特許異議申立
2023-700672
半導体用レジスト下層膜形成組成物、レジスト下層膜、レジスト下層膜の形成方法及びパターニング基板の製造方法
- 審判番号
- 2023-700672
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-154055
- 登録番号
- 7196389
- 請求日
- 2023年06月27日
- 審決日
- 2024年03月18日
- 公報発行日
- 2024年06月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】JSR株式会社
- 【権利者代理人】池田 義典
- 【権利者代理人】天野 一規
- 【権利者代理人】藤本 勝誠
- 【異議申立人】麻生 陽一郎
- 審判長/審判官
- 審判長 神谷 健一
- 審判官 宮澤 浩
- 審判官 植前 充司
- 分類
- P1651.113-YAA(G03F) / P1651.121-YAA(G03F) / P1651.537-YAA(G03F)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第1項第3号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7196389号発明「半導体用レジスト下層膜形成組成物、レジスト下層膜、レジスト下層膜の形成方法及びパターニング基板の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7196389号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-11〕について訂正することを認める。
特許第7196389号の請求項1~11に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7196389号の請求項1~11に係る特許についての出願は、平成29年8月9日(先の出願に基づく優先権主張 平成28年8月10日、平成29年7月19日)に出願され、令和4年12月19日にその特許権の設定登録がされ、同年同月27日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について、令和5年6月27日に特許異議申立人 麻生陽一郎(以下「申立人」という。)により、特許異議の申立て(対象となる請求項:全請求項)がされ、当合議体は、同年9月29日付けで取消理由を通知し、特許権者は、その指定期間内である同年11月28日に意見書の提出とともに訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。)を行い、申立人は、これに対し、令和6年1月5日に意見書を提出した。
第2 本件訂正請求について
1 本件訂正請求の内容
本件訂正請求による訂正事項は、以下のとおりであり、一群の請求項〔1~11〕に対して請求されたものである。
(1)訂正事項1-1
特許請求の範囲の請求項1に、
「多層レジストプロセスに用いられ、パターンを有する基板上に積層されるレジスト下層膜を形成するための半導体用レジスト下層膜形成組成物であって、」
と記載されているのを、
「多層レジストプロセスに用いられ、パターンを有する基板上に積層され、上記パターンを埋め込むために用いられるレジスト下層膜を形成するための半導体用レジスト下層膜形成組成物であって、」(下線は訂正箇所を示す。)
と変更する。請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2~11についても同様に訂正する。
(2)訂正事項1-2
特許請求の範囲の請求項1に、
「上記芳香環を有する化合物の含有量が、上記溶媒以外の成分の総和に対して80質量%以上であることを特徴とする半導体用レジスト下層膜形成組成物。」
と記載されているのを、
「上記芳香環を有する化合物の含有量が、上記溶媒以外の成分の総和に対して80質量%以上であり、
上記芳香環を有する化合物が、ノボラック樹脂(但し、(メタ)アクリロイル基及びエポキシ基の少なくとも一方を含むものを除く)、レゾール樹脂、アセナフチレン樹脂、インデン樹脂、アリーレン樹脂、トリアジン樹脂、カリックスアレーン樹脂、フラーレン樹脂、分子量が300以上3,000以下の芳香環含有化合物又はこれらの組み合わせであり、
上記芳香環含有化合物が構成単位を1つ有する化合物であることを特徴とする半導体用レジスト下層膜形成組成物。」(下線は訂正箇所を示す。)
と変更する。請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2~11についても同様に訂正する。
(3)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項7に、
「上記芳香環を有する化合物が、ノボラック樹脂、レゾール樹脂、スチレン樹脂、アセナフチレン樹脂、インデン樹脂、アリーレン樹脂、トリアジン樹脂、カリックスアレーン樹脂、フラーレン樹脂、分子量が300以上3,000以下の芳香環含有化合物又はこれらの組み合わせである請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の半導体用レジスト下層膜形成組成物。」
と記載されているのを、
「上記芳香環を有する化合物が、ノボラック樹脂(但し、(メタ)アクリロイル基及びエポキシ基の少なくとも一方を含むものを除く)、レゾール樹脂、アセナフチレン樹脂、インデン樹脂、アリーレン樹脂、トリアジン樹脂、カリックスアレーン樹脂、フラーレン樹脂、分子量が300以上3,000以下の芳香環含有化合物又はこれらの組み合わせであり、
上記芳香環含有化合物がフルオレンビスフェノール骨格を有する化合物、スピロインデン骨格を有する化合物、トルクセン骨格を有する化合物、トリフェニルベンゼン骨格を有する化合物、又はこれらの組み合わせである請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の半導体用レジスト下層膜形成組成物。」(下線は訂正箇所を示す。)
と変更する。請求項7の記載を直接又は間接的に引用する請求項8~11についても同様に訂正する。
2 訂正の適否
(1)訂正事項1-1
ア 訂正の目的の適否
