特許異議申立
2023-700273
液晶配向剤、液晶配向膜及び液晶素子
- 審判番号
- 2023-700273
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-015213
- 登録番号
- 7135328
- 請求日
- 2023年03月13日
- 審決日
- 2024年03月18日
- 公報発行日
- 2024年07月26日
- 結論
- 請求成立(取消)
- 当事者
- 【権利者】JSR株式会社
- 【権利者代理人】山田 強
- 【権利者代理人】廣田 美穂
- 【権利者代理人】日野 京子
- 【異議申立人】西 あけみ
- 審判長/審判官
- 審判長 山村 浩
- 審判官 野村 伸雄
- 審判官 安藤 達哉
- 分類
- P1651.113-ZDA(G02F) / P1651.121-ZDA(G02F) / P1651.537-ZDA(G02F)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第120条の5、特許法第29条第1項、特許法第36条第6項第1号、特許法第113条第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7135328号発明「液晶配向剤、液晶配向膜及び液晶素子」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7135328号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-9〕について訂正することを認める。
特許第7135328号の請求項7、8に係る特許を取り消す。
特許第7135328号の請求項1-6、9に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7135328号(以下「本件特許」という。)の請求項1~9に係る特許についての出願は、2018年(平成30年)1月31日を出願日とする出願であって、令和4年9月5日に特許権の設定登録がされ、令和4年9月13日に特許掲載公報が発行された。
本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和 5年3月13日 :特許異議申立人西あけみ(以下「申立人」と
いう。)による請求項1~9に係る特許に対
する特許異議の申立て
令和 5年5月19日付け:取消理由通知書(以下この取消理由通知書で
通知した取消理由を「第1次取消理由」とい
う。)
令和 5年7月19日 :特許権者による意見書及び訂正請求書(以下
、この訂正請求書による訂正を「本件訂正」
という。)の提出
令和 5年8月28日 :申立人による意見書の提出
令和 5年9月22日 :取消理由通知書(決定の予告)(以下、この
取消理由通知書で通知した取消理由を「第2
次取消理由」という。)
なお、第2次取消理由の通知に対して、特許権者からは意見書の提出はなかった。
第2 訂正の適否
1 訂正の内容
本件訂正に係る訂正事項1の内容は、次のとおりである。下線は訂正箇所を示す。
訂正前の請求項1に、「重合体成分と、溶剤成分とを含有し、
前記重合体成分は、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル、ポリイミド及びポリオルガノシロキサンとは異なる主骨格を有する重合体(P)であり、
前記重合体(P)は、重合性炭素-炭素不飽和結合を有するモノマーに由来する構造単位を有する重合体であり、下記式(2)で表される部分構造を有し、
前記溶剤成分は、下記式(1)で表される化合物(A)を、全溶剤量に対して1~90質量%含む、液晶配向剤。
【化1】
[図:0001412283000001.jpg]
(式(1)中、R10は、炭素数2~10の2価の鎖状炭化水素基、炭素数3~10の2価の脂環式炭化水素基、当該鎖状炭化水素基若しくは脂環式炭化水素基の炭素-炭素結合間に「-O-」を含む2価の基、又は当該鎖状炭化水素基若しくは脂環式炭化水素基の水素原子が水酸基で置換された基である。)
*-L1-R1-R2-R3-R4 …(2)
(式(2)中、L1は、単結合、-O-、-CO-、-COO-*1、-OCO-*1、-NR5-、-NR5-CO-*1、-CO-NR5-*1、炭素数1~6のアルカンジイル基、-O-R6-*1、又は-R6-O-*1(ただし、R5は水素原子又は炭素数1~10の1価の炭化水素基であり、R6は炭素数1~3のアルカンジイル基である。「*1」は、R1との結合手であることを示す。)である。R1及びR3は、それぞれ独立に、単結合、フェニレン基又はシクロアルキレン基であり、R2は、単結合、フェニレン基、シクロアルキレン基、-R7-B1-*2、又は-B1-R7-*2(ただし、R7はフェニレン基又はシクロアルキレン基であり、B1は単結合、-COO-*3、-OCO-*3、又は炭素数1~3のアルカンジイル基である。「*2」は、R3との結合手であることを示し、「*3」は、R7との結合手であることを示す。)である。R4は、水素原子、フッ素原子、シアノ基、炭素数1~18のアルキル基、炭素数1~18のフルオロアルキル基、炭素数1~18のアルコキシ基、炭素数1~18のフルオロアルコキシ基、ステロイド骨格を有する炭素数17~51の炭化水素基、又は、ラジカル重合性基、光開始剤基若しくはシアノ基を有する1価の有機基である。ただし、R1、R2及びR3の全部が単結合の場合、R4は、炭素数4~18のアルキル基、炭素数4~18のフルオロアルキル基、炭素数4~18のアルコキシ基、炭素数4~18のフルオロアルコキシ基、又はステロイド骨格を有する炭素数17~51の炭化水素基である。「*」は結合手であることを示す。)」
と記載されているのを、
「重合体成分と、溶剤成分とを含有し、
前記重合体成分は、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル、ポリイミド及びポリオルガノシロキサンとは異なる主骨格を有する重合体(P)であり、
前記重合体(P)は、重合性炭素-炭素不飽和結合を有するモノマーに由来する構造単位を有する重合体であり、下記式(2)で表される部分構造を有し、
前記溶剤成分は、下記式(1)で表される化合物(A)を、全溶剤量に対して5~30質量%含む、液晶配向剤。
【化1】
[図:0001412283000002.jpg]
(式(1)中、R10は、炭素数2~10の2価の鎖状炭化水素基、炭素数3~10の2価の脂環式炭化水素基、当該鎖状炭化水素基若しくは脂環式炭化水素基の炭素-炭素結合間に「-O-」を含む2価の基、又は当該鎖状炭化水素基若しくは脂環式炭化水素基の水素原子が水酸基で置換された基である。)
*-L1-R1-R2-R3-R4 …(2)
(式(2)中、L1は、単結合、-O-、-CO-、-COO-*1、-OCO-*1、-NR5-、-NR5-CO-*1、-CO-NR5-*1、炭素数1~6のアルカンジイル基、-O-R6-*1、又は-R6-O-*1(ただし、R5は水素原子又は炭素数1~10の1価の炭化水素基であり、R6は炭素数1~3のアルカンジイル基である。「*1」は、R1との結合手であることを示す。)である。R1及びR3は、それぞれ独立に、単結合、フェニレン基又はシクロアルキレン基であり、R2は、単結合、フェニレン基、シクロアルキレン基、-R7-B1-*2、又は-B1-R7-*2(ただし、R7はフェニレン基又はシクロアルキレン基であり、B1は単結合、-COO-*3、-OCO-*3、又は炭素数1~3のアルカンジイル基である。「*2」は、R3との結合手であることを示し、「*3」は、R7との結合手であることを示す。)である。R4は、水素原子、フッ素原子、シアノ基、炭素数1~18のアルキル基、炭素数1~18のフルオロアルキル基、炭素数1~18のアルコキシ基、炭素数1~18のフルオロアルコキシ基、ステロイド骨格を有する炭素数17~51の炭化水素基、又は、ラジカル重合性基、光開始剤基若しくはシアノ基を有する1価の有機基である。ただし、R1、R2及びR3の全部が単結合の場合、R4は、炭素数4~18のアルキル基、炭素数4~18のフルオロアルキル基、炭素数4~18のアルコキシ基、炭素数4~18のフルオロアルコキシ基、又はステロイド骨格を有する炭素数17~51の炭化水素基である。「*」は結合手であることを示す。)」に訂正する。
