特許異議申立
2025-701146
二次電池バインダー、スラリー、電極、二次電池の製造方法、及び二次電池
- 審判番号
- 2025-701146
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2024-137837
- 登録番号
- 7708944
- 請求日
- 2025年12月16日
- 審決日
- 2026年05月13日
- 公報発行日
- 2026年06月26日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】住友精化株式会社
- 【権利者代理人】松谷 道子
- 【権利者代理人】式見 真行
- 【権利者代理人】畠中 省伍
- 【異議申立人】永田 怜
- 審判長/審判官
- 審判長 木村 貴俊
- 審判官 畑中 博幸
- 審判官 ▲吉▼澤 雅博
- 分類
- P1652.113-Y (H01M) / P1652.121-Y (H01M) / P1652.537-Y (H01M)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7708944号発明「二次電池バインダー、スラリー、電極、二次電池の製造方法、及び二次電池」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7708944号の請求項1~3、6~12に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7708944号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~12に係る特許についての出願は、令和6年8月19日に出願され、令和7年7月7日にその特許権の設定登録がなされ、同年7月15日に特許掲載公報が発行された。
その後、本件特許の請求項1~3、6~12に係る特許に対し、令和7年12月16日に特許異議申立人 永田 怜(以下、「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、令和8年1月27日に異議申立人より特許異議申立書に対する手続補正書(方式)が提出されたもの(以下、手続補正書(方式)により補正された特許異議申立書のことを「異議申立書」という。)である。
第2 本件発明
本件特許の請求項1~12に係る発明(以下、「本件発明1」ないし「本件発明12」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1~12に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
水系高分子を含み、
水に前記水系高分子を2質量%の濃度で溶解させたときに得られた水溶液の25℃における導電率が3.3mS/cm以下である、二次電池バインダー。
【請求項2】
前記導電率が0.5mS/cm以上である、請求項1に記載の二次電池バインダー。
【請求項3】
前記水系高分子が酸性官能基含有繰り返し単位を有するビニル系重合体である、請求項1又は2に記載の二次電池バインダー。
【請求項4】
前記水系高分子は、
式:
-[CH2-C(R1)(C(=O)R2)]-
[式中、
R1は、水素原子又はCH3であり、
R2は、NH2、OM(Mは水素原子又は対カチオンである。)、O(CH2)nOH、NH(CH2)nOH(nは、それぞれ独立して、1以上6以下)である。]
で表される繰り返し単位(1)、及び
式:
-[CH2-CH(OH)]-
で表される繰り返し単位(2)
から選択される繰り返し単位を含む、請求項1又は2に記載の二次電池バインダー。
【請求項5】
前記水系高分子において、
前記繰り返し単位(1)及び前記繰り返し単位(2)から選択される前記繰り返し単位の量が40mol%以上であり、
酸性官能基含有繰り返し単位の量が0.8mol%以上であり、
非イオン性繰り返し単位の量が40mol%以上である、請求項4に記載の二次電池バインダー。
【請求項6】
SBRを含む、請求項1又は2に記載の二次電池バインダー。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の二次電池バインダー、及び水を含む、スラリー。
【請求項8】
さらに電極活物質を含む、請求項7に記載のスラリー。
【請求項9】
請求項7に記載のスラリーを塗工する工程を含む、二次電池の製造方法。
【請求項10】
請求項1又は2に記載の二次電池バインダー又は前記二次電池バインダーに由来する成分を含む電極。
【請求項11】
請求項8に記載のスラリーの加熱乾燥物を含む電極。
【請求項12】
請求項10に記載の電極を備える、二次電池。」
第3 申立理由の概要
1 特許異議の申立理由
異議申立人の主張する特許異議の申立ての理由は、次のとおりである。
(1)申立理由1(新規性)
本件発明1~3、6~12は、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証に記載された発明、又は、甲第3号証に記載された発明であり、また、本件発明1~3、7~12は、甲第4号証に記載された発明又は甲第5号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するから、本件特許の請求項1~3、6~12に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
(2)申立理由2(進歩性)
本件発明6は、甲第4号証に記載された発明及び甲第1号証~甲第3号証に記載された事項に基いて、又は、甲第5号証に記載された発明及び甲第1号証~甲第3号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許の請求項6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(3)申立理由3(サポート要件)
本件発明1~3、6~12は、発明の詳細な説明に記載されたものではないから、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
2 異議申立人の提出した証拠
異議申立人が提出した証拠は次のとおりである。
甲第1号証:特開2020-205257号公報
甲第2号証:特開2021-36519号公報
甲第3号証:特開2021-82584号公報
甲第4号証:特開2018-6333号公報
甲第5号証:特開2021-158125号公報
甲第6号証:特許第7684497号公報
第4 異議申立人が提出した証拠の記載
1 甲第1号証
(1)甲第1号証には、次の記載がある。(なお、下線は、当審で付与したものである。以下同様。)。
「【0023】
[リチウムイオン電池用熱架橋性バインダー水溶液:水溶液ともいう]
本開示は、単量体群100モル%に対して、
(メタ)アクリルアミド基含有化合物(a)を2~60モル%、
不飽和カルボン酸、及び不飽和スルホン酸からなる群から選択される1つ以上の不飽和酸又はその無機塩(b)を10~50モル%、並びに
炭素数2~4のヒドロキシアルキル基を有するヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート(c)を15~78モル%含む単量体群の重合物である水溶性ポリ(メタ)アクリルアミド(A)((A)成分ともいう)を含み、pHが5~7である、リチウムイオン電池用熱架橋性バインダー水溶液を提供する。」
「【0190】
1.(A)成分の製造
実施例1-1
撹拌機、温度計、還流冷却管、窒素ガス導入管を備えた反応装置に、イオン交換水1200g、50%アクリルアミド水溶液100g(0.70mol)、80%アクリル酸63.4g(0.70mol)、アクリル酸2-ヒドロキシエチル69.8g(0.60mol)、メタリルスルホン酸ナトリウム0.32g(0.0020mol)を入れ、窒素ガスを通じて反応系内の酸素を除去した後、55℃まで昇温した。そこに2,2’-アゾビス-2-アミジノプロパン 二塩酸塩(日宝化学株式会社製 製品名「NC-32」)1.7g、イオン交換水15gを投入し、80℃まで昇温し3時間反応を行った。その後、中和剤として48%水酸化ナトリウム水溶液52.7g(0.63mol)を入れ撹拌し、固形分濃度が13%となるようにイオン交換水を入れ、水溶性ポリアクリルアミドを含有する水溶液を得た。」
「【0216】
実施例3-1
<スラリーの作製>
市販の自転公転ミキサー(製品名「あわとり練太郎」、シンキー(株)製)を用い、該ミキサー専用の容器に、実施例1-1で得られた水溶性ポリ(メタ)アクリルアミド(A)を含む、リチウムイオン電池用熱架橋性バインダー水溶液を固形分換算で5質量部と、D50が5μmの一酸化ケイ素粒子(「CC粉末」、(株)大阪チタニウムテクノロジーズ製)を20質量部と、天然黒鉛(伊藤黒鉛工業株式会社製 製品名「Z-5F」)を80質量部とを混合した。そこにイオン交換水を固形分濃度40%となるように加えて、当該容器を上記ミキサーにセットした。次いで、2000rpmで10分間混練後、1分間脱泡を行い、電極用スラリーを得た。
