特許異議申立
2025-701171
軟包装材用紙、および軟包装体
- 審判番号
- 2025-701171
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-140526
- 登録番号
- 7697170
- 請求日
- 2025年12月23日
- 審決日
- 2026年03月26日
- 公報発行日
- 2026年04月24日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】日本製紙株式会社
- 【権利者代理人】山田 泰之
- 【権利者代理人】中村 理弘
- 【異議申立人】岡田 純子
- 審判長/審判官
- 審判長 金丸 治之
- 審判官 長清 吉範
- 審判官 大野 明良
- 分類
- P1651.121-Y (B32B) / P1651.536-Y (B32B) / P1651.537-Y (B32B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第4項第1号、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7697170号発明「軟包装材用紙、および軟包装体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7697170号の請求項1~9に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7697170号の請求項1~9に係る特許についての出願(特願2022-140526号)は、令和4年6月14日(優先権主張 令和4年3月18日)に出願した特願2022-95483の一部を令和4年9月5日に新たな特許出願としたものであって、令和7年6月16日にその特許権の設定登録がされ、令和7年6月24日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和7年12月23日に特許異議申立人岡田純子(以下「申立人」という。)により、その請求項1~9に係る特許に対して本件特許異議の申立てがされたものである。
第2 本件発明
特許第7697170号の請求項1~9の特許に係る発明(以下「本件発明1」等という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1~9に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
紙基材と、少なくとも一方の最表面にヒートシール層を有し、
前記紙基材が、厚さ30μm以上100μm以下であり、MD方向のヤング率が5GPa以上12.8GPa以下、KES法によるMD方向の曲げ剛性Bが0.10g・cm2/cm以上0.80g・cm2/cm以下であることを特徴とする軟包装材用紙(ただし、芯鞘構造繊維を含むものを除く)。
【請求項2】
前記紙基材の坪量が、20g/m2以上70g/m2以下であることを特徴とする請求項1に記載の軟包装材用紙。
【請求項3】
前記紙基材の密度が、0.5g/cm3以上0.95g/cm3以下であることを特徴とする請求項1に記載の軟包装材用紙。
【請求項4】
前記紙基材が、原紙の少なくとも一面上に、目止め層、インク受容層、耐水層、耐油層、水蒸気バリア層、ガスバリア層から選ばれる機能層を備える請求項1に記載の軟包装材用紙。
【請求項5】
前記ヒートシール層が塗工層であり、乾燥重量が片面あたり3g/m2以上20g/m2以下である請求項1に記載の軟包装材用紙。
【請求項6】
前記ヒートシール層が、エチレン-酢酸ビニル系樹脂、スチレン-アクリル酸エステル系共重合樹脂、アクリル系樹脂、エチレン-アクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリ乳酸系樹脂、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシヘキサノエート)から選ばれる熱可塑性樹脂を含むことを特徴とする請求項1に記載の軟包装材用紙。
【請求項7】
KES法によるMD方向の曲げのヒステリシス2HBが0.01g・cm/cm以上1.2g・cm/cm以下である請求項1に記載の軟包装材用紙。
【請求項8】
軟包装材用紙の一面に紙基材が露出しており、紙基材の露出している面の平滑度(王研式)が50秒以上700秒以下である請求項1に記載の軟包装材用紙。
【請求項9】
被包装物が、請求項1~8のいずれかに記載の軟包装材用紙からなる包装材に内包されていることを特徴とする軟包装体。」
第3 申立理由の概要
申立人が提出した特許異議申立書(以下「申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。
また、申立人は、下記5に示した甲第1号証~甲第8号証(それぞれ「甲1」等という。)を証拠として申立書に添付している。
1 申立理由1(サポート要件)
本件発明1~9は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、本件特許は同項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(1)申立理由1の1
本件発明1では、紙基材と少なくとも一方の最表面にヒートシール層を有する軟包装材用紙に関し、紙基材が、(i)厚さ30μm以上100μm以下であり(要件B-1)、(ii)MD方向のヤング率が5GPa以上12.8GPa以下であり(要件B-2)、(iii)KES法によるMD方向の曲げ剛性Bが0.10g・cm2/cm以上0.80g・cm2/cm以下である(要件B-3)ことが規定されている。しかし、ヒートシール層については、何ら規定されていない。本件発明1に従属する本件発明2~9も同様である。
一方で、本件の全ての実施例では、ヒートシール層は押出しラミネートによる厚さ25μmの低密度ポリエチレン層のみであり、ヒートシール層を構成する樹脂の種類、厚み、形成方法等により軟包装材用紙全体としての曲げ剛性、ヤング率等の物性が大きく変化し得ることは、当業者の技術常識であるから、あらゆる構成のヒートシール層を包含する本件発明1~9の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるものではない。
(2)申立理由1の2
本件発明の解決しようとする課題は、本件特許の願書に添付された明細書(以下「本件明細書」という。)の段落0005の記載からみて、「製袋機で製袋可能な軟包装材用紙と、この軟包装材用紙を用いた軟包装体を提供すること」であると認められる。
そして、本件発明1では、紙基材と、少なくとも一方の最表面にヒートシール層を有する軟包装材用紙に関し、紙基材が上記(要件B-1)~(要件B-3)を満たすことが規定されている。
しかしながら、本件発明の規定を満たす軟包装材用紙であっても、製袋機で製袋不可能であり、上記課題を解決できない場合があるといえるから、本件発明1~9の範囲まで拡張ないし一般化できるとはいえない。
(3)申立理由1の3
本件発明1は、本件明細書の段落0005に記載されているように、「製袋機で製袋可能な軟包装材用紙と、この軟包装材用紙を用いた軟包装体を提供すること」を課題とするところ、実施例では、特定の横ピロー包装機を用い、特定の製品ダミーを用いて、特定の軟包装体を用いて評価しているのみである。
しかし、内包する被包装物によって、包装材用紙の適した物性は異なるものである。本件発明1の軟包装用紙が、特定の条件で作成した軟包装体で良好な結果が得られたことを根拠として、全ての軟包装体に適するものではないことは明らかである。すなわち、内包物や製袋の方法等が規定されていない、全ての製袋機で製袋可能な軟包装材用紙であるとはいえない。本件発明1に従属する本件発明2~9も同様である。
