特許異議申立
2017-700261
車両用灯具の制御装置
- 審判番号
- 2017-700261
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2016-111521外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2017年03月13日
- 審決日
- 2018年02月08日
- 公報発行日
- 2018年08月31日
- 結論
- 請求成立(取消)
- 分類
- P1651.113-ZC (B60Q) / P1651.121-ZC (B60Q)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条1項3号特許法29条2項特許法113条2号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第5996823号発明「車両用灯具の制御装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第5996823号の請求項4、5に係る特許を取り消す。
同請求項1ないし3に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1.手続の経緯
特許第5996823号の請求項1~5に係る特許についての出願は、平成23年6月23日(優先権主張:平成22年7月1日)に出願した特願2011-139615号(以下、「原出願」という。)の一部を平成27年4月6日に新たな特許出願である特願2015-77432号とし、さらに同特願2015-77432号の一部を平成28年6月3日に新たな特許出願としたものであって、平成28年9月2日に特許権の設定登録がされ、その後、特許異議申立人安孫子勉(以下、「特許異議申立人」という。)より請求項1~5に係る特許に対して特許異議の申立てがなされ、平成29年6月2日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年7月21日に意見書の提出がされ、同年9月27日付けで取消理由(決定の予告)が通知されたが、その指定期間内に意見書の提出及び訂正請求がなされなかったものである。
第2.本件発明
特許第5996823号の請求項1~5の特許に係る発明(以下、「本件発明1~5」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1~5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
傾斜検出装置の車両停止時の検出値に基づいて路面角度に関する情報を算出し、
前記傾斜検出装置の車両停止中の検出値と前記路面角度に関する情報とから得られる車両姿勢角度に関する情報に基づいて車両用灯具の光軸を調節することを特徴とする車両用灯具の制御装置。
【請求項2】
前記傾斜検出装置の車両発進時の検出値と、前記傾斜検出装置の車両停止時の検出値との差分から前記路面角度に関する情報を算出する請求項1に記載の車両用灯具の制御装置。
【請求項3】
車両停止時に、車両の走行前後における前記傾斜検出装置の検出値の差分から前記路面角度に関する情報を算出する請求項1に記載の車両用灯具の制御装置。
【請求項4】
傾斜検出装置の車両停止時の検出値と前記傾斜検出装置の車両停止中の検出値との差分と、車両姿勢角度に関する基準値とに基づいて車両用灯具の光軸を調節することを特徴とする車両用灯具の制御装置。
【請求項5】
傾斜検出装置の車両停止時の検出値と前記傾斜検出装置の車両停止中の検出値との差分に基づいて車両用灯具の光軸を調節することを特徴とする車両用灯具の制御装置。」
第3.取消理由(決定の予告)の概要
平成29年9月27日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)は、要旨次のとおりである。
【取消理由1】
本件発明4は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物1に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
