特許無効審判
2015-800040
アンテナ装置
- 審判番号
- 2015-800040
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 無効審判(無効の審決)
- 出願番号
- 特願2007-309993外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2015年02月26日
- 審決日
- 2016年05月13日
- 公報発行日
- 2017年04月28日
- 結論
- 訂正認容・請求不成立
- 当事者
- 分類
- P1113.121-YAA(H01Q) / P1113.113-YAA(H01Q) / P1113.832-YAA(H01Q)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法126条5項特許法126条6項特許法134条の2第1項特許法134条の2第9項特許法169条民事訴訟法61条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第134条の2第9項、特許法第134条の2第1項、特許法第29条第2項、特許法第134条の2第6項、特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第126条第5項、特許法第126条第6項、特許法第123条第1項第2号、特許法第169条
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
上記当事者間の特許第5237617号発明「アンテナ装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
訂正を認める。
本件審判の請求は、成り立たない。
審判費用は、請求人の負担とする。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本件特許第5237617号にかかる出願(特願2007-309993号)は,平成19年11月30日の出願であって,平成25年4月5日に特許権の設定登録がなされ,平成26年6月4日に訂正審判の請求がなされ,平成26年9月8日付けで,訂正を認める旨の審決がなされ,その後,請求人株式会社ヨコオから無効審判が請求されたものである。
以下,請求以後の経緯概略を整理して示す。
平成27年 2月26日付け 本件無効審判の請求
同年 5月22日付け 訂正請求書
同年 5月22日付け 答弁書
同年 7月 3日付け 弁駁書
同年 7月28日付け 審理事項通知書
同年 8月24日付け 口頭審理陳述要領書の提出(請求人より)
同年 8月24日付け 口頭審理陳述要領書の提出(被請求人より)
同年 9月 3日付け 口頭審理陳述要領書(2)の提出
(被請求人より。口頭審理において不採用とした。)
同年 9月 7日 口頭審理の実施
同年10月 7日付け 無効理由通知
同年10月 7日付け 職権審理結果通知
同年10月28日付け 意見書
同年10月28日付け 訂正請求書
同年11月13日付け 上申書(被請求人)
同年12月 3日付け 補正書
同年12月15日付け 上申書(被請求人)
同年12月17日付け 上申書(請求人)
平成28年 2月17日付け 補正書
同年 2月19日付け 上申書(被請求人)
同年 3月 1日付け 弁駁書(2)
同年 4月12日付け 上申書(被請求人)
第2 訂正請求について
1 訂正の趣旨及び訂正の内容
平成27年10月28日付け訂正請求書により被請求人が求める訂正(以下,「本件訂正」という。)は,特許第5237617号の願書に添付した特許請求の範囲を,平成27年10月28日付け訂正請求書に添付した特許請求の範囲のとおり,請求項ごと又は一群の請求項ごとに訂正しようとするものであって,その訂正の内容は,以下の訂正事項1~15のとおりである。なお,被請求人が平成27年5月22日付け訂正請求書により請求した訂正の請求は,特許法第134条の2第6項の規定により,取り下げられたものとみなす。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「前記アンテナ部は,アンテナ素子と,該アンテナ素子により受信された少なくともFM放送の信号を増幅するアンプを有するアンプ基板とからなり」とあるのを「前記アンテナ部は,面状であり,上縁が前記アンテナケースの内部空間の形状に合わせた形状であるアンテナ素子と,該アンテナ素子により受信されたFM放送及びAM放送の信号を増幅するアンプを有するアンプ基板とからなり」と訂正する。
(下線は,訂正箇所を示すものとして被請求人が付加したものを援用したものである。以下同様。)
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「前記アンテナ素子の給電点が前記アンプの入力にアンテナコイルを介して接続され」とあるのを「前記アンテナ素子の給電点が前記アンプの入力に高さ方向において前記アンテナ素子と前記アンプ基板との間に位置するアンテナコイルを介して接続され」と訂正する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1に「前記アンテナ素子は前記アンテナコイルと接続されることによりFM波帯で共振し」とあるのを「前記アンテナ素子と前記アンテナコイルとが接続されることによりFM波帯で共振し」と訂正する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項1に「前記アンテナ素子を用いてAM波帯を受信する」とあるのを「前記アンテナ素子を用いてAM波帯を受信し,前記アンテナコイルを介して接続される前記アンプによってFM放送及びAM放送の信号を増幅する」と訂正する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項3に「前記アンテナ部は,車両に対して立設されて配置されアンテナパターンが形成されているアンテナ基板と,前記アンテナパターンからなるアンテナ素子により受信された少なくともFM放送の信号を増幅するアンプが設けられているアンプ基板とからなり」とあるのを「前記アンテナ部は,車両に対して立設されて配置されアンテナパターンが形成されているアンテナ基板と,面状であり,上縁が前記アンテナケースの内部空間の形状に合わせた形状である前記アンテナパターンからなるアンテナ素子により受信されたFM放送及びAM放送の信号を増幅するアンプが設けられているアンプ基板とからなり」と訂正する。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項3に「前記アンテナ基板における前記アンテナ素子の給電点が,前記アンプ基板における前記アンプの入力にアンテナコイルを介して接続され」とあるのを「前記アンテナ基板における前記アンテナ素子の給電点が,前記アンプ基板における前記アンプの入力に高さ方向において前記アンテナ素子と前記アンプ基板との間に位置するアンテナコイルを介して接続され」と訂正する。
(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項3に「前記アンテナ素子は前記アンテナコイルと接続されることによりFM波帯で共振し」とあるのを「前記アンテナ素子と前記アンテナコイルとが接続されることによりFM波帯で共振し」と訂正する。
(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項3に「前記アンテナ素子を用いてAM波帯を受信する」とあるのを「前記アンテナ素子を用いてAM波帯を受信し,前記アンテナコイルを介して接続される前記アンプによってFM放送及びAM放送の信号を増幅する」と訂正する。
(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項4を削除する。
(10)訂正事項10
特許請求の範囲の請求項8を削除する。
(11)訂正事項11
特許請求の範囲の請求項9を削除する。
(12)訂正事項12
特許請求の範囲の請求項10を削除する。
(13)訂正事項13
特許請求の範囲の請求項11を削除する。
(14)訂正事項14
特許請求の範囲の請求項5に「前記アンテナ素子と前記アンテナコイルとからなるアンテナ部が前記FM波帯でほぼ共振するようにしたことを特徴とする」とあるのを「前記アンテナ素子と前記アンテナコイルとからなるアンテナ部が前記FM波帯で共振するようにしたことを特徴とする」と訂正する。
(15)訂正事項15
