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特許異議申立

2021-700506

金属板の製造方法

審判番号
2021-700506
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2020-126760
登録番号
6788852
請求日
2021年05月25日
審決日
2022年03月09日
公報発行日
2022年06月24日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】大日本印刷株式会社
  • 【権利者代理人】中村 行孝
  • 【権利者代理人】宮嶋 学
  • 【権利者代理人】堀田 幸裕
  • 【権利者代理人】岡村 和郎
  • 【権利者代理人】高田 泰彦
  • 【権利者代理人】柏 延之
  • 【権利者代理人】朝倉 悟
  • 【異議申立人】村戸 良至
審判長/審判官
  • 審判長 日比野 隆治
  • 審判官 原 賢一
  • 審判官 後藤 政博
分類
P1651.537-YAA(C23C) / P1651.113-YAA(C23C) / P1651.121-YAA(C23C) / P1651.536-YAA(C23C)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第1項、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第6788852号発明「金属板の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第6788852号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-12〕について訂正することを認める。 特許第6788852号の請求項1ないし19に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第6788852号の請求項1~19に係る特許についての出願は、令和2年7月27日(優先権主張 令和1年10月8日 日本国)を出願日とする特願2020-126760号であり、令和2年11月5日にその特許権の設定登録がされ、同年同月25日に特許掲載公報が発行され、その後、全請求項(請求項1~19)に係る特許について、令和3年5月25日に特許異議申立人村戸良至(以下、「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがなされ、同年7月27日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年9月27日に特許権者より意見書の提出及び訂正の請求があり、これに対し、異議申立人からは意見書の提出がなかったものである。 第2 訂正の適否 1 訂正事項 上記令和3年9月27日になされた訂正の請求は、本件特許請求の範囲の請求項1ないし12を、上記訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1ないし12について訂正することを求めるものであって、その訂正(以下、「本件訂正」という。)の具体的な訂正事項は次のとおりである。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に「ニッケルを含む鉄合金を有する母材を圧延して前記金属板を作製する工程を備え、」とあるのを、「鉄及びニッケルを含む原材料を溶解することによって母材を準備する準備工程と、ニッケルを含む鉄合金を有する前記母材を圧延して前記金属板を作製する工程と、を備え、」に訂正する。 (請求項1を直接または間接的に引用する請求項2~12についても同様に訂正する。) (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項1に「前記第1数量は、前記サンプルの体積1mm3あたりに含まれる、1μm以上3μm未満の円相当径を有する前記粒子の数量である、金属板の製造方法。」とあるのを、「前記第1数量は、前記サンプルの体積1mm3あたりに含まれる、1μm以上3μm未満の円相当径を有する前記粒子の数量であり、前記製造方法は、前記サンプルの体積1mm3あたりに含まれる1μm以上の円相当径を有する粒子の個数及び円相当径を検査する検査工程を備える、金属板の製造方法。」に訂正する。 (請求項1を直接または間接的に引用する請求項2~12についても同様に訂正する。) 2 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正事項1について ア 訂正事項1は、訂正前の請求項1の「金属板の製造方法」が、「鉄及びニッケルを含む原材料を溶解することによって母材を準備する準備工程」を備えることを限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ 訂正前の請求項1の「金属板の製造方法」が、「鉄及びニッケルを含む原材料を溶解することによって母材を準備する準備工程」を備えることは、本件明細書【0167】の「まず、少なくともニッケルを含む鉄合金を有する母材を準備する準備工程を実施する。」との記載及び同【0168】の「まず、鉄及びニッケル並びにその他の原材料を準備する。例えば、原材料全体に対する鉄の比率及びニッケルの比率がそれぞれ約64重量%及び約36重量%となるよう、各原材料を準備する。続いて、各原材料を必要に応じて粉砕した後、各原材料を溶解炉にて溶解する第1溶解工程を実施する。」との記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。 ウ 訂正事項1は、訂正前の請求項1の「金属板の製造方法」をさらに限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (2)訂正事項2について ア 訂正事項2は、訂正前の請求項1の「金属板の製造方法」が、「サンプルの体積1mm3あたりに含まれる1μm以上の円相当径を有する粒子の個数及び円相当径を検査する検査工程を備える」ことを限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ 訂正前の請求項1の「金属板の製造方法」が、「サンプルの体積1mm3あたりに含まれる1μm以上の円相当径を有する粒子の個数及び円相当径を検査する検査工程を備える」を備えることは、本件明細書【0203】の「圧延工程、アニール工程又はスリット工程の後に、金属板64に含まれる粒子64dの密度及び寸法を検査する検査工程を実施してもよい。検査工程においては、上述の観察工程及び分析工程を実施することにより、サンプル81の体積1mm3あたりに含まれる、1μm以上の円相当径を有する粒子64dの個数Z2、円相当径、成分などの情報を得る。」との記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。 ウ 訂正事項2は、訂正前の請求項1の「金属板の製造方法」をさらに限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 3 小括 本件訂正は、特許法第120条の5第4項の規定に従い、一群の請求項を構成する請求項〔1ないし12〕について訂正することを求めるものであるところ、上記2のとおり、訂正事項1及び2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものに該当し、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものであるから、訂正後の請求項〔1ないし12〕について訂正することを認める。 第3 本件発明 上記第2のとおり、本件訂正は認容し得るものであるから、本件訂正後の請求項1ないし12に係る発明を含め、請求項1ないし請求項19に係る発明(以下、各請求項に係る発明及び特許を項番に対応して「本件発明1」、「本件特許1」などといい、併せて「本件発明」、「本件特許」ということがある。)の記載は、次のとおりである。 「【請求項1】 蒸着マスクを製造するために用いられる、第1面及び前記第1面の反対側に位置する第2面を含む金属板の製造方法であって、 鉄及びニッケルを含む原材料を溶解することによって母材を準備する準備工程と、 ニッケルを含む鉄合金を有する前記母材を圧延して前記金属板を作製する工程と、を備え、 前記金属板は、鉄及びニッケル以外の元素を主成分として含む粒子を備え、 前記金属板の前記第1面及び前記第2面を含むサンプルにおいて、前記サンプルの体積1mm3あたりに含まれる前記粒子に関する以下の条件(1)、(2)が満たされており、 (1)1μm以上の円相当径を有する前記粒子の数が50個以上3000個以下である; (2)3μm以上の円相当径を有する前記粒子の数が50個以下である; 前記金属板の第1比率が70%以上であり、 前記第1比率は、1μm以上の円相当径を有する前記粒子の合計数量に対する、第1数量の比率であり、 前記合計数量は、前記サンプルの体積1mm3あたりに含まれる、1μm以上の円相当径を有する前記粒子の数量であり、 前記第1数量は、前記サンプルの体積1mm3あたりに含まれる、1μm以上3μm未満の円相当径を有する前記粒子の数量であり、 前記製造方法は、前記サンプルの体積1mm3あたりに含まれる1μm以上の円相当径を有する粒子の個数及び円相当径を検査する検査工程を備える、 金属板の製造方法。 