特許異議申立
2025-701027
カーボンナノチューブ分散液およびその利用
- 審判番号
- 2025-701027
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-160281
- 登録番号
- 7669897
- 請求日
- 2025年10月28日
- 審決日
- 2026年01月28日
- 公報発行日
- 2026年02月27日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】artience株式会社
- 【権利者】トーヨーカラー株式会社
- 【異議申立人】安藤 宏
- 【異議申立人】正代 剛一
- 審判長/審判官
- 審判長 梶尾 誠哉
- 審判官 河本 充雄
- 審判官 棚田 一也
- 分類
- P1651.121-Y (H01B) / P1651.537-Y (H01B) / 標準データ:手続:異議 / 標準データ:651・121-Y (H01B) / 標準データ:651・121-Y (H01B) / 標準データ:651・537 / 標準データ:651・537
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)、特許情報標準データ(審判)
事件の表示
特許第7669897号発明「カーボンナノチューブ分散液およびその利用」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7669897号の請求項1~10に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7669897号の請求項1~10に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、令和3年9月30日(優先権主張 令和2年10月9日)の出願であって、令和7年4月21日にその特許権の設定登録がされ、同年同月30日に特許掲載公報が発行された。
その後、本件特許に対し、令和7年10月28日に特許異議申立人 安藤 宏(以下、「申立人安藤」という。)により特許異議の申立てがされ、本件特許に対し、同年同月29日に特許異議申立人 正代 剛一(以下、「申立人正代」という。)により特許異議の申立てがされたものである。
第2 本件発明
本件特許の請求項1~10に係る発明(以下、「本件発明1」~「本件発明10」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1~10に記載された事項により特定される次のとおりのものである。なお、請求項1の分説の符号A~Eは、当審で付したものであり、これらの構成を、以下、「構成A」~「構成E」ともいう。
「【請求項1】
A:カーボンナノチューブと、分散剤と、溶媒とを含むカーボンナノチューブ分散液であって、下記(1)~(4)を満たすことを特徴とするカーボンナノチューブ分散液。
B:(1)カーボンナノチューブのラマンスペクトルにおいて1560~1600cm-1の範囲内での最大ピーク強度をG、1310~1350cm-1の範囲内での最大ピーク強度をDとした際に、カーボンナノチューブのG/D比が、5~100であること
C:(2)カーボンナノチューブ100質量部に対して、分散剤を30質量部以上250質量部未満含有すること
D:(3)カーボンナノチューブ分散液の25℃、周波数1Hzにおける複素弾性率が5Pa以上650Pa未満であり、位相角が5°以上50°未満であること
E:(4)カーボンナノチューブのBET比表面積が、550~1200m2/gであること
【請求項2】
カーボンナノチューブのラマンスペクトルにおいて1560~1600cm-1の範囲内での最大ピーク強度をG、1310~1350cm-1の範囲内での最大ピーク強度をDとした際に、カーボンナノチューブのG/D比が、10~50であることを特徴とする請求項1記載のカーボンナノチューブ分散液。
【請求項3】
25℃のカーボンナノチューブ分散液を、レオメーターを用いて、せん断速度1(s-1)で測定した粘度が、5Pa・s以上40Pa・s未満であることを特徴とする請求項1または2記載のカーボンナノチューブ分散液。
【請求項4】
動的光散乱法によって測定した累積粒径D10が、200nm以上500nm未満であることを特徴とする請求項1~3いずれか記載のカーボンナノチューブ分散液。
【請求項5】
動的光散乱法によって測定した累積粒径D50が、500nm以上3000nm未満であることを特徴とする請求項1~4いずれか記載のカーボンナノチューブ分散液。
【請求項6】
分散剤の重量平均分子量が、1万~10万であることを特徴とする請求項1~5いずれか記載のカーボンナノチューブ分散液。
【請求項7】
請求項1~6いずれか記載のカーボンナノチューブ分散液と、バインダーとを含むことを特徴とするカーボンナノチューブ樹脂組成物。
【請求項8】
請求項7記載のカーボンナノチューブ樹脂組成物と活物質とを含むことを特徴とする合材スラリー。
【請求項9】
請求項8記載の合材スラリーの塗工膜である電極膜。
【請求項10】
正極と、負極と、電解質とを具備してなる非水電解質二次電池であって、正極または負極の少なくとも一方が、請求項9記載の電極膜を含むことを特徴とする非水電解質二次電池。」
第3 申立理由の概要
1 申立人安藤の申立理由
申立人安藤は、証拠として甲第1号証~甲第5号証(以下、「甲1-1」~「甲1-5」という。)を提出し、以下の理由により、本件特許を取り消すべきものである旨主張している。
(1)申立理由1-1(進歩性)
本件発明1~10は、甲1-1に記載された発明及び甲1-1~甲1-5に記載された事項に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(2)申立理由1-2(進歩性)
本件発明1~10は、甲1-2に記載された発明及び甲1-1~甲1-5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(3)申立理由1-3(進歩性)
本件発明1~10は、甲1-3に記載された発明及び甲1-1~甲1-5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
[証拠方法]
甲1-1:特開2020-105316号公報
甲1-2:特表2018-533175号公報
甲1-3:特表2018-534731号公報
甲1-4:特開2012-56789号公報
甲1-5:特開2016-54113号公報
2 申立人正代の申立理由
申立人正代は、証拠として甲第1号証~甲第5号証(以下、「甲2-1」~「甲2-5」という。)を提出し、以下の理由により、本件特許を取り消すべきものである旨主張している。
(1)申立理由2-1(進歩性)
本件発明1~10は、甲2-1に記載された発明及び甲2-2~甲2-5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(2)申立理由2-2(サポート要件)
本件発明1~10は、発明の詳細な説明に記載されたものではないから、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
[証拠方法]
甲2-1:国際公開第2016/136428号
甲2-2:特表2018-534731号公報
甲2-3:国際公開第2015/115102号
甲2-4:特開2017-65964号公報
甲2-5:特開2016-204203号公報
第4 甲号証の記載、甲号証に記載された発明
1 甲1-1(特開2020-105316号公報)
(1)甲1-1には、以下の記載がある。
「【請求項1】
カーボンナノチューブ(A)と、分散剤(B)と、水及びまたは水溶性有機溶媒を含む溶媒(C)と、を含むカーボンナノチューブ分散液であって、カーボンナノチューブ(A)の比表面積が500~800m2/gであり、動的光散乱法によって測定した累積粒径D50が200~1000nmであることを特徴とするカーボンナノチューブ分散液。
・・・
【請求項6】
分散剤(B)が、カーボンナノチューブ(A)100質量部に対して、30~200質量部含まれることを特徴とする請求項1~5いずれか記載のカーボンナノチューブ分散液。」
「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブの分散液に関する。さらに詳しくは、カーボンナノチューブ分散液、カーボンナノチューブ分散液とバインダー樹脂とを含む樹脂組成物、カーボンナノチューブ分散液と樹脂と活物質とを含む合材スラリー、それを膜状に形成してなる電極膜、電極膜と電解質とを具備してなるリチウムイオン二次電池に関する。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、密着性および導電性の高い電極膜を得るために、高い分散性を有するカーボンナノチューブ分散液、カーボンナノチューブ樹脂組成物および合材スラリーを提供することである。さらに詳しくは、優れたレート特性およびサイクル特性を有するリチウムイオン二次電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討し、比表面積が500~800m2/gのカーボンナノチューブと、分散剤と、溶媒とを含み、動的光散乱法によって測定した累積粒径D50が200~1000nmであるカーボンナノチューブ分散液を使用することにより、導電性および密着性に優れた電極膜が得られることを見出し、本発明に至った。
【0009】
すなわち、本発明は、カーボンナノチューブ(A)と、分散剤(B)と、水及びまたは水溶性有機溶媒を含む溶媒(C)と、を含むカーボンナノチューブ分散液であって、カーボンナノチューブ(A)の比表面積が500~800m2/gであり、動的光散乱法によって測定した累積粒径D50が200~1000nmであることを特徴とするカーボンナノチューブ分散液に関する。
・・・
【0014】
また、本発明は、分散剤(B)が、カーボンナノチューブ(A)100質量部に対して、30~200質量部含まれることを特徴とする上記カーボンナノチューブ分散液に関する。」
「【発明の効果】
【0021】
本発明のカーボンナノチューブ分散液を使用することにより、導電性および密着性に優れた樹脂組成物、合材スラリー、電極膜が得られる。また、レート特性およびサイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池が得られる。よって高い導電性、密着性、耐久性が求められる様々な用途分野において、本発明のカーボンナノチューブ分散液を使用することが可能である。」
「【0026】
本実施形態のカーボンナノチューブ(A)のBET比表面積は500~800m2/gであり、500~750m2/gのものがより好ましい。」
「【0040】
カーボンナノチューブは、G/D比(G-bandとD-bandのピーク比)で評価される。本実施形態のカーボンナノチューブ(A)のG/D比はラマン分光分析法により求められる。本実施形態のカーボンナノチューブ(A)は、ラマンスペクトルにおいて1560~1600cm-1の範囲内での最大ピーク強度をG、1310~1350cm-1の範囲内での最大ピーク強度をDとした際に、G/D比が、0.5~50であることが好ましく、10~50であることがより好ましく、30~50であることがさらに好ましい。
【0041】
ラマン分光分析法で使用するレーザー波長は種々あるが、ここでは532nmおよび632nmを利用する。ラマンスペクトルにおいて1590cm-1付近に見られるラマンシフトは、グラファイト由来のGバンドと呼ばれ、1350cm-1付近に見られるラマンシフトはアモルファスカーボンやグラファイトの欠陥に由来のDバンドと呼ばれる。このG/D比が高いカーボンナノチューブほど、グラファイト化度が高い。」
「【0111】
表1に実施例および比較例で使用したCNT、CNTの平均外径、CNTの比表面積、G/D比、体積抵抗率、炭素純度、CB、CBの粒径を示す。
なお、市販品のCNTの平均外径は、カタログ値を記載した。
【0112】
【表1】
[図:0001432104000001.jpg]
【0113】
表2に実施例、比較例および参考例で使用した分散剤を示す。
【0114】
【表2】
[図:0001432104000002.jpg]
【0115】
(実施例1)
ガラス瓶(M-140、柏洋硝子株式会社製)に、CNT(JEIO社製 JENOTUBE 8S)を0.8部、分散剤(A)0.32部、消泡剤(サンノプコ株式会社製 SNデフォーマー1312)0.03部、イオン交換水を78.85部およびジルコニアビーズ(ビーズ径0.5mmφ)140部を仕込み、レッドデビル社製ペイントコンディショナーを用いて10時間分散処理を行った後、ジルコニアビーズを分離して、CNT分散液(A1)を得た。
【0116】
(実施例2~18)、(比較例1~9)
表3に掲載したCNT、CB、CNT濃度、分散剤、分散剤添加量、消泡剤添加量、分散処理時間に変更した以外は実施例1と同様の方法により、CNT分散液(A2)~(H3)を得た。
【0117】
【表3】
[図:0001432104000003.jpg]
【0118】
表4に実施例1~18、比較例1~9で作製したCNT分散液の評価結果を示す。6rpmにおけるCNT分散液の粘度を60rpmにおけるCNT分散液の粘度で除したものをTI値とした。
【0119】
【表4】
[図:0001432104000004.jpg]
」
(2)上記(1)の記載によれば、甲1-1には以下の発明(以下、「甲1-1発明」という。)が記載されているといえる(当審注:括弧内は根拠となる甲1-1の請求項及び段落番号である。)。
