特許異議申立
2022-700402
希土類元素骨格置換ゼオライト及びその製造方法、並びにこれらを用いたNOx吸着材、選択的還元触媒及び自動車排ガス触媒
- 審判番号
- 2022-700402
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-193621
- 登録番号
- 6964479
- 請求日
- 2022年05月09日
- 審決日
- 2023年09月05日
- 公報発行日
- 2023年12月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】エヌ・イーケムキャット株式会社
- 【権利者代理人】稲葉 良幸
- 【権利者代理人】内藤 和彦
- 【権利者代理人】岡野 聡二郎
- 【権利者代理人】竹内 工
- 【異議申立人】岩部 英臣
- 審判長/審判官
- 審判長 三崎 仁
- 審判官 宮澤 尚之
- 審判官 立木 林
- 分類
- P1651.113-YAA(C01B) / P1651.121-YAA(C01B) / P1651.162-YAA(C01B) / P1651.536-YAA(C01B) / P1651.537-YAA(C01B) / P1651.851-YAA(C01B) / P1651.857-YAA(C01B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第6項第1号、特許法第29条の2、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6964479号発明「希土類元素骨格置換ゼオライト及びその製造方法、並びにこれらを用いたNOx吸着材、選択的還元触媒及び自動車排ガス触媒」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6964479号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の〔1、2、5~8〕、〔3、4〕について訂正することを認める。
特許第6964479号の請求項2~8に係る特許を維持する。
特許第6964479号の請求項1に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6964479号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~8に係る特許についての出願は、平成29年10月3日に出願され、令和3年10月21日にその特許権の設定登録がされ、同年11月10日に特許掲載公報が発行された。
その後、その請求項1~8に係る特許に対して、令和4年5月9日に特許異議申立人岩部英臣(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、同年8月23日付けで取消理由が通知され、同年11月2日に特許権者により意見書の提出及び訂正の請求がされ、同年同月17日に訂正請求書に対する手続補正書が提出され、令和5年1月6日に申立人により意見書の提出がされ、同年3月28日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、同年5月23日に特許権者により意見書の提出及び訂正の請求がされたものである。
第2 訂正の適否について
1 訂正の内容
令和5年5月23日にされた訂正の請求(以下、「本件訂正請求」といい、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。)は、特許法第120条の5第4項の規定に従い、一群の請求項を構成する請求項〔1、2、5~8〕、〔3、4〕を訂正の単位として訂正することを求めるものであり、その内容(訂正事項)は、次のとおりである(訂正箇所に下線を付した。)。
なお、本件訂正請求により、令和4年11月2日にされた訂正の請求(以下、「先の訂正請求」という。)は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を削除する。
(2) 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に「1μm以上500μm以下の平均粒子径D50を有する請求項1に記載の希土類元素骨格置換ゼオライト。」と記載されているのを、
「1μm以上500μm以下の平均粒子径D50を有し、
ベータ型、及びCHA型よりなる群から選択される少なくとも1以上のゼオライトと、希土類元素Ce、La、Nd及びPrよりなる群から選択される少なくとも1種以上の希土類元素とを少なくとも含有し、
前記ベータ型、及び前記CHA型よりなる群から選択される少なくとも1以上の前記ゼオライトが、NH4型ゼオライト、及びH+型ゼオライトよりなる群から選択される少なくとも1種であり、
前記希土類元素の含有割合が総量に対して合計で1~15質量%であり且つ前記ベータ型、及び前記CHA型よりなる群から選択される少なくとも1以上の前記ゼオライトの骨格を形成するAl原子及び/又はSi原子の一部が前記希土類元素に置換されていることを特徴とする、
希土類元素骨格置換ゼオライト。」に訂正する(請求項2の記載を直接的又は間接的に引用する請求項5~8も同様に訂正する。)。
(3) 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に「希土類元素の可溶性塩」と記載されているのを、「希土類元素の可溶性無機酸塩(但し、酢酸塩を除く。)」に訂正し、同請求項3に「含浸後の前記ゼオライト」と記載されているのを、「前記水溶液が含浸した前記ゼオライト」に訂正する(請求項3の記載を引用する請求項4も同様に訂正する。)。
(4) 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項5に「請求項1又は2に記載の希土類元素骨格置換ゼオライト」と記載されているのを、「請求項2に記載の希土類元素骨格置換ゼオライト」に訂正する。
(5) 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項6に「請求項1又は2に記載の希土類元素骨格置換ゼオライト」と記載されているのを、「請求項2に記載の希土類元素骨格置換ゼオライト」に訂正する。
(6) 訂正事項6
特許請求の範囲の請求項7に「請求項1又は2に記載の希土類元素骨格置換ゼオライト」と記載されているのを、「請求項2に記載の希土類元素骨格置換ゼオライト」に訂正する。
(7) 訂正事項7
特許請求の範囲の請求項8に「請求項1又は2に記載の希土類元素骨格置換ゼオライト」と記載されているのを、「請求項2に記載の希土類元素骨格置換ゼオライト」に訂正する。
2 訂正要件(訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について)の判断
(1) 訂正事項1について
訂正事項1は、請求項1を削除するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、それぞれ「本件特許明細書」などといい、まとめて「本件特許明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2) 訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の請求項2における引用請求項との引用関係を解消して、独立形式請求項にするものであるから、「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものであり、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3) 訂正事項3について
訂正事項3は、本件特許明細書の段落【0048】、【0049】及び【実施例】(【0071】~【0107】)の記載に基づき、訂正前の請求項1に記載された「可溶性塩」を「可溶性無機酸塩(但し、酢酸塩を除く。)」に限定するとともに、「含浸後の前記ゼオライト」の状態が明確になるように「前記水溶液が含浸した前記ゼオライト」に限定するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(4) 訂正事項4~7について
訂正事項4~7は、訂正事項1による請求項1の削除に伴い、請求項5~8における選択的引用請求項の一部を削除するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
3 申立人の主張について
申立人は、本件特許明細書には、「可溶性無機酸塩」なる開示がないことを論拠として、「可溶性塩」を「可溶性無機酸塩」に訂正することは新規事項の追加である旨を主張している(令和5年1月6日提出の意見書の3.(1))。
しかしながら、本件特許明細書には、希土類元素骨格置換ゼオライトの製造方法に関して、当該製造方法に使用する「希土類元素」は、「無機酸塩」として供給できること(【0048】)、さらに、当該製造方法の1つとして、「ゼオライトに、Ce、La、Nd及びPrよりなる群から選択される少なくとも1種以上の希土類元素の可溶性塩の水溶液を含浸する工程」を含むこと(【0049】)が記載されているから、「可溶性塩」を「可溶性無機酸塩」に訂正することは、本件特許明細書等に記載した事項を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものでないことは明らかである。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。
4 訂正の適否についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、2、5~8〕、〔3、4〕について訂正することを認める。
第3 特許請求の範囲の記載(本件発明)
前記第2のとおり、本件訂正請求は適法にされたものであるから、本件特許の特許請求の範囲の記載は、次のとおりである。そして、請求項2~8に係る発明(以下、それぞれ「本件発明2」などといい、まとめて「本件発明」という。)は、その記載事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項2】
