特許異議申立
2024-700459
深いHOMO(最高被占分子軌道)発光体デバイス構造
- 審判番号
- 2024-700459
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-189100
- 登録番号
- 7381286
- 請求日
- 2024年05月15日
- 審決日
- 2026年01月22日
- 公報発行日
- 2026年04月24日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】ユニバーサル ディスプレイ コーポレイション
- 【権利者代理人】弁理士法人ITOH
- 【権利者代理人】伊東 忠重
- 【権利者代理人】宮崎 修
- 【異議申立人】竹口 美穂
- 【異議申立人】川上 佳弘
- 審判長/審判官
- 審判長 里村 利光
- 審判官 宮澤 浩
- 審判官 外川 敬之
- 分類
- P1651.113-YAA(H05B) / P1651.121-YAA(H05B) / P1651.536-YAA(H05B) / P1651.537-YAA(H05B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第126条第5項、特許法第126条第6項、特許法第36条、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7381286号発明「深いHOMO(最高被占分子軌道)発光体デバイス構造」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7381286号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-10〕について訂正することを認める。
特許第7381286号の請求項1-6、8-10に係る特許を維持する。
特許第7381286号の請求項7に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7381286号の請求項1~10に係る特許についての出願は、令和元年10月16日(パリ条約による優先権主張2018年(平成30年)10月23日、米国 2019年(令和元年)10月9日、米国)の出願であって、令和5年11月7日にその特許権の設定登録がなされ、同月15日に特許掲載公報が発行された。その特許についての特許異議申立人竹口美穂(以下「申立人1」という。)及び川上佳弘(以下「申立人2」という。)による本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和 6年 5月16日 申立人1及び申立人2による特許異議申立て
令和 6年 8月26日付け取消理由通知書
令和 6年11月29日 特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和 7年 3月31日 申立人1及び申立人2による意見書の提出
令和 7年 5月23日付け取消理由通知書<決定の予告>
令和 7年 8月25日 特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
(この訂正請求書による訂正の請求を以下
「本件訂正請求」という。)
令和 7年11月25日 申立人1及び申立人2による意見書の提出
第2 本件訂正請求
1 訂正の趣旨
本件訂正請求の趣旨は、特許第7381286号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~10について訂正することを求める、というものである。
2 訂正の内容
本件訂正請求により特許権者が求める訂正の内容は、以下のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示す。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「前記リン光ドーパントが下記化合物ではないことを特徴とする有機発光ダイオード(OLED)。
【化1】
[図:0001434103000001.jpg]
【化2】
[図:0001434103000002.jpg]
と記載されているのを、
「前記リン光ドーパントが、下記からなる群から選択される構造を含むことを特徴とする有機発光ダイオード(OLED)。
【化1】
[図:0001434103000003.jpg]
(式中、RA及びRBは、それぞれ独立して、モノから最大許容置換を表す、又は無置換を表し、
RA及びRBは、それぞれ独立して、水素、重水素、ハロゲン、アルキル、シクロアルキル、ヘテロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリールアルキル、アルコキシ、アリールオキシ、アミノ、シリル、アルケニル、シクロアルケニル、ヘテロアルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、アシル、カルボン酸、エーテル、エステル、ニトリル、イソニトリル、スルファニル、スルフィニル、スルホニル、ホスフィノ、及びこれらの組合せからなる群から選択される置換基であり、
RA及びRBの任意の2つの隣接する置換基は、任意に縮合又は結合し、環を形成する又は多座配位子を形成し、
Yは、O又はSである。)
前記リン光ドーパントが下記化合物ではないことを特徴とする有機発光ダイオード(OLED)。
【化2】
[図:0001434103000004.jpg]
【化3】
[図:0001434103000005.jpg]
【化4】
[図:0001434103000006.jpg]
に訂正する。請求項1を引用する請求項2~6、8、9も同様に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項7を削除する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項8に
「L1、L2、及びL3は、それぞれ独立して、下記からなる群から選択され、
【化2】
[図:0001434103000007.jpg]
【化3】
[図:0001434103000008.jpg]
L2及びL3はまた、下記:
【化4】
[図:0001434103000009.jpg]
であることができる請求項6に記載のOLED。
(式中、Y1~Y13は、それぞれ独立して、炭素及び窒素からなる群から選択され、
Y’は、BRe、NRe、PRe、O、S、Se、C=O、S=O、SO2、CReRf、SiReRf、及びGeReRfからなる群から選択され;
Re及びRfは、任意に縮合又は結合して環を形成し、Ra、Rb、Rc、及びRdは、それぞれ独立して、モノ置換から置換の最大可能数を表してもよい、又は無置換を表してもよく、
Ra、Rb、Rc、Rd、ReA、及びRfは、それぞれ独立して、水素、重水素、ハロゲン、アルキル、シクロアルキル、ヘテロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリールアルキル、アルコキシ、アリールオキシ、アミノ、シリル、アルケニル、シクロアルケニル、ヘテロアルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、アシル、カルボン酸、エーテル、エステル、ニトリル、イソニトリル、スルファニル、スルフィニル、スルホニル、ホスフィノ、及びこれらの組合せからなる群から選択され、
Ra、Rb、Rc、及びRdの任意の2つの隣接する置換基は、任意に縮合又は結合し、環を形成する又は多座配位子を形成する。)」
と記載されているのを、
「L1、L2、及びL3は、それぞれ独立して、下記からなる群から選択され、
【化3】
[図:0001434103000010.jpg]
L2及びL3はまた、下記:
【化4】
[図:0001434103000011.jpg]
であることができる請求項1に記載のOLED。
(式中、RA及びRBは、それぞれ独立して、モノから最大許容置換を表す、又は無置換を表し、
RA、RB、Ra、Rb、及びRcは、それぞれ独立して、水素、重水素、ハロゲン、アルキル、シクロアルキル、ヘテロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリールアルキル、アルコキシ、アリールオキシ、アミノ、シリル、アルケニル、シクロアルケニル、ヘテロアルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、アシル、カルボン酸、エーテル、エステル、ニトリル、イソニトリル、スルファニル、スルフィニル、スルホニル、ホスフィノ、及びこれらの組合せからなる群から選択され、
RA、RB、Ra、Rb、及びRcの任意の2つの隣接する置換基は、任意に縮合又は結合し、環を形成する又は多座配位子を形成し、
Yは、O又はSである。)」
に訂正する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項10に
「前記リン光ドーパントが下記化合物ではないことを特徴とする消費者製品。
【化6】
[図:0001434103000012.jpg]
【化7】
[図:0001434103000013.jpg]
と記載されているのを、
「前記リン光ドーパントが、下記からなる群から選択される構造を含み、
【化6】
[図:0001434103000014.jpg]
(式中、RA及びRBは、それぞれ独立して、モノから最大許容置換を表す、又は無置換を表し、
RA及びRBは、それぞれ独立して、水素、重水素、ハロゲン、アルキル、シクロアルキル、ヘテロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリールアルキル、アルコキシ、アリールオキシ、アミノ、シリル、アルケニル、シクロアルケニル、ヘテロアルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、アシル、カルボン酸、エーテル、エステル、ニトリル、イソニトリル、スルファニル、スルフィニル、スルホニル、ホスフィノ、及びこれらの組合せからなる群から選択される置換基であり、
RA及びRBの任意の2つの隣接する置換基は、任意に縮合又は結合し、環を形成する又は多座配位子を形成し、
Yは、O又はSである。)
前記リン光ドーパントが下記化合物ではないことを特徴とする消費者製品。
【化7】
[図:0001434103000015.jpg]
【化8】
[図:0001434103000016.jpg]
【化9】
[図:0001434103000017.jpg]
に訂正する。
(4)一群の請求項であること
本件訂正請求による訂正前の請求項1~9について、請求項2~9は、請求項1の記載を直接的又は間接的に引用しているものであって、訂正請求項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。また、訂正前の請求項10について、請求項1~9の記載を引用するものでなく、請求項10の記載を引用する請求項も存在しない。
したがって、本件訂正請求による訂正は、一群の請求項1~9及び請求項10に対してされたものである。
3 訂正の適否
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的
訂正事項1による訂正は、訂正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明における「リン光ドーパント」の範囲が、「下記化合物ではない」とされていたのを、「下記からなる群から選択される構造を含み」、「前記リン光ドーパントが下記化合物ではない」と変更するものである(訂正前の「下記化合物」、訂正後の「下記からなる群から選択される構造」及び訂正後の「下記化合物」は、前記2(1)に記載したとおりのものであり、以下省略する。)。
訂正後の「下記からなる群から選択される構造」は、その化学構造からみて、訂正前の「下記化合物」を含まないものである。また、訂正後のリン光ドーパントが「下記化合物」ではないとする訂正は、「下記からなる群から選択される構造」を含むとされるリン光ドーパントの範囲をさらに限定するものである。そうすると、訂正事項1による訂正は、「下記化合物ではない」とされていた「リン光ドーパント」の範囲を減縮するものといえる。
したがって、訂正事項1による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。請求項1の記載を引用する請求項2~6、8、9についても同様である。
イ 新規事項の有無
本件特許明細書の段落【0022】の記載に基づけば、本件特許明細書には、「リン光ドーパント」について、訂正後の「下記からなる群から選択される構造」を含み、訂正後の「下記化合物」ではないものとすることが記載されていたといえる。
そうすると、訂正事項1による訂正は、当業者によって、明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである。
したがって、訂正事項1による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合する。請求項1の記載を引用する請求項2~6、8、9についても同様である。
ウ 特許請求の範囲の拡張又は変更の有無
前記アに記載したとおり、訂正事項1による訂正は、特許請求の範囲を減縮するものである。
したがって、訂正事項1による訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。請求項1の記載を引用する請求項2~6、8、9についても同様である。
(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的
訂正事項2による訂正は、訂正前の特許請求の範囲の請求項7を削除するものである。
したがって、訂正事項2による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。
イ 新規事項の有無
前記アに記載したとおり、訂正事項2による訂正は、訂正前の特許請求の範囲の請求項7を削除するものである。そうすると、訂正事項2による訂正が、当業者によって、明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであることは明らかである。