「カーボンナノチューブ(A)と、分散剤(B)と、水及びまたは水溶性有機溶媒を含む溶媒(C)と、を含むカーボンナノチューブ分散液であって、
カーボンナノチューブ(A)のBET比表面積が500~800m2/gであり、動的光散乱法によって測定した累積粒径D50が200~1000nmであり、(【請求項1】、【0009】、【0026】)
分散剤(B)が、カーボンナノチューブ(A)100質量部に対して、30~200質量部含まれ、(【請求項6】、【0014】)
カーボンナノチューブ(A)は、ラマンスペクトルにおいて1560~1600cm-1の範囲内での最大ピーク強度をG、1310~1350cm-1の範囲内での最大ピーク強度をDとした際に、G/D比が、0.5~50であることが好ましい、(【0040】)
カーボンナノチューブ分散液。」
2 甲1-2(特表2018-533175号公報)
(1)甲1-2には、以下の記載がある。
「【請求項1】
導電材分散液であって、
束型カーボンナノチューブを含む導電材と、
水素化したニトリル系ゴムを含む分散剤と、
分散媒と、を含んでなり、
レオメータ測定の際、周波数が1Hzである時に、複素弾性率(|G*|@1Hz)が20Pa~500Paである、導電材分散液。
・・・
【請求項4】
前記カーボンナノチューブは、波長514nmのレーザを用いたラマン分光分析法により得られた1580±50cm-1でのGバンドの最大ピーク強度に対する1360±50cm-1でのDバンドの最大ピーク強度の比の平均値が、0.7~1.2である、請求項1に記載の導電材分散液。
・・・
【請求項6】
前記カーボンナノチューブは、
BET比表面積が180m2/g~300m2/gであり、
嵩密度が10kg/m3~50kg/m3である、請求項1に記載の導電材分散液。
・・・
【請求項12】
前記分散剤は、カーボンナノチューブ100重量部に対して、10重量部~50重量部で含まれてなる、請求項1に記載の導電材分散液。
・・・
【請求項14】
前記分散媒は、アミド系有機溶媒である、請求項1に記載の導電材分散液。」
「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
・・・
【0002】
本発明は、優れた分散性および低い粉体抵抗特性を有することで、高出力用電極の製造に有用な導電材分散液、前記導電材分散液の製造方法および前記導電材分散液を用いて製造した二次電池に関する。」
「【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする第1の課題は、優れた分散性および低い粉体抵抗特性を有することで、高出力用電極の製造に有用な導電材分散液およびその製造方法を提供することにある。
【0010】
本発明が解決しようとする第2の課題は、前記導電材分散液を含む二次電池の電極形成用組成物を提供することにある。
【0011】
また、本発明が解決しようとする第3の課題は、前記導電材分散液を用いて製造した二次電池用電極、リチウム二次電池、電池モジュールおよび電池パックを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するために本発明の一実施形態によると、束型(バンドル型(状):bundle-type)カーボンナノチューブを含む導電材と、水素化したニトリル系ゴムを含む分散剤と、分散媒とを含み、レオメータ測定の際、周波数が1Hzである時に、複素弾性率(Complex(shear)modulus、|G*|@1Hz)が20Pa~500Paである導電材分散液を提供する。」
「【発明の効果】
【0017】
本発明に係る導電材分散液は、導電材として優れた伝導性を有するカーボンナノチューブが最適分散されることで、電極の製造に適用する際、電極形成用組成物の粉体抵抗を減少させて電極の出力特性を向上させることができる。これにより、前記導電材分散液は、自動車用電池などの高出力特性が求められる電池での電極の製造において有用である。」
「【図面の簡単な説明】
・・・
【図2】実験例2において、実施例1、2および比較例1~4で製造した導電材分散液の位相角〔Phase angle(°)〕および複素弾性率〔|G*|(Pa)at1Hz〕を観察したグラフである。」
「【0026】
すなわち、本発明の一実施形態に係る導電材分散液は、
束型カーボンナノチューブを含む導電材と、
水素化したニトリル系ゴムの分散剤と、
分散媒とを含み、
レオメータ(rheometer)測定の際、周波数1Hzである時に、複素弾性率(|G*|@1Hz)が20Pa~500Paである。
【0027】
本発明において、導電材分散液の複素弾性率または複素剪断弾性率は、動的粘弾性を示す量であり、物質に蓄積される弾性エネルギーの大きさを意味し、固体から液体の状態に変化するにつれて小さくなる。本発明での導電材分散液の複素弾性率は、粘度測定装置、具体的には、レオメータを用いて測定することができる。より具体的には、レオメータの円形回転板の間の距離を一定に設定した後、当該間隔に満たされる体積に相当する導電材分散液を取り込み、周波数が1Hzである時に剪断速度を1/s単位で10-3から103の範囲まで設定し、回転板を回すために生じる力を測定し、剪断粘性率(shear viscosity)の値を測定することができる。
【0028】
具体的には、本発明の一実施形態に係る導電材分散液は、レオメータ測定の際、周波数が1Hzである時に、複素弾性率(|G*|@1Hz)が20Pa~500Paである。導電材分散液の複素弾性率が20Pa未満である場合には、分散液の粘度が低すぎ、分散性が低下するため、電極の形成が容易でなく、また、複素弾性率が500Paを超える場合には、分散液の粘度が高くなり、製造工程で圧力増加によって取り扱いが難しいだけでなく、電極形成用組成物の製造時に高い粘弾性を有するため、固形分が減少して生産性が低下する恐れがある。導電材分散液の複素弾性率の制御による導電材分散液の分散性の向上、さらに、これを用いて製造した電極の粉体抵抗の減少および電池出力特性の改善効果の顕著さを考慮すると、前記導電材分散液の複素弾性率は、より具体的には、50Pa~350Paであってもよい。
【0029】
また、本発明の一実施形態に係る導電材分散液は、レオメータを用いて測定する際、剪断速度(shear rate)が1/6.3sである時に、剪断粘性率(shear viscosity)が2Pa・s~20Pa・sであってもよい。上述のように、従来に比べて低い剪断粘性率を有することで、電極の製造のための適用の際、より優れた分散特性を示すことができる。より具体的には、前記導電材分散液は、剪断粘性率が3.0Pa・s~15Pa・sであってもよい。」
「【0040】
また、本発明の一実施形態に係る前記導電材分散液において、前記カーボンナノチューブは、嵩密度が10kg/m3~50kg/m3であってもよい。上述の範囲の嵩密度を有することで、カーボンナノチューブの伝導性および分散性を改善することができる。
・・・
【0043】
また、本発明の一実施形態に係る前記導電材分散液において、前記カーボンナノチューブは、その単位体の直径が上述のように小さく、TD/BD比が大きいため、高いBET比表面積を有し、優れた分散性を示すことができる。具体的には、本発明で使用可能な前記カーボンナノチューブのBET比表面積は、180m2/g~300m2/gであってもよく、より具体的には、230m2/g~300m2/gであってもよい。本発明において、カーボンナノチューブの比表面積は、BET法により測定したものであり、具体的には、BEL Japan社製、BELSORP-mino IIを用いて液体窒素温度下(77K)での窒素ガス吸着量から算出することができる。
【0044】
また、本発明の一実施形態に係る前記導電材分散液において、前記カーボンナノチューブは、波長514nmのレーザを用いたラマン分光分析法により得られた1580±50cm-1でのGバンドの最大ピーク強度(IG)に対する1360±50cm-1でのDバンドの最大ピーク強度(ID)の比(ID/IG)の平均値が0.7~1.2であってもよい。
【0045】
ラマン分析法は、カーボンナノチューブの構造を分析する方法であり、カーボンナノチューブの表面状態の分析に有用な方法である。カーボンナノチューブのラマンスペクトルのうち波数1570cm-1~1580cm-1付近の領域に存在するピークをGバンドとし、これは、カーボンナノチューブのsp2結合を示すピークであり、構造欠陥のない炭素結晶を示すものである。一方、ラマンスペクトルのうち波数1350cm-1~1360cm-1付近の領域に存在するピークをDバンドとし、これは、カーボンナノチューブのsp3結合を示すピークであり、sp2結合からなる原子結合が切れてsp3結合になる場合に増加する。かかるDバンドは、前記カーボンナノチューブ内に存在する無秩序(disorder)ないし欠陥(defect)、または非晶質が生成される場合に増加するため、Gバンドの最大ピーク強度(IG)に対するDバンドの最大ピーク強度(ID)の比(ID/IG)を計算し、無秩序(disorder)ないし欠陥(defect)の生成程度を定量的に評価することができる。
【0046】
本発明において、カーボンナノチューブに対するラマンスペクトルのGバンドは、波数1580±50cm-1の領域、より具体的には、1575cm-1~1600cm-1の領域に存在するピークであってもよく、Dバンドは、波数1360±50cm-1の領域、より具体的には、1340cm-1~1360cm-1の領域に存在するピークであってもよい。前記GバンドおよびDバンドに対する波数の範囲は、ラマン分析法に使用したレーザ光源によってシフト可能な範囲に相当する。本発明で使用するラマン値は、特に制限されるものではないが、DXR Raman Microscope(Thermo Electron Scientific Instruments LLC)を用いてレーザ波長514nmで測定することができる。
【0047】
通常、Gバンドピーク積分値とDバンドピーク積分値との比率が大きいほど非晶質カーボンが多量含有されているか、CNTの結晶性が不良であることを意味するが、本発明では、BET比表面積が増加し、束型構造の2次形状を有することから、CNTの結晶性が良好となり、前記のようなID/IGの平均値を有することになる。」
「【0091】
具体的には、分散液中のカーボンナノチューブの均一な分散のために、前記分散剤は、カーボンナノチューブ100重量部に対して、1重量部~50重量部、より具体的には、10重量部~50重量部含まれてもよい。分散剤の含有量が1重量部未満の場合には、分散液中のカーボンナノチューブの均一な分散が難しく、50重量部を超える場合には、分散液の粘度が増加して加工性の低下などの恐れがある。」
「【0140】
[実施例1:導電材分散液の製造]
N-メチルピロリドン(NMP)溶媒97.6重量部に束型CNT(平均束直径=15nm)2重量部および部分水素化したアクリロニトリルブタジエン系ゴム(α,β-アクリロニトリル由来構造の繰り返し単位の含有量:54重量%、水素化したブタジエン由来構造の繰り返し単位の含有量:9重量%、重量平均分子量:260,000g/mol、多分散指数(PDI)=2.9)0.4重量部を添加し、均質混合装置(VMA LC55、Impeller/3000rpm)を用いて1時間混合した。結果の混合物に対して、ネッチビーズミル(NETZSCH Mini-cer、ビーズの平均直径:1mm、3000rpmの速度)を用いて90分間ミリングを行い、カーボンナノチューブ分散液を取得した。」
「【0154】
[実験例2]
前記実施例1~2および比較例1~4で製造したそれぞれの導電材分散液に対して、複素弾性率および粘度などの流動物性を測定した。
【0155】
複素弾性率および粘度を測定するために、粘度測定装備としてレオメータ(RHEOMETER)(モデル名:ARシリーズ、製造社:TA INSTRUMENTS)の円形回転板間の距離を一定に設定した後、当該間隔に満たされる体積に相当する導電材分散液をそれぞれ取り込み、剪断速度を1/s単位で10-3から103の範囲まで設定し、回転板を回すために生じる力を測定し、複素弾性率を測定した。また、剪断速度が1/6.3sである時の剪断粘性率を測定した。その結果を下記表2および図1、図2に示した。
【0156】
【表2】
[図:0001432104000005.jpg]
【0157】
測定する間に全体的に剪断流動化(shear thining)現象が観察された。
【0158】
比較例1~3は、剪断率の増加による剪断粘性率のグラフで変曲線が生じているが、実施例1および2の場合、直線の形態を示し、傾きが小さくなっている。比較例1~3での変曲線は、粘弾性を示す分散液での分散が十分に行われず、局所的な粒子凝集が生じたためである。
【0159】
一般的に粘弾性物質では、加える応力の程度に応じて弾性が異なり、傾きが小さくなるということは、応力が増加しても弾性の変化がほとんどないことを意味する。すなわち、分散状態が良好なほど、弾性率の尺度である複素弾性率の値が減少した。
【0160】
複素弾性率の値は、分散時間が増加するほど減少しており、比較例1~3に比べ、実施例1~2の分散液が大幅に減少した。具体的には、剪断率の増加による剪断粘性率グラフで変曲線が生じていない時の複素剪断率値は、300Pa以下であった。
【0161】
また、実施例1および2の導電材分散液は、比較例2および3に比べて低い剪断粘性率を示した。これにより、実施例1~2の導電材分散液にカーボンナノチューブが均一に分散していることが分かる。」
「【0173】
