特許異議申立
2017-701227
有機EL素子、感放射線性樹脂組成物および硬化膜
- 審判番号
- 2017-701227
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2013-098706外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2017年12月21日
- 審決日
- 2018年11月16日
- 公報発行日
- 2019年04月26日
- 結論
- 請求成立(取消)
- 当事者
- 【権利者】JSR株式会社
- 【権利者代理人】関口 正夫
- 【権利者代理人】仲野 孝雅
- 【権利者代理人】祐成 篤哉
- 【異議申立人】特許業務法人 朝日奈特許事務所
- 分類
- P1651.536-ZDA(H05B) / P1651.537-ZDA(H05B) / P1651.121-ZDA(H05B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条4項1号特許法36条6項特許法113条2号特許法113条4号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第7項、特許法第36条第6項、特許法第113条第2号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6155823号発明「有機EL素子、感放射線性樹脂組成物および硬化膜」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6155823号の特許請求の範囲を、平成30年8月28日付け訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-23〕について訂正することを認める。
特許第6155823号の請求項1-3、6-12、15-18に係る特許を取り消す。
特許第6155823号の請求項4、5、13、14、19-23についての異議申立を却下する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第6155823号の請求項1~23に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、平成25年5月8日(優先権主張平成24年7月12日)に出願され、平成29年6月16日に特許権の設定登録がされ、同年7月5日に特許掲載公報が発行され、その後、その請求項1~23に係る特許について、同年12月21日に特許異議申立人 特許業務法人朝日奈特許事務所(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。
その後、平成30年3月20日付けで取消理由が通知され、同年5月11日付けで特許権者から意見書の提出及び訂正の請求がなされ、同年6月20日付けで特許異議申立人から意見書が提出され、同年7月20日付けで取消理由(決定の予告)を通知し、同年8月28日付けで特許権者から意見書の提出及び訂正の請求(以下、当該訂正の請求を「本件訂正請求」といい、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。)がなされ、同年10月10日付けで特許異議申立人から意見書が提出されたものである。
なお、平成30年5月11日付けでなされた訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の趣旨
本件訂正の請求の趣旨は、「特許第6155823号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正の特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~23について訂正することを求める。」というものである。
2 訂正の内容
本件訂正の訂正事項は以下のとおりである。なお、合議体において、訂正箇所に下線を付した。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「基板と、前記基板上に配置されたアクティブ素子と、前記アクティブ素子を被覆する保護膜と、前記保護膜上に配置された第1の電極と、前記第1の電極上に配置された有機発光層と、前記有機発光層の上に配置された第2の電極とを有する有機EL素子であって、
前記保護膜は、第1の樹脂と、キノンアジド構造を有する化合物およびインデンカルボン酸構造を有する化合物の両方を含むことを特徴とする有機EL素子。」と記載されているのを、
「基板と、前記基板上に配置されたアクティブ素子と、前記アクティブ素子を被覆する保護膜と、前記保護膜上に配置された第1の電極と、前記第1の電極上に配置された有機発光層と、前記有機発光層の上に配置された第2の電極とを有するボトムエミッション型有機EL素子であって、前記保護膜は、第1の樹脂と、(ポリヒドロキシフェニル)アルカン構造とキノンジアジド構造とを有する化合物、インデンカルボン酸構造を有する化合物の両方および下記一般式(1)で表される化合物からなる群より選ばれる1種を含むことを特徴とする有機EL素子。
【化1】
(式(1)中、R1~R5は、各々独立に、水素、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルコキシ基、炭素数1~20のベンゾイロキシ基または水酸基を表す。)」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2、3、6~10及び請求項16~18も同様に訂正する。)。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項11に
「基板と、前記基板上に配置されたアクティブ素子と、前記アクティブ素子に接続する第1の電極と、前記第1の電極上に配置された有機発光層と、前記アクティブ素子の上に設けられ前記有機発光層の配置領域を規定するバンクと、前記有機発光層の上に配置された第2の電極とを有する有機EL素子であって、
前記バンクは、樹脂と、キノンアジド構造を有する化合物およびインデンカルボン酸構造を有する化合物の両方を含むことを特徴とする有機EL素子。」と記載されているのを、
「基板と、前記基板上に配置されたアクティブ素子と、前記アクティブ素子に接続する第1の電極と、前記第1の電極上に配置された有機発光層と、前記アクティブ素子の上に設けられ前記有機発光層の配置領域を規定するバンクと、前記有機発光層の上に配置された第2の電極とを有するボトムエミッション型有機EL素子であって、
前記バンクは、樹脂と、(ポリヒドロキシフェニル)アルカン構造とキノンジアジド構造とを有する化合物、インデンカルボン酸構造を有する化合物の両方および下記一般式(1)で表される化合物からなる群より選ばれる1種を含むことを特徴とする有機EL素子。
【化4】
(式(1)中、R1~R5は、各々独立に、水素、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルコキシ基、炭素数1~20のベンゾイロキシ基または水酸基を表す。)」に訂正する(請求項11の記載を引用する請求項12、15~18も同様に訂正する。)。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項4を削除する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項5を削除する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項13を削除する。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項14を削除する。
(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項19を削除する。
(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項20を削除する。
(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項21を削除する。
(10)訂正事項10
特許請求の範囲の請求項22を削除する。
(11)訂正事項11
特許請求の範囲の請求項23を削除する。
(12)訂正事項12
特許請求の範囲の請求項6に
「前記アクティブ素子の上に、前記有機発光層の配置領域を規定するよう設けられたバンクを有することを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の有機EL素子。」と記載されているのを、
「前記アクティブ素子の上に、前記有機発光層の配置領域を規定するよう設けられたバンクを有することを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の有機EL素子。」に訂正する(請求項6の記載を引用する請求項7も同様に訂正する。)。
(13)訂正事項13
特許請求の範囲の請求項8に
「 前記第2の樹脂は、カルボキシル基を有するアクリル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリシロキサンおよびノボラック樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種からなることを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載の有機EL素子。」と記載されているのを、
「 前記第2の樹脂は、カルボキシル基を有するアクリル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリシロキサンおよびノボラック樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種からなることを特徴とする請求項1~3、6、7のいずれか1項に記載の有機EL素子。」に訂正する(請求項8の記載を引用する請求項9も同様に訂正する。)。
(14)訂正事項14
特許請求の範囲の請求項10に
「前記紫外線吸収剤は、下記一般式(1)および下記一般式(2)で表される化合物からなる群より選ばれる1種を含むことを特徴とする請求項9に記載の有機EL素子。
【化3】
【化4】
(式(1)および式(2)中、R 1 ~R 15 は、各々独立に、水素、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルコキシ基、炭素数1~20のベンゾイロキシ基または水酸基を表す。)」と記載されているのを、
「前記紫外線吸収剤は、下記一般式(1)で表される化合物からなる群より選ばれる1種を含むことを特徴とする請求項9に記載の有機EL素子。
【化3】
(式(1)中、R1~R5は、各々独立に、水素、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルコキシ基、炭素数1~20のベンゾイロキシ基または水酸基を表す。)」に訂正する。
(15)訂正事項15
特許請求の範囲の請求項15に
「 前記アクティブ素子の上には、該アクティブ素子を被覆する保護膜を有し、前記第1の電極は前記保護膜上に配置され、該保護膜に設けられたスルーホールを介して前記アクティブ素子に接続するよう構成されたことを特徴とする請求項11~14のいずれか1項に記載の有機EL素子。」と記載されているのを、
「 前記アクティブ素子の上には、該アクティブ素子を被覆する保護膜を有し、前記第1の電極は前記保護膜上に配置され、該保護膜に設けられたスルーホールを介して前記アクティブ素子に接続するよう構成されたことを特徴とする請求項11または12に記載の有機EL素子。」に訂正する(請求項15の記載を引用する請求項16~18も同様に訂正する。)
(16)訂正事項16
特許請求の範囲の請求項16に
「前記アクティブ素子は、半導体層を有して構成され、
前記半導体層は、シリコン(Si)を用いて構成されたものであることを特徴とする請求項1~15のいずれか1項に記載の有機EL素子。」と記載されているのを、
「前記アクティブ素子は、半導体層を有して構成され、
前記半導体層は、シリコン(Si)を用いて構成されたものであることを特徴とする請求項1~3、6~12、15のいずれか1項に記載の有機EL素子。」に訂正する。
(17)訂正事項17
特許請求の範囲の請求項17に
「前記アクティブ素子は、半導体層を有して構成され、
前記半導体層は、インジウム(In)、亜鉛(Zn)および錫(Sn)のうちの少なくとも1種を含んで構成された酸化物を用いて形成されたものであることを特徴とする請求項1~15のいずれか1項に記載の有機EL素子。」と記載されているのを、
「前記アクティブ素子は、半導体層を有して構成され、
前記半導体層は、インジウム(In)、亜鉛(Zn)および錫(Sn)のうちの少なくとも1種を含んで構成された酸化物を用いて形成されたものであることを特徴とする請求項1~3、6~12、15のいずれか1項に記載の有機EL素子。」に訂正する(請求項17の記載を引用する請求項18も同様に訂正する。)。
本件訂正請求は、一群の請求項〔1-23〕に対して請求されたものである。
3 訂正の目的の適否
