特許異議申立
2024-700535
ヒートシール紙、および包装体
- 審判番号
- 2024-700535
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-115179
- 登録番号
- 7392244
- 請求日
- 2024年06月05日
- 審決日
- 2025年12月16日
- 公報発行日
- 2026年04月24日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】日本製紙株式会社
- 【権利者代理人】山田 泰之
- 【権利者代理人】中村 理弘
- 【異議申立人】赤松 智信
- 【異議申立人】塩野 啓二
- 審判長/審判官
- 審判長 金丸 治之
- 審判官 岩谷 一臣
- 審判官 稲葉 大紀
- 分類
- P1651.113-YAA(D21H) / P1651.121-YAA(D21H) / P1651.537-YAA(D21H)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7392244号発明「ヒートシール紙、および包装体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7392244号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~5〕について訂正することを認める。
特許第7392244号の請求項1~5に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7392244号(以下「本件特許」という。)の請求項1~5に係る特許についての出願は、令和4年7月20日に出願され、令和5年11月28日に特許権の設定登録がされ、令和5年12月6日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和6年 6月 5日 :特許異議申立人赤松智信(以下「申立人A」という。)による請求項1~5に係る特許に対する特許異議の申立て(この申立書を以下「申立書A」という。)
令和6年 6月 6日 :特許異議申立人塩野啓二(以下「申立人B」という。)による請求項1~5に係る特許に対する特許異議の申立て(この申立書を以下「申立書B」という。)
令和6年 8月28日付け :取消理由通知書
令和6年10月28日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和6年12月11日 :申立人Aによる意見書の提出
令和6年12月11日 :申立人Bによる意見書の提出
令和7年 1月31日付け :取消理由通知書(決定の予告)
令和7年 4月 4日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和7年 5月12日 :訂正請求書に対する手続補正書(方式)の提出
令和7年 6月19日 :申立人Aによる意見書の提出
令和7年 6月19日 :申立人Bによる意見書の提出
令和7年 7月29日 :取消理由通知書(決定の予告)
令和7年10月 1日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和7年11月 7日 :申立人Aによる意見書の提出(以下「意見書A」という。)
令和7年11月13日 :申立人Bによる意見書の提出(以下「意見書B」という。)
なお、令和6年10月28日の訂正の請求及び令和7年4月4日の訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。
第2 訂正の適否
1 訂正の内容
令和7年10月1日提出の訂正請求書による訂正の請求(以下、訂正自体を「本件訂正」という。)は、「特許第7392244号の特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~5について訂正することを求める。」ものであり、本件訂正の内容は、次の訂正事項からなるものである。なお、下線は当審において訂正箇所に付したものである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「密度が0.6g/cm3以上0.75g/cm3以下である」とあるのを、
「密度が0.6g/cm3以上0.75g/cm3以下であり、
前記ヒートシール層が、厚さ20μm以上100μm以下のラミネート層である」に訂正する。
(請求項1の記載を引用する請求項2~5も同様に訂正する。)
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に「坪量が、70g/m2以上120g/m2以下である」とあるのを、
「坪量が、70g/m2以上120g/m2以下であり、
前記ヒートシール層が、エチレン-酢酸ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、エチレン-アクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリ乳酸系樹脂から選ばれる熱可塑性樹脂を含む」に訂正する。
(請求項1の記載を引用する請求項3~5も同様に訂正する。)
(3)一群の請求項について