【取消理由2】
本件発明5は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
記
刊行物1:特開2006-27300号公報(特許異議申立人が提出した甲 第1号証)
第4.当審の判断
1.【取消理由1】について
(1)刊行物1の記載事項及び認定事項(下線は当審で付与した。以下同様。)
(1a)「【請求項1】
車両の進行方向における姿勢変化及び走行路の道路勾配に応じて車両用前照灯の照射方向を制御する車両用前照灯装置において、
水平面に対して路面がなす角度として第一の角度を検出する第一の検出手段と、
水平面に対して車両の車体軸がなす角度として第二の角度を検出する第二の検出手段と、
上記第一及び第二の検出手段によって得られる各検出角度の比較結果又は検出角度差に基づいて、鉛直面内における上記車両用前照灯の照射方向を変更し又は該照射方向を維持する照射制御手段を備えている
ことを特徴とする車両用前照灯装置。
【請求項2】
請求項1に記載した車両用前照灯装置において、
上記第一の検出手段に衛星通信装置又は路車間通信装置を用いて、車両の現在位置データ及び道路勾配若しくは高低情報を含む3次元地図データに基づいて上記第一の角度を求める
ことを特徴とする車両用前照灯装置。
【請求項3】
請求項1に記載した車両用前照灯装置において、
上記第一の検出手段として衛星通信装置又は路車間通信装置を用いるとともに、高低情報を含まない2次元地図データにおいて走行路上の水平距離として算出される第一の距離と、車両が実際に走行した第二の距離とを求めて、両者の距離比から上記第一の角度を算出する
ことを特徴とする車両用前照灯装置。
【請求項4】
請求項1に記載した車両用前照灯装置において、
上記第一の検出手段として鉛直方向における角加速度を検出するセンサを用い、その検出値に対して2回の時間積分を行うことで得られる高低差から上記第一の角度を算出する
ことを特徴とする車両用前照灯装置。
【請求項5】
請求項1に記載した車両用前照灯装置において、
上記第二の検出手段として、水準器を用いたレベルセンサを車体又は上記車両用前照灯の非可動部に付設した
ことを特徴とする車両用前照灯装置。
【請求項6】
請求項5に記載した車両用前照灯装置において、
上記第一の角度を「θ」と記し、上記第二の角度に係る所定時間又は所定走行距離内での平均値を「δ」と記すとき、路面に対して車体軸がなす角度「θ-δ」に応じた上記車両用前照灯の照射方向変化を相殺すべく上記照射制御手段により照射方向が補正される
ことを特徴とする車両用前照灯装置。」
(1b)「【0001】
本発明は、車両の姿勢変化及び道路勾配に応じて車両用前照灯の照射方向を制御することにより、前方視認性を向上させるための技術に関する。」
(1c)「【0007】
しかしながら、従来の装置構成では、路面に対する車体軸の角度を精度良く検出することができないか、あるいは検出が可能であったとしてもそのために構成や制御が複雑化したりコスト上昇等が問題とされる。」
(1d) 「【0025】
また、第二の検出手段3は、水平面に対して車両の車体軸がなす角度(これを「δ」と記す。)を検出する。第二の検出手段3には、水準器を用いたレベルセンサ又は傾斜センサが用いられ、車体又は車両用前照灯の非可動部に付設される。尚、レベルセンサの検出方法には、例えば、気泡位置等を光学的に計測する方式と、錘位置(あるいは加重位置)を計測する機械式等が挙げられ、水準器の車体等への取り付けに際して水平面にほぼ平行な状態で設置する。また、車両の加減速時における加速度の影響によって計測誤差が発生することへの配慮が必要とされ、車両の定速走行時にのみ、δを検出するか、あるいはδ値として所定時間又は所定の走行距離内での平均値を検出することが好ましい。」
(1e)「【0047】
