特許異議申立
2023-700917
車両用灯具
- 審判番号
- 2023-700917
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-548596
- 登録番号
- 7236453
- 請求日
- 2023年09月06日
- 審決日
- 2024年09月05日
- 公報発行日
- 2024年12月27日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】株式会社小糸製作所
- 【権利者代理人】森下 賢樹
- 【権利者代理人】村田 雄祐
- 【権利者代理人】三木 友由
- 【異議申立人】河原田 隆
- 審判長/審判官
- 審判長 筑波 茂樹
- 審判官 澤崎 雅彦
- 審判官 草野 顕子
- 分類
- P1651.113-YAA(B60Q) / P1651.121-YAA(B60Q) / P1651.537-YAA(B60Q)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7236453号発明「車両用灯具」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7236453号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~5〕について訂正することを認める。
特許第7236453号の請求項1~5に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7236453号(以下「本件特許」という。)の請求項1~5に係る特許についての出願は、2019年(令和1年)9月19日(優先権主張 平成30年9月19日)を国際出願日とする出願であって、令和5年3月1日にその特許権の設定登録がされ、同年3月9日に特許掲載公報が発行された。
その特許についての特許異議申立人河原田隆(以下「申立人」という。)による本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和5年 9月 6日 特許異議の申立て
同年12月28日付け 取消理由通知書
令和6年 3月 8日 特許権者より意見書・訂正請求書
同年 5月22日 申立人より意見書
第2 訂正の適否
1 訂正の内容
令和6年3月8日に提出された訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである(下線は、訂正箇所を示す。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1の
「前記配光コントローラは、前記所定領域のうち、照射対象物が存在しない範囲への前記ビームの照射量を低減し、またはゼロとするように、」
との記載を、
「前記配光コントローラは、照射対象物が存在する範囲を検出し、前記所定領域から前記照射対象物が存在する範囲を除外することにより空が含まれる部分を抽出し、当該空が含まれる部分への前記ビームの照射量を低減し、またはゼロとするように、」
に訂正する。(請求項1の記載を引用する請求項2~5も同様に訂正する。)
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正の目的について
訂正事項1は、訂正前の請求項1における「ビームの照射量を低減し、またはゼロとする」範囲について、その範囲を「空が含まれる部分」として限定すると共に、その範囲を決定するための具体的内容が不特定であったのを、「照射対象物が存在する範囲を検出し、前記所定領域から前記照射対象物が存在する範囲を除外することにより空が含まれる部分を抽出」すると特定するものである。
したがって、訂正事項1は特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(2)新規事項について
本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件明細書等」という。)には、ビームの照射量を低減し、またはゼロとする範囲を決定するための具体的内容について、「図4は、自車前方に照射対象物が存在しない状況を示す図である。この場合、測距センサ130によって路面(地面)11のみが検出され、それ以外の部分は、何もない空間12として判定される。」(段落【0030】)、「配光コントローラ140は、・・・歩行者7、看板およびそれを支えるポール(看板8と総称する)を照射対象物10として扱う。」(段落【0031】)、「配光コントローラ140は、基準パターン903のうち、何もない空間12に対応する範囲(ハッチングを付す)が遮光され、歩行者7や看板8などの照射対象物10が存在する部分にビームが照射される照射パターン902Cが得られるように、配光パターンPTNを生成する。」(段落【0032】)との記載があり、これらの記載を踏まえれば、本件明細書等には、照射対象物10が存在する範囲を検出し、基準パターン903(所定領域)から前記照射対象物10が存在する範囲以外の部分を何もない空間12として判定すること、換言すれば、照射対象物10が存在する範囲を検出し、前記基準パターン903から前記照射対象物10が存在する範囲を除外することにより何もない空間12を抽出することが記載されているものと認められる。
