特許異議申立
2024-700408
ビールテイスト飲料
- 審判番号
- 2024-700408
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-158462
- 登録番号
- 7372421
- 請求日
- 2024年04月30日
- 審決日
- 2024年09月30日
- 公報発行日
- 2024年11月29日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】サッポロビール株式会社
- 【権利者代理人】長谷川 芳樹
- 【権利者代理人】清水 義憲
- 【権利者代理人】坂西 俊明
- 【異議申立人】杉浦 健文
- 審判長/審判官
- 審判長 植前 充司
- 審判官 天野 宏樹
- 審判官 松本 陶子
- 分類
- P1651.121-Y (C12C) / P1651.537-Y (C12C)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条6項1号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7372421号発明「ビールテイスト飲料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7372421号の請求項1~11に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7372421号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~11に係る特許についての出願は、
令和4年 9月30日の出願であって、
令和5年10月23日にその特許権の設定登録(請求項の数11)がされ、
令和5年10月31日に特許掲載公報が発行され、
その後、その特許に対し、
令和6年 4月30日に特許異議申立人 杉浦 健文から特許異議の申立てされ、
令和6年 7月 8日に特許異議申立人より上申書及び特許異議申立書に対する手続補正書が提出されたものである。
第2 本件特許発明
本件特許の請求項1~11に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいい、総称して「本件特許発明」という。)は、それぞれ、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1~11に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
アルコール度数が8v/v%以上であり、
ピラジン類の含有量が6.9μg/L以上であり、
前記ピラジン類が2,3-ジメチルピラジン及び2,6-ジメチルピラジンを含み、
前記2,6-ジメチルピラジンの含有量に対する前記2,3-ジメチルピラジンの含有量の比が、0.4以上1.2以下である、
ビールテイスト飲料。
【請求項2】
アルコール度数が11v/v%以上20v/v%未満である、請求項1に記載のビールテイスト飲料。
【請求項3】
前記ピラジン類が、2,5-ジメチルピラジン、2-エチルピラジン、及び2,3,5-トリメチルピラジンからなる群より選ばれる1種以上を更に含む、請求項1又は2に記載のビールテイスト飲料。
【請求項4】
前記ピラジン類の含有量が、40.0μg/L以下である、請求項1又は2に記載のビールテイスト飲料。
【請求項5】
前記ピラジン類の含有量が、8.2μg/L以上20.0μg/L以下である、請求項1又は2に記載のビールテイスト飲料。
【請求項6】
前記2,6-ジメチルピラジンの含有量が、3.2μg/L以上20.0μg/L以下である、請求項1又は2に記載のビールテイスト飲料。
【請求項7】
前記2,3-ジメチルピラジンの含有量が、2.0μg/L以上18.0μg/L以下である、請求項1又は2に記載のビールテイスト飲料。
【請求項8】
麦芽使用比率が50.0w/w%以上66.6w/w%以下である、請求項1又は2に記載のビールテイスト飲料。
【請求項9】
蒸留アルコールを含有しない、請求項1又は2に記載のビールテイスト飲料。
【請求項10】
アルコール度数を8v/v%以上に調整すること、及び、
ピラジン類の含有量を6.9μg/L以上に調整することを含み、
前記ピラジン類の含有量は、前記ピラジン類が2,3-ジメチルピラジン及び2,6-ジメチルピラジンを含み、前記2,6-ジメチルピラジンの含有量に対する前記2,3-ジメチルピラジンの含有量の比が、0.4以上1.2以下となるように調整される、
ビールテイスト飲料の製造方法。
【請求項11】
アルコール度数を8v/v%以上に調整すること、及び、
ピラジン類の含有量を6.9μg/L以上に調整することを含み、
前記ピラジン類の含有量は、前記ピラジン類が2,3-ジメチルピラジン及び2,6-ジメチルピラジンを含み、前記2,6-ジメチルピラジンの含有量に対する前記2,3-ジメチルピラジンの含有量の比が、0.4以上1.2以下となるように調整される、
ビールテイスト飲料の酸味及び酸臭を軽減させる方法。」