また、請求項1の記載を引用する請求項2~9についても同様に訂正する。
なお、本件訂正は、一群の請求項である訂正後の請求項1~9について請求されている。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1
ア 訂正の目的
訂正事項1に係る訂正は、溶剤成分が式(1)で表される化合物(A)を全溶剤量に対してどの程度含むかについて、「1~90質量%」から「5~30質量%」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項の有無
訂正事項1に係る訂正は、本件特許の登録時の明細書において、[A]溶剤の含有割合につき、「特に好ましくは5~40質量%である」との記載(【0036】)と、[表2](【0094】)の実施例1~12では、[A]溶剤の含有割合につき、全溶剤量に対して最小で5質量%、最大で30質量%とされていることからみて、新たな技術的事項を導入するものではない。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記ア及びイにも照らせば、訂正事項1に係る訂正は、特許請求の範囲を実質上拡張し、又は変更するものではない。
(2)小括
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9号で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。なお、本件訂正は、特許異議の申立てがされている請求項に係るものであるから、独立特許要件は課されない。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~9について訂正することを認める。
第3 本件訂正発明の認定
本件訂正後の請求項1~9に係る発明(以下「本件訂正発明1」~「本件訂正発明9」といい、これらを総称して「本件訂正発明」という。)は、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1~9に記載された次のとおりのものである。
【本件訂正発明1】
重合体成分と、溶剤成分とを含有し、
前記重合体成分は、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル、ポリイミド及びポリオルガノシロキサンとは異なる主骨格を有する重合体(P)であり、
前記重合体(P)は、重合性炭素-炭素不飽和結合を有するモノマーに由来する構造単位を有する重合体であり、下記式(2)で表される部分構造を有し、
前記溶剤成分は、下記式(1)で表される化合物(A)を、全溶剤量に対して5~30質量%含む、液晶配向剤。
【化1】
[図:0001412283000003.jpg]
(式(1)中、R10は、炭素数2~10の2価の鎖状炭化水素基、炭素数3~10の2価の脂環式炭化水素基、当該鎖状炭化水素基若しくは脂環式炭化水素基の炭素-炭素結合間に「-O-」を含む2価の基、又は当該鎖状炭化水素基若しくは脂環式炭化水素基の水素原子が水酸基で置換された基である。)
*-L1-R1-R2-R3-R4 …(2)
(式(2)中、L1は、単結合、-O-、-CO-、-COO-*1、-OCO-*1、-NR5-、-NR5-CO-*1、-CO-NR5-*1、炭素数1~6のアルカンジイル基、-O-R6-*1、又は-R6-O-*1(ただし、R5は水素原子又は炭素数1~10の1価の炭化水素基であり、R6は炭素数1~3のアルカンジイル基である。「*1」は、R1との結合手であることを示す。)である。R1及びR3は、それぞれ独立に、単結合、フェニレン基又はシクロアルキレン基であり、R2は、単結合、フェニレン基、シクロアルキレン基、-R7-B1-*2、又は-B1-R7-*2(ただし、R7はフェニレン基又はシクロアルキレン基であり、B1は単結合、-COO-*3、-OCO-*3、又は炭素数1~3のアルカンジイル基である。「*2」は、R3との結合手であることを示し、「*3」は、R7との結合手であることを示す。)である。R4は、水素原子、フッ素原子、シアノ基、炭素数1~18のアルキル基、炭素数1~18のフルオロアルキル基、炭素数1~18のアルコキシ基、炭素数1~18のフルオロアルコキシ基、ステロイド骨格を有する炭素数17~51の炭化水素基、又は、ラジカル重合性基、光開始剤基若しくはシアノ基を有する1価の有機基である。ただし、R1、R2及びR3の全部が単結合の場合、R4は、炭素数4~18のアルキル基、炭素数4~18のフルオロアルキル基、炭素数4~18のアルコキシ基、炭素数4~18のフルオロアルコキシ基、又はステロイド骨格を有する炭素数17~51の炭化水素基である。「*」は結合手であることを示す。)
【本件訂正発明2】
印刷方式、インクジェット方式及びスリットコート方式よりなる群から選ばれる少なくとも一種の塗布用である、請求項1に記載の液晶配向剤。
【本件訂正発明3】
前記重合体(P)は、ラジカル重合性基、光開始剤基、光配向性基及びβ-ヒドロキシエステル基よりなる群から選ばれる少なくとも一種の部分構造を有する、請求項1又は2に記載の液晶配向剤。
【本件訂正発明4】
前記重合体(P)は、カルボキシル基、水酸基及び環状エーテル基よりなる群から選ばれる少なくとも一種の官能基を有する、請求項1~ 3のいずれか一項に記載の液晶配向剤。
【本件訂正発明5】
環状エーテル基、環状カーボネート基、イソシアネート基、ブロックイソシアネート基、オキサゾリン基、β-ヒドロキシアルキルアミド基、メルドラム酸基、メチロール基及びアルキルメチロール基よりなる群から選ばれる少なくとも一種の官能基を分子内に有する化合物(B)をさらに含有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の液晶配向剤。
【本件訂正発明6】
下記に示す[X]溶剤の少なくとも一種と、[Y]溶剤の少なくとも一種とをさらに含有する、請求項1~ 5のいずれか一項に記載の液晶配向剤。
溶剤群:
[X]溶剤:下記式(3)で表される化合物、下記式(4)で表される化合物、及び1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン。
[Y]溶剤:ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールジアセテート、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジイソペンチルエーテル、ダイアセトンアルコール、及びプロピレングリコールモノブチルエーテル。
【化2】
[図:0001412283000004.jpg]
(式(3)中、R11は、炭素数2~5の1価の炭化水素基、又は当該炭化水素基における炭素-炭素結合間に「-O-」を有する1価の基である。)
【化3】
[図:0001412283000005.jpg]