さらに、本件明細書等の段落【0029】には、「照射対象物10が存在しない範囲は、典型的には空のみが含まれる範囲でありうる。」として、何もない空間12に空が含まれることが示されているものと認められる。
以上のことから、「ビームの照射量を低減し、またはゼロとする」範囲について、その範囲を「空が含まれる部分」とすると共に、その範囲を決定するための具体的内容を、「照射対象物が存在する範囲を検出し、前記所定領域から前記照射対象物が存在する範囲を除外することにより空が含まれる部分を抽出」すると特定することは、本件明細書等の記載から導かれる事項であり、新たな技術的事項を導入するものではない。
したがって、訂正事項1は本件明細書等に記載した事項の範囲内のものである。
(3)特許請求の範囲の拡張・変更について
訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を行うものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
(4)申立人の主張について
申立人は、令和6年5月22日に提出された意見書において、要するに、「空が含まれる部分」との記載は照射対象物に該当しないものであれば空以外のものも含み得る表現であるが、空以外の何らかのものを含むことは本件明細書等に記載されていない旨主張している。
上記主張について検討する。
「空が含まれる部分」の記載を、その前後部分を含めて示すと「照射対象物が存在する範囲を検出し、前記所定領域から前記照射対象物が存在する範囲を除外することにより空が含まれる部分を抽出し、当該空が含まれる部分への前記ビームの照射量を低減し、またはゼロとするように」配光可変ランプを制御するものである。
そうすると、「空が含まれる部分」は、所定領域から照射対象物が存在する範囲を除外した範囲であり、また、ビームの照射量を低減し、またはゼロとする部分であると理解できる。
これに関して、本件明細書等の段落【0008】には「空のように照射対象物が存在しない範囲については、ビームの照射範囲から除外する」と記載されており、同記載に「空のように」とあるとおり、「空」は照射対象物が存在しない範囲の一例として挙げているのであって、照射対象物が存在しない範囲が、「空のみの部分」に限られるものとは理解できない。
また、段落【0029】には、「照射対象物10が存在しない範囲は、典型的には空のみが含まれる範囲でありうる。」と記載されているが、この記載は、照射対象物10が存在しない範囲が空のみとなる可能性があることに言及したものと理解すべきであって、照射対象物10が存在しない範囲が、空のみであってそれ以外は含まないという意味であると理解することはできない。
してみれば、「空が含まれる部分」との記載が、空以外の何らかのものを含むものであるからといって、このように記載することによって、新たな技術的事項を導入するものとはいえない。
よって、申立人の上記主張は採用することができない。
3 一群の請求項
本件訂正前の請求項1~5は、請求項2~5が、本件訂正前の請求項1の記載を直接又は間接的に引用する関係にあるから、一群の請求項である。
よって、本件訂正の請求は、一群の請求項〔1~5〕について請求されたものである。
4 小括
以上によれば、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~5〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2のとおり本件訂正は認められたから、本件訂正後の本件特許の請求項1~5に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」等という。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~5に記載された事項により特定される、以下のとおりのものであると認められる。
「【請求項1】
強度分布が可変であるビームを所定領域に照射可能な配光可変ランプと、
前記配光可変ランプを制御する配光コントローラと、
を備え、
前記配光コントローラは、照射対象物が存在する範囲を検出し、前記所定領域から前記照射対象物が存在する範囲を除外することにより空が含まれる部分を抽出し、当該空が含まれる部分への前記ビームの照射量を低減し、またはゼロとするように、前記配光可変ランプを制御することを特徴とする車両用灯具。
【請求項2】
