特許異議申立
2020-700323
燃料電池用炭素粉末ならびに当該燃料電池用炭素粉末を用いる触媒、電極触媒層、膜電極接合体および燃料電池
- 審判番号
- 2020-700323
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-504029
- 登録番号
- 特許第6603396号(P6603396)
- 請求日
- 2020年05月07日
- 審決日
- 2021年03月29日
- 公報発行日
- 2021年07月30日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】日産自動車株式会社
- 【権利者代理人】八田国際特許業務法人
- 【権利者】東洋炭素株式会社
- 【権利者代理人】八田国際特許業務法人
- 【異議申立人】神保 良男
- 審判長/審判官
- 審判長 粟野 正明
- 審判官 池渕 立
- 審判官 磯部 香
- 分類
- P1651.113-YAA(H01M) / P1651.121-YAA(H01M) / P1651.537-YAA(H01M)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第4項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6603396号発明「燃料電池用炭素粉末ならびに当該燃料電池用炭素粉末を用いる触媒、電極触媒層、膜電極接合体および燃料電池」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6603396号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-10〕について訂正することを認める。
特許第6603396号の請求項1ないし10に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第6603396号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~10に係る特許についての出願(以下、「本願」という。)は、2017年(平成29年) 1月18日(優先権主張平成28年 3月11日、日本国)を国際出願日とし、令和 1年10月18日にその特許権の設定登録がなされ、同年11月 6日にその特許掲載公報が発行されたものである。
その後、本件特許について、令和 2年 5月 7日付けで、特許異議申立人神保良男(以下、「申立人」という。)により、請求項1~10(全請求項)に係る本件特許に対して特許異議の申立てがなされ、令和 2年 7月22日付けで取消理由が通知され、これに対して、特許権者により同年10月23日に意見書が提出されるとともに、訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)がなされ、これに対して申立人により同年12月 7日に意見書が提出されたものである。
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正請求の趣旨、及び、訂正の内容
(1)訂正請求の趣旨
本件訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)は、特許第6603396号の特許請求の範囲を令和 2年10月23日提出の訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~10について訂正することを求めるものであり、その訂正の内容は以下のとおりである。
(2)訂正の内容
ア 訂正事項1
請求項1について、本件訂正前の
「不活性雰囲気中で1800℃で1時間熱処理した際の、」と記載されているのを、
「前記燃料電池用炭素粉末を不活性雰囲気中で1800℃で1時間熱処理した後の、」と訂正する。
請求項1を引用する請求項2~10も同様に訂正する。
なお、当該(2)では、下線は訂正箇所を表す。
イ 訂正事項2
請求項1について、本件訂正前の
「XRD分析によって観測される2θ=22.5°~25°の位置に存在するピーク0の面積をA」と記載されているのを、
「XRD分析によって観測されるXRDパターンにおいて、2θ=23.92°で設定されるピークに基づいてフォークト関数でフィッティングを行うことによって算出されるピーク0の面積をA」と訂正する。
請求項1を引用する請求項2~10も同様に訂正する。
ウ 訂正事項3
請求項1について、本件訂正前の
「XRD分析によって観測される2θ=26°の位置に存在するピーク1の面積をBとした場合、」と記載されているのを、
「XRD分析によって観測されるXRDパターンにおいて炭素の(002)面に由来する2θ=26°に存在する鋭いピークに基づいてフォークト関数でフィッティングを行うことによって算出されるピーク1の面積をBとした場合、」と訂正する。
請求項1を引用する請求項2~10も同様に訂正する。
2 本件訂正の適否についての当審の判断
(1)訂正事項1について
ア 訂正事項1は、本件訂正前の請求項1に記載された「不活性雰囲気中で1800℃で1時間熱処理」が、「燃料電池用炭素粉末」の製造工程の一部として行われる熱処理であるのか、製造後の「燃料電池用炭素粉末」に対して行われるXRD分析の準備工程であるのか不明であった記載を、後者であることを明らかにするために、当該熱処理が「前記燃料電池用炭素粉末」すなわち製造後の燃料電池用炭素粉末に対して行われるものであり、当該熱処理をした「後」にXRD分析を行うものであることを明らかにした訂正である。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 本件特許に係る願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の段落【0034】には
「[面積AおよびBの測定方法]
X線回折測定は、炭素粉末(試料1)を窒素雰囲気下で1800℃で1時間、熱処理することによって調製した炭素粉末(試料2)を用いて行われる。すなわち、炭素粉末(試料1)を窒素雰囲気下で1800℃で1時間、熱処理して、炭素粉末(試料2)を調製する。この炭素粉末(試料2)をシリコン無反射板に載せ、株式会社リガク社製X線回折装置RINT-TTRIIIを用いて行い、XRDパターンを得る。なお、X線回折測定では、線源としてCuKα線を用いて行う。」
と記載されており(下線は当審が付与した。)、「窒素雰囲気下で1800℃で1時間、熱処理すること」は、試料1の炭素粉末に対して、X線回折測定の調製工程として行われることが記載されていることから、請求項1に記載された「不活性雰囲気中で1800℃で1時間熱処理」が、製造後の炭素粉末に対して行われるXRD分析の準備工程(調製工程)であることが記載されている。
したがって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 上記アのとおり、訂正事項1による訂正は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