上記照射制御手段5を構成するビーム制御用ECU10は、自車両の走行状況に応じた前照灯の照射制御を行うものであり、レベルセンサ14や加速度センサ15の検出情報が入力され、ナビゲーションECU9から必要な情報(角度θの検出データを含む。)を取得して前照灯の照射方向を制御する。具体的には、ナビゲーションECU9から勾配角度θのデータを得るとともに、レベルセンサ14の検出角度δのデータから所定時間又は所定走行距離内での平均値を算出する。そして、路面に対して車体軸のなす角度γを求め、γ値に応じた制御信号を駆動部16に対して出力する。駆動部16には前照灯の光軸調整用アクチュエータとその駆動回路が設けられており、角度γに応じた前照灯の照射方向変化を相殺すべく光軸調整が行われて照射方向が補正される。尚、加速度センサ15は車両の加減速状態を検出するために設けられており、また、図示しない他のECU(ABS用ECU等)に設けられた車速センサ13′の検出情報が必要に応じてビーム制御用ECU10に入力される。」
(1f)「【0060】
ステップS8の始動時に、乗員の乗車条件や荷物等の積載条件が変化した場合には、該変化に応じて照射光軸が制御される。例えば、停車時のレベルセンサの出力角がδ1であるとして、さらに乗員が増えたり、トランク等に積載物が搭載された結果、レベルセンサの出力角がδ2に変化した場合を想定する。そのときの出力角の変化量「Δδ=δ2-δ1」に応じて前照灯の照射光軸の向きが変化するが、その変化を相殺するようにΔδの値の応じて照射光軸制御用のアクチュエータを駆動して鉛直面内における照射方向を補正する。」
(1g)上記摘示(1f)の記載内容から、レベルセンサの停車時の出力角δ1とレベルセンサの乗員の乗車条件や荷物等の積載条件が変化した結果の出力角δ2との変化量Δδ=δ2-δ1に応じて 、照射方向を補正するものと認められる。
(2)刊行物1に記載された発明
記載事項(1b)~ (1d)及び(1f)並びに認定事項(1g)によれば、刊行物1には、本件発明4の記載ぶりに則って整理すると、次の発明が記載されていると認められる(以下、「引用発明」という。)。
<引用発明>
「レベルセンサの停車時の出力角δ1と前記レベルセンサの乗員の乗車条件や荷物等の積載条件が変化した結果の出力角δ2との変化量Δδ=δ2-δ1に応じて、その変化を相殺するように照射光軸制御用のアクチュエータを駆動して鉛直面内における照射方向を補正する車両用前照灯装置。」
(3)対比
本件発明4と引用発明を対比する。
ア.後者の「レベルセンサ」は、記載事項(1d)に記載されているように「水平面に対して車両の車体軸がなす角度」を検出するものであるから、前者の「傾斜検出装置」に相当する。
イ.後者の「レベルセンサの停車時の出力角δ1」は、前者の「傾斜検出装置の車両停止時の検出値」に相当する。
また、乗員の乗車条件や荷物等の積載条件が変化するのは、記載事項(1f)によれば「ステップS8の始動時」であり、併せて【図5】を参酌すると該「ステップS8の始動時」はS9「走行開始」の前であるから、停車中であるといえる。そうすると、後者の「前記レベルセンサの乗員の乗車条件や荷物等の積載条件が変化した結果の出力角δ2」は、本願発明4の「前記傾斜検出装置の車両停止中の検出値」に相当する。
そして、後者の「変化量Δδ=δ2-δ1」は前者の「差分」に相当する。
ウ.後者の「変化量Δδ=δ2-δ1に応じて、その変化を相殺するように照射光軸制御用のアクチュエータを駆動して鉛直面内における照射方向を補正する車両用前照灯装置」と、前者の「差分と、車両姿勢角度に関する基準値とに基づいて車両用灯具の光軸を調節する」「車両用灯具の制御装置」とは、「差分に基づいて車両用灯具の光軸を調節する車両用灯具の制御装置」の限度で共通する。
以上を総合すると、本件発明4と引用発明1とは、
<一致点>
傾斜検出装置の車両停止時の検出値と前記傾斜検出装置の車両停止中の検出値との差分に基づいて車両用灯具の光軸を調節する車両用灯具の制御装置。
の点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点>
本件発明4は、「差分と、『車両姿勢角度に関する基準値』とに基づいて車両用灯具の光軸を調節する」のに対し、
引用発明は、「変化量Δδ=δ2-δ1に応じて、その変化を相殺するように照射光軸制御用のアクチュエータを駆動して鉛直面内における照射方向を補正する」ものであるが、「変化量Δδ」と『車両姿勢角度に関する基準値』とに基づいて「照射方向を補正する」ことが特定されていない点。