訂正事項1-1による訂正は、訂正前の発明特定事項である「半導体用レジスト下層膜形成組成物」について、「多層レジストプロセスに用いられ、パターンを有する基板上に積層され、上記パターンを埋め込むために用いられるレジスト下層膜を形成するため」のものであるとする用途をさらに限定することにより、「半導体用レジスト下層膜形成組成物」の範囲を、限定が付された用途に適する物性等を有するものに減縮するものといえる。したがって、訂正事項1-1による訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項の有無
本件特許の明細書の段落【0002】に、背景技術として「近年、半導体配線構造においては、高集積化を目的として複数種のトレンチパターン(配線溝)、特に互いに異なるアスペクト比を有するトレンチパターンを有する基板にパターンを形成する場合が増えてきている。この場合、半導体用レジスト下層膜形成組成物には、これらのトレンチを十分に埋め込んだものであると共に、溶媒耐性に優れ、かつ高い平坦性を有するレジスト下層膜を形成できることが要求される。」と記載されるとともに、段落【0006】に、発明が解決しようとする課題として「本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであり、その目的は、平坦性、埋め込み性及び溶媒耐性に優れると共に、エッチング後の欠陥抑制性にも優れるレジスト下層膜を形成できる半導体用レジスト下層膜形成組成物、レジスト下層膜、レジスト下層膜の形成方法及びパターニング基板の製造方法を提供することにある。」と記載されている。また、発明の効果として、段落【0012】に、「本発明の半導体用レジスト下層膜形成組成物によれば、平坦性、埋め込み性及び溶媒耐性に優れると共に、エッチング後の欠陥抑制性にも優れるレジスト下層膜を形成することができる。」と記載されている。
これらの記載に基づけば、本件特許の明細書には、「半導体用レジスト下層膜形成組成物」がトレンチパターンを埋め込むために用いられることが記載されていたといえる。
したがって、訂正事項1-1による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものといえる。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1-1による訂正は、前記アに記載したとおり、「半導体用レジスト下層膜形成組成物」の範囲を、限定が付された用途に適する物性等を有するものに減縮するものである。そうすると、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかである。
(2)訂正事項1-2
ア 訂正の目的の適否
訂正事項1-2による訂正は、訂正前の発明特定事項である「芳香環を有する化合物」について、その範囲を、「ノボラック樹脂(但し、(メタ)アクリロイル基及びエポキシ基の少なくとも一方を含むものを除く)、レゾール樹脂、アセナフチレン樹脂、インデン樹脂、アリーレン樹脂、トリアジン樹脂、カリックスアレーン樹脂、フラーレン樹脂、分子量が300以上3,000以下の芳香環含有化合物又はこれらの組み合わせ」に限定するとともに、「分子量が300以上3,000以下の芳香環含有化合物」について、「構成単位を1つ有する化合物」であるとする要件を付したことにより、「芳香環を有する化合物」の範囲を減縮するものといえる。したがって、訂正事項1-2による訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項の有無
本件特許の明細書の段落【0045】には、溶媒以外の芳香環を有する化合物について、「樹脂としては、例えばノボラック樹脂、レゾール樹脂、スチレン樹脂、アセナフチレン樹脂、インデン樹脂、アリーレン樹脂、トリアジン樹脂、カリックスアレーン樹脂、フラーレン樹脂等が挙げられる。」と記載されている。また、段落【0042】には「[B]化合物としては、例えば主鎖に芳香環を有する樹脂、主鎖に芳香環を有さず側鎖に芳香環を有する樹脂などの樹脂、分子量が300以上3,000以下の芳香環含有化合物等が挙げられる。」と記載され、段落【0043】には「ここで、「樹脂」とは、構造単位を2つ以上有する化合物をいう。「芳香環含有化合物」とは、構造単位を1つ有する化合物をいう。」と記載されている。
また、「(但し、(メタ)アクリロイル基及びエポキシ基の少なくとも一方を含むものを除く)」とは、段落【0045】に記載される「ノボラック樹脂」のうち、先の取消理由通知における甲2発明で用いる樹脂を除外するものである。
これらの記載に基づけば、訂正事項1-2による訂正は、本件特許の明細書に記載された選択肢の一部に基づくものと理解できる。
したがって、訂正事項1-2による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものといえる。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1-2による訂正は、前記アに記載したとおり、訂正前の発明特定事項である「芳香環を有する化合物」の範囲を減縮するものである。そうすると、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかである。
(3)訂正事項2
ア 訂正の目的の適否
訂正事項2による訂正は、訂正前の発明特定事項である「芳香環を有する化合物」について、その選択肢とされていた「ノボラック樹脂」の範囲から、「(メタ)アクリロイル基及びエポキシ基の少なくとも一方を含むもの」を除き、選択肢とされていた「スチレン樹脂」を除き、選択肢とされていた「分子量が300以上3,000以下の芳香環含有化合物」を、「フルオレンビスフェノール骨格を有する化合物、スピロインデン骨格を有する化合物、トルクセン骨格を有する化合物、トリフェニルベンゼン骨格を有する化合物、又はこれらの組み合わせ」に限定することにより、「芳香環を有する化合物」の範囲を減縮するものといえる。したがって、訂正事項2による訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。
イ 新規事項の有無
訂正事項2による訂正のうち、「(但し、(メタ)アクリロイル基及びエポキシ基の少なくとも一方を含むものを除く)」とは、段落【0045】に記載される「ノボラック樹脂」のうち、先の取消理由通知における甲2発明で用いる樹脂を除外するものである。