【請求項2】 前記母材又は前記金属板の表面部分を除去する表面処理工程を備える、請求項1に記載の金属板の製造方法。 【請求項3】 前記表面処理工程は、前記母材の前記表面部分を除去する母材表面処理工程を含み、 前記表面部分の厚みは10mm以上である、請求項2に記載の金属板の製造方法。 【請求項4】 前記表面処理工程は、前記金属板の前記表面部分を除去する金属板表面処理工程を含み、 前記表面部分の厚みは5μm以上である、請求項2に記載の金属板の製造方法。 【請求項5】 前記表面処理工程は、前記母材又は前記金属板の表面に表面処理液を接触させることによって前記表面部分を除去する工程を含む、請求項2に記載の金属板の製造方法。 【請求項6】 前記金属板の前記第1面及び前記第2面を含むサンプルにおいて、前記サンプルの体積1mm3あたりに含まれる前記粒子に関する以下の条件(1)、(2)が満たされている前記金属板を選別する選別工程を備える、 (1)1μm以上の円相当径を有する前記粒子の数が50個以上3000個以下である; (2)3μm以上の円相当径を有する前記粒子の数が50個以下である; 請求項1乃至5のいずれか一項に記載の金属板の製造方法。 【請求項7】 前記サンプルの体積1mm3あたりに含まれる前記粒子に関する以下の条件(3)が満たされている、 (3)1μm以上の円相当径を有する前記粒子の数が1000個以下である; 請求項1乃至6のいずれか一項に記載の金属板の製造方法。 【請求項8】 前記サンプルの体積1mm3あたりに含まれる前記粒子に関する以下の条件(4)が満たされている、 (4)3μm以上の円相当径を有する前記粒子の数が20個以下である; 請求項1乃至7のいずれか一項に記載の金属板の製造方法。 【請求項9】 前記サンプルの体積1mm3あたりに含まれる前記粒子に関する以下の条件(5)が満たされている、 (5)5μm以上の円相当径を有する前記粒子の数が20個以下である; 請求項1乃至8のいずれか一項に記載の金属板の製造方法。 【請求項10】 前記サンプルの体積1mm3あたりに含まれる前記粒子に関する以下の条件(6)が満たされている、 (6)5μm以上の円相当径を有する前記粒子の数が2個以下である; 請求項1乃至9のいずれか一項に記載の金属板の製造方法。 【請求項11】 前記金属板の厚みが50μm以下である、請求項1乃至10のいずれか一項に記載の金属板の製造方法。 【請求項12】 前記金属板の厚みが30μm以下である、請求項1乃至10のいずれか一項に記載の金属板の製造方法。 【請求項13】 蒸着マスクを製造するために用いられる、第1面及び前記第1面の反対側に位置する第2面を含み、鉄及びニッケルを備える金属板であって、 鉄及びニッケル以外の元素を主成分として含む粒子を備え、 前記金属板の前記第1面及び前記第2面を含むサンプルにおいて、前記サンプルの体積1mm3あたりに含まれる前記粒子に関する以下の条件(1)、(2)が満たされており、 (1)1μm以上の円相当径を有する前記粒子の数が50個以上3000個以下である; (2)3μm以上の円相当径を有する前記粒子の数が50個以下である; 前記金属板の第1比率が70%以上であり、 前記第1比率は、1μm以上の円相当径を有する前記粒子の合計数量に対する、第1数量の比率であり、 前記合計数量は、前記サンプルの体積1mm3あたりに含まれる、1μm以上の円相当径を有する前記粒子の数量であり、 前記第1数量は、前記サンプルの体積1mm3あたりに含まれる、1μm以上3μm未満の円相当径を有する前記粒子の数量である、金属板。 【請求項14】 前記サンプルの体積1mm3あたりに含まれる前記粒子に関する以下の条件(3)が満たされている、 (3)1μm以上の円相当径を有する前記粒子の数が1000個以下である; 請求項13に記載の金属板。 【請求項15】 前記サンプルの体積1mm3あたりに含まれる前記粒子に関する以下の条件(4)が満たされている、 (4)3μm以上の円相当径を有する前記粒子の数が20個以下である; 請求項13又は14に記載の金属板。 【請求項16】 前記サンプルの体積1mm3あたりに含まれる前記粒子に関する以下の条件(5)が満たされている、 (5)5μm以上の円相当径を有する前記粒子の数が20個以下である; 請求項13乃至15のいずれか一項に記載の金属板。 【請求項17】 前記サンプルの体積1mm3あたりに含まれる前記粒子に関する以下の条件(6)が満たされている、 (6)5μm以上の円相当径を有する前記粒子の数が2個以下である; 請求項13乃至16のいずれか一項に記載の金属板。 【請求項18】 前記金属板の厚みが50μm以下である、請求項13乃至17のいずれか一項に記載の金属板。 【請求項19】 前記金属板の厚みが30μm以下である、請求項13乃至17のいずれか一項に記載の金属板。」 第4 令和3年7月27日付けで通知した取消理由及びこの取消理由において採用しなかった異議申立人による特許異議の申立理由の概要 1 令和3年7月27日付けで通知した取消理由の概要 (1)特許法第36条第6項第2号所定の規定違反(明確性要件違反)(以下、「取消理由1」という。 訂正前の請求項1に係る発明は、「蒸着マスクを製造するために用いられる・・・金属板の製造方法」として特定されているところ、訂正前の請求項1の記載の内、「前記金属板は、鉄及びニッケル以外の元素を主成分として含む粒子を備え・・・前記第1数量は、前記サンプルの体積1mm3あたりに含まれる、1μm以上3μm未満の円相当径を有する前記粒子の数量である、」は、「金属板」における構造を特定するものであるから、「金属板の製造方法」を特定する記載は、「ニッケルを含む鉄合金を有する母材を圧延して前記金属板を作製する工程を備え、」でしかない。 しかしながら、蒸着マスクを製造するために用いられる金属板は、圧延工程だけで製造されるものではないことは、本件明細書の記載や技術常識から明らかであるし、蒸着マスクを製造するために用いられる金属板の製造方法において、圧延工程のみを特定しさえすれば、圧延工程以外の何らかの所定の金属板の製造方法が認識されるとの技術常識があるとも認められないから、「蒸着マスクを製造するために用いられる金属板の製造方法」としながら、金属板の圧延工程に関する特定しかない訂正前の請求項1に係る発明は、「蒸着マスクを製造するために用いられる金属板の製造方法」として明確に把握することができない。 訂正前の請求項2~5に係る発明では、金属板の製造方法が、金属板の表面部分を除去する表面処理工程を備えること、訂正前の請求項6に係る発明では、金属板の製造方法が、特定の金属板を選別する選別工程を備えることが特定されるものの、蒸着マスクを製造するために用いられる金属板は、圧延工程、及び表面処理工程又は選別工程だけで製造されるものではないことも技術常識であるから、訂正前の請求項1に係る発明を引用する訂正前の請求項2~12に係る発明も、訂正前の請求項1に係る発明と同様に明確ではない。 (2)特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反)(以下、「取消理由2」という。) 本件明細書の【0006】等の記載によれば、製造方法の発明である訂正前の請求項1~12に係る発明の課題は、「金属板に形成される貫通孔の形状の精度を高める、蒸着マスクを製造するために用いられる金属板の製造方法」を提供することにあるといえる。 ここで、同【0070】及び同【0072】の記載によれば、訂正前の請求項1~12に係る発明の課題である、金属板に形成される貫通孔の形状の精度を高めることに関し、金属板に含まれる粒子の数が多い場合や、金属板に含まれる粒子の寸法が大きい場合、エッチングによって金属板に形成される貫通孔の形状の精度が低くなることが理解できる。 そして、同【0166】~【0236】に、金属板の製造方法の主要な工程(一連の工程)についての記載がされているところ、同【0203】~【0206】の検査工程(上記金属板の特性を検査するための工程)及び判定工程において、訂正前の請求項1に係る発明の条件(1)及び(2)等が満たされている金属板を良品と判定することが記載され、この検査工程及び判定工程を経ることによって、訂正前の請求項1~12に係る発明の課題を解決できることになるといえる。 また、製造方法における検査工程、判定工程以外の同【0166】~【0202】に記載される工程についても、訂正前の請求項1~12に係る発明の課題を解決することに関連する、金属板に含まれる粒子を低減するには必要な工程であることが理解できる。 しかしながら、訂正前の請求項1に係る発明等には、上記の検査工程、及び【0166】~【0202】に記載される工程に関する特定はなされていない。 そうすると、訂正前の請求項1~12に係る発明は、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が訂正前の請求項1~12に係る発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということはできないし、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし訂正前の請求項1~12に係る発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということはできない。 