特許異議申立
2026-700002
ニッケル粉、それを含む導電性組成物及び導電膜
- 審判番号
- 2026-700002
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-182830
- 登録番号
- 7699524
- 請求日
- 2025年12月24日
- 審決日
- 2026年04月17日
- 公報発行日
- 2026年06月26日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】三井金属株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人翔和国際特許事務所
- 【異議申立人】中井 博
- 審判長/審判官
- 審判長 佐藤 陽一
- 審判官 粟野 正明
- 審判官 石川 雄太郎
- 分類
- P1651.537-Y (C25C) / P1651.113-Y (C25C) / P1651.121-Y (C25C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7699524号発明「ニッケル粉、それを含む導電性組成物及び導電膜」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7699524号の請求項1~10に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本件の特許第7699524号(以下「本件特許」という。)の請求項1~10に係る特許についての出願(特願2021-182830号。以下「本願」という。)は、令和 3年11月 9日の出願であって、令和 7年 6月19日にその特許権の設定登録がされ、同年同月27日に特許掲載公報が発行され、その後、令和 7年12月24日に、その請求項1~10(全請求項)に係る特許について、特許異議申立人である中井 博(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。
第2 本件特許発明
本件特許の特許請求の範囲の請求項1~10に係る発明は、本願の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1~10に記載された事項により特定される次のとおりのものである。なお、以下において、本願の請求項1~10に係る発明をそれぞれ「本件特許発明1」~「本件特許発明10」といい、総称して、「本件特許発明」という。また、本願の願書に添付した明細書を「本件特許明細書」という。
「 【請求項1】
残留磁化が7.0A・m2/kg以上であり、 レーザー回折散乱式粒度分布測定法による累積体積50容量%における体積累積粒径D50(μm)が1.0μm以上5.0μm以下であり、 JIS Z2512に準拠して測定されたタップ密度TD(g/cm3)が1.5g/cm3以上3.5g/cm3以下であり、 BET比表面積をSSA(m2/g)としたとき、SSA×TD/D50で定義される値が0.5以上である、ニッケル粉。
【請求項2】
残留磁化が10A・m2/kg以上である、請求項1に記載のニッケル粉。
【請求項3】
飽和磁化が10A・m2/kg以上である、請求項1又は2に記載のニッケル粉。
【請求項4】
保磁力が10kA/m以上30kA/m以下である、請求項1ないし3のいずれか一項に記載のニッケル粉。
【請求項5】
前記D50が1.5μm以上5.0μm以下である、請求項1ないし4のいずれか一項に記載のニッケル粉。
【請求項6】
前記SSAが1.0m2/g以上3.0m2/g以下である、請求項1ないし5のいずれか一項に記載のニッケル粉。
【請求項7】
前記SSAあたりの酸素含有量が0.5質量%/(m2/g)以下である、請求項1ないし6のいずれか一項に記載のニッケル粉。
【請求項8】
JIS Z2504に準拠して測定された見掛密度ADが1.0g/cm3以上2.5g/cm3以下であり、 前記TDに対する、前記ADの比であるAD/TDの値が0.73以上0.93以下である、請求項1ないし7のいずれか一項に記載のニッケル粉。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれか一項に記載のニッケル粉及び有機溶媒を含む導電性組成物。
【請求項10】
請求項9に記載の導電性組成物の乾燥体からなる導電膜。」
第3 申立理由の概要
申立人は、証拠方法として、甲第1号証(以下「甲1」という。)を提出し(下記3参照。)、以下の理由により、本件特許の請求項1~10に係る特許は取り消されるべきものである旨主張している。
1 申立理由1(サポート要件)