(4)判断
上記相違点について検討する。
本件発明4の「差分と車両姿勢角度に関する基準値とに基づいて車両用灯具の光軸を調節する」ことに関し、本件明細書の段落【0052】に「現在の加速度センサ316の検出値から得られる合計角度θと、イグニッションオフ前の最後に検出された加速度センサ316の検出値から得られる合計角度θとの差分を算出し、得られた差分と車両姿勢角度θvの基準値とから現在の車両姿勢角度θvを計算する。そして、制御部228R2は、計算された車両姿勢角度θvを用いて光軸調節を実施する」と記載されている。
上記段落【0052】の記載において、「イグニッションオフ前の最後に検出された加速度センサ316の検出値から得られる合計角度θと」「現在の加速度センサ316の検出値から得られる合計角度θ」との「差分」は、本件発明4の「傾斜検出装置の車両停止時の検出値と前記傾斜検出装置の車両停止中の検出値との差分」に対応し、同じく「差分と車両姿勢角度θvの基準値とから現在の車両姿勢角度θvを計算する。そして、制御部228R2は、計算された車両姿勢角度θvを用いて光軸調節を実施する」ことは、本件発明4の「差分と、車両姿勢角度に関する基準値とに基づいて車両用灯具の光軸を調節する」ことに対応している。
そうすると、本件発明4の「差分と、車両姿勢角度に関する基準値とに基づいて車両用灯具の光軸を調節する」とは「差分と、車両姿勢角度の基準値とから現在の車両姿勢角度を計算し、計算された車両姿勢角度を用いて車両用灯具の光軸を調節する」ことと解することができる。
また、「車両姿勢角度の基準値」に関し、本件明細書の段落【0045】には「制御部228R2は、初期化信号を受けると、受信部228R1が受信した加速度センサ316の出力値を基準傾斜角度として用いて、初期エイミング調整を実施する。また、制御部228R2は、路面角度θrの基準値=0°、車両姿勢角度θvの基準値=0°という情報をメモリ228R4に記録することで、これらの基準値を保持する。」と記載され、同段落【0047】には「そして車両停止時に、制御部228R2は、加速度センサ316の検出値から導出された現在の車両300の傾斜角度、すなわち合計角度θから、メモリ228R4から読み出した車両姿勢角度θvの基準値を減算して、車両停止時の路面角度θrを計算する。」と記載され、同段落【0048】には「車両停止中、制御部228R2は、所定のタイミングで繰り返し車両姿勢角度θvを計算する。車両姿勢角度θvは、現在の合計角度θからメモリ228R4に記録されている路面角度θrの基準値を減じて得られる。計算された車両姿勢角度θvと車両姿勢角度θvの基準値との差が所定量以上であった場合、制御部228R2は、新たに得られた車両姿勢角度θvに基づいて光軸調節のための制御信号を生成する。そして、この制御信号に基づいて光軸が調節される。また、計算された車両姿勢角度θvは、新たな基準値としてメモリ228R4に記録される。」と記載されている。これらの記載内容と本件明細書の段落【0044】の「車両停止中の合計角度θの変化が車両姿勢角度θvの変化と推定され、車両走行中の合計角度θの変化が路面角度θrの変化と推定される。」との記載を加味すれば、上記「車両姿勢角度θvの基準値」は、車両停止時に、路面角度θrを計算するために読み出される値であって、車両停止中に変化する合計角度θから路面角度θrの基準値を減じて計算された車両姿勢角度θvが該基準値との差が所定量以上であった場合に、新たな基準値としてメモリ228R4に記録されるものであるから、結局、車両停止中に合計角度θが変化する前の車両停止時の車両姿勢角度θvといえる。
他方、刊行物1の段落【0047】の「ナビゲーションECU9から勾配角度θのデータを得るとともに、レベルセンサ14の検出角度δのデータから所定時間又は所定走行距離内での平均値を算出する。そして、路面に対して車体軸のなす角度γを求め、γ値に応じた制御信号を駆動部16に対して出力する。」との記載(以下、「刊行物1に記載された事項」という。)によれば、刊行物1には、本件発明4の「車両姿勢角度」に相当する「路面に対して車体軸のなす角度γ」を求め、γ値に応じた制御信号を駆動部16に出力する態様も記載されており、該「路面に対して車体軸のなす角度γ」を保持するメモリを有することは自明なことである。
