特許異議申立
2017-701235
活性エネルギー線硬化性組成物、積層体及びその製造方法
- 審判番号
- 2017-701235
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2013-035854外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2017年12月26日
- 審決日
- 2018年07月31日
- 公報発行日
- 2018年10月26日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】三菱ケミカル株式会社
- 【異議申立人】岡林 茂
- 【異議申立人代理人】特許業務法人太陽国際特許事務所
- 分類
- P1652.113-YAA(C08F) / P1652.121-YAA(C08F)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条1項3号特許法29条2項特許法113条2号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6152658号発明「活性エネルギー線硬化性組成物、積層体及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6152658号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし4〕について、訂正することを認める。
特許第6152658号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第6152658号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし4に係る特許についての出願は、平成25年2月26日を出願日とする出願であって、平成29年6月9日に特許の設定登録がされ、同年6月28日にその特許公報が発行され、その後同年12月26日付けで、その請求項1ないし2に係る発明の特許に対し、特許異議申立人 岡林 茂により特許異議の申立てがされ、平成30年5月2日付け(受理日:同年5月7日)で特許権者 三菱ケミカル株式会社(以下、「特許権者」という。)から意見書が提出されるとともに訂正の請求(以下、「本件訂正の請求」という。)がされ、同年5月9日付けで訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)がされ、それに対し,同年6月8日付け(受理日:同年6月11日)で特許異議申立人から意見書が提出されたものである。
第2 訂正の適否について
1 訂正の内容
本件訂正の請求による訂正の内容は、次のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示すものである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1の
「式(1)で示されるカルボキシル基含有(メタ)アクリレート(a)、式(2)で示される水酸基含有(メタ)アクリレート(但し、ジペンタエリストールペンタアクリレートを除く)(b)、カルボキシル基及び水酸基を含まず、分子内に2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレート(c)及び光重合開始剤を含む活性エネルギー線硬化性組成物。
【化1】
式(1)中、Rdは、水素原子又はメチル基を示す。Re~Rgは、それぞれ独立に、脂肪族基を示し、Xは脂肪族基又は芳香族基を示す。lは3以上の整数、mは1以上の整数、nは0以上の整数であり、l+m+nは4以上である。
【化2】
式(2)中、Rhは、水素原子又はメチル基を示す。Ri~Rkは、それぞれ独立に、脂肪族基を示し、Yは脂肪族基又は芳香族基を示す。оは2以上の整数、pは1以上の整数、qは0以上の整数であり、o+p+qは3以上である。」
を
「式(1)で示されるカルボキシル基含有(メタ)アクリレート(a)、式(2)で示される水酸基含有(メタ)アクリレート(但し、ジペンタエリストールペンタアクリレートを除く)(b)、カルボキシル基及び水酸基を含まず、分子内に2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレート(c)及び光重合開始剤を含む活性エネルギー線硬化性組成物(但し、N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート4級化物及び2-エチルヘキシルメタクリレートの共重合体(B)、ペンタエリスリトールトリアクリレートコハク酸モノエステル(A)、並びに、ペンタエリスリトールトリアクリレートとペンタエリスリトールテトラアクリレートの混合物(C)を含む場合を除く)。
【化1】
式(1)中、Rdは、水素原子又はメチル基を示す。Re~Rgは、それぞれ独立に、脂肪族基を示し、Xは脂肪族基又は芳香族基を示す。lは3以上の整数、mは1以上の整数、nは0以上の整数であり、l+m+nは4以上である。
【化2】
式(2)中、Rhは、水素原子又はメチル基を示す。Ri~Rkは、それぞれ独立に、脂肪族基を示し、Yは脂肪族基又は芳香族基を示す。оは2以上の整数、pは1以上の整数、qは0以上の整数であり、o+p+qは3以上である。
」
に訂正する。