第3 特許異議申立書に記載した特許異議申立理由の概要
令和 6年 4月30日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。
1 申立理由1(甲第1号証に基づく進歩性)
本件特許の請求項1、3~11に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1、3~11に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
2 申立理由2(甲第4号証に基づく進歩性)
本件特許の請求項1~11に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第4号証に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1~11に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
3 申立理由3(サポート要件)
本件特許の請求項1~11に係る特許は、下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(1)本件明細書及び実施例
「本件明細書には、本件発明の構成要件であるピラジン類、2,3-ジメチルピラジン、2,6-ジメチルピラジン、特定された範囲のこれらの含有量及び2,6-ジメチルピラジンの含有量に対する2,3-ジメチルピラジンの含有量の比が、高アルコールビールテイスト飲料の酸味や酸臭を軽減するという本件発明の効果を達成する理由や、かかる構成要件が効果達成に寄与する機能作用について、何も説明されていない(本件明細書、段落0027、0030、0031、0032)。
つまり、本件明細書の発明の詳細な説明は、そもそも、本件発明の構成要件によって課題が解決できることを当業者において認識できるように記載されていないものである。仮に、かかる知見が説明するまでもない技術常識に含まれるということであれば、本件発明には進歩性が欠如していることになる。
本件明細書の実施例では、アルコール度数11.9v/v%及び17.0v/v%のビールテイスト飲料を常法により製造し、2,3-ジメチルピラジン及び2,6-ジメチルピラジンをそれぞれ独立して添加することで各濃度を変化させたものについて、酸味及び酸臭等を評価軸とする官能評価試験を行って、評価スコアの優劣により高アルコールビールテイスト飲料の酸味及び酸臭を軽減する効果を裏付けようとしている(段落0070~0080)。
それにもかかわらず、C(1)(1.3)項に説明したとおり、(b)2,6-ジメチルピラジンの含有量に対する(a)2,3-ジメチルピラジンの含有量の比が1.19である試験例1-12及び0.96である試験例1-13の評価スコアは、酸味、酸臭等が未だ3~4点と、試験例1-1の5点と比較してあまり低減されておらず、高アルコールビールの酸味及び酸臭が軽減するという本件発明の効果を示していない。
試験例1-12及び試験例1-13は共に、(b)2,6-ジメチルピラジンの含有量に対する(a)2,3-ジメチルピラジンの含有量の比が0.4以上1.2以下に該当することを考慮すると、本件発明の数値範囲を充足するビールテイスト飲料であっても、試験例1-12及び試験例1-13のように、高アルコールビールテイスト飲料の酸味及び酸臭を軽減する効果が達成されないものが存在する。つまり、本件明細書、実施例の表1に示された評価結果は、本件発明の数値範囲にわたって前記効果が達成されないことを示しているものである。
本件発明1~11は、特性値を表す技術的な変数により示される範囲をもって特定した物を構成要件とするものであり、いわゆるパラメータ発明に関するものであるので、サポート要件に適合するためには、発明の詳細な説明は、その変数が示す範囲と得られる効果(性能)との関係の技術的な意味が、具体例の開示がなくとも当業者に理解できる程度に記載するか、又は、特許出願時の技術常識を参酌して、当該変数が示す範囲内であれば、所望の効果(性能)が得られると当業者において認識できる程度に、具体例を開示して記載することを要するものと解するのが相当である(知財高裁平成17年11月11日判決,平成17年(行ケ)第10042号,判例時報1911号48頁参照)。
そうすると、甲8に記載のとおり、本件明細書の発明の詳細な説明は、本件発明1~11の構成要件によって課題が解決できることを当業者において認識できるように記載されているということはできないものである。」(特許異議申立書第27頁末行~第29頁12行)
(2)高アルコールビールテイスト飲料の範囲
「本件発明の高アルコールビールテイスト飲料として、本件明細書の定義によれば、原料用アルコール等のアルコール源を添加することでアルコール度数を上げた高アルコールビールテイスト飲料が含まれている(段落0022)。また、酵母等による発酵を行わず、アルコール(例えば、スピリッツ、原料用アルコール等の蒸留アルコール)を配合して製造される非発酵ビールテイスト飲料も本件発明の高アルコールビールテイスト飲料に含まれている(段落0048)。
