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特許異議申立

2022-700700

C/Cコンポジット及びその製造方法、並びに熱処理用治具及びその製造方法

審判番号
2022-700700
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2021-544566
登録番号
7005822
請求日
2022年07月22日
審決日
2023年06月15日
公報発行日
2023年09月29日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】東洋炭素株式会社
  • 【権利者代理人】弁理士法人大阪フロント特許事務所
  • 【異議申立人】山田 芳男
審判長/審判官
  • 審判長 原 賢一
  • 審判官 松井 裕典
  • 審判官 金 公彦
分類
P1652.113-YAA(C04B) / P1652.121-YAA(C04B) / P1652.536-YAA(C04B) / P1652.537-YAA(C04B)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第1項、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の8第1項
データ出所
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特許第7005822号発明「C/Cコンポジット及びその製造方法、並びに熱処理用治具及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7005822号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲とおり、訂正後の請求項〔1~12、14~17〕について訂正することを認める。 特許第7005822号の請求項1、4~12に係る特許を維持する。 特許第7005822号の請求項2~3に係る特許についての異議申立てを却下する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7005822号の請求項1~24に係る特許についての出願は、2021年(令和 3年) 4月 9日(優先権主張 令和 2年 4月10日)を国際出願日とする国際出願であり、令和 4年 1月 7日にその特許権の設定登録がされ、同年同月24日に特許公報が発行され、その後、同年 7月22日に、その請求項1~12に係る特許を対象として、特許異議申立人山田 芳男(以下、「異議申立人」という。)により、特許異議の申立てがなされ、同年11月 1日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である令和 5年 1月 6日に特許権者より意見書の提出及び訂正の請求があり、これに対し、当審より同年同月24日付けで手続補正指令(方式)が通知され、その指定期間内である同年 2月21日に特許権者より手続補正書の提出があったものである。 なお、当審は異議申立人に、上記訂正請求があった旨を通知し、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、申立人はそれに対し応答しなかった。 第2 訂正の適否 1 訂正事項 上記令和 5年 1月 6日に請求された訂正の請求(以下、この訂正を「本件訂正」という。)は、本件特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~12、14~17について訂正することを求めるものであって、その具体的な訂正事項は次のとおりである。(下線は訂正箇所を示す。) (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に「水銀ポロシメトリーによる開気孔測定において、気孔半径0.4μm以上、10μm未満の開気孔率が、2.0%以下である、C/Cコンポジット。」とあるのを「水銀ポロシメトリーによる開気孔測定において、気孔半径0.4μm以上、10μm未満の開気孔率が、2.0%以下であり、 繊維方向における開気孔が、繊維方向と直交する方向における開気孔よりも多くなっている、C/Cコンポジット。」に訂正する。 (請求項1を直接又は間接的に引用する請求項4~12、14~17についても同様に訂正する。) (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項2を削除する。 (請求項2を直接又は間接的に引用する請求項4~12、14~17についても同様に訂正する。) (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項3を削除する。 (請求項3を直接又は間接的に引用する請求項4~12、14~17についても同様に訂正する。) (4)訂正事項4 特許請求の範囲の請求項4に「請求項1~3のいずれか1項」とあるのを「請求項1」に訂正する。 (請求項4を直接又は間接的に引用する請求項5~12、14~17についても同様に訂正する。) (5)訂正事項5 特許請求の範囲の請求項5に「請求項1~4のいずれか1項」とあるのを「請求項1又は4」に訂正する。 (請求項5を直接又は間接的に引用する請求項6~12、14~17についても同様に訂正する。) (6)訂正事項6 特許請求の範囲の請求項6に「請求項1~5のいずれか1項」とあるのを「請求項1、4、及び5のいずれか1項」に訂正する。 (請求項6を直接又は間接的に引用する請求項7~12、14~17についても同様に訂正する。) (7)訂正事項7 特許請求の範囲の請求項11に「請求項1~10のいずれか1項」とあるのを「請求項1及び4~10のいずれか1項」に訂正する。 (請求項11を直接又は間接的に引用する請求項12、14~17についても同様に訂正する。) (8)訂正事項8 特許請求の範囲の請求項12に「請求項1~11のいずれか1項」とあるのを「請求項1及び4~11のいずれか1項」に訂正する。 (請求項12を直接又は間接的に引用する請求項14~17についても同様に訂正する。) 2 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の在否 (1)訂正事項1について ア 目的の適否、特許請求の範囲の拡張・変更の在否 訂正事項1は、C/Cコンポジットが有している開気孔について「繊維方向における開気孔が、繊維方向と直交する方向における開気孔よりも多くなっている」ことを限定する訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。 そして、上記訂正は特許請求の範囲の減縮を行う訂正であるので、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 イ 新規事項の有無 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件特許明細書等」という。)の特許請求の範囲の請求項3に「繊維方向における開気孔が、繊維方向と直交する方向における開気孔よりも多くなっている」と記載されていることから、訂正事項1は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。 (2)訂正事項2及び3について 訂正事項2及び3は、訂正前の請求項2及び3を、それぞれ削除するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (3)訂正事項4~8について 訂正事項4~8は、請求項4~6、11~12が、それぞれ引用する請求項数の削減を行うものであると共に、訂正事項2及び3により請求項2及び3が削除されたことに整合させるため、請求項4~6、11~12がそれぞれ請求項2及び3を引用しないようにするものであるから、「特許請求の範囲の減縮」及び「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 3 独立特許要件 本件においては、本件訂正前の請求項1~12に係る特許について特許異議の申立てがされているので、訂正前の請求項1~12に係る訂正事項1~8に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。 一方、本件訂正前の請求項14~17に係る特許については、特許異議の申立てがされておらず、そして、少なくとも、訂正前の請求項1を間接的に引用する請求項14~17に係る訂正事項1に関しては、上記2(1)アのとおり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当するため、同法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件が課される。 しかしながら、後記第5のとおり、本件訂正後の請求項1に係る発明は特許異議申立理由及び当審の取消理由により取り消されるものではなく、特許を維持することができる発明であることから、本件訂正後の請求項1を間接的に引用し、訂正後の請求項1に係る発明をさらに限定した本件訂正後の請求項14~17に係る発明は、訂正後の請求項1に係る発明と同様に、特許異議申立理由及び当審の取消理由により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものではない。また、他に本件訂正後の請求項14~17に係る発明が、特許出願の際、独立して特許を受けることができないとする理由もない。そうすると、本件訂正後の請求項14~17に係る発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができる発明である。 