【0217】
<負極材料の作製>
得られたスラリーを銅箔からなる集電体の表面に、乾燥後の膜厚が80μmとなるように コンマコーター(ヒラノテクシード社製、機種TM-MC)を用いて均一に塗布し乾燥温度80℃、乾燥時間1分間のライン速度でコートし、負極用材料を得た。得られた負極用材料を所定の大きさに切り出し、水分濃度、ゲル分率、電極表面のタック性、クラック、剥離、エッジの欠けを下記の方法で評価した。」
「【0227】
<負極の作製>
得られた負極活物質層の密度が1.5g/cm3になるようにロールプレス機によりプレス加工し、所定の形状(50mm×150mmの矩形状)に切り取り、負極用電極を得た。
・・・(中略)・・・。
【0233】
<リチウムイオン電池の作製>
上記の負極と正極の間にポリプロピレン製多孔膜からなるセパレータ(CS TECH CO., LTD製、商品名「Selion P2010」)を矩形状シート(55mm×155mm、厚さ25μm)により挟装して極板群とした。この極板群を100℃、0.3Pa、24時間で乾燥させて得られた極板群を二枚一組のラミネートフィルムで覆い、三辺をシールした後、袋状となったラミネートフィルムに電解液を注入した。電解液としてエチレンカーボネート/エチルメチルカーボネート=1/1(質量比)の溶媒に、LiPF6を1mol/Lの濃度で溶解した溶液を用いた。その後、残りの一辺をシールすることで、四辺が気密にシールされ、極板群及び電解液が密閉されたラミネート型リチウムイオン二次電池を得た。」
(2)甲第1号証に記載された上記記載事項により、次のことがいえる。
ア 段落【0023】によれば、甲第1号証には、水溶性ポリ(メタ)アクリルアミドを含むリチウムイオン電池用熱架橋性バインダー水溶液が記載されている。
イ 段落【0190】、【0216】によれば、甲第1号証に記載された実施例1-1に着目すると、甲第1号証には、反応装置に、イオン交換水、50%アクリルアミド水溶液、80%アクリル酸、アクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタリルスルホン酸ナトリウムを入れ、55℃まで昇温し、そこに2,2’-アゾビス-2-アミジノプロパン 二塩酸塩(日宝化学株式会社製 製品名「NC-32」)、イオン交換水を投入し、80℃まで昇温し3時間反応を行った後、中和剤として48%水酸化ナトリウム水溶液を入れ撹拌し、固形分濃度が13%となるようにイオン交換水を入れて得られる水溶性ポリ(メタ)アクリルアミドを含有する水溶液が記載されているといえる。
ウ 段落【0216】、【0217】、【0227】及び【0233】によれば、水溶性ポリ(メタ)アクリルアミドを含有する水溶液である実施例1-1は、リチウムイオン二次電池の負極に用いられるといえる。
(3)よって、上記(2)によれば、甲第1号証に記載された実施例1-1に着目すると、甲第1号証には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。
「水溶性ポリ(メタ)アクリルアミドを含むリチウムイオン電池用熱架橋性バインダー水溶液であって、
水溶性ポリ(メタ)アクリルアミドを含有する水溶液は、反応装置に、イオン交換水、50%アクリルアミド水溶液、80%アクリル酸、アクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタリルスルホン酸ナトリウムを入れ、55℃まで昇温し、そこに2,2’-アゾビス-2-アミジノプロパン 二塩酸塩(日宝化学株式会社製 製品名「NC-32」)、イオン交換水を投入し、80℃まで昇温し3時間反応を行った後、中和剤として48%水酸化ナトリウム水溶液を入れ撹拌し、固形分濃度が13%となるようにイオン交換水を入れて得られ、
該水溶性ポリ(メタ)アクリルアミドを含有する水溶液は、リチウムイオン二次電池の負極に用いられる、
リチウムイオン二次電池用熱架橋性バインダー水溶液。」
2 甲第2号証
(1)甲第2号証には、次の記載がある。
「【0017】
[リチウムイオン電池用熱架橋性バインダー水溶液:水溶液ともいう]
本開示は、(メタ)アクリルアミド基含有化合物(a)に由来する構成単位を2~60モル%、及び
不飽和カルボン酸、及び不飽和スルホン酸からなる群から選択される1つ以上の不飽和酸又はその無機塩(b)に由来する構成単位を10~50モル%含む、水溶性ポリ(メタ)アクリルアミド(A)((A)成分ともいう)
並びに、2価以上の金属イオンを前記(b)成分が有する酸基100モル%に対し0.5~30モル%含む、リチウムイオン電池用熱架橋性バインダー水溶液を提供する。」
「【0171】
1.(A)成分の製造
実施例1-1
撹拌機、温度計、還流冷却管、窒素ガス導入管を備えた反応装置に、イオン交換水1200g、50%アクリルアミド水溶液100g(0.70mol)、80%アクリル酸63.6g(0.70mol)、アクリル酸2-ヒドロキシエチル70.1g(0.60mol)、メタリルスルホン酸ナトリウム0.32g(0.0020mol)を入れ、窒素ガスを通じて反応系内の酸素を除去した後、55℃まで昇温した。そこに2,2’-アゾビス-2-アミジノプロパン 二塩酸塩(日宝化学株式会社製 製品名「NC-32」)1.7g、イオン交換水15gを投入し、80℃まで昇温し3時間反応を行った。その後、中和剤として48%水酸化ナトリウム水溶液52.9g(0.63mol)、及び水酸化カルシウム0.26g(0.0035mol)を入れ撹拌し、固形分濃度が13%となるようにイオン交換水を入れ、水溶性ポリアクリルアミドを含有する水溶液を得た。この溶液の25℃でのpHは6.0であった。」
「【0180】
2.スラリーの製造及びセル作製と評価
実施例2-1
市販の自転公転ミキサー(製品名「あわとり練太郎」、シンキー(株)製)を用い、該ミキサー専用の容器に、実施例1-1で得られた水溶性ポリ(メタ)アクリルアミド(A)を含む、リチウムイオン電池用熱架橋性バインダー水溶液を固形分換算で5質量部と、D50(メジアン径)が5μmの一酸化ケイ素粒子(「CC粉末」、(株)大阪チタニウムテクノロジーズ製)を20質量部と、天然黒鉛(伊藤黒鉛工業株式会社製 製品名「Z-5F」)を80質量部とを混合した。そこにイオン交換水を固形分濃度40%となるように加えて、当該容器を上記ミキサーにセットした。次いで、2000rpmで10分間混練後、1分間脱泡を行い、スラリーを得た。
・・・(中略)・・・。
「【0183】
<電極の製造>
銅箔からなる集電体の表面に、上記リチウムイオン電池用スラリーを、乾燥後の膜厚が170μmとなるようにドクターブレード法によって均一に塗布し、150℃で30分間乾燥後、150℃/真空で120分間加熱処理して電極を得た。その後、膜(電極活物質層)の密度が1.5g/cm3になるようにロールプレス機によりプレス加工することにより、電極を得た。
・・・(中略)・・・。
【0185】
<リチウムハーフセルの組み立て>
アルゴン置換されたグローブボックス内で、上記電極を直径16mmに打ち抜き成形したものを、試験セル(有限会社日本トムセル社製)のAl製の下蓋の上のパッキンの内側に載置した。次いで、直径24mmに打ち抜いたポリプロピレン製多孔膜からなるセパレータ(CS TECH CO., LTD製、商品名「Selion P2010」)を載置し、さらに、空気が入らないように電解液を500μL注入した後、市販の金属リチウム箔を16mmに打ち抜き成形したものを載置し、前記試験セルの外装ボディーをネジで閉めて封止することにより、リチウムハーフセルを組み立てた。ここで使用した電解液は、エチレンカーボネート/エチルメチルカーボネート=1/1(質量比)の溶媒に、LiPF6を1モル/Lの濃度で溶解した溶液である。
【0186】
<充放電測定>
リチウムハーフセルを25℃の恒温槽に入れ、定電流(0.1C)にて充電を開始し、電圧が0.01Vになった時点で充電完了(カットオフ)とした。次いで、定電流(0.1C)にて放電を開始し、電圧が1.0Vになった時点を放電完了(カットオフ)とする充放電を30回繰り返した。」
(2)甲第2号証に記載された上記記載事項により、次のことがいえる。
ア 段落【0017】によれば、甲第2号証には、水溶性ポリ(メタ)アクリルアミドを含むリチウムイオン電池用熱架橋性バインダー水溶液が記載されている。
イ 段落【0171】、【0180】によれば、甲第2号証に記載された実施例1-1に着目すると、甲第2号証には、反応装置に、イオン交換水、50%アクリルアミド水溶液、80%アクリル酸、アクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタリルスルホン酸ナトリウムを入れ、55℃まで昇温し、そこに2,2’-アゾビス-2-アミジノプロパン 二塩酸塩(日宝化学株式会社製 製品名「NC-32」)、イオン交換水を投入し、80℃まで昇温し3時間反応を行った後、中和剤として48%水酸化ナトリウム水溶液及び水酸化カルシウムを入れ撹拌し、固形分濃度が13%となるようにイオン交換水を入れて得られる水溶性ポリ(メタ)アクリルアミドを含有する水溶液が記載されているといえる。
