特許異議申立
2017-700314
表面保護用シート
- 審判番号
- 2017-700314
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2012-081144外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2017年03月28日
- 審決日
- 2017年12月25日
- 公報発行日
- 2018年05月25日
- 結論
- 請求成立(取消)
- 当事者
- 【権利者】リンテック株式会社
- 【権利者代理人】前田・鈴木国際特許業務法人
- 【異議申立人】西郷 新
- 分類
- P1651.121-ZC (H01L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第29条第1項、特許法第36条第4項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第5997477号発明「表面保護用シート」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第5997477号の請求項1、2、5、6に係る特許を取り消す。
特許第5997477号の請求項3、4に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
1.手続の経緯
特許第5997477号の請求項1~6に係る特許についての出願は、平成28年9月2日付けでその特許権の設定登録がされ、その後、特許異議申立人西郷新(以下「特許異議申立人」という)より請求項1~6に対して特許異議の申立てがされ、平成29年5月30日付けで取消理由が通知され、平成29年7月28日に意見書が提出され、平成29年8月31日付けで取消理由通知(決定の予告)がされ、平成29年11月6日に意見書が提出されたものである。
2.本件発明
特許第5997477号の請求項1~6に係る発明(以下それぞれ「本件発明1」等という。)は、それぞれその特許請求の範囲の請求項1~6に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
半導体ウエハの裏面研削を行う際に用いる表面保護用シートであって、
基材シートの片面に、貼付する半導体ウエハの外径よりも小径の非粘着部と、該非粘着部を囲繞する粘着部とを有し、
該粘着部の23℃における粘着力が500mN以上である表面保護用シート。
【請求項2】
前記粘着部の幅が0.1~30mmである請求項1に記載の表面保護用シート。
【請求項3】
前記粘着部の40℃における粘着力が200mN以上である請求項1または2に記載の表面保護用シート。
【請求項4】
前記粘着部の80℃における粘着力が50mN以上である請求項3に記載の表面保護用シート。
【請求項5】
前記粘着部が、単層の粘着剤層からなる請求項1~4の何れかに記載の表面保護用シート。
【請求項6】
前記粘着部の厚さが1~40μmである請求項5に記載の表面保護用シート。」
3.取消理由についての当審の判断
(1)引用文献
ア 甲第1号証(特開2005-123382号公報)
取消理由通知において引用した甲第1号証(以下「甲1」という。)には、以下の事項が記載されている。
(ア) 「【請求項1】
半導体ウエハの裏面研削を行う際に用いる表面保護用シートであって、
基材シートの片面に、貼付する半導体ウエハの外径よりも小径の粘着剤層が形成されていない開口部と、その外周に形成された粘着剤層が形成されている部分とが設けられている表面保護用シート。」
(イ) 「【0013】
以下、本発明について、図面を参照しながらさらに具体的に説明する。
本発明に係る表面保護用シート10は、図1に断面図、図2に斜視図を示したように、
基材シート1の片面に、貼付する半導体ウエハの外径よりも小径の粘着剤層が形成されていない開口部3と、その外周に形成された粘着剤層2が形成されている部分とが設けられてなることを特徴としている。・・・」
(ウ) 「【0016】
また、粘着剤層2は粘着剤の単層で形成されていてもよいし、図1に示したように、芯材フィルム22の両面に粘着剤層21,23を設けた両面粘着シートであってもよい。
・・・
【0018】
