特許異議申立
2026-700158
ニッケルチタン合金のワイヤ及びその形成方法
- 審判番号
- 2026-700158
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-519259
- 登録番号
- 7728752
- 請求日
- 2026年02月20日
- 審決日
- 2026年05月26日
- 公報発行日
- 2026年06月26日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】ダブリュ.エル.ゴア アンド アソシエイツ,インコーポレイティド
- 【権利者代理人】青木 篤
- 【権利者代理人】三橋 真二
- 【権利者代理人】鶴田 準一
- 【権利者代理人】南山 知広
- 【権利者代理人】渡辺 陽一
- 【権利者代理人】中村 和広
- 【権利者代理人】出野 知
- 【異議申立人】西郷 新
- 審判長/審判官
- 審判長 粟野 正明
- 審判官 井上 猛
- 審判官 酒井 英夫
- 分類
- P1652.113-Y (C22F) / P1652.121-Y (C22F)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条、特許法第113条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7728752号発明「ニッケルチタン合金のワイヤ及びその形成方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7728752号の請求項11に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7728752号(請求項の数24。以下、「本件特許」という。)は、2020年(令和2年)9月25日(パリ条約による優先権主張外国庁受理:2019年9月27日(US)米国)を国際出願日とする特許出願(特願2022-519259号)に係るものであって、令和7年8月15日に設定登録されたものである(特許掲載公報の発行日は、令和7年8月25日である。)。
その後、令和8年2月20日に、本件特許の請求項11に係る特許に対して、特許異議申立人である西郷新(以下、「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされた。
第2 本件発明
本件特許の請求項1~24に係る発明は、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1~24に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、そのうち、請求項11に係る発明は、以下のとおりのものである(以下、「本件発明11」という。また、本件特許の願書に添付した明細書を「本件明細書」という。)。
【請求項11】
ワイヤに第一の熱処理を課すること、
前記第一の熱処理中に前記ワイヤに歪み変形を課して前記ワイヤの形状を固定すること、及び、
前記ワイヤに第二の熱処理を課すこと、
を含む方法によって形成される、ワイヤの製造方法であって、
前記第一の熱処理は、450℃~550℃の第一の温度の熱を第一の時間課すことを含み、
前記第二の熱処理は、前記第一の温度とは異なる第二の温度の熱を第二の時間課すことを含み、前記第二の温度は210℃~290℃であり、前記ワイヤはメディカルグレードおよびASTM準拠のニチノールを含む、ワイヤの製造方法。
第3 特許異議の申立ての理由の概要
本件特許の請求項11に係る特許は、下記1、2のとおり、特許法113条2号に該当する(証拠方法は下記3を参照。以下、甲第1号証等を単に「甲1」等という。)。
1 申立理由1(新規性)
本件発明11は、甲1に記載された発明であり、特許法29条1項3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項11に係る特許は、同法113条2号に該当する。
2 申立理由2(進歩性)
本件発明11は、甲1に記載された発明に基いて、又は、甲1に記載された発明及び甲2~甲5に記載された事項に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項11に係る特許は、同法113条2号に該当する。
3 証拠方法
・甲1 米国特許出願公開第2019/0276921号明細書
・甲2 米国特許出願公開第2007/0289677号明細書
・甲3 特表2005-508229号公報
・甲4 ASTM International, "ASTM F2063-05 Standard Specification for Wrought Nickel-Titanium Shape Memory Alloys for Medical Devices and Surgical Implants", [online], 2013.01.07, [2026.02.06検索], インターネット<URL:https://store.astm.org/f2063-05.html>, Abstract, Scope
・甲5 ASTM International, "ASTM F2005-21 Standard Terminology for Nickel-Titanium Shape Memory Alloys", [online], 2025.06.06, [2026.02.06検索], インターネット<URL: https://store.astm.org/f2005-21.html>, Scope
第4 当審における判断
以下に述べるように、特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては、本件特許の請求項11に係る特許を取り消すことはできない。
1 申立理由1(新規性)、申立理由2(進歩性)
(1)甲1の記載事項、甲1に記載された発明
ア 甲1には、以下の記載がある。なお、訳文は当審において作成した。下線は強調のために付与した。「・・・」は記載の省略を意味する。
「What is claimed is:
・・・
24. A method of processing a TiNi material to produce an implantable medical component, comprising:
cold or warm working the TiNi material at least 15%;
thereafter, aging the cold or warm worked TiNi material under stress at between 300-700℃.; and
thereafter, further aging the TiNi material below 300℃. to produce desired R-phase characteristics.