(2)訂正事項2について
ア 本件訂正前の請求項1に記載された「XRD分析によって観測される2θ=22.5°~25°の位置に存在するピーク0の面積」は、ピーク0に対してフォークト関数でフィッティングを行うことによって算出されるものであるが(本件明細書の段落【0035】参照。)、「2θ=22.5°~25°の位置に存在するピーク0」は、ブロードなピーク(同段落【0032】参照。)であって、ピーク角度(ピークが最高値をとる2θの角度)を特定できないため、上記フィッティングによって算出される面積が一義的に特定できないという場合があるという点で、不明瞭な記載であったことに対して、訂正事項2は、「フォークト関数でフィッティングを行う」際に「2θ=23.92°で設定されるピークに基づいて」行うことを明らかにした訂正である。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 本件明細書には、それぞれ製造方法が異なる、実施例1、実施例2、比較例1のいずれについても、「なお、2θ=23.92°に観察されるピークをピーク0としてその面積(面積A)を算出した。」と記載されており(段落【0133】、【0137】、【0139】参照。)、フォークト関数でフィッティングを行うことで面積を算出するとの段落【0035】の記載も参照すると、必ずしも同じピーク位置であるとは限らない、実施例1、実施例2、比較例1それぞれの「2θ=22.5°~25°の位置に存在するピーク0」の「面積」「A」について、「2θ=23.92°で設定されるピークに基づいてフォークト関数でフィッティングを行う」ことが記載されている。
したがって、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 上記アのとおり、訂正事項2による訂正は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
(3)訂正事項3について
ア 本件訂正前の請求項1に記載された「2θ=26°の位置に存在するピーク1」は、炭素の(002)面に由来する鋭いピークを意味するが(段落【0032】参照。)、技術常識によれば、炭素の(002)面に由来する鋭いピークであっても、熱処理温度によっては必ずしも「2θ=26°の位置に存在」するとは限らないから、「2θ=26°の位置に存在するピーク1」を必ずしも特定することができず、そのため、「ピーク1」が「2θ=26°の位置に存在」しない場合に「ピーク1」の「面積」「B」がどのように定義されるか明瞭ではなかったが、訂正事項3は、「ピーク1の面積」「B」を「炭素の(002)面に由来する2θ=26°に存在する鋭いピークに基づいてフォークト関数でフィッティングを行うことによって算出される」ものと訂正することによって、「2θ=26°の位置に存在」する「ピーク1」が、「炭素の(002)面に由来する」「鋭いピーク」であって、「2θ=26°の位置に存在」するとは、「2θ=26°」もしくはその近傍に存在することを意味するものであることを明らかにした訂正である。
したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 本件明細書には、「ピーク1は、XRD分析によって観測される2θ=26°の位置に存在する鋭いピークであ…る。ピーク1…は、炭素の(002)面に由来するピークであり、結晶性の高い炭素組織に起因する。」(段落【0032】参照。)、「得られたXRDパターンにおいて、Voigt関数(フォークト関数)でフィッティングを行い、2θ=…26°…の位置に…存在するピーク(…ピーク1…)の…面積を算出する。」(段落【0035】参照。)と記載されており(「…」は記載の省略を表す。)、「炭素の(002)面に由来する2θ=26°に存在する鋭いピークに基づいてフォークト関数でフィッティングを行うことによって算出されるピーク1の面積をB」とすることが記載されている。
したがって、訂正事項3は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 上記アのとおり、訂正事項3による訂正は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
(4)一群の請求項について
本件訂正によって、本件訂正前の請求項1を引用する請求項2~10が連動して訂正されるから、本件訂正前の請求項1~10は一群の請求項であるところ、本件訂正請求は、上記一群の請求項についてされたものであるから、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。
そして、本件訂正は、請求項間の引用関係の解消を目的とするものではなく、特定の請求項に係る訂正事項について別の訂正単位とする求めもないから、本件訂正請求は、訂正後の請求項〔1~10〕を訂正単位として訂正の請求をするものである。
(5)独立して特許を受けることができるかについて
本件特許異議の申立ては、全請求項(請求項1~10)を対象に申し立てられたものであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定は適用されず、特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならないとの要件は課されない。
(6)小括
以上のとおりであるから、令和 2年10月23日に特許権者によって請求された本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項及び同条第9項において準用する同法第126条第5項、第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1~10〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2で検討したとおり、本件訂正は適法になされたものであるから、請求項1~10に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明10」といい、これらをまとめて「本件発明」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~10に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。なお、下線は訂正された箇所を表す。
「【請求項1】 炭素を主成分とする燃料電池用炭素粉末であって、
前記燃料電池用炭素粉末を不活性雰囲気中で1800℃で1時間熱処理した後の、XRD分析によって観測されるXRDパターンにおいて、2θ=23.92°で設定されるピークに基づいてフォークト関数でフィッティングを行うことによって算出されるピーク0の面積をA、XRD分析によって観測されるXRDパターンにおいて炭素の(002)面に由来する2θ=26°に存在する鋭いピークに基づいてフォークト関数でフィッティングを行うことによって算出されるピーク1の面積をBとした場合、ピーク0の面積Aに対するピーク1の面積Bの比(B/A)が0を超えて0.15以下である、燃料電池用炭素粉末。