したがって、あらゆる用途の軟包装材用紙を包含する本件発明1~9の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるものではない。
(4)申立理由1の4
本件発明1は、本件明細書の段落0007に記載されているように、「本発明の軟包装材用紙は、従来のプラスチック製フィルムと同様の操業条件で製袋機に通して、軟包装体を製造することができる。」という効果を奏する発明である。
しかし、詳細な説明及び実施例の記載では、樹脂製フィルムとの対比がなされていないため、操業条件を変更することなく製造できているか不明である。本件発明1に従属する本件発明2~9も同様である。
したがって、本件発明1~9の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるものではない。
(5)申立理由1の5
本件発明4は、「前記紙基材が、原紙の少なくとも一面上に、目止め層、インク受容層、耐水層、耐油層、水蒸気バリア層、ガスバリア層から選ばれる機能層を備える」ことを規定する。
本件明細書に記載された実施例において、機能層を有する実施例は、実施例5のみであるが、その実施例5は、紙基材のMD方向の曲げ剛性Bが1.76g・cm2/cmであり、本件発明1の上記要件B-3を満たさない。
したがって、本件明細書には、本件発明4を満たす実施例が記載されておらず、発明の詳細な説明に開示された内容を、本件発明4の範囲まで拡張ないし一般化できるものではない。
さらに、本件発明4に規定する機能層を設けることにより、本件発明1の要件B-1~要件B-3で規定されている紙基材の物性が変化することは、実施例1と実施例5との対比で示されている通りである。なお、実施例5では、実施例1で得られた原紙に機能層であるガスバリア層及び酸素バリア層を形成したことにより、MD方向の曲げ剛性Bが1.12g・cm2/cmから1.76g・cm2/cmに変化し、要件B-3で規定される範囲を超えるものとなっている。本件発明4に従属する本件発明9も同様である。
したがって、目止め層、インク受容層、耐水層、耐油層、水蒸気バリア層、ガスバリア層から選ばれる機能層を備えるという本件発明4、9の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるものではない。
(6)申立理由1の6
本件発明5は、「前記ヒートシール層が塗工層であり、乾燥重量が片面あたり3g/m2以上20g/m2以下である」こと(要件F)を規定する。
本件発明5は、ヒートシール層が塗工層により形成されることを規定するものであるが、本件明細書の全ての実施例において、ヒートシール層は、押出しラミネートにより設けた厚さ25μmの低密度ポリエチレン層である。なお、該ラミネート層は、乾燥重量が約23g/m2(低密度ポリエチレンの密度≒0.91g/cm3と仮定)であり、本件発明で規定する塗工層であるヒートシール層の乾燥重量の上限値を超えている。本件発明5に従属する本件発明9も同様である。
したがって、塗工層の場合にヒートシール層の乾燥重量が片面あたり3g/m2以上20g/m2以下であることを規定する本件発明5、9の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるものではない。
(7)申立理由1の7
本件発明6は、「前記ヒートシール層が、エチレン-酢酸ビニル系樹脂、スチレン-アクリル酸エステル系共重合樹脂、アクリル系樹脂、エチレン-アクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリ乳酸系樹脂、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシヘキサノエート)から選ばれる熱可塑性樹脂を含むこと」(要件G)を規定する。
本件発明6は、ヒートシール層が例示列挙された熱可塑性樹脂を含むことを規定するものであるが、本件明細書の全ての実施例において、ヒートシール層は、押出しラミネートにより設けた厚さ25μmの低密度ポリエチレン層である。ポリオレフィン系樹脂である低密度ポリエチレン層である場合が具体的に示されていたとしても、その他の熱可塑性樹脂により、本件発明の課題が解決されることは具体的に示されていない。本件発明6に従属する本件発明9も同様である。
したがって、本件発明6、9の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるものではない。
(8)申立理由1の8
本件発明9は、「被包装物が、請求項1~8のいずれかに記載の軟包装材用紙からなる包装材に内包されていることを特徴とする軟包装体」(要件L)を規定する。
本件発明9は、被包装物が、本件発明1~8のいずれかの軟包装材用紙からなる包装材に内包されていることを規定するものであるが、本件明細書においては、被包装物は何ら例示がなされていない。また、実施例においては、特定の形状の製品ダミーであるから、あらゆる被包装物を用いた場合において、本件発明の課題が解決されることは具体的に示されていない。
したがって、本件発明9の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるものではない。
2 申立理由2(明確性要件)
本件発明7及びこれに従属する本件発明9は不明確であり、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、本件特許は同項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
本件発明7は、「KES法によるMD方向の曲げのヒステリシス2HBが0.01g・cm/cm以上1.2g・cm/cm以下である」こと(要件J)を規定する。
上記KES法によるMD方向の曲げのヒステリシスは、本件発明7では、軟包装材用紙の特性として規定されているものの、本件明細書ではKES法によるMD方向の曲げは紙基材について特定しており(段落0014)、紙基材のヒステリシス2HBであるのか、軟包装材用紙のヒステリシス2HBであるのか不明であり、発明の範囲を明確に把握することができない。
本件発明7に従属する本件発明9も同様である。
3 申立理由3(実施可能要件)
本件の発明の詳細な説明は、本件発明1~9を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではなく、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、本件特許は同項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(1)申立理由3の1
本件発明1は、紙基材が、(i)厚さ30μm以上100μm以下であり(要件B-1)、(ii)MD方向のヤング率が5GPa以上12.8GPa以下であり(要件B-2)、(iii)KES法によるMD方向の曲げ剛性Bが0.10g・cm2/cm以上0.80g・cm2/cm以下である(要件B-3)ことを規定する。
上記(i)~(iii)のいずれの物性も、好ましい物性値の範囲についての記載はあるが、どのように製造すれば、物性値がどのように動くのか、(i)~(iii)の3種の物性値を本件発明1の範囲にするためにどの様にすればよいのか、全く記載されていない。本件発明1に従属する本件発明2~9も同様である。
したがって、(i)~(iii)の全てを満たす紙基材を得るためには、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤が必要であり、実施可能要件を満たさない。
(2)申立理由3の2
本件発明4は、「前記紙基材が、原紙の少なくとも一面上に、目止め層、インク受容層、耐水層、耐油層、水蒸気バリア層、ガスバリア層から選ばれる機能層を備える」ことを規定する。
本件明細書に記載された実施例において、機能層を有する実施例は、実施例5のみであるが、その実施例5は、紙基材のMD方向の曲げ剛性Bが1.76g・cm2/cmであり、本件発明1の上記要件B-3を満たさない。
