特許異議申立
2019-700400
多孔質炭素
- 審判番号
- 2019-700400
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2015-213463
- 登録番号
- 特許第6426582号(P6426582)
- 請求日
- 2019年05月20日
- 審決日
- 2021年08月24日
- 公報発行日
- 2021年12月24日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】東洋炭素株式会社
- 【権利者代理人】小山 靖
- 【権利者代理人】来代 哲男
- 【権利者代理人】田村 正憲
- 【異議申立人】神保 良男
- 審判長/審判官
- 審判長 日比野 隆治
- 審判官 金 公彦
- 審判官 末松 佳記
- 分類
- P1651.113-YAA(C01B) / P1651.121-YAA(C01B) / P1651.537-YAA(C01B) / P1651.841-YAA(C01B) / P1651.851-YAA(C01B) / P1651.853-YAA(C01B) / P1651.857-YAA(C01B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6426582号発明「多孔質炭素」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6426582号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~8〕、〔9~15〕について訂正することを認める。
特許第6426582号の請求項1、3、5~9、11、13~15に係る特許を維持する。
特許第6426582号の請求項2、4、10、12に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第6426582号(以下、「本件特許」という。)に係る出願は、平成23年 3月 9日を出願日とする特願2011-51831号(以下、「原出願」という。)の一部を平成27年10月29日に特願2015-213463号として新たな特許出願としたものであって、平成30年11月 2日にその請求項1~15に係る発明について特許権の設定登録がされ、同年11月21日に特許掲載公報が発行された。
その後、全請求項に係る特許に対して、令和 1年 5月20日に特許異議申立人 神保 良男(以下、「申立人」という。)により甲第1号証~甲第8号証を添付して特許異議の申立てがされ、同年 7月29日付けで当審より取消理由が通知され、同年 9月24日に訂正明細書、特許請求の範囲及び意見書の案が提出された後、その指定期間内である同年 9月30日に特許権者より意見書の提出及び訂正の請求がされ、同年10月21日に特許権者よりこの訂正の請求に係る訂正請求書の手続補正書が提出され、同年11月29日に申立人より甲第9号証~甲第11号証を添付して意見書が提出され、令和 2年 1月15日付けで当審より取消理由(決定の予告)が通知され、その指定期間内である同年 3月19日に特許権者より意見書の提出及び訂正の請求がされ、同年 4月 8日に特許権者よりこの訂正の請求に係る訂正請求書の手続補正書が提出され、同年 6月10日に申立人より甲第12号証~甲第13号証を添付して意見書が提出され、同年 7月28日付けで当審より取消理由(決定の予告)が通知され、同年 9月29日付けで、その指定期間は職権により延長され、同日に訂正明細書、特許請求の範囲及び意見書の案が提出された後、指定期間内である同年10月13日に特許権者より意見書の提出及び訂正の請求がされ、同年12月18日に申立人より意見書が提出された。
更にその後、令和 3年 2月16日付けで当審より特許権者に対して審尋がされ、同年 3月19日に特許権者より回答書が提出され、同年 3月25日付けで当審より申立人に対して審尋がされ、同年 4月28日に申立人より回答書が提出され、同年 6月15日に特許権者より訂正特許請求の範囲及び意見書の案が提出され、同日付けで当審より取消理由が通知され、同年 7月12日に特許権者より意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)がされ、同年 7月20日に申立人より上申書が提出されたものである。
第2 本件訂正請求による訂正の適否
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)は、以下の訂正事項からなる(当審注:下線は訂正箇所を示す。)。
なお、本件訂正請求がされたため、令和 1年 9月30日、令和 2年 3月19日及び同年10月13日の訂正請求は、特許法120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。
(1)訂正事項1
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に
「メソ孔と、上記メソ孔の外郭を構成する炭素質壁とが全体的に形成されるとともに、上記メソ孔間に形成された上記炭素質壁における上記メソ孔に臨む位置に、ミクロ孔が形成され、上記炭素質壁は3次元網目構造を成した多孔質炭素であって、
CuKα線(波長1.541Å)に対するX線回折スペクトルにおいて、ブラッグ角度2θの26.45°にピークを有し、
上記ミクロ孔の容量が0.12ml/g以上であることを特徴とする多孔質炭素。」
と記載されているのを、
「メソ孔と、上記メソ孔の外郭を構成する炭素質壁とが全体的に形成されるとともに、上記メソ孔間に形成された上記炭素質壁における上記メソ孔に臨む位置に、ミクロ孔が形成され、上記炭素質壁は3次元網目構造を成した多孔質炭素であって、
CuKα線(波長1.541Å)に対するX線回折スペクトルにおいて、ブラッグ角度2θの26.45°にピークを有し、
上記ミクロ孔の容量が0.50ml/g以上であり、
比表面積が340m2/g以上1500m2/g以下であり、
上記メソ孔の容積は0.55ml/g以上1.0ml/g以下であり、
嵩密度は1.0g/cc以下であることを特徴とする多孔質炭素。」
に訂正する(請求項1の記載を直接的または間接的に引用する請求項3、5、7及び8も同様に訂正する。)。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。
(3)訂正事項3
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項3に
「請求項1又は2に記載の」
と記載されているのを、
「請求項1に記載の」に訂正する(請求項3の記載を直接的または間接的に引用する請求項5、7及び8も同様に訂正する。)。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4を削除する。
(5)訂正事項5
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項5に
「嵩密度は0.1g/cc以上1.0g/cc以下である、」
と記載されているのを、
「嵩密度は0.1g/cc以上である、」
に訂正する(請求項5の記載を直接的または間接的に引用する請求項7及び8も同様に訂正する。)。
(6)訂正事項6
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項5に
「請求項1~4の何れか1項に記載の」
と記載されているのを、
「請求項1又は3に記載の」
に訂正する(請求項5の記載を直接的または間接的に引用する請求項7及び8も同様に訂正する。)。
(7)訂正事項7
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項6に
「嵩密度は0.27g/cc以上である、請求項5に記載の多孔質炭素。」
と記載されているのを、
「メソ孔と、上記メソ孔の外郭を構成する炭素質壁とが全体的に形成されるとともに、上記メソ孔間に形成された上記炭素質壁における上記メソ孔に臨む位置に、ミクロ孔が形成され、上記炭素質壁は3次元網目構造を成した多孔質炭素であって、
CuKα線(波長1.541Å)に対するX線回折スペクトルにおいて、ブラッグ角度2θの26.45°にピークを有し、
上記ミクロ孔の容量が0.12ml/g以上であり、
比表面積が340m2/g以上であり、
上記メソ孔の容積は0.55ml/g以上1.0ml/g以下であり、
嵩密度は0.27g/cc以上1.0g/cc以下であることを特徴とする多孔質炭素。」
に訂正する(請求項6の記載を直接的または間接的に引用する請求項7及び8も同様に訂正する。)。
(8)訂正事項8
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項7に
「請求項1~6の何れか1項に記載の」
と記載されているのを、
「請求項1、3、5及び6の何れか1項に記載の」
に訂正する(請求項7の記載を引用する請求項8も同様に訂正する。)。
(9)訂正事項9
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項8に
「請求項1~7の何れか1項に記載の」
と記載されているのを、
「請求項1、3及び5~7の何れか1項に記載の」
に訂正する。
(10)訂正事項10
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項9に
「メソ孔と、上記メソ孔の外郭を構成する炭素質壁とが全体的に形成されるとともに、上記メソ孔間に形成された上記炭素質壁における上記メソ孔に臨む位置に、ミクロ孔が形成され、上記炭素質壁は3次元網目構造を成した多孔質炭素であって、
比抵抗が1.0×102Ω・cm以下であり、
上記ミクロ孔の容量が0.12ml/g以上であることを特徴とする多孔質炭素。」
と記載されているのを、
「メソ孔と、上記メソ孔の外郭を構成する炭素質壁とが全体的に形成されるとともに、上記メソ孔間に形成された上記炭素質壁における上記メソ孔に臨む位置に、ミクロ孔が形成され、上記炭素質壁は3次元網目構造を成した多孔質炭素であって、
比抵抗が1.0×102Ω・cm以下であり、
上記ミクロ孔の容量が0.50ml/g以上であり、
比表面積は340m2/g以上1500m2/g以下であり、
上記メソ孔の容量は0.55ml/g以上1.0ml/g以下であり、
嵩密度は1.0g/cc以下であることを特徴とする多孔質炭素。」
に訂正する(請求項9の記載を直接的または間接的に引用する請求項11、13~15も同様に訂正する。)。
(11)訂正事項11
特許請求の範囲の請求項10を削除する。
(12)訂正事項12
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項11に
「請求項9又は10に記載の」
と記載されているのを、
「請求項9に記載の」
に訂正する(請求項11の記載を直接的または間接的に引用する請求項13~15も同様に訂正する。)。
(13)訂正事項13
特許請求の範囲の請求項12を削除する。
(14)訂正事項14
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項13に
「嵩密度は0.1g/cc以上1.0g/cc以下である、」
と記載されているのを、
「嵩密度は0.1g/cc以上である、」
に訂正する(請求項13の記載を直接的または間接的に引用する請求項14及び15も同様に訂正する。)。
(15)訂正事項15
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項13に
「請求項9~12の何れか1項に記載の」
と記載されているのを、
「請求項9又は11に記載の」
に訂正する(請求項13の記載を直接的または間接的に引用する請求項14及び15も同様に訂正する。)。
(16)訂正事項16
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項15に
「請求項9~14の何れか1項に記載の」
と記載されているのを、
「請求項9、11、13及び14の何れか1項に記載の」
に訂正する。
(17)訂正事項17
本件訂正前の本件特許明細書の【0006】に
「【0006】
上記のように多孔質炭素は種々の方法により製造されるが、黒鉛化するために、この多孔質炭素をさらに加熱処理することが試みられている。しかしながら、多孔質炭素を加熱処理した場合、黒鉛化できないばかりか、比表面積が小さくなり、期待していた特性の改良どころか、もともとの特性よりも悪くなり、所望の特性を得られないという課題を有していた。」
と記載されているのを、
「【0006】
上記のように多孔質炭素は種々の方法により製造されるが、黒鉛化するために、あるいは比抵抗を低減するために、この多孔質炭素をさらに加熱処理することが試みられている。しかしながら、多孔質炭素を加熱処理した場合、黒鉛化することや比抵抗を低減することが難しいばかりか、比表面積が小さくなり、期待していた特性の改良どころか、もともとの特性よりも悪くなり、所望の特性を得られないという課題を有していた。」
