特許異議申立
2025-700180
ポリスチレン系樹脂発泡体及び展示用パネル
- 審判番号
- 2025-700180
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-069537
- 登録番号
- 7532305
- 請求日
- 2025年02月12日
- 審決日
- 2025年12月22日
- 公報発行日
- 2026年03月27日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】積水化成品工業株式会社
- 【権利者代理人】西澤 和純
- 【権利者代理人】川越 雄一郎
- 【権利者代理人】大槻 真紀子
- 【権利者代理人】山口 洋
- 【異議申立人】西郷 新
- 審判長/審判官
- 審判長 柴田 昌弘
- 審判官 加藤 友也
- 審判官 天野 宏樹
- 分類
- P1651.113-YAA(C08J) / P1651.121-YAA(C08J)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第9項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7532305号発明「ポリスチレン系樹脂発泡体及び展示用パネル」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7532305号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~5〕について訂正することを認める。
特許第7532305号の請求項1~5に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7532305号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~5に係る特許についての出願は、令和3年4月16日の出願であって、令和6年8月2日にその特許権の設定登録がされ、同年同月13日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対して、令和7年2月12日に特許異議申立人西郷新(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立て(対象:全請求項)がされたものである。
その後の手続の経緯は以下のとおりである。
令和7年6月 9日付け:取消理由通知
同年8月 7日 :訂正請求書及び意見書(特許権者)
同年8月15日付け:訂正請求があった旨の通知
(特許法第120条の5第5項)
なお、令和7年8月15日付け訂正請求があった旨の通知に対し、申立人からは何ら応答がなかった。
以下、令和7年8月7日に提出された訂正請求書を「本件訂正請求書」といい、本件訂正請求書による訂正の請求を「本件訂正請求」といい、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。
第2 訂正請求について
1.訂正の内容
本件訂正請求の趣旨は、「特許第7532305号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~5について訂正することを求める。」というものであり、本件訂正の内容は以下のとおりである。
なお、以下において、隅付き括弧は「[ ]」と表記した。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「前記スチレン-ブタジエン共重合体の含有量が、前記ポリスチレン系樹脂の総質量に対して、10~65質量%である」と記載されているのを、「前記スチレン-ブタジエン共重合体の含有量が、前記ポリスチレン系樹脂の総質量に対して、20~65質量%である」に訂正する。請求項1の記載を引用する請求項4、5についても同様に訂正する。
(2)訂正事項2
ア 訂正事項2-1
特許請求の範囲の請求項2に「板状又はシート状であり、ポリスチレン系樹脂を含む発泡層を有し、」と記載されているのを、「板状であり、ポリスチレン系樹脂を含む2層以上の発泡層を有し、」に訂正する。請求項2の記載を引用する請求項4、5についても同様に訂正する。
イ 訂正事項2-2
特許請求の範囲の請求項2の末尾に「ポリスチレン系樹脂発泡体」と記載されているのを、「展示用パネルに用いられる、ポリスチレン系樹脂発泡体」に訂正する。請求項2の記載を引用する請求項4、5についても同様に訂正する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に「前記スチレン-ブタジエン共重合体の含有量が、前記ポリスチレン系樹脂の総質量に対して、10~65質量%であり、」と記載されているのを、「前記スチレン-ブタジエン共重合体の含有量が、前記ポリスチレン系樹脂の総質量に対して、20~65質量%であり、」に訂正する。請求項3の記載を引用する請求項4、5についても同様に訂正する。
なお、訂正前の請求項1~5について、請求項4は、請求項1~3のいずれかを引用し、請求項5は、請求項1~4のいずれかを引用するものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであり、訂正事項2-1、2-2によって記載が訂正される請求項2に連動して訂正されるものであり、また、訂正事項3によって記載が訂正される請求項3に連動して訂正されるものである。
したがって、訂正前の請求項1、4、5に対応する訂正後の請求項1、4、5、訂正前の請求項2、4、5に対応する訂正後の請求項2、4、5、訂正前請求項3、4、5に対応する訂正後の請求項3、4、5は、それぞれ一群の請求項となるが、共通の請求項4、5があることにより、組み合わされて、訂正前の請求項1~5に対応する訂正後の請求項1~5は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項となる。
よって、本件訂正は一群の請求項をなす請求項1~5を訂正の単位として請求されたものである。
2.訂正の適否
(1)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
ア 訂正事項1及び3について
訂正事項1及び3は、それぞれ訂正前の請求項1又は3に記載されていたポリスチレン系樹脂の総質量に対するスチレン-ブタジエン共重合体の含有量である「10~65質量%」を、願書に添付した明細書の[0028]及び実施例3([0094]の[表2])等の記載に基づいて「20~65質量%」に減縮するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。また、訂正事項1及び3が実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。請求項1又は3を直接又は間接的に引用する請求項4及び5の訂正も同様である。
よって、訂正事項1及び3は、いずれも特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
イ 訂正事項2-1について
訂正事項2-1は、訂正前の請求項2に記載されていたポリスチレン系樹脂発泡体についての「板状又はシート状であり、」を、選択肢の一つを削除することにより「板状であり、」に訂正するとともに、訂正前の請求項2に記載されていたポリスチレン系樹脂発泡体についての「ポリスチレン系樹脂を含む発泡層を有し、」を、願書に添付した明細書の[0012]、[0050]及び[0062]等の記載に基づいて「ポリスチレン系樹脂を含む2層以上の発泡層を有し、」に訂正するものであるから、いずれも特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。また、訂正事項2-1が実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。請求項2を直接又は間接的に引用する請求項4及び5の訂正も同様である。
よって、訂正事項2-1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
ウ 訂正事項2-2について
訂正事項2-2は、訂正前の請求項2に記載されていたポリスチレン系樹脂発泡体について、願書に添付した明細書の[0007]等の記載に基づいて「展示用パネルに用いられる」という発明特定事項を直列的に付加することにより減縮するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。また、訂正事項2-2が実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。請求項2を直接又は間接的に引用する請求項4及び5の訂正も同様である。
よって、訂正事項2-2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
(2)独立特許要件について
本件においては、訂正前のすべての請求項1~5に対して特許異議の申立てがされているので、上記訂正事項1~3に関して、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
3.訂正請求についてのまとめ
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
よって、結論のとおり、本件特許の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~5〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2のとおり、本件訂正は認められるので、本件訂正請求により訂正された特許請求の範囲の請求項1~5に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明5」という。まとめて、「本件発明」ということもある。)は、それぞれ、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~5に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「[請求項1]
板状又はシート状であり、
ポリスチレン系樹脂を含む発泡層を有し、
前記ポリスチレン系樹脂は、ブタジエン成分を含み、
前記ブタジエン成分の含有量が、前記発泡層の総質量に対して、0.4~4.0質量%であり、
前記ポリスチレン系樹脂のZ平均分子量(Mz)が、30~65万であり、
前記ポリスチレン系樹脂が、スチレン-ブタジエン共重合体を含み、
前記スチレン-ブタジエン共重合体の含有量が、前記ポリスチレン系樹脂の総質量に対して、20~65質量%である、ポリスチレン系樹脂発泡体。
[請求項2]