粘着剤層2の好ましい厚さは、貼付されるウエハ4に形成されたバンプ5の高さによって決定される。粘着剤層の厚み(At)とバンプの高さ(Bt)とした場合、その差(Bt-At)は好ましくは-5~+50μm、さらに好ましくは±0~+40μm、特に好ましくは+10~+30μmである。例えば、バンプ5の高さ(Bt)が100μmであった場合、好ましい粘着剤層2の厚さ(At)は50~105μm、好ましくは60~100μm、特に好ましくは70~90μmである。このような厚さの関係とすれば、ウエハのバンプ5と基材シート1とが適度な圧力で接し、研削加工時に表面保護用シート10の剥がれや位置ずれ等が起きにくくなる。その差(Bt-At)の値が負であり、粘着剤層がバンプの高さよりも厚く隙間が開いていたとしても、その値が小さければ研削加工時の押し圧による半導体ウエハの撓みにより、適度な圧力が発生し、ウエハ全体が固定可能となる。」
(エ) 「【0023】
・・・
(ウエハの裏面研削)
本発明の半導体ウエハの研削方法に使用されるウエハは、回路面上にバンプが形成されるものであれば、いかなる構成のウエハであってもよいが、バンプの高さが50μm以上、好ましくは100μm以上であり、最も外に配置されるバンプの位置がウエハの外周から2~10mm内側であるウエハが、従来の表面保護用粘着シートでの適用が困難であったが、本発明においてより好適に用いられる。」
(オ) 「【0027】
続いて、重剥離タイプの剥離フィルム(リンテック社製、商品名SP-PET3811、厚み38μm)の剥離処理面にエネルギー線硬化型粘着剤(n-ブチルアクリレート/アクリル酸=91/9(重量部)の共重合体(重量平均分子量約60万)100重量部、ウレタンアクリレート(分子量約7000)120重量部、架橋剤(イソシアナート系)2重量部)を乾燥膜厚が15μmとなるように塗布乾燥し、先に作成した片面粘着シートの無塗布面(PETフィルム側)にエネルギー線硬化型粘着剤の塗布面を積層し、粘着剤層の厚みが80μmの両面粘着シートを作成した。
(3)(2)で作成した両面粘着シートの剥離フィルム(軽剥離タイプ)からエネルギー線硬化性粘着剤層までの層を、剥離フィルム(重剥離タイプ)のみを残すようにして直径190mmの円形に打ち抜き、この円形部分を除去した。打ち抜かれた剥離フィルム(軽剥離タイプ)を剥離し、露出した強粘着タイプのアクリル系粘着剤面を(1)で作成した基材フィルムに積層した。
【0028】
続いて先に打ち抜いた円形部分に同心円になるように、基材シートからエネルギー線硬化性粘着剤層までの層を、剥離フィルム(重剥離タイプ)のみを残すようにして直径200mmの円形に打ち抜き、その外周部分を除去し開口部を形成した。このようにして、基材シート上に外周に幅が5mmの粘着剤層が設けられている直径200mmの表面保護用シートを作成した。
(4) 直径200mm、厚さ750μmのシリコンウエハの鏡面上にドット状の印刷(ドット高さ:100μm、ドット径:100~200μm、ドットピッチ:1mm、ドットの最も外側の位置:ウエハ外周より6mm)を施し、これをバンプと見なした。このシリコンウエハの印刷面上に(3)で作成した表面保護用シート剥離フィルム(重剥離タイプ)を剥離し、それぞれの外郭が一致するようにラミネートした。バンプ高さを100μmとしたため、粘着剤層の厚みが80μmに対し、バンプ高さと粘着剤層の厚みの差は、20μmとなった。
【0029】
このシリコンウエハの表面保護用シート側をウエハ研磨装置の研磨テーブル面に固定し、仕上げ厚を350μmとなるように研削を行った。
【0030】
表面保護用シートが研削途中で脱落せず、ウエハの回路面側に洗浄水が滲入することもなく、またウエハが破損することもなく研削を完遂することができた。さらに表面保護用シートにエネルギー線(紫外線)を照射して剥離した後、回路面を観察したところ異物を確認することはなかった。」
(カ)甲1に記載された発明
上記記載からみて、甲1には以下の発明が記載されていると認められる。
「半導体ウエハの裏面研削を行う際に用いる表面保護用シートであって、
基材シートの片面に、貼付する半導体ウエハの外径よりも小径の粘着剤層が形成されていない開口部と、その外周に形成された粘着剤層が形成されている部分とを有する表面保護用シート。」(以下「引用発明」という。)
イ 甲第2号証(特開2008-214386号公報)