本件訂正前の請求項1~5は、請求項2~5が、本件訂正前の請求項1の記載を引用する関係にあり、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、本件訂正は、一群の請求項〔1~5〕について請求されたものである。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、本件訂正前の請求項1に記載のヒートシール層について、「厚さ20μm以上100μm以下のラミネート層である」ことを限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項1は、本件明細書の【0023】の記載に基づく訂正であるから新規事項の追加に該当しない。
さらに、訂正事項1は、発明のカテゴリーや対象を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しない。
(1)訂正事項2について
訂正事項2は、本件訂正前の請求項2が引用する請求項1に記載のヒートシール層について、その材料を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項2は、本件明細書の【0022】の記載に基づく訂正であるから新規事項の追加に該当しない。
さらに、訂正事項2は、発明のカテゴリーや対象を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しない。
3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~5〕について訂正することを認める。
第3 訂正後の本件発明
上記のとおり、本件訂正は認められるから、本件訂正後の請求項1~5に係る発明(以下「本件発明1」等といい、まとめて「本件発明」ということもある。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
紙基材と、少なくとも一方の最表面にヒートシール層を有し、
前記紙基材が、MD方向の破断伸びが2.0%以上5.5%以下であり、CD方向の曲げ抵抗が65mN以上100mN以下であり、密度が0.6g/cm3以上0.75g/cm3以下であり、
前記ヒートシール層が、厚さ20μm以上100μm以下のラミネート層であることを特徴とするヒートシール紙。
【請求項2】
前記紙基材の坪量が、70g/m2以上120g/m2以下であり、
前記ヒートシール層が、エチレン-酢酸ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、エチレン-アクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリ乳酸系樹脂から選ばれる熱可塑性樹脂を含むことを特徴とする請求項1に記載のヒートシール紙。
【請求項3】
前記ヒートシール層が、水分散性樹脂または水溶性樹脂の塗工層であることを特徴とする請求項1または2に記載のヒートシール紙。
【請求項4】
前記紙基材の厚さが、120μm以上160μm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のヒートシール紙。
【請求項5】
請求項1または2に記載のヒートシール紙を用いた包装体。」
第4 取消理由通知(決定の予告)について
1 取消理由の概要
令和7年4月4日の訂正請求により訂正された特許請求の範囲の請求項1~3、5~7に対し、当審において令和7年7月29日付けで通知した取消理由(決定の予告)の概要は、次のとおりである。
(以下、申立人Aが提出した甲第○号証を「甲A○」、申立人Bが提出した甲第△号証を「甲B△」という。)
取消理由(進歩性)
令和7年4月4日の訂正請求により訂正された請求項1~3、5~7に係る発明は、甲A1に記載された発明に基づいて、本件出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
[引用文献等一覧]
甲A1:特開2021-70171号公報
甲A2:中山秀夫、外1名、「軟包装材料(フィルム・アルミはく・紙)の試験法について」、包装技術 第17巻第10号、日本包装技術協会、1979年10月、477~483ページ
甲A3:藤田英雄、「包装紙」、紙パ技協誌 第21巻第11号、紙パルプ技術協会、1967年11月1日発行、657~662ページ
甲B1:米国特許出願公開第2018/0327975号明細書
甲A11:特許第6198376号公報(申立人Aが令和7年6月19日の意見書に添付して提出)
甲A13:特開昭59-187694号公報(同上)
2 当審における判断
当審合議体は以下のとおり、上記取消理由で通知した理由によって、本件発明1~5は取り消されるべきものではないと判断する。
(1)引用文献の記載事項、発明
ア 甲A1
(ア)甲A1には以下の記載がある。なお、以下において下線は当審が付したものであり、「・・・」は記載の省略を示す。
「【0001】
本発明は、特に食品などの包装材、袋、容器、箱、カップ、蓋材など、包装用途に好適に用いられる、ヒートシール適性を有するヒートシール紙に関する。」
「【0014】
