特許異議申立
2023-701180
軟包装材用紙、および軟包装体
- 審判番号
- 2023-701180
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-140630
- 登録番号
- 7271773
- 請求日
- 2023年11月08日
- 審決日
- 2026年01月13日
- 公報発行日
- 2026年05月29日
- 結論
- 請求成立(取消)
- 当事者
- 【権利者】日本製紙株式会社
- 【権利者代理人】山田 泰之
- 【権利者代理人】中村 理弘
- 【異議申立人】亀崎 伸宏
- 【異議申立人】齊藤 恵美子
- 【異議申立人】岡田 純子
- 審判長/審判官
- 審判長 田口 傑
- 審判官 藤井 眞吾
- 審判官 神山 茂樹
- 分類
- P1651.121-ZAA(B32B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第2項、特許法第113条第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7271773号発明「軟包装材用紙、および軟包装体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7271773号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~4〕について訂正することを認める。
特許第7271773号の請求項1~4に係る特許を取り消す。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7271773号(以下「本件特許」という。)の請求項1~4に係る特許についての出願は、令和4年6月14日(優先権主張 令和4年3月18日)に出願された特願2022-95488号の一部を、令和4年9月5日に新たな特許出願としたものであって、令和5年4月28日に特許権の設定登録(特許掲載公報 令和5年5月11日発行)がされた。本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和5年11月 8日 :特許異議申立人亀崎伸宏(以下「申立人1」という。)による請求項1~4に係る特許に対する特許異議の申立て
令和5年11月 9日 :特許異議申立人齊藤恵美子(以下「申立人2」という。)による請求項1~4に係る特許に対する特許異議の申立て
令和5年11月 9日 :特許異議申立人岡田純子(以下「申立人3」という。)による請求項1~4に係る特許に対する特許異議の申立て
令和6年 2月 2日付け:取消理由通知書
令和6年 4月 4日 :特許権者による意見書の提出及び訂正の請求
令和6年 5月21日 :申立人1による意見書の提出
令和6年 5月22日 :申立人3による意見書の提出
令和6年 5月23日 :申立人2による意見書の提出
令和6年10月 1日付け:取消理由通知書(決定の予告)
令和6年12月 6日 :特許権者による意見書の提出
令和7年 1月30日 :申立人3による上申書の提出
令和7年 6月26日付け:取消理由通知書(決定の予告)
令和7年 8月28日 :特許権者による意見書の提出及び訂正の請求
令和7年10月14日 :申立人1による意見書の提出
令和7年10月16日 :申立人3による意見書の提出
令和7年10月17日 :申立人2による意見書の提出
なお、令和6年4月4日に提出された訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。
第2 訂正請求について
1.訂正の内容
令和7年8月28日提出の訂正請求書(以下「本件訂正請求書」という。)による訂正の請求(以下、訂正自体を「本件訂正」という。)は、特許第7271773号の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~4について訂正することを求めるものであり、その訂正の内容は、次の訂正事項を含むものである。なお、下線は、当審が訂正箇所に付したものである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「紙基材と、少なくとも一方の最表面にヒートシール層を有し、」
と記載されているのを、
「紙基材と、少なくとも一方の最表面にヒートシール層を有し、
前記ヒートシール層が、ラミネート層であり、」に訂正する。
(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2~4も同様に訂正する。)
(2)一群の請求項
訂正前の請求項2~4は、本件訂正請求の対象である請求項1を引用しているため、一群の請求項〔1~4〕に対して請求されたものである。