(式(4)中、R12及びR13は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~6の1価の炭化水素基、若しくは当該炭化水素基の炭素-炭素結合間に「-O-」を有する1価の基であるか、又は、R12及びR13が互いに合わせられてR12及びR13が結合する窒素原子と共に構成される環構造を表す。R14は、炭素数1~6のアルキル基である。)
【本件訂正発明7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の液晶配向剤を用いて形成された液晶配向膜。
【本件訂正発明8】
請求項7に記載の液晶配向膜を具備する液晶素子。
【本件訂正発明9】
請求項1~6のいずれか一項に記載の液晶配向剤を、印刷方式、インクジェット方式又はスリットコート方式により基板上に塗布する工程と、前記塗布後に前記基板を加熱する工程と、を含む、液晶配向膜の製造方法。
第4 第1次取消理由及び第2次取消理由の概要、これらの取消理由のいずれにおいても採用しなかった特許異議申立理由の概要、並びに申立人が提出した証拠
以下、証拠番号は、「第」及び「号証」を略して表記する。
1 第2次取消理由(決定の予告)の概要
本件訂正後の請求項7及び8に係る特許に対する第2次取消理由の要旨は、次のとおりである。
(進歩性欠如)本件訂正後の請求項7及び8に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の文献である甲1に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、当該各請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
2 第1次取消理由の概要
本件特許の登録時の請求項1~9に係る特許に対する第1次取消理由の要旨は、次のとおりである。
(進歩性欠如)本件特許の登録時の請求項1~9に係る発明は、下記の文献である甲1に記載された発明に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当該各請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
3 第1次取消理由及び第2次取消理由(決定の予告)のいずれにおいても採用しなかった特許異議申立理由の概要
本件特許の登録時の請求項1~9に係る特許に対する上記特許異議申立理由の要旨は、次のとおりである。
(新規性欠如)本件特許の登録時の請求項1~9に係る発明は、下記の文献である甲1に記載された発明であるから、当該各請求項に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
(進歩性欠如)本件特許の登録時の請求項1~9に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の文献である甲2に記載された発明に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当該各請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(サポート要件不適合)本件特許の登録時の請求項1~9に係る発明は発明の詳細な説明に記載されたものでないから、当該各請求項に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
4 申立人が提出した証拠
甲1:国際公開第2017/018501号
甲2:特開2014-112197号公報
第5 当審の判断
当審は、本件訂正発明7及び8に係る特許については、第2次取消理由(決定の予告)によって、取り消されるべきものと判断する。また、当審は、本件訂正発明1~6、9に係る特許(前記第4の1のとおり、これらの特許は第2次取消理由の対象となっていない。)については、第1次取消理由通知及び特許異議申立理由に記載した特許異議申立理由によって、取り消すことができないと判断する。
1 第2次取消理由(決定の予告)に対する当審の判断
本件訂正発明7及び8は、以下のとおり、甲1に記載された発明に基づき進歩性を欠如する。
(1)本件訂正発明7及び8の解釈
甲1に記載された発明との対比を行うに先立ち、本件訂正発明7及び8の特定事項の解釈を行う。
本件訂正発明7は、前記第3のとおり、「請求項1~6のいずれか一項に記載の液晶配向剤を用いて形成された液晶配向膜。」として特定されるものであるところ、これらの引用元の請求項のうち唯一の独立項である請求項1に係る「液晶配向剤」は、重合体成分と溶剤成分を含むものである。しかるに、本件訂正発明7の対象は「液晶配向剤」ではなく「液晶配向膜」であるところ、当該対象である「液晶配向膜」には、液晶配向剤に含まれる溶剤成分が、全て揮発してしまって、もはや含まれていないと解される。
そうすると、本件訂正発明7では、引用元の唯一の独立項である請求項1によって特定された溶剤成分に係る特定事項、つまり、「前記溶剤成分は、下記式(1)で表される化合物(A)を、全溶剤量に対して5~30質量%含む」こと、及び「式(1)」の具体的構造に係る特定事項については、意味を持たないものと解される。
本件訂正発明8も同様である。
(2)甲1の記載事項及び甲1に記載された発明の認定
ア 甲1の記載事項
甲1には、次の記載がある。
「【請求項1】
(A)所定の温度範囲で液晶性を発現する感光性の側鎖型高分子であって、垂直配向性基を含む繰り返し単位を有する側鎖型高分子、及び
(B)有機溶媒を含有する重合体組成物。
【請求項2】
垂直配向性基が下記式(v)で表されるものである、請求項1に記載の重合体組成物。
[化1]
[図:0001412283000006.jpg]
[式(v)中、Y1は、単結合、または-O-、-CH2O-、-COO-、-OCO-、-NHCO-、-NH-CO-O-および-NH-CO-NH-から選ばれる結合基を表し、
Y2は、単結合、炭素数1~15のアルキレン基または-CH2-CH(OH)-CH2-基を表すか、ベンゼン環、シクロヘキサン環または複素環から選ばれる2価の環状基を表し、環状基上の任意の水素原子がZで置換されていてもよく、
Y3は、単結合または炭素数1~15のアルキレン基を表し、
Y4は、単結合、ベンゼン環、シクロヘキサン環もしくは複素環から選ばれる2価の環状基、または炭素数17~30のステロイド骨格を有する2価の有機基を表し、環状基上の任意の水素原子がZで置換されていてもよく、
Y5は、ベンゼン環、シクロヘキサン環または複素環から選ばれる2価の環状基を表し、これらの環状基上の任意の水素原子がZで置換されていてもよく、
mは0~4の整数を表し、mが2以上の場合、Y5は互いに同一でも異なっていてもよく、
Y6は、水素原子、炭素数1~17のアルキル基、炭素数1~17のフッ化アルキル基、炭素数1~17のアルコキシ基または炭素数1~17のフッ化アルコキシ基を表し、
Zは、炭素数1~3のアルキル基、炭素数1~3のアルコキシ基、炭素数1~3のフッ化アルキル基、炭素数1~3のフッ化アルコキシ基またはフッ素原子を表し、
ここで、アルキレン基、アルキル基、フッ化アルキル基、アルコキシ基およびフッ化アルコキシ基は、結合基同士が隣り合わない限り、その中に1~3の上記結合基を有していてもよく、Y2~Y6において、アルキレン基、-CH2-CH(OH)-CH2-基、2価の環状基、ステロイド骨格を有する2価の有機基、アルキル基およびフッ化アルキル基は、それらに隣接する基と上記結合基を介して結合していてもよく、
但し、Y2~Y6が表す置換基の総炭素数は、1~30である。」
「技術分野