本件明細書には、どのようにして、KES法によるMD方向の曲げ剛性Bが0.10g・cm2/cm以上0.80g・cm2/cm以下であり、かつ、機能層を有する紙基材を製造することができるのかについて、具体的な記載がない。本件発明4に従属する本件発明9も同様である。
したがって、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤が必要であり、実施可能要件を満たさない。
4 申立理由4(甲1を主引用例とする進歩性)
本件発明1~9は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2~5号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到し得るものであるから、本件特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
5 証拠
甲1:特開2021-70171号公報
甲2:中山秀夫、「軟包装材料(フィルム・アルミはく・紙)の試験法について」、包装技術、社団法人日本包装技術協会、1979年10月、17巻、10号、p.477-483
甲3:特開2021-70487号公報
甲4:大場富美雄、「紙の試験・評価法の動向」、紙パ技協誌、紙パルプ技術協会、1987年10月、41巻、10号、p.970-976
甲5:特開2022-24905号公報
甲6:加納直、「王研式透気度・平滑度試験機と関連試験機との測定値比較」、紙パ技協誌、紙パルプ技術協会、2008年12月、62巻、12号、p.1570-1577
甲7:特許第7355468号公報
甲8:特許第7271773号公報
第4 当審の判断
1 上記第3の1の申立理由1(サポート要件)について
特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。以下検討する。
(1)発明の課題
本件特許に係る発明が解決しようとする課題は、本件明細書の【0003】、【0005】の記載から、「ヒートシール紙は、プラスチック製フィルムと比較して物性が大きく異なるため、プラスチック製フィルムと同様の操業条件でヒートシール紙を製袋機に通すと、紙が蛇行する、破断する、得られた軟包装体に折れ・シワ等が発生する、所望の形状で製袋できない等の不具合が生じる場合があり、ラインスピードを遅くする等の操業条件を最適化する必要があった」という背景技術における問題を解決するものであって、本件明細書の【0005】の記載から、「製袋機で製袋可能な軟包装材用紙と、この軟包装材用紙を用いた軟包装体」を提供することである。
(2)発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲ものであるか否か
本件発明1は、本件特許の請求項1に記載のとおりのものであり、請求項1では、「紙基材と、少なくとも一方の最表面にヒートシール層を有し、前記紙基材が、厚さ30μm以上100μm以下であり、MD方向のヤング率が5GPa以上12.8GPa以下、KES法によるMD方向の曲げ剛性Bが0.10g・cm2/cm以上0.80g・cm2/cm以下であることを特徴とする軟包装材用紙(ただし、芯鞘構造繊維を含むものを除く)。」と規定している。
ここで、本件明細書の【0029】~【0040】には、実施例が示され、本件発明1の発明特定事項を有する実施例2~4が、本件特許に係る発明が解決しようとする課題を解決するものとして記載されている。
そして、発明の詳細な説明に「紙基材の厚さが25μm以上100μm以下であることにより、従来のプラスチック製フィルムを用いる製袋機に通すことが容易である。」(【0009】)と記載されているように、紙基材の厚さを25μm以上100μm以下とすることで、プラスチック製フィルムを用いる製袋機で製袋可能であると理解できる。また、「このヤング率が3GPa未満では、紙基材が変形しやすく、製造時のテンション(張力)により紙基材が伸びた状態で製袋されてしまうため、製袋後に縮んで縦方向の寸法にズレが生じやすくなり、また、シワが発生しやすくなる。一方、このヤング率が15GPaを超えると、製造時にテンションを大きくすることができないため、軟包装材用紙を所定のとおりに搬送できない搬送不良が起こりやすくなり、裁断間隔のずれ等が生じやすくなる。」(【0010】)との記載から、ヤング率を3GPa以上15GPa以下とすることで、紙基材が変形しにくくも、製造時にテンションを大きくすることができ、軟包装材用紙を所定のとおりに搬送できると理解できる。さらに、「この曲げ剛性Bが0.10g・cm2/cm未満では、軟包装材用紙が柔らかすぎて、軟包装体としたときに張りが無くなり、所定の包装形態を維持することが難しくなる場合がある。一方、この曲げ剛性Bが1.8g・cm2/cmを超えると、製袋時に曲げにくくなり、特に横方向の寸法が設計寸法からズレる場合がある。この曲げ剛性Bは、・・・0.8g・cm2/cm以下であることがよりさらに好ましい。」(【0015】)との記載から、曲げ剛性を0.10g・cm2/cm以上0.80g・cm2/cm以下とすることで、軟包装体としたときの張りを維持しつつ、製袋時に曲げることができ、横方向の寸法が設計寸法からズレないと理解できる。
そうすると、請求項1の記載は、上記発明が解決しようとする課題を解決できると認識できる範囲のものであると判断できる。
(3)申立人の主張について
ア 申立理由1の1について
申立人は、本件発明1は「ヒートシール層について何ら規定されていない」ものであり、「ヒートシール層を構成する樹脂の種類、厚み、形成方法等により、軟包装材用紙全体としての曲げ剛性、ヤング率等の物性が大きく変化し得ることは、当業者の技術常識である」から、「あらゆる構成のヒートシール層を包含する請求項1に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるものではな」い旨主張する。
しかしながら、上記(2)で説示したとおり、本件特許はヒートシール層を有する軟包装用紙について、紙基材の厚さ、MD方向のヤング率及びMD方向の曲げ剛性を規定することによって、上記発明が解決しようとする課題を解決できると認識できるものであり、「ヒートシール層」として採用し得るすべてのものについて検証し列挙することまでは要しないものであることはいうまでもない。
以上、申立人の上記主張は採用することができない。
イ 申立理由1の2について
申立人は、「本件と同じく、製袋機で製袋可能な軟包装材用紙及びこれを用いた軟包装体の提供であ」る「甲7の比較例1-1、2-1及び3-2並びに甲8の比較例1は、本件発明1の紙基材に関する」「規定をすべて満たし、かつ、ヒートシール層を有するものであるにも関わらず、甲7の比較例1-1、2-1、甲8の比較例1では、美粧性及び張りの評価が「3」であり、かつ、甲7の比較例3-2では、ヒートシール部位置ズレの評価が「3」であり、上述した甲7及び甲8の課題を解決できない(すなわち、製袋機で製袋不可能な)ものである」から、「本件発明の規定を満たす軟包装材用紙であっても、製袋機で製袋不可能であり、上記課題を解決できない場合があるといえる」旨主張する。
しかしながら、甲7の比較例1-1、2-1、甲8の比較例1では、本件特許の発明が解決しようとする課題を解決できると認識できるか否かを判断した評価項目である「破断」、「搬送性」、「縦方向寸法安定性」の内、「破断」、「搬送性」について評価されておらず、「縦方向寸法安定性」については評価「1」(縦方向の寸法が、いずれも設計から±3%未満)を得ている。また、甲7の比較例3-2では、「搬送性」について評価されておらず、「破断」については評価「OK」(製造中に軟包装材用紙が破断しない。)、「縦方向寸法安定性」については評価「1」(縦方向の寸法が、いずれも設計から±3%未満)を得ている。以上より、甲7の比較例1-1、2-1、3-2、甲8の比較例1が、本件特許の発明が解決しようとする課題を解決することができるものではないと判断することはできない。