取消理由通知において引用した甲第2号証(以下「甲2」という。)には、以下の事項が記載されている。
(ア)「【0003】
通常の加工プロセスにおいては、半導体ウエハは、研削工程後のダイシング工程によりチップ化される。近年の半導体製造工程においては、半導体ウエハの径が大きくなるとともに厚みの極薄化が進んでいることから、半導体ウエハが極めて破損しやすくなり、研削工程後のウエハの取り扱いが困難になってきている。このため、研削工程に先立ちウエハにハーフカットダイシングを行い、研削と同時にウエハをチップ化する先ダイシングプロセス(DBGプロセス)が有望視されている。DBGプロセスにおいては、保護シートは、ハーフカットされたウエハの回路面に貼付される(例えば特許文献2)。
【0004】
通常プロセスに用いられる保護シートは、研削水の浸入をウエハの外周で防止できる程度にウエハの回路面に密着していれば良い。これに対し、DBGプロセスでは、研削の途中でウエハがチップ化されるため、用いられる保護シートには、洗浄水の浸入をチップごとに防止するのに充分なほどの表面への密着性が必要とされている。・・・」
(イ)「【0047】
本発明の粘着シートは、上述したように半導体装置の製造工程のうち、DBGプロセスにおける保護シートとして好適であるが、これには限定されず、凹凸の大きい面を有する材料に一次接着させるための粘着シートとしても好適である。例えば、通常プロセスの半導体ウエハの保護シートとしても好適である。また、表面が平滑な被着体への一時的な貼付用としての使用にも好適である。」
(ウ)表2
(エ)「【0063】
粘着力:被着体をシリコンウエハの鏡面とした以外は、JIS Z0237に準じて万能型引張試験機(株式会社オリエンティック社製、TENSILON/UTM-4-100)を用いて実施例および比較例の粘着シートの粘着力を測定し、エネルギー線硬化前の粘着力とした。・・・」
(オ)「【0068】
以上のように本実施形態によれば、極性の高いモノマーであって、重合反応等に悪影響を及ぼすことのない(メタ)アクリロイルモルホリンを用いて、エネルギー線硬化型アクリル共重合体と、極性の高いウレタンアクリレートとを併用することにより、ウエハ回路面等に対する凹凸追従性能、粘着力に優れ、研削時の研削水等のウエハ回路面への浸入を防止可能であるとともにカーフシフトを発生させず、なおかつ粘着剤残渣を生じさせない粘着シートを実現できる。
【0069】
粘着シートを構成する各部材の材質は、本実施形態において例示されたものに限定されない。また、粘着シートの用途は、先ダイシングプロセスによる加工時の半導体ウエハの保護に限定されず、従来の加工法における半導体ウエハの保護、もしくは半導体ウエハ以外の部品における表面等を保護するためにも使用できる。」
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と引用発明とを対比すると、引用発明の「粘着剤層が形成されていない開口部」及び「その外周に形成された粘着剤層が形成されている部分」は、本件発明1の「非粘着部」及び「該非粘着部を囲繞する粘着部」に相当する。
そうすると、本件発明1と引用発明とは、以下の点で一致し、また相違するものと認められる。
<一致点>
「半導体ウエハの裏面研削を行う際に用いる表面保護用シートであって、
基材シートの片面に、貼付する半導体ウエハの外径よりも小径の非粘着部と、該非粘着部を囲繞する粘着部を有する表面保護用シート。」
<相違点>
本件発明1の粘着部が、「23℃における粘着力が500mN以上である」のに対し、引用発明の粘着部は粘着力の条件は不明である点。
イ 判断
相違点について検討する。
甲2の表2には、実施例1~6として、粘着シートのエネルギー線硬化型粘着剤層について、硬化前の粘着力が8000~15500mN/25mmであることが示されている(上記(1)イ(ウ)を参照)。そして、甲2の【0063】では粘着力を「JIS Z0237」に準じて測定したことが記載されている(上記(1)イ(エ)を参照)から、上記の粘着力は23℃におけるものと判断できるものである。