[0001] 本発明は、新規な重合体組成物と、それを用いる液晶配向膜、および当該配向膜を有する基板の製造方法に関する。さらには、チルト角特性に優れる液晶表示素子を製造するための新規な方法に関する。
背景技術
[0002] 液晶表示素子は、軽量、薄型かつ低消費電力の表示デバイスとして知られ、近年では大型のテレビ用途に用いられるなど、目覚ましい発展を遂げている。液晶表示素子は、例えば、電極を備えた透明な一対の基板により液晶層を挟持して構成される。そして、液晶表示素子では、液晶が基板間で所望の配向状態となるように有機材料からなる有機膜が液晶配向膜として使用されている。
[0003] すなわち、液晶配向膜は、液晶表示素子の構成部材であって、液晶を挟持する基板の液晶と接する面に形成され、その基板間で液晶を一定の方向に配向させるという役割を担っている。そして、液晶配向膜には、液晶を、例えば、基板に対して平行な方向など、一定の方向に配向させるという役割に加え、液晶のプレチルト角を制御するという役割を求められることがある。こうした液晶配向膜における、液晶の配向を制御する能力(以下、配向制御能と言う。)は、液晶配向膜を構成する有機膜に対して配向処理を行うことによって与えられる。」
「[0042] 液晶性を発現し得る感光性の側鎖型高分子の構造のより具体的な例としては、炭化水素、(メタ)アクリレート、イタコネート、フマレート、マレエート、α-メチレン-γ-ブチロラクトン、スチレン、ビニル、マレイミド、ノルボルネン等のラジカル重合性基およびシロキサンからなる群から選択される少なくとも1種から構成された主鎖と、垂直配向性基と、感光性側鎖を有する構造であることが好ましい。」
「[0154]<<(B)有機溶媒>>
本発明に用いられる重合体組成物に用いる有機溶媒は、樹脂成分を溶解させる有機溶媒であれば特に限定されない。その具体例を以下に挙げる。
N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、N-メチルカプロラクタム、2-ピロリドン、N-エチルピロリドン、N-ビニルピロリドン、ジメチルスルホキシド、テトラメチル尿素、ピリジン、ジメチルスルホン、ヘキサメチルスルホキシド、γ-ブチロラクトン、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、3-エトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、3-ブトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、1,3-ジメチル-イミダゾリジノン、エチルアミルケトン、メチルノニルケトン、メチルエチルケトン、メチルイソアミルケトン、メチルイソプロピルケトン、シクロヘキサノン、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジグライム、4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノン、プロピレングリコールモノアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコール-tert-ブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノアセテートモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノアセテートモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノアセテートモノプロピルエーテル、3-メチル-3-メトキシブチルアセテート、トリプロピレングリコールメチルエーテル等が挙げられる。これらは単独で使用しても、混合して使用してもよい。
[0155] 本発明に用いられる重合体組成物は、上記(A)及び(B)成分以外の成分を含有してもよい。その例としては、重合体組成物を塗布した際の、膜厚均一性や表面平滑性を向上させる溶媒や化合物、液晶配向膜と基板との密着性を向上させる化合物、(C)アミン化合物等を挙げることができるが、これに限定されない。
膜厚の均一性や表面平滑性を向上させる溶媒(貧溶媒)の具体例としては、次のものが挙げられる。
[0156] 例えば、イソプロピルアルコール、メトキシメチルペンタノール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、ブチルカルビトール、エチルカルビトール、エチルカルビトールアセテート、エチレングリコール、エチレングリコールモノアセテート、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコール-tert-ブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノアセテートモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノアセテートモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノアセテートモノプロピルエーテル、3-メチル-3-メトキシブチルアセテート、トリプロピレングリコールメチルエーテル、3-メチル-3-メトキシブタノール、ジイソプロピルエーテル、エチルイソブチルエーテル、ジイソブチレン、アミルアセテート、ブチルブチレート、ブチルエーテル、ジイソブチルケトン、メチルシクロへキセン、プロピルエーテル、ジヘキシルエーテル、1-ヘキサノール、n-へキサン、n-ペンタン、n-オクタン、ジエチルエーテル、乳酸メチル、乳酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n-ブチル、酢酸プロピレングリコールモノエチルエーテル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、3-メトキシプロピオン酸メチル、3-エトキシプロピオン酸メチルエチル、3-メトキシプロピオン酸エチル、3-エトキシプロピオン酸、3-メトキシプロピオン酸、3-メトキシプロピオン酸プロピル、3-メトキシプロピオン酸ブチル、1-メトキシ-2-プロパノール、1-エトキシ-2-プロパノール、1-ブトキシ-2-プロパノール、1-フェノキシ-2-プロパノール、プロピレングリコールモノアセテート、プロピレングリコールジアセテート、プロピレングリコール-1-モノメチルエーテル-2-アセテート、プロピレングリコール-1-モノエチルエーテル-2-アセテート、ジプロピレングリコール、2-(2-エトキシプロポキシ)プロパノール、乳酸メチルエステル、乳酸エチルエステル、乳酸n-プロピルエステル、乳酸n-ブチルエステル、乳酸イソアミルエステル等の低表面張力を有する溶媒等が挙げられる。」
イ 甲1に記載された発明の認定
前記アによれば、甲1には、その請求項1及び2に記載された重合性組成物を用いる液晶配向剤([0001]の記載によれば、当該重合性組成物が液晶配向膜に用いられることは明らかである。)について、次の甲1発明1が記載されていると認められる。さらに、甲1には、甲1発明1に係る液晶配向剤を用いる液晶配向膜について次の甲1発明2が記載されているとともに、甲1発明2に係る液晶配向膜を有する液晶表示素子について次の甲1発明3が記載されていると認められる。
[甲1発明1](液晶配向剤に係るもの)
「(A)所定の温度範囲で液晶性を発現する感光性の側鎖型高分子であって、垂直配向性基を含む繰り返し単位を有する側鎖型高分子、及び
(B)有機溶媒
を含有する重合体組成物を用いる液晶配向剤であって、(請求項1)