自車前方の物体を検出する測距センサをさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の車両用灯具。
【請求項3】
前記配光コントローラは、前記測距センサが検出した物体のうち、グレアを与えるべきでない特定物標を除外した物体を、前記照射対象物とすることを特徴とする請求項2に記載の車両用灯具。
【請求項4】
前記配光コントローラは、前記ビームの照射範囲の上端を、前記照射対象物の位置に応じて変化させることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の車両用灯具。
【請求項5】
前記照射対象物にもとづく制御は、降雪時および/または降雨時において自動的に有効化されることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の車両用灯具。」
第4 取消理由の概要
本件訂正前の請求項1~5に係る特許に対して当審が通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
[取消理由1](新規性)本件特許の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、その特許は特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
[取消理由2](進歩性)本件特許の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
記
(以下、申立人が提出した「甲第○号証」を「甲○」という。)
<申立人が提出した証拠>
・甲1:特開2018-69748号公報
・甲2:特開2016-16780号公報
・甲3:特開2009-96249号公報
・甲4:特開2013-226987号公報
・甲5:特開2017-61206号公報
<取消理由と請求項に係る発明及び引用文献との関係>
・取消理由:1、2
・請求項 :1~3
・引用文献:甲1
・取消理由:1、2
・請求項 :1、5
・引用文献:甲2
・取消理由:2
・請求項 :4
・引用文献:甲1、甲5
・取消理由:2
・請求項 :2
・引用文献:甲2
第5 取消理由についての判断
1 引用文献について
(1)甲1
(1-1)甲1の認定事項
甲1について、以下のことが認定できる。
ア 段落【0026】の「パッケージ番号1~11のLED素子23Aの全てを点灯させると、その合成照射範囲は、図3に示すようなハイビーム照射範囲A、つまり通常のハイビーム照射範囲となる。一方、パッケージ番号1~11のLED素子23Aの一部だけを点灯させると狭い照射範囲のハイビームが得られ、また一部だけを減光させると減光領域を備えたハイビームを得ることができる。」との記載及び段落【0041】の「マーキングライト制御部54は、時刻T11における歩行者Hの位置情報(車両1に対する角度情報)に基づき、ハイビームユニット22のLEDアレイ23が備える複数のLED素子23Aのうち、いずれを点灯させるかを決定する。この決定の際には、図3に示したような、各LED素子23Aの照射範囲(角度)が参照される。例えば、時刻T11において歩行者Hが走行ラインRに対して35度の方位に存在する場合は、右ヘッドライトユニット2Rの、パッケージ番号5のLED素子23Aが点灯される。これにより、右ヘッドライトユニット2Rは、現状のロービームに加えて、歩行者Hにスポットライト的に照射するマーキングライトMLも発することになる。マーキングライトMLが歩行者Hに照射されることで、暗闇の中で当該歩行者Hは際立つことになる。」との記載並びに図5から、「マーキングライト制御部54は、ハイビーム照射範囲Aのうち、歩行者Hにスポットライト的にマーキングライトMLを照射するように、ハイビームユニット22のLEDアレイ23が備える複数のLED素子23Aのうち、いずれを点灯させるかを決定する」ものと認められる。
(1-2)甲1発明1
甲1の段落【0020】、【0022】、【0023】、【0026】、【0032】、【0033】、【0035】、【0037】、図5、6及び上記(1-1)アから、甲1には、次の発明が記載されていると認められる(以下「甲1発明1」という。なお、括弧内には、主な参照箇所を示した。)。
「照射範囲(角度)の異なる複数のLED素子23Aを単位光源としてm行×n列のマトリクス状に配置したLEDアレイ23を備え、通常のハイビーム照射範囲であるハイビーム照射範囲Aに照射可能であるとともに、LED素子23Aの一部だけを点灯させると狭い照射範囲のハイビームが得られ、また一部だけを減光させると減光領域を備えたハイビームを得ることができるハイビームユニット22と、(段落【0022】、【0023】、【0026】)
ハイビームユニット22を点灯させるヘッドライト制御部52及びハイビームユニット22の照射状態を制御するマーキングライト制御部54並びに歩行者検出部51と、(段落【0032】、【0033】、【0035】、【0037】)