・・・
27. The method of claim 24 wherein the step of aging after the warm or cold working is aging between 500-580℃.
28. The method of claim 24 wherein the further aging step is between 150-250℃.」(【0160】)
(・・・
請求項24.埋め込み型医療部材を製造するためのTiNi材料の加工方法であって、以下の工程を含む:
TiNi材料を少なくとも15%冷間または温間加工する;
その後、冷間加工または温間加工されたTiNi材料を300~700℃の温度で応力下で時効処理する;
その後、TiNi材料を300℃以下でさらに時効処理して、所望のR相特性を得る。
・・・
請求項27.請求項24に記載の方法であって、温間加工または冷間加工後の時効工程が500~580℃の間での時効である方法。
請求項28.請求項24に記載の方法であって、更なる時効工程が150~250℃である方法。)
「The various embodiments described herein relate to superelastic NiTi materials for use as medical components, especially implantable medical components and methods of fabricating such components to have improved R-phase characteristics in-vivo.」(【0003】)
(本明細書に記載される様々な実施形態は、医療部材、特に埋め込み型医療部材として使用される超弾性NiTi材料、および生体内でR相特性が改善されたそのような部材の製造方法に関する。)
「In many Nitinol alloys and conditions, particularly in cold worked and/or aged Ni-rich alloys, a third phase called the R-phase appears under certain conditions, inserting itself between Austenite and Martensite.・・・」(【0053】)
(多くのニッケルチタン合金および条件、特に冷間加工および/または時効処理されたニッケルリッチ合金では、特定の条件下でR相と呼ばれる第3の相が現れ、オーステナイトとマルテンサイトの間に挿入される。・・・)
「In one aspect, there are provided methods to make a medical device from an alloy where superelasticity occurs predominantly between R-phase and Martensite rather than between Austenite and Martensite as is common in conventional superelastic medical components.・・・」(【0063】)
(ある態様では、従来の超弾性医療部材によく見られるオーステナイト相とマルテンサイト相の間ではなく、R相とマルテンサイト相の間で主に超弾性が生じる合金から医療機器を製造する方法が提供される。・・・)
「To demonstrate one specific embodiment of an inventive process, begin with a Titanium alloy wire material having 50.8 wt.% nickel, with a final cold working diameter reduction of 45% area reduction. Age the wire under tensile stress at approximately 550℃. to cause the wire to adopt a straight configuration. Next, further age the wire at 250℃. for 105 hours, thereby stabilizing the R-phase with respect to Austenite.」(【0065】)
(本発明の方法の具体的な実施形態を示すために、ニッケル含有量50.8重量%のチタン合金ワイヤ材料から始め、最終的な冷間加工による直径減少率を45%断面積減少率とする。ワイヤを約550℃で引張応力下で時効処理し、ワイヤを直線状にする。次に、ワイヤを250℃で105時間さらに時効処理し、オーステナイトに対してR相を安定化させる。)