2 取消理由において採用しなかった異議申立人による特許異議の申立理由の概要 (1)特許法第29条第1項3号及び第2項所定の規定違反(新規性及び進歩性欠如)(以下、「申立理由1」という。) 訂正前の請求項1、2及び13に係る発明は、下記甲第1号証に記載された発明であるから、その特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものである。また、訂正前の請求項2~5、11、12、18及び19に係る発明は、下記甲第1号証に記載された発明及び下記甲第2~4号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 記 甲第1号証:国際公開第2018/052135号 甲第2号証:特開2007-144445号公報 甲第3号証:特開2008-43966号公報 甲第4号証:特開平5-253816号公報 (以下、「甲第1号証」を「甲1」などという。) (2)特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反)(以下、「申立理由2」という。) ア 訂正前の請求項1に係る発明について 訂正前の請求項1に係る発明の「金属板の製造方法」は、「ニッケルを含む鉄合金を有する母材を圧延して前記金属板を作製する工程を備え」ている。また、同発明では、条件(1)及び(2)が満たされているとされている。 これに対し、本件明細書の【0190】には、「例えば圧延工程は、母材60を構成する鉄合金の結晶配列を変化させる温度以上の温度で母材を加工する熱間圧延工程や、鉄合金の結晶配列を変化させる温度以下の温度で母材を加工する冷間圧延工程を含んでいてもよい。」と記載されている。 ここで、結晶配列が変化すること以外にも、圧延工程で、圧延条件に応じて、軟質な介在物粒子は細かく破砕されるが、硬質の介在物粒子は破砕されずに、サイズが大きな介在物粒子として残存してしまうことは、技術常識である(甲第5号証:特開平4-218644号公報の【0038】、甲第6号証:特開2003-073779号公報の【0021】-【0024】参照)。 しかし、訂正前の請求項1に係る発明には、圧延条件(圧下率等)が記載されていない。また、発明の詳細な説明を見ても、圧延条件をどのように変えることで、条件(1)、(2)及び第1比率70%以上を満たすことができるのかが全く記載されていない。 そうすると、訂正前の請求項1に係る発明は、発明の課題を解決できない場合も含んでいるから、同発明は、発明の詳細な説明の記載により当業者が同課題を解決できると認識できるように記載された範囲を超えており、サポート要件を満たしていない。 イ 訂正前の請求項2に係る発明について 訂正前の請求項2に係る発明は、「前記母材又は前記金属板の表面部分を除去する表面処理工程を備える」と特定されているところ、母材の表面部分を除去について、本件明細書の【0175】に、「厚みX1が5mm以上であることにより、金属板64に含まれる粒子64dの個数及び密度を低減できる。範囲X1が大きいほど、粒子64dの個数は減少する」と記載されている。ここで、本件明細書には、除去される母材の表面部分の厚みをどのように調整制御すれば、条件(1)、(2)及び第1比率70%以上を満たす金属板が得られるかは記載されておらず、除去される母材の表面部分の厚みによって、訂正前の請求項1に係る発明の条件(1)、(2)及び第1比率70%以上を満たさない場合があることは明らかである。 そうすると、訂正前の請求項2に係る発明は、除去される表面部分の厚みが特定されておらず、発明の課題を解決できない場合も含んでいるから、同発明は、発明の詳細な説明の記載により当業者が同課題を解決できると認識できるように記載された範囲を超えており、サポート要件を満たしていない。 ウ 訂正前の請求項7~10に係る発明について 訂正前の請求項7に係る発明は、「前記サンプルの体積1mm3あたりに含まれる前記粒子に関する以下の条件(3)が満たされている、(3)1μm以上の円相当径を有する前記粒子の数が1000個以下である」と特定され、訂正前の請求項8に係る発明は、「前記サンプルの体積1mm3あたりに含まれる前記粒子に関する以下の条件(4)が満たされている、(4)1μm以上の円相当径を有する前記粒子の数が20個以下である」と特定され、訂正前の請求項9に係る発明は、「前記サンプルの体積1mm3あたりに含まれる前記粒子に関する以下の条件(5)が満たされている、(5)5μm以上の円相当径を有する前記粒子の数が20個以下である」と特定され、訂正前の請求項10に係る発明は、「前記サンプルの体積1mm3あたりに含まれる前記粒子に関する以下の条件(6)が満たされている、(6)5μm以上の円相当径を有する前記粒子の数が2個以下である」と特定されているところ、本件明細書には、圧延条件をどのように変え、且つ除去される表面部分の厚みをどのように調整制御すれば、条件(1)、(2)及び第1比率70%以上に加えて条件(3)~(6)を満たす金属板が得られるかは全く記載されていない。ここで、圧延条件、除去される母材または金属板の表面部分の厚みによって、訂正前の請求項1に係る発明の条件(1)、(2)及び第1比率70%以上に加えて、条件(3)~(6)を満たさない場合があることは明らかである。 そうすると、訂正前の請求項7~10に係る発明は、発明の課題を解決できない場合も含んでいるから、同発明は、発明の詳細な説明の記載により当業者が同課題を解決できると認識できるように記載された範囲を超えており、サポート要件を満たしていない。 エ 訂正前の請求項13に係る発明について 本件発明13は、「前記金属板の前記第1面及び前記第2面を含むサンプルにおいて、前記サンプルの体積1mm3あたりに含まれる前記粒子に関する以下の条件(1)、(2)が満たされており、・・・金属板の第1比率が70%以上であり、」と特定されているところ、本件明細書の【0137】、【0138】には、母材又は金属板から所定の体積を有するサンプルを取り出す第1サンプリング工程が、「例えば図26に示すように、巻き体から巻き出された金属板64を金属板64の厚み方向に切断して、平面視において正方形状を有するサンプル81を得る。」などのように記載されているが、サンプルの採取位置は特定されていない。 一方、本件明細書には、「溶解工程における雰囲気の圧力を低くするほど、溶解工程中に上方に向かう粒子64dの移動速度が大きくなる可能性がある。従って、溶解工程における雰囲気の圧力を調整することによって、金属板に含まれる粒子の量又は寸法を調整できる可能性がある。例えば、雰囲気の圧力を低くすることによって、金属板に含まれる粒子の量を低減できる。若しくは、雰囲気の圧力を低くすることによって、金属板に含まれる粒子の円相当径を低減できる」(【0187】)と記載されており、粒子の大きさにより溶解工程中の浮上速度(上方へ向かう移動速度)が異なり、除去後のインゴットの主相64c内において、粒子が不均一に成る場合があることが示唆されている。また、そのようなインゴットを圧延しても、介在物が均一分散するとの技術常識はない。 そうすると、金属板内で粒子(介在物)密度がばらつくことは明白であるから、条件(1)、(2)及び第1比率が70%以上を満たすかどうかに関して、任意の場所で取得したサンプルにおいて、同じ結果が得られるかは不明であり、むしろ結果は変わる蓋然性が高く、サンプルの採取位置が特定されていない本件発明13は、発明の課題を解決できない場合も含んでいる。 したがって、本件発明13は、発明の課題を解決できることを、発明の詳細な説明の記載により当業者が認識できるように記載された範囲を超えており。サポート要件を満たしていない。 (3)特許法第36条第4項第1号所定の規定違反(実施可能要件違反)(以下、「申立理由3」という。) ア 本件発明13について 本件明細書の【0237】以降に記載される[実施例]の例1~17の内、例1~例6、例8~例12、例16、例17が、本件発明13の条件(1)、(2)及び第1比率70%以上を満たしているので、本件発明13の例(発明例)であると考えられるところ、例1の金属板の製造には、「第1溶解工程」が含まれ、本件明細書には、「第1溶解工程の時間は、粒子64dが表面又はその周囲まで移動できるように設定される・・・」(【0171】)と記載されているから、例1では、溶解工程において粒子(介在物)を浮上分離させることが必須である。そして、溶解工程の時間によって得られるインゴット内の粒子の分布が異なり、溶解工程の時間により、インゴット表面部分の粒子の大きさや個数が変動することは明らかである。また、粒子の浮上分離には、時間だけでなく温度(粘度)も重要なファクターであり、温度により粘度が変化することも技術常識である。 しかしながら、本件明細書には、少なくとも溶解工程の時間と温度の記載がないので、これらの条件設定において、当業者に過大な負担を強いることになる。 さらに、その後に続く、表面処理工程、圧延工程においても、除去する表面部分の厚みの量、圧延工程での圧延条件(温度、圧下率等)が全く記載されていない。 また、例13~15は、条件(1)、(2)を満たしていないので、本件発明13の比較例であり、そして例16、17は、条件(1)、(2)を満たしているので、本件発明13の例(発明例)と考えられるところ、本件明細書の【0254】には、「第13巻き体~第17巻き体の製造条件は、概略は同一であるが詳細は異なる。具体的には、第13巻き体~第17巻き体の製造条件は、下記の(A)~(D)の少なくとも1つに関して、互いに異なる。 (A)第1溶解工程における添加剤の量 (B)第1表面処理工程において除去される表面部分の厚み (C)溶解工程の回数 (D)第1溶解工程における雰囲気の圧力」と記載されているが、ここで(A)~(D)の具体的な内容および条件は記載されていないから、どのような工程を採用し、どのような条件を設定すれば、発明例、比較例を造り分けすることができるのか、同【0254】を参照しても、当業者は理解できず、当業者に過度の試行錯誤を要求する。 したがって、発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明13を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでないので、実施可能要件を満たしていない。 イ 本件発明14~17について 本件発明14は、「前記サンプルの体積1mm3あたりに含まれる前記粒子に関する以下の条件(3)が満たされている、(3)1μm以上の円相当径を有する前記粒子の数が1000個以下である」と特定され、本件発明15は、「前記サンプルの体積1mm3あたりに含まれる前記粒子に関する以下の条件(4)が満たされている、(4)3μm以上の円相当径を有する前記粒子の数が20個以下である」と特定され、本件発明16は、「前記サンプルの体積1mm3あたりに含まれる前記粒子に関する以下の条件(5)が満たされている、(5)5μm以上の円相当径を有する前記粒子の数が20個以下である」と特定され、本件発明17は、「前記サンプルの体積1mm3あたりに含まれる前記粒子に関する以下の条件(6)が満たされている、(6)5μm以上の円相当径を有する前記粒子の数が2個以下である」と特定されているが、本件明細書の【0237】以降の[実施例]の記載を参照しても、条件(1)、(2)に加えて条件(3)~(6)がさらに満たされている金属板をどのようにして製造したのか、全く記載されていないので、当業者に過度の試行錯誤を要求する。 そうすると、発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明14~17を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでないので、実施可能要件を満たしていない。 (4)特許法第36条第6項第2号所定の規定違反(明確性要件違反)(以下、「申立理由4」という。) ア 訂正前の請求項1に係る発明について 訂正前の請求項1に係る発明には、「ニッケルを含む鉄合金を有する母材を圧延して前記金属板を作製する工程を備えた、蒸着マスクを製造するために用いられる、第1面及び前記第1面の反対側に位置する第2面を含む金属板の製造方法」と特定されているが、「圧延」なる用語に関しては、当該技術分野では、「分塊圧延」、「熱間圧延」、「冷間圧延」、「調質圧延」等、種々の圧延が知られている。また、本件明細書の【0190】には、「例えば圧延工程は、母材60を構成する鉄合金の結晶配列を変化させる温度以上の温度で母材を加工する熱間圧延工程や、鉄合金の結晶配列を変化させる温度以下の温度で母材を加工する冷間圧延工程を含んでいてもよい。」と記載されている。 そうすると、「圧延」の意味が当業者の出願当時における技術常識にしても、不明確であるので、訂正前の請求項1に係る発明の金属板の製造方法の発明自体が明確でない。 イ 本件発明6について 訂正前の請求項6に係る発明には、「・・・前記金属板を選別する選別工程を備える」と特定されているが、「選別工程」については、本件明細書に、「上述の説明においては、粒子64dの個数、寸法、成分などに基づいて金属板64を検査する検査工程を、金属板64の良否を判定するために、すなわち金属板64の選別のために実施する例を示した。すなわち、検査工程が、金属板64の製造方法において金属板64を選別する選別工程として機能する例を示した。」(【0207】)と記載されているだけである。 そして、この記載からは、条件(1)、(2)が満たされている金属板をどのようにして選別するのか、選別工程の具体的な内容は、不明確である。 そうすると、「選別工程」の意味が不明確であり、訂正前の請求項6に係る発明は明確でない。 第5 当審の判断 1 取消理由1(特許法第36条第6項第2号所定の規定違反(明確性要件違反))について 取消理由1は、要するに、訂正前の請求項1に係る発明は、「蒸着マスクを製造するために用いられる・・・金属板の製造方法」として特定されているところ、訂正前の請求項1の記載の内、「金属板の製造方法」を特定する記載は、「ニッケルを含む鉄合金を有する母材を圧延して前記金属板を作製する工程を備え、」でしかないが、蒸着マスクを製造するために用いられる金属板は、圧延工程だけで製造されるものではないことは、本件明細書の記載や技術常識から明らかであるから、訂正前の請求項1に係る発明及び訂正前の請求項1に係る発明を引用する訂正前の請求項2~12に係る発明は、「製造方法」として明確に把握することができないというものである。 これに対し、本件訂正により、本件発明1は、「蒸着マスクを製造するために用いられる・・・金属板の製造方法」において、「ニッケルを含む鉄合金を有する母材を圧延して前記金属板を作製する工程」、「鉄及びニッケルを含む原材料を溶解することによって母材を準備する準備工程」及び「前記サンプルの体積1mm3あたりに含まれる1μm以上の円相当径を有する粒子の個数及び円相当径を検査する検査工程」を備えることが特定された。 そして、金属板を得る主要な工程である圧延工程で使用される母材について、「鉄及びニッケルを含む原材料を溶解することによって母材を準備する準備工程」が特定されると共に、前記圧延工程後の「前記サンプルの体積1mm3あたりに含まれる1μm以上の円相当径を有する粒子の個数及び円相当径を検査する検査工程」までが特定されることにより、本件発明1は、蒸着マスクを製造するために用いられる金属板の製造方法を構成する諸工程についても明確に把握することができる。 そうすると、本件発明1及び本件発明1を引用する本件発明2~12は、明確であるということができるから、取消理由1には理由がない。 2 取消理由2(特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反))について 取消理由2は、要するに、本件発明の課題を解決するには、金属板の製造方法の主要な工程(一連の工程)に加え、金属板からのサンプルの体積1mm3あたりに含まれる1μm以上の円相当径を有する粒子の個数及び円相当径を検査する検査工程及び訂正前の請求項1に係る発明の条件(1)及び(2)等が満たされている金属板を良品と判定する判定工程を含む金属板の製造方法である必要があると理解されるところ、訂正前の請求項1に係る発明には、上記の検査工程及び判定工程はもちろんのこと、金属板の製造方法の主要な工程(一連の工程)を含む製造方法に関する特定はないから、訂正前の請求項1に係る発明及び訂正前の請求項1に係る発明を引用する訂正前の請求項2~12に係る発明は、サポート要件を満たしていないというものである。 これに対し、本件訂正により、本件発明1は、「蒸着マスクを製造するために用いられる・・・金属板の製造方法」において、「鉄及びニッケルを含む原材料を溶解することによって母材を準備する準備工程」と、圧延工程後の「前記サンプルの体積1mm3あたりに含まれる1μm以上の円相当径を有する粒子の個数及び円相当径を検査する検査工程」を備えることが特定されることにより、本件発明1では、発明の課題を解決するための前提となる、金属板の製造方法の主要な工程(一連の工程)を含む製造方法が特定されると共に、発明の課題を解決するのに必要な、条件(1)及び(2)等を満たしている金属板であるか否かを判定する工程の前提となる、サンプルの体積1mm3あたりに含まれる1μm以上の円相当径を有する粒子の個数及び円相当径を検査する検査工程が特定された。そして、本件発明1には、条件(1)、(2)等が満たされている金属板を良品と判定する判定工程は、直接には特定されていないものの、本件発明1は、条件(1)、(2)等が満たされている金属板の製造方法として特定されているのであるから、上記検査工程後、当然、条件(1)及び(2)等が満たされている金属板であるか否かを判定しているといえる。 そうすると、本件発明1は、本件発明の課題を解決するのに必要な工程が特定され、本件発明の課題を解決できるものであるから、本件発明1及び本件発明1を引用する本件発明2~12は、サポート要件を満たしており、取消理由2には理由がない。 3 申立理由1(特許法第29条第1項第3号及び第2項所定の規定違反(新規性欠如及び進歩性欠如))について (1)甲1~甲4に記載の事項 ア 甲1に記載の事項 (ア)「請求の範囲 [請求項1] 質量%で、C:0.01%以下、Si:0.5%以下、Mn:1.0%以下、Ni:30~50%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる組成を有するメタルマスク用素材であって、 前記メタルマスク用素材1g当たりにおいて、 直径が10.0μmを超える酸化物系非金属介在物が2.0個以下であり、 直径が6.0~10.0μmである酸化物系非金属介在物の個数が20.0個以下であり、 前記素材は板厚0.25mm以下の薄板形状であることを特徴とする、メタルマスク用素材。 [請求項2] 質量%で、C:0.01%以下、Si:0.5%以下、Mn:1.0%以下、Ni:30~50%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる組成を有するメタルマスク用素材の製造方法であって、 真空溶解により、再溶解用の第一消耗電極を製造する消耗電極製造工程と、 前記第一消耗電極を鋳型内で再溶解して第二再溶解用の第二再溶解用消耗電極を製造する第一再溶解工程と、 前記第二再溶解用消耗電極を鋳型内で再溶解して鋼塊とする第二再溶解工程と、を備え、 前記第二再溶解用消耗電極の径D1の、前記第二再溶解で用いる鋳型の内径D2に対する比D1/D2は、0.80~0.95であり、 前記第二再溶解工程後の鋼塊に熱間圧延、冷間圧延を行い、板厚0.25mm以下の薄板状素材を得ることを特徴とする、メタルマスク用素材の製造方法。」 (イ)「[0002] 例えば有機ELディスプレイの作製において、基板へ蒸着しカラーパターニングを生成する為にメタルマスクが用いられる。このようなメタルマスクは、開孔部を作製する方法の一つとして、メタルマスク用素材にエッチング加工を行う方法が知られている。このメタルマスク用素材としては、Fe-Ni合金の薄板などが用いられるが、このFe-Ni合金の薄板に非金属介在物やNi等の偏析が多く存在すると、エッチングの進行が不均一になりエッチング精度が損なわれる原因となる。そのため、非金属介在物の低減はエッチング加工性の向上に有効であることが知られており、種々の提案がなされている。・・・特許文献2には、材料中の介在物やピンホールの問題を改善するために、真空溶解または真空精練したFe-Ni系合金の溶湯を鋳塊とした後、熱間加工後、冷間加工を施して薄板とし、該薄板をエッチングにより隔壁の形状に加工する画像表示装置用金属隔壁の製造方法が開示されている。」 (ウ)「発明が解決しようとする課題 [0004] より高精彩な製品を作製するために、使用するマスクに対し、より高精度なパターン形成が要求される。その要求に応えるために、メタルマスク用素材にも、さらなるエッチング性の向上が求められている。上述した特許文献2に記載の発明は、非金属介在物の微細化に有効な発明であるが、特許文献2の構成を満たす場合でもより高精度のエッチングには不十分な場合があった。本発明の目的は、エッチング加工性を大幅に向上させることが可能なメタルマスク用素材と、上述したメタルマスク用素材を得ることができる製造方法に関する。」 (エ)「発明の効果 [0007] 本発明によれば、高精度なエッチング加工が可能なメタルマスク用素材を得ることができる。また、メタルマスク用素材中の酸化物系非金属介在物を飛躍的に微細化でき、介在物個数も大幅に減らすことができる。」 (オ)「[0010] 本発明のメタルマスク用素材は、メタルマスク用素材1g当たりにおいて、直径が6.0~10.0μmである酸化物系非金属介在物の個数が20.0個以下であることも特徴の一つである。好ましい酸化物系非金属介在物の個数は15.0個以下であり、より好ましくは10.0個以下である。このように従来のメタルマスク用素材と比較して飛躍的に酸化物系非金属介在物の個数を減らすことで、エッチング加工の不均一な進行を大きく抑制し、高精度なエッチング加工が可能となる。1g当たりにおける直径が6.0~10.0μmである酸化物系非金属介在物の個数が20.0個を超える場合、エッチングの不均一な進行や、エッチング時の介在物脱落による寸法誤差が発生する可能性が高まる。上述したサイズや個数を確認するためには、例えば、作製した素材から1gの試料を採取し、混酸溶液等で溶解後、フィルターでろ過し、フィルター上のろ液が通過した部分における酸化物からなる残渣を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察することにより、測定できる。走査型電子顕微鏡観察像における各酸化物系非金属介在物の外形から円相当径を算出し、かかる円相当径を本発明における「直径」とする。円相当径とは、観察された酸化物系非金属介在物の面積と等しい円面積を持つ円の直径(面積円相当径)のことを示す。・・・なお、本発明において直径が6.0μm未満のものについて、個数の規定は無い。これは6.0μm未満のサイズの介在物は微細なため、エッチング加工性に大きな影響を与え難いためである。 [0011] 本発明における酸化物系非金属介在物は、Al-Mg-O系(MgO・Al2O3系)のスピネル系が主体であることが好ましい。このスピネル系はアルミナ系(Al2O3)等の酸化物系非金属介在物と比較して軟質であるため、圧延工程等により素材に塑性変形を加えることで、破砕・分断による微細化を促進させることが可能と考えられるためである。具体的には、酸化物系非金属介在物のうち、個数比率でスピネル系が50%以上であることが好ましい。」 (カ)「[0014] (第二再溶解工程) 本発明では、第一再溶解工程によって得られた第二再溶解用消耗電極(以降、単に第二消耗電極とも記載する)を鋳型内で再溶解して、鋼塊を得る。さらに、第二再溶解工程時において、第二消耗電極径D1(第二再溶解用消耗電極の直径)の鋳型内径D2(第二再溶解工程で鋼塊が鋳造される鋳型の内径)に対する比D1/D2を、0.80~0.95に調整することが、本発明の特徴である。この第二再溶解工程により、第二消耗電極に残存しているサイズが大きい酸化物系非金属介在物を除去し、引け巣や気孔の発生を抑えることで、偏析をより低減させ、非金属介在物の個数も大幅に減少させることが出来る。また、D1/D2を上述した範囲に調整することで、鋼塊へのアーク放電による加熱が均一に行われる。そのため溶鋼プールの外周側から形成される凝固殻の成長を抑制し、凝固殻に介在物が凝集して粗大な介在物となることを抑制することができる。好ましいD1/D2の下限は、0.85である。D1/D2が0.80未満の場合、アーク放電による鋼塊の加熱が不均一となることにより、鋼塊内の介在物が上述した凝固殻にとらわれて凝集・粗大化し、鋼塊中に残存されやすくなる。また、D1/D2が0.95を超える場合、第二消耗電極と鋳型壁との間隔が狭くなりすぎることにより、第二消耗電極と鋳型壁との間にアーク放電が発生し、鋳型が損傷する原因となる。この第二再溶解工程にも、真空アーク再溶解(VAR)またはエレクトロスラグ再溶解(ESR)を適用することができるが、より消耗電極中の酸素量を低減させ、粗大な酸化物系非金属介在物除去と偏析抑制効果が期待できるVARを適用することが好ましい。なおD1およびD2の測定箇所は、円柱形状であればどの部位で測定してもよく、テーパ円柱形状(上面の半径と底面の半径が異なる形状)の場合、上面の半径と底面の半径との平均値を用いることができる。」 (キ)「[0016] 本発明は、第二再溶解工程において得られた鋼塊に、熱間圧延工程および冷間圧延工程を適用し、板厚0.25mm以下の薄板とすることができる。好ましい板厚は0.15mm以下、より好ましい板厚は0.1mm以下、さらに好ましい板厚は0.05mm以下である。上述した圧延工程によって、鋼塊内の非金属介在物が分断・破砕されることで、非金属介在物の微細化をより進行させることが可能と考えられる。必要に応じて、冷間圧延前の段階で900~1300℃程度で均質化熱処理を行ってもよく、冷間圧延工程中には、冷間圧延材の硬さを低減するために800~1050℃の焼鈍を1回以上行うことができる。このときの焼鈍時間は、30~150秒の範囲で選択することができる。上記冷間圧延工程では、表面のスケールを除去する研磨工程や、素材端部のオフゲージ部(板厚が厚い部分)の除去および圧延加工で発生する耳波部を除去するための耳切り工程を行ってもよい。」 イ 甲2に記載の事項 (ア)「【請求項1】 加熱、粗圧延、ホットスカーフィングおよび仕上圧延の工程を経て、鋼塊から0.35~0.50質量%のCを含有する直径120~180mmの断面丸形状の構造用鋼材を製造する方法であって、鋼塊を1100~1150℃の加熱温度で加熱し、次いで加熱温度を850~900℃に一旦下げ、再度加熱温度を950~1020℃に昇温し、その温度で鋼塊を保持した後にその鋼塊を加熱炉より抽出して粗圧延し、900~950℃の表面温度にて予め点火したホットスカーファーで表面を溶削し、続いて圧延終了温度を750~850℃とする仕上圧延を行うことを特徴とする構造用鋼材の製造方法。」 (イ)「【0015】 (a) 前掲の特許文献1にも記載されているように、表面品質のよい鋼材を得るには仕上圧延の前にホットスカーフィングによって鋼片表面を溶削しておく必要がある。特許文献1では、この溶削のためには鋼片表面温度が950℃以上でなければならない、としている。しかし、本発明者は、予熱炎発生機構を有するホットスカーファーを用い、これに予め点火しておき、その予熱炎で鋼片を加熱したのちにスカーフィングを行えば、ホットスカーフィング前の鋼片の表面温度を950℃以下(具体的には950~900℃)と低くしても、安定した溶削が可能であることを知った。」 ウ 甲3に記載の事項 (ア)「【請求項1】 ホットスカーフィング工程を備えた鋼塊または連続鋳造された鋼素材の分塊圧延における疵防止方法であって、前記ホットスカーフィング工程前の圧延最終パス入側の圧延材の両側面にそれぞれバルジ部が形成され、このバルジ部の曲率半径Rと前記最終パス入側の圧延材の側面からバルジ部の最大突出位置までの幅方向の距離Wとの比R/Wが0.5以上であることを特徴とする分塊圧延における疵防止方法。」 (イ)「【0003】 一方、本発明者が独自に調査したところによれば、分塊圧延鋼片に発生する表面疵の最も大きな原因は、分塊圧延の中間工程で、圧延材表面の脱炭層や酸化スケールを除去するためにガスによる溶削(ホットスカーフィング)を行なう際に、圧延材形状が不安定であると圧延材表面が一様に溶削されずに、ホットスカーフィング後の圧延で表面疵が発生したり、ホットスカーフィングのノロ(溶削カス)が圧延材表面に残存し、このノロが圧延により押さえ込まれて表面疵が発生することがわかった。」 エ 甲4に記載の事項 (ア)「【請求項1】 Fe-Ni合金の熱間仕上材の表面研削工程において、該合金材を円筒形研削工具によって研削するに際し、該研削工具の軸心に対する回転中心の偏心量を1.0mm以下として回転させると共に、研削部に供給する潤滑液の供給量を幅1cm当たり1.0リットル/分以上とし、かつ最終研削スタンドの砥粒番手を#100以上として研削することを特徴とする表面性状に優れたFe-Ni合金材の製造方法。」 (イ)「【0024】また本発明においては、研削工程後に酸洗処理を行ってもよく、この処理により研削目が平滑になり、表面光沢が向上する。酸洗には、硫酸、硝弗酸或いは硝酸溶液を用いることができ、Fe?Ni合金板材の表面を溶削する。研削設備と酸洗設備は連続ラインが好ましい。酸洗処理されたFe?Ni合金板材は表面洗浄を行った後に、圧下率70%以上で冷間圧延され、製品となる。」 (2)甲1に記載された発明 上記(1)ア(ア)の[請求項1]の記載によれば、甲1には、以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。 「質量%で、C:0.01%以下、Si:0.5%以下、Mn:1.0%以下、Ni:30~50%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる組成を有するメタルマスク用素材であって、 前記メタルマスク用素材1g当たりにおいて、 直径が10.0μmを超える酸化物系非金属介在物が2.0個以下であり、 直径が6.0~10.0μmである酸化物系非金属介在物の個数が20.0個以下であり、 前記素材は板厚0.25mm以下の薄板形状であることを特徴とする、メタルマスク用素材。」 (3)本件発明13について 事案に鑑み、まず本件発明13について検討をする。なお、本件発明13に対する特許異議申立の理由は、新規性欠如及び進歩性欠如の内、新規性欠如のみであるが、ここでは進歩性欠如についても判断することとする。 ア 対比 上記(1)ア(イ)の「例えば有機ELディスプレイの作製において、基板へ蒸着しカラーパターニングを生成する為にメタルマスクが用いられる。」との記載によれば、甲1発明の「メタルマスク」は、蒸着の際のカラーパターニングのマスクとして用いられるものであるから、本件発明13の「蒸着マスク」に相当する。また、甲1発明の「質量%で、C:0.01%以下、Si:0.5%以下、Mn:1.0%以下、Ni:30~50%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる組成を有するメタルマスク用素材」は、鉄及びニッケルを備える金属板であり、金属板であれば、第1面及び前記第1面の反対側に位置する第2面を含むし、「メタルマスク用素材」とは、メタルマスクを製造するために用いられるものであるから、本件発明13の「蒸着マスクを製造するために用いられる、第1面及び前記第1面の反対側に位置する第2面を含み、鉄及びニッケルを備える金属板」に相当する。 さらに、甲1発明の「酸化物系非金属介在物」に関する甲1の上記(1)ア(オ)[0011]の「本発明における酸化物系非金属介在物は、Al-Mg-O系(MgO・Al2O3系)のスピネル系が主体であることが好ましい。」との記載並びに本件発明1の「鉄及びニッケル以外の元素を主成分として含む粒子」に関する本件明細書の【0071】の「蒸着マスク20の製造で用いられる、鉄及びニッケルを含む鉄合金製の金属板64に複数の粒子が存在することを見出した。金属板64の中の粒子は、例えば、金属板64の母材を作製する溶解工程の際に不純物除去のために添加されるアルミニウム、シリコンなどの添加物に起因して生じる。粒子は、鉄及びニッケル以外の元素を主成分として含む。このような粒子は、介在物と称されることもある。」との記載及び同【0074】の「粒子64dは、鉄及びニッケル以外の元素を主成分として含む。例えば、粒子64dは、アルミニウム、マグネシウム、シリコン、燐、硫黄、クロム又はジルコニウム若しくはそれらの元素を含む化合物を有する。化合物は、例えば、酸化物、硫化物、炭化物、窒化物、金属間化合物などである。粒子64dの形状は任意であるが、例えば粒状である。」との記載によれば、甲1発明の「酸化物系非金属介在物」は、本件発明13発明の「鉄及びニッケル以外の元素を主成分として含む粒子」に相当するといえる。 そうすると、本件発明13と甲1発明は、「蒸着マスクを製造するために用いられる、第1面及び前記第1面の反対側に位置する第2面を含み、鉄及びニッケルを備える金属板であって、鉄及びニッケル以外の元素を主成分として含む粒子を備える金属板。」の点で一致し、以下の点で相違しているものと認められる。 <相違点> 本件発明13は、「金属板の第1面及び第2面を含むサンプルにおいて、前記サンプルの体積1mm3あたりに含まれる前記粒子に関する以下の条件(1)、(2)が満たされており、 (1)1μm以上の円相当径を有する前記粒子の数が50個以上3000個以下である; (2)3μm以上の円相当径を有する前記粒子の数が50個以下である; 前記金属板の第1比率が70%以上であり、 前記第1比率は、1μm以上の円相当径を有する前記粒子の合計数量に対する、第1数量の比率であり、 前記合計数量は、前記サンプルの体積1mm3あたりに含まれる、1μm以上の円相当径を有する前記粒子の数量であり、 前記第1数量は、前記サンプルの体積1mm3あたりに含まれる、1μm以上3μm未満の円相当径を有する前記粒子の数量である」のに対し、甲1発明では、「メタルマスク用素材1g当たりにおいて、直径が10.0μmを超える酸化物系非金属介在物が2.0個以下であり、直径が6.0~10.0μmである酸化物系非金属介在物の個数が20.0個以下であ」るものの、本件発明13の条件を満たすのか否か明らかでない点。 イ 判断 上記相違点について、検討する。 (ア)甲1の上記(1)ア(オ)[0010]の「走査型電子顕微鏡観察像における各酸化物系非金属介在物の外形から円相当径を算出し、かかる円相当径を本発明における「直径」とする。円相当径とは、観察された酸化物系非金属介在物の面積と等しい円面積を持つ円の直径(面積円相当径)のことを示す。」との記載によれば、甲1発明の「酸化物系非金属介在物」の「直径」とは、本件発明13の「円相当径」に相当するものであるところ、甲1には、サンプルの体積1mm3あたりに含まれる粒子に関する上記相違点に係る本件発明13の構成、すなわち、条件(1)の1μm以上の円相当径を有する粒子の数が50個以上3000個以下であること、条件(2)の3μm以上の円相当径を有する粒子の数が50個以下であること、さらには、第1の比率(1μm以上の円相当径を有する粒子の数量に対する、1μm以上3μm未満の円相当径を有する粒子の数量)が70%以上であることについては記載されていない。特に、本件発明13においては、上記条件(1)と上記第1比率により、ひいては、サンプルの体積1mm3あたりに含まれる、1μm以上3μm未満の円相当径を有する粒子の数量の範囲が特定されることとなるのに対し、甲1発明は、直径が10.0μmを超える酸化物系非金属介在物の個数の範囲、及び、直径が6.0~10.0μmである酸化物系非金属介在物の個数の範囲を特定するものであって、円相当径が、6.0μm未満の粒子に関する個数の範囲を特定するものではないから、上記相違点は、実質的な相違点である。 (イ)異議申立人は、異議申立書の16頁14行~17頁8行において、上記相違点について、次のように主張する。 「甲第1号証に係るメタルマスク用素材は、本件特許発明13と出発物質が同一、かつ本件特許の発明の詳細な説明に記載の製造方法と実質的に同じ工程を用いて製造される。すなわち、本件特許の発明の詳細な説明では、本件特許発明13の金属板の製造方法に関して、段落【0166】以降には、「第1溶解工程」を少なくとも有する母材を準備する準備工程(段落【0167】、【0168】)、母材表面処理工程(段落【0172】)、圧延工程(段落【0189】、【0190】)が記載されている。ここで、準備工程の「第1溶解工程」は、甲第1号証の「真空溶解」、「第一再溶解工程」(段落【0012】、【0013】)と実質的に同じであり、圧延工程は、甲第1号証の「熱間圧延工程」、「冷間圧延工程」と実質的に同じである。甲第1号証には、母材表面処理工程に関する記載はないが、「上記冷間圧延工程では、表面のスケールを除去する研磨工程や、素材端部のオフゲージ部(板厚が厚い部分)の除去および圧延加工で発生する耳波部を除去するための耳切り工程を行ってもよい。」(段落【0016】)と記載されおり、これは、本件特許発明1の金属板の製造方法の「金属板表面処理工程」(段落【0194】)に相当する。 以上から、甲第1号証に記載の製造方法で製造されたメタルマスク用素材(請求項1)は、さらに、本件特許発明13の『(1)1μm以上の円相当径を有する前記粒子の数が50個以上3000個以下である; (2)3μm以上の円相当径を有する前記粒子の数が50個以下である; 前記金属板の第1比率が70%以上』の条件を充足するものが含まれる蓋然性が高いと考えられる。」 