を備え、
歩行者検出部51が歩行者Hの位置を検出し、マーキングライト制御部54は、ハイビーム照射範囲Aのうち、歩行者Hにスポットライト的にマーキングライトMLを照射するように、ハイビームユニット22のLEDアレイ23が備える複数のLED素子23Aのうち、いずれを点灯させるかを決定する、(段落【0033】、上記(1-1)ア)
ヘッドライトユニット2及びECU5。(段落【0020】)」
(1-3)甲1発明2
甲1の段落【0020】、【0022】、【0023】、【0026】、【0032】、【0033】、【0035】、【0037】、【0044】、図7、8から、甲1には、次の発明が記載されていると認められる(以下「甲1発明2」という。なお、括弧内には、主な参照箇所を示した。)。
「照射範囲(角度)の異なる複数のLED素子23Aを単位光源としてm行×n列のマトリクス状に配置したLEDアレイ23を備え、通常のハイビーム照射範囲であるハイビーム照射範囲Aに照射可能であるとともに、LED素子23Aの一部だけを点灯させると狭い照射範囲のハイビームが得られ、また一部だけを減光させると減光領域を備えたハイビームを得ることができるハイビームユニット22と、(段落【0022】、【0023】、【0026】)
ハイビームユニット22を点灯させるヘッドライト制御部52及びハイビームユニット22の照射状態を制御するマーキングライト制御部54並びに歩行者検出部51と、(段落【0032】、【0033】、【0035】、【0037】)
を備え、
歩行者検出部51が歩行者Hの位置を検出し、マーキングライト制御部54は、歩行者Hの周辺を照射範囲としているLED素子23Aを減光対象として指定し、減光対象のLED素子23Aの発光量を通常時に比べて50%以下に低減させる、あるいは消灯する、(段落【0033】、【0044】)
ヘッドライトユニット2及びECU5。(段落【0020】)」
(2)甲2
甲2の段落【0011】、【0012】、【0031】、【0034】、【0048】、【0050】、【0051】及び図1、3から、甲2には、次の発明が記載されていると認められる(以下「甲2発明」という。なお、括弧内には、主な参照箇所を示した。)。
「照射範囲内において、照射方向毎の光量等を異ならせることが可能に構成される前照灯300と、(段落【0034】)
前照灯300の配光制御を行う配光制御部240と、(段落【0031】)
を備え、
配光制御部240は、照射範囲内における車両前方の走行路の路面部分DA1(実際は、走行路推定部230により推定された走行路の道路形状に対応する路面部分)を減光して照射し、車両前方の走行路に沿った補助線AD1の部分は減光せずに照射し、通常照射領域BAは通常の照射光で照射し、更に、前照灯300の通常の照射範囲において、雨や雪以外に照射光を反射する物が存在する可能性が低い高所へ向けた照射を行わないように前照灯300を制御する、(段落【0048】、【0050】、【0051】、図3)
車両用照明装置1。(段落【0011】、【0012】、図1)」
2 検討
(1)甲1発明1を主引用発明とした場合
(1-1)本件発明1についての検討
(1-1-1)対比
本件発明1と甲1発明1とを対比する。
ア 後者の「ハイビーム照射範囲A」は、前者の「所定領域」に相当し、以下同様に、「ハイビームユニット22」は「配光可変ランプ」に、「ヘッドライト制御部52」及び「マーキングライト制御部54」は「配光コントローラ」に、それぞれ相当する。
また、これらの相当関係を踏まえると、以下のことがいえる。
イ 後者の「照射範囲(角度)の異なる複数のLED素子23Aを単位光源としてm行×n列のマトリクス状に配置したLEDアレイ23を備え、通常のハイビーム照射範囲であるハイビーム照射範囲Aに照射可能であるとともに、LED素子23Aの一部だけを点灯させると狭い照射範囲のハイビームが得られ、また一部だけを減光させると減光領域を備えたハイビームを得ることができるハイビームユニット22」は、「LED素子23Aの一部だけを点灯させる」こと又は「一部だけを減光させる」ことにより、ハイビームの強度分布を変更できるものであるといえるから、前者の「強度分布が可変であるビームを所定領域に照射可能な配光可変ランプ」に相当する。
ウ 後者の「ハイビームユニット22を点灯させるヘッドライト制御部52及びハイビームユニット22の照射状態を制御するマーキングライト制御部54並びに歩行者検出部51」は、ヘッドライト制御部52及びマーキングライト制御部54が「ハイビームユニット22」を制御するものであり、歩行者検出部51がマーキングライトの照射の際に活用される角度情報を導出するものであるから(甲1の段落【0033】参照。)、前者の「前記配光可変ランプを制御する配光コントローラ」に相当する。