板状であり、
ポリスチレン系樹脂を含む2層以上の発泡層を有し、
前記ポリスチレン系樹脂は、ブタジエン成分を含み、
前記ブタジエン成分の含有量が、前記発泡層の総質量に対して、0.4~4.0質量%であり、
前記ポリスチレン系樹脂のZ平均分子量(Mz)が、30~65万であり、
前記ポリスチレン系樹脂のZ平均分子量(Mz)を前記ポリスチレン系樹脂の質量平均分子量(Mw)で除した分子量分布(Mz/Mw)が、1.6~2.2である、
展示用パネルに用いられる、ポリスチレン系樹脂発泡体。
[請求項3]
板状又はシート状であり、
ポリスチレン系樹脂を含む発泡層を有し、
前記ポリスチレン系樹脂は、ブタジエン成分を含み、
前記ブタジエン成分の含有量が、前記発泡層の総質量に対して、0.4~4.0質量%であり、
前記ポリスチレン系樹脂のZ平均分子量(Mz)が、30~65万であり、
前記ポリスチレン系樹脂が、スチレン-ブタジエン共重合体を含み、
前記スチレン-ブタジエン共重合体の含有量が、前記ポリスチレン系樹脂の総質量に対して、20~65質量%であり、
前記ポリスチレン系樹脂のZ平均分子量(Mz)を前記ポリスチレン系樹脂の質量平均分子量(Mw)で除した分子量分布(Mz/Mw)が、1.6~2.2である、ポリスチレン系樹脂発泡体。
[請求項4]
前記ポリスチレン系樹脂がリサイクル品由来のポリスチレン系樹脂である、請求項1~3のいずれか一項に記載のポリスチレン系樹脂発泡体。
[請求項5]
請求項1~4のいずれか一項に記載のポリスチレン系樹脂発泡体の双方又はいずれか一方の面に表皮材が設けられている、展示用パネル。」
第4 特許異議申立理由の概要
申立人は、証拠方法として下記2.に示す甲第1号証~甲第8号証(以下、「甲1」~「甲8」という。)を提出し、概略、以下の特許異議申立理由を主張している。なお、特許異議申立理由の番号は当審が仮に付与した。
1.特許異議申立理由
(1)申立理由1-1(甲1に基づく新規性欠如)
本件発明1~3は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができるものではなく、それらの発明についての特許は同条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(2)申立理由1-2(甲7に基づく新規性欠如)
本件発明2は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲7に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができるものではなく、その発明についての特許は同条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(3)申立理由2-1(甲1に基づく進歩性欠如)
本件発明1~5は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲1に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができるものではなく、それらの発明についての特許は同条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(4)申立理由2-2(甲7に基づく進歩性欠如)
本件発明2、4及び5は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲7に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができるものではなく、それらの発明についての特許は同条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
2.証拠方法
甲1:特開2014-205761号公報
甲2:一般社団法人資源プラ協会,"[Q&A]ABS樹脂って・・・",一般社団法人資源プラ協会HP,[online],一般社団法人資源プラ協会,2020年12月7日,[2025年1月30日印刷],インターネット<URL:https://www.shigenpla.com/post/[q&a]abs樹脂って・・・>
甲3:日本スチレン工業会,"ポリスチレン(PS)の製造方法について",日本スチレン工業会HP,[online],The Wayback Machine,2021年5月9日,インターネット<URL:https://web.archive.org/web/20210509104806/https://jsia.jp/polystyrene/production.html>
甲4:特開2008-214533号公報
甲5:特開2010-174193号公報
甲6:登録実用新案第3218398号公報
甲7:特開2019-194287号公報
甲8:特開2014-169391号公報
証拠の表示は当審による。
第5 取消理由通知に記載した取消理由の概要
令和7年6月9日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、以下のとおりである。
1.取消理由1-1(甲1に基づく新規性欠如)
本件発明1~3は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができるものではなく、それらの発明についての特許は同条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
2.取消理由1-2(甲7に基づく新規性欠如)
本件発明2は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲7に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができるものではなく、その発明についての特許は同条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
3.取消理由2-1(甲1に基づく進歩性欠如)
本件発明1~4は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができるものではなく、それらの発明についての特許は同条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
4.取消理由2-2(甲7に基づく進歩性欠如)
本件発明2及び4は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲7に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができるものではなく、それらの発明についての特許は同条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
第6 取消理由通知に記載した取消理由についての判断
当審は、取消理由通知に記載したいずれの取消理由によっても、本件発明についての特許を取り消すことはできないと判断する。理由は以下のとおり。
1.取消理由1-1(甲1に基づく新規性欠如)及び取消理由2-1(甲1に基づく進歩性欠如)について
(1)甲1に記載された事項
甲1には以下の事項が記載されている。
(1-1)「[特許請求の範囲]
[請求項1]
メタクリル酸の含有量が2~7質量%であるスチレン-メタクリル酸共重合体97~15質量部、ポリフェニレンエーテル3~25質量部、ポリスチレン0~60質量部からなり、重量平均分子量(Mw)が16万以上である耐熱性樹脂発泡シート。ただし、この耐熱性樹脂中の各樹脂成分の混合量は、合計100質量部とする。
[請求項2]
Z平均分子量(Mz)/重量平均分子量(Mw)が1.6以上である請求項1記載の耐熱性樹脂発泡シート。
[請求項3]
前記耐熱性樹脂がゴム補強材を1~10質量部含む事を特徴とする請求項1~2記載の耐熱性樹脂発泡シート。
[請求項4]
前記ゴム補強材がハイインパクトポリスチレンであることを特徴とする請求項3記載の耐熱性樹脂発泡シート。」
(1-2)「[発明が解決しようとする課題]
[0009]
本発明者らは、上記に記載したポリスチレン系樹脂を用いた発泡シートの耐熱性と強度、成形性のバランスに優れるという課題を達成するため、鋭意研究を進めたところ、特定の組成を持つスチレン-メタクリル酸共重合体とポリフェニレンエーテルを組み合わせ、特定の重量平均分子量(Mw)とする事で、耐熱性と強度、成形性のバランスに優れる耐熱性樹脂発泡シートが得られる事を見出し、本発明の完成に至った。
・・・
[0011]
本発明の耐熱性樹脂発泡シートは耐熱性と強度、成形性のバランスに優れるため、発泡シートを軽量化した場合でも、十分な耐熱性と強度を有する食品容器を提供する事が出来る。また、深絞り等の多様な形状に加工する事が出来るため、電子レンジ用食品容器として幅広い用途で使用する事が出来る。」
(1-3)「[0023]
本発明の耐熱性樹脂は当該樹脂100質量部中にゴム補強材を1~10質量部含むことが好ましい。ゴム補強材とは、スチレンとブタジエンを構成単位として持つゴム質ポリマーであって、具体的には、ハイインパクトポリスチレン、スチレン-ブタジエン共重合体、スチレン-ブタジエン-スチレン共重合体、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン共重合体、メタクリル酸メチル-ブタジエン-スチレン共重合体等が挙げられる。中でも耐熱性と補強効果のバランスの面でハイインパクトポリスチレンが好ましい。ハイインパクトポリスチレンのゴム分は5~12質量%が好ましく、7~12質量%がより好ましい。」
(1-4)「[0025]
また、本発明の耐熱性樹脂には、発泡シートを二次成形した際に発生するスケルトンと呼ばれる打抜き屑やそのリサイクルペレットを本発明の効果を損なわない範囲で配合することができる。」
(1-5)「[0028]
本発明の耐熱性樹脂発泡シートは、前記耐熱性樹脂を発泡剤とともに溶融押出する事で得られ、公知の押出発泡シート製造方法を用いる事が出来る。具体的には、単軸押出機や二軸押出機を2基直列に配置し、1基目の押出機で発泡剤を発泡核剤とともに溶融混錬し、2基目の押出機で冷却により樹脂温度を120℃~180℃に調整した後、サーキュラーダイスにより大気に放出し減圧発泡する方法が挙げられる。
[0029]