以上、申立人の上記主張は採用することができない。
ウ 申立理由1の3について
申立人は、「実施例では、特定の横ピロー包装機を用い、特定の製品ダミーを用いて、特定の軟包装体を用いて評価しているのみであ」り、「内包する被包装物によって、包装材用紙の適した物性は異なるものであ」り、「本件発明1の軟包装用紙が、特定の条件で作成した軟包装体で良好な結果が得られたことを根拠として、全ての軟包装体に適するものではないことは明らかであ」るため、「内包物や製袋の方法等が規定されていない、全ての製袋機で製袋可能な軟包装材用紙であるとはいえ」ず、「あらゆる用途の軟包装材用紙を包含する請求項1に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるものではな」い旨主張する。
しかしながら、本件発明の解決する課題は「製袋機で製袋可能な軟包装材用紙」の提供であり、本件発明1の各物性を満たす軟包装材用紙とすることで、その用途に関わらず、当該課題は解決されると認められる。
そうすると、申立人の上記主張は採用することができない。
エ 申立理由1の4について
申立人は、本件発明1は、「本件段落0007に記載されているように、「本発明の軟包装材用紙は、従来のプラスチック製フィルムと同様の操業条件で製袋機に通して、軟包装体を製造することができる。」という効果を奏する発明である」が、「詳細な説明及び実施例の記載では、樹脂製フィルムとの対比がなされていないため、操業条件を変更することなく製造できているか不明であ」り、「請求項1に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるものではな」い旨主張する。
しかしながら、上記(2)で説示したとおり、本件特許はヒートシール層を有する軟包装用紙について、紙基材の厚さ、MD方向のヤング率及びMD方向の曲げ剛性を規定することによって、上記発明が解決しようとする課題を解決できると認識できるものであり、製袋機およびその製袋条件について、採用し得るすべてのものについて検証し列挙することまでは要しないものであることはいうまでもない。
以上、申立人の上記主張は採用することができない。
オ 申立理由1の5について
申立人は、「本件発明4は、「前記紙基材が、原紙の少なくとも一面上に、目止め層、インク受容層、耐水層、耐油層、水蒸気バリア層、ガスバリア層から選ばれる機能層を備える」ことを規定」し、「本件実施例において、機能層を有する実施例は、実施例5のみであるが、その実施例5は、紙基材のMD方向の曲げ剛性Bが1.76g・cm2/cmであり、本件発明1の上記要件B-3を満たさ」ず、「従って、本件明細書には、本件発明4を満たす実施例が記載されておらず、発明の詳細な説明に開示された内容を、本件発明4の範囲まで拡張ないし一般化できるものではない。」旨主張し、さらに、「本件発明4に規定する機能層を設けることにより、本件発明1の要件B-1~要件B-3で規定されている紙基材の物性が変化することは、本件実施例1と実施例5との対比で示されている通りである。なお、本件実施例5では、本件実施例1で得られた原紙に機能層であるガスバリア層及び酸素バリア層を形成したことにより、MD方向の曲げ剛性Bが1.12g・cm2/cmから1.76g・cm2/cmに変化し、要件B-3で規定される範囲を超えるものとなって」おり、「従って、目止め層、インク受容層、耐水層、耐油層、水蒸気バリア層、ガスバリア層から選ばれる機能層を備えるという請求項4に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるものではない。」旨主張する。
しかしながら、上記(2)で説示したとおり、本件特許はヒートシール層を有する軟包装用紙について、紙基材の厚さ、MD方向のヤング率及びMD方向の曲げ剛性を規定することによって、上記発明が解決しようとする課題を解決できると認識できるものであり、「機能層」として採用し得るすべてのもの、並びに、「機能層」及び「基材」の組み合わせ得るすべてのものについて検証し列挙することまでは要しないものであることはいうまでもない。
以上、本件発明4についても、上記発明が解決しようとする課題を解決できると認識できるものであり、申立人の上記主張は採用することができない。
カ 申立理由1の6について
申立人は、「本件発明5は、「前記ヒートシール層が塗工層であり、乾燥重量が片面あたり3g/m2以上20g/m2以下である」こと(要件F)を規定」し、「ヒートシール層が塗工層により形成されることを規定するものであるが、本件明細書の全ての実施例において、ヒートシール層は、押出しラミネートにより設けた厚さ25μmの低密度ポリエチレン層であ」り、「該ラミネート層は、乾燥重量が約23g/m2(低密度ポリエチレンの密度≒0.91g/cm3と仮定)であり、本件発明で規定する塗工層であるヒートシール層の乾燥重量の上限値を超えて」おり、「塗工層の場合にヒートシール層の乾燥重量が片面あたり3g/m2以上20g/m2以下であることを規定する請求項5に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるものではない。」旨主張している。
しかしながら、上記(2)で説示したとおり、本件特許はヒートシール層を有する軟包装用紙について、紙基材の厚さ、MD方向のヤング率及びMD方向の曲げ剛性を規定することによって、上記発明が解決しようとする課題を解決できると認識できるものであり、「ヒートシール層」の乾燥重量を規定するところまでは要しないところ、請求項5の記載は、特許請求の範囲を「ヒートシール層」の乾燥重量を規定することにより限定したものにすぎない。
以上、本件発明5についても上記発明が解決しようとする課題を解決できると認識できるものであり、申立人の上記主張は採用することができない。
キ 申立理由1の7について
申立人は、「本件発明6は、「前記ヒートシール層が、エチレン-酢酸ビニル系樹脂、スチレン-アクリル酸エステル系共重合樹脂、アクリル系樹脂、エチレン-アクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリ乳酸系樹脂、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシヘキサノエート)から選ばれる熱可塑性樹脂を含むこと」(要件G)を規定する」ものであり、「本件発明6は、ヒートシール層が例示列挙された熱可塑性樹脂を含むことを規定するものであるが、本件明細書の全ての実施例において、ヒートシール層は、押出しラミネートにより設けた厚さ25μmの低密度ポリエチレン層であ」り、「ポリオレフィン系樹脂である低密度ポリエチレン層である場合が具体的に示されていたとしても、その他の熱可塑性樹脂により、本件発明の課題が解決されることは具体的に示されていない」から、「本件発明6の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるものではない。」旨主張する。
しかしながら、上記(2)で説示したとおり、本件特許はヒートシール層を有する軟包装用紙について、紙基材の厚さ、MD方向のヤング率及びMD方向の曲げ剛性を規定することによって、上記発明が解決しようとする課題を解決できると認識できるものであり、「ヒートシール層」の材質を規定するところまでは要しないところ、請求項6の記載は、特許請求の範囲を「ヒートシール層」の材質を規定することにより限定したものにすぎない。
以上、本件発明6についても、上記発明が解決しようとする課題を解決できると認識できるものであり、申立人の上記主張は採用することができない。
ク 申立理由1の8について