本件特許発明1は、残留磁化、体積累積粒径、タップ密度TD及びSSA×TD/D50の4つのパラメータを発明特定事項とするものであるところ、これらのパラメータを満たすもの全てが、薄膜化が容易であり、導電性の高い導電膜を形成するという効果を奏するとの心証を得るには、本件特許明細書に所望の効果を示す実施例が2つと、所望の効果を示さない比較例が2つ記載されているに過ぎないため、実施例が十分ではなく、また、他に本件特許明細書の記載及び当該技術分野の技術常識に照らして、上述の4つのパラメータを満足する種々のパラメータの組み合わせのすべてが上記効果を奏するものとの確証が得られるものではなく、上記パラメータがどのようにして導き出されたか、その根拠、理由が不明である。
よって、本件特許発明1と、本件特許発明1を引用する本件特許発明2~10については、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、同発明に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
2 申立理由2(新規性)、申立理由3(進歩性)
本件特許発明1~10は、甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであり、また、甲1に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
3 証拠方法
甲1:特開2020-204052号公報
第4 当合議体の判断
以下に述べるとおり、当合議体は、上記第3のいずれの申立理由によっても、本件特許の請求項1~10に係る特許を取り消すことができないと判断する。(下線は当合議体が付した。以下、同様。)
1 申立理由1(サポート要件)について
(1)本件特許明細書の段落【0006】によれば、本件特許発明が解決しようとする課題(以下、単に「課題」という。)は、「薄膜化が容易で且つ導電性の高い導電膜の形成に適したニッケル粒子を提供すること」であると認められる。
(2)本件特許明細書の段落【0007】、【0008】によれば、上記(1)に記載の課題は、残留磁化が7.0A・m2/kg以上であり、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による累積体積50容量%における体積累積粒径D50(μm)が1.0μm以上5.0μm以下であり、JIS Z2512に準拠して測定されたタップ密度TD(g/cm3)が1.5g/cm3以上3.5g/cm3以下であり、BET比表面積をSSA(m2/g)としたとき、SSA×TD/D50で定義される値が0.5以上である、ニッケル粉を提供することによって解決することができるとされている。
(3)上記(2)に記載の解決手段によって、上記(1)に記載の課題を解決し得る効果が得られることの説明については、本件特許明細書に次のように記載されている。
ア「本発明のニッケル粉の磁気特性について詳述すると、残留磁化が7.0A・m2/kg以上であることが、導電性組成物の導電性を高め得る点から好ましく、この利点を一層顕著なものとする観点から、残留磁化は7A・m2/kg以上20A・m2/kg以下であることが好ましく、8A・m2/kg以上18A・m2/kg以下であることが更に好ましく、9A・m2/kg以上15A・m2/kg以下であることが一層好ましい。」(段落【0012】)
イ「本発明のニッケル粉は、磁性の配向性が高いことに加えて、所定の範囲の嵩密度を有することが好ましい。換言すれば粒子の充填性の高いものであることが好ましい。その結果、本発明のニッケル粉は、これを樹脂や有機溶媒に添加して導電性組成物となした場合に、該導電性組成物から形成される導電膜に高い導電性を付与できる。この利点を一層顕著なものとする観点から、本発明のニッケル粉は、そのタップ密度TDが1.5g/cm3以上3.5g/cm3以下であることが好ましい。このようなタップ密度TDを有するニッケル粉は、タップ密度TDが3.5g/cm3よりも大きなニッケル粉と比較して、これを比較的少ない添加量で用いても、高い導電性を樹脂等に付与することができる。この観点から、タップ密度TDは1.6g/cm3以上3.0g/cm3以下であることが更に好ましく、1.7g/cm3以上2.5g/cm3以下であることが一層好ましい。このようなタップ密度TDを有するニッケル粉は、後述する製造方法によって好適に製造される。 本明細書においてタップ密度TDとはJIS Z2512に準拠して測定された値のことである。」(段落【0013】)