ウ 段落【0180】、【0183】、【0185】及び【0186】によれば、水溶性ポリ(メタ)アクリルアミドを含有する水溶液である実施例1-1は、充放電可能なリチウムハーフセルの電極に用いられるといえる。
(3)よって、上記(2)によれば、甲第2号証に記載された実施例1-1に着目すると、甲第2号証には次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されているといえる。
「水溶性ポリ(メタ)アクリルアミドを含むリチウムイオン電池用熱架橋性バインダー水溶液であって、
水溶性(メタ)ポリアクリルアミドを含有する水溶液は、反応装置に、イオン交換水、50%アクリルアミド水溶液、80%アクリル酸、アクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタリルスルホン酸ナトリウムを入れ、55℃まで昇温し、そこに2,2’-アゾビス-2-アミジノプロパン 二塩酸塩(日宝化学株式会社製 製品名「NC-32」)、イオン交換水を投入し、80℃まで昇温し3時間反応を行った後、中和剤として48%水酸化ナトリウム水溶液及び水酸化カルシウムを入れ撹拌し、固形分濃度が13%となるようにイオン交換水を入れて得られ、
水溶性ポリ(メタ)アクリルアミドを含有する水溶液は、充放電可能なリチウムハーフセルの電極に用いられる、
リチウムイオン電池用熱架橋性バインダー水溶液。」
3 甲第3号証
(1)甲第3号証には、次の記載がある。
「【0114】
<ポリマー(A-2):(A-2)成分ともいう>
ポリマーは、単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。ポリマーは、バインダー、水系バインダーとして使用され得る。ポリマーは水又は有機溶媒中で合成されたポリマー固形分を意味する。
【0115】
ポリマーは、水溶性ポリマー、非水溶性ポリマー等が例示される。
・・・(中略)・・・。
【0119】
1つの実施形態において、上記ポリマー(A-2)は、(メタ)アクリルアミド基含有化合物(a)に由来する構成単位を含む水溶性ポリ(メタ)アクリルアミド(A-2A)である。」
「【0227】
(A-2)成分の製造
製造例1
撹拌機、温度計、還流冷却管、窒素ガス導入管を備えた反応装置に、イオン交換水1007g、50%アクリルアミド水溶液100g(0.70mol)、80%アクリル酸63.8g(0.70mol)、アクリル酸2-ヒドロキシエチル69.8g(0.60mol)、メタリルスルホン酸ナトリウム0.32g(0.0020mol)を入れ、窒素ガスを通じて反応系内の酸素を除去した後、55℃まで昇温した。そこに2,2’-アゾビス-2-アミジノプロパン 二塩酸塩(日宝化学株式会社製 製品名「NC-32」)1.6g、イオン交換水16gを投入し、80℃まで昇温し3時間反応を行った。その後、中和剤として48%水酸化ナトリウム水溶液52.7g(0.63mol)を入れ撹拌し、固形分濃度が13%となるようにイオン交換水を入れ、水溶性ポリ(メタ)アクリルアミドを含有する水溶液を得た。この水溶液の25℃でのB型粘度は3000mPa・s、pHは6.0であった。」
「【0235】
リチウムイオン電池電極用スラリーの製造及びセル作製と評価
<リチウムイオン電池電極用スラリーの製造>
実施例3-1
市販のホモディスパー(プライミクス株式会社製 「ホモディスパー2.5型」)を用いてスラリーを作成した。容器としてマヨネーズ瓶に実施例1-1で得られた水溶性ポリ(メタ)アクリルアミド(A-1)を固形分換算で0.5質量部と、製造例1で得られたバインダー(A-2)を固形分換算で4.5質量部と、D50(メジアン径)が20μmの黒鉛を80質量部と、D50(メジアン径)が5μmの一酸化ケイ素粒子(「CC粉末」、(株)大阪チタニウムテクノロジーズ製)を20質量部と、導電性炭素材料(イメリス・ジーシー・ジャパン株式会社製 「Super C65」)を1質量部とを混合した。そこにイオン交換水を固形分濃度47%となるように加えて、当該容器を上記ホモディスパーにセットした。次いで、2000rpmで30分間混練した。その後、自転公転ミキサー(シンキー株式会社製 「あわとり練太郎」)を用いて1分間脱泡を行い、リチウムイオン電池電極用スラリーを得た。
・・・(中略)・・・。
【0239】
<負極の製造>
銅箔からなる集電体の表面に、上記スラリーを、乾燥後の膜厚が170μmとなるようにドクターブレード法によって均一に塗布し、150℃で30分間乾燥後、150℃/真空で120分間加熱処理した。その後、膜(電極活物質層)の密度が1.5g/cm3になるようにロールプレス機によりプレス加工することにより、電極を得た。
・・・(中略)・・・。
【0242】
<リチウムハーフセルの組み立て>
アルゴン置換されたグローブボックス内で、上記電極を直径16mmに打ち抜き成形したものを、試験セル(有限会社日本トムセル社製)のAl製の下蓋の上のパッキンの内側に載置した。次いで、直径24mmに打ち抜いたポリプロピレン製多孔膜からなるセパレータ(CS TECH CO., LTD製、商品名「Selion P2010」)を載置し、さらに、空気が入らないように電解液を500μL注入した後、市販の金属リチウム箔を16mmに打ち抜き成形したものを載置し、前記試験セルの外装ボディーをネジで閉めて封止することにより、リチウムハーフセルを組み立てた。ここで使用した電解液は、エチレンカーボネート/エチルメチルカーボネート=1/1(質量比)の溶媒に、LiPF6を1モル/Lの濃度で溶解した溶液である。
【0243】
<充放電測定>
リチウムハーフセルを25℃の恒温槽に入れ、定電流(0.1C)にて充電を開始し、電圧が0.01Vになった時点で充電完了(カットオフ)とした。次いで、定電流(0.1C)にて放電を開始し、電圧が1.0Vになった時点を放電完了(カットオフ)とする充放電を30回繰り返した。」
(2)甲第3号証に記載された上記記載事項により、次のことがいえる。
ア 段落【0227】によれば、甲第3号証に記載された製造例1に着目すると、甲第3号証には、反応装置に、イオン交換水50%アクリルアミド水溶液、80%アクリル酸、アクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタリルスルホン酸ナトリウムを入れ、55℃まで昇温し、そこに2,2’-アゾビス-2-アミジノプロパン 二塩酸塩(日宝化学株式会社製 製品名「NC-32」)、イオン交換水を投入し、80℃まで昇温し3時間反応を行った後、中和剤として48%水酸化ナトリウム水溶液を入れ撹拌し、固形分濃度が13%となるようにイオン交換水を入れて得られる、水溶性ポリ(メタ)アクリルアミドを含有する水溶液が記載されている。
また、段落【0114】、【0115】及び【0119】によれば、水溶性ポリ(メタ)アクリルアミドはバインダーである。
イ 段落【0235】、【0239】、【0242】及び【0243】によれば、水溶性ポリ(メタ)アクリルアミドを含有する水溶液は、充放電可能なリチウムハーフセルの電極に用いられるといえる。
(3)よって、上記(2)によれば、甲第3号証に記載された製造例1に着目すると、甲第3号証には次の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されているといえる。
「反応装置に、イオン交換水50%アクリルアミド水溶液、80%アクリル酸、アクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタリルスルホン酸ナトリウムを入れ、55℃まで昇温し、そこに2,2’-アゾビス-2-アミジノプロパン 二塩酸塩(日宝化学株式会社製 製品名「NC-32」)、イオン交換水を投入し、80℃まで昇温し3時間反応を行った後、中和剤として48%水酸化ナトリウム水溶液を入れ撹拌し、固形分濃度が13%となるようにイオン交換水を入れて得られる、バインダーである水溶性ポリ(メタ)アクリルアミドを含有する水溶液であって、
該水溶液は、充放電可能なリチウムハーフセルの電極に用いられる、
水溶性ポリ(メタ)アクリルアミドを含有する水溶液。」
4 甲第4号証
(1)甲第4号証には、次の記載がある。
「【0015】
(1.リチウムイオン電池正極用バインダー水溶液(バインダー水溶液))
本発明のリチウムイオン電池正極用バインダー水溶液(以下、単にバインダー水溶液ともいう。)は、(メタ)アクリルアミド骨格含有モノマー(a)(以下、(a)成分ともいう)及びスルホン酸基置換不飽和炭化水素基含有モノマー(b)(以下、(b)成分ともいう)を含むモノマー群のラジカル共重合物であるポリ(メタ)アクリルアミド(A)(以下、(A)成分ともいう)と水とを含む組成物である。本開示において「(メタ)アクリル」とは「アクリル及びメタクリルからなる群より選択される少なくとも1つ」を意味する。また「ラジカル共重合物」とはラジカル重合により得られる共重合物を意味する。」
「【0072】
1.1.バインダー水溶液の調製
実施例1-1