(1)訂正事項1による訂正は、本件訂正前の請求項1に記載された発明における、[A]「有機EL素子」を「ボトムエミッション型有機EL素子」に限定するとともに、[B]「キノンアジド構造を有する化合物」について、「キノンアジド」を「キノンジアジド」に誤記訂正した上で、[C]誤記訂正後の「キノンジアジド構造を有する化合物」を「(ポリヒドロキシフェニル)アルカン構造とキノンジアジド構造とを有する化合物」に限定し、さらに、[D]「樹脂」について、「下記一般式(1)で表される化合物からなる群より選ばれる1種」を含むものに限定し、さらに、[E]一般式(1)における置換基を表す「R 1 」等の記号を、一般式(1)の記載に合わせて「R1」等に訂正し、記載を明瞭なものとするものである。
(合議体注:「下記一般式(1)」は、前記2(1)に記載したとおりのものである。)
また、訂正事項2による訂正は、本件訂正前の請求項11について、上記訂正事項1と同じ事項の訂正を行うものである。
したがって、訂正事項1及び訂正事項2は、いずれも特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第2号及び第3号に掲げる事項を目的とするものである。
(2)訂正事項3~11による訂正は、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項4、5、13、14、19~23を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものである。
(3)訂正事項12、13、15~17による訂正は、訂正事項3~6により請求項4、5、13、14が削除されたことにともない、これと整合するように記載を改めたものといえる。
したがって、訂正事項12、13、15~17は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる事項を目的とするものといえる。
(4)訂正事項14による訂正は、[A]本件訂正前の請求項10に記載された発明における「紫外線吸収剤」の選択肢を「下記一般式(1)および下記一般式(2)で表される化合物からなる群より選ばれる1種」から「下記一般式(1)で表される化合物からなる群より選ばれる1種」に限定し、さらに[B]一般式(1)における置換基を表す「R 1 」等の記号を、一般式(1)の記載に合わせて「R1」等に訂正し、記載を明瞭なものとするものである。
したがって、訂正事項14は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものである。
(5)むすび
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第2号又は第3号に掲げる事項を目的とするものといえる。
4 新規事項の有無
(1)訂正事項1及び訂正事項2について
本件特許の願書に添付した明細書の段落【0101】には、「本実施形態の有機EL表示素子の保護膜には、樹脂とともに、キノンジアジド構造を有する化合物およびインデンカルボン酸構造を有する化合物のうちの少なくとも一方が含まれることになる。そして、本実施形態の有機EL表示素子がボトムエミッション型である場合に、特に好ましい保護膜となる。」と記載されている。そうしてみると、上記訂正事項1による訂正のうち、前記3(1)の[A]の訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。
また、本件特許の願書に最初に添付した特許請求の範囲の【請求項1】には、
「基板と、前記基板上に配置されたアクティブ素子と、前記アクティブ素子を被覆する保護膜と、前記保護膜上に配置された第1の電極と、前記第1の電極上に配置された有機発光層と、前記有機発光層の上に配置された第2の電極とを有する有機EL素子であって、
前記保護膜は、第1の樹脂と、
キノンジアジド構造を有する化合物およびインデンカルボン酸構造を有する化合物のうちの少なくとも一方とを含むことを特徴とする有機EL素子。」
と記載されている。そうしてみると、訂正事項1による訂正のうち、前記3(1)の[B]の訂正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。
加えて、本件特許の願書に添付した明細書の段落【0204】及び【0205】には、それぞれ「キノンジアジド構造を有する化合物としては、フェノール性化合物またはアルコール性化合物(以下、「母核」と称する。)と、1,2-ナフトキノンジアジドスルホン酸ハライドとの縮合物を用いることができる。」及び「上述の母核としては、例えば、トリヒドロキシベンゾフェノン、テトラヒドロキシベンゾフェノン、ペンタヒドロキシベンゾフェノン、ヘキサヒドロキシベンゾフェノン、(ポリヒドロキシフェニル)アルカン、その他の母核等が挙げられる。」と記載されている。そうしてみると、上記訂正事項1による訂正のうち、前記3(1)の[C]の訂正も、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。
さらに、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の【請求項4】には、「前記保護膜は、紫外線吸収剤を含む」と記載されており、【請求項5】には、「前記紫外線吸収剤は、下記一般式(1)および下記一般式(2)で表される化合物からなる群より選ばれる1種を含む」と記載されており、一般式(1)として、訂正事項1及び訂正事項2における一般式(1)と同じ化学式が記載されている。そうしてみると、訂正事項1による訂正のうち、前記3(1)の[D]の訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。
また、願書に添付した明細書の段落【0026】には、一般式(1)における置換基を表す記号について「R1~R15は、」と記載されている。そうしてみると、上記訂正事項1による訂正のうち、前記3(1)の[E]の訂正も、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。
そして、訂正事項2による訂正についても、同様である。
(2)訂正事項3~訂正事項11について
訂正事項3~訂正事項11による訂正は、請求項を削除するものであるから、訂正事項3~訂正事項11による訂正が、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものであることは明らかである。
(3)訂正事項12、13、15~17について
訂正事項12、13、15~17による訂正は、訂正事項2~6による訂正と整合するように、請求項が引用する請求項を改めたものであるから、訂正事項12、13、15~17による訂正が、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものであることは明らかである。
(4)訂正事項14について
訂正事項14による訂正のうち、前記3(4)の[A]の訂正は、本件訂正前の請求項10に記載されていた発明における「紫外線吸収剤」の選択肢を限定するものであるから、訂正事項14による訂正が、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものであることは明らかである。
また、願書に添付した明細書の段落【0026】には、一般式(1)における置換基を表す記号について「R1~R15は、」と記載されている。そうしてみると、訂正事項14による訂正のうち、前記3(4)の[B]の訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。
(5)むすび
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
5 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1及び訂正事項2による訂正は、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1又は請求項11に係る発明における有機EL素子について「ボトムエミッション型」との限定を付加し、キノンジアジド構造を有する化合物について「(ポリヒドロキシフェニル)アルカン構造」を有するとの限定を付加し、さらに、樹脂について「下記一般式(1)で表される化合物からなる群より選ばれる1種」を含むものに限定するとともに、誤記の訂正及び明瞭でない記載の釈明をするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。また、訂正事項14による訂正は、紫外線吸収剤に含まれる化合物群の範囲を限定し、明瞭でない記載の釈明をするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
さらに、訂正事項3~訂正事項11による訂正は、請求項を削除するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
そして、訂正事項12、13、15~17による訂正は、訂正事項2~6による訂正と整合するように、請求項が引用する請求項を改めたものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、本件訂正は、特許請求の範囲を拡張、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
6 むすび
以上のとおり、本件訂正による訂正事項は、何れも、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号、第2号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
よって、訂正後の請求項〔1-23〕について訂正することを認める。
第3 特許異議の申立てについて
1 本件特許
前記第2のとおり、本件訂正は認められることとなったので、本件訂正により訂正された訂正請求項1~3、6~12、15~18に係る発明(以下、請求項の番号に従って「本件特許発明1」のようにいう。)は、その特許請求の範囲の請求項1~3、6~12、15~18に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。なお、請求項4、5、13、14、19~23は、本件訂正によって削除された。
「【請求項1】
基板と、前記基板上に配置されたアクティブ素子と、前記アクティブ素子を被覆する保護膜と、前記保護膜上に配置された第1の電極と、前記第1の電極上に配置された有機発光層と、前記有機発光層の上に配置された第2の電極とを有するボトムエミッション型有機EL素子であって、前記保護膜は、第1の樹脂と、(ポリヒドロキシフェニル)アルカン構造とキノンジアジド構造とを有する化合物、インデンカルボン酸構造を有する化合物の両方および下記一般式(1)で表される化合物からなる群より選ばれる1種を含むことを特徴とする有機EL素子。
【化1】
(式(1)中、R1~R5は、各々独立に、水素、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルコキシ基、炭素数1~20のベンゾイロキシ基または水酸基を表す。)
【請求項2】
前記保護膜はスルーホールを有し、
前記第1の電極は、該スルーホールを介して前記アクティブ素子と接続するよう構成されたことを特徴とする請求項1に記載の有機EL素子。
【請求項3】
前記第1の樹脂は、カルボキシル基を有するアクリル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリシロキサンおよびノボラック樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種からなることを特徴とする請求項1または2に記載の有機EL素子。
【請求項6】
前記アクティブ素子の上に、前記有機発光層の配置領域を規定するよう設けられたバンクを有することを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の有機EL素子。
【請求項7】
前記バンクは、第2の樹脂と、キノンジアジド構造を有する化合物およびインデンカルボン酸構造を有する化合物のうちの少なくとも一方とを含むことを特徴とする請求項6に記載の有機EL素子。
【請求項8】
前記第2の樹脂は、カルボキシル基を有するアクリル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリシロキサンおよびノボラック樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種からなることを特徴とする請求項1~3、6、7のいずれか1項に記載の有機EL素子。
【請求項9】
前記バンクは、紫外線吸収剤を含むことを特徴とする請求項6~8のいずれか1項に記載の有機EL素子。
【請求項10】
前記紫外線吸収剤は、下記一般式(1)で表される化合物からなる群より選ばれる1種を含むことを特徴とする請求項9に記載の有機EL素子。
【化3】
(式(1)中、R1~R5は、各々独立に、水素、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルコキシ基、炭素数1~20のベンゾイロキシ基または水酸基を表す。)
【請求項11】
基板と、前記基板上に配置されたアクティブ素子と、前記アクティブ素子に接続する第1の電極と、前記第1の電極上に配置された有機発光層と、前記アクティブ素子の上に設けられ前記有機発光層の配置領域を規定するバンクと、前記有機発光層の上に配置された第2の電極とを有するボトムエミッション型有機EL素子であって、
