特許異議申立
2023-701267
正極膜用スラリー、正極膜、二次電池、及び正極膜の製造方法
- 審判番号
- 2023-701267
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-059257
- 登録番号
- 7284901
- 請求日
- 2023年12月01日
- 審決日
- 2024年10月17日
- 公報発行日
- 2025年01月31日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】artience株式会社
- 【権利者代理人】三好 秀和
- 【権利者代理人】高橋 俊一
- 【権利者代理人】伊藤 正和
- 【権利者】トーヨーカラー株式会社
- 【権利者代理人】三好 秀和
- 【異議申立人】安藤 宏
- 審判長/審判官
- 審判長 岩間 直純
- 審判官 須原 宏光
- 審判官 山本 章裕
- 分類
- P1652.121-YAA(H01M) / P1652.113-YAA(H01M) / P1652.16 -YAA(H01M)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第29条の2
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7284901号発明「正極膜用スラリー、正極膜、二次電池、及び正極膜の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7284901号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1-3、〔4、8-18〕、5、6について訂正することを認める。
特許第7284901号の請求項1ないし5、8ないし10、12ないし16に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7284901号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし11に係る特許についての出願は、令和4年3月31日の出願であって、令和5年5月24日に特許権の設定登録がされ、令和5年6月1日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和5年12月 1日 :特許異議申立人安藤宏による請求項1ないし5、8ないし10に係る特許に対する特許異議の申立て
令和6年 2月 8日付け:取消理由通知書
令和6年 3月25日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和6年 4月30日 :特許異議申立人による意見書の提出
令和6年 6月27日付け:取消理由通知書(決定の予告)
令和6年 9月 2日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
第2 訂正の適否
1 訂正の内容
令和6年9月2日の訂正請求の趣旨は、特許第7284901号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを求めるものであり、その訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は次のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「下記式(1)で計算される残留二重結合の質量比(RDB)が0.05~5質量%を満たす共重合体(A)を含む、正極膜用スラリー。」とあるのを「下記式(1)で計算される残留二重結合の質量比(RDB)が0.05~5質量%を満たす共重合体(A)を含み、導電助剤としての炭素材料の含有量は、固形分量の100質量部に対し1質量部以下である、正極膜用スラリー。」に訂正する。(請求項1の記載を引用する請求項8~11も同様に訂正する。)
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に、
「前記リン酸鉄リチウム系正極活物質が炭素被覆されている、請求項1に記載の正極膜用スラリー。」と記載されているのを、独立形式に改め、
「リン酸鉄リチウム系正極活物質、分散剤、バインダー樹脂、及び溶媒を含み、
前記分散剤は、ニトリル基を有する構造単位と、不飽和結合が部分的に水素化されている共役ジエン由来の構造単位とを有し、下記式(1)で計算される残留二重結合の質量比(RDB)が0.05~5質量%を満たす共重合体(A)を含み、
前記リン酸鉄リチウム系正極活物質が炭素被覆されている、正極膜用スラリー。
RDB(質量%)=(BD/(BD+HBD))×100 (1)
(式(1)において、BDは、共役ジエン由来の構造単位の全質量に対し、不飽和結合を有する共役ジエン由来の構造単位の質量比であり、HBDは、共役ジエン由来の構造単位の全質量に対し、不飽和結合が水素化された共役ジエン由来の構造単位の質量比である。)」に訂正する。(請求項2の記載を引用する請求項8~11も同様に訂正する。)
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に、
「前記リン酸鉄リチウム系正極活物質が炭素被覆されており、前記炭素の含有率が、炭素被覆されたリン酸鉄リチウム系正極活物質100質量部に対して0.1質量部以上10質量部以下である、請求項1に記載の正極膜用スラリー。」と記載されているのを、独立形式に改め、
「リン酸鉄リチウム系正極活物質、分散剤、バインダー樹脂、及び溶媒を含み、
前記分散剤は、ニトリル基を有する構造単位と、不飽和結合が部分的に水素化されている共役ジエン由来の構造単位とを有し、下記式(1)で計算される残留二重結合の質量比(RDB)が0.05~5質量%を満たす共重合体(A)を含み、