1μm以上500μm以下の平均粒子径D50を有し、
ベータ型、及びCHA型よりなる群から選択される少なくとも1以上のゼオライトと、希土類元素Ce、La、Nd及びPrよりなる群から選択される少なくとも1種以上の希土類元素とを少なくとも含有し、
前記ベータ型、及び前記CHA型よりなる群から選択される少なくとも1以上の前記ゼオライトが、NH4型ゼオライト、及びH+型ゼオライトよりなる群から選択される少なくとも1種であり、
前記希土類元素の含有割合が総量に対して合計で1~15質量%であり且つ前記ベータ型、及び前記CHA型よりなる群から選択される少なくとも1以上の前記ゼオライトの骨格を形成するAl原子及び/又はSi原子の一部が前記希土類元素に置換されていることを特徴とする、
希土類元素骨格置換ゼオライト。
【請求項3】
ベータ型、及びCHA型よりなる群から選択される少なくとも1以上のゼオライトであって、NH4型ゼオライト、及びH+型ゼオライトよりなる群から選択される少なくとも1種の前記ゼオライトに、Ce、La、Nd及びPrよりなる群から選択される少なくとも1種以上の希土類元素の可溶性無機酸塩(但し、酢酸塩を除く。)の水溶液を含浸する工程と、
前記水溶液が含浸した前記ゼオライトを400℃以上650℃以下の温度範囲で熱処理して、前記希土類元素の含有割合が総量に対して合計で1~15質量%であり且つ前記ベータ型、及び前記CHA型よりなる群から選択される少なくとも1以上の前記ゼオライトの骨格を形成するAl原子及び/又はSi原子の一部が前記希土類元素に置換されている希土類元素骨格置換ゼオライトを得る工程と、
を少なくとも有することを特徴とする、
希土類元素骨格置換ゼオライトの製造方法。
【請求項4】
前記希土類元素骨格置換ゼオライトは、1μm以上500μm以下の平均粒子径D50を有する
請求項3に記載の希土類元素骨格置換ゼオライトの製造方法。
【請求項5】
請求項2に記載の希土類元素骨格置換ゼオライトを少なくとも含有する、
NOx吸着材。
【請求項6】
請求項2に記載の希土類元素骨格置換ゼオライトを含む組成物を所定形状に成形してなる
NOx吸着部材。
【請求項7】
支持体と、前記支持体の少なくとも一方の面側に設けられたNOx吸着層とを少なくとも備え、
前記NOx吸着層が、請求項2に記載の希土類元素骨格置換ゼオライトを少なくとも含有することを特徴とする、
積層NOx吸着部材。
【請求項8】
支持体と、前記支持体の少なくとも一方の面側に設けられた触媒層とを少なくとも備え、
前記触媒層が、請求項2に記載の希土類元素骨格置換ゼオライトを少なくとも含有することを特徴とする、
排ガス用触媒。」
第4 特許異議の申立てについて
1 取消理由の概要
当審が特許権者に通知した、令和4年8月23日付けの取消理由、及び、令和5年3月28日付けの取消理由(決定の予告)は、まとめて示すと、概略、以下のとおりである。
ここで引用した引用文献は、次のとおりである。
引用文献1 特開平8-99033号公報(甲第1号証)
引用文献2 特表2004-536756号公報(甲第2号証)
引用文献3 特表2015-500138号公報(甲第3号証)
引用文献4 特開2017-101609号公報(甲第4号証)
引用文献5 特開平10-287599号公報(甲第6号証)
先願1 特願2016-226263号(特開2018-8372
7号公報(甲第5号証))
(1) 取消理由1(実施可能要件違反)
本件特許は、発明の詳細な説明の記載が後記4(1)アの点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(2) 取消理由2(明確性要件違反)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が後記4(2)ア(ア)の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(3) 取消理由3(サポート要件違反)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が後記4(3)ア(ア)の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(4) 取消理由4(引用文献1を主たる証拠とした新規性・進歩性欠如)
設定登録時の請求項1、8に係る発明は、引用文献1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、また、同請求項2~4、8に係る発明は、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許の請求項1~4、8に係る特許は、特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反してされたものである。
(5) 取消理由5(引用文献2を主たる証拠とした進歩性欠如)
設定登録時の請求項1~4、8に係る発明は、引用文献2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許の請求項1~4、8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(6) 取消理由6(引用文献3を主たる証拠とした進歩性欠如)
設定登録時の請求項1、3、8に係る発明は、引用文献3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許の請求項1、3、8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(7) 取消理由7(引用文献4を主たる証拠とした進歩性欠如)
設定登録時の請求項1~8に係る発明は、引用文献4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許の請求項1~8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(8) 取消理由8(拡大先願同一)
設定登録時及び先の訂正請求で訂正された請求項1、3に係る発明は、本件特許出願の日前の特許出願であって、本件特許出願後に出願公開された先願1の願書に最初に添付した明細書又は特許請求の範囲(以下、それぞれ「先願明細書」などといい、まとめて「先願明細書等」という。)に記載された発明と同一であり、しかも、本件特許出願の発明者が先願明細書等に記載された発明をした者と同一ではなく、また本件特許出願の時において、その出願人が先願1の出願人と同一でもないから、本件特許の請求項1、3に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものである。
2 取消理由において採用しなかった特許異議申立理由について
申立人が主張する特許異議申立理由のうち、標記特許異議申立理由は、概略、以下のとおりである。
なお、申立人が提出した各甲号証は、前記1に示した引用文献1~5及び先願1である。
(1) 申立理由1(引用文献1を主たる証拠とした新規性・進歩性欠如)
設定登録時の請求項3に係る発明は、引用文献1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、また、設定登録時の請求項1、5~7に係る発明は、引用文献1に記載された発明及び引用文献3又は4に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当該請求項に係る特許は、特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反してされたものである。
(2) 申立理由2(引用文献2を主たる証拠とした新規性・進歩性欠如)
設定登録時の請求項1、3、5~8に係る発明は、引用文献2に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、また、設定登録時の請求項5~7に係る発明は、引用文献2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当該請求項に係る特許は、特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反してされたものである。
(3) 申立理由3(引用文献3を主たる証拠とした進歩性欠如)
設定登録時の請求項2、4~7に係る発明は、引用文献3に記載された発明及び引用文献1又は2に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当該請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(4) 申立理由4(拡大先願同一)
設定登録時の請求項5~8に係る発明は、本件特許出願の日前の特許出願であって、本件特許出願後に出願公開された先願1の先願明細書等に記載された発明と同一であり、しかも、本件特許出願の発明者が先願明細書等に記載された発明をした者と同一ではなく、また本件特許出願の時において、その出願人が先願1の出願人と同一でもないから、当該請求項に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものである。
(5) 申立理由5(サポート要件違反)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が後記4(3)ア(イ)の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(6) 申立理由6(明確性要件違反)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が後記4(2)ア(イ)の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
3 引用文献及び先願明細書等の記載事項
(1) 引用文献1の記載事項
ア 「【請求項1】 銀、周期律表の第IIIB族及び結晶性アルミノシリケートを含有し、更に前記第IIIB族が結晶性アルミノシリケートにイオン交換されていることを特徴とする炭化水素吸着剤。」
イ 「【0026】実施例1
・・・