甲9は、エタノールがビールの味に及ぼす影響を調べた論文である。第377頁の実験2を参照して、ノンアルコールビールA及びBに2~8%のアルコールを添加した場合に、苦味、甘味及び酸味の知覚強度がどのように変化するかが官能試験されている。被験者は20~27歳の健康な男女50名である(第376頁第4~17行)。
その結果、ノンアルコールビールAについて酸味の知覚強度はエタノール添加により減少したこと(第377頁下から第12~11行)、ノンアルコールビールBについて酸味が減少する傾向があったこと(第377頁下から第2~末行)、及び総括して、エタノール添加による酸味減少の効果は顕著にみられたこと(第378頁第14~15行)が記載されている。
つまり、ノンアルコールビールA及びBに8%のアルコールを添加したビールテイスト飲料は、出願時の技術常識から酸味や酸臭が目立つとはいえず、発明の課題が解決できることを当業者が認識できないものである。本件明細書の前記高アルコールビールテイスト飲料の定義によれば、ノンアルコールビールA及びBに8%のアルコールを添加したビールテイスト飲料も本件発明の高アルコールビールテイスト飲料に該当するが、それにもかかわらず、これらは、技術常識から前記効果が達成されることを理解できないものである。」。」(特許異議申立書第29頁14行~第30頁8行)
(3)ピラジン類の範囲
「本件発明のピラジン類は、本件明細書の定義によれば、1つ以上の水素原子がアルキル基で置換されたピラジンを意味する(段落0023)。
本件明細書の実施例では、ピラジン類として2,3-ジメチルピラジン、2,6-ジメチルピラジン、2,5-ジメチルピラジン、2,3,5-トリメチルピラジン及び2-エチルピラジンの含有量が定量され、その合計含有量が6.9μg/L以上であることで、高アルコールビールの酸味及び酸臭が軽減するという本件発明の効果の達成が示されている。本件明細書の発明の詳細な説明には、実施例の記載以外に、ピラジン類又はそれらの特定の含有量が本件発明の効果を達成する理由や、かかる構成要件が効果達成に寄与する機能作用について、何も説明されていない(段落0027)。
発明の効果が示されているピラジン類が明細書の実施例に記載された具体的な5種類のピラジン化合物に限られていることを考慮すると、本件発明のピラジン類として、1つ以上の水素原子がアルキル基で置換されたピラジンまで拡張ないし一般化することはできないものである。」(特許異議申立書第30頁10行~第30頁23行)
(4)ピラジン類の含有量
「本件発明1のピラジン類の含有量は6.9μg/L以上に規定されており、含有量の上限は定められていない。
本件明細書の実施例では、ピラジン類として2,3-ジメチルピラジン、2,6-ジメチルピラジン、2,5-ジメチルピラジン、2,3,5-トリメチルピラジン及び2-エチルピラジンの含有量が定量され、その合計含有量が6.9μg/L以上であること、及び(b)2,6-ジメチルピラジンの含有量に対する(a)2,3-ジメチルピラジンの含有量の比が0.4以上1.2以下であることで、高アルコールビールの酸味及び酸臭が軽減するという本件発明の効果の達成が示されている。実施例の記載において本件発明1に該当する試験例は、1-5~1-7、1-12~1-16、2-1~2-3、2-6、2-7、2-10、2-11ということになる。これら試験例のピラジン類の含有量を確認すると、7.3~31.8μg/Lである。本件明細書の発明の詳細な説明には、実施例の記載以外に、ピラジン類又はそれらの特定の含有量が本件発明の効果を達成する理由や、かかる構成要件が効果達成に寄与する機能作用について、何も説明されていない(段落0027)。
また、ピラジン類の含有量が16.8である試験例1-9と26.8である試験1-10とを対比すると酸味の評価スコアが悪化しており、ピラジン類の含有量が20.2である試験例1-18と35.2である試験例1-19とを対比すると酸味の評価スコアが悪化しており、ピラジン類の含有量が多いほど酸味が抑制されるものではないことが、実施例の結果にも示されている。
発明の効果が示されているピラジン類の含有量が7.3~31.8μg/Lに限られており、ピラジン類の含有量と酸味抑制効果が必ずしも相関しないことを考慮すると、本件発明のピラジン類の含有量として、6.9μg/L以上にまで拡張ないし一般化することはできないものである。」(特許異議申立書第30頁25行~第31頁21行)
4 証拠方法
・甲第1号証:L. Narziss et al. "Stickstoff-Heterocyclen im Malz, bei der Wuerze-bereitung und im Bier", Monatsschrift fuer Brauwissenschaft 38, No. 3, 128-136, 1985、Verlag Hans Carl