併せて、請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2ないし4についても同様の訂正をする。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、一群の請求項及び独立特許要件
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1の「式(1)で示されるカルボキシル基含有(メタ)アクリレート(a)、式(2)で示される水酸基含有(メタ)アクリレート(但し、ジペンタエリストールペンタアクリレートを除く)(b)、カルボキシル基及び水酸基を含まず、分子内に2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレート(c)及び光重合開始剤を含む活性エネルギー線硬化性組成物」をさらに「式(1)で示されるカルボキシル基含有(メタ)アクリレート(a)、式(2)で示される水酸基含有(メタ)アクリレート(但し、ジペンタエリストールペンタアクリレートを除く)(b)、カルボキシル基及び水酸基を含まず、分子内に2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレート(c)及び光重合開始剤を含む活性エネルギー線硬化性組成物(但し、N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート4級化物及び2-エチルヘキシルメタクリレートの共重合体(B)、ペンタエリスリトールトリアクリレートコハク酸モノエステル(A)、並びに、ペンタエリスリトールトリアクリレートとペンタエリスリトールテトラアクリレートの混合物(C)を含む場合を除く)」とするものであり、「式(1)で示されるカルボキシル基含有(メタ)アクリレート(a)、式(2)で示される水酸基含有(メタ)アクリレート(但し、ジペンタエリストールペンタアクリレートを除く)(b)、カルボキシル基及び水酸基を含まず、分子内に2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレート(c)及び光重合開始剤を含む活性エネルギー線硬化性組成物」をさらに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、訂正事項1の「(但し、N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート4級化物及び2-エチルヘキシルメタクリレートの共重合体(B)、ペンタエリスリトールトリアクリレートコハク酸モノエステル(A)、並びに、ペンタエリスリトールトリアクリレートとペンタエリスリトールテトラアクリレートの混合物(C)を含む場合を除く)」と限定することについては、いわゆる「除くクレーム」とする訂正であって、新たな技術的事項を導入するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
よって、当該訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)一群の請求項
本件訂正の請求による訂正は、訂正後の請求項1~4についての訂正であるが、訂正前の請求項2~4は訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用するものであるので、訂正前の請求項1~4は、一群の請求項である。
したがって、本件訂正の請求は、一群の請求項に対して請求されたものである。
(3)独立特許要件
特許異議の申立ては、訂正前の請求項1及び2に対してされているので、訂正後の請求項1及び2に係る発明については、訂正を認める要件として、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。
他方、訂正後の請求項3及び4は、特許請求の範囲の減縮を目的とした訂正がされた訂正後の請求項1を直接又は間接的に引用するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とした訂正がされたものである。そして、訂正前の請求項3及び4は特許異議の申立てがされていない請求項であるから、訂正後の請求項3及び4に係る発明については、訂正を認める要件として上記独立特許要件が課せられる。
そこで、訂正後の請求項3及び4に係る発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて、以下に検討する。
ア 訂正後の請求項3及び4に係る発明
訂正後の請求項3及び4は、訂正後の請求項1を直接又は間接的に引用するものであるから、まず、訂正後の請求項1に係る発明について検討する。
訂正後の請求項1に係る発明は、下記第3 1の【請求項1】に記載された事項により特定されるとおりのものである。
そして、下記第3 4及び5のとおり、訂正後の請求項1に係る発明は、取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立ての理由により特許を受けることができないものではない。
そうすると、訂正後の請求項3及び4に係る発明は、下記第3 1の【請求項3】及び【請求項4】に記載された事項により特定されるとおりのものであり、訂正後の請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、訂正後の請求項1に係る発明をさらに限定するものであるから、訂正後の請求項1に係る発明と同様に、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立ての理由によって特許を受けることができないものではない。