【請求項2】
メソ孔を有し、該メソ孔の空孔容積は0.9cm3/g担体以上である、請求項1に記載の炭素粉末。
【請求項3】
前記ピーク0の面積Aに対するピーク1の面積Bの比(B/A)が、0を超えて0.06未満である、請求項1または2に記載の炭素粉末。
【請求項4】
重量あたりのBET比表面積が900m2/g未満である、請求項1~3のいずれか1項に記載の炭素粉末。
【請求項5】
ラマン分光法によって1580cm-1付近で計測されるGバンドのピーク強度(G強度)に対する、1620cm-1付近で計測されるD’バンドのピーク強度(D’強度)の比R’(D’/G強度比)が0.30以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の炭素粉末。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の燃料電池用炭素粉末に触媒金属が担持されてなる燃料電池用触媒。
【請求項7】
前記触媒金属は、白金であるまたは白金と白金以外の金属成分を含む、請求項6に記載の燃料電池用触媒。
【請求項8】
請求項6または7に記載の燃料電池用触媒および電解質を含む、燃料電池用電極触媒層。
【請求項9】
請求項8に記載の燃料電池用電極触媒層を含む、燃料電池用膜電極接合体。
【請求項10】
請求項9に記載の燃料電池用膜電極接合体を含む燃料電池。」
第4 申立理由の概要
1 申立人は、証拠方法として、いずれも本願の優先日前に、日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、下記甲第1~6号証を提出して、以下の申立理由1~7により、請求項1~10に係る本件特許を取り消すべきものである旨主張している。
(1)申立理由1(新規性)
本件訂正前の請求項1、3~10に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、取り消されるべきものである。(取消理由として不採用)
(2)申立理由2(新規性)
本件訂正前の請求項1~10に係る発明は、甲第5号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、取り消されるべきものである。(取消理由として不採用)
(3)申立理由3(新規性)
本件訂正前の請求項1~3、6~10に係る発明は、甲第6号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、取り消されるべきものである。(取消理由として不採用)
(4)申立理由4(進歩性)
本件訂正前の請求項1、3~10に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基いて、または、甲第1号証に記載された発明と甲第3号証に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、取り消されるべきものである。(取消理由として不採用)
(5)申立理由5(進歩性)
本件訂正前の請求項1~10に係る発明は、甲第5号証に記載された発明に基いて、または、甲第5号証に記載された発明と甲第3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、取り消されるべきものである。(取消理由として不採用)
(6)申立理由6(進歩性)
本件訂正前の請求項1~3、6~10に係る発明は、甲第6号証に記載された発明に基いて、または、甲第6号証に記載された発明と甲第3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、取り消されるべきものである。(取消理由として不採用)
(7)申立理由7(明確性)
本件訂正前の請求項1に記載された「ピーク0の面積Aに対するピーク1の面積Bの比(B/A)」は、(a)周知文献1(特許異議申立書第17頁4行に「甲第5号証」と誤記された文献)に記載された技術常識に基づいて検討したとしても、(b)「不活性雰囲気中で1800℃で1時間熱処理」によって2θ=26°にピークが固定されると仮定して検討しても、また、(c)XRDパターンのフィッティングの点から検討しても、一義的に定めることができるものではなく、本件の特許請求の範囲の記載には不備があるから、本件発明1~10に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。(取消理由として一部採用)
2 証拠方法
甲第1号証:Xiqing Wang外2名,“Facile Synthesis of Ordered Mesoporous Carbons with High Thermal Stability by Self-Assembly of Resorcinol-Formaldehyde and Block Copolymers under Highly Acidic Conditions”,Langmuir,2008,Vol.24,No.14,p7500-7505
甲第2号証:虎谷秀穂,“6.プロファイル関数とパターン分解法”,日本結晶学会誌,34.2,1992,p86-99
甲第3号証:深沢大志 外2名,“燃料電池向け触媒層の省白金化技術”,東芝レビュー,Vol.68,No.4,2013,p54-57
甲第4号証:田部豊 外3人,“固体高分子形燃料電池の氷点下起動に及ぼす温度影響と電池内凍結機構”,日本機械学会論文集(B編),77巻773号,2011-1,p160-167
甲第5号証:Tomoya Nakazono外1名,“Nanostructure Design on Porous Carbon Powders under Chemical Process and Their Physical Properties”,Kona Powder and Particle Journal,No33,2016,p333-339,2016年2月28日
甲第6号証:折笠広典 外1名,“MgO鋳型メソポーラス炭素のナノ構造とその熱処理に伴う変化”,炭素,No.254,2012,p153-159
なお、申立人が提出した、上記甲第1号証~甲第6号証をそれぞれ「甲1」~「甲6」ということがある。
第5 取消理由の概要
令和 2年 7月22日付けで通知した取消理由は、上記申立理由7に基いてされたものであり、本件請求項1~10の記載は、次の(1)~(3)の点について、特許を受けようとする発明が明確であるとはいえないから、同請求項に係る発明に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであり、取り消されるべきものであるというものである。