そこで、念のため、上記の主張についても検討するに、確かに出発物質が同じで、甲1発明のメタルマスク用素材を製造する工程及びその工程での具体的な各製造条件までが、本件発明13の金属板の製造方法に一致しているのであれば、甲1発明も、本件発明13の金属板と同じメタルマスク用素材であると考える余地がある。 しかしながら、本件明細書及び本件明細書に記載される各工程に対応する甲1の記載を見ても、各工程における製造条件で一致しているとすることはできないし、甲1の金属表面のスケールを除去する研磨工程と、本件明細書に記載される、溶解工程により表面又はその周囲まで移動した粒子を(【0171】)、例えばインゴットの表面を厚み5mm以上で除去する(【0175】)表面処理工程は、除去する厚み等の点で異なる工程であることは明らかである。さらに、本件明細書に記載される工程は、本件訂正により本件発明1に付加された検査工程及びこれに続く判定工程を備えるものであるが、甲1に記載される製造方法には、これらの工程は存在していない。 そうすると、本件明細書に記載される本件発明13に係る金属板の製造方法と、甲1に記載される甲1発明に係るメタルマスク用素材の製造方法が同じであるということはできないから、甲1発明の「メタルマスク用素材」が、本件発明13の「金属板」と同じ物であるということはできないため、上記主張を採用して、上記相違点を実質的な相違点ではないとすることはできない。 (ウ)さらに、本件発明13を、当業者が甲1発明及び甲2~4に記載の事項に基づいて容易に発明をすることができたか否かについても、検討する。 上記(ア)のとおり、本件発明13においては、上記条件(1)と上記第1比率により、ひいては、サンプルの体積1mm3あたりに含まれる、1μm以上3μm未満の円相当径を有する粒子の数量の範囲が特定されることとなるが、甲1発明は、甲1の上記(1)ア(オ)[0010]の「本発明において直径が6.0μm未満のものについて、個数の規定は無い。これは6.0μm未満のサイズの介在物は微細なため、エッチング加工性に大きな影響を与え難いためである。」との記載からみてこの点について何ら着目するものではないことは明らかであるから、甲1の記載に、メタルマスク用素材において、サンプルの体積1mm3あたりに含まれる、1μm以上3μm未満の円相当径を有する粒子の数量を特定の範囲とする動機付けの論拠を認めることはできない。そして、上記甲2~甲4の上記(1)イ~エの記載を見ても、上記相違点に関する記載はないから、上記相違点に係る本件発明13の構成は、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえない。 ウ 小括 以上のとおり、上記相違点は、実質的な相違点であるから、本件発明13は、甲1に記載された発明ではないし、上記相違点に係る本件発明13の構成は、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえないから、本件発明13は、甲1発明及び甲2~甲4に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (4)本件発明18、19について 本件発明18、19は、少なくとも本件発明13を引用するものであり、その発明特定事項に少なくとも本件発明13の「金属板」に係る事項を含むため、本件発明13が、甲1発明及び甲2~甲4に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、本件発明18、19も、甲1発明及び甲2~甲4に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (5)本件発明1、2について 本件発明1、2は、「金属板の製造方法」に係る発明であるが、その発明特定事項に、製造される金属板として、上記(3)イに記載の相違点に係る本件発明13の「金属板」の構成を含んでいる。 そうすると、本件発明13が、甲1に記載された発明であるとも、甲1発明及び甲2~甲4に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、本件発明1、2も、甲1に記載された発明であるとも、甲1に記載された発明及び甲2~甲4に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。さらには、本件発明1、2は、甲1~甲4に記載も示唆もされていない「サンプルの体積1mm3あたりに含まれる1μm以上の円相当径を有する粒子の個数及び円相当径を検査する検査工程」を備えており、この点でも、本件発明1、2は、甲1に記載された発明であるとも、甲1に記載された発明及び甲2~甲4に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (6)本件発明3~5、11、12について 本件発明3~5、11、12は、少なくとも本件発明1を引用するものであり、その発明特定事項に少なくとも本件発明1の「金属板」に係る事項及び「サンプルの体積1mm3あたりに含まれる1μm以上の円相当径を有する粒子の個数及び円相当径を検査する検査工程」を含むため、本件発明1が、甲1に記載された発明及び甲2~甲4に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、本件発明3~5、11、12も、甲1に記載された発明及び甲2~甲4に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (5)申立理由1に関するまとめ 以上のとおり、本件特許1~5、11~13、18、19は、特許法第29条第1項第3号又は同法同条第2項の規定に違反してされたものではない。 したがって、申立理由1には、理由がない。 4 申立理由2(特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反))について 上記2で述べたように、本件発明1及び本件発明1を引用する本件発明2~12は、本件発明の課題を解決するのに必要な工程が特定されているものであり、本件発明の課題を解決できるものであるから、サポート要件を満たしている。 そうすると、申立理由2については、理由がない。 念のため、異議申立書に記載される申立理由2についても検討する。 前述の申立理由2は、要するに、以下のとおりのものである。 (i)訂正前の請求項1、2、7~10に係る発明では、圧延条件(圧下率等)や、表面処理工程における除去される表面部分の厚みが特定されておらず、また、本件明細書に、圧延条件や、除去される表面部分の厚みをどのように変えることで、条件(1)、(2)及び第1比率70%以上等を満たすことができるのか記載がなされておらず、圧延条件や、除去される表面部分の厚みによっては、条件(1)、(2)及び第1比率70%以上等を満たさない場合があるといえるから、訂正前の請求項1、2、7~10に係る発明は、サポート要件を満たしていない。 (ii)本件発明13では、サンプルの採取位置が特定されていないが、金属板内で粒子密度がばらつくことが明白であり、任意の場所で取得したサンプルについて同じ結果が得られるかは不明であるから、サンプルの採取位置が特定されていない本件発明13は、発明の課題を解決できない場合も含んでおり、サポート要件を満たしていない。 まず、上記(i)についてみると、上記2で述べたように、本件発明1には、特に、圧延工程後の「前記サンプルの体積1mm3あたりに含まれる1μm以上の円相当径を有する粒子の個数及び円相当径を検査する検査工程」までが特定されることにより、条件(1)、(2)等が満たされている金属板を良品と判定する判定工程を行うことができるから、本件発明1、2、7~10において、圧延条件(圧下率等)や、表面処理工程における除去される表面部分の厚みが特定されなければ、発明の課題が解決できないということはない。さらには、本件発明1、2、7~10に係る発明は、条件(1)、(2)及び第1比率70%以上等が満たされている金属板の製造方法として特定されているのであるから、これらの条件が満たされなくなるような製造条件は排除されていると解すべきである。 次に、上記(ii)についてみると、サンプルは、粒子が表面又はその周囲まで移動できる溶解工程(【0171】)、溶解工程の後の移動した粒子を除去するインゴットの表面処理工程(【0172】)を経たものであり、必ずしも金属板内で粒子密度がばらつくことが明白であるとはいえない。仮に、上記溶解工程での粒子の移動が不十分で金属板の厚み方向に粒子の分布が生じたとしても、金属板の平面方向には同じ分布が形成されることが理解できる。そして、この場合、金属板の厚み方向でサンプルを採取する位置が複数箇所あるのであれば、粒子数に多少の分布が生じる可能性があることは理解できるが、本件明細書の記載によれば、厚み20μmの金属板から直径20mmである円形状のサンプル片を形成し(【0240】)、これをすべて溶解し(【0241】)、1mm3あたりの粒子数を求めており、粒子数の分布が生じる可能性のある金属板の厚み方向は、1mm3あたりの粒子数を求める際に全て含まれるのであるから、金属板の平面方向に任意の場所で取得したサンプルについて同じ結果が得られないとはいえない。 そうすると、上記(i)及び(ii)の理由では、本件発明1、2、7~10、13はサポート要件を満たしていないということはできないから、申立理由2には、理由がない。 