そして、引用発明は、「変化量Δδ=δ2-δ1に応じて、その変化を相殺するように照射光軸制御用のアクチュエータを駆動して鉛直面内における照射方向を補正する」ものであるところ、一般的に、アクチュエータへの角度の制御信号の与え方として、角度の変化量にするか、該変化量に変化する前の角度を加えた現在の角度にするかは、当業者が適宜選択し得ることであるから、引用発明1において、後者の角度の制御信号の与え方を採用し、変化量Δδと、車両停止中に合計角度θが変化する前(乗員の乗車条件や荷物等の積載条件が変化する前)の停車時の路面に対する車体軸のなす角度γ(本件発明4の「車両姿勢角度の基準値」に相当。)とから現在の路面に対する車体軸のなす角度γを計算し、計算された車体軸のなす角度γを用いて照射光軸制御用のアクチュエータを駆動して鉛直面内における照射方向を補正する構成とすることは当業者であれば適宜になし得ることである。
よって、引用発明において、上記相違点に係る本件発明4の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
そして、本件発明4の奏する効果は、引用発明1及び刊行物1に記載された事項から予測しうるものであり、格別顕著であるとはいえない。
(5)小括
以上より、本件発明4は、引用発明及び刊行物1に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
2.【取消理由2】について
(1)刊行物1の記載事項及び引用発明
刊行物1の記載事項及び引用発明は、上記1.(1)及び(2)に記載されたとおりである。
(2)対比・判断
本件発明5と引用発明を対比する。
ア.後者の「レベルセンサ」は、記載事項(1d)に記載されているように「水平面に対して車両の車体軸がなす角度」を検出するものであるから、前者の「傾斜検出装置」に相当する。
イ.後者の「レベルセンサの停車時の出力角δ1」は、前者の「傾斜検出装置の車両停止時の検出値」に相当する。
また、乗員の乗車条件や荷物等の積載条件が変化するのは、記載事項(1f)によれば「ステップS8の始動時」であり、併せて【図5】を参酌すると該「ステップS8の始動時」はS9「走行開始」の前であるから、停車中であるといえる。そうすると、後者の「前記レベルセンサの乗員の乗車条件や荷物等の積載条件が変化した結果の出力角δ2」は、本願発明4の「前記傾斜検出装置の車両停止中の検出値」に相当する。
そして、後者の「変化量Δδ=δ2-δ1」は、前者の「差分」に相当する。
ウ.後者の「変化量Δδ=δ2-δ1に応じて、その変化を相殺するように照射光軸制御用のアクチュエータを駆動して鉛直面内における照射方向を補正する車両用前照灯装置」は、前者の「差分に基づいて車両用灯具の光軸を調節する」「車両用灯具の制御装置」に相当する。
以上を総合すると、本件発明5と引用発明とは、
「傾斜検出装置の車両停止時の検出値と前記傾斜検出装置の車両停止中の検出値との差分に基づいて車両用灯具の光軸を調節する車両用灯具の制御装置。」
の点で一致し、相違点は存在しない。
よって、本件発明5は、引用発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
第5.取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
特許異議申立人は、下記申立理由を主張している。
【申立理由1】本件発明1~3は、甲第1号証(刊行物1)に記載の発明である。
【申立理由2】本件発明1~3は、甲第1号証(刊行物1)に記載の発明と特許異議申立人が提出した甲第2号証(特開2000-85459号公報)に記載の発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
1.当審の判断
(1)【申立理由1】について
(1-1)本件発明1について
特許異議申立書人は異議申立書の3.(4)イ.(ア)において、甲第1号証には以下の発明が記載されていると述べている。
「a.停車時のレベルセンサの出力角がδ1である点。