・甲第2号証:(2017-12-28) Herr Dunkelhosen Beer Recipe | All Grain Dunkles Bock by Brady Smith | Brewer's Friend、<https://www.brewersfriend.com/homebrew/recipe/view/580522/-2017-12-28-herr-dunkelhosen>、更新日2018年10月6日、Brewer's Friend
・甲第3号証:ビール酒造組合ホームページ ビールの豆知識、<https://www.brewers.or.jp/tips/type.html>、出力日2024年3月5日、ビール酒造組合
・甲第4号証:#80 Black Tokyo Horizon acc to Brewdog Beer Recipe | All Grain Imperial Stout by Stellenbosch | Brewer's Friend、<https://www.brewersf riend.com/homebrew/recipe/view/359365/-80-black-tokyo-horizon-ace-to-brewdog>、更新日2016年6月14日、Brewer's Friend
・甲第5号証:LIU Xiang et al. "Analysis of 15 kinds of malt aroma characteristic substances in malt and stout", 40 (08) 171-177(なお、雑誌名と発行者は以下のとおり)
[図:0001416489000001.jpg]
[図:0001416489000002.jpg]
・甲第6号証:「第XIII章 着色物質(メラノイジン)」、醸造物の成分、平成11年12月10日発行、財団法人日本醸造協会、第245~249頁、及び奧付、財団法人日本醸造協会
・甲第7号証:知財高裁平成31年3月13日判決、平成30年(行ケ)第10076号
・甲第8号証:知財高裁平成29年6月8日判決、平成28年(行ケ)第10147号
・甲第9号証:梶浦英明ら「エタノールがビールの味に及ぼす影響」、日本味と匂学会誌 第5巻第3号、第375~378頁、1998年12月、及び書誌情報
証拠の表記は特許異議申立書及び証拠説明書の記載におおむね従った。
以下、順に「甲1」のようにいう。
第4 当審の判断
当審は以下に述べるように、申立理由1~3によっては、本件特許を取り消すことはできないと判断する。
1 申立理由1(甲1に基づく進歩性)について
(1)甲1に記載された事項等
ア 甲1に記載された事項
甲1には、「麦芽、麦汁製造、ビール中の窒素複素環化合物」について、おおむね次の事項が記載されている。なお、甲1は外国語文献のため、訳文のみ摘記する。他の文献についても同様である。
・「
[図:0001416489000003.jpg]
」(第135頁 表15)
・「N-選択的検出器を用いたガスクロマトグラフィー分析、及びGC及び質量分析計による同定を行い、麦汁及びビール中の以下の窒素複素環化合物を測定した。
ピラジン、チアゾール、2-メチルピラジン、4-メチルチアゾール、2,5-及び2,6-ジメチルピラジン、トリメチルピラジン、2-エチル-3,6-及び2-エチル-3,5-ジメチルピラジン、ピロール、2-アセチルピリジン、2-アセチルチアゾール、ニコチン酸メチルエステル、ベンゾチアゾール、2-アセチルピロール、インドール。麦芽及びビール中のこれらの物質の含有量は、カラメル麦芽及び着色麦芽に生成するので、麦芽の状態、最終焙煎温度、(ダーク)乾燥工程、硬化方法によってあらかじめ決まっている。N-ヘテロ環化合物の濃度は以下の条件により決定された。
麦汁を煮沸する前又は後に95℃で長時間休止する;
麦汁の煮沸時間を長くする;
蒸留物の分析に示されるように、蒸発を少なくする;
高温での麦汁煮沸、例えば、低圧煮沸;蒸発量に加えて加熱も正確に制御できないが、一定の範囲内で行う高温麦汁煮沸。」(第136頁左欄20~37行)
イ 甲1に記載された発明
上記アに記載された内容のうち、特に「ボック(濃色)」について整理すると、甲1には次の発明(以下、「甲1発明」、「甲1製法発明」という。)が記載されていると認める。
<甲1発明>
「甲1の表15に記載されたN-複素環を含むボック(濃色)。」(当審注:「甲1の表15」については、上記アを参照。)
<甲1製法発明>
「甲1発明の製造方法。」
(2)検討
ア 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲1発明を対比する。
甲1の表15によると、甲1発明のピラジン類の含有量は、約43~129ppb=約43~129μg/Lであるから、本件特許発明1の「ピラジン類の含有量が6.9μg/L以上であり」を満たすものである。
また、甲1発明は、2,6-ジメチルピラジン及び2,3-ジメチルピラジンを含むから、本件特許発明1の「ピラジン類が2,3-ジメチルピラジン及び2,6-ジメチルピラジンを含む」を満たすものである。
さらに、甲1発明の「ボック(濃色)」が、ドイツビールの1種であることは周知技術であるから、本件特許発明1の「ビールテイスト飲料」に相当する。
そうすると、両者は以下の点で一致する。