前記リン酸鉄リチウム系正極活物質が炭素被覆されており、前記炭素の含有率が、炭素被覆されたリン酸鉄リチウム系正極活物質100質量部に対して0.1質量部以上10質量部以下である、正極膜用スラリー。
RDB(質量%)=(BD/(BD+HBD))×100 (1)
(式(1)において、BDは、共役ジエン由来の構造単位の全質量に対し、不飽和結合を有する共役ジエン由来の構造単位の質量比であり、HBDは、共役ジエン由来の構造単位の全質量に対し、不飽和結合が水素化された共役ジエン由来の構造単位の質量比である。)」に訂正する。(請求項3の記載を引用する請求項8~11も同様に訂正する。)
(4)訂正事項4
ア 特許請求の範囲の請求項4に、
「前記リン酸鉄リチウム系正極活物質の、窒素吸着測定により求めたBET比表面積が1m2/g以上50m2/g以下である、請求項1から3のいずれか1項に記載の正極膜用スラリー。」と記載されているのを、請求項2(請求項2は請求項1を引用している)を引用するものについて独立形式に改め、
「リン酸鉄リチウム系正極活物質、分散剤、バインダー樹脂、及び溶媒を含み、
前記分散剤は、ニトリル基を有する構造単位と、不飽和結合が部分的に水素化されている共役ジエン由来の構造単位とを有し、下記式(1)で計算される残留二重結合の質量比(RDB)が0.05~5質量%を満たす共重合体(A)を含み、
前記リン酸鉄リチウム系正極活物質の、窒素吸着測定により求めたBET比表面積が1m2/g以上50m2/g以下であり、前記リン酸鉄リチウム系正極活物質が炭素被覆されている、正極膜用スラリー。
RDB(質量%)=(BD/(BD+HBD))×100 (1)
(式(1)において、BDは、共役ジエン由来の構造単位の全質量に対し、不飽和結合を有する共役ジエン由来の構造単位の質量比であり、HBDは、共役ジエン由来の構造単位の全質量に対し、不飽和結合が水素化された共役ジエン由来の構造単位の質量比である。)」に訂正する。(請求項4の記載を引用する請求項12~18も同様に訂正する。)
イ 特許請求の範囲の請求項8に、
「請求項1から7のいずれか1項に記載の正極膜用スラリー。」と記載されているのを、請求項4の引用を削除し、
「請求項1、2、3、5、6及び7のいずれか1項に記載の正極膜用スラリー。」に訂正する。
ウ 特許請求の範囲の請求項9に、
「請求項1から8のいずれか1項に記載の正極膜用スラリーを用いて得られる、正極膜。」と記載されているのを、請求項4の引用を削除し、
「請求項1、2、3、5、6、7及び8のいずれか1項に記載の正極膜用スラリーを用いて得られる、正極膜。」に訂正する。
エ 特許請求の範囲の請求項10に、
「請求項1から8のいずれか1項に記載の正極膜用スラリーを用いて得られる正極膜を含む、二次電池。」と記載されているのを、請求項4の引用を削除し、
「請求項1、2、3、5、6、7及び8のいずれか1項に記載の正極膜用スラリーを用いて得られる正極膜を含む、二次電池。」に訂正する。
オ 特許請求の範囲の請求項11に、
「請求項1から8のいずれか1項に記載の正極膜用スラリーを用いて正極膜を製造する方法であって」と記載されているのを、請求項4の引用を削除し、
「請求項1、2、3、5、6、7及び8のいずれか1項に記載の正極膜用スラリーを用いて正極膜を製造する方法であって」に訂正する。
カ 特許請求の範囲の請求項8に、
「前記共重合体(A)は、ニトリル基を有する構造単位と、不飽和結合が部分的に水素化されている共役ジエン由来の構造単位との合計含有量が共重合体(A)の質量を基準として80質量%以上100質量%以下である、請求項1から7のいずれか1項に記載の正極膜用スラリー。」と記載されているのを、訂正前の請求項1を引用する請求項2を引用する請求項4を引用する請求項8に係る発明について新たな請求項12として、
「前記共重合体(A)は、ニトリル基を有する構造単位と、不飽和結合が部分的に水素化されている共役ジエン由来の構造単位との合計含有量が共重合体(A)の質量を基準として80質量%以上100質量%以下である、請求項4に記載の正極膜用スラリー。」を追加する訂正をする。
キ 特許請求の範囲の請求項9に、
「請求項1から8のいずれか1項に記載の正極膜用スラリーを用いて得られる、正極膜。」と記載されているのを、訂正前の請求項1を引用する請求項2を引用する請求項4を引用する請求項9に係る発明について新たな請求項13として、
「請求項4に記載の正極膜用スラリーを用いて得られる、正極膜。」を追加する訂正をする。
ク 特許請求の範囲の請求項9に、
「請求項1から8のいずれか1項に記載の正極膜用スラリーを用いて得られる、正極膜。」と記載されているのを、訂正前の請求項1を引用する請求項2を引用する請求項4を引用する請求項8を引用する請求項9に係る発明について新たな請求項14として、
「請求項12に記載の正極膜用スラリーを用いて得られる、正極膜。」を追加する訂正をする。
ケ 特許請求の範囲の請求項10に、
「正極と、負極と、電解質とを含み、前記正極は、請求項1から8のいずれか1項に記載の正極膜用スラリーを用いて得られる正極膜を含む、二次電池。」と記載されているのを、訂正前の請求項1を引用する請求項2を引用する請求項4を引用する請求項10に係る発明について新たな請求項15として、
「正極と、負極と、電解質とを含み、前記正極は、請求項4に記載の正極膜用スラリーを用いて得られる正極膜を含む、二次電池。」を追加する訂正をする。
コ 特許請求の範囲の請求項10に、
「正極と、負極と、電解質とを含み、前記正極は、請求項1から8のいずれか1項に記載の正極膜用スラリーを用いて得られる正極膜を含む、二次電池。」と記載されているのを、訂正前の請求項1を引用する請求項2を引用する請求項4を引用する請求項8を引用する請求項10に係る発明について新たな請求項16として、