「A material produced according to some embodiments of the inventive methods to have the properties as shown in FIGS. 8A and 9A still exhibits superelasticity, but does not fully return its original shape. This is because the R-phase is itself a martensitic phase and is easily able to accommodate approximately 0.5% strain. Whilst Austenite is a single fixed structure, the R-phase offers several variants to which reversion can take place and thus creates the observed residual strain (see the gap between A and F in FIGS. 9A and 9B). This strain accommodation is also described as R-phase reorientation. ・・・」(【0068】)
(本発明の方法のいくつかの実施形態に従って製造された、図8Aおよび図9Aに示すような特性を有する材料は、超弾性を示すものの、元の形状に完全には戻らない。これは、R相自体がマルテンサイト相であり、約0.5%の歪みを容易に吸収できるためである。オーステナイトは単一の固定構造であるのに対し、R相は複数の変形相が存在し、それらに逆戻りすることで、観察される残留歪みが生じる(図9Aおよび図9BのAとFの間の隙間を参照)。この歪みの吸収は、R相の再配向とも呼ばれる。・・・)
「FIG. 13A is a flow chart of an exemplary method 100 of making and using an embodiment of an inventive medical component as described herein.」(【0085】)
(図13Aは、本明細書に記載の本発明の医療部材の実施形態を製造および使用する例示的な方法100のフローチャートである。)
「The above general steps and process flow may be modified in various different embodiments as set forth in FIG. 13B and elsewhere.」(【0086】)
(上記の一般的な手順およびプロセスフローは、図13Bおよびその他の箇所に示されているように、さまざまな実施形態において変更することができる。)
「Still further, the method 100 may be modified for the production of a variety of different types of medical components from different NiTi materials. In one aspect, the TiNi material is a binary composition comprising substantially only Ti and Ni. In another aspect, the TiNi material has a Ni atomic percentage is 50.5-51.5%. In still another aspect, the TiNi material is a tertiary composition comprising Ti and Ni and at least one other element.」(【0089】)
(さらに、方法100は、異なるNiTi材料から様々な種類の医療部材を製造するために変更することができる。一態様において、TiNi材料は、実質的にTiとNiのみを含む二元組成物である。別の態様において、TiNi材料のNi原子百分率は50.5~51.5%である。さらに別の態様において、TiNi材料は、TiとNiおよび少なくとも1つの他の元素を含む三元組成物である。)
「FIG. 13B summarizes exemplary process steps used variously in aspects of the present invention.」(【0091】)
(図13Bは、本発明の様々な態様で用いられる代表的な工程ステップをまとめたものである。)
「Still with reference to FIG. 13B, the final material deformation at step 3 commonly includes a desired amount of cold work, at least 15%, preferably 20% to 50% reduction in cross section, and even more preferably 35% to 50%. The network of dislocations created by this cold working step will influence the desirable presence of R phase in a later step. The cold work imparted here also desirably strengthens the material, preferably to an ultimate tensile strength of 1,000 MPa or greater.」(【0094】)