申立人は、「本件発明9は、「被包装物が、請求項1~8のいずれかに記載の軟包装材用紙からなる包装材に内包されていることを特徴とする軟包装体」(要件L)を規定する」ものであり、「本件発明9は、被包装物が、本件発明1~8のいずれかの軟包装材用紙からなる包装材に内包されていることを規定するものであるが、本件明細書においては、被包装物は何ら例示がなされていない。また、実施例においては、特定の形状の製品ダミーであるから、あらゆる被包装物を用いた場合において、本件発明の課題が解決されることは具体的に示されていない」から「請求項9に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるものではない。」旨主張している。
しかしながら、上記(2)で説示したとおり、本件特許はヒートシール層を有する軟包装用紙について、紙基材の厚さ、MD方向のヤング率及びMD方向の曲げ剛性を規定することによって、上記発明が解決しようとする課題を解決できると認識できるものであり、「被包装物」として採用し得るすべてのものについて検証し列挙することまでは要しないものであることはいうまでもない。
以上、本件発明9についても、上記発明が解決しようとする課題を解決できると認識できるものであり、申立人の上記主張は採用することができない。
(4)小括
よって、本件特許は、特許法第36条第6項第1号の要件を満たしている。
2 上記第3の2の申立理由2(明確性要件)について
請求項に係る発明が明確に把握されるためには、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという規範で判断され、すなわち、ある具体的な物や方法が請求項に係る発明の範囲に入るか否かを当業者が理解できるように記載されていることが必要である。以下検討する。
(1)本件発明7の範囲にある具体的な物や方法が入るか否かを当業者が理解できるか否か
請求項1は記載として明確であり、ある具体的な物が請求項1に係る発明の範囲に入るか否かを判断することができるものである。
また、請求項1を引用する請求項7についても、同様である。
ここで、本件明細書の【0014】、【0016】を参酌すると、「KES法によるMD方向の曲げのヒステリシス2HBが0.01g・cm/cm以上1.2g・cm/cm以下である」主体は「紙基材」であると理解できるものである。
そうすると、ある具体的な物が請求項に係る発明の範囲に入るか否かを当業者が理解できるものであり、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえないから、明確性要件に適合するといえる。
(2)申立人の主張について
申立人は、「本件発明7は、「KES法によるMD方向の曲げのヒステリシス2HBが0.01g・cm/cm以上1.2g・cm/cm以下である」こと(要件J)を規定する」が、「上記KES法によるMD方向の曲げのヒステリシス2HB(以下、単に「ヒステリシス2HB」といもいう)は、本件発明7では、軟包装材用紙の特性として規定されているものの、明細書からはKES法によるMD方向の曲げは紙基材について特定しており(本件明細書段落0014)、紙基材のヒステリシス2HBであるのか、軟包装材用紙のヒステリシス2HBであるのか不明であり、発明の範囲を明確に把握することができない。」旨主張している。
しかしながら、上記(1)で示したとおり、本件明細書を参酌すれば、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえず、明確性要件に適合するといえる。
よって、申立人の上記主張は採用することができない。
(3)小括
よって、本件特許は、特許法第36条第6項第2号の要件を満たしている。
3 上記第3の3の申立理由3(実施可能要件)について
物の発明について実施可能要件を満たすためには、明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が、その記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、当該発明に係る物を作り、使用をすることができる程度のものでなければならない。以下検討する。
(1)発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明を実施できるものであるか否か
本件発明1が、本件特許の請求項1に記載のとおりのものであるところ、本件明細書の【0029】~【0040】には、実施例が示され、本件発明1の発明特定事項を有する実施例2~4が、本件特許に係る発明が解決しようとする上記課題を解決するものとして記載されている。
これらの記載を参酌することにより、当業者が、その記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、本件発明1を実施できるものである。
また、本件明細書の【0033】~【0034】に示された実施例5は、実施例1に「水蒸気バリア層」及び「ガスバリア層」を機能層として塗工したものである。そして、【0039】【表1】を踏まえると、機能層を塗工することにより、紙基材の厚み、MD方向のヤング率、KES法によるMD方向の曲げ剛性Bはいずれも増加することが、当業者に理解される。また、塗工量を調整することによって、厚みを増減できることは技術常識である。
そうすると、本件発明1を引用する本件発明4を実施するには、本件発明1の発明特定事項を有する実施例2~4に対して機能層を設けるよう構成し、その際、本件発明1の各物性を逸脱しないように、塗工量を調整すればよいことは、当業者が当然に把握し得る事項である。
よって、これらの記載を参酌することにより、当業者が、その記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、本件発明4を実施できるものである。
(2)申立人の主張について
ア 申立理由3の1について
申立人は、「本件発明1は、紙基材が、(i)厚さ30μm以上100μm以下であり(要件B-1)、(ii)MD方向のヤング率が5GPa以上12.8GPa以下であり(要件B-2)、(iii)KES法によるMD方向の曲げ剛性Bが0.10g・cm2/cm以上0.80g・cm2/cm以下である(要件B-3)ことを規定する」が、「上記(i)~(iii)のいずれの物性も、好ましい物性値の範囲についての記載はあるが、どのように製造すれば、物性値がどのように動くのか、(i)~(iii)の3種の物性値を本件発明1の範囲にするためにどの様にすればよいのか、全く記載されていない」から、「(i)~(iii)の全てを満たす紙基材を得るためには、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤が必要であり、実施可能要件を満たさない」旨主張する。
しかしながら、上記(1)で示したとおり、本件発明1の発明特定事項を有する実施例2~4について、【0030】~【0032】を参酌することにより、当業者が、その記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、本件発明1を実施できるものである。
よって、申立人の上記主張は採用することができない。
イ 申立理由3の2について
申立人は、「本件発明4は、「前記紙基材が、原紙の少なくとも一面上に、目止め層、インク受容層、耐水層、耐油層、水蒸気バリア層、ガスバリア層から選ばれる機能層を備える」ことを規定する」が、「本件実施例において、機能層を有する実施例は、実施例5のみであるが、その実施例5は、紙基材のMD方向の曲げ剛性Bが1.76g・cm2/cmであり、本件発明1の上記要件B-3を満たさない」ものであり、「明細書中には、どのようにして、KES法によるMD方向の曲げ剛性Bが0.10g・cm2/cm以上0.80g・cm2/cm以下であり、かつ、機能層を有する紙基材を製造することができるのかについて、具体的な記載がない」から、「当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤が必要であり、実施可能要件を満たさない。」旨主張する。