また、本件特許の明細書の段落【0069】に「上記芳香環含有化合物としては、例えばフルオレンビスフェノール骨格を有する化合物、スピロインデン骨格を有する化合物、トルクセン骨格を有する化合物、トリフェニルベンゼン骨格を有する化合物等が挙げられる。」との記載がある。
これらの記載に基づけば、訂正事項2による訂正は、本件特許の明細書に記載された選択肢の一部に基づくものと理解できる。
したがって、訂正事項2による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものといえる。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項2による訂正は、前記アに記載したとおり、訂正前の発明特定事項である「芳香環を有する化合物」の範囲を減縮するものである。そうすると、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかである。
3 小括
以上のとおり、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6号の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-11〕について訂正することを認める。
第3 訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1~11に係る発明(以下、請求項に付された番号にしたがい、「本件特許発明1」等という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~11に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
多層レジストプロセスに用いられ、パターンを有する基板上に積層され、上記パターンを埋め込むために用いられるレジスト下層膜を形成するための半導体用レジスト下層膜形成組成物であって、
溶媒と、
上記溶媒以外の芳香環を有する化合物(但し、ポリシロキサンを除く。)と
を含有し、
上記溶媒が、
標準沸点が156℃未満である第1溶媒、及び
標準沸点が156℃以上300℃未満である第2溶媒
を含み、
上記第1溶媒が、アルキレングリコールモノアルキルエーテル類、アルキレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類又はこれらの組み合わせであり、
上記第2溶媒が、エステル類、アルコール類、カーボネート類又はこれらの組み合わせであり、
上記溶媒中の上記第1溶媒の含有率が20質量%以上95質量%以下であり、上記第2溶媒の含有率が5質量%以上60質量%未満であり、
上記芳香環を有する化合物の含有量が、上記溶媒以外の成分の総和に対して80質量%以上であり、
上記芳香環を有する化合物が、ノボラック樹脂(但し、(メタ)アクリロイル基及びエポキシ基の少なくとも一方を含むものを除く)、レゾール樹脂、アセナフチレン樹脂、インデン樹脂、アリーレン樹脂、トリアジン樹脂、カリックスアレーン樹脂、フラーレン樹脂、分子量が300以上3,000以下の芳香環含有化合物又はこれらの組み合わせであり、
上記芳香環含有化合物が構成単位を1つ有する化合物であることを特徴とする半導体用レジスト下層膜形成組成物。
【請求項2】
上記第1溶媒の標準沸点が155℃以下であり、上記第2溶媒の標準沸点が170℃以上である請求項1に記載の半導体用レジスト下層膜形成用組成物。
【請求項3】
上記第2溶媒の標準沸点が200℃以上である請求項1又は請求項2に記載の半導体用レジスト下層膜形成組成物。
【請求項4】
上記エステル類が、カルボン酸エステル類である請求項1、請求項2又は請求項3に記載の半導体用レジスト下層膜形成組成物。
【請求項5】
上記アルコール類が、多価アルコール類、多価アルコール部分エーテル類又はこれらの組み合わせである請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の半導体用レジスト下層膜形成組成物。
【請求項6】
上記第2溶媒の相対蒸発速度の値が、酢酸ブチルの値を100としたとき0.01以上10以下である請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の半導体用レジスト下層膜形成組成物。
【請求項7】
上記芳香環を有する化合物が、ノボラック樹脂(但し、(メタ)アクリロイル基及びエポキシ基の少なくとも一方を含むものを除く)、レゾール樹脂、アセナフチレン樹脂、インデン樹脂、アリーレン樹脂、トリアジン樹脂、カリックスアレーン樹脂、フラーレン樹脂、分子量が300以上3,000以下の芳香環含有化合物又はこれらの組み合わせであり、
上記芳香環含有化合物がフルオレンビスフェノール骨格を有する化合物、スピロインデン骨格を有する化合物、トルクセン骨格を有する化合物、トリフェニルベンゼン骨格を有する化合物、又はこれらの組み合わせである請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の半導体用レジスト下層膜形成組成物。
【請求項8】
上記芳香環が、芳香族炭素環である請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の半導体用レジスト下層膜形成組成物。
【請求項9】
請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の半導体用レジスト下層膜形成組成物から形成されるレジスト下層膜。
【請求項10】
パターンを有する基板上に請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の半導体用レジスト下層膜形成組成物を塗工する工程と、
上記塗工工程により得られる塗膜を加熱する工程と
を備えるレジスト下層膜の形成方法。
【請求項11】
請求項10に記載のレジスト下層膜の形成方法と、
上記レジスト下層膜の形成方法により得られるレジスト下層膜の上記基板とは反対の面側にレジストパターンを形成する工程と、
上記レジストパターンをマスクとしたエッチングを行う工程と
を備えるパターニング基板の製造方法。」
第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
理由1(新規性)
本件特許の請求項1~4、7~10に係る発明は、先の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明であるか又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものである。