(図13Bを参照すると、ステップ3における最終的な材料変形は、一般的に所望の量の冷間加工を含み、断面積の減少率は少なくとも15%、好ましくは20%~50%、より好ましくは35%~50%である。この冷間加工工程によって生成される転位ネットワークは、後の工程におけるR相の望ましい存在に影響を与える。ここで加えられる冷間加工は、材料を強化する効果もあり、好ましくは1,000MPa以上の引張強度を実現する。)
「Still with reference to FIG. 13B, steps 8 and 9 are commonly described as shape setting. Analogous to steps 4 (straightening), the objective here is to form the desired shape and then age it to lock that shape in place. The constraint (step 8) may be the application of a stress, or more commonly to fix the shape using physical constraints. This is typically done at room temperature for convenience, but can really be done at any temperature up to and including the aging temperature of step 9. Step 9 actually locks in the shape determined by step 8―for example, aging a stent on a mandrel that is keeping the stent stretched open to a large diameter than it was prior to constraint. The temperature of step 9 can be widely varied, from 350℃. to 700℃., most preferably between 475℃. and 580℃.」(【0099】)
(図13Bを参照すると、ステップ8と9は一般的に形状設定と呼ばれる。ステップ4(矯正)と同様に、ここでの目的は所望の形状を形成し、その後、その形状を固定するためにエージングを行うことである。拘束(ステップ8)は、応力を加えることによって行うこともできるが、より一般的には、物理的な拘束を用いて形状を固定することによって行う。これは通常、便宜上室温で行うが、実際にはステップ9のエージング温度までの任意の温度で行うことができる。ステップ9は、ステップ8で決定された形状を実際に固定する。例えば、拘束前よりも大きな直径にステントを開いた状態に保持するマンドレル上でステントをエージングする。ステップ9の温度は、350℃から700℃まで幅広く変化させることができ、最も好ましいのは475℃から580℃の間である。)
「Steps 8 and 9 may be repeated as many times as necessary, with specific times, temperatures, and thermal mass, and heat transfer characteristics for each operation influencing the outcomes. Steps 8 and 9 may also be simultaneous in some process variations, wherein the components is deformed (step 8) while at an elevated temperature (step 9).」(【0100】)
(ステップ8と9は必要に応じて何度でも繰り返すことができ、各操作における特定の時間、温度、熱容量、および熱伝達特性が結果に影響を与える。また、一部のプロセスバリエーションでは、ステップ8と9を同時に行うことができ、その場合、部材は高温(ステップ9)で変形(ステップ8)される。)
「Returning to FIG. 13B, these beneficial improvements are achieved by the further aging treatment described by step 11. Starting, for example, with a conventionally formed superelastic medical component, an aging treatment is applied at a temperature of 300℃. degrees or less, and preferably in the range 150℃. to 250℃.」(【0103】)
(図13Bに戻ると、これらの有益な改善は、ステップ11で説明するさらなる時効処理によって達成される。例えば、従来の方法で成形された超弾性医療部材から始め、300℃以下の温度、好ましくは150℃~250℃の範囲で時効処理を施す。)
[図:0001436229000001.jpg]
(図13B)
[図:0001436229000002.jpg]