測定の結果、実施例1~2で使用した導電材分散液は、0.5g/cc~1.6g/ccの粉体密度で体積抵抗が0.01ohm・cm~0.04ohm・cmであり、同粉体密度区間で、比較例1~3に比べて低い体積抵抗値を示した。また、導電材分散液の複素弾性率の減少幅と類似した幅で粉体の抵抗が減少することを確認した、これにより、実施例1~2の導電材分散液が、比較例1~3に比べて電池の出力特性を大幅に向上させることができることを予想することができる。」
「【図2】
[図:0001432104000006.jpg]
」
(2)上記(1)の記載によれば、甲1-2には、以下の発明(以下、「甲1-2発明」という。)が記載されているといえる(当審注:括弧内は根拠となる甲1-2の請求項及び段落番号である。)。
「導電材分散液であって、
束型カーボンナノチューブを含む導電材と、
水素化したニトリル系ゴムを含む分散剤と、
分散媒と、を含んでなり、
レオメータ測定の際、周波数が1Hzである時に、複素弾性率が20Pa~500Paであり、(【請求項1】、【0012】、【0026】)
前記カーボンナノチューブは、波長514nmのレーザを用いたラマン分光分析法により得られた1580±50cm-1でのGバンドの最大ピーク強度に対する1360±50cm-1でのDバンドの最大ピーク強度の比の平均値が、0.7~1.2であり、(【請求項4】、【0044】)
前記カーボンナノチューブは、BET比表面積が180m2/g~300m2/gであり、嵩密度が10kg/m3~50kg/m3であり、(【請求項6】、【0040】、【0043】)
前記分散剤は、カーボンナノチューブ100重量部に対して、1重量部~50重量部含まれ、(【請求項12】、【0091】)
前記分散媒は、アミド系有機溶媒である、(【請求項14】)
導電材分散液。」
3 甲1-3(特表2018-534731号公報)
(1)甲1-3には、以下の記載がある。
「【請求項1】
束型(bundle-type)カーボンナノチューブを含む導電材と、
分散剤と、
分散媒とを含み、
レオメータ測定の際、周波数が1Hzである時に、位相角が3゜~18゜である、導電材分散液。
・・・
【請求項9】
前記分散剤は、前記カーボンナノチューブ100重量部に対して、1重量部~50重量部含まれる、請求項1に記載の導電材分散液。
・・・
【請求項11】
前記分散媒は、アミド系有機溶媒である、請求項1に記載の導電材分散液。」
「【技術分野】
・・・
【0002】
本発明は、高ローディング電極の製造時に崩壊およびクラックが発生することなく均一な厚さの電極活物質層の形成が可能であり、結果、電池の性能特性を改善することができる導電材分散液およびこれを用いて製造したリチウム二次電池に関する。」
「【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする第1の課題は、高い固体様特性(Solid like property)を有することで、高ローディング電極の製造時に、崩壊およびクラックが発生することなく、均一な厚さの電極活物質層を形成することができ、結果、電池の性能特性、特に、容量特性を大幅に改善することができる導電材分散液およびその製造方法を提供することにある。
【0010】
本発明が解決しようとする第2の課題は、前記導電材分散液を含むリチウム二次電池の電極形成用組成物を提供することにある。
【0011】
また、本発明が解決しようとする第3の課題は、前記導電材分散液を用いて製造したリチウム二次電池用電極、およびこれを含むリチウム二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するために本発明の一実施形態によると、束型(bundle-type)カーボンナノチューブを含む導電材と、分散剤と、分散媒とを含み、レオメータ測定の際、周波数が1Hzである時に、位相角(phase angle)が3゜~18゜である導電材分散液を提供する。」
「【発明の効果】
【0017】
本発明に係る導電材分散液は、強い固体様特性により、高ローディング用電極の製造時に、崩壊およびクラックが発生することなく、均一な厚さの電極活物質層を形成することができ、結果、電池の性能特性、特に、容量特性を向上させることができる。これにより、前記導電材分散液は、IT機器用の小型電池だけでなく、自動車用電池などの高容量特性が求められる電池の製造において有用である。」
「【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施例2-1、実施例2-2、比較例2-1~比較例2-3の導電材分散液の位相角を観察したグラフである。」
「【0023】
本発明で使用する「位相角(phase angle、δ)」という用語は、物体に加えられる応力(Stress)と歪み(Stain)の差から生じるものである。前記位相角は、粘弾性と相関関係があり、粘弾性材料である本発明の導電材分散液の基本的な性質を反映するために使用される。ここで、粘弾性とは、一つの物質が粘性と弾性を同時に有していることを意味し、外部的なエネルギーが物質に加えられた時に、粘性によってエネルギーが熱エネルギーに変化して消滅し、弾性によって一時的に貯蔵されてからまた外部に流出されることを言う。
【0024】
一方、理想固体(ideal solids)は、弾性物質(elastic materials)であり、歪みエネルギーを貯蔵し、歪みが除去されると最初の形状に戻る。理想固体の応力は、加えた歪みの振幅(amplitude)に比例し、応力と歪みとの位相角の差は0゜である。理想液体(Ideal liquids)は、粘性物質(viscous materials)であり、歪みエネルギーを発散し、歪みが除去されても最初の形状に戻ることができない。理想液体の応力は、加えた歪み速度(strain rate)に比例し、応力と歪みとの位相角の差は90゜である。
【0025】
本発明において、導電材分散液の位相角は、当分野において公知の方法により、レオメータ(rheometer)を使用して測定することができ、具体的には、動弾性剪断レオメータ(DSR;Dynamic Shear Rheometer)を使用して、15℃~25℃の温度下で一定量の歪み、例えば、1%の応力、具体的には、線形粘弾性領域内で歪み率の1%の応力を加えながら0.62rad/sから62rad/sまでの各周波数を用いて周波数掃引を行うことで測定され得る。また、前記測定は、0.1Hzから10Hzまでの各周波数で周波数掃引をして行われてもよい。測定された位相角が小さいほど弾性が支配的な特性を示し、位相角が大きくなるほど粘性が支配的な特性を示す。」
「【0029】
すなわち、本発明の一実施形態に係る導電材分散液は、
束型カーボンナノチューブを含む導電材と、
分散剤と、
分散媒とを含み、
レオメータ測定の際、周波数が1Hzである時に、位相角(phase angle、δ)が3゜~18゜である。
【0030】
本発明の一実施形態に係る導電材分散液は、レオメータ測定の際、周波数が1Hzである時に、位相角(phase angle、δ)が3゜~18゜である。導電材分散液の位相角が3゜未満の場合には、固体様特性が強すぎて、コーティング時にスラリー内で導電材の均一な分散が難しく、また、位相角が18゜を超える場合には、液体様特性が強くて粘度が低くなるため、高ローディング電極の製造時に均一な厚さの活物質層の形成が容易でなく、以降、乾燥工程においてクラックが生じる恐れがある。導電材分散液の位相角の制御による導電材分散液の固体様特性およびこれを用いた電極の製造時のコーティング性およびコーティング安定性を考慮すると、前記導電材分散液の位相角は、より具体的には、3゜~15゜、さらに具体的には、3゜~10゜であってもよい。
【0031】
一般的に、液体は、外部の力が加えられた時に、歪みに対する復元力、すなわち弾性歪みがない。固体は、外部の力が加えられた時に、その形態を連続して歪ませることができない。しかし、本発明の一実施形態に係る導電材分散液は、粘弾性(viscoelasticity)特性を有する物質であることから、外部の力が加えられた時に、形態が歪むことがあり、加えられた力の回数とは関係なく最初の形態にまた戻り得る。本発明の一実施形態に係る導電材分散液の粘弾性は、応力、歪み、時間の尺度、温度など、加えられた外部条件に応じて異なり得るが、レオメータ測定の際、周波数が1Hzである時に、位相角(phase angle、δ)が3゜~18゜である。」
「【0046】
また、本発明の一実施形態に係る前記導電材分散液において、前記カーボンナノチューブは、その単位体の直径が上述のとおり小さく、TD/BD比が大きいことから、高いBET比表面積を有し、優れた分散性を示すことができる。具体的には、本発明で使用可能な前記カーボンナノチューブのBET比表面積は、180m2/g~300m2/gであってもよく、より具体的には、200m2/g~300m2/g、さらに具体的には、230m2/g~300m2/gであってもよい。
【0047】
本発明において、カーボンナノチューブの比表面積は、BET法により測定したものであり、具体的には、BEL Japan社製、BELSORP-mino IIを用いて液体窒素温度下(77K)での窒素ガス吸着量から算出することができる。
【0048】
また、本発明の一実施形態に係る前記導電材分散液において、前記カーボンナノチューブは、波長532nmのレーザを用いたラマン分光分析法により得られた1580±50cm-1でのGバンドの最大ピーク強度(IG)に対する1360±50cm-1でのDバンドの最大ピーク強度(ID)の比(ID/IG)の平均値が0.7~1.2であってもよい。
【0049】
ラマン分析法は、カーボンナノチューブの構造を分析する方法であり、カーボンナノチューブの表面状態の分析に有用な方法である。カーボンナノチューブのラマンスペクトルのうち波数1,570~1,580cm-1付近の領域に存在するピークをGバンドとし、これは、カーボンナノチューブのsp2結合を示すピークであり、構造欠陥のない炭素結晶を示すものである。一方、ラマンスペクトルのうち波数1,350~1,360cm-1付近の領域に存在するピークをDバンドとし、これは、カーボンナノチューブのsp3結合を示すピークであり、sp2結合からなる原子結合が切れてsp3結合になる場合に増加する。かかるDバンドは、前記カーボンナノチューブ内に存在する無秩序(disorder)ないし欠陥(defect)、または非晶質が生成される場合に増加するため、Gバンドの最大ピーク強度(IG)に対するDバンドの最大ピーク強度(ID)の比(ID/IG)を計算し、無秩序(disorder)ないし欠陥(defect)の生成程度を定量的に評価することができる。
【0050】
本発明において、カーボンナノチューブに対するラマンスペクトルのGバンドは、波数1580±50cm-1領域に存在するピークであってもよく、Dバンドは、波数1360±50cm-1領域に存在するピークであってもよい。前記GバンドおよびDバンドに対する波数の範囲は、ラマン分析法に使用したレーザ光源によってシフト可能な範囲に相当する。本発明で使用するラマン値は、特に制限されるものではないが、DXR Raman Microscope(Thermo Electron Scientific Instruments LLC)を用いてレーザ波長532nmで測定することができる。
【0051】
通常、Gバンドピーク積分値とDバンドピーク積分値との比率が大きいほど非晶質カーボンが多量含有されているか、カーボンナノチューブの結晶性が不良であることを意味するが、本発明では、BET比表面積が増加し、束型構造の2次形状を有することから、カーボンナノチューブの結晶性が良好となり、前記のようなID/IGの平均値を有することになる。」
「【0090】
具体的には、分散液中のカーボンナノチューブの均一な分散のために、前記分散剤は、カーボンナノチューブ100重量部に対して、1重量部~50重量部含まれてもよい。分散剤の含有量が1重量部未満の場合には、分散液中のカーボンナノチューブの均一な分散が難しく、50重量部を超える場合には、分散液の粘度が増加して、電極の製造時に、電極形成用組成物のコーティング性およびコーティング安定性の低下の恐れがある。」
「【0160】
[実施例2-1、実施例2-2、比較例2-1~比較例2-3:導電材分散液の製造]
組成物の全重量に対して、下記表2に記載のカーボンナノチューブ5重量%、分散剤1.0重量%および分散媒94重量%を含む組成物を均質混合装置(VMA LC55、Impeller/3,000rpm)を用いて60分間混合した。結果の混合物に対して、ネッチビーズミル(NETZSCH Mini-cer、ビーズのサイズ:1mm/3,000rpm)を用いて下記表2に記載の時間の間に循環して行い、束型カーボンナノチューブを含む実施例2-1、実施例2-2、比較例2-1~比較例2-3の導電材分散液を取得した。
【0161】
【表2】
[図:0001432104000007.jpg]
【0162】
[実験例2-1]
実施例2-1、実施例2-2、比較例2-1~比較例2-3の導電材分散液に対して、位相角を測定した。
【0163】
詳細には、位相角を測定するために、動弾性剪断レオメータ(DSR;Dynamic Shear Rheometer)を使用して常温で1%の応力を加えながら1Hzの周波数で周波数掃引をして測定した。その結果を下記表3および図1に示した。図1のx軸は位相角であり、y軸は複素弾性率である。
【0164】
【表3】
[図:0001432104000008.jpg]
【0165】