「正極と、負極と、電解質とを含み、前記正極は、請求項12に記載の正極膜用スラリーを用いて得られる正極膜を含む、二次電池。」を追加する訂正をする。
サ 特許請求の範囲の請求項11に、
「請求項1から8のいずれか1項に記載の正極膜用スラリーを用いて正極膜を製造する方法であって、前記正極膜用スラリーを用いて前記正極膜を形成する工程において前記正極膜用スラリーに導電助剤を添加する工程を含まない、正極膜の製造方法。」と記載されているのを、訂正前の請求項1を引用する請求項2を引用する請求項4を引用する請求項11に係る発明について新たな請求項17として、
「請求項4に記載の正極膜用スラリーを用いて正極膜を製造する方法であって、前記正極膜用スラリーを用いて前記正極膜を形成する工程において前記正極膜用スラリーに導電助剤を添加する工程を含まない、正極膜の製造方法。」を追加する訂正をする。
シ 特許請求の範囲の請求項11に、
「請求項1から8のいずれか1項に記載の正極膜用スラリーを用いて正極膜を製造する方法であって、前記正極膜用スラリーを用いて前記正極膜を形成する工程において前記正極膜用スラリーに導電助剤を添加する工程を含まない、正極膜の製造方法。」と記載されているのを、訂正前の請求項1を引用する請求項2を引用する請求項4を引用する請求項8を引用する請求項11に係る発明について新たな請求項18として、
「請求項12に記載の正極膜用スラリーを用いて正極膜を製造する方法であって、前記正極膜用スラリーを用いて前記正極膜を形成する工程において前記正極膜用スラリーに導電助剤を添加する工程を含まない、正極膜の製造方法。」を追加する訂正をする。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5に、
「正極膜用スラリーの固形分量100質量部に対し導電助剤が0.5質量%以下である、請求項1から4のいずれか1項に記載の正極膜用スラリー。」と記載されているのを、請求項1を引用するものについて独立形式に改め、
「リン酸鉄リチウム系正極活物質、分散剤、バインダー樹脂、及び溶媒を含み、
前記分散剤は、ニトリル基を有する構造単位と、不飽和結合が部分的に水素化されている共役ジエン由来の構造単位とを有し、下記式(1)で計算される残留二重結合の質量比(RDB)が0.05~5質量%を満たす共重合体(A)を含み、
正極膜用スラリーの固形分量100質量部に対し導電助剤が0.5質量%以下である、正極膜用スラリー。
RDB(質量%)=(BD/(BD+HBD))×100 (1)
(式(1)において、BDは、共役ジエン由来の構造単位の全質量に対し、不飽和結合を有する共役ジエン由来の構造単位の質量比であり、HBDは、共役ジエン由来の構造単位の全質量に対し、不飽和結合が水素化された共役ジエン由来の構造単位の質量比である。)」に訂正する。(請求項5の記載を引用する請求項6、8~11も同様に訂正する。)
(6)一群の請求項について
本件訂正前の請求項2~6,8~11は、訂正の対象となる請求項1を引用しているものであるから、請求項1に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項1~6、8~11に対応する請求項1~6、8~18は一群の請求項を構成する。
本件訂正請求は、一群の請求項〔1~6、8~18〕に対して請求されたものである。
(7)別の訂正単位とする求め
訂正後の請求項1~3、5~6については、当該請求項についての訂正が認められる場合には、一群の請求項の他の請求項とは別途訂正することを求めている。
2 訂正の適否についての判断(訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、独立特許要件)
(1)訂正事項1
ア 訂正の目的
訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載された「正極膜用スラリー」について、「導電助剤としての炭素材料の含有量は、固形分量の100質量部に対し1質量部以下である、正極膜用スラリー。」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
願書に添付した明細書の段落【0025】に「このような観点から、正極膜用スラリーにおいて、導電助剤としての炭素材料の含有量は、固形分量の100質量部に対し30質量部以下、10質量部以下、又は1質量部以下が好ましく、リン酸鉄リチウム系活物質の分散性への影響をより低減するために、0.5質量部以下、又は0.1質量部以下がより好ましく、正極膜用スラリーに導電助剤は実質的に含まれないことがより好ましい。」と記載されているので、訂正事項1は、新規事項の追加に該当しない。
また、訂正事項1は、特許請求の範囲を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
ウ 独立特許要件
(ア)請求項1、8~10
訂正前の請求項1、8~10について特許異議申立がされているので、訂正事項1に関して、独立特許要件は課されない。
(イ)請求項11
訂正後の請求項1は、下記の「第5」及び「第6」の通り、特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、訂正後の請求項1を引用する請求項11に係る発明については、特許出願の際独立して特許を受けることができないとする理由を発見しない。
(2)訂正事項2
ア 訂正の目的
訂正事項2は、訂正前の請求項2が請求項1を引用するものであったのものを、請求項1との引用関係を解消するものであるから、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。