4 小括 本件訂正は、特許法第120条の5第4項の規定に従い、一群の請求項を構成する請求項〔1~12、14~17〕について訂正することを求めるものであるところ、上記2及び3のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものに該当し、且つ、同条第9項において読み替えて準用する同法第126条第5項~第7項の規定に適合するものであるから、訂正後の請求項〔1~12、14~17〕について訂正することを認める。 第3 本件発明 上記第2のとおり、本件訂正は容認し得るものであるから、異議申立ての対象及び独立特許要件の判断の対象である本件訂正後の請求項1~12、14~17に係る発明(以下、各請求項に係る発明及び特許を項番に対応させて「本件発明1」、「本件特許1」などといい、併せて「本件発明」、「本件特許」ということがある。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1~12、14~17に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 水銀ポロシメトリーによる開気孔測定において、気孔半径0.4μm以上、10μm未満の開気孔率が、2.0%以下であり、 繊維方向における開気孔が、繊維方向と直交する方向における開気孔よりも多くなっている、C/Cコンポジット。 【請求項2】 (削除) 【請求項3】 (削除) 【請求項4】 画像解析により求めた炭素繊維体積含有率が、58%以上、74%以下である、請求項1に記載のC/Cコンポジット。 【請求項5】 メソフェーズピッチ系炭素繊維により構成されている、請求項1又は4のいずれか1項に記載のC/Cコンポジット。 【請求項6】 開気孔の少なくとも一部が、緻密化物質により緻密化されている、請求項1、4、及び5のいずれか1項に記載のC/Cコンポジット。 【請求項7】 前記緻密化物質の少なくとも一部が、CVI処理に由来する炭素である、請求項6に記載のC/Cコンポジット。 【請求項8】 前記緻密化物質の少なくとも一部が、炭化ケイ素である、請求項6又は7に記載のC/Cコンポジット。 【請求項9】 前記緻密化物質の少なくとも一部が、ピッチ又は熱硬化性樹脂に由来する炭素質物質である、請求項6~8のいずれか1項に記載のC/Cコンポジット。 【請求項10】 前記緻密化物質の少なくとも一部が、リン酸アルミニウム、又はリン酸アルミニウム及び酸化アルミニウムの混合物である、請求項6~9のいずれか1項に記載のC/Cコンポジット。 【請求項11】 炭素繊維が一方向に配向しており、かつ引き抜き成形体由来である、請求項1及び4~10のいずれか1項に記載の一方向C/Cコンポジット。 【請求項12】 請求項1及び4~11のいずれか1項に記載のC/Cコンポジットにより構成されている、熱処理用治具。 ・・・ 【請求項14】 オイルクエンチに用いられる、請求項12又は13に記載の熱処理用治具。 【請求項15】 ガスクエンチに用いられる、請求項12又は13に記載の熱処理用治具。 【請求項16】 コーナー部が、組継ぎ接合をピンにより固定した構造を有する、請求項12~15のいずれか1項に記載の熱処理用治具。 【請求項17】 コーナー部が、2DC/Cコンポジットにより補強されている、請求項12~16のいずれか1項に記載の熱処理用治具。」 第4 令和 4年11月 1日付けで通知した取消理由、及びこの取消理由において採用しなかった異議申立人による特許異議の申立理由の概要 1 令和 4年11月 1日付けで通知した取消理由の概要 (1)特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反)(取消理由1) ア 訂正前の請求項1、3~12に係る発明は、後記第5の1(1)アの点で特許請求の範囲の記載が不備のため、その特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 イ 訂正前の請求項2~12に係る発明は、特許請求の範囲の記載が不備のため、その特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 (2)特許法第36条第4項第1号所定の規定違反(実施可能要件違反)(取消理由2) ア 訂正前の請求項1、3~12に係る発明は、後記第5の2(1)アの点で発明の詳細な説明の記載が不備のため、その特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 イ 訂正前の請求項2~12に係る発明は、発明の詳細な説明の記載が不備のため、その特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 (3)特許法第36条第6項第2号所定の規定違反(明確性要件違反)(取消理由3) 訂正前の請求項2~12に係る発明は、特許請求の範囲の記載が不備のため、その特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 (4)特許法第29条第1項第3号所定の規定違反(新規性欠如)(取消理由4) 訂正前の請求項1に係る発明は、下記2に記載の甲第6号証(下記2に記載の甲第8~9号証を参考とする。)に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、その特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものである。 (5)特許法第29条第2項所定の規定違反(進歩性欠如)(取消理由5) 訂正前の請求項1、5、12に係る発明は、下記2に記載の甲第6号証に記載された発明及び甲第8~9号証に記載される技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 2 取消理由において採用しなかった異議申立人による特許異議の申立理由の概要 (1)特許法第36条第6項第2号所定の規定違反(明確性要件違反)(申立理由1) ア 訂正前の請求項1、5~12に係る発明は、後記第5の4(1)アの点で特許請求の範囲の記載が不備のため、その特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。(下記に記載の甲第1~5号証を引用している。) イ 訂正前の請求項1、5~12に係る発明は、後記第5の4(2)アの点で特許請求の範囲の記載が不備のため、その特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 ウ 訂正前の請求項3、5~12に係る発明は、後記第5の4(3)アの点で特許請求の範囲の記載が不備のため、その特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 エ 訂正前の請求項4~12に係る発明は、後記第5の4(4)アの点で特許請求の範囲の記載が不備のため、その特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 (2)特許法第29条第1項第3号所定の規定違反(新規性欠如)(申立理由2) ア 訂正前の請求項1に係る発明は、下記に記載の甲第6号証(下記に記載の甲第10~11号証を参考とする。)に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、その特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものである。 イ 訂正前の請求項2に係る発明は、下記に記載の甲第7号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、その特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものである。 (3)特許法第29条第2項所定の規定違反(進歩性欠如)(申立理由3) ア 訂正前の請求項1、6~9に係る発明は、下記に記載の甲第6号証に記載された発明及び甲第8~11号証に記載される技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 イ 訂正前の請求項2、6~9に係る発明は、下記に記載の甲第7号証に記載された発明及び甲第6、8~10号証に記載される技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 記 甲第1号証:”AutoPore IV 9500 Operator's Manual Rev A”,micromeritics,2015年10月,第1頁,[online],インターネット<URL:https://www.micromeritics.com/Repository/Files/AutoPore_IV_9500_Operator_Manual_Rev_A_Oct_2015.pdf> 甲第2号証:”【技術資料】乾燥剤の細孔分布測定”,株式会社東ソー分析センター,2019年1月12日,第1~2頁,[online],インターネット<URL:http://www.tosoh-arc.co.jp/techrepo/files/tarc00606/pdf/T1838Y.pdf> 甲第3号証:福田義民,他2名,”水銀ポロシメータによる細孔分布の測定”,東京大学生産技術研究所,生産研究,1961年7月1日,第13巻,第7号,第231~235頁,[online],インターネット<URL:https://repository.