紙基材の坪量は、所望される各種品質や取り扱い性等により適宜選択可能であるが、通常は20g/m2以上600g/m2以下のものが好ましい。食品などの包装材、袋、容器、箱、カップ、蓋材など、包装用途に使用するヒートシール紙の場合は、25g/m2以上600g/m2以下のものがより好ましく、特に袋、蓋材、または後述する軟包装材用途に使用するヒートシール紙の場合は、30g/m2以上150g/m2以下のものがより好ましい。
また、紙基材の密度は、所望される各種品質や取り扱い性等により適宜選択可能であるが、通常は0.5g/cm3以上1.0g/cm3以下のものが好ましい。」
「【0022】
[実施例1]
(紙基材の作製)
カナダ式標準ろ水度(CSF)500mlの広葉樹クラフトパルプ(LBKP)とCSF530mlの針葉樹クラフトパルプ(NBKP)を80/20の重量比で配合して、原料パルプとした。
原料パルプに、乾燥紙力増強剤として分子量250万のポリアクリルアミド(PAM)を対絶乾パルプ重量あたり0.1%、サイズ剤としてアルキルケテンダイマー(AKD)を対絶乾パルプ重量あたり0.35%、湿潤紙力増強剤としてポリアミドエピクロロヒドリン(PAEH)系樹脂を対絶乾パルプ重量あたり0.15%、さらに歩留剤として分子量1000万のポリアクリルアミド(PAM)を対絶乾パルプ重量あたり0.08%添加した後、デュオフォーマーFM型抄紙機にて300m/minの速度で抄紙し、坪量39g/m2の原紙を得た。
次いで、得られた原紙に固形分濃度2%に調製したポリビニルアルコール(クラレ社製、PVA117)をロッドメタリングサイズプレスで、両面合計で1.0g/m2塗工、乾燥し、次いで、チルドカレンダーを用いて平滑処理を行い、坪量40g/m2、密度0.75g/cm3の紙基材を得た。
【0023】
(ヒートシール紙の作製)
得られた紙基材上に、スチレンアクリル酸エステル系共重合樹脂(第一塗料社製、ハービルHS-1)を乾燥重量で塗工量10.0g/m2となるようバーブレードコーターを用いて片面塗工、乾燥し、ヒートシール紙を得た。
【0024】
[実施例2]
原紙の坪量を69g/m2とし、坪量70g/m2、密度0.75g/cm3の紙基材を使用した以外は、実施例1と同様にして、ヒートシール紙を得た。
[実施例3]
原紙の坪量を119g/m2とし、坪量120g/m2、密度0.75g/cm3の紙基材を使用した以外は、実施例1と同様にして、ヒートシール紙を得た。」
(イ)甲A1に記載された発明
上記(ア)の記載を参照し、特に実施例3に着目すると、甲A1には以下の発明(以下「甲A1発明」という。)が記載されている。
「紙基材上に、スチレンアクリル酸エステル系共重合樹脂を塗工、乾燥させたヒートシール層を有する包装用ヒートシール紙であって、
紙基材が、広葉樹クラフトパルプ(LBKP)と針葉樹クラフトパルプ(NBKP)を80/20の重量比で配合して、原料パルプとして抄紙した原紙にポリビニルアルコール(クラレ社製、PVA117)を塗工、乾燥し、次いで、チルドカレンダーを用いて平滑処理を行った、坪量120g/m2、密度0.75g/cm3の紙基材であって、
得られた紙基材上に、スチレンアクリル酸エステル系共重合樹脂を乾燥重量で塗工量10.0g/m2となるようバーブレードコーターを用いて片面塗工、乾燥して得た、袋にも用いられる包装用ヒートシール紙。」
イ 甲A2
甲A2には以下の記載がある。
(ア)「2.1.1 引張強さおよび伸び
引張強さおよび伸びは、材料の強度を表わす代表的な物性で、ほとんどの材料の品質、性能規格に規定されている項目である。引張強さとは、所定の試験片が破断するまで引張応力を加えたときの最大荷重を、またその破断に至るまでの材料の伸長率を伸びと称しており、材質的にはきわめて特徴的な相違がある。」(478ページ左欄本文12~19行)
(イ)「(3)紙
紙の引張強さおよび伸びは、繊紙間の結合によって紙の強度が構成されているだけに、とくに強さの要求される包装紙、紙袋用原紙などでは重要な物性項目となっている。」(479ページ左欄23~27行)
(ウ)「2.2 機械適性と物性
包装用複合フィルムあるいは複合加工紙の包装適性を決定する要素は、・・・もっとも重要なのは、バリヤー性能と物理的性質(強度および機械適性)である。
包装材料の機械適性,すなわち包装機へのかかり易さは、とくに軟質包装材料においては、包装の適応性を支配するもっとも大きなファクターである。・・・筆者のこれまでの経験的知見では、・・・カール性、腰の強さ、滑り性、ヒートシール性あるいは熱収縮などに依存する寸法安定性等が重要な品質項目である。」(479ページ右欄下から16行~480ページ左欄本文21行)
(エ)「2.2.2 腰の強さ
軟質包装材料の腰の強さを意味する物性は、機械へのかかり易さだけでなく、包装されたものの堅さ、あるいはだぶつき、たるみなどの外観にも関係する。・・・一般的には曲げ抵抗のことを腰の強さという場合が多い。」(480ページ左欄下から2行~同右欄本文上から7行)
ウ 甲A3
(ア)甲A3には包装紙に関して以下の記載がある。
「1.概要
Sealing paperとWrapping paperとが「包装紙」と訳されているが、ここではWrapping Paper、とりわけ、Heary-duty BagとかSihpping Sackとか呼ばれるものの原紙についてのべる。(筋入・片艶クラフト紙、純白ロール紙などには紙数の関係で触れない。)