理由2(進歩性)
本件特許の請求項1~11に係る発明は、先の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、先の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
甲第1号証:特開2009-98651号公報
甲第2号証:特開2014-189616号公報
(以下では各甲号証をそれぞれ「甲1」及び「甲2」という。また、甲1及び甲2は、それぞれ、主引用例である。)
2 当合議体の判断
(1)甲1を主引用例とする取消理由
ア 甲1発明
甲1の段落【0200】~【0203】、【0209】、【0216】の記載に基づけば、甲1には、実施例2に係る発明として、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「下記の組成(モル比)のポリマーである4gの樹脂3と、下記の組成(モル比)のポリマーである6gの樹脂4をプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート70gとプロピレンカーボネート30gの混合溶液に撹拌しながら加え、光酸発生剤として0.3gのトリフェニルスルホニウムノナフルオロブタンスルホネートを加え攪拌した溶液に、メガファックF-470を0.01g加え撹拌し、溶液をポアサイズ0.05μmのポリエチレン製フィルターを通し濾過を行って得た組成物。
(樹脂3)
【化32】
[図:0001411318000001.jpg]
(樹脂4)
【化33】
[図:0001411318000002.jpg]
」
イ 本件特許発明1と甲1発明との対比
本件特許発明1と甲1発明とを対比する。
(ア)半導体用レジスト下層膜形成組成物
甲1発明の「組成物」と本件特許発明1の「レジスト下層膜を形成するための半導体用レジスト下層膜形成組成物」とは、「組成物」である点で共通する。
(イ)溶媒
甲1発明の「プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート70gとプロピレンカーボネート30gの混合溶液」は、樹脂3と樹脂4を加え、さらに光酸発生剤を加えた溶液を構成するものであるから、本件特許発明の「溶媒」に相当する。
また、甲1発明の「プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート」は、本件特許の段落【0017】の記載によれば、本件特許でいうところの標準沸点の値が「146℃」である。そうすると、甲1発明の「プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート」は、本件特許発明1の「標準沸点が156℃未満である第1溶媒」に相当し、「上記第1溶媒が、アルキレングリコールモノアルキルエーテル類、アルキレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類又はこれらの組み合わせであり」とする要件を満たしている。そして、甲1発明の「混合溶液」は、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートを「70g」とプロピレンカーボネートを「30g」の混合溶液であるから、混合溶媒中のプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートは70質量%(=70g÷(70g+30g)×100)となる。したがって、甲1発明は、本件特許発明1の「上記溶媒中の上記第1溶媒の含有率が20質量%以上95質量%以下であり」とする要件を満たしている。
さらに、甲1発明の「プロピレンカーボネート」は、本件特許の段落【0027】の記載によれば、本件特許でいうところの標準沸点の値が「242℃」である。そうすると、甲1発明の「プロピレンカーボネート」は、本件特許発明1の「標準沸点が156℃以上300℃未満である第2溶媒」に相当し、「上記第2溶媒が、エステル類、アルコール類、カーボネート類又はこれらの組み合わせであり」とする要件を満たしている。そして、甲1発明の「混合溶液」は、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートを「70g」とプロピレンカーボネートを「30g」の混合溶液であるから、混合溶媒中のプロピレンカーボネートは30質量%(=30g÷(70g+30g)×100)となる。したがって、甲1発明は、本件特許発明1の「上記第2溶媒の含有率が5質量%以上60質量%未満であり」とする要件を満たしている。
(ウ)芳香環を有する化合物
甲1発明の「樹脂3」及び「樹脂4」は、その組成からみて、「芳香環」を有しているといえる。また、甲1発明の「樹脂3」及び「樹脂4」は、溶媒ではなく、ポリシロキサンには該当しない。そうすると、甲1発明の「樹脂3」及び「樹脂4」は、本件特許発明1の「上記溶媒以外の芳香環を有する化合物(但し、ポリシロキサンを除く。)」に相当する。
甲1発明は、その製法からみて、「樹脂3」、「樹脂4」及び「混合溶媒」以外の成分として「光酸発生剤として0.3gのトリフェニルスルホニウムノナフルオロブタンスルホネート」及び「メガファックF-470を0.01g」を含むものである。そうすると、甲1発明における「樹脂3」及び「樹脂4」の含有量は、97質量%(=(4g+6g)÷(4g+6g+0.3g+0.01g)×100)である。したがって、甲1発明は、本件特許発明1の「上記芳香環を有する化合物の含有量が、上記溶媒以外の成分の総和に対して80質量%以上」とする要件を満たしている。
(エ)一致点及び相違点
以上より、本件特許発明1と甲1発明とは、
「 組成物であって、
溶媒と、
上記溶媒以外の芳香環を有する化合物(但し、ポリシロキサンを除く。)と
を含有し、
上記溶媒が、
標準沸点が156℃未満である第1溶媒、及び
標準沸点が156℃以上300℃未満である第2溶媒
を含み、
上記第1溶媒が、アルキレングリコールモノアルキルエーテル類、アルキレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類又はこれらの組み合わせであり、
上記第2溶媒が、エステル類、アルコール類、カーボネート類又はこれらの組み合わせであり、