撹拌機、温度計、還流冷却管、窒素ガス導入管を備えた反応装置に、イオン交換水2300g、アクリルアミド400g(5.63mol)、メタリルスルホン酸ナトリウム9.0g(0.057mol)を入れ、窒素ガスを通じて反応系内の酸素を除去した後、50℃まで昇温した。そこに2,2’-アゾビス-2-アミジノプロパン 二塩酸塩(日宝化学株式会社製 製品名「NC-32」)4.0g、イオン交換水30gを投入し、80℃まで昇温し1.5時間反応を行った。次いで、NC-32 4.0g、イオン交換水30gを投入し80℃にて1.5時間反応し、ポリ(メタ)アクリルアミド(A)を含み、25℃、固形分15.0質量%でのB型粘度が35,000mPa・sであるバインダー水溶液を得た。」
「【0076】
2.正極用スラリーの製造及び評価
実施例2-1
市販の自転公転ミキサー(製品名「あわとり練太郎」、シンキー(株)製)を用い、上記ミキサー専用の容器に、実施例1のバインダー水溶液を固形分換算で3部と、電極活物質としてニッケルマンガン酸リチウム(Li[Ni1/2Mn3/2]O4、メジアン径D50:3.7μm)91部と、アセチレンブラック6部とを混合した。そこにイオン交換水を固形分濃度50%となるように加えて、当該容器を前記ミキサーにセットした。次いで、2000rpmで10分間混練後、1分間脱泡を行い、正極用スラリーを得た。」
「【0088】
5.ラミネート型リチウムイオン電池の作製
実施例2-1のスラリーを用いてラミネート型リチウムイオン電池を次のようにして作製した。
(1)正極の作製
アルミニウム箔からなる集電体の表面に、上記、実施例2-1で調製した正極用スラリーを、乾燥後の膜厚が110μmとなるようにドクターブレード法によって均一に塗布し、60℃で30分乾燥後、150℃/真空で120分間加熱処理して電極を得た。その後、膜(活物質層)の密度が3.0g/cm3になるようにロールプレス機によりプレス加工することにより、正極を得た。
・・・(中略)・・・。
【0090】
(3)ラミネート型リチウムイオン電池の作製。
上記の正極及び負極を用いて、ラミネート型リチウムイオン二次電池を製作した。」
(2)甲第4号証に記載された上記記載事項により、次のことがいえる。
ア 段落【0015】によれば、甲第4号証には、ポリ(メタ)アクリルアミド(A)(以下、(A)成分ともいう)と水とを含む組成物であるリチウムイオン電池正極用バインダー水溶液が記載されている。
イ 段落【0072】によれば、甲第4号証に記載された実施例1-1に着目すると、甲第4号証には、反応装置に、イオン交換水、アクリルアミド、メタリルスルホン酸ナトリウムを入れ、50℃まで昇温し、そこに2,2’-アゾビス-2-アミジノプロパン 二塩酸塩(日宝化学株式会社製 製品名「NC-32」)、イオン交換水を投入し、80℃まで昇温し1.5時間反応を行い、次いで、NC-32、イオン交換水を投入し80℃にて1.5時間反応して得られるポリ(メタ)アクリルアミド(A)を含むバインダー水溶液が記載されている。
ウ 段落【0076】、【0088】、【0090】によれば、ポリ(メタ)アクリルアミド(A)を含むバインダー水溶液は、リチウムイオン二次電池の正極に用いられるといえる。
(3)よって、上記(2)によれば、甲第4号証に記載された実施例1-1に着目すると、甲第4号証には次の発明(以下、「甲4発明」という。)が記載されているといえる。
「ポリ(メタ)アクリルアミド(A)(以下、(A)成分ともいう)と水とを含む組成物であるリチウムイオン電池正極用バインダー水溶液であって、
ポリ(メタ)アクリルアミド(A)を含むバインダー水溶液は、反応装置に、イオン交換水、アクリルアミド、メタリルスルホン酸ナトリウムを入れ、50℃まで昇温し、そこに2,2’-アゾビス-2-アミジノプロパン 二塩酸塩(日宝化学株式会社製 製品名「NC-32」)、イオン交換水を投入し、80℃まで昇温し1.5時間反応を行い、次いで、NC-32、イオン交換水を投入し80℃にて1.5時間反応して得られ、
ポリ(メタ)アクリルアミド(A)を含むバインダー水溶液は、リチウムイオン二次電池の正極に用いられる、
リチウムイオン電池正極用バインダー水溶液。」
5 甲第5号証
(1)甲第5号証には、次の記載がある。
「【請求項1】
(メタ)アクリルアミド骨格含有モノマー(b1)及びスルホン酸基置換不飽和炭化水素基含有モノマー(b2)を含むモノマー群のラジカル共重合物であり、かつ、25℃で固形分15質量%の水溶液状態におけるB型粘度が10,000~70,000mPa・sである、ポリ(メタ)アクリルアミド(B1)と、
水とを含み、前記B型粘度は、B型粘度計(東機産業株式会社製 製品名「B型粘度計モデルBM」)を用い、25℃にて、
粘度100,000~20,000mPa・sの場合:No.4ローター使用、回転数6rpm
粘度20,000mPa・s未満の場合:No.3ローター使用、回転数6rpm
という条件で測定される、リチウムイオン電池負極用バインダー水溶液。」
「【0082】
1.(B1)成分の製造
製造例1
撹拌機、温度計、還流冷却管、窒素ガス導入管を備えた反応装置に、イオン交換水2300g、アクリルアミド400g(5.63mol)、メタリルスルホン酸ナトリウム9.0g(0.057mol)を入れ、窒素ガスを通じて反応系内の酸素を除去した後、50℃まで昇温した。そこに2,2‘-アゾビス-2-アミジノプロパン 二塩酸塩(日宝化学株式会社製 製品名「NC-32」)4.0g、イオン交換水30gを投入し、80℃まで昇温し1.5時間反応を行った。次いで、NC-32 4.0g、イオン交換水30gを投入し80℃にて1.5時間反応し、固形分15.0%、粘度(25℃)が35,000mPa・sのポリ(メタ)アクリルアミド(B1)を含む水溶液を得た。」
「【0086】
3.負極用スラリーの製造及び評価
実施例1-1
市販の自転公転ミキサー(製品名「あわとり練太郎」、シンキー(株)製)を用い、該ミキサー専用の容器に、製造例1のポリ(メタ)アクリルアミド(B1)の水溶液を固形分換算で10部と、D50が1.94μmのシリコン粒子を75部と、アセチレンブラック(商品名デンカブラック、デンカ(株)製)を15部とを混合した。そこにイオン交換水を固形分濃度40%となるように加えて、当該容器を前記ミキサーにセットした。次いで、2000rpmで10分間混練後、1分間脱泡を行い、負極用スラリーを得た。」
「【0102】
6.ラミネート型リチウムイオン電池の作製
実施例1のスラリーからラミネート型リチウムイオン電池を次のようにして作製した。
(1)負極の作製
・・・(中略)・・・。
【0104】
(3)ラミネート型リチウムイオン電池の作製
上記の正極及び負極を用いて、ラミネート型リチウムイオン二次電池を製作した。」
(2)甲第号5証に記載された上記記載事項により、次のことがいえる。
ア 【請求項1】によれば、甲第5号証には、ポリ(メタ)アクリルアミド(B1)と、水とを含む、リチウムイオン電池負極用バインダー水溶液が記載されている。
イ 段落【0082】によれば、甲第5号証に記載された製造例1に着目すると、甲第5号証には、反応装置に、イオン交換水、アクリルアミド、メタリルスルホン酸ナトリウムを入れ、50℃まで昇温し、そこに2,2‘-アゾビス-2-アミジノプロパン 二塩酸塩(日宝化学株式会社製 製品名「NC-32」)、イオン交換水を投入し、80℃まで昇温し1.5時間反応を行った。次いで、NC-32、イオン交換水を投入し80℃にて1.5時間反応して得られたポリ(メタ)アクリルアミド(B1)を含む水溶液が記載されているといえる。
ウ 段落【0086】、【0102】~【0104】によれば、ポリ(メタ)アクリルアミド(B1)を含む水溶液は、リチウムイオン二次電池の負極に用いられるといえる。
(3)よって、上記(2)によれば、甲第5号証に記載された製造例1に着目すると、甲第5号証には次の発明(以下、「甲5発明」という。)が記載されているといえる。
「ポリ(メタ)アクリルアミド(B1)と、水とを含む、リチウムイオン電池負極用バインダー水溶液であって、
ポリ(メタ)アクリルアミド(B1)を含む水溶液は、反応装置に、イオン交換水、アクリルアミド、メタリルスルホン酸ナトリウムを入れ、50℃まで昇温し、そこに2,2‘-アゾビス-2-アミジノプロパン 二塩酸塩(日宝化学株式会社製 製品名「NC-32」)、イオン交換水を投入し、80℃まで昇温し1.5時間反応を行った。次いで、NC-32、イオン交換水を投入し80℃にて1.5時間反応して得られ、
ポリ(メタ)アクリルアミド(B1)を含む水溶液は、リチウムイオン二次電池の負極に用いられる、
リチウムイオン電池負極用バインダー水溶液。」
第5 申立理由に対する当審の判断
1 申立理由1(新規性)について
(1)甲第1号証を主引用例とした場合
ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
a 本件発明1の「水系高分子」に関し、本件明細書の段落【0011】に「本開示における水系高分子は、単独で水に分散可能であり、特に水溶性である高分子である。」と記載されていることから、甲1発明の「水溶性ポリ(メタ)アクリルアミド」は、本件発明1の「水系高分子」に含まれる。