発泡剤としては、プロパン、ノルマルブタン、イソブタン、ペンタン、ヘキサン等の脂肪族炭化水素、シクロブタン、シクロペンタン等の環式脂肪族炭化水素、トリクロロフロロメタン、ジクロロジフロロメタン、1,1-ジフルオロエタン、1,1-ジフルオロ-クロライド、メチレンクロライド等のハロゲン化炭化水素等の物理発泡剤を用いることができる。また、アゾジカルボンアミド、ジニトロソペンタメチレンテトラミン、アゾビスイソブチロニトリル、重炭酸ナトリウム、クエン酸等の分解型発泡剤、二酸化炭素、窒素等の無機ガスや水を使用することもできる。これら発泡剤を適宜混合して使用できるが、工業的にはブタンが使用されることが多く、発泡押出性や発泡シートの二次成形性、発泡剤の観点から、イソブタンとノルマルブタンからなる混合ブタンを使用することが好ましい。ブタンはポリスチレン系樹脂に対する透過速度が遅いため、発泡押出直後は発泡シート中に通常1~3質量%程度残存する。この残存量は二次成形における二次発泡厚や熱成形性に影響するため、一定の熟成期間を設けることで適宜調整する。
[0030]
発泡核剤としては、タルク、炭酸カルシウム、クレー等の無機物粉末が挙げられ、これらを単独あるいは混合物としても用いることができる。中でも、気泡径を小さくする効果が大きく、安価という点でタルクが最も好ましい。発泡核剤の添加方法は特に制限が無く、直接押出機の供給孔に添加しても良いし、耐熱性樹脂と共に添加することもできる。また、スチレンの単独重合体やスチレン-メタクリル酸メチル共重合体等を基材としたマスターバッチを作成し、そのマスターバッチを用いて供給することもできる。発泡核剤の添加量は通常、0.1~5質量%である。また、該マスターバッチには高級脂肪酸や高級脂肪酸の金属塩をあらかじめ配合しておいても良い。また、エチレンビスステアリルアミド等の滑材、流動パラフィンやシリコーンオイル等の展着剤、その他の界面活性剤、帯電防止剤、酸化防止剤、可塑剤、耐候剤、顔料等が含まれていても良い。
[0031]
本発明の耐熱性樹脂発泡シートの厚さは0.5~4.0mmが好ましく、1.0~3.0mmがより好ましい。耐熱性樹脂発泡シートの厚さが0.5mm未満では、2次成形後の容器の強度や断熱性が低下する。耐熱性樹脂発泡シートの厚さが4.0mmを超える場合、2次成形時にシートの温度ムラが発生しやすく、成形性が悪化する。」
(1-6)「[実施例]
[0041]
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
[0042]
<スチレン-メタクリル酸共重合体の製造>
(1)スチレン-メタクリル酸共重合体S-1の製造
下記第1~第3反応器を直列に接続して重合工程を構成した。
・・・
[0046]
原料液としては、以下のものを用いた。
[0047]
スチレン97質量%、メタクリル酸3質量%のモノマー構成100質量部に対してエチルベンゼン10質量部、重合開始剤として2,2ビス(4,4-t-ブチルパーオキシシクロへキシル)プロパン0.025質量部を混合した原料液
[0048]
原料液を12.0kg/hrの供給速度で120℃に設定した第1反応器に連続的に供給し重合した後、次いで128℃に設定した第2反応器に連続的に装入し重合した。第2反応器出口での重合転化率は65%であった。更に125~135℃の温度勾配がつくように調整した第3反応器にて重合転化率が70%になるまで重合を進行させた。
この重合液を直列に2段より構成される予熱器付き真空脱揮槽に導入し、未反応スチレン及びエチルベンゼンを分離した後、ストランド状に押し出して冷却した後切断してペレット化した。なお、1段目の予熱器の温度は200℃に設定し、真空脱揮槽の圧力は66.7kPaとし、2段目の予熱器の温度は240℃に設定し、真空脱揮槽の圧力は0.9kPaとした。得られたスチレン-メタクリル酸共重合体S-1の特性を表1に示す。
・・・
[0059]
[表1]
[図:0001433083000001.jpg]
」
(1-7)「[0060]
<実施例1~14、比較例1~7>
上記の方法で製造したスチレン-メタクリル酸共重合体(S-1~5)とポリスチレン、ポリフェニレンエーテル、ゴム補強材を表2~4に示す質量部比率にてヘンシェルミキサーで混合し、230~260℃に設定した二軸押出機(神戸製鋼所製、KTX30α)にて溶融コンパウンドした。ソリッド物性を表2~4に示す。
[0061]
なお、ポリスチレン、ポリフェニレンエーテル、ゴム補強材としては以下のものを用いた。
<ポリスチレン>
GPPS 商品名:「トーヨースチロール HRM12」 東洋スチレン社製
Mw=25万、Mz/Mw=2.04
<ポリフェニレンエーテル>
商品名:「IUPIACE PX100L」 三菱エンジニアリングプラスチックス社製
極限粘度0.41g/dl
商品名:「IUPIACE PX100F」 三菱エンジニアリングプラスチックス社製
極限粘度0.36g/dl
商品名:「ノリルEFN4230-111」 サビックイノベーティブプラスチックス社製
ポリフェニレンエーテル/ポリスチレン=70/30
<ゴム補強材>
HIPS1 商品名:「トーヨースチロール H848」 東洋スチレン社製
ゴム分10.0%、ゴム粒子径1.9μm
HIPS2 商品名:「トーヨースチロール E640N」 東洋スチレン社製
ゴム分6.2%、ゴム粒子径2.5μm
SBS 商品名:「タフプレン 125」 旭化成ケミカルズ社製
[0062]
次にスクリュー径40mmφと50mmφのタンデム式押出機にて発泡シートを製造した。まず、前記の溶融コンパウンドした樹脂100質量部に対しスチレン-メタクリル酸メチル共重合体60質量%とタルク40質量%からなるタルクマスターバッチ2.3質量部を均一に混合したものをスクリュー径40mmφの押出機に供給した。更に、発泡剤としてブタンを押出機先端より樹脂100質量部に対して2.5質量部の割合で圧入し溶融混合した。このときのシリンダー温度230~270℃、樹脂温度235~250℃、圧力12~18MPaであった。
その後、230℃に設定した連結管を介してスクリュー径50mmφの押出機に移送し、シリンダー温度170~200℃、樹脂温度155~165℃、15~17MPaに調整し、リップ開度0.6mm、口径40mmのサーキュラーダイスより吐出量10kg/hrで押出し直径152mmの冷却された円筒に添わせて引取り、円周の下部1点でカッターにより切開して発泡シートを得た。発泡シートの特性を表2~4に示す。
[0063]
なお、各種物性、性能評価は以下の方法で行った。
[0064]
・・・
(2)分子量
重量平均分子量(Mw)及びZ平均分子量(Mz)、数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエイションクロマトグラフィ―(GPC)を用いて、次の条件で測定した。
GPC機種:昭和電工社製Shodex GPC-101
カラム:ポリマーラボラトリーズ社製PLgel 10μm MIXED-B,300×7.5mm
移動相:テトラヒドロフラン 1.0ml/min
試料濃度:0.2質量%
温度:オーブン40℃、注入口35℃、検出器35℃
検出器:示差屈折計
単分散ポリスチレンの溶出曲線により各溶出時間における分子量を算出し、ポリスチレン換算の分子量として算出した。
・・・
[0068]
[表2]
[図:0001433083000002.jpg]
・・・
[0070]
[表4]
[図:0001433083000003.jpg]
」
(2)甲1に記載された発明
甲1の特許請求の範囲(摘記1-1)には、「メタクリル酸の含有量が2~7質量%であるスチレン-メタクリル酸共重合体97~15質量部、ポリフェニレンエーテル3~25質量部、ポリスチレン0~60質量部からなり、重量平均分子量(Mw)が16万以上である耐熱性樹脂発泡シート。」(請求項1)、「前記耐熱性樹脂がゴム補強材を1~10質量部含む事を特徴とする請求項1~2記載の耐熱性樹脂発泡シート。」(請求項3)及び「前記ゴム補強材がハイインパクトポリスチレンであることを特徴とする請求項3記載の耐熱性樹脂発泡シート。」(請求項4)が記載されており、[0023](摘記1-3)には、「ゴム補強材とは、スチレンとブタジエンを構成単位として持つゴム質ポリマーであって、具体的には、ハイインパクトポリスチレン、・・・等が挙げられる」こと、[0028]~[0030](摘記1-5)には、「本発明の耐熱性樹脂発泡シートは、前記耐熱性樹脂を発泡剤とともに溶融押出する事で得られ、公知の押出発泡シート製造方法を用いる事が出来る。具体的には、単軸押出機や二軸押出機を2基直列に配置し、1基目の押出機で発泡剤を発泡核剤とともに溶融混錬し、2基目の押出機で冷却により樹脂温度を120℃~180℃に調整した後、サーキュラーダイスにより大気に放出し減圧発泡する方法が挙げられる」こと、発泡剤としては「工業的にはブタンが使用されることが多く、発泡押出性や発泡シートの二次成形性、発泡剤の観点から、イソブタンとノルマルブタンからなる混合ブタンを使用することが好ましい」こと、及び「発泡核剤としては、・・・タルクが最も好ましい」ことが記載されている。
また、上記耐熱性樹脂発泡シートの実施例について、[0041]~[0059](摘記1-6)には、原料の一つであるスチレン-メタクリル酸共重合体S-1~S-5の製造方法及び得られた共重合体の特性が記載されており、[0059]の[表1]には、S-1~S-5のメタクリル酸含量、分子量(Z平均分子量Mz、Mz/Mw)等の特性が記載されている。さらに、[0060]~[0070](摘記1-7)には、実施例1~14及び比較例1~7の発泡シートの原料、製造方法及び得られた発泡シートの特性が記載されており、原料のうちポリスチレン、ポリフェニレンエーテル、ゴム補強材については[0061]に記載されたものを用いたこと、製造方法については、「上記の方法で製造したスチレン-メタクリル酸共重合体(S-1~5)とポリスチレン、ポリフェニレンエーテル、ゴム補強材を表2~4に示す質量部比率にてヘンシェルミキサーで混合し、230~260℃に設定した二軸押出機(神戸製鋼所製、KTX30α)にて溶融コンパウンド」し、「前記の溶融コンパウンドした樹脂100質量部に対しスチレン-メタクリル酸メチル共重合体60質量%とタルク40質量%からなるタルクマスターバッチ2.3質量部を均一に混合したものをスクリュー径40mmφの押出機に供給した。更に、発泡剤としてブタンを押出機先端より樹脂100質量部に対して2.5質量部の割合で圧入し溶融混合」し、「その後、230℃に設定した連結管を介してスクリュー径50mmφの押出機に移送し、シリンダー温度170~200℃、樹脂温度155~165℃、15~17MPaに調整し、リップ開度0.6mm、口径40mmのサーキュラーダイスより吐出量10kg/hrで押出し直径152mmの冷却された円筒に添わせて引取り、円周の下部1点でカッターにより切開して発泡シートを得た」ことが記載され、[0068]の[表2]~[0070]の[表4]には、実施例1~実施例14及び比較例1~比較例7の発泡シートの原料の配合割合、分子量(Mz、Mz/Mw)等の特性が記載されている。そして、上記[表2]及び[表4]を参照すると、実施例1~4、比較例1及び比較例7においては、スチレン-メタクリル酸共重合体S-1~S-4のいずれか、ポリフェニレンエーテルPX100L及びゴム補強材HIPS1が用いられたことが記載されている。