イ 甲1には、生体内でR相特性が改善された埋め込み型医療部材を製造するためのTiNi材料の加工方法について記載されている(【0003】、請求項24、27、28)ところ、請求項24、27、28の記載を前提として、その具体的な実施形態(【0065】)に着目すると、甲1には、以下の発明が記載されていると認められる。
「埋め込み型医療部材を製造するためのTiNi材料の加工方法であって、
TiNi材料であるニッケル含有量50.8重量%のチタン合金ワイヤ材料を、45%断面積減少率となる直径減少率で冷間加工し、
その後、冷間加工された上記ワイヤ材料を約550℃の温度で引張応力下で時効処理し、ワイヤ材料を直線状にし、
その後、直線状とされた上記ワイヤ材料を250℃で105時間さらに時効処理し、オーステナイトに対してR相を安定化させ、所望のR相特性を得る、
TiNi材料の加工方法。」(以下、「甲1発明」という。)
(2)本件発明11について
ア 対比
本件発明11と甲1発明とを対比する。
(ア)甲1発明における「45%断面積減少率となる直径減少率で冷間加工」された「TiNi材料であるニッケル含有量50.8重量%のチタン合金ワイヤ材料」は、本件発明11における「ワイヤ」に相当する。
(イ)甲1発明において、「45%断面積減少率となる直径減少率で冷間加工」された「TiNi材料であるニッケル含有量50.8重量%のチタン合金ワイヤ材料」を「約550℃の温度で」「時効処理」することは、技術常識に照らして、時効処理が所定の温度、所定の時間で保持するものであることは明らかであるから、上記(ア)も踏まえると、本件発明11において、「ワイヤに」「450℃~550℃の第一の温度の熱を第一の時間課す」「第一の熱処理を課する」ことに相当する。
(ウ)甲1発明においては、冷間加工されたワイヤ材料を時効処理する際に、「引張応力下で」時効処理し、「ワイヤ材料を直線状にし」ているところ、技術常識に照らして、引張応力下でワイヤ材料を直線状にすることにより、ワイヤ材料に歪みが付与されて少なからず変形することは明らかであり、また、甲1の記載(【0099】、【0100】)によれば、引張応力下で時効処理し、ワイヤ材料を直線状にすることにより、その形状が固定されるものと認められる。
そうすると、甲1発明において、「45%断面積減少率となる直径減少率で冷間加工」された「TiNi材料であるニッケル含有量50.8重量%のチタン合金ワイヤ材料」「を約550℃の温度で引張応力下で時効処理し、ワイヤ材料を直線状に」することは、上記(ア)、(イ)も踏まえると、本件発明11において、「前記第一の熱処理中に前記ワイヤに歪み変形を課して前記ワイヤの形状を固定する」ことに相当する。
(エ)甲1発明において、「直線状とされた上記ワイヤ材料を250℃で105時間さらに時効処理」することは、上記「250℃」が、引張応力下で時効処理する際の「約550℃」(上記(イ)参照)とは異なる温度であることは明らかであるから、本件発明11において、「ワイヤの形状」が「固定」された「前記ワイヤに」、「前記第一の温度」である「450℃~550℃」「とは異なる第二の温度」である「210℃~290℃」「の熱を第二の時間課す」「第二の熱処理を課す」ことに相当する。
(オ)甲1発明における「埋め込み型医療部材を製造するためのTiNi材料の加工方法」は、その加工方法によって、直線状とされたワイヤ材料が得られることは明らかであるから、本件発明11における「ワイヤの製造方法」に相当する。
(カ)以上によれば、本件発明11と甲1発明とは、
「ワイヤに第一の熱処理を課すること、
前記第一の熱処理中に前記ワイヤに歪み変形を課して前記ワイヤの形状を固定すること、及び、
前記ワイヤに第二の熱処理を課すこと、
を含む方法によって形成される、ワイヤの製造方法であって、
前記第一の熱処理は、450℃~550℃の第一の温度の熱を第一の時間課すことを含み、
前記第二の熱処理は、前記第一の温度とは異なる第二の温度の熱を第二の時間課すことを含み、前記第二の温度は210℃~290℃である、ワイヤの製造方法。」
の点で一致し、以下の点で相違する。
・相違点1
ワイヤが、本件発明11では、「メディカルグレードおよびASTM準拠のニチノールを含む」のに対して、甲1発明では、「TiNi材料であるニッケル含有量50.8重量%のチタン合金」で構成される点。
イ 相違点1の検討
(ア)まず、相違点1が実質的な相違点であるか否かについて検討する。
a 本件発明11における「メディカルグレードおよびASTM準拠のニチノール」は、本件明細書の記載(【0003】、【0004】、【0067】)及び技術常識(甲4)を考慮すれば、ASTM F2063に準拠した、医療機器に用いられる、54.5~57.0重量%のニッケルを含むニッケルチタン合金であるニチノールを意味するものと認められる。
(この点、本件特許に係る出願(特願2022-519259号)の拒絶査定不服審判(不服2024-5621)の審判請求書における請求人(特許権者)の主張も、少なくともニッケルの含有量の点については、上記の認定に沿うものである。)
b これに対して、甲1発明のワイヤ材料は、「TiNi材料であるニッケル含有量50.8重量%のチタン合金」で構成されるものであるから、本件発明11のワイヤを構成する「メディカルグレードおよびASTM準拠のニチノール」とは、少なくともニッケルの含有量の点で相違する。