に訂正する。
(18)訂正事項18
本件訂正前の本件特許明細書の【0008】に
「【0008】
そこで本発明は、結晶質の炭素であっても比表面積が極めて高い多孔質炭素を提供することを目的としている。」
と記載されているのを、
「【0008】
そこで本発明は、比表面積が極めて高く、黒鉛化された、あるいは比抵抗が低減した多孔質炭素を提供することを目的としている。」
に訂正する。
(19)訂正事項19
本件訂正前の本件特許明細書の【0009】に
「【0009】
上記目的を達成するために本発明は、メソ孔と、ミクロ孔と、上記メソ孔の外郭を構成する炭素質壁とが全体的に行き渡るように形成されるとともに、上記メソ孔間に形成された上記炭素質壁における上記メソ孔に臨む位置に、上記ミクロ孔が形成され、上記炭素質壁は3次元網目構造を成した多孔質炭素であって、CuKα線(波長1.541Å)に対するX線回折スペクトルにおいて、ブラッグ角度2θの26.45°にピークを有し、上記ミクロ孔の容量が0.12ml/g以上であることを特徴とする。」
と記載されているのを、
「【0009】
上記目的を達成するために本発明は、メソ孔と、上記メソ孔の外郭を構成する炭素質壁とが全体的に形成されるとともに、上記メソ孔間に形成された上記炭素質壁における上記メソ孔に臨む位置に、ミクロ孔が形成され、上記炭素質壁は3次元網目構造を成した多孔質炭素であって、CuKα線(波長1.541Å)に対するX線回折スペクトルにおいて、ブラッグ角度2θの26.45°にピークを有し、上記ミクロ孔の容量が0.50ml/g以上であり、比表面積が340m2/g以上であり、上記メソ孔の容積は0.55ml/g以上1.0ml/g以下であり、嵩密度は1.0g/cc以下であることを特徴とする。
また、本発明は、メソ孔と、上記メソ孔の外郭を構成する炭素質壁とが全体的に形成されるとともに、上記メソ孔間に形成された上記炭素質壁における上記メソ孔に臨む位置に、ミクロ孔が形成され、上記炭素質壁は3次元網目構造を成した多孔質炭素であって、CuKα線(波長1.541Å)に対するX線回折スペクトルにおいて、ブラッグ角度2θの26.45°にピークを有し、上記ミクロ孔の容量が0.12ml/g以上であり、比表面積が340m2/g以上であり、上記メソ孔の容積は0.55ml/g以上1.0ml/g以下であり、嵩密度は0.27g/cc以上1.0g/cc以下であることを特徴とする。」
に訂正する。
(20)訂正事項20
本件訂正前の本件特許明細書の【0012】に
「【0012】
また、上記目的を達成するために本発明は、メソ孔と、ミクロ孔と、上記メソ孔の外郭を構成する炭素質壁とが全体的に行き渡るように形成されるとともに、上記メソ孔間に形成された上記炭素質壁における上記メソ孔に臨む位置に、上記ミクロ孔が形成され、上記炭素質壁は3次元網目構造を成した多孔質炭素であって、比抵抗が1.0×102Ω・cm以下であり、上記ミクロ孔の容量が0.12ml/g以上であることを特徴とする。」
と記載されているのを、
「【0012】
また、上記目的を達成するために本発明は、メソ孔と、上記メソ孔の外郭を構成する炭素質壁とが全体的に形成されるとともに、上記メソ孔間に形成された上記炭素質壁における上記メソ孔に臨む位置に、ミクロ孔が形成され、上記炭素質壁は3次元網目構造を成した多孔質炭素であって、比抵抗が1.0×102Ω・cm以下であり、上記ミクロ孔の容量が0.50ml/g以上であり、比表面積は340m2/g以上1500m2/g以下であり、上記メソ孔の容積は0.55ml/g以上1.0ml/g以下であり、嵩密度は1.0g/cc以下であることを特徴とする。」
に訂正する。
(21)訂正事項21
本件訂正前の本件特許明細書の【0018】に
「【0018】
本発明によれば、黒鉛質の炭素であっても比表面積が極めて高い多孔質炭素を提供できるといった優れた効果を奏する。」
と記載されているのを、
「【0018】
本発明によれば、比表面積が極めて高く、黒鉛化された、あるいは比抵抗が低減した多孔質炭素を提供できるといった優れた効果を奏する。」
(22)一群の請求項について
本件訂正前の請求項2~8は、請求項1を直接的又は間接的に引用するものであるから、本件訂正前の請求項1~8は特許法第120条の5第4項に規定される一群の請求項である。
なお、特許権者は、本件訂正後の請求項6について、当該請求項についての訂正が認められる場合には、一群の請求項の他の請求項とは別途訂正することを求めている。
しかしながら、本件訂正後の請求項7及び8は請求項1及び6を共に引用しており、本件訂正後の請求項1及び6は、同請求項7、8を介して関連していることがわかるから、本件訂正後の請求項6のみを別の訂正単位とすることはできない。
また、本件訂正前の請求項10~15は、請求項9を直接的又は間接的に引用するものであるから、訂正前の請求項9~15は特許法第120条の5第4項に規定される一群の請求項である。
訂正事項17~21に係る訂正は、願書に添付した明細書を訂正するものであるが、いずれも一群の請求項である訂正前の請求項1~8、9~15に対応する訂正後の請求項1、3、5~9、11、13~15に関係する訂正である。
そして、本件訂正は、明細書の訂正に係る請求項を含む一群の請求項の全てについて行われるものである。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1及び10について
訂正事項1及び10による訂正は、それぞれ、特許請求の範囲の請求項1及び9の「多孔質炭素」の「ミクロ孔の容量」を「0.50ml/g以上」に限定し、「比表面積」を「340m2/g以上1500m2/g以下」に限定し、「メソ孔の容量」を「0.55ml/g以上1.0ml/g以下」に限定し、更に「嵩密度」を「1.0g/cc以下」に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項1及び10による訂正は、願書に添付した明細書の【0040】【表1】の「本発明炭素A1」の「BET比表面積」及び「メソ孔容量」、「本発明炭素A2」の「メソ孔容量」及び「ミクロ孔容量」、【0013】並びに【0016】の記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
(2)訂正事項2、4、11及び13について
訂正事項2、4、11及び13による訂正は、それぞれ、特許請求の範囲の請求項2、4、10及び12を削除するものであるから、いずれも、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項を追加するものではないこと、及び、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。
(3)訂正事項3、6、8、9、12、15及び16について
訂正事項3、6、8、9、12、15及び16による訂正は、いずれも、訂正事項2、4、11及び13による特許請求の範囲の請求項2、4、10及び12の削除に合わせて、選択的引用請求項の一部を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項3、6、8、9、12、15及び16による訂正が、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。
(4)訂正事項5及び14について
訂正事項5及び14による訂正は、それぞれ、訂正事項1、10による訂正により、特許請求の範囲の請求項1及び9において「多孔質炭素」の「嵩密度」が「1.0g/cc以下」に限定されたのに伴い、特許請求の範囲の請求項5及び13の「1.0g/cc以下」の記載を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、訂正事項5及び14による訂正が、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。
(5)訂正事項7について
訂正事項7による訂正は、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項6が請求項5の記載を引用するものであるところ、請求項間の引用関係を解消して独立形式の請求項へ改めて、請求項5を引用しないものとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に規定する他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項を引用しないものとすることを目的とするものである。
また、訂正事項7による訂正は、「多孔質炭素」の「比表面積」を「340m2/g以上」に限定し、「メソ孔の容量」を「0.55ml/g以上1.0ml/g以下」に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、前者の訂正は、単なる引用形式請求項の書き下しにすぎないし、後者の訂正は、上記(1)に記載した訂正事項1及び10と一部重複するものであるから、同様の理由により、いずれも、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
(6)訂正事項17、18及び21について
(ア)訂正事項17、18及び21による訂正は、本件特許に係る発明が、比表面積が極めて高いままで「多孔質炭素」を黒鉛化すること、または「多孔質炭素」の比抵抗を低減することを目的とすることを明らかにするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
(イ)そして、本件特許に係る発明が、比表面積が極めて高いままで「多孔質炭素」を黒鉛化することを目的とすることは、願書に添付した明細書の【0006】、【0008】、【0018】に記載されるものである。
(ウ)更に、願書に添付した明細書に、本件特許に係る発明が、比表面積が極めて高いままで「多孔質炭素」の比抵抗を低減することを目的とすることが開示されているか否かについて検討すると、願書に添付した明細書の【0050】~【0053】の「(実験6)」によれば、「本件発明炭素A1、A2」は、共に比抵抗が格段に小さく、多様な分野で使用することができるものであるが、同【0036】によれば、このうち「本件発明炭素A2」はX線回折を行っていないものである。
(エ)ここで、同【0030】によれば、「本件発明炭素A2」の炭素部分の少なくとも一部は層状を成しており、結晶化して黒鉛特性を有するものであるが、同【0032】、【0036】によれば、同様に炭素部分の少なくとも一部が層状を成しており、結晶化している「比較炭素Z1」はブラッグ角度2θの26.45°において黒鉛のピーク(002面)がみられないのであり、このことと、「本件発明炭素A2」についてX線回折を行っていないことからみれば、「本件発明炭素A2」において、ブラッグ角度2θの26.45°における黒鉛のピーク(002面)がみられるか否かは明らかでない。
(オ)ところが、「本件発明炭素A1、A2」は、共に比抵抗が格段に小さく、多様な分野で使用することができるものであることは、上記(ウ)に記載のとおりであって、このことと、上記(エ)によれば、本件特許に係る発明が、「多孔質炭素」において、比表面積がある程度大きな状態で比抵抗を低減して、多様な分野で用いることができるようにすることを目的の一つとすること、更にこのとき、「ブラッグ角度2θの26.45°にピークを有する」ことを必須の発明特定事項とはしていないことは明らかである。
してみれば、願書に添付した明細書には、本件特許に係る発明が、比表面積が極めて高いままで「多孔質炭素」の比抵抗を低減することを目的とすることが開示されているといえる。
(カ)上記(イ)、(オ)によれば、訂正事項17、18及び21による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
(7)訂正事項19及び20について
訂正事項19及び20による訂正は、それぞれ、訂正事項1、7及び10により請求項1、6及び9が訂正されたことに伴って、請求項1、6及び9の記載と本件特許明細書の記載を合致させるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、訂正事項19及び20による訂正は、上記(1)に記載したのと同様の理由により、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
なお、本件訂正請求においては、全ての請求項に対して特許異議の申立てがされているので、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定は適用されない。
3 小括