(1)本件訂正前の請求項1に記載された「不活性雰囲気中で1800℃で1時間熱処理した際」における「熱処理」とは、「燃料電池用炭素粉末」の製造工程の一部として行われる熱処理を意味しているのか、当該製造工程の終了後において「XRD分析」を行うための準備工程、つまり、XRD分析を行うための測定条件を意味しているのか不明である。
また、本件訂正前の請求項1を引用する請求項2~10に係る発明についても同様である。
(2)本件訂正前の請求項1に記載された「XRD分析によって観測される2θ=26°の位置に存在するピーク1」は明確に特定されるものか不明であり、また、「ピーク1の面積」「B」が明確に特定されるものであるかが不明であり、その結果、「比(B/A)が0を超えて0.15以下である」かも不明であるから、本件訂正前の請求項1に係る発明は、明確であるとはいえない。
また、本件訂正前の請求項1を引用する請求項2~10に係る発明についても同様である
(3)二つのピーク(ピーク0とピーク1)が明確に特定できないXRDパターンに対して、フォークト関数によってフィッティングすると、同一のXRDパターンに対して、ピーク0とピーク1の位置の設定によっては、全く異なるピーク面積A、ピーク面積Bが求まり、その結果、面積比B/Aが異なる値となることを踏まえると、本件訂正前の請求項1に記載された「比(B/A)が0を超えて0.15以下である」か否かを一義的に判断することができないので、本件訂正前の請求項1に係る発明は明確であるとはいえない。
また、本件訂正前の請求項1を引用する請求項2~10に係る発明についても同様である。
第6 当審の判断
1 取消理由について
(1)「不活性雰囲気中で1800℃で1時間熱処理した際」における「熱処理」について
ア 本件訂正前の請求項1に記載された「不活性雰囲気中で1800℃で1時間熱処理した際」における「熱処理」とは、「燃料電池用炭素粉末」の製造工程の一部として行われる熱処理を意味しているのか、当該製造工程の終了後において「XRD分析」を行うための準備工程、つまり、XRD分析を行うための測定条件を意味しているのか不明であった。
イ しかしながら、本件訂正によって、請求項1の「不活性雰囲気中で1800℃で1時間熱処理した際の」との記載が「前記燃料電池用炭素粉末を不活性雰囲気中で1800℃で1時間熱処理した後の」と訂正されたことにより、上記「熱処理」が「燃料電池用炭素粉末」に対して行われるものであり、したがって、「燃料電池用炭素粉末」の製造工程終了後において「XRD分析」を行うための準備工程において行われるものであることが明確になった。
ウ したがって、上記アの点について、明確性に係る取消理由は解消した。
(2)「XRD分析によって観測される2θ=26°の位置に存在するピーク1」について
ア 本件訂正前の請求項1に記載された「2θ=26°の位置に存在するピーク1」は、本件明細書の【0032】によれば、炭素の(002)面に由来する鋭いピークを意味するものであるところ、技術常識によれば、炭素の(002)面に由来する鋭いピークの位置は熱処理温度によって変化するため、必ずしも「2θ=26°の位置に存在」するとは限らないので、「2θ=26°の位置に存在するピーク1」を必ずしも特定することができず、そのため、「ピーク1」が「2θ=26°の位置に存在」しない場合に「ピーク1」の「面積」「B」がどのように定義されるか明瞭ではなかった。
イ しかしながら、本件訂正によって、請求項1の「XRD分析によって観測される2θ=26°の位置に存在するピーク1の面積をBとした場合」との記載が「XRD分析によって観測されるXRDパターンにおいて炭素の(002)面に由来する2θ=26°に存在する鋭いピークに基づいてフォークト関数でフィッティングを行うことによって算出されるピーク1の面積をBとした場合」と訂正されたことにより、「ピーク1」とは、「炭素の(002)面に由来する」「鋭いピーク」のことであり、また、ピーク位置が熱処理温度によって変化するとの技術常識を踏まえると、「2θ=26°に存在する」とは「2θ=26°」もしくはその近傍に存在することを意味することは明らかであるから、「ピーク1」を特定することができ、また、当該特定された「ピーク1」に基いてその「面積」「B」を求めることも明確になった。
ウ したがって、上記アの点について、明確性に係る取消理由は解消した。
(3)二つのピーク(ピーク0とピーク1)が明確に特定できないXRDパターンに対するフォークト関数を用いた面積の算出について
ア 本件訂正前の請求項1には、「ピーク0の面積Aに対するピーク1の面積Bの比(B/A)が0を超えて0.15以下である」ことが特定されているが、ピーク0とピーク1の位置が明確に特定できないXRDパターンに対して、フォークト関数によってフィッティングすると、同一のXRDパターンに対して、ピーク0とピーク1の位置の設定によっては、全く異なるピーク0の面積A、ピーク1の面積Bが求まり、その結果、面積の比(B/A)が異なる値となり、「比(B/A)が0を超えて0.15以下である」か否かを一義的に判断することができないので、本件訂正前の請求項1に係る発明は明確であるとはいえなかった。
イ しかしながら、本件訂正によって、「ピーク0の面積」「A」は「XRDパターンにおいて、2θ=23.92°で設定されるピークに基づいてフォークト関数でフィッティングを行うことによって算出される」こと、及び、「ピーク1の面積」「B」は「XRDパターンにおいて炭素の(002)面に由来する2θ=26°に存在する鋭いピークに基づいてフォークト関数でフィッティングを行うことによって算出される」ことが明らかになったので、ピーク0の面積Aとピーク1の面積Bを一義的に求めることができるようになり、その結果、「比(B/A)が0を超えて0.15以下である」か否かを一義的に判断することができるようになった。
ウ したがって、上記アの点について、明確性に係る取消理由は解消した。
(4)以上の検討のとおり、取消理由通知で通知された取消理由は全て解消した。
2 取消理由として採用しなかった申立理由について
(1)甲1を主引例とする新規性・進歩性(申立理由1、4)について
ア 本願の優先日前に外国において頒布され、特許異議申立書に添付された甲第1号証には、「Facile Synthesis of Ordered Mesoporous Carbons with High Thermal Stability by Self-Assembly of Resorcinol-Formaldehyde and Block Copolymers under Highly Acidic Conditions(当審訳:高い酸性環境下における、レゾルシノール-ホルムアルデヒドとブロックコポリマーの自己アセンブリによる、高い温度安定性を伴う、秩序あるメソポーラス炭素の簡単な合成)」(論文の名称)に関して、以下の記載がある(なお、「…」は記載の省略を表す。以下同様。)。
1ア「
」(7500頁左欄下から2行~右欄1行)
(当審訳:我々と他のいくつかのグループは、最近、上述の合成方法を拡張して、市販のプルロニックブロックコポリマー(F127、P123及びF108のような)をテンプレートとして使うようになった。)