2 訂正の目的、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項1は、訂正前の請求項1にけるヒートシール層を「ラミネート層」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項1が、本件特許の願書に添付した明細書(以下「本件特許明細書」という。)、特許請求の範囲又は図面(以下「本件特許明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてするものであるか否かについて検討すると、ヒートシール層をラミネート層とすることが本件特許明細書の【0025】に、押出ラミネートとすることが同【0029】~【0035】に記載にされており、訂正事項1は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
また、訂正事項1は、発明のカテゴリーや対象を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
3.本件訂正請求についてのまとめ
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、本件訂正後の請求項〔1~4〕について訂正を認める。
第3 本件発明
上記のとおり、本件訂正請求が認められるから、本件特許の請求項1~4に係る発明(以下「本件発明1」等という。)は、それぞれ、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~4に記載された、次のとおりのものである。
「【請求項1】
紙基材と、少なくとも一方の最表面にヒートシール層を有し、
前記ヒートシール層が、ラミネート層であり、
前記紙基材が、パルプ全体に対する化学パルプの配合量が100重量%であり、厚さ25μm以上100μm以下であり、KES法によるMD方向の曲げ剛性Bが0.2g・cm2/cm以上1.8g・cm2/cm以下であることを特徴とする軟包装材用紙(ただし、芯鞘構造繊維を含むものを除く)。
【請求項2】
前記紙基材の坪量が、20g/m2以上70g/m2以下であることを特徴とする請求項1に記載の軟包装材用紙。
【請求項3】
前記紙基材の密度が、0.5g/cm3以上0.95g/cm3以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の軟包装材用紙。
【請求項4】
被包装物が、請求項1または2に記載の軟包装材用紙からなる包装材に内包されていることを特徴とする軟包装体。」
第4 取消理由通知書(決定の予告)に記載した取消理由について
当審が令和7年6月26日付けの取消理由通知書(決定の予告)により特許権者に通知した取消理由の概要は、以下を含むものである。
取消理由(進歩性)
請求項1~4に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
引用文献一覧
引用文献1:特開2022-24905号公報(申立人1が令和6年5月21日の意見書とともに提出した参考資料2)
引用文献2:加納直、「王研式透気度・平滑度試験機と関連試験機との測定値比較」、[online]、2008年12月、紙パ技協誌第62巻第12号、1570~1577頁、[令和7年5月23日検索]、インターネット<https://www.jstage.jst.go.jp/article/jtappij/62/12/62_12_1570/_pdf>(当審において発見したもの)
甲第1号証:特開2021-70171号公報(申立人3が特許異議申立書とともに提出したもの)
甲第2号証:特開2022-18160号公報(同上)
甲第3号証:特開2022-18163号公報(同上)
甲第4号証:特開2022-18167号公報(同上)
第5 当審の判断
引用文献一覧
甲第1号証:特開2021-70171号公報(申立人3が特許異議申立書とともに提出したもの)
甲第2号証:特開2022-18160号公報(同上)
甲第3号証:特開2022-18163号公報(同上)
甲第4号証:特開2022-18167号公報(同上)
甲第11号証:特開2021-50013号公報(申立人3が令和7年10月16日の意見書とともに提出したもの)
甲第12号証:鈴木直純、「押出ラミネート包装に四半世紀携わって」、日本包装学会誌、日本包装学会、Vol.20、No.6(2011)、530~538頁(同上)
以下、申立人3が提出した甲第1号証を「甲1」といい、他も同様にいう。
1 引用文献の記載、引用発明等
(1)甲1について
ア 甲1の記載
甲1には以下の記載がある。
「【請求項1】
紙基材上に、スチレンアクリル酸エステル系共重合樹脂を含有するヒートシール層を有することを特徴とするヒートシール紙。
【請求項2】