そこで、実施例の記載に基づいて整理すると、甲1には実施例1~4、比較例1及び比較例7に基づいて、以下の発明が記載されている。
「[0059]の[表1]に記載されたスチレン-メタクリル酸共重合体(S-1~4のいずれか)と[0061]に記載されたポリフェニレンエーテルPX100L、ゴム補強材HIPS1を[0068]の[表2]又は[0070]の[表4]に示す質量部比率にて混合、溶融コンパウンドし、前記の溶融コンパウンドした樹脂100質量部に対しスチレン-メタクリル酸メチル共重合体60質量%とタルク40質量%からなるタルクマスターバッチ2.3質量部を均一に混合したものを押出機に供給し、更に、発泡剤としてブタンを押出機先端より樹脂100質量部に対して2.5質量部の割合で圧入し溶融混合し、その後、スクリュー径50mmφの押出機に移送し、シリンダー温度170~200℃、樹脂温度155~165℃、15~17MPaに調整し、リップ開度0.6mm、口径40mmのサーキュラーダイスより吐出量10kg/hrで押出し直径152mmの冷却された円筒に添わせて引取り、円周の下部1点でカッターにより切開して得た、実施例1~4、比較例1又は比較例7の耐熱性樹脂発泡シート。」
(以下、実施例1~4、比較例1及び比較例7のそれぞれに基づく発明を「甲1実施例1発明」~「甲1比較例7発明」といい、まとめて「甲1発明」という。)
(3)本件発明1について
以下、本件発明1と甲1実施例4発明及び甲1比較例7発明とを対比する。
ア 本件発明1と甲1実施例4発明との対比、判断
(ア)本件発明1と甲1実施例4発明との対比
[表2](摘記1-7)を参照すると、甲1実施例4発明は「スチレン-メタクリル酸共重合体S-1」及び「ゴム補強材HIPS1」を含有する。ここで、本件明細書の[0027]には「本明細書において、ポリスチレン系樹脂とは、スチレン系モノマーから誘導される単位を50モル%以上含有する樹脂をいう」と記載されているところ、甲1実施例4発明における「スチレン-メタクリル酸共重合S-1」は、[表1](摘記1-6)を参照するとメタクリル酸(分子量86.09)含有量が3.2%であり、残部96.8%がスチレン(分子量104.15)であるから、本件発明1における「ポリスチレン系樹脂」に相当する。また、甲1実施例4発明における「ゴム補強材HIPS1」は、[0061](摘記1-7)を参照すると「商品名:「トーヨースチロール H848」 東洋スチレン社製 ゴム分10.0%、ゴム粒子径1.9μm」であり、[0023](摘記1-3)における「ゴム補強材とは、スチレンとブタジエンを構成単位として持つゴム質ポリマーであって、具体的には、ハイインパクトポリスチレン」との記載、甲2における「「代表例が、「耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)」であり、ゴム成分には「ポリブタジエン」を用い、これにスチレンをグラフト共重合させたものです」との記載、及び甲3における「エラストマー(一般的にはポリブタジエン)の存在下で重合して得られる耐衝撃性ポリスチレン(High Impact Polystyrene)も製造されています。HIPSはブタジエン系ゴムにスチレンをグラフト反応させながら重合します」との記載を合わせて参酌すると、上記ゴム分10.0%がブタジエン(分子量54.0916)に由来し、残部90.0%がスチレン(分子量104.15)に由来するものと解されるから、本件発明1における「ポリスチレン系樹脂」に相当する。
甲1実施例4発明における「耐熱性樹脂発泡シート。」は、上記「ポリスチレン系樹脂」についての検討及び甲1発明の製造工程を参酌すると、本件発明1における「ポリスチレン系樹脂発泡体。」に相当するとともに、「板状又はシート状であり、」、「ポリスチレン系樹脂を含む発泡層を有し、」、「前記ポリスチレン系樹脂は、ブタジエン成分を含み、」及び「前記ポリスチレン系樹脂が、スチレン-ブタジエン共重合体を含み、」を満たしている。
そうすると、両者は、
「板状又はシート状であり、
ポリスチレン系樹脂を含む発泡層を有し、
前記ポリスチレン系樹脂は、ブタジエン成分を含み、
前記ポリスチレン系樹脂が、スチレン-ブタジエン共重合体を含む、
ポリスチレン系樹脂発泡体。」
の点で一致し、
相違点甲1実4-1:本件発明1は「前記ブタジエン成分の含有量が、前記発泡層の総質量に対して、0.4~4.0質量%であり、」と特定するのに対し、甲1実施例4発明はそのようなことが明らかでない点
相違点甲1実4-2:本件発明1は「前記ポリスチレン系樹脂のZ平均分子量(Mz)が、30~65万であり、」と特定するのに対し、甲1実施例4発明はそのようなことが明らかでない点
相違点甲1実4-3:本件発明1は「前記スチレン-ブタジエン共重合体の含有量が、前記ポリスチレン系樹脂の総質量に対して、20~65質量%である、」と特定するのに対し、甲1実施例4発明はそのようなことが明らかでない点
で相違する。
そこで、事案に鑑み、相違点甲1実4-3について検討する。
(イ)相違点甲1実4-3について
a.新規性について
[表2](摘記1-7)を参照すると、甲1実施例4発明は、スチレン-メタクリル酸共重合体S-1を83質量部、ゴム補強材HIPS1を10質量部含み、上記(ア)における検討を踏まえると、これらはいずれも本件発明1における「ポリスチレン系樹脂」に相当し、ゴム補強材HIPS1は本件発明1における「スチレン-ブタジエン共重合体」に相当する。
また、甲1実施例4発明は、「溶融コンパウンドした樹脂100質量部に対しスチレン-メタクリル酸メチル共重合体60質量%とタルク40質量%からなるタルクマスターバッチ2.3質量部を均一に混合」され、その後、押出発泡成形されたものであるところ、タルクマスターバッチ2.3質量部に含まれるスチレン-メタクリル酸メチル共重合体は2.3×0.6=1.38質量部であり、主成分のスチレン-メタクリル酸共重合体S-1とスチレン含有量が近い共重合体が用いられたものと解すると、これも本件発明1における「ポリスチレン系樹脂」に相当する。そうすると、ポリスチレン系樹脂の総質量に対するスチレン-ブタジエン共重合体の含有量は、10/(83+10+1.38)×100=10/94.38×100=10.6%であるから、本件発明1における「前記スチレン-ブタジエン共重合体の含有量が、前記ポリスチレン系樹脂の総質量に対して、20~65質量%である、」を満たしていない。よって、相違点甲1実4-3は実質的な相違点である。
b.進歩性について
甲1の[0009]及び[0011](摘記1-2)の記載からみて、甲1実施例4発明が解決しようとする課題は「耐熱性と強度、成形性のバランスに優れる耐熱性樹脂発泡シート」の提供にあり、甲1実施例4発明は「発泡シートを軽量化した場合でも、十分な耐熱性と強度を有する食品容器を提供する事が出来る。また、深絞り等の多様な形状に加工する事が出来るため、電子レンジ用食品容器として幅広い用途で使用する事が出来る」ものであると解される。また、[0023](摘記1-3)には、「耐熱性樹脂は当該樹脂100質量部中にゴム補強材を1~10質量部含むことが好ましい」こと、及びゴム補強材は「耐熱性と補強効果のバランスの面でハイインパクトポリスチレンが好ましい」ことが記載されているから、甲1実施例4発明におけるゴム補強材HIPS1の含有量は、[0023]に記載されたゴム補強材の好ましい含有量の上限の割合に相当する。さらに、甲1の[0070]の[表4](摘記1-7)には、樹脂100質量部中にゴム補強材(HIPS1)を18質量部含む比較例7(後記するイ(イ)に示すとおり、ポリスチレン系樹脂の総質量に対するスチレン-ブタジエン共重合体の含有量は19.1%と計算される。)が記載されているが、実施例よりも「耐レンジアップ変形」の評価が低く、「耐熱性と強度、成形性のバランス」の課題を解決できなかったことが読み取れる。そうすると、これらの記載に接した当業者は、甲1実施例4発明におけるゴム補強材HIPS1の含有量を10質量部(10.6%)より増やすことを動機付けられることはない。また、他の全ての証拠の記載を参酌しても、甲1実施例4発明におけるゴム補強材HIPS1の含有量を、甲1の記載に反して増やす動機があるとは認められない。そして、本件発明1が発揮する「曲げ強度に優れ、反りが少なく、かつ、表面性に優れるポリスチレン系樹脂発泡体が得られる」という効果は、当業者が予測することができない顕著なものである。
よって、甲1実施例4発明において、相違点甲1実4-3に係る「前記スチレン-ブタジエン共重合体の含有量が、前記ポリスチレン系樹脂の総質量に対して、20~65質量%」を満たすものとすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
(ウ)申立人の主張について
申立人は特許異議申立書の7頁及び15頁において、本件訂正前の本件発明1の発明特定事項を前提として、本件発明1は甲1実施例4発明に基づき新規性及び進歩性を有しない旨を主張している。しかし、上記(イ)a.及びb.に記載したとおり、本件訂正後の本件発明1と甲1実施例4発明とは、相違点甲1実4-3で実質的に相違することとなり、当該相違点については、甲1及び他の全ての証拠の記載を参酌しても、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。よって、申立人の主張を採用することはできない。
(エ)本件発明1と甲1実施例4発明との対比、判断のまとめ
以上のことから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は甲1実施例4発明ではなく、かつ、甲1実施例4発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
イ 本件発明1と甲1比較例7発明との対比、判断
(ア)本件発明1と甲1比較例7発明との対比
上記ア(ア)における本件発明1と甲1実施例4発明との対比を踏まえ、本件発明1と甲1比較例7発明とを対比する。[表4](摘記1-7)を参照すると、甲1比較例7発明はスチレン-メタクリル酸共重合体S-1及びゴム補強材HIPS1を含有し、これらはいずれも本件発明1における「ポリスチレン系樹脂」に相当し、HIPS1は本件発明1における「スチレン-ブタジエン共重合体」にも相当するから、両者は、
「板状又はシート状であり、
ポリスチレン系樹脂を含む発泡層を有し、
前記ポリスチレン系樹脂は、ブタジエン成分を含み、
前記ポリスチレン系樹脂が、スチレン-ブタジエン共重合体を含む、
ポリスチレン系樹脂発泡体。」
の点で一致し、
相違点甲1比7-1:本件発明1は「前記ブタジエン成分の含有量が、前記発泡層の総質量に対して、0.4~4.0質量%であり、」と特定するのに対し、甲1比較例7発明はそのようなことが明らかでない点