したがって、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号及び第4号に掲げる事項を目的とするものに該当し、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1~8〕、〔9~15〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2に記載したとおり、本件訂正は認められるから、特許第6426582号の請求項1、3、5~9、11及び13~15に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」、「本件発明3」、「本件発明5」~「本件発明9」、「本件発明11」及び「本件発明13」~「本件発明15」といい、これらを総称して「本件発明」という。)は、それぞれ、訂正特許請求の範囲の請求項1、3、5~9、11及び13~15に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
メソ孔と、上記メソ孔の外郭を構成する炭素質壁とが全体的に形成されるとともに、上記メソ孔間に形成された上記炭素質壁における上記メソ孔に臨む位置に、ミクロ孔が形成され、上記炭素質壁は3次元網目構造を成した多孔質炭素であって、
CuKα線(波長1.541Å)に対するX線回折スペクトルにおいて、ブラッグ角度2θの26.45°にピークを有し、
上記ミクロ孔の容量が0.50ml/g以上であり、
比表面積が340m2/g以上1500m2/g以下であり、
上記メソ孔の容量は0.55ml/g以上1.0ml/g以下であり、
嵩密度は1.0g/cc以下であることを特徴とする多孔質炭素。
【請求項2】(削除)
【請求項3】
上記メソ孔は開気孔であって、気孔部分が連続するような構成となっている、請求項1に記載の多孔質炭素。
【請求項4】(削除)
【請求項5】
嵩密度は0.1g/cc以上である、請求項1又は3に記載の多孔質炭素。
【請求項6】
メソ孔と、上記メソ孔の外郭を構成する炭素質壁とが全体的に形成されるとともに、上記メソ孔間に形成された上記炭素質壁における上記メソ孔に臨む位置に、ミクロ孔が形成され、上記炭素質壁は3次元網目構造を成した多孔質炭素であって、
CuKα線(波長1.541Å)に対するX線回折スペクトルにおいて、ブラッグ角度2θの26.45°にピークを有し、
上記ミクロ孔の容量が0.12ml/g以上であり、
比表面積が340m2/g以上であり、
上記メソ孔の容積は0.55ml/g以上1.0ml/g以下であり、
嵩密度は0.27g/cc以上1.0g/cc以下であることを特徴とする多孔質炭素。
【請求項7】
上記炭素質壁には層状構造を成す部分が存在する、請求項1、3、5及び6の何れか1項に記載の多孔質炭素。
【請求項8】
比抵抗が1.0×102Ω・cm以下である、請求項1、3及び5~7の何れか1項に記載の多孔質炭素。
【請求項9】
メソ孔と、上記メソ孔の外郭を構成する炭素質壁とが全体的に形成されるとともに、上記メソ孔間に形成された上記炭素質壁における上記メソ孔に臨む位置に、ミクロ孔が形成され、上記炭素質壁は3次元網目構造を成した多孔質炭素であって、
比抵抗が1.0×102Ω・cm以下であり、
上記ミクロ孔の容量が0.50ml/g以上であり、
比表面積は340m2/g以上1500m2/g以下であり、
上記メソ孔の容量は0.55ml/g以上1.0ml/g以下であり、
嵩密度は1.0g/cc以下であることを特徴とする多孔質炭素。
【請求項10】(削除)
【請求項11】
上記メソ孔は開気孔であって、気孔部分が連続するような構成となっている、請求項9に記載の多孔質炭素。
【請求項12】(削除)
【請求項13】
嵩密度は0.1g/cc以上である、請求項9又は11に記載の多孔質炭素。
【請求項14】
嵩密度は0.15g/cc以上である、請求項13に記載の多孔質炭素。
【請求項15】
上記炭素質壁には層状構造を成す部分が存在する、請求項9、11、13及び14の何れか1項に記載の多孔質炭素。」
第4 特許異議申立理由の概要
申立人は、証拠として甲第1号証~甲第8号証を提出し、更に、令和 1年11月29日及び令和 2年 6月10日提出の意見書に添付して甲第9号証~甲第13号証を提出し、以下の特許異議申立理由によって、本件訂正前の請求項1~15係る発明の特許は取り消すべきものである旨を主張している。
1 特許法第29条第1項第3号(新規性)及び第2項(進歩性)について
本件訂正前の請求項1~15に係る発明は、甲第1~4号証に記載された発明である。
本件訂正前の請求項1~15に係る発明は、甲第1~4号証のいずれかに記載された発明に基づいて、または、甲第1~4号証のいずれかに記載された発明と、甲第5~8号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
2 証拠一覧
甲第1号証:Da-Wei Wang et al.,3D Aperiodic Hierarchical Porous Graphitic Carbon Material for High-Rate Electrochemical Capacitive Energy Storage,Angew.Chem.Int.Ed.,2008,Vol.47,p.373-376,Supporting Information,p.6-9
甲第2号証:Jian Nong Wang et al.,Preparation of graphitic carbon with high surface area and its application as an electrode material for fuel cells,J.Mater.Chem.,2007,Vol.17,p.2251-2256
甲第3号証:Kamil P.Gierszal et al.,High temperature treatment of ordered mesoporous carbons prepared by using various carbon precursors and ordered mesoporous silica templates,New J.Chem.,2008,Vol.32,p.981-993
甲第4号証:京谷 隆,富田 彰,「鋳型炭素化による炭素材料の次元制御」,炭素TANSO,1997,No.180,p.266-272
甲第5号証:炭素材料学会 編,「新・炭素材料入門」,第1版第1刷,1996年 9月20日,(株)リアライズ社,p.8-13,24-31
甲第6号証:劉 崢ら,「シリカメソ多孔体とカーボン」,顕微鏡,2005,Vol.40 No.2,p.85-90
甲第7号証:京谷 隆ら,「鋳型法によるナノカーボンの合成法」,炭素TANSO,2008,No.235,p.307-315
甲第8号証:三浦 正道ら,「合成ゼオライト(ゼオラム)の性状」,東洋曹達研究報告,1977,第21巻第2号,p.45-62
甲第9号証:水島 三知,「黒鉛の物理的性質」,材料,昭和40年11月,第14巻第146号,p.861-871
甲第10号証:大関 克知ら,「タッピング充填密度の異なる天然黒鉛粒子で作製した塗膜によるリチウムイオン電池負極の充放電サイクル特性 Chrage and diecharge cycle performance of negative electrode film of lithium ion battery made of natural graphite particles of different tapping densities」,炭素TANSO,2006,No.221,p.19-24
甲第11号証:特開2012-188310号公報
甲第12号証:特開2012-43658号公報
甲第13号証:特開2017-142932号公報
第5 取消理由及び審尋の概要
1 令和 1年 7月29日付け取消理由通知書の取消理由の概要
(1)特許法第29条第1項第3号(新規性)について
本件訂正前の請求項1~4、7~12、15に係る発明は、甲第1号証~甲第4号証に記載された発明であるから、本件訂正前の請求項1~4、7~12、15に係る発明の特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
(2)特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について
ア 「多孔質炭素」の比表面積に関する事項について
(ア)本件特許明細書の【0002】~【0008】によれば、本件発明は、「多孔質炭素」を「黒鉛化」するために加熱処理した場合、「黒鉛化」できないばかりか、比表面積が小さくなり、期待していた特性の改良どころか、もともとの特性よりも悪くなり、所望の特性を得られないという課題を解決して、「黒鉛化」された炭素であっても比表面積が極めて高い「多孔質炭素」を提供することを目的とするものである。
(イ)これに対して、本件訂正前の請求項1に係る発明においては、「多孔質炭素」の比表面積に関する事項が特定されていないので、本件訂正前の請求項1に係る発明は、上記(ア)の課題を解決できないものを包含し得るものであるから、本件訂正前の請求項1に係る発明が本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された発明であるとはいえない。
このことは、同様に「多孔質炭素」の比表面積に関する事項が特定されていない本件訂正前の請求項9に係る発明、及び、本件訂正前の請求項1、9に係る発明を引用する本件訂正前の請求項3、4、7、8、11、12、15に係る発明についても同様である。
イ 「黒鉛化」について
(ア)本件発明は、上記ア(ア)の課題を解決するものであるところ、本件訂正前の請求項9に係る発明においては、「多孔質炭素」が「黒鉛化」されたものであることが特定されていない。
ここで、本件訂正前の請求項9に係る発明は、「比抵抗が1.0×102Ω・cm以下であ」る、との発明特定事項を有するものであり、本件特許明細書の【0053】によれば、本件発明炭素において比抵抗が小さい理由は、本件発明炭素ではメソ孔が十分に存在し、「層状構造」が発達するのに対して、参考炭素ではメソ孔が殆ど無く、「層状構造」が殆ど発達しないことに起因すると考えられるものである。
すると、本件訂正前の請求項9に係る発明の「比抵抗が1.0×102Ω・cm以下であ」る、との発明特定事項は、本件訂正前の請求項9に係る「多孔質炭素」が、メソ孔が十分に存在し、「層状構造」が発達したものであることを示唆するものである。
(イ)ところが、「多孔質炭素」においてメソ孔が十分に存在するとしても、そのことにより、「多孔質炭素」が「黒鉛化」されたものということはできないし、本件訂正前の請求項9に係る発明に係る「多孔質炭素」において「層状構造」が発達しているとしても、そのことにより、「多孔質炭素」が「黒鉛化」されたものということはできない。
(ウ)上記(イ)によれば、本件訂正前の請求項9に係る発明が「比抵抗が1.0×102Ω・cm以下であ」る、との発明特定事項を有し、本件訂正前の請求項9に係る発明の「多孔質炭素」が、メソ孔が十分に存在し、「層状構造」が発達したものであるとしても、「黒鉛化」されたものということはできないから、本件訂正前の請求項9に係る発明は、上記ア(ア)の課題とは無関係の、「黒鉛化」されない「多孔質炭素」を包含するものであるので、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された発明とはいえない。
このことは、本件訂正前の請求項9に係る発明を直接的又は間接的に引用する本件訂正前の請求項10~15に係る発明についても同様である。
2 令和 2年 1月15日付け取消理由通知書(決定の予告)の取消理由の概要
(1)特許法第29条第1項第3号(新規性)について
令和 1年 9月30日の訂正請求により訂正された請求項1、3~9、11~15に係る発明(以下、それぞれ「訂正発明1、3~9、11~15」という。)は、甲第2号証、甲第3号証に記載された発明であるから、訂正発明1、3~9、11~15の特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
(2)特許法第36条第6項第2号(明確性)について
本件特許明細書には「嵩密度」の測定方法が記載されておらず、訂正発明1、9における「嵩密度」の測定方法が明らかでない。そして、「嵩密度」は、測定方法の違いに応じて測定結果が異なるものである。
そうすると、測定方法が明らかでない訂正発明1、9における「嵩密度」を一義的に特定することができないので、訂正発明1、9は明確でない。
このことは、訂正発明1、9を直接的又は間接的に引用する訂正発明3~8、11~15についても同様であるから、訂正発明1、3~9、11~15に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
3 令和 2年 7月28日付け取消理由通知書(決定の予告)の取消理由の概要
(1)特許法第29条第1項第3号(新規性)について