特許請求の範囲の請求項6に「前記アンテナパターンと前記アンテナコイルとからなるアンテナ部が前記FM波帯でほぼ共振するようにしたことを特徴とする」とあるのを「前記アンテナパターンと前記アンテナコイルとからなるアンテナ部が前記FM波帯で共振するようにしたことを特徴とする」と訂正する。
2 訂正の適否についての判断
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的
訂正事項1は,訂正前の特許請求の範囲の請求項1における「アンテナ素子」を,「面状であり,上縁が前記アンテナケースの内部空間の形状に合わせた形状であるアンテナ素子」に限定し,さらに,「少なくともFM放送の信号を増幅するアンプ」が「FM放送及びAM放送の信号」を増幅することを特定する訂正であるから,特許請求の範囲の減縮をするものである。
したがって,訂正事項1は,特許法第134条の2第1項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項の存否及び特許請求の範囲の実質的拡張・変更の有無
a 「アンテナ素子」が「面状」である点に関して,願書に添付した明細書に以下の記載がある。
「【0009】上記目的を達成するために,本発明は,立設されて配置され面状のアンテナ素子が形成されているアンテナ基板と,・・・」
「【0017】・・・長さがLで幅がhの面状のアンテナ素子31としていることから導体損失が小さくなり,導体損失による電気的特性の劣化を防止することができる。」
「【0023】・・・(4)アンテナ素子31は厚みより縦方向の幅が大きくされアンテナ基板30にプリントする,あるいは,厚さが1~2mmの板状とする。」
「【0029】アンテナ部40は,ほぼ矩形とされた板状の絶縁スペーサ42と,この絶縁スペーサ42の上端に固着された断面が細長い菱形の導電性(例えば,金属製)の棒状とされたアンテナ素子41から構成されている。・・・アンテナ素子41はAM放送とFM放送が受信可能とされ,厚みより縦方向の幅が大きくされた金属等の導電体,あるいは,絶縁体の全面に導電膜が形成されて構成されている。・・・アンテナ素子41の断面形状は菱形に限らず楕円形や多角形状としたり,板状のアンテナ素子41とすることができる。」
「【0030】・・・アンテナ素子41は厚みより縦方向の幅が大きくされ,その厚さは1~2mmの板状,あるいは60~百数十分の一λ程度の棒状としている。」
b 「アンテナ素子」が「上縁が前記アンテナケースの内部空間の形状に合わせた形状である」である点に関して,願書に添付した明細書に以下の記載がある。
「【0013】・・・立設して固着されるアンテナ基板30の上縁をアンテナケース10の内部空間の形状に合わせた形状として,アンテナ基板30の高さをなるべく高くすることが好適とされる。」
「【0016】アンテナ基板30は,高周波特性の良好なガラスエポキシ基板等のプリント基板とされており,AM放送とFM放送を受信可能なアンテナを構成するアンテナ素子31のパターンが上部に形成されている。」
c 「アンプ」が「FM放送及びAM放送の信号を増幅する」ものである点に関して,願書に添付した明細書に以下の記載がある。
「【0017】・・・アンプ基板34に設けられているアンプは,アンテナ素子31により受信されたFM放送信号とAM放送信号とを増幅して出力している。」
d そうしてみると,上記a~cによれば,訂正事項1の「アンテナ素子」が「面状」であり,「上縁が前記アンテナケースの内部空間の形状に合わせた形状であ」り,「アンプ」が「FM放送及びAM放送の信号を増幅する」ものに特定する訂正は,いずれも願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載された範囲内においてなされた訂正であり,特許請求の範囲を実質的に拡張し,又は変更するものではないことが明らかである。
したがって,訂正事項1は特許法第134条の2第9項が準用する同法第126条第5項,及び第6項を満たす。
(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的
訂正事項2は,訂正前の特許請求の範囲の請求項1における「アンテナコイル」を,「高さ方向において前記アンテナ素子と前記アンプ基板との間に位置するアンテナコイル」とし,「アンテナ素子」と「アンプ基板」と「アンテナコイル」との高さ方向における位置関係を特定するものである。
したがって,訂正事項2は,特許法第134条の2第1項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項の存否及び特許請求の範囲の実質的拡張・変更の有無
「アンテナコイル」を「高さ方向において前記アンテナ素子と前記アンプ基板との間に位置するアンテナコイル」とすることに関し,願書に添付した明細書に以下の記載がある。
「【0017】・・・1μH~3μH程度のアンテナコイル32をアンテナ素子31の給電点とアンプ基板34におけるアンプの入力との間に直列に挿入することにより,アンテナ素子31とアンテナコイル32とからなるアンテナ部をFM波帯付近で共振させられるようになる。このアンテナコイル32が図6に図示されている。」
「【0029】・・・このアンテナ素子41の下部が,絶縁スペーサ42の上端に挟持されて一対の取付ネジ43が締着されることにより,アンテナ素子41が絶縁スペーサ42の上端に固着されている。・・・1μH~3μH程度のアンテナコイル32をアンテナ素子41の給電点とアンプ基板34におけるアンプの入力との間に直列に挿入することにより,アンテナ素子41とアンテナコイル32とからなるアンテナ部をFM波帯付近で共振させるようにしている。このアンテナコイル32が図22に図示されている。」
また,図5と図6,及び図21と図22には,高さ方向において前記アンテナ素子と前記アンプ基板との間にアンテナコイルを設けた構成が図示されている。
そうしてみると,「アンテナコイル」を「高さ方向において前記アンテナ素子と前記アンプ基板との間に位置するアンテナコイル」と特定する訂正は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載された範囲内においてなされた訂正であり,特許請求の範囲を実質的に拡張し,又は変更するものではないことが明らかである。
したがって,訂正事項2は特許法第134条の2第9項が準用する同法第126条第5項,及び第6項を満たす。
(3)訂正事項3について
ア 訂正の目的
訂正事項3は,訂正前の特許請求の範囲の請求項1が「前記アンテナ素子は前記アンテナコイルと接続されることによりFM波帯で共振し」となっていたため,アンテナ素子のみが共振するかのようにも読み得る記載になっており,「1μH~3μH程度のアンテナコイル32をアンテナ素子31の給電点とアンプ基板34におけるアンプの入力との間に直列に挿入することにより,アンテナ素子31とアンテナコイル32とからなるアンテナ部をFM波帯付近で共振させ」るという明細書【0017】段落の記載及び【0029】段落の同様の記載と整合しない内容と読まれるおそれのある記載となっていた。
そこで,訂正事項3は,「前記アンテナ素子と前記アンテナコイルとが接続されることによりFM波帯で共振し」と訂正することにより,「アンテナ素子とアンテナコイルと」が「FM波帯で共振」することを明確にすることにより明瞭でない記載の釈明をするものである。
したがって,訂正事項3に係る訂正は,特許法第134条の2第1項ただし書き第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 新規事項の存否及び特許請求の範囲の実質的拡張・変更の有無
「前記アンテナ素子と前記アンテナコイルとが接続されることによりFM波帯で共振し」とする訂正事項に関しては,願書に添付した明細書に以下の記載がある。
「【0017】・・・1μH~3μH程度のアンテナコイル32をアンテナ素子31の給電点とアンプ基板34におけるアンプの入力との間に直列に挿入することにより,アンテナ素子31とアンテナコイル32とからなるアンテナ部をFM波帯付近で共振させられるようになる。」
「【0029】・・・,1μH~3μH程度のアンテナコイル32をアンテナ素子41の給電点とアンプ基板34におけるアンプの入力との間に直列に挿入することにより,アンテナ素子41とアンテナコイル32とからなるアンテナ部をFM波帯付近で共振させるようにしている。」
そして,上記引用した記載によると「アンテナ素子31とアンテナコイル32とからなるアンテナ部をFM波帯付近で共振させられる」のであるから,アンテナ素子31とアンテナコイル32とがFM波帯付近で共振していることは明らかであり,訂正事項3は願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載された範囲内においてなされた訂正であり,特許請求の範囲を実質的に拡張し,又は変更するものではないことが明らかである。