上記溶媒中の上記第1溶媒の含有率が20質量%以上95質量%以下であり、上記第2溶媒の含有率が5質量%以上60質量%未満であり、
上記芳香環を有する化合物の含有量が、上記溶媒以外の成分の総和に対して80質量%以上であることを特徴とする半導体用レジスト下層膜形成組成物。」
である点で一致し、以下の点で相違又は一応相違する。
[相違点1]組成物が、本件特許発明1では、「多層レジストプロセスに用いられ、パターンを有する基板上に積層され、上記パターンを埋め込むために用いられるレジスト下層膜を形成するため」のものであって、「半導体用レジスト下層膜形成組成物」であるのに対し、甲1発明では、そのような用途に用いられるものであるか明らかでない点。
[相違点2]芳香環を有する化合物が、本件特許発明1では、「ノボラック樹脂(但し、(メタ)アクリロイル基及びエポキシ基の少なくとも一方を含むものを除く)、レゾール樹脂、アセナフチレン樹脂、インデン樹脂、アリーレン樹脂、トリアジン樹脂、カリックスアレーン樹脂、フラーレン樹脂、分子量が300以上3,000以下の芳香環含有化合物又はこれらの組み合わせ」であるとともに「上記芳香環含有化合物が構成単位を1つ有する化合物」であるのに対し、甲1発明では、樹脂3及び樹脂4が、本件特許発明1において特定されるものでない点。
ウ 本件特許発明1と甲1発明との相違点についての判断
事案に鑑みて、上記[相違点2]について検討する。
甲1の段落【0009】には、課題を解決するための手段について、「基板とフォトレジスト膜(1)の間に設けられる組成物膜(2)を形成する樹脂組成物であって、該組成物膜(2)の露光波長に対する消衰係数が0.15以下であり、該樹脂組成物がアルカリ水性現像液に可溶な樹脂を含有することを特徴とするイオン注入工程用の樹脂組成物。」と記載されている。また、発明を実施するための最良の形態として、段落【0021】に、「本発明のイオン注入工程用の樹脂組成物は、基板とフォトレジスト膜(1)の間に設けられる組成物膜(2)を形成する樹脂組成物であって、該組成物膜(2)の露光波長に対する消衰係数が0.15以下であり、該樹脂組成物はアルカリ水性現像液に可溶な樹脂(「(A)成分の樹脂」と称する場合がある)を含有する。」と記載され、さらに、段落【0022】には、(A)成分の樹脂について、「アルカリ可溶性、または、好ましくは水可溶性であり、露光波長の消衰係数が0.15以下であれば特に制限されないが、下記の特徴を有する樹脂が好ましい。」と記載されている。しかし、甲1に例示される様々な樹脂は、いずれも、上記[相違点2]に係る本件特許発明1の樹脂又は化合物に該当しない。また、上記[相違点2]に係る本件特許発明1の樹脂又は化合物であって、露光波長に対する消衰係数が0.15以下であり、アルカリ水性現像液に可溶であるとの要件を満たすものが、本件特許が優先権主張する先の出願前において当業者に知られていたということもできない。
そうすると、甲1発明の「樹脂3」及び「樹脂4」の代わりに、上記[相違点2]に係る本件特許発明1の樹脂又は化合物を採用する動機付けがないから、当業者であっても、上記[相違点2]に係る本件特許発明1の樹脂又は化合物を採用することは容易になし得たとはいえない。
申立人は、令和6年1月5日付けの意見書において、「すなわち、ここでは、『芳香環を有する化合物』が樹脂ではなく、『構造単位を1つ有する化合物である』から甲1とは違うと主張しており、上記定義に矛盾するものであり、何を言っているのか不明である。」(第4頁第5~7行)と主張している。
しかし、本件特許発明1は、「芳香環を有する化合物」が、「ノボラック樹脂(但し、(メタ)アクリロイル基及びエポキシ基の少なくとも一方を含むものを除く)、レゾール樹脂、アセナフチレン樹脂、インデン樹脂、アリーレン樹脂、トリアジン樹脂、カリックスアレーン樹脂、フラーレン樹脂、分子量が300以上3,000以下の芳香環含有化合物又はこれらの組み合わせ」であると特定するとともに、「分子量が300以上3,000以下の芳香環含有化合物」を「構成単位を1つ有する化合物である」と定義するものと理解できるものであり、何ら不明確な点はない。そして、甲1発明の「樹脂3」及び「樹脂4」が、本件特許発明1の「芳香環を有する化合物」に該当しないことも明らかである。したがって、申立人の上記主張は採用できない。
また、申立人は、令和6年1月5日付けの意見書において、「本件特許において、芳香環を有する化合物を限定したり、除くクレームとしてみても、そこに技術的意義は全くなく、訂正の前後で発明の技術思想としては全く同じものであるに過ぎない。…したがって、この訂正は甲第1号証、甲第2号証の発明との違いにはなり得ない。」(第4頁最終行~第5頁第5行)、「今回の訂正は、そもそも本件発明は甲第1号証および甲第2号証と同じ発明であり、技術思想が同じであるところに、単に甲第1号証および甲第2号証に例示された化合物を除いただけで、訂正前後で本発明の技術思想は甲第1号証及び甲第2号証と同じである。したがって、審査基準通り、本件訂正後の発明は、進歩性が認められないので取り消されるべきものである。」(第5頁第16~20行)と主張している。
しかし、本件特許発明1と甲1発明とを対比すると、前記イに記載したとおり、[相違点2]において相違する。申立人の当該主張は、独自の見解を述べるものであり、採用することができない。
さらに、申立人は、令和6年1月5日付けの意見書において、「すなわち、当該技術分野において、芳香環を有する化合物が、『構造単位を1つ有する化合物』であることは特徴とはなり得ない。」(第6頁下から4行~下から3行)と主張している。
しかし、すでに検討したとおり、甲1発明は、課題を解決するための手段として、「露光波長に対する消衰係数が0.15以下であり、該樹脂組成物がアルカリ水性現像液に可溶な樹脂」を要するものである。申立人が指摘する甲5の請求項1に記載された化合物は、甲1発明の課題解決手段となり得るものではない。そうすると、すでに述べたとおり、甲1発明において、甲5に記載された化合物を採用する動機付けがあるとはいえない。したがって、申立人の当該主張を採用することはできない。
以上のとおりであるから、本件特許発明1は、当業者が、甲1発明に基づいて容易に発明できたものとはいえない。
エ 本件特許発明2~11と甲1発明との対比・判断
本件特許発明2~11は、本件特許発明1に、限定を付加した発明に該当する。そうすると、本件特許発明2~11は、本件特許発明1と同じ理由により、いずれも、当業者が、甲1発明に基づいて容易に発明できたものとはいえない。