令和 2年 3月19日の訂正請求により訂正された請求項1、3~9、11~15に係る発明(以下、それぞれ「訂正後発明1、3~9、11~15」という。)は、甲第3号証に記載された発明であるから、訂正後発明1、3~9、11~15の特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
なお、令和 2年 7月28日付け取消理由通知書(決定の予告)には、申立人は、令和 2年 6月10日に提出された申立人の意見書の2頁5行~14行において、JIS Z8831-2-2010に従ってメソ孔容量を算出するにあたり、当該JISの記載に従い、rk=-0.953×ln(p/p0)、t=0.354×[-5/ln(p/p0)]1/3としていることについて、及び、同年 3月19日に提出された特許権者の意見書の別紙では、これらの値が異なっており、rk=-0.459×ln(p/p0)、t=1.036×[-5/ln(p/p0)]1/3に相当することについて、それぞれ主張しており、これらの主張によれば、特許権者の上記意見書におけるメソ孔容量の算出は、JIS Z8831-2-2010の記載に正確に従ったものではないこととなるが、JIS Z8831-2-2010に従ってメソ孔容量を算出する際のrk及びtの式における正確な定数について、意見があれば回答されたい、との審尋が付記されている。
4 令和 3年 2月16日付け審尋及び同年3年 6月15日付け取消理由通知書の取消理由の概要
令和 2年10月13日付け訂正請求により訂正された請求項1、3、5、7~9、11、13~15に係る発明(以下、それぞれ「再訂正後発明1、3、5、7~9、11、13~15」という。)は、甲第2号証、甲第3号証及び甲第4号証に記載された発明であるから、再訂正後発明1、3、5、7~9、11、13~15の特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
第6 特許異議申立理由及び取消理由についての判断
事案に鑑み、以下、上記第4の1の特許異議申立理由、上記第5の1~4の取消理由及び審尋についてまとめて検討する。
1 特許法第29条第1項第3号(新規性)、第2項(進歩性)について
(1)各甲号証の記載事項
ア 甲第1号証の記載事項及び甲第1号証に記載された発明
(ア)甲第1号証には以下(1a)~(1d)の記載がある。
(1a)「Liquid-nitrogen cryosorption, scanning electron microscopy(SEM), and transmission electron microscopy(TEM) studies clearly show the uniqueness of the 3D aperiodic HPGC structure. The nitrogen isotherm of the HPGC material(Figure 1a) exhibits combined characteristics of type I/II, with a Brunauer-Emmett-Teller(BET) surface area of 970 m2g-1, a total pore volume of 0.69 cm3g-1, a micropore volume of 0.3 cm3g-1, a micropore-to-total-pore-volume ratio of 0.43, and an average pore diameter of 2.85 nm. … Three regions can be identified: 1)ultrafine micropores(<1 nm) and micropores(1-2 nm) , 2)mesopores(5-50 nm), and 3)macropores(60-100 nm). The SEM image(Figure 2a) shows the texture of the macroporous cores, which have a diameter of about 1μm; these cores extend into the particles, thus forming ion-buffering reservoirs.…There are micropores around the mesopores(Figure 2c), and the mesopore walls consist of localized graphitic structures, which leads to an enhanced electric conductivity(see Figure 2d). …The characteristics of a 3D self-supporting macroporous network, including meso-microporous walls and localized graphitic structuers, make HPGC materials more convenient than hollow carbon foams or OMCs(which do not contain 3D macropores) and ordered macroporous carbons(which do not have mesopores or graphitic structures). The new HPGC, which in unique in its structure, shows promise as a good electrode material for advanced EC technology.」(373頁右欄39行~374頁左欄最終行)
(当審訳:液体窒素の低温吸着、走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)による研究は、明らかに、3D非周期HPGC構造の特異性を示している。HPGC材料の窒素等温線(図1a)は、I/II型の複合特性を示し、Brunauer-Emmett-Teller(BET) 表面積は970 m2g-1、全孔体積は0.69 cm3g-1、ミクロポア体積は0.3 cm3g-1、全孔に対するミクロポアの体積比は0.43、そして平均孔径は2.85 nmである。…1)微細孔(<1 nm)および微細孔(1-2 nm)、2)メソ孔(5-50 nm)、および3)マクロ孔(60-100 nm)の3つの領域を識別できる。SEM画像(図2a)は、約1μmの直径を持つマクロポーラスコアの構造を示している。これらのコアは粒子内に伸びており、したがってイオン緩衝リザーバーを形成している。…メソポアの周りにはマイクロポアがあり(図2c)、メソポアの壁は局所的なグラファイト構造で構成されているため、電気伝導率が向上する(図2dを参照)。…メソミクロポーラス壁や局部的なグラファイト構造を含む3D自立マクロポーラスネットワークの特性は、HPGC材料を、中空カーボンフォームまたはOMC(3Dマクロポアを含まない)および規則性マクロポーラスカーボン(メソポアやグラファイト構造をもたない)よりも便利なものとする。新しいHPGCは、その構造がユニークであり、高度なEC技術の優れた電極材料として有望である。)
(1b)「Furthermore, the localized graphitic units of HPGC lead to a lower equivalent series resistance(ESR) of 0.08Ω relative to those of CMK-3 and AC(0.2 and 0.28Ω,respectively)which also helps to reduce the electrode IR drop.」(374頁右欄19行~23行)
(当審訳:さらに、HPGCの局在化されたグラファイト単位は、CMK-3およびACのそれ(それぞれ0.2および0.28Ω)に比べて0.08Ωの低い等価直列抵抗(ESR)につながり、これも電極のIR低下の低減に役立つ。)
(1c)「
」(374頁)
(当審訳:図1.HPGC材料の窒素吸着-脱着等温線(a)及び細孔径分布(b)
図2.a)HPGC材料のマクロポーラスコアのSEM画像、b)メソポーラス壁のTEM画像、c)マイクロポアを示すTEM画像、局所的なグラファイト構造のメソポア壁の高解像度TEM(HRTEM)画像、及びe)3D階層的多孔質構造の概略図。)
(イ)上記(ア)(1a)~(1c)によれば、甲第1号証には3D非周期HPGC構造を有する「HPGC材料」が記載されており、当該「HPGC材料」は、Brunauer-Emmett-Teller(BET) 表面積が970 m2g-1、全孔体積が0.69 cm3g-1、ミクロポア体積が0.3 cm3g-1、全孔に対するミクロポアの体積比が0.43、平均孔径が2.85 nmであり、メソポアの周りにはマイクロポアがあり、メソポアの壁は局所的なグラファイト構造で構成されているため、電気伝導率が向上するものであり、メソミクロポーラス壁や局部的なグラファイト構造を含む3D自立マクロポーラスネットワークを有し、HPGCの局在化されたグラファイト単位は、0.08Ωの低い等価直列抵抗(ESR)につながるものである。
(ウ)上記(イ)によれば、甲第1号証には、
「3D非周期HPGC構造を有するHPGC材料であって、当該HPGC材料は、Brunauer-Emmett-Teller(BET) 表面積が970 m2g-1、全孔体積が0.69 cm3g-1、ミクロポア体積が0.3 cm3g-1、全孔に対するミクロポアの体積比が0.43、平均孔径が2.85 nmであり、メソポアの周りにはマイクロポアがあり、メソポアの壁は局所的なグラファイト構造で構成されているため、電気伝導率が向上し、メソミクロポーラス壁や局部的なグラファイト構造を含む3D自立マクロポーラスネットワークを有し、HPGCの局在化されたグラファイト単位は、0.08Ωの低い等価直列抵抗(ESR)につながる、HPGC材料。」の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。
イ 甲第2号証の記載事項及び甲第2号証に記載された発明
(ア)甲第2号証には以下(2a)~(2e)の記載がある。
(2a)「Herein we report a novel and simple method for preparing hollow carbon nanocages(CNC) with a diameter of ca.30-50 nm. This graphitic carbon had a well-defined graphitic framework and, particularly, a surface area of 430-800 m2g-1, much higher than previous values.」(2251頁右欄9行~13行)
(当審訳:ここでは、直径約30-50 nmの中空カーボンナノケージ(CNC)を調整するための新規で簡単な方法を報告する。このグラファイトカーボンは、明確に定義されたグラファイトフレームワークを持ち、特に、表面積は430-800 m2g-1で、以前の値よりもはるかに高くなっている。)
(2b)「Preparation of CNCs
The present CNCs were prepared by a template approach. This involved two steps: synthesis of a precursor particle with a graphitic shell and an Fe template core, and removal of the template.」(2251頁右欄18行~22行)
(当審訳:CNCの調整
CNCは、テンプレート法によって調整された。これは、グラファイトシェルとFeテンプレートコアを持つ前駆体粒子の合成と、テンプレートの除去という2つのステップが含まれる。」
(2c)「CNC samples without template
After acid purification, the original Fe or Fe3C phase could no longer be observed, but the carbon shells remained[Fig.2(a) and 2(b)]. …HRTEM illustrated that while the cage shells in the 700 ℃ and 900 ℃ samples were composed of well-defined graphitic layers with a spacing of 0.34 nm[Figs. 2(c) and 2(d)], those in the 600 ℃ sample were made up of graphitic layers with some disordering.