したがって,訂正事項3は特許法第134条の2第9項が準用する同法第126条第5項,及び第6項を満たす。
(4)訂正事項4について
ア 訂正の目的
訂正事項4は,「アンプ」が「前記アンテナコイルを介して接続される」ものであり,さらに「FM放送及びAM放送の信号を増幅する」ことを特定するものである。
したがって,訂正事項4に係る訂正は,特許法第134条の2第1項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項の存否及び特許請求の範囲の実質的拡張・変更の有無
訂正事項4の「前記アンテナコイル」と「前記アンプ」とが接続され,アンテナ素子とアンプがアンテナコイルを介して接続されることについては,願書に添付した明細書に以下の記載がある。
「【0017】・・・1μH~3μH程度のアンテナコイル32をアンテナ素子31の給電点とアンプ基板34におけるアンプの入力との間に直列に挿入する・・・」
「【0029】・・・ そこで,1μH~3μH程度のアンテナコイル32をアンテナ素子41の給電点とアンプ基板34におけるアンプの入力との間に直列に挿入する・・・」
また,「前記アンプによってFM放送及びAM放送の信号を増幅する」ことに関しては,願書に添付した明細書に以下の記載がある。
「【0017】・・・また,アンプ基板34に設けられているアンプは,アンテナ素子31により受信されたFM放送信号とAM放送信号とを増幅して出力している。」
「【0029】・・・さらにまた,アンプ基板34に設けられているアンプは,アンテナ素子41により受信されたFM放送信号とAM放送信号とを増幅して出力している。」
そうしてみると,訂正事項4は願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載された範囲内においてなされた訂正であり,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではないことが明らかである。
したがって,訂正事項4は特許法第134条の2第9項が準用する同法第126条第5項,及び第6項を満たす。
(5)訂正事項5について
ア 訂正の目的
訂正事項5は,訂正前の特許請求の範囲の請求項3における「前記アンテナパターンからなるアンテナ素子」を,「面状であり,上縁が前記アンテナケースの内部空間の形状に合わせた形状である前記アンテナパターンからなるアンテナ素子」に限定し,さらに,「少なくともFM放送の信号を増幅するアンプ」が「FM放送及びAM放送の信号」を増幅することを特定する訂正であるから,特許請求の範囲の減縮をするものである。
したがって,訂正事項5は,特許法第134条の2第1項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項の存否及び特許請求の範囲の実質的拡張・変更の有無
a 「アンテナ素子」が「面状」である点に関して,願書に添付した明細書に以下の記載がある。
「【0009】上記目的を達成するために,本発明は,立設されて配置され面状のアンテナ素子が形成されているアンテナ基板と,・・・」
「【0017】・・・長さがLで幅がhの面状のアンテナ素子31としていることから導体損失が小さくなり,導体損失による電気的特性の劣化を防止することができる。」
「【0023】・・・アンテナ素子31は厚みより縦方向の幅が大きくされアンテナ基板30にプリントする,あるいは,厚さが1~2mmの板状とする。」
「【0029】アンテナ部40は,ほぼ矩形とされた板状の絶縁スペーサ42と,この絶縁スペーサ42の上端に固着された断面が細長い菱形の導電性(例えば,金属製)の棒状とされたアンテナ素子41から構成されている。・・・アンテナ素子41はAM放送とFM放送が受信可能とされ,厚みより縦方向の幅が大きくされた金属等の導電体,あるいは,絶縁体の全面に導電膜が形成されて構成されている。・・・アンテナ素子41の断面形状は菱形に限らず楕円形や多角形状としたり,板状のアンテナ素子41とすることができる。」
「【0030】・・・アンテナ素子41は厚みより縦方向の幅が大きくされ,その厚さは1~2mmの板状,あるいは60~百数十分の一λ程度の棒状としている。」
b 「アンテナ素子」が「上縁が前記アンテナケースの内部空間の形状に合わせた形状である」である点に関して,願書に添付した明細書に以下の記載がある。
「【0013】・・・立設して固着されるアンテナ基板30の上縁をアンテナケース10の内部空間の形状に合わせた形状として,アンテナ基板30の高さをなるべく高くすることが好適とされる。」
「【0016】アンテナ基板30は,高周波特性の良好なガラスエポキシ基板等のプリント基板とされており,AM放送とFM放送を受信可能なアンテナを構成するアンテナ素子31のパターンが上部に形成されている。」
c 「アンプ」が「FM放送及びAM放送の信号を増幅する」ものである点に関して,願書に添付した明細書に以下の記載がある。
「【0017】・・・アンプ基板34に設けられているアンプは,アンテナ素子31により受信されたFM放送信号とAM放送信号とを増幅して出力している。」
d そうしてみると,上記a~cによれば,訂正事項5の「前記アンテナパターンからなるアンテナ素子」が「面状」であり,「上縁が前記アンテナケースの内部空間の形状に合わせた形状であ」り,「アンプ」が「FM放送及びAM放送の信号を増幅する」ものに特定する訂正は,いずれも願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載された範囲内においてなされた訂正であり,特許請求の範囲を実質的に拡張し,又は変更するものではないことが明らかである。
したがって,訂正事項5は特許法第134条の2第9項が準用する同法第126条第5項,及び第6項を満たす。
(6)訂正事項6について
ア 訂正の目的
訂正事項6は,訂正前の特許請求の範囲の請求項3における「アンテナコイル」を,「高さ方向において前記アンテナ素子と前記アンプ基板との間に位置するアンテナコイル」とし,「アンテナ素子」と「アンプ基板」と「アンテナコイル」との高さ方向における位置関係を特定するものである。
したがって,訂正事項6は,特許法第134条の2第1項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項の存否及び特許請求の範囲の実質的拡張・変更の有無
「アンテナコイル」を「高さ方向において前記アンテナ素子と前記アンプ基板との間に位置するアンテナコイル」とすることに関し,願書に添付した明細書に以下の記載がある。
「【0017】・・・1μH~3μH程度のアンテナコイル32をアンテナ素子31の給電点とアンプ基板34におけるアンプの入力との間に直列に挿入することにより,アンテナ素子31とアンテナコイル32とからなるアンテナ部をFM波帯付近で共振させられるようになる。このアンテナコイル32が図6に図示されている。」
「【0029】・・・このアンテナ素子41の下部が,絶縁スペーサ42の上端に挟持されて一対の取付ネジ43が締着されることにより,アンテナ素子41が絶縁スペーサ42の上端に固着されている。・・・1μH~3μH程度のアンテナコイル32をアンテナ素子41の給電点とアンプ基板34におけるアンプの入力との間に直列に挿入することにより,アンテナ素子41とアンテナコイル32とからなるアンテナ部をFM波帯付近で共振させるようにしている。このアンテナコイル32が図22に図示されている。」
また,図5と図6,及び図21と図22には,高さ方向において前記アンテナ素子と前記アンプ基板との間にアンテナコイルを設けた構成が図示されている。
そうしてみると,「アンテナコイル」を「高さ方向において前記アンテナ素子と前記アンプ基板との間に位置するアンテナコイル」と特定する訂正は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載された範囲内においてなされた訂正であり,特許請求の範囲を実質的に拡張し,又は変更するものではないことが明らかである。
したがって,訂正事項6は特許法第134条の2第9項が準用する同法第126条第5項,及び第6項を満たす。
(7)訂正事項7について
ア 訂正の目的