したがって、訂正事項2による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合する。
ウ 特許請求の範囲の拡張又は変更の有無
前記アに記載したとおり、訂正事項2による訂正は、特許請求の範囲を減縮するものである。
したがって、訂正事項2による訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。
(3)訂正事項3について
ア 訂正の目的
訂正事項3による訂正は、訂正前の特許請求の範囲の請求項8に係る発明における「金属配位錯体」の範囲を、訂正前の【化2】及び【化3】からなる群から選択されるものから、訂正後の【化3】からなる群から選択されるものに変更する(訂正前の【化2】、【化3】及び訂正後の【化3】は、前記2(3)に記載したとおりのものであり、以下省略する。)とともに、引用する請求項を、請求項6から請求項1に変更するものである。
訂正後の【化3】からなる群に含まれる化学構造は、訂正前の【化2】及び【化3】からなる群に含まれる化学構造に包含されるとともに、訂正後の請求項1の【化1】からなる群に含まれるものである。そうすると、訂正事項3による訂正後の請求項8に係る発明は、訂正後の請求項1に係る発明を、さらに、訂正前の請求項8に係る発明の発明特定事項で限定した発明に該当する。
そうすると、訂正事項3による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。
イ 新規事項の有無
本件特許明細書の段落【0022】の記載に基づけば、本件特許明細書には、「リン光ドーパント」について、訂正後の【化3】からなる群から選択されるものとすることが記載されていたといえる。
そうすると、訂正事項3による訂正は、当業者によって、明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである。
したがって、訂正事項3による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合する。
ウ 特許請求の範囲の拡張又は変更の有無
前記アに記載したとおり、訂正事項3による訂正は、特許請求の範囲を減縮するものである。
したがって、訂正事項3による訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。
(4)訂正事項4について
ア 訂正の目的
訂正事項4による訂正は、訂正前の特許請求の範囲の請求項10に係る発明における「リン光ドーパント」の範囲が、「下記化合物ではない」とされていたのを、「下記からなる群から選択される構造を含み」、「前記リン光ドーパントが下記化合物ではない」と変更するものである(訂正前の「下記化合物」、訂正後の「下記からなる群から選択される構造」及び訂正後の「下記化合物」は、前記2(4)に記載したとおりのものであり、以下省略する。)。
訂正後の「下記からなる群から選択される構造」は、その化学構造からみて、訂正前の「下記化合物」を含まないものである。また、訂正後のリン光ドーパントが「下記化合物」ではないとする訂正は、「下記からなる群から選択される構造」を含むとされるリン光ドーパントの範囲をさらに限定するものである。そうすると、訂正事項1による訂正は、「下記化合物ではない」とされていた「リン光ドーパント」の範囲を減縮するものといえる。
したがって、訂正事項4による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。
イ 新規事項の有無
本件特許明細書の段落【0022】の記載に基づけば、本件特許明細書には、「リン光ドーパント」について、訂正後の「下記からなる群から選択される構造」を含み、訂正後の「下記化合物」ではないものとすることが記載されていたといえる。
そうすると、訂正事項4による訂正は、当業者によって、明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである。
したがって、訂正事項4による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合する。
ウ 特許請求の範囲の拡張又は変更の有無
前記アに記載したとおり、訂正事項4による訂正は、特許請求の範囲を減縮するものである。
したがって、訂正事項4による訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。
4 まとめ
以上のとおり、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
よって、結論に記載したとおり、特許第381286号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~9、10について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
本件特許の請求項1~6、8~10に係る発明(以下、請求項に付された番号に従い「本件特許発明1」等という。)は、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~6、8~10に記載された事項により特定されるとおりの、以下のものである。
なお、請求項7に係る発明は削除された。
「【請求項1】
アノードと;
カソードと;
前記アノードと前記カソードとの間に配置された発光層と;
前記発光層(emissive)と前記カソードとの間に配置された正孔ブロッキング層と、
を有する有機発光ダイオード(OLED)であって、
前記発光層が、リン光ドーパントを含み、
前記リン光ドーパントが、PMMA(ポリ(メチルメタクリラート))に0.5%ドープした薄膜において室温で600nm以上であるピーク最大波長を有する発光を有し、
前記リン光ドーパントの最高被占分子軌道(HOMO)のエネルギーが、-5.1eV以下であり、
前記正孔ブロッキング層のHOMOのエネルギーが、前記リン光ドーパントのHOMOのエネルギーよりも少なくとも0.1eV低く、
前記リン光ドーパントが、下記からなる群から選択される構造を含むことを特徴とする有機発光ダイオード(OLED)。
【化1】
[図:0001434103000018.jpg]
(式中、RA及びRBは、それぞれ独立して、モノから最大許容置換を表す、又は無置換を表し、
RA及びRBは、それぞれ独立して、水素、重水素、ハロゲン、アルキル、シクロアルキル、ヘテロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリールアルキル、アルコキシ、アリールオキシ、アミノ、シリル、アルケニル、シクロアルケニル、ヘテロアルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、アシル、カルボン酸、エーテル、エステル、ニトリル、イソニトリル、スルファニル、スルフィニル、スルホニル、ホスフィノ、及びこれらの組合せからなる群から選択される置換基であり、
RA及びRBの任意の2つの隣接する置換基は、任意に縮合又は結合し、環を形成する又は多座配位子を形成し、
Yは、O又はSである。)
前記リン光ドーパントが下記化合物ではないことを特徴とする有機発光ダイオード(OLED)。
【化2】
[図:0001434103000019.jpg]
【化3】
[図:0001434103000020.jpg]
【化4】
[図:0001434103000021.jpg]
【請求項2】
前記リン光ドーパントのピーク最大波長が、610nm以上である請求項1に記載のOLED。
【請求項3】
前記リン光ドーパントのHOMOのエネルギーが、-5.2eV以下である請求項1に記載のOLED。
【請求項4】
前記正孔ブロッキング層のHOMOのエネルギーが、前記リン光ドーパントのHOMOのエネルギーよりも少なくとも0.2eV低い請求項1に記載のOLED。
【請求項5】
前記正孔ブロッキング層が、下記式Iの化合物を含む下記からなる群から選択される少なくとも1つである請求項1に記載のOLED。
【化1】
[図:0001434103000022.jpg]
(式中、R1及びR2は、それぞれ独立して、モノから最大許容置換を表す、又は無置換を表し、
R1及びR2は、それぞれ独立して、水素である、又は重水素、ハロゲン、アルキル、シクロアルキル、ヘテロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリールアルキル、アルコキシ、アリールオキシ、アミノ、シリル、アルケニル、シクロアルケニル、ヘテロアルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、アシル、カルボン酸、エーテル、エステル、ニトリル、イソニトリル、スルファニル、スルフィニル、スルホニル、ホスフィノ、及びこれらの組合せからなる群から選択される置換基であり、
Xは、C又はNであり、
Yは、O、S、Se、NAr4、CAr4Ar5、SiAr4Ar5、フルオレン(C-Ar1Ar2)、及びケイ素(Si-Ar1Ar2)からなる群から選択され、Ar1及びAr2は、同じ又は異なるアリール基であり、
Ar1~Ar5は、それぞれ独立して、アリール、ヘテロアリール、及びこれらの組合せからなる群から選択され、
Lは、直接結合又は少なくとも1つの芳香族環を含むリンカーである。)
【請求項6】
前記リン光ドーパントが、金属-炭素結合を有する金属配位錯体であり、
前記金属が、Ir、Os、Pt、Pd、Ag、Au、及びCuからなる群から選択される請求項1に記載のOLED。
【請求項8】
前記金属配位錯体が、M(L1)x(L2)y(L3)zの式を有し、
L1、L2、及びL3は、同じでも異なっていることもでき、
xは、1、2、又は3であり、
yは、0、1、又は2であり、
zは、0、1、又は2であり、
x+y+zは、前記Mの酸化状態であり、
前記Mは、Irであり、
L1、L2、及びL3は、それぞれ独立して、下記からなる群から選択され、
【化3】
[図:0001434103000023.jpg]
L2及びL3はまた、下記:
【化4】
[図:0001434103000024.jpg]
であることができる請求項1に記載のOLED。
(式中、RA及びRBは、それぞれ独立して、モノから最大許容置換を表す、又は無置換を表し、
RA、RB、Ra、Rb、及びRcは、それぞれ独立して、水素、重水素、ハロゲン、アルキル、シクロアルキル、ヘテロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリールアルキル、アルコキシ、アリールオキシ、アミノ、シリル、アルケニル、シクロアルケニル、ヘテロアルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、アシル、カルボン酸、エーテル、エステル、ニトリル、イソニトリル、スルファニル、スルフィニル、スルホニル、ホスフィノ、及びこれらの組合せからなる群から選択され、
RA、RB、Ra、Rb、及びRcの任意の2つの隣接する置換基は、任意に縮合又は結合し、環を形成する又は多座配位子を形成し、
Yは、O又はSである。)
【請求項9】
電子ブロッキング層を含み、
前記電子ブロッキング層が、式IIの化合物を含む請求項1に記載のOLED。
【化5】
[図:0001434103000025.jpg]
(式中、R3、R4、及びR5は、それぞれ独立して、モノから最大許容置換を表す、又は無置換を表し、
R3、R4、及びR5は、それぞれ独立して、水素である、又は重水素、ハロゲン、アルキル、シクロアルキル、ヘテロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリールアルキル、アルコキシ、アリールオキシ、アミノ、シリル、アルケニル、シクロアルケニル、ヘテロアルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、アシル、カルボン酸、エーテル、エステル、ニトリル、イソニトリル、スルファニル、スルフィニル、スルホニル、ホスフィノ、及びこれらの組合せからなる群から選択される置換基であり、
Ar5及びAr6は、それぞれ独立して、アリール、ヘテロアリール、及びこれらの組合せからなる群から選択される。)
【請求項10】
有機発光ダイオード(OLED)を含む消費者製品であって、前記有機発光ダイオード(OLED)が、
アノードと;
カソードと;
前記アノードと前記カソードとの間に配置された発光層と;
前記発光層と前記カソードとの間に配置された正孔ブロッキング層と、
を有し、
前記発光層が、リン光ドーパントを含み、
前記リン光ドーパントが、PMMA(ポリ(メチルメタクリラート))に0.5%ドープした薄膜において室温で600nm以上であるピーク最大波長を有する発光を有し、
前記リン光ドーパントの最高被占分子軌道(HOMO)のエネルギーが、-5.1eV以下であり、
前記正孔ブロッキング層のHOMOのエネルギーが、前記リン光ドーパントのHOMOのエネルギーよりも少なくとも0.1eV低く、
前記リン光ドーパントが、下記からなる群から選択される構造を含み、
【化6】
[図:0001434103000026.jpg]
(式中、RA及びRBは、それぞれ独立して、モノから最大許容置換を表す、又は無置換を表し、
RA及びRBは、それぞれ独立して、水素、重水素、ハロゲン、アルキル、シクロアルキル、ヘテロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリールアルキル、アルコキシ、アリールオキシ、アミノ、シリル、アルケニル、シクロアルケニル、ヘテロアルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、アシル、カルボン酸、エーテル、エステル、ニトリル、イソニトリル、スルファニル、スルフィニル、スルホニル、ホスフィノ、及びこれらの組合せからなる群から選択される置換基であり、
RA及びRBの任意の2つの隣接する置換基は、任意に縮合又は結合し、環を形成する又は多座配位子を形成し、
Yは、O又はSである。)
前記リン光ドーパントが下記化合物ではないことを特徴とする消費者製品。
【化7】
[図:0001434103000027.jpg]