イ 新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項2は、訂正前の請求項2に係る発明について引用関係を解消するものであるから、訂正事項2は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
ウ 独立特許要件
(ア)請求項2、8~10
訂正前の請求項2、8~10について特許異議申立がされているので、訂正事項2に関して、独立特許要件は課されない。
(イ)請求項11
訂正事項2は、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものであるから、独立特許要件は課されない。
(3)訂正事項3
ア 訂正の目的
訂正事項3は、訂正前の請求項3が請求項1を引用するものであったのものを、請求項1との引用関係を解消するものであるから、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。
イ 新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項3は、訂正前の請求項3に係る発明について引用関係を解消するものであるから、訂正事項3は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
ウ 独立特許要件
(ア)請求項3、8~10
訂正前の請求項3、8~10について特許異議申立がされているので、訂正事項3に関して、独立特許要件は課されない。
(イ)請求項11
訂正事項3は、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものであるから、独立特許要件は課されない。
(4)訂正事項4
ア 訂正の目的
訂正事項4のうち「ア」に係る訂正は、訂正前の請求項4には、請求項1を引用するもの、請求項1及び2を引用するもの、請求項1及び3を引用するものが含まれていたところ、請求項1を引用するもの、請求項1及び3を引用するものを削除し、請求項1及び2を引用するものについて、請求項1及び2との引用関係を解消するものであるから、特許請求の範囲の減縮、及び他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。
訂正事項4のうち「イ」~「オ」に係る訂正は、訂正前の請求項8~11から、訂正後の請求項4の引用を削除するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項4のうち「カ」、「キ」、「ケ」、「サ」に係る訂正は、訂正前の請求項8~11から、訂正後の請求項4以外の請求項の引用を削除するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項4のうち「ク」、「コ」、「シ」に係る訂正は、訂正前の請求項9~11から、訂正後の請求項4及び8以外の請求項の引用を削除するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項4のうち「ア」に係る訂正は、訂正前の請求項4に係る発明について引用関係を解消すると共に、引用する請求項を減らして特許請求の範囲を減縮するものであるから、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
訂正事項4のうち「イ」~「シ」に係る訂正は、訂正前の請求項8~11から引用する請求項を削除するものであるから、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
ウ 独立特許要件
(ア)請求項4、8~10、12~16
訂正前の請求項4、8~10について特許異議申立がされているので、訂正事項4に関して独立特許要件は課されない。
また、請求項12~16は、訂正前の請求項8~10に対応する請求項であるので、同様に、訂正事項4に関して独立特許要件は課されない。
(イ)請求項11、17、18
訂正後の請求項4は、下記の「第4」ないし「第6」の通り、特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、訂正後の請求項4を引用する請求項11、17、18に係る発明については、特許出願の際独立して特許を受けることができないとする理由を発見しない。
(5)訂正事項5
ア 訂正の目的
訂正事項5は、訂正前の請求項5が請求項1から4いずれか1項の記載を引用するものであったのものを、請求項2ないし4の引用を削除し、請求項1を引用するものについて、請求項1との引用関係を解消するものであるから、特許請求の範囲の減縮、及び他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。
イ 新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項5は、訂正前の請求項5に係る発明について引用関係を解消すると共に、引用する請求項を減らして特許請求の範囲を減縮するものであるから、訂正事項5は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
ウ 独立特許要件
(ア)請求項5、8~10
訂正前の請求項5、8~10について特許異議申立がされているので、訂正事項5に関して、独立特許要件は課されない。
(イ)請求項6
訂正後の請求項5は、下記の「第5」及び「第6」の通り、特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、訂正後の請求項5を引用する請求項6に係る発明については、特許出願の際独立して特許を受けることができないとする理由を発見しない。
(ウ)請求項11
