下である」ことも記載されている(請求項6)。
そして、その請求項6の水系インクの具体例として、実施例2には、ポリマー(A)として「A2」を6質量%、有機溶媒(B)としてプロピレングリコールを30質量%、ポリマー(C)として顔料含有ポリマー粒子を1質量%含む水系インクが記載されている(【0109】の表2)。
また、前記「A2」は、【0095】,【0096】に記載された方法(製造例A-2)によって得られた無水マレイン酸で変性されたプロピレン/エチレン/1-ブテン共重合体である。
そして、【0011】には、甲5の水系インクが、「極性の低い印刷媒体に対する定着性・・・及び印刷物の耐水性・・・に優れた効果を奏する」ことが記載され、【0017】には「ポリカルボン酸変性プロピレン系ポリマー(A)」について、「主鎖であるプロピレン系ポリマーセグメントと、側鎖であるモノマー(a-1)単位からなるセグメント〔(X1)n〕がグラフト結合された下記一般式(I)で表される構造を有することにより、機能分離され、定着性及び耐水性を向上することができる。」と記載され、【0011】には定着性及び耐水性が向上する理由についての考察も記載されている。
これらのことからみて、甲5の実施例2で用いられているポリマー「A2」及びその働きに着目すると、甲5には次の発明が記載されているといえる。
「下記の方法によって製造された、無水マレイン酸変性プロピレン/エチレン/1-ブテン共重合体A2からなる、有機溶媒(B)とポリマー(C)とを含有する水系インクに配合したときに、極性の低い印刷媒体に対するインクの定着性及び印刷物の耐水性を向上させる、水系インク用配合剤。
<方法>
「1Lのステンレス製反応容器中に、プロピレン系ポリマー(A’)としてプロピレン/エチレン/1-ブテン共重合体(プロピレン65質量%、エチレン25質量%、1-ブテン10質量%、重量平均分子量27,000、mmmm分率32%、ユニチカ株式会社製)200部を、トルエン(和光純薬工業社製)475部とアセトン(和光純薬工業社製)25部の混合溶媒に溶解し、次いで、無水マレイン酸(和光純薬工業社製)50部を添加して、145℃で1時間加熱して溶解した後、ジ-t-ブチルパーオキサイド(日油株式会社製)5部を添加し、その温度を維持したまま5時間撹拌した後、室温まで冷却し、得られたポリマー溶液にアセトン3Lを加えた後、沈殿したポリマー分を吸引濾過し乾燥する方法。」
(以下「甲5発明」という。)
(2)本件発明1について
ア 本件発明1と甲5発明との対比
本件発明1と甲5発明とを対比すると、甲5発明の「無水マレイン酸」は本件発明1の「不飽和カルボン酸(B)」及び「不飽和ポリカルボン酸無水物」に相当し、甲5発明の「プロピレン/エチレン/1-ブテン共重合体」は、本件発明1の「ポリオレフィン(A)」に相当するから、甲5発明の「無水マレイン酸変性プロピレン/エチレン/1-ブテン共重合体A2」は、本件発明1の「ポリオレフィン(A)と不飽和カルボン酸(B)とを構成単位として含む酸変性ポリオレフィン(X)」に相当する。
そして、甲5発明の「A2」を構成するプロピレン/エチレン/1-ブテン共重合体(プロピレン系ポリマー(A’))は「プロピレン65質量%、エチレン25質量%、1-ブテン10質量%」からなり、エチレン/(プロピレン及び1-ブテン)の重量比は25/75になるから、このことは本件発明1の「前記ポリオレフィン(A)の構成単量体であるエチレンと炭素数3~8のα-オレフィンとの重量比[エチレン/炭素数3~8のα-オレフィン]が10/90を超え、50/50以下」であることに相当する。
また、甲5発明の「A2」は、それを構成するプロピレン/エチレン/1-ブテン共重合体のmmmm分率が32モル%である。そして、「mmmm分率」は甲5の【0023】によれば「5個のプロピレンモノマー単位が連続してメソ結合している連鎖の中心のプロピレン単位の、全プロピレン単位に対する割合を百分率で表したもの」であり、本件明細書【0014】に記載された「アイソタクティシティー(%)=[(Ha)/Σ(H)]×100 (1)
但し、式中、Haはアイソタクティック(ペンタッドがメソ構造のみで形成される)の信号のピーク高さ、Hはペンタッドの各ピーク高さである。」で定義される「アイソタクティシティー(%)」と同義であるといえる。よって、甲5発明の「A2」のmmmm分率が32モル%であることは、本件発明1の「酸変性ポリオレフィン(X)」が要件(3)「α-オレフィン部分のアイソタクティシティーが1~50%」であることに相当する。