また、他に訂正後の請求項3及び4に係る発明が特許を受けることができないとする理由も発見しない。
イ まとめ
したがって、訂正後の請求項3及び4に係る発明は特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。
3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同法同条第4項及び第9項で準用する同法第126条第5~7項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1~4〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
1 本件訂正請求により訂正された訂正後の請求項1~4に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明4」という。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~4に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
式(1)で示されるカルボキシル基含有(メタ)アクリレート(a)、式(2)で示される水酸基含有(メタ)アクリレート(但し、ジペンタエリストールペンタアクリレートを除く)(b)、カルボキシル基及び水酸基を含まず、分子内に2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレート(c)及び光重合開始剤を含む活性エネルギー線硬化性組成物(但し、N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート4級化物及び2-エチルヘキシルメタクリレートの共重合体(B)、ペンタエリスリトールトリアクリレートコハク酸モノエステル(A)、並びに、ペンタエリスリトールトリアクリレートとペンタエリスリトールテトラアクリレートの混合物(C)を含む場合を除く)。
【化1】
式(1)中、Rdは、水素原子又はメチル基を示す。Re~Rgは、それぞれ独立に、脂肪族基を示し、Xは脂肪族基又は芳香族基を示す。lは3以上の整数、mは1以上の整数、nは0以上の整数であり、l+m+nは4以上である。
【化2】
式(2)中、Rhは、水素原子又はメチル基を示す。Ri~Rkは、それぞれ独立に、脂肪族基を示し、Yは脂肪族基又は芳香族基を示す。оは2以上の整数、pは1以上の整数、qは0以上の整数であり、o+p+qは3以上である。
【請求項2】
酸価が5KOHmg/g以上、OH価が10KOHmg/g以上である、請求項1に記載の活性エネルギー線硬化性組成物。
【請求項3】
鋳型の内表面に、請求項1又は2に記載の活性エネルギー線硬化性組成物を塗布し、硬化させてハードコート層を形成した後に、鋳型内にプラスチック基材の原料となる重合性化合物を注入して注型重合して得られる積層体を鋳型から剥離する積層体の製造方法。
【請求項4】
ハードコート層の表面の水酸基及びカルボキシル基の合計の含有量が、ハードコート層の表面の炭素原子量100mol部に対して4mol部以上であり、且つ、#0000のスチールウールを用いて、荷重9.8Nの条件で、ハードコート層の表面を100回往復させた後のヘーズ値が0.5%以下である請求項3に記載の積層体の製造方法。」
2 当審が通知した取消理由について
当審が通知した取消理由の概要は次のとおりである。
「理由1 本件特許発明1は、その出願前に日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は同法第113条第2号の規定により取り消すべきものである。
理由2 本件特許発明1は、その出願前に日本国内において、頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は同法113条第2号に該当し、取り消すべきものである。」
3 取消理由における証拠方法
甲第1号証:特開2002-121208号公報
甲第2号証:特開2014-205782号公報
甲第3号証:特開2001-98190号公報
4 取消理由についての当審の判断
(1)甲第1号証に記載された発明及び甲第1ないし3号証に記載された事項
ア 甲第1号証に記載された事項
(ア)
「【請求項1】
1個のカルボキシル基と1個以上のアクリロイル基とを有する(メタ)アクリレート(A)及びN,N-ジアルキルアミノ基(但しアルキル基は相互に異なっていてもよい)と4級アンモニウム塩基とを有する重合体(B)を含有し、(メタ)アクリレート(A)中のカルボキシル基と重合体(B)中のN,N-ジアルキルアミノ基の当量比が1/10~10/1の範囲であることを特徴とする活性エネルギー線硬化性材料。
・・・
【請求項4】
カルボキシル基を有さず且つ2個以上のアクリロイル基を有する(メタ)アクリレート(C)を含有する請求項1又は2に記載の活性エネルギー線硬化性材料。」
(イ)
「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、活性エネルギー線硬化性材料および帯電防止性トップコート剤に関する。」
(ウ)