5 申立理由3(特許法第36条第4項第1号所定の規定違反(実施可能要件違反))について 前述の申立理由3は、要するに、以下のとおりのものである。 (i)本件発明13についてみると、本件明細書の【0237】以降の[実施例]の記載において、本件発明13の条件(1)、(2)を満たし、且つ金属板の第1比率が70%以上である例1~例6、例8~例12、例16、例17において、溶解工程の時間により、インゴット表面部分の粒子の大きさや個数が変動することは明らかであるし、粒子の浮上分離には、時間だけでなく温度(粘度)も重要なファクターであるにもかかわらず、発明の詳細な説明には、少なくとも溶解工程の時間と温度の記載がないので、当業者に条件設定において過大な負担を強いることになる。さらに、その後に続く、表面処理工程、圧延工程においても、除去する表面部分の厚みの量、圧延工程での圧延条件(温度、圧下率等)が全く記載されていない。 また、比較例である例13~15と、本件発明13の例(発明例)である例16、17について、【0254】には、「第13巻き体~第17巻き体の製造条件は、概略は同一であるが詳細は異なる。具体的には、第13巻き体~第17巻き体の製造条件は、下記の(A)~(D)の少なくとも1つに関して、互いに異なる。 (A)第1溶解工程における添加剤の量 (B)第1表面処理工程において除去される表面部分の厚み (C)溶解工程の回数 (D)第1溶解工程における雰囲気の圧力」 と記載されているものの、ここで(A)~(D)の具体的な内容および条件は記載されていないから、どのような工程を採用し、どのような条件を設定すれば、発明例、比較例を造り分けすることができるのか、【0254】を参照しても、当業者は理解できず、当業者に過度の試行錯誤を要求する。 (ii)本件発明14~17についてみると、条件(1)、(2)に加えて、本件発明14における条件(3)、本件発明15における条件(4)、本件発明16における条件(5)、及び本件発明17における条件(6)が満たされている金属板をどのように製造するのか、実施例に記載されておらず、当業者に過度の試行錯誤を要求する。 上記(i)、(ii)によれば、発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件特許発明13~17を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでないので、実施可能要件を満たしていない。 そこで検討するに、まず、上記(i)についてみると、本件明細書には、溶解工程における粒子の浮上分離には、粒子が表面又はその周囲まで移動できるような時間に設定されることが記載されている(【0171】)と共に、粒子の浮上分離には、溶解した金属の粘度が低い方が、粒子が移動しやすいことも技術常識として明らかである。また、表面処理工程における除去される表面部分の厚みは、例えば、「厚みX1が5mm以上であることにより、金属板64に含まれる粒子64dの個数及び密度を低減できる。範囲X1が大きいほど、粒子64dの個数は減少する。」(【0175】)と記載されると共に、金属板を製造するのに圧延は通常行われる工程である。そうすると、当業者であれば、本件明細書の上記の記載及び技術常識に基づいて、適宜、発明例、比較例を造り分けすることができるといえる。さらには、本件明細書には、上記(A)~(D)の条件のうち(A)について、溶解工程における「添加剤の量を調整することによって、金属板に含まれる粒子の量又は寸法を調整できる。例えば、添加剤の量を減らすことによって、金属板に含まれる粒子の量を低減できる。若しくは、添加剤の量を減らすことによって、金属板に含まれる粒子の円相当径を低減できる。」(【0169】)、(B)について、「厚みX1が5mm以上であることにより、金属板64に含まれる粒子64dの個数及び密度を低減できる。範囲X1が大きいほど、粒子64dの個数は減少する。」(【0175】)、(C)について、「溶解工程及び表面処理工程の回数を調整することによって、金属板に含まれる粒子の量又は寸法を調整できる。例えば、溶解工程及び表面処理工程の回数を増やすことによって、金属板に含まれる粒子の量を低減できる。若しくは、溶解工程及び表面処理工程の回数を増やすことによって、金属板に含まれる粒子の円相当径を低減できる。」(【0183】)、(D)について、「溶解工程における雰囲気の圧力を低くするほど、溶解工程中に上方に向かう粒子64dの移動速度が大きくなる可能性がある。従って、雰囲気の圧力を調整することによって、金属板に含まれる粒子の量又は寸法を調整できる可能性がある。例えば、雰囲気の圧力を低くすることによって、金属板に含まれる粒子の量を低減できる。若しくは、雰囲気の圧力を低くすることによって、金属板に含まれる粒子の円相当径を低減できる。」(【0187】)の記載があり、これらの記載をもとに、当業者であれば、適宜、発明例、比較例を造り分けすることができるといえる。 次に、上記(ii)についてみると、上記(i)で述べたように、本件明細書の記載によれば、上記(i)の例えば上記(A)~(D)の条件において、金属板に含まれる粒子の量を低減できるか、金属板に含まれる粒子の円相当径を低減できる条件設定の方向性は記載されているから、本件明細書のこれらの記載をもとに、当業者であれば通常の実験的な操作によって、適宜、本件発明14~17における、条件(1)、(2)に加えて、本件発明14における条件(3)、本件発明15における条件(4)、本件発明16における条件(5)、及び本件発明17における条件(6)が満たされている金属板を製造することができるといえる。 そうすると、本件明細書における発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明13~17を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであり、実施可能要件を満たしているから、申立理由3には、理由がない。 6 申立理由4(特許法第36条第6項第2号所定の規定違反(明確性要件違反))について 前述の申立理由4は、要するに、以下のとおりのものである。 (i)訂正前の請求項1に係る発明の「圧延」との用語において、当該技術分野では、「分塊圧延」、「熱間圧延」、「冷間圧延」、「調質圧延」等、種々の圧延が知られているし、また、本件明細書の【0190】には、「例えば圧延工程は、母材60を構成する鉄合金の結晶配列を変化させる温度以上の温度で母材を加工する熱間圧延工程や、鉄合金の結晶配列を変化させる温度以下の温度で母材を加工する冷間圧延工程を含んでいてもよい。」と記載されており、用語「圧延」の意味が、不明確である。 (ii)訂正前の請求項6に係る発明には、「・・・前記金属板を選別する選別工程を備える」と特定されているところ、「選別工程」については、発明の詳細な説明に、「上述の説明においては、粒子64dの個数、寸法、成分などに基づいて金属板64を検査する検査工程を、金属板64の良否を判定するために、すなわち金属板64の選別のために実施する例を示した。すなわち、検査工程が、金属板64の製造方法において金属板64を選別する選別工程として機能する例を示した。」(【0207】)と記載されているだけであり、この記載からは、条件(1)、(2)が満たされている金属板をどのようにして選別するのか、選別工程の具体的な内容が、不明確である。 そこで検討するに、まず、上記(i)についてみると、「圧延」とは、一般的に、対になる2本のローラ間に金属等の板や棒を通して、所定の厚みに成形することを意味しているが、本件発明1における「圧延」もこの意味で明確に理解できる。そして、本件明細書の「圧延」に関する「例えば圧延工程は、母材60を構成する鉄合金の結晶配列を変化させる温度以上の温度で母材を加工する熱間圧延工程や、鉄合金の結晶配列を変化させる温度以下の温度で母材を加工する冷間圧延工程を含んでいてもよい。」(【0190】)の記載も、何らかの特別な圧延に限られることがないという点で、上記の理解に符合する。 次に、上記(ii)についてみると、検査工程において、少なくとも粒子の個数、寸法が分かるのであるから、この結果をもとに、条件(1)、(2)が満たされている金属板を選別することができることは明らかである。 そうすると、上記(i)及び(ii)の点で、本件発明1及び6が明確でないということはできないから、申立理由4には、理由がない。 第6 むすび 上記第5で検討したとおり、本件特許1~13は、特許法第36条第6項に、本件特許13~17は、同法同条第4項第1号に、それぞれ規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとも、本件特許1~5、11~13、18、19は、同法第29条の規定に違反してされたものであるともいうことはできず、同法第113条第2号又は第4号に該当するものではないから、上記取消理由及び申立理由では、本件特許1~19を取り消すことはできない。 また、他に本件特許1~19を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2021-700506

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    共通の審決分類: 113・C23C、121・C23C、536・C23C、537・C23C

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