相違点甲1比7-2:本件発明1は「前記ポリスチレン系樹脂のZ平均分子量(Mz)が、30~65万であり、」と特定するのに対し、甲1比較例7発明はそのようなことが明らかでない点
相違点甲1比7-3:本件発明1は「前記スチレン-ブタジエン共重合体の含有量が、前記ポリスチレン系樹脂の総質量に対して、20~65質量%である、」と特定するのに対し、甲1比較例7発明はそのようなことが明らかでない点
で相違する。
そこで、事案に鑑み、上記相違点甲1比7-3について検討する。
(イ)相違点甲1比7-3について
a.新規性について
[表4](摘記1-7)を参照すると、甲1比較例7発明は、スチレン-メタクリル酸共重合体S-1を75質量部、ゴム補強材HIPS1を18質量部含む。また、上記ア(エ)と同様に検討すると、甲1比較例7発明はタルクマスターバッチ2.3質量部に含まれるスチレン-メタクリル酸メチル共重合体を2.3×0.6=1.38質量部含む。そうすると、ポリスチレン系樹脂の総質量に対するスチレン-ブタジエン共重合体の含有量は、18/(75+18+1.38)×100=18/94.38×100=19.1%であるから、本件発明1における「前記スチレン-ブタジエン共重合体の含有量が、前記ポリスチレン系樹脂の総質量に対して、20~65質量%である、」を満たしていない。よって、相違点甲1比7-3は実質的な相違点である。
b.進歩性について
また、上記ア(イ)b.と同様のことがいえるから、甲1比較例7発明において、相違点甲1比7-3に係る「前記スチレン-ブタジエン共重合体の含有量が、前記ポリスチレン系樹脂の総質量に対して、20~65質量%」を満たすものとすることは、甲1及び他の全ての証拠の記載を参酌しても、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
(ウ)申立人の主張について
申立人は特許異議申立書の7頁及び15頁において、本件訂正前の本件発明1の発明特定事項を前提として甲1実施例4発明と同様の主張をしているが、上記(イ)に記載したとおり、本件訂正後の本件発明1については、申立人の主張を採用することはできない。
(エ)本件発明1と甲1比較例7発明との対比、判断のまとめ
以上のことから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は甲1比較例7発明ではなく、かつ、甲1比較例7発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
ウ 本件発明1についてのまとめ
以上まとめると、本件発明1は甲1実施例4発明及び甲1比較例7発明のいずれでもなく、かつ、甲1実施例4発明及び甲1比較例7発明のいずれに基づいても当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4)本件発明2について
以下、本件発明2と甲1実施例1~4発明、甲1比較例1発明及び甲1比較例7発明とを対比する。
ア 本件発明2と甲1実施例1発明との対比、判断
(ア)本件発明2と甲1実施例1発明との対比
[表2](摘記1-7)を参照すると、甲1実施例1発明は「スチレン-メタクリル酸共重合体S-1」及び「ゴム補強材HIPS1」を含有する。また、[0062](摘記1-7)に記載された発泡シートの製造方法を参酌すると、甲1実施例1発明は単層の発泡シートである。そこで、上記(3)ア(ア)における本件発明1と甲1実施例4発明との対比を踏まえ、本件発明2と甲1実施例1発明とを対比すると、両者は、
「ポリスチレン系樹脂を含む発泡層を有し、
前記ポリスチレン系樹脂は、ブタジエン成分を含む、
ポリスチレン系樹脂発泡体。」
の点で一致し、
相違点甲1実1-1:本件発明2は「板状であり、」と特定するのに対し、甲1実施例1発明は「発泡シート」である点
相違点甲1実1-2:本件発明2は「ポリスチレン系樹脂を含む2層以上の発泡層を有し、」と特定するのに対し、甲1実施例1発明は単層の発泡シートである点
相違点甲1実1-3:本件発明2は「前記ブタジエン成分の含有量が、前記発泡層の総質量に対して、0.4~4.0質量%であり、」と特定するのに対し、甲1実施例1発明はそのようなことが明らかでない点
相違点甲1実1-4:本件発明2は「前記ポリスチレン系樹脂のZ平均分子量(Mz)が、30~65万であり、」と特定するのに対し、甲1実施例1発明はそのようなことが明らかでない点
相違点甲1実1-5:本件発明2は「前記ポリスチレン系樹脂のZ平均分子量(Mz)を前記ポリスチレン系樹脂の質量平均分子量(Mw)で除した分子量分布(Mz/Mw)が、1.6~2.2である、」と特定するのに対し、甲1実施例1発明はそのようなことが明らかでない点
相違点甲1実1-6:本件発明2は「展示用パネルに用いられる、」と特定するのに対し、甲1実施例1発明はそのように特定されない点
で相違する。
そこで、事案に鑑み、上記相違点甲1実1-6について検討する。
(イ)相違点甲1実1-6について
a.新規性について
甲1の[0009]及び[0011](摘記1-2)の記載からみて、甲1実施例4発明が解決しようとする課題は「耐熱性と強度、成形性のバランスに優れる耐熱性樹脂発泡シート」の提供にあり、甲1実施例4発明は「発泡シートを軽量化した場合でも、十分な耐熱性と強度を有する食品容器を提供する事が出来る。また、深絞り等の多様な形状に加工する事が出来るため、電子レンジ用食品容器として幅広い用途で使用する事が出来る」ものであると解される。また、[0031](摘記1-5)には、「本発明の耐熱性樹脂発泡シートの厚さは0.5~4.0mmが好ましく、1.0~3.0mmがより好ましい。・・・耐熱性樹脂発泡シートの厚さが4.0mmを超える場合、2次成形時にシートの温度ムラが発生しやすく、成形性が悪化する」ことが記載されており、2次成形を行わない「展示用パネル」の用途は、甲1には記載されていない。よって、相違点甲1実1-6は実質的な相違点である。
b.進歩性について
また、本件明細書の[0002]等の記載を参酌すると、「展示用パネル」は、写真、ポスター、広告等の印刷物を貼付する板状のパネルであり、印刷物がポリスチレン系樹脂発泡体と充分に接着され、剥がれたり、浮いたりしないことが求められると解されるところ、上記甲1のシート厚み等の記載からみて、甲1実施例1発明の発泡シートを、2次成形を行わない「展示用パネル」の用途に用いることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。さらに、他の全ての証拠の記載を参酌しても、甲1実施例1発明を「展示用パネル」の用途に用いることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。そして、本件発明2が発揮する「曲げ強度に優れ、反りが少なく、かつ、表面性に優れるポリスチレン系樹脂発泡体が得られる」という効果は、当業者が予測することができない顕著なものである。
よって、甲1実施例1発明において、相違点甲1実1-6に係る「展示用パネルに用いられる」ものとすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
(ウ)申立人の主張について
申立人は特許異議申立書の19頁において、甲6を引用し、ポリスチレン系樹脂発泡体の双方又は一方の面に表皮材を設け、展示用パネルとして用いることは当業者には公知であり、一般化された使用方法及び用途にすぎないと主張している。
ここで、甲6の請求項1には、「熱可塑性樹脂発泡シートと、前記熱可塑性樹脂発泡シートの一方または両方の面に、熱融着性接着剤を介して積層された表皮剤と、を備えており、前記熱融着性接着剤は、網目状に形成されていることを特徴とする積層発泡シート」の発明が記載されているが、[0022]には、「前記積層発泡シートを適用したより好ましい態様としては、上述した積層発泡シートを備えた展示用パネルであり、前記表皮材が紙を含む」ことが記載され、[0028]には、「この熱可塑性樹脂発泡シート3は、積層発泡シート1の芯材として充分な機械的強度を有していればよく、その厚さは特に限定されないが、通常は厚さ1.5~15.0mmの範囲とされ、特に2.0~12.0mmの範囲が好ましく、2.5~8.0mmがより好ましい」ことが記載されている。これらの記載からみて、甲6において、ポリスチレン系樹脂発泡体を展示用パネルとして用いるためには、その双方又は一方の面に、好ましくは紙を含む表皮材を設け、かつ、表皮シートが設けられる芯材として充分な機械的強度を有する程度の厚みが求められるものと解されるが、紙を含む表皮材及び芯材としての強度は、電子レンジでの使用及び2次成形の妨げとなるから、上記(イ)に記載した甲1実施例1発明の課題と適合せず、甲1実施例1発明を甲6に記載された展示用パネル用途に転用することは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。また、他の全ての証拠の記載を参酌しても、甲1に記載された耐熱性と強度、成形性のバランスに優れ、特に電子レンジ用食品容器として好適に使用できる耐熱性樹脂発泡シートを展示用パネル用途に転用することが、本件特許の出願前に「一般的化された使用方法及び用途」の適用であったとまではいえない。そして、本件発明2が発揮する「曲げ強度に優れ、反りが少なく、かつ、表面性に優れるポリスチレン系樹脂発泡体が得られる」という効果は、当業者が予測することができない顕著なものである。
よって、申立人の主張を採用することはできない。
(エ)本件発明2と甲1実施例1発明との対比、判断のまとめ
以上のことから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明2は甲1実施例1発明ではなく、かつ、甲1実施例1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
イ 本件発明2と甲1実施例2~4発明、甲1比較例1発明及び甲1比較例7発明との対比、判断
本件発明2と、甲1実施例2~4発明、甲1比較例1発明及び甲1比較例7発明のそれぞれとを対比すると、少なくとも以下の点で相違する。
相違点甲1-6’:本件発明2は「展示用パネルに用いられる、」と特定するのに対し、甲1実施例2~4発明、甲1比較例1発明及び甲1比較例7発明は、いずれもそのように特定されない点
そして、相違点甲1-6’については、上記ア(イ)に記載した相違点甲1実1-6と同様の判断が成り立つ。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明2は甲1実施例2~4発明、甲1比較例1発明及び甲1比較例7発明のいずれでもなく、かつ、甲1実施例2~4発明、甲1比較例1発明及び甲1比較例7発明のいずれに基づいても当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