エ 後者の「歩行者検出部51が歩行者Hの位置を検出し、マーキングライト制御部54は、ハイビーム照射範囲Aのうち、歩行者Hにスポットライト的にマーキングライトMLを照射するように、ハイビームユニット22のLEDアレイ23が備える複数のLED素子23Aのうち、いずれを点灯させるかを決定」する構成は、前者の「前記配光コントローラは、照射対象物が存在する範囲を検出し、前記所定領域から前記照射対象物が存在する範囲を除外することにより空が含まれる部分を抽出し、当該空が含まれる部分への前記ビームの照射量を低減し、またはゼロとするように、前記配光可変ランプを制御する」構成と、「前記配光コントローラは、照射対象物の位置に関する情報を検出し、当該情報に基づいて、前記ビームの照射量を変更するように、前記配光可変ランプを制御する」構成において共通する。
オ 後者の「ヘッドライトユニット2及びECU5」は、「ハイビームユニット22」と「ヘッドライト制御部52」、「マーキングライト制御部54」及び「歩行者検出部51」とを備えるものであるから、前者の「車両用灯具」に相当する。
カ 上記ア~オを踏まえると、本件発明1と甲1発明1とは以下の一致点及び相違点を有する。
[一致点1]
「強度分布が可変であるビームを所定領域に照射可能な配光可変ランプと、
前記配光可変ランプを制御する配光コントローラと、
を備え、
前記配光コントローラは、照射対象物の位置に関する情報を検出し、当該情報に基づいて、前記ビームの照射量を変更するように、前記配光可変ランプを制御する、
車両用灯具。」
[相違点1]
配光コントローラによる配光可変ランプの制御について、その具体的内容が、本件発明1では、「照射対象物が存在する範囲」を検出し、「前記所定領域から前記照射対象物が存在する範囲を除外することにより空が含まれる部分を抽出し、当該空が含まれる部分への前記ビームの照射量を低減し、またはゼロとするように」制御しているのに対して、甲1発明1では、「歩行者Hの位置」を検出し、「ハイビーム照射範囲Aのうち、歩行者Hにスポットライト的にマーキングライトMLを照射するように、ハイビームユニット22のLEDアレイ23が備える複数のLED素子23Aのうち、いずれを点灯させるかを決定」している点。
(1-1-2)判断(取消理由1(新規性)、取消理由2(進歩性))
相違点1について検討する。
甲1発明1の制御はロービーム走行時における制御であるから(甲1の段落【0040】参酌。)、ハイビームユニット22の複数のLED素子23Aは全て消灯した状態、すなわち、ハイビームユニット22からのビームの照射量はゼロである。
このため、甲1発明1の制御では、ハイビーム照射範囲Aのビームの照射量がゼロの状態から、歩行者Hの位置にスポットライト的にマーキングライトMLを照射するだけで足りることから、ビームの照射量を低減またはゼロとする部分を抽出する必要はない。
このように、歩行者Hの位置にスポットライト的にマーキングライトMLを照射するだけで足りるのであるから、甲1発明1において、相違点1に係る本件発明1の構成(ハイビーム照射範囲Aから歩行者Hが存在する範囲を除外して空が含まれる部分を抽出し、当該部分への前記ビームの照射量を低減またはゼロとすること。)を採用することが当業者にとって容易であるとは認められない。
また、歩行者Hの位置にスポットライト的にマーキングライトを照射する際に、ハイビーム照射範囲Aから歩行者Hの範囲が存在する範囲を除外してビームの照射量を低減またはゼロとする部分を抽出することとして、相違点1に係る本件発明1の構成を採用すべきことは、いずれの証拠にも記載も示唆もされていない。
よって、甲1発明1において、相違点1に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。
以上のことから、本件発明1は甲1発明1ではないし、また、本件発明1は甲1発明1に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(1-2)本件発明2~5についての検討
本件発明2~5は、本件発明1の全ての発明特定事項を含み、さらに限定を付加したものであるから、上記(1-1-2)で示した理由と同様に、甲1発明1ではないし、また、甲1発明1に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(2)甲1発明2を主引用発明とした場合
(2-1)本件発明1についての検討
(2-1-1)対比
本件発明1と甲1発明2とを対比する。
ア 甲1発明2は甲1発明1と一部の構成が共通していることを踏まえれば、上記(1-1-1)ア、イ、ウ、オで示した相当関係は、甲1発明2についてもいえる。
また、これらの相当関係を踏まえると、以下のことがいえる。