…While all samples show a graphitic peak at 2θ=26.22°, the intensity and width of this peak appears to increase and decrease, respectively, with increasing synthesis temperature.」(2252頁右欄47行~2253頁左欄9行)
(当審訳:テンプレートなしのCNC試料
酸の精製後、元のFeまたはFe3C相はもはや観察されなかったが、カーボンシェルは残った[図2(a)および2(b)]。…HRTEMは、700℃と900℃の試料のケージシェルは、0.34 nmの間隔で明確にグラファイト層で構成されていることを示しているが[図2(c)と2(d)]、600℃の試料は、やや不規則なグラファイト層で構成されている。
…すべての試料が2θ= 26.22°にグラファイトピークを示すが、このピークの強度と幅は、合成温度の上昇に伴ってそれぞれ増加および減少しているように見える。)
(2d)「Nitrogen adsorption and desorption isotherms are shown in Fig.5(a). The measurements showed that the CNCs prepared at 600 ℃, 700 ℃ and 900 ℃ had SBET=800 m2g-1, 433 m2g-1, and 201 m2g-1,respectively, and over 90% of the total surface area was contributed by mesopores(>2 nm), with little from micropores(<2 nm). Furthermore, the samples synthesized at 600 ℃ and 700 ℃ presented a strong distribution at pore sizes around 25 nm and 25-40 nm, respectively(Fig. 5b).」(2253頁右欄13行~21行)、
(当審訳:窒素吸着脱着等温線を図5(a)に示す。600℃、700℃、および900℃で準備されたCNCは、それぞれSBET = 800 m2g-1、433 m2g-1、および201 m2g-1であり、全表面積の90%以上がメソ細孔(> 2 nm)によって占められ、マイクロポア(<2 nm)はほとんどないことがわかった。 さらに、600℃と700℃で合成された試料は、それぞれ細孔径25 nmと25-40 nmで強い分布を示した(図5b)。)
(2e)「
」(2254頁右欄)
(当審訳:異なる温度で合成された試料のN2吸着/脱着等温線(a)及びメソポア径分布(b)。)
(イ)上記(ア)(2a)によれば、甲第2号証には直径約30-50 nmの「中空カーボンナノケージ(CNC)」が記載されており、上記(ア)(2b)~(2e)によれば、上記「中空カーボンナノケージ(CNC)」はテンプレート法で調整されるものであって、特に、600℃で調製したカーボンナノケージ(CNC)試料に注目すれば、甲第2号証には、
「テンプレート法によって調整され、そのケージシェルがやや不規則なグラファイト層で構成されており、2θ= 26.22°にグラファイトピークを示し、SBET=800m2g-1であり、総面積の90%以上はメソ細孔である、高表面積を有するカーボンナノケージ(CNC)試料。」の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されているといえる。
ウ 甲第3号証の記載事項及び甲第3号証に記載された発明
(ア)甲第3号証には以下(3a)~(3e)の記載がある。
(3a)「In this work, ordered mesoporous silicas(OMSs) such as MCM-4831 and KIT-632,33 are used as hard template for the synthesis of carbons vir templating method. Both types of OMSs feature the same 3D cubicstructure (Ia3d symmetry) consisting of an interpenetrating bicontinuous network of channels.」(982頁右欄13行~18行)(当審注:「Ia3d」のアルファベットは斜字体であり、「3」の上に「-」が記載されている。以下、同様である。)
(当審訳:この研究では、MCM-48やKIT-6などの規則性メソポーラスシリカ(OMS)が、テンプレート法による炭素合成の硬質テンプレートとして使用される。両方のタイプのOMSは、内部に浸透するチャンネルの網目構造で構成される同じ3D立方体構造(Ia3d対称)を備えている。)
(3b)「
」(986頁)
(当審訳:表2 全細孔容積(Vtot)、BET比表面積(SBET)、外表面積(Sext)及び調査した炭素の細孔径(wKJS))
(3c)「
」(987頁)
(当審訳:図2 900、1200、1600、2000、2400℃で処理された、一連のCMK1-C12-FA、CNK1-C20-FA、CMK8-AN、CMK8-MP炭素の、窒素吸着、対応する細孔径分布(PSDs)、狭い2θ角度及び広い2θ角度でのXRDパターン。同じ一連の炭素に対応するプロットを列に示す。この欄は、左側から始まり、-196℃での窒素吸着等温線、SPD曲線、狭角及び広角のXRDパターンを示す。CMK8-AN-900、CMK8-AN-1200、CMK8-MP-900及びCMK8-MP-1200炭素の等温線は、200、100、100及び50cm3g-1だけ垂直方向にオフセットされた。)
(3d)「
」(988頁)
(当審訳:図3 900、1200、1600、2000、2400℃で処理された、一連のCMK1-LP-SU、CNK1-LP-FA、CMK1-LP*-FA、CMK1-LP-MP炭素の、窒素吸着、対応する細孔径分布(PSDs)、狭い2θ角度及び広い2θ角度でのXRDパターン。同じ一連の炭素に対応するプロットを列に示す。この欄は、左側から始まり、-196℃での窒素吸着等温線、SPD曲線、狭角及び広角のXRDパターンを示す。いくつかの等温線曲線は、水平方向にオフセットされた;オフセット値は図ではっきりと表示されている。)
(3e)「Wide angle XRD patterns(in the range of 10°-60°) provided additional valuable information about the crystalline structure of the carbon pore walls formed during graphitization.…From XRD data for the carbons synthesized from furfuryl alcohol, one can infer that a certain amount of graphitic domains in the framework was formed at 2000℃. Two clear (002) and (100)/(101) peaks are present on the XRD patterns for these samples.In the case of CMK1-C20-FA heated at 1600℃, avery weak but sharp (002) peak was observed, which suggests that graphitization process occurred to a small extent at such relatively low temperature.」(990頁右欄13行~28行)
(当審訳:広角XRDパターン(10°~60°の範囲)は、黒鉛化中に形成された炭素細孔壁の結晶構造に関する追加の貴重な情報を提供した。…フルフリルアルコールから合成された炭素のXRDデータから、フレーム構造内に一定量のグラファイト領域が2000℃で形成されたと推測できる。これらの試料のXRDパターンには、2つの明確な(002)および(100)/(101)ピークが存在する。)1600℃に加熱したCMK1-C20-FAの場合、非常に弱いが鋭い(002)ピークが観測され、このような比較的低温で黒鉛化過程がわずかに起こったことを示唆している。)
(イ)上記(ア)(3a)~(3e)によれば、甲第3号証には「メソポーラスカーボン」が記載されており、当該「メソポーラスカーボン」は、規則性メソポーラスシリカを硬質テンプレートとして使用するテンプレート法で合成されるものであって、内部に浸透するチャンネルの網目構造で構成される3D立方体構造を有し、各サンプルの広角XRDパターンのピーク観察によれば、フレーム構造内に一定量のグラファイト領域が2000℃で形成されたと推測できるものであり、1600℃のような比較的低温で黒鉛化過程がわずかに起こるものである。
そして、特に、Sample CMK1-LP-FA-2000、CMK1-C12-FA-2000、CMK1-C20-FA-2000、CMK1-LP-SU-2000及びCMK1-LP-SU-1600に注目すれば、甲第3号証には、それぞれに対応して、
「規則性メソポーラスシリカを硬質テンプレートとして使用するテンプレート法で合成されるものであって、内部に浸透するチャンネルの網目構造で構成される3D立方体構造を有し、フレーム構造内に一定量のグラファイト領域が2000℃で形成されたと推測でき、BET比表面積(SBET)が710m2g-1である、メソポーラスカーボン。」(以下、「甲3-1発明」という。)、
「規則性メソポーラスシリカを硬質テンプレートとして使用するテンプレート法で合成されるものであって、内部に浸透するチャンネルの網目構造で構成される3D立方体構造を有し、フレーム構造内に一定量のグラファイト領域が2000℃で形成されたと推測でき、BET比表面積(SBET)が780m2g-1である、メソポーラスカーボン。」の発明(以下、「甲3-2発明」という。)、
「規則性メソポーラスシリカを硬質テンプレートとして使用するテンプレート法で合成されるものであって、内部に浸透するチャンネルの網目構造で構成される3D立方体構造を有し、フレーム構造内に一定量のグラファイト領域が2000℃で形成されたと推測でき、BET比表面積(SBET)が850m2g-1である、メソポーラスカーボン。」の発明(以下、「甲3-3発明」という。)、
「規則性メソポーラスシリカを硬質テンプレートとして使用するテンプレート法で合成されるものであって、内部に浸透するチャンネルの網目構造で構成される3D立方体構造を有し、フレーム構造内に一定量のグラファイト領域が2000℃で形成されたと推測でき、BET比表面積(SBET)が290m2g-1である、メソポーラスカーボン。」の発明(以下、「甲3-4発明」という。)、
「規則性メソポーラスシリカを硬質テンプレートとして使用するテンプレート法で合成されるものであって、内部に浸透するチャンネルの網目構造で構成される3D立方体構造を有し、1600℃のような比較的低温で黒鉛化過程がわずかに起こり、BET比表面積(SBET)が360m2g-1である、メソポーラスカーボン。」の発明(以下、「甲3-5発明」という。)
が記載されているといえる。
エ 甲第4号証の記載事項及び甲第4号証に記載された発明
(ア)甲第4号証には以下(4a)~(4c)の記載がある。
(4a)「鋳型炭素化法は,無機物の制御された空間内で有機物の炭素化を行い,そのあと鋳型である無機物を除去することで炭素を得る方法である。この方法では用いる鋳型の種類や構造を変化させることにより炭素構造のナノレベルの次元制御が可能となる。」(266頁左欄6行~10行)