ウ 本件発明2についてのまとめ
以上まとめると、本件発明2は甲1発明ではなく、かつ、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
(5)本件発明3について
以下、本件発明3と甲1実施例4発明及び甲1比較例7発明とを対比する。
上記(3)ア及びイにおける検討を踏まえると、本件発明3と甲1実施例4発明及び甲1比較例7発明とは、それぞれ少なくとも以下の点で相違する。
相違点甲1実4-7:本件発明3は「前記スチレン-ブタジエン共重合体の含有量が、前記ポリスチレン系樹脂の総質量に対して、20~65質量%であり、」と特定するのに対し、甲1実施例4発明はそのようなことが明らかでない点
相違点甲1比7-7:本件発明3は「前記スチレン-ブタジエン共重合体の含有量が、前記ポリスチレン系樹脂の総質量に対して、20~65質量%であり、」と特定するのに対し、甲1比較例7発明はそのようなことが明らかでない点
そして、相違点甲1実4-7及び相違点甲1比7-7については、それぞれ上記(3)ア(イ)及び(3)イ(イ)に記載した相違点甲1実4-3及び相違点甲1比7-3と同様の判断が成り立つ。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明3は甲1実施例4発明及び甲1比較例7発明のいずれでもなく、かつ、甲1実施例4発明及び甲1比較例7発明のいずれに基づいても当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(6)本件発明4について
本件発明4は、請求項1~3のいずれか一項を引用し、本件発明1~3のいずれかの発明特定事項を全て備え、さらに限定するものである。
そうすると、請求項1又は3を引用する場合の本件発明4は、上記(3)又は(5)で検討した本件発明1又は3と同様の理由により、甲1実施例4発明及び甲1比較例7発明のいずれに基づいても当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
また、請求項2を引用する場合の本件発明4は、上記(4)で検討した本件発明2と同様の理由により、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(7)取消理由1-1(甲1に基づく新規性欠如)及び取消理由2-1(甲1に基づく進歩性欠如)についてのまとめ
以上まとめると、本件発明1~3は、いずれも甲1に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号には該当せず、また、本件発明1~4は、いずれも甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。
よって、取消理由1-1(甲1に基づく新規性欠如)及び取消理由2-1(甲1に基づく進歩性欠如)により本件発明1~4についての特許を取り消すことはできない。
2.取消理由1-2(甲7に基づく新規性欠如)及び取消理由2-2(甲7に基づく進歩性欠如)について
(1)甲7に記載された事項
甲7には以下の事項が記載されている。
(7-1)「[特許請求の範囲]
[請求項1]
スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体(A)、ポリフェニレンエーテル系樹脂(B)及び、金属元素(C)を含む、耐熱性スチレン系樹脂組成物。
・・・
[請求項8]
請求項1~6のいずれか1項に記載の耐熱性スチレン系樹脂組成物から得られる発泡シート。」
(7-2)「[発明が解決しようとする課題]
[0006]
しかしながら、上記文献記載の従来技術は、以下の点で改善の余地を有していた。
第一に、特許文献1~2の技術では、脆性等の機械的強度を改良するために、ゴム質成分を比較的多く添加する必要があり、耐熱性が低下する問題があった。また、押出シートの2次成形において、大変形に耐え得る溶融張力を維持することが難しく、成形品に割れやナキ等の成形不良が発生することがあった。
第二に、特許文献3~4の技術では、従来の技術に比べて、耐熱性と成形性は改善されるものの、脆性の改良については、不十分であり、特に深絞り容器や複雑形状容器においては、製品輸送時や、食品容器蓋材との嵌合時に割れが発生することがあるため、更なる改良が求められている。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、上記に記載した耐熱性と、強度、成形性のバランスに優れるという課題を達成することを目的とする。
[0007]
本発明者らは、上記問題点に鑑み、鋭意研究を進めたところ、スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体と、ポリフェニレンエーテル、及び金属元素を組み合わせることで、従来の技術では達成できなかった耐熱性、強度、成形性のバランスを有する耐熱性スチレン系樹脂組成物が得られ、更に、該耐熱性スチレン系樹脂組成物を用いることで、耐熱性、強度、成形性のバランスに優れる発泡シートが得られることを見出し、本発明の完成に至った。
・・・
[0009]
本発明の耐熱性スチレン系樹脂組成物は耐熱性と強度、成形性のバランスに優れるため、特に電子レンジ用食品容器として好適に使用することができ、深絞り等の多様な形状に加工した際に、割れの発生が少ない食品容器を得ることができる。」
(7-3)「[0031]
本発明の耐熱性スチレン系樹脂組成物には、必要に応じて、別の熱可塑性樹脂やゴム補強材を本発明の効果を損なわない範囲で配合する事ができる。
・・・
[0033]
ゴム補強材の具体例としては、天然ゴム、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリイソブチレン、ポリクロロプレン、ポリスルフィドゴム、チオコールゴム、アクリルゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、エピクロロヒドリンゴム、スチレン-ブタジエンブロック共重合体、スチレン-ブタジエン-スチレン共重合体、スチレン-イソプレンブロック共重合体、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体、水素添加スチレン-ブタジエンブロック共重合体、水素添加スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体、水素添加スチレン-イソプレンブロック共重合体、水素添加スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体、メタクリル酸メチル-ブタジエン-スチレン共重合体などのスチレン系ゴム、さらにはエチレンプロピレンゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、直鎖状低密度ポリエチレン系エラストマー等のオレフィン系ゴムが挙げられ、これら1種若しくは二種以上を組み合わせて用いることができる。」
(7-4)「[0035]
<発泡シートの製造方法>
[0036]
本発明の発泡シートの製造方法としては、公知の押出発泡シート製造方法を用いることができる。具体的には、単軸押出機や二軸押出機を2基直列に配置し、1基目の押出機で発泡剤を発泡核剤とともに溶融混錬し、2基目の押出機で冷却により樹脂温度を120℃~180℃に調整した後、サーキュラーダイスにより大気に放出し減圧発泡する方法が挙げられる。
[0037]
発泡剤としては、プロパン、ノルマルブタン、イソブタン、ペンタン、ヘキサン等の脂肪族炭化水素、シクロブタン、シクロペンタン等の環式脂肪族炭化水素、トリクロロフロロメタン、ジクロロジフロロメタン、1,1-ジフルオロエタン、1,1-ジフルオロ-クロライド、メチレンクロライド等のハロゲン化炭化水素等の物理発泡剤を用いることができる。また、アゾジカルボンアミド、ジニトロソペンタメチレンテトラミン、アゾビスイソブチロニトリル、重炭酸ナトリウム、クエン酸等の分解型発泡剤、二酸化炭素、窒素等の無機ガスや水を使用することもできる。これら発泡剤を適宜混合して使用できるが、工業的にはブタンが使用されることが多く、発泡押出性や発泡シートの二次成形性、発泡剤の観点から、イソブタンとノルマルブタンからなる混合ブタンを使用することが好ましい。ブタンはポリスチレン系樹脂に対する透過速度が遅いため、発泡押出直後は発泡シート中に通常1~3質量%程度残存する。この残存量は二次成形における二次発泡厚や熱成形性に影響するため、一定の熟成期間を設けることで適宜調整する。
[0038]
発泡核剤としては、タルク、炭酸カルシウム、クレー等の無機物粉末が挙げられ、これらを単独あるいは混合物としても用いることができる。中でも、気泡径を小さくする効果が大きく、安価という点でタルクが最も好ましい。発泡核剤の添加方法は特に制限が無く、直接押出機の供給孔に添加しても良いし、樹脂と共に添加することもできる。また、スチレンの単独重合体やスチレン-メタクリル酸メチル共重合体等を基材としたマスターバッチを作成し、そのマスターバッチを用いて供給することもできる。発泡核剤の添加量は通常、0.1~5質量%である。また、該マスターバッチには高級脂肪酸や高級脂肪酸の金属塩をあらかじめ配合しておいても良い。また、エチレンビスステアリルアミド等の滑材、流動パラフィンやシリコーンオイル等の展着剤、その他の界面活性剤、帯電防止剤、酸化防止剤、可塑剤、耐候剤、顔料等が含まれていても良い。
[0039]
本発明の発泡シートの厚さは、一般的に0.1~100mmであり、0.5~4mmが好ましく、1~3mmがより好ましい。発泡シートの厚さが0.1mm未満では、2次成形後の容器の強度や断熱性が低下する。発泡シートの厚さが100mmを超えると、2次成形時にシートの温度ムラが発生しやすく、成形性が悪化する場合がある。」
(7-5)「[実施例]
[0045]
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
[0046]
<スチレン-メタクリル酸共重合体(A)の製造>
(1)スチレン-メタクリル酸共重合体S-1の製造
下記第1~第3反応器を直列に接続して重合工程を構成した。
・・・
[0050]
原料液としては、以下のものを用いた。
[0051]
スチレン97.3質量%、メタクリル酸2.7質量%のモノマー構成100質量部に対してエチルベンゼン10質量部、重合開始剤として2,2ビス(4,4-t-ブチルパーオキシシクロへキシル)プロパン0.025質量部を混合した原料液
[0052]
原料液を12.0kg/hrの供給速度で120℃に設定した第1反応器に連続的に供給し重合した後、次いで128℃に設定した第2反応器に連続的に装入し重合した。第2反応器出口での重合転化率は65%であった。更に125~130℃の温度勾配がつくように調整した第3反応器にて重合転化率が70%になるまで重合を進行させた。