訂正事項7は,訂正前の特許請求の範囲の請求項3が「前記アンテナ素子は前記アンテナコイルと接続されることによりFM波帯で共振し」となっていたため,アンテナ素子のみが共振するかのようにも読み得る記載になっており,「1μH~3μH程度のアンテナコイル32をアンテナ素子31の給電点とアンプ基板34におけるアンプの入力との間に直列に挿入することにより,アンテナ素子31とアンテナコイル32とからなるアンテナ部をFM波帯付近で共振させ」るという明細書【0017】段落の記載及び【0029】段落の同様の記載と整合しない内容と読まれるおそれのある記載となっていた。
そこで,訂正事項7は,「前記アンテナ素子と前記アンテナコイルとが接続されることによりFM波帯で共振し」と訂正することにより,「アンテナ素子とアンテナコイルと」が「FM波帯で共振」することを明確にすることにより明瞭でない記載の釈明をするものである。
したがって,訂正事項7に係る訂正は,特許法第134条の2第1項ただし書き第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 新規事項の存否及び特許請求の範囲の実質的拡張・変更の有無
「前記アンテナ素子と前記アンテナコイルとが接続されることによりFM波帯で共振し」とする訂正事項に関しては,願書に添付した明細書に以下の記載がある。
「【0017】・・・1μH~3μH程度のアンテナコイル32をアンテナ素子31の給電点とアンプ基板34におけるアンプの入力との間に直列に挿入することにより,アンテナ素子31とアンテナコイル32とからなるアンテナ部をFM波帯付近で共振させられるようになる。」
「【0029】・・・そこで,1μH~3μH程度のアンテナコイル32をアンテナ素子41の給電点とアンプ基板34におけるアンプの入力との間に直列に挿入することにより,アンテナ素子41とアンテナコイル32とからなるアンテナ部をFM波帯付近で共振させるようにしている。」
そして,上記引用した記載によると「アンテナ素子31とアンテナコイル32とからなるアンテナ部をFM波帯付近で共振させられる」のであるから,アンテナ素子31とアンテナコイル32とがFM波帯付近で共振していることは明らかであり,訂正事項7はいずれも願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載された範囲内においてなされた訂正であり,特許請求の範囲を実質的に拡張し,又は変更するものではないことが明らかである。
したがって,訂正事項7は特許法第134条の2第9項が準用する同法第126条第5項,及び第6項を満たす。
(8)訂正事項8について
ア 訂正の目的
訂正事項8は,「アンプ」が「前記アンテナコイルを介して接続される」ものであり,さらに「FM放送及びAM放送の信号を増幅する」ことを特定するものである。
したがって,訂正事項8に係る訂正は,特許法第134条の2第1項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項の存否及び特許請求の範囲の実質的拡張・変更の有無
訂正事項8に関し,「前記アンテナコイルを介して接続される前記アンプ」,すなわち,「前記アンテナコイル」と「前記アンプ」とが接続され,アンテナ素子とアンプがアンテナコイルを介して接続されることについては,願書に添付した明細書に以下の記載がある。
「【0017】・・・1μH~3μH程度のアンテナコイル32をアンテナ素子31の給電点とアンプ基板34におけるアンプの入力との間に直列に挿入する・・・」
「【0029】・・・そこで,1μH~3μH程度のアンテナコイル32をアンテナ素子41の給電点とアンプ基板34におけるアンプの入力との間に直列に挿入する・・・」
また,「前記アンプによってFM放送及びAM放送の信号を増幅する」ことに関しては,願書に添付した明細書に以下の記載がある。
「【0017】・・・また,アンプ基板34に設けられているアンプは,アンテナ素子31により受信されたFM放送信号とAM放送信号とを増幅して出力している。」
「【0029】・・・さらにまた,アンプ基板34に設けられているアンプは,アンテナ素子41により受信されたFM放送信号とAM放送信号とを増幅して出力している。」
そうしてみると,訂正事項8は願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載された範囲内においてなされた訂正であり,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではないことが明らかである。
したがって,訂正事項8は特許法第134条の2第9項が準用する同法第126条第5項,及び第6項を満たす。
(9)訂正事項9~13について
ア 訂正の目的
訂正事項9~13は,請求項の削除であるから,特許法第134条の2第1項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。
イ 新規事項の存否及び特許請求の範囲の実質的拡張・変更の有無
訂正事項9~13は請求項を削除する訂正であるから,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載された範囲内においてなされた訂正であり,特許請求の範囲を実質的に拡張し,又は変更するものでないことは明らかである。
したがって,訂正事項9~13は,特許法第134条の2第9項が準用する同法第126条第5項,及び第6項を満たす。
(10)訂正事項14,15について
ア 訂正の目的
訂正事項14,15は,「ほぼ」という曖昧な程度を示す表現を削除するものであるから,特許法第134条の2第1項ただし書き第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 新規事項の存否及び特許請求の範囲の実質的拡張・変更の有無
訂正事項14,15に関し,願書に添付した明細書には「【0017】・・・アンテナ素子31とアンテナコイル32とからなるアンテナ部をFM波帯付近で共振させられるようになる。・・・」と記載され,【0029】段落にも同様の記載があることから,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載された範囲内においてなされたものであり,特許請求の範囲を実質的に拡張し又は変更するものではないことは明らかである。
したがって,訂正事項14,15は特許法第134条の2第9項が準用する同法第126条第5項,及び第6項を満たす。
(11)請求項ごと又は一群の請求項ごとによる訂正について
訂正後の請求項2,5,7は,独立項であり訂正事項を含む請求項1を引用し,訂正後の請求項6,7は,独立項であり訂正事項を含む請求項3を引用している。ここで請求項7は訂正事項を含む独立請求項である請求項1と請求項3の両方を引用する従属項であるから,訂正後の請求項1~3,5~7は特許法施行規則第45条の4第1項第4号の規定により一群の請求項を構成する。したがって,本件訂正事項1~15は,一群の請求項ごとになされたものである。
3 まとめ
以上のとおりであるから,訂正後の請求項1~3,5~7からなる一群に係る請求項についての本件訂正は,特許法第134条の2第1項ただし書第1号ないし3号に掲げる事項を目的とし,かつ,特許法第134条の2第9項の規定によって準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので,当該訂正を認める。
なお,訂正事項3に関して,請求人は平成28年3月1日付弁駁書(2)(19~22頁)により概ね以下のような主張をしている。
(訂正事項3に関する請求人の主張)
被請求人は,訂正事項3が明瞭ではない記載の釈明に該当すると主張するが,訂正事項3により訂正しようとする部分の記載には,「アンテナ素子は」と記載され,文意上の主語は極めて明瞭。これに対し,明細書の【0017】段落の記載は,アンテナ素子とアンテナコイルとをアンテナ部として一体的に捉えた場合,アンテナ素子がアンテナコイルと接続されることにより共振するため,アンテナ部が共振するといえるという趣旨に解され,訂正しようとする内容と,文意として相互に何の不整合も明瞭でない点もない。
もし,被請求人がアンテナ素子とアンテナコイルとが共振することは理論上自明であるから,不整合があると主張するのであれば,そのような理論自体が誤りであり,明細書になんら記載のない被請求人の「理論」を根拠とする訂正は,「明瞭でない記載の釈明」ではない。
被請求人が訂正の根拠とする段落【0017】には,引用部分より前段に「・・・アンテナ素子31を共振させる・・・」と記載され,「アンテナ素子31を共振させる」ために,アンテナコイル32は挿入するものとされていて文意は明瞭。他方「アンテナコイルが共振する」との記載は,明細書に一切存在しないから,特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項に違反する。