前記バンクは、樹脂と、(ポリヒドロキシフェニル)アルカン構造とキノンジアジド構造とを有する化合物、インデンカルボン酸構造を有する化合物の両方および下記一般式(1)で表される化合物からなる群より選ばれる1種を含むことを特徴とする有機EL素子。
【化4】
(式(1)中、R1~R5は、各々独立に、水素、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルコキシ基、炭素数1~20のベンゾイロキシ基または水酸基を表す。)
【請求項12】
前記樹脂は、カルボキシル基を有するアクリル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリシロキサンおよびノボラック樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種からなることを特徴とする請求項11に記載の有機EL素子。
【請求項15】
前記アクティブ素子の上には、該アクティブ素子を被覆する保護膜を有し、前記第1の電極は前記保護膜上に配置され、該保護膜に設けられたスルーホールを介して前記アクティブ素子に接続するよう構成されたことを特徴とする請求項11または12のいずれか1項に記載の有機EL素子。
【請求項16】
前記アクティブ素子は、半導体層を有して構成され、
前記半導体層は、シリコン(Si)を用いて構成されたものであることを特徴とする請求項1~3、6~12、15のいずれか1項に記載の有機EL素子。
【請求項17】
前記アクティブ素子は、半導体層を有して構成され、
前記半導体層は、インジウム(In)、亜鉛(Zn)および錫(Sn)のうちの少なくとも1種を含んで構成された酸化物を用いて形成されたものであることを特徴とする請求項1~3、6~12、15のいずれか1項に記載の有機EL素子。
【請求項18】
前記半導体層は、酸化亜鉛(ZnO)、酸化インジウムガリウム亜鉛(IGZO)、酸化亜鉛錫(ZTO)および酸化インジウム亜鉛(IZO)のうちの少なくとも1種を用いて形成されたものであることを特徴とする請求項17に記載の有機EL素子。」
2 取消理由の概要
平成30年7月20日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
理由1(サポート要件)
本件特許の請求項1~18(平成30年5月11日付け訂正請求書によって訂正されたもの)に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものであるということができない。そうしてみると、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消されるべきものである。
理由2(実施可能要件)
本件特許の発明の詳細な説明の記載は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が、その実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるということができない。そうしてみると、本件特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消されるべきものである。
理由4(進歩性)
本件特許の請求項1~18(平成30年5月11日付け訂正請求書によって訂正されたもの)に係る発明は、その優先権主張の日(以下、「優先日」という。)前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものである。そうしてみると、本件特許の請求項1~18に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、取り消されるべきものである。
なお、特許異議申立人により提出された甲第1号証~甲第3号証は、以下のとおりのものである。甲第1号証が主引例として提示され、甲第2号証が請求項17及び請求項18に係る発明の副引例として提示され、甲第3号証は、本件特許の出願時の技術常識を裏付ける文献として提示されている。また、特許権者は、本件特許の出願時の技術常識を裏付ける文献として、以下の乙第1号証及び乙第2号証を提示している。
甲第1号証:国際公開第2011/040324号
甲第2号証:特開2012-93707号公報
甲第3号証:オルソナフトキノンジアジドの熱反応に関する研究とポジ型EDUVレジストへの応用,宮川堅次,塗料の研究,No.135,第2~9頁,2000年10月
乙第1号証:特許第5019055号公報
乙第2号証:特開2015-121710号公報
3 甲号証及び乙号証の記載、及び、甲号証に記載された発明
(1)甲第1号証
ア 本件特許の優先日前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証(国際公開第2011/040324号)には、以下の事項が記載されている。(下線部は、発明の認定に用いた箇所を示す。)
(ア)「技術分野
[0001] 本発明は、半導体素子基板に係り、さらに詳しくは、信頼性が高く、各種電気特性に優れ(たとえば、低誘電率特性、低リーク電流特性、高絶縁破壊電圧特性)、しかも、透明性が高く、現像によるパターン形成性に優れた樹脂膜を備える半導体素子基板に関する。
背景技術
[0002] 有機EL素子や液晶表示素子などの各種表示素子、集積回路素子、固体撮像素子、カラーフィルター、ブラックマトリックス等の電子部品には、その劣化や損傷を防止するための保護膜、素子表面や配線を平坦化するための平坦化膜、電気絶縁性を保つための電気絶縁膜等として種々の樹脂膜が設けられている。また、有機EL素子には、発光体部を分離するために画素分離膜としての樹脂膜が設けられており、さらに、薄膜トランジスタ型液晶用の表示素子や集積回路素子等の素子には、層状に配置される配線の間を絶縁するために層間絶縁膜としての樹脂膜が設けられている。
(中略)
[0006]特許文献1:特開平10-307388号公報
発明の概要
発明が解決しようとする課題
[0007] 本発明は、信頼性が高く、各種電気特性が良好であり、かつ、透明性が高く、現像によるパターン形成性に優れた樹脂膜を備える半導体素子基板を提供することを目的とする。
課題を解決するための手段
[0008] 本発明者は、上記目的を達成するために鋭意研究した結果、半導体素子基板に実装される半導体素子表面、又は半導体素子に含まれる半導体層と接触して用いられる樹脂膜を形成するための組成物として、窒素原子に特定構造の置換基を有する環状イミド骨格と環状オレフィンとが1つの炭素-炭素結合を共有する構造を有する単量体の単位を有する重合体と、架橋剤と、感放射線化合物とを含有する感放射線性樹脂組成物を用いることにより、半導体素子基板の信頼性及び各種電気特性を優れたものとすることができ、かつ、得られる樹脂膜を、透明性が高く、現像によるパターン形成性に優れたものとすることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。」
(イ)「[0081](感放射線化合物(C))
本発明で用いる感放射線化合物(C)は、紫外線や電子線等の放射線の照射により、化学反応を引き起こすことのできる化合物である。本発明において感放射線化合物(C)は、樹脂組成物から形成されてなる樹脂膜のアルカリ溶解性を制御できるものが好ましく、特に、光酸発生剤を使用することが好ましい。
[0082] このような感放射線化合物(C)としては、例えば、アセトフェノン化合物、トリアリールスルホニウム塩、キノンジアジド化合物等のアジド化合物等が挙げられるが、好ましくはアジド化合物、特に好ましくはキノンジアジド化合物である。
[0083] キノンジアジド化合物としては、例えば、キノンジアジドスルホン酸ハライドとフェノール性水酸基を有する化合物とのエステル化合物を用いることができる。キノンジアジドスルホン酸ハライドの具体例としては、1,2-ナフトキノンジアジド-5-スルホン酸クロライド、1,2-ナフトキノンジアジド-4-スルホン酸クロライド、1,2-ベンゾキノンジアジド-5-スルホン酸クロライド等が挙げられる。フェノール性水酸基を有する化合物の代表例としては、1,1,3-トリス(2,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)-3-フェニルプロパン、4,4’-[1-[4-[1-[4-ヒドロキシフェニル]-1-メチルエチル]フェニル]エチリデン]ビスフェノール等が挙げられる。これら以外のフェノール性水酸基を有する化合物としては、2,3,4-トリヒドロキシベンゾフェノン、2,3,4,4’-テトラヒドロキシベンゾフェノン、2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、トリス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、1,1,1-トリス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)エタン、1,1,2,2-テトラキス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、ノボラック樹脂のオリゴマー、フェノール性水酸基を1つ以上有する化合物とジシクロペンタジエンとを共重合して得られるオリゴマー等が挙げられる。
これらの中でも、1,2-ナフトキノンジアジド-5-スルホン酸クロライドとフェノール性水酸基を有する化合物との縮合物が好ましく、1,1,3-トリス(2,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)-3-フェニルプロパン(1モル)と1,2-ナフトキノンジアジド-5-スルホン酸クロライド(1.9モル)との縮合物がより好ましい。」
(ウ)「[0087] また、本発明で用いる感放射線性樹脂組成物は、本発明の効果が阻害されない範囲であれば、所望により、界面活性剤、酸性化合物、カップリング剤又はその誘導体、増感剤、潜在的酸発生剤、酸化防止剤、光安定剤、消泡剤、顔料、染料、フィラー等のその他の配合剤;等を含有していてもよい。」
(エ)「[0101] 光安定剤としては、ベンゾフェノン系、サリチル酸エステル系、ベンゾトリアゾール系、シアノアクリレート系、金属錯塩系等の紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系(HALS)等、光により発生するラジカルを捕捉するもの等のいずれでもよい。これらのなかでも、HALSはピペリジン構造を有する化合物で、感放射線性樹脂組成物に対し着色が少なく、安定性がよいため好ましい。具体的な化合物としては、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート、1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル/トリデシル1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシレート、ビス(1-オクチロキシ-2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート等が挙げられる。」
(オ)「[0105](半導体素子基板)
次いで、本発明の半導体素子基板について、説明する。本発明の半導体素子基板は、上述した感放射線性樹脂組成物からなる樹脂膜を有し、該樹脂膜は、半導体素子基板に実装されている半導体素子表面、又は半導体素子に含まれる半導体層と接触して形成される。
[0106] 本発明の半導体素子基板としては、基板上に半導体素子が実装された構成を有するものであればよく、特に限定されないが、アクティブマトリックス基板、有機EL素子基板、集積回路素子基板、及び固体撮像素子基板などが挙げられ、上述した感放射線性樹脂組成物からなる樹脂膜を形成することによる特性向上効果が特に顕著であるという観点より、アクティブマトリックス基板、及び有機EL素子基板が好ましい。
[0107] 本発明の半導体素子基板の一例としてのアクティブマトリックス基板としては、特に限定されないが、基板上に、薄膜トランジスタ(TFT)などのスイッチング素子がマトリックス状に配置されると共に、該スイッチング素子を駆動するためのゲート信号を供給するゲート信号線、及び該スイッチング素子に表示信号を供給するためのソース信号線が互いに交差するよう設けられている構成を有するものなどが例示される。また、スイッチング素子の一例としての薄膜トランジスタとしては、基板上に、ゲート電極、ゲート絶縁層、半導体層、ソース電極、及びドレイン電極を有する構成などが例示される。
[0108] さらに、本発明の半導体素子基板の一例としての有機EL素子基板としては、たとえば、基板上に、陽極、正孔注入輸送層、半導体層としての有機発光層、電子注入層、及び陰極などから構成される発光体部と、該発光体部を分離するために画素分離膜とを有する構成を有するものなどが例示される。