【0028】次に、この結晶性アルミノシリケートを硝酸アンモニウム1435gと水10800gよりなる溶液に添加し、室温下で3時間、攪拌、ろ過することによりアンモニウム交換を行った。この操作は、イオン交換率を高めるために、3回繰り返した。そして、得られたNH4 型結晶性アルミノシリケートを120℃で一昼夜乾燥させた後、550℃で4時間空気中で焼成することにより、H型結晶性アルミノシリケートを得た。X線回折の結果、このアルミノシリケートは、MFI構造であった。
【0029】H型MFI型ゼオライト(Si/2Al=30)の粉末を、0.3Mの濃度の硝酸セリウム水溶液中で、12時間攪拌した後濾過し、そのゼオライトにセリウムをイオン交換によって担持した。得られた粉末を乾燥した後焼成し、次いで2.7M濃度の硝酸銀(AgNO3)水溶液中で12時間攪拌した後、濾過することにより、そのゼオライトに銀を担持した。
【0030】このゼオライトを乾燥した後、焼成することにより、吸着剤1を得た。この吸着剤を100重量部、シリコゲル(固形分20%)65部及び水65部を磁性ポットに投入し、振動ミル装置で40分間、又はユニバーサルボールミル装置で6.5時間混合粉砕してウォッシュコートスラリーを製造した。
【0031】コーディエライト製モノリス担体を吸引コート法で余分なスラリーを除去した。その後、乾燥を行い400℃で約1時間仮焼成した。これによりゼオライトが約90g/Lコート量で担体にコートされた。上記のウォッシュコート、乾燥及び焼成を更に2回繰り返して合計約200g/Lのゼオライトをコートし、空気雰囲気中400℃で1時間焼成した。この吸着剤中に担持された銀は7重量%、セリウムは4重量%であった。」
ウ 「【0035】実施例5
H型MFI型ゼオライトの代わりにBEA型ゼオライト(Si/2Al=25フィラデルフィアコーポレーション製、商品名:CP811 BL-25)を用いた他は、実施例1と全く同様な方法により吸着剤を調製した。この吸着剤中に担持された銀は6.8重量%、セリウムは3.8重量%であった。」
(2) 引用文献2の記載事項
ア 「【特許請求の範囲】
・・・
【請求項8】
イオン交換によりアルミノ珪酸塩ゼオライトをランタニド塩と接触させ、該ランタニド塩と接触させた後にイオン交換によって金属促進剤を該ランタニドで処理したアルミノ珪酸塩ゼオライトに加えることによって製造されたことを特徴とする金属で促進された安定なアルミノ珪酸塩ゼオライト。
【請求項9】
該ランタニド塩はセリウム塩であることを特徴とする請求項8記載の安定化されたアルミノ珪酸塩ゼオライト。
【請求項10】
該金属促進剤は鉄であることを特徴とする請求項8記載の安定化されたアルミノ珪酸塩ゼオライト。
【請求項11】
該金属促進剤は金属およびアルミノ珪酸塩ゼオライトの全重量に関し金属として計算して0.1~30重量%の量で加えられることを特徴とする請求項8記載の安定化されたアルミノ珪酸塩ゼオライト。
【請求項12】
該鉄は約0.5~2.5重量%の量で加えられることを特徴とする請求項10記載の安定化されたアルミノ珪酸塩ゼオライト。
【請求項13】
該ゼオライトはゼオライト・ベータであることを特徴とする請求項12記載の安定化されたアルミノ珪酸塩ゼオライト。」
イ 「【0044】
実施例5
次のようにしてセリウム/鉄を用いNH4+ベータの促進を行った。
【0045】
1.100gのNH4+ベータを0.05モル濃度の硝酸セリウム溶液1リットル中に分散させ、24時間撹拌し、濾過し、2,000mlの脱イオン水で洗滌する。
【0046】
2.このフィルター・ケーキを0.05モル濃度のFeCl2溶液1リットルに加え、24時間撹拌し、乾燥した後2,000mlの脱イオン水で洗滌する。
【0047】
3.次にこの乾燥したフィルター・ケーキを600℃で6時間カ焼した。最終生成物は約0.7%のCeO2および1.4%のFe2O3を含んでいた。
【0048】
4.次に実施例2記載の方法で蜂の巣形の触媒を調製した。」
(3) 引用文献3の記載事項
ア 「【請求項1】
a.小孔フレームワークを有し、シリカ対アルミナのモル比(SAR)が約10~約30であるゼオライト材;
b.ゼオライト全重量に対して、約1.5~約5重量パーセントの交換非アルミニウム遷移金属;及び
c.ゼオライト全重量に対して、少なくとも約1.35重量パーセントのセリウム
を含み、前記セリウムが、交換セリウムイオン、単量体セリア、オリゴマーセリア及びそれらの組み合わせから選択される形態で存在し、但し前記オリゴマーセリアの粒径が5μm未満である、触媒組成物。」
イ 「【0032】
一例では、金属交換モレキュラーシーブは、触媒活性金属の可溶性前駆体を含有する溶液にモレキュラーシーブを混合することにより作製される。溶液のpHを調節し、モレキュラーシーブ構造上又はその構造内に触媒活性カチオンを析出させてもよい。例えば、好ましい実施態様では、チャバザイトを、十分な時間、硝酸銅含有溶液に浸漬し、イオン交換によってモレキュラーシーブ構造内に触媒活性銅カチオンを組み込む。未交換の銅イオンは析出する。用途に応じて、未交換イオンの一部がモレキュラーシーブ材に遊離銅として残ることがある。金属置換モレキュラーシーブは、その後洗浄され、乾燥され、か焼され得る。鉄又は銅が金属カチオンとして使用される場合、重量での触媒材料の金属含有量として、モレキュラーシーブ材の重量に対して、好ましくは約0.1~約15重量パーセント、より好ましくは約1~約10重量パーセント、さらにより好ましくは約1~約5重量パーセントが挙げられる。
【0033】
通常、モレキュラーシーブ内への又はモレキュラーシーブ上での触媒金属カチオンのイオン交換は、約1~24時間にわたり、pH約7で、室温又は約80℃以下の温度で行うことができる。得られた触媒モレキュラーシーブ材は、好ましくは約100~120°で一晩乾燥され、少なくとも約550℃の温度でか焼される。」
ウ 「【実施例】
【0057】
実施例:
SARが17のCHAフレームワーク(アイソタイプSSZ-13)を有し(ゼオライトA)、(ゼオライト全重量に対して)2.4重量パーセントの交換銅を含むアルミノケイ酸塩に、初期湿潤法を用いて硝酸Ceを含浸させた後、このアルミノケイ酸塩を基材にウォッシュコートし、75g/ft3のCe(ゼオライト全重量対して1.35重量パーセントのCe)を有する触媒試料を作製した。同じ技法を繰り返し、96g/ft3のCe、119g/ft3のCe、188g/ft3のCe及び285g/ft3のCeを有する触媒試料を作製した。これらの試料それぞれを、10%H2O下、800℃で5時間水熱処理により劣化させた。その後、これらの試料を分析し、200℃及び500℃でNH3 SCR法でのNOx転換能を測定した。但し、NH3 SCR法は、20ppmのアンモニアスリップとなるよう調整されている。本分析の結果を図1に示す。」
(4) 引用文献4の記載事項
ア 「【0044】
次に、本実施形態に係る上流側NOx触媒121及び下流側NOx触媒122の製造方法について説明する。
これらNOx触媒はいずれも、触媒粉末調製工程と、触媒粉末焼成工程と、スラリー調製工程と、塗布工程と、支持体焼成工程と、を有する。以下、各工程について説明する。
【0045】
触媒粉末調製工程では、ゼオライトと、Pdを含むPd化合物と、必要に応じて上述の添加元素を含む添加元素化合物と、を用いて触媒粉末を調製する。具体的には、イオン交換水に分散させたゼオライトに対して、Pd化合物及び添加元素化合物を加えて混合する。混合後、減圧乾燥することにより、乾燥された触媒粉末を得る。
Pd化合物としては、例えば、硝酸Pdが用いられる。また、添加元素化合物としては、例えば、硝酸Ce、硝酸Pr、硝酸Sr、硝酸Ba、硝酸La、硝酸Ga、硝酸In、硝酸Mn、硝酸Feが用いられる。
【0046】
触媒粉末焼成工程では、触媒粉末調製工程で調製された触媒粉末を、例えば500~700℃で焼成する。本工程では、例えば、焼成時間を2時間とすることが好ましい。また、本工程は、例えば電気炉を用いて行われる。」
イ 「【0055】
<実施例1及び比較例1~2>
実施例1は、上記実施形態の排気浄化装置において、上流側NOx触媒をPd/ゼオライト触媒(即ち、ベース品)に添加元素としてGaを添加して構成し、下流側NOx触媒部をベース品により構成した。各触媒の調製は、上述の手順に従って実施した。なお、ゼオライトとしては、ZSM-5型ゼオライトを用いた。また、本例におけるGaの添加量は、0.3質量%とした。
・・・
【0060】
次に、上流側NOx触媒として、Ga以外の添加元素、具体的には、Fe、Ba、In、Sr、Pr、Mn、Ce又はLaを添加した場合の耐熱性について評価を実施した。具体的には、これらの各添加元素を添加した各NOx触媒単独で、耐熱性の評価を実施した。即ち、下流側に下流側NOx触媒を配置せず、これらの各NOx触媒のみに対して、上述した条件と同じ条件で耐熱後のNOx吸着量の測定を実施した。結果を図5に示す。
【0061】
図5は、添加元素種を変化させた各NOx触媒の耐熱後のNOx吸着量を示す図である。図5において、縦軸はNOx吸着量[g/L]を表している。横軸は、添加元素の種別を表している。
ここで、図5におけるnoneは、添加元素を添加していないものであり、上述した図3中のBase品のagedに相当するものである。同様に、図5におけるGaは、上述した図3中のGa添加品のagedに相当するものである。」
(5) 先願明細書等の記載事項
ア 「【請求項1】
原料としてのCHA型ゼオライトと酢酸銅と酢酸セリウムを混合して混合粉末として、前記混合粉末を300~800℃で加熱することによって、CuイオンとCeイオンを同時にイオン交換することを特徴とする、CuとCeがイオン交換されたゼオライトの製造方法。」
イ 「【0047】
まず、原料としてのCHA型ゼオライトと酢酸銅と酢酸セリウムを混合して混合粉末とする。
本発明のゼオライトの製造方法では、Cuをイオン交換させるためのCu化合物として酢酸銅を、Ceをイオン交換させるためのCe化合物として酢酸セリウムを使用する。
CHA型ゼオライトは通常粉末である。酢酸銅としては粉末、酢酸銅の溶液のいずれも使用することができる。酢酸セリウムとしては粉末、酢酸セリウムの溶液のいずれも使用することができる。