この重合液を直列に2段より構成される予熱器付き真空脱揮槽に導入し、未反応スチレン及びエチルベンゼンを分離した後、ストランド状に押し出して冷却した後切断してペレット化した。なお、1段目の予熱器の温度は200℃に設定し、真空脱揮槽の圧力は66.7kPaとし、2段目の予熱器の温度は240℃に設定し、真空脱揮槽の圧力は0.9kPaとした。得られたスチレン-メタクリル酸共重合体S-1の特性を表1に示す。
・・・
[0059]
[表1]
[図:0001433083000004.jpg]
」
(7-6)「[0060]
<実施例1~13、比較例1~3>
上記の方法で製造したスチレン-メタクリル酸共重合体(A)(S-1~3)とポリフェニレンエーテル(B)、金属元素(C)を含む中和剤、ゴム補強剤(D)を表2~3に示す質量部比率にて混合し、シリンダー温度180~250℃に設定した二軸押出機(東芝機械社製、TEM26-SS)に20kg/hrの供給速度で供給し、回転数300rpm、樹脂温度270℃にて溶融混錬を行った。なお、比較例1はポリフェニレンエーテル(B)を添加せず、比較例2~3は金属元素(C)を含む中和剤を添加しなかった。その物性を表2~3に示す。また、金属元素(C)の含有量は、得られた樹脂組成物を酸化分解後、誘導結合プラズマ発光分析法(ICP-AES)により、定量した。
[0061]
なお、ポリフェニレンエーテル(B)、ゴム補強剤(D)としては以下のものを用いた。
<ポリフェニレンエーテル(B)>
商品名:「IUPIACE PX100L」 三菱エンジニアリングプラスチックス社製
極限粘度0.41g/dl
<ゴム補強剤(D)>
MBS(メタクリル酸メチル-ブタジエン-スチレン共重合体)
商品名:「メタブレンC-223A」 三菱ケミカル社製
ゴム分75%
HIPS(ハイインパクトポリスチレン)
商品名:「トーヨースチロール H848」 東洋スチレン社製
ゴム分10.0%、ゴム粒子径1.9μm
[0062]
次に、前記の樹脂組成物をスクリュー径40mmφと50mmφのタンデム式押出機に供給し、発泡シートを製造した。まず、前記の溶融コンパウンドした樹脂100質量部に対しスチレン-メタクリル酸メチル共重合体60質量%とタルク40質量%からなるタルクマスターバッチ2.3質量部を均一に混合したものをスクリュー径40mmφの押出機に供給した。更に、発泡剤としてブタンを押出機先端より樹脂100質量部に対して2.3質量部の割合で圧入し溶融混合した。このときのシリンダー温度230~270℃、樹脂温度235~250℃、圧力12~18MPaであった。
その後、230℃に設定した連結管を介してスクリュー径50mmφの押出機に移送し、シリンダー温度160~200℃、樹脂温度160~170℃、15~17MPaに調整し、リップ開度0.6mm、口径40mmのサーキュラーダイスより吐出量10kg/hrで押出し直径152mmの冷却された円筒に添わせて引取り、円周の下部1点でカッターにより切開して発泡シートを得た。得られた発泡シートの厚みは1.7mm、密度は120kg/m3であった。その特性を表2~3に示す。
[0063]
なお、各種物性、性能評価は以下の方法で行った。
[0064]
・・・
(2)分子量
重量平均分子量(Mw)及びZ平均分子量(Mz)、数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエイションクロマトグラフィ―(GPC)を用いて、次の条件で測定した。
GPC機種:Waters社製 アライアンスシステム2695
カラム:東ソー社製 TSKgel-GMHXL(ID)×300mm(L)
移動相:テトラヒドロフラン 0.35ml/min
試料濃度:0.2質量%
注入量:50μL
温度:40℃
検出器:示差屈折計 Waters社製 アライアンスシステム2414
単分散ポリスチレンの溶出曲線により各溶出時間における分子量を算出し、ポリスチレン換算の分子量として算出した。
・・・
[0068]
[表2]
[図:0001433083000005.jpg]
[0069]
[表3]
[図:0001433083000006.jpg]
」
(2)甲7に記載された発明
甲7の特許請求の範囲(摘記7-1)には、「スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体(A)、ポリフェニレンエーテル系樹脂(B)及び、金属元素(C)を含む、耐熱性スチレン系樹脂組成物。」(請求項1)及び「請求項1~6のいずれか1項に記載の耐熱性スチレン系樹脂組成物から得られる発泡シート。」(請求項8)が記載されており、[0031]~[0033](摘記7-3)には、「本発明の耐熱性スチレン系樹脂組成物には、必要に応じて、別の熱可塑性樹脂やゴム補強材を本発明の効果を損なわない範囲で配合する事ができる」こと、及び「ゴム補強材の具体例としては、天然ゴム、ポリブタジエン、・・・スチレン-ブタジエンブロック共重合体、スチレン-ブタジエン-スチレン共重合体、スチレン-イソプレンブロック共重合体、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体、水素添加スチレン-ブタジエンブロック共重合体、水素添加スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体、水素添加スチレン-イソプレンブロック共重合体、水素添加スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体、メタクリル酸メチル-ブタジエン-スチレン共重合体などのスチレン系ゴム、・・・が挙げられ、これら1種若しくは二種以上を組み合わせて用いることができる」こと、[0036]~[0038](摘記7-4)には、「本発明の発泡シートの製造方法としては、公知の押出発泡シート製造方法を用いることができる。具体的には、単軸押出機や二軸押出機を2基直列に配置し、1基目の押出機で発泡剤を発泡核剤とともに溶融混錬し、2基目の押出機で冷却により樹脂温度を120℃~180℃に調整した後、サーキュラーダイスにより大気に放出し減圧発泡する方法が挙げられる」こと、発泡剤としては「工業的にはブタンが使用されることが多く、発泡押出性や発泡シートの二次成形性、発泡剤の観点から、イソブタンとノルマルブタンからなる混合ブタンを使用することが好ましい」こと、及び「発泡核剤としては、・・・タルクが最も好ましい」ことが記載されている。
また、上記耐熱性スチレン系樹脂組成物から得られる発泡シートの実施例について、[0045]~[0059](摘記7-5)には、原料の一つであるスチレン-メタクリル酸共重合体S-1~S-3の製造方法及び得られた共重合体の特性が記載されており、[0059]の[表1]には、S-1~S-3のメタクリル酸含量、分子量(Z平均分子量Mz、Mz/Mw)等の特性が記載されている。さらに、[0060]~[0069](摘記7-6)には、実施例1~13及び比較例1~3の発泡シートの原料、製造方法及び得られた発泡シートの特性が記載されており、原料のうちポリフェニレンエーテル(B)、ゴム補強材(D)については[0061]に記載されたものを用いたこと、製造方法については、「上記の方法で製造したスチレン-メタクリル酸共重合体(A)(S-1~3)とポリフェニレンエーテル(B)、金属元素(C)を含む中和剤、ゴム補強材(D)を表2~3に示す質量部比率にて混合し、シリンダー温度180~250℃に設定した二軸押出機(東芝機械社製、TEM26-SS)に20kg/hrの供給速度で供給し、回転数300rpm、樹脂温度270℃にて溶融混錬を行」い、「前記の溶融コンパウンドした樹脂100質量部に対しスチレン-メタクリル酸メチル共重合体60質量%とタルク40質量%からなるタルクマスターバッチ2.3質量部を均一に混合したものをスクリュー径40mmφの押出機に供給した。更に、発泡剤としてブタンを押出機先端より樹脂100質量部に対して2.3質量部の割合で圧入し溶融混合」し、「その後、230℃に設定した連結管を介してスクリュー径50mmφの押出機に移送し、シリンダー温度160~200℃、樹脂温度160~170℃、15~17MPaに調整し、リップ開度0.6mm、口径40mmのサーキュラーダイスより吐出量10kg/hrで押出し直径152mmの冷却された円筒に添わせて引取り、円周の下部1点でカッターにより切開して発泡シートを得た」ことが記載され、[0068]の[表2]及び[0069]の[表3]には、実施例1~実施例13及び比較例1~比較例3の発泡シートの原料の配合割合等が記載されている。そして、上記[表2]及び[表3]を参照すると、実施例10においては、スチレン-メタクリル酸共重合体(A)S-2、ポリフェニレンエーテル(B)PX100L、金属元素(C)を含む中和剤及びゴム補強材(D)HIPS(H848)が用いられたことが記載されている。
そこで、実施例の記載に基づいて整理すると、甲7には実施例10に基づいて、以下の発明が記載されている。
「[0059]の[表1]に記載されたスチレン-メタクリル酸共重合体(A)S-2と[0061]に記載されたポリフェニレンエーテル(B)PX100L、金属元素(C)を含む中和剤、ゴム補強材(D)HIPS(H848)を[0069]の[表3]に示す質量部比率にて混合、溶融混錬し、前記の溶融混錬した樹脂100質量部に対しスチレン-メタクリル酸メチル共重合体60質量%とタルク40質量%からなるタルクマスターバッチ2.3質量部を均一に混合したものを押出機に供給し、更に、発泡剤としてブタンを押出機先端より樹脂100質量部に対して2.3質量部の割合で圧入し溶融混合し、その後、スクリュー径50mmφの押出機に移送し、シリンダー温度160~200℃、樹脂温度160~170℃、15~17MPaに調整し、リップ開度0.6mm、口径40mmのサーキュラーダイスより吐出量10kg/hrで押出し直径152mmの冷却された円筒に添わせて引取り、円周の下部1点でカッターにより切開して得た、実施例10の耐熱性スチレン系樹脂組成物から得られる発泡シート。」(以下、「甲7実施例10発明」という。)
(3)本件発明2について
ア 本件発明2と甲7実施例10発明との対比