<一致点>
「ピラジン類の含有量が6.9μg/L以上であり、
前記ピラジン類が2,3-ジメチルピラジン及び2,6-ジメチルピラジンを含む、ビールテイスト飲料。」
<相違点1-1>
本件特許発明1のビールテイスト飲料は、「アルコール度数が8v/v%以上であ」るのに対し、甲1発明では、そのようには特定されていない点。
<相違点1-2>
本件特許発明1のビールテイスト飲料は、「2,6-ジメチルピラジンの含有量に対する前記2,3-ジメチルピラジンの含有量の比が、0.4以上1.2以下である」のに対し、甲1発明では、そのようには特定されていない点。
以下、相違点について検討する。
相違点1-1について、甲1にはボックのアルコール度数に関する記載はなく、また、ボックとはある種類のドイツビールの総称に過ぎず、ボックであるからと言って、ただちにアルコール度数が8v/v%以上であると導き出し得るものではない。
この点について、異議申立人は、甲2のレシピに基づいて、甲1発明の「ボック」のアルコール度数が8v/v%以上である旨の主張を行っているが、甲1発明における「ボック」と甲2におけるビール製品とが、同一の原料及び工程により製造された同程度のアルコール度数を含むビールであるかは不明であるから、当該主張は採用できない。
また、相違点1-2についても、甲1発明における2,6-ジメチルピラジンの含有量に対する前記2,3-ジメチルピラジンの含有量の比は、3/14~13/6=0.21~2.16であり、相違点1-2を満たすようなより狭い特定の範囲を選択すること、特に上限値を半分程度とすることの動機付けは見出せない。
そして、本件特許発明1は、相違点1-1及び1-2に係る発明特定事項を満たすことにより、「アルコール度数の高いビールテイスト飲料であって、酸味及び酸臭が軽減されたビールテイスト飲料を提供することができる」(【0016】)との、いずれの証拠の記載からも予期できない格別の効果を奏するものである。
したがって、本件特許発明1は、甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
イ 本件特許発明3~9について
本件特許発明3~9は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであって、本件特許発明1の発明特定事項を全て備えるものであるから、本件特許発明1と同様に判断される。
よって、本件特許発明3~9は、甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
ウ 本件特許発明10について
本件特許発明10と甲1製法発明とを対比すると、上記アと同様の相当関係がとれるから、両者は少なくとも、以下の点で相違する。
<相違点1-3>
本件特許発明10のビールテイスト飲料の製造方法は、「アルコール度数が8v/v%以上であ」るのに対し、甲1製法発明では、そのようには特定されていない点。
<相違点1-4>
本件特許発明10のビールテイスト飲料の製造方法は、「2,6-ジメチルピラジンの含有量に対する前記2,3-ジメチルピラジンの含有量の比が、0.4以上1.2以下である」のに対し、甲1製法発明では、そのようには特定されていない点。
相違点について検討する。
相違点1-3及び相違点1-4は、上記アにおける相違点1-1及び相違点1-2と同旨であり、同様に判断される。
よって、本件特許発明10は、甲1製法発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
エ 本件特許発明11について
上記(1)アの甲1の記載事項から、「ビールテイスト飲料の酸味及び酸臭を軽減させる方法」に係る発明は認定できない。
したがって、本件特許発明11は、甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)申立理由1のまとめ
上記のとおり、本件特許発明1、3~11は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、申立理由1の理由では、本件特許の請求項1、3~11に係る特許を取り消すことはできない。
2 申立理由2(甲4に基づく新規性・進歩性)について
(1)甲4に記載された事項等
ア 甲4に記載された事項
甲4には、「ビール"#80 Black Tokyo Horizon acc to Brewdog"(以下、「ブリュードッグビール」という。)」に関して、おおむね次の事項が記載されている。なお、甲4の各表の番号については、甲4の最初の表から順番に数えて、「第1表」のように特定する。
・「ビール定性
方法:全穀物
スタイル:インペリアルスタウト」(第1/3頁 第1表)
・「
[図:0001416489000004.jpg]
」(第1/3頁 第2表)
・「
[図:0001416489000005.jpg]
」(第1/3頁 第3表)
イ 甲4に記載された発明
上記アに記載された内容のうち、ブリュードッグビールについて整理すると、甲4には次の発明(以下、「甲4発明」、「甲4製法発明」という。)が記載されていると認める。