[0109] そして、本発明の半導体素子基板を構成する樹脂膜としては、上述した感放射線性樹脂組成物からなり、半導体素子基板に実装されている半導体素子表面、又は半導体素子に含まれる半導体層と接触して形成される樹脂膜であればよく、特に限定されないが、本発明の半導体素子基板が、アクティブマトリックス基板、又は有機EL素子基板である場合には、次のように構成することができる。すなわち、たとえば、本発明の半導体素子基板が、アクティブマトリックス基板である場合には、上述した感放射線性樹脂組成物からなる樹脂膜は、アクティブマトリックス基板の表面に形成される保護膜や、アクティブマトリックス基板を構成する薄膜トランジスタの半導体層(たとえば、アモルファスシリコン層)と接触して形成されるゲート絶縁膜とすることができる。あるいは、本発明の半導体素子基板が、有機EL素子基板である場合には、有機EL素子基板の表面に形成される封止膜や、有機EL素子基板に含まれる発光体部(通常、陽極、正孔注入輸送層、半導体層としての有機発光層、電子注入層、及び陰極から構成される。)を分離するための画素分離膜とすることができる。」
(カ)「実施例
[0122] 以下に、実施例及び比較例を挙げて、本発明についてより具体的に説明する。各例中の部及び%は、特に断りのない限り、重量基準である。 なお、各特性の定義及び評価方法は、以下のとおりである。
[0123]<現像時残渣、未露光部表面の荒れ>
感放射線性樹脂組成物をシリコンウェハ上にスピンコートした後、ホットプレートを用いて100℃で2分間プリベークして、2.5μm厚の樹脂膜を形成した。次いで、この樹脂膜に、5μm×5μmのホールパターンのマスクを介して、365nmにおける光強度が5mW/cm2である紫外線を、40秒間、空気中で照射した。次いで、0.4重量%テトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液を用いて、23℃、60秒間現像処理を行った後、超純水で30秒間リンスしてコンタクトホールのパターンを形成した。
そして、このようにして得られたコンタクトホールのパターンを有する樹脂膜について、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、コンタクトホール内における、溶解残渣の有無、及び未露光部表面の荒れの有無の評価を行った。溶解残渣及び未露光部表面の荒れのいずれも観測されない方が、現像によるパターン形成性に優れるため、好ましい。
[0124]<焼成時ホール状態、焼成時膜硬度>
上記と同様にして得られたコンタクトホールのパターンを有する樹脂膜に、365nmにおける光強度が5mW/cm2である紫外線を、90秒間、空気中で照射し、次いで、オーブンを用いて230℃、1時間ポストベークを行なった。そして、得られたポストベーク後の樹脂膜について、光学顕微鏡により、コンタクトホールを観察し、以下の基準に従って、焼成時ホール状態の評価を行った。
○:コンタクトホールの埋没、及びコンタクトホールの形状の歪みが観察されない。
×:コンタクトホールが埋まっている、又はコンタクトホールの形状が歪んでいる。
また、上記とは別に、得られたポストベーク後の樹脂膜について、鉛筆硬度を測定することにより、焼成時膜硬度の評価を行った。焼成時膜硬度は高いほど好ましい。
[0125]<比誘電率>
感放射線性樹脂組成物をシリコンウェハ上にスピンコートした後、ホットプレートを用いて100℃で2分間プリベークして、0.12μm厚の樹脂膜を形成した。次いで、樹脂膜全面に高圧水銀灯を用いて光を照射し、樹脂膜中に残存する分解していない感放射線化合物を分解させた。次いで、窒素雰囲気中において230℃で1時間ホットプレートで加熱することにより、樹脂膜が形成されシリコンウェハからなる試験用試料を得た。
そして、得られた試験用試料を用いて、JIS C6481に準じて、10KHz(室温)で、樹脂膜の比誘電率を測定した。比誘電率は低いほど好ましい。
[0126]<絶縁破壊電圧>
上記比誘電率の評価と同様にして、試験用試料を作製し、得られた試験用試料を用いて、樹脂膜の絶縁破壊電圧を測定した。なお、本実施例においては、樹脂膜に、直流電圧を50V/分で印加し、漏れ電流が1×10-6mA/cm3以上となったときの電圧を絶縁破壊電圧とした。絶縁破壊電圧は高いほど好ましい。
[0127]<透明性>
上記比誘電率の評価と同様にして、試験用試料を作製し、得られた試験用試料について、分光光度計(日本分光株式会社製、紫外可視分光光度計V-560)を用いて、波長400nmでの透過率の測定を行うことで、樹脂膜の透明性を評価した。
[0128]<リーク電流、閾値電流>
アクティブマトリックス基板のソース電極とドレイン電極の間に20Vの電圧を印加し、ゲート電極に印加する電圧を-20~+30Vに変化させて、ソース電極とドレイン電極との間に流れる電流を、マニュアルプローバー及び半導体パラメータアナライザー(Agilent社製、4156C)を用いて測定することで、リーク電流および閾値電圧の測定を行なった。なお、測定は、初期状態(高温、高湿環境に保持する前)のアクティブマトリックス基板、及び50℃、80%RHの高温、高湿環境に100時間保持した後のアクティブマトリックス基板のそれぞれについて行なった。」
(キ)「[0129]《合成例1》
N-(2-エチルヘキシル)-ビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2,3-ジカルボキシイミド(NEHI)40モル%、および8-ヒドロキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10 ]ドデカ-3-エン(TCDC)60モル%からなる単量体混合物100部、1,5-ヘキサジエン2部、(1,3-ジメシチルイミダゾリン-2-イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリデンルテニウムクロリド(Org.Lett.,第1巻,953頁,1999年 に記載された方法で合成した)0.02部、及びジエチレングリコールメチルエチルエーテル400部を、窒素置換したガラス製耐圧反応器に仕込み、攪拌しつつ80℃にて4時間反応させて重合反応液を得た。
[0130] そして、得られた重合反応液をオートクレーブに入れて、150℃、水素圧4MPaで、5時間攪拌して水素化反応を行い、重合体(I)を得た。得られた重合体(I)の重合転化率は99.7%、重量平均分子量は7150、数平均分子量は4690、分子量分布は1.52、水素添加率は、99.7%であった。」
(ク)「[0132]《実施例1》
<感放射線性樹脂組成物の調製>
合成例1で得られた重合体(I)100部、溶剤としてのジエチレングリコールエチルメチルエーテル(EDM)550部、架橋剤(B)としてのN,N,N’,N’,N’’,N’’-(ヘキサアルコキシアルキル)メラミン系架橋剤(商品名「サイメル370」、サイテックインダストリーズ社製)15部、同じく架橋剤(B)としての2,2-ビス(ヒドロキシメチル)1-ブタノールの1,2-エポキシ-4-(2-オキシラニル)シクロヘキサン付加物(商品名「EHPE3150」、ダイセル化学工業社製、シクロヘキサン骨格及び末端エポキシ基を有する15官能性の脂環式エポキシ樹脂)10部、感放射線化合物(C)としての1,1,3-トリス(2,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)-3-フェニルプロパン(1モル)と1,2-ナフトキノンジアジド-5-スルホン酸クロライド(1.9モル)との縮合物30部、及び、カップリング剤としての(3-グリシジルオキシプロピル)トリメトキシシラン(商品名「SH6040」、東レ・ダウコーニング社製)40部を混合し、溶解させた後、孔径0.45μmのポリテトラフルオロエチレン製フィルターでろ過して感放射線性樹脂組成物を調製した。
[0133] <アクティブマトリックス基板の作製>
ガラス基板(商品名「コーニング1737」、コーニング社製)上に、スパッタリング装置を用いて、クロムを200nmの膜圧で形成し、フォトリソグラフィによリパターニングを行い、ゲート電極、ゲート信号線及びゲート端子部を形成した。次いで、CVD装置により、ゲート電極とゲート電極を覆って、ゲート絶縁膜となるシリコン窒化物膜を450nmの厚さ、半導体層となるa-Si層(アモルファスシリコン層)を250nmの厚さ、オーミックコンタクト層となるn+Si層を50nmの厚さで連続形成し、n+Si層とa-Si層をアイランド状にパターニングした。さらに、ゲート絶縁膜とn+Si層上にスパッタリング装置で、クロムを200nmの膜厚で形成し、フォトリソグラフィにより、ソース電極、ソース信号線、ドレイン電極、及びデータ端子部を形成し、ソース電極とドレイン電極の間の不要なn+Si層を除去してバックチャネルを形成し、ガラス基板上に複数の薄膜トランジスタが形成されたアレイ基板を得た。
[0134] そして、得られたアレイ基板に、上記にて得られた感放射線性樹脂組成物をスピンコートした後、ホットプレートを用いて、90℃で2分間プリベークして、膜厚1.2μmの樹脂膜を形成した。次いで、この樹脂膜に、10μm×10μmのホールパターンのマスクを介して、365nmにおける光強度が5mW/cm2である紫外線を、40秒間、空気中で照射した。次いで、0.4重量%のテトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液を用いて、25℃で90秒間現像処理を行なった後、超純水で30秒間リンスしてコンタクトホールのパターンを形成した後、230℃で15分間ホットプレートで加熱することによりポストベークを行なうことにより、保護膜(樹脂膜)が形成されたアレイ基板を得た。
[0135] そして、上記にて保護膜(樹脂膜)を形成したアレイ基板を真空槽に移し、スパッタリングガスとしてアルゴンと酸素との混合ガス(体積比100:4)を用い、圧力0.3Pa、DC出力400Wとし、マスクを通してDCスパッタリングすることにより、ドレイン電極に接するように、膜圧200nmのIn-Sn-O系の非晶質透明導電層(画素電極)を形成して、アクティブマトリックス基板を得た。
[0137] そして、上記にて得られた感放射線性樹脂組成物を用いて、現像時残渣、未露光部表面の荒れ、焼成時ホール状態、焼成時膜硬度、比誘電率、絶縁破壊電圧及び透明性の各評価、並びに、アクティブマトリックス基板を用いて、リーク電流及び閾値電流の各評価を行った。結果を表1に示す。」
(ケ)「[0137]《実施例2》
合成例1で得られた重合体(I)100部、溶剤としてのジエチレングリコールエチルメチルエーテル(EDM)550部、架橋剤(B)としてのN,N,N’,N’,N’’,N’’-(ヘキサアルコキシアルキル)メラミン系架橋剤(商品名「サイメル232」、サイテックインダストリーズ社製)30部、同じく架橋剤(B)としてのエポキシ化ブタンテトラカルボン酸テトラキス(3-シクロヘキセニルメチル)修飾ε-カプロラクトン(商品名「エポリードGT401」、ダイセル化学工業社製、脂肪族環状4官能性のエポキシ樹脂)10部、感放射線化合物(C)としての1,1,3-トリス(2,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)-3-フェニルプロパン(1モル)と1,2-ナフトキノンジアジド-5-スルホン酸クロライド(1.9モル)との縮合物30部、及び酸性化合物としての2,4,6-トリメルカプト-s-トリアジン(商品名「Zisnet-F」、三共化成社製)5部を混合し、溶解させた後、孔径0.45μmのポリテトラフルオロエチレン製フィルターでろ過して感放射線性樹脂組成物を調製した。また、得られた感放射線性樹脂組成物を用いて、実施例1と同様にして、アクティブマトリックス基板を得た。
そして、上記にて得られた感放射線性樹脂組成物及びアクティブマトリックス基板を用いて、実施例1と同様にして各評価を行った。結果を表1に示す。
[0138]《実施例3》
合成例2で得られた重合体(II)100部、溶剤としてのジエチレングリコールエチルメチルエーテル(EDM)550部、架橋剤(B)としてのN,N,N’,N’,N’’,N’’-(ヘキサアルコキシアルキル)メラミン系架橋剤(商品名「サイメル370」、サイテックインダストリーズ社製)40部、同じく架橋剤(B)としてのエポキシ化ブタンテトラカルボン酸テトラキス(3-シクロヘキセニルメチル)修飾ε-カプロラクトン(商品名「エポリードGT401」、ダイセル化学工業社製、脂肪族環状4官能性のエポキシ樹脂)10部、感放射線化合物(C)としての1,1,3-トリス(2,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)-3-フェニルプロパン(1モル)と1,2-ナフトキノンジアジド-5-スルホン酸クロライド(1.9モル)との縮合物30部、酸性化合物としてのピラジン-2,3-ジカルボン酸1部、及びカップリング剤としての(3-グリシジルオキシプロピル)トリメトキシシラン(商品名「SH6040」、東レ・ダウコーニング社製)10部を混合し、溶解させた後、孔径0.45μmのポリテトラフルオロエチレン製フィルターでろ過して感放射線性樹脂組成物を調製した。また、得られた感放射線性樹脂組成物を用いて、実施例1と同様にして、アクティブマトリックス基板を得た。
そして、上記にて得られた感放射線性樹脂組成物及びアクティブマトリックス基板を用いて、実施例1と同様にして各評価を行った。結果を表1に示す。
[0139]《比較例1》
合成例1で得られた重合体(I)100部の代わりに、シクロオレフィン重合体(商品名「ARTON (F5023)」、JSR社製)100部を用い、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル(EDM)550部の代わりに、メシチレン900部を用いた以外は、実施例1と同様にして、感放射線性樹脂組成物を調製した。また、得られた感放射線性樹脂組成物を用いて、実施例1と同様にして、アクティブマトリックス基板を得た。