訂正後の請求項5は、下記の「第5」及び「第6」の通り、特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、訂正後の請求項5を引用する請求項11に係る発明については、特許出願の際独立して特許を受けることができないとする理由を発見しない。
3 まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項ないし第7項の規定に適合する。
そして、特許権者から、「訂正後の請求項1~3、5~6についての訂正が認められる場合には、一群の請求項の他の請求項とは別途訂正すること」の求めがあった。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~3、〔4、8~18〕、5、6について訂正することを認める。
第3 本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1ないし18に係る発明(以下「本件発明1ないし18」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1ないし18に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
リン酸鉄リチウム系正極活物質、分散剤、バインダー樹脂、及び溶媒を含み、
前記分散剤は、ニトリル基を有する構造単位と、不飽和結合が部分的に水素化されている共役ジエン由来の構造単位とを有し、下記式(1)で計算される残留二重結合の質量比(RDB)が0.05~5質量%を満たす共重合体(A)を含み、導電助剤としての炭素材料の含有量は、固形分量の100質量部に対し1質量部以下である、正極膜用スラリー。
RDB(質量%)=(BD/(BD+HBD))×100 (1)
(式(1)において、BDは、共役ジエン由来の構造単位の全質量に対し、不飽和結合を有する共役ジエン由来の構造単位の質量比であり、HBDは、共役ジエン由来の構造単位の全質量に対し、不飽和結合が水素化された共役ジエン由来の構造単位の質量比である。)
【請求項2】
リン酸鉄リチウム系正極活物質、分散剤、バインダー樹脂、及び溶媒を含み、
前記分散剤は、ニトリル基を有する構造単位と、不飽和結合が部分的に水素化されている共役ジエン由来の構造単位とを有し、下記式(1)で計算される残留二重結合の質量比(RDB)が0.05~5質量%を満たす共重合体(A)を含み、
前記リン酸鉄リチウム系正極活物質が炭素被覆されている、正極膜用スラリー。
RDB(質量%)=(BD/(BD+HBD))×100 (1)
(式(1)において、BDは、共役ジエン由来の構造単位の全質量に対し、不飽和結合を有する共役ジエン由来の構造単位の質量比であり、HBDは、共役ジエン由来の構造単位の全質量に対し、不飽和結合が水素化された共役ジエン由来の構造単位の質量比である。)
【請求項3】
リン酸鉄リチウム系正極活物質、分散剤、バインダー樹脂、及び溶媒を含み、
前記分散剤は、ニトリル基を有する構造単位と、不飽和結合が部分的に水素化されている共役ジエン由来の構造単位とを有し、下記式(1)で計算される残留二重結合の質量比(RDB)が0.05~5質量%を満たす共重合体(A)を含み、
前記リン酸鉄リチウム系正極活物質が炭素被覆されており、前記炭素の含有率が、炭素被覆されたリン酸鉄リチウム系正極活物質100質量部に対して0.1質量部以上10質量部以下である、正極膜用スラリー。
RDB(質量%)=(BD/(BD+HBD))×100 (1)
(式(1)において、BDは、共役ジエン由来の構造単位の全質量に対し、不飽和結合を有する共役ジエン由来の構造単位の質量比であり、HBDは、共役ジエン由来の構造単位の全質量に対し、不飽和結合が水素化された共役ジエン由来の構造単位の質量比である。)
【請求項4】
リン酸鉄リチウム系正極活物質、分散剤、バインダー樹脂、及び溶媒を含み、
前記分散剤は、ニトリル基を有する構造単位と、不飽和結合が部分的に水素化されている共役ジエン由来の構造単位とを有し、下記式(1)で計算される残留二重結合の質量比(RDB)が0.05~5質量%を満たす共重合体(A)を含み、
前記リン酸鉄リチウム系正極活物質の、窒素吸着測定により求めたBET比表面積が1m2/g以上50m2/g以下であり、前記リン酸鉄リチウム系正極活物質が炭素被覆されている、正極膜用スラリー。
RDB(質量%)=(BD/(BD+HBD))×100 (1)
(式(1)において、BDは、共役ジエン由来の構造単位の全質量に対し、不飽和結合を有する共役ジエン由来の構造単位の質量比であり、HBDは、共役ジエン由来の構造単位の全質量に対し、不飽和結合が水素化された共役ジエン由来の構造単位の質量比である。)
【請求項5】
リン酸鉄リチウム系正極活物質、分散剤、バインダー樹脂、及び溶媒を含み、
前記分散剤は、ニトリル基を有する構造単位と、不飽和結合が部分的に水素化されている共役ジエン由来の構造単位とを有し、下記式(1)で計算される残留二重結合の質量比(RDB)が0.05~5質量%を満たす共重合体(A)を含み、
正極膜用スラリーの固形分量100質量部に対し導電助剤が0.5質量%以下である、正極膜用スラリー。
RDB(質量%)=(BD/(BD+HBD))×100 (1)
(式(1)において、BDは、共役ジエン由来の構造単位の全質量に対し、不飽和結合を有する共役ジエン由来の構造単位の質量比であり、HBDは、共役ジエン由来の構造単位の全質量に対し、不飽和結合が水素化された共役ジエン由来の構造単位の質量比である。)
【請求項6】
前記導電助剤を含まない、請求項5に記載の正極膜用スラリー。
【請求項7】
リン酸鉄リチウム系正極活物質、分散剤、バインダー樹脂、及び溶媒を含み、導電助剤を含まず、