垂直配向性基が下記式(v)
[図:0001412283000007.jpg]
[式(v)中、Y1は、単結合、または-O-、-CH2O-、-COO-、-OCO-、-NHCO-、-NH-CO-O-および-NH-CO-NH-から選ばれる結合基を表し、
Y2は、単結合、炭素数1~15のアルキレン基または-CH2-CH(OH)-CH2-基を表すか、ベンゼン環、シクロヘキサン環または複素環から選ばれる2価の環状基を表し、環状基上の任意の水素原子がZで置換されていてもよく、
Y3は、単結合または炭素数1~15のアルキレン基を表し、
Y4は、単結合、ベンゼン環、シクロヘキサン環もしくは複素環から選ばれる2価の環状基、または炭素数17~30のステロイド骨格を有する2価の有機基を表し、環状基上の任意の水素原子がZで置換されていてもよく、
Y5は、ベンゼン環、シクロヘキサン環または複素環から選ばれる2価の環状基を表し、これらの環状基上の任意の水素原子がZで置換されていてもよく、
mは0~4の整数を表し、mが2以上の場合、Y5は互いに同一でも異なっていてもよく、
Y6は、水素原子、炭素数1~17のアルキル基、炭素数1~17のフッ化アルキル基、炭素数1~17のアルコキシ基または炭素数1~17のフッ化アルコキシ基を表し、
Zは、炭素数1~3のアルキル基、炭素数1~3のアルコキシ基、炭素数1~3のフッ化アルキル基、炭素数1~3のフッ化アルコキシ基またはフッ素原子を表し、
ここで、アルキレン基、アルキル基、フッ化アルキル基、アルコキシ基およびフッ化アルコキシ基は、結合基同士が隣り合わない限り、その中に1~3の上記結合基を有していてもよく、Y2~Y6において、アルキレン基、-CH2-CH(OH)-CH2-基、2価の環状基、ステロイド骨格を有する2価の有機基、アルキル基およびフッ化アルキル基は、それらに隣接する基と上記結合基を介して結合していてもよく、
但し、Y2~Y6が表す置換基の総炭素数は、1~30である、(請求項2)
で表されるものである、液晶配向剤。」
[甲1発明2](液晶配向膜に係るもの)
「甲1発明1に記載の液晶配向剤を用いた液晶配向膜。」
[甲1発明3](液晶表示素子に係るもの)
「甲1発明2に記載の液晶配向膜を有する液晶表示素子。」
(3)対比・判断
ア 本件訂正発明7(液晶配向膜に係るもの)について
(ア)対比
甲1発明2の「液晶性を発現する感光性の側鎖型高分子」は、本件訂正発明7の「重合体成分」に相当し、甲1発明2の「(B)有機溶媒」は、本件訂正発明7の「溶剤成分」に相当する。
甲1発明2の「液晶配向剤」は、本件訂正発明7の「液晶配向剤」に相当し、甲1発明2の「液晶配向膜」は、本件訂正発明7の「液晶配向膜」に相当する。
(イ)一致点及び相違点の認定
上記(ア)によれば、本件訂正発明7と甲1発明2とは、
「重合体成分と、溶剤成分とを含有する、液晶配向剤を用いた液晶配向膜。」である点で一致し、下記の点で相違する。
<相違点1>「重合体成分」が、本件訂正発明7は、「ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル、ポリイミド及びポリオルガノシロキサンとは異なる主骨格を有する重合体(P)であり、前記重合体(P)は、重合性炭素-炭素不飽和結合を有するモノマーに由来する構造単位を有する重合体であり、下記式(2)で表される部分構造を有し」ているのに対し、甲1発明2は、「所定の温度範囲で液晶性を発現する感光性の側鎖型高分子であって、垂直配向性基を含む繰り返し単位を有する側鎖型高分子」である点。
<相違点2>「溶剤成分」が、本件訂正発明7は、「式(1)で表される化合物(A)」であって、「全溶剤量に対して5~30質量%」含まれているのに対し、甲1発明2は、「有機溶媒」である点。
(ウ)判断
a 相違点1について
甲1発明2の「所定の温度範囲で液晶性を発現する感光性の側鎖型高分子であって、垂直配向性基を含む繰り返し単位を有する液晶性を発現する感光性の側鎖型高分子」について、甲1の[0042]には、上記(2)アで摘記したとおりの記載がある。
そして、当該段落に記載された「主鎖と、垂直配向性基と、感光性側鎖を有する構造」のうち「主鎖」及び「垂直配向性基」について次のことがいえる。
まず、「主鎖」について、これが「炭化水素、(メタ)アクリレート、イタコネート、フマレート、マレエート、α-メチレン-γ-ブチロラクトン、スチレン、ビニル、マレイミド、ノルボルネン等のラジカル重合性基」「から選択される少なくとも1種から構成された主鎖」である場合、この主鎖は、相違点1に係る本件訂正発明7の構成でいう「重合性炭素-炭素不飽和結合を有するモノマー」に由来する構造であることが明らかであるとともに、この主鎖を含む構造は、相違点1に係る本件訂正発明7の構成の「ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル、ポリイミド及びポリオルガノシロキサンとは異なる主骨格を有する」ものといえる。
次に、「垂直配向性基」について、これは甲1発明2の式(v)で特定された構造を取るところ、このうち、Y1として「単結合、-O-、-COO-、-OCO-」、Y2として「単結合、ベンゼン環、シクロヘキサン環」、Y3として「単結合」、Y4として「単結合、ベンゼン環、シクロヘキサン環」、Y5として「ベンゼン環、シクロヘキサン環」、Y6として「水素原子、炭素数1~17のアルキル基、炭素数1~17のフッ化アルキル基、炭素数1~17のアルコキシ基または炭素数1~17のフッ化アルコキシ基」が選択された構造は、相違点1に係る本件訂正発明7の構成の「式(2)で表される部分構造」に相当する。そして、このように選択された構造は、式(v)で特定された構造の選択肢の大半を占めているといえる。
このように、甲1発明2の「感光性の側鎖型高分子」として、甲1の上記段落に記載された特定の主鎖を選択するとともに、その選択肢の大半を占める垂直配向性基を選択することにより、当業者は相違点1に係る本件訂正発明7の構成に至るところ、そのような選択をすることは、甲1の上記段落の記載を踏まえて、当業者が適宜なし得たことであるといえる。
b 相違点2について
相違点2に係る本件訂正発明7の構成は溶剤成分に関するところ、上記(1)で説示したとおり、溶剤成分に係る特定事項は意味を持たないことから、相違点2は、実質的ではない。
c 効果について
本件訂正発明7の効果は、相違点2が実質的でないことに照らせば、本件訂正発明7の構成が奏するものとして当業者が予測することができなかったものとはいえず、当該構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものともいえない。
(エ)小括
したがって、本件訂正発明7は、甲1発明2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
イ 本件訂正発明8(液晶表示素子に係るもの)について
本件訂正発明8と甲1発明3とは、上記ア(ア)と同様に対比すると、「重合体成分と、溶剤成分とを含有する、液晶配向剤を用いた液晶配向膜を含む液晶表示素子。」である点で一致し、下記の点で相違する。
<相違点3>「重合体成分」についての相違点1と同じ。
<相違点4>「溶剤成分」についての相違点2と同じ。
そして、相違点3及び4並びに効果についての判断は、上記ア(ウ)と同じである。
したがって、本件訂正発明8は、甲1発明3に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(4)第2次取消理由(決定の予告)に対する当審の判断の小括
以上のとおり、本件訂正発明7及び8に係る特許は、第2次取消理由によって取り消すべきものである。