重包装用クラフト紙袋は、40年余の歴史を持っており、現在わが国では、年間7,000万トンに及ぶ物資の輸送貯蔵用に用いられて、国鉄の年間輸送量2億トンの1/3を占めている。」(71ページ左欄1~11行)
「
[図:0001434108000001.jpg]
」(73ページ表1)
(イ)上記(ア)から、Regular Kraft(標準クラフト紙)のMD方向の伸びは3.5%、CD方向の伸びは7.3%、厚さは128μm程度であることがわかる。なお、前記「伸び」は破断伸びであることは、上記イ(ア)で示した甲A2の記載のほか技術常識からみて明らかである。
(ウ)上記(ア)の坪量84.0g/m2及び厚さ128μmから、標準クラフト紙の密度は0.66g/cm3程度(=84.0/128)であると計算することができる。
(エ)上記(ア)~(ウ)から、甲A3には以下の事項が記載されているといえる。
「袋に用いられる標準クラフト紙は、坪量が84.0g/m2、MD方向の破断伸びが3.5%、CD方向の伸びが7.3%、厚さが128μm、密度が0.66g/cm3程度であること。」
エ 甲B1
(ア)甲B1には以下の記載がある。なお、当審による日本語訳である。
「[0014]
図1は、紙を使用して充填および密封された袋を形成するVFFSマシンの動作を示す。紙は紙リール101から巻き出され、搬送装置102で成形チューブ104上の成形肩部103に搬送される。紙は成形肩部103を通過し、成形チューブ104に巻き付けられ、下方に引っ張られる。縦方向の密封装置106は、下方に移動する紙の端部を互いに接着することによって縦方向の密封を形成する。縦方向の密封装置106で形成される縦方向の密封は、ラップシールまたはフィンシールである。・・・」
「[0021]
比較的低い坪量で十分な強度を提供するために、本開示の紙はクラフト紙である。クラフト紙は漂白され、したがってISO2470-1:2009による明度が少なくとも70、たとえば70~100である。」
「[0029]
本開示の紙のMDにおける非指数曲げ抵抗は、好ましくは40~110mN、例えば45~105mNである。CDでは、非指数曲げ抵抗はそれほど重要ではない。しかし、典型的には30~90mN、例えば35~85mNである。」
「[0032]
通常、MDの破断時のひずみは5%を超えない。好ましくは、MDの破断時のひずみは少なくとも3.5%、例えば3.5~5%である。」
(イ)上記(ア)から、甲B1には以下の事項(以下「甲B1記載事項」という。)が記載されているといえる。
「袋にも用いられるクラフト紙のCD方向の曲げ抵抗の典型的な数値範囲は、30~90mN、例えば35~85mNであること。」
オ 甲A11
(ア)甲A11には以下の記載がある。
「【請求項1】
JIS P-8113:2006に規定された縦方向の破断伸びが2.2%以上で横方向の破断伸びが4.0%以上であり、縦横の破断伸びの比(縦/横)が0.50以上であり、
JIS P-8112:2008に規定された比破裂強さが3.8kPa以上であり、
ISO/DIS 1924-3に規定された縦方向の比引張こわさが7.0kNm/g以上であるクラフト紙。」
「【0005】
クラフト紙について、特に重包装用途では、袋に加工され、セメント袋他として使用される場合に破袋しにくいクラフト紙が要望されている。・・・」
「【0007】
本発明者は、袋に加工されて使用されたときに、破袋を引き起こすことが少ないクラフト紙として、縦方向及び横方向の破断伸びが関与すること、さらに本発明者は、鋭意検討した結果、縦横の破断伸び等が特定の関係となるように製造されたクラフト紙とすることによって、伸び特性や強度特性に優れることを見出した。・・・」
「【0020】
・・・
本発明では、横方向の破断伸びをある程度以上に維持しつつ、縦方向の破断伸びを向上させることができた。縦横両方の破断伸びが高いため、どちらの方向に力がかかった場合にも、紙は破断しづらい。つまり、縦方向あるいは横方向どちらかの破断伸びが高いことだけでなく、縦と横の破断伸びの差が小さいことが重要であると考えられる。
【0021】
本発明において、クラフト紙の縦破断伸びは2.2%以上であり、好ましくは2.5%以上、さらに好ましくは2.8%以上で、横方向の破断伸びが4.0%以上であり好ましくは4.2%以上、更に好ましくは5.0%以上であり、かつ縦横の破断伸びの比(縦/横)が0.50以上、好ましくは0.55以上、更に好ましくは0.60以上であることが必要である。縦横の破断伸びがそれぞれ2.2%未満、4.0%未満であると、製袋したときに十分な伸びが得られず、破袋する恐れがある。また、縦横の破断伸びがそれぞれ2.2%以上、4.0%以上であった場合でも、縦横の破断伸びの比が0.50未満であると、横方向の破断伸びに対し、縦方向の破断伸びが十分な大きさでなく、縦方向に力がかかった場合に伸びのバランスが悪化し、破袋する恐れがある。」
(イ)上記(ア)から把握できる事項
袋に加工されるクラフト紙において、縦方向の破断伸びを2.2%以上としつつ、縦横の破断伸びの比(縦/横)を0.55以上、すなわち、(横/縦)に換算すると約1.8以下とすること、また、縦と横の破断伸びの差を小さくすること、すなわち(横/縦)を1に近づけることが把握される。
カ 甲A13
(ア) 甲A13には以下の記載がある。