1イ「
」(7501頁右欄の「2.Experimental Section」より抜粋。)
(当審訳:典型的な合成方法として、1.1gのレゾルシノールと1.1gのF127を4.5mLのEtOH及び4.5mLのHCl水溶液(3.0M)に溶解した。この溶液に1.3gのホルムアルデヒド(37%)を追加した。室温で約11分間攪拌した後、透明な混合物は濁り、RF-F127ナノコンポジットの形成と相分離が示唆された。混合物を40分間攪拌した後、9500rpmで4分間遠心分離することにより、ポリマーリッチのゲル相が得られた。そのゲルを大きなペトリ皿に載せ、室温で一晩乾燥させ、その後80℃と120℃でそれぞれ24時間硬化させた。…炭化は、N2雰囲気下、昇温速度1℃/分で400℃にて2時間行い、その後、昇温速度5℃/分で850℃にて3時間の熱処理を行った。得られた炭素材料をC-ORNL-1と呼ぶ。N2吸着分析は、Micrometritics Germini分析器で-196℃(77K)で実施した。測定前には、サンプルを真空オーブンにて120℃で一晩脱気した。比表面積は、BET法により、0.06-0.30の相対範囲(P/P0)の窒素吸着データから計算した。全細孔容積は、P/P0=0.95でのN2の取り込み量から決定した。細孔径分布(PSD)プロットは、BJHモデルに基づく等温線の吸着ブランチから導き出した。…C-ORNL-1の熱処理は、高温炉(…)内で、ヘリウム雰囲気下、20℃/分の昇温速度において所定の温度で1時間実施した。)
1ウ「
」(7501頁右欄の「3.Results and Discussion」より抜粋。)
(当審訳:図1は、N2雰囲気下でのF127-フェノール樹脂ナノコンポジットのTGA-MSプロファイルを示している。ブロックコポリマ-テンプレート(F127)は、250℃から徐々に分解され、水、CO2、及びHClが同時に発生した。図1からわかるように、テンプレートの分解は400℃で完了し、メソポーラスポリマーが生じた。対応するメソポーラスポリマーの炭化は、H2ガスの発生を伴う高温で行われ、最終的に850℃でメソポーラスカーボン(C-ORNL-1)が生成された。)
1エ「
」(7502頁左欄)
(当審訳:図4 C-ORNL-1-xの、狭角(A)と広角(B)のXRD曲線…)
1オ「
」(7502頁右欄16~20行)
(当審訳:C-ORNL-1の興味深い特徴の一つは、その極端に高い熱的安定性である。図4のパートAとBは、1800から2600℃の範囲の異なる温度において熱処理した後の、C-ORNL-1-x(ここでxは温度を表す)の狭角及び広角の両方のXRD曲線を示している。)
イ 上記1ア、1イには、レゾルシノールとF127(プルロニックブロックコポリマー。テンプレートとして利用。)を溶媒に溶解、攪拌し、得られた混合物を遠心分離して得られたポリマーリッチのゲル層を乾燥、硬化させて、RF-F127ナノコンポジットを相分離させ、さらに、N2雰囲気下400℃にて2時間熱処理し、昇温後850℃で3時間の熱処理を行うことによって、炭素材料C-ORNL-1を作製したことが記載されている。
なお、上記1ウの記載を参照すると、上記N2雰囲気下400℃で2時間の熱処理を行うことにより、テンプレートであるRF-F127ナノコンポジットは分解除去されて、レゾルシノールはメソポーラスポリマーとなり、その後、上記850℃3時間の熱処理を行うことにより上記メソポーラスポリマーは炭化されるものであることが理解される。
ウ 上記1オによれば、上記イで得られた炭素材料C-ORNL-1に対して、1800から2600℃の範囲の異なる温度において熱処理したものについて、XRD測定した結果が図4のBに示されている。そして、図4Bにおいて、1800℃と記載されたXRDパターンは、2θ=20°~30°の範囲にピークがあることが看取できる。
エ したがって、甲1には、1800℃で熱処理すると図4のBのXRDパターンが観測される炭素材料C-ORNL-1に注目すると、次の炭素材料が記載されているものと認められる(以下、「甲1発明」という。)。
「上記イの製造方法で得られた炭素材料(C-ORNL-1)であって、1800℃で熱処理することにより、図4Bの1800℃のXRDパターンで示されるように、2θ=20°~30°の範囲にピークがある炭素材料。」
オ 次に、本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明は2θ=20°~30°の範囲にピークを有するものであるが、当該ピークには、「炭素の(002)面に由来する2θ=26°に存在する鋭いピーク」である「ピーク1」が含まれていることを確認できない。そのため、甲1発明は、本件訂正によって明らかとなったピーク0の面積Aとピーク1の面積Bの定義に基づいて、面積の比「B/A」を特定することができるものであるとはいえない。
つまり、甲1発明は、「前記燃料電池用炭素粉末を不活性雰囲気中で1800℃で1時間熱処理した後の、XRD分析によって観測されるXRDパターンにおいて、2θ=23.92°で設定されるピークに基づいてフォークト関数でフィッティングを行うことによって算出されるピーク0の面積をA、XRD分析によって観測されるXRDパターンにおいて炭素の(002)面に由来する2θ=26°に存在する鋭いピークに基づいてフォークト関数でフィッティングを行うことによって算出されるピーク1の面積をBとした場合、ピーク0の面積Aに対するピーク1の面積Bの比(B/A)が0を超えて0.15以下である」か不明である点で、本件発明1と相違しており、しかもこの点が実質的な相違点であることは明らかである。
したがって、本件発明1は甲1に記載された発明であるとはいえない。
カ また、甲1発明において、甲2~甲6の記載を参照しても、上記オの相違点に係る本件発明1の特定事項とすることが当業者にとって容易になし得ることであるといえる理由を見いだすことができない。
そして、本件発明1は「ピーク0の面積Aに対するピーク1の面積Bの比(B/A)が0を超えて0.15以下」であることによって、本件発明1の炭素粉末に触媒金属を坦持してなる触媒は、触媒金属の比表面積が増加するので、このような触媒は高い活性(質量比活性)を発揮するという、優れた効果を奏しているといえる(本件明細書の【表1】及び段落【0160】参照。)。
したがって、本件発明1は、甲1に記載された発明、又は甲1に記載された発明及び甲2~甲6の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
本件発明1を引用することによって本件発明1の特定事項を備える本件発明2~10についても、本件発明1と同様の理由によって、甲1記載の発明であるとはいえず、甲1に記載された発明、又は甲1に記載された発明及び甲2~甲6の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