(2)甲2を主引用例とする取消理由ア 甲2発明
甲2の段落【0106】~【0108】、【0116】の記載に基づけば、甲2には、実施例2に係る発明として、次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
「下記に示した重合性化合物を、それぞれ、下記に示した第一の溶剤および第二の溶剤で希釈して、重合性化合物の固形分が0.1質量%となるように調製し、これを0.1μmのPTFEフィルターでろ過して得た、下層膜の形成に用いる組成物。
重合性化合物
A2:新中村化学工業社製NKオリゴEA-7120/PGMAc
(クレゾールノボラック型エポキシアクリレート)0.1 質量%
第一の溶剤
S6:乳酸ブチル、沸点185℃ 9.99質量%
第二の溶剤
S2:プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、
沸点146℃ 89.91質量%」
イ 本件特許発明1と甲2発明との対比
本件特許発明1と甲2発明とを対比する。
(ア)半導体用レジスト下層膜形成組成物
甲2発明の「組成物」と本件特許発明1の「レジスト下層膜を形成するための半導体用レジスト下層膜形成組成物」とは、「組成物」である点で共通する。
(イ)溶媒
甲2発明の「第一の溶剤および第二の溶剤」は、重合性化合物を希釈するものである。そうすると、甲2発明の「第一の溶剤および第二の溶剤」は、本件特許発明1の「溶媒」に相当する。
また、甲2発明の「第二の溶剤」である「S2:プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート」の沸点は、「146℃」である。そして、甲2の段落【0051】の記載に基づけば、当該沸点は、「1気圧における沸点」であるといえる。そうすると、甲2発明の「第二の溶剤」である「S2:プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート」は、本件特許発明1の「標準沸点が156℃未満である第1溶媒」に相当し、本件特許発明1の「上記第1溶媒が、アルキレングリコールモノアルキルエーテル類、アルキレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類又はこれらの組み合わせであり、」とする要件を満たしている。そして、甲2発明は、「89.91質量%」の第二の溶剤及び「9.99質量%」の第一の溶剤からなるものであるから、全溶媒中の第二の溶剤の含有率は、90%(=89.91質量%÷(89.91質量%+9.99質量%))となる。したがって、甲2発明は、本件特許発明1の「上記溶媒中の上記第1溶媒の含有率が20質量%以上95質量%以下であり」とする要件を満たしている。
さらに、甲2発明の「第一の溶剤」である「S6:乳酸ブチル」の沸点は、「185℃」である。そして、甲2の段落【0049】の記載に基づけば、当該沸点も、「1気圧における沸点」であるといえる。そうすると、甲2発明の「第一の溶剤」である「S6:乳酸ブチル」は、本件特許発明1の「標準沸点が156℃以上300℃未満である第2溶媒」に相当する。また、「乳酸ブチル」は、その化学構造から、「エステル」結合を有する化合物であるから、本件特許発明1の「上記第2溶媒が、エステル類、アルコール類、カーボネート類又はこれらの組み合わせであり」とする要件を満たしている。そして、甲2発明は、「9.99質量%」の第一の溶剤及び「89.91質量%」の第二の溶剤からなるものであるから、全溶媒中の第一の溶剤の含有率は、10%(=9.99質量%÷(89.91質量%+9.99質量%))となる。したがって、甲2発明は、本件特許発明1の「上記第2溶媒の含有率が5質量%以上60質量%未満であり」とする要件を満たしている。
(ウ)芳香環を有する化合物
甲2発明の「A2:NKオリゴEA-7120」は、「クレゾールノボラック型エポキシアクリレート」であり、その名称から見て、芳香環を有するオリゴマーであるといえる。また、甲2発明の「A2:NKオリゴEA-7120」は、溶媒ではなく、ポリシロキサンでもない。そうすると、甲2発明の「A2:NKオリゴEA-7120」は、本件特許発明1の「上記溶媒以外の芳香環を有する化合物(但し、ポリシロキサンを除く。)」に相当する。
また、甲2発明は、「A2:NKオリゴEA-7120」及び「第一の溶剤および第二の溶剤」以外の添加剤を含んでいない。そうすると、甲2発明は、本件特許発明1の「上記芳香環を有する化合物の含有量が、上記溶媒以外の成分の総和に対して80質量%以上であり」とする要件を満たしている。
(エ)一致点及び相違点
以上より、本件特許発明1と甲2発明とは、
「 組成物であって、
溶媒と、
上記溶媒以外の芳香環を有する化合物(但し、ポリシロキサンを除く。)と
を含有し、
上記溶媒が、
標準沸点が156℃未満である第1溶媒、及び
標準沸点が156℃以上300℃未満である第2溶媒
を含み、
上記第1溶媒が、アルキレングリコールモノアルキルエーテル類、アルキレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類又はこれらの組み合わせであり、
上記第2溶媒が、エステル類、アルコール類、カーボネート類又はこれらの組み合わせであり、
上記溶媒中の上記第1溶媒の含有率が20質量%以上95質量%以下であり、上記第2溶媒の含有率が5質量%以上60質量%未満であり、
上記芳香環を有する化合物の含有量が、上記溶媒以外の成分の総和に対して80質量%以上であることを特徴とする半導体用レジスト下層膜形成組成物。」
である点で一致し、以下の点で相違又は一応相違する。
[相違点3]組成物が、本件特許発明1では、「多層レジストプロセスに用いられ、パターンを有する基板上に積層され、上記パターンを埋め込むために用いられるレジスト下層膜を形成するため」のものであって、「半導体用レジスト下層膜形成組成物」であるのに対し、甲2発明では、そのような用途に用いられるものであるか明らかでない点。
[相違点4]半導体用レジスト下層膜形成組成物が、本件特許発明1では、「パターンを有する基板上に積層され、上記パターンを埋め込むために用いられる」ものであるのに対して、甲2発明では、パターンを有する基板上に積層され、上記パターンを埋め込むために用いられるものであるか明らかでない点。