測定の結果、実施例2-1および実施例2-2の導電材分散液は、位相角がそれぞれ13.7゜および7.3゜であった。しかし、比較例2-1~2-3の導電材分散液は、位相角が23.1゜、18.5゜および24.8゜であった。これにより、実施例2-1および実施例2-2の導電材分散液が、比較例2-1~比較例2-3よりも強い固体様特性を有することが分かった。」
「【図1】
[図:0001432104000009.jpg]
」
(2)上記(1)の記載によれば、甲1-3には、以下の発明(以下、「甲1-3発明」という。)が記載されているといえる(当審注:括弧内は根拠となる甲1-3の請求項及び段落番号である。)。
「束型カーボンナノチューブを含む導電材と、
分散剤と、
分散媒とを含み、
レオメータ測定の際、周波数が1Hzである時に、位相角が3゜~18゜である、導電材分散液であって、(【請求項1】、【0012】、【0029】)
前記分散剤は、カーボンナノチューブ100重量部に対して、1重量部~50重量部含まれ、(【請求項9】、【0090】)
前記分散媒は、アミド系有機溶媒であり、(【請求項11】)
カーボンナノチューブのBET比表面積は、180m2/g~300m2/gであってもよく、(【0046】)
前記カーボンナノチューブは、波長532nmのレーザを用いたラマン分光分析法により得られた1580±50cm-1でのGバンドの最大ピーク強度(IG)に対する1360±50cm-1でのDバンドの最大ピーク強度(ID)の比(ID/IG)の平均値が0.7~1.2であってもよい、(【0048】)
導電材分散液。」
4 甲1-4(特開2012-56789号公報)
甲1-4には、以下の記載がある。
「【0023】
本発明の、粒度分布測定をおこなったときのメディアン径が100nmから4000nmであるとは、カーボンナノチューブの濃度が0.003wt%の水分散液中で光散乱法で測定した時の値であり、カーボンナノチューブの分散性を表している。本発明の2層カーボンナノチューブ水分散液は必ずしも完全に全てのカーボンナノチューブが孤立分散している必要はなく、部分的にバンドルを組んでいる方が好ましい。理由は定かではないが、完全に孤立分散しているよりは部分的にバンドルを組んでいる方が導電性が良い傾向が観られ、導電性が良い均一膜を得るためには適度なメディアン径である必要がある。また、粒度分布測定によるメディアン径は、長さも加味した値であり、種々の基材に均一に塗布可能なカーボンナノチューブ分散液であるためには、カーボンナノチューブの種類と長さに適した範囲が存在する。本発明の2層カーボンナノチューブ分散液では、メディアン径が100nmから4000nmである必要があり、これより大きい値は分散性が良くないため、塗布した際に均一になりにくい。また、小さすぎる場合は、導電性が低下する。好ましくは300nmから3000nmであり、より好ましくは500nmから2000nmであり、最も好ましくは700nmから1500nmである。粒度分布の値は分散時間を長くするほど小さくなり、分散時間が短いほど大きくなる。また、長い2層カーボンナノチューブを用いれば大きな値となり、短い2層カーボンナノチューブを用いれば小さい値となる傾向がみられるため、分散時間と用いる2層カーボンノナチューブの長さで調整する事ができる。粒度分布測定は、カーボンナノチューブの濃度が3.0×10-3wt%以上である場合は、前記濃度になるように溶媒で希釈して、大塚電子株式会社製のゼータ電位・粒径測定システムELS-Z1/Z2を用いて測定することが出来る。」
「【0030】
本発明に使用する2層カーボンナノチューブは純度が高いほど好ましい。カーボンナノチューブの純度は表すラマン分光分析によるGバンドとDバンドの高さ比(G/D比)から求めることが可能である。Gバンドはカーボンナノチューブの結晶化度が高いほど高くなり、Dバンドはアモルファスカーボンの様な炭素不純物の存在量やカーボンナノチューブの欠損の量が多くなると高くなる。ラマンG/D比は不純物の量とカーボンナノチューブ自身の結晶化度の両方を同時に測定してしまう値ではあるが、不純物が少なくなっても、カーボンナノチューブの結晶化度が高くなってもG/D比は高くなるので、G/D比が高いほど導電性は高いカーボンナノチューブのバルク体となる。従って、本発明で使用するカーボンナノチューブのG/D比は高いほど好ましい。G/D比は測定に用いる光の波長によって変わる値であるので、目安として、例えば耐電防止目的に使用するのであれば、633nm光を用いて測定した場合、G/D比は5以上あるのが好ましく、10以上であればより好ましく、更に好ましくは20以上である。50以上であれば最も好ましい。上限としては生産性を無視すれば現状の技術ではどこまでもG/D比の高いカーボンナノチューブを製造可能であるため、適宜、必要に応じて調製すると良いが、G/D比が20から200あれば、例えば帯電防止目的であれば十分性能を発揮する。20以下でも効果を発揮するが、塗布時の膜圧を厚く塗る必要があり、透明性を必要とする用途には使いにくい。」
「【0048】
本発明の2層カーボンナノチューブ分散液の粘度は低いほど好ましい。溶媒の揮発性にもよるが、あまりにも粘度が高いと、上記方法でコントロールすることは可能だが、塗布液が基材上に均一に広がる前に乾燥してしまい、塗りムラが発生し易くなる。本発明以外のカーボンナノチューブ分散液を用いた場合(例えば長さが0.5μmより短い2層カーボンナノチューブを用いた場合や粒度分布測定における平均粒径が100nmより小さい2層カーボンナノチューブ分散液を用いた場合)、粘度が低すぎる場合においても、乾燥時の対流によって塗りムラが生じる場合がある。塗布方法によっても基準は変わるが、本発明の2層カーボンナノチューブ分散液の場合、例えば、東機産業株式会社製のE型粘度計(RE-80L)を用いた場合で25℃、50rpm、2min間、1°34′×R24のローターで測定した場合、100mPa・s以下である事が好ましく、より好ましくは60mPa・s以下であり、更に好ましくは30mPa・s以下、最も好ましくは10mPa・s以下であり、更に最も好ましい値は6mPa・s以下である。」
5 甲1-5(特開2016-54113号公報)
甲1-5には、以下の記載がある。
「【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
ここで、本発明の二次電池電極用複合体の製造方法は、本発明の二次電池電極用複合体を製造する際に用いることができる。また、本発明の二次電池電極用複合体は、本発明の二次電池用電極を製造する際に用いることができる。そして、本発明の二次電池は、本発明の二次電池用電極を用いたことを特徴とする。
【0022】
(二次電池電極用複合体の製造方法)
本発明に係る二次電池電極用複合体の製造方法は、電極活物質と、カーボンナノチューブ(以下「CNT」と称することがある。)と、溶媒とを混合して分散液を調製する工程(以下「分散液調製工程」と称する。)と、分散液調製工程で得た分散液から溶媒を除去してシート状の複合体を形成する工程(以下「複合体形成工程」と称する。)とを含む。そして、本発明に係る二次電池電極用複合体の製造方法では、平均直径(Av)と直径の標準偏差(σ)とが所定の関係を満たすカーボンナノチューブを使用することを必要とする。」
「【0044】
更に、CNTのBET比表面積は、未開口の状態で600m2/g以上であることが好ましく、800m2/g以上であることが更に好ましく、2600m2/g以下であることが好ましく、1200m2/g以下であることが更に好ましい。更に、CNTが主として開口したものにあっては、BET比表面積が1300m2/g以上であることが好ましい。CNTのBET比表面積が600m2/g以上であれば、複合体の耐屈曲性、並びに、複合体を用いた二次電池の出力特性およびサイクル特性を更に向上させることができるからである。また、CNTのBET比表面積が2600m2/g以下であれば、分散液中でのCNTの凝集を抑制して、均一で特性に優れる複合体を形成することができるからである。
6 甲2-1(国際公開第2016/136428号)
(1)甲2-1には、以下の記載がある。
「[0022] カーボンナノチューブは、特に限定されないが、直線性があり結晶化度が高いカーボンナノチューブであることが、導電性が高く好ましい。直線性のよいカーボンナノチューブとは、欠陥が少ないカーボンナノチューブである。カーボンナノチューブの結晶化度は、ラマン分光分析法により評価が可能である。ラマン分光分析法で使用するレーザー波長は種々あるが、532nmを利用する。ラマンスペクトルにおいて1590cm-1付近に見られるラマンシフトは、グラファイト由来のGバンドと呼ばれ、1350cm-1付近に見られるラマンシフトはアモルファスカーボンやグラファイトの欠陥に由来のDバンドと呼ばれる。すなわち、GバンドとDバンドのピーク高さの比であるG/D比が高いカーボンナノチューブほど、直線性および結晶化度が高く、高品質である。
[0023] G/D比は高いほど良いが、30以上であれば高品質カーボンナノチューブ含有組成物と言うことができる。好ましくは40以上、さらに好ましくは50以上である。上限は特にないが、通常200以下である。また固体のラマン分光分析法は、サンプリングによって測定値がばらつくことがある。そこで少なくとも3カ所、異なる場所をラマン分光分析し、その相加平均をとるものとする。」
「[0037] カーボンナノチューブ分散液に含まれる分散剤の含有量としては、具体的にはカーボンナノチューブ含有組成物100重量部に対して分散剤が10重量部以上500重量部以下であることが好ましい。分散剤の含有量は、カーボンナノチューブ含有組成物100重量部に対して30重量部以上であることがより好ましい。また、含有量は、200重量部以下であることがより好ましい。分散剤の含有量が10重量部よりも少ない場合はカーボンナノチューブの束が十分に解れないために分散性が低くなりやすい。含有量が、500重量部よりも多いと、過剰な分散剤によって導電パスが阻害されるために導電性が悪化し、分散剤に親水性官能基が存在する場合は高温・高湿度といった環境変化に対して分散剤の吸湿などによる導電性の変化が起こりやすくなる。
[0038] 本発明ではカーボンナノチューブ含有組成物、分散剤、揮発性塩および水系溶媒を用いてカーボンナノチューブ分散液を調製する。分散液は、液体状でもペーストやゲルのような半固形状でもかまわないが、液体状が好ましい。・・・」
「[請求項1] カーボンナノチューブ含有組成物、重量平均分子量0.1万以上40万以下の分散剤、揮発性塩および水系溶媒を含むカーボンナノチューブ分散液。
・・・・
[請求項4] 前記分散剤の含有量が、カーボンナノチューブ含有組成物100重量部に対して10重量部以上500重量部以下である請求項1から3のいずれかに記載のカーボンナノチューブ分散液。」
(2)上記(1)の記載によれば、甲2-1には、以下の発明(以下、「甲2-1発明」という。)が記載されているといえる(当審注:括弧内は根拠となる甲2-1の請求項及び段落番号である。)。
「カーボンナノチューブ含有組成物、重量平均分子量0.1万以上40万以下の分散剤、揮発性塩および水系溶媒を含むカーボンナノチューブ分散液であって、([請求項1]、)
前記分散剤の含有量が、カーボンナノチューブ含有組成物100重量部に対して10重量部以上500重量部以下であり、([請求項4]、[0037])
カーボンナノチューブのラマンスペクトルにおいて1590cm-1付近に見られるGバンドと、1350cm-1付近に見られるDバンドのピーク高さの比であるG/D比が30以上200以下である、([0022]、[0023])
カーボンナノチューブ分散液。」
7 甲2-2(特表2018-534731号公報)
甲2-2は、甲1-3と同じ公表特許公報であるところ、甲2-2には、上記3(1)のとおりの記載がある。
8 甲2-3(国際公開第2015/115102号)
甲2-3には、以下の記載がある。
「[0028] 更に、CNT(A)は、ラマンスペクトルにおけるDバンドピーク強度に対するGバンドピーク強度の比(G/D比)が1以上20以下であることが好ましい。G/D比が1以上20以下であれば、CNT(A)の配合量が少量であっても、CNT分散液から形成される導電膜の導電性や機械的特性を十分に向上させることができる。」
「[0074]<使用材料>
[CNT]
以下のCNTを用いた。
CNT1:単層CNT(KHケミカルズHP 純度80%)BET比表面積620m2/g
CNT2:単層CNT(名城ナノカーボン SWNT SO)BET比表面積800m2/g
CNT3:SGCNT(以下の手順で調製した)。BET比表面積1050m2/g」
9 甲2-4(特開2017-65964号公報)
甲2-4には、以下の記載がある。
「【0042】
本発明におけるカーボンナノチューブを含む分散液のせん断速度1,000/sにおける粘度は2.0mPa・s以上が好ましく、より好ましくは4.0mPa・s以上、さらに好ましくは10.0mPa・s以上である。
【0043】
カーボンナノチューブを含む分散液の粘度を調整するには、例えば、分散液の濃度を調整する、分散剤を用いる場合は分散剤の分子量を調整するなどの手段がる。分散液の濃度を大きくすることで、分散液の粘度を上げることができる。また、分散剤の分子量を大きくすることで分散液の粘度を上げることができる。」
10 甲2-5(特開2016-204203号公報)
甲2-5には、以下の記載がある。
「【0052】
・・・本発明において、導電性が高く、分散安定性に優れた分散液を得るためには、分散体の平均粒径は200nm以上2000nm以下であることが好ましい。より好ましくは300nm以上1500nm以下、さらに好ましくは400nm以上1000nm以下である。平均粒径がこの範囲にあると、カーボンナノチューブは高分散しながらも、よりネットワークをとりやすい状態になっており、分散液を塗布して導電性成形体としたときに、高い透明導電性を得ることができる。」