しかしながら、上記(1)で示したとおり、本件発明1を引用する本件発明4を実施するには、本件発明1の発明特定事項を有する実施例2~4に対して機能層を設けるよう構成し、その際、本件発明1の各物性を逸脱しないように、塗工量を調整すればよいことは、当業者が当然に把握し得る事項である。
よって、申立人の上記主張は採用することができない。
(4)小括
よって、本件特許は、特許法第36条第4項第1号の要件を満たしている。
4 上記第3の4の申立理由4について
(1)甲号証の記載について
ア 甲1について
(ア)甲1の記載
甲1には、以下の記載がある。下線は当審で付した。「・・・」は省略を示す。以下同様。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙基材上に、スチレンアクリル酸エステル系共重合樹脂を含有するヒートシール層を有することを特徴とするヒートシール紙。
【請求項2】
前記ヒートシール層が、塗工層であることを特徴とする請求項1に記載のヒートシール紙。
【請求項3】
前記ヒートシール層の塗工量(乾燥重量)が、片面あたり3g/m2以上20g/m2以下であることを特徴とする請求項2に記載のヒートシール紙。
【請求項4】
前記紙基材の坪量が、20g/m2以上600g/m2以下であることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載のヒートシール紙。
【請求項5】
前記紙基材の坪量が、30g/m2以上150g/m2以下であることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載のヒートシール紙。
【請求項6】
前記紙基材の密度が、0.5g/cm3以上1.0g/cm3以下であることを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載のヒートシール紙。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明は、特に食品などの包装材、袋、容器、箱、カップ、蓋材など、包装用途に好適に用いられる、ヒートシール適性を有すると共にリサイクル時の離解性が良好なヒートシール紙を提供することを目的とする。
・・・
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、包装用途に好適に用いられる、ヒートシール適性を有すると共にリサイクル時の離解性が良好なヒートシール紙を提供することができる。
・・・
【0008】
(紙基材)
本発明において紙基材とは、主としてパルプからなるシート(以下、「基紙」ともいう。)であり、更に填料、各種助剤等を含む紙料を抄紙して得られる。
パルプとしては、広葉樹漂白クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹未漂白クラフトパルプ(LUKP)、針葉樹未漂白パルプ(NUKP)、サルファイトパルプなどの化学パルプ、ストーングラインドパルプ、サーモメカニカルパルプなどの機械パルプ、脱墨パルプ、古紙パルプなどの木材繊維、ケナフ、竹、麻などから得られた非木材繊維などを用いることができ、適宜配合して用いることが可能である。これらの中でも、基紙中への異物混入が発生し難いこと、使用後の紙容器を古紙原料に供してリサイクル使用する際に経時変色が発生し難いこと、高い白色度を有するため印刷時の面感が良好となり、特に包装材料として使用した場合の使用価値が高くなることなどの理由から、木材繊維の化学パルプ、機械パルプを用いることが好ましく、化学パルプを用いることがより好ましい。具体的には、LBKP、NBKP等の化学パルプの配合量が80%以上であることが好ましく、化学パルプの配合量が100%であることが特に好ましい。」
「【0014】
紙基材の坪量は、所望される各種品質や取り扱い性等により適宜選択可能であるが、通常は20g/m2以上600g/m2以下のものが好ましい。食品などの包装材、袋、容器、箱、カップ、蓋材など、包装用途に使用するヒートシール紙の場合は、25g/m2以上600g/m2以下のものがより好ましく、特に袋、蓋材、または後述する軟包装材用途に使用するヒートシール紙の場合は、30g/m2以上150g/m2以下のものがより好ましい。
また、紙基材の密度は、所望される各種品質や取り扱い性等により適宜選択可能であるが、通常は0.5g/cm3以上1.0g/cm3以下のものが好ましい。
【0015】
(ヒートシール層)
本発明において、紙基材上に、スチレンアクリル酸エステル系共重合樹脂を含有するヒートシール層を有する。ヒートシール層は、ヒートシール紙の両面に設けることもできるが、少なくとも片面に有する。
ヒートシール層はヒートシール適性を付与する層であり、具体的には、加熱、加圧することで接着対象に接着することができる層である。ヒートシール適性を有することにより、特に食品などの包装材、袋、容器、箱、カップ、蓋材など、包装用途において、包装形態への成形や形状の維持、密封性の確保などが容易となる。
【0016】
本発明において、ヒートシール層は塗工層であることが好ましい。ヒートシール層を塗工層とすることで、押出しラミネート法等による積層よりも製造効率が向上すると共に、リサイクル性が良好となる。
【0017】
ヒートシール層の塗工方法は特に限定されるものではなく、公知の塗工装置および塗工系で塗工することができる。例えば、塗工装置としてはブレードコーター、バーコーター、エアナイフコーター、カーテンコーター、スプレーコーター、ロールコーター、リバースロールコーター、サイズプレスコーター、ゲートロールコーター等が挙げられる。また、塗工系としては、水等の溶媒を使用した水系塗工、有機溶剤等の溶媒を使用した溶剤系塗工などが挙げられる。本発明のヒートシール紙は、食品等と接触する用途に用いられる場合があるため、水系塗工であることが、食品安全性の点から好ましい。
【0018】
ヒートシール層の塗工量(乾燥重量)は、片面あたり3g/m2以上20g/m2以下であることが好ましい。塗工量が片面あたり3g/m2未満では、ヒートシール適性が低下する。また、塗工量が片面あたり20g/m2を超えてもヒートシール適性はほとんど向上せず、コストが増加する。ヒートシール層は、1層であってもよく、2層以上の多層で構成してもよい。ヒートシール層を2層以上の多層で構成する場合は、全てのヒートシール層を合計した塗工量を上記範囲とすることが好ましい。
【0019】
本発明のヒートシール紙は、食品などの包装材、袋、容器、箱、カップ、蓋材などの包装用途に用いられるヒートシール紙とすることが可能である。これらの中で、食品などの袋、蓋材、軟包装材として好適に使用することができる。なお、軟包装材とは、構成としては、柔軟性に富む材料で構成されている包装材であり、一般には紙、フィルム、アルミ箔等の薄く柔軟性のある材料を、単体あるいは貼り合せた包装材を指す。また、形状としては、袋など、内容物を入れることにより立体形状を保つような包装材を指す。」
「【0022】
[実施例1]
(紙基材の作製)
カナダ式標準ろ水度(CSF)500mlの広葉樹クラフトパルプ(LBKP)とCSF530mlの針葉樹クラフトパルプ(NBKP)を80/20の重量比で配合して、原料パルプとした。
原料パルプに、乾燥紙力増強剤として分子量250万のポリアクリルアミド(PAM)を対絶乾パルプ重量あたり0.1%、サイズ剤としてアルキルケテンダイマー(AKD)を対絶乾パルプ重量あたり0.35%、湿潤紙力増強剤としてポリアミドエピクロロヒドリン(PAEH)系樹脂を対絶乾パルプ重量あたり0.15%、さらに歩留剤として分子量1000万のポリアクリルアミド(PAM)を対絶乾パルプ重量あたり0.08%添加した後、デュオフォーマーFM型抄紙機にて300m/minの速度で抄紙し、坪量39g/m2の原紙を得た。