「本発明は、高い強度をもつクラフト紙、特に袋紙として好適なクラフト紙の製造方法に関する。」(597ページ右下欄下から6~5行)
「従って破断点伸びが高くなればそれだけ引張りエネルギー吸収も高められる。クラフト袋紙では、その引張りエネルギー吸収および伸長降伏点が、大きな応力のかかる所、特に横方向において高められる必要がある。」(598ページ左上欄8~12行)
「前記の紙に関する強度試験結果は表-2に示される。
[図:0001434108000002.jpg]
」(600ページ左下欄下から2行~右下欄)
(イ)上記(ア)から把握できる事項
紙袋として好適なクラフト紙においては、特に横方向において破断点伸びが高められる必要があり、従前、L方向(縦方向)において2.6%、T方向(横方向)において4.7%とされ、(横方向/縦方向)は約1.8であること。
キ 周知技術1(MD破断伸び)
上記ウ(エ)、上記オ(イ)及び上記カ(イ)を参酌すると、以下の事項は本件出願当時における周知の技術(以下「周知技術1」という。)であったといえる。
「袋にも加工されるクラフト紙において、MD方向の破断伸びは、2.2~3.5%程度の値であること。」
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲A1発明を対比する。
甲A1発明の「紙基材」、「スチレンアクリル酸エステル系共重合樹脂を塗工、乾燥させたヒートシール層」はそれぞれ、本件発明1の「紙基材」、「ヒートシール層」に相当する。
甲A1発明の「得られた紙基材上に、スチレンアクリル酸エステル系共重合樹脂を乾燥重量で塗工量10.0g/m2となるようバーブレードコーターを用いて片面塗工、乾燥して得た、包装用ヒートシール紙」は、本件発明1の「紙基材と、少なくとも一方の最表面にヒートシール層を有し」た「ヒートシール紙」に相当する。
甲A1発明の「広葉樹クラフトパルプ(LBKP)と針葉樹クラフトパルプ(NBKP)を80/20の重量比で配合して、原料パルプとして抄紙した原紙にポリビニルアルコール(クラレ社製、PVA117)を塗工、乾燥し、次いで、チルドカレンダーを用いて平滑処理を行った、坪量120g/m2、密度0.75g/cm3の紙基材」と、本件発明1の「MD方向の破断伸びが2.0%以上5.5%以下であり、CD方向の曲げ抵抗が65mN以上100mN以下であり、密度が0.6g/cm3以上0.75g/cm3以下であ」る「紙基材」は、「密度が0.75g/cm3である紙基材」である限りにおいて一致する。
以上を踏まえると、本件発明1と甲A1発明は、以下の点で一致し、相違する。
[一致点A1]
「紙基材と、少なくとも一方の最表面にヒートシール層を有し、
前記紙基材が、密度が0.75g/cm3であるヒートシール紙。」
[相違点A1-1]
紙基材に関し、本件発明1では、「MD方向の破断伸びが2.0%以上5.5%以下であり、CD方向の曲げ抵抗が65mN以上100mN以下であり、密度が0.6g/cm3以上0.75g/cm3以下である」のに対し、甲A1発明では、密度は0.75g/cm3であるものの、その余のパラメータが不明な点。
[相違点A1-2]
「ヒートシール層」に関し、本件発明1では、「厚さ20μm以上100μm以下のラミネート層である」のに対し、甲A1発明は片面塗工、乾燥して得たものであって、ラミネート層ではなく、また、その厚さも不明な点。
イ 判断
事案に鑑み、相違点A1-2について検討する。
甲A1には「従来から、紙製の包装材料を食品などの包装材・・・などに成形する場合、・・・熱可塑性樹脂を押出しラミネート法等により包装材料に積層させ、ヒートシール適性を付与することが一般に行われている・・・。しかしながら、これらの熱可塑性樹脂を積層させた紙製の包装材料は、リサイクル時の離解性が劣るため、一般的にはリサイクル不能である禁忌品として扱われており、古紙原料として回収、リサイクルすることができない。」(【0002】)、「そこで、本発明は、・・・ヒートシール適性を有すると共にリサイクル時の離解性が良好なヒートシール紙を提供することを目的とする。」(【0004】)、「本発明において、ヒートシール層は塗工層であることが好ましい。ヒートシール層を塗工層とすることで、押出しラミネート法等による積層よりも製造効率が向上すると共に、リサイクル性が良好となる。」(【0016】)との記載を踏まえると、甲A1発明はリサイクルされることが前提のヒートシール紙であるところ、熱可塑性樹脂を押出しラミネート法等により積層させた紙製の包装材料はリサイクル時の離解性が劣るのであるから、甲A1発明のヒートシール層を「塗工層」から、リサイクル不能である禁忌品として扱われる「ラミネート層」に変更することには阻害要因があるといえる。
そうすると、甲A1発明において、相違点A1-2に係る本件発明1の構成を採用することは、当業者が容易に想到し得たことではない。
ウ 申立人A、Bの主張について
(ア)主張の概要
a 甲A1発明において、ヒートシール層を形成する方法としていずれも周知であるラミネート層、塗工層はどちらも比較検討の対象となり得たものであり、甲A1発明において「塗工層」に代えてリサイクルの観点では劣る「ラミネート層」を採用することは、単に従来の技術に戻すということに過ぎず、格別の動機付けが必要とはいえない。(意見書Aの5ページ下から4行~6ページ11行)