2 第1次取消理由に対する当審の判断
第1次取消理由は、第2次取消理由と同様に、甲1に記載された発明に基づく進歩性欠如に係るものであるところ、本件訂正発明7及び8に対しては、上記1(第2次取消理由(決定の予告)に対する当審の判断)において判断を示したことから、以下、その余の本件訂正発明1~6、9に対して判断する。
(1)甲1発明1(液晶配向剤に係るもの)について
甲1には、上記1(2)イで認定したとおり、液晶配向剤に係る次の甲1発明1が記載されている。
「(A)所定の温度範囲で液晶性を発現する感光性の側鎖型高分子であって、垂直配向性基を含む繰り返し単位を有する側鎖型高分子、及び
(B)有機溶媒
を含有する重合体組成物を用いる液晶配向剤であって、
垂直配向性基が上記式(v)
で表されるものである、液晶配向剤。」
(2)対比・判断
ア 本件訂正発明1について
(ア)対比、一致点及び相違点の認定
上記1(3)と同様に対比して、本件訂正発明1と甲1発明1とは、「重合体成分と、溶剤成分とを含有する、液晶配向剤。」である点で一致し、下記の点で相違する。
<相違点5>「重合体成分」について、相違点1と同じ。
<相違点6>「溶剤成分」について、相違点2と同じ。
(イ)判断
相違点5及び6は、後記aで認定する本件訂正発明1の技術的意義に照らせば、関連するものであると認められるので、両者をまとめて判断する。
a 相違点5及び6に係る本件訂正発明1の構成は、重合体成分として「下記式(2)で表される部分構造を有」する「重合体(P)」(以下「本件重合体P」という。)を用いるとともに、溶剤成分として「式(1)で表される化合物(A)」(以下「本件化合物A」という。)を全溶剤量に対して「5~30質量%」(以下「本件質量%」という。)含むというものである。
そして、本件訂正発明1の技術的意義は、本件訂正後の明細書及び特許請求の範囲(以下「本件訂正明細書等」という。)の記載によれば、配向膜材料としてポリイミド等に替わる新たな材料(重合体)を用いた場合に、重合体成分の溶剤に対する溶解性が十分でないと液晶配向膜の膜厚の均一性を確保することが困難であるという課題(【0003】・【0005】)があることから、その課題を解決するために、重合体成分として本件重合体Pを選択することを前提として、溶剤成分として本件化合物Aを選択しつつ、全溶剤量に対する含有割合として本件質量%を選択したものであって、これらの選択により上記の意味での均一性の確保が可能となる課題解決原理は、本件化合物A(溶剤成分)の本件重合体Pに対する溶解性が高いことにあるとともに、溶液の濡れ広がり性も高いことにある(【0036】)というものと解される。
b そこで検討すると、甲1発明1から出発した当業者が相違点5及び6に係る本件訂正発明1の構成に至ることは、適宜選択ないし設定をすることによって実現できたことにすぎない。
すなわち、相違点5については、上記1(3)ア(ウ)aの相違点1についての判断と同様である。相違点6については、甲1発明の「(B)有機溶媒」に該当する物質として、甲1の[0154]に「ジエチレングリコール」が記載されているところ、当該物質は本件化合物Aに相当する物質であり、しかも、当該段落には、さらに、「これらは単独で使用しても、混合して使用してもよい。」と記載されていることに照らせば、上記当業者は、当該「(B)有機溶媒」として「ジエチレングリコール」を適宜選択しつつ、全溶媒量に対する当該選択された溶媒の含有割合を、本件質量%に該当するように適宜設定し得たといえる。
c しかしながら、これらの相違点5及び6に係る本件訂正発明1の構成に基づく効果は、本件訂正発明1の構成が奏するものとして当業者が予測することができなかった顕著なものであると認められる。
すなわち、上記効果は、本件重合体Pに対して溶剤成分としての本件化合物Aを全溶剤量に対して本件質量%だけ含むことによって、液晶配向膜の膜厚の均一性を確保することにあるところ、甲1には、その点について記載も示唆もない。そして、本件訂正発明1がそのような予測できない顕著な効果を奏することは、後記(3)で判断するとおり、本件訂正明細書等の記載及び技術常識において裏付けられているといえる。
d このように、甲1発明1から出発した当業者が相違点5及び6に係る本件訂正発明1の構成に適宜至ることができるとしても、これらの相違点5及び6に係る本件訂正発明1の構成に基づく効果は、本件訂正発明1の構成が奏するものとして当業者が予測することができなかった顕著なものであると認められることを併せ考慮すれば、本件訂正発明1は、上記当業者が、甲1発明1に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。
e これに対して申立人は、次のとおり主張するが、いずれも失当である。
(a)申立人は、甲1([0156])には、本件化合物Aに相当する有機溶媒(ジエチレングリコール)が塗膜の均一性の向上という本件訂正発明1と同様の効果に寄与することが記載されている旨主張する。
確かに、申立人が主張する上記段落には、本件化合物Aに相当する有機溶媒(ジエチレングリコール)が塗膜の均一性の向上に寄与する旨が記載されている。しかしながら、本件訂正発明1では、本件化合物Aが「溶剤成分」に係るものとして特定されていることから、本件化合物Aは重合体成分を溶解させるものであることが前提となっている。他方で、申立人が主張する上記段落中の「ジエチレングリコール」は「貧溶媒」として記載されていることから、当該「ジエチレングリコール」は、本件訂正発明1の本件化合物Aに相当するとしても、「溶剤成分」に相当するとはいえない。このように、申立人が主張する上記段落の記載は、本件訂正発明1の特定事項とは関係をもたないことから、申立人の上記主張によって、上記dの判断が左右されることはない。
(b)申立人は、本件訂正発明1において全溶剤量に対する本件化合物Aの配合割合として本件質量%を選択したことによって、異質ないし臨界的意義のある効果が生じるとはいえない旨主張し、その根拠として、本件訂正明細書等に記載された実施例及び比較例の間には、残像特性にほとんど差がないことを挙げる。
しかしながら、上記cで説示したとおり、本件訂正発明1は、液晶配向膜の膜厚の均一性を確保するという当業者が予測することができなかった顕著なものであると認められることから、本件訂正明細書等に記載された実施例及び比較例の間に残像特性につきほとんど差がないとしても、上記の判断は左右されない。
(ウ)小括
そして、甲1の他の記載をみても、上記の判断を左右するものはない。 以上のとおりであるから、本件訂正発明1は、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
イ 本件訂正発明2~6、9
本件訂正発明2~6、9は、いずれも本件訂正発明1を直接又は間接に引用してさらに限定したものである。
そうすると、上記アで説示したことと同様の理由により、本件訂正発明2~6、9は、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)第1次取消理由に対する当審の判断の小括
以上のとおり、本件訂正発明1~6、9に係る特許は、第1次取消理由によっては、取り消すことはできない。
3 第1次取消理由及び第2次取消理由(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由に対する当審の判断
(1)新規性欠如