次いで、得られた原紙に固形分濃度2%に調製したポリビニルアルコール(クラレ社製、PVA117)をロッドメタリングサイズプレスで、両面合計で1.0g/m2塗工、乾燥し、次いで、チルドカレンダーを用いて平滑処理を行い、坪量40g/m2、密度0.75g/cm3の紙基材を得た。
【0023】
(ヒートシール紙の作製)
得られた紙基材上に、スチレンアクリル酸エステル系共重合樹脂(第一塗料社製、ハービルHS-1)を乾燥重量で塗工量10.0g/m2となるようバーブレードコーターを用いて片面塗工、乾燥し、ヒートシール紙を得た。」
「【0025】
【表1】
[図:0001434206000001.jpg]
【0026】
表1に示されるように、実施例1~3のヒートシール紙はヒートシール適性を有すると共にリサイクル時の離解性が良好であった。」
(イ)甲1に記載されていると認められる事項
実施例1の紙基材は「坪量40g/m2、密度0.75g/cm3」であり、厚さ=坪量/密度の関係を踏まえると、実施例1の紙基材の厚さは、(40g/m2)/(0.75g/cm3×1003)=約0.0000533(m)=約53.3μmであると認められる。
(ウ)甲1発明
上記(ア)及び(イ)より、甲1には、特に実施例1に着目すると、以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる(なお、括弧内は特に関連する箇所である。以下同様。)。
「カナダ式標準ろ水度(CSF)500mlの広葉樹クラフトパルプ(LBKP)とCSF530mlの針葉樹クラフトパルプ(NBKP)を80/20の重量比で配合して、原料パルプとし、原料パルプに、乾燥紙力増強剤として分子量250万のポリアクリルアミド(PAM)を対絶乾パルプ重量あたり0.1%、サイズ剤としてアルキルケテンダイマー(AKD)を対絶乾パルプ重量あたり0.35%、湿潤紙力増強剤としてポリアミドエピクロロヒドリン(PAEH)系樹脂を対絶乾パルプ重量あたり0.15%、さらに歩留剤として分子量1000万のポリアクリルアミド(PAM)を対絶乾パルプ重量あたり0.08%添加した後、デュオフォーマーFM型抄紙機にて300m/minの速度で抄紙し、坪量39g/m2の原紙を得て、次いで、得られた原紙に固形分濃度2%に調製したポリビニルアルコール(クラレ社製、PVA117)をロッドメタリングサイズプレスで、両面合計で1.0g/m2塗工、乾燥し、次いで、チルドカレンダーを用いて平滑処理を行い、坪量40g/m2、密度0.75g/cm3の紙基材を得て(【0022】)、当該紙基材は、厚さが約53.3μmであり(上記(イ))、得られた紙基材上に、スチレンアクリル酸エステル系共重合樹脂(第一塗料社製、ハービルHS-1)を乾燥重量で塗工量10.0g/m2となるようバーブレードコーターを用いて片面塗工、乾燥し、得た、ヒートシール紙(【0023】)。」
イ 甲2について
(ア)甲2の記載
甲2には、以下の記載がある。
「
[図:0001434206000002.jpg]
[図:0001434206000003.jpg]
[図:0001434206000004.jpg]
」(第479~480ページ「2.2 機械適性と物性」)
「
[図:0001434206000005.jpg]
[図:0001434206000006.jpg]
」(第480ページ「2.2.2 腰の強さ」)
(イ)甲2記載事項
上記(ア)より、甲2には以下の事項(以下「甲2記載事項」という。)が記載されていると認められる。
「包装機へのかかり易さは、軟質包装材料において、包装の適応性を支配するもっとも大きなファクターであり(「2.2 機械適性と物性」)、曲げ抵抗である腰の強さが、軟質包装材料の機械へのかかり易さの特性要因の一つである(「2.2 機械適性と物性」及び「2.2.2 腰の強さ」)と共に、包装されたものの堅さ、あるいはだぶつき、たるみなどの外観にも関係する(「2.2.2 腰の強さ」)こと。」
ウ 甲3について
(ア)甲3の記載
甲3には、以下の記載がある。
「【0008】
本発明の発明者らは、上記課題に鑑み、鋭意研究を行った。その結果、紙製品、例えばティッシュペーパーのような柔らかい製品を被包装物とし、包装基材として紙系素材を選択した場合、本来は柔らかい製品を包装しにくい紙系の包装基材であっても、包装基材のMD方向の曲げこわさを特定の数値範囲にすることで、柔らかい製品を実用的に良好に包装することが可能となり、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は、以下のものを提供する。」
「【0015】
2.包装基材
(1)紙基材
包装基材は、少なくとも紙基材を有している。紙基材には、包装体として形成された際、外面側に印刷が施されていてもよい。また、紙基材は、防水性の確保のために、オーバーコートが施されたオーバーコート紙であってもよい。」
「【0025】
(2)ヒートシール層
本発明の包装体において、包装基材は、通常、ヒートシール層を備えることが好ましい。ヒートシール層は、紙基材の全面に形成されていても、表面の一部、例えば、紙基材同士が積層・接合される部分にのみ形成されていてもよい。紙基材の表面においてヒートシール層を形成する位置、大きさ、及びヒートシール層が占める割合は適宜設定することができる。」
「【0037】
(5)包装基材全体の物性、形状、その他
本発明の包装体においては、包装基材のMD方向の曲げこわさは、20μN・m以上330μN・m以下である。このような紙基材を含み、特定のMD方向の曲げこわさを有する包装基材を用いた包装体は従来にはなく、この特定の包装基材を用いることで、必要とされる包装基材のしなやかさと柔らかさ、強度のすべてを達成でき、その結果として、紙製品等の柔らかい製品(被包装物)を実用的に良好に包装することが可能になった。
・・・
【0038】
包装基材のMD方向の曲げこわさは、30μN・m以上225μN・m以下であることがより好ましく、60μN・m以上170μN・m以下であることがさらに好ましい。包装基材の曲げこわさは、ISO 2493に準拠して測定することができる。なお、曲げこわさは、繊維の長軸方向に負荷がかかる場合において最も強くなるため、繊維配向比が1.0に近いと、MD方向の曲げこわさは小さくなる傾向がある。」
「【0062】
(包装基材のMD方向の曲げこわさの測定)
包装基材のMD方向の曲げこわさは、ISO 2493に記載された方法に準拠し、L&W ベンディングテスター(Lorentzen & Wettre社製)を用いて測定を行った。包装基材は、幅38mm、長さ100mmの試験片について、曲げ角度を15度、曲げ長(試料台のスパン)を10mmとしたときの測定値を曲げ抵抗(荷重)とし、次の算出式によって曲げこわさ(μN・m)を求めた。
曲げこわさ(μN・m)=60×曲げ抵抗(mN)×曲げ長10(mm)2÷(π×曲げ角度15(°)×サンプル幅38(mm))
なお、長さ100mmの試験片を採取できない場合は、試験片の長さを短くすることができる。また、試験片は、取り出し口のミシン目を含まないようにするが、試験片のサイズを確保する上でミシン目を含まなければならないときは、ミシン目を含んでも良い。
【0063】
(実施例1)
(包装基材)
パルプ原料として針葉樹未晒クラフトパルプ(NUKP)100重量%を用いた紙基材を用意した。そして、紙基材上に、ヒートシール層として、ポリエチレン層を押出法によって製膜し、包装基材を作製した。作製した包装基材の坪量、紙基材の坪量、及びヒートシール層の坪量と、包装基材の厚さ、密度、及びMD方向の曲げこわさを測定した結果を表1に示す。」
「【0067】
【表1】
[図:0001434206000007.jpg]
【0068】
表1に示される結果から明らかなとおり、包装基材のMD方向の曲げこわさが20μN・m以上330μN・m以下である実施例1~10の包装体は、柔らかい被包装物(ティッシュペーパー)に対する包装しやすさに優れていた。」
(イ)甲3記載事項