そして、上記にて得られた感放射線性樹脂組成物及びアクティブマトリックス基板を用いて、実施例1と同様にして各評価を行った。結果を表1に示す。
[0140]《比較例2》
比較例2においては、感放射線性樹脂組成物として、アクリル樹脂を含有する感放射線性樹脂組成物(商品名「オプトマー (PC403)」、JSR社製)を準備した。また、準備した感放射線性樹脂組成物を用いて、実施例1と同様にして、アクティブマトリックス基板を得た。
そして、上記にて準備したアクリル樹脂を含有する感放射線性樹脂組成物及び上記にて得られたアクティブマトリックス基板を用いて、実施例1と同様にして各評価を行った。結果を表1に示す。
[0141]《比較例3》
比較例3においては、感放射線性樹脂組成物として、ポリイミド樹脂を含有する感放射線性樹脂組成物(商品名「フォトニースPW-2100」、東レ社製)を準備した。また、準備した感放射線性樹脂組成物を用いて、実施例1と同様にして、アクティブマトリックス基板を得た。
そして、上記にて準備したポリイミド樹脂を含有する感放射線性樹脂組成物及び上記にて得られたアクティブマトリックス基板を用いて、実施例1と同様にして各評価を行った。結果を表1に示す。
[0142]
[表1]
[0143] 表1に示すように、実施例1~3の結果より、本発明所定の感放射線性樹脂組成物を用いて得られる樹脂膜は、現像時残渣、未露光部表面の荒れ、焼成時ホール状態、及び焼成時膜硬度のいずれも良好な結果であり、現像時のパターン形成性に優れ、高精度なパターン化が可能なものであることが確認できる。また、実施例1~3の結果より、本発明所定の感放射線性樹脂組成物を用いて得られる樹脂膜は、比誘電率が低く、絶縁破壊電圧が高く、透明性に優れるものであり、そのため、これを用いて得られる半導体素子基板を、これら各特性に優れたものとすることが可能であることが確認できる。さらに、実施例1~3のアクティブマトリックス基板は、リーク電流が小さく、さらには、高温高湿環境下に長時間保持しても、リーク電流特性や閾値電圧が変化せず、高い信頼性を有するものであった。
これらの結果より、本発明所定の感放射線性樹脂組成物を用いて得られる樹脂膜は、半導体素子基板、特に、アクティブマトリックス基板の樹脂膜として好適であるといえる。
[0144] これに対して、比較例1の結果より、感放射線性樹脂組成物に含有させる樹脂として、本発明における単量体の単位(a1)のような単位を含まないシクロオレフィン重合体を用いた場合には、現像時残渣が発生し、さらには、焼成時ホール状態も劣る結果であり、現像時のパターン形成性に劣るものであった。
また、比較例2,3の結果より、感放射線性樹脂組成物に含有させる樹脂として、アクリル樹脂やポリイミド樹脂を用いた場合には、絶縁破壊電圧が低く、また、リーク電流も大きくなる結果となった。なお、比較例2,3においては、リーク電流が大き過ぎたため、高温、高湿条件保持後のリーク電流、及び閾値電圧については、測定不能であった。」
(コ)「 請求の範囲
[請求項1] 下記一般式(1)で表される単量体の単位(a1)を含んでなる重合体(A)、架橋剤(B)及び感放射線化合物(C)を含有してなる感放射線性樹脂組成物からなる樹脂膜を有する半導体素子基板であって、
前記樹脂膜は、前記半導体素子基板に実装されている半導体素子表面、又は前記半導体素子に含まれる半導体層と接触して形成されていることを特徴とする半導体素子基板。
[化5]
(上記式(1)中、R1は炭素数5~16の分岐状アルキル基を表す。)
(中略)
[請求項10] アクティブマトリックス基板又は有機EL素子基板である請求項1~9のいずれかに記載の半導体素子基板。」
イ 甲第1号証に記載された発明
上記記載事項(キ)及び(ク)に基づけば、甲第1号証には、実施例1(段落[0129],[0132]~[0135])として、
「N-(2-エチルヘキシル)-ビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2,3-ジカルボキシイミド(NEHI)40モル%、および8-ヒドロキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.1 7,10]ドデカ-3-エン(TCDC)60モル%からなる単量体混合物100部、1,5-ヘキサジエン2部、(1,3-ジメシチルイミダゾリン-2-イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリデンルテニウムクロリド0.02部、及びジエチレングリコールメチルエチルエーテル400部を反応させて得られた重合反応液を水素圧4MPaで水素化反応を行い、得た重合体(I)100部、溶剤としてのジエチレングリコールエチルメチルエーテル(EDM)550部、架橋剤(B)としてのN,N,N’,N’,N’’,N’’-(ヘキサアルコキシアルキル)メラミン系架橋剤15部、同じく架橋剤(B)としての2,2-ビス(ヒドロキシメチル)1-ブタノールの1,2-エポキシ-4-(2-オキシラニル)シクロヘキサン付加物10部、感放射線化合物(C)としての1,1,3-トリス(2,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)-3-フェニルプロパン(1モル)と1,2-ナフトキノンジアジド-5-スルホン酸クロライド(1.9モル)との縮合物30部、及び、カップリング剤としての(3-グリシジルオキシプロピル)トリメトキシシラン40部を混合し、溶解させた後、孔径0.45μmのポリテトラフルオロエチレン製フィルターでろ過して感放射線性樹脂組成物を調製し、
ガラス基板上に、スパッタリング装置を用いて、クロムを200nmの膜厚で形成し、フォトリソグラフィによリパターニングを行い、ゲート電極、ゲート信号線及びゲート端子部を形成し、次いで、CVD装置により、ゲート電極とゲート電極を覆って、ゲート絶縁膜となるシリコン窒化物膜を450nmの厚さ、半導体層となるa-Si層(アモルファスシリコン層)を250nmの厚さ、オーミックコンタクト層となるn+Si層を50nmの厚さで連続形成し、n+Si層とa-Si層をアイランド状にパターニングし、さらに、ゲート絶縁膜とn+Si層上にスパッタリング装置で、クロムを200nmの膜厚で形成し、フォトリソグラフィにより、ソース電極、ソース信号線、ドレイン電極、及びデータ端子部を形成し、ソース電極とドレイン電極の間の不要なn+Si層を除去してバックチャネルを形成し、ガラス基板上に複数の薄膜トランジスタが形成されたアレイ基板を得て、
アレイ基板に、感放射線性樹脂組成物をスピンコートした後、ホットプレートを用いて、90℃で2分間プリベークして、膜厚1.2μmの樹脂膜を形成し、次いで、この樹脂膜に、10μm×10μmのホールパターンのマスクを介して、365nmにおける光強度が5mW/cm2 である紫外線を、40秒間、空気中で照射し、次いで、0.4重量%のテトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液を用いて、25℃で90秒間現像処理を行なった後、超純水で30秒間リンスしてコンタクトホールのパターンを形成した後、230℃で15分間ホットプレートで加熱することによりポストベークを行なうことにより、保護膜(樹脂膜)が形成されたアレイ基板を得て、
そして、保護膜(樹脂膜)を形成したアレイ基板を真空槽に移し、スパッタリングガスとしてアルゴンと酸素との混合ガス(体積比100:4)を用い、圧力0.3Pa、DC出力400Wとし、マスクを通してDCスパッタリングすることにより、ドレイン電極に接するように、膜圧200nmのIn-Sn-O系の非晶質透明導電層(画素電極)を形成して、得たアクティブマトリックス基板。」(以下、「甲1アクティブマトリックス基板発明」という。)が記載されている。
(2)甲第2号証
本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲第2号証(特開2012-93707号公報)には、以下の事項が記載されている。
ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板、
前記基板上に形成された前記第1透明導電膜及び前記第1透明導電膜上に形成された第1金属膜を含む多重膜構造と、前記第1透明導電膜で形成された単一膜構造とを含むゲート配線、
前記ゲート配線の一部の領域上に形成された半導体層、及び
前記半導体層上に形成された第2透明導電膜及び前記第2透明導電膜上に形成された第2金属膜を含む多重膜構造と、前記第2透明導電膜で形成された単一膜構造とを含むデータ配線、
を含むことを特徴とするディスプレイ装置。
(中略)
【請求項13】
前記半導体層は、酸化物半導体層であることを特徴とする、請求項1乃至12のうちいずれか一つに記載のディスプレイ装置。
【請求項14】
前記半導体層は、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、亜鉛(Zn)、ハフニウム(Hf)、及び錫(Sn)のうちの一つ以上の元素と、酸素(O)とを含むことを特徴とする、請求項13に記載のディスプレイ装置。」
イ 「【0053】
また、本発明の第1実施形態において、半導体層153には、酸化物半導体層が使用される。具体的に、半導体層153は、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、亜鉛(Zn)、ハフニウム(Hf)、及び錫(Sn)のうちの一つ以上の元素と、酸素(O)とを含む。しかし、本発明の第1実施形態が前記のとおりであるとは限らない。半導体層153は、シリコン素材で形成されてもよい。」
(3)甲第3号証
本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲第3号証(オルソナフトキノンジアジドの熱反応に関する研究とポジ型EDUVレジストへの応用,宮川堅次,塗料の研究,No.135,第2~9頁,2000年10月)には、以下の事項が記載されている。
ア 「3.1 NQD化合物の熱反応
NQD化合物のモデル化合物として1,2-ナフトキノンジアジド5-スルホン酸フェニルエステル(P-1)を用い熱分析による解析を行った。図3に示すように5℃/minで室温から165℃まで昇温した場合、135℃付近から発熱が始まり約145℃で最大となることが認められた。また、図4に示すように120、130、140、150℃まで、30℃/minで昇温し、その後各温度を保持した場合、130℃では反応が遅く、反応終了までに15分以上必要とした。一方、140℃では約10分、150℃では7分程度で反応が終了することを確認した。
以上の結果より、140℃×10分程度で窒素脱離に伴うケテンへの転位反応が生じていると考えられる。系中にケテンと反応性を有する感応基を持つ化合物がある場合ケテンとの付加物が得られると思われる。」(第4頁左欄第12行~25行)(合議体注:図3及び図4は以下のとおりである。)
イ 「3.3.3 樹脂塗膜での多官能NQD化合物の光化学反応
NQD化合物は3.2章で示したとおり、溶液中の光照射においてアルコールと反応し相当するエステルを与えた。樹脂塗膜中においても同様に樹脂水酸基と反応し架橋するか、もしくは塗膜中の水分と反応しインデンカルボン酸に変換されるのかについて調べた。水酸基とカルボキシル基を有する樹脂Ac-6と多官能NQD化合物P-2を固形分で100/6(NQD 0.16mmol/g)の配合比にて塗料を調整し、前章と同様に塗膜を得た。この塗膜に室温下、NQD基が完全に消失する露光量2000J/m2のUV光照射を行い、ゲル分率を測定した。その結果、ゲル成分は生じず露光塗膜は架橋しないことがわかった。このことから塗膜中においては、露光によりP-2から生じたケテンは樹脂水酸基より塗膜中に含まれる水との反応性の方が高く、図1で示した反応により多価インデンカルボン酸が生成したと考えられる。
さらにこの露光塗膜が加熱により架橋するかについて確認した。その結果、図10に示すように露光塗膜は150℃の加熱条件でさえ、架橋しないことが確かめられた。」(第7頁左欄第8~27行)(合議体注:図10は以下のとおりである。)
(4)乙第1号証
本件特許の出願日前に頒布された刊行物である乙第1号証(特許第5019055号公報)には、以下の事項が記載されている。
「【0008】
また一般に、ナフトキノンジアジド化合物を含む従来の感光性樹脂材料にあっては、露光現像の後ナフトキノンジアジド化合物による硬化膜の着色化及び透明性の低下を防止するべくフォトブリーチングが為されているが、このフォトブリーチング工程を経たとしても、得られた膜は、250℃程度の高温で焼成すると光透過率が低下して着色し、またこれより低い温度で、例えば230℃で長時間焼成しても光透過率の低下(着色)が見られ、更に、レジスト剥離液のアミン系溶液などの薬品処理によっても、光透過率が低下して透明性が悪化するという問題が発生し、ナフトキノンジアジド化合物を含む従来の感光性樹脂材料は、斯かる耐熱性及び耐薬品性の点で問題があった(例えば、特許文献4参照)。」
(5)乙第2号証
本件特許の出願日前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった乙第2号証(特開2015-121710号公報)には、以下の事項が記載されている。