第5 申立理由1-1(進歩性)について
1 本件発明1について
(1)対比
本件発明1と甲1-1発明とを対比する。
ア 甲1-1発明の「カーボンナノチューブ(A)」、「分散剤(B)」、「水及びまたは水溶性有機溶媒を含む溶媒(C)」は、本件発明1の「カーボンナノチューブ」、「分散剤」、「溶媒」にそれぞれ相当し、甲1-1発明の「カーボンナノチューブ(A)と、分散剤(B)と、水及びまたは水溶性有機溶媒を含む溶媒(C)と、を含むカーボンナノチューブ分散液」は、本件発明1の「カーボンナノチューブと、分散剤と、溶媒とを含むカーボンナノチューブ分散液」に相当する。
イ(ア)甲1-1発明の「ラマンスペクトルにおいて1560~1600cm-1の範囲内での最大ピーク強度をG、1310~1350cm-1の範囲内での最大ピーク強度をDとした際」の「カーボンナノチューブ(A)」の「G/D比」は、本件発明1の「(1)カーボンナノチューブのラマンスペクトルにおいて1560~1600cm-1の範囲内での最大ピーク強度をG、1310~1350cm-1の範囲内での最大ピーク強度をDとした際」の「カーボンナノチューブのG/D比」に対応する(以下、甲1-1発明の「カーボンナノチューブ(A)」の「G/D比」及び本件発明1の「カーボンナノチューブのG/D比」を、いずれも単に「G/D比」ということがある。)。
(イ)ここで、「G/D比」について、甲1-4(上記第4 4)の【0030】には、「カーボンナノチューブの純度は表すラマン分光分析によるGバンドとDバンドの高さ比(G/D比)から求めることが可能である」、「G/D比は測定に用いる光の波長によって変わる値である」と記載されているから、「G/D比」の値は、測定に用いる光の波長によって変わるものである。
(ウ)そこで、本件発明1及び甲1-1発明の「G/D比」を測定するラマン分光分析の測定に用い得る光の波長について検討する。
まず、本件特許に係る願書に添付した明細書の【0099】には、「<CNTのG/D比>
ラマン顕微鏡(XploRA、株式会社堀場製作所社製)にCNTを設置し、532nmのレーザー波長を用いて測定を行った。」と記載されているから、本件発明1の「G/D比」は、532nmの波長を用いて測定した値である。
一方、甲1-1(上記第4 1)の【0041】には、「ラマン分光分析法で使用するレーザー波長は種々あるが、ここでは532nmおよび632nmを利用する。」と記載されているものの、甲1-1発明の「G/D比」は、532nmと632nmのどちらの波長を用いて測定しているのか不明である。
そうすると、本件発明1の「G/D比」と、甲1-1発明の「G/D比」とは、測定した波長が同じであるとはいえない。
そして、上記(イ)で検討したとおり、「G/D比」は、測定に用いる光の波長によって変わるものであり、甲1-1発明の「G/D比」である「0.5~50」は、532nmと632nmのどちらの波長を用いて測定しているのか不明であるから、本件発明1の532nmの波長を用いて測定した「G/D比」である「5~100」に相当しない。
ウ 甲1-1発明は、「分散剤(B)が、カーボンナノチューブ(A)100質量部に対して、30~200質量部含まれ」ているから、カーボンナノチューブ(A)100質量部に対して、分散剤(B)を30質量部以上250質量部未満含有しているといえる。
したがって、本件発明1と甲1-1発明とは、「(2)カーボンナノチューブ100質量部に対して、分散剤を30質量部以上250質量部未満含有する」点で一致する。
エ 以上によれば、本件発明1と甲1-1発明との一致点、相違点は以下のとおりとなる。
<一致点>
「カーボンナノチューブと、分散剤と、溶媒とを含むカーボンナノチューブ分散液であって、下記(2)を満たすことを特徴とするカーボンナノチューブ分散液。
(2)カーボンナノチューブ100質量部に対して、分散剤を30質量部以上250質量部未満含有すること」
<相違点>
相違点1-1:「(1)カーボンナノチューブのラマンスペクトルにおいて1560~1600cm-1の範囲内での最大ピーク強度をG、1310~1350cm-1の範囲内での最大ピーク強度をDとした際」の「カーボンナノチューブのG/D比」について、本件発明1は、「5~100」であるのに対し、甲1-1発明は、不明である点。
相違点1-2:本件発明1は、「(3)カーボンナノチューブ分散液の25℃、周波数1Hzにおける複素弾性率が5Pa以上650Pa未満であり、位相角が5°以上50°未満」であるのに対し、甲1-1発明は、そのような構成を有しているか不明である点。
相違点1-3:本件発明1は、「(4)カーボンナノチューブのBET比表面積が、550~1200m2/g」であるのに対し、甲1-1発明は、「カーボンナノチューブ(A)のBET比表面積が500~800m2/g」である点。
(2)相違点についての判断
ア 相違点1-1について
(ア) 甲1-1(上記第4 1)の【0026】には、「本実施形態のカーボンナノチューブ(A)のBET比表面積は500~800m2/gであり、500~750m2/gのものがより好ましい。」と記載され、【0096】には、「<CNTのラマン分光分析>
ラマン顕微鏡(XploRA、株式会社堀場製作所社製)にCNTを設置し、532nmのレーザー波長を用いて測定を行った。」と記載されているから、【0112】の【表1】には、OCSiAL社製TUBALLについて、532nmの波長を用いて測定したG/D比が39、BET比表面積が520m2/gであり、昭和電工社製VGCF-Hについて、532nmの波長を用いて測定したG/D比が7.2、BET比表面積が10m2/gであることが記載されているといえる。
そして、OCSiAL社製TUBALLの532nmの波長を用いて測定したG/D比である39と、昭和電工社製VGCF-Hの532nmの波長を用いて測定したG/D比である7.2は、いずれも、本件発明1の532nmの波長を用いて測定した「G/D比」である「5~100」の範囲に含まれている。
しかし、OCSiAL社製TUBALLのBET比表面積である520m2/g、昭和電工社製VGCF-HのBET比表面積である10m2/gは、いずれも、本件発明1の「カーボンナノチューブのBET比表面積」である「550~1200m2/g」の範囲に含まれていない。
そうすると、甲1-1発明の「カーボンナノチューブ」にOCSiAL社製TUBALL又は昭和電工社製VGCF-Hを適用しても、本件発明1の構成は得られない。
また、甲1-1の【0112】の【表1】には、ゼオンテクノロジー株式会社製ZEONANO○R SG101)(当審注:Rに○を付した文字は「○R」と表記する。)は、532nmの波長を用いて測定したG/D比が6.1、BET比表面積が850m2/gであることが記載されているといえ、当該G/D比である6.1と、BET比表面積である850m2/gは、いずれも、本件発明1の532nmの波長を用いて測定した「G/D比」である「5~100」の範囲と「カーボンナノチューブのBET比表面積」である「550~1200m2/g」の範囲に含まれている。
しかし、甲1-1(上記第4 1)の【0117】の【表3】、【0118】の【表4】によれば、ゼオンテクノロジー株式会社製ZEONANO○R SG101を用いたCNT分散液は、いずれも比較例である。
そうすると、甲1-1発明の「カーボンナノチューブ」として、比較例のゼオンテクノロジー株式会社製ZEONANO○R SG101を適用する動機付けがあるとはいえない。
(イ)甲1-2(上記第4 2)の【0044】には、「また、本発明の一実施形態に係る前記導電材分散液において、前記カーボンナノチューブは、波長514nmのレーザを用いたラマン分光分析法により得られた1580±50cm-1でのGバンドの最大ピーク強度(IG)に対する1360±50cm-1でのDバンドの最大ピーク強度(ID)の比(ID/IG)の平均値が0.7~1.2であってもよい。」と記載されているから、甲1-2のカーボンナノチューブのID/IGは、514nmの波長を用いて測定した値である。
ここで、甲1-2のID/IGの逆数であるIG/ID、すなわち、1360±50cm-1でのDバンドの最大ピーク強度(ID)に対する1580±50cm-1でのGバンドの最大ピーク強度(IG)の比は、本件発明1の「G/D比」に対応する。
しかし、上記(1)イ(イ)で検討したとおり、「G/D比」は、測定に用いる光の波長によって変わるものである。
したがって、甲1-2には、532nmの波長を用いて測定した「G/D比」を「5~100」とすることは記載も示唆もされていない。
(ウ)甲1-3(上記第4 3)の【0048】には、「また、本発明の一実施形態に係る前記導電材分散液において、前記カーボンナノチューブは、波長532nmのレーザを用いたラマン分光分析法により得られた1580±50cm-1でのGバンドの最大ピーク強度(IG)に対する1360±50cm-1でのDバンドの最大ピーク強度(ID)の比(ID/IG)の平均値が0.7~1.2であってもよい。」と記載されているから、ID/IGの逆数であるIG/ID、すなわち、カーボンナノチューブの波長532nmのレーザを用いたラマン分光分析法により得られた1360±50cm-1でのDバンドの最大ピーク強度(ID)」に対する1580±50cm-1でのGバンドの最大ピーク強度(IG)の比の平均値は、1/1.2~1/0.7≒0.83~1.43である。
そうすると、甲1-3のカーボンナノチューブの波長532nmのレーザを用いたIG/IDは、本件発明1の532nmの波長を用いて測定した「G/D比」に対応するものの、甲1-3のカーボンナノチューブのIG/IDは0.83~1.43であり、本件発明1の532nmの波長を用いて測定した「G/D比」である「5~100」の範囲に含まれていない。
したがって、甲1-3には、532nmの波長を用いて測定した「G/D比」を「5~100」とすることは記載も示唆もされていない。
(エ)甲1-4(上記第4 4)の【0030】には、「633nm光を用いて測定した場合、G/D比は5以上あるのが好ましく」と記載されているものの、上記(1)イ(イ)で検討したとおり、「G/D比」は、測定に用いる光の波長によって変わるものであるから、甲1-4には、532nmの波長を用いて測定した「G/D比」を「5~100」とすることは記載も示唆もされていない。
また、甲1-5には、532nmの波長を用いて測定した「G/D比」を「5~100」とすることは記載も示唆もされていない。
(オ)以上から、甲1-1発明において、甲1-1~甲1-5に記載された事項を参酌しても、532nmの波長を用いて測定した「G/D比」を「5~100」とすること、すなわち、相違点1-1に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
イ 申立人安藤の主張について
(ア)申立人安藤は、特許異議申立書の66ページ7行~67ページ6行において、以下の旨主張をしている。
a 二次電池の電極の作製に使用するカーボンナノチューブ(CNT)について、電池の性能と、「G/D比」、BET比表面積とに相関関係があることは公知であるから、甲1-1発明を実施するに際して、好ましい電池の性能を提供する「G/D比」、BET比表面積を選択することは、当業者の通常の創作能力の発揮といえ、当業者が通常行う設計変更事項であるといえる。
b そして、「G/D比」については、甲1-1には、「G/D比」が、30~50であることが好ましい旨が記載されている(甲1-1の【0040】等)。
c また、甲1-1発明と同じカーボンナノチューブ分散液の発明が記載された甲1-4には、「G/D比」は、5以上あるのが好ましく、10以上であればより好ましく、更に好ましくは20以上であることが記載されている(甲1-4の【0030】等)。
d 次に、BET比表面積については、甲1-5には、二次電池の電極の作製に使用する分散液に含まれるカーボンナノチューブ(CNT)について、複合体の耐屈曲性、並びに、複合体を用いた二次電池の出力特性およびサイクル特性を更に向上させることができることから、CNTのBET比表面積は、未開口の状態で800m2/g以上であることが好ましいことが記載されており、また、分散液中でのCNTの凝集を抑制して、均一で特性に優れる複合体を形成することができることから、CNTのBET比表面積は、末開口の状態で1200m2/g以下であることが好ましいことが記載されている(甲1-5の【0022】、【0044】等)。
e そうすると、甲1-1発明において、(1)「G/D比」を5~100の範囲内に調整し、(4)カーボンナノチューブのBET比表面積を550~1200m2/gの範囲内に調整することは当業者が容易になし得ることである。
(イ)上記(ア)aの主張について
申立人が主張する「二次電池の電極の作製に使用するカーボンナノチューブ(CNT)について、電池の性能と、「G/D比」、BET比表面積とに相関関係があること」について、公知であることを立証する証拠は提示されていない。
したがって、甲1-1発明を実施するに際して、好ましい電池の性能を提供する「G/D比」、BET比表面積を選択することは、当業者の通常の創作能力の発揮といえず、当業者が通常行う設計変更事項であるともいえない。
(ウ)上記(ア)bの主張について
上記(1)イ(ウ)で検討したとおり、甲1-1発明の「G/D比」である「0.5~50」は、532nmと632nmのどちらの波長を用いて測定しているのか不明であるから、本件発明1の532nmの波長を用いて測定した「G/D比」である「5~100」に相当しない。