b 甲1発明において、「リチウムイオン電池用熱架橋性バインダー水溶液」に含まれる「水溶性ポリ(メタ)アクリルアミド」は、バインダーであることは明らかである。
そして、「水溶性ポリアクリルアミドを含有する水溶液は、リチウムイオン二次電池の負極に用いられる」ことから、該「水溶性ポリアクリルアミド」は、「リチウムイオン二次電池」用バインダーといえる。
そうすると、甲1発明において「水溶性ポリアクリルアミド」を含む「リチウムイオン二次電池」用バインダーは、本件発明1の「二次電池バインダー」に相当する。
c 上記a、bによれば、本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
(一致点)
「水系高分子を含む、二次電池バインダー。」
(相違点1)
本件発明1は「水に前記水系高分子を2質量%の濃度で溶解させたときに得られた水溶液の25℃における導電率が3.3mS/cm以下である」のに対し、甲1発明はその旨特定されていない点。
そうすると、本件発明1と甲1発明とは相違点1を有し、相違点1は実質的な相違ではないと判断し得る理由はないことから、本件発明1は甲第1号証に記載された発明ではない。
(イ)異議申立人の主張について
a 異議申立人は、異議申立書において、概略次のように主張する。
甲第1号証 実施例1-1、比較例1-1~1-4のポリマー組成は、本件実施例1のポリマー組成と同一である。
甲1発明 実施例1-1(0190段落)、比較例1-1(0192段落)、比較例1-2(0193段落)、比較例1-3~1-4(0194段落)の製造方法は、本件明細書の0047段落の製造方法に沿ったものである。具体的には、単量体混合液(アクリルアミド、アクリル酸、アクリル酸2-ヒドロキシエチル及びメタリルスルホン酸ナトリウム)にラジカル重合開始剤(2,2’-アゾビス-2-アミジノプロパン 二塩酸塩)を加え、撹拌しながら、反応温度80℃で、3時間反応を行い、水溶液ラジカル重合法によりポリマーを製造している。
上述のとおり、甲第1号証 実施例1-1のポリマー組成は、本件実施例1のポリマー組成と同一である。そして、ポリマーの製造方法について、本件には、「特に制限されず」と記載されている。加えて、甲第1号証 実施例1-1のポリマー製造方法は、本件明細書に記載の方法に沿うものである。
これらを踏まえると、甲第1号証 実施例1-1、比較例1-1~1-4の導電率は、本件実施例1の値と同一の値(3.0mS/cm)である蓋然性が高い。(19頁10行~20頁1行)
b 異議申立人の上記主張について検討する。
(a)本件明細書に記載された実施例1(以下、「本件実施例1」という。)の製造方法について以下の記載がある。
「【0088】
〔実施例1〕
密閉可能な内容積500mlのバイアル瓶に、アクリルアミド35.3g(0.49mol)、メタリルスルホン酸ナトリウム0.2g(0.001mol)、アクリル酸35.3g(0.49mol)、アクリル酸2-ヒドロキシエチル48.6g(0.42mol)、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二塩酸塩(富士フイルム和光純薬工業 製品名「VA-044」)1.36gおよびイオン交換水210.0gを添加して混合し、単量体水溶液を調製し、脱酸素した。
上記とは別に、攪拌機、温度計、N2ガス導入管、還流冷却機および滴下ロートを備えた容量2Lの反応槽に、イオン交換水858.3gを仕込み、N2ガスを吹き込んで系内を脱酸素した後、内温を68℃まで昇温した。続いて、反応槽に攪拌下、脱酸素した単量体水溶液を、滴下ロートにて3時間かけて滴下した。滴下後、内温を68℃で2時間保持した。更に、73℃で1時間攪拌して、30℃まで冷却し、pH5.5になるまで、48質量%NaOH水溶液30.3gを添加し、水系高分子を含む水溶液を得た。」
一方、甲第1号証に記載された実施例1-1(以下、「甲1実施例1-1」という。)の製造方法は、第4 1(1)の段落【0190】のとおりである。
そうすると、本件実施例1と甲1実施例1-1とでは、水系高分子を含む水溶液を製造する上で使用する材料は同じものを採用しているといえるものの、それぞれの製造工程は、重合時の反応温度、反応時間及び重合工程を含め同じであるとはいえない。
(b)また、本件明細書の段落【0047】には、「前記水系高分子の製造方法については、特に制限されず、公知の共重合体の製造方法を利用して製造することができる。好ましくは水溶液ラジカル重合法により合成できる。具体的には、単量体混合液にラジカル重合開始剤及び必要に応じて連鎖移動剤を加え、撹拌しながら、反応温度50~100℃程度(例えば60~70℃)で重合反応を行えばよい。反応時間は特に限定されず、1~10時間程度であってよい。」と記載されているものの、このような製造方法を利用することにより、「水に水系高分子を2質量%の濃度で溶解させたときに得られた水溶液の25℃における導電率」が「3.3mS/cm以下」となることは一切記載されておらず、また、これを裏付ける客観的な証拠も提出されていない。
(c)そうすると、本件実施例1のポリマー組成と甲1実施例1-1のポリマー組成が同一であり、甲1実施例1-1の製造方法が、本件明細書の段落【0047】に記載された製造方法に沿うものであるからといって、甲1実施例1-1における「水に水系高分子を2質量%の濃度で溶解させたときに得られた水溶液の25℃における導電率」が「3.3mS/cm以下」となる蓋然性が高いとは必ずしもいえない。
(d)よって、異議申立人の主張は採用できない。
(ウ)小括
したがって、本件発明1と甲1発明とは相違点を有するものであるから、請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明ではない。
イ 本件発明2、3、6~12について
請求項2、3、6~12は、請求項1を直接又は間接的に引用する請求項であり、本件発明2、3、6~12は、本件発明1の発明特定事項をすべて含みさらに他の発明特定事項を追加して限定したものであるから、上記アと同様の理由により、本件発明2、3、6~12は甲第1号証に記載された発明ではない。
(2)甲第2号証を主引用例とした場合
ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲2発明とを対比する。
a 本件発明1の「水系高分子」に関し、本件明細書の段落【0011】に「本開示における水系高分子は、単独で水に分散可能であり、特に水溶性である高分子である。」と記載されていることから、甲2発明の「水溶性ポリ(メタ)アクリルアミド」は、本件発明1の「水系高分子」に含まれる。
b 甲2発明において、「リチウムイオン電池用熱架橋性バインダー水溶液」に含まれる「水溶性ポリ(メタ)アクリルアミド」は、バインダーであることは明らかである。
そして、「水溶性ポリアクリルアミドを含有する水溶液は、充放電可能なリチウムハーフセルの電極に用いられる」ことから、「水溶性ポリアクリルアミド」は、「充放電可能なリチウムハーフセル」用バインダーといえる。
そうすると、甲2発明の「水溶性ポリアクリルアミド」を含む「充放電可能なリチウムハーフセル」用バインダーは、本件発明1の「二次電池バインダー」に相当する。
c 上記a、bによれば、本件発明1と甲2発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
(一致点)
「水系高分子を含む、二次電池バインダー。」
(相違点2)
本件発明1は「水に前記水系高分子を2質量%の濃度で溶解させたときに得られた水溶液の25℃における導電率が3.3mS/cm以下である」のに対し、甲2発明はその旨特定されていない点。
そうすると、本件発明1と甲2発明とは相違点2を有し、相違点2は実質的な相違ではないと判断し得る理由はないことから、本件発明1は甲第2号証に記載された発明ではない。
(イ)異議申立人の主張について
a 異議申立人は、異議申立書において、概略次のように主張する。
甲第2号証 実施例1-1のポリマー組成は、本件実施例1のポリマー組成と同一である。
甲2発明 実施例1-1(0171段落)、比較例1-1(0173段落)の製造方法は、本件明細書の0047段落の製造方法に沿ったものである。具体的には、単量体混合液(アクリルアミド、アクリル酸、アクリル酸2-ヒドロキシエチル及びメタリルスルホン酸ナトリウム)にラジカル重合開始剤(2,2’-アゾビス-2-アミジノプロパン 二塩酸塩)を加え、撹拌しながら、反応温度80℃で、3時間反応を行い、水溶液ラジカル重合法によりポリマーを製造している。
上述のとおり、甲第2号証 実施例1-1、比較例1-1のポリマー組成は、本件実施例1のポリマー組成と同一である。そして、ポリマーの製造方法について、本件には、「特に制限されず」と記載されている。加えて、甲第2号証 実施例1-1、比較例1-1のポリマー製造方法は、本件明細書に記載の方法に沿うものである。
これらを踏まえると、甲第2号証 実施例1-1、比較例1-1の導電率は、本件実施例1の値と同一の値(3.0mS/cm)である蓋然性が高い。(21頁20行~22頁11行)
b 異議申立人の上記主張について検討する。