前記分散剤は、ニトリル基を有する構造単位と、不飽和結合が部分的に水素化されている共役ジエン由来の構造単位とを有し、下記式(1)で計算される残留二重結合の質量比(RDB)が0.05~10質量%を満たす共重合体(A)を含む、正極膜用スラリー。
RDB(質量%)=(BD/(BD+HBD))×100 (1)
(式(1)において、BDは、共役ジエン由来の構造単位の全質量に対し、不飽和結合を有する共役ジエン由来の構造単位の質量比であり、HBDは、共役ジエン由来の構造単位の全質量に対し、不飽和結合が水素化された共役ジエン由来の構造単位の質量比である。)
【請求項8】
前記共重合体(A)は、ニトリル基を有する構造単位と、不飽和結合が部分的に水素化されている共役ジエン由来の構造単位との合計含有量が共重合体(A)の質量を基準として80質量%以上100質量%以下である、請求項1、2、3、5、6及び7のいずれか1項に記載の正極膜用スラリー。
【請求項9】
請求項1、2、3、5、6、7及び8のいずれか1項に記載の正極膜用スラリーを用いて得られる、正極膜。
【請求項10】
正極と、負極と、電解質とを含み、前記正極は、請求項1、2、3、5、6、7及び8のいずれか1項に記載の正極膜用スラリーを用いて得られる正極膜を含む、二次電池。
【請求項11】
請求項1、2、3、5、6、7及び8のいずれか1項に記載の正極膜用スラリーを用いて正極膜を製造する方法であって、前記正極膜用スラリーを用いて前記正極膜を形成する工程において前記正極膜用スラリーに導電助剤を添加する工程を含まない、正極膜の製造方法。
【請求項12】
前記共重合体(A)は、ニトリル基を有する構造単位と、不飽和結合が部分的に水素化されている共役ジエン由来の構造単位との合計含有量が共重合体(A)の質量を基準として80質量%以上100質量%以下である、請求項4に記載の正極膜用スラリー。
【請求項13】
請求項4に記載の正極膜用スラリーを用いて得られる、正極膜。
【請求項14】
請求項12に記載の正極膜用スラリーを用いて得られる、正極膜。
【請求項15】
正極と、負極と、電解質とを含み、前記正極は、請求項4に記載の正極膜用スラリーを用いて得られる正極膜を含む、二次電池。
【請求項16】
正極と、負極と、電解質とを含み、前記正極は、請求項12に記載の正極膜用スラリーを用いて得られる正極膜を含む、二次電池。
【請求項17】
請求項4に記載の正極膜用スラリーを用いて正極膜を製造する方法であって、前記正極膜用スラリーを用いて前記正極膜を形成する工程において前記正極膜用スラリーに導電助剤を添加する工程を含まない、正極膜の製造方法。
【請求項18】
請求項12に記載の正極膜用スラリーを用いて正極膜を製造する方法であって、前記正極膜用スラリーを用いて前記正極膜を形成する工程において前記正極膜用スラリーに導電助剤を添加する工程を含まない、正極膜の製造方法。」
第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
当審が令和6年6月27日付けの取消理由通知(決定の予告)において特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
(進歩性)請求項4、8-10に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲第1号証に記載された発明、及び、甲第6号証、甲第7号証に記載された周知技術に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項4、8-10に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
甲第1号証:特開2012-256541号公報
甲第6号証:特開2016-149296号公報
甲第7号証:国際公開第2012/049723号
2 当審の判断
令和6年9月2日の訂正請求により、請求項4は
「リン酸鉄リチウム系正極活物質、分散剤、バインダー樹脂、及び溶媒を含み、
前記分散剤は、ニトリル基を有する構造単位と、不飽和結合が部分的に水素化されている共役ジエン由来の構造単位とを有し、下記式(1)で計算される残留二重結合の質量比(RDB)が0.05~5質量%を満たす共重合体(A)を含み、
前記リン酸鉄リチウム系正極活物質の、窒素吸着測定により求めたBET比表面積が1m2/g以上50m2/g以下であり、前記リン酸鉄リチウム系正極活物質が炭素被覆されている、正極膜用スラリー。
RDB(質量%)=(BD/(BD+HBD))×100 (1)
(式(1)において、BDは、共役ジエン由来の構造単位の全質量に対し、不飽和結合を有する共役ジエン由来の構造単位の質量比であり、HBDは、共役ジエン由来の構造単位の全質量に対し、不飽和結合が水素化された共役ジエン由来の構造単位の質量比である。)」に訂正された。
訂正後の請求項4は、上記取消理由において、取消理由の対象となっていない令和6年3月25日の訂正請求により訂正された請求項2の構成を全て含むものとなった。
したがって、訂正後の請求項4及び請求項4を引用する請求項12~16は、上記取消理由が解消した。
また、訂正後の請求項8~10は、請求項4を引用しなくなったので、上記取消理由の対象でなくなった。
第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 訂正前の請求項1ないし11に係る特許に対する特許異議申立理由の概要は、以下のとおりである。
(1)申立理由1
請求項1、8~10に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、請求項1、8~10に係る発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、請求項1、8~10に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