酢酸銅及び酢酸セリウムの配合量に比べ、CHA型ゼオライトの配合量のほうが通常は多いので、酢酸銅及び酢酸セリウムが溶液の状態で加えられたとしても、水分はゼオライトの粉末に吸収されて粉末の状態が維持される。すなわち、固相でのイオン交換となる。」
ウ 「【0051】
加熱温度は、300~800℃とする。300℃以上の加熱温度であると、効率よくゼオライトにCu及びCeを担持させることができる。また800℃以下の加熱温度であると、ゼオライトの結晶構造を破壊することがない。さらに好ましい加熱温度は、400~800℃である。」
エ 「【実施例】
【0060】
以下、本発明をより具体的に開示した実施例を示す。なお、本発明はこの実施例のみに限定されるものではない。
【0061】
<実施例1>
(ゼオライトの調製)
Si源としてコロイダルシリカ(日産化学工業社製、スノーテックス)、Al源として乾燥水酸化アルミニウムゲル(富田製薬社製)、アルカリ源として水酸化ナトリウム(トクヤマ社製)と水酸化カリウム(東亜合成社製)、構造規定剤(SDA)としてN,N,N-トリメチルアダマンタンアンモニウム水酸化物(TMAAOH)25%水溶液(Sachem社製)、種結晶としてSSZ-13、脱イオン水を混合し、原料組成物を準備した。原料組成物のモル比は、SiO2:15mol、Al2O3:1mol、NaOH:2.6mol、KOH:0.9mol、TMAAOH:1.1mol、H2O:300molの割合とした。また原料組成物中のSiO2、Al2O3に5.0重量%の種結晶を加えた。原料組成物を500Lオートクレーブに装填し、加熱温度160℃、加熱時間48時間で水熱合成を行い、ゼオライトを合成した。続いて、ゼオライト細孔内に残存するTMAAOHを除去するために、空気中で、550℃、4時間の条件で加熱処理を行った。
【0062】
(NH4+型ゼオライトの調製)
硫酸アンモニウム1molを1Lの水に溶かした後、得られた溶液4gに対して上記で得られたゼオライトを1gの割合で添加し、大気圧で1時間撹拌を行い、NH4+型ゼオライトを得た。
【0063】
(H+型ゼオライトの調製)
上記で得られたNH4+型ゼオライトを、空気中で、550℃、4時間の条件で加熱処理を行い、H+型ゼオライトを得た。
【0064】
(Cu-Ce同時イオン交換)
続いて、上記で得られたH+型ゼオライトに対し、Cu量が3.68重量%となるように、酢酸銅(II)を混合し、Ce量が5.0重量%となるように、酢酸セリウム(III)を混合して混合粉末を得た。
なおこの混合工程では、乳鉢を使用し、混合温度は室温であり、混合時間は0.5時間とした。また混合粉末の水分量は、20重量%であった。
【0065】
上記の混合工程で得られた混合粉末を、加熱処理に施した。なお、加熱装置、加熱条件は以下の通りである。
加熱装置:中外炉工業社製、装置型番FQ-5270
加熱温度:700℃
加熱雰囲気:N2雰囲気
加熱時の圧力:大気圧
加熱時間:5時間
以上のようにして、Cu及びCeでイオン交換されたCHA型ゼオライトを製造した。」
4 当審の判断
事案に鑑み、取消理由及び申立理由をまとめて検討する。
(1) 取消理由1(実施可能要件違反)について
ア 具体的な指摘事項
取消理由1は、要するに、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された粉末X線回折測定、XPS測定、27Al-NMR測定、29Si-NMR測定の結果から、希土類元素骨格置換ゼオライトが得られたことを確認できないことを論拠として、発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件を満たしていない、というものである。
イ 実施可能要件の検討
(ア) 本件特許明細書の発明の詳細な説明の実施例1には、「硝酸プラセオジム(III、IV)六水和物(和光純薬工業社製、純度99.9%、Pr6 O11換算で5.98質量%含有)0.77質量部を、水1.63質量部に溶解して、Pr含有水溶液を調製した。次に、NH4 型のベータ型ゼオライト粉末(平均粒子径D50:0.4μm、シリカアルミナ比:26、BET比表面積:667m2 /g、白色粉末)5質量部に上記Pr含有水溶液を含浸させ、550℃で60分熱処理することにより、実施例1のPr骨格置換ゼオライト粉末(Pr換算含有割合:5質量%、平均粒子径D50:24.4μm、若干の淡黄緑色を帯びた白色粉末)を得た」ことが記載されている(【0072】)から、実施例1の得られたゼオライト粉末は、その製造工程からして、Pr元素がPr換算含有割合で5質量%含有しているゼオライト粉末といえる。
(イ) 発明の詳細な説明には、実施例1で得られたゼオライト粉末に対する、粉末X線回折測定、目視評価、及び、XPS測定の結果が記載されており、「粉末X線回折測定(XRD)を行ったところ、Pr酸化物(PrO2 、Pr2 O3 、Pr6 O10、Pr6 O11)のピークは検出されなかった」こと、「Pr酸化物(Pr6 O11粉末)は黒色であるのに対して」、「若干の淡黄緑色を帯びた白色粉末であった」こと、及び、「標品Pr6 O10のピークは932eVであるのに対して」、「高エネルギー側の935eVにピークが観察された」ことが記載されている(【0098】、【0099】)。
そして、これらの粉末X線回折測定、目視評価、及び、XPS測定の結果は、実施例1で得られたゼオライト粉末に含有する5質量%のPr元素が、Pr酸化物の担持とは異なる形態でゼオライト粉末に含まれていることを示していると理解できる。
(ウ) また、発明の詳細な説明には、実施例1で得られたゼオライト粉末に対する、27Al-NMR測定、及び、29Si-NMR測定の結果が記載されており、「27Al-NMR測定を行ったところ、Pr含有量の増加にともない、4配位のAlのピークが小さくなり、骨格外のアモルファスAlと考えられるピークが現れた」こと、及び、「29Si-NMR測定を行ったところ、Pr含有量の増加にともない、Siピークが減少し、ピークがブロードとなった」ことが記載されており(【0100】)、当該測定結果は、実施例1で得られたゼオライト粉末は、ゼオライト骨格を構成するAl及びSiの一部が骨格外に排出していることを示すものである。
(エ) 前記(ア)~(ウ)のとおり、実施例1で得られたゼオライト粉末に含有する5質量%のPr元素が、Pr酸化物の担持とは異なる形態でゼオライト粉末に含まれると示唆される状況下において、ゼオライト骨格を構成するAl及びSiの一部が骨格外に排出していることを併せ考えれば、発明の詳細な説明の【0101】の「希土類元素であるPrは、ゼオライト骨格中のSi原子及び/又はAl原子に置換した状態で存在することが裏付けられ」たとの記載のとおり、当業者であれば、Pr元素がゼオライト骨格内に導入していると理解できる。
(オ) そうしてみると、発明の詳細な説明の実施例(【0071】~【0107】)に記載された製造方法によって、ゼオライト骨格のAl原子及び/又はSi原子の一部が希土類元素に置換されている希土類元素骨格置換ゼオライトを製造できることを当業者が理解できるから、発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件を満足しているといえる。
ウ 申立人の主張について
(ア) 申立人は、(i)粉末X線回折測定のピーク強度は、結晶子サイズや含有量にも影響されること、(ii)XPS測定のピーク変動は、熱処理によるPr酸化物の価数変化にも影響されること、(iii)27Al-NMR測定及び29Si-NMR測定のピーク変動は、熱処理によるゼオライトの結晶性の変化に影響されることを論拠にして、「酸化物及びPrイオンの存在は否定されず、XPSピークの変動が骨格置換によるものとは言えず、さらには27Al-NMR測定及び29Si-NMR測定の両方がピーク変動していることから、これらを総合的に勘案すれば、Prは少なくともPrイオンとして存在し、かつ、ゼオライトの結晶構造自体が崩壊しているに過ぎないと理解することが合理的である」ことを主張し、さらに、「本件特許明細書には、Pr以外の希土類元素を用いた場合について、粉末X線回折測定、XPS測定、27Al-NMR測定及び29Si-NMR測定がどのような結果になるかは何ら開示も示唆もない」ことを主張している(令和5年1月6日提出の意見書の3.(3))。
(イ) しかしながら、個々の測定結果のみからでは、希土類元素骨格置換ゼオライトが得られたことを確認できないとしても、本件発明においては、前記イで検討したとおり、ゼオライト粉末に希土類元素(Pr元素)が含有している状況下において、粉末X線回折測定、XPS測定、27Al-NMR測定、29Si-NMR測定の各結果を総合的に判断して、ゼオライト骨格のAl原子及び/又はSi原子の一部が希土類元素に置換されている希土類元素骨格置換ゼオライトを製造できることを当業者が理解できるものである。
そして、前記粉末X線回折測定の結果は、酸化物の存在を否定するものであるし、また、前記粉末X線回折測定、XPS測定、27Al-NMR測定及び29Si-NMR測定の結果は、ゼオライト吸着サイトにおけるPrイオンの存在を否定するものではないが、Pr元素が全て前記Prイオンとして存在することを示したものではないことから、Pr元素がゼオライト骨格のAl原子及び/又はSi原子と置換した状態で存在することを否定するものではない。さらに、27Al-NMR測定及び29Si-NMR測定の結果は、Pr含有量によって変化していることを踏まえると、熱処理による結晶構造自体の崩壊のみを示していないことは明らかである。
加えて、本件特許明細書の実施例1の「NH4 型のベータ型ゼオライト粉末(平均粒子径D50:0.4μm、シリカアルミナ比:26、BET比表面積:667m2 /g、白色粉末)5質量部に上記Pr含有水溶液を含浸させ、550℃で60分熱処理すること」(【0072】)が、Prだけに適用されるものではなく、その他の希土類元素にも適用できることを考慮すると、ゼオライト骨格のAl原子及び/又はSi原子と置換できる希土類元素がPrのみだけともいえない。
以上のことから、申立人の上記主張は採用できない。
エ 取消理由1についてのまとめ
以上のとおりであるから、取消理由1に理由はない。
(2) 取消理由2及び申立理由6(明確性要件違反)について
ア 具体的な指摘事項