(4b)「3.ゼオライトの3次元細孔を利用した鋳型炭素化
…したがって,ゼオライトの3次元細孔を炭素化の場として利用すれば,制御された細孔構造をもつ多孔質炭素を合成できる可能性がある。始めに高分子化合物をゼオライト細孔内で炭素化する方法,つぎにCVD法によりゼオライト細孔内へ炭素を導入する試みを紹介し,生成した炭素の形態と性状について述べる。
…
USYゼオライトの場合も3時間のCVDでは粒子の形状は変わらず,ゼオライト表面が炭素に覆われている様子はSEMでは見られなかった。しかし、CVDを12時間も行うと粒子はやや丸みを帯び,ゼオライトの外表面にもある程度炭素が堆積したことが示唆された。…炭素のX線回折からも,3時間CVD後の試料には明瞭な炭素ピークが見られず,炭素の結晶が成長している兆候がないのに対し,12時間CVD後の試料には明瞭に黒鉛型の回折ピークが認められ,これが外表面についた炭素に対応するものと思われる。
生成炭素の窒素吸着等温線からBET比表面積及びミクロ,メソ細孔容積を求めた。…しかし,Table2から本法で調整した炭素は高比表面積にもかかわらずメソ孔がかなり存在していることがわかる。このようにゼオライト鋳型から調整した炭素は特異な構造をもつ高表面積の多孔質炭素であることがわかった。」(270頁右欄22行~272頁左欄10行)
(4c)「
」(272頁左欄)
(イ)上記(ア)(4a)~(4c)によれば、甲第4号証には「高表面積の多孔質炭素」が記載されており、上記「高表面積の多孔質炭素」は、CVD法によりゼオライト細孔内へ炭素を導入する、ゼオライトの3次元細孔を利用した鋳型炭素化法で形成されたものである。
そして、特に、上記(ア)(4c)のTable2の上から4~9番目の試料に注目すれば、甲第4号証には、
「CVD法によりゼオライト細孔内へ炭素を導入する、ゼオライトの3次元細孔を利用した鋳型炭素化法で形成された多孔質炭素であり、X線回折において、明瞭に黒鉛型の回折ピークが認められ、BET比表面積が1430m2g-1、ミクロ細孔容積が0.57cc/g、メソ細孔容積が0.52cc/gである、高表面積の多孔質炭素。」の発明(以下、「甲4-1発明」という。)、
「CVD法によりゼオライト細孔内へ炭素を導入する、ゼオライトの3次元細孔を利用した鋳型炭素化法で形成された多孔質炭素であり、X線回折において、明瞭に黒鉛型の回折ピークが認められ、BET比表面積が2060m2g-1、ミクロ細孔容積が0.82cc/g、メソ細孔容積が0.75cc/gである、高表面積の多孔質炭素。」の発明(以下、「甲4-2発明」という。)、
「CVD法によりゼオライト細孔内へ炭素を導入する、ゼオライトの3次元細孔を利用した鋳型炭素化法で形成された多孔質炭素であり、X線回折において、明瞭に黒鉛型の回折ピークが認められ、BET比表面積が2200m2g-1、ミクロ細孔容積が0.88cc/g、メソ細孔容積が0.83cc/gである、高表面積の多孔質炭素。」の発明(以下、「甲4-3発明」という。)、
「CVD法によりゼオライト細孔内へ炭素を導入する、ゼオライトの3次元細孔を利用した鋳型炭素化法で形成された多孔質炭素であり、X線回折において、明瞭に黒鉛型の回折ピークが認められ、BET比表面積が1790m2g-1、ミクロ細孔容積が0.72cc/g、メソ細孔容積が0.62cc/gである、高表面積の多孔質炭素。」の発明(以下、「甲4-4発明」という。)、
「CVD法によりゼオライト細孔内へ炭素を導入する、ゼオライトの3次元細孔を利用した鋳型炭素化法で形成された多孔質炭素であり、X線回折において、明瞭に黒鉛型の回折ピークが認められ、BET比表面積が1660m2g-1、ミクロ細孔容積が0.66cc/g、メソ細孔容積が0.79cc/gである、高表面積の多孔質炭素。」の発明(以下、「甲4-5発明」という。)、
「CVD法によりゼオライト細孔内へ炭素を導入する、ゼオライトの3次元細孔を利用した鋳型炭素化法で形成された多孔質炭素であり、X線回折において、明瞭に黒鉛型の回折ピークが認められ、BET比表面積が2260m2g-1、ミクロ細孔容積が1.11cc/g、メソ細孔容積が0.76cc/gである、高表面積の多孔質炭素。」の発明(以下、「甲4-6発明」という。)
が記載されているといえる。
(2)対比・判断
(2-1)甲第1号証を主引用例とする場合について
ア 本件発明1について
本件発明1と甲1発明とを対比すると、本件発明1と甲1発明とは、少なくとも以下の点で相違する。
・相違点1:本件発明1は、「多孔質炭素」において、「メソ孔の容量は0.55ml/g以上1.0ml/g以下であ」る、との発明特定事項を有するのに対して、甲1発明が上記発明特定事項を有するか否かが明らかでない点。
以下、上記相違点1について検討すると、仮に、上記(1)ア(ア)(1c)(図1)の「HPGC材料の窒素吸着-脱着等温線」より、甲1発明の「メソ孔の容量」を算出できたとしても、当該「メソ孔の容量」は0.21cm3/gすなわち0.21ml/gと算出されるのであり、上記相違点1に係る本件発明1の発明特定事項と合致しない。
してみれば、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明1が甲1発明であるとはいえない。
そして、甲1発明において、「メソ孔の容量」を「0.55ml/g以上1.0ml/g以下」とする動機付けは存在しないので、甲1発明において、「メソ孔の容量は0.55ml/g以上1.0ml/g以下であ」る、との上記相違点1に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとすることを、甲第5~8号証(炭素構造に関連する周知文献)の記載事項に基づいて当業者が容易になし得るものではないから、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲第5~8号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
イ 本件発明3、5~9、11、13~15について
本件発明3、5~9、11及び13~15と甲1発明とを対比すると、いずれの場合であっても、少なくとも上記アの相違点1で相違する。
してみれば、上記アに記載したのと同様の理由により、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明3、5~9、11及び13~15は甲1発明であるとはいえないし、甲1発明及び甲第5~8号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
ウ 小括
したがって、本件発明1、3、5~9、11及び13~15は、甲第1号証に記載された発明ではなく、甲第1号証に記載された発明及び甲第5~8号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
(2-2)甲第2号証を主引用例とする場合について
ア 本件発明1について
本件発明1と甲2発明とを対比すると、少なくとも以下の点で相違する。
・相違点2:本件発明1は、「多孔質炭素」において、「メソ孔の容量は0.55ml/g以上1.0ml/g以下であ」る、との発明特定事項を有するのに対して、甲2発明は、上記発明特定事項を有するか否かが明らかでない点。
以下、上記相違点2について検討すると、仮に、上記(1)イ(ア)(2e)の「N2吸着/脱着等温線」より、甲2発明の「メソ孔の容量」を算出できたとしても、甲2発明の「メソ孔の容量」は1.26ml/gと算出されるのであり、上記相違点2に係る本件発明1の発明特定事項と合致しない。
してみれば、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明1が甲2発明であるとはいえない。
そして、甲2発明において、「メソ孔の容量」を「0.55ml/g以上1.0ml/g以下」とする動機付けは存在しないので、甲2発明において、「メソ孔の容量は0.55ml/g以上1.0ml/g以下であ」る、との上記相違点2に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとすることを、甲第5~8号証の記載事項に基づいて当業者が容易になし得るものではないから、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明及び甲第5~8号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
イ 本件発明3、5~9、11、13~15について
本件発明3、5~9、11及び13~15と甲2発明とを対比すると、いずれの場合であっても、少なくとも上記アの相違点2で相違する。
してみれば、上記アに記載したのと同様の理由により、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明3、5~9、11及び13~15は甲2発明であるとはいえないし、甲2発明及び甲第5~8号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
ウ 小括
したがって、本件発明1、3、5~9、11及び13~15は、甲第2号証に記載された発明ではなく、甲第2号証に記載された発明及び甲第5~8号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
(2-3)甲第3号証を主引用例とする場合について
ア 本件発明1について
本件発明1と甲3-1発明~甲3-5発明とを対比すると、いずれの場合であっても、少なくとも以下の点で相違する。
・相違点3:本件発明1は、「多孔質炭素」において、「ミクロ孔の容量が0.50ml/g以上」である、との発明特定事項を有するのに対して、甲3-1発明~甲3-5発明は、いずれも上記発明特定事項を有するか否かが明らかでない点。
以下、上記相違点3について検討すると、仮に、上記(1)ウ(ア)(3c)、(3d)の「-196℃での窒素吸着等温線」より、甲3-1発明~甲3-5発明の「ミクロ孔の容量」を算出できたとしても、甲3-1発明の「ミクロ孔の容量」は0.29ml/g、甲3-2発明の「ミクロ孔の容量」は0.31ml/g、甲3-3発明の「ミクロ孔の容量」は0.34ml/g、甲3-4発明の「ミクロ孔の容量」は0.12ml/g、甲3-5発明の「ミクロ孔の容量」は0.14ml/gと算出されるのであるから、いずれも、上記相違点3に係る本件発明1の発明特定事項と合致しない。
してみれば、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明1が甲3-1発明~甲3-5発明であるとはいえない。
そして、甲3-1発明~甲3-5発明において、「ミクロ孔の容量」を「0.50ml/g以上」とする動機付けは存在しないので、甲3-1発明~甲3-5発明において、「ミクロ孔の容量が0.50ml/g以上」である、との上記相違点3に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとすることを、甲第5~8号証の記載事項に基づいて当業者が容易になし得るものではないから、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲3-1発明~甲3-5発明及び甲第5~8号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
イ 本件発明3、5、9、11及び13~15について
本件発明3、5、9、11及び13~15と甲3-1発明~甲3-5発明とを対比すると、いずれの場合であっても、少なくとも上記アの相違点3で相違する。
してみれば、上記アに記載したのと同様の理由により、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明3、5、9、11及び13~15は甲3-1発明~甲3-5発明であるとはいえないし、甲3-1発明~甲3-5発明及び甲第5~8号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