また、甲2の【0047】には、「本発明の粘着シートは、上述したように半導体装置の製造工程のうち、DBGプロセスにおける保護シートとして好適であるが、これには限定されず、凹凸の大きい面を有する材料に一次接着させるための粘着シートとしても好適である。例えば、通常プロセスの半導体ウエハの保護シートとしても好適である。」とも記載されている(上記(1)イ(イ)を参照)。ここで、「通常プロセス」とは、甲2の【0003】-【0004】の記載を見ると、DBGプロセスを導入する以前の、研削工程後にダイシング工程を行うものであり(上記(1)イ(ア)を参照)、その際、ウエハの外周部分で粘着剤により保護シートを貼付する工程を行うものも当然含むものである。
さらに、甲2の【0068】の「ウエハ回路面等に対する凹凸追従性能、粘着力に優れ、研削時の研削水等のウエハ回路面への浸入を防止可能であるとともにカーフシフトを発生させず、なおかつ粘着剤残渣を生じさせない粘着シートを実現できる」との記載から、当業者であれば、甲2の粘着シートが、「粘着力に優れ、なおかつ粘着剤残渣を生じさせない」という作用効果を有するものであることは当然認識するものであり、同【0069】の「粘着シートの用途は、先ダイシングプロセスによる加工時の半導体ウエハの保護に限定されず、従来の加工法における半導体ウエハの保護、もしくは半導体ウエハ以外の部品における表面等を保護するためにも使用できる」や同【0047】の「表面が平滑な被着体への一時的な貼付用としての使用にも好適」との記載から、当業者であれば、甲2の粘着シートが、用途として、半導体のDBGプロセス加工以外にも、半導体の通常の加工から広く一般的に平滑な被着体表面の貼着にまでも、上記の優れた粘着力を活かして使用できることが、理解されるものである。
そうすると、甲2に記載された粘着シートの、凹凸の多い箇所でさえ密着性が高く、「通常プロセス」の保護シートや一般の被着体の平滑表面にさえも適用可能な粘着力を利用して、引用発明の半導体ウエハの外周部分にエネルギー線硬化性粘着剤層が形成されている表面保護用シートに適用することも、当業者であれば容易に想到するものである。そして、その適用の際に、甲1の【0028】の「基材シート上に外周に幅が5mmの粘着剤層が設けられている」という記載(上記(1)ア(オ)を参照)に基づいて、甲2に示された粘着シートの粘着層を5mm幅で用いることで、引用発明の粘着部の23℃における粘着力を500mN以上のものとすることも、当業者が困難なく成し得る程度の事項である。
したがって、本件発明1は、引用発明及び甲2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって、本件請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(3)本件発明2について
粘着部の幅が「0.1~30mm」である点については、甲1の【0028】にも、粘着部の幅を5mmにしたことが記載されているから、引用発明において粘着部の幅を「0.1~30mm」の範囲内とすることは、当業者が容易に想到する事項である。
したがって、本件発明2は、引用発明及び甲2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって、請求項2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(4)本件発明5について
粘着部が「単層の粘着剤層からなる」点については、甲1の【0016】にも、「粘着剤層2は粘着剤の単層で形成されていてもよい」との記載があるから、引用発明において粘着部を「単層の粘着剤層からなる」ものにすることは、当業者が容易に想到する事項である。
したがって、本件発明5は、引用発明及び甲2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって、請求項5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(5)本件発明6について
粘着部の厚さが「1~40μm」である点については、当該数値範囲に格別な臨界的意義があるとも認められず、甲1の【0018】及び【0023】の記載からみて、引用発明の粘着剤層の厚みを1~40μmとすることも、当業者が容易に想到する事項である。
したがって、本件発明6は、引用発明及び甲2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって、請求項6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(6)意見書における特許権者の主張について