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/record/23161/files/sk013007003.pdf> 甲第4号証:高橋学,林為人,”水銀圧入式ポロシメータで得られる情報と測定の問題点”,資源と炭素,2004年8月25日,第120巻,第8号,第455~460頁,[online],インターネット<URL:https://www.jstage.jst.go.jp/article/shigentosozai/120/8/120_8_455/_pdf> 甲第5号証:”POREMASTER automated mercury porosimeters”,Quantachrome Corporation,最新更新日:2018年7月11日,第1~7頁,[online],インターネット<URL:https://www.quantachrome.com/pdf_brochures/07128.pdf> 甲第6号証:大澤善美,“CVI法による炭素系複合材料の作製”,炭素,2006年,NO.222,第130~139頁,[online],インターネット<URL:https://www.jstage.jst.go.jp/article/tanso1949/2006/222/2006_222_130/_pdf> 甲第7号証:”KRECA”株式会社クレハ,作成日:2019年3月31日,最新更新日:2020年2月7日,[online],インターネット<URL:https://www.kureha.co.jp/business/material/pdf/KRECA_jpn.pdf> 甲第8号証:曽我部敏明,“ピッチ系炭素繊維の現状と将来”,炭素繊維協会,第31回複合材料セミナー資料,2018年2月26日開催,[online],インターネット<URL:https://www.carbonfiber.gr.jp/pdf/31th_seminar_Pitch.pdf> 甲第9号証:菅原利夫,田中義和,“炭素繊維強化炭素複合材料(C/Cコンポジット)”,繊維学会誌,1993年5月10日,第49巻,第5号,第183~189頁,[online],インターネット<URL:https://www.jstage.jst.go.jp/article/fiber1944/49/5/49_5_P183/_pdf/> 甲第10号証:長沖通,富永洋一郎,”熱分解炭素”,1970年,第1970巻,第63号,第131-137頁,[online],インターネット<URL:https://www.jstage.jst.go.jp/article/tanso1949/1970/63/1970_63_131/_pdf-char/ja> 甲第11号証:大澤善美,他3名,”パルスCVI法により多孔質基質内に析出した熱分解炭素の構造と電気化学的特性”,愛知工業大学研究報告第53号,平成30年,第70~74頁,[online],インターネット<URL:http://repository.aitech.ac.jp/dspace/bitstream/11133/3295/1/%E7%B4%80%E8%A6%8153%E5%8F%B7%28p70-p74%29.pdf> (以下、甲第1号証を略して、「甲1」などという。) 第5 当審の判断 当審は、上記取消理由1~5及び申立理由1~3のいずれにも理由がないと判断する。 以下、その理由について詳述する。 1 取消理由1(サポート要件違反)について (1)第4の1(1)アの理由について ア 第4の1(1)アの理由の概要 第4の1(1)アの理由の概要は以下のとおりである。 本件明細書によれば、「オイルクエンチの場合は、熱処理用治具を構成するC/Cコンポジットに油が浸み込んでしまうという問題がある」(【0005】)ところ、先行技術においては、「気孔に有機物を含浸させて炭素化する方法や、CVI(化学気相含浸)法により気孔を炭素で充填する方法では、油の浸み込みをなお十分に抑制することができないという問題」が、また、「シリコンを含浸させる場合においても、炭化ケイ素化の際に体積変化を生じたり、残留したシリコンと、C/Cコンポジット又は炭化ケイ素化したC/Cコンポジットとの熱膨張差により、クラックが発生したりする場合があ」り、「そのため、内部の気孔を十分に減らすことができず、油の浸み込みをなお十分に抑制することができないという問題」が、それぞれ存在し(【0008】)、その結果として、「オイルクエンチによってC/Cコンポジットに油が浸み込んだ場合、焼き入れ後の焼き戻し工程や次回の焼き入れ工程の加熱の際、C/Cコンポジット中に残留した油によって油煙が発生したり、被処理物が着色するなど、製造環境や被処理物の品質に悪影響を及ぼすことがあ」り(【0009】)、また、「ガスクエンチなどの他の急冷方法の場合においても、酸化消耗により、C/Cコンポジットの機械的特性が劣化することがあり、長寿命化も難しいという問題がある」(【0010】)との事情に鑑みて、本件発明は、「加熱工程及び冷却工程を含む環境において、長寿命であり、かつ周辺設備や被処理物の品質に悪影響を及ぼし難い、C/Cコンポジット」を提供すること(【0011】)を課題とするものであることが理解できる。 一方、訂正前の請求項1に係る発明においては、「水銀ポロシメトリーによる開気孔測定において、気孔半径0.4μm以上、10μm未満の開気孔率が、2.0%以下である」と特定されているものの、気孔半径が「10μm」以上の開気孔率について何ら特定されていないから、本件発明1は、「気孔半径0.4μm以上、10μm未満の開気孔率が、2.0%以下である」ものの、気孔半径が「10μm」以上の開気孔が存在するC/Cコンポジットをも包含するものと解される。そして、そのようなC/Cコンポジットでは、オイルクエンチにおいて、気孔半径が「10μm」以上の開気孔への油の浸み込みが生じないということは通常考えられないから、本件発明1は、上記課題のうち、「周辺設備や被処理物の品質に悪影響を及ぼし難い、C/Cコンポジット」を提供するとの課題を解決できない場合をも包含し得る。 そうすると、訂正前の請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が本願発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえないし、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし訂正前の請求項1に係る発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるともいえない。 そして、訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用する訂正前の請求項3~12に係る発明について検討しても事情は同じである。 イ 第4の1(1)アの理由に関する当審の判断 (ア) サポート要件の判断手法 特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 (イ) 本件発明1に係る発明の課題について 本件発明1の課題は、上記(1)アに記載したように、「加熱工程及び冷却工程を含む環境において、長寿命であり、かつ周辺設備や被処理物の品質に悪影響を及ぼし難い、C/Cコンポジット」を提供することである。 (ウ) 本件発明1の課題を解決することができることに関する発明の詳細な説明の記載について 本件明細書【0004】~【0006】の「1000℃程度に加熱後、急冷する焼き入れ処理が広く行われている。・・・気体による急冷(ガスクエンチ)や、油による急冷(オイルクエンチ)などが知られている。なかでも、オイルクエンチの場合は、熱処理用治具を構成するC/Cコンポジットに油が浸み込んでしまうという問題がある。」との記載及び【0009】の「オイルクエンチによってC/Cコンポジットに油が浸み込んだ場合、焼き入れ後の焼き戻し工程や次回の焼き入れ工程の加熱の際、C/Cコンポジット中に残留した油によって油煙が発生したり、被処理物が着色するなど、製造環境や被処理物の品質に悪影響を及ぼす」との記載からすれば、焼き入れ処理における急冷の際、C/Cコンポジットに油が浸み込むと、製造環境や被処理物の品質に悪影響を及ぼす、言い換えれば、製造環境や被処理物の品質に悪影響を及ぼさないためには、急冷の際、C/Cコンポジットに油が浸み込まない必要があることが理解できる。 また、【0010】の「酸化消耗により、C/Cコンポジットの機械的特性が劣化することがあり、長寿命化も難しい」との記載及び【0063】の「焼成後のUDC/Cコンポジットでは、開気孔径を小さく、また開気孔率も少なくすることが可能である。・・・上記のような気孔特性を有するUDC/Cコンポジットは、繊維方向の機械的特性が優れるだけでなく、表面積が少ないことから、耐酸化性にも優れる。」によれば、C/Cコンポジットの長寿命化のためには酸化消耗を防ぐ必要があり、これにはC/Cコンポジットの開気孔率を少なくすることで表面積を少なくし耐酸化性を達成できる、つまり、耐酸化性を高め長寿命化をはかるためには、C/Cコンポジットの開気孔率を少なくする必要があることが理解できる。 そして、本件明細書の【0043】には「本発明者らは、第1の発明において、C/Cコンポジットにおける気孔半径0.4μm以上、10μm未満の開気孔率に着目し、この範囲における開気孔率がオイルクエンチにおける油の浸み込みと相関があることを見出した。すなわち、C/Cコンポジットにおける気孔半径0.4μm以上、10μm未満の開気孔率を2.0%以下とすることにより、オイルクエンチによる油の浸み込みを効果的に抑制できることを見出した。また、この場合、C/Cコンポジットの酸化消耗を効果的に抑制できることからガスクエンチにおいても適していることを見出した。」との記載が、【0055】には「本発明者らは、第3の発明において、炭素繊維が一方向に配向しており、かつ引き抜き成形体由来である、一方向C/Cコンポジットに着目した。このような一方向C/Cコンポジットを用いることにより、C/Cコンポジットの気孔半径0.4μm以上、10μm未満の開気孔率を小さくすることができ、オイルクエンチによる油の浸み込みを効果的に抑制できることを見出した。