ウ 本件発明6について
(ア)本件発明6と甲3-1発明、甲第3-4発明及び甲3-5発明とを対比すると、いずれの場合であっても、少なくとも以下の点で相違する。
・相違点3’:本件発明6は、「多孔質炭素」において、「嵩密度は0.27g/cc以上1.0g/cc以下である」、との発明特定事項を有するのに対して、甲3-1発明、甲第3-4発明及び甲3-5発明は、いずれも上記発明特定事項を有するか否かが明らかでない点。
以下、上記相違点3’について検討すると、仮に、令和 1年11月29日に提出された申立人による意見書の1頁下から3行目~3頁下から3行目に記載の方法で甲3-1発明、甲第3-4発明及び甲3-5発明の「算出密度」を算出できたとしても、甲3-1発明の「算出密度」は「0.58g/cc」、甲第3-4発明の「算出密度」は「0.83g/cc」、甲3-5発明の「算出密度」は「0.725g/cc」と算出されるのであり、これらは、いずれも、本件特許明細書の【0039】~【0047】に記載される、「嵩密度」が0.27g/ccである「本発明炭素A1」の「算出密度」である「0.899g/cc」よりも小さいから、甲3-1発明、甲第3-4発明及び甲3-5発明の「嵩密度」が「0.27g/cc以上」であるということはできない。
したがって、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明6が甲3-1発明、甲第3-4発明及び甲3-5発明であるとはいえない。
そして、甲3-1発明、甲第3-4発明及び甲3-5発明において、「嵩密度」を「0.27g/cc以上1.0g/cc以下」とする動機付けは存在しないので、甲3-1発明、甲第3-4発明及び甲3-5発明において、「嵩密度は0.27g/cc以上1.0g/cc以下である」、との上記相違点3’に係る本件発明6の発明特定事項を有するものとすることを、甲第5~8号証の記載事項に基づいて当業者が容易になし得るものではないから、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明6は、甲3-1発明、甲第3-4発明、甲3-5発明及び甲第5~8号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
(イ)本件発明6と甲第3-2発明及び甲3-3発明とを対比すると、いずれの場合であっても、少なくとも以下の点で相違する。
・相違点3’’:本件発明1は、「多孔質炭素」において、「メソ孔の容量が0.55ml/g以上1.0ml/g以下」である、との発明特定事項を有するのに対して、甲第3-2発明及び甲3-3発明は、いずれも上記発明特定事項を有するか否かが明らかでない点。
以下、上記相違点3’’について検討すると、仮に、上記(1)ウ(ア)(3c)、(3d)の「-196℃での窒素吸着等温線」より、甲3-2発明及び甲3-3発明の「メソ孔の容量」を算出できたとしても、甲3-2発明の「メソ孔の容量」は0.31ml/g、甲3-3発明の「メソ孔の容量」は0.33ml/gと算出されるのであるから、いずれも、上記相違点3’’に係る本件発明6の発明特定事項と合致しない。
してみれば、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明6が甲3-2発明及び甲3-3発明であるとはいえない。
そして、甲3-2発明及び甲3-3発明において、「メソ孔の容量」を「0.55ml/g以上1.0ml/g以下」とする動機付けは存在しないので、甲3-2発明及び甲3-3発明において、「メソ孔の容量は0.55ml/g以上1.0ml/g以下であ」る、との上記相違点3’’に係る本件発明6の発明特定事項を有するものとすることを、甲第5~8号証の記載事項に基づいて当業者が容易になし得るものではないから、本件発明6は、甲3-2発明、甲3-3発明及び甲第5~8号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
(ウ)上記(ア)、(イ)によれば、本件発明6は甲3-1発明~甲3-5発明であるとはいえないし、甲3-1発明~甲3-5発明及び甲第5~8号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
エ 本件発明7及び8について
本件発明1、6を引用する本件発明7及び8と甲3-1発明~甲3-5発明とを対比すると、少なくとも上記アの相違点3、上記ウ(ア)の相違点3’または上記ウ(イ)の相違点3’’のいずれかで相違する。
してみれば、上記ア及びウ(ア)、(イ)に記載したのと同様の理由により、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明7及び8は甲3-1発明~甲3-5発明であるとはいえないし、甲3-1発明~甲3-5発明及び甲第5~8号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
オ 小括
したがって、本件発明1、3、5~9、11及び13~15は、甲第3号証に記載された発明ではなく、甲第3号証に記載された発明及び甲第5~8号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
(2-4)甲第4号証を主引用例とする場合について
ア 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲4-1発明とを対比すると、少なくとも以下の点で相違する。
・相違点4:本件発明1は、「多孔質炭素」において、「メソ孔の容量が0.55ml/g以上1.0ml/g以下」である、との発明特定事項を有するのに対して、甲4-1発明は「メソ細孔容積が0.52cc/gである」点。
そして、「メソ細孔容積が0.52cc/gである」甲4-1発明が、「メソ孔の容量が0.55ml/g以上1.0ml/g以下」であるものとはいえないから、本件発明1が甲4-1発明であるとはいえない。
また、甲4-1発明において、「メソ孔の容量」を「0.55ml/g以上1.0ml/g以下」とする動機付けは存在しないし、甲第5~8号証に、「メソ孔の容量」を「0.55ml/g以上1.0ml/g以下」とすることが記載も示唆もされるものでもないので、甲4-1発明において、「メソ孔の容量が0.55ml/g以上1.0ml/g以下」である、との上記相違点4に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとすることを、甲第5~8号証の記載事項に基づいて当業者が容易になし得るものではないから、本件発明1は、甲4-1発明及び甲第5~8号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(イ)本件発明1と甲4-2発明~甲4-6発明とを対比すると、いずれの場合であっても、少なくとも以下の点で相違する。
・相違点4’:本件発明1は、「多孔質炭素」において、「比表面積が340m2/g以上1500m2/g以下」である、との発明特定事項を有するのに対して、甲4-2発明は「BET比表面積が2060m2/g」であり、甲4-3発明は「BET比表面積が2200m2/g」であり、甲4-4発明は「BET比表面積が1790m2/g」であり、甲4-5発明は「BET比表面積が1660m2/g」であり、甲4-6発明は「BET比表面積が2260m2/g」である点。
以下、上記相違点4’について検討すると、「BET比表面積が2060m2/g」である甲4-2発明、「BET比表面積が2200m2/g」である甲4-3発明、「BET比表面積が1790m2/g」である甲4-4発明、「BET比表面積が1660m2/g」である甲4-5発明、「BET比表面積が2260m2/g」である甲4-6発明は、いずれも、「比表面積が340m2/g以上1500m2/g以下」であるものとはいえないから、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明1が甲4-2発明~甲4-6発明であるとはいえない。
そして、甲4-2発明~甲4-6発明において、「比表面積」を「340m2/g以上1500m2/g以下」とする動機付けは存在しないので、甲4-2発明~甲4-6発明において、「比表面積が340m2/g以上1500m2/g以下」である、との上記相違点4’に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとすることを、甲第5~8号証の記載事項に基づいて当業者が容易になし得るものではないから、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲4-2発明~甲4-6発明及び甲第5~8号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
(ウ)上記(ア)、(イ)によれば、本件発明1は甲4-1発明~甲4-6発明であるとはいえないし、甲4-1発明~甲4-6発明及び甲第5~8号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
イ 本件発明3、5、9、11、13~15について
本件発明3、5、9、11及び13~15と甲4-1発明~甲4-6発明とを対比すると、いずれの場合であっても、少なくとも上記ア(ア)の相違点4または同(イ)の相違点4’で相違する。
してみれば、上記ア(ア)、(イ)に記載したのと同じ理由により、本件発明3、5、9、11及び13~15は甲4-1発明~甲4-6発明であるとはいえないし、甲4-1発明~甲4-6発明及び甲第5~8号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
ウ 本件発明6について
(ア)本件発明6と甲4-1発明とを対比すると、少なくとも以下の点で相違する。
・相違点4’’:本件発明6は、「多孔質炭素」において、「メソ孔の容量は0.55ml/g以上1.0ml/g以下」である、との発明特定事項を有するのに対して、甲4-1発明は「メソ細孔容積が0.52cc/gである」点。
そして、上記相違点4’’は上記ア(ア)の相違点4と同じものであるので、上記ア(ア)に記載したのと同様の理由により、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明6が甲4-1発明であるとはいえないし、甲4-1発明及び甲第5~8号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(イ)本件発明6と甲4-2発明~甲4-6発明とを対比すると、いずれの場合であっても、少なくとも以下の点で相違する。
・相違点4’’’:本件発明6は、「多孔質炭素」において、「嵩密度は0.27g/cc以上1.0g/cc以下である」、との発明特定事項を有するのに対して、甲4-2発明~甲4-6発明は、「嵩密度」が明らかでない点。
以下、上記相違点4’’’について検討すると、仮に、令和 1年11月29日に提出された申立人による意見書の1頁下から3行目~3頁下から3行目に記載の方法で甲4-2発明~甲4-6発明の「算出密度」を算出できたとしても、甲4-2発明の「算出密度」は「0.495g/cc」、甲第4-3発明の「算出密度」は「0.453g/cc」、甲4-4発明の「算出密度」は「0.559g/cc」、甲4-5発明の「算出密度」は「0.526g/cc」、甲4-6発明の「算出密度」は「0.431g/cc」と算出されるのであるから、上記(2-3)ウ(ア)に記載したのと同様の理由により、甲4-2発明~甲4-6発明の「嵩密度」が「0.27g/cc以上」であるということはできない。