ア 「【0006】
また、特許文献2等で開示されているものをはじめ、従来のNQD型ポジ型レジスト組成物を用いたパターニングでは、目的外の着色の原因となるNQDがパターン中に残存するため、パターンに対してポスト露光を行うことにより、NQDを分解する必要があるが、このポスト露光の影響を受けて、パターン中の蛍光体等が劣化することがあり、発光特性が低下してしまうという問題点があった。」
イ 「【0172】
<波長変換基板の製造>
厚さが0.7mmのガラス基板上に、ブラックマトリックス形成用組成物としてBKレジスト(東京応化社製)をスピンコート法によって塗布し、70℃で15分間プリベークして厚さ1μmの塗膜を形成した。この塗膜上に、目的とするパターンを形成するためのフォトマスクを設置してi線を照射して塗膜を露光し、現像して、純水でリンス処理を行うことで、厚さ1μmの画素パターン状のブラックマトリックスを形成した。
【0173】
次いで、隔壁形成用組成物として、アクリル系樹脂及びNQDが配合されてなるNQD型ポジ型レジスト組成物を調製し、ブラックマトリックスを形成した基板上に、スピンコート法によって、この隔壁形成用組成物を塗布し、80℃で10分間プリベークして厚さ5μmの塗膜を形成した。そして、この塗膜を形成した基板に対して、ブラックマトリックスをマスクとしてi線で背面露光を行い、現像した後、得られた画素パターン状の構造物を140℃で60分間ポストベークすることで、厚さ5μmの隔壁を形成した。」
ウ 「【0186】
<波長変換基板の製造>
実施例1と同じ方法で、カラーフィルタが形成された基板を得た。
次いで、形成したカラーフィルタの全面に、スピンコート法により、上記で得られたNQD型ポジ型レジスト組成物(RP)-101を塗布して塗膜を形成し、緑色カラーフィルタ上のみがマスクされるようにパターニングされたフォトマスクを基板上に設置し、i線を照射して塗膜を露光した。そして、この基板をテトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)水溶液中に浸漬して現像し、さらに90℃のホットプレート上で加熱乾燥させ、NQDの分解処理を目的として、形成されたパターンに対してi線を照射してポスト露光を行うことで、パターニングされた緑色変換層を形成し、波長変換基板とした。この緑色変換層の厚さは4μmであった。」
4 判断
(1)理由1(特許法第36条第6項第1号:サポート要件)
ア 本件特許発明1~3、6~12、15~18は、保護膜が、「(ポリヒドロキシフェニル)アルカン構造とキノンジアジド構造とを有する化合物およびインデンカルボン酸構造を有する化合物の両方」を含むとしている。
一方、本件特許明細書には、段落【0100】に、「キノンジアジド構造を有する化合物は、露光されると分子構造が変化し、インデンカルボン酸構造を有する化合物となって分子の光吸収性能が変化する。」と記載されている。また、実施例1~3として、(ポリヒドロキシフェニル)アルカン構造とキノンジアジド構造とを有する化合物を含む感放射線性樹脂組成物を調整したことが記載されており(段落【0282】~【0286】)、実施例4~9として、シリコン基板又は無アルカリガラス基板上に、上記感放射線性樹脂組成物を塗布した後、プレベークすることにより得られた塗膜に、放射線照射を行い、現像を行い、230℃で30分間ポストベークすることにより硬化膜を形成したと記載されている(段落【0287】~【0292】)。
ここで、本件特許の明細書には、上記のように製造してなる硬化膜中に、キノンジアジド構造を有する化合物及びインデンカルボン酸構造を有する化合物が含まれていることについて、分析等により確かめたことが記載されているわけではなく、かえって、以下(ア)~(ウ)のとおり推認されるところである。
(ア)段落【0203】の記載によれば、本件特許の請求項1~3、6~12、15~18に係る発明はポジ型の感放射線性樹脂組成物である。そして、ポジ型感放射線性樹脂組成物は、露光部において光反応によって生じた酸性化合物の作用により、除去されている。そうすると、インデンカルボン酸が存在するとされる露光部は、現像により除去されるため、硬化膜中には残存しない。
(イ)甲第3号証の記載事項アにおける記載に基づけば、キノンジアジド化合物は、150℃以上に加熱されると、7分以内にケテンへの転位反応が終了するため、キノンジアジド構造が残存しない。本件明細書の実施例4~9では、230℃の硬化温度および30分の硬化時間でポストベークが行われており、加熱後に得られるとされる硬化膜には、キノンジアジド構造が残存しない。
(ウ)甲第3号証の記載事項イに示されるとおり、キノンジアジド化合物は、160℃まで加熱されると、架橋が起こる。その結果、露光により形成されるインデンカルボン酸構造が、樹脂中の水酸基と架橋し、インデンカルボン酸エステル構造に変化する。
したがって、本件特許の明細書には、段落【0099】~【0101】に、保護膜が「(ポリヒドロキシフェニル)アルカン構造とキノンジアジド構造とを有する化合物およびインデンカルボン酸構造を有する化合物の両方を含む」ことが形式的に記載されているとしても、前記のとおり、両方の化合物を含む保護膜の実施例及び具体例は記載されていない。よって、本件特許の発明の詳細な説明に、保護膜が(ポリヒドロキシフェニル)アルカン構造とキノンジアジド構造とを有する化合物およびインデンカルボン酸構造を有する化合物の両方を含むことが、実質的に記載されているということはできない。
イ 特許権者は、平成30年5月11日付け及び平成30年8月28日付けで提出した意見書において、以下の主張を行っている。
(ア)乙第1号証の段落【0008】には、230℃、250℃の加熱ではナフトキノンジアジド化合物が残っていることが記載されている。乙第2号証の段落【0006】にはナフトキノンジアジド化合物がポストベークの後でもパターン中に残っていることが記載されている。本特許発明の(ポリヒドロキシフェニル)アルカン構造とキノンジアジド構造とを有する化合物は、230℃30分のポストベークでも100%が熱反応することはなく、かなりの量が(ポリヒドロキシフェニル)アルカン構造とキノンジアジド構造とを有する化合物のまま残存している。これら乙第1、2号証に記載の現象は、当業者にとってよく知られた同じ現象であり、単に乙第1、2号証に記載の条件だけでなく、当業者が通常実施する範囲の条件であってもナフトキノンジアジド化合物が残っていることを証明する証拠である。
甲第3号証は、単に「ナフトキノンジアジド化合物が残っていないはずだ」という状況証拠であって、「ナフトキノンジアジド化合物が残っていない」ことを証明する証拠ではない。特許異議申立人は「以外のその他の成分」が何かについてもまったくのべていないから、特許異議申立人の主張には根拠がない。
(イ)本特許発明のように、ナフトキノンジアジド化合物と有機溶剤、バインダー樹脂を含む組成物では、通常0.1~0.5質量%程度の水分を含む。この水分は、組成物から形成された保護膜にも含まれるものであり、完全に保護膜中から水分を取り除くことはできない。保護膜中では水分は移動しやすいため、ナフトキノンジアジド化合物の光反応で生成したケテンは水分と優先的に反応し、他樹脂との架橋反応をするよりもインデンカルボン酸を生成する反応が主反応となる。したがって、本特許発明において、保護膜、バンクがインデンカルボン酸を有していることは明確である。
本特許の実施例にそった組成物を作製しその試料を分析すれば、インデンカルボン酸は検出される。主反応ではないかもしれないが、インデンカルボン酸は形成している。インデンカルボン酸を生成する反応が主に進行することの根拠がないことが、インデンカルボン酸が生成せず、存在していないことの根拠にはならない。
ウ 特許権者の意見に対する判断
(ア)キノンジアジド構造の耐熱性について
乙第1号証の段落【0008】は「一般に、ナフトキノンジアジド化合物を含む従来の感光性樹脂材料にあっては、」と記載されており、当該段落【0008】の「フォトブリーチング工程を経たとしても、得られた膜は、250℃程度の高温で焼成すると光透過率が低下して着色し、またこれより低い温度で、例えば230℃で長時間焼成しても光透過率の低下(着色)が見られ、更に、レジスト剥離液のアミン系溶液などの薬品処理によっても、光透過率が低下して透明性が悪化するという問題が発生し」との記載は、ナフトキノンジアジド化合物単体ではなくナフトキノンジアジド化合物を含む従来の感光性樹脂材料について述べたものであることは明らかであり、感光性樹脂材料本来の着色ではなく、フォトブリーチング工程を経た後に、250℃程度の高温の焼成又は230℃の長時間焼成により新たに生じる着色について述べたものであることは明らかである。したがって、ナフトキノンジアジド化合物をフォトブリーチング工程により失活させた硬化膜において、着色が起こることが記載されているのであって、着色がナフトキノンジアジド化合物が「残存」することを示しているとはいえない。また、乙第2号証の段落【0006】には、ナフトキノンジアジド化合物が「残存」すると記載されているものの、乙第2号証では230℃の加熱処理を行うことについて記載がない。したがって、乙第2号証の段落【0006】における記載は、ナフトキノンジアジド化合物が230℃の加熱処理後においても残存することを示しているとはいえない。
そうすると、特許権者の、230℃30分のポストベークでも100%が熱反応することはなく、かなりの量が(ポリヒドロキシフェニル)アルカン構造とキノンジアジド構造とを有する化合物のまま残存しているとする主張には、依然として根拠を見いだせない。
そして、甲第3号証に記載された、キノンジアジド化合物は、150℃以上に加熱されると、7分以内にケテンへの転位反応が終了するため、キノンジアジド構造が残存しないという知見は、実験結果に基づくものであり、その実験結果の評価を疑うこともできない。また、甲第3号証に記載されたNQD化合物と本件特許発明1等の「(ポリヒドロキシフェニル)アルカン構造とキノンジアジド構造とを有する化合物」とは異なるものであるが、そのキノンジアジド構造において「窒素脱離に伴うケテンへの転位反応」が同様に生じることは明らかである。したがって、加熱後に得られるとされる硬化膜において、甲第3号証の記載事項アに示されるとおりの反応が生じると認められ、キノンジアジド構造が残存すると考えることはできない。
(イ)インデンカルボン酸を生成することについて
特許権者は、組成物中に含まれる0.1~0.5質量%程度の水分が、230℃の硬化温度および30分のポストベークが行われるとされる保護膜にも含まれると主張し、一方で、保護膜中では水分は移動しやすいと主張している。また、特許権者は、主反応ではないかもしれないが、インデンカルボン酸を生成する反応が進行し、本特許の実施例にそった組成物を作製しその試料を分析すれば、インデンカルボン酸は検出されると主張している。
しかしながら、保護膜中で移動しやすいとされる水分が、沸点を大きく超える230℃30分のポストベーク下においても含まれたままであるとは考えがたい。また、有機EL材料の劣化防止のため有機EL素子中の水分を徹底的に排除することは技術常識であることを考慮すると、保護膜中に特許権者が主張する分量の水分が残存しているとはいえない。そして、甲第3号証の図10に基づけば、UV光照射を行った塗膜であっても、150℃以上で加熱を行うと架橋反応が進行することが示されている。そうすると、仮に、ナフトキノンジアジド化合物が230℃の加熱処理後において残存したとしても、保護膜中に含まれるとされる0.1~0.5質量%程度の水分と反応し、インデンカルボン酸を生成する反応が進行するとする根拠を見いだせない。また、特許権者は、インデンカルボン酸が検出されたことを示すデータを開示していないため、反応機構が不明であるがインデンカルボン酸を生成する反応が進行するとする特許権者の主張を信じるに足りる根拠を見いだすことができない。
(ウ)以上のとおりであるから、特許権者の主張は採用できない。
エ よって、請求項1~3、6~12、15~18に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(2)理由2(特許法第36条第4項第1号:実施可能要件)
前記(1)の理由1に記載したとおり、本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、保護膜が、「(ポリヒドロキシフェニル)アルカン構造とキノンジアジド構造とを有する化合物およびインデンカルボン酸構造を有する化合物の両方を含む」ことについて、実施例及び具体例が何ら記載されていない。そして、どのようにすれば「(ポリヒドロキシフェニル)アルカン構造とキノンジアジド構造とを有する化合物およびインデンカルボン酸構造を有する化合物の両方を含む」保護膜を製造することができるか、当業者において自明であったということもできない。
したがって、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、本件特許発明1~3、6~12、15~18に係る発明を、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではない。
よって、請求項1~3、6~12、15~18に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(3)理由4(特許法第29条第2項:進歩性)