(ア) 取消理由2は、要するに、(i)設定登録時の請求項1に記載された「前記ベータ型、及び前記CHA型よりなる群から選択される少なくとも1以上の前記ゼオライトが、NH4型ゼオライト、及びH+型ゼオライトよりなる群から選択される少なくとも1種であ」ることは、「希土類元素骨格置換ゼオライト」が「NH4型」及び/又は「H+型」であることを示しているのか、あるいは「希土類元素骨格置換ゼオライト」を製造する際のゼオライト原料が「NH4型ゼオライト」及び/又は「H+型ゼオライト」であることを示しているのかが明らかでないこと、及び、(ii)先の訂正請求により訂正された請求項3に記載された「希土類元素の可溶性無機酸塩」には、希土類元素の酢酸塩が含まれるのか含まれないのかが明らかでないことを論拠として、特許請求の範囲の記載は明確性要件を満たしていない、というものである。
(イ) また、申立理由6は、要するに、(i)設定登録時の請求項1、3に記載された「総量」の定義が不明であること、及び、(ii)設定登録時の請求項6に記載された「所定形状」がどのような形状を意味するかが不明確であることを論拠として、特許請求の範囲の記載は明確性要件を満たしていない、というものである。
イ 明確性要件の検討
(ア) 取消理由2について検討すると、本件発明2に係る請求項2には、「希土類元素骨格置換ゼオライト」を製造する際のゼオライト原料は記載されていないし、また、「希土類元素骨格置換ゼオライト」が、「ベータ型、及びCHA型よりなる群から選択される少なくとも1以上のゼオライト」を「含有し」、「前記ベータ型、及び前記CHA型よりなる群から選択される少なくとも1以上の前記ゼオライトが、NH4型ゼオライト、及びH+型ゼオライトよりなる群から選択される少なくとも1種であ」ると記載されていることから、本件発明2における「前記ベータ型、及び前記CHA型よりなる群から選択される少なくとも1以上の前記ゼオライトが、NH4型ゼオライト、及びH+型ゼオライトよりなる群から選択される少なくとも1種であり」との事項が、「希土類元素骨格置換ゼオライト」を特定していることは明らかである。
また、本件発明3では、「希土類元素の可溶性無機酸塩(但し、酢酸塩を除く。)」と特定され、当該特定事項に希土類元素の酢酸塩が含まれないことは明らかである。
(イ) 申立理由6について検討すると、本件発明2、3に係る請求項2、3の記載(前記第3参照)からして、本件発明2、3における「総量」が「希土類元素骨格置換ゼオライト」全体の量を示していることは明らかであるし、また、本件発明6における「所定形状に成形してなる」は、具体的な形状を特定しない形に成形することを示していることも明らかである。
(ウ) したがって、特許請求の範囲の記載は、第三者に不測の不利益を生じさせるほどに不明確であるとはいえないから、明確性要件を満足する。
ウ 申立人の主張について
申立人は、取消理由2の前記(i)の点に関して、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、NH4型又はH+型の「希土類元素骨格置換ゼオライト」が示されていないため、請求項1及びこれを引用する請求項2、5~8の記載は、依然として、「希土類元素骨格置換ゼオライト」が「NH4型」及び/又は「H+型」であることを示しているのか、あるいは「希土類元素骨格置換ゼオライト」を製造する際のゼオライト原料が「NH4型ゼオライト」及び/又は「H+型ゼオライト」であることを示しているのかが明らかでない旨を主張している(令和5年1月6日提出の意見書の3.(4))。
しかしながら、本件発明2に係る請求項2の記載は、前記イ(ア)で検討したとおり、発明の詳細な説明の記載を参酌するまでもなく、特許請求の範囲の記載から理解できるから、申立人の主張は採用できない。
エ 取消理由2及び申立理由6についてのまとめ
以上のとおりであるから、取消理由2及び申立理由6に理由はない。
(3) 取消理由3及び申立理由5(サポート要件違反)について
ア 具体的な指摘事項
(ア) 取消理由3は、要するに、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、希土類元素の硝酸塩水溶液を用いた希土類元素骨格置換ゼオライトの製造方法が具体的に記載されているところ、先の訂正請求によって訂正された請求項3の「希土類元素の可溶性無機酸塩の水溶液」を用いた希土類元素骨格置換ゼオライトの製造方法にまで拡張又は一般化できることを当業者が認識できないことを論拠として、特許請求の範囲の記載はサポート要件を満たしていない、というものである。
(イ) また、申立理由5は、要するに、(i)設定登録時の請求項1、3に係る発明は、「ベータ型及びCHA型のゼオライト」の形態を含むところ、このような形態は発明の詳細な説明に記載されていないこと、(ii)設定登録時の請求項2、4に係る発明は、「1μm以上500μm以下の平均粒子径D50の範囲」を特定しているところ、当該範囲が発明の詳細な説明の実施例の数値範囲より広いこと、及び、(iii)設定登録時の請求項6に係る発明の「所定形状に成形してなるNOx吸着部材」が発明の詳細な説明に記載されていないことを論拠として、特許請求の範囲の記載はサポート要件を満たしていない、というものである。
イ サポート要件の検討
(ア) 本件発明の課題について
本件発明の課題は、本件特許明細書の発明の詳細な説明の【0002】~【0011】の記載からして、「NOx吸着量がより高められた、新規な希土類元素骨格置換ゼオライト及びその製造方法、並びにこれらを用いたNOx吸着部材及び自動車排ガス用触媒等を提供すること」(【0010】)といえる。
(イ) 発明の詳細な説明の記載
a 本件特許明細書の発明の詳細な説明の実施例(【0071】~【0107】)には、Pr、Ce、La又はNdからなる希土類元素の硝酸塩の水溶液を、NH4型のベータ型ゼオライト粉末又はNH4型のCHA型ゼオライト粉末に含浸させ、550℃で60分熱処理することにより、希土類元素の換算含有量が1.8~12質量%の希土類元素骨格置換ゼオライト粉末を得たことが具体的に記載され(実施例1~15)、さらに、Ce換算含有量が5質量%のCe骨格置換ゼオライト(実施例1、5)が、酸化プラセオジム粉末とベータ型又はCHA型ゼオライト粉末との混合粉末(比較例3~6)に比較して、NOx吸着量が向上することも記載されている。
したがって、実施例の希土類元素骨格置換ゼオライト及びその製造方法は、本件発明の課題を解決できるものといえる。
b そして、発明の詳細な説明には、「本実施形態の希土類元素骨格置換ゼオライトにおいて、骨格置換されるゼオライトとしては、各種公知のものを用いることができ、その種類は特に限定されない」こと(【0021】)、「特に好ましくはY型、CHA型、ベータ型である」こと(【0024】)、及び、「これらゼオライトにおいては、プロトン性水素原子を有するブレンステッド酸型のもの、金属カチオン(アルミニウム、チタン、鉄、セリウム、ガリウム等)を有するルイス酸型のもの等、各種のゼオライトを使用できる」こと(【0025】)が記載されているから、当業者は、骨格置換されるゼオライトとして、NH4型のベータ型ゼオライト、H+型のベータ型ゼオライト、NH4型のCHA型ゼオライト、H+型のCHA型ゼオライト、又は、これらの混合物を使用できることを理解できる。
c また、発明の詳細な説明には、「本実施形態の希土類元素骨格置換ゼオライトの製造方法は、上述した構成の希土類元素骨格置換ゼオライトが得られる限り、特に限定されない。例えば、上述したゼオライトとCe、La、Nd及びPrよりなる群から選択される少なくとも1種以上の希土類元素とを接触させた後に熱処理することで、希土類元素が骨格置換されたゼオライト、すなわち希土類元素骨格置換ゼオライトを得ることができる。これらの希土類元素は、希土類元素の無機酸塩、例えば希土類元素の硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩、塩化物、酸化物、複合酸化物、及び錯塩等として供給することができる」こと(【0048】)、及び「好ましい製造方法の1つとしては、ゼオライトに、Ce、La、Nd及びPrよりなる群から選択される少なくとも1種以上の希土類元素の可溶性塩の水溶液を含浸する工程と、含浸後のゼオライトを熱処理して希土類元素骨格置換ゼオライトを得る工程と、を少なくとも有するものが挙げられる。この方法では、可溶性塩の水溶液中の希土類元素の含有量を調整することにより、希土類元素の含有割合が総量に対して合計で1~15質量%の希土類元素骨格置換有ゼオライトを容易に得ることができる。ここで、含浸後のゼオライトを熱処理においては、アルミノケイ酸塩の結晶構造を維持する等の観点から、400℃以上650℃以下の温度範囲で行うことが好ましく、より好ましくは450℃以上600℃以下の温度範囲である」こと(【0049】)が記載されているから、当業者は、ゼオライトに希土類元素の可溶性塩の水溶液を含浸させ、ゼオライトと希土類元素とが接触した状態で、400℃以上650℃以下の温度範囲で熱処理することで、希土類元素の換算含有量が1~15質量%の希土類元素骨格置換ゼオライトが得られることを理解できる。
d 加えて、発明の詳細な説明には、「希土類元素骨格置換ゼオライト中における前記希土類元素の含有割合は、特に限定されないが、NOx吸着量やコスト等の観点から、総量に対して合計で1質量%以上15質量%以下であることが好まし」いこと(【0043】)、及び、「本実施形態の希土類元素骨格置換ゼオライトの外形形状は、特に限定されない・・・。ここで、希土類元素骨格置換ゼオライトの平均粒子径D50は、要求性能等に応じて適宜設定することができ、特に限定されない」こと(【0044】)が記載されているし、また、ゼオライトのイオン交換サイト上の金属イオンをアンモニウムイオンやプロトン等の非金属カチオンにイオン交換できることは、当該技術分野における技術常識であることを踏まえると、前記cに示した希土類元素の換算含有量が1~15質量%の希土類元素骨格置換ゼオライト、あるいは、当該希土類元素骨格置換ゼオライトのイオン交換サイトをアンモニウムイオンやプロトンでイオン交換したNH4型又はH+型希土類元素骨格置換ゼオライトは、その形状や平均粒子径D50に関係なく、実施例と同様に、希土類酸化物とゼオライトとの混合物よりも優れたNOx吸着能を有することを理解できる。