[相違点5]芳香環を有する化合物が、本件特許発明1では、「ノボラック樹脂(但し、(メタ)アクリロイル基及びエポキシ基の少なくとも一方を含むものを除く)、レゾール樹脂、アセナフチレン樹脂、インデン樹脂、アリーレン樹脂、トリアジン樹脂、カリックスアレーン樹脂、フラーレン樹脂、分子量が300以上3,000以下の芳香環含有化合物又はこれらの組み合わせ」であるとともに「上記芳香環含有化合物が構成単位を1つ有する化合物」であるのに対し、甲2発明では、「A2:NKオリゴEA-7120」は、「クレゾールノボラック型エポキシアクリレート」であり、本件特許発明1において特定されるものでない点。
ウ 本件特許発明1と甲2発明との相違点についての判断
事案に鑑みて、上記[相違点5]について検討する。
甲2の段落【0009】には、発明が解決しようとする課題について、「基板とインプリント層の密着性に優れ、かつ、膜厚の面内均一性に優れ、かつ、欠陥密度の小さい下層膜を提供できる組成物を提供することを目的とする。」と記載されている。そして、甲2の段落【0017】には、重合性化合物について、「本発明で用いる重合性化合物の種類は本発明の趣旨を逸脱しない限り特に定めるものではなく、広く公知の化合物を採用できる。」と記載され、段落【0046】には、「重合性化合物の分子量は、通常1000以上であり、低分子化合物でもポリマーでもよいが、ポリマーが好ましい。より好ましくは、重合性化合物の分子量は、3000以上であり、さらに好ましくは7500以上である。重合性化合物の分子量の上限は、好ましくは200000以下であり、より好ましくは100000以下であり、さらに好ましくは50000以下である。このような分子量とすることにより、重合性化合物の揮発を抑制することができる。」と記載されている。
これらの記載に基づけば、甲2には、上記[相違点5]に係る本件特許発明1の樹脂又は化合物について記載されていないものの、甲2発明の重合性化合物「A2」は、広く公知の重合性化合物に置き換えることができると考えられる。
しかし、本件特許発明1は、「溶媒以外の芳香環を有する化合物」を要件としており、特定の溶媒とともに、溶媒以外の芳香環を有する化合物を用いることにより、平坦性、トレンチパターンを有する基板への埋め込み性及び溶媒耐性に優れるという効果を奏するものと理解できる。一方、甲2に記載された「重合性化合物」や、他の広く公知の重合性化合物は、必ずしも芳香環を有する化合物ではない。また、甲2には、トレンチパターンを有する基板へ下層膜を埋め込むことについての記載はなく、そのような使用方法を想定したものということもできない。そうすると、広く公知の重合性化合物の中から、上記[相違点5]に係る本件特許発明1の樹脂又は化合物を採用する動機付けがあるとはいえず、また、そのような要件を具備する樹脂又は化合物を特定の溶媒と組み合わせることにより、平坦性、トレンチパターンを有する基板への埋め込み性及び溶媒耐性に優れた組成物を得られるという効果は、甲2の記載から当業者が認識できたものともいえない。
そうすると、甲2発明の「A2:新中村化学工業社製NKオリゴEA-7120」の代わりに、上記[相違点5]に係る本件特許発明1の樹脂又は化合物を採用することは、当業者であっても容易になし得たとはいえない。
申立人は、令和6年1月5日付けの意見書において、前記(1)ウに記載したとおり、様々な主張をしている。しかしながら、上記のとおり、本件特許発明1と甲2発明とは、上記[相違点4]及び[相違点5]において相違しており、同じ発明とはいえないものである。そうすると、甲2発明を引用発明とした場合においても、甲1発明を引用発明とした場合と同じことが言える。したがって、申立人の主張は、いずれも採用することができない。
以上のとおりであるから、本件特許発明1は、当業者が、甲2発明に基づいて容易に発明できたものとはいえない。
エ 本件特許発明2~11と甲2発明との対比・判断
本件特許発明2~11は、本件特許発明1に、限定を付加した発明に該当する。そうすると、本件特許発明2~11は、本件特許発明1と同じ理由により、いずれも、当業者が、甲2発明に基づいて容易に発明できたものとはいえない。
(3)まとめ
以上のとおり、取消理由通知に記載した取消理由は、全て解消した。
第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由の概要
申立人は、特許異議申立書の3(4)ウ(ウ)、(エ)、(オ)、及び、(カ)において、訂正前の特許請求の範囲の請求項1~11について、以下の甲第3号証~甲第6号証をそれぞれ主引用発明として、当業者が容易に発明できたものであるから、進歩性が無く特許法第29条第2項の規定により取り消されるべきものと主張している。
また、申立人は、特許異議申立書の3(4)エにおいて、訂正前の特許請求の範囲の請求項1~11について、特許法第36条第6項第2号の要件を具備していないと主張してる。
甲第1号証:特開2009-98651号公報
甲第2号証:特開2014-189616号公報
甲第3号証:特開2005-292528号公報
甲第4号証:特開2013-228702号公報
甲第5号証:特開2016-60886号公報
甲第6号証:国際公開第2014/007079号
2 当合議体の判断
(1)甲第3号証を主引用発明とする進歩性
本件特許発明1は、溶媒として、「標準沸点が156℃未満である第1溶媒」及び「標準沸点が156℃以上300℃未満である第2溶媒」を含むことを要件としている。
一方、甲第3号証に記載された発明は、(A)有機ポリマーと(B)有機溶媒とを含有するレジスト下層膜形成組成物であって、(B)有機溶媒が沸点160℃以上であるというものである。(A)有機ポリマーについて、段落【0016】に「得られる被膜が前記所定の重量減少率(300℃)および重量減少率(420℃)を有する限り特に限定されるものでない…」と記載され、段落【0017】に、「芳香族成分の含有率が、好ましくは20重量%以下、特に好ましくは15重量%以下であることが望ましい。この場合、(A)有機ポリマー中の芳香族成分の含有率が20重量%を越えると、重量減少率(420℃)が小さくなり、十分な熱分解性が得られないおそれがある。」と記載されている。また、(B)有機溶媒について、甲第3号証には、段落【0021】に、「(A)有機ポリマーおよび後述する添加剤を溶解し、適度の揮発性を有する限り、特に限定されるものではない…」と記載されており、段落【0025】に「本発明においては、(B)有機溶媒と相溶する沸点160℃未満の有機溶媒の1種以上を併用することができる。」と記載され、段落【0026】に「(B)有機溶媒の使用量は、得られる組成物の20重量%以上、好ましくは20~99.9重量%、特に好ましくは30~99重量%である。この場合、(B)有機溶媒の使用量を20重量%以上とすることにより、レジスト下層膜形成組成物を基板に塗布して乾燥する過程で、(A)有機ポリマーが十分な流動性を維持でき、下地基板のギャップを均質に充填して平坦化することができる。」と記載されている。