ア 本件特許発明1について/甲第1号証
(ア)対比
本件特許発明1と甲1アクティブマトリックス基板発明とを対比する。
a 甲1アクティブマトリックス基板発明の「ガラス基板」は、その上に複数の薄膜トランジスタが形成されるものであるから、本件特許発明1の「基板」に相当する。
b 甲1アクティブマトリックス基板発明のガラス基板上に形成された「薄膜トランジスタ」は、その機能からみて、本件特許発明1の「前記基板上に配置されたアクティブ素子」に相当するといえる。
c 甲1アクティブマトリックス基板発明の「保護膜(樹脂膜)」は、複数の薄膜トランジスタが形成されたアレイ基板に、感放射線性樹脂組成物をスピンコートし、プリベークして、形成した樹脂膜に、コンタクトホールのパターンを形成した後、ポストベークを行なうことにより形成されたものであるから、複数の薄膜トランジスタを被覆するように形成されているといえる。したがって、甲1アクティブマトリックス基板発明の「保護膜(樹脂膜)」は、本件特許発明1の「前記アクティブ素子を被覆する保護膜」に相当する。
d 甲1アクティブマトリックス基板発明の「重合体(I)」は、本件特許発明1の「第1の樹脂」に相当する。
e 甲1アクティブマトリックス基板発明の「感放射線化合物(C)としての1,1,3-トリス(2,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)-3-フェニルプロパン(1モル)と1,2-ナフトキノンジアジド-5-スルホン酸クロライド(1.9モル)との縮合物」は、本件特許発明1の「(ポリヒドロキシフェニル)アルカン構造とキノンジアジド構造とを有する化合物」に相当する。
f 甲1アクティブマトリックス基板発明の「保護膜(樹脂膜)」は、感放射線性樹脂組成物をスピンコートし、プリベークして、形成した樹脂膜に、コンタクトホールのパターンを形成した後、ポストベークを行なうことにより形成されたものであるから、感放射線性樹脂組成物に含まれる「重合体(I)」及び「感放射線化合物(C)としての1,1,3-トリス(2,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)-3-フェニルプロパン(1モル)と1,2-ナフトキノンジアジド-5-スルホン酸クロライド(1.9モル)との縮合物」を有しているといえる。
そうすると、甲1アクティブマトリックス基板発明の「保護膜(樹脂膜)」と本件特許発明1の「第1の樹脂と、(ポリヒドロキシフェニル)アルカン構造とキノンアジド構造とを有する化合物およびインデンカルボン酸構造を有する化合物の両方を含む」保護膜とは、「第1の樹脂を含む」保護膜である点で共通する。
g 甲1アクティブマトリックス基板発明の「アクティブマトリックス基板」と本件特許発明1の「ボトムエミッション型有機EL素子」とは、「半導体素子基板」である点で共通する。
h 以上より、本件特許発明1と甲1アクティブマトリックス基板発明とは、
「基板と、前記基板上に配置されたアクティブ素子と、前記アクティブ素子を被覆する保護膜と、を有する半導体素子基板であって、前記保護膜は、第1の樹脂を含む半導体素子基板。」である点で一致し、以下の点で相違又は一応相違する。
[相違点1]本件特許発明1は、「保護膜上に配置された第1の電極と、前記第1の電極上に配置された有機発光層と、前記有機発光層の上に配置された第2の電極とを有するボトムエミッション型有機EL素子」であるのに対し、甲1アクティブマトリックス基板発明は、アクティブマトリックス基板であって保護膜上にボトムエミッション型有機EL素子を構成する第1の電極、有機発光層、第2の電極を有していない点。
[相違点2]本件特許発明1は、保護膜が「(ポリヒドロキシフェニル)アルカン構造とキノンジアジド構造とを有する化合物およびインデンカルボン酸構造を有する化合物の両方」を含むのに対し、甲1アクティブマトリックス基板発明は、保護膜(樹脂膜)が(ポリヒドロキシフェニル)アルカン構造とキノンジアジド構造とを有する化合物およびインデンカルボン酸構造を有する化合物を含むとされていない点。
[相違点3]本件特許発明1は、保護膜が「一般式(1)で表される化合物からなる群より選ばれる1種を含む」のに対し、甲1アクティブマトリックス基板発明は、保護膜に一般式(1)で表される化合物を含まない点。
(イ)判断
a 上記[相違点1]について
甲第1号証には、記載事項(エ)の段落[0105]及び[0106]に、感放射線性樹脂組成物からなる樹脂膜を有する半導体素子基板として、アクティブマトリックス基板と共に、有機EL素子基板が挙げられており、段落[0108]に、有機EL素子基板の構成として、基板上に、陽極、正孔注入輸送層、半導体層としての有機発光層、電子注入層、及び陰極などから構成される発光体部と、該発光体部を分離するために画素分離膜とを有する構成を有するものが例示されている。そして、上記甲第1号証の有機EL素子基板は、アクティブマトリックス基板とは、別の態様として記載されているが、アクティブマトリックス上に保護膜を介してボトムエミッション型の有機EL素子を配置することは周知技術である(例えば、特開2005-266754号公報の段落【0034】~【0041】及び図3、特開2007-95379号公報の段落【0027】~【0030】及び図4)。
したがって、甲1アクティブマトリックス基板発明において、周知のアクティブマトリックス上に保護膜を介してボトムエミッション型有機EL素子を配置する構成を採用し、保護膜(樹脂膜)の上に、陽極、正孔注入輸送層、半導体層としての有機発光層、電子注入層、及び陰極などから構成される発光体部と、該発光体部を分離するために画素分離膜とを有する有機EL素子を配置することは、当業者が容易に想到しうることである。
b 上記[相違点2]について
(a)甲1アクティブマトリックス基板発明の保護膜は、感放射線化合物(C)としての1,1,3-トリス(2,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)-3-フェニルプロパン(1モル)と1,2-ナフトキノンジアジド-5-スルホン酸クロライド(1.9モル)との縮合物を含む感放射線性樹脂組成物をアレイ基板にスピンコートして形成していることから、ポストベーク前の段階における保護膜には、「(ポリヒドロキシフェニル)アルカン構造とキノンジアジド構造とを有する化合物」を含んでいるといえる。そして、前記(1)ア(イ)において検討したとおり、キノンジアジド構造を有する化合物は、ポストベークによってケテンへの転位反応がおこる。生成したケテンは水分と反応し、インデンカルボン酸構造を有する化合物に変化すると考えられる。前記(1)ア(ウ)において検討したとおり、甲第3号証の記載事項イに基づけば、ポストベークにより「(ポリヒドロキシフェニル)アルカン構造とキノンジアジド構造とを有する化合物」は失われるが、乙第1号証及び乙第2号証の記載に基づけば、「(ポリヒドロキシフェニル)アルカン構造とキノンジアジド構造とを有する化合物」は残存するとも考えられる。そして、仮に、特許権者が主張するように、本件特許のキノンジアジド化合物が、230℃30分のポストベークでも100%が熱反応することはなく、かなりの量が(ポリヒドロキシフェニル)アルカン構造とキノンジアジド構造とを有する化合物のまま残存するのであれば、本件特許の明細書に記載の実施例4~9の硬化温度230℃と同じ硬化温度であって硬化時間が30分より短い15分という条件でポストベークを行うことにより形成された保護膜(樹脂膜)を有する甲1アクティブマトリックス基板発明においても、その保護膜中に、(ポリヒドロキシフェニル)アルカン構造とキノンジアジド構造とを有する化合物の一部が保護膜中に存在する水分と反応して、インデンカルボン酸構造を有する化合物を有する化合物が生成され、保護膜が、(ポリヒドロキフェニル)アルカン構造とキノンジアジド構造とを有する化合物とインデンカルボン酸構造を有する化合物の両方を含むものになるというべきである。
そうしてみると、当該相違点は、実質的な相違点ではないといえる。
(b)また、形成直後にはインデンカルボン酸構造を有する化合物を含まないとしても、甲1アクティブマトリックス基板発明は、例えば、甲第1号証における記載事項(カ)の段落[0127]に記載されているように、波長400nmでの透過率の測定が行われるなど、光が照射される環境下において使用されるものである。本件特許の明細書段落【0100】に「キノンジアジド構造を有する化合物は、露光されると分子構造が変化し、インデンカルボン酸構造を有する化合物となって分子の光吸収性能が変化する。すなわち、キノンジアジド構造を有する化合物は、フォトブリーチング性と称される特性を有している。そのため、本実施形態の有機EL表示素子は、保護膜を形成の後、光透過性に不具合が生じた場合、保護膜に光を照射するだけで光透過性の調整を行うことが可能である。」と記載されている。このように、保護膜に光が照射されれば、キノンジアジド構造を有する化合物は分子構造が変化してインデンカルボン酸構造を有する化合物となるのであるから、甲1アクティブマトリックス基板発明の保護膜におけるキノンジアジド構造を有する化合物の一部はインデンカルボン酸構造を有する化合物となっているといえる。
c 上記[相違点3]について
(a)甲第1号証の段落[0087]には、感放射線性樹脂組成物に光安定剤等を含有していてもよいことが記載されており、段落[0101]には、光安定剤として、ベンゾトリアゾール系等の紫外線吸収剤が挙げられている。また、フェニル基などの置換基を導入することも、相溶性などを考慮して当業者が適宜設計しうることである。なお、フェニル基を有するベンゾトリアゾール系の紫外線吸収剤は、例えば特開2010-128065号公報の段落【0055】、特開2002-83688号公報の段落【0048】、特開2011-171187号公報の段落【0058】等に記載されているように、本件特許の優先権主張の日前において周知である。
したがって、甲1アクティブマトリックス基板発明の感放射線性樹脂組成物において、甲第1号証の記載に基づいて、フェニル基を有するベンゾトリアゾール系の紫外線吸収剤を光安定剤として含ませることは、当業者が容易になし得ることである。
(b)特許権者は、平成30年8月28日付けの意見書において、「本特許発明は、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤であれば、発光層に影響が小さいことを示しております。」と主張している。
しかし、本件特許の明細書は、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を含有させることの技術的意義について、段落【0217】に、感放射線性樹脂組成物が、紫外線吸収剤を含有することにより、「感放射線性樹脂組成物は、形成後の保護膜において紫外線吸収性を付与することができる。そして、有機EL表示素子のTFTにおける紫外線の影響を低減することができる。」、段落【0225】に、感放射線性樹脂組成物における紫外線吸収剤の使用量について、「0.01質量部以下であると、得られる保護膜の紫外線に対する遮蔽効果が乏しくなり、30質量部以上であると本実施形態の感放射線性樹脂組成物の感放射線性が低下し、パターン形成に支障をきたすおそれがある。」と記載するのみである。また、実験例からもベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤の発光層に対する影響を読み取ることができない。したがって、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を用いたことにより、格別な効果の差異が生じるということはできない。
また、特許権者は、甲第1号証に記載の有機ELはトップエミッション型有機ELであるとし、甲第1号証に記載の有機ELからは、ボトムエミッション型有機ELにおいて、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を保護膜に含有させることを、想到しないと主張している。
しかし、本件特許発明1と対比しているのは、甲1アクティブマトリックス基板発明であり、紫外線吸収剤は、前記(a)に記載したとおり、アクティブマトリックス基板の保護膜の形成に用いられる感放射線性樹脂組成物の「光安定剤」として含有されるものである。
(ウ)むすび
以上のとおりであるから、本件特許発明1は、甲第1号証の記載及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
なお、甲第1号証の実施例2,3及び、比較例1~3(段落[0137]~[0141])に関する記載から認定される発明に基づいても、同様のことがいえる。
イ 本件特許発明6,7について/甲第1号証
(ア)対比
本件特許発明6又は本件特許発明7と甲1アクティブマトリックス基板発明とを対比すると、前記[相違点2]及び[相違点3]に加えて、以下の点で相違し、その余の点で一致している。
[相違点4]本件特許発明6は、前記[相違点1]におけるボトムエミッション型有機EL素子が、さらに、アクティブ素子の上に、有機発光層の配置領域を規定するよう設けられたバンクを有し、本件特許発明7は、さらに前記バンクが、第2の樹脂と、キノンジアジド構造を有する化合物およびインデンカルボン酸構造を有する化合物のうちの少なくとも一方とを含むのに対し、甲1アクティブマトリックス基板発明は、アクティブマトリックス基板であって保護膜上にボトムエミッション型有機EL素子を構成する第1の電極、有機発光層、第2の電極及び上記バンクを有していない点。