[表3](摘記7-6)を参照すると、甲7実施例10発明は「スチレン-メタクリル酸共重合体(A)S-2」及び「ゴム補強材(D)HIPS(H848)」を含有する。甲7実施例10発明における「スチレン-メタクリル酸共重合(A)S-2」は、[表1](摘記7-5)を参照するとメタクリル酸(分子量86.09)含有量が6.1%であり、残部93.9%がスチレン(分子量104.15)であるから、本件発明2における「ポリスチレン系樹脂」に相当する。また、甲7実施例10発明における「ゴム補強材(D)HIPS(H848)」は、[0061](摘記7-6)を参照すると「HIPS(ハイインパクトポリスチレン) 商品名:「トーヨースチロール H848」 東洋スチレン社製 ゴム分10.0%、ゴム粒子径1.9μm」であり、「ハイインパクトポリスチレン」のゴム分はポリブタジエンであるから(例えば、甲1の[0023](摘記1-3)、甲2及び甲3を参照。)、上記ゴム分10.0%がブタジエン(分子量54.0916)に由来し、残部90.0%がスチレン(分子量104.15)に由来するものと解されるから、本件発明2における「ポリスチレン系樹脂」に相当する。
甲7実施例10発明における「耐熱性スチレン系樹脂組成物から得られる発泡シート。」は、上記「ポリスチレン系樹脂」についての検討及び甲7実施例10発明の製造工程を参酌すると、本件発明2における「ポリスチレン系樹脂発泡体。」に相当するとともに、「ポリスチレン系樹脂を含む発泡層を有し、」、「前記ポリスチレン系樹脂は、ブタジエン成分を含み、」を満たしている。また、[0062](摘記7-6)に記載された発泡シートの製造方法を参酌すると、甲7実施例10発明は単層の発泡シートである。
そうすると、両者は、
「ポリスチレン系樹脂を含む発泡層を有し、
前記ポリスチレン系樹脂は、ブタジエン成分を含む、
ポリスチレン系樹脂発泡体。」
の点で一致し、
相違点甲7実10-1:本件発明2は「板状であり、」と特定するのに対し、甲7実施例10発明は「発泡シート」である点
相違点甲7実10-2:本件発明2は「ポリスチレン系樹脂を含む2層以上の発泡層を有し、」と特定するのに対し、甲7実施例10発明は単層の発泡シートである点
相違点甲7実10-3:本件発明2は「前記ブタジエン成分の含有量が、前記発泡層の総質量に対して、0.4~4.0質量%であり、」と特定するのに対し、甲7実施例10発明はそのようなことが明らかでない点
相違点甲7実10-4:本件発明2は「前記ポリスチレン系樹脂のZ平均分子量(Mz)が、30~65万であり、」と特定するのに対し、甲7実施例10発明はそのようなことが明らかでない点
相違点甲7実10-5:本件発明2は「前記ポリスチレン系樹脂のZ平均分子量(Mz)を前記ポリスチレン系樹脂の質量平均分子量(Mw)で除した分子量分布(Mz/Mw)が、1.6~2.2である、」と特定するのに対し、甲7実施例10発明はそのようなことが明らかでない点
相違点甲7実10-6:本件発明2は「展示用パネルに用いられる、」と特定するのに対し、甲7実施例10発明はそのように特定されない点
で相違する。
そこで、事案に鑑み、上記相違点甲7実10-6について検討する。
イ 相違点甲7実10-6について
(ア)新規性について
甲7の[0006]~[0007]及び[0009](摘記7-2)の記載からみて、甲7実施例10発明が解決しようとする課題は「耐熱性、強度、成形性のバランスを有する耐熱性樹脂組成物」を用いることで「耐熱性、強度、成形性のバランスに優れる発泡シート」を提供することにあり、甲7実施例10発明は「特に電子レンジ用食品容器として好適に使用することができ、深絞り等の多様な形状に加工した際に、割れの発生が少ない食品容器を得ることができる」ものであると解される。また、[0039](摘記7-4)には、「本発明の発泡シートの厚さは、一般的に0.1~100mmであり、0.5~4mmが好ましく、1~3mmがより好ましい。・・・発泡シートの厚さが100mmを超えると、2次成形時にシートの温度ムラが発生しやすく、成形性が悪化する」ことが記載されており、2次成形を行わない「展示用パネル」の用途は、甲7には記載されていない。よって、相違点甲7実10-6は実質的な相違点である。
(イ)進歩性について
また、本件明細書の[0002]等の記載を参酌すると、「展示用パネル」は、写真、ポスター、広告等の印刷物を貼付する板状のパネルであり、印刷物がポリスチレン系樹脂発泡体と充分に接着され、剥がれたり、浮いたりしないことが求められると解されるところ、上記甲7のシート厚み等の記載からみて、甲7実施例10発明の発泡シートを、2次成形を行わない「展示用パネル」の用途に用いることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。さらに、他の全ての証拠の記載を参酌しても、甲7実施例10発明を「展示用パネル」の用途に用いることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。そして、本件発明2が発揮する「曲げ強度に優れ、反りが少なく、かつ、表面性に優れるポリスチレン系樹脂発泡体が得られる」という効果は、当業者が予測することができない顕著なものである。
よって、甲7実施例10発明において、相違点甲7実10-6に係る「展示用パネルに用いられる」ものとすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
ウ 申立人の主張について
申立人は特許異議申立書の19頁において、甲6を引用し、上記1.(4)ア(ウ)に記載した甲1発明に基づく進歩性欠如の主張と同様の主張をしている。
しかしながら、甲6に記載された事項は上記1.(4)ア(ウ)に記載したとおりであるから、上記イに記載した甲7実施例10発明の課題とは適合せず、甲7実施例10発明を甲6に記載された展示用パネル用途に転用することは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。また、他の全ての証拠の記載を参酌しても、甲7に記載された耐熱性、強度、成形性のバランスに優れ、特に電子レンジ用食品容器として好適に使用できる発泡シートを展示用パネル用途に転用することが、本件特許の出願前に「一般的化された使用方法及び用途」の適用であったとまではいえない。そして、本件発明2が発揮する「曲げ強度に優れ、反りが少なく、かつ、表面性に優れるポリスチレン系樹脂発泡体が得られる」という効果は、当業者が予測することができない顕著なものである。
よって、申立人の主張を採用することはできない。
エ 本件発明2についてのまとめ
以上のことから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明2は甲7実施例10発明ではなく、かつ、甲7実施例10発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4)本件発明4について
本件発明4は、請求項1~3のいずれか一項を引用する発明であるところ、取消理由を通知した対象は、請求項2を引用する場合の本件発明4である。
そして、請求項2を引用する場合の本件発明4は、本件発明2の発明特定事項を全て備え、さらに限定するものであるから、上記(3)で検討した本件発明2と同様の理由により、甲7実施例10発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(5)取消理由1-2(甲7に基づく新規性欠如)及び取消理由2-2(甲7に基づく進歩性欠如)についてのまとめ
以上まとめると、本件発明2は甲7に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号には該当せず、また、本件発明2及び4は、いずれも甲7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。
よって、取消理由1-2(甲7に基づく新規性欠如)及び取消理由2-2(甲7に基づく進歩性欠如)により本件発明2及び4についての特許を取り消すことはできない。
第7 取消理由通知で採用しなかった特許異議申立理由についての判断
当審は、取消理由通知で採用しなかった特許異議申立理由はいずれも理由がないものと判断する。
上記第4の1.に記載した特許異議申立理由のうち、取消理由通知で採用しなかった理由は、(2)申立理由2-1(甲1に基づく進歩性欠如)の本件発明5を対象とする申立てと、(4)申立理由2-2(甲7に基づく進歩性欠如)の本件発明5を対象とする申立てである。以下、検討する。
1.申立理由2-1(甲1に基づく進歩性欠如)について
(1)本件発明5と甲1実施例1~4発明、甲1比較例1発明及び甲1比較例7発明との対比、判断
本件発明5は、請求項1~4のいずれか一項を引用し、本件発明1~4のいずれかの発明特定事項を全て備え、さらに限定するものである。
そうすると、請求項1又は3を引用する場合、及び請求項1又は3を引用する請求項4を引用する場合の本件発明5は、上記第6の1.(3)又は(5)で検討した本件発明1又は3と同様の理由により、甲1実施例4発明及び甲1比較例7発明のいずれに基づいても当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
また、請求項2を引用する場合、及び請求項2を引用する請求項4を引用する場合の本件発明5は、上記第6の1.(4)で検討した本件発明2と同様の理由により、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(2)申立理由2-1(甲1に基づく進歩性欠如)についてのまとめ
以上まとめると、本件発明5は甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。
よって、申立理由2-1(甲1に基づく進歩性欠如)により本件発明5についての特許を取り消すことはできない。
2.申立理由2-2(甲7に基づく進歩性欠如)について
(1)本件発明5と甲7実施例10発明との対比、判断
本件発明5は、請求項1~4のいずれか一項を引用する発明であるところ、申立理由2-2の申立対象は、請求項2を引用する場合、及び請求項2を引用する請求項4を引用する場合の本件発明5である。
そして、請求項2を引用する場合、及び請求項2を引用する請求項4を引用する場合の本件発明5は、本件発明2の発明特定事項を全て備え、さらに限定するものであるから、上記第6の2.(3)で検討した本件発明2と同様の理由により、甲7実施例10発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(2)申立理由2-2(甲7に基づく進歩性欠如)についてのまとめ
以上まとめると、本件発明5は甲7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。
よって、申立理由2-2(甲7に基づく進歩性欠如)により本件発明5についての特許を取り消すことはできない。
第8 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由のいずれによっても、本件発明1~5についての特許を取り消すことはできない。また、他に、これらの特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2025-700180