<甲4発明>
「ABVが17.1%であり、甲4の第3表に記載された発酵性原料で製造された、ブリュードッグビール。」(当審注:「甲4の第3表」については、上記アを参照。)
<甲4製法発明>
「甲4発明の製造方法。」
(2)検討
ア 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲4発明を対比する。
甲4発明のABVは17.1%であるから、本件特許発明1の「アルコール度数が8v/v%以上であり」を満たすものである。
また、甲4発明の「ブリュードッグビール」は、本件特許発明1の「ビールテイスト飲料」に相当する。
そうすると、両者は以下の点で一致する。
<一致点>
「アルコール度数が8v/v%以上である、ビールテイスト飲料。」
<相違点4-1>
本件特許発明1のビールテイスト飲料は、「ピラジン類の含有量が6.9μg/L以上であり、前記ピラジン類が2,3-ジメチルピラジン及び2,6-ジメチルピラジンを含み、前記2,6-ジメチルピラジンの含有量に対する前記2,3-ジメチルピラジンの含有量の比が、0.4以上1.2以下である」のに対し、甲4発明では、そのようには特定されていない点。
以下、相違点4-1について検討する。
甲4には、ピラジン類の含有量や、2,3-ジメチルピラジン及び2,6-ジメチルピラジンを含むこと及び2,6-ジメチルピラジンの含有量に対する前記2,3-ジメチルピラジンの含有量の比について、何ら記載も示唆もされていない。また、甲4及び他の全ての証拠の記載をみても、本件特許発明1において、ピラジン類の量を調整し相違点4-1に係る本件特許発明1の発明特定事項を満たすものとする動機付けはない。
この点について、異議申立人は、甲5の記載を参照すると、甲4発明の発酵性原料のうちカラメル麦芽に含まれるピラジン類の含有量や、2,6-ジメチルピラジンの含有量に対する前記2,3-ジメチルピラジンの含有量の比が、上記相違点4-1を満たすとの主張を行っている。しかしながら、甲4発明における「ドイツCarafa I」及び「アメリカCaramel/Crystal 150L」というカラメル麦芽と、甲5におけるカラメル麦芽とが、同一の原料であるかは不明であり、原料が異なる場合に、ビールテイスト飲料に含まれるピラジン類の含有量や、2,6-ジメチルピラジンの含有量に対する前記2,3-ジメチルピラジンの含有量の比が異なることは技術常識であるから、特許異議申立人の当該主張は採用できない。
そして、本件特許発明1は、相違点4-1に係る本件特許発明1の発明特定事項を満たすことにより、「アルコール度数の高いビールテイスト飲料であって、酸味及び酸臭が軽減されたビールテイスト飲料を提供することができる」(【0016】)との、いずれの証拠の記載からも予期できない格別の効果を奏するものである。
したがって、本件特許発明1は、甲4発明並びに甲4及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
イ 本件特許発明2~9について
本件特許発明2~9は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであって、本件特許発明1の発明特定事項を全て備えるものであるから、本件特許発明1と同様に判断される。
よって、本件特許発明2~9は、甲4発明並びに甲4及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
ウ 本件特許発明10について
本件特許発明10と甲4製法発明とを対比すると、上記アと同様の相当関係がとれるから、両者は少なくとも、以下の点で相違する。
<相違点4-2>
本件特許発明10のビールテイスト飲料の製造方法は、「ピラジン類の含有量が6.9μg/L以上であり、前記ピラジン類が2,3-ジメチルピラジン及び2,6-ジメチルピラジンを含み、前記2,6-ジメチルピラジンの含有量に対する前記2,3-ジメチルピラジンの含有量の比が、0.4以上1.2以下である」のに対し、甲4製法発明では、そのようには特定されていない点。
以下、相違点について検討する。
相違点4-2は、上記アにおける相違点4-1と同旨であり、同様に判断される。
よって、本件特許発明10は、甲4製法発明並びに甲4及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
エ 本件特許発明11について
上記(1)アの甲4の記載事項から、「ビールテイスト飲料の酸味及び酸臭を軽減させる方法」に係る発明は認定できない。
したがって、本件特許発明11は、甲4及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)申立理由2のまとめ
上記のとおり、本件特許発明1~11は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、申立理由2の理由では、本件特許の請求項1~11に係る特許を取り消すことはできない。
3 申立理由3(サポート要件)について