b 甲A1の【0016】には、ヒートシール層をラミネート層としたヒートシール紙はリサイクルすることができないとの記載はないから、ラミネート層とすることに阻害要因があるとはいえず、甲A1発明のヒートシール層をラミネート層とすることは当業者が容易に想到し得たことである。また、本件明細書には、厚さが約6.2~7.8μmと計算できる塗工層とした実施例しか記載されていないから、「厚さ20μm以上100μm以下のラミネート層」を要件とする本件発明はサポート要件及び実施可能要件を満たさない。(意見書Bの3ページ12行~4ページ13行)
(イ)当審における判断
上記イのとおり、甲A1発明はヒートシール層をリサイクル時の離解性に優れる「塗工層」とすることを前提としたものであり、ヒートシール層を「ラミネート層」に変更することには阻害要因があるといえる。
ここで、甲A1の【0016】には、「ヒートシール層は塗工層であることが好ましい」と記載され、必ずしも塗工層によることが必須であるようには一見記載されていない。しかし、そうであるからといって、同段落には塗工層の方がラミネート法よりもリサイクル性が良好となると記載されている上、そもそもラミネート法ではリサイクル不能としている(【0002】)のであるから、甲A1発明においてこれを採用しようという余地はない。
よって、申立人A、Bの上記主張は採用できない。
エ 小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲A1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)本件発明2~5について
本件発明2~5は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定を加える発明であるから、上記(2)と同様の理由により、甲A1発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
第5 取消理由通知(決定の予告)に採用しなかった特許異議申立理由について
1 申立理由の概要
申立書A、Bで申立人A、Bが主張する申立理由のうち、取消理由で採用しなかったものの概要は、次のとおりである。
(1)申立理由1(甲A4を主引例とする進歩性)
本件特許の請求項1~5に係る発明は、甲A4に記載された発明に基づいて、本件出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(2)申立理由2(甲B1に基づく新規性)
本件特許の請求項1、2、4、5に係る発明は、甲B1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するから、本件特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
(3)申立理由3(甲B1を主引例とする進歩性)
本件特許の請求項1~5に係る発明は、甲B1に記載された発明に基づいて、本件出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(4)申立理由4(サポート要件)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が以下の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
本件明細書の実施例では特定のクラフト紙を、特定の市販の紙基材、特定の包装装置及び特定の操作条件で評価しているが、本件発明において、包装装置及び包装条件は特定されていないから、本件発明に包含される多様な紙基材や包装装置において、本件発明の課題を解決できるとは当業者は認識できない。(申立書Aの16~17ページ)
[証拠一覧]
甲A1:特開2021-70171号公報
甲A2:中山秀夫、外1名、「軟包装材料(フィルム・アルミはく・紙)の試験法について」、包装技術 第17巻第10号、日本包装技術協会、1979年10月、477~483ページ
甲A3:藤田英雄、「包装紙」、紙パ技協誌 第21巻第11号、紙パルプ技術協会、1967年11月1日発行、657~662ページ
甲A4:特開平6-219404号公報
甲A5:特開2020-163675号公報
甲A6:特開2021-46232号公報
甲A7:特開2021-46234号公報
甲A8:秦陽一、「紙とプラスチックの相克」、紙パ技協誌 第53巻第8号、紙パルプ技術協会、1999年8月1日発行、74ページ
甲A9:住本充弘、「[連載講座 容器・包装の基礎と応用]基礎編(5)包装技法」、[Online]、日皮協ジャーナル 第80号、日本産業皮膚衛生協会、2018年8月、1~25ページ、インターネット
<URL:https://jpackca.com/201808No5sumimoto.pdf>
甲B1:米国特許出願公開第2018/0327975号明細書
甲B2:特開2022-18163号公報
甲B3:特許第6939976号公報
2 当審における判断
(1)申立理由1(甲A4を主引例とする進歩性)について
ア 甲A4に記載された発明
甲A4の特に請求項2を参照すると、甲A4には以下の発明(以下「甲A4発明」という。)が記載されている。