また、この場合、ガスクエンチにおいても、C/Cコンポジットの酸化消耗を効果的に抑制できることを見出した。」との記載が、【0063】及び【0064】には「図1に示すように、UDC/Cコンポジットでは、Y方向(繊維方向)には連続した炭素繊維が存在するため収縮し難いが、X方向及びZ方向には連続した炭素繊維が存在しないため収縮が可能である。そのため、XZ面、YZ面に大きな気孔やクラックは観察されない。従って、図2及び図3に写真で示すように、焼成後のUDC/Cコンポジットでは、開気孔径を小さく、また開気孔率も少なくすることが可能である。このような気孔特性を有するUDC/Cコンポジットは、油の浸み込みを大きく削減可能である。また、上記のような気孔特性を有するUDC/Cコンポジットは、繊維方向の機械的特性が優れるだけでなく、表面積が少ないことから、耐酸化性にも優れる。・・・UDC/Cコンポジットにおいては、気孔が形成される場合、繊維方向に沿って形成されるため、多くの気孔端面の露出はXZ面のみで発生し、XY面、YZ面では発生しないことが多い。このため、発生した気孔は、緻密化処理で比較的容易に封孔処理することができ、より一層効果的に油の浸み込みを削減できる。また、より一層効果的に酸化消耗も抑制することができる。」との記載があり、これら記載からは、引き抜き成形体由来である一方向C/Cコンポジット(以下「UDC/C」という。)では、気孔が繊維方向に沿って形成されるため、XZ面、YZ面に大きな気孔やクラックが存在しなくなることにより気孔半径0.4μm以上、10μm未満の開気孔率を含め開気孔全体の開気孔率を小さくすることができ、特に、「気孔半径0.4μm以上、10μm未満の開気孔率を2.0%以下」を満たす場合に、「油の浸み込みを効果的に抑制」でき、且つ、「酸化消耗を効果的に抑制できる」ということがわかる。 さらに実施例として、【0103】~【0104】には「(実施例1)PAN系24k高強度炭素繊維(弾性率230GPa、引張り強度5GPa、繊度1.65g/m、真密度1.82g/cm3)から成るトウ380本を引き揃え、レゾール型フェノール樹脂(不揮発分60%、炭素収率70%)に含浸したものを用いて、100mm×5mmの開口部を有する長さ1.5mの金型を170℃で保ちながら0.4m/分の速度で引き抜き成形を行い、得られた平板成形体を1mの長さに切断した・・・得られた平板成形体を窒素雰囲気中にて1000℃の温度で初期焼成を行った。次いで、ピッチ(軟化点80℃、QI成分5%以下)を1MPaの加圧下で含浸させ、再度窒素雰囲気中にて1000℃の温度の熱処理を行った。次いで窒素雰囲気中にて2000℃の熱処理を行い、実施例1のUDC/Cを得た。」との記載があり、【表1】 「 [図:0001401636000001.jpg] 」 には、実施例1~25、比較例1~7、9~10についての測定結果が示されている。 高強度繊維から成るトウを引き揃えた上で引き抜き成形を行っているUDC/Cである実施例1~8、10~25、及び、比較例1~7、9~10の測定結果からは、「気孔半径0.4μm以上、10μm未満の開気孔率が、2.0%以下」を満たす実施例1~8、10~25では油浸み込み量が最大でも実施例16の2.9体積%となっている一方、「気孔半径0.4μm以上、10μm未満の開気孔率」が2.0%を超えている比較例1~7、9~10では、油浸み込み量が3.2~11.1体積%と、いずれも前述の2.9体積%を上回る値となっており、【0043】の「C/Cコンポジットにおける気孔半径0.4μm以上、10μm未満の開気孔率を2.0%以下とすることにより、オイルクエンチによる油の浸み込みを効果的に抑制できることを見出した」との記載が裏付けられていることが理解できる。 また、前述のように、気孔が繊維方向に沿って形成されるため、XZ面、YZ面に大きな気孔やクラックが存在しなくなるUDC/Cなどで作られたものであれば大きい孔、すなわち10μm以上の開気孔率が少ないといえることから、この範囲で開気孔による油の浸み込みの影響はそれほどないといえる。さらに、実施例17及び23に着目すると、両者とも「気孔半径0.4μm以上、10μm未満の開気孔率」が同数なのに対し、「気孔半径10μm以上の開気孔率」が実施例17では1.9体積%、実施例23では3.2体積%と、実施例23の方が開気孔率が大きいが、油浸み込み量は両者とも0.0体積%である。このことから、「気孔半径10μm以上の開気孔率」が増えても油浸み込みが生じるとは限らないことが理解できる。 以上によれば、本件明細書の発明の詳細な説明によれば上記(イ)の発明の課題である「加熱工程及び冷却工程を含む環境において、長寿命であり、かつ周辺設備や被処理物の品質に悪影響を及ぼし難い」C/Cコンポジットを提供するには、焼き入れ処理における急冷の際、油の浸み込みがないように、且つ、開気孔率を少なくして耐酸化性を高めるために、気孔が繊維方向に沿って形成されるUDC/CであるC/Cコンポジットであって、「気孔半径0.4μm以上、10μm未満の開気孔率が、2.0%以下」を満たすC/Cコンポジットであることが肝要であるといえる。 (エ)本件明細書の発明の詳細な説明に記載される本件発明の課題を解決することができると認識できる範囲と本件発明1の対比 上記(ウ)で述べたように、気孔が繊維方向に沿って形成されるUDC/Cであって、且つ、「気孔半径0.4μm以上、10μm未満の開気孔率が、2.0%以下」を満たすC/Cコンポジットであれば、上記(イ)の本件発明の課題を解決することができると理解できる。 一方、本件発明1は、「繊維方向における開気孔が、繊維方向と直交する方向における開気孔よりも多」いとの特定があるところ、ここで繊維方向を特定できるということは、気孔が繊維方向に沿って形成されるUDC/Cを実施的に意味しているといえる。また「気孔半径0.4μm以上、10μm未満の開気孔率が、2.0%以下」という点は、発明特定事項として含まれている。 そうすると、本件発明は、上記(イ)の発明の課題を解決するために必要な手段である、気孔が繊維方向に沿って形成されるUDC/Cであって、且つ、「気孔半径0.4μm以上、10μm未満の開気孔率が、2.0%以下」を満たすC/Cコンポジットを含んでいるといえ、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであって、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであるといえるから、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合するものということができる。 (2)第4の1(1)イの理由について 訂正前の請求項2~3は本件訂正により削除された。そのため、請求項2および請求項2を直接又は間接的に引用する請求項3~12を対象とする取消理由である上記第4の1(1)イの理由は理由がない。 2 取消理由2(実施可能要件違反)について (1)第4の1(2)アの理由について ア 第4の1(2)アの理由の概要 第4の1(2)アの理由の概要は以下のとおりである。 訂正前の請求項1に係る発明は、「気孔半径0.4μm以上、10μm未満の開気孔率が、2.0%以下である」ものの、気孔半径が「10μm」以上の開気孔が存在するC/Cコンポジットをも包含するものと解される。そして、本件発明1のC/Cコンポジットは、オイルクエンチにおいて、開気孔への油の浸み込みが生じないものである。しかしながら、本件明細書には、そのようなC/Cコンポジットを具体的にどのように製造するのかにつき何ら記載がなく、本件明細書の発明の詳細な説明の記載によっては、訂正前の請求項1に係る発明を実施するには過度の試行錯誤を要するといえる。 そして、訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用する訂正前の請求項3~12に係る発明ついて検討しても事情は同じである。 イ 第4の1(2)アの理由に関する当審の判断 (ア)本件発明における実施可能要件の判断手法 発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に係る規定(実施可能要件)に適合するというためには、明細書の発明の詳細な説明に、当業者が、明細書の発明の詳細な説明及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その発明を実施することができる程度に発明の構成等の記載があることを要すると解される。そして、この規定のいう「実施」とは、物の発明においては、当該発明にかかる物の生産、使用等をいうものであるから、実施可能要件を満たすといえるためには、明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が当該発明に係るものを生産し、使用することができる程度のものでなければならない。 そして、本件発明は訂正がなされたので、「気孔半径0.4μm以上、10μm未満の開気孔率が、2.0%以下であり、繊維方向における開気孔が、繊維方向と直交する方向における開気孔よりも多くなっている」C/Cコンポジットを、当業者が、明細書の発明の詳細な説明及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、生産することができる程度の記載があるか否かで判断する。 ここで「繊維方向における開気孔が、繊維方向と直交する方向における開気孔よりも多くなっている」とは、前記1(1)イ(エ)で述べたように、「炭素繊維が一方向に配向しており、かつ引き抜き成形体由来である」ことを意味しているといえる。 (イ)本件明細書の発明の詳細な説明の記載 本件明細書には、本件発明の「気孔半径0.4μm以上、10μm未満の開気孔率が、2.0%以下」を実現する方法として、【0055】に「本発明者らは、第3の発明において、炭素繊維が一方向に配向しており、かつ引き抜き成形体由来である、一方向C/Cコンポジットに着目した。