(a)本件実施例1の製造方法は、上記(1)ア(イ)b(a)のとおりであるのに対し、甲第2号証に記載された実施例1-1(以下、「甲2実施例1-1」という。)の製造方法は、「第4 2(1)」の段落【0171】のとおりである。
そうすると、本件実施例1と甲2実施例1-1とでは、水系高分子を含む水溶液を製造する上で使用する材料は同じものを採用しているといえるものの、それぞれの製造工程は、重合時の反応温度、反応時間及び重合工程を含め同じであるとはいえない。
(b)また、上記(1)ア(イ)b(b)のとおり、本件明細書の段落【0047】に記載された製造方法を利用することにより、「水に水系高分子を2質量%の濃度で溶解させたときに得られた水溶液の導電率」が「3.3mS/cm以下」となることは一切記載されておらず、また、これを裏付ける客観的な証拠も提出されていない。
(c)よって、本件実施例1のポリマー組成と甲2実施例1-1のポリマー組成が同一であり、甲2実施例1-1の製造方法が、本件明細書の段落【0047】に記載された製造方法に沿うものであるからといって、甲2実施例1-1における「水に水系高分子を2質量%の濃度で溶解させたときに得られた水溶液の導電率」が「3.3mS/cm以下」となる蓋然性が高いとは必ずしもいえない。
(d)したがって、異議申立人の主張は採用できない。
(ウ)小括
したがって、本件発明1と甲2発明とは相違点を有するものであるから、請求項1に係る発明は、甲第2号証に記載された発明ではない。
イ 本件発明2、3、6~12について
請求項2、3、6~12は、請求項1を直接又は間接的に引用する請求項であり、本件発明2、3、6~12は、本件発明1の発明特定事項をすべて含みさらに他の発明特定事項を追加して限定したものであるから、上記アと同様の理由により、本件発明2、3、6~12は甲第2号証に記載された発明ではない。
(3)甲第3号証を主引用例とした場合
ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲3発明とを対比する。
a 本件発明1の「水系高分子」に関し、本件明細書の段落【0011】に「本開示における水系高分子は、単独で水に分散可能であり、特に水溶性である高分子である。」と記載されていることから、甲2発明の「水溶性ポリ(メタ)アクリルアミド」は、本件発明1の「水系高分子」に含まれる。
b 甲3発明の「水溶性ポリ(メタ)アクリルアミドを含有する水溶液」は「充放電可能なリチウムハーフセルの電極に用いられる」から、「バインダーである水溶性ポリ(メタ)アクリルアミド」は、「充放電可能なリチウムハーフセル」用バインダーといえる。
そうすると、甲3発明において「水溶性ポリ(メタ)アクリルアミド」を含む「充放電可能なリチウムハーフセル」用バインダーは、本件発明1の「二次電池バインダー」に相当する。
c 上記a、bによれば、本件発明1と甲3発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
(一致点)
「水系高分子を含む、二次電池バインダー。」
(相違点3)
本件発明1は「水に前記水系高分子を2質量%の濃度で溶解させたときに得られた水溶液の25℃における導電率が3.3mS/cm以下である」のに対し、甲3発明はその旨特定されていない点。
そうすると、本件発明1と甲3発明とは相違点3を有し、相違点3は実質的な相違ではないと判断し得る理由はないことから、本件発明1は甲第3号証に記載された発明ではない。
(イ)異議申立人の主張について
a 異議申立人は、異議申立書において、概略次のように主張する。
甲第3号証 製造例1のポリマー組成は、本件実施例1のポリマー組成と同一である。
甲3発明 製造例1(0227段落)の製造方法は、本件明細書の0047段落の製造方法に沿ったものである。具体的には、単量体混合液(アクリルアミド、アクリル酸、アクリル酸2-ヒドロキシエチル及びメタリルスルホン酸ナトリウム)にラジカル重合開始剤(2,2’-アゾビス-2-アミジノプロパン 二塩酸塩)を加え、撹拌しながら、反応温度80℃で、3時間反応を行い、水溶液ラジカル重合法によりポリマーを製造している。
上述のとおり、甲第3号証 製造例1のポリマー組成は、本件実施例1のポリマー組成と同一である。そして、ポリマーの製造方法について、本件には、「特に制限されず」と記載されている。加えて、甲第3号証 製造例1のポリマー製造方法は、本件明細書に記載の方法に沿うものである。
これらを踏まえると、甲第3号証 製造例1の導電率は、本件実施例1の値と同一の値(3.0mS/cm)である蓋然性が高い。(23頁下から3行~24頁18行)
b 異議申立人の上記主張について検討する。
(a)本件実施例1の製造方法は、上記(1)ア(イ)b(a)のとおりであるのに対し、甲第3号証に記載された製造例1(以下、「甲3製造例1」という。)の製造方法は、「第4 3(1)」の段落【0227】のとおりである。
そうすると、本件実施例1と甲3製造例1とでは、水系高分子を含む水溶液を製造する上で使用する材料は同じものを採用しているといえるものの、それぞれの製造工程は、重合時の反応温度、反応時間及び重合工程を含め同じであるとはいえない。
(b)また、上記(1)ア(イ)b(b)のとおり、本件明細書の段落【0047】に記載された製造方法を利用することにより、「水に水系高分子を2質量%の濃度で溶解させたときに得られた水溶液の導電率」が「3.3mS/cm以下」となることは一切記載されておらず、また、これを裏付ける客観的な証拠も提出されていない。
(c)よって、本件実施例1のポリマー組成と甲3製造例1のポリマー組成が同一であり、甲3製造例1の製造方法が、本件明細書の段落【0047】に記載された製造方法に沿うものであるからといって、甲3製造例1における「水に水系高分子を2質量%の濃度で溶解させたときに得られた水溶液の導電率」が「3.3mS/cm以下」となる蓋然性が高いとは必ずしもいえない。
(d)したがって、異議申立人の主張は採用できない。
(ウ)小括
したがって、本件発明1と甲3発明とは相違点を有するものであるから、請求項1に係る発明は、甲第3号証に記載された発明ではない。
イ 本件発明2、3、6~12について
請求項2、3、6~12は、請求項1を直接又は間接的に引用する請求項であり、本件発明2、3、6~12は、本件発明1の発明特定事項をすべて含みさらに他の発明特定事項を追加して限定したものであるから、上記アと同様の理由により、本件発明2、3、6~12は甲第3号証に記載された発明ではない。
(4)甲第4号証を主引用例とした場合
ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲4発明とを対比する。
a 甲4発明の「リチウムイオン電池正極用バインダー水溶液」に含まれる「ポリ(メタ)アクリルアミド(A)」は、水溶性であることは当然のことである。
そして、本件発明1の「水系高分子」に関し、本件明細書の段落【0011】に「本開示における水系高分子は、単独で水に分散可能であり、特に水溶性である高分子である。」と記載されていることから、甲4発明において、水溶性である「ポリ(メタ)アクリルアミド(A)」は、本件発明1の「水系高分子」に含まれる。
b 甲4発明において、「リチウムイオン電池正極用バインダー水溶液」に含まれる「ポリ(メタ)アクリルアミド(A)」は、バインダーであることは明らかである。
そして、「ポリ(メタ)アクリルアミド(A)を含むバインダー水溶液は、リチウムイオン二次電池の正極に用いられる」ことから、「ポリ(メタ)アクリルアミド(A)」は、「リチウムイオン二次電池」用バインダーといえる。
そうすると、甲4発明の「ポリ(メタ)アクリルアミド(A)」を含む「リチウムイオン二次電池」用バインダーは、本件発明1の「二次電池バインダー」に相当する。
c 上記a、bによれば、本件発明1と甲4発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
(一致点)
「水系高分子を含む、二次電池バインダー。」
(相違点4)
本件発明1は「水に前記水系高分子を2質量%の濃度で溶解させたときに得られた水溶液の25℃における導電率が3.3mS/cm以下である」のに対し、甲4発明はその旨特定されていない点。
そうすると、本件発明1と甲4発明とは相違点4を有し、相違点4は実質的な相違ではないと判断し得る理由はないことから、本件発明1は甲第4号証に記載された発明ではない。
(イ)異議申立人の主張について
a 異議申立人は、異議申立書において、概略次のように主張する。
甲第4号証 実施例1-1のポリマー組成は、本件実施例2のポリマー組成と同一である。
甲4発明 実施例1-1(0072段落)の製造方法は、本件明細書の0047段落の製造方法に沿ったものである。具体的には、単量体混合液(アクリルアミド及びメタリルスルホン酸ナトリウム)にラジカル重合開始剤(2,2’-アゾビス-2-アミジノプロパン 二塩酸塩)を加え、撹拌しながら、反応温度80℃で、1.5時間反応を行い、水溶液ラジカル重合法によりポリマーを製造している。