また,請求項に「前記アンテナ素子」(=FM波帯で共振するアンテナ素子)「を用いてAM波帯を受信する」と記載されている「前記アンテナ素子」の技術的な意義を変える訂正であるから,実質的に拡張又は変更する訂正である。
しかしながら,上述したように,訂正事項3は請求項1の記載を明細書の【0017】段落の記載と整合させようとする訂正であるから,明瞭ではない記載の釈明であるということができ,特許法第134条の2第1項ただし書き第3号に適合する。また,明細書の【0017】段落の「アンテナ素子31とアンテナコイル32とからなるアンテナ部をFM波帯付近で共振させられるようになる。」との記載は,アンテナ素子とアンテナコイルとをアンテナ部として捉えた場合に,アンテナ部が共振するというものだから,アンテナ部を構成するアンテナ素子とアンテナコイルとが共振していることは明細書に実質的に記載されている事項といえ,特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項に違反しない。
また,請求人は「前記アンテナ素子」の技術的な意義を変えると主張するが,アンテナ素子は,アンテナコイルと接続されること,FM波帯で共振すること,及びAM波帯を受信すること,において訂正事項3に係る本件訂正の前後で技術的な意義が変更されるものとも認められない。
第3 本件訂正発明
上記のとおり本件訂正は認められるから,本件訂正により訂正された請求項1~3,5~7に係る発明(以下,それぞれ「本件訂正発明1」~「本件訂正発明3」,「本件訂正発明5」~「本件訂正発明7」という。)は,平成27年10月28日付け訂正請求書に添付した特許請求の範囲の請求項1~3,5~7に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「 【請求項1】
車両に取り付けられた際に,車両から約70mm以下の高さで突出するアンテナケースと,該アンテナケース内に収納されるアンテナ部からなるアンテナ装置であって,
前記アンテナ部は,面状であり,上縁が前記アンテナケースの内部空間の形状に合わせた形状であるアンテナ素子と,該アンテナ素子により受信されたFM放送及びAM放送の信号を増幅するアンプを有するアンプ基板とからなり,
前記アンテナ素子の給電点が前記アンプの入力に高さ方向において前記アンテナ素子と前記アンプ基板との間に位置するアンテナコイルを介して接続され,
前記アンテナ素子と前記アンテナコイルとが接続されることによりFM波帯で共振し,
前記アンテナ素子を用いてAM波帯を受信し,
前記アンテナコイルを介して接続される前記アンプによってFM放送及びAM放送の信号を増幅する
ことを特徴とするアンテナ装置。
【請求項2】
前記アンテナ素子が,前記アンテナケース内に配設されている棒状のアンテナ素子から構成されていることを特徴とする請求項1記載のアンテナ装置。
【請求項3】
車両に取り付けられた際に,車両から約70mm以下の高さで突出するアンテナケースと,該アンテナケース内に収納されるアンテナ部からなるアンテナ装置であって,
前記アンテナ部は,車両に対して立設されて配置されアンテナパターンが形成されているアンテナ基板と,面状であり,上縁が前記アンテナケースの内部空間の形状に合わせた形状である前記アンテナパターンからなるアンテナ素子により受信されたFM放送及びAM放送の信号を増幅するアンプが設けられているアンプ基板とからなり,
前記アンテナ基板における前記アンテナ素子の給電点が,前記アンプ基板における前記アンプの入力に高さ方向において前記アンテナ素子と前記アンプ基板との間に位置するアンテナコイルを介して接続され,
前記アンテナ素子と前記アンテナコイルとが接続されることによりFM波帯で共振し,
前記アンテナ素子を用いてAM波帯を受信し,
前記アンテナコイルを介して接続される前記アンプによってFM放送及びAM放送の信号を増幅することを特徴とするアンテナ装置。
【請求項4】 (削除)
【請求項5】
前記アンテナ素子の長さが前記FM波帯の波長λに対して約1/30以下の長さとされ,前記アンテナ素子と前記アンテナコイルとからなるアンテナ部が前記FM波帯で共振するようにしたことを特徴とする請求項1または2記載のアンテナ装置。
【請求項6】
前記アンテナパターンの長さが前記FM波帯の波長λに対して約1/30以下の長さとされ,前記アンテナパターンと前記アンテナコイルとからなるアンテナ部が前記FM波帯で共振するようにしたことを特徴とする請求項3記載のアンテナ装置。
【請求項7】
前記アンテナケースは,先端に行くほど細くなると共に高さが低くなる流線型の外形形状とされており,前記アンプ基板は前記アンテナケースの高さが低い部位に収納されることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のアンテナ装置。
【請求項8】 (削除)
【請求項9】 (削除)
【請求項10】 (削除)
【請求項11】 (削除) 」
第4 当事者の主張
1 請求人の主張の概要
請求人は,「特許第5237617号の特許請求の範囲に記載されたすべての請求項にかかる発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め,審判請求書とともに甲1号証~甲14号証を提出し,さらに,弁駁書,口頭陳述要領書,弁駁書(2),甲15号証,及び甲16号証を提出しており,これらにおいて主張している内容を整理すると概ね次のとおりである。
(1)無効理由について
ア.無効理由1
本件訂正発明1,3は,甲4号証に記載された発明と同一であり,特許法第29条第1項第3号に違反するから,同法第123条第1項第2号の規定により,無効とすべきである。
イ.無効理由2
本件訂正発明1~3,5~7は,甲4号証に記載された発明と,公知・周知の技術,技術常識から容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項に違反するから,同法第123条第1項第2号の規定により,無効とすべきである。
ウ.無効理由3
本件訂正発明5,6は,本件明細書の発明の詳細な説明に記載された事項に基づかない発明であり,これらは特許法第36条第6項第1号に違反するから,同法第123条第1項第4号の規定により,無効とすべきである。
エ.無効理由4
本件訂正発明5,6は特許請求の範囲に記載された事項が不明確であり,これらは特許法第36条第6項第2号に違反するから,同法第123条第1項第4号の規定により,無効とすべきである。
(2)請求人の主張した上記無効理由1~4のうち,無効理由3及び4にかかる主張は,口頭審理陳述要領書において撤回されている。
(3)訂正請求について
訂正事項3は,特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第5項,及び特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第6項に違反するから,訂正請求は不許とされるべきである。
(4)請求人の提出した証拠方法
甲1号証:特許第5237617号公報
甲2号証:訂正2014-390078号審決
甲3号証:特許第5237617号特許原簿
甲4号証:中国実用新案公報CN2648621Y
甲4号証の2:甲4号証訳文(請求人作成)
甲5号証:「新・道路運送車両の保安基準」発行:株式会社交文社,平成19年2月28日第3次改訂発行,735頁
甲6号証:特許第3825408号公報
甲7号証:特開2007-28357号公報
甲8号証:特開2000-68878号公報
甲9号証:中国公開特許公報CN101000977A
甲9号証の2:甲第9号証訳文(請求人作成)
甲10号証:台湾実用新案公報TW565018号
甲11号証:特開2003-17916号公報
甲12号証:特開2004-228909号公報
甲13号証:特開2006-270717号公報
甲14号証:特開2002-43838号公報
甲15号証:特開平3-158003号公報
甲16号証:「アンテナ・無線ハンドブック」,後藤尚久・中川正雄・伊藤精彦共編,発行所:株式会社オーム社,平成18年10月25日第1版第1刷発行,162頁
2 被請求人の主張の概要
被請求人の主張は「本件審判の請求は成り立たない,審判費用は請求人の負担とする」との審決を求めるものである。そして,被請求人は平成27年10月28日付け訂正請求書に添付した特許請求の範囲のとおり,一群の請求項ごとに訂正することを求め,本件訂正発明1,及び3は,甲4号証に係る発明と同一ではなく,また,本件訂正発明1~3,5~7は甲4号証に係る発明に,他の公知技術や周知技術を組み合わせて容易に発明をすることができたものではない旨主張するものである。