「【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記の様な被覆組成物の帯電防止性(表面固有抵抗)は、1010~1012Ω/□のレベルであり、自動車のインストルメントパネルや包装材の用途では十分であるが、コンピュータや通信機器のハウジング、IC、LED等の精密部材の搬送容器などの用途において要求される108~109 Ω/□のレベルを満足し得るものではない。本発明は、斯かる実情に鑑みなされたものであり、その目的は、高度な帯電防止性を有する活性エネルギー線硬化性材料および帯電防止性トップコート剤を提供することにある。」
(エ)
「【0010】
先ず、本発明の活性エネルギー線硬化性材料の基本となる成分、すなわち、1個のカルボキシル基と1個以上のアクリロイル基とを有する(メタ)アクリレート(A)について説明する。斯かる(メタ)アクリレート(A)としては、例えば、(メタ)アクリル酸の他、水酸基含有多官能アクリレートと酸無水物との反応物が挙げられ、その具体例としては、例えば、(メタ)アクリル酸、ペンタエリスリトールトリアクリレートコハク酸モノエステル、ジペンタエリスリトールペンタアクリレートコハク酸モノエステル、ペンタエリスリトールトリアクリレートマレイン酸モノエステル、ジペンタエリスリトールペンタアクリレートマレイン酸モノエステル、ペンタエリスリトールトリアクリレートフタル酸モノエステル、ジペンタエリスリトールペンタアクリレートフタル酸モノエステル、ペンタエリスリトールトリアクリレートテトラヒドロフタル酸モノエステル、ジペンタエリスリトールペンタアクリレートテトラヒドロフタル酸モノエステル等が挙げられる。これらの中では、ペンタエリスリトールトリアクリレートコハク酸モノエステルが好適に使用される。
【0011】
次に、帯電防止性付与剤として機能する成分、すなわち、N,N-ジアルキルアミノ基(但しアルキル基は相互に異なっていてもよい)と4級アンモニウム塩基とを有する重合体(B)について説明する。斯かる重合体(B)は、N,N-ジアルキルアミノ基含有単量体とその4級アンモニウム塩との共重合によって得ることが出来る。N,N-ジアルキルアミノ基含有単量体としては、例えばアミノアルコールの(メタ)アクリル酸エステル、具体的には、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N,N-ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノブチル(メタ)アクリレート、N,N-ジエチルアミノブチル(メタ)アクリレート、N,N-ジヒドロキシエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等が挙げられ、特にN,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートが好適に使用される。そして、4級アンモニウム塩は、上記のアミノアルコールの(メタ)アクリル酸エステルの4級化反応によって得られる。」
(オ)
「【0018】
次に、任意成分、すなわち、カルボキシル基を有さず且つ2個以上のアクリロイル基を有する(メタ)アクリレート(C)について説明する。斯かる(メタ)アクリレート(C)としては、例えば、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート等が挙げられる。これらの中では、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートが好適に使用される。
【0019】
本発明の活性エネルギー線硬化性材料は、前記の(メタ)アクリレート(A)と前記の重合体(B)とを必須成分として含有する。この(メタ)アクリレート(A)と重合体(B)の使用割合は、(メタ)アクリレート(A)中のカルボキシル基と重合体(B)中のN,N-ジアルキルアミノ基の当量比で、1/10~10/1の範囲、好ましくは1/3~3/1の範囲、更に好ましくは1/1である。活性エネルギー線照射後の硬化塗膜は、(メタ)アクリレート(A)の有するカルボキシル基と重合体(B)の有するN,N-ジアルキルアミノ基とによる相互作用(造塩作用)により、重合体(B)を架橋構造中に取り込み、優れた耐溶剤性、透明性および硬度を発揮する。
【0020】
本発明の活性エネルギー線硬化性材料は、前記の(メタ)アクリレート(C)、すなわち、カルボキシル基を有さず且つ2個以上のアクリロイル基を有するアクリレートとを任意成分として含有する。(メタ)アクリレート(C)は、その多官能性により、硬化塗膜の架橋密度を高め且つ硬度を増加させる効果を有する。(メタ)アクリレート(A)100重量部に対する(メタ)アクリレート(C)の割合は、通常20~3000重量部、好ましくは40~2500重量部である。(メタ)アクリレート(C)が配合された場合にも、(メタ)アクリレート(A)と重合体(B)の使用割合を上記の範囲に保つことにより、相溶性が維持されて硬化塗膜の透明性が向上する。
【0021】
通常、本発明の活性エネルギー線硬化性材料は光重合開始剤および溶剤を含有する。
【0022】
光重合開始剤としては、例えば、2,2-ジエトキシアセトフェノン、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトン、p-ジメチルアミノアセトフェノン、p-ジメチルアミノプロピオフェノン、p,p′-ビスジエチルアミノベンゾフェノン、ミヒラーケトン、ベンゾインメチルエーテル、ベンジルジメチルケタール、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾフェノン、メチルベンゾイルホルメート、2,2-ジエトキシアセトフェノン、4-N,N′-ジメチルアセトフェノン類、2-メチル-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルフォリノ-1-プロパノン、2-4-ジエチルチオキサントン、オリゴ[2-ヒドロキシ-2-メチル-1-[4-(1-メチルビニル)フェニル]プロパノン等が挙げられる。光重合開始剤の使用量は、前記の(メタ)アクリレート(A)及び(C)の合計量に対し、通常0.1~10重量%とされる。」