「自動梱包装置に用いる包装紙であって、表面に耐候性および耐水性などの処理が施されてなるクラフト紙の内面に、ヒートシール可能な熱融着層が形成されている、包装紙。」
イ 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲A4発明を対比すると、少なくとも以下の点で相違する。
[相違点A4]
紙基材に関し、本件発明1では、「MD方向の破断伸びが2.0%以上5.5%以下であり、CD方向の曲げ抵抗が65mN以上100mN以下であり、密度が0.6g/cm3以上0.75g/cm3以下である」のに対し、甲A4発明では、かかる特性を有するか不明な点。
(イ)判断
相違点A4について判断する。
ヒートシール可能な包装紙の紙基材に関し、相違点A4に係る各特性を具備することは、甲A4のほか、申立人A、Bが提出が提出した他の証拠にも記載も示唆もされていない。
そして、甲A4には、包装紙の破断伸び、曲げ抵抗及び密度を調整することについて記載も示唆もされていない。
そうすると、甲A4発明に基づいて、相違点A4に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。
(ウ)申立人Aの主張
a 主張の概要
クラフト紙において、「MD方向の破断伸びが2.0%以上5.5%以下」は甲3からみて一般的なクラフト紙が当然に満たす範囲であるか通常の創作能力の発揮にすぎず、「CD方向の曲げ抵抗が65mN以上100mN以下」も甲2、甲9からみて通常の創作能力の発揮にすぎず、「密度が0.6g/cm3以上0.75g/cm3以下」も甲1、甲3からみて通常のクラフト紙が満たす範囲にすぎない。(申立書Aの14ページ)
b 当審における判断
甲A4発明は、特定の自動梱包装置に用いられる、包装紙であって、甲A4には紙基材自体の各特性を調整することの記載も示唆もないことは上記(イ)のとおりである。そうすると、相違点A4に係るクラフト紙として各特性が仮に周知であったとしても、これらの各特性をすべて具備するように甲A4発明のヒートシール可能な包装紙の紙基材の特性を調整することを当業者が容易に想到し得たとはいえない。
よって、申立人Aの上記主張は採用できない。
(エ)小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲A4発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 本件発明2~5について
本件発明2~5は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定を加える発明であるから、上記イと同様の理由により、甲A4発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2)申立理由2、3(甲B1を引用例とする新規性、進歩性)について
ア 甲B1に記載された発明
甲B1の特に請求項1、14、15を参照すると、甲B1には以下の発明(以下「甲B1発明」という。)が記載されている。なお和訳は当審によるものである。
「ISO536による坪量が60~120g/m2であり、
ISO2493による機械方向の曲げ抵抗指数が105~200Nm7/kg3(審決注:原文の標記のままである。)であり、曲げ抵抗は曲げ角度15°、試験スパン長さ10mmを使用して試験され、
ISO2493による横方向の曲げ抵抗指数が60~145Nm7/kg3であり、曲げ抵抗は曲げ角度15°、試験スパン長さ10mmを使用して試験され、
ISO1924-3による機械方向の破断時のひずみが3%以上であり、
ISO1924-3による横方向の破断時のひずみが5%以上である、クラフト紙であって、
前記クラフト紙から形成され、2つの端部がフィンシールによって密封されて、製品が充填されている、密封袋。」
イ 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲B1発明を対比すると、少なくとも以下の点で相違する。
[相違点B1]
紙基材の密度について、本件発明1では「0.6g/cm3以上0.75g/cm3以下」であるのに対し、甲B1発明では、クラフト紙の密度が不明な点。
(イ)判断
相違点B1について判断する。
甲B1は実質的なものである。
そして、甲B1には、紙の密度について、「例えば800-930kg/m3」([0026])と記載されており、これは0.80~0.930g/cm3に換算されるところ、かかる数値をさらに小さくすることは記載も示唆もされていないから、甲B1発明において、相違点B1に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。
(ウ)申立人Bの主張
a 主張の概要
甲B1発明では、紙の「坪量が60~120g/m2」であり、紙の厚みが「好ましくは80~100μm」([0026])とされているから、紙の密度(=坪量/厚み)は0.6~1.5g/cm3となり相違点B1を満たす。(申立書Bの13ページ)
b 当審における判断
上記(イ)のとおり、甲B1にはクラフト紙の密度について、「例えば800-930kg/m3」([0026])と直接的に記載されているのだから、別々に記載されている坪量と厚みを適宜採用して換算したものであって、[0026]の記載とも整合しない密度の数値範囲をもって、当該値が甲B1に記載されているとはいえない。