ア 特許権者は平成29年7月28日付け意見書において、甲2にはDBGプロセスに用いられる強粘着剤を用いた裏面研削用粘着テープが開示されており、甲1の環状保護用シートに適用する理由がない旨、また、甲2の発明の課題はDBGプロセスに用いる保護シートに係るものであって、本件発明や甲1の環状保護用シートでは想定しえないため、甲1と甲2とでは課題の共通性がなく、両者を結び付ける理由がない旨、主張している。
しかし、上記(2)イで述べたように、甲2の保護シートは、DBGプロセス用に限定されることなく、甲1のような通常プロセスの環状保護用として使用することも好適であることが、甲2に開示されており、引用発明の粘着剤も甲2の保護シートの粘着剤も、ともにエネルギー線硬化型という同種の粘着剤を使用できることが、甲1及び甲2の両者で開示されていることから見て、実施例での用途や発明の課題の共通性にこだわることなく、引用発明の保護シートの粘着剤層として甲2の実施例に示された粘着剤を用いることが、当業者にとって格別困難性があるものとは認められない。
イ また、特許権者は平成29年11月6日付け意見書において、甲2の「通常プロセス」における粘着剤層の貼付位置は凹凸の大きな面であり、一方、甲1の環状粘着部の貼付位置はウエハ外周の平滑面であって異なるから、甲2の粘着剤層を甲1の外周平滑面に適用することはない旨、主張している。
しかし、甲1の【0031】に「ウエハ4の外郭部には粘着剤層2が全周を囲って確実に接着できているため、研削加工時の洗浄水等の滲入は起こらずウエハの回路面を汚染することがない。」と記載されているように、甲1の「表面保護用シート」の環状貼着部の粘着剤層は、平滑面とはいえ粘着力が高く確実に接着できるものを要求していると解すべきであるから、たとえ貼付位置が異なるものであっても、甲2の凹凸面でも確実に研削水等の侵入を防止可能な粘着剤層を有する粘着シートを認識した当業者であれば、甲2の粘着剤層を採用することは、特に困難なく行えるというべきである。
ウ さらに、特許権者は平成29年11月6日付け意見書において、甲2の発明の課題は、「チップ外周への密着が困難」、「回路への密着性(凹凸追従性)」、「カーフシフトが生じ易くなる」というDBGプロセスに固有のものであって、甲1の環状保護用シートでは想定しえず、甲1と甲2とでは課題の共通性がなく、両者を結び付ける理由がない旨も主張している。
しかし、確かに甲2には上記DGBプロセスに固有の発明の課題が記載されているが、発明が解決しようとする課題はこれら以外にも、「粘着力に優れ」、「研削時の研削水等のウエハ回路面への侵入を防止可能で」、「なおかつ粘着剤残渣を生じさせない」、「粘着シートを実現することを目的と」していることも記載されており(甲2の【0006】を参照)、このようなDGBプロセスに固有でない発明の課題に対応することで、DBGプロセスに限定されず、通常プロセス等従来の加工法や、半導体ウエハ以外の表面が平滑な被着体や部品にも適用できることも記載されている(【0047】及び【0069】の記載を参照)。そして、甲2の「粘着力に優れ」た「粘着シートを実現する」という課題は、上記イで説示したように甲1の「表面保護用シート」も同様に有していると認められるから、甲1と甲2とでは課題の共通性がないという上記特許権者の主張は失当である。
したがって、上記特許権者の主張を採用することはできない。
4.取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)特許法第29条第1項及び第2項
ア 本件発明3について
本件発明3の特定事項である「前記粘着部の40℃における粘着力が200mN以上である」点については、甲1~甲6のいずれにも記載されていない。
甲4には、「粘着剤の粘着力が温度25℃において980~5000mN/20mm2、温度80℃において900mN/20mm2以下である」「加熱剥離型粘着シート」が記載されている(【請求項3】、【0018】の記載を参照)ものの、40℃における粘着力は不明である。また、温度ごとに粘着力を規定する点が開示されていたとしても、40℃における具体的な粘着力の数値については開示も示唆もされていない。