第5 無効理由通知の概要
当審が通知した無効理由の概要は次のとおりである。
本件特許の下記の請求項1~3,5~7に係る特許は,その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された引用発明,公知技術及び周知技術刊行物に記載された発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり,特許法第123条第1項第2号の規定に該当し,無効とすべきものである。
記
刊行物1: 中国実用新案公報CN2648621Y
刊行物2: 「新・道路運搬車両の保安基準-省令・告示全条文-」,株式会社交文社,平成19年2月28日第3次改訂発行,735頁
刊行物3:中国公開特許公報CN101000977A
周知技術を示す刊行物1: 「アンテナ・無線ハンドブック」,後藤尚久・中川正雄・伊藤精彦共編,発行所:株式会社オーム社,平成18年10月25日第1版第1刷発行,162~163頁
周知技術を示す刊行物2: 特許第3825408号
周知技術を示す刊行物3: 特開2007-28357号公報
周知技術を示す刊行物4: 特開2000-68878号公報
周知技術を示す刊行物5: 特開平3-158003号公報
第6 引用刊行物の記載事項
1 刊行物
当審からの無効理由通知において刊行物1とした,本件特許の出願前に頒布された中国実用新案公報CN2648621Y(以下,「刊行物1」という。翻訳は甲4号証の2による。)には,「自動車ラジオ用共振型アンテナ装置」に関し,次の事項が図面とともに記載されている。
ア
(4頁)
訳:「産業上の利用分野
本考案は自動車ラジオ用共振型アンテナ装置に関し,特に自動車AM/FMラジオ用アンテナ装置であって,ラジオの無線周波数信号の受信を増強する受信アンテナ装置に関する。」(甲4号証の2,4頁)
イ
(4頁)
訳:「本考案の目的は,従来型自動車ラジオ用無線受信アンテナが有する不都合と欠点を解決する自動車ラジオ用共振型アンテナ装置を提供することであり,また,以下の技術的手段によってラジオ無線周波数の信号受信を向上させる目的を達成することである。」(甲4号証の2,4頁)
ウ
(5頁)
訳:「本考案の主要な技術的特徴は,自動車ラジオ用共振型アンテナ装置を提供することであり,前記共振型アンテナ装置は,無線受信回路に電気的に接続される手前において,無線周波数帯の信号を受信するのに用いられ,アンテナ誘電板,その面上に展開されていると共にFMアンテナ区とAMアンテナ区とに区分されている曲折導線層を含み,前記アンテナ誘電板には,少なくとも一つのインダクタが配置され,且つ,前記FMアンテナ区の曲折導線層に電気的に接続されており,前記曲折導線層と前記インダクタとによって周波数共振回路が形成され,ちょうど前記無線受信回路が受信するラジオ無線周波数帯とインピーダンス整合値を形成し,これにより,無線信号を受信するための最良の周波数を提供する効果を達成することである。」(甲4号証の2,4~5頁)
エ
(5頁)
訳:「本考案の第2の技術的特徴は,前記自動車ラジオ用共振型アンテナ装置を提供することであり,回路基板を更に備えており,その上には強波回路が設けられ,前記アンテナ誘電板における曲折導線層に電気的に接続されており,前記強波回路はAM/FMの無線周波数帯の信号を,更に前記無線受信回路に出力し,これにより,無線周波数信号の受信を向上する効果を達成することである。」(甲4号証の2,5頁)
オ
(6頁)
訳:「具体的な実施形態
図1に示されているのは,本考案に係る自動車ラジオ用共振型アンテナの実施例の斜視分解図であり,図2は本考案に係る実施例の回路ブロック図であり,図3は本考案に係る実施例の回路図である。本考案に係る自動車ラジオ用共振型アンテナ装置10は,主に無線受信回路1に接続される手前において,ラジオの無線周波数帯の信号を受信するのに用いられる。」(甲4号証の2,6頁)
カ
(6~7頁)
訳:「本考案に係る共振型アンテナ装置10は,前記無線受信回路1のアンテナ信号入力端に接続され,前記アンテナ装置10は,1つのアンテナ誘電板11と,6個のインダクタ12と,1つの回路基板13によって構成され,そのうちのアンテナ誘電板1は非導電性材料からなり,例えば,プリント回路基板でもよく,前記両面のいずれにも少なくとも1つの曲折導電層14が配置されていると共に,AMアンテナ区とFMアンテナ区とに区分されている。
そのうちの前記インダクタ12は,前記アンテナ誘電板11に配置されると共に,前記FMアンテナ区の曲折導電層14に電気的に接続され,前記インダクタ12と前記FMアンテナ区の曲折導電層14とにより周波数共振回路を形成することができ,その共振周波数応答の範囲は,ちょうど前記無線受信回路が受信するFMラジオの無線周波数帯内に入り,それにより,本考案に係る共振型アンテナ10と,前記無線受信回路1とでは優れたインピーダンス整合が得られ,本実施例におけるインピーダンス整合値は,50オームに近い。
本考案に係るアンテナ誘電板11は相当に短く,その長さは7センチメートルを超えず,アンテナの体積が相当に小さくなるので,無線信号の受信範囲を拡大するために,本考案においては,前記アンテナ誘電板11は前記回路基板13に直立設置され,また,受信信号を強化するために,前記回路基板13に強波回路が設けられ,本考案に係る共振型アンテナ10が受信した無線周波数信号を増幅するのに用いられる。
また,通常のラジオは,AMとFM受信周波数を有するので,本考案に係る共振型アンテナの回路基板13における強波回路は,AM信号増幅回路131とFM信号増幅回路132とを有し,前記アンテナ誘電板11におけるAMアンテナ区とFMアンテナ区とにそれぞれ別に電気的に接続されており,AMとFMの無線周波数帯の信号を増幅するのに用いられ,更に前記無線受信回路1に出力する。」(甲4号証の2,6~7頁)
キ
(7頁)
訳:「本考案に係る共振型アンテナは体積が小さく,自動車ラジオに用いられることを可能にするように,前記アンテナ誘電板11及び前記回路基板13を覆うアンテナケース16が設けられ,図1に示すように,前記アンテナケース16を自動車のルーフに設けることができ,飛行機の尾翼のように見える外観の美しいアンテナの造形を形成し,更に,前記閃光装置は前記アンテナケースの最上部の後端に位置して点滅発光することで,一層本考案のアンテナに美観を与えることができる。」(甲4号証の2,7頁)
ク 図1として以下の図が記載されている
上記摘記事項キによれば,アンテナケース16はアンテナ誘電板11及び回路基板13を収納しており,また自動車のルーフに設けられ,上記摘記事項クの図1の形状を有することを勘案すれば,アンテナケース16は,自動車のルーフから突出することが明らかである。そして上記摘記事項クの図1の斜視分解図によれば,自動車ラジオ用共振型アンテナ装置が,アンテナ誘電板11,前記回路基板13及びアンテナケース16により構成されることも明らかである。
上記摘記事項ウとカによれば,アンテナ誘電板の面上にFMアンテナ区とAMアンテナ区とに区分された曲折導電層14が配置されている。そして,上記摘記事項カに「AM信号増幅回路131とFM信号増幅回路132とを有し,前記アンテナ誘電板11におけるAMアンテナ区とFMアンテナ区とにそれぞれ別に電気的に接続されており」と記載されていることから,FMアンテナ区の曲折導電層14で受信されたFMの信号を増幅するFM信号増幅回路132と,AMアンテナ区の曲折導電層14で受信されたAMの信号を増幅するAM信号増幅回路131とが,回路基板上に設けられている。
また,上記摘記事項ウとカによれば,アンテナ誘電板11に,前記FMアンテナ区の曲折導電層14に電気的に接続されるインダクタ12が設けられており,また,FMアンテナ区の曲折導電層14は回路基板13の上方に位置している。
上記摘記事項カに,「前記インダクタ12と前記FMアンテナ区の曲折導電層14とにより周波数共振回路を形成することができ,その共振周波数応答の範囲は,ちょうど前記無線受信回路が受信するFMラジオの無線周波数帯内に入り・・・」と記載されているから,FMアンテナ区の曲折導電層14とインダクタ12とが,接続されることによりFMラジオの無線周波数帯内で共振しているといえる。
よって,上記摘記事項における各記載,図面の図示内容及び上記検討を総合すれば,刊行物には,次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
(引用発明)
「 自動車のルーフに取り付けられ,自動車のルーフから突出するアンテナケース16と,当該アンテナケース16に収納されたアンテナ誘電板11及び回路基板13からなる自動車ラジオ用共振型アンテナ装置であって,