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
そこで、検討する。
(2)特許請求の範囲の記載
本件特許の特許請求の範囲の記載は上記第2のとおりである。
(3)サポート要件の判断
本件特許の発明の詳細な説明の【0005】に記載されているとおり、本件特許発明の課題(以下、「本件発明の課題」という。)は、「アルコール度数の高いビールテイスト飲料であって、酸味及び酸臭が軽減されたビールテイスト飲料を提供すること」である。
本件特許の発明の詳細な説明の【0006】~【0010】には特許請求の範囲に対応する記載があり、【0018】~【0022】にはビールテイスト飲料のアルコール度数を8v/v%以上とすることについて、【0023】~【0026】にはピラジン類の種類について、【0027】~【0029】には、ビールテイスト飲料の酸味及び酸臭をより軽減し、スムースさ及び発酵の香りをより向上させ、焦げ臭を抑えるためにピラジン類の含有量を6.9μg/L以上とすることについて、【0030】には2,3-ジメチルピラジンの含有量について、【0031】には2,6-ジメチルピラジンの含有量について、【0032】には2,6-ジメチルピラジンの含有量に対する前記2,3-ジメチルピラジンの含有量の比について、【0039】には麦芽使用比率について、【0052】~【0067】にはビールテイスト飲料の製造方法について、【0068】にはビールテイスト飲料の酸味及び酸臭を軽減させる方法について記載されている。
また、【0069】~【0081】の実施例には、アルコール度数が11.9v/v%のビールテイスト飲料による試験例1において、ピラジン類の含有量が6.9μg/L以上であるビールテイスト飲料(試験例1-2~1-19)は、ピラジン類の含有量が6.9μg/L以下であるビールテイスト飲料(試験例1-1)よりも、酸味、酸臭及びアルコール臭が軽減されることが示されており、また、アルコール度数が17.0v/v%のビールテイスト飲料においても、同様の結果が示されている。
そうすると、当業者は、アルコール度数が8v/v%以上であり、ピラジン類の含有量が6.9μg/L以上であるビールテイスト飲料とすることで、本件発明の課題を解決することができると認識でき、また、アルコール度数を8v/v%以上に調整する工程、及び、ピラジン類の含有量が6.9μg/L以上となるように調整する工程を有するビールテイスト飲料の製造方法とすることにより、本件発明の課題を解決することができると認識でき、さらに、アルコール度数を8v/v%以上に調整すること、及び、ピラジン類の含有量を6.9μg/L以上に調整することを含むように調整する方法とすることで、本件発明の課題を解決することができると認識できる。
そして、本件特許発明1~11は、上記発明の課題を解決することができる特定事項を全て含み、これをさらに限定するものであるから、本件特許の発明の詳細な説明に記載された発明であって、本件特許の発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。
よって、本件特許発明1~11はいずれも、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合するといえる。
(4)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、上記第3 3において、(1)本件特許発明の効果を達成する理由や効果達成に寄与する機能作用が不明であること、(2)エタノールがビールの味に及ぼす影響(甲9)からみて、ノンアルコールビールにアルコールを加えたものにおいて課題が存在したと言えるのか不明であること、(3)及び(4)ピラジン類が本件特許発明の効果達成に寄与する機能作用が不明であり、本件特許発明で特定するところのピラジン類に一般化すること、添加量の範囲まで広げることはできないこと等を主張する。
しかしながら、本件特許発明が本件発明の課題を解決できると認識できることは、上記(3)の検討のとおりであり、必ずしも、いわゆる作用機序の記載を要するものではない。
また、その余の主張についても、具体的に発明の課題を解決し得ないとする具体的な証拠を提示するものでもないから、特許異議申立人の上記主張はいずれも採用できない。
(5)申立理由3についてのまとめ
上記のとおりであるから、本件特許発明1~11は、特許法第36条第6項第1号の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、申立理由3の理由では、本件特許の請求項1~11に係る特許を取り消すことはできない。
第5 結語
以上のとおりであるから、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件特許の請求項1~11に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の1~11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700408