ウ「本発明のニッケル粉が上述した磁気特性及びタップ密度TDを有するようにするためには、該ニッケル粉を構成するニッケル粒子の粒子サイズを適切に制御することが有利である。また、導電膜を薄膜化し且つ導電膜の表面を平滑にする観点からもニッケル粒子の粒子サイズを適切に制御することが有利である。これらの観点から、ニッケル粒子は、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による累積体積50容量%における体積累積粒径D50が1.0μm以上5.0μm以下であることが好ましく、1.5μm以上5.0μm以下であることが更に好ましく、2.0μm以上4.5μm以下であることが一層好ましい。」(段落【0014】)
エ「本発明のニッケル粉においては、上述のSSAと、タップ密度TDと、粒径D50とが特定の関係を満たすと、導電膜に一層高い導電性を付与できるので好ましい。具体的には、SSA×TD/D50で定義される値が0.5以上であることが好ましく、0.7以上であることが更に好ましく、0.9以上であることが一層好ましい。また、SSA×TD/D50の上限は、同じく導電膜に一層高い導電性を付与する観点から10.0以下であることが好ましく、3.0以下であることが更に好ましく、2.0以下であることが一層好ましい。」(段落【0019】)
オ してみると、「残留磁化」、「レーザー回折散乱式粒度分布測定法による累積体積50容量%における体積累積粒径D50(μm)」、「JIS Z2512に準拠して測定されたタップ密度TD(g/cm3)」、「BET比表面積をSSA(m2/g)としたとき、SSA×TD/D50で定義される値」を所定の数値範囲を限定することで、以下のような効果が得られることが説明されており、当該数値範囲を充足するニッケル粉であれば、上記(1)に記載の課題を解決できることを当業者が認識できるものといえる。
(ア)残留磁化が7.0A・m2/kg以上であれば、「導電性組成物の導電性を高め」られる。
(イ)レーザー回折散乱式粒度分布測定法による累積体積50容量%における体積累積粒径D50(μm)が1.0μm以上5.0μm以下であれば、「本発明のニッケル粉が上述した磁気特性及びタップ密度TDを有」し、また、「導電膜を薄膜化し且つ導電膜の表面を平滑」にできる。
(ウ)JIS Z2512に準拠して測定されたタップ密度TD(g/cm3)が1.5g/cm3以上3.5g/cm3以下であれば、「本発明のニッケル粉は、これを樹脂や有機溶媒に添加して導電性組成物となした場合に、該導電性組成物から形成される導電膜に高い導電性を付与でき」、かつ、「タップ密度TDが3.5g/cm3よりも大きなニッケル粉と比較して、これを比較的少ない添加量で用いても、高い導電性を樹脂等に付与することができ」る。
(エ)BET比表面積をSSA(m2/g)としたとき、SSA×TD/D50で定義される値が0.5以上であれば、「導電膜に一層高い導電性を付与できる」。
(4)上記(3)を踏まえると、(2)に記載の解決手段によって課題を解決できることを当業者が認識できると認められる。
そして、本件特許発明1と、本件特許発明1を引用する本件特許発明2~10は、上記(2)に記載の解決手段を備えているから、本件特許の特許請求の範囲の請求項1~10に記載された発明は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。
(5)ア なお、申立人は、特許異議申立書の第11頁において、「本件発明は、残留磁化、体積累積粒径、タップ密度TD及びSSA×TD/D50の四つのパラメータを構成要件であることにより、上記所望の性能を有するニッケル粉が得られるというのであるところ、少なくとも、本件発明の範囲が残留磁化、体積累積粒径、タップ密度TD及びSSA×TD/D50を基準として画されるということが、出願時において、具体例の開示がなくとも当業者に理解できるものであったことを認めるに足りる証拠がない。」と主張している。
イ しかしながら、上記(3)のとおり、薄膜化が容易で且つ導電性の高い導電膜の形成に適したニッケル粒子が提供できることは、たとえ具体例の開示がなくとも、当業者であれば十分理解できることといえる。
ウ そして、申立人は、特許異議申立書の第10~13頁において、上記(3)の効果が得られることの説明に疑義を生じさせるような具体的な証拠や技術常識を提示しているわけではなく、本件特許明細書に記載された効果の説明について疑義は認められないものと判断する。
エ さらに、本件特許明細書の【表1】には、実施例1~2と比較例1~2を提示して、請求項1に記載の数値範囲を満たす範囲で、実際に製造したニッケル粒子が、導電膜が薄く、導電膜の比抵抗が低いことについて、具体例による裏付けも行われている。
オ よって、申立人の主張は採用しない。
カ なお、申立人は、特許異議申立書の第12~13頁において、「SSA×TD/D50の上限値が無限大であるということがサポートされているものとは認められない。」と主張している。