このような一方向C/Cコンポジットを用いることにより、C/Cコンポジットの気孔半径0.4μm以上、10μm未満の開気孔率を小さくすることができ、オイルクエンチによる油の浸み込みを効果的に抑制できることを見出した。」との記載が、【0066】に「第1の発明及び第2の発明の気孔特性を有するC/Cコンポジットは、UDC/Cコンポジットである場合に得やすい」との記載が、【0073】に「C/Cコンポジットの気孔は、緻密化物質により緻密化されていてもよい。この場合、C/Cコンポジットの気孔半径0.4μm以上、10μm未満における開気孔率や、開気孔率の分布曲線が立ち上がり始める気孔半径をより一層小さくすることができる。」との記載が、【0084】~【0085】に「本発明においては、C/Cコンポジットにおける開気孔の少なくとも一部を緻密化する、緻密化工程をさらに備えていてもよい。この場合、C/Cコンポジットの気孔半径0.4μm以上、10μm未満における開気孔率や、開気孔率の分布曲線が立ち上がり始める気孔半径をより一層小さくすることができる。・・・緻密化工程としては、例えば、C/Cコンポジットの開気孔にピッチ又は熱硬化性樹脂を含浸させ、炭素化する工程を用いることができる。」との記載がある。そして、これら記載に基づく具体的な実施例として、【0103】及び【0104】には実施例1として「高強度炭素繊維・・・から成るトウ380本を引き揃え・・・引き抜き成形を行い、・・・切断し・・・熱処理を行い、実施例1のUDC/Cを得た。」との記載が、【0109】には「実施例1で得られたUDC/Cに、ピッチ(軟化点80℃、QI成分5%以下)を減圧浸漬後、1MPaで加圧含浸処理することを1回行った後、窒素雰囲気中1000℃で焼成することにより、実施例6のUDC/Cを得た。」との記載があり、実施例1~8、10~25においてUDC/C(炭素繊維が一方向に配向しており、且つ、引き抜き成形体由来)であって、気孔半径0.4μm以上10μm未満の開気孔率が2.0%以下である本件発明のC/Cコンポジットが実際に製造されている。 これら明細書の記載からは、一方向C/Cコンポジットを用いる、あるいは、一方向C/Cコンポジットの開気孔の少なくとも一部を緻密化する緻密化工程を行う、の少なくともいずれかの方法を採用することにより、「気孔半径0.4μm以上、10μm未満の開気孔率が、2.0%以下であり、繊維方向における開気孔が、繊維方向と直交する方向における開気孔よりも多くなっている、C/Cコンポジット」を製造することができることが理解できる。 (ウ)上記(イ)を踏まえた実施可能要件の判断 上記(イ)で述べた一方向C/Cコンポジットを用いる、さらには、開気孔の少なくとも一部を緻密化する緻密化工程を行うという方法を採用することにより、「気孔半径0.4μm以上、10μm未満の開気孔率が、2.0%以下であり、繊維方向における開気孔が、繊維方向と直交する方向における開気孔よりも多くなっている」との条件を満たすC/Cコンポジットを製造することは、十分可能であるといえる。 そうすると、本件発明のC/Cコンポジットを製造するのに、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤又は複雑高度な実験等をする必要があるとはいえず、当業者であれば、本件明細書の発明の詳細な説明の記載により、本件発明を実施することができるというべきであるから、本件明細書の詳細な説明の記載は、本件発明について実施可能要件を満たしているといえる。 (2)第4の1(2)イの理由について 訂正前の請求項2~3は本件訂正により削除された。そのため、請求項2および請求項2を直接又は間接的に引用する請求項3~12を対象とする取消理由である、上記第4の1(2)イの理由は理由がない。 3 取消理由3(明確性要件違反)について 訂正前の請求項2~3は本件訂正により削除された。そのため、請求項2および請求項2を直接又は間接的に引用する請求項3~12を対象とする取消理由である取消理由3は理由がない。 4 申立理由1(明確性要件違反)について (1)第4の2(1)アの理由について ア 特許異議申立書に記載の論拠 訂正前の請求項1に係る発明は「水銀ポロシメトリーによる開気孔測定において、気孔半径0.4μm以上、10μm未満の開気孔率が、2.0%以下である、C/Cコンポジット」である。 水銀ポロシメトリーによる測定原理は、甲2~3に示されるとおり、水銀に加えた圧力とその圧力に対応する水銀の圧入量をプロットすることにより、気孔分布を測定する原理であるため、測定範囲は、水銀に加えられる圧力とそれに対応する水銀圧入量を測定器が分析できるかどうかに依存することになる。 水銀に加える圧力のうち、低圧側においては、水銀は特に密度の高い液体であるため、装置自体が圧力を加えていなくても圧力が加わり、初期の水銀柱の高さが気孔径の上限の測定範囲に影響を及ぼす。また、高圧側については、測定器の耐圧が気孔径の下限に影響を及ぼす。上記理由により、水銀圧入式ポロシメータは、気孔径の測定範囲がメーカーにより異なっている。その例を表1に示す。 [図:0001401636000002.jpg] このように、水銀圧入式ポロシメータは測定機器の種類により、その測定範囲が異なっており、その測定範囲が定まらない場合は、特定範囲の気孔範囲の開気孔率における分母に相当する全体の気孔率が定まらないため、特定範囲の気孔範囲の開気孔率を求めることができない。 したがって、上述した本件特許の出願時の技術常識を考慮しても、発明特定事項である「気孔半径0.4μm以上、10μm未満の開気孔率」は、測定範囲が特定されていない以上、いかなる技術的意味を有するのか当業者は理解できず、発明特定事項が不足していることが明らかであるため、発明が不明確である。(第31頁第1行~第32頁第17行) イ 第4の2(1)アの理由に関する当審の判断 特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載のみならず、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるかという観点から判断されるべきである。 そして、明細書段落【0041】には「開気孔率は、水銀ポロシメトリーにより測定したC/Cコンポジットの1gあたりの累積細孔容積にかさ密度を乗ずることにより、求めることができる。」との記載があり、続く【0042】 には「また、気孔半径0.4μm以上、10μm未満の開気孔率は、気孔半径0.4μm以上の開気孔率から気孔半径10μm以上の開気孔率を差し引くことにより求めることができる。なお、水銀ポロシメトリーによる累積細孔容積は、例えば、気孔半径0.003μm~100μmの範囲において測定することができる。」との記載がある。 これら記載からは、「開気孔率」が「累積細孔容積にかさ密度を乗ずる」ことにより算出される値であること、「気孔半径0.4μm以上、10μm未満の開気孔率」の算出は「気孔半径0.4μm以上の開気孔率から気孔半径10μm以上の開気孔率を差し引く」ことにより算出されることが理解できる。そのため、「気孔半径0.4μm以上、10μm未満の開気孔率」の定義、算出方法は明確である。 なお、異議申立人は「特定範囲の気孔範囲の開気孔率における分母に相当する全体の気孔率が定まらないため、特定範囲の気孔範囲の開気孔率を求めることができない」旨を主張するが、「特定範囲の気孔範囲の開気孔率」の算出に際し、分母に「全体の気孔率」を入れるという点は本件明細書に記載がなく、前述の明細書に記載された開気孔率の定義、算出方法と相違するものであるから上記主張は採用することができない。 次に、異議申立人の主張に関し、「水銀圧入式ポロシメータ」の種類に応じた測定可能な「測定範囲」が「気孔半径0.4μm以上、10μm未満の開気孔率」に及ぼす影響についても検討する。 異議申立人が異議申立書にて述べているとおり、「水銀加える圧力のうち低圧側においては・・初期の水銀柱の高さが気孔径の上限の測定範囲に影響を及ぼ」すため、水銀ポロシメトリーによる測定の際は、装置の仕様である初期水銀柱高さに起因して測定範囲の上限が定まることになる。 上述のように、「気孔半径0.4μm以上、10μm未満の開気孔率」を算出するのに必要な「気孔半径0.4μm以上の開気孔率」及び「気孔半径10μm以上の開気孔率」を導出する前段として、それぞれの「累積細孔容積」を算出する際は、測定機器である水銀ポロシメトリーには前述のとおり気孔径の測定範囲の上限が存在するため、「累積細孔容積」としては「気孔半径0.4μm以上の累積細孔容積」及び「気孔半径10μm以上の累積細孔容積」が算出されているのではなく、「気孔半径0.4μm以上、且つ、測定範囲の上限以下の累積細孔容積」及び「気孔半径10μm以上、且つ、測定範囲の上限以下の累積細孔容積」が実質的に算出されることとなる。 そのため、「気孔半径0.4μm以上の開気孔率」及び「気孔半径10μm以上の開気孔率」を算出する段階では、初期水銀柱高さに起因する測定範囲の上限が影響している。 しかしながら、最終的に「気孔半径0.4μm以上、10μm未満の開気孔率」の算出には、「気孔半径0.4μm以上の開気孔率から気孔半径10μm以上の開気孔率を差し引く」工程が含まれるため、「気孔半径0.4μm以上、且つ、測定範囲の上限以下の開気孔率」から「気孔半径10μm以上、且つ、測定範囲の上限以下の開気孔率」を差し引いた際には、測定範囲の上限の影響が取り除かれることになる。 一方、測定範囲の下限についても、同じく異議申立人が異議申立書にて述べているとおり、「高圧側については、測定器の耐圧が気孔径の下限に影響を及ぼ」すため、水銀ポロシメトリーによる測定の際は、測定器の耐圧に起因して測定範囲の下限が定まることになる。 