(ウ) 特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載と対比判断
本件特許の請求項2~8の記載は、前記第3に示したとおりであるところ、前記(イ)の事項を踏まえれば、本件発明2において、希土類元素骨格置換ゼオライトが、ベータ型ゼオライト及びCHA型ゼオライトの混合物である場合、又は、希土類元素骨格置換ゼオライトの平均粒子径D50が1μm以上500μm以下の範囲内である場合、本件発明3において、骨格置換されるゼオライトがベータ型ゼオライト及びCHA型ゼオライトの混合物である場合、又は、希土類元素の硝酸塩以外の可溶性無機酸塩(但し、酢酸塩を除く。)の水溶液を使用する場合、本件発明4において、1μm以上500μm以下の平均粒子径D50を有する希土類元素骨格置換ゼオライトを製造する場合、あるいは、本件発明6において、希土類元素骨格置換ゼオライトを含む組成物を所定形状に成形したNOx吸着部材とした場合にも、当業者であれば本件発明の課題を解決できると認識できるものである。
したがって、本件発明2~8は、発明の詳細な説明の記載や出願時の技術常識により当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものであるといえる。
ウ 申立人の主張について
申立人は、請求項3及び4には、どのような構成の希土類元素骨格置換ゼオライトを製造するかを特定していないことを論拠として、請求項3又は4の記載がサポート要件を満たさない旨を主張している(令和5年1月6日提出の意見書の3.(5))。
しかしながら、本件発明3は、「Ce、La、Nd及びPrよりなる群から選択される少なくとも1種以上の希土類元素」の「含有割合が総量に対して合計で1~15質量%であり且つ前記ベータ型、及び前記CHA型よりなる群から選択される少なくとも1以上の前記ゼオライトの骨格を形成するAl原子及び/又はSi原子の一部が前記希土類元素に置換されている希土類元素骨格置換ゼオライト」を得ることを特定しているから、申立人の上記主張は採用できない。
エ 取消理由3及び申立理由5についてのまとめ
以上のとおりであるから、取消理由3及び申立理由5に理由はない。
(4) 取消理由4及び申立理由1(引用文献1を主たる証拠とした新規性・進歩性欠如)について
ア 引用文献1に記載された発明(引用1発明1、引用1発明2)
(ア) 引用文献1には、前記3(1)アに摘記したとおり、「銀、周期律表の第IIIB族及び結晶性アルミノシリケートを含有し、更に前記第IIIB族が結晶性アルミノシリケートにイオン交換されていることを特徴とする炭化水素吸着剤」が記載されており、そして、当該「炭化水素吸着剤」に関して、実施例5には、前記3(1)イ、ウによれば、「BEA型ゼオライト(Si/2Al=25フィラデルフィアコーポレーション製、商品名:CP811 BL-25)」の「粉末を、0.3Mの濃度の硝酸セリウム水溶液中で、12時間攪拌した後濾過し、そのゼオライトにセリウムをイオン交換によって担持した。得られた粉末を乾燥した後焼成し、次いで2.7M濃度の硝酸銀(AgNO3)水溶液中で12時間攪拌した後、濾過することにより、そのゼオライトに銀を担持した。このゼオライトを乾燥した後、焼成することにより、吸着剤1を得た」こと、及び、「この吸着剤中に担持された銀は6.8重量%、セリウムは3.8重量%であった」ことが記載されている(【0029】~【0030】、【0035】)。
(イ) これらの記載事項を「炭化水素吸着剤の製造方法」、「炭化水素吸着剤」に注目して整理すると、引用文献1には、次の「炭化水素吸着剤の製造方法」に係る発明(以下、「引用1発明1」という。)、及び、「炭化水素吸着剤」に係る発明(以下、「引用1発明2」という。)が記載されていると認められる。
(引用1発明1)
「BEA型ゼオライト(Si/2Al=25フィラデルフィアコーポレーション製、商品名:CP811 BL-25)の粉末を、0.3Mの濃度の硝酸セリウム水溶液中で、12時間攪拌した後濾過し、そのゼオライトにセリウムをイオン交換によって担持し、得られた粉末を乾燥した後焼成し、次いで2.7M濃度の硝酸銀(AgNO3)水溶液中で12時間攪拌した後、濾過することにより、そのゼオライトに銀を担持し、このゼオライトを乾燥した後、焼成する、BEA型ゼオライトに、銀6.8重量%、セリウム3.8重量%を担持した炭化水素吸着剤の製造方法。」
(引用1発明2)
「引用1発明1の製造方法によって得られた、BEA型ゼオライトに、銀6.8重量%、セリウム3.8重量%を担持した炭化水素吸着剤。」
なお、引用文献1の実施例6、7、20、22、30~32、45又は47の記載から、引用文献1に記載された発明を認定しても後記イ~オと同様に判断される。
イ 本件発明3について
事案に鑑み、本件発明3から検討する(以下、同様である。)。
(ア) 本件発明3と引用1発明1とを対比すると、本件発明3では、「Ce、La、Nd及びPrよりなる群から選択される少なくとも1種以上の希土類元素の可溶性無機酸塩(但し、酢酸塩を除く。)の水溶液」「が含浸した前記ゼオライトを400℃以上650℃以下の温度範囲で熱処理して」、「前記ゼオライトの骨格を形成するAl原子及び/又はSi原子の一部が前記希土類元素に置換されている」のに対して、引用1発明1では、「BEA型ゼオライト」「の粉末を、0.3Mの濃度の硝酸セリウム水溶液中で、12時間攪拌した後濾過し、そのゼオライトにセリウムをイオン交換によって担持し、得られた粉末を乾燥した後焼成し」て、「BEA型ゼオライトに」「セリウム」「を担持」している点で少なくとも相違している(以下、この相違点を「相違点1」という。)。
(イ) 相違点1において、両者の製造工程が明らかに異なっているし、また、ゼオライトにセリウムを担持させることが、ゼオライトの骨格を形成するAl原子及び/又はSi原子の一部がセリウムに置換していることを示す証拠もないから、相違点1は実質的な相違点である。
(ウ) また、ゼオライトの骨格を形成するAl原子及び/又はSi原子の一部を希土類元素に置換するために、希土類元素の可溶性無機酸塩の水溶液が含浸したゼオライトを400℃以上650℃以下の温度範囲で熱処理することは、引用文献2~5のいずれにも記載されていないし、このことが周知技術であることを示す証拠もないから、引用1発明1において、相違点1に係る本件発明3の構成とすることは、当業者にとって容易想到の事項といえない。
(エ) したがって、その余の点を検討するまでもなく、本件発明3は、引用文献1に記載された発明といえないし、また、引用文献1に記載された発明、引用文献2~5に記載された事項、及び、周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
ウ 本件発明4について
本件発明4は、本件発明3の全ての特定事項を含むものであるから、前記イで検討したのと同様の理由により、本件発明4は、引用文献1に記載された発明、引用文献2~5に記載された事項、及び、周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
エ 本件発明2について
(ア) 本件発明2と引用1発明2とを対比すると、本件発明2は、「前記ゼオライトの骨格を形成するAl原子及び/又はSi原子の一部が前記希土類元素に置換されている」「希土類元素骨格置換ゼオライト」であるのに対して、引用1発明2は、「BEA型ゼオライトに」「セリウム」「が担持した炭化水素吸着剤」である点で少なくとも相違している(以下、この相違点を「相違点2」という。)。
(イ) 相違点2について検討すると、引用1発明2における「引用1発明1の製造方法」は、前記イのとおり、本件発明3の製造方法であるといえないし、また、前記イ(イ)で検討したように、ゼオライトにセリウムが担持していることが、ゼオライトの骨格を形成するAl原子及び/又はSi原子の一部がセリウムに置換されているともいえないため、引用1発明2の「BEA型ゼオライトに」「セリウム」「が担持した炭化水素吸着剤」は、ゼオライトの骨格を形成するAl原子及び/又はSi原子の一部を希土類元素に置換しているといえないから、相違点2は実質的な相違点である。
(ウ) また、ゼオライトの骨格を形成するAl原子及び/又はSi原子の一部を希土類元素に置換する希土類元素骨格置換ゼオライトは、引用文献2~5のいずれにも記載されていないし、このことが周知技術であることを示す証拠もないから、引用1発明2において、相違点2に係る本件発明2の構成とすることは、当業者にとって容易想到の事項といえない。
(エ) したがって、その余の点を検討するまでもなく、本件発明2は、引用文献1に記載された発明、引用文献2~5に記載された事項、及び、周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
オ 本件発明5~8
本件発明5~8は、本件発明2の全ての特定事項を含むものであるから、前記エで検討したのと同様の理由により、本件発明8は、引用文献1に記載された発明といえないし、また、本件発明5~8は、引用文献1に記載された発明、引用文献2~5に記載された事項、及び、周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
カ 取消理由4及び申立理由1についてのまとめ
以上のとおりであるから、取消理由4及び申立理由1に理由はない。
(5) 取消理由5及び申立理由2(引用文献2を主たる証拠とした新規性・進歩性欠如)について
ア 引用文献2に記載された発明(引用2発明1、引用2発明2)
(ア) 引用文献2には、前記3(2)アに摘記したとおり、「イオン交換によりアルミノ珪酸塩ゼオライトをランタニド塩と接触させ、該ランタニド塩と接触させた後にイオン交換によって金属促進剤を該ランタニドで処理したアルミノ珪酸塩ゼオライトに加えることによって製造されたことを特徴とする金属で促進された安定なアルミノ珪酸塩ゼオライト」(【請求項8】)であって、「該ゼオライトはゼオライト・ベータであること」(【請求項13】)が記載されており、そして、当該「金属で促進された安定なアルミノ珪酸塩ゼオライト」に関して、実施例5には、前記3(1)イによれば、「100gのNH4+ベータを0.05モル濃度の硝酸セリウム溶液1リットル中に分散させ、24時間撹拌し、濾過し、2,000mlの脱イオン水で洗滌」し、「このフィルター・ケーキを0.05モル濃度のFeCl2溶液1リットルに加え、24時間撹拌し、乾燥した後2,000mlの脱イオン水で洗滌」し、「次にこの乾燥したフィルター・ケーキを600℃で6時間カ焼した」こと、及び、「最終生成物は約0.7%のCeO2および1.4%のFe2O3を含んでいた」ことが記載されている(【0045】~【0047】。当審注:「CeO2」は「CeO2」の誤記と解される。)。