b.走行前のレベルセンサの出力角(δ=0)と、走行後のレベルセンサの出力角(δ=δ1)との差分(δ1-0=δ1)に基づいて、路面の傾き(θ=δ1)を演算する点。
c.停車時のレベルセンサの出力角がδ1であるとして、さらに乗員が増えたり、トランク等に積載物が搭載された結果、レベルセンサの出力角がδ2に変化した場合、そのときの出力角の変化量「Δδ=δ2-δ1」に応じて、照射光軸制御用のアクチュエータを駆動して鉛直面内における照射方向を補正する点。」
甲第1号証の段落【0059】によれば、上記a.及びb.の事項が、同段落【0060】によれば、上記c.の事項が記載されているといえる。
しかしながら、上記a.及びb.の事項と上記c.の事項の関係は不明であり、段落【0059】の末尾の「照射光軸を制御すべきでない。」との記載を参酌すると、上記a.及びb.の事項と上記c.の事項は独立しており、上記c.の事項の単独でも照射方向を補正することは可能であると解するのが自然であるから、上記a.~c.の事項を機能的に結びつけて、一つの発明を認定することはできない。
そして、甲第1号証の前記第4.1.(1)の記載事項(1a)~(1f)によれば、甲第1号証には、次の発明が記載されていると認められる(以下、「甲1発明」という。)。
「水平面に対して路面がなす角度として第一の角度を検出する第一の検出手段と、
水平面に対して車両の車体軸がなす角度として第二の角度を検出する第二の検出手段と、
上記第一の角度を「θ」と記し、上記第二の角度に係る所定時間又は所定走行距離内での平均値を「δ」と記すとき、路面に対して車体軸がなす角度「θ-δ」に応じて照射方向変化を相殺すべく照射光軸制御用のアクチュエータを駆動して鉛直面内における照射方向を補正する照射制御手段を備えている車両用前照灯装置。」
本件発明1と甲1発明を対比する。
ア.後者の「水平面に対して路面がなす角度として第一の角度」は前者の「路面角度に関する情報」に相当する。また、後者は「第一の検出手段」により「水平面に対して路面がなす角度として第一の角度を検出する」ものであるから、後者の「水平面に対して路面がなす角度として第一の角度を検出する第一の検出手段」を有することと、前者の「傾斜検出装置の車両停止時の検出値に基づいて路面角度に関する情報を算出」することは、「路面角度に関する情報を算出」することの限度で共通する。
イ.後者の「水平面に対して車両の車体軸がなす角度として第二の角度を検出する第二の検出手段」は前者の「傾斜検出装置」に相当する。
ウ.後者の「路面に対して車体軸がなす角度「θ-δ」」は、前者の「車両姿勢角度に関する情報」に相当する。
そうすると、後者の「上記第一の角度を「θ」と記し、上記第二の角度に係る所定時間又は所定走行距離内での平均値を「δ」と記すとき、路面に対して車体軸がなす角度「θ-δ」に応じて照射方向変化を相殺すべく照射光軸制御用のアクチュエータを駆動して鉛直面内における照射方向を補正する照射制御手段を備えている車両用前照灯装置」と前者の「前記傾斜検出装置の車両停止中の検出値と前記路面角度に関する情報とから得られる車両姿勢角度に関する情報に基づいて車両用灯具の光軸を調節する」「車両用灯具の制御装置」とは、「前記傾斜検出装置の検出値と前記路面角度に関する情報とから得られる車両姿勢角度に関する情報に基づいて車両用灯具の光軸を調節する」「車両用灯具の制御装置」の限度で共通する。
以上を総合すると、本件発明1と甲1発明とは、
<一致点>
路面角度に関する情報を算出し、
傾斜検出装置の検出値と前記路面角度に関する情報とから得られる車両姿勢角度に関する情報に基づいて車両用灯具の光軸を調節する車両用灯具の制御装置。
の点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点1>
「路面角度に関する情報」に関し、
本件発明1は、「傾斜検出装置の車両停止時の検出値に基づいて」算出しているのに対し、
甲1発明は、かかる算出手段が特定されていない点。
<相違点2>
「光軸を調節する」際の「傾斜検出装置」に関し、
本件発明1は、「車両停止中の検出値」であるのに対し、
甲1発明は、「所定時間又は所定走行距離内での平均値」である点。