c この点、申立人は、甲1では、ASTM規格の定義にしたがってNiTi材のAf点を定義している(【0005】)から、甲1のNiTi材はASTMに準拠しており、ASTM準拠のニチノールに等しいと主張する。
しかしながら、本件発明11における「メディカルグレードおよびASTM準拠のニチノール」は、上記aのとおりのものと認められるから、甲1発明のワイヤ材料とは、少なくともニッケルの含有量の点で相違することは、上記bのとおりである。
よって、申立人の主張は採用できない。
d 以上によれば、相違点1は実質的な相違点である。
したがって、本件発明11は、甲1に記載された発明であるとはいえない。
(イ)次に、相違点1の容易想到性について検討する。
a 甲1には、TiNi材料として、実質的にTiとNiのみを含み、Ni原子百分率が50.5~51.5%(55.6~56.6重量%)である二元組成物(【0089】)が記載されている(当該二元組成物は、本件発明11の「メディカルグレードおよびASTM準拠のニチノール」に相当する。)。
そうすると、甲1発明において、ワイヤ材料として、「TiNi材料であるニッケル含有量50.8重量%のチタン合金」に代えて、実質的にTiとNiのみを含み、Ni原子百分率が50.5~51.5%(55.6~56.6重量%)である二元組成物を用いることができると解する余地がある。
b しかしながら、甲1発明は、(オーステナイトとマルテンサイトの間に現れる第3の相である)R相とマルテンサイト相の間で主に超弾性が生じる合金から医療機器を製造する(【0053】、【0063】)ために、R相を安定化させる(【0065】)ことを意図したものと解される。
ここで、合金は、その成分及び組成範囲が異なれば、同じ製造方法により製造したとしても、その特性や組織は異なることが通常であることを踏まえると、甲1発明において、ワイヤ材料を上記aのように変更した場合、R相を安定化させるためには、冷間加工条件、冷間加工されたワイヤ材料に対する時効処理条件、直線状とされたワイヤ材料に対するさらなる時効処理条件のそれぞれについて、調整する必要があると解されるが、具体的にどのように調整すればよいかは不明である。
そうすると、このような点が不明なままで、甲1発明において、ワイヤ材料を上記aのように変更することが動機付けられるとはいえない。
また、このことは、仮に、甲2~甲5に本件発明11の「メディカルグレードおよびASTM準拠のニチノール」に相当するものが記載されていたとしても、変わるものではない。
c この点、甲1には、冷間加工条件(少なくとも15%、好ましくは20%~50%、より好ましくは35%~50%(【0094】))、冷間加工されたワイヤ材料に対する時効処理条件(350℃から700℃、最も好ましくは475℃から580℃(【0099】、【0100】))、直線状とされたワイヤ材料に対するさらなる時効処理条件(300℃以下、好ましくは150℃~250℃(【0103】))について、記載されている。
仮に、甲1のこれらの記載に基づいて、R相を安定化させるための条件を試行錯誤により実際に決定できたとしても、そのようにして決定された、冷間加工されたワイヤ材料に対する時効処理条件、直線状とされたワイヤ材料に対するさらなる時効処理条件が、それぞれ、本件発明11で特定される第一の熱処理における第一の温度(450℃~550℃)、第二の熱処理における第二の温度(210℃~290℃)を必ず満たすといえるかどうかは不明であり、これらの点が新たな相違点となってしまう(当該相違点が当業者にとって容易想到であるとする根拠は見当たらない。)。
d 仮に、甲1発明において、ワイヤ材料を上記aのように変更することができたとしても、本件発明11は、その製造方法によって製造されたワイヤの永久歪みを小さくできるという効果を奏するものである(【0067】~【0071】、図3、4)ところ、R相を安定化させることを意図する甲1には、そのR相の存在のために残留歪みが生じることが記載されている(【0068】)から、本件発明11の上記効果は、甲1の記載から当業者が予測することができないものである。
e 以上によれば、甲1発明において、ワイヤ材料として、「TiNi材料であるニッケル含有量50.8重量%のチタン合金」に代えて、「メディカルグレードおよびASTM準拠のニチノールを含む」ものを用いることは、当業者が容易に想到することができたとはいえない。
したがって、本件発明11は、甲1に記載された発明に基いて、又は、甲1に記載された発明及び甲2~甲5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
ウ 小括
以上のとおり、本件発明11は、甲1に記載された発明であるとはいえない。
また、本件発明11は、甲1に記載された発明に基いて、又は、甲1に記載された発明及び甲2~甲5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)まとめ
したがって、申立理由1(新規性)、申立理由2(進歩性)によっては、本件特許の請求項11に係る特許を取り消すことはできない。
第5 むすび
以上のとおり、特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては、本件特許の請求項11に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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