(2)申立理由2
請求項1、5、8~10に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基いて、
請求項2~4に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~5、8~10に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(3)申立理由3
請求項1、8~10に係る発明は、甲第3号証の外国語特許出願の国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であるから、請求項1、8~10に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものである。
証拠方法
甲第1号証:特開2012-256541号公報
甲第2号証:特開2016-186845号公報
甲第3号証:国際公開第2022/177242号(甲第3号証の外国語特許出願:PCT/KR2022/002135号)
甲第4号証:特表2023-520363号公報
2 引用文献の記載事項、引用発明
(1)甲第1号証
ア 甲第1号証には、次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。以下同様。)。
「【0015】
導電性カーボンをそれ以外の電極活物質と共に用いる場合において、導電性カーボンの含有割合は、電極活物質100重量部に対して、好ましくは0.1~15重量部、より好ましくは1~10重量部、さらにより好ましくは1~7重量部とすることができる。導電性カーボンの割合を前記上限以下とすることにより、電池としての容量の低下を防ぐことができる。導電性カーボンの割合を前記下限以上とすることにより、出力特性の向上の効果を良好に得ることができる。」
「【0121】
<実施例1>
・・・
【0127】
(1-5.ポリマー溶液の作製)
上記(1-3)で得られた重合体X-1をN-メチル-2-ピロリドン(以下NMPという。)に溶解し、重合体X-1のNMP溶液を得た。得られた溶液の固形分濃度は8.0%であった。
別に上記(1-4)で得られた重合体Y-1をNMPに溶解し、重合体Y-1のNMP溶液を得た。得られた溶液の固形分濃度は8.0%であった。
・・・
【0129】
(1-7.正極用電極組成物および正極の製造)
正極活物質としてのFe含有活物質(リン酸鉄リチウム(LiFePO4))100部と、導電性カーボンとしてのアセチレンブラック(商品名「HS-100」、電気化学工業株式会社製)5部と、バインダーとしての上記(1-5)で得た重合体X-1のNMP溶液の固形分相当0.3部と、重合体Y-1のNMP溶液の固形分相当1.2部とを混合し、さらにNMPで固形分濃度87%に調整した後にプラネタリーミキサーで60分混合した。さらにNMPで固形分濃度84%に調整した後に10分間混合してスラリー状の正極用電極組成物(正極活物質スラリー)を調製した。この正極用電極組成物を厚さ18μmのアルミニウム箔に塗布し、120℃で3時間乾燥した後、ロールプレスして厚さ50μmの正極活物質層を有する正極を得た。
また、得られた正極活物質スラリーの粘性変化率、及び得られた正極のピール強度を測定し、評価した。結果を表2に示す。」
「【0134】
<実施例12>
(12-1.不飽和重合体の調製)
反応容器に、水240部、アクリロニトリル36部、およびドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(乳化剤)2.5部を仕込み、温度を5℃に調整した。次いで、気相を減圧して十分に脱気してから、1,3-ブタジエン64部、重合開始剤であるパラメンタンヒドロペルオキシド0.06部、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム0.02部、硫酸第一鉄(7水塩)0.006部およびホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム0.06部、ならびに連鎖移動剤のt-ドデシルメルカプタン1部を添加して乳化重合を開始した。仕込み全単量体に対する重合転化率が80質量%に達した時点でヒドロキシルアミン硫酸塩0.3部と水酸化カリウム0.2部を添加して重合反応を停止させた。反応停止後、反応容器の内容物を70℃に加温し、減圧下に水蒸気蒸留により未反応の単量体を回収して、ニトリル基を有する重合単位を含んでなる不飽和重合体の水分散液を得た。
得られた不飽和重合体の単量体を構成する各単量体の含有割合を、日本電子株式会社製FTNMR装置(JNM-EX400WB)を用いて測定したところ、アクリロニトリル単量体単位36.0%、1,3-ブタジエン単位64%であった。
【0135】
(12-2.水素化反応:第1段階)
全固形分濃度を12質量%に調整した、不飽和重合体の水分散液1400ミリリットル(全固形分48グラム)を攪拌機付きの1リットルオートクレーブに投入し、窒素ガスを10分間流して水分散液中の溶存酸素を除去した後、水素化触媒として、酢酸パラジウム75mgを、Pdに対して4倍モルの硝酸を添加した水180mlに溶解して、添加した。系内を水素ガスで2回置換した後、3MPaまで水素ガスで加圧した状態でオートクレーブの内容物を50℃に加温し、6時間水素添加反応させた。このとき、重合体のヨウ素価は、25であった。
【0136】
(12-3.水素化反応:第2段階)