前記ヒートシール層が、塗工層であることを特徴とする請求項1に記載のヒートシール紙。」
「【0002】
従来から、紙製の包装材料を食品などの包装材、袋、容器、箱、カップ、蓋材などに成形する場合、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン系樹脂に代表される熱可塑性樹脂を押出しラミネート法等により包装材料に積層させ、ヒートシール適性を付与することが一般に行われている(特許文献1等)。しかしながら、これらの熱可塑性樹脂を積層させた紙製の包装材料は、リサイクル時の離解性が劣るため、一般的にはリサイクル不能である禁忌品として扱われており、古紙原料として回収、リサイクルすることができない。
・・・
【0004】
そこで、本発明は、特に食品などの包装材、袋、容器、箱、カップ、蓋材など、包装用途に好適に用いられる、ヒートシール適性を有すると共にリサイクル時の離解性が良好なヒートシール紙を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下の〔1〕~〔6〕を提供するものである。
〔1〕紙基材上に、スチレンアクリル酸エステル系共重合樹脂を含有するヒートシール層を有することを特徴とするヒートシール紙。
〔2〕前記ヒートシール層が、塗工層であることを特徴とする〔1〕に記載のヒートシール紙。
・・・
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、包装用途に好適に用いられる、ヒートシール適性を有すると共にリサイクル時の離解性が良好なヒートシール紙を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明は、紙基材上に、スチレンアクリル酸エステル系共重合樹脂を含有するヒートシール層を有することを特徴とするヒートシール紙に関するものである。」
「【0016】
本発明において、ヒートシール層は塗工層であることが好ましい。ヒートシール層を塗工層とすることで、押出しラミネート法等による積層よりも製造効率が向上すると共に、リサイクル性が良好となる。」
「【0019】
本発明のヒートシール紙は、食品などの包装材、袋、容器、箱、カップ、蓋材などの包装用途に用いられるヒートシール紙とすることが可能である。これらの中で、食品などの袋、蓋材、軟包装材として好適に使用することができる。なお、軟包装材とは、構成としては、柔軟性に富む材料で構成されている包装材であり、一般には紙、フィルム、アルミ箔等の薄く柔軟性のある材料を、単体あるいは貼り合せた包装材を指す。また、形状としては、袋など、内容物を入れることにより立体形状を保つような包装材を指す。」
「【0022】
[実施例1]
(紙基材の作製)
カナダ式標準ろ水度(CSF)500mlの広葉樹クラフトパルプ(LBKP)とCSF530mlの針葉樹クラフトパルプ(NBKP)を80/20の重量比で配合して、原料パルプとした。
原料パルプに、乾燥紙力増強剤として分子量250万のポリアクリルアミド(PAM)を対絶乾パルプ重量あたり0.1%、サイズ剤としてアルキルケテンダイマー(AKD)を対絶乾パルプ重量あたり0.35%、湿潤紙力増強剤としてポリアミドエピクロロヒドリン(PAEH)系樹脂を対絶乾パルプ重量あたり0.15%、さらに歩留剤として分子量1000万のポリアクリルアミド(PAM)を対絶乾パルプ重量あたり0.08%添加した後、デュオフォーマーFM型抄紙機にて300m/minの速度で抄紙し、坪量39g/m2の原紙を得た。
次いで、得られた原紙に固形分濃度2%に調製したポリビニルアルコール(クラレ社製、PVA117)をロッドメタリングサイズプレスで、両面合計で1.0g/m2塗工、乾燥し、次いで、チルドカレンダーを用いて平滑処理を行い、坪量40g/m2、密度0.75g/cm3の紙基材を得た。
【0023】
(ヒートシール紙の作製)
得られた紙基材上に、スチレンアクリル酸エステル系共重合樹脂(第一塗料社製、ハービルHS-1)を乾燥重量で塗工量10.0g/m2となるようバーブレードコーターを用いて片面塗工、乾燥し、ヒートシール紙を得た。」
イ 甲1発明
上記アを総合し、特に【0019】、実施例1に着目すると、甲1には以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。
[甲1発明]