イ 後者の「歩行者検出部51が歩行者Hの位置を検出し、マーキングライト制御部54は、歩行者Hの周辺を照射範囲としているLED素子23Aを減光対象として指定し、減光対象のLED素子23Aの発光量を通常時に比べて50%以下に低減させる、あるいは消灯」する構成は、前者の「前記配光コントローラは、照射対象物が存在する範囲を検出し、前記所定領域から前記照射対象物が存在する範囲を除外することにより空が含まれる部分を抽出し、当該空が含まれる部分への前記ビームの照射量を低減し、またはゼロとするように、前記配光可変ランプを制御する」構成と、「前記配光コントローラは、照射対象物の位置に関する情報を検出し、当該情報に基づいて、前記ビームの照射量を低減し、またはゼロとするように、前記配光可変ランプを制御する」構成において共通する。
ウ 上記ア、イを踏まえると、本件発明1と甲1発明2とは以下の一致点及び相違点を有する。
[一致点2]
「強度分布が可変であるビームを所定領域に照射可能な配光可変ランプと、
前記配光可変ランプを制御する配光コントローラと、
を備え、
前記配光コントローラは、照射対象物の位置に関する情報を検出し、当該情報に基づいて、前記ビームの照射量を低減し、またはゼロとするように、前記配光可変ランプを制御する、
車両用灯具。」
[相違点2]
配光コントローラによる配光可変ランプの制御について、その具体的内容が、本件発明1では、「照射対象物が存在する範囲」を検出し、「前記所定領域から前記照射対象物が存在する範囲を除外することにより空が含まれる部分を抽出し、当該空が含まれる部分への前記ビームの照射量」を低減し、またはゼロとするように制御しているのに対して、甲1発明2では、「歩行者Hの位置」を検出し、「歩行者Hの周辺を照射範囲としているLED素子23Aを減光対象として指定し、減光対象のLED素子23Aの発光量」を低減し、またはゼロとするように制御している点。
(2-1-2)判断(取消理由1(新規性)、取消理由2(進歩性))
相違点2について検討する。
甲1の段落【0045】の「例えば、時刻T21において歩行者Hが走行ラインRに対して35度の方位に存在しているとする。この場合、右ヘッドライトユニット2Rの、35度の方位を照射範囲に含むパッケージ番号5のLED素子23Aは減光対象には指定されない。一方、パッケージ番号5に隣接するパッケージ番号4及び6のLED素子23Aが減光対象として指定される(単位光源の一部減光)。もちろん、パッケージ番号5に加え、パッケージ番号4及び6以外の他のLED素子23Aも減光対象には指定されない。」(下線は当審で付与。)との記載からも理解されるように、甲1発明2の制御では、歩行者Hに隣接する部分のみを減光しており、ハイビーム照射範囲Aから歩行者Hの位置を除外した部分、すなわち、歩行者Hに隣接する部分だけでなく、そのさらに外側も含む部分全体を減光対象として指定することはしない。
また、甲1発明2の制御はハイビーム走行時における制御であることを踏まえると(甲1の段落【0043】参酌。)、不用意にハイビーム照射範囲Aのビームの照射量を低減あるいは消灯することが安全の観点から望ましくないことは当然に想定し得ることである。
このことから、甲1発明2において、相違点2に係る本件発明1の構成(ハイビーム照射範囲Aから歩行者Hが存在する範囲を除外して、歩行者Hの周囲及び当該周囲のさらに外側も含む「空が含まれる部分」を抽出し、当該部分への前記ビームの照射量を低減またはゼロとすること。)を採用することが当業者にとって容易であるとは認められない。
また、歩行者Hの周辺を減光する際に、ハイビーム照射範囲Aから歩行者Hが存在する範囲を除外して、歩行者Hの周囲及び当該周囲のさらに外側も含む部分へのビーム照射量を低減またはゼロとすることとして、相違点2に係る本件発明1の構成を採用すべきことは、いずれの証拠にも記載も示唆もされていない。
よって、甲1発明2において、相違点2に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。
以上のことから、本件発明1は甲1発明2ではないし、また、本件発明1は甲1発明2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(2-2)本件発明2~5についての検討
本件発明2~5は、本件発明1の全ての発明特定事項を含み、さらに限定を付加したものであるから、上記(2-1-2)で示した理由と同様に、甲1発明2ではないし、また、甲1発明2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)甲2発明を主引用発明とした場合
(3-1)本件発明1についての検討
(3-1-1)対比
本件発明1と甲2発明とを対比する。
ア 後者の「照射範囲」は、前者の「所定領域」に相当し、以下同様に、「前照灯300」は「配光可変ランプ」に、「配光制御部240」は「配光コントローラ」に、「車両用照明装置1」は「車両用灯具」に、それぞれ相当する。
また、これらの相当関係を踏まえると、以下のことがいえる。
イ 後者の「照射範囲内において、照射方向毎の光量等を異ならせることが可能に構成される前照灯300」は、「照射方向毎の光量等を異ならせること」は、照射光の強度分布を変更することであるといえるから、前者の「強度分布が可変であるビームを所定領域に照射可能な配光可変ランプ」に相当する。