(カ)
「【0027】
<重合体(B)の合成>
【0028】
合成例1
撹拌機、還流冷却管、及び温度計を取り付けた反応器に、N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート20部(全単量体を100部とした場合は17部となり、以下、斯かる表示の単位を「phm」と記す)、N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート4級化物(共栄社化学社製「ライトエステルDQ-100」)66部、2-エチルヘキシルメタクリレート30部、アゾビスイソブチロニトリル1部、イソプロピルアルコール200部およびメチルエチルケトン100部を仕込み、攪拌開始後に系内を窒素置換し、80℃に昇温し、8時間反応して共重合体(B1)の溶液を得た。この共重合体の単位重量当たりのアミノ基の当量数は1/912(計算値)である。」
(キ)
「【0035】
【表1】
<(メタ)アクリレート(A)>
「TO-756」:ペンタエリスリトールトリアクリレートコハク酸モノエステル(東亜合成社製「アロニックス TO-756」)
(上記の化合物の単位重量当たりのカルボキシル基の当量数は1/468(計算値)である。)
<(メタ)アクリレート(C)>
「DPHA」:ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(東亜合成社製「アロニックス M400」)
「PETA」:ペンタエリスリトールトリアクリレート(大阪有機化学工業社製「ビスコート 300」)
<光重合開始剤>
1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製「Irgacure184」)」
(ク)
「【0037】
(1)透明性:JIS K-7105に従ってヘイズメーターで測定する。
【0038】
(2)表面抵抗値:温度23℃で相対湿度60%の恒温室に24時間放置した後、表面抵抗計(タケダリケン製「TR-8601」)を使用し、印加電圧100V、1分値で測定する。
【0039】
【表2】
」
イ 甲第1号証に記載された発明
甲第1号証は、「活性エネルギー線硬化性材料および帯電防止性トップコート剤」に関するものであって、甲第1号証の記載(特に、段落【0028】、【0035】、【表2】の実施例2の記載を参照。)を整理すると、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1発明」)が記載されていると認める。
〈甲1発明〉
「N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート20部、N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート4級化物(共栄社化学社製「ライトエステルDQ-100」)66部、2-エチルヘキシルメタクリレート30部、アゾビスイソブチロニトリル1部、イソプロピルアルコール200部およびメチルエチルケトン100部を反応させて得られる共重合体(B1)6.6重量部、「TO-756」:ペンタエリスリトールトリアクリレートコハク酸モノエステル(東亜合成社製「アロニックス TO-756」)(A)3.4重量部、ペンタエリスリトールトリアクリレート(大阪有機化学工業社製「ビスコート 300」)(C)90重量部及び光重合開始剤:1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製「Irgacure184」)」9重量部を含む活性エネルギー線硬化性材料。」
ウ 甲第2号証に記載された事項
「【0224】
<実施例1>
下記組成を混合し、混合組成物をMembrane Filters(孔径:6μm、日本ポール株式会社製)とMembrane Filters(孔径:2.5μm、日本ポール株式会社製)でろ過することによって、遠赤外線遮光層形成用組成1を調製した。
ITO分散液a71.0質量部
バインダーポリマー(ACA230AA、ダイセル・サイテック(株)、固形分55%、溶剤:プロピレングリコールモノメチルエーテル)16.8質量部
光重合開始剤:Iragacure907(BASFジャパン社製)2.8質量部
重合性化合物:アロニックスM-510(TO-756)(商品名:東亞合成(株)製:4官能重合性化合物) 9.4質量部
シランカップリング材 KBM-602(信越シリコーン製)0.11質量部
界面活性剤:メガファックF-780(DIC株式会社製)0.11質量部」
エ 甲第3号証に記載された事項
「【0053】
(合成例1)