前記アンテナ誘電板11の面上に,FMアンテナ区の曲折導電層14とAMアンテナ区の曲折導電層14が配置され,前記FMアンテナ区の曲折導電層14で受信されたFMの信号を増幅するFM信号増幅回路132と,前記AMアンテナ区の曲折導電層14で受信されたAMの信号を増幅するAM信号増幅回路131とが前記回路基板13上に設けられ,
前記FMアンテナ区の曲折導電層14にインダクタ12が電気的に接続され,
FMアンテナ区の曲折導電層14は回路基板13の上方に位置しており,
前記FMアンテナ区の曲折導電層14とインダクタ12とが,接続されることによりFMラジオの無線周波数帯内で共振し,
前記AMアンテナ区の曲折導電層14でAMの信号を受信し,
FM信号増幅回路132によりFMの信号を増幅し,AM信号増幅回路131によりAMの信号を増幅する
自動車ラジオ用共振型アンテナ装置。」
第7 当審の判断
1 本件訂正発明1について
(1)対比
本件訂正発明1を引用発明と対比する。
a 引用発明の「自動車のルーフ」は「車両」の一部分であるから,引用発明の「自動車のルーフに取り付けられ,自動車のルーフから突出するアンテナケース16」は,本件訂正発明1の「車両に取り付けられ・・・車両から・・・・突出するアンテナケース」に相当する。
また,引用発明の「自動車ラジオ用共振型アンテナ装置」は「アンテナ装置」に含まれる。
b 引用発明の「FMアンテナ区の曲折導電層14とAMアンテナ区の曲折導電層14」は,「FMの信号」と「AMの信号」をそれぞれ受信するものであるから,本件訂正発明において「FM放送及びAM放送の信号」を受信する「アンテナ素子」とは,「受信素子」といえる点では共通するものの,引用発明では「FMアンテナ区の曲折導電層14」と「AMアンテナ区の曲折導電層14」に分かれているから,これに起因して本件訂正発明1の「アンテナ素子」とは構成上の違いを有する。
また,引用発明の「FMアンテナ区の曲折導電層14とAMアンテナ区の曲折導電層14」は,「アンテナ誘電板11の面上に」構成されたものだが,本件訂正発明1のアンテナ素子は,「面状であり,上縁が前記アンテナケースの内部空間の形状に合わせた形状である」点で異なる。
c 引用発明の「FM信号増幅回路132」と「AM信号増幅回路131」を合わせた構成は「FMの信号」と「AMの信号」を増幅するから,本件訂正発明において「FM放送及びAM放送の信号」を増幅する「アンプ」とは,「増幅器」といえる点では共通するものの,引用発明では「FM信号増幅回路132」と「AM信号増幅回路131」に分かれているから,これに起因して本件訂正発明1と構成上の違いを有する。
また,引用発明において「FM信号増幅回路132」と「AM信号増幅回路131」が設けられる「回路基板13」は,本件訂正発明1においてアンプを有する「アンプ基板」に相当する。
そして,引用発明の「FMアンテナ区の曲折導電層14とAMアンテナ区の曲折導電層14」と「回路基板13」とを合わせて,本件訂正発明1のように「アンテナ部」と称するのは任意である。
d 引用発明の「インダクタ12」は,後述する点で相違はするものの,「FMアンテナ区の曲折導電層14」に電気的に接続されFMラジオの無線周波数帯内で共振するものであるから,本件訂正発明1の「アンテナコイル」に対応する。
e 引用発明では,「FMアンテナ区の曲折導電層14」と,「FM信号増幅回路132」と,「インダクタ12」の接続関係について,「前記FMアンテナ区の曲折導電層14にインダクタ12が電気的に接続され」と特定されているだけであるのに対して,本件訂正発明1では「前記アンテナ素子の給電点が前記アンプの入力に・・・・アンテナコイルを介して接続され」ている。そうしてみると,引用発明と本件訂正発明1では「FMアンテナ区の曲折導電層14」(「アンテナ素子」に相当)と「インダクタ12」(「アンテナコイル」に相当)とが電気的に接続される点では共通するものの,引用発明は本件訂正発明1の「前記アンテナ素子の給電点が前記アンプの入力に・・・・アンテナコイルを介して接続され」る構成を有しているかは明らかではない。
f 引用発明では「FMアンテナ区の曲折導電層14は回路基板13の上方に位置」することは規定されているものの,本件訂正発明1の「アンテナコイル」が「高さ方向において前記アンテナ素子と前記アンプ基板との間に位置」する構成に対応する構成を有しているかは明らかではない。
g 引用発明では「前記FMアンテナ区の曲折導電層14とインダクタ12とが,接続されることによりFMラジオの無線周波数帯内で共振し,前記AMアンテナ区の曲折導電層14でAMの信号を受信し」ているのに対して,本件訂正発明1では,AM波帯も受信する「アンテナ素子」と「アンテナコイルとが接続されることによりFM波帯で共振」するものであり,両者は「受信素子とアンテナコイルとが接続されることによりFM波帯で共振し,前記受信素子を用いてAM波帯を受信し,」ている点で共通する。
h 引用発明では「FM信号増幅回路132によりFMの信号を増幅し,AM信号増幅回路131によりAMの信号を増幅」してはいるが,これらFM信号増幅回路132とAM信号増幅回路131が本件訂正発明1のようにインダクタ12を介して曲折導電層14に接続されているということはできず,また,FM信号増幅回路132と,AM信号増幅回路131に分かれてはいるものの,これらによってFM放送及びAM放送の信号を増幅している点で,本件訂正発明1と共通している。
以上によれば,本件訂正発明1と引用発明との一致点及び相違点は以下のとおりと認める。
(一致点)
「 車両に取り付けられた際に,車両から突出するアンテナケースと,該アンテナケース内に収納されるアンテナ部からなるアンテナ装置であって,
前記アンテナ部は,受信素子と,該受信素子により受信されたFM放送及びAM放送の信号を増幅する増幅器を有するアンプ基板とからなり,
前記受信素子が電気的にアンテナコイルに接続され,
前記受信素子と前記アンテナコイルとが接続されることによりFM波帯で共振し,
前記受信素子を用いてAM波帯を受信し,
前記増幅器によってFM放送及びAM放送の信号を増幅する
ことを特徴とするアンテナ装置。」
(相違点1)
一致点とした「アンテナケース」に関し,本件訂正発明1では,「車両に取り付けられた際に,車両から約70mm以下の高さで突出する」のに対し,引用発明では突出の高さが「約70mm以下の高さ」となることについては規定されていない点。
(相違点2)
一致点とした「受信素子」に関し,本件訂正発明1の「アンテナ素子」は「面状」であるのに対して,引用発明では「アンテナ誘電板11の面上に」配置された「曲折導電層14」である点。
(相違点3)
一致点とした「受信素子」に関し,本件訂正発明1の「アンテナ素子」は「アンテナケースの内部空間の形状に合わせた形状である」のに対して,引用発明ではそのような形状を有しているといえるか明らかではない点。
(相違点4)
一致点とした「受信素子」に関し,本件訂正発明1の「アンテナ素子」は「FM放送及びAM放送の信号」を受信するのに対して,引用発明の「曲折導電層14」は,FMの信号とAMの信号を別々に受信する「FMアンテナ区」と「AMアンテナ区」である点。
(相違点5)
一致点とした「増幅器」に関し,本件訂正発明1では「FM放送及びAM放送の信号を増幅するアンプ」であるに対して,引用発明では,FMの信号とAMの信号を別々に増幅する「FM信号増幅回路132」と「AM信号増幅回路131」である点。
(相違点6)
一致点とした「前記受信素子が電気的にアンテナコイルに接続され」る構成に関し,本件訂正発明1では「前記アンテナ素子の給電点が前記アンプの入力に・・・・・アンテナコイルを介して接続され」ているのに対して,引用発明では「FMアンテナ区の曲折導電層14」(「アンテナ素子」の一部に相当)と「インダクタ12」(「アンテナコイル」に相当)とが電気的に接続されていることしか明らかではない点。
(相違点7)
本件訂正発明1では「アンテナコイル」が「高さ方向において前記アンテナ素子と前記アンプ基板との間に位置する」のに対して,引用発明では「インダクタ12」が「回路基板13」の高さ方向で上方に位置すること以外の位置関係が明らかではない点。
(相違点8)
一致点とした「前記受信素子と前記アンテナコイルとが接続されることによりFM波帯で共振し,前記受信素子を用いてAM波帯を受信」する点に関し,本件訂正発明1では,AM波帯も受信する「アンテナ素子」が「アンテナコイルとが接続されることによりFM波帯で共振」するのに対して,引用発明では「前記FMアンテナ区の曲折導電層14とインダクタ12とが,接続されることによりFMラジオの無線周波数帯内で共振」し,これとは別構成の「前記AMアンテナ区の曲折導電層14」が「AMの信号を受信」している点。