「カナダ式標準ろ水度(CSF)500mlの広葉樹クラフトパルプ(LBKP)とCSF530mlの針葉樹クラフトパルプ(NBKP)を80/20の重量比で配合して、原料パルプとし、原料パルプに、乾燥紙力増強剤として分子量250万のポリアクリルアミド(PAM)を対絶乾パルプ重量あたり0.1%、サイズ剤としてアルキルケテンダイマー(AKD)を対絶乾パルプ重量あたり0.35%、湿潤紙力増強剤としてポリアミドエピクロロヒドリン(PAEH)系樹脂を対絶乾パルプ重量あたり0.15%、さらに歩留剤として分子量1000万のポリアクリルアミド(PAM)を対絶乾パルプ重量あたり0.08%添加した後、デュオフォーマーFM型抄紙機にて300m/minの速度で抄紙し、坪量39g/m2の原紙を得、得られた原紙に固形分濃度2%に調製したポリビニルアルコール(クラレ社製、PVA117)をロッドメタリングサイズプレスで、両面合計で1.0g/m2塗工、乾燥し、次いで、チルドカレンダーを用いて平滑処理を行い、坪量40g/m2、密度0.75g/cm3の紙基材を得、得られた紙基材上に、スチレンアクリル酸エステル系共重合樹脂(第一塗料社製、ハービルHS-1)を乾燥重量で塗工量10.0g/m2となるようバーブレードコーターを用いて片面塗工、乾燥して得たヒートシール層を有する、軟包装材として好適に使用することができるヒートシール紙。」
(2)周知技術について
ア 甲2の記載
甲2には以下の記載がある。
「【請求項1】
紙基材上に、アクリル系樹脂を含有するヒートシール層を有することを特徴とするヒートシール紙。」
「【0016】
本発明において、ヒートシール層は塗工層であることが好ましい。ヒートシール層を塗工層とすることで、押出しラミネート法等による積層よりも製造効率が向上すると共に、リサイクル性が良好となる。」
イ 甲3の記載
甲3には以下の記載がある。
「【請求項1】
紙基材上に、エチレン・アクリル系樹脂を含有するヒートシール層を有することを特徴とするヒートシール紙。」
「【0016】
本発明において、ヒートシール層は塗工層であることが好ましい。ヒートシール層を塗工層とすることで、押出しラミネート法等による積層よりも製造効率が向上すると共に、リサイクル性が良好となる。」
ウ 甲4の記載
甲4には以下の記載がある。
「【請求項1】
紙基材上に、エチレン・メタクリル酸共重合物の金属塩を含有するヒートシール層を有することを特徴とするヒートシール紙。」
「【0016】
本発明において、ヒートシール層は塗工層であることが好ましい。ヒートシール層を塗工層とすることで、押出しラミネート法等による積層よりも製造効率が向上すると共に、リサイクル性が良好となる。」
エ 甲11の記載
甲11には以下の記載がある。
「【請求項1】
坪量が10g/m2以上、100g/m2未満の紙基材と、前記紙基材の少なくとも一面に積層された樹脂層とを備え、前記樹脂層を構成する樹脂組成物は、植物由来エチレンを含むモノマーを重合してなる植物由来低密度ポリエチレンを含めて複数の低密度ポリエチレンを含有し、かつ、前記樹脂組成物に含まれる各ポリマーについて測定したMFRを基に算出した前記樹脂組成物のMFR計算値が、7.2g/10min以下である包装用積層体。
・・・
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の包装用積層体をヒートシールしてなる包装体。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか一項に記載の包装用積層体の製造方法であって、前記樹脂組成物を押出成形により前記紙基材に積層する包装用積層体の製造方法。」
オ 甲12の記載
甲12には以下の記載がある。
「
[図:0001435147000001.jpg]
」(530頁左欄1~6行)
カ 周知技術
上記(1)ア、(2)ア~オより、以下の事項は周知技術1である。
[周知技術1]
「紙基材上に、ラミネート法によりヒートシール層を積層すること」
2 甲1を主引用例とする場合
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明を、その機能、構造又は技術的意義を考慮し対比する。
・甲1発明の「紙基材」及び「ヒートシール層」は、本件発明1の「紙基材」及び「ヒートシール層」に相当する。
・甲1発明の「ヒートシール紙」は、「軟包装材として好適に使用することができる」から、本件発明1の「軟包装材用紙」に相当する。
・甲1発明の「得られた紙基材上に、スチレンアクリル酸エステル系共重合樹脂(第一塗料社製、ハービルHS-1)を乾燥重量で塗工量10.0g/m2となるようバーブレードコーターを用いて片面塗工、乾燥して得たヒートシール層を有する」ことは、甲1の請求項1の記載から、甲1のヒートシール紙は二層構造であるといえるから、本件発明1の「紙基材と、一方の最表面にヒートシール層を有し」ていることに相当する。
・甲1発明の「ヒートシール紙」は、甲1の【0022】[実施例1]の記載から、紙基材に芯鞘構造繊維を含んでいないことは自明である。
・甲1発明の「カナダ式標準ろ水度(CSF)500mlの広葉樹クラフトパルプ(LBKP)とCSF530mlの針葉樹クラフトパルプ(NBKP)を80/20の重量比で配合して、原料パルプとし」ている「紙基材」は、本件発明1の「紙基材が、パルプ全体に対する化学パルプの配合量が100重量%であ」ることに相当する。