ウ 後者の「前照灯300の配光制御を行う配光制御部240」は、前者の「前記配光可変ランプを制御する配光コントローラ」に相当する。
エ 後者の「車両前方の走行路に沿った補助線AD1」は減光せずに照射される物であるから、前者の「照射対象物」に相当する。
そして、後者の「車両前方の走行路に沿った補助線AD1の部分」は、前者の「照射対象物が存在する範囲」に相当する。
オ 後者の「雨や雪以外に照射光を反射する物が存在する可能性が低い高所」に、「車両前方の走行路に沿った補助線AD1の部分」(照射対象物が存在する範囲。)が含まれていないことは自明であり、「車両前方の走行路の路面部分DA1」内の「車両前方の走行路に沿った補助線AD1の部分」以外の部分は照射対象物が存在する範囲が含まれていない部分であることは自明である。
また、前者の「空が含まれる部分」は、所定領域から照射対象物が存在する範囲を除外することにより抽出される部分であるから、「空が含まれる部分」に照射対象物が存在する範囲が含まれていないことは自明である。
以上を踏まえると、後者の「配光制御部240は、照射範囲内における車両前方の走行路の路面部分DA1(実際は、走行路推定部230により推定された走行路の道路形状に対応する路面部分)を減光して照射し、車両前方の走行路に沿った補助線AD1の部分は減光せずに照射し、通常照射領域BAは通常の照射光で照射し、更に、前照灯300の通常の照射範囲において、雨や雪以外に照射光を反射する物が存在する可能性が低い高所へ向けた照射を行わないように前照灯300を制御する」する構成は、前者の「前記配光コントローラは、照射対象物が存在する範囲を検出し、前記所定領域から前記照射対象物が存在する範囲を除外することにより空が含まれる部分を抽出し、当該空が含まれる部分への前記ビームの照射量を低減し、またはゼロとするように、前記配光可変ランプを制御する」構成と、「前記配光コントローラは、照射対象物が存在する範囲が含まれていない特定の部分への前記ビームの照射量を低減し、またはゼロとするように、前記配光可変ランプを制御する」構成において共通する。
カ 上記ア~オを踏まえると、本件発明1と甲2発明とは以下の一致点及び相違点を有する。
[一致点3]
「強度分布が可変であるビームを所定領域に照射可能な配光可変ランプと、
前記配光可変ランプを制御する配光コントローラと、
を備え、
前記配光コントローラは、照射対象物が存在する範囲が含まれていない特定の部分への前記ビームの照射量を低減し、またはゼロとするように、前記配光可変ランプを制御する、
車両用灯具。」
[相違点3]
本件発明1では、照射対象物が存在する範囲が含まれていない特定の部分へのビームの照射量を低減またはゼロとする制御の具体的内容について、「照射対象物が存在する範囲を検出し、前記所定領域から前記照射対象物が存在する範囲を除外することにより空が含まれる部分を抽出」するのに対して、甲2発明では、制御の具体的内容が特定されていない点。
(3-1-2)判断(取消理由1(新規性)、取消理由2(進歩性))
相違点3について検討する。
まず、甲2発明においてビームの照射量をゼロとする「雨や雪以外に照射光を反射する物が存在する可能性が低い高所」について検討するに、当該高所は、「可能性が低い」との文言から、実際に雨や雪以外に照射光を反射する物が存在するか否かにかかわらず、当該物が存在する「可能性が低い」高所であれば良いと理解される。
そして、甲2には、当該高所を決定するにあたり、雨や雪以外の「照射光を反射する物」を検出することは記載されていない。
してみれば、当該物が存在する「可能性が低い」高所を決定するにあたっては、「照射光を反射する物」が通常存在しない高さの範囲を予め定めておけば良く、また、そのように定めておけば足りるものと理解される。
そうすると、甲2発明において、上記の「可能性が低い」高所を決定するために、雨や雪以外に照射光を反射する物が実際に存在する範囲を検出する必要性は見いだせない。
また、甲2発明に対して、上記の「可能性が低い」高所を決定するために、相違点3に係る本件発明1の構成(照射対象物が存在する範囲を検出し、照射範囲(所定領域)からこれらの物が存在する範囲を除外することにより空が含まれる部分を抽出すること)を採用すべきことは、いずれの証拠にも記載も示唆もされていない。
次に、甲2発明においてビームの照射量を低減する「照射範囲内における車両前方の走行路の路面部分DA1」について検討するに、甲2には、減光せずに照射する「車両前方の走行路に沿った補助線AD1」(照射対象物)が存在する範囲を検出することが記載されていないし、また、当該路面部分DA1の道路形状は当該補助線AD1が存在する範囲にかかわらず走行路推定部230により推定されるものである。
このことから、甲2発明では、当該路面部分DA1を決定するにあたって、「車両前方の走行路に沿った補助線AD1」(照射対象物)が存在する範囲を検出して、照射範囲(所定領域)からこれが存在する範囲を除外することはしていない。