2-ヒドロキシエチルメタクリレート10部、及びN,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート90部の単量体混合物をメチルエチルケトン200部に溶解した溶液を加熱して、65℃に昇温した時、および65℃に達してから2時間後に、それぞれ2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)を0.6部ずつ添加し、更に65℃で5時間反応後、80℃に昇温して2時間反応して固形分33%の共重合体を得た(P-1)。これに、イソホロンジイソシアネート22.2部とペンタエリスリトールトリアクリレートとペンタエリスリトールテトラアクリレートの混合物(大阪有機化学工業(株)製「ビスコート300」、水酸基価131mgKOH/g)57.1部とを、25℃で3時間反応後、80℃まで断続的に昇温しながら5時間反応させて得られた付加物79.3部を添加し、80℃で5時間反応し(赤外吸収スペクトルで2250cm-1のイソシアネート基の吸収の消滅を確認)、アクリロイル基を有する固形分45%の共重合体溶液(P-2)を得た。次に、得られた共重合体溶液をイソブチルアルコールで固形分20%になるように希釈した後、N,N-ジメチルアミノ基1モルあたり0.98モルのp-トルエンスルホン酸メチルを導入し、60℃で8時間反応した。更にアミノ基を有するオルガノポリシロキサン化合物(東芝シリコン(株)製「TSF4700」、アミン当量3000)を固形分100部に対して10部添加し、80℃で1.5時間反応し、対イオンとしてp-トルエンスルホネート・イオンを有する4級アンモニウム塩基、アクリロイル基および窒素原子を介して主鎖に結合するオルガノポリシロキサン単位を有する重合体(A-1)(固形分27%)を得た。」
(2)対比及び判断
本件特許発明1と甲1発明を対比する。
甲1発明の「「TO-756」:ペンタエリスリトールトリアクリレートコハク酸モノエステル(東亜合成社製「アロニックス TO-756」)(A)」は、甲2の記載に基づけば、「アロニックス M-510」と同一のものといえる。
そして、本件特許明細書の段落【0110】には、「(a-1):式(1)において、lが3、mが1、nが0で、Xが炭素原子、Reがメチレン基、Rfがメチルエチルエステル残基である化合物を主成分とするカルボキシル基含有アクリレート(東亜合成(株)製、商品名:アロニックスM510、酸価90(KOHmg/g))」と記載されており、本件特許発明1の「式(1)で示されるカルボキシル基含有(メタ)アクリレート(a)」の具体例は「アロニックスM510」であり、甲2の記載に基づけば、「アロニックス TO-756」は、「アロニックスM510」と同一であるから、本件特許発明1の「式(1)で示されるカルボキシル基含有(メタ)アクリレート(a)」に相当する。
そうすると、甲1発明の「「TO-756」:ペンタエリスリトールトリアクリレートコハク酸モノエステル(東亜合成社製「アロニックス TO-756」)(A)」は、本件特許発明1の「式(1)で示されるカルボキシル基含有(メタ)アクリレート(a)」である
「【化1】
式(1)中、Rdは、水素原子又はメチル基を示す。Re~Rgは、それぞれ独立に、脂肪族基を示し、Xは脂肪族基又は芳香族基を示す。lは3以上の整数、mは1以上の整数、nは0以上の整数であり、l+m+nは4以上である。」に相当する。
甲1発明の「光重合開始剤:1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製「Irgacure184」)」、「活性エネルギー線硬化性材料」は、それぞれ、本件特許発明1の「光重合開始剤」、「活性エネルギー線硬化性組成物」に相当する。
そうすると、両者は、
「式(1)で示されるカルボキシル基含有(メタ)アクリレート(a)、及び光重合開始剤を含む活性エネルギー線硬化性組成物。
【化1】
式(1)中、Rdは、水素原子又はメチル基を示す。Re~Rgは、それぞれ独立に、脂肪族基を示し、Xは脂肪族基又は芳香族基を示す。lは3以上の整数、mは1以上の整数、nは0以上の整数であり、l+m+nは4以上である。」との点で一致し、少なくとも以下の点で相違又は一応相違する。
<相違点1>
本件特許発明1は、「式(2)で示される水酸基含有(メタ)アクリレート(但し、ジペンタエリストールペンタアクリレートを除く)(b)、カルボキシル基及び水酸基を含まず、分子内に2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレート(c)〉」及び
「【化2】
式(2)中、Rhは、水素原子又はメチル基を示す。Ri~Rkは、それぞれ独立に、脂肪族基を示し、Yは脂肪族基又は芳香族基を示す。оは2以上の整数、pは1以上の整数、qは0以上の整数であり、o+p+qは3以上である。 」を含むのに対して、
甲1発明は、「ペンタエリスリトールトリアクリレート(大阪有機化学工業社製「ビスコート 300」)(C)」を含む点。
<相違点2>
本件特許発明1においては、「(N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート4級化物及び2-エチルヘキシルメタクリレートの共重合体(B)、ペンタエリスリトールトリアクリレートコハク酸モノエステル(A)、並びに、ペンタエリスリトールトリアクリレートとペンタエリスリトールテトラアクリレートの混合物(C)を含む場合を除く)」、すなわち、N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート4級化物及び2-エチルヘキシルメタクリレートの共重合体(B)、ペンタエリスリトールトリアクリレートコハク酸モノエステル(A)、並びに、ペンタエリスリトールトリアクリレートとペンタエリスリトールテトラアクリレートの混合物(C)を含まないものであるのに対して、