・甲1発明の「紙基材」の坪量40g/m2、密度0.75g/cm3から、その「厚さ」は53μm(厚さ=坪量/密度)であると認められるので、本件発明1の「紙基材」の「厚さ25μm以上100μm以下」を満たしている。
以上を総合すると、本件発明1と甲1発明の一致点及び相違点は以下のとおりである。
[一致点B1]
「紙基材と、一方の最表面にヒートシール層を有し、
前記紙基材が、パルプ全体に対する化学パルプの配合量が100重量%であり、厚さ25μm以上100μm以下である、軟包装材用紙(ただし、芯鞘構造繊維を含むものを除く)。」
<相違点B2>
紙基材の曲げ剛性Bについて、本件発明1は、「KES法によるMD方向の曲げ剛性Bが0 .2g・cm2/cm以上1.8g・cm2/cm以下である」のに対して、甲1発明は、曲げ剛性Bが不明である点。
<相違点B4>
ヒートシール層について、本件発明1は、ラミネート層であるのに対し、甲1発明は、スチレンアクリル酸エステル系共重合樹脂(第一塗料社製、ハービルHS-1)を乾燥重量で塗工量10.0g/m2となるようバーブレードコーターを用いて片面塗工、乾燥して得たヒートシール層である点。
イ 判断
<相違点B2について>
本件発明1の実施例である実施例1、3又は4におけるパルプ構成(パルプ原料として、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP、CSF:500ml)80重量部と針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP、CSF530ml)20重量部使用)及び内添剤の種類及び添加量(この混合パルプ100重量部に対して、乾燥紙力増強剤として分子量250万のポリアクリルアミド(PAM)を0.1重量部(対パルプ乾燥重量)、サイズ剤としてアルキルケテンダイマー(AKD)を0.35重量部、湿潤紙力増強剤としてポリアミドエピクロロヒドリン(PAEH)系樹脂を0.15重量部、さらに歩留剤として分子量1000万のポリアクリルアミド(PAM)を0.08重量部配合)は、甲1発明と同一である。
また、一般に紙の曲げ剛性は、組成、坪量、密度及び厚さの影響を大きく受けることが技術常識であるところ、甲1発明の坪量と密度(坪量40g/m2、密度0.75g/cm3)及び厚さ(53μm)についてみるに、本件発明1の実施例1、3又は4における紙基材の坪量と密度(それぞれ坪量29.1、45.0及び49.1g/m2、密度0.75、0.65及び0.63g/cm3及び厚さ(39、69及び78μm)との相関関係を踏まえると甲1発明の紙基材は、本件発明1と同程度のKES法によるMD方向の曲げ剛性Bを備えている蓋然性が高い。
そうすると、相違点B2は実質的な相違点ではない。
仮に、実質的な相違点であるとしても、本件発明1で特定している曲げ剛性Bの範囲(0 .2g・cm2/cm以上1.8g・cm2/cm以下)には臨界的意義は認められないところ、軟包装材として好適に使用することができるヒートシール紙である甲1発明のヒートシール紙を軟包装体としたときの必要な剛性等を考慮して、相違点B2に係る構成とすることは当業者が容易になし得たものである。
<相違点B4について>
上記1(2)カで示したように、紙基材上に、ラミネート法によりヒートシール層を積層することは、周知技術1であるから、甲1発明の塗工に代えて、周知技術1を採用して、相違点B4に係る本件発明1の構成とすることは当業者が容易になし得たものである。
ウ 特許権者の主張について
特許権者は、令和7年8月28日の意見書において、「甲1発明は、熱可塑性樹脂をラミネートした包装材料は離解性に劣りリサイクルすることができないとの従来技術に鑑みて成されたものであり(段落0002参照)、リサイクル時の離解性が良好なヒートシール紙を提供することを課題とします(段落0004参照)。すなわち、甲1発明において、ヒートシール層は、離解性に劣るラミネート層ではなく、離解性が良好な塗工層です。本件発明1と甲1発明とは、少なくとも本件発明1のヒートシール層がラミネート層であるのに対し、甲1発明のヒートシール層が塗工層である点で相違します。この相違点に関し、甲1発明はリサイクル時の離解性が良好なヒートシール紙を提供することを課題とし、ヒートシール層が離解性に優れた塗工層であることを前提とするものですから、ヒートシール層を離解性に劣るラミネート層とすることはできません。」と主張する。