キ なお、申立人は、特許異議申立書の第5頁下から2行~10頁下から8行において、甲1の図4B(上記ア3のB図)のうち、メソポーラスカーボン(C-ORNL-1)に対して1800℃で熱処理した場合のXRD曲線のデータに対して、ピーク0とピーク1のピーク角度を24.40と26.00と設定したうえで、下記[図i]に示すように、フォークト関数によるフィッティングを行うことによって、ピーク0とピーク1の面積A、Bをそれぞれ713.93、77.16と算出し、面積比B/A=0.108であることを示すことにより、上記オの相違点に係る本件発明1の特定事項は甲1に記載されているものであるとの主張をしているので、この主張について検討する。
「
」(特許異議申立書第8頁)
ク 申立人の上記キの主張を検討するに、まず、申立人による上記キの算出過程の詳細が不明であり、当該算出過程を検証して、面積比B/A=0.108との算出結果が適切であることを確認できない。
具体的には、甲1の図4Bの1800℃におけるXRD曲線から、どのようにしてフォークト関数を用いたフィッティング計算に必要なデータ(上記[図i]において「XRD元データ」と記載されているXRD曲線の数値データ)を取得したのか不明であるから、甲1の図4BのXRD曲線のデータと、上記フィッティング計算に用いたデータとの同一性が確認できない。
また、上記取得されたデータを用いたフィッティングのための計算方法についての具体的な説明もないので、算出されたピーク0の面積Aとピーク1の面積Bが適切に計算されたものであるかについて確認ができない。
ケ また、仮に、上記クで指摘した、数値データの取得方法が説明され、具体的なフィッティングの計算方法自体が適切なものであると確認でき、当該フィッティング計算においてピーク1のピーク角度を26.00°と設定して算出された「面積比B/A」の値「0.108」が「0を超えて0.15以下」の条件を満たしていたとしても、甲1の図4Bの1800℃におけるXRD曲線には、そもそも「炭素の(002)面に由来する2θ=26°に存在する鋭いピーク」である「ピーク1」の存在が確認できないため、本件発明1の「燃料電池用炭素粉末」に該当するものであるとはいえないし、「ピーク1」の存在が確認できないから、当該XRD曲線に基づいて面積の比「B/A」を算出することもできない。
よって、上記キの主張は採用できない。
コ 以上より、本件発明1~10は、甲1に記載された発明であるとはいえず、甲1に記載された発明とその他の甲号証の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
(2)甲5を主引例とする新規性・進歩性(申立理由2、5)について
ア 本願の優先日前に外国において頒布され、特許異議申立書に添付された甲第5号証には、「Nanostructure Design on Porous Carbon Powders under Chemical Process and Their Physical Properties(当審訳:化学プロセスによる多孔質炭素粉末のナノ構造設計とそれらの物理的性質)」(論文の名称)に関して、以下の記載がある。
5ア「
」(333頁左欄2~4行)
(当審訳:様々な種類の多孔質炭素物質が生産されており、これらは、吸収剤、エネルギー貯蔵電極、及び触媒担体等として使用することができる。)
5イ「
」(334頁左欄3~18行)
(当審訳:…この研究では、平均結晶子サイズが11nmのMgO粉末を使用した。炭素前駆体は、ポリ(ビニルアルコール)(PVA)、カプトンタイプのポリイミド(イミド)、及びフェノール樹脂分散液(フェノール)である。MgO粉末/炭素前駆体を重量で4/6混合した。フェノール又はイミドの混合物を不活性雰囲気で硬化させ、次に粉末に粉砕した。このようにして調製した混合物を、N2の流れの中で900℃で1時間加熱した。加熱速度は5℃/分である。炭化後、混合物を希硫酸(3.5mol/L)で攪拌し、MgOを溶解させた。そのスラリーについて、濾過液のpHが5~7になるまで吸引濾過と水洗を繰り返した。最後に空気気流下で150℃で96時間乾燥させ、炭素を粉末として回収した。…)
5ウ「
」(334頁左欄19行~最下行)
(当審訳:2.2高度に結晶化したメソポーラスな炭素
調製された炭素粉末を黒鉛化のためにAr雰囲気中で1800、2200、2500℃で1時間熱処理した。
得られた炭素はXRD、TEM、熱重量分析、及びN2吸着分析により評価した。BET比表面積は、77Kで測定されたN2ガスの吸着等温線から決定した。細孔径分布は、BJH法とHK法により評価した。酸化消耗温度は、900℃までの空気中での熱重量測定によって評価した。)
5エ「
」(336頁左欄)
(当審訳:表2 それぞれの炭素前駆体におけるBET比表面積と空孔体積と熱処理温度)
5オ「
」(336頁右欄)
(当審訳:図7 PVAから生産された炭素の(002)ピーク形状)
5カ「
」(337頁右欄)
(当審訳:図8 (a)2200℃と(b)2500℃で熱処理した炭素の(002)ピーク形状)
イ 上記5イ、5ウによれば、甲5には、炭素前駆体として、ポリビニルアルコール(PVA)、カプトンタイプのポリイミド(Imide)、及びフェノール樹脂分散液(Phenol)のいずれかを使用して、黒鉛化したメソポーラスな炭素を製造する方法が記載されている。ここで、本件明細書の実施例1、2では、炭素粉末を製造するためにフェノール樹脂の分散液が使用されており、上記実施例1、2の製造方法に似ているものに注目するとの観点から、上記5イ、5ウに記載された上記製造方法のうちフェノール樹脂分散液を用いて製造する方法、及び当該方法によって製造された黒鉛化したメソポーラスな炭素に注目する。
ウ 上記5イ、5ウには、黒鉛化したメソポーラスな炭素を製造するための次の工程からなる製造方法が記載されている。
(a)炭素前駆体のフェノール樹脂分散液とMgOを重量比で4/6で混合し、硬化させ、粉末に粉砕し、N2雰囲気中900℃で1時間加熱して炭化し、
(b)希硫酸でMgOを溶解除去し、水洗し、乾燥して、炭素粉末を回収し、
(c)調製された炭素粉末をAr雰囲気中1800℃、2200℃、又は2500℃で1時間熱処理して黒鉛化する方法。
エ そして、上記5エの表2には、上記ウの方法によって製造された黒鉛化したメソポーラスな炭素について、BET比表面積と、細孔容積の測定値が記載されており、炭素前駆体がフェノール樹脂分散液(Phenol)で、1800℃で1時間熱処理したものについては、BET比表面積が870m2/gであり、メソ細孔容積が1.67ml/gであることが記載されている。
オ また、上記5カの図8に、炭素前駆体がフェノール樹脂分散液(Phenol)であり2200℃又は2500℃で熱処理した場合のXRDパターンが記載されており、上記5オの図7に、炭素前駆体がポリビリルアルコール(PVA)であり1800℃で熱処理した場合のXRDパターンが記載されているが、炭素前駆体がフェノール樹脂分散液であり1800℃で熱処理した場合のXRDパターンについては記載がないため、1800℃で熱処理した場合に2θ=26°近傍のピークが存在するか不明である。