そうすると、甲1-1の【0040】に、「G/D比」が、30~50であることが好ましい旨が記載されていることをもって、甲1-1に、532nmの波長を用いて測定した「G/D比」を「5~100」とすることが示唆されているとはいえない。
(エ)上記(ア)cの主張について
上記ア(エ)で検討したとおり、甲1-4には、532nmの波長を用いて測定した「G/D比」を「5~100」とすることは記載も示唆もされていない。
(オ)上記(ア)dの主張について
甲1-5(上記第4 5)の【0022】には、「本発明に係る二次電池電極用複合体の製造方法は、電極活物質と、カーボンナノチューブ(以下「CNT」と称することがある。)と、溶媒とを混合して分散液を調製する工程(以下「分散液調製工程」と称する。)と、分散液調製工程で得た分散液から溶媒を除去してシート状の複合体を形成する工程(以下「複合体形成工程」と称する。)とを含む。」と記載され、【0044】「更に、CNTのBET比表面積は、未開口の状態で600m2/g以上であることが好ましく、800m2/g以上であることが更に好ましく、・・・CNTのBET比表面積が600m2/g以上であれば、複合体の耐屈曲性、並びに、複合体を用いた二次電池の出力特性およびサイクル特性を更に向上させることができるからである。また、CNTのBET比表面積が2600m2/g以下であれば、分散液中でのCNTの凝集を抑制して、均一で特性に優れる複合体を形成することができるからである。」と記載されている。
しかし、上記(イ)で検討したとおり、申立人が主張する「二次電池の電極の作製に使用するカーボンナノチューブ(CNT)について、電池の性能と、「G/D比」、BET比表面積とに相関関係があること」について、公知であることを立証する証拠は提示されていないから、甲1-1発明を実施するに際して、好ましい電池の性能を提供する「G/D比」、BET比表面積を選択することは、当業者の通常の創作能力の発揮といえず、当業者が通常行う設計変更事項であるとはいえない。
(カ)上記(ア)eの主張について
上記(イ)~(オ)によれば、甲1-1発明において、532nmの波長を用いて測定した「G/D比」を「5~100」の範囲内に調整し、カーボンナノチューブのBET比表面積を550~1200m2/gの範囲内に調整することは、当業者が容易になし得ることとはいえない。
(キ)したがって、申立人安藤の上記(ア)a~eの主張は採用できない。
(3)小括
以上によれば、その他の相違点について判断するまでもなく、本件発明1は、甲1-1発明及び甲1-1~甲1-5に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
2 本件発明2~10について
本件発明2~10は、本件発明1の全ての構成を備える発明であるから、本件発明1と同様に、甲1-1発明及び甲1-1~甲1-5に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものではない。
3 まとめ
以上によれば、申立理由1-1(進歩性)には理由がない。
第6 申立理由1-2(進歩性)について
1 本件発明1について
(1)対比
本件発明1と甲1-2発明とを対比する。
ア 甲1-2発明の「束型カーボンナノチューブを含む導電材」、「水素化したニトリル系ゴムを含む分散剤」、「アミド系有機溶媒である」「分散媒」は、本件発明1の「カーボンナノチューブ」、「分散剤」、「溶媒」にそれぞれ相当し、甲1-2発明の「束型カーボンナノチューブを含む導電材と、水素化したニトリル系ゴムを含む分散剤と、分散媒と、を含」む「導電材分散液」は、本件発明1の「カーボンナノチューブと、分散剤と、溶媒とを含むカーボンナノチューブ分散液」に相当する。
イ 甲1-2発明において、「カーボンナノチューブ」の「波長514nmのレーザを用いたラマン分光分析法により得られた1580±50cm-1でのGバンドの最大ピーク強度に対する1360±50cm-1でのDバンドの最大ピーク強度の比の平均値」は「0.7~1.2」である。
しかし、上記第5 1(2)ア(イ)の検討を参酌すると、甲1-2発明の「前記カーボンナノチューブは、波長514nmのレーザを用いたラマン分光分析法により得られた1580±50cm-1でのGバンドの最大ピーク強度に対する1360±50cm-1でのDバンドの最大ピーク強度の比の平均値が、0.7~1.2」であることは、本件発明1の532nmの波長を用いて測定した「G/D比」が、「5~100」であることに相当しない。
ウ 甲1-2発明の「導電材分散剤」は、「レオメータ測定の際、周波数が1Hzである時に、複素弾性率が20Pa~500Pa」であるから、複素弾性率は5Pa以上650Pa未満であるといえる。
また、甲1-2(第4 2)の【0155】は、レオメータ測定の具体的な方法の記載であるところ、測定温度は特に記載されていないから、その温度は室温であるといえる。
したがって、本件発明1と甲1-2発明とは、「(3)カーボンナノチューブ分散液の25℃、周波数1Hzにおける複素弾性率が5Pa以上650Pa未満」である点で一致する。
エ 甲1-2発明の「カーボンナノチューブ」は、「BET比表面積が180m2/g~300m2/g」であるから、BET比表面積は550~1200m2/gであるといえる。
したがって、本件発明1と甲1-2発明とは、「(4)カーボンナノチューブのBET比表面積が、550~1200m2/g」である点で一致する。
オ 以上によれば、本件発明1と甲1-2発明との一致点、相違点は以下のとおりとなる。
<一致点>
「カーボンナノチューブと、分散剤と、溶媒とを含むカーボンナノチューブ分散液であって、下記(3)、(4)を満たすカーボンナノチューブ分散液。
(3)カーボンナノチューブ分散液の25℃、周波数1Hzにおける複素弾性率が5Pa以上650Pa未満であること
(4)カーボンナノチューブのBET比表面積が、550~1200m2/gであること」
<相違点>
相違点2-1:「(1)カーボンナノチューブのラマンスペクトルにおいて1560~1600cm-1の範囲内での最大ピーク強度をG、1310~1350cm-1の範囲内での最大ピーク強度をDとした際」の「カーボンナノチューブのG/D比」について、本件発明1は、「5~100」であるのに対し、甲1-2発明は、不明である点。
相違点2-2:「分散剤」について、本件発明1は、「(2)カーボンナノチューブ100質量部に対して」、「30質量部以上250質量部未満含有する」のに対し、甲1-2発明は、「カーボンナノチューブ100重量部に対して、1重量部~50重量部含まれ」ている点。
相違点2-3:本件発明1は、「(3)カーボンナノチューブ分散液の25℃、周波数1Hzにおける」「位相角が5°以上50°未満」であるのに対し、甲1-2発明は、そのような構成を有しているか不明である点。
(2)相違点についての判断
ア 相違点2-1について
(ア)上記第5 1(2)ア(ア)の検討を参酌すると、甲1-2発明の「束型カーボンナノチューブ」に、甲1-1に記載されたOCSiAL社製TUBALL又は昭和電工社製VGCF-Hを適用しても、本件発明1の構成は得られないし、甲1-2発明の「束型カーボンナノチューブ」として、甲1-1に記載された比較例のゼオンテクノロジー株式会社製ZEONANO○R SG101を適用する動機付けがあるとはいえない。
(イ)また、上記第5 1(2)ア(イ)~(エ)で検討したとおり、甲1-2~甲1-5のいずれにも、532nmの波長を用いて測定した「G/D比」を「5~100」とすることは記載も示唆もされていない。
(ウ)以上から、甲1-2発明において、甲1-1~甲1-5に記載された事項を参酌しても、532nmの波長を用いて測定した「G/D比」を「5~100」とすること、すなわち、相違点2-1に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
イ 申立人安藤の主張について
(ア)申立人安藤は、特許異議申立書の74ページ16行~75ページ15行において、以下の旨主張をしている。
a 二次電池の電極の作製に使用するカーボンナノチューブ(CNT)について、電池の性能と、「G/D比」、BET比表面積とに相関関係があることは公知であるから、甲1-2発明を実施するに際して、好ましい電池の性能を提供する「G/D比」、BET比表面積を選択することは、当業者の通常の創作能力の発揮といえ、当業者が通常行う設計変更事項であるといえる。
b そして、「G/D比」については、甲1-1には、「G/D比」が、30~50であることが好ましい旨が記載されている(甲1-1の【0040】等)。
c また、甲1-4には、「G/D比」は、5以上あるのが好ましく、10以上であればより好ましく、更に好ましくは20以上であることが記載されている(甲1-4の【0030】等)。
d 次に、BET比表面積については、甲1-5には、二次電池の電極の作製に使用する分散液に含まれるカーボンナノチューブ(CNT)について、複合体の耐屈曲性、並びに、複合体を用いた二次電池の出力特性およびサイクル特性を更に向上させることができることから、CNTのBET比表面積は、未開口の状態で800m2/g以上であることが好ましいことが記載されており、また、分散液中でのCNTの凝集を抑制して、均一で特性に優れる複合体を形成することができることから、CNTのBET比表面積は、末開口の状態で1200m2/g以下であることが好ましいことが記載されている(甲1-5の【0022】、【0044】等)。
e そうすると、甲1-2発明において、(1)「G/D」比を5~100の範囲内に調整し、(4)カーボンナノチューブのBET比表面積を550~1200m2/gの範囲内に調整することは当業者が容易になし得ることである。
(イ)しかし、上記第5 1(2)イ(イ)~(オ)で検討したのと同様の理由により、甲1-2発明において、532nmの波長を用いて測定した「G/D比」を「5~100」の範囲内に調整し、カーボンナノチューブのBET比表面積を550~1200m2/gの範囲内に調整することは、当業者が容易になし得ることとはいえない。
(ウ)したがって、申立人安藤の上記(ア)a~eの主張は採用できない。
(3)小括
以上によれば、その他の相違点について判断するまでもなく、本件発明1は、甲1-2発明及び甲1-1~甲1-5に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
2 本件発明2~10について
本件発明2~10は、本件発明1の全ての構成を備える発明であるから、本件発明1と同様に、甲1-2発明及び甲1-1~甲1-5に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものではない。
3 まとめ
以上によれば、申立理由1-2(進歩性)には理由がない。
第7 申立理由1-3(進歩性)について
1 本件発明1について
(1)対比
本件発明1と甲1-3発明とを対比する。
ア 甲1-3発明の「束型カーボンナノチューブを含む導電材」、「分散剤」、「アミド系有機溶媒」である「分散媒」は、本件発明1の「カーボンナノチューブ」、「分散剤」、「溶媒」にそれぞれ相当し、甲1-3発明の「束型カーボンナノチューブを含む導電材と、分散剤と、分散媒とを含」む「導電材分散液」は、本件発明1の「カーボンナノチューブと、分散剤と、溶媒とを含むカーボンナノチューブ分散液」に相当する。
イ 甲1-3発明において、「カーボンナノチューブ」の「波長532nmのレーザを用いたラマン分光分析法により得られた1580±50cm-1でのGバンドの最大ピーク強度(IG)に対する1360±50cm-1でのDバンドの最大ピーク強度(ID)の比(ID/IG)の平均値」は「0.7~1.2」である。
しかし、上記第5 1(2)ア(ウ)を参酌すると、甲1-3発明の「カーボンナノチューブ」の「ID/IG」の逆数であるIG/IDは、本件発明1の532nmの波長を用いて測定した「G/D比」に対応するものの、甲1-3発明の「カーボンナノチューブ」のIG/IDは0.83~1.43であるから、本件発明1の532nmの波長を用いて測定した「G/D比」の「5~100」に相当しない。
ウ 甲1-3発明の「カーボンナノチューブ」は、「BET比表面積が180m2/g~300m2/g」であるから、BET比表面積は550~1200m2/gであるといえる。
したがって、本件発明1と甲1-3発明とは、「(4)カーボンナノチューブのBET比表面積が、550~1200m2/g」である点で一致する。
エ 以上によれば、本件発明1と甲1-3発明との一致点、相違点は以下のとおりとなる。
<一致点>
「カーボンナノチューブと、分散剤と、溶媒とを含むカーボンナノチューブ分散液であって、下記(4)を満たすカーボンナノチューブ分散液。
(4)カーボンナノチューブのBET比表面積が、550~1200m2/gであること」
<相違点>
相違点3-1:本件発明1は、「(1)「G/D比」が、「5~100」であるのに対し、甲1-3発明は、「前記カーボンナノチューブは、波長532nmのレーザを用いたラマン分光分析法により得られた1580±50cm-1でのGバンドの最大ピーク強度に対する1360±50cm-1でのDバンドの最大ピーク強度の比の平均値が、0.7~1.2」である点。
相違点3-2:「分散剤」について、本件発明1は、「(2)カーボンナノチューブ100質量部に対して」「30質量部以上250質量部未満含有する」のに対し、甲1-3発明は、「前記カーボンナノチューブ100重量部に対して、1重量部~50重量部含まれ」ている点。