また、甲5発明の「有機溶媒(B)とポリマー(C)とを含有する水系インクに配合したときに、極性の低い印刷媒体に対するインクの定着性及び印刷物の耐水性を向上させる、水系インク用配合剤」は、本件発明1の「樹脂改質剤」(樹脂に配合して改質する剤)と「配合剤」である限りにおいて一致する。
そうすると、両者は
「ポリオレフィン(A)と不飽和カルボン酸(B)とを構成単位として含む酸変性ポリオレフィン(X)を含有してなり、前記ポリオレフィン(A)の構成単量体であるエチレンと炭素数3~8のα-オレフィンとの重量比[エチレン/炭素数3~8のα-オレフィン]が10/90を超え、50/50以下であって、前記不飽和カルボン酸(B)は、不飽和モノカルボン酸、不飽和ポリカルボン酸、及び/又は不飽和ポリカルボン酸無水物であり、前記酸変性ポリオレフィン(X)が下記要件(3)を満たす配合剤
(3)α-オレフィン部分のアイソタクティシティーが1~50%。」
である点において一致し、以下の2点において相違する。
<相違点2-1>
酸変性ポリオレフィン(X)が、本件発明1では「(1)酸価が、1~100mgKOH/g」及び「(2)数平均分子量(Mn)が1,000~60,000」を満たすのに対し、甲5発明ではそのことが不明な点
<相違点2-2>
「配合剤」が、本件発明1では「樹脂改質剤」であるのに対し、甲5発明では「有機溶媒(B)とポリマー(C)とを含有する水系インクに配合したときに、極性の低い印刷媒体に対するインクの定着性及び印刷物の耐水性を向上させる、水系インク用配合剤」である点
イ 相違点についての判断
事案に鑑み、相違点2-2について検討する。
本件発明1の「樹脂改質剤」とは、本件明細書の【0004】によれば、「熱可塑性樹脂に、塗料、印刷インキ及び接着剤等に対する優れた密着性を与える」ものであり、本件明細書には、その密着性を与えるための樹脂改質剤の使用方法として、(ア)熱可塑性樹脂に樹脂改質剤を配合して成形品とする(本件発明5~8,【0029】,【0053】,実施例14~33)こと、及び(イ)プラスチック成形品用プライマーに配合し、それをプラスチック成形品〔熱可塑性樹脂成形品)表面に塗布する(本件発明4,【0028】,【0063】,実施例1~13)ことが記載されている。
したがって、本件発明1の「樹脂改質剤」とは上記(ア)又は(イ)のような方法で使用されて熱可塑性樹脂(成形品)に配合されるか、又はプライマーの成分として表面に塗布され、その結果、塗料、印刷インキ及び接着剤等に対する優れた密着性を与えるものを意味するものと認められる。
これに対し、甲5発明の「水系インク用配合剤」は「有機溶媒(B)とポリマー(C)とを含有する水系インクに配合したときに、極性の低い印刷媒体に対するインクの定着性及び印刷物の耐水性を向上させる」ものであり、上記水系インクはポリマー(C)を含むものの、あくまでも水系インクに配合して、水系インクの定着性やインクが付着した印刷物の耐水性といった水系インクの性能を良好にするためのものであって、ポリマー(C)自体を改質するものではないし、「インクの定着性及び印刷物の耐水性を向上させる」という目的から離れて、その配合剤を「ポリマー(C)」を改質する目的で使用するという動機付けがあるともいえない。よって、甲5発明の「水系インク用配合剤」を上記(ア)のような樹脂改質剤として用いることは、当業者が容易に想到することではない。
また、甲5発明の水系インク用配合剤が配合された水系インクは、極性の低い印刷媒体(甲5の請求項11によればポリオレフィンフィルム)上に塗布されるものであるが、上記(イ)のプライマーのようにさらにその上に塗布した塗料等の密着性を向上させるようなものではなく、単にインクで印刷するものであるから、プライマーのように熱可塑性樹脂成形体を改質しているとはいえないし、そのようにする動機付けもない。よって、甲5発明の「水系インク用配合剤」を上記(イ)のような樹脂改質剤として用いることも、当業者が容易に想到することではない。
そして、本件発明1の樹脂改質剤は、本件明細書の【0071】の実施例14~33の試験結果によれば、熱可塑性樹脂に配合することによって、その成形品表面の濡れ性や濡れ性の持続性を向上させるものであるところ、そのような効果が、水系インクに配合してインクの定着性や印刷物の耐水性を向上させることしか記載のない甲5の記載から当業者が予測できるものともいえない。