しかし、甲第3号証には、(A)有機ポリマーとして、芳香族成分を含有したことによる効果についての記載がなく、芳香族成分を含有する実験例もない。また、(B)有機溶媒についても、沸点の異なる溶媒を併用することの作用効果についての記載がなく、沸点の異なる溶媒を併用した実験例もない。そうすると、甲第3号証の記載からは、溶媒以外の芳香環を有する化合物と、標準沸点が156℃未満である第1溶媒、及び、標準沸点が156℃以上300℃未満である第2溶媒とを組み合わせたことによる、本件特許発明1の効果を予測できたということができない。
したがって、甲第3号証に記載された発明を主引用発明とした場合において、当業者であっても、本件特許発明1を容易に発明できたとは言えない。本件特許発明2~11についても同様である。
(2)甲第4号証を主引用発明とする進歩性
本件特許発明1は、「溶媒以外の芳香環を有する化合物(但し、ポリシロキサンを除く。)」を含むことを要件としている。
一方、甲第4号証の特許請求の範囲及び課題を解決するための手段として記載された段落【0007】の記載に基づけば、甲第4号証に記載された発明は、「[A]ポリシロキサン」を必須の要件とするものである。
そうすると、本件特許発明1と甲第4号証に記載された発明とを対比した場合、少なくとも、甲第4号証に記載された発明が、本件特許発明1における「溶媒以外の芳香環を有する化合物(但し、ポリシロキサンを除く。)」を含むとする要件を満たすものでない点で相違する。そして、甲第4号証に記載された発明において、「[A]ポリシロキサン」は、必須の要件とされているのであるから、ポリシロキサンを除くことに阻害要因があることは明らかである。
したがって、甲第4号証に記載された発明を主引用発明とした場合において、当業者であっても、本件特許発明1を容易に発明できたとは言えない。本件特許発明2~11についても同様である。
(3)甲第5号証を主引用発明とする進歩性
本件特許発明1は、溶媒として、「標準沸点が156℃未満である第1溶媒」及び「標準沸点が156℃以上300℃未満である第2溶媒」を含むことを要件としている。
一方、甲第5号証に記載された発明は、「「[B]溶媒」」を含むものの、段落【0074】に記載されるように、「[B]溶媒としては、[A]化合物及び必要に応じて含有する任意成分を溶解又は分散することができれば特に限定されない。」とされている。また、沸点の異なる溶媒を併用することや、溶媒によって埋め込み性や平坦化を達成することを示唆する記載もない。そうすると、甲第5号証の記載からは、溶媒以外の芳香環を有する化合物と、標準沸点が156℃未満である第1溶媒、及び、標準沸点が156℃以上300℃未満である第2溶媒とを組み合わせたことによる、本件特許発明1の効果を予測できたということができない。
したがって、甲第5号証に記載された発明を主引用発明とした場合において、当業者であっても、本件特許発明1を容易に発明できたとは言えない。本件特許発明2~11についても同様である。
(4)甲第6号証を主引用発明とする進歩性
本件特許発明1は、溶媒として、「標準沸点が156℃未満である第1溶媒」及び「標準沸点が156℃以上300℃未満である第2溶媒」を含むことを要件としている。
一方、甲第6号証には、有機溶剤を含む有機下層膜形成組成物に関する発明が記載されている。段落[0037]には化合物を溶解させる溶剤として、エチレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられており、段落[0038]には、さらに、プロピレングリコールモノブチルエーテル等の高沸点溶剤を混合して使用することができると記載されている。
しかし、甲第6号証には、標準沸点が156℃未満である溶剤と標準沸点が156℃以上300℃未満である溶剤とを含むことについて記載がなく、溶剤によって埋め込み性や平坦化を達成することを示唆する記載もない。そうすると、甲第6号証の記載からは、溶媒以外の芳香環を有する化合物と、標準沸点が156℃未満である第1溶媒、及び、標準沸点が156℃以上300℃未満である第2溶媒とを組み合わせたことによる、本件特許発明1の効果を予測できたということができない。
したがって、甲第6号証に記載された発明を主引用発明とした場合において、当業者であっても、本件特許発明1を容易に発明できたとは言えない。本件特許発明2~11についても同様である。
(5)明確性要件
申立人は、特許異議申立書において、「156℃という温度にどのような意味があるのか不明である。」、「本件発明の効果はあるのか疑問である。」、「本件請求項1は不明瞭であるから特許法第36条第6項第2号の要件を具備しておらず、取り消されるべきものである。」(いずれも、第110頁)と主張している。
しかし、特許法第36条第6項第2号は、特許を受けようとする発明が明確であることを、要件して定めたものである。本件特許発明1は、第1溶媒について「標準沸点が156℃未満」であると規定し、第2溶媒について「標準沸点が156℃以上300℃未満」であると定めている。また、本件特許の段落【0011】において、「標準沸点」とは、1気圧における沸点であることが定義されている。そうすると、その構成要件である第1溶媒及び第2溶媒の範囲について明確に記載されているといえる。また、他に本件特許発明1が明確でないという事情は見当たらない。
申立人は、156℃という温度の意味が不明であることや、効果があるのか疑問であることを主張するものの、特許法第36条第6項第2号が規定する特許を受けようとする発明が明確であることとの関連がなく、また、主張の根拠も明らかにしていない。したがって、申立人の主張を採用することはできない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件特許発明1~11に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許発明1~11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700672