この測定範囲の下限は、気孔半径の数値を限定せずに測定した「開気孔率」の場合には、使用する水銀ポロシメトリーの仕様によって影響を受けるが、「気孔半径0.4μm以上、10μm未満の開気孔率」を算出する工程においては、測定範囲の下限が「気孔半径0.4μm」より小さければ、測定範囲の下限は「気孔半径0.4μm以上、10μm未満の開気孔率」の算出に影響を与えることはない。そして通常測定に用いる水銀ポロシメトリーであれば測定範囲の下限は、「気孔半径0.4μm」よりは小さいといえるから、測定範囲の下限が使用する水銀ポロシメトリーの仕様によって変動したとしても、「気孔半径10μm以上の開気孔率」はもちろんのこと、「気孔半径0.4μm以上の開気孔率」の数値が変動することはない。 そのため、「水銀圧入式ポロシメータ」の種類に応じた測定可能な「測定範囲」は「気孔半径0.4μm以上、10μm未満の開気孔率」に影響を与えず、特許請求の範囲において測定に用いる水銀ポロシメトリーの気孔の「測定可能範囲」が特定されていないことは、「気孔半径0.4μm以上、10μm未満の開気孔率」を不明確にするものではない。 以上のとおり、本件発明1の上記記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるということはない。 (2)第4の2(1)イの理由について ア 特許異議申立書に記載の論拠 訂正前の請求項1に係る発明は「水銀ポロシメトリーによる開気孔測定において、気孔半径0.4μm以上、10μm未満の開気孔率が、2.0%以下である、C/Cコンポジット」である。 本件特許明細書には「開気孔率」の他、「全気孔率」および「全体開気孔率」、等のような「開気孔率」と類似する用語が記載されている(本件特許明細書【0126】、【0143】表1など)。そして、「全体開気孔率」については、本件特許明細書において何ら説明がされておらず、出願当初の技術常識を考慮しても両者の違いを当業者が理解することができない。 そのため、訂正前の請求項1に係る発明における「開気孔率」という用語の意味内容を当業者が理解できず、発明が不明確である。(32頁18行~19頁5行) イ 第4の2(1)イの理由に関する当審の判断 本件発明1の「開気孔率」に関しては、明細書【0041】に「開気孔率は、水銀ポロシメトリーにより測定したC/Cコンポジットの1gあたりの累積細孔容積にかさ密度を乗ずることにより、求めることができる。」との記載がある。この記載から、「開気孔率」は「水銀ポロシメトリーにより測定したC/Cコンポジットの1gあたりの累積細孔容積にかさ密度を乗ずる」ことにより算出される値であることが理解でき、「開気孔率」は明確である。 次に、「全体開気孔率」については、本件明細書の【0127】には「また、全体開気孔率、0.1μm以上の開気孔率、0.4μm以上の開気孔率、1μm以上の開気孔率、10μm以上の開気孔率を上記累積細孔容積から求めた。」との記載があり、「全体開気孔率」が、「0.1μm以上の開気孔率」などと並列に列挙されていることが読み取れる。次に【0143】の【表1】 「 [図:0001401636000003.jpg] 」 を見てみると、左端から3行目の「全体開気孔率」と右端から4行目の「開気孔率」が全く同じ数値を示していることが読み取れる。 上記両記載を総合すれば、「全体開気孔率」は「0.1μm以上」のように気孔径を限定していない「開気孔率」であることが理解できる。 また、「全気孔率」については、本件明細書の【0126】に「閉気孔率は、全気孔率と開気孔率との差から算出した。」との記載がある。そのため、「全気孔率」は「開気孔率」と「閉気孔率」の和であることが理解できる。 以上のとおり、明細書の記載から、「開気孔率」、「全気孔率」、「全体開気孔率」のそれぞれの意味については理解可能であり、「全気孔率」及び「全体開気孔率」の両語句の存在をもって、「開気孔率」が不明確であるとはいえない。 そうすると、本件発明1の上記記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるということはない。 (3)第4の2(1)ウの理由について ア 特許異議申立書に記載の論拠 訂正前の請求項3に係る発明は「繊維方向における開気孔が、繊維方向と直交する方向における開気孔よりも多くなっている、請求項1又は2に記載のC/Cコンポジット。」であるが、具体的な測定方向について記載がない。訂正前の請求項1、2において、開気孔率の測定を行う水銀ポロシメトリーは、試料全体の体積中の気孔の分布を分析する装置であり、分析する方向ごとに分析値を得ることはできない。したがって、訂正前の請求項3に係る発明の発明特定事項である「繊維方向における開気孔が、繊維方向と直交する方向における開気孔よりも多くなっている」がいかなる技術的意味を有するのか当業者は理解できず、発明が不明確である。(第35頁第11~20行) イ 第4の2(1)ウの理由に関する当審の判断 訂正前の請求項3は本件訂正により削除されているが、訂正前の請求項3の発明特定事項である「繊維方向における開気孔が、繊維方向と直交する方向における開気孔よりも多くなっている」点は、訂正後の本件発明1に含まれるため、本件発明1について検討を行う。 本件明細書の【0064】には「UDC/Cコンポジットにおいては、気孔が形成される場合、繊維方向に沿って形成されるため、多くの気孔端面の露出はXZ面のみで発生し、XY面、YZ面では発生しないことが多い。このため、発生した気孔は、緻密化処理で比較的容易に封孔処理することができ、より一層効果的に油の浸み込みを削減できる。また、より一層効果的に酸化消耗も抑制することができる。よって、C/Cコンポジットにおいては、気孔が存在する場合においても、上記のように一方向にのみ連続した気孔を有することが望ましい。」との記載が、【0075】には「UDC/Cコンポジットのように、気孔を有する場合においても、C/Cコンポジットの繊維方向における開気孔が、繊維方向と直交する方向における開気孔よりも多いことが望ましい。この場合、緻密化物質によって、より一層容易に封孔することができ、C/Cコンポジットの気孔半径0.4μm以上、10μm未満における開気孔率や、開気孔率の分布曲線が立ち上がり始める気孔半径をより一層小さくすることができる。従って、油の浸み込みや、酸化消耗をより一層抑制することができる。」との記載がある。これら記載から、本件発明1の「繊維方向における開気孔が、繊維方向と直交する方向における開気孔よりも多くなっている」という構成は、気孔が繊維方向、すなわち、長尺部材である繊維の延在方向であるY方向に沿って形成され、繊維方向と直交する面であるところのXZ面において多くの気孔端面の露出が生じ、長尺部材である繊維の側面にあたるXY面、YZ面において、気孔端面の露出がほぼ発生しないことを意味していると明確に理解できる。 異議申立人は、「具体的な測定方向について記載がない」点及び「開気孔率の測定を行う水銀ポロシメトリーは、試料全体の体積中の気孔の分布を分析する装置であり、分析する方向ごとに分析値を得ることはできない」点を論拠として、「繊維方向における開気孔が、繊維方向と直交する方向における開気孔よりも多くなっている」がいかなる技術的意味を有するのか当業者は理解できず、不明確であると主張する。 しかしながら、本件明細書の記載によれば、炭素繊維が一方向に配向しているC/Cコンポジットにおいては、繊維方向と直交する面であるところのXZ面において多くの気孔端面の露出が生じ、長尺部材である繊維の側面にあたるXY面、YZ面において、気孔端面の露出がほぼ発生しないものであることが理解できるのであるから、実際に測定するまでもなく、長尺部材である繊維の端部において繊維方向と直交する面に露出した気孔端面、すなわち繊維方向における開気孔が、長尺部材である繊維の側面において露出した気孔端面、すなわち繊維方向と直交する方向における開気孔、よりも多くなることは明らかである。 そうすると、本件発明1の上記記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるということはない。 (4)第4の2(1)エの理由について ア 特許異議申立書に記載の論拠 訂正前の請求項4に係る発明は「画像解析により求めた炭素繊維体積含有率が、58%以上、74%以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載のC/Cコンポジット。」である。炭素繊維体積含有率の具体的測定方法として「上記成形体中における炭素繊維体積含有率は、炭素繊維1mあたり体積を成形体1mあたり体積で除することにより求めることができる」(本件特許明細書【0093】)と記載されている。ここで、成形体1mあたりの体積とは何を示し、どのように炭素繊維体積含有率を算出するのか、技術常識を考慮しても当業者は理解できず、発明が不明確である。(35頁21~30行) イ 第4の2(1)エの理由に関する当審の判断 本件明細書の【0092】には「状態の良いC/Cコンポジットを得るためには、炭素繊維体積含有率(Vf)の制御が非常に重要なファクターとなる。」との記載が、【0095】には「画像解析によるC/CコンポジットのVfは、画像解析により求めた1mm2あたりの炭素繊維の本数と画像解析により求めた炭素繊維1本当たりの面積との積、すなわち1mm2あたりの炭素繊維の総面積の割合から求めることができる。なお、UDC/Cコンポジットでは、炭素繊維の繊維方向においては、均質であると考えられるため、上記のようにして求めた1mm2あたりの炭素繊維の総面積の割合をC/Cコンポジットの画像解析Vfとして用いることができる。なお、炭素繊維1本当たりの面積は、画像解析により求めた炭素繊維の直径から求めることができ、例えば、任意の100本以上の炭素繊維の平均値とすることができる。」との記載が、【0136】には「得られた炭素繊維の直径より炭素繊維1本あたりの炭素繊維面積を計算し、1mm2あたりの炭素繊維本数を乗ずることで、炭素繊維面積の総面積を得た。