上記主張について検討するに、確かに、甲1発明は塗工層であり、甲1の【0016】には、「本発明において、ヒートシール層は塗工層であることが好ましい。ヒートシール層を塗工層とすることで、押出しラミネート法等による積層よりも製造効率が向上すると共に、リサイクル性が良好となる。」と、ヒートシール層は、押出ラミネート法等による積層よりも塗工層のほうが好ましい旨の記載があるものの、当該記載は、ラミネートの一形態である押出ラミネート法の採用を否定するものではない。
そして、甲1発明は「特に食品などの包装材、袋、容器、箱、カップ、蓋材など、包装用途に好適に用いられる、ヒートシール適性を有すると共にリサイクル時の離解性が良好なヒートシール紙を提供することを目的とする」(同【0004】)ものであって、「紙基材上に、スチレンアクリル酸エステル系共重合樹脂を含有するヒートシール層を有することを特徴とするヒートシール紙」(同【請求項1】及び【0005】)を提供することにより、「包装用途に好適に用いられる、ヒートシール適性を有すると共にリサイクル時の離解性が良好なヒートシール紙を提供することができる」(同【0006】)ものである。
すなわち、ヒートシール層として、スチレンアクリル酸エステル系共重合樹脂を使用すれば、甲1発明の課題を解決するできるものであり、ヒートシール層が塗工層であることは必ずしも必要とされていないことは明らかである。
そして、このことは、ヒートシール層が塗工層であることが、甲1の【請求項1】ではなく請求項1を引用する【請求項2】で特定されていることからも理解できる。
したがって、特許権者の主張は採用できない。
エ 小括
よって、本件発明1は、甲1発明及び周知技術1に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(2)本件発明2について
ア 対比
本件発明2と、甲1発明を対比すると、上記一致点B1で一致するのに加えて、甲1発明の紙基材の坪量(40g/m2)は、本件発明2の「紙基材の坪量が、20g/m2以上70g/m2以下」を満たしている。
そうすると、両者は以下の一致点で一致し、相違点B2、相違点B4で相違する。
[一致点B2]
「紙基材と、一方の最表面にヒートシール層を有し、
前記紙基材が、パルプ全体に対する化学パルプの配合量が100重量%であり、厚さ25μm以上100μm以下であり、紙基材の坪量が、20g/m2以上70g/m2以下である軟包装材用紙(ただし、芯鞘構造繊維を含むものを除く)。」
イ 判断
相違点B2、相違点B4については、上記(1)イを参照。
ウ 小括
よって、本件発明2は、甲1発明及び周知技術1に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(3)本件発明3について
ア 対比
本件発明3と、甲1発明を対比すると、上記一致点B2で一致するのに加えて、甲1発明の紙基材の密度(0.75g/cm3)は、本件発明3の「紙基材の密度が、0.5g/cm3以上0.95g/cm3以下」を満たしている。
そうすると、両者は以下の一致点で一致し、相違点B2、相違点B4で相違する。
[一致点B3]
「紙基材と、一方の最表面にヒートシール層を有し、
前記紙基材が、パルプ全体に対する化学パルプの配合量が100重量%であり、厚さ25μm以上100μm以下であり、紙基材の坪量が、20g/m2以上70g/m2以下であり、紙基材の密度が、0.5g/cm3以上0.95g/cm3以下である軟包装材用紙(ただし、芯鞘構造繊維を含むものを除く)。」
イ 判断
相違点B2、相違点B4の判断については、上記(1)イを参照。
ウ 小括
よって、本件発明3は、甲1発明及び周知技術1に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(4)本件発明4について
ア 対比
本件発明4と、甲1発明を対比すると、一致点B3で一致し、相違点B2、相違点B4に加えて、以下の点で相違する。
<相違点B3>
本件発明4は、被包装物が、本件発明1または2の軟包装材用紙からなる包装材に内包されているのに対し、甲1発明がそのような構成を有するか不明な点。
イ 判断
相違点B2、相違点B4の判断については、上記(1)イを参照。
甲1の【0019】には「本発明のヒートシール紙は、食品などの包装材、袋、容器、箱、カップ、蓋材などの包装用途に用いられるヒートシール紙とすることが可能である。これらの中で、食品などの袋、蓋材、軟包装材として好適に使用することができる。」旨が示唆されていることから、甲1発明に上記事項を適用して相違点B3に係る本件発明4の構成とすることは当業者が容易になし得たものである。
ウ 小括
よって、本件発明4は、甲1発明及び周知技術1に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものである。
第4 むすび
以上のとおり、請求項1~4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-701180