上記2で説示したように、本件訂正発明1~6、9と甲1発明1とは、相違点5及び6で相違するから、本件訂正発明1~6、9は、甲1発明1とはいえない。また、上記1で説示したように、本件訂正発明7と甲1発明2とは、相違点1で相違するから、本件訂正発明7は、甲1発明2とはいえないし、本件訂正発明8と甲1発明3とは、相違点3で相違するから、本件訂正発明8は、甲1発明3とはいえない。
そして、甲1の他の記載をみても、上記の判断を左右するものはない。したがって、本件訂正発明1~9は、甲1に記載された発明とはいえない。
(2)進歩性欠如
ア 甲2の記載事項及び甲2に記載された発明の認定
(ア)甲2の記載事項
甲2には、次の記載がある。
「【請求項1】
ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル及びポリイミドよりなる群から選ばれる少なくとも一種の重合体(A)と、溶剤と、を含有し、
前記溶剤は、下記式(1)で表される化合物(b)を全溶剤量に対して1~60重量%含む、液晶配向剤。
【化1】
[図:0001412283000008.jpg]
(式(1)中、R1は、炭素数2~10の2価の鎖状炭化水素基若しくは脂環式炭化水素基、又は当該鎖状炭化水素基若しくは脂環式炭化水素基の炭素-炭素結合間に「-O-」を含む2価の基である。)」
(イ)甲2に記載された発明の認定
甲2には、その請求項1に記載された液晶配向剤について、次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
「ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル及びポリイミドよりなる群から選ばれる少なくとも一種の重合体(A)と、溶剤と、を含有し、
前記溶剤は、下記式(1)で表される化合物(b)を全溶剤量に対して1~60重量%含む、液晶配向剤。
【化1】
[図:0001412283000009.jpg]
(式(1)中、R1は、炭素数2~10の2価の鎖状炭化水素基若しくは脂環式炭化水素基、又は当該鎖状炭化水素基若しくは脂環式炭化水素基の炭素-炭素結合間に「-O-」を含む2価の基である。)」
イ 対比・判断
(ア)本件訂正発明1
a 対比
甲2発明の「重合体(A)」は、本件訂正発明1の「重合体成分」に相当し、甲2発明の「溶剤」は、本件訂正発明1の「溶剤成分」に相当する。
甲2発明の「液晶配向剤」は、本件訂正発明1の「液晶配向剤」に相当する。
b 一致点及び相違点の認定
上記aによれば、本件訂正発明1と甲2発明とは、「重合体成分と、溶剤成分とを含有する、液晶配向剤。」である点で一致し、下記の点で相違する。
<相違点7>「重合体成分」が、本件訂正発明1は、本件重合体Pであるのに対し、甲2発明は、「ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル及びポリイミドよりなる群から選ばれる少なくとも一種」である点。
<相違点8>「溶剤成分」が、本件訂正発明1は、本件化合物Aであり、全溶剤量に対する配合割合が本件質量%であるのに対し、甲2発明は、「式(1)で表される化合物(b)」であって「全溶剤量に対して1~60重量%」含まれている点。
c 相違点7についての判断
甲2発明の技術的意義は、甲2の記載によれば、液晶配向膜の重合体成分には一般にポリアミック酸やポリイミドが使用されている(【0002】・【0003】)ところ、大型液晶パネルの製造のために導入されているインクジェット法による塗布方法(【0003】)において、塗布性に更なる改善が求められている(【0005】~【0007】)という課題を解決するために、液晶配向剤の溶剤成分の一部として特定の化合物を添加することにある(【0008】)と認められる。
このように、甲2発明は、これまで使用されている液晶配向剤の重合体成分であるポリアミック酸やポリイミドを使用することを前提として、液晶配向剤の溶剤成分を工夫したものといえるから、甲2発明から出発した当業者が相違点7に係る本件訂正発明1の構成である本件重合体P(ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル及びポリイミドとは異なる主骨格を有する重合体である。)の構成に至るとはいえない。
d 小括
そして、甲2の他の記載をみても、上記の判断を左右するものはない。 したがって、本件訂正発明1は、相違点8について検討するまでもなく、甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(イ)本件訂正発明2~9
本件訂正発明2~6、9は、いずれも本件訂正発明1を直接又は間接に引用してさらに限定したものといえるから、前記(ア)と同様の理由が成り立つ。
また、本件訂正発明7、8は、本件訂正発明1に特定された液晶配向剤を用いて形成された液晶配向膜を少なくとも含む物に係るものであって、本件訂正発明1の構成のうち、前記1(1)で説示したとおり、溶剤成分についての相違点8に係る構成を含まないが、重合体成分についての相違点7に係る構成を含むものである。そこで、相違点7に係る本件訂正発明1の構成をみると、甲2発明から出発した当業者が当該構成に至らないことは、前記(ア)cで説示したとおりである。したがって、本件訂正発明7、8も、同様の理由で、甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)サポート要件不適合
申立人は、本件訂正発明1が解決しようとする課題(以下「本件課題」という。)は、塗膜均一性が良好な液晶配向膜を得ることができる液晶配向剤を提供することにあるところ、本件訂正明細書等の実施例において本件課題を解決できることが記載されているのは、本件重合体Pに該当するもののうち特定の部分構造を有するもののみである一方、本件訂正明細書等には、本件重合体Pであれば本件課題を解決できることが理解できるメカニズムの記載がないことから、実施例に記載された本件重合体P以外の本件重合体Pについては、当業者は、本件課題を解決できると認識できるとはいえない旨主張するので、検討する。
ア まず、本件課題は、本件訂正明細書等の記載によれば、配向膜材料としてポリイミド等に替わる新たな材料(重合体成分)を用いたときに、重合体成分の溶剤に対する溶解性が十分でない場合、基板上に形成した液晶配向膜の膜厚の均一性を確保することが困難であること(【0003】・【0005】)にあると認められる。
イ 次に、本件訂正明細書等の記載及び技術常識に基づいて当業者が本件課題が解決できると認識できる範囲を検討する。
(ア)本件訂正明細書等の記載
本件訂正発明1は、液晶配向剤に係るものであって、重合体成分(本件重合体Pである。)と溶剤成分(本件化合物Aを含む。)と溶剤成分の全溶剤量に対する含有割合を特定するものであることから、以下、重合体成分、溶剤成分及び上記含有割合についての本件訂正明細書等の記載を確認する。
a 重合体成分について
本件訂正明細書等には、重合体成分について、(i)配向膜材料として従来から広く使用されているポリイミド及びその前駆体であるポリアミック酸に変わる新しい材料として、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル、ポリイミド及びポリオルガノシロキサンとは異なる主骨格を有する重合体である本件重合体Pを用いること(【0002】・【0003】・【0006】・【0008】)、(ii)本件重合体Pは、本件化合物Aを含有する溶剤に対する溶解性が十分に高い点、液晶との親和性が良好である点、及び耐久性や耐熱性が良好である点で、重合性炭素-炭素不飽和結合を有するモノマーに由来する構造単位を有する重合体とされること(【0011】・【0012】)、(iii)本件重合体Pは、液晶の応答速度が速く、得られる液晶素子の残像をより低減させることができる点で、本件訂正発明1に特定された式(2)で表される配向性基からなる部分構造(以下「本件部分構造」という。)を有すること(【0014】・【0015】)、が記載されている。