(イ) これらの記載事項を「金属で促進された安定なアルミノ珪酸塩ゼオライトの製造方法」、「金属で促進された安定なアルミノ珪酸塩ゼオライト」に注目して整理すると、引用文献2には、次の「金属で促進された安定なアルミノ珪酸塩ゼオライトの製造方法」に係る発明(以下、「引用2発明1」という。)、及び、「金属で促進された安定なアルミノ珪酸塩ゼオライト」に係る発明(以下、「引用2発明2」という。)が記載されていると認められる。
(引用2発明1)
「100gのNH4+ゼオライト・ベータを0.05モル濃度の硝酸セリウム溶液1リットル中に分散させ、24時間撹拌し、濾過し、2,000mlの脱イオン水で洗滌し、このフィルター・ケーキを0.05モル濃度のFeCl2溶液1リットルに加え、24時間撹拌し、乾燥した後2,000mlの脱イオン水で洗滌し、次にこの乾燥したフィルター・ケーキを600℃で6時間カ焼して、約0.7%のCeO2及び1.4%のFe2O3を含有したゼオライト・ベータとする、金属で促進された安定なアルミノ珪酸塩ゼオライトの製造方法。」
(引用2発明2)
「引用2発明1の製造方法によって得られた、約0.7%のCeO2及び1.4%のFe2O3を含有したゼオライト・ベータである、金属で促進された安定なアルミノ珪酸塩ゼオライト。」
イ 本件発明3について
(ア) 本件発明3と引用2発明1とを対比すると、本件発明3では、「Ce、La、Nd及びPrよりなる群から選択される少なくとも1種以上の希土類元素の可溶性無機酸塩(但し、酢酸塩を除く。)の水溶液」「が含浸した前記ゼオライトを400℃以上650℃以下の温度範囲で熱処理して」、「前記ゼオライトの骨格を形成するAl原子及び/又はSi原子の一部が前記希土類元素に置換されている」のに対して、引用2発明1では、「NH4+ゼオライト・ベータを」「硝酸セリウム溶液」「に分散させ」、「濾過し」、「乾燥した後」、「この乾燥したフィルター・ケーキを」「カ焼し」て、「CeO2」「を含有したゼオライト・ベータ」としている点で少なくとも相違している(以下、この相違点を「相違点3」という。)。
(イ) 相違点3について検討すると、前記(4)イの相違点1に対する検討と同様に、相違点3は実質的な相違点であるし、また、引用2発明1において、相違点3に係る本件発明3の構成とすることは、当業者にとって容易想到の事項といえない。
(ウ) したがって、その余の点を検討するまでもなく、本件発明3は、引用文献2に記載された発明といえないし、また、引用文献2に記載された発明、引用文献1、3~5に記載された事項、及び、周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
ウ 本件発明4について
本件発明4は、本件発明3の全ての特定事項を含むものであるから、前記イで検討したのと同様の理由により、本件発明4は、引用文献2に記載された発明、引用文献1、3~5に記載された事項、及び、周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
エ 本件発明2について
(ア) 本件発明2と引用2発明2とを対比すると、本件発明2は、「前記ゼオライトの骨格を形成するAl原子及び/又はSi原子の一部が前記希土類元素に置換されている」「希土類元素骨格置換ゼオライト」であるのに対して、引用2発明2は、「CeO2」「を含有したゼオライト・ベータである、金属で促進された安定なアルミノ珪酸塩ゼオライト」である点で少なくとも相違している(以下、この相違点を「相違点4」という。)。
(イ) 相違点4について検討すると、前記(4)エの相違点2に対する検討と同様に、相違点4は実質的な相違点であるし、また、引用2発明2において、相違点4に係る本件発明2の構成とすることは、当業者にとって容易想到の事項といえない。
(ウ) したがって、その余の点を検討するまでもなく、本件発明2は、引用文献2に記載された発明、引用文献1、3~5に記載された事項、及び、周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
オ 本件発明5~8について
本件発明5~8は、本件発明2の全ての特定事項を含むものであるから、前記エで検討したのと同様の理由により、本件発明5~8は、引用文献2に記載された発明といえないし、また、引用文献2に記載された発明、引用文献1、3~5に記載された事項、及び、周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
カ 取消理由5及び申立理由2についてのまとめ
以上のとおりであるから、取消理由5及び申立理由2に理由はない。
(6) 取消理由6及び申立理由3(引用文献3を主たる証拠とした進歩性欠如)について
ア 引用文献3に記載された発明(引用3発明1、引用3発明2)
(ア) 引用文献3には、前記3(3)アに摘記したとおり、「a.小孔フレームワークを有し、シリカ対アルミナのモル比(SAR)が約10~約30であるゼオライト材;b.ゼオライト全重量に対して、約1.5~約5重量パーセントの交換非アルミニウム遷移金属;及びc.ゼオライト全重量に対して、少なくとも約1.35重量パーセントのセリウムを含み、前記セリウムが、交換セリウムイオン、単量体セリア、オリゴマーセリア及びそれらの組み合わせから選択される形態で存在し、但し前記オリゴマーセリアの粒径が5μm未満である、触媒組成物」が記載されており、そして、当該「触媒組成物」に関して、前記3(3)イ、ウによれば、「SARが17のCHAフレームワーク(アイソタイプSSZ-13)を有し(ゼオライトA)、(ゼオライト全重量に対して)2.4重量パーセントの交換銅を含むアルミノケイ酸塩に、初期湿潤法を用いて硝酸Ceを含浸させた後、このアルミノケイ酸塩を基材にウォッシュコートし、75g/ft3のCe(ゼオライト全重量対して1.35重量パーセントのCe)を有する触媒試料を作製した」こと、及び、「得られた触媒モレキュラーシーブ材は、」「一晩乾燥され、少なくとも約550℃の温度でか焼される」ことが記載されている(【0033】、【0057】)。
(イ) これらの記載事項を「触媒組成物の作製方法」、「触媒組成物」に注目して整理すると、引用文献3には、次の「触媒組成物の作製方法」に係る発明(以下、「引用3発明1」という。)、及び、「触媒組成物」に係る発明(以下、「引用3発明2」という。)が記載されていると認められる。
(引用3発明1)
「SARが17のCHAフレームワークを有し、交換銅を含むアルミノケイ酸塩に、初期湿潤法を用いて硝酸Ceを含浸させた後、このアルミノケイ酸塩を基材にウォッシュコートし、一晩乾燥し、少なくとも約550℃の温度でか焼する、ゼオライト材、交換銅、及び、1.35重量パーセントのセリウムを含み、前記セリウムが、交換セリウムイオン、単量体セリア、オリゴマーセリア及びそれらの組み合わせから選択される形態で存在する、触媒組成物の作製方法。」
(引用3発明2)
「引用3発明1の作製方法によって得られた、ゼオライト材、交換銅、及び、1.35重量パーセントのセリウムを含み、前記セリウムが、交換セリウムイオン、単量体セリア、オリゴマーセリア及びそれらの組み合わせから選択される形態で存在する、触媒組成物。」
イ 本件発明3について
(ア) 本件発明3と引用3発明1とを対比すると、本件発明3では、「Ce、La、Nd及びPrよりなる群から選択される少なくとも1種以上の希土類元素の可溶性無機酸塩(但し、酢酸塩を除く。)の水溶液」「が含浸した前記ゼオライトを400℃以上650℃以下の温度範囲で熱処理して」、「前記ゼオライトの骨格を形成するAl原子及び/又はSi原子の一部が前記希土類元素に置換されている」のに対して、引用3発明1では、「SARが17のCHAフレームワークを有し、交換銅を含むアルミノケイ酸塩に、初期湿潤法を用いて硝酸Ceを含浸させた後、このアルミノケイ酸塩を基材にウォッシュコートし、一晩乾燥し、少なくとも約550℃の温度でか焼」して、「ゼオライト材、交換銅、及び、1.35重量パーセントのセリウムを含み、前記セリウムが、交換セリウムイオン、単量体セリア、オリゴマーセリア及びそれらの組み合わせから選択される形態で存在する、触媒組成物」としている点で少なくとも相違している(以下、この相違点を「相違点5」という。)。
(イ) 相違点5について検討すると、前記(4)イの相違点1に対する検討と同様に、相違点5は実質的な相違点であるし、また、引用3発明1において、相違点5に係る本件発明3の構成とすることは、当業者にとって容易想到の事項といえない。
(ウ) したがって、その余の点を検討するまでもなく、本件発明3は、引用文献3に記載された発明、引用文献1、2、4、5に記載された事項、及び、周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
ウ 本件発明4について
本件発明4は、本件発明3の全ての特定事項を含むものであるから、前記イで検討したのと同様の理由により、本件発明4は、引用文献3に記載された発明、引用文献1、2、4、5に記載された事項、及び、周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
エ 本件発明2について
(ア) 本件発明2と引用3発明2とを対比すると、本件発明2は、「前記ゼオライトの骨格を形成するAl原子及び/又はSi原子の一部が前記希土類元素に置換されている」「希土類元素骨格置換ゼオライト」であるのに対して、引用3発明2は、「ゼオライト材、交換銅、及び、1.35重量パーセントのセリウムを含み、前記セリウムが、交換セリウムイオン、単量体セリア、オリゴマーセリア及びそれらの組み合わせから選択される形態で存在する、触媒組成物」である点で少なくとも相違している(以下、この相違点を「相違点6」という。)。