したがって、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明6が甲4-2発明~甲4-6発明であるとはいえない。
そして、甲4-2発明~甲4-6発明において、「嵩密度」を「0.27g/cc以上1.0g/cc以下」とする動機付けは存在しないので、甲4-2発明~甲4-6発明において、「嵩密度は0.27g/cc以上1.0g/cc以下である」、との上記相違点4’’’に係る本件発明6の発明特定事項を有するものとすることを、甲第5~8号証の記載事項に基づいて当業者が容易になし得るものではないから、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明6は、甲4-2発明~甲4-6発明及び甲第5~8号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
(ウ)上記(ア)~(イ)によれば、本件発明6は甲4-1発明~甲4-6発明であるとはいえないし、甲4-1発明~甲4-6発明及び甲第5~8号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
エ 本件発明7及び8について
本件発明1、6を引用する本件発明7及び8と甲4-1発明~甲4-6発明とを対比すると、少なくとも上記ア(ア)の相違点4、同(イ)の相違点4’、上記ウ(ア)の相違点4’’または同(イ)の相違点4’’’のいずれかで相違する。
してみれば、上記ア(ア)、(イ)及びウ(ア)、(イ)に記載したのと同様の理由により、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明7及び8は甲4-1発明~甲4-6発明であるとはいえないし、甲4-1発明~甲4-6発明及び甲第5~8号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
オ 小括
したがって、本件発明1、3、5~9、11及び13~15は、甲第4号証に記載された発明ではなく、甲第4号証に記載された発明及び甲第5~8号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
(3)特許法第29条第1項第3号(新規性)及び第2項(進歩性)についてのむすび
以上のとおりであるから、特許法第29条第1項第3号(新規性)及び第2項(進歩性)についての取消理由及び特許異議申立理由はいずれも理由がない。
2 特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について
(1)「多孔質炭素」の比表面積に関する事項及び「黒鉛化」について
ア 本件特許明細書の【0002】~【0008】によれば、本件発明は、「多孔質炭素」を「黒鉛化」するために、あるいは「比抵抗を低減」するために加熱処理した場合、「黒鉛化」することや「比抵抗を低減」することが難しいばかりか、比表面積が小さくなり、期待していた特性の改良どころか、もともとの特性よりも悪くなり、所望の特性を得られないという課題(以下、「本件課題」という。)を解決するものであり、比表面積が極めて高く、「黒鉛化」された、あるいは「比抵抗が低減」した「多孔質炭素」を提供することを目的とするものである。
イ そして、本件発明1及び9は、「比表面積が340m2/g以上1500m2/g以下」である、との発明特定事項を有し、本件発明6は、「比表面積が340m2/g以上」である、との発明特定事項を有し、いずれも比表面積が極めて高い「多孔質炭素」とするものである。
更に、本件発明1及び6は、「CuKα線(波長1.541Å)に対するX線回折スペクトルにおいて、ブラッグ角度2θの26.45°にピークを有」する、との発明特定事項を有し、これにより、比表面積が極めて高く、「黒鉛化」された「多孔質炭素」として、本件課題を解決するものであるから、本件発明1、6及びこれらを引用する本件発明3、5、7及び8は、本件課題を解決できないものを包含するものではなく、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された発明というべきものである。
ウ また、本件発明9は、「比抵抗が1.0×102Ω・cm以下」である、との発明特定事項を有し、これにより、比表面積が極めて高く、「比抵抗が低減」した「多孔質炭素」として、本件課題を解決するものであって、仮に、本件発明9が「多孔質炭素」を「黒鉛化」するものでないとしても、本件課題を解決できることに変わりはない。
そうすると、本件発明9及びこれらを引用する本件発明11及び13~15は、本件課題を解決できないものを包含するものではなく、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された発明というべきものである。
エ 上記イ、ウによれば、本件特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号の規定に適合するというべきであるので、特許法第36条第6項第1号(サポート要件)についての取消理由はいずれも理由がない。
3 特許法第36条第6項第2号(明確性)について
JIS K1474(活性炭試験方法)の7.8には、活性炭の充填密度の測定方法が規定されており、当業者は、広範な用途に用いられる本件発明に係る「多孔質炭素」の「嵩密度」が、上記JIS K1474(活性炭試験方法)の「充填密度」に従って測定されることを理解できるから、本件発明1、3、5~9、11~15は明確であるというべきである。
よって、特許法第36条第6項第2号(明確性)についての取消理由は理由がない。
4 令和 2年 7月28日付け取消理由通知書(決定の予告)に付記された審尋について
令和 2年 7月28日付け取消理由通知書(決定の予告)に付記された審尋について特許権者は特段の意見を述べておらず、令和 2年 3月19日に提出した特許権者の意見書におけるメソ孔容量の算出は、JIS Z8831-2-2010の記載に正確に従ったものではないものと認められるが、このことは、上記1~3の判断を左右しない。
5 令和 3年 7月20日提出の上申書について
(1)申立人の主張の概要
申立人は、令和 3年 7月20日に提出した上申書において、本件特許明細書に記載される「本発明炭素A2」は、「ブラッグ角度2θの26.45°にピークを有」することとは無関係の課題に対応した発明であり、また、「ブラッグ角度2θの26.45°にピークを有」するものではない蓋然性が高いから、本件特許明細書には、本件発明1の「CuKα線(波長1.541Å)に対するX線回折スペクトルにおいて、ブラッグ角度2θの26.45°にピークを有し」、との発明特定事項を備える実施例が存在しないので、本件発明1は発明の詳細な説明に記載されたものではなく、サポート要件を満たさない旨、また、同様の理由により、発明の詳細な説明は、本件発明1を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものでないから、実施可能要件を満たさない旨、本件特許明細書に記載された「本発明炭素A1」、「本発明炭素A2」、「参考炭素Y1」のメソ孔容量及びミクロ孔容量からみれば、「ミクロ孔の容量が0.50ml/g」超であれば、「メソ孔の容量」は「1.0ml/g」以上となると解するのが妥当であるから、本件発明1及び9の「ミクロ孔の容量が0.50ml/g」超かつ「メソ孔の容量は0.55ml/g以上1.0ml/g以下」の多孔質炭素は存在し得ないと解されるので、「ミクロ孔の容量が0.50ml/g」超である多孔質炭素は発明の詳細な説明に記載されたものでなく、本件発明1及び9はサポート要件を満たさない旨、また、同様の理由により、発明の詳細な説明は、本件発明1及び9を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものでないから、実施可能要件を満たさない旨を主張している。
(2)当審の判断
ア 以下、上記申立人の主張について検討すると、本件特許明細書の【0006】~【0012】の記載に接した当業者は、本件発明1及び9の発明特定事項により、多孔質炭素にメソ孔が存在しているので比表面積が小さくなることを抑制できるとともに、炭素質壁が黒鉛化し、または比抵抗が低減しているので、本件課題を解決できることを理解できる。
そして、本件特許明細書の【0020】~【0027】には、本件発明に係る「多孔質炭素」は、有機質樹脂を、酸化物(鋳型粒子)と溶液または粉末状態において湿式もしくは乾式混合し、混合物を非酸化雰囲気或いは減圧雰囲気で、たとえば500℃以上の温度で炭化した後、洗浄処理することで酸化物を取り除いて非晶質の多孔質炭素(炭素質焼成体)を作製し、しかる後、この非晶質の「多孔質炭素」を、非酸化雰囲気或いは減圧雰囲気で、非晶質の「多孔質炭素」が結晶化する温度以上(例えば、2000℃)で熱処理することにより得られることが、用いられる材料と共に記載されているから、当業者は、本件発明1及び9に係る「多孔質炭素」の製造方法を理解できるので、本件発明1及び9はサポート要件を満たすというべきであり、また、発明の詳細な説明は、本件発明1及び9について実施可能要件を満たすというべきである。
イ 上記(1)の申立人の主張は、本件特許明細書の【0028】~【0053】に記載される、炭素前駆体としてのポリアミック酸樹脂(イミド系樹脂)と、鋳型粒子としての酸化マグネシウム(MgO、平均結晶粒子径は100nm)とを90:10の重量比で混合し、次に、この混合物を窒素雰囲気中1000℃で1時間熱処理して、ポリアミック酸樹脂を熱分解することにより炭素質壁を備えた焼成物を得て、次いで、得られた焼成物を1mol/lの割合で添加された硫酸溶液で洗浄して、MgOを完全に溶出させることにより多数のメソ孔を有する非晶質の多孔質炭素を得て、この非晶質の多孔質炭素を、窒素雰囲気中で2500℃で1時間、2000℃で1時間及び1400℃で1時間熱処理する方法(以下、「実施例方法」という。)により製造された「本発明炭素A1」、「本発明炭素A2」及び「参考炭素Y1」に基づくものと解されるが、本件発明1及び9は、多孔質炭素の製造方法を実施例方法に特定するものではない。
すると、仮に、実施例方法により製造された「本発明炭素A2」が、「ブラッグ角度2θの26.45°にピークを有」することとは無関係の課題に対応した発明であり、また、「ブラッグ角度2θの26.45°にピークを有」するものではない蓋然性が高いとしても、また、実施例方法で製造したとき、「ミクロ孔の容量が0.50ml/g」超かつ「メソ孔の容量は0.55ml/g以上1.0ml/g以下」の多孔質炭素は存在し得ないと解されるとしても、そのことから直ちに、本件発明1及び9がサポート要件を満たさないとはいえないし、発明の詳細な説明が、本件発明1及び9を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものでないともいえない。
そして、本件発明1及び9はサポート要件を満たすというべきであり、また、発明の詳細な説明は、本件発明1及び9について実施可能要件を満たすというべきであることは上記アに記載のとおりであるので、申立人の上記主張はいずれも採用できない。
第7 むすび
以上のとおり、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、本件発明1、3、5~9、11及び13~15に係る特許を取り消すことはできない。
また、ほかに本件発明1、3、5~9、11及び13~15に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、本件訂正により本件発明2、4、10及び12は削除されたので、本件発明2、4、10及び12に係る特許に対して異議申立人がした特許異議申立については対象となる請求項が存在しないから、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2019-700400