UD材料の場合は、繊維長さ方向には均質であると仮定することが可能と考えられることから、1mm2あたりの炭素繊維総面積の割合(%)を直ちにVfとすることが可能である。」との記載があることから、UDC/Cコンポジットの場合「炭素繊維体積含有率」が、「画像解析により求めた1mm2あたりの炭素繊維の本数と画像解析により求めた炭素繊維1本当たりの面積との積」として算出される値であることは明白である。 そして、本件発明1を引用する本件発明4は、「繊維方向における開気孔が、繊維方向と直交する方向における開気孔よりも多」いという構成を備えており、当該構成は【0054】によれば「炭素繊維が一方向に配向している、一方向C/Cコンポジット(UDC/Cコンポジット、以下UDC/Cともいう)を用いる」ことを意味するから、「炭素繊維体積含有率」を「画像解析により求めた1mm2あたりの炭素繊維の本数と画像解析により求めた炭素繊維1本当たりの面積との積」として算出するという手法を用いることができる。 そのため、本件発明4は、「画像解析により求めた1mm2あたりの炭素繊維の本数と画像解析により求めた炭素繊維1本当たりの面積との積」として算出される値であるところの「炭素繊維体積含有率」が、「58%以上、74%以下である」ことを特定していると理解できる。 なお、異議申立人は、本件特許明細書【0093】の記載を根拠として、どのように炭素繊維体積含有率を算出するのか、当業者は理解できず、発明が不明確であると主張している。 しかしながら、本件発明4が、C/Cコンポジットの炭素繊維体積含有率を特定しているのに対し、【0093】は「本発明においては、C/Cコンポジットの前駆体である成形体中における炭素繊維体積含有率(成形体Vf)が、55%以上、75%以下であることが好ましい。上記成形体中における炭素繊維体積含有率は、炭素繊維1mあたり体積を成形体1mあたり体積で除することにより求めることができる」と記載され、【0093】に記載されているのは、C/Cコンポジットの炭素繊維体積含有率ではなく、C/Cコンポジットの前駆体である成形体中における炭素繊維体積含有率であるから、本件発明4と対象を異にしている。 そして、C/Cコンポジットの炭素繊維体積含有率についての明細書の記載は、前述のとおり【0095】、【0136】等に存在し、異議申立人の主張は、訂正前の請求項4に係る発明の「炭素繊維体積含有率」を理解にするに際し、明細書の異なる個所を参酌したために生じた主張と認められるため、採用することができない。 そうすると、本件発明4の上記の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるということはない。 5 取消理由4~5、申立理由2~3(新規性欠如及び進歩性欠如)について (1)甲6、8~11に記載の事項(「・・・」は省略を表す。下線は当審にて付与した。) ア 甲6に記載の事項 (ア)「2. CVI法の定義,特徴,装置と種類 2.1 CVI法の定義と特徴 CVI法は多孔質体内部の空隙に原料ガスを流し,化学反応を経て固相マトリックスを析出,充填させる方法として定義される。図1は繊維強化耐熱複合材料の作製を例にしたCVIプロセスの概念図を示したものである。 炭素繊維やSiC繊維で作製したプリフォーム(仮成形体)内部の繊維間間隙に原料ガスを浸透させ,繊維表面上で炭素やSiCなどを析出させることで固相マトリックスを充填し繊維強化耐熱複合材料を得る。図2に,CVI法で合成した繊維強化複合材料の例として,C/Cコンポジットの断面SEM写真を示した。炭素繊維間の空隙に層状構造の熱分解炭素が充填されている様子を示している。」(130頁左欄25~32行) (イ)「 [図:0001401636000004.jpg] 」(130頁) イ 甲8に記載の事項 (ア)「1.はじめに 1959年の大阪工業試験所の進藤博士によるPAN系炭素繊維の発明に引き続き、ピッチ系炭素繊維は1963年に群馬大学の大谷教授によって発明された。リグニン粉末を空気中で流しながら加熱中に、ひげ状の炭素ができたのを発端として、ピッチを溶融紡糸し、空気中で熱安定化した後炭素化する方法が確立された[1]。ピッチ系炭素繊維は、異方性ピッチ系炭素繊維(メソフェーズピッチ系炭素繊維)と等方性ピッチ系炭素繊維とに分類される。何れも、コールタールピッチや石油ピッチを出発原料としているが、その名が示すように、ピッチの光学組織がそれぞれ異方性、等方性である。」(1頁1~7行) (イ)「異方性ピッチ系炭素繊維(黒鉛糸)[8-10]、等方性ピッチ系炭素繊維(黒鉛質)[11-16]、及びPAN系炭素繊維(標準・中弾性率タイプ)[17-20]の主な物性値等(代表的な値)の比較を、黒鉛単結晶[21-23]及びフェノール樹脂などを炭素化して得られるガラス状炭素[24-25]の値を併記して表2に示す。ここで、見掛け密度は、通常n-ブタノール浸漬法又はヘリウム置換法によって求められ、閉気孔を含む密度である。真密度は気孔を除外した密度であり、それぞれの面間隔(d002)と黒鉛単結晶の理論面間隔0.3354nm及び理論密度2.26g/cm3から試算した。また、閉気孔率は、見掛け密度と真密度とから算出した。なお、表2に示すもの全ての開気孔は、窒素吸着法でほとんど認められないのでゼロとみなした。」(4頁3~10行) (ウ)「 [図:0001401636000005.jpg] 」(4頁) (エ)「4.異方性ピッチ系炭素繊維(メソフェーズピッチ系炭素繊維)の特徴と用途例[28] ・・・ 異方性ピッチ系炭素繊維は、表2に示すような高強度・高引張弾性率を有する優れた機械的特性、高熱伝導、極低熱膨張という特徴を持っており、高性能グレード品(HPCF, High Performance Carbon Fiber)と呼ばれる。 これらの特徴を活かした高性能グレード品の用途例を示す。 ・・・ 4.2 高熱伝導率 本来は熱伝導率が著しく低いプラスチックスを、HPCFを用いてCFRPとすることにより、金属並みの放熱性を付与することができる。このようなCFRPは、例えば、高速鉄道車両用のパンタグラフ風防や車輪カバーとして使用されている。高熱伝導性であるために、局部加熱が妨げられ、その結果として不燃性が発現される。その他、良好な熱伝導性を利用して、電子機器などの放熱板に使用される。HPCFを用いたC/C複合材(炭素繊維強化炭素複合材料)の用途としてカーボンブレーキがある。このようなブレーキは、摩擦熱をより効率よく逃がすことができ、ジャダーやクラック発生等の原因となる熱歪を抑制して過酷な条件下でも安定したブレーキ性能が発揮される。」(5頁17行~6頁10行) ウ 甲9に記載の事項 (ア)「2.2 複合化-マトリックスの形成 C/Cコンポジットの製造法は形成するマトリックス炭の種類によって異なり,それに伴い複合材の性質も異なってくるため,特性およびコストなどの観点から最適なプロセスが選ばれる。現在行われている方法としては,熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂を前駆体とし熱分解,炭化する方法(高分子分解法),あるいはメタン,プロパン等の炭化水素ガスを熱分解,析出する方法(CVDまたはCVI法)が一般的である。図27)は,C/Cコンポジット製造方法の概要を示す。 高分子分解法ではプリフォーム作製に於いて通常FRP成形で行なう各種の手法が用いられる。・・・硬化後の成形体には窒素等の不活性雰囲気中で約1000℃迄加熱され,マトリックス樹脂は熱分解,炭化されてマトリックス炭として形成される。しかしこれら樹脂の炭化収率はせいぜい50~60%でありこの段階の複合材は多数の開空孔を有し,カサ比重も1.2~1.3程度と低く特性も不十分なため,さらにマトリックス樹脂の含浸,炭化を数回繰返す必要がある。これら緻密化工程を経た複合材のカサ比重は,最終的に1.6~1.8まで高められ,必要に応じて黒鉛化処理が施される。炭素化および黒鉛化処理を経た複合材の組織は,適用する樹脂によって定まることが報告されており,組織制御の為に黒鉛粉末の添加などが検討されている8)。 ・・・ CVD法は約800~2000℃に加熱した炭素繊維織物中に炭化水素ガスを導入し,織物内部の繊維表面に熱分解炭素を析出,沈積させ,さらに沈積の進行に伴い空隙中ヘマトリックス炭素を充填させ複合材を得る方法でChemical Vapor DepositionもしくはInfiltrationと呼ばれる。複合材は織物(立体織物をプリフォームに用いる事が多い)の形状を変えることなく成形でき,繊維/マトリックス界面の残留応力発生が少なくまたマトリックス強度が高いと云った長所を有す。CVD法では原料ガス組成・ガス分圧・沈積温度を操作し,析出反応の進行に伴う細孔構造の変化に対応して,析出反応速度を適切に保つ事が必要である。」(184頁左欄6行~185頁左欄3行) (イ)「一般産業分野への利用はここ数年間に急速な展開が図られている。これらの用途では既に実用が開始されたもの,あるいは評価検討中のものなど,種々の用途開発が活発に進められている[表2]。特にファインセラミックス,新金属や半導体製造プロセスなど高温炉を用いて熱処理を行なうような用途に於いて,優れた機械的特性や熱的特性を生かし,各種製品の品質改善,生産性向上やコスト低減に寄与することが期待されている。」(187頁右欄下から1行~188頁右欄1行) (ウ)「 [図:0001401636000006.jpg] 」(188頁) エ 甲10に記載の事項 (ア)「1.1 名称 熱分解炭素にはいろいろの呼び名があり統一されていない。すなわち,パイロリティックグラファイロ(Pyrolytic Graphite),パイログラファイト(Pyrographite-Raytheon社の商品名),パイロカーボン(Pyrocarbon),PG,PC,熱分解黒鉛,熱分解炭素などがあるが,論文などでもPGと略記されていることが多いので,ここでも以下PGと記すことにする。」