【化8】
[図:0001434103000028.jpg]
【化9】
[図:0001434103000029.jpg]
」
第4 取消理由の概要
本件特許の特許請求の範囲の請求項1~6、8~10に係る発明に対して、令和7年5月23日付けで特許権者に通知した取消しの理由、及び、引用文献は、以下のとおりである。
1 新規性違反
本件特許の請求項1~4、6、8に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回路を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1~4、6、8に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
2 進歩性違反
本件特許の請求項10に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回路を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項10に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
3 記載要件違反
本件特許は、特許請求の範囲の請求項1~6、8~10の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
4 引用文献
甲第28号証:Ya-Li Deng等, Solution-processable iridium phosphors
for efficient red and white organic light-emitting
diodes with low roll-off, Journal of Materials
Chemistry C, 2016年, no.4, p.1250-1256
甲第29号証:Cheng-Hsien Yang等, Color tuning of iridium complexes
for organic light-emitting diodes: The electronegative
effect and π-conjugation effect, Journal of
Organometallic Chemistry, 2016年, vol.691,
p.2767-2773
甲第30号証:Lin-Song Cui等, Design and Synthesis of Pyrimidine-
Based Iridium(III) Complexes with Horizontal
Orientation for Orange and White Phosphorescent,
Applied Materials and Interfaces, 2015年, no.7,
p.11007-11014
第5 当審の判断
1 令和7年5月23日付けで通知した取消理由について
(1)甲第28号証に基づく新規性及び進歩性違反
ア 甲28発明
申立人1により甲第28号証として引用されたYa-Li Deng等, Solution-processable iridium phosphors for efficient red and white organic light-emitting diodes with low roll-off, Journal of Materials Chemistry C, 2016年, no.4, p.1250-1256(以下「甲28」という。)の第1251頁右欄第7~11行、第1252頁左欄第3~16行の記載に基づけば、甲第28号証には、「Solution-processed OLED devices」として、次の発明(以下「甲28発明」という。)が記載されていると認められる。
「ITO/PEDOT:PSS/TCTA:Ir(dmppm)2(dmd)/TPBI/Liq/Alの構成を有する溶液処理有機EL素子であって、
Ir(dmppm)2(dmd)はドープされたリン光体であり、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン):ポリ(スチレンスルホネート)(PEDOT:PSS)が正孔注入層であり、4,4’,4”-トリス(N-カルボゾリル)-トリフェニルアミン(TCTA)は、ホスト材料として機能し、1,3,5-トリス(N-フェニルベンゾイミダゾール-2-イル)ベンゼン(TPBI)は電子輸送層および正孔ブロック層として使用され、8-ヒドロキシキノリノラト-リチウム(Liq)は電子注入層として機能し、
Ir(dmppm)2(dmd)のHOMOエネルギーレベルは、-5.33eVである、
溶液処理有機EL素子。」
イ 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲28発明とを対比すると、少なくとも、本件特許発明1のリン光ドーパントが、下記化合物(以下「本件除外化合物」という。)ではないのに対し、甲28発明は、本件除外化合物である点で相違する。
【化2】
[図:0001434103000030.jpg]
【化3】
[図:0001434103000031.jpg]
【化4】
[図:0001434103000032.jpg]
したがって、本件特許発明1は、甲28発明と同一ではない。
ウ 本件特許発明3、4、6及び8について
本件特許発明3、4、6及び8は、本件特許発明1に更に限定を付加した発明である。そうすると、前記イに記載した理由により、本件特許発明3、4、6及び8も、甲28発明と同一ではない。
エ 本件特許発明10について
本件特許発明10と甲28発明とを対比すると、少なくとも、前記イに記載した点で相違する。また、甲28には、甲28発明のIr(dmppm)2(dmd)について、本件除外化合物ではなく、かつ、下記からなる群から選択される構造(以下「本件構造」という。)を含むものに置き換えることについては記載も示唆もなく、Ir(dmppm)2(dmd)を本件構造を含むものに置き換えることが技術常識であるとする根拠も見出せない。
[図:0001434103000033.jpg]
そうすると、当業者といえども、甲28発明に基づいて、本件特許発明1の要件を満たすものとすることが容易になし得たということはできない。
オ 申立人の主張
申立人1は、令和7年11月21日に提出した意見書の14頁1~21行において、本件特許発明1~4、6、8及び10は、甲28~甲30と甲31により進歩性がないと主張している。
また、申立人2は、令和7年11月21日に提出した意見書の24頁7行~25頁18行において、訂正により甲28号証~甲30号証に対して新規性が担保されたとしても、訂正後の請求項1~4、6、8、10に係る発明は、以前として甲28号証~甲30号証に対して進歩性はないと主張している。
しかし、甲28は、新たな赤色リン光材料Ir(dmppm)2(dmd)を合成し、溶液プロセスによる赤色および白色有機発光ダイオードの製造に成功したことを報告するものである。そうすると、甲28発明のIr(dmppm)2(dmd)を、甲第31号証等の他の文献に記載された、本件構造を含み本件除外化合物ではない赤色リン光材料に置き換えようとする動機付けが存在するとはいえない。したがって、当業者といえども、甲28発明に基づいて、本件特許発明1の要件を満たすものとすることが容易になし得たということはできない。
よって、申立人1及び申立人2の上記主張を採用することはできない。
カ まとめ
以上のとおり、本件特許発明1、3、4、6及び8は、甲28発明と同一ではなく、本件特許発明10は、甲28発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、請求項1、3、4、6、8及び10に係る特許は、特許法29条の規定に違反してされたものであるとはいえない。
(2)甲第29号証に基づく新規性及び進歩性違反
ア 甲29発明
申立人1により甲第29号証として引用されたCheng-Hsien Yang等, Color tuning of iridium complexes for organic light-emitting diodes: The electronegative effect and π-conjugation effect, Journal of Organometallic Chemistry, 2016年, vol.691, p.2767-2773(以下「甲29」という。)の第2770頁右欄第21~33行、第2771頁表1の記載に基づけば、甲第29号証には、イリジウム錯体として「(4-pqz)2Ir(acac))」を用いた「Devices」として、次の発明(以下「甲29発明」という。)が記載されていると認められる。
「予め洗浄されたインジウムスズ酸化物(ITO)ガラス基板上に高真空で熱蒸着によって製造された、ITO/NPB/CBP:6%ドーパント/BCP/AlQ3/LiF/Alの構造を有するデバイスであって、
4,4’-ビス[N-(1-ナフチル)-N-フェニルアミノ]ビフェニル(NPB)が正孔輸送層として機能し、正孔阻止層として2,9-ジメチル-4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリン(BCP)、電子輸送層としてトリス-(8-ヒドロキシキノリン)アルミニウム(III)(AlQ3)、ホスト材料として4,4’-ビス(N-カルバゾイル)ビフェニル(CBP)、ドーパントとしてイリジウム錯体を使用し、
イリジウム錯体としてHOMOエネルギーが-5.38eVである(4-pqz)2Ir(acac)を用い、
以下のエネルギー図を有する、デバイス。
[図:0001434103000034.jpg]
」
イ 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲29発明とを対比すると、リン光ドーパントが、本件特許発明1は、「PMMA(ポリ(メチルメタクリラート))に0.5%ドープした薄膜において室温で600nm以上であるピーク最大波長を有する発光」を有し、本件除外化合物ではないのに対し、甲29発明は、上記測定条件下でのピーク最大波長が明らかでなく、本件除外化合物である点で相違する。
したがって、本件特許発明1は、甲29発明と同一ではない。
ウ 本件特許発明2、3、6及び8について
本件特許発明2、3、6及び8は、本件特許発明1に更に限定を付加した発明である。そうすると、前記イに記載した理由により、本件特許発明2、3、6及び8も、甲29発明と同一ではない。
エ 本件特許発明10について
本件特許発明10と甲29発明とを対比すると、少なくとも、前記イに記載した点で相違する。また、甲29には、甲29発明の(4-pqz)2Ir(acac)について、本件除外化合物ではなく、かつ、本件構造を含むものに置き換えることについては記載も示唆もなく、(4-pqz)2Ir(acac)を本件構造を含むものに置き換えることが技術常識であるとする根拠も見出せない。
オ 申立人の主張
申立人1及び申立人2は、甲29発明についても、前記(1)オと同様の主張をしている。
さらに、申立人1は、令和7年11月21日に提出した意見書の14頁22行~15頁13行において、本件特許発明1~4、6、8及び10は、甲29、甲30に周知技術として新たに提出する甲第32号証~甲第34号証を考慮することにより進歩性がないと主張している。
しかし、甲29は、新規な赤色リン光発光体である(4-pqz)2Ir(acac)、(1-mniq)2Ir(acac)及び(2-mniq)2Ir(acac)を合成し、その特性を報告するものである。そして、(1-mniq)2Ir(acac)及び(2-mniq)2Ir(acac)は、本件構造を含むものではない。そうすると、甲29発明の(4-pqz)2Ir(acac)を、甲第31号証~甲第34号証に記載された、本件構造を含み本件除外化合物ではない赤色リン光材料に置き換えようとする動機付けが存在するとはいえない。したがって、当業者といえども、甲29発明に基づいて、本件特許発明1の要件を満たすものとすることが容易になし得たということはできない。
よって、申立人1及び申立人2の上記主張を採用することはできない。
カ まとめ
以上のとおり、本件特許発明1~3、6及び8は、甲29発明と同一ではなく、本件特許発明10は、甲29発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、請求項1~3、6、8及び10に係る特許は、特許法29条の規定に違反してされたものであるとはいえない。
(3)甲第30号証に基づく新規性及び進歩性違反
ア 甲30発明
申立人1により甲第30号証として引用されたLin-Song Cui等, Design and Synthesis of Pyrimidine-Based Iridium(III) Complexes with Horizontal Orientation for Orange and White Phosphorescent, Applied Materials and Interfaces, 2015年, no.7, p.11007-11014(以下「甲30」という。)の第11008頁の表1、第11010頁の図5、第11010頁右欄第28行~第11011頁左欄第11~16行の記載に基づけば、甲30には、橙色イリジウムリン光体として「Ir(dmppm)2(acac)」を添加した「OLED devices」として、次の発明(以下「甲30発明」という。)が記載されていると認められる。
「発光層に橙色イリジウムリン光体Ir(dmppm)2(acac)を添加したOLEDデバイスであって、
発光ドーパントとしてHOMOエネルギー準位が5.18eVであるIr(dmppm)2(acac)を使用し、アノードとしてインジウムスズ酸化物(ITO)、正孔注入材料として1,4,5,8,9,11-ヘキサアザトリフェニレンヘキサカルボニトリル(HAT-CN)、1,1-ビス[4-[4-[N,N-ジ(p-トリル)アミノ]フェニル]シクロヘキサン(TAPC)を正孔輸送および電子ブロック材料として使用して構築され、HOMOエネルギー準位が6.7eVである1,3,5-トリ[(3-ピリジル)フェニル-3-イル]ベンゼン(TmPyPB)を電子輸送材料および正孔ブロック材料として使用し、8-ヒドロキシキノリノラト-リチウム(Liq)が電子注入材料であり、アルミニウムがデバイスのカソードであり、4,4’,4”-トリス(カルバゾール-9-イル)-トリフェニルアミン(TCTA)を、イリジウム錯体のホストとして使用して得られた、ITO/HAT-CN/TAPC/TCTA:Ir/TmPyPB/Liq/Alという構成を備えるオレンジ色のリン光OLEDデバイス。」