(イ) 相違点6について検討すると、前記(4)エの相違点2に対する検討と同様に、相違点6は実質的な相違点であるし、また、引用3発明2において、相違点6に係る本件発明2の構成とすることは、当業者にとって容易想到の事項といえない。
(ウ) したがって、その余の点を検討するまでもなく、本件発明2は、引用文献3に記載された発明、引用文献1、2、4、5に記載された事項、及び、周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
オ 本件発明5~8について
本件発明5~8は、本件発明2の全ての特定事項を含むものであるから、前記エで検討したのと同様の理由により、本件発明5~8は、引用文献3に記載された発明、引用文献1、2、4、5に記載された事項、及び、周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
カ 取消理由6及び申立理由3についてのまとめ
以上のとおりであるから、取消理由6及び申立理由3に理由はない。
(7) 取消理由7(引用文献4を主たる証拠とした進歩性欠如)について
ア 引用文献4に記載された発明(引用4発明1、引用4発明2)
(ア) 引用文献4の実施例1には、前記3(4)イによれば、Pdを担持したZSM-5型ゼオライトに、Pr、Ce又はLaを添加したNOx触媒が記載されており(【0055】、【0060】)、その製造方法は、前記3(4)アによれば、「触媒粉末調製工程では」、「具体的には、イオン交換水に分散させたゼオライトに対して、Pd化合物及び添加元素化合物を加えて混合する。混合後、減圧乾燥することにより、乾燥された触媒粉末を得る」こと、「Pd化合物としては、例えば、硝酸Pdが用いられる」こと、「添加元素化合物としては、例えば、硝酸Ce、硝酸Pr」、「硝酸La」が「用いられる」こと、及び、「触媒粉末焼成工程では、触媒粉末調製工程で調製された触媒粉末を、例えば500~700℃で焼成する」ことが記載されている(【0045】、【0046】)。
(イ) これらの記載事項を「NOx触媒の製造方法」、「NOx触媒」に注目して整理すると、引用文献4には、次の「NOx触媒の製造方法」に係る発明(以下、「引用4発明1」という。)、及び、「NOx触媒」に係る発明(以下、「引用4発明2」という。)が記載されていると認められる。
(引用4発明1)
「イオン交換水に分散させたZSM-5型ゼオライトに、硝酸Pd、及び、硝酸Ce、硝酸Pr又は硝酸Laを加えて混合し、混合後、減圧乾燥することにより、乾燥された触媒粉末を得て、500~700℃で焼成する、Pdを担持したZSM-5型ゼオライトに、Pr、Ce又はLaを添加したNOx触媒の製造方法。」
(引用4発明2)
「引用4発明1の製造方法によって得られた、Pdを担持したZSM-5型ゼオライトに、Pr、Ce又はLaを添加したNOx触媒。」
イ 本件発明3について
(ア) 本件発明3と引用4発明1とを対比すると、本件発明3では、「Ce、La、Nd及びPrよりなる群から選択される少なくとも1種以上の希土類元素の可溶性無機酸塩(但し、酢酸塩を除く。)の水溶液」「が含浸した前記ゼオライトを400℃以上650℃以下の温度範囲で熱処理して」、「前記ゼオライトの骨格を形成するAl原子及び/又はSi原子の一部が前記希土類元素に置換されている」のに対して、引用4発明1では、「イオン交換水に分散させたZSM-5型ゼオライトに」、「硝酸Ce、硝酸Pr又は硝酸Laを加えて混合し、混合後、減圧乾燥することにより、乾燥された触媒粉末を得て、500~700℃で焼成」して、「Pdを担持したZSM-5型ゼオライトに、Pr、Ce又はLaを添加したNOx触媒」としている点で少なくとも相違している(以下、この相違点を「相違点7」という。)。
(イ) 相違点7について検討すると、前記(4)イの相違点1に対する検討と同様に、相違点7は実質的な相違点であるし、また、引用4発明1において、相違点7に係る本件発明3の構成とすることは、当業者にとって容易想到の事項といえない。
(ウ) したがって、その余の点を検討するまでもなく、本件発明3は、引用文献4に記載された発明、引用文献1~3、5に記載された事項、及び、周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
ウ 本件発明4について
本件発明4は、本件発明3の全ての特定事項を含むものであるから、前記イで検討したのと同様の理由により、本件発明4は、引用文献4に記載された発明、引用文献1~3、5に記載された事項、及び、周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
エ 本件発明2について
(ア) 本件発明2と引用4発明2とを対比すると、本件発明2は、「前記ゼオライトの骨格を形成するAl原子及び/又はSi原子の一部が前記希土類元素に置換されている」「希土類元素骨格置換ゼオライト」であるのに対して、引用4発明2は、「Pdを担持したZSM-5型ゼオライトに、Pr、Ce又はLaを添加したNOx触媒」である点で少なくとも相違している(以下、この相違点を「相違点8」という。)。
(イ) 相違点8について検討すると、前記(4)エの相違点2に対する検討と同様に、相違点8は実質的な相違点であるし、また、引用4発明2において、相違点8に係る本件発明2の構成とすることは、当業者にとって容易想到の事項といえない。
(ウ) したがって、その余の点を検討するまでもなく、本件発明2は、引用文献4に記載された発明、引用文献1~3、5に記載された事項、及び、周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
オ 本件発明5~8について
本件発明5~8は、本件発明2の全ての特定事項を含むものであるから、前記エで検討したのと同様の理由により、本件発明5~8は、引用文献4に記載された発明、引用文献1~3、5に記載された事項、及び、周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
カ 取消理由7についてのまとめ
以上のとおりであるから、取消理由7に理由はない。
(8) 取消理由8及び申立理由4(拡大先願同一)について
ア 先願明細書等に記載された発明(先願発明)
(ア) 先願明細書等には、前記3(5)アに摘記したとおり、「原料としてのCHA型ゼオライトと酢酸銅と酢酸セリウムを混合して混合粉末として、前記混合粉末を300~800℃で加熱することによって、CuイオンとCeイオンを同時にイオン交換することを特徴とする、CuとCeがイオン交換されたゼオライトの製造方法」が記載されており、その具体例として、前記3(5)エによれば、「種結晶としてSSZ-13」を用いて「ゼオライトを合成」した後に「H+型ゼオライト」とし、「上記で得られたH+型ゼオライトに対し、Cu量が3.68重量%となるように、酢酸銅(II)を混合し、Ce量が5.0重量%となるように、酢酸セリウム(III)を混合して」、「混合粉末の水分量」が「20重量%」である「混合粉末を得」て、「得られた混合粉末を」、「加熱温度」が「700℃」で「加熱処理に施し」、「Cu及びCeでイオン交換されたCHA型ゼオライトを製造した」ことが記載されている。
さらに、上記具体例では、「混合粉末の水分量」が「20重量%」であるところ、先願明細書等には、前記3(5)イに摘記したとおり、「CHA型ゼオライトは通常粉末である。酢酸銅としては粉末、酢酸銅の溶液のいずれも使用することができる。酢酸セリウムとしては粉末、酢酸セリウムの溶液のいずれも使用することができる」ことが記載されていることからして、上記具体例の「酢酸銅(II)」及び「酢酸セリウム(III)」は、いずれも水溶液として、H+型ゼオライトと混合されたものといえる。
また、先願明細書等には、前記3(5)ウによれば、加熱処理の加熱温度は400~800℃が好ましいことも記載されている。
(イ) これらの記載事項を「CHA型ゼオライトの製造方法」に注目して整理すると、先願明細書等には、次の「CHA型ゼオライトの製造方法」に係る発明(以下、「先願発明」という)が記載されていると認められる。
(先願発明)
「H+型のCHA型ゼオライトに対し、Cu量が3.68重量%となるように、酢酸銅(II)水溶液を混合し、Ce量が5.0重量%となるように、酢酸セリウム(III)水溶液を混合して、水分量が20重量%である混合粉末を得て、得られた混合粉末を、加熱温度400~800℃で加熱処理を施す、Cu及びCeでイオン交換されたCHA型ゼオライトの製造方法。」
イ 本件発明3について
本件発明3と先願発明とを対比すると、本件発明3では、「Ce、La、Nd及びPrよりなる群から選択される少なくとも1種以上の希土類元素の可溶性無機酸塩(但し、酢酸塩を除く。)の水溶液」を使用しているのに対して、先願発明では、「酢酸セリウム(III)水溶液」を使用している点で少なくとも相違している(以下、この相違点を「相違点9」という。)。
そして、当該相違点9は実質的なものであるし、具体化する際の微差程度の事項であるともいえない。
よって、本件発明3は、先願明細書等に記載された発明と同一の発明であるといえない。
ウ 本件発明5~8について
申立理由4は、設定登録時の請求項1の記載を引用する請求項5~8に係る発明に対してされたものであるところ、前記第2のとおり、請求項5~8における選択的引用請求項から請求項1は削除された。
よって、本件発明5~8は、先願明細書等に記載された発明と同一の発明であるといえない。
エ 取消理由8及び申立理由4についてのまとめ
以上のとおりであるから、取消理由8及び申立理由4に理由はない。
第4 むすび
以上のとおりであるから、本件特許の請求項2~8に係る特許は、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由、及び、取消理由通知書に記載した取消理由によっては、取り消すことができない。また、他に当該請求項2~8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、請求項1に係る特許は、前記第2のとおり、訂正により削除された。これにより、請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2022-700402