以上のとおり、本件発明1と甲1発明とは、上記相違点1及び2で相違するから、本件発明1は甲1発明であるとはいえない。
(1-2)本件発明2及び3について
本件発明2及び3は本件発明1を減縮する発明であり、本件発明1の発明特定事項をすべて含むものである。
本件発明2及び3と甲1発明とを対比すると、両者は、少なくとも上記相違点1及び2で相違するから、本件発明2及び3は甲1発明であるとはいえない。
よって、本件発明2及び3は特許法第29条第1項第3号に該当しない。
(2)【申立理由2】について
(2-1)本件発明1について
本件発明1と甲1発明を対比すると、上記相違点1及び2で相違する。
上記相違点1について検討する。
甲1発明の「水平面に対して路面がなす角度として第一の角度」(本件発明1の「路面角度に関する情報」に相当する。)は、「第一の検出手段」により検出するものであるところ、該「第一の検出手段」の具体的態様において、甲第1号証(刊行物1)の請求項3及び4(記載事項ア.)の記載によれば、「衛星通信装置又は路車間通信装置を用いるとともに、高低情報を含まない2次元地図データにおいて走行路上の水平距離として算出される第一の距離と、車両が実際に走行した第二の距離とを求めて、両者の距離比から上記第一の角度を算出する」態様、又は「鉛直方向における角加速度を検出するセンサを用い、その検出値に対して2回の時間積分を行うことで得られる高低差から上記第一の角度を算出する」態様であり、本件発明1の「傾斜検出装置」に相当する「第二の検出手段」を用いて上記「第一の角度」(本件発明1の「路面角度に関する情報」に相当する。)を検出するものではないから、上記いずれの態様においても、本件発明1の「傾斜検出装置の車両停止時の検出値に基づいて」算出する構成とは相違する。
甲第2号証(特開2000-85459号公報)には、その請求項1及び2の記載によれば「ヘッドライト光の光軸を車体の上下方向に傾動調整する光軸調整手段を有するヘッドライトの光軸自動調整装置において、車体の前後方向の傾斜角度を検出する重力センサと、上記車体の停車中の傾斜角度の変化量に基づいて上記光軸調整手段を制御し、上記ヘッドライト光の照射方向を適正な状態に保持する制御手段とを備えたヘッドライトの光軸自動調整装置。」の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されているが、車体の路面角度に関する情報を「車体の前後方向の傾斜角度を検出する重力センサ」(本件発明1の「傾斜検出装置」に相当する。)の車両停止時の検出値に基づいて算出するものではない。
以上によれば、甲1発明に甲2発明を適用しても、相違点1に係る本件発明1の構成に至らない。
したがって、本件発明1は、上記相違点2について検討するまでもなく甲1発明と甲2発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(2-2)本件発明2及び3について
本件発明2及び3は、本件発明1をさらに減縮した発明であり、本件発明1の発明特定事項を全て含むものである。
そして、本件発明2及び3と甲1発明とを対比すると、両者は、少なくとも上記相違点1及び2で相違し、かつ甲1発明に甲2発明を適用しても、相違点1に係る本件発明1の構成に至らないものであるから、本件発明2及び3は、甲1発明と甲2発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)小括
以上のとおり、特許異議申立理由によって請求項1~3に係る特許を取り消すことはできない。
第6.むすび
以上のとおり、請求項4に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、請求項5に係る特許は特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
また、請求項1~3に係る特許については、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、取り消すことはできない。さらに、他に請求項1~3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2017-700261