イ 本件特許発明1について
本件特許発明と甲30発明とを対比すると、リン光ドーパントが、本件特許発明1は、「PMMA(ポリ(メチルメタクリラート))に0.5%ドープした薄膜において室温で600nm以上であるピーク最大波長を有する発光」を有し、本件除外化合物ではないのに対し、甲30発明は、「Ir(dmppm)2(acac)」の、上記測定条件下でのピーク最大波長が明らかでなく、本件除外化合物である点で相違する。
したがって、本件特許発明1は、甲30発明と同一ではない。
ウ 本件特許発明4、6及び8について
本件特許発明4、6及び8は、本件特許発明1に更に限定を付加した発明である。そうすると、前記イに記載した理由により、本件特許発明4、6及び8も、甲30発明と同一ではない。
エ 本件特許発明10について
本件特許発明10と甲30発明とを対比すると、少なくとも、前記イに記載した点で相違する。また、甲30には、甲30発明のIr(dmppm)2(acac)について、本件除外化合物ではなく、かつ、本件構造を含むものに置き換えることについては記載も示唆もなく、Ir(dmppm)2(acac)を本件構造を含むものに置き換えることが技術常識であるとする根拠も見出せない。
オ 申立人の主張
申立人1及び申立人2は、甲30発明についても、前記(1)オ及び前記(2)オと同様の主張をしている。
しかし、甲30号証は、2つのIr(III)のリン光性錯体であるIr(ppm)2(acac)とIr(dmppm)2(acac)を合成し、その特性を報告するものである。そうすると、甲30発明のIr(dmppm)2(acac)を甲第31号証~甲第34号証に記載された、本件構造を含み本件除外化合物ではない赤色リン光材料に置き換えようとする動機付けが存在するとはいえない。したがって、当業者といえども、甲30発明に基づいて、本件特許発明1の要件を満たすものとすることが容易になし得たということはできない。
よって、申立人1及び申立人2の上記主張を採用することはできない。
カ まとめ
以上のとおり、本件特許発明1、4、6及び8は、甲30発明と同一ではなく、本件特許発明10は、甲30発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、請求項1、4、6、8及び10に係る特許は、特許法29条の規定に違反してされたものであるとはいえない。
(4)記載要件違反
本件訂正請求により訂正された本件特許発明1及び本件特許発明10の記載には、「Ra、Rb、Rc、及びRdの任意の2つの隣接する置換基は、任意に縮合又は結合し、環を形成する又は多座配位子を形成し、」との記載はなく、リン光ドーパントの構造に係る記載は整合している。
したがって、請求項1~6、8~10に係る特許は、特許法36条6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえない。
2 令和7年5月23日付け取消理由通知で採用していない特許異議申立理由及び取消理由について
(1)申立人1が提示する甲第1号証に基づく新規性及び進歩性違反
ア 甲A発明
申立人1により甲第1号証として引用された、Ran Tao等、High-efficiency near-infrared organic light-emitting devices based on an iridium complex with negligible efficiency roll-off、Journal of Materials Chemistry C, vol.1, p.6446~6454, 2013 (以下「甲A」という。)には、第6451頁右欄の「Electroluminescent properties」欄の第1段落に記載された構造を有し、第6452頁の Fig.6(b)内に図示されたエネルギーレベルダイアグラムを有する「NIR-emitting OLEDs」として、次の発明(以下「甲A発明」という。)が記載されていると認められる。
「ITO/NPB/錯体1:Ga2(saph)2q2/Bphen/Mg:Agの構成で真空熱蒸着により製造したNIR発光OLEDであって、N,N’-ビス(ナフタレン-1-イル)-N,N’-ビス(フェニル)-ベンジジン(NPB)は正孔輸送体であり、Bphenは、4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリンであり、正孔ブロッキングおよび電子輸送材料として使用され、Ga2(saph)2q2(ビス(サリチリデン-o-アミノフェノラト)-ビス(8-キノリノラト)-ビスガリウム(III))はホスト材料であり、錯体1は次の構造を有する化合物であり、エネルギーレベルのダイヤグラムが次のものである、NIR発光OLED。
[図:0001434103000035.jpg]
」
イ 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲A発明とを対比すると、本件特許発明1のリン光ドーパントが、本件構造を含むのに対し、甲A発明は、本件構造を含んでいない点で相違する。
したがって、本件特許発明1は、甲A発明と同一ではない。
また、甲Aには、リン光ドーパントについて、本件構造を含むものに置き換えることについて記載も示唆もなく、甲A発明の錯体1を本件構造を含むものに置き換えることが技術常識であるとする根拠も見出せない。そうすると、当業者といえども、甲A発明に基づいて、本件特許発明1の要件を満たすものとすることが容易になし得たということはできない。
ウ 本件特許発明2~4、6、8について
本件特許発明2~4、6、8は、本件特許発明1に更に限定を付加した発明である。そうすると、前記イに記載した理由により、本件特許発明2~4、6、8は、甲A発明と同一ではなく、また、甲A発明に基づいて、本件特許発明2~4、6、8の要件を満たすものとすることが容易になし得たということはできない。
エ 本件特許発明10について
本件特許発明10と甲A発明とを対比すると、少なくとも、前記イに記載した点で相違する。そうすると、前記イに記載した理由により、甲A発明に基づいて、本件特許発明10の要件を満たすものとすることが容易になし得たということはできない。
オ まとめ
以上のとおり、本件特許発明1~4、6、8、10は、甲A発明と同一ではなく、甲A発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、請求項1~4、6、8、10に係る特許は、特許法29条の規定に違反してされたものであるとはいえない。
(2)申立人1が提示する甲第2号証に基づく新規性及び進歩性違反
ア 甲B発明
申立人1により甲第2号証として引用された特開2005-268199号公報(以下「甲B」という。)には、実施例2-2の素子2として、次の発明(以下「甲B発明」が記載されていると認められる。なお、発明の認定に用いた記載箇所を括弧内に示した。
「ガラス基板1の上にインジウム・スズ酸化物(ITO)透明導電膜2を150nm堆積したものを通常のフォトリソグラフィ技術と塩酸エッチングを用いて2mm幅のストライプにパターニングして陽極を形成し(段落【0367】)、
陽極バッファ層3の材料をスピンコートして薄膜を形成(段落【0372】)し、
蒸着を行って正孔輸送層4を得て(段落【0375】)、
発光層5の主成分(ホスト材料)として下記に示すカルバゾール誘導体(E-1)を、副成分(ドーパント)として混合配位子錯体(D-2)を2元同時蒸着法により成膜を行い(段落【0375】、【0384】)、
さらに、正孔阻止層6として、目的物2(HB-1)を積層し(段落【0377】~【0379】)、
正孔阻止層6の上に、電子輸送層7としてアルミニウムの8-ヒドロキシキノリン錯体(ET-1)を蒸着し(段落【0380】~【0381】)、
陰極8として、先ず、フッ化リチウムを電子輸送層7の上に成膜し、次に、アルミニウム層を形成して陰極8を完成(段落【0382】)させて得られた、有機電界発光素子(素子2)(段落【0383】)であって、
素子2の発光スペクトルの極大波長は626nmである、有機電界発光素子(素子2)。(段落【0385】)
[図:0001434103000036.jpg]
」
イ 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲B発明とを対比すると、本件特許発明1のリン光ドーパントが本件構造を含むのに対し、甲B発明は本件構造を含んでいない点で相違する。
したがって、本件特許発明1は、甲B発明と同一ではない。
また、甲Bには、リン光ドーパントについて、段落【0139】~【0162】に様々な構造が挙げられているものの、本件構造を含むものに置き換えることについて記載も示唆もなく、甲B発明のカルバゾール誘導体(E-1)を本件構造を含むものに置き換えることが技術常識であるとする根拠も見出せない。そうすると、当業者といえども、甲B発明に基づいて、本件特許発明1の要件を満たすものとすることが容易になし得たということはできない。
ウ 本件特許発明2~4、6、8について
本件特許発明2~4、6、8は、本件特許発明1に更に限定を付加した発明である。そうすると、前記イに記載した理由により、本件特許発明2~4、6、8は、甲B発明と同一ではなく、また、甲B発明に基づいて、本件特許発明2~4、6、8の要件を満たすものとすることが容易になし得たということはできない。
エ 本件特許発明10について
本件特許発明10と甲B発明とを対比すると、少なくとも、前記イに記載した点で相違する。そうすると、前記イに記載した理由により、甲B発明に基づいて、本件特許発明10の要件を満たすものとすることが容易になし得たということはできない。
オ 申立人の主張
申立人2は、令和7年3月31日に提出した意見書の47頁21行~49頁19行において、甲B発明の混合配位子錯体D-2の代わりに、Ir(pidrpm)2(acac)を採用することは、当業者であれば容易に想到できる、又は、参考資料1乃至5に記載されているイリジウム錯体を選択することは、当業者が適宜なし得ることであると主張している。
しかし、前記イに記載したとおり、甲Bには、リン光ドーパントについて、本件構造を含むものに置き換えることについて記載も示唆もなく、甲B発明のカルバゾール誘導体(E-1)を本件構造を含むものに置き換えることが技術常識であるとする根拠も見出せない。そうすると、甲Bの段落【0139】~【0162】に挙げられた様々な構造を採用せずに、参考資料1乃至5に記載されているイリジウム錯体を選択する動機が存在するということができない。なお、Ir(pidrpm)2(acac)は、本件構造に含まれるものではない(詳細は、(7)オ(イ)を参照されたい。)。
したがって、申立人2の上記主張は採用できない。
カ まとめ
以上のとおり、本件特許発明1~4、6、8、10は、甲B発明と同一ではなく、甲B発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、請求項1~4、6、8、10に係る特許は、特許法29条の規定に違反してされたものであるとはいえない。
(3)申立人1が提示する甲第6号証に基づく新規性及び進歩性違反
ア 甲C発明
申立人1により甲第6号証として引用された、Yuji Nagai等, Highly efficient, deep-red organic light-emitting devices using energy transfer from exciplexes, Journal of Materials Chemistry C, vol.5, p.527-530, 2017 (以下「甲C」という。)には、第529頁左欄第3行~右欄第4行の「the resultant devices」として、次の発明(以下「甲C発明」という。)が記載されていると認められる。
「電子輸送体として1,4-ジ(1,10-フェナントロリン-2-イル)ベンゼン(DPB)8、電子注入層として8-キノリノラトリチウム(Liq)を用いた、[ITO/トリフェニルアミン含有ポリマー:4-イソプロピル-4-メチルジフェニルヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート(PPBI)/NPD/NPD:DBTアジン誘導体:(DPQ)2Ir(dpm)(50:50:1)(重量比)/DBTアジン誘導体/DPB/20wt%LiqドープDPB/Liq/Al]の構造を有するデバイス。
[図:0001434103000037.jpg]
」
イ 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲C発明とを対比すると、本件特許発明1のリン光ドーパントが本件構造を含むのに対し、甲C発明は本件構造を含んでいない点で相違する。
したがって、本件特許発明1は、甲C発明と同一ではない。
また、甲Cには、リン光ドーパントについて、本件構造を含むものに置き換えることについて記載も示唆もなく、甲C発明の(DPQ)2Ir(dpm)を本件構造を含むものに置き換えることが技術常識であるとする根拠も見出せない。そうすると、当業者といえども、甲C発明に基づいて、本件特許発明1の要件を満たすものとすることが容易になし得たということはできない。
ウ 本件特許発明2~6、8について
本件特許発明2~6、8は、本件特許発明1に更に限定を付加した発明である。そうすると、前記イに記載した理由により、本件特許発明2~6、8は、甲C発明と同一ではなく、また、甲C発明に基づいて、本件特許発明2~6、8の要件を満たすものとすることが容易になし得たということはできない。
エ 本件特許発明10について
本件特許発明10と甲C発明とを対比すると、少なくとも、前記イに記載した点で相違する。そうすると、前記イに記載した理由により、甲C発明に基づいて、本件特許発明10の要件を満たすものとすることが容易になし得たということはできない。
オ まとめ