さらに、他に本件発明3の上記点について、開示されている証拠も見当たらない。
そして、本件発明3は、上記の点により、粘着部の粘着力を加熱環境下でも極端に低下しない範囲に維持して、表面保護シートの脱落を防止するという効果を奏するものである。
そうすると、本件発明3は、引用発明ではなく、引用発明及び甲1~6に記載された事項から当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ 本件発明4について
本件発明4は、本件発明3を引用するものであって、本件発明3で特定された事項を全て含み、「前記粘着部の80℃における粘着力が50mNである」というさらなる限定事項を付加したものである。
そうすると、本件発明4は、本件発明3と同様に、引用発明ではなく、引用発明及び甲1~6に記載された事項から当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2)特許法第36条第4項及び第6項
ア 記載不備1(技術的意義が不明)
特許異議申立人は特許異議申立書9ページ2~6行で、「粘着力を500mN以上に規定したことの技術的意義が全く不明」と主張する。しかし、甲1の記載において、甲1の表面保護シートの粘着部の粘着力が不明であって500mN以上か否か判断できない以上、甲1の記載を基に本件発明1の粘着力の数値の技術的意義を論ずることはできないから、当該主張は失当である。
イ 記載不備2(剥がれが生じるかどうかは裏面研削条件に影響を受ける)
特許異議申立人は特許異議申立書9ページ18~29行で、「裏面研削時に表面保護シートが剥がれるかどうかについては、・・・様々な因子が関連し、粘着力が500mN以上であれば剥がれず、500mN未満であれば剥がれるという単純なものではないことは自明である。」と主張する。しかし、このように「自明である」とする根拠として、具体的な因子名は挙げているものの、それら因子の具体的な数値と粘着力との関係及び実際に剥がれが生じるか否かの結果も不明であるから、当該主張は単なる推測の域を超えておらず、採用することはできない。
ウ 記載不備3(実施例が再現不可能)
特許異議申立人は特許異議申立書9ページ30~39行で、「実施例に開示されている情報が少なすぎて、実施例の再現実験を行うことが不可能である。」と主張する。しかし、粘着剤については、本件明細書の【0035】-【0044】において、選択できる粘着剤の具体的な材質について種々説明しており、実施例においても粘着力の物性値は明示されているから、当業者の技術常識の範囲で紫外線硬化型粘着剤A~Cを選択することは可能であると認められる。また、裏面研削についても、当業者が通常行う範囲の研削条件を採用すれば足りるものである。そうすると、当該主張のように「実施例に開示されている情報が少なすぎ」るものとは言えず、当該主張を採用することはできない。
エ 本件特許発明3~4の効果について
特許異議申立人は特許異議申立書10ページ20~37行で、「本件特許発明3の効果は実験によってサポートされていない。」と主張する。しかし、本件特許発明3~4の効果は、本件明細書の【0031】を見ると、粘着部の粘着力を加熱環境下でも極端に低下しない範囲に維持して、表面保護シートの脱落を防止することと認められ、本件明細書の表1には、粘着剤の粘着力が23℃から40℃、80℃と上昇しても所定の範囲内にあるものが実施例であり、所定の範囲より低下するものが比較例であって、研削適正も実施例と比較例とで評価が分かれるものであるから、実施例のものが効果があることが認められる。よって、当該主張は理由がなく、採用することはできない。
5.むすび
以上のとおり、本件発明1、2、5、6は、引用発明及び甲2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件請求項1、2、5、6に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
また、本件発明3、4については、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項3、4に係る特許を取り消すことができない。さらに、他に本件請求項3、4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2017-700314