よって、相違点2-1について検討するまでもなく、本件発明1は甲5に記載された発明とはいえないし、甲5に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
ウ 申立人の主張について
申立人は、申立書51頁において、相違点2-1に関して以下の2点を主張している。
(ア)「甲第5号証の【請求項6】では、「水系インク」は「ポリカルボン酸変性プロピレン系ポリマー(A)」以外の「ポリマー(C)」を含有してもよいことが規定されており、この「ポリマー(C)」が「樹脂」に相当することは明らかである。従って、「ポリカルボン酸変性プロピレン系ポリマー(A)」は「水系インク」中のこの「ポリマー(C)」を改質しており、「樹脂改質剤(K)」としての役割を果たしていると言える。」
(イ)「甲第5号証は本件特許の請求項1の発明と同様の問題(ポリオレフィン基材に対する印刷インキの密着性の不足)を解決しようとするものであるから、この問題の解決にあたって、「酸変性ポリオレフィン(X)」を甲第5号証のように印刷インキの側に配合するか、それとも本件特許の請求項1の発明のように(成形品の原料である樹脂組成物に「樹脂改質剤(K)」として配合することにより)成形品の側に配合するかは、当業者にとって単なる適宜選択事項にすぎない。また、効果についても、「基材密着性」という特性は、基材である印刷媒体と、それに接触する印刷インキとの間の相互作用によるものであるので、「酸変性ポリオレフィン(X)」を印刷インキの側に配合するか、それとも成形品(基材である印刷媒体)の側に配合するかで有意なレベルの効果の差が生じるはずがなく、当業者の予想の範囲内である。」
上記主張(ア)について検討すると、上記イで述べたように、甲5発明の「水系インク用配合剤」は「ポリマー(C)」を改質しているとはいえない。
次に主張(イ)について検討すると、水性インクに配合したときにインクの基材密着性を向上させることができる成分を、インクではない基材〔熱可塑性樹脂成形体)や、インクを含まないプライマーに配合することは到底動機づけられることではないから、適宜選択事項であるとはいえない。
したがって、申立人の主張は採用することができない。
エ 本件発明1についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件発明1についての特許は特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反してされたものであるとはいえない。
(3)本件発明2~8について
本件発明2~8は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるから、本件発明1が甲5に記載された発明であるとも、また、甲5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない以上、本件発明2についても、甲5に記載された発明であるとも、また、甲5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないし、本件発明3~8についても、甲5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)申立理由2についてのまとめ
以上のとおり、本件発明1,2についての特許は特許法第29条第1項の規定に違反してされたものではなく、また、本件発明1~8についての特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではないから、申立理由2によっては本件発明1~8についての特許を取り消すことはできない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由で通知した理由及び申立書に記載した理由によっては、本件発明1~8についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1~8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700254