以上のとおり、本件特許発明1~6、8、10は、甲C発明と同一ではなく、甲C発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、請求項1~6、8、10に係る特許は、特許法29条の規定に違反してされたものであるとはいえない。
(4)申立人1が提示する甲第8号証に基づく新規性及び進歩性違反
ア 甲D1発明及び甲D2発明
申立人1により甲第8号証として引用された、Chihaya Adachi等、High-efficiency red electrophosphorescence devices, APPLIED PHYSICS LETTERS, vol.78, p.1622-1624, 2001 (以下「甲D」という。)には、第1622頁右欄第19~29行に記載された「Device I」において、第1623頁の TABLE 1 に示される「Btp2Ir(acac)」をゲスト化合物として用いた、次の発明(以下「甲D1発明」という。)が記載されていると認められる。
「インジウムスズ酸化物(ITO)アノード、4,4’-ビス[N-(1-ナフチル)-N-フェニルアミノ]ビフェニル正孔輸送層(HTL)、Btp2Ir(acac)がドープされた導電性CBPホストからなる発光層(EML)、2,9-ジメチル-4,7-ジフェニル-フェナントロリン正孔および励起子遮断層、トリス(8-ヒドロキシキノリン)アルミニウム(Alq3)電子輸送層(ETL)、およびMgAg層からなるカソードで構成され、さらに20nmのAgが保護キャップとして積層されている、デバイスI。
[図:0001434103000038.jpg]
」
また、甲Dには、第1622頁右欄第19~29行に記載された「Device I」において、第1623頁の TABLE 1 に示される「PtOEP」をゲスト化合物として用いた、次の発明(以下「甲D2発明」という。)が記載されていると認められる。
「インジウムスズ酸化物(ITO)アノード、4,4’-ビス[N-(1-ナフチル)-N-フェニルアミノ]ビフェニル正孔輸送層(HTL)、PtOEPがドープされた導電性CBPホストからなる発光層(EML)、2,9-ジメチル-4,7-ジフェニル-フェナントロリン正孔および励起子遮断層、トリス(8-ヒドロキシキノリン)アルミニウム(Alq3)電子輸送層(ETL)、およびMgAg層からなるカソードで構成され、さらに20nmのAgが保護キャップとして積層されている、デバイスI。」
イ 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲D1発明又は甲D2発明とを対比すると、本件特許発明1のリン光ドーパントが本件構造を含むのに対し、甲D1発明及び甲D2発明は本件構造を含んでいない点で相違する。
したがって、本件特許発明1は、甲D1発明又は甲D2発明と同一ではない。
また、甲Dには、リン光ドーパントについて、本件構造を含むものに置き換えることについて記載も示唆もなく、甲D1発明のBtp2Ir(acac)及び甲D2発明のPtOEPを本件構造を含むものに置き換えることが技術常識であるとする根拠も見出せない。そうすると、当業者といえども、甲D1発明又は甲D2発明に基づいて、本件特許発明1の要件を満たすものとすることが容易になし得たということはできない。
ウ 本件特許発明2~4、6について
本件特許発明2~4、6は、本件特許発明1に更に限定を付加した発明である。そうすると、前記イに記載した理由により、本件特許発明2~4、6は、甲D1発明又は甲D2発明と同一ではなく、また、甲D1発明又は甲D2発明に基づいて、本件特許発明2~4、6の要件を満たすものとすることが容易になし得たということはできない。
エ 本件特許発明10について
本件特許発明10と甲D1発明又は甲D2発明とを対比すると、少なくとも、前記イに記載した点で相違する。そうすると、前記イに記載した理由により、甲D1発明又は甲D2発明に基づいて、本件特許発明10の要件を満たすものとすることが容易になし得たということはできない。
オ 申立人の主張
申立人2は、令和7年3月31日に提出した意見書の50頁13行~52頁12行において、甲D1発明のBtp2Ir(acac)の代わりにIr(pidrpm)2(acac)を採用することは、当業者であれば容易に想到できる、又は、参考資料1乃至5に記載されているイリジウム錯体を選択することは、当業者が適宜なし得ることであると主張している。
しかし、甲Dは、赤色リン光体として、Btp2Ir(acac)を用いた発光デバイスを実証したことを報告するものである。前記イに記載したとおり、甲Dには、リン光ドーパントについて、本件構造を含むものに置き換えることについて記載も示唆もなく、甲D1発明のBtp2Ir(acac)及び甲D2発明のPtOEPを本件構造を含むものに置き換えることが技術常識であるとする根拠も見出せない。そうすると、参考資料1乃至5に記載されているイリジウム錯体を選択する動機が存在するということができない。なお、Ir(pidrpm)2(acac)は、本件構造に含まれるものではない(詳細は、(7)オ(イ)を参照されたい。)。
カ まとめ
以上のとおり、本件特許発明1~4、6、10は、甲D1発明又は甲D2発明と同一ではなく、甲D1発明又は甲D2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、請求項1~4、6、10に係る特許は、特許法29条の規定に違反してされたものであるとはいえない。
(5)申立人1が提示する甲第12号証に基づく新規性及び進歩性違反
ア 甲E1~甲E4発明
申立人1により甲第12号証として引用された、Fu-Ming Hwang等、Iridium(III) Complexes with Orthometalated Quinoxaline Ligands: Subtle Tuning of Emission to the Saturated Red Color, Inorganic Chemistry, vol. 44, p.1344-1353, 2005 (以下「甲E」という。)には、第1346頁右欄の Device Fabrication 第1行~第1347頁左欄第3行に記載された発光デバイスとして、次の発明(以下「甲E1発明」という。)が記載されていると認められる。
「ITO/ポリ(スチレンスルホン酸)をドープされたポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT:PSS)/ドープされた発光層/TPBI/Mg:Ag/Agの構成を持つ発光デバイスであって、ドープされた発光層が、2-(4-ビフェニリル)-5-(4-tert-ブチルフェニル)-1,3,4-オキサジアゾール(PBD)と錯体1からなるポリ(ビニルカルバゾール)(PVK)のフィルムを、PEDOT:PSS層上にスピンコートし、乾燥させて得られたものであり、2,2’,2”-(1,3,5-ベンゼントリイル)トリス[1-フェニル-1H-ベンイミダゾール](TPBI)層を電子輸送層として使用するとともに正孔を遮断し、カソードであるMg:Ag合金を、共蒸着によってTPBI層上に堆積し、Agの追加の層をカソードの上に保護層として体積して得られた、発光デバイス。
[図:0001434103000039.jpg]
」
また、甲Eには、錯体1の代わりに、以下の錯体2~錯体4を用いた発明(以下「甲E2発明」~「甲E4発明」という。)も記載されている。
[図:0001434103000040.jpg]
イ 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲E1発明乃至甲E4発明とを対比すると、本件特許発明1のリン光ドーパントが本件構造を含むのに対し、甲E1発明乃至甲E4発明は本件構造を含んでいない点で相違する。
したがって、本件特許発明1は、甲E1発明乃至甲E4発明と同一ではない。
また、甲Eには、リン光ドーパントについて、本件構造を含むものに置き換えることについて記載も示唆もなく、甲E1発明乃至甲E4発明の錯体1~錯体4を本件構造を含むものに置き換えることが技術常識であるとする根拠も見出せない。そうすると、当業者といえども、甲E1発明乃至甲E4発明に基づいて、本件特許発明1の要件を満たすものとすることが容易になし得たということはできない。
ウ 本件特許発明2~4、6について
本件特許発明2~4、6は、本件特許発明1に更に限定を付加した発明である。そうすると、前記イに記載した理由により、本件特許発明2~4、6は、甲E1発明乃至甲E4発明と同一ではなく、また、甲E1発明乃至甲E4発明に基づいて、本件特許発明2~4、6の要件を満たすものとすることが容易になし得たということはできない。
エ 本件特許発明10について
本件特許発明10と甲E1発明乃至甲E4発明とを対比すると、少なくとも、前記イに記載した点で相違する。そうすると、前記イに記載した理由により、甲E1発明乃至甲E4発明に基づいて、本件特許発明10の要件を満たすものとすることが容易になし得たということはできない。
オ まとめ
以上のとおり、本件特許発明1~4、6、10は、甲E1発明乃至甲E4発明と同一ではなく、甲E1発明乃至甲E4発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、請求項1~4、6、10に係る特許は、特許法29条の規定に違反してされたものであるとはいえない。
(6)申立人1が提示する甲第15号証に基づく新規性及び進歩性違反
ア 甲15-1発明乃至甲15-3発明
申立人1により甲第15号証として引用された特開2017-2027号公報(以下「甲15」という。)の段落【0123】~【0124】の記載に基づけば、甲15には、デバイス実施例に係る実施例1のデバイスとして、次の発明(以下「甲15-1発明」という。)が記載されていると認められる。
「アノード電極は、1150Åの酸化インジウムスズ(ITO)であり、カソードは、10ÅのLiq(8-ヒドロキシキノリンリチウム)と、1,000ÅのAlとからなり、ITO表面から順に、正孔注入層(HIL)として100ÅのLG101と;正孔輸送層(HTL)として400ÅのHTMと;ホストとして化合物H(安定ドーパント(SD)(18%)、及び発光体(3%)として化合物3676を含む300Åの発光層(EML)と;ブロッキング層として100Åの化合物Hと;ETLとして、350Åの、40%のETMでドープしたLiq(8-ヒドロキシキノリンリチウム)とからなり、デバイス中に用いた材料の化学構造が以下に示すものであり、
[図:0001434103000041.jpg]
デバイス性能データが以下に示すものである、
[図:0001434103000042.jpg]
デバイス。」
また、甲15には、化合物6841の代わりに、化合物6836又は化合物3676を用いた実施例2及び実施例3に係る発明(以下、「甲15-2発明」及び「甲15-3発明」という。)も記載されている。
イ 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲15-1発明乃至甲15-3発明とを対比すると、本件特許発明1のリン光ドーパントが、リン光ドーパントの最高被占分子軌道(HOMO)のエネルギーが、-5.1eV以下であるとともに、本件構造を含むのに対し、甲15-1乃至甲15-3発明は、リン光ドーパントの最高被占分子軌道(HOMO)のエネルギーが明らかでなく、本件構造を含むものでもない点で相違する。
そして、化合物6841、化合物6836及び子化合物3676のHOMOエネルギーが、-5.1eV以下である蓋然性が高いということもできない。申立人1は、本願の段落【0101】に記載の化合物と類似の構造を有しているから、化合物3676、6836、6841が-5.1eVのHOMOを有する蓋然性が高いと主張するが、配位子の骨格を形成する芳香族環及び複素環のいずれも構造が共通していない。これらの骨格の違いがHOMOエネルギーの値に影響を与えないとは考えられないため、そのHOMOエネルギーの値を推定することができない。
[図:0001434103000043.jpg]
したがって、本件特許発明1は、甲15-1発明乃至甲15-3発明と同一ではない。
また、甲15には、化合物6841、化合物6836及び子化合物3676のHOMOエネルギーについて記載がなく、HOMOエネルギーを調整する動機が存在しない。そうすると、当業者といえども、甲15-1発明乃至甲15-3発明において、化合物6841、化合物6836及び子化合物3676を、特定のHOMOエネルギーの範囲のものに変更することが容易になし得たということはできない。
ウ 本件特許発明2~4、6、8について
本件特許発明2~4、6、8は、本件特許発明1に更に限定を付加した発明である。そうすると、前記イに記載した理由により、本件特許発明2~4、6、8は、甲15-1発明乃至甲15-3発明と同一ではなく、また、甲15-1発明乃至甲15-3発明に基づいて、本件特許発明2~4、6、8の要件を満たすものとすることが容易になし得たということはできない。
エ 本件特許発明10について
本件特許発明10と甲15-1発明乃至甲15-3I発明とを対比すると、少なくとも、前記イに記載した点で相違する。そうすると、前記イに記載した理由により、甲I発明に基づいて、本件特許発明10の要件を満たすものとすることが容易になし得たということはできない。
オ 申立人の主張
申立人1は、令和7年3月31日に提出した意見書の5頁9行~7頁6行において、甲15の化合物6841、化合物6836、化合物3676は本件特許明細書の【0101】に記載の5.32~5.34eVの深いHOMOを有する赤色発光体と類似の構造を有しているため、-5.1eV以下のHOMOを有する蓋然性が高いと重ねて主張している。
しかし、前記イに記載したとおりであるから、申立人1の上記主張は採用できない。
カ まとめ
以上のとおり、本件特許発明1~4、6、8、10は、甲15-1発明乃至甲15-3発明と同一ではなく、甲15-1発明乃至甲15-3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、請求項1~4、6、8、10に係る特許は、特許法29条の規定に違反してされたものであるとはいえない。
(7)申立人1が提示する甲第16号証及び申立人2が提示する甲第2号証に基づく新規性及び進歩性違反
ア 甲F1発明~F8発明