そして、本件訂正明細書等には、本件訂正発明に係る液晶配向膜の実施例として、実施例1~12が記載されており(【0094】)、当該各実施例に係る液晶配向剤に用いられる本件重合体Pの具体例として、P-1~P-8が記載されている(【0076】)。当該P-1~P-8は、複数種類のモノマーを重合させて合成したものであるところ、当該複数種類のモノマーに該当するものとしては、M-1~M-17の17種類のモノマーが記載されている(【0068】)。これらのうち、M-1、M-2、M-12及びM-13はスチレン基含有化合物であり、M-3、M-7、M-8及びM-14はマレイミド構造含有化合物であり、M-4~M-6はメタクリレート基含有化合物であり、M-9~11及びM15~17はノルボルネン構造含有化合物である。そして、当該17種類のモノマーのうち、本件部分構造を有するものは、M-1、M-3、M-6、M-9、M-14及びM-16の6種類である(【0076】)。
b 溶剤成分及びそれに含まれる本件化合物Aの全溶剤量に対する含有割合について
本件訂正明細書等には、溶剤成分及び上記含有割合について、(i)本件化合物Aを含有し、それに含まれるR10は、塗膜均一性がより良好である点で、炭素数2~10の2価の鎖状炭化水素基、炭素数3~10の2価の脂環式炭化水素基、又は当該鎖状炭化水素基若しくは脂環式炭化水素基の炭素-炭素結合間に「-O-」を含む2価の基(以下、R10に含まれるこれらの基を総称して「本件所定基」という。)であるとされており、R10が有する鎖状炭化水素基又は脂環式炭化水素基において、少なくとも1個の水素原子が水酸基で置換されていてもよいとされていること(【0033】)、(ii)本件化合物Aの全溶剤量に対する含有割合は、溶剤の使用による塗膜均一性の効果を十分に得るために、特に好ましくは5~40質量%であるとされていること(【0036】)、が記載されている。
そして、本件訂正明細書等には、前記aのとおり、本件訂正発明についての実施例が記載されているところ、当該各実施例に係る液晶配向剤に用いられる本件化合物Aの具体例として、エチレングリコール(EG。炭素数2の鎖状炭化水素基を有している。)、プロピレングリコール(PG。炭素数3の鎖状炭化水素基を有している。)、ジエチレングリコール(DEG。炭素数2の鎖状炭化水素基の炭素-炭素結合間に「-O-」を含んでいる。)、ジプロピレングリコール(DPG。炭素数3の鎖状炭化水素基の炭素-炭素結合間に「-O-」を含んでいる。)、1,3-ブタンジオール(BG。炭素数4の鎖状炭化水素基を有している。)、ペンチレングリコール(PTG。1,2-ペンタンジオールであり、炭素数5の鎖状炭化水素基を有している。)、及びヘキシレングリコール(HG。2-メチルペンタン-2,4-ジオールであり、炭素数6の鎖状炭化水素基を有している。)が記載されている。
加えて、本件訂正明細書等には、当該各実施例に係る含有割合について、5~30質量%のものが記載されている。
(イ)検討
a 前記(ア)によれば、本件重合体P、本件化合物A及び本件化合物Aの全溶剤量に対する含有割合について以下のことがいえる。
本件重合体Pは、重合性炭素-炭素不飽和結合を有するモノマーに由来する構造単位を有する重合体であるところ、このような構造単位を有することにより、本件化合物Aを含有する溶剤に対する溶解性が十分に高く、液晶との親和性が良好であるとされている。また、本件化合物Aは、本件所定基を有することにより、塗膜均一性がより良好であるとされており、全溶剤量に対するその含有割合を5~30質量%とすることにより、溶剤の使用による塗膜均一性の効果を十分に得ることができるとされている。
そして、これらの内容を裏付けるべく、本件訂正明細書等には、本件重合体Pの実施例として、4種類のスチレン基含有化合物、4種類のマレイミド構造含有化合物、3種類のメタクリレート基含有化合物及び6種類のノルボルネン構造含有化合物に由来する構造単位を有する重合体が記載されているともに、本件化合物Aの実施例として、炭素数2~6の鎖状炭化水素基を有するジオール、及び炭素数2~3の鎖状炭化水素基の炭素-炭素結合間に「-O-」を含んでいるジオールが記載されている。加えて、全溶剤量に対する本件化合物Aの含有割合として、5~30質量%のものが記載されている。これらについては、当業者であれば本件課題を解決できるものと認識できるといってよい。
b ところで、本件重合体Pは、液晶配向剤に含まれる重合体成分であることから、溶剤成分に対する溶解性が高いこと、及び液晶との親和性が良好なものであることが当然の前提となっているといえる。
そして、本件化合物Aに含まれるR10に係る本件所定基は、炭素数が10までの基であり、実施例に開示されている2ないし6の炭素数よりは大きいものであってよいが、本件所定基の炭素数は、実施例に開示された炭素数と比べてさほど多いものではなく、しかも、一般に、炭素数が増加すれば、より分子量の大きな重合体成分であっても溶解できると考えられる。
c 前記aのとおり、本件訂正明細書等には、本件重合体P及び本件化合物Aを含み、溶剤成分の全溶剤量に対する本件化合物Aの含有割合が本件質量%のものについて、その技術的意義が記載されているとともに、その裏付けとなる実施例において、スチレン基、マレイミド構造、メタクリレート基及びノルボルネン構造の4系統のモノマーに由来する本件重合体Pに対して、本件化合物Aに該当する具体的な物質が存在することが記載されている。そして、これらの実施例では、全溶剤量に対する本件化合物Aの含有割合が、5~30質量%(本件質量%)である。
このことに、前記bで説示したとおり、本件重合体Pは、液晶配向剤に含まれる重合体成分であれば求められる溶剤成分に対する溶解性、及び液晶との親和性を示すものであることが当然の前提であるととともに、本件化合物Aに含まれるR10に係る本件所定基として、実施例には、炭素数が少ない側という分子量の大きな重合体成分を溶解しがたい傾向にあるものが記載されているのであり、しかも、本件所定基の炭素数の上限が実施例に記載された本件所定基の炭素数と比べてさほど大きくないことをも併せ考慮すれば、当業者であれば、本件重合体P及び本件化合物Aを含み、溶剤成分の全溶剤量に対する本件化合物Aの含有割合が本件質量%のものについて、本件課題を解決できると認識できるというのが相当である。
ウ したがって、本件訂正発明1は、当業者にとって、上記課題を解決できると認識できる範囲内のものであるといえる。また、本件訂正発明1を引用する本件訂正発明2~9も同様である。
よって、本件訂正後の請求項1~9の記載はサポート要件を満たしており、申立人の主張によって同記載がサポート要件違反になることはない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正発明7及び8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。したがって、本件訂正発明7及び8に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
本件訂正発明1~6、9に係る特許は、第1次取消理由通知及び特許異議申立理由書に記載した特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。また、他に本件訂正発明1~6、9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2023-700273