キ しかしながら、これらの変数が、物質の計測値であることから、技術常識を鑑みるに、SSA、TDは無限大になり得ないし、D50は無限小になり得ず、SSA×TD/D50が無限大になることはあり得ない。
ク さらに、SSA×TD/D50が、実施例より極めて大きな値を取ったとしても、上記(1)に記載の課題を解決できないといえるほどの根拠は存在しない。
ケ よって、申立人の主張は採用しない。
(6)申立理由1についてのまとめ
以上のとおり、本件特許の特許請求の範囲の記載は、本件特許発明1~10について、特許法第36条第6項第1号に適合するものであるから、申立理由1によっては、同発明に係る特許を取り消すことはできない。
2 申立理由2(新規性)、申立理由3(進歩性)について
(1)甲1に記載された発明
本願の出願前に公知となった甲1(発明の名称:樹枝状ニッケル結晶粒子およびその製造方法)の段落【0050】~【0067】、図1~3の記載を総合勘案し、特に、実施例5に着目すると、甲1には、次の発明が記載されていると認められる。
「陽極板としてニッケル板(縦:130mm、横:80mm、厚さ:2mm)、陰極板としてステンレス鋼板(材質:SUS304、縦:100mm、横:67mm、厚さ:0.3mm)を用い、
電解液として塩化ニッケルをイオン交換水に溶解させた溶液を用い、塩化ニッケルの濃度が15g/Lに調整され、塩化アンモニウムの濃度が35g/Lに調整され、pHが7に調整された電解液を用い、
電解槽(1L容のビーカー)に電解液1Lを入れ、当該電解液に陽極板および陰極板を浸漬し、陽極板と陰極板との電極間距離を5cmに調節し、
電解液の液温を50℃に調節し、電流密度30A/dm2にて直流電流を10分間通電することにより、陰極の表面に樹枝状ニッケル結晶粒子を析出させ、
陰極の表面で析出した樹枝状ニッケル結晶粒子をスクレーパーで削ぎ落して回収し、水洗した後、熱風乾燥機で70℃にて乾燥させることにより得られた樹枝状ニッケル結晶粒子。」
(以下「甲1発明」という。)
(2)本件特許発明1について
ア 甲1発明との対比・判断
(ア)本件特許発明1と甲1発明との対比
a 甲1発明の「樹枝状ニッケル結晶粒子」は、本件特許発明1の「ニッケル粉」に相当する。
b そうすると、本件特許発明1と甲1発明とは、
「ニッケル粉。」
である点で一致し、次の点で相違する。
<相違点1>
本件特許発明1では、「残留磁化が7.0A・m2/kg以上であ」るのに対し、甲1発明では、残留磁化が不明である点。
<相違点2>
本件特許発明1では、「レーザー回折散乱式粒度分布測定法による累積体積50容量%における体積累積粒径D50(μm)が1.0μm以上5.0μm以下であ」るのに対し、甲1発明では、累積体積50容量%における体積累積粒径D50(μm)が不明である点。
<相違点3>
本件特許発明1では、「JIS Z2512に準拠して測定されたタップ密度TD(g/cm3)が1.5g/cm3以上3.5g/cm3以下であ」るのに対し、甲1発明では、タップ密度TD(g/cm3)が不明である点。
<相違点4>
本件特許発明1では、「BET比表面積をSSA(m2/g)としたとき、SSA×TD/D50で定義される値が0.5以上である」のに対し、甲1発明では、SSA×TD/D50で定義される値が不明である点。
(イ)相違点についての検討
a 事案に鑑み、まず、上記相違点1について検討する。
(a)甲1では、樹枝状ニッケル結晶粒子の残留磁化について何ら記載がない。
そして、本願出願時の技術常識を考慮しても、甲1発明に係る「樹枝状ニッケル結晶粒子」の残留磁化は不明であると言わざるを得ない。
また、下記(ウ)に記載のとおり、甲1に記載の「樹枝状ニッケル結晶粒子」と、本件特許発明1の「ニッケル粉」の原料である「デンドライド粉」は、その製造条件が同一であるともいえない。
したがって、上記相違点1は実質的な相違点である。
(b)次に上記相違点1の容易想到性について検討する。
甲1では、樹枝状ニッケル結晶粒子の残留磁化について何ら記載がなく、本願出願時の技術常識から、甲1発明において、製造条件を調整して、樹枝状ニッケル結晶粒子の残留磁化を7.0A・m2/kg以上とする動機付けがあるとはいえない。
よって、甲1発明において、上記相違点1に係る特定事項を備えさせることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
(ウ)a 申立人は、上記相違点1について、特許異議申立書の第14~17頁において、甲1に記載の「樹枝状ニッケル結晶粒子」と、本件特許発明1の「ニッケル粉」の原料である「デンドライド粉」は、その製造条件が同一であるから、物としても同一のものであり、よって、「デンドライド粉」を粉砕しただけのものである「ニッケル粉」も、「樹枝状ニッケル結晶粒子」と同一の残留磁化を有すると主張している。