申立人1により甲第16号証として引用されるとともに、申立人2により甲第2号証として引用された、特開2017-28283号公報(以下、「甲F」という。)には、実施例1の発光素子1(段落【0532】~【0541】、【0567】、【0568】)として、次の発明(以下「甲F1発明」という。)が記載されていると認められる。
「基板200上に電極101として、ITSO膜を形成し、
次に、電極101上に正孔注入層111として、4,4’,4’’-(ベンゼン-1,3,5-トリイル)トリ(ジベンゾチオフェン)(略称:DBT3P-II)と、酸化モリブデン(MoO3)と、を重量比(DBT3P-II:MoO3)が1:0.5になるように共蒸着し、
次に、正孔注入層111上に正孔輸送層112として、4-フェニル-4’-(9-フェニルフルオレン-9-イル)トリフェニルアミン(略称:BPAFLP)を蒸着し、
次に、正孔輸送層112上に発光層160の層160(1)として、2mDBTBPDBq-IIと、PCBBiFと、Ir(tppr)2(dpm)とを、重量比(2mDBTBPDBq-II:PCBBiF:Ir(tppr)2(dpm))が0.7:0.3:0.05になるように共蒸着し、続いて、層160(2)として、重量比(2mDBTBPDBq-II:PCBBiF:Ir(tppr)2(dpm))が0.8:0.2:0.05になるように、且つ厚さが20nmになるように共蒸着し、発光層160において、2mDBTBPDBq-IIが第1の有機化合物であり、PCBBiFが第2の有機化合物であり、Ir(tppr)2(dpm)がゲスト材料(燐光材料)であり、
次に、発光層160上に、電子輸送層118の層118(1)として、2mDBTBPDBq-IIを、続いて、層118(2)として、バソフェナントロリン(略称:BPhen)を、順次蒸着し、
次に、電子輸送層118上に、電子注入層119として、フッ化リチウム(LiF)を蒸着し、
次に、電子注入層119上に、電極102として、アルミニウム(Al)を形成し、
次に、有機EL用シール材を用いて封止するための基板220を、有機材料を形成した基板200に固定することで得た発光素子1であって、
2mDBTBPDBq-IIのHOMO準位が-6.22eVであり、
Ir(tppr)2(dpm)のHOMO準位が-5.57eVである、発光素子1。
[図:0001434103000044.jpg]
」
また、甲Fには、甲F1発明の層118(2)におけるバソフェナントロリン(略称:BPhen)を「2,9-ビス(ナフタレン-2-イル)-4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリン(略称:NBPhen)」に置き換えた発光素子2(以下「甲F2発明」という。)、甲F1発明の発光層160を、2mDBTBPDBq-IIと、PCBBiFと、ビス[2-(5-エチル-5H-4-ピリミド[5,4-b]インドリル-κN3)フェニル-κC](2,4-ペンタンジオナト-κ2O,O’)イリジウム(III)(略称:Ir(pidrpm)2(acac))とを、重量比(2mDBTBPDBq-II:PCBBiF:Ir(pidrpm)2(acac))が0.8:0.2:0.01になるように、且つ厚さが40nmになるように共蒸着したものに置き換えた発光素子3(以下「甲F3発明」という。)、甲F1発明の発光層160を、2mDBTBPDBq-IIと、PCBBiFと、ビス{4,6-ジメチル-2-[5-(4-シアノ-2,6-ジメチルフェニル)-3-(3,5-ジメチルフェニル)-2-ピラジニル-κN]フェニル-κC}(2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタンジオナト-κ2O,O’)イリジウム(III)(略称:Ir(dmdppr-dmCP)2(dpm))とを、重量比(2mDBTBPDBq-II:PCBBiF:Ir(dmdppr-dmCP)2(dpm))が0.7:0.3:0.05になるように、且つ厚さが20nmになるように共蒸着し、続いて、重量比(2mDBTBPDBq-II:PCBBiF:Ir(dmdppr-dmCP)2(dpm))が0.8:0.2:0.05になるように、且つ厚さが20nmになるように共蒸着したものに置き換えた発光素子4(以下「甲F4発明」という。)、甲F1発明の発光層180における2mDBTBPDBq-IIを2-{3-[3-(6-フェニルジベンゾチオフェン-4-イル)フェニル]フェニル}ジベンゾ[f,h]キノキサリン(略称:2mDBTBPDBq-IV)に置き換えるとともに、電子輸送層の2mDBTBPDBq-IIを2mDBTBPDBq-IVに、BPhenをNBPhenに置き換えた発光素子5(以下「甲F5発明」という。)、甲F1発明の発光層160を、4,6mCzP2Pmと、N-(9,9-ジメチル-9H-フルオレン-2-イル)-9-フェニル-N-(9-フェニル-9H-カルバゾール-3-イル)-9H-カルバゾール-3-アミン(略称:PCzPCFL)と、ビス{4,6-ジメチル-2-[5-(2,6-ジメチルフェニル)-3-(3,5-ジメチルフェニル)-2-ピラジニル-κN]フェニル-κC}(2,8-ジメチル-4,6-ノナンジオナト-κ2O,O’)イリジウム(III)(略称:Ir(dmdppr-dmp)2(divm))とを、重量比(4,6mCzP2Pm:PCzPCFL:Ir(dmdppr-dmp)2(divm))が0.8:0.2:0.05になるように、且つ厚さが40nmになるように共蒸着したものに置き換え、電子輸送層の2mDBTBPDBq-IIを4,6mCzP2Pmに置き換えた発光素子6(以下「甲F6発明」という。)、甲F1発明の発光層160を、4-{3-[3’-(9H-カルバゾール-9-イル)]ビフェニル-3-イル}ベンゾフロ[3,2-d]ピリミジン(略称:4mCzBPBfpm)と、PCBiFと、Ir(dppm)2(acac)とを、重量比(4mCzBPBfpm:PCBiF:Ir(dppm)2(acac))が0.8:0.2:0.05になるように、且つ厚さが40nmになるように共蒸着したものに置き換え、電子輸送層の2mDBTBPDBq-IIを4,6mCzP2Pmに置き換えた発光素子7(以下「甲F7発明」という。)、甲F1発明の発光層を、2mDBTBPDBq-IIと、PCBBiFと、(アセチルアセトナト)ビス(2,3-ジフェニルキノキサリナト)イリジウム(III)(略称:Ir(dpq)2(acac))とを、重量比(2mDBTBPDBq-II:PCBBiF:Ir(dpq)2(acac))が0.8:0.2:0.05になるように、且つ厚さが40nmになるように共蒸着したものに置き換えた発光素子8(以下「甲F8発明」という。)も記載されている。なお、甲F3発明、甲F4発明、甲F6発明~甲F8発明に用いられたゲスト化合物の化学構造を以下に示す。
[図:0001434103000045.jpg]
イ 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲F1発明とを対比すると、少なくとも、リン光ドーパントが、本件特許発明1は、「PMMA(ポリ(メチルメタクリラート))に0.5%ドープした薄膜において室温で600nm以上であるピーク最大波長を有する発光」を有するとともに、本件構造を含むのに対し、甲F1発明は、「Ir(tppr)2(dpm)」の、上記測定条件下でのピーク最大波長が明らかでなく、本件構造を含むものでない点で相違する。なお、甲F2発明~甲F6発明及び甲F8発明を引用発明とした場合においても、同様のことがいえる。
また、本件特許発明1と甲F7発明とを対比すると、少なくとも、リン光ドーパントが、本件特許発明1は、「PMMA(ポリ(メチルメタクリラート))に0.5%ドープした薄膜において室温で600nm以上であるピーク最大波長を有する発光」を有するのに対し、甲F7発明は、「Ir(dppm)2(acac)」の、上記測定条件下でのピーク最大波長が明らかでなく、本件構造を含むものでない点で相違する。そして、甲7の段落【0677】の記載に基づけば、発光素子7の電界発光スペクトルのピーク波長は579nmであり、段落【0696】の記載に基づけば、Ir(dppm)2(acac)の発光スペクトルは、次の図72に示されるとおりのものである。そうすると、Ir(dppm)2(acac)を、PMMA(ポリ(メチルメタクリラート))に0.5%ドープした薄膜において室温で測定される発光のピーク最大波長が、600nm以上である蓋然性が高いということができない。そうすると、上記相違点は、実質的な相違点である。
[図:0001434103000046.jpg]
したがって、本件特許発明1は、甲F1発明~甲F8発明と同一ではない。
また、甲Fには、ゲスト材料122として、段落【0210】~【0214】に記載された化合物を選択することが示唆されているものの、本件構造を含む化合物を選択した場合において、PMMA(ポリ(メチルメタクリラート))に0.5%ドープした薄膜において室温で測定される発光のピーク最大波長が、600nm以上である蓋然性が高いということができない。そうすると、当業者といえども、甲F1発明~甲F8発明に基づいて、本件特許発明1の要件を満たすものとすることが容易になし得たということはできない。
ウ 本件特許発明2~4、6、8について
本件特許発明2~4、6、8は、本件特許発明1に更に限定を付加した発明である。そうすると、前記イに記載した理由により、本件特許発明2~4、6、8は、甲F1発明~甲F8発明と同一ではなく、また、甲F1発明~甲F8発明に基づいて、本件特許発明2~4、6、8の要件を満たすものとすることが容易になし得たということはできない。
エ 本件特許発明10について
本件特許発明10と甲F1発明~甲F8発明とを対比すると、少なくとも、前記イに記載した点で相違する。そうすると、前記イに記載した理由により、甲F1発明~甲F8発明に基づいて、本件特許発明10の要件を満たすものとすることが容易になし得たということはできない。
オ 申立人の主張について
(ア)申立人1は、令和7年3月31日に提出した意見書の7頁行7~10頁3行、及び、令和7年11月21日に提出した意見書の5頁2行~8頁22行において、甲F7発明のIr(dppm)2(acac)に変えて、甲第31号証のピリミジン骨格を有する有機金属イリジウム錯体を用いることが動機付けられると主張している。
しかし、甲F7発明は、甲Fにおいて、実施例として記載された発明である。そして、甲Fの段落【0012】の「したがって、本発明の一態様では、燐光材料を有する発光素子において、発光効率が高い発光素子を提供することを課題の一とする。または、本発明の一態様では、消費電力が低減された発光素子を提供することを課題の一とする。または、本発明の一態様では、信頼性の優れた発光素子を提供することを課題の一とする。または、本発明の一態様では、新規な発光素子を提供することを課題の一とする。または、本発明の一態様では、新規な発光装置を提供することを課題の一とする。または、本発明の一態様では、新規な表示装置を提供することを課題の一とする。」との記載に基づけば、甲F7発明は、「発光効率が高い発光素子を提供すること」等を課題とするものである。また、甲Fの記載を参酌しても、燐光材料の発光波長を特定の範囲とすることについて記載も示唆もされていない。また、燐光材料について本件構造を有し、かつ、発光波長を特定の範囲であるものとすることが、自明であったとする根拠も見出せない。そうすると、甲F7発明の燐光材料を、甲第31号証のピリミジン骨格を有する有機金属イリジウム錯体に変更する動機付けが存在するとはいえない。
したがって、申立人1の上記主張は採用できない。
(イ)申立人2は、令和7年3月31日に提出した意見書の6頁14行~13頁9行、及び、令和7年11月21日に提出した意見書の11頁11行~12頁6行において、甲F3発明のIr(pidrpm)2(acac)は、本件構造を含むものであると主張している。ここで、申立人2は、Ir(pidrpm)2(acac)が、本件構造のうち、上段左から2番目の構造において、RAとして、「アリール」であるフェニル基と、「アミノ」であるエチルアミノ基が結合し環を形成している配位子を有しているとしている。しかし、本件特許発明1~6、8~10は、RAについて「それぞれ独立して、水素、重水素、ハロゲン、アルキル、シクロアルキル、ヘテロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリールアルキル、アルコキシ、アリールオキシ、アミノ、シリル、アルケニル、シクロアルケニル、ヘテロアルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、アシル、カルボン酸、エーテル、エステル、ニトリル、イソニトリル、スルファニル、スルフィニル、スルホニル、ホスフィノ、及びこれらの組合せからなる群から選択される置換基」であると特定しており、置換基の選択肢にアミン(申立人2がエチルアミノ基と称するもの)を含んでいない。また、本件構造のうち、下段左から1番目の構造は、基本構造が一致するものの、「Y」が、O又はSに限定されていることから、Ir(pidrpm)2(acac)が、本件構造に含まれないことは明らかである。
したがって、申立人2の当該主張は採用できない。
(ウ)また、申立人2は、令和7年3月31日に提出した意見書の13頁10行~22頁1行、及び、令和7年11月21日に提出した意見書の15頁8行~17頁13行において、甲F3発明のIr(pidrpm)2(acac)を、ピリミジン骨格を有する有機金属イリジウム錯体としてHOMOエネルギーが-5.1eV以下であるものを選択して置き換えること、正孔ブロッキング層に用いる材料のHOMOエネルギーを、当該有機金属イリジウム錯体のHOMOエネルギーより少なくとも0.1eV低くすること、Ir(pidrpm)2(acac)の代わりに、参考資料1乃至5に記載されているイリジウム錯体を選択することは、単なる設計事項であり、当業者が適宜なし得ることであると主張している。