さらに、仮に、甲2発明において、上記路面部分DA1を決定するために、相違点3に係る本件発明1の構成(補助線AD1(照射対象物)が存在する範囲を検出し、照射範囲(所定領域)から補助線AD1が存在する範囲を除外することにより空が含まれる部分を抽出すること)を採用した場合、補助線AD1が存在する範囲以外の、通常照射領域BAも含む部分全体へのビーム照射量が低減されることとなるから、「減光して照射され、暗く見える車両前方の走行路の路面部分DA1と、通常の照射光で照射され、白っぽく(非常に明るく)見える通常照射領域BAとのコントラストが付くため、車両前方の走行路の視認性を向上させることができる」(甲1の段落【0048】。)という作用及び効果を得ることはできなくなる。したがって、甲2発明に対して、上記路面部分DA1を決定するために、相違点3に係る本件発明1の構成を採用することには阻害要因があるというべきである。
以上のことを踏まえると、甲2発明において、相違点3に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。
よって、本件発明1は甲2発明ではないし、また、本件発明1は甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3-2)本件発明2~5についての検討
本件発明2~5は、本件発明1の全ての発明特定事項を含み、さらに限定を付加したものであるから、上記(3-1-2)で示した理由と同様に、甲2発明ではないし、また、甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
3 小括
以上により、取消理由1(新規性)及び取消理由2(進歩性)は成り立たない。
第6 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(以下、本件訂正前の請求項1~5に係る発明をそれぞれ「本件訂正前発明1」等という。)
1 申立理由の内容
申立人は、上記第5で判断した取消理由1(新規性)、取消理由2(進歩性)のほかに、特許異議申立書において、本件特許が、以下の点で特許法第36条第6項第2号に規定される明確性要件を満たしていない特許出願に対してされたものである旨主張していると認められる。
ア 本件訂正前発明1に係る請求項1の「照射対象物が存在しない範囲」との記載について、当該記載は否定的表現を含むから、具体的にいかなる範囲であるか必ずしも特定されておらず範囲が曖昧であり、発明の範囲が不明確である。
イ 本件訂正前発明1に係る請求項1の「前記ビームの照射量を低減し、またはゼロとするように」との記載について、当該記載は、選択肢で表現されている事項のうち「低減し」の部分については比較の基準もしくは程度が不明確な表現であり、発明の範囲が不明確である。
ウ 請求項1を直接的ないし間接的に引用する他の請求項に係る本件訂正前発明2~5についても同様である。
2 申立理由についての判断
(1)上記1のアについて
本件訂正前発明1に係る請求項1の「照射対象物が存在しない範囲」との記載は、本件訂正後の請求項1には含まれていない。
したがって、申立人による上記1のアに示す主張は前提を欠いており、採用することができない。
(2)上記1のイについて
申立人は、上記1のイに示したように、本件訂正前発明1に係る請求項1の「前記ビームの照射量を低減し、またはゼロとするように」との記載について、当該記載は選択肢で表現されている事項のうち「低減し」の部分については比較の基準もしくは程度が不明確な表現であり、発明の範囲が不明確であると主張している。
しかしながら、請求項1の「強度分布が可変であるビームを所定領域に照射可能な配光可変ランプと、」との記載から、「空が含まれる部分」への前記ビームの照射量の「低減」が、「所定領域に照射」する通常の照射量よりも低減することを意味していることは明らかである。
したがって、請求項1の上記記載は不明確な表現とはいえないから、申立人による上記1のイに示す主張は採用することができない。
(3)上記1のウについて
請求項1を直接又は間接的に引用する他の請求項に係る本件発明2~5も、上記と同様に明確である。
3 小括
以上のことから、本件発明1~5は明確であり、請求項1~5に係る特許は特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たす特許出願に対してされたものである。
よって、上記1で示した申立理由は成り立たない。
第7 むすび
以上によれば、取消理由通知に記載した取消理由並びに特許異議申立書に記載された特許異議申立理由及び証拠によっては、請求項1~5に係る特許を取り消すことはできないし、他に請求項1~5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700917