b この点、甲1の段落【0013】~【0022】には、ニッケルイオン源、電流密度、ニッケルイオンの濃度、電解液のpH、錯化剤、錯化剤の濃度、電解液の温度等の樹枝状ニッケル結晶粒子の製造条件が記載されており、この製造条件の一部が、本願特許明細書の段落【0037】~【0043】に記載された、本件特許発明1のニッケル粉の材料であるデンドライド粉の製造条件と重なることは理解できるものの、全てが同一であるとはいえず、重ならない部分が存在することが明らかである。
c 加えて、甲1の段落【0021】には、陽極や陰極の材料として、ステンレス鋼、銅、ニッケル、コバルト、白金などの金属が列挙されているが、本願特許明細書の段落【0036】には、アノードとして、例えば、DSEなどの電解に対して不溶性のものを用いることが記載されており、本件特許発明1のニッケル粉の材料であるデンドライド粉の製造方法と甲1に記載の樹枝状ニッケル結晶粒子の製造方法とは、少なくともアノードの材質で相違する。
そして、アノードの材質によって、析出する樹枝状ニッケル結晶粒子の不純物含有量、結晶構造、粒径分布、表面状態などが変化することが技術常識であり、アノードの材質の違いが、残留磁化に影響を与えることは自明であるから、甲1に記載の樹枝状ニッケル結晶粒子と本件特許発明1のニッケル粉の材料であるデンドライド粉の残留磁化が同一となるとは限らない。
d さらに、甲1には、樹枝状ニッケル結晶粒子の残留磁化について何ら記載がないことから、ニッケルイオン源、電流密度、ニッケルイオンの濃度、電解液のpH、錯化剤、錯化剤の濃度、電解液の温度等の樹枝状ニッケル結晶粒子の製造条件の範囲から、具体的に適切な条件を選択し、樹枝状ニッケル結晶粒子の残留磁化を7.0A・m2/kg以上とする動機付けがあるとはいえないし、また、残留磁化を7.0A・m2/kg以上とするようにアノードの材質を変更する動機づけがあるともいえない。
e してみると、甲1に記載の「樹枝状ニッケル結晶粒子」と、本件特許発明1の「ニッケル粉」の原料である「デンドライド粉」は、製造条件が完全に同一でない以上、物として同一のものであるとはいえず、甲1に記載の「樹枝状ニッケル結晶粒子」と、本件特許発明1の「ニッケル粉」も同一の残留磁化を持つとはいえない。
また、甲1に記載の「樹枝状ニッケル結晶粒子」を、本件特許発明1の「ニッケル粉」、及び「デンドライド粉」と同一の残留磁化を持つように、製造条件を調整することは、当業者が容易になし得る事項であるともいえない。
f よって、申立人の主張は採用しない。
(エ)小括
よって、上記相違点2~4について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1に記載された発明であるとはいえず、また、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)本件特許発明2~10について
ア 甲1発明との対比・判断
(ア)上記(2)アの検討結果を踏まえて、本件特許発明2~10と甲1発明とを対比すると、両者は少なくとも、上記相違点1と同様の点で相違する。
そして、相違点1については、上記(2)ア(イ)、(ウ)で検討したとおりであるから、甲1発明において、上記相違点1に係る特定事項は実質的な相違点であり、かつ、当該特定事項を備えようとする動機付けがあるとはいえない。
以上によれば、甲1発明において、上記相違点1に係る特定事項を備えさせることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
(イ)小括
したがって、その余の点について検討するまでもなく、本件特許発明2~10は、甲1に記載された発明であるとはいえず、また、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(4)申立理由2、3についてのまとめ
以上のとおり、本件特許発明1~10は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるとはいえないし、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、申立理由2、3によっては、同発明に係る特許を取り消すことはできない。
第5 むすび
以上のとおり、申立人による特許異議の申立ての理由によっては、本件特許の請求項1~10に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1~10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2026-700002