しかし、前記イに記載したとおり、甲Fには、ゲスト材料122として、段落【0210】~【0214】に記載された化合物を選択することが示唆されているものの、本件構造を含む化合物を選択した場合において、PMMA(ポリ(メチルメタクリラート))に0.5%ドープした薄膜において室温で測定される発光のピーク最大波長が、600nm以上である蓋然性が高いということができない。また、申立人2が言及する甲Iや参考資料1~5の記載を参酌したとしても、甲F3発明のゲスト材料を、PMMA(ポリ(メチルメタクリラート))に0.5%ドープした薄膜において室温で測定される発光のピーク最大波長が、600nm以上であると共に、本件構造に含まれるものを選択することが技術常識であるとする根拠を見出せない。そうすると、仮に本件特許発明1~6、8~10におけるリン光ドーパントの要件を満たす化合物が知られていたとしても、甲F3発明のゲスト材料として、選択する動機付けがあるとはいえない。
したがって、申立人2の当該主張も採用できない。
カ まとめ
以上のとおり、本件特許発明1~4、6、8、10は、甲F1発明乃至甲F8発明と同一ではなく、甲F1発明乃至甲F8発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、請求項1~4、6、8、10に係る特許は、特許法29条の規定に違反してされたものであるとはいえない。
(8)申立人1が提示する甲第17号証に基づく新規性及び進歩性違反
ア 甲G発明
申立人1により甲第17号証として引用された、Satoshi Seo等, Recent development of organic light-emitting diode utilizing energy transfer from exciplex to phosphorescent emitter, Proceedings of SPIT, vol.9941, p.99410J-1~17, 2016 (以下「甲G」という。)には、Figure 11に示された赤色発光ExTXT OLEDとして、次の発明(以下「甲G発明」という。)が記載されていると認められる。
「ガラス基板上に、アノードとしてITSO層、DBT3P-II:MoOx(重量比1:0.5)層、BPAFLP層、発光層としてETM2:HTM13:ドーパント(重量比0.7:0.3:0.05)層、発光層としてETM2:HTM13(重量比0.8:0.2:0.05)層、ETM2層、NBPhen層、LiF層、カソードとしてAl層が、この順に設けられた励起錯体三重項エネルギー移動OLEDデバイスであって、ドーパントとして、赤色ドーパントであるIr(dmdppr-dmp)2(divm)を用いており、以下に示すエネルギーダイアグラムで表される、励起錯体三重項エネルギー移動OLEDデバイス。
[図:0001434103000047.jpg]
」
イ 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲G発明とを対比すると、本件特許発明1のリン光ドーパントが本件構造を含むのに対し、甲G発明は本件構造を含んでいない点で相違する。
したがって、本件特許発明1は、甲G発明と同一ではない。
また、甲Gには、リン光ドーパントについて、緑色、黄色、オレンジ色の各ドーパントを用いることが開示されている。しかし、緑色、黄色、オレンジ色の各ドーパントのピーク最大波長は、それぞれ、544nm、568nm、586nmであるから、赤色ドーパントの代わりにこれらのリン光ドーパントを採用すると、「リン光ドーパントが、PMMA(ポリ(メチルメタクリラート))に0.5%ドープした薄膜において室温で600nm以上である」とする要件を満たさないものとなる。そうすると、当業者といえども、甲G発明に基づいて、本件特許発明1の要件を満たすものとすることが容易になし得たということができない。
ウ 本件特許発明2~4、6、8について
本件特許発明2~4、6、8は、本件特許発明1に更に限定を付加した発明である。そうすると、前記イに記載した理由により、本件特許発明2~4、6、8は、甲G発明と同一ではなく、また、甲G発明に基づいて、本件特許発明2~4、6、8の要件を満たすものとすることが容易になし得たということはできない。
エ 本件特許発明10について
本件特許発明10と甲G発明とを対比すると、少なくとも、前記イに記載した点で相違する。そうすると、前記イに記載した理由により、甲G発明に基づいて、本件特許発明10の要件を満たすものとすることが容易になし得たということはできない。
オ まとめ
以上のとおり、本件特許発明1~4、6、8、10は、甲G発明と同一ではなく、甲G発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、請求項1~4、6、8、10に係る特許は、特許法29条の規定に違反してされたものであるとはいえない。
(9)申立人2が提示する甲第1号証に基づく新規性及び進歩性違反
ア 甲H発明
申立人2により甲第1号証として引用された米国特許出願公開第2015/0295197号明細書(以下「甲H」という。)の段落[0015]、[0021]、[0031]及び[0043]の記載に基づけば、甲Hには、一実施形態に係るデバイスとして、次の発明(以下「甲H発明」という。)が記載されていると認められる。
「アノード、電子ブロッキング層、有機発光層、正孔ブロッキング層、およびカソードが設けられたデバイスであって、これらの層がその順序で配置され、有機発光層は、ホスト化合物、室温でリン光発光が可能でHOMOが5.2eV以下、LUMOが2.5eV以上の第1発光化合物、正孔輸送化合物、および電子輸送化合物を含む第1サブ層を含む、デバイス。」
イ 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲H発明とを対比すると、少なくとも、リン光ドーパントが、本件特許発明1では、「PMMA(ポリ(メチルメタクリラート))に0.5%ドープした薄膜において室温で600nm以上であるピーク最大波長を有する発光」を有するとともに本件構造を含むのに対し、甲H発明では、リン光ドーパントが特定されていない点で相違する。
したがって、本件特許発明1は、甲H発明と同一ではない。
また、甲Hには、リン光ドーパントについて、段落[0021]や、[0087]、[0088]に記載された化合物を選択することが示唆されているものの、本件構造を含むものとすることについては記載も示唆もない。そうすると、当業者といえども、甲H発明に基づいて、本件特許発明1の要件を満たすものとすることが容易になし得たということはできない。
ウ 本件特許発明2~6、8、9について
本件特許発明2~6、8、9は、本件特許発明1に更に限定を付加した発明である。そうすると、前記イに記載した理由により、本件特許発明2~6、8、9は、甲H発明と同一ではなく、また、甲H発明に基づいて、本件特許発明2~6、8、9の要件を満たすものとすることが容易になし得たということはできない。
エ 本件特許発明10について
本件特許発明10と甲H発明とを対比すると、少なくとも、前記イに記載した点で相違する。そうすると、前記イに記載した理由により、甲H発明に基づいて、本件特許発明10の要件を満たすものとすることが容易になし得たということはできない。
オ 申立人の主張
申立人2は、令和7年3月31日に提出した意見書の30頁20行~34頁13行において、甲Hの段落[0087]及び[0088]に記載されている有機金属錯体の代わりにIr(pidrpm)2(acac)を採用することは、当業者であれば容易に想到できる、又は、参考資料1乃至5に記載されているイリジウム錯体を選択することは、当業者が適宜なし得ることであると主張している。
しかし、甲Hには、第1発光化合物について、本件構造を有するものとすることが記載されていない。また、発光化合物について本件構造を有し、かつ、発光波長を特定の範囲であるものとすることが、自明であったとする根拠も見出せない。そうすると、甲H発明の第1発光化合物を、参考資料1乃至5に記載されているイリジウム錯体とする動機付けが存在するとはいえない。なお、Ir(pidrpm)2(acac)は、本件構造に含まれるものではない(前記(7)オ(イ)を参照されたい。)。
カ まとめ
以上のとおり、本件特許発明1~6、8~10は、甲H発明と同一ではなく、甲H発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、請求項1~6、8~10に係る特許は、特許法29条の規定に違反してされたものであるとはいえない。
(10)申立人2が提示する甲第3号証に基づく新規性及び進歩性違反
ア 甲I発明
申立人2により甲第3号証として引用された特開2005-255986号公報(以下「甲I」という。)の段落【0180】、【0182】、【0184】、【0189】、【0192】、【0196】、【0197】、【0221】、【0222】、【0226】及び図1に基づけば、甲Iには、図1に示される構造を有し、発光層の発光性化合物として燐光を示すドーパント材料で形成される有機電界発光素子として、次の発明(以下「甲I発明」という。)が記載されていると認められる。
「基板、陽極、正孔輸送層、発光層、正孔阻止層、陰極を有する有機電界発光素子であって、
基板上には陽極が設けられ、
陽極の上には正孔輸送層が設けられ、
正孔輸送層の上には発光層が設けられ、発光層は、異なる2種類以上の電荷輸送性化合物からなるホスト材料と、周期律表第7~11族から選ばれる少なくとも1つの金属を含む有機金属錯体からなるドーパント材料で形成され、発光層に用いられる発光性化合物は、固体状態で高い発光(燐光)量子収率を示し、正孔および/または電子を効率よく輸送することができる化合物であり、
正孔阻止層は発光層の上に、発光層の陰極側の界面に接するように積層され、正孔阻止層は、正孔輸送層から移動してくる正孔を陰極に到達するのを阻止する役割と、陰極から注入された電子を効率よく発光層の方向に輸送することができる化合物より形成され、正孔阻止層のイオン化ポテンシャルはドーパント材料のイオン化ポテンシャルより0.1eV以上大きく、
陰極は、正孔阻止層を介して発光層に電子を注入する役割を果たす、
有機電界発光素子。」
イ 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲I発明とを対比すると、リン光ドーパントが、本件特許発明1では、「PMMA(ポリ(メチルメタクリラート))に0.5%ドープした薄膜において室温で600nm以上であるピーク最大波長を有する発光」を有し、「最高被占分子軌道(HOMO)のエネルギーが、-5.1eV以下」であるとともに、本件構造を含むのに対し、甲I発明では、リン光ドーパントが特定されていない点で相違する。
したがって、本件特許発明1は、甲I発明と同一ではない。
また、甲Iには、ドーパント材料について、段落【0154】~【0174】に記載された化合物を選択することが示唆されているものの、本件構造を含むものとすることについては記載も示唆もない。そうすると、当業者といえども、甲I発明に基づいて、本件特許発明1の要件を満たすものとすることが容易になし得たということはできない。
ウ 本件特許発明2~6、8、9について
本件特許発明2~6、8、9は、本件特許発明1に更に限定を付加した発明である。そうすると、前記イに記載した理由により、本件特許発明2~6、8、9は、甲I発明と同一ではなく、また、甲I発明に基づいて、本件特許発明2~6、8、9の要件を満たすものとすることが容易になし得たということはできない。
エ 本件特許発明10について
本件特許発明10と甲I発明とを対比すると、少なくとも、前記イに記載した点で相違する。そうすると、前記イに記載した理由により、甲I発明に基づいて、本件特許発明10の要件を満たすものとすることが容易になし得たということはできない。
オ 申立人の主張
申立人2は、令和7年3月31日に提出した意見書の40頁1行~42頁20行において、甲Iの段落【0155】~【0174】に記載されている有機金属錯体の代わりに、本件特許発明1の要件を満たす有機金属錯体を選択することは、当業者であれば容易に想到できると主張している。
しかし、前記イに記載したとおり、甲Iには、ドーパント材料について、本件構造を含むものとすることについては記載も示唆もない。そうすると、甲Iの段落【0154】~【0174】に挙げられた化合物を採用せずに、参考資料1~6に記載された化合物を選択する動機が存在するということができない。なお、Ir(pidrpm)2(acac)は、本件構造に含まれるものではない(詳細は、前記(7)オ(イ)を参照されたい。)。
カ まとめ
以上のとおり、本件特許発明1~6、8~10は、甲I発明と同一ではなく、甲I発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、請求項1~6、8~10に係る特許は、特許法29条の規定に違反してされたものであるとはいえない。
(11)申立人1が主張する実施可能要件及び明確性要件違反
申立人1は、特許異議申立書の127頁9~24行において、「当業者はどのようなリン光ドーパントが本件特許発明1の要件を満たすリン光ドーパントに該当するか否かを決定することができず、本件特許発明を実施することができない。」、「またどのようなリン光ドーパントが本件特許発明1の要件を満たすリン光ドーパントに該当するか不明確であるため、本件特許発明1は範囲が不明確である。」とし、本件特許発明1~10は、実施可能要件違反及び明確性要件違反であると主張している。
しかし、本件特許発明1~6、8~10におけるリン光ドーパントは、本件特許発明1及び本件特許発明10において特定されるとおり、「PMMA(ポリ(メチルメタクリラート))に0.5%ドープした薄膜において室温で600nm以上であるピーク最大波長を有する発光」を有し、「最高被占分子軌道(HOMO)のエネルギーが、-5.1eV以下」であり、本件構造を含み、本件除外化合物ではないものである。
本件特許発明1~6、8~10におけるリン光ドーパントの化学構造は、リン光ドーパントとして一般に知られた構造に一般に知られた置換基を導入したものであるから、本件特許発明1~6、8~10のリン光ドーパントを生産することが不可能であるとする事情が存在するとは考えられない。また、リン光ドーパントを「PMMA(ポリ(メチルメタクリラート))に0.5%ドープした薄膜」を用意し室温における発光波長を測定することについて、PMMA薄膜にリン光ドーパントを0.5%の割合となるようにドープし、エネルギーを加えて発光スペクトルを測定すれば足りるのであるから、当業者にとって実施不可能ということもできない。さらに、HOMOエネルギーを測定する手法も当業者にとって自明のものであって、実施不可能ということができない。そして、本件特許発明1~6、8~10において特定されるリン光ドーパントは、その化学構造の外縁及びHOMOエネルギーの範囲が特定されており、ピーク最大波長を測定するための条件についても明確に定められており、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるということができない。