よって、申立人Bの上記主張は採用できない。
(エ)
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲B1発明ではなく、甲B1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
ウ 本件発明2~5について
本件発明2~5は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定を加える発明であるから、上記イと同様の理由により、本件発明2、4、5は甲B1発明ではなく、本件発明2~5は甲B1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)申立理由4(サポート要件)について
ア サポート要件の判断規範について
特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件を満たすか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明であって、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らして当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。以下、この点について検討する。
イ 発明の詳細な説明の記載により、当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか
本件明細書には、本件発明が解決しようとする課題として「本発明は、製袋性に優れたヒートシール紙と、このヒートシール紙を用いた包装体を提供すること」(【0006】)が記載され、課題を解決するための手段として、「前記紙基材が、MD方向の破断伸びが2.0%以上5.5%以下であること」(【0006】)が記載されている。
そして、当該課題解決手段が本件課題を解決する機序について、MD方向の破断伸びについては、「本発明の紙基材は、この破断伸びが2.0%以上5.5%以下であることにより、製袋性、耐衝撃性に優れている。この破断伸びが2.0%未満では、包装体とした際に破れやすくなるとともに、製袋機を通る際のテンション(張力)を大きくすることができず、所定のとおりに搬送できずに裁断間隔のずれ等が生じる場合がある。この破断伸びが5.5%を超えると、紙基材の伸びにヒートシール層が追従できず、ヒートシール層に微細なひび割れが生じてしまい、ヒートシール強度が低下する場合があり、また、裁断後の縮み量が大きくなり、特に、センターシール部にシワが生じやすくなる。」(【0009】)と記載されており、CD方向の曲げ抵抗について「本発明の紙基材は、CD方向の曲げ抵抗が65mN以上100mN以下であることが、製袋性、形態維持性等の点から好ましい。」(【0014】)と記載されており、密度について「本発明の紙基材は、密度0.6g/cm3以上0.8g/cm3以下であることが、強度、形態維持性、柔軟性等の観点から好ましい。」(【0013】)と記載されている。
そして、【0026】~【0037】には実施例が記載されており、特に【0036】【表1】には、本件発明1の発明特定事項である「MD方向の破断伸び」、「CD方向の曲げ抵抗」及び「密度」の数値範囲を満たす実施例1~4は、ヒートシール強度、搬送性及びセンターシール部しわの評価結果が良好であったことが示されており、他方、MD方向の破断伸びが「5.5%」よりも大きい比較例1はヒートシール強度及びセンターシール部しわの評価結果が不良であったこと、及び、MD方向の破断伸びが「2.0%」よりも小さい比較例2は搬送性が不良であったことが示されており、これらの評価結果は、本件発明の機序に係る上記【0009】の記載とも整合しているものである。
さらに、本件発明1においては、上記機序に係る「MD方向の破断伸び」、「CD方向の曲げ抵抗」及び「密度」の数値範囲が特定されているのであるから、上記【0036】【表1】も併せみると、本件発明1は、本件課題を解決できることを当業者は認識できる範囲のものであるといえる。
ウ 申立人Aの主張について
申立人Aは上記1(4)のとおり主張する。
しかしながら、本件発明1においては、本件課題である製袋性に関連する紙基材の各特性の数値範囲が特定されており、当該特性の機序については【0009】~【0014】に説明されており、実施例の特に【0036】【表1】にその評価結果が示されている。そうすると、申立人Aが主張するような包装装置や包装条件が本件明細書のものと異なっていた場合においても、紙基材が本件発明1の各特性の数値範囲を満たす限りにおいては、製袋性が向上するという本件課題が解決できることを当業者は認識できるといえる。
したがって、申立人Aの上記主張は採用できない。
第6 むすび
以上のとおり、請求項1~5に係る特許は、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した申立理由によっては、取り消すことができない。また、他に請求項1~5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700535