上述のとおり、甲第4号証 実施例1-1のポリマー組成は、本件実施例2のポリマー組成と同一である。そして、ポリマーの製造方法について、本件には、「特に制限されず」と記載されている。加えて、甲第4号証 実施例1-1のポリマー製造方法は、本件明細書に記載の方法に沿うものである。
これらを踏まえると、甲第4号証 実施例1-1の導電率は、本件実施例1の値と同一の値(0,7mS/cm)である蓋然性が高い。(26頁5~26行)
b 異議申立人の上記主張について検討する。
(a)本件明細書に記載された実施例2(以下、「本件実施例2」という。)の製造方法について以下の記載がある。
「【0089】
〔実施例2〕
密閉可能な内容積500mlのバイアル瓶に、アクリルアミド126.6g(1.78mol)、メタリルスルホン酸ナトリウム2.9g(0.02mol)、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二塩酸塩(富士フイルム和光純薬工業製品名「VA-044」)1.45g、およびイオン交換水250.0gを添加して混合し、単量体水溶液を調製し、脱酸素した。
上記とは別に、攪拌機、温度計、N2ガス導入管、還流冷却機および滴下ロートを備えた容量2Lの反応槽に、イオン交換水831.0gを仕込み、N2ガスを吹き込んで系内を脱酸素した後、内温を68℃まで昇温した。続いて、反応槽に、攪拌下、調製した単量体水溶液を、滴下ロートにて3時間かけて滴下した。滴下後、同温度で1.5時間保持した。続いて、VA-044 1.45g、およびイオン交換水20gを添加し、同温度で1時間攪拌した。更に、73℃で1時間攪拌し、水系高分子を含む水溶液を得た。」
一方、甲第4号証に記載された実施例1-1(以下、「甲4実施例1-1」という。)の製造方法は、第4 4(1)の段落【0072】のとおりである。
そうすると、本件実施例2と甲4実施例1-1とでは、水系高分子を含む水溶液を製造する上で使用する材料は同じものを採用しているといえるものの、それぞれの製造工程は、重合時の反応温度、反応時間及び重合工程を含め同じであるとはいえない。
(b)また、本件明細書の段落【0047】には、「前記水系高分子の製造方法については、特に制限されず、公知の共重合体の製造方法を利用して製造することができる。好ましくは水溶液ラジカル重合法により合成できる。具体的には、単量体混合液にラジカル重合開始剤及び必要に応じて連鎖移動剤を加え、撹拌しながら、反応温度50~100℃程度(例えば60~70℃)で重合反応を行えばよい。反応時間は特に限定されず、1~10時間程度であってよい。」と記載されているものの、このような製造方法を利用することにより、「水に水系高分子を2質量%の濃度で溶解させたときに得られた水溶液の25℃における導電率」が「3.3mS/cm以下」となることは一切記載されておらず、また、これを裏付ける客観的な証拠も提出されていない。
(c)そうすると、本件実施例2のポリマー組成と甲4実施例1-1のポリマー組成が同一であり、甲4実施例1-1の製造方法が、本件明細書の段落【0047】に記載された製造方法に沿うものであるからといって、甲4実施例1-1における「水に水系高分子を2質量%の濃度で溶解させたときに得られた水溶液の25℃における導電率」が「3.3mS/cm以下」となる蓋然性が高いとは必ずしもいえない。
(d)よって、異議申立人の主張は採用できない。
(ウ)小括
したがって、本件発明1と甲4発明とは相違点を有するものであるから、請求項1に係る発明は、甲第4号証に記載された発明ではない。
イ 本件発明2、3、7~12について
請求項2、3、7~12は、請求項1を直接又は間接的に引用する請求項であり、本件発明2、3、7~12は、本件発明1の発明特定事項をすべて含みさらに他の発明特定事項を追加して限定したものであるから、上記アと同様の理由により、本件発明2、3、7~12は甲第4号証に記載された発明ではない。
(5)甲第5号証を主引用例とした場合
ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲5発明とを対比する。
a 甲5発明の「リチウムイオン電池負極用バインダー水溶液」に含まれる「ポリ(メタ)アクリルアミド(B1)」は、水溶性であることは当然のことである。
そして、本件発明1の「水系高分子」に関し、本件明細書の段落【0011】に「本開示における水系高分子は、単独で水に分散可能であり、特に水溶性である高分子である。」と記載されていることから、甲5発明において、水溶性である「ポリ(メタ)アクリルアミド(B1)」は、本件発明1の「水系高分子」に含まれる。
b 甲5発明において、「リチウムイオン電池負極用バインダー水溶液」に含まれる「ポリ(メタ)アクリルアミド(B1)」は、バインダーであることは明らかである。
そして、「ポリ(メタ)アクリルアミド(B1)を含む水溶液は、リチウムイオン二次電池の負極に用いられる」ことから、「ポリ(メタ)アクリルアミド(B1)」は、「リチウムイオン二次電池」用バインダーといえる。
そうすると、甲5発明の「ポリ(メタ)アクリルアミド(B1)」を含む「リチウムイオン二次電池」用バインダーは、本件発明1の「二次電池バインダー」に相当する。
c 上記a、bによれば、本件発明1と甲5発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
(一致点)
「水系高分子を含む、二次電池バインダー。」
(相違点5)
本件発明1は「水に前記水系高分子を2質量%の濃度で溶解させたときに得られた水溶液の25℃における導電率が3.3mS/cm以下である」のに対し、甲5発明はその旨特定されていない点。
そうすると、本件発明1と甲5発明とは相違点5を有し、相違点5は実質的な相違ではないと判断し得る理由はないことから、本件発明1は甲第5号証に記載された発明ではない。
(イ)異議申立人の主張について
a 異議申立人は、異議申立書において、概略次のように主張する。
甲第5号証 製造例1のポリマー組成は、本件実施例2のポリマー組成と同一である。
甲5発明 製造例1(0082段落)の製造方法は、本件明細書の0047段落の製造方法に沿ったものである。具体的には、単量体混合液(アクリルアミド及びメタリルスルホン酸ナトリウム)にラジカル重合開始剤(2,2’-アゾビス-2-アミジノプロパン 二塩酸塩)を加え、撹拌しながら、反応温度80℃で、1.5時間反応を行い、水溶液ラジカル重合法によりポリマーを製造している。
上述のとおり、甲第5号証 製造例1のポリマー組成は、本件実施例2のポリマー組成と同一である。そして、ポリマーの製造方法について、本件には、「特に制限されず」と記載されている。加えて、甲第5号証 製造例1のポリマー製造方法は、本件明細書に記載の方法に沿うものである。
これらを踏まえると、甲第5号証 製造例1の導電率は、本件実施例2の値と同一の値(0,7mS/cm)である蓋然性が高い。(28頁下から9行~29頁12行)
b 異議申立人の上記主張について検討する。
(a)本件実施例2の製造方法は、上記(4)ア(イ)b(a)のとおりであるのに対し、甲第5号証に記載された製造例1(以下、「甲5製造例1」という。)の製造方法は、「第4 5(1)」の段落【0082】のとおりである。
そうすると、本件実施例2と甲5製造例1とでは、水系高分子を含む水溶液を製造する上で使用する材料は同じものを採用しているといえるものの、それぞれの製造工程は、重合時の反応温度、反応時間及び重合工程を含め同じであるとはいえない。
(b)また、上記(1)ア(イ)b(b)のとおり、本件明細書の段落【0047】に記載された製造方法を利用することにより、「水に水系高分子を2質量%の濃度で溶解させたときに得られた水溶液の導電率」が「3.3mS/cm以下」となることは一切記載されておらず、また、これを裏付ける客観的な証拠も提出されていない。
(c)よって、本件実施例2のポリマー組成と甲5製造例1のポリマー組成が同一であり、甲5製造例1の製造方法が、本件明細書の段落【0047】に記載された製造方法に沿うものであるからといって、甲5製造例1における「水に水系高分子を2質量%の濃度で溶解させたときに得られた水溶液の導電率」が「3.3mS/cm以下」となる蓋然性が高いとは必ずしもいえない。
(d)したがって、異議申立人の主張は採用できない。
(ウ)小括
したがって、本件発明1と甲5発明とは相違点を有するものであるから、請求項1に係る発明は、甲第5号証に記載された発明ではない。
イ 本件発明2、3、7~12について
請求項2、3、7~12は、請求項1を直接又は間接的に引用する請求項であり、本件発明2、3、7~12は、本件発明1の発明特定事項をすべて含みさらに他の発明特定事項を追加して限定したものであるから、上記アと同様の理由により、本件発明2、3、7~12は甲第5号証に記載された発明ではない。
(6)申立理由1のまとめ
以上のとおり、請求項1~3、6~12に係る発明は、甲第1号証~甲第3号証に記載された発明ではなく、請求項1~3、7~12に係る発明は、甲第4号証に記載された発明又は甲第5号証に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号に該当せず、請求項1~3、6~12に係る特許は特許法第29条第1項の規定に違反してされたものではない。