(相違点9)
本件訂正発明1では「前記アンテナコイルを介して接続される前記アンプによってFM放送及びAM放送の信号を増幅する」のに対して,引用発明では「FM信号増幅回路132」や「AM信号増幅回路131」と「インダクタ12」との接続関係が明らかではない点。
(2)判断
事案に鑑み,まず相違点2について検討する。
本件訂正発明1の「アンテナ素子」は「面状」に構成されている。ここで本件訂正発明1における「面状」の技術的な意味を理解するために本件明細書の記載を参酌すると,本件明細書には以下のように記載されている。
「【0009】・・・本発明は,立設されて配置され面状のアンテナ素子が形成されているアンテナ基板と・・・」
「【0016】アンテナ基板30は,高周波特性の良好なガラスエポキシ基板等のプリント基板とされており,AM放送とFM放送を受信可能なアンテナを構成するアンテナ素子31のパターンが上部に形成されている。・・・また,アンテナ素子31の長さはアンテナ基板30と同じLとされ,幅(高さ)はhとされている。・・・このアンテナ素子31の大きさは,アンテナケース10の内部空間の制約から高さHは約75mm程度までの高さ,長さLは約90mm程度までとされている。ここで,FM波帯の周波数100MHzの波長をλとすると,約75mmの寸法は約0.025λ,約90mmの寸法は約0.03λとなり,アンテナ素子31は波長λに対して超小型のアンテナとなる。」
「【0017】・・・また,長さがLで幅がhの面状のアンテナ素子31としていることから導体損失が小さくなり,導体損失による電気的特性の劣化を防止することができる。」
「【0023】・・・(4)アンテナ素子31は厚みより縦方向の幅が大きくされアンテナ基板30にプリントする,あるいは,厚さが1~2mmの板状とする。」
「【0029】・・・アンテナ素子41はAM放送とFM放送が受信可能とされ,厚みより縦方向の幅が大きくされた金属等の導電体,あるいは,絶縁体の全面に導電膜が形成されて構成されている。」
「【0030】・・・さらにまた,アンテナ素子41は厚みより縦方向の幅が大きくされ,その厚さは1~2mmの板状,あるいは60~百数十分の一λ程度の棒状としている。 アンテナ素子41の寸法・位置関係をこのようにすることにより,アンテナ素子41と平面アンテナユニット35が,相互に影響を及ぼすことが低減され,それぞれ単独で存在する場合の各アンテナと同等の電気的特性を示すことが可能となる。」
これらの記載に,本件図5,13,14,21,25も参照すると,本件訂正発明1では,アンテナ素子の横方向の長さをほぼアンテナ長とし,縦方向の幅を厚みよりも大きく取り,導体損失を小さくし導体損失による電気的特性の劣化を防止した,導電体の面により構成されたアンテナ素子の形状を「面状」と表記していると解される。
これに対して,引用発明の「曲折導電層14」は,「曲折」という語が折れ曲がるという意味を有していることからみて、いわゆるメアンダ形状に導電層が構成されたものと考えるのが自然である。そうしてみると,引用発明の「曲折導電層14」は,メアンダ形状に形成された曲折導電層が,平面上に広がりを持つように構成されたものであって,メアンダ形状に構成された曲折導電層が全体として占める面の形状の外形寸法をアンテナ長とするものではないから,本件訂正発明1の面状のアンテナ素子のように,1枚の面として構成されたものではない。
したがって,引用発明の「曲折導電層14」は,本件訂正発明1における面状のアンテナ素子ということはできない。
また,技術常識から,アンテナをメアンダ形状に構成することは,アンテナサイズを変えることなくアンテナ長を長くするために行われると認められる。ところが、これを本件訂正発明1のように「面状」に変更すると、メアンダ形状にすることによって長くされたアンテナ長が逆に短くなってしまうから、「面状」に変更することに合理的理由はない。したがって,引用発明の「曲折導電層14」を本件訂正発明1のように「面状」とすることは,容易になし得たことということはできず,上記相違点2は当業者が容易に想到できたものではない。
なお,請求人は平成28年3月1日付け「弁駁書(2)」の9~10頁において,アンテナ素子が「面状」であること及びそのことによる作用効果が周知事項であること,また,甲4号証の曲折導電層14は,平面状の「層」がパターン化されたものであって「線状の形状」でないこと,を主張している。
しかしながら,上述したように,本件訂正発明1における「面状」のアンテナ素子とは,アンテナ素子の横方向の長さをほぼアンテナ長とし,縦方向の幅を厚みよりも大きく取り,導体損失を小さくし導体損失による電気的特性の劣化を防止した,導電体の面により構成されたアンテナ素子をいうものと解されるから,引用発明の「曲折導電層14」は「面状」のアンテナ素子とはいえず,また「面状」に変更することも,上述したように、アンテナ長が短い「面状」に変更することに合理的理由はないから,面状のアンテナ素子自体が周知であったとしても,当業者が容易になし得た事項とはいえない。
(3)小括
したがって,相違点1,3~9について検討するまでもなく,本件訂正発明1は,無効理由通知の刊行物1ないし刊行物3に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
2 本件訂正発明2,3,5~7について
本件訂正発明3は独立項であるが,その内容は,本件訂正発明1の内容を全部含み,これに「車両に対して立設されて配置されアンテナパターンが形成されているアンテナ基板」の構成を加え,これにあわせて「アンテナ素子」が「前記アンテナパターンからなる」ことを特定し,「前記アンテナ素子の給電点」が「前記アンテナ基板」にあることを特定し,また,「前記アンプの入力」が「前記アンプ基板」にあることを特定したものである。
そうすると,本件訂正発明3は,本件訂正発明1の発明特定事項をすべて含み,さらに,他の発明特定事項を付加した発明である。
そうすると,従属項を含め,本件訂正発明2,3,5~7は,本件訂正発明1の構成をさらに特定する発明であるから,本件訂正発明1について示した理由と同様の理由により,無効理由通知の刊行物1ないし刊行物3に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
3 請求人の主張する無効理由1,2について
(1)無効理由1について
上記「1」の項において「刊行物1」とした文献は,請求人が無効理由1において,本件訂正発明1,3と同一であるとした甲4号証である。そして上記「1」~「2」の項で検討したように,本件訂正発明1と「刊行物1」に記載された引用発明とは相違点1~9を有し,少なくとも相違点2については当業者が容易に想到できないものである。そうすると,少なくとも相違点2は実質的な相違点であるから,本件訂正発明1は,甲4号証に記載された発明と実質的に同一とはいえない。本件訂正発明3についても同様である。
したがって,無効理由1は採用できない。
(2)無効理由2について
上記「1」の項において「刊行物1」とした文献は,請求人が無効理由2において,主引例とした甲4号証である。そして上記「1」~「2」の項で検討したように,本件訂正発明1と「刊行物1」に記載された引用発明とは,少なくともアンテナ素子が面状であるという相違点2を有し,当該相違点2については当業者が容易に想到できないものである。そして,この点は請求人が提出した他の証拠をみても容易に構成することができたものとはいえない。
本件訂正発明1の構成をさらに限定した本件訂正発明2,3,5~7についても同様である。
したがって,無効理由2は採用できない。
第8 むすび
以上のとおり,請求項1~3,5~7からなる一群の請求項についての本件訂正は,特許法第134条の2第1項ただし書き第1号ないし第3号に掲げる事項を目的とし,かつ,特許法第134条の2第9項の規定によって準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので,当該訂正を認める。
そして,請求人の主張する理由及び提出した証拠方法並びに当審より通知した無効の理由によっては,本件訂正発明1~3,5~7についての特許を無効とすることはできず,また,他に無効とすべき理由もない。
審判に関する費用については,特許法第169条2項の規定において準用する民事訴訟法第61条の規定により,請求人が負担すべきものとする。
よって,結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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2015-800040