(イ)判断
上記[相違点4]について検討すると、前記ア(イ)b(a)に記載したように、仮に、本件特許の明細書に記載された実施例が(ポリヒドロキシフェニル)アルカン構造とキノンジアジド構造とを有する化合物及びインデンカルボン酸構造を有する化合物の両方を含むとすると、甲第1号証の段落[0105]及び[0106]には、感放射線性樹脂組成物からなる樹脂膜を有する半導体素子基板として、アクティブマトリックス基板と共に、有機EL素子基板が挙げられており、段落[0108]には、有機EL素子基板の構成として、基板上に、陽極、正孔注入輸送層、半導体層としての有機発光層、電子注入層、及び陰極などから構成される発光体部と、該発光体部を分離するために画素分離膜とを有する構成を有するものが例示されている。ここで、甲第1号証の「画素分離膜」は、その形状からみて、本件特許の請求項6及び請求項7に係る発明における「バンク」に相当するものであり、段落[0109]には、感放射線性樹脂組成物からなる樹脂膜は「画素分離膜」とすることができるとも記載されている。
したがって、甲1アクティブマトリックス基板発明において、周知のアクティブマトリックス上に保護膜を介してボトムエミッション型有機EL素子を配置する構成を採用し、保護膜(樹脂膜)の上に、陽極、正孔注入輸送層、半導体層としての有機発光層、電子注入層、及び陰極などから構成される発光体部と、該発光体部を分離するための、第2の樹脂と、(ポリヒドロキシフェニル)アルカン構造とキノンジアジド構造とを有する化合物およびインデンカルボン酸構造を有する化合物のうちの少なくとも一方とを含む画素分離膜とを有する有機EL素子を配置することは、当業者が容易に想到しうることである。
ウ 本件特許発明11について/甲第1号証
(ア)対比
本件特許発明11と甲1アクティブマトリックス基板発明とを対比する。
a 甲1アクティブマトリックス基板発明の「ガラス基板」は、その上に複数の薄膜トランジスタが形成されるものであるから、本件特許発明11の「基板」に相当する。
b 甲1アクティブマトリックス基板発明のガラス基板上に形成された「薄膜トランジスタ」は、その機能からみて、本件特許発明11の「前記基板上に配置されたアクティブ素子」に相当するといえる。
c 甲1アクティブマトリックス基板発明の「アクティブマトリックス基板」と本件特許発明11の「有機EL素子」とは、「半導体素子基板」である点で共通する。
d 以上より、本件特許発明11と甲1アクティブマトリックス基板発明とは、
「基板と、前記基板上に配置されたアクティブ素子と、を有する半導体素子基板。」である点で一致し、以下の点で相違又は一応相違する。
[相違点5]本件特許発明11は、「アクティブ素子に接続する第1の電極と、前記第1の電極上に配置された有機発光層と、前記アクティブ素子の上に設けられ前記有機発光層の配置領域を規定するバンクと、前記有機発光層の上に配置された第2の電極とを有するボトムエミッション型有機EL素子」であり、「前記バンクは、樹脂と、(ポリヒドロキシフェニル)アルカン構造とキノンジアジド構造とを有する化合物およびインデンカルボン酸構造を有する化合物の両方を含む」のに対し、甲1アクティブマトリックス基板発明は、アクティブマトリックス基板であって、上記第1の電極、有機発光層、第2の電極、バンクを有する有機EL素子を有していない点。
[相違点6]本件特許発明11は、バンクが「一般式(1)で表される化合物からなる群より選ばれる1種を含む」のに対し、甲1アクティブマトリックス基板発明は、バンクに一般式(1)で表される化合物を含まない点。
(イ)判断
上記[相違点5]は、前記[相違点2]と[相違点4]を総合したものにあたる。また、[相違点6]は、前記[相違点3]と実質的に同じ相違点である。そして、当該相違点は、すでに前記ア(イ)b、c及びイ(イ)に記載したとおり、当業者が容易になし得たことである。
(ウ)むすび
以上のとおりであるから、本件特許発明11も、甲第1号証の記載及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
なお、甲第1号証の実施例2,3及び、比較例1~3(段落[0137]~[0141])に関する記載から認定される発明に基づいても、同様のことがいえる。
エ 本件特許発明2,15について/甲第1号証
(ア)対比
本件特許発明2又は本件特許発明15と甲1アクティブマトリックス基板発明とを対比すると、前記ア(ア)及びイ(ア)、又は、前記ウ(ア)に記載した事項に加えて、甲1アクティブマトリックス基板発明の「保護膜(樹脂膜)」に「コンタクトホールのパターン」が形成されていることは、本件特許発明2又は本件特許発明15の「保護膜はスルーホールを有し」ていることに相当する。
以上より、本件特許発明2又は本件特許発明15と甲1アクティブマトリックス基板発明とは、前記[相違点1]~[相違点6]に加えて以下の点で相違し、その余の点で一致している。
[相違点7]本件特許発明2又は本件特許発明15に係る発明は、アクティブ素子がスルーホールを介して第1の電極と接続するように構成されるのに対し、甲1アクティブマトリックス基板発明は、アクティブ素子がスルーホールを介して第1の電極と接続するとされていない点。
(イ)判断
上記[相違点7]について検討すると、前記ア(イ)aにおいて挙げた、アクティブマトリックス上に保護膜を介してボトムエミッション型有機EL素子を配置する周知技術において、アクティブ素子が、保護膜に設けたスルーホールを介して電極と接続する構造とされることも自明である。(例えば、特開2005-266754号公報の段落【0035】、特開2007-95379号公報の段落【0029】)。
したがって、甲1アクティブマトリックス基板発明において、周知のアクティブマトリックス上に保護膜を介してボトムエミッション型有機EL素子を配置する構成を採用する際に、保護膜に設けたスルーホールを介して電極と接続する構造とすることも当業者が適宜設計しうる事項に過ぎない。
オ 本件特許発明3,8,12について/甲第1号証
(ア)対比
本件特許発明3,8,12と甲1アクティブマトリックス基板発明とは、前記[相違点1]~[相違点7]に加えて以下の点で相違し、その余の点で一致している。
[相違点8]本件特許発明3,8,12は、第1又は第2の樹脂が、カルボキシル基を有するアクリル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリシロキサンおよびノボラック樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種からなるのに対し、甲1アクティブマトリックス基板発明は、重合体(I)がカルボキシル基を有するアクリル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリシロキサンおよびノボラック樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種ではない点。
(イ)判断
上記[相違点8]について検討すると、感放射線性樹脂組成物における樹脂として、カルボキシル基を有するアクリル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリシロキサン及びノボラック樹脂を用いることは、周知技術である(例えば、特開2005-266754号公報の段落【0039】には、有機物バンク層が、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂等の耐熱性耐溶媒性のあるレジストから形成されると記載されており、国際公開第2012/007996号の段落[0081]には、平坦化膜4に、ポリイミド系樹脂、アクリル系樹脂の材料を用いること、バンク7に、アクリル系樹脂、ポリイミド系樹脂、ノボラック型フェノール樹脂を用いることが記載されており、甲第1号証の比較例2はアクリル樹脂を含有しており、甲第1号証の比較例3はポリイミド樹脂を含有している。)。
甲1アクティブマトリックス基板発明の保護膜又はバンクに用いる感放射線性樹脂組成物において、樹脂として、従来周知のカルボキシル基を有するアクリル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリシロキサン及びノボラック樹脂を用いることは、当業者が適宜なし得ることである。
(ウ)なお、甲第1号証の比較例2(段落[0140]),比較例3(段落[0141])に関する記載から認定される発明に基づくと、上記[相違点8]は相違点とはならない。
カ 本件特許発明9,10について/甲第1号証
(ア)対比
本件特許発明9,10と甲1アクティブマトリックス基板発明とは、前記[相違点1]~[相違点8]に加えて以下の点で相違し、その余の点で一致している。
[相違点9]本件特許発明9は、バンクが紫外線吸収剤を含み、本件特許発明10は、前記紫外線吸収剤が、一般式(1)で表される化合物からなる群より選ばれる1種を含むのに対し、甲1アクティブマトリックス基板発明は、紫外線吸収剤を含まない点。
(イ)判断
上記[相違点9]について検討すると、甲第1号証の段落[0087]には、感放射線性樹脂組成物に光安定剤等を含有していてもよいことが記載されており、段落[0101]には、光安定剤として、ベンゾトリアゾール系等の紫外線吸収剤が挙げられている。フェニル基などの置換基を導入することも、相溶性などを考慮して当業者が適宜設計しうることである。なお、フェニル基を有するベンゾトリアゾール系の紫外線吸収剤は、例えば特開2010-128065号公報の段落【0055】、特開2002-83688号公報の段落【0048】、特開2011-171187号公報の段落【0058】等に記載されているように、本件特許の優先権主張の日前において周知である。
したがって、甲1アクティブマトリックス基板発明の感放射線性樹脂組成物において、甲第1号証の記載に基づいて、フェニル基を有するベンゾトリアゾール系の紫外線吸収剤を光安定剤として含ませることは、当業者が容易になし得ることである。
キ 本件特許発明16について/甲第1号証
本件特許発明16に係る発明と甲1アクティブマトリックス基板発明とを対比すると、甲1アクティブマトリックス基板発明の「半導体層となるa-Si層(アモルファスシリコン層)」は、本件特許発明16に係る発明の「前記半導体層は、シリコン(Si)を用いて構成されたものであること」に相当する。
そうすると、本件特許発明16に係る発明と甲1アクティブマトリックス基板発明とは、前記[相違点1]~[相違点9]において相違し、その余の点で一致している。
そして、前記[相違点2]~[相違点9]は、既に検討したとおり、何れも当業者が容易になし得たものである。
ク 本件特許発明17,18について/甲第1,2号証
(ア)対比
本件特許発明17及び本件特許発明18と甲1アクティブマトリックス基板発明とは、前記[相違点1]~[相違点9]に加えて以下の点で相違し、その余の点で一致している。
[相違点10]本件特許発明17では、アクティブ素子が、半導体層を有して構成され、前記半導体層は、インジウム(In)、亜鉛(Zn)および錫(Sn)のうちの少なくとも1種を含んで構成された酸化物を用いて形成されたものであり、本件特許発明18では、半導体層が、さらに、酸化亜鉛(ZnO)、酸化インジウムガリウム亜鉛(IGZO)、酸化亜鉛錫(ZTO)および酸化インジウム亜鉛(IZO)のうちの少なくとも1種を用いて形成されたものであるのに対し、甲1アクティブマトリックス基板発明では、薄膜トランジスタが、半導体層となるa-Si層(アモルファスシリコン層)を有して構成される点。
(イ)判断
上記[相違点10]について検討すると、甲第2号証の記載事項アの請求項13,14及び記載事項イの段落【0053】には、ディスプレイ装置における薄膜トランジスタの半導体層が、インジウム、亜鉛及び錫の酸化物を含むことが記載されている。
甲1アクティブマトリックス基板発明においても、従来より薄膜トランジスタの半導体層に用いられているインジウム、亜鉛及び錫の酸化物を用いて半導体層を形成することは、当業者が適宜なし得ることである。
ケ むすび
以上のとおりであるから、本件特許発明1~3、6~12、15~18は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証の記載及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。よって、請求項1~3、6~12、15~18に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
5 むすび
以上のとおり、請求項1~3、6~12、15~18に係る特許は、特許法第36条第6項1号及び同条第4項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであり、かつ、第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、特許法第113条第2号及び第4号に該当し、取り消されるべきものである。
また、本件請求項4、5、13、14、19~23に係る特許は、訂正により削除されたため、本件特許の請求項4、5、13、14、19~23に対して特許異議申立人がした特許異議申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2017-701227