(131頁左欄2~9行) (イ)「2.2 生成機構及び構造 2.2.1 構造 PGは結晶的には黒鉛ではなく炭素であることはさきにも述べた。沈積温度が2000~2200℃であるから黒鉛化していないのは当然であり,したがって熱分解黒鉛,Pyrolytic Graphiteなどと呼ぶのは適切でないともいえる。 結晶の配向は顕著で,黒鉛結晶の6角網面を紙片にたとえると,PGは基材表面にこの紙片をつぎつぎに張り付けたような状態である。紙片はこのように平面上に積み重なっているが平面内での紙片の向きは甚だ不規則である。物理的・化学的性質においていちじるしい異方性が見られるのは上記の顕著な配向性に起因している。」(133頁右欄3~15行) (ウ)「3.6 気体透過率 気体は全く透過しないと考えてよい。すなわち,Heの透過率は約10-12cm2/secであり,ゴムや金属よりももむしろ優っている。したがって,その測定には装置,検出感度などの点できわめて困難なほどである。」(135頁14~18行)(当審注:「金属よりもも」は「金属よりも」の誤記である。) オ 甲11に記載の事項 (ア)「熱分解炭素の充填前後の各試料のBET比表面積をTable 1に示す。表から、炭素基多孔質体に直接熱分解炭素を充填すると急激に表面積が低下することがわかる。又、TiN基多孔質体に充填した熱分解炭素はTiN無しの場合に比べて高い表面積を有していることがわかる。熱分解炭素を充填した試料のメソポア頻度分布を解析したところ、炭素上に直接析出した炭素に比較し、TiN上に析出した熱分解炭素では、10nm以下の細孔が比較的多く存在し、特に3nm以下のメソポア細孔容積が、格段に大きいことがわかった。」(71頁右欄12~21行) (2)甲6に記載された発明 甲6の前記(1)ア(ア)によれば、甲6には、「炭素繊維やSiC繊維で作製したプリフォーム(仮成形体)内部の繊維間間隙に原料ガスを浸透させ,繊維表面上で炭素やSiCなどを析出させることで固相マトリックスを充填し繊維強化耐熱複合材料を得る」ことが記載されている。 そして、同(ア)によれば、「CVI法で合成した繊維強化複合材料」の例が「C/Cコンポジット」であり、「C/Cコンポジット」は、「炭素繊維間の空隙に層状構造の熱分解炭素が充填されている」のであるから、前記「繊維強化耐熱複合材料」が「C/Cコンポジット」である場合、繊維として炭素繊維が、固相マトリックスとして炭素が、それぞれ選択されることを認識できる。 そうすると、甲6には、「C/Cコンポジット」について、次の発明(以下、「甲6発明」という。)が記載されているといえる。 「炭素繊維で作製したプリフォーム(仮成形体)内部の繊維間間隙に原料ガスを浸透させ、繊維表面上で炭素を析出させることで固相マトリックスを充填して得られるC/Cコンポジットであって、炭素繊維間の空隙に層状構造の熱分解炭素が充填されている、C/Cコンポジット。」 (3)第4の1(4)(取消理由4)、第4の1(5)(取消理由5)、第4の2(2)ア(申立理由2)、第4の2(3)ア(申立理由3)の理由について 上記の理由は、それぞれ甲6を主引用文献とするものであるから、まとめて判断する。 ア 本件発明1について (ア)対比 本件発明1と甲6発明を対比する。 甲6発明の「C/Cコンポジット」は、本件発明1の「C/Cコンポジット」に相当する。また、甲6発明の「炭素繊維」は、本件発明1の「繊維方向」でいうところの「繊維」に相当するから、甲1発明と本件発明1は、C/Cコンポジットが「繊維」を有している点で共通している。 そうすると、本件発明1と甲6発明は、「繊維」を有している「C/Cコンポジット」の点で一致し、以下の点で相違しているといえる。 <相違点1> C/Cコンポジットの開気孔について、本件発明1では、「水銀ポロシメトリーによる開気孔測定において、気孔半径0.4μm以上、10μm未満の開気孔率が、2.0%以下である」のに対し、甲6発明では、当該発明特定事項を有するか否か明らかでない点。 <相違点2> C/Cコンポジットの開気孔について、本件発明1では、「繊維方向における開気孔が、繊維方向と直交する方向における開気孔よりも多くなっている」のに対し、甲6発明では、炭素繊維を有することは記載されているものの、繊維方向と開気孔の関係については不明である点。 (イ)判断 事案に鑑み、前記ア(ア)の相違点2にから検討する。 本件発明1の「繊維方向における開気孔が、繊維方向と直交する方向における開気孔よりも多」いという構成は、繊維方向が特定されることから、繊維が揃っていること、すなわち、【0054】に記載されているような、炭素繊維が一方向に配向している一方向C/Cコンポジットを用いる構成を特定しているといえる。そして、このような構成をとることにより、「緻密化物質によって、より一層容易に封孔することができ」るようにしたものである(本件明細書【0075】)。ここで、一方向C/Cコンポジットは、製造に際し「高強度炭素繊維・・・から成るトウ」が「引き揃え」られている(【0103】)ことから、「繊維方向における開気孔が、繊維方向と直交する方向における開気孔よりも多」いという構成を採用した場合、「多くの気孔端面の露出はXY面のみで発生」(【0064】)することになり、緻密化処理を行う箇所を絞ることができ、これが封孔の容易化に結び付いていると理解できる。 これに対し、甲6発明は、炭素繊維を用いる点は記載されているものの、炭素繊維の配向が揃っているかどうかは特定されておらず、繊維の方向を揃えるという概念がないものであるから、繊維方向における開気孔が、繊維方向と直交する方向における開気孔よりも多くなっているということはなく、上記相違点2は実質的な相違点である。また、繊維の方向という概念がないのであるから、繊維方向によって気孔率を変えるという動機付けが甲6にあるとはいえないし、「繊維方向における開気孔が、繊維方向と直交する方向における開気孔よりも多」いという構成をとることにより、緻密化物質による封孔を容易化するという技術思想を読み取ることもできない。 甲8~11についても、上記5(1)イ~オによれば、甲8には窒素吸着法を用いた異方性ピッチ系炭素繊維、等方性ピッチ系炭素繊維、PAN系炭素繊維では開気孔がほとんど認められないこと、甲9には炭素繊維に多種の品種があり、使用条件・目標特性を考慮しC/Cコンポジットに適用する繊維が選定されること、甲10には熱分解炭素は、気体が全く透過しないと考えてよいこと、甲11にはTiN基多孔質体に充填した熱分解炭素のうち、TiN上に析出した熱分解炭素は、10nm以下の細孔が比較的多く存在すること、がそれぞれ開示されているものの、甲6発明と同様に、「繊維方向における開気孔が、繊維方向と直交する方向における開気孔よりも多」いという構成、及び、緻密化物質による封孔を容易化するという技術思想については、いずれも開示も示唆もされていない。 そのため、甲6発明に甲8~11に記載の事項を適用したとしても、前記相違点2に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとするには至らない。 してみれば、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は甲6発明及び甲8~11に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (ウ)小括 本件発明1は、甲6発明ではないし、甲6発明及び甲8~11に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 イ 本件発明5~9、12について 本件発明5~9、12はいずれも本件発明1を直接又は間接的に引用し、本件発明1の構成をすべて具備するものであるから、本件発明1と同様に、本件発明5~9、12は、甲6発明ではないし、本件発明5~9、12は、甲6発明及び甲8~11に記載される技術的事項に基づいて当業者が容易に発明できたものでもない。 (4)第4の2(2)イ(申立理由2)、第4の2(3)イ(申立理由3)の理由について 訂正前の請求項2~3は本件訂正により削除された。そのため、請求項2および請求項2を直接又は間接的に引用する請求項5~9、12を対象とする理由である第4の2(2)イ(申立理由2)、第4の2(3)イ(申立理由3)には理由がない。 (5) 取消理由4~5、申立理由2~3に関するまとめ 以上の通り、本件特許1、5~9、12は、特許法第29条第1項及び同条第2項の規定に違反してされたものではなく、また、本件特許2は訂正により削除されていることから、取消理由4~5及び申立理由2~3には理由がない。 第6 むすび 上記第5で検討したとおり、本件特許1、4~12は、特許法第29条第1項及び第2項の規定に違反してされたものであるとも、同法第36条第6項第1号及び第2号並びに同法同条第4項第1号に規定にする要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるということはできず、同法第113条第2号又は第4号に該当するものではないから、上記取消理由1~5及び申立理由1~3では、本件特許1、4~12を取り消すことはできない。 また、他に本件特許1、4~12を取り消すべき理由を発見しない。 さらに、本件特許2~3についての特許異議の申立ては、本件訂正により請求項2~3が削除された結果、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項において準用する同法第135条の規定により却下する。 よって、結論のとおり決定する。

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2022-700700

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