次いで、オートクレーブを大気圧にまで戻し、更に水素化触媒として、酢酸パラジウム25mgを、Pdに対して4倍モルの硝酸を添加した水60mlに溶解して、添加した。系内を水素ガスで2回置換した後、3MPaまで水素ガスで加圧した状態でオートクレーブの内容物を50℃に加温し、6時間水素添加反応させた。その後、内容物を常温に戻し、系内を窒素雰囲気とした後、エバポレーターを用いて、固形分濃度が約40%となるまで濃縮して、ニトリル基を有する重合単位を含んでなるヨウ素価10以下の重合体を得た。
【0137】
(12-4.重合体のNMP溶液の作成)
上記(12-3)で得られた重合体を分散媒から分離した後、NMPに溶解し、重合体のNMP溶液を得た。得られた溶液の固形分濃度は8.0%であった。
【0138】
(12-5.スラリー、正極、及び電池の製造と評価)
工程(1-5)で得た重合体Y-1のNMP溶液に代えて、上記(12-4)で得た重合体のNMP溶液を用いた他は実施例1と同様にして、重合体X-1、正極活物質スラリー、正極及び電池を得、評価した。
結果を表3~表4に示す。」
イ 甲1発明
【0121】、【0127】及び【0129】の記載より、実施例1の正極活物質スラリーは、正極活物質としてのリン酸鉄リチウム100部と、導電性カーボン5部と、バインダーとしての(1-5)で得た重合体X-1のNMP溶液の固形分相当0.3部と、(1-5)で得た重合体Y-1のNMP溶液の固形分相当1.2部とを混合し、NMPで固形分濃度を調整した正極活物質スラリーである。
ここで、工程(1-5)で得た重合体Y-1のNMP溶液に代えて、上記(12-4)で得た重合体(以下、「重合体a」という。)のNMP溶液を用いた他は実施例1と同様にした、実施例12の正極活物質スラリーに着目すると(【0138】)、上記記載より、甲第1号証には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。
「正極活物質としてのリン酸鉄リチウム100部と、導電性カーボン5部と、バインダーとしての重合体X-1のNMP溶液の固形分相当0.3部と、重合体aのNMP溶液の固形分相当1.2部とを混合し、NMPで固形分濃度を調整した正極活物質スラリーであって、
重合体aは、アクリロニトリル単量体とブタジエン単量体を有する不飽和重合体の水素化物であり、ヨウ素価10以下である、
正極活物質スラリー。」
(2)甲第2号証
甲第2号証には、次の事項が記載されている。
「【0003】
一方で、リン酸鉄リチウムは導電性が低く(25℃において導電率σ≦10-8S/cm程度)、リチウムイオンの拡散性が低い(25℃において拡散係数D≦10-13 cm2/s程度)ため、このままでは良好な出力特性が得られない。
前記低い導電性を改善するため、原料を焼成してリン酸鉄リチウムを製造する際に、熱分解により導電性炭素を生成する炭素被覆原料を用い、加熱分解により導電性炭素をリン酸鉄リチウムの一次粒子表面に被覆することが行われている(例えば、特許文献1)。」
(3)甲第3号証
ア 甲第3号証には、図面とともに以下の事項が記載されている。(なお、日本語ファミリーである甲第4号証の記載を、甲第3号証の和訳文として以下に記載した。)
る。
「【0002】
本発明は、リン酸鉄リチウム化合物プライマー層を含むリチウム二次電池用正極、およびこれを含むリチウム二次電池に関する。」
「【0040】
前記水素化ニトリルブタジエンゴム(HNBR)は、ニトリルブタジエンゴム(NBR)を水素添加反応させて、元々ニトリルブタジエンゴム(NBR)に含まれていた二重結合が単一結合したものを意味する。」
「【0077】
<実施例1>
一次粒子LiFePO4(平均直径(D50):0.5±0.15μm)、HNBR分散剤(Mw:220,000±30,000、ANの含有量:35±3wt%、RDB0~5%)、導電材(カーボンブラック)、およびバインダー(PVDF、Mw:700,000±50,000)を、重量を基準として94.5:1:1.5:3となるようにNMP溶媒下で混合してプライマースラリーを製造した。ここで、固形分は45%となるようにした。」
イ 上記記載事項より、甲第3号証の外国語特許出願の国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面には、実施例1のプライマースラリーに着目すると、次の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されているといえる。
「一次粒子LiFePO4、HNBR分散剤(RDB0~5%)、導電材(カーボンブラック)、およびバインダー(PVDF)を、重量を基準として94.5:1:1.5:3となるようにNMP溶媒下で混合したプライマースラリー。」
3 当審の判断
(1)申立理由1(第29条第1項第3号)、申立理由2(第29条第2項)
ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲1発明を対比すると、次のことがいえる。
a 甲1発明の「正極活物質としてのリン酸鉄リチウム」、「バインダーとしての重合体X-1」、「NMP」は、それぞれ、本件発明1の「リン酸鉄リチウム系正極活物質」、「バインダー樹脂」、「溶媒」に相当する。
b 甲第1号証には「スラリー状の正極用電極組成物(正極活物質スラリー)を調製した。この正極用電極組成物を厚さ18μmのアルミニウム箔に塗布し、120℃で3時間乾燥した後、ロールプレスして厚さ50μmの正極活物質層を有する正極を得た。」(【0129】)と記載されていることから、甲1発明の「正極活物質スラリー」は、正極膜である正極活物質層を作成するためのものである。
したがって、甲1発明の「正極活物質スラリー」は、本件発明1の「正極膜用スラリー」に相当する。
c 上記a及びbを踏まえると、甲1発明の「正極活物質としてのリン酸鉄リチウム100部と、導電性カーボン5部と、バインダーとしての重合体X-1のNMP溶液の固形分相当0.3部と、重合体aのNMP溶液の固形分