相違点3-3:本件発明1は、「(3)カーボンナノチューブ分散液の25℃、周波数1Hzにおける複素弾性率が5Pa以上650Pa未満であり、位相角が5°以上50°未満」であるのに対し、甲1-3発明は、「レオメータ測定の際、周波数が1Hzである時に、位相角が3゜~18゜」である点。
(2)相違点についての判断
ア 相違点3-1について
(ア)上記第5 1(2)ア(ア)の検討を参酌すると、甲1-3発明の「束型カーボンナノチューブ」に、甲1-1に記載されたOCSiAL社製TUBALL又は昭和電工社製VGCF-Hを適用しても、本件発明1の構成は得られないし、甲1-3発明の「束型カーボンナノチューブ」として、甲1-1に記載された比較例のゼオンテクノロジー株式会社製ZEONANO○R SG101を適用する動機付けがあるとはいえない。
(イ)また、上記第5 1(2)ア(イ)~(エ)で検討したとおり、甲1-2~甲1-5のいずれにも、532nmの波長を用いて測定した「G/D比」を「5~100」とすることは記載も示唆もされていない。
(ウ)以上から、甲1-3発明において、甲1-1~甲1-5に記載された事項を参酌しても、532nmの波長を用いて測定した「G/D比」を「5~100」とすること、すなわち、相違点3-1に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
イ 申立人安藤の主張について
(ア)申立人安藤は、特許異議申立書の82ページ6行~83ページ5行において、以下の旨主張をしている。
a 二次電池の電極の作製に使用するカーボンナノチューブ(CNT)について、電池の性能と、「G/D比」、BET比表面積とに相関関係があることは公知であるから、甲1-3発明を実施するに際して、好ましい電池の性能を提供する「G/D比」、BET比表面積を選択することは、当業者の通常の創作能力の発揮といえ、当業者が通常行う設計変更事項であるといえる。
b そして、「G/D比」については、甲1-1には、「G/D比」が、30~50であることが好ましい旨が記載されている(甲1-1の【0040】等)。
c また、甲1-4には、「G/D比」は、5以上あるのが好ましく、10以上であればより好ましく、更に好ましくは20以上であることが記載されている(甲1-4の【0030】等)。
d 次に、BET比表面積については、甲1-5には、二次電池の電極の作製に使用する分散液に含まれるカーボンナノチューブ(CNT)について、複合体の耐屈曲性、並びに、複合体を用いた二次電池の出力特性およびサイクル特性を更に向上させることができることから、CNTのBET比表面積は、未開口の状態で800m2/g以上であることが好ましいことが記載されており、また、分散液中でのCNTの凝集を抑制して、均一で特性に優れる複合体を形成することができることから、CNTのBET比表面積は、末開口の状態で1200m2/g以下であることが好ましいことが記載されている(甲1-5の【0022】、【0044】等)。
e そうすると、甲1-3発明において、(1)「G/D」比を5~100の範囲内に調整し、(4)カーボンナノチューブのBET比表面積を550~1200m2/gの範囲内に調整することは当業者が容易になし得ることである。
(イ)しかし、上記第5 1(2)イ(イ)~(オ)で検討したのと同様の理由により、甲1-3発明において、532nmの波長を用いて測定した「G/D比」を「5~100」の範囲内に調整し、カーボンナノチューブのBET比表面積を550~1200m2/gの範囲内に調整することは、当業者が容易になし得ることとはいえない。
(ウ)したがって、申立人安藤の上記(ア)a~eの主張は採用できない。
(3)小括
以上によれば、その他の相違点について判断するまでもなく、本件発明1は、甲1-3発明及び甲1-1~甲1-5に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
2 本件発明2~10について
本件発明2~10は、本件発明1の全ての構成を備える発明であるから、本件発明1と同様に、甲1-3発明及び甲1-1~甲1-5に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものではない。
3 まとめ
以上によれば、申立理由1-3(進歩性)には理由がない。
第8 申立理由2-1(進歩性)について
1 本件発明1について
(1)対比
本件発明1と甲2-1発明とを対比する。
ア 甲2-1発明の「カーボンナノチューブ含有組成物」、「重量平均分子量0.1万以上40万以下の分散剤」、「水系溶媒」は、本件発明1の「カーボンナノチューブ」、「分散剤」、「溶媒」にそれぞれ相当し、甲2-1発明の「カーボンナノチューブ含有組成物、重量平均分子量0.1万以上40万以下の分散剤、揮発性塩および水系溶媒を含むカーボンナノチューブ分散液」は、本件発明1の「カーボンナノチューブと、分散剤と、溶媒とを含むカーボンナノチューブ分散液」に相当する。
イ(ア)甲2-1発明の「カーボンナノチューブのラマンスペクトルにおいて1590cm-1付近に見られるGバンドと、1350cm-1付近に見られるDのピーク高さの比であるG/D比」(以下、単に「G/D比」という。」は、本件発明1の「G/D比」に対応する。
(イ)ここで、上記第5 1(1)イ(イ)で検討したとおり、「G/D比」は、測定に用いる光の波長によって変わるものである。
(ウ)そこで、本件発明1及び甲2-1発明の「G/D比」を測定するラマン分光分析の測定に用い得る光の波長について検討する。
上記第5 1(1)イ(ウ)で検討したとおり、本件発明1の「G/D比」は、532nmの波長を用いて測定した値である。
一方、甲2-1(上記第4 6)の[0022]には、「ラマン分光分析法で使用するレーザー波長は種々あるが、532nmを利用する。」と記載されているから、本件発明1と甲2-1発明の「G/D比」は、いずれも532nmの波長を用いて測定した値である。
そうすると、甲2-1発明の532nmの波長を用いて測定した「G/D比」は、本件発明1の532nmの波長を用いて測定した「G/D比」に相当するものの、本件発明1は、「G/D比」が、「5~100」であるのに対し、甲2-1発明は、「G/D比」が「30以上200以下」である点で相違する。
ウ 以上によれば、本件発明1と甲2-1発明との一致点、相違点は以下のとおりとなる。
<一致点>
「カーボンナノチューブと、分散剤と、溶媒とを含むカーボンナノチューブ分散液であるカーボンナノチューブ分散液。
<相違点>
相違点4-1:本件発明1は、「(1)「G/D比」」が、「5~100」であるのに対し、甲2-1発明は、「G/D比」が「30以上200以下」である点。
相違点4-2:本件発明1は、「(2)カーボンナノチューブ100質量部に対して、分散剤を30質量部以上250質量部未満含有する」のに対し、甲2-1発明は、「カーボンナノチューブ分散液に含まれる分散剤の含有量は、カーボンナノチューブ含有組成物100重量部に対して10重量部以上500重量部以下」である点。
相違点4-3:本件発明1は、「(3)カーボンナノチューブ分散液の25℃、周波数1Hzにおける複素弾性率が5Pa以上650Pa未満であり、位相角が5°以上50°未満」であるのに対し、甲2-1発明は、そのような構成を有しているか不明である点。
相違点4-4:本件発明1は、「(4)カーボンナノチューブのBET比表面積が、550~1200m2/g」であるのに対し、甲2-1発明は、そのような構成を有しているか不明である点。
(2)相違点についての判断
ア 事案に鑑み、相違点4-3から検討する。
(ア)甲2-1には、カーボンナノチューブ分散液の25℃、周波数1Hzにおける複素弾性率及び位相角については記載も示唆もされていない。
(イ)甲2-2(上記第4 3)の【請求項1】には、「束型(bundle-type)カーボンナノチューブを含む導電材と、
分散剤と、
分散媒とを含み、
レオメータ測定の際、周波数が1Hzである時に、位相角が3゜~18゜である、導電材分散液。」と記載され、同【0030】には、「本発明の一実施形態に係る導電材分散液は、レオメータ測定の際、周波数が1Hzである時に、位相角(phase angle、δ)が3゜~18゜である。導電材分散液の位相角が3゜未満の場合には、固体様特性が強すぎて、コーティング時にスラリー内で導電材の均一な分散が難しく、また、位相角が18゜を超える場合には、液体様特性が強くて粘度が低くなるため、高ローディング電極の製造時に均一な厚さの活物質層の形成が容易でなく、以降、乾燥工程においてクラックが生じる恐れがある。」と記載されているから、甲2-2において、束型カーボンナノチューブを含む導電材と、分散剤と、分散媒とを含む導電材分散液は、レオメータ測定の際、周波数が1Hzである時の位相角が3゜未満の場合には、固体様特性が強すぎて、コーティング時にスラリー内で導電材の均一な分散が難しく、また、位相角が18゜を超える場合には、液体様特性が強くて粘度が低くなるため、高ローディング電極の製造時に均一な厚さの活物質層の形成が容易でなく、以降、乾燥工程においてクラックが生じる恐れがあるため、位相角を3゜~18゜としているといえる。
また、同【0160】~【0163】、【0165】には、導電材分散液を、動弾性剪断レオメータを使用して常温で1%の応力を加えながら1Hzの周波数で周波数掃引をして測定した位相角は、実施例2-1では13.7゜、実施例2-2では7.3゜であったことが記載され、【図1】から、導電材分散液の複素弾性率は、実施例2-1では290.2Pa、実施例2-2では244.55Paであることが見て取れるから、甲2-2には、束型カーボンナノチューブを含む導電材と、分散剤と、分散媒とを含む導電材分散液は、レオメータ測定の際、常温で周波数が1Hzである時に、位相角が13.7゜、複素弾性率が290.2Pa、又は、位相角が7.3゜、複素弾性率が244.55Paであることが記載されているといえる。
しかし、甲2-2には、束型カーボンナノチューブを含む導電材と、分散剤と、分散媒とを含む導電材分散液について、レオメータ測定の際、常温で周波数が1Hzである時に、複素弾性率を290.2Pa又は244.55Paとする理由が記載されていない。
そうすると、甲2-1発明において、カーボンナノチューブ分散液の25℃、周波数1Hzにおける複素弾性率を、甲2-2に記載されている290.2Pa又は244.55Paとすることの動機付けがあるとはいえない。
(ウ)甲2-3~甲2-5のいずれにも、カーボンナノチューブ分散液の25℃、周波数1Hzにおける複素弾性率を「5Pa以上650Pa未満」とし、位相角を「5°以上50°未満」とすることは記載も示唆もされていない。
(エ)したがって、甲2-1発明において、カーボンナノチューブ分散液の25℃、周波数1Hzにおける複素弾性率を「5Pa以上650Pa未満」とし、位相角を「5°以上50°未満」とすること、すなわち、相違点4-3に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
イ 申立人正代の主張について
(ア)申立人正代は、特許異議申立書の17ページ下から6行~18ページ11行において、甲2-2の【0162】、【0163】、【0164】(【表3】)及び【図1】には動弾性剪断レオメータを使用して常温で1%の応力を加えながら1Hzの周波数で周波数掃引をして測定した位相角と複素弾性率の値が示され、実施例2-1において位相角が13.7°であり、複素弾性率が290.2Paである導電材分散液、実施例2-2において位相角が7.3°であり、複素弾性率が244.55Paである導電性分散液が記載されており(以下、「甲2-2記載事項1」という)、甲2-2記載事項1は、相違点4-3に係る本件発明1の構成に相当し、また、甲2-2には、「前記のような導電材分散液の位相角は、これを構成する導電材、分散剤および分散媒の種類、物性および混合比、またその製造過程でのミリング工程時の条件制御により実現することができる。」(【0032】)と記載されており、そして、甲2-2はカーボンナノチューブ、分散剤および分散媒を含んでなる導電材分散液に関するものであり、甲2-1発明と技術分野を一とすることから、たとえば、ミリング工程時の条件を調整することにより、甲2-2記載事項1を甲2-1発明に適用することは、容易に想到し得るものである旨主張している。
(イ)しかし、申立人正代は、甲2-1発明に甲2-2記載事項1を適用する動機付けについて、特に、甲2-1発明において、カーボンナノチューブ分散液の25℃、周波数1Hzにおける複素弾性率を、甲2-2に記載されている290.2Pa又は244.55Paとすることができる理由について何ら説明していない。
そして、上記ア(イ)で検討したとおり、甲2-1発明において、カーボンナノチューブ分散液の25℃、周波数1Hzにおける複素弾性率を、甲2-2に記載されている290.2Pa又は244.55Paとすることの動機付けがあるとはいえない。
したがって、甲2-2記載事項1を甲2-1発明に適用することは、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえない。
よって、申立人正代の上記(ア)の主張は採用できない。
(3)小括
以上によれば、その他の相違点について判断するまでもなく、本件発明1は、甲2-1発明及び甲2-2~甲2-5に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
2 本件発明2~10について
本件発明2~10は、本件発明1の全ての構成を備える発明であるから、本件発明1と同様に、甲2-1発明及び甲2-2~甲2-5に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものではない。