カ したがって、甲5には、次のメソポーラス炭素が記載されているものと認められる(以下、「甲5発明」という。)。
「炭素前駆体としてフェノール樹脂分散液を用い、上記ウの製造方法で得られたメソポーラス炭素であって、さらに1800℃1時間の熱処理により黒鉛化したメソポーラス炭素。」
キ 次に、本件発明1と甲5発明とを対比する。
甲5には、上記オで検討したように、甲5発明のXRDパターンが記載されていないため、甲5発明が、本件発明1の「ピーク0」及び「ピーク1」を備えているか不明であり、そのため、「ピーク0の面積A」及び「ピーク1の面積B」を算出することができず、また、「面積の比(B/A)」も算出することができない。
つまり、甲5発明は、「前記燃料電池用炭素粉末を不活性雰囲気中で1800℃で1時間熱処理した後の、XRD分析によって観測されるXRDパターンにおいて、2θ=23.92°で設定されるピークに基づいてフォークト関数でフィッティングを行うことによって算出されるピーク0の面積をA、XRD分析によって観測されるXRDパターンにおいて炭素の(002)面に由来する2θ=26°に存在する鋭いピークに基づいてフォークト関数でフィッティングを行うことによって算出されるピーク1の面積をBとした場合、ピーク0の面積Aに対するピーク1の面積Bの比(B/A)が0を超えて0.15以下である」か不明である点で、本件発明1と相違している。
ク そこで、上記キの相違点について検討する。
上記5オの図7及び上記5カの図8において、炭素前駆体がポリビリルアルコール(PVA)であるケースに注目すると、1800~2000℃では2θ=26°近傍にはピークが存在せず(図7)、2200℃以上でピークが存在する(図7、図8)ことが看取できる。
そして、図7、図8によれば、炭素前駆体の種類によらず、熱処理温度が低くなるほど、ピークが小さくなる傾向があることが理解できるので、炭素前駆体がフェノール樹脂分散液(Phenol)で1800℃で熱処理した場合も、図7の炭素前駆体がポリビニルアルコール(PVA)で熱処理温度が1800℃であるXRDパターンと同様のXRDパターンとなる蓋然性が高いといえる。
したがって、甲5発明は、そのXRDパターンが記載されておらず不明であるし、仮に記載されていたとしても、「ピーク0」及び「ピーク1」を備えていないものと推定されるから、いずれにしても、甲5発明は、そのXRDパターンに基づいてフォークト関数を用いたフィッティングによって「ピーク0の面積A」及び「ピーク1の面積B」を算出することができないものであり、そのため、「面積の比(B/A)」も算出することができないものであるといえるから、上記キの相違点は実質的な相違点であり、よって、本件発明1は甲5に記載された発明とはいえない。
ケ また、甲5発明において、甲1~甲4、甲6の記載を参照しても、上記キの相違点に係る本件発明1の特定事項を備えるものとすることが容易であるということもできない。
そして、本件発明1は「ピーク0の面積Aに対するピーク1の面積Bの比(B/A)が0を超えて0.15以下」であることによって、本件発明1の炭素粉末に触媒金属を坦持してなる触媒は、触媒金属の比表面積が増加するので、このような触媒は高い活性(質量比活性)を発揮するという、優れた効果を奏しているといえる(本件明細書の【表1】及び段落【0160】参照。)。
したがって、本件発明1は、甲5に記載された発明、又は甲5に記載された発明及び甲1~甲4、甲6の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
本件発明1を引用することによって本件発明1の特定事項を備える本件発明2~10についても、本件発明1と同様の理由によって、甲5に記載された発明であるとはいえず、甲5に記載された発明、又は甲5に記載された発明及び甲1~甲4、甲6の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
コ なお、上記キの相違点について、申立人は特許異議申立書の第12頁18行~第13頁11行において次の主張をしている。すなわち、甲5において、炭素前駆体としてのフェノール樹脂とMgOを重量比6/4で混合し、炭化処理と1800℃での熱処理をしたという条件は、本件明細書に記載された実施例における条件と同じであるから、当該実施例と同程度の面積比B/Aを有する蓋然性が高いとの主張である。
サ しかしながら、本件明細書に記載された実施例1、2の製法と、上記ウの甲5発明の製法を対比すると、両者は次の相違点を有する。
・本件の実施例1、2は、フェノール樹脂とMgOを重量比3/7(=0.42)で混合しているのに対して、甲5では、重量比6/4(=1.50)で混合しており、フェノール樹脂とMgOの重量比が両者で同一とはいえない。
・本件の実施例1、2と甲5では、使用しているフェノール樹脂の組成や分子量が同じであるか不明である。
・本件明細書には、1800℃1時間の熱処理後に行うディスクミル粉砕の有無のみ相違しそれ以外の製法が同じである本件実施例1と比較例1において、「面積比B/A」がそれぞれ0.056と0.171で大きく異なることから、ディスクミル粉砕工程の有無によって「面積比B/A」が大きく変化する事実があることを踏まえると、1800℃1時間の熱処理後に行うディスクミル粉砕を行う本件実施例1と、1800℃1時間の熱処理後に粉砕工程を行うことが記載されていない上記ウの甲5発明の製法とを対比すると、両者の「面積比B/A」が同じになっているとはいえない。
したがって、上記ウの甲5発明の製法は、本件実施例1の製法と同じあるとはいえず、「面積比B/A」が異なる蓋然性が高いから、申立人の上記コの主張は採用できない。
シ 以上より、本件発明1~10は、甲5に記載された発明であるとはいえず、甲5に記載された発明とその他の甲号証の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
(3)甲6を主引例とする新規性・進歩性(申立理由3、6)について
ア 本願の優先日前に日本国内において頒布され、特許異議申立書に添付された甲第6号証には、「MgO鋳型メソポーラス炭素のナノ構造とその熱処理に伴う変化」(論文の名称)に関して、以下の記載がある。
6ア「
」(153頁右欄)
6イ「
」(154頁右欄)
(当審訳:図1 様々な温度(…)で熱処理された、MgOをテンプレートとする炭素のX線回折パターン
図2 様々な温度(…)で熱処理された、MgOをテンプレートとする炭素の(002)回折パターン)
6ウ「
」(157頁左欄))
(当審訳:図6 MgOをテンプレートとする炭素に対する熱処理温度へのBET比表面積と空孔体積の依存性)
イ 上記6アには、クエン酸マグネシウムを窒素流下、900℃で熱処理し、これを硫酸で洗浄して鋳型である酸化マグネシウムを除去し、水で洗浄し、乾燥して得られたMgO鋳型炭素を、Ar雰囲気中1800~2800℃で1時間熱処理することによって炭素試料を作製したことが記載されている。