したがって、申立人1の上記主張を採用することはできない。
(12)申立人1が主張する実施可能要件及びサポート要件違反
申立人1は、特許異議申立書の127頁25行~128頁19行において、「本件特許明細書の発明の詳細な説明には、請求項1に記載された発明のうち、一部の下位概念についてのみ、発明の効果を発揮する実施形態として実施可能に記載されているといえる。」とし、本件特許発明1~10は、実施可能要件違反であり、またサポート要件違反であると主張している。
本件特許の明細書には、背景技術及び発明の概要として、以下の記載がある。なお、下線は合議体が付した。
「【背景技術】
【0003】
有機材料を利用する光電子デバイスは、いくつもの理由から、次第に望ましいものとなりつつある。そのようなデバイスを作製するために使用される材料の多くは比較的安価であるため、有機光電子デバイスは無機デバイスを上回るコスト優位性の可能性を有する。加えて、柔軟性等の有機材料の固有の特性により、該材料は、フレキシブル基板上での製作等の特定用途によく適したものとなり得る。有機光電子デバイスの例は、有機発光ダイオード/デバイス(OLED)、有機光トランジスタ、有機光電池及び有機光検出器を含む。OLEDについて、有機材料は従来の材料を上回る性能の利点を有し得る。例えば、有機発光層が光を放出する波長は、概して、適切なドーパントで容易に調整され得る。
【0004】
OLEDはデバイス全体に電圧が印加されると光を放出する薄い有機膜を利用する。OLEDは、フラットパネルディスプレイ、照明及びバックライティング等の用途において使用するためのますます興味深い技術となりつつある。・・・
【0005】
リン光性発光分子の1つの用途は、フルカラーディスプレイである。そのようなディスプレイの業界標準は、「飽和(saturated)」色と称される特定の色を放出するように適合された画素を必要とする。特に、これらの標準は、飽和した赤色、緑色及び青色画素を必要とする。若しくは、OLEDは、白色光を照射するように設計することができる。従来の、白色バックライトからの液晶ディスプレイ発光は、吸収フィルターを用いてフィルタリングされ、赤色、緑色、及び青色発光を生成する。同様の技術は、OLEDでも用いられることができる。白色OLEDは、単一のEMLデバイス又は積層体構造のいずれかであることができる。色は、当技術分野において周知のCIE座標を使用して測定することができる。
・・・
【発明の概要】
【0013】
実施形態によれば、有機発光ダイオード/デバイス(OLED)も提供される。前記OLEDは、アノードと、カソードと、前記アノードと前記カソードとの間に配置された有機層とを含むことができる。実施形態によれば、前記有機発光デバイスは、消費者製品、電子部品モジュール、及び/又は照明パネルから選択される1以上のデバイスに組み込まれる
【0014】
開示された主題の実施形態は、アノードと、カソードと、前記アノードと前記カソードとの間に配置された発光層と、前記発光層(emissive)と前記カソードとの間に配置された正孔ブロッキング層とを有する有機発光ダイオード(OLED)を提供することができる。前記発光層は、リン光ドーパントを含むことができる。前記リン光ドーパントは、PMMA(ポリ(メチルメタクリラート))に0.5%ドープした薄膜において室温で600nm以上であるピーク最大波長を有する発光を有する。前記リン光ドーパントの最高被占分子軌道(HOMO)のエネルギーは、-5.1eV以下であることができ、前記正孔ブロッキング層のHOMOのエネルギーは、前記リン光ドーパントのHOMOのエネルギーよりも少なくとも0.1eV低くてもよい。」
なお、「外部量子効率」についての記載は、「実験」に関する段落【0073】と図6の説明について記載された段落【0030】にのみ存在する。
本件特許の上記明細書の記載に基づけば、本件特許発明1~6、8~10が解決しようとする課題は、少なくとも、フルカラーディスプレイにおいて、飽和色と称される特定の色を放出するように適合された画素に必要な有機発光ダイオード/デバイス(OLED)を提供することにあると理解でき、特定の色を放出し、画素に必要な外部量子効率を有するものであれば、課題を解決できるといえる。本件特許発明1~6、8~10は、「正孔ブロッキング層」を有し、発光層が、「600nm以上であるピーク最大波長」を有するリン光ドーパントを含み、リン光ドーパント及び正孔ブロッキング層のHOMOエネルギーが特定の条件を満たすものである。そうすると、本件特許発明1~6、8~10の有機発光ダイオード(OLED)又は消費者製品は、特定の色を放出し、画素に必要な外部量子効率を有するものといえるから、本件特許発明1~6、8~10はサポート要件を満たしているといえる。また、前記(11)において検討したとおり、本件特許発明1~6、8~10のリン光ドーパントを生産することが不可能であるとする事情が存在するとは考えられない。そして、本件特許発明1~6、8~10の有機発光ダイオード(OLED)又は消費者製品に係るその他の構成を形成することについても、実施可能でないとする事情が存在するとは考えられない。そうすると、本件特許発明1~6、8~10は、実施可能要件も満たしているといえる。
したがって、申立人1の上記主張を採用することができない。
(13)申立人1が主張する明確性要件違反
申立人1は、特許異議申立書の128頁20~26行において、「正孔ブロッキング層のHOMOのエネルギー」の意味するところが不明確であるから、本件特許発明1~10は明確性要件違反であると主張している。
しかし、技術的にみて、正孔ブロッキング層が特定の化合物により構成されるものであるところ、「正孔ブロッキング層のHOMOのエネルギー」が正孔ブロッキング層を構成する特定の化合物のHOMOエネルギーであることは明らかである。そうすると、本件特許発明1~6、8~10の記載について、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるということができない。
したがって、申立人1の上記主張を採用することができない。
(14)申立人1が主張するサポート要件違反
申立人1は、特許異議申立書の128頁27行~129頁19行において、「特定の化合物のみを用いた実施例の結果を、…拡張乃至一般化できるとは到底いえない。」とし、本件特許発明1~10はサポート要件違反であると主張している。
しかし、前記(12)において検討したとおり、本件特許発明1~6、8~10の有機発光ダイオード(OLED)又は消費者製品は、特定の色を放出し、画素に必要な外部量子効率を有するものといえるから、本件特許発明1~6、8~10はサポート要件を満たしているといえる。
したがって、申立人1の上記主張を採用することができない。
(15)申立人2が主張するサポート要件違反
申立人2は、特許異議申立書の65頁最終行~67頁2行において、明細書において、デバイスの効率が改善したことを試験しているのは、RD1にみであるとし、本件特許発明1~10の範囲まで拡張乃至一般化できるとはいえないから、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていないと主張している。
しかし、前記(12)に記載したとおり、本件特許発明1~6、8~10が解決しようとする課題は、少なくとも、フルカラーディスプレイにおいて、飽和色と称される特定の色を放出するように適合された画素に必要な有機発光ダイオード/デバイス(OLED)を提供することにあると理解でき、特定の色を放出し、画素に必要な外部量子効率を有するものであれば、課題を解決できるといえる。そして、本件特許発明1~6、8~10の有機発光ダイオード(OLED)又は消費者製品は、特定の色を放出し、画素に必要な外部量子効率を有するものといえるから、本件特許発明1~6、8~10はサポート要件を満たしているといえる。
したがって、申立人2の上記主張を採用することができない。
(16)申立人2が主張する委任省令違反
申立人2は、特許異議申立書の67頁3~11行において、実施例12、16、17~24は、本件特許発明1~10に該当しないものであるから、特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていないと主張している。
本件特許の明細書には、技術分野として、次の記載がある。
「【0002】
本発明は、発光体として使用するための化合物、及びそれを含む有機発光ダイオードなどのデバイスに関する。」
また、前記(12)において摘記したとおり、本件特許の明細書には、背景技術及び発明の概要として、段落【0003】~【0005】及び段落【0013】、【0014】の記載がある。本件特許の当該記載に基づけば、本件特許発明1~6、8~10が解決しようとする課題は、少なくとも、フルカラーディスプレイにおいて、飽和色と称される特定の色を放出するように適合された画素に必要な有機発光ダイオード/デバイス(OLED)を提供することにあると理解できる。また、段落【0014】に課題を解決するための手段が記載されていると理解できる。
以上のとおり、本件特許の明細書には、発明の属する技術分野及び発明が解決しようとする課題及びその解決手段が記載されているといえるから、特許法36条4項1号における委任省令要件を満たしているといえる。
したがって、申立人2の上記主張を採用することができない。
(17)申立人2が令和7年3月31日提出の意見書で主張する明確性要件
申立人2は、令和7年3月31日に提出した意見書の54頁18行~55頁11行において、参考資料7には、本件構造を有するリン光ドーパントの発光波長が544nm(黄色発光)であることが記載されているとし、本件特許発明1及び本件特許発明10には、規定と矛盾する構成が含まれているため、上記構造がどのような範囲の構造を含むのかが不明確であると主張している。
しかし、本件特許発明1~6、8~10におけるリン光ドーパントは、本件構造を含み、かつ、本件除外化合物ではないものであり、かつ、特定の条件で測定されたピーク最大波長及びHOMOのエネルギーが特定の範囲のものである。そうすると、本件構造を含み、かつ、本件除外化合物ではないものであり、かつ、ピーク最大波長が本件特許発明1~6、8~10に規定する要件を満たさないものが存在したとしても、本件特許発明1~6、8~10におけるリン光ドーパントの範囲が不明確ということはできない。
したがって、申立人2の上記主張を採用することができない。
(18)申立人2が令和7年3月31日提出の意見書で主張するサポート要件
申立人2は、令和7年3月31日に提出した意見書の55頁12行~56頁3行において、実施例では、RD1およびRD2をリン光ドーパントとして用いたOLEDが本発明の効果を奏することを確認しているだけであるとし、訂正後の請求項1,10に係る発明は、発明の詳細な説明に記載された範囲を超えるものと主張している。
しかし、前記(12)に記載したとおり、本件特許発明1~6、8~10が解決しようとする課題は、少なくとも、フルカラーディスプレイにおいて、飽和色と称される特定の色を放出するように適合された画素に必要な有機発光ダイオード/デバイス(OLED)を提供することにあると理解でき、特定の色を放出し、画素に必要な外部量子効率を有するものであれば、課題を解決できるといえる。本件特許発明1~6、8~10は、「正孔ブロッキング層」を有し、発光層が、「600nm以上であるピーク最大波長」を有するリン光ドーパントを含み、リン光ドーパント及び正孔ブロッキング層のHOMOエネルギーが特定の条件を満たすものである。そうすると、本件特許発明1~6、8~10の有機発光ダイオード(OLED)又は消費者製品は、特定の色を放出し、画素に必要な外部量子効率を有するものといえるから、本件特許発明1~6、8~10はサポート要件を満たしているといえる。
したがって、申立人2の上記主張を採用することができない。
(19)申立人1が提示する甲第31号証に基づく新規性及び進歩性違反
申立人1は、令和7年11月21日に提出した意見書の8頁23行~13頁11行において、本件特許発明1~4、6及び10は、甲31号証により新規性がなく、本件特許発明8及び10は進歩性がないと主張している。
しかし、甲第31号証は、特許異議の申立ての期間が経過した後の令和7年3月11日に追加して提示されたものであり、申立人1による甲第31号証により進歩性がない等の主張は、さらに、その後の令和7年11月25日に提示されたものであって、特許異議申立理由とは実質的に異なる新たな理由を主張するものである。そして、上記主張は、訂正請求の内容に付随して生じた取消理由を指摘するものでなく、また、申立人1が指摘する甲第31号証に開示されたIr(dppm)2(dpm)等が、「PMMA(ポリ(メチルメタクリラート))に0.5%ドープした薄膜において室温で600nm以上であるピーク最大波長を有する発光」を有するとの要件を満たすとともに「最高被占分子軌道(HOMO)のエネルギーが、-5.1eV以下」であるとの要件を満たすことが、一見して明らかであるということもできない。
そうすると、申立人1の上記主張を新たな合議体の審理対象とすることは、公益に及ぼす影響を踏まえたとしても、特許異議申立の期間を制限している制度の趣旨を没却することになるから適当でない。よって、申立人1の上記主張は採用しない。
第7 むすび
以上のとおり、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件特許発明1~6、8~10に係る特許を取り消すことはできない。また、他に本件特許発明1~6、8~10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、本件特許の請求項7は、本件訂正により削除された。これにより、申立人1及び申立人2による特許異議の申立てのうち、請求項7に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2024-700459