3 まとめ
以上によれば、申立理由2-1(進歩性)には理由がない。
第9 申立理由2-2(サポート要件)について
1 判断
(1)本件特許の願書に添付した明細書(以下、「本件明細書」という。)の発明の詳細な説明(以下、「発明の詳細な説明」という。)の【0009】の記載によれば、本件発明が解決しようとする課題は、「電極強度および導電性に優れた電極膜を得るために、高い分散性および弾性率を有するカーボンナノチューブ分散液、カーボンナノチューブ樹脂組成物および合材スラリーを提供すること」及び「優れたレート特性およびサイクル特性を有する非水電解質二次電池を提供すること」である。
(2)発明の詳細な説明には、以下の記載がある。
「【0027】
本実施形態のカーボンナノチューブのBET比表面積は550m2/g~1200m2/gであり、600~1200m2/gであることが好ましく、800m2/g~1200m2/gであるものがより好ましく、800m2/g~1000m2/gであるものがさらに好ましい。
【0028】
本実施形態のカーボンナノチューブは、ラマンスペクトルにおいて1560~1600cm-1の範囲内での最大ピーク強度をG、1310~1350cm-1の範囲内での最大ピーク強度をDとした際に、G/D比が、5~100であり、10~50であることがより好ましく、20~50であることがさらに好ましい。」
「【0048】
(4)カーボンナノチューブ分散液
本実施形態のカーボンナノチューブ分散液は、カーボンナノチューブと分散剤と溶媒を含むものである。
【0049】
本実施形態のカーボンナノチューブ分散液の25℃、周波数1Hzにおける複素弾性率は、5Pa以上650Pa未満であり、5Pa以上400Pa未満であることが好ましく、10Pa以上400Pa未満であることがさらに好ましい。カーボンナノチューブ分散液の複素弾性率は、カーボンナノチューブ分散液の硬さを示し、カーボンナノチューブの分散性が良好で、カーボンナノチューブ分散液が低粘度であるほど小さくなる傾向にある。
一方で、カーボンナノチューブの繊維長が大きい場合、分散が良好であっても、カーボンナノチューブ自体の構造粘性があるため、複素弾性率が高い数値となる場合がある。
【0050】
本実施形態のカーボンナノチューブ分散液の25℃、周波数1Hzにおける位相角は、5°以上50°未満であり、10°以上50°未満であることがより好ましい。位相角は、カーボンナノチューブ分散液に与えるひずみを正弦波とした場合の応力波の位相ズレを意味している。純弾性体であれば、与えたひずみと同位相の正弦波となるため、位相角0°となる。一方で、純粘性体であれば90°進んだ応力波となる。複素弾性率と位相角の値が上記の範囲にあるカーボンナノチューブ分散体は、カーボンナノチューブの分散粒径および分散状態が良好であり、電極強度および導電性を向上させるためのカーボンナノチューブ分散液として適している。」
「【0057】
本実施形態のカーボンナノチューブ分散液中の分散剤の量は、カーボンナノチューブ100質量部に対して、30質量部~250質量部使用することが好ましく、50質量部~150質量部使用することがより好ましく、50質量部~100質量部使用することがさらに好ましい。」
(3)上記(2)の【0049】、【0050】の記載によれば、カーボンナノチューブ分散液の25℃、周波数1Hzにおける複素弾性率が5Pa以上650Pa未満であり、位相角が5°以上50°未満であれば、カーボンナノチューブの分散粒径および分散状態が良好であり、電極強度および導電性を向上させるためのカーボンナノチューブ分散液として適していることが理解できる。
また、上記(2)の【0048】には、「カーボンナノチューブ分散液は、カーボンナノチューブと分散剤と溶媒を含む」こと、【0028】には、「カーボンナノチューブは、ラマンスペクトルにおいて1560~1600cm-1の範囲内での最大ピーク強度をG、1310~1350cm-1の範囲内での最大ピーク強度をDとした際に、G/D比が、5~100」であること、【0057】には、「カーボンナノチューブ分散液中の分散剤の量は、カーボンナノチューブ100質量部に対して、30質量部~250質量部使用することが好まし」いこと、すなわち、カーボンナノチューブ100質量部に対して、分散剤を30質量部~250質量部未満含有すること、【0027】には、「カーボンナノチューブのBET比表面積は550m2/g~1200m2/g」であることが記載されている。
以上の記載から、発明の詳細な説明には、カーボンナノチューブと分散剤と溶媒を含むカーボンナノチューブ分散液であって、カーボンナノチューブは、ラマンスペクトルにおいて1560~1600cm-1の範囲内での最大ピーク強度をG、1310~1350cm-1の範囲内での最大ピーク強度をDとした際に、G/D比が、5~100であり、カーボンナノチューブ100質量部に対して、分散剤を30質量部~250質量部未満含有し、カーボンナノチューブ分散液の25℃、周波数1Hzにおける複素弾性率が5Pa以上650Pa未満であり、位相角が5°以上50°未満であり、カーボンナノチューブのBET比表面積は550m2/g~1200m2/gであるカーボンナノチューブ分散液(以下、「本件明細書カーボンナノチューブ分散液」という。)が記載されており、本件明細書カーボンナノチューブ分散液は、カーボンナノチューブの分散粒径および分散状態が良好であり、電極強度および導電性を向上させるためのカーボンナノチューブ分散液として適しているといえる。
そうすると、本件明細書カーボンナノチューブ分散液は、上記(1)における「電極強度および導電性に優れた電極膜を得るために、高い分散性および弾性率を有するカーボンナノチューブ分散液」を提供することとの課題を解決し得るものであるといえ、このことは、発明の詳細な説明の実施例(【0097】~【0157】)において裏付けられている。
そして、本件発明1の「カーボンナノチューブ分散液」と本件明細書カーボンナノチューブ分散液とは同じ構成を有するものである。
したがって、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載されたものであり、上記(1)における「電極強度および導電性に優れた電極膜を得るために、高い分散性および弾性率を有するカーボンナノチューブ分散液」を提供することとの課題を解決し得るものであるといえる。
(4)本件発明2~8は、本件発明1の構成を有するものであるから、本件発明1と同様に、上記(1)における「電極強度および導電性に優れた電極膜を得るために、高い分散性および弾性率を有するカーボンナノチューブ分散液、カーボンナノチューブ樹脂組成物および合材スラリーを提供すること」との課題を解決し得るものであるといえる。
本件発明9は、本件発明8の構成を有するものであるから、上記(1)における「強度および導電性に優れた電極膜を得る」との課題を解決し得るものであるといえる。
本件発明10は、本件発明9の構成を有するものであるから、上記(1)における「優れたレート特性およびサイクル特性を有する非水電解質二次電池を提供すること」との課題を解決し得るものであるといえる。
(5)以上によれば、本件発明1~10は、発明の詳細な説明に記載されたものである。
2 申立人正代の主張について
(1)ア 申立人正代は、特許異議申立書の25ページ下から9行~26ページ下から5行において、本件発明の課題は、「電極強度および導電性に優れた電極膜を得るために、高い分散性および弾性率を有するカーボンナノチューブ分散液、カーボンナノチューブ樹脂組成物および合材スラリーを提供することである。さらに詳しくは、優れたレート特性およびサイクル特性を有する非水電解質二次電池を提供することである。」(【0009】)と記載されているところ、本件発明1に関して、この課題を解決するために構成A~Eを満たすことが要件とされており、かかる構成A~Eのうち、構成Aに記載されている分散剤については、分散剤との記載があるのみであり、特に限定されていないため、分散剤としては、本件明細書の【0036】に記載のアニオン性界面活性剤、【0037】に記載のカチオン性界面活性剤、【0038】に記載のノニオン性界面活性剤及び【0040】に記載の樹脂型分散剤も包含されるが、本件明細書において、上記課題を解決するものとして示されているのは、【0118】の表2のとおり、分散剤として樹脂型分散剤である「アクリロニトリルとアクリル酸の共重合体」、「カルボキシメチルセルロースナトリウム塩」、「ポリビニルピロリドン」及び「水素化アクリロニトリル-ブタジエンゴム」を用いた例のみであり、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤及びノニオン性界面活性剤を用いた具体例は記載されておらず、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤及びノニオン性界面活性剤と、樹脂型分散剤とでは、カーボンナノチューブとの相互作用が異なることが明らかであるため、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤またはノニオン性界面活性剤を用いた場合に、上記のアクリロニトリルとアクリル酸の共重合体、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩、ポリビニルピロリドン及び水素化アクリロニトリル-ブタジエンゴムと同様に本件発明の課題を解決できることを認識できるとはいえず、そのため、本件発明1は、出願時の技術常識に照らしても請求項に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえず、よって発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえないし、請求項1を引用する請求項2~10に係る本件発明2~10についても同様である旨主張している。
イ また、申立人正代は、特許異議申立書の26ページ下から3行~27ページ下から6行において、本件発明1では構成Aに記載されている溶媒についても、溶媒との記載があるのみであり、【0046】に記載の水及び【0047】に記載の水溶性有機溶媒も包含されるが、本件明細書において、上記課題を解決するものとして示されているのは、【0128】の表3に示された「イオン交換水」と、【0132】の表4に記載のNMP(N-メチル-2-ピロリドン)を用いた例のみであり、水溶性有機溶媒に例示されたNMP以外の溶媒や、【0046】に記載された混合溶媒を用いた具体例は記載されておらず、イオン交換水等の水又はNMPと、NMP以外に例示された水溶性有機溶媒とではカーボンナノチューブおよび分散剤との相互作用が異なることが明らかであるため、NMP以外の水溶性有機溶媒を用いた場合に、上記のイオン交換水及びNMPと同様に本件発明の課題を解決できることを認識できるとはいえず、さらに、溶媒として【0128】の表3に記載された「イオン交換水」を用いた場合の分散剤としては、「アクリロニトリルとアクリル酸の共重合体」、「カルボキシメチルセルロースナトリウム塩」及び「ポリビニルピロリドン」を用いた具体例が示されているのみであり、溶媒として【0132】の表4に記載された「NMP」を用いた場合の分散剤としては「水素化アクリロニトリル-ブタジエンゴム」を用いた具体例が示されているのみであり、したがって、特定の種類の溶媒を用いた際に、特定の分散剤を用いた場合に上記課題を解決することができることが示されているのみであり、他の溶媒と分散剤の組み合わせにおいて、本件発明の課題を解決できることを認識できるとはいえないため、本件発明1は、出願時の技術常識に照らしても請求項に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえず、よって発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえないし、請求項1を引用する請求項2~10に係る本件特許発明2~10についても同様である旨主張している。
(2)しかし、上記1で検討したとおり、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載されたものであり、上記1(1)における「電極強度および導電性に優れた電極膜を得るために、高い分散性および弾性率を有するカーボンナノチューブ分散液」を提供することとの課題を解決し得るものであるといえる。
そうすると、本件発明1は、分散剤が、発明の詳細な説明の【0118】の表2に記載されている「アクリロニトリルとアクリル酸の共重合体」、「カルボキシメチルセルロースナトリウム塩」、「ポリビニルピロリドン」、「水素化アクリロニトリル-ブタジエンゴム」以外のものでも上記課題を解決できることを認識できるといえ、また、溶媒が、発明の詳細な説明の【0128】の表3に示された「イオン交換水」と、【0132】の表4に記載のNMP(N-メチル-2-ピロリドン)以外のものでも、上記課題を解決できることを認識できるといえ、さらに、発明の詳細な説明の【0128】の表3及び【0132】の表4に記載されている特定の種類の溶媒と特定の分散剤の組合せ以外の溶媒と分散剤の組合せでも上記課題を解決できることを認識できるといえる。
また、本件発明2~10についても同様である。
したがって、申立人正代の上記(1)ア、イの主張は、上記1の判断を左右するものではなく、採用できない。
3 まとめ
以上によれば、申立理由2-2(サポート要件)には理由がない。
第10 むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2025-701027