ウ また、上記6イの図2には、900~2800℃で熱処理した上記炭素試料のX線回折パターンが示されているところ、1800℃で熱処理した場合のX線回折パターンは、ほぼ平坦な形状であり、2θ=26°近傍で鋭いピークの存在が認められない。
エ したがって、甲6には、上記イの方法で製造され、1800℃で1時間熱処理した、次の炭素試料が記載されているものと認められる(以下、「甲6発明」という。)。
「上記イの製造方法で得られた炭素試料であって、1800℃で1時間熱処理すると、図2の1800°のXRDパターンで示されるように、2θ=26°の近傍に鋭いピークが観測されない炭素試料。」
オ 次に、本件発明1と甲6発明とを対比する。
甲6発明は、1800℃で1時間熱処理した際のXRDパターンには、上述のとおり、2θ=26°近傍で鋭いピークの存在が認められないため、甲6発明は、本件発明1で特定されているところの、「ピーク1」を備えるものではなく、そのため、フォークト関数を用いたフィッティングを行うことによって「ピーク1の面積B」を算出することができず、そのため、「面積の比(B/A)」を算出することができないものである。
つまり、甲6発明は、「前記燃料電池用炭素粉末を不活性雰囲気中で1800℃で1時間熱処理した後の、XRD分析によって観測されるXRDパターンにおいて、2θ=23.92°で設定されるピークに基づいてフォークト関数でフィッティングを行うことによって算出されるピーク0の面積をA、XRD分析によって観測されるXRDパターンにおいて炭素の(002)面に由来する2θ=26°に存在する鋭いピークに基づいてフォークト関数でフィッティングを行うことによって算出されるピーク1の面積をBとした場合、ピーク0の面積Aに対するピーク1の面積Bの比(B/A)が0を超えて0.15以下である」との要件を満たさない点で、本件発明1と相違しており、この相違点は実質的なものである。
したがって、本件発明1は甲6に記載された発明とはいえない。
カ また、甲6発明において、甲1~甲5の記載を参照しても、上記オの相違点に係る本件発明1の特定事項とすることが当業者にとって容易になし得ることであるといえる理由を発見することができない。
そして、本件発明1は「ピーク0の面積Aに対するピーク1の面積Bの比(B/A)が0を超えて0.15以下」であることによって、本件発明1の炭素粉末に触媒金属を坦持してなる触媒は、触媒金属の比表面積が増加するので、このような触媒は高い活性(質量比活性)を発揮するという、優れた効果を奏しているといえる(本件明細書の【表1】及び段落【0160】参照。)。
したがって、本件発明1は、甲6に記載された発明、又は甲6に記載された発明及び甲1~甲5の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
本件発明1を引用することによって本件発明1の特定事項を備える本件発明2~10についても、本件発明1と同様の理由によって、甲6に記載された発明とはいえず、甲6に記載された発明、又は甲6に記載された発明及び甲1~甲5の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
キ なお、申立人は特許異議申立書の第14頁2行~下から4行において、図1に示された1800℃で熱処理を行ったXRDパターンに対してフィッティングを行うことにより、ピーク0とピーク1の面積を求め、面積比B/Aを求めているが、そもそも上記XRDパターンには2θ=26°近傍の鋭いピークであるピーク1が存在しないので、「ピーク1の面積B」を算出することができず、「面積の比(B/A)」を算出することができないものであることは、上記オで検討したとおりである。
ク また、申立人は特許異議申立書の第14頁下から3行~第15頁14行において、図1に示された2200℃で熱処理を行ったXRDパターンに対してフィッティングを行うことにより、ピーク0とピーク1の面積を求め、「面積の比(B/A)」が0.204であると算出したうえで、熱処理温度を1800℃から2200℃の間の適当な温度、例えば2000℃で熱処理すれば、「ピーク0の面積Aに対するピーク1の面積Bの比(B/A)が0を超えて0.15以下」となる蓋然性が高いと主張している。
しかしながら、申立人は、甲6発明において、1800℃で熱処理をすることに代えて、1800℃~2200℃の間の熱処理温度であって、「ピーク0の面積Aに対するピーク1の面積Bの比(B/A)が0を超えて0.15以下」となるような熱処理温度で熱処理することに変更する動機付けについては、何ら説明していないため、そのように熱処理温度を変更することが当業者にとって容易になし得ることであるとはいえない。
ケ ここで、上記動機付けについてさらに検討を加える。
特許権者が令和2年10月23日に提出した意見書の第4頁中程には、「窒素雰囲気下で1800℃で1時間」熱処理する技術的意義について、「本件特許の燃料電池用炭素粉末は、本件明細書の段落【0015】に記載されているとおり、結晶性の低い材料に関するものである。一方、一般的な炭素材料に対して窒素雰囲気下で1800℃で1時間」熱処理を行うと、当該炭素材料の結晶性は高くなってしまい、B/A>0.15となる。換言すれば、本件特許の燃料電池用炭素粉末は、「窒素雰囲気下で1800℃で1時間」という、有意に高温で長時間の熱処理を行っても「B/A≦0.15」を維持する、つまり、低い結晶性を維持することができるということを示している。」旨の説明をしている。
つまり、本件発明の炭素粉末は、「窒素雰囲気下で1800℃で1時間」という、高温で長時間の熱処理を行っても低い結晶性を維持することのできる炭素粉末を提供するという技術思想に基づくものであるが、触媒担体として使用される炭素原料に対して低い結晶性を維持するような熱処理を行うという技術思想は、いずれの甲号証にも記載されておらず、上記クに記載した「ピーク0の面積Aに対するピーク1の面積Bの比(B/A)が0を超えて0.15以下」となるような熱処理温度で熱処理するように変更する動機付けを与えるような文献は見いだされていない。
したがって、甲6発明において、「面積比B/A」を「0を超えて0.15以下にする」ことが当業者にとって容易になし得ることであるということはできない。
コ 以上より、本件発明1~10は、甲6に記載された発明とはいえず、甲6に記載された発明とその他の甲号証の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
第7 まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は適法なものである。
そして、特許異議申立書に記載した申立理由、及び取消理由通知書に記載した取消理由によっては、本件訂正後の請求項1~10に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件訂正後の請求項1~10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2020-700323