甲1発明は、N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート4級化物、2-エチルヘキシルメタクリレートを反応させて得られる共重合体(B1)、「TO-756」:ペンタエリスリトールトリアクリレートコハク酸モノエステル(東亜合成社製「アロニックス TO-756」)(A)、ペンタエリスリトールトリアクリレート(大阪有機化学工業社製「ビスコート 300」)(C)を含む点。
事案に鑑み、相違点2について検討する。
甲1発明においては、N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート4級化物、2-エチルヘキシルメタクリレートを反応させて得られる共重合体(B1)は、甲第1号証の段落【0011】に記載のとおり帯電防止性付与剤であり、段落【0019】に記載のとおり必須成分である。
また、「TO-756」:ペンタエリスリトールトリアクリレートコハク酸モノエステル(東亜合成社製「アロニックス TO-756」)(A)についても、甲第1号証の段落【0010】に記載のとおり活性エネルギー線硬化性材料の基本となる成分であり、段落【0019】に記載のとおり必須成分である。
したがって、相違点2は実質的な相違点であって、本件特許発明1は、甲1発明と同一であるとはいえない。
また、甲第1号証に開示される技術は、高度な帯電防止性を有する活性エネルギー線硬化剤材料を提供することを目的とし、その実施例2として甲1発明の組成が示されているものである。
このような甲1発明の組成から、帯電防止性を有するために必要な成分と解される帯電防止性付与剤であるN,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート4級化物、2-エチルヘキシルメタクリレートを反応させて得られる共重合体(B1)及び活性エネルギー線硬化剤材料の基本となる成分であるペンタエリスリトールトリアクリレートコハク酸モノエステル(東亜合成社製「アロニックス TO-756」)(A)を含まないものとすることは、活性エネルギー線硬化剤材料が帯電防止性の機能を奏さなくなるおそれもあり、当業者が通常行うこととはいえない。
なお、特許異議申立人が平成30年6月8日付け意見書で「従って、本件特許発明1から、甲第1号証における一実施態様である(1B-1)成分、(1A-1)成分、並びに、(1C-1)成分と(1C-2)成分の混合物を含む場合を訂正請求により除いたとしても、依然として同号証には、本件特許発明1を構成する(a)、(b)、(c)及び(d)成分に該当する成分を選択して含む活性エネルギー線硬化性組成物に関する発明が残っている」と主張する(意見書の第10頁第8-12行)。
確かに、甲第1号証の段落【0010】に本件特許発明1の式(1)の定義を満たす成分、段落【0018】に本件特許発明1の(b)及び(c)成分に該当する成分がいくつか列記されている。
しかしながら、このように列記されていたとしても、同号証の記載において、これらの成分の中から本件特許発明1の式(1)の定義を満たす成分並びに(b)及び(c)成分に該当する成分を選び出し、甲1発明の各成分と置き換える動機付けは存在しないといえる。
仮に、上記各成分が置換できたとしても、本件特許発明1が奏する「加飾材料との密着性に優れ」るとの作用効果は、甲第1号証の記載から、当業者が予測できるとはいえない。
また、甲第2及び3号証の記載からも、当該作用効果は、当業者が予測できるとはいえない。
したがって、相違点2については、甲1発明および甲第1ないし3号証の記載に基づいて、当業者が容易に想到し得たということはできない。
よって、相違点1について判断するまでもなく、本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明ではなく、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。
(3)小括
したがって、本件特許発明1について新規性及び進歩性が欠如するとの理由は理由がない。
5 取消理由で採用しなかった特許異議申立ての理由についての判断
(1)取消理由で採用しなかった特許異議申立ての理由
取消理由で採用しなかった特許異議申立ての理由は、概ね次のとおりである。
(新規性)訂正前の本件特許の請求項2に係る発明は、その出願前に日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は同法第113条第2号の規定により取り消すべきものである。
(進歩性)訂正前の本件特許の請求項2に係る発明は、その出願前に日本国内において、頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は同法113条第2号に該当し、取り消すべきものである
(2)取消理由で採用しなかった特許異議申立ての理由についての判断
特許異議申立ての理由を検討しても、甲第1号証には、「酸価が5KOHmg/g以上、OH価が10KOHmg/g以上である」ことは記載も示唆もされていない。
さらに、訂正後の請求項2に係る発明は、上記第3のとおり新規性及び進歩性を有する訂正後の請求項1を引用するものであるから、取り消すべき理由はない。
よって、本件特許発明2について新規性及び進歩性が欠如する理由は、理由がない。
第4 結語
上記第3のとおりであるから、取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立ての理由によっては、請求項1ないし2に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2017-701235