上記(ア)より、甲3には以下の事項(以下「甲3記載事項」という。)が記載されていると認められる。
「少なくとも紙基材とヒートシール層とを有している包装基材(【0015】、【0025】)において、ISO 2493に記載された方法に準拠し、L&W ベンディングテスター(Lorentzen & Wettre社製)を用いて測定(【0062】)される包装基材のMD方向の曲げこわさを、20μN・m以上330μN・m以下とすることで、必要とされる包装基材のしなやかさと柔らかさ、強度のすべてを達成し、その結果として、紙製品等の柔らかい製品(被包装物)を実用的に良好に包装することが可能になったこと(【0037】、【0063】、【0067】【表1】、【0068】)。」
エ 甲4について
(ア)甲4の記載
甲4には、以下の記載がある。
「
[図:0001434206000008.jpg]
[図:0001434206000009.jpg]
」(第970~971ページ「2.紙の曲げこわさ試験方法-純曲げ試験機その他-」)
(イ)周知事項について
上記(ア)の甲4の記載より、以下の事項は周知である(以下「周知技術」という。)と認められる。
「紙の曲げこわさ試験方法として、試験片全体を一定曲率(円弧状)に曲げ、その曲率を等速で変化させながら、微小な曲げモーメントを検出し、曲率-曲げモーメント図をつくり、その傾斜から曲げこわさB、また往路・復路の幅より曲げヒステリシスHBが求めること。」
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明を対比する。
・甲1発明の「紙基材」、「ヒートシール紙」は、本件発明1の「紙基材」、「軟包装材用紙」にそれぞれ相当する。また、甲1発明の「スチレンアクリル酸エステル系共重合樹脂(第一塗料社製、ハービルHS-1)を乾燥重量で塗工量10.0g/m2となるようバーブレードコーターを用いて」「塗工、乾燥」された層は、本件発明1の「ヒートシール層」に相当する。さらに、甲1発明の「スチレンアクリル酸エステル系共重合樹脂(第一塗料社製、ハービルHS-1)」が「片面塗工」される「片面」は、本件発明1の「最表面」に相当する。そうすると、甲1発明の「紙基材上に、スチレンアクリル酸エステル系共重合樹脂(第一塗料社製、ハービルHS-1)を乾燥重量で塗工量10.0g/m2となるようバーブレードコーターを用いて片面塗工、乾燥し」た「ヒートシール紙」は、本件発明1の「紙基材と、少なくとも一方の最表面にヒートシール層を有し」た「軟包装材用紙」に相当する。
・甲1発明は「紙基材は、厚さが約53.3μmであ」るから、本件発明1の「前記紙基材が、厚さ30μm以上100μm以下であ」る構成を満たす。
・甲1発明の「紙基材」は「カナダ式標準ろ水度(CSF)500mlの広葉樹クラフトパルプ(LBKP)とCSF530mlの針葉樹クラフトパルプ(NBKP)を80/20の重量比で配合して、原料パルプとし、原料パルプに、乾燥紙力増強剤として分子量250万のポリアクリルアミド(PAM)を対絶乾パルプ重量あたり0.1%、サイズ剤としてアルキルケテンダイマー(AKD)を対絶乾パルプ重量あたり0.35%、湿潤紙力増強剤としてポリアミドエピクロロヒドリン(PAEH)系樹脂を対絶乾パルプ重量あたり0.15%、さらに歩留剤として分子量1000万のポリアクリルアミド(PAM)を対絶乾パルプ重量あたり0.08%添加した後、デュオフォーマーFM型抄紙機にて300m/minの速度で抄紙し、坪量39g/m2の原紙を得て、次いで、得られた原紙に固形分濃度2%に調製したポリビニルアルコール(クラレ社製、PVA117)をロッドメタリングサイズプレスで、両面合計で1.0g/m2塗工、乾燥し、次いで、チルドカレンダーを用いて平滑処理を行」うことで得られるから、本件発明1の「ただし、芯鞘構造繊維を含むものを除く」という特定を充足する。
そうすると、本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「紙基材と、少なくとも一方の最表面にヒートシール層を有し、
前記紙基材が、厚さ30μm以上100μm以下である軟包装材用紙(ただし、芯鞘構造繊維を含むものを除く)。」
<相違点1>
紙基材のМD方向のヤング率について、本件発明1は「5GPa以上12.8GPa以下」であるのに対して、甲1発明はどのような値か不明な点。
<相違点2>
紙基材のKES法によるMD方向の曲げ剛性Bについて、本件発明1は「0.10g・cm2/cm以上0.80g・cm2/cm以下」であるのに対して、甲1発明はどのような値か不明な点。
イ 判断
事案に鑑み相違点2について検討する。
甲2には、上記(1)イ(イ)で示したとおりの甲2記載事項が記載されている。ここで、甲2には、紙基材のKES法によるMD方向の曲げ剛性Bに関する記載も示唆もなく、包装機へのかかり易さを考慮して、甲1発明に甲2記載事項を適用したとしても、その値を本件発明1の数値範囲とすることは容易想到ではない。
その他、紙基材のKES法によるMD方向の曲げ剛性Bについて、本件発明1の数値範囲とすることについて、提示されたいずれの証拠にも記載されていない。
加えて、本件明細書の【0015】には「曲げ剛性Bは、値が小さいほど柔らかいことを示す。この曲げ剛性Bが0.10g・cm2/cm未満では、軟包装材用紙が柔らかすぎて、軟包装体としたときに張りが無くなり、所定の包装形態を維持することが難しくなる場合がある。一方、この曲げ剛性Bが1.8g・cm2/cmを超えると、製袋時に曲げにくくなり、特に横方向の寸法が設計寸法からズレる場合がある。この曲げ剛性Bは、0.2g・cm2/cm以上であることがより好ましく、0.3g・cm2/cm以上であることがさらに好ましく、0.4g・cm2/cm以上であることがよりさらに好ましく、また、1.7g・cm2/cm以下であることがより好ましく、1.5g・cm2/cm以下であることがさらに好ましく、1.2g・cm2/cm以下であることがよりさらに好ましく、1.0g・cm2/cm以下であることがよりさらに好ましく、0.8g・cm2/cm以下であることがよりさらに好ましい。」旨記載されており(ただし下線は当審で付した。)、【0039】【表1】も踏まえると、本件発明1は、曲げ剛性Bの数値範囲を0.10g・cm2/cm以上0.80g・cm2/cm未満とすることにより、軟包装材用紙が柔らかすぎず、軟包装体としたときに張りを有し、所定の包装形態を維持することが難しくなく、製造時に曲げにくくなく、横方向の寸法が設計寸法からズレにくいという、格別顕著な効果を得られるものと認められる。そして、本件発明1の当該効果は、提示されたいずれの証拠にも記載も示唆もされておらず、当業者が予測し得たとは到底認められない。
したがって、甲1発明において、相違点2に係る本件発明1の構成とすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲2~甲4に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)本件発明2~9について
本件発明2~9は、直接的または間接的に本件発明1を引用し、本件発明1の発明特定事項を全て有したうえでさらに限定する発明である。
したがって、上記(2)に示したことと同様に、本件発明2~9は、甲1発明、及び、甲2~甲4または甲2~甲5に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)小括
よって、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。
第5 むすび
したがって、申立書に記載された特許異議申立理由及び証拠によっては、請求項1~9に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1~9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2025-701171