したがって、異議申立人の主張する申立理由1は理由がない。
2 申立理由2(進歩性)について
(1)甲第4号証を主引用例とした場合
請求項6は請求項1を引用するものであるから、事案に鑑みて、まず本件発明1の進歩性について検討する。
ア 本件発明1について
(ア)対比
上記1(4)ア(ア)のとおり、本件発明1と甲4発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
(一致点)
「水系高分子を含む、二次電池バインダー。」
(相違点4)
本件発明1は「水に前記水系高分子を2質量%の濃度で溶解させたときに得られた水溶液の25℃における導電率が3.3mS/cm以下である」のに対し、甲4発明はその旨特定されていない点。
(イ)相違点に対する判断
a 甲第4号証には、「ポリ(メタ)アクリルアミド(A)」を水に2質量%の濃度で溶解させた時に得られた水溶液の導電率について一切記載されておらず、また、甲第1号証ないし甲第3号証のいずれにも、水に水系高分子を溶解させた水溶液の導電率について一切記載されていない。
そして、甲4発明において、「ポリ(メタ)アクリルアミド(A)」を水に溶解させた水溶液の導電率を調整する格別な理由も見当たらず、それを裏付ける証拠も何等提出されていない。
b そうすると、仮に、甲4発明に、甲第1号証~甲第3号証に記載された事項を適用したとしても、上記相違点4に係る「水に前記水系高分子を2質量%の濃度で溶解させたときに得られた水溶液の25℃における導電率が3.3mS/cm以下である」との構成を導き出すことはできない。
c 以上によれば、甲4発明において、上記相違点4に係る構成を採用することは、当業者が容易になし得たこととはいえないから、本件発明1は、甲4発明、甲第1号証~甲第3号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ 本件発明6について
請求項6は、請求項1を引用する請求項であり、本件発明6は、本件発明1の発明特定事項をすべて含みさらに他の発明特定事項を追加して限定したものであるから、上記アと同様の理由により、本件発明6は、甲4発明、甲第1号証~甲第3号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2)甲第5号証を主引用例とした場合
請求項6は請求項1を引用するものであるから、事案に鑑みて、まず本件発明1の進歩性について検討する。
ア 本件発明1について
(ア)対比
上記1(5)ア(ア)のとおり、本件発明1と甲5発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
(一致点)
「水系高分子を含む、二次電池バインダー。」
(相違点5)
本件発明1は「水に前記水系高分子を2質量%の濃度で溶解させたときに得られた水溶液の25℃における導電率が3.3mS/cm以下である」のに対し、甲5発明はその旨特定されていない点。
(イ)相違点に対する判断
a 甲第5号証には、「ポリ(メタ)アクリルアミド(B1)」を水に2質量%の濃度で溶解させた時に得られた水溶液の導電率について一切記載されておらず、また、甲第1号証~甲第3号証のいずれにも、水に水系高分子を溶解させた水溶液の導電率について一切記載されていない。
そして、甲5発明において、「ポリ(メタ)アクリルアミド(B1)」を水に溶解させた水溶液の導電率を調整する格別な理由も見当たらず、それを裏付ける証拠も何等提出されていない。
b そうすると、仮に、甲5発明に、甲第1号証~甲第3号証に記載された事項を適用したとしても、上記相違点5に係る「水に前記水系高分子を2質量%の濃度で溶解させたときに得られた水溶液の25℃における導電率が3.3mS/cm以下である」との構成を導き出すことはできない。
c 以上によれば、甲5発明において、上記相違点5に係る構成を採用することは、当業者が容易になし得たこととはいえないから、本件発明1は、甲5発明、甲第1号証~甲第3号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ 本件発明6について
請求項6は、請求項1を引用する請求項であり、本件発明6は、本件発明1の発明特定事項をすべて含みさらに他の発明特定事項を追加して限定したものであるから、上記アと同様の理由により、本件発明6は、甲5発明、甲第1号証~甲第3号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)申立理由2のまとめ
以上のとおり、本件発明6は、甲第4号証に記載された発明及び甲第1号証~甲第3号証に記載された事項に基づいて、又は、甲第5号証に記載された発明及び甲第1号証~甲第3号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものはないから、本件特許の請求項6に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。
したがって、異議申立人の主張する申立理由2は理由がない。
2 申立理由3(サポート要件)について
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである(知財高裁、平成17年(行ケ)10042号判決参照)。
(2)当審の判断
本件明細書の段落【0004】の記載によれば、本件発明の課題は、電池の製造及び/又は電池特性に好適に寄与できる新規なバインダー又は当該バインダーを含むスラリーを提供することである。
そして 、本件明細書(段落【0006】、【0019】を参照。)には、二次電池バインダーについて、水に水系高分子を2質量%の濃度で溶解させたときに得られた水溶液の導電率を3.3mS/cm以下とすることによって、活物質等の混錬時の泡立ちを抑制するという効果を奏することで、発明の課題を解決するものであることが理解できる。
また、本件明細書に記載された、25℃における該導電率が3.3mS/cm以下である実施例1~3(段落【0088】~【0090】、【0107】及び【0108】を参照。)において、23℃の環境下にて2500rpmで2分間攪拌しても、攪拌15分後には泡がほとんど見られないという結果が得られたことは、これを裏付けているといえる。
そうすると、本件発明は、発明の詳細な説明に記載された発明であり、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
したがって、本件発明は、サポート要件を満たしている。
(3)異議申立人の主張について
ア 異議申立人は、異議申立書において、概略次のように主張する。
本件請求項1では、水系高分子に関して、導電率は規定されているものの、構成成分(モノマー成分)等については何ら限定されていない。そして、本件明細書の実施例には、水溶液ラジカル重合法により合成された例のみが記載されているのみである。
本件明細書の記載を参酌しても、水溶液ラジカル重合法により合成された例以外、例えば、水溶液ラジカル重合法以外の縮合重合により製造されるポリアミック酸やカルボキシメチルセルロース(CMC)とスチレンブタジエンゴム(SBR)についても本件発明の課題が解決されることについての論理的な説明はなされているとは認められないし、そのような事項が当該技術分野において周知の技術的事項であることを示す文献等も見当たらない。
してみれば、本件の発明の詳細な説明に記載された実施例に係る知見を、本件請求項に係る発明の範囲にまで拡張乃至一般化しうるとは認められない。(32頁下から18~5行)
b 異議申立人の上記主張について検討する。
上記(2)のとおり、本件明細書の記載によれば、水に水系高分子を2質量%の濃度で溶解させたときに得られた水溶液の25℃における導電率を3.3mS/cm以下とすることによって、上記課題を解決し得ることは当業者が十分認識し得るものと認められることから、本件発明1の「水系高分子」の構成成分(モノマー成分)等が限定されていないからといって、本件発明1が、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えているとはいえない。
よって、本件発明1の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できないものではなく、また、本件発明2、3、6~12について、同様である。
したがって、異議申立人の主張は採用できない。
(4)申立理由3のまとめ
以上によれば、本件発明は、発明の詳細な説明に記載したものであって、本件特許は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえない。
したがって、異議申立人の主張する申立理由3は理由がない。
第6 むすび
以上の次第であるから、特許異議の申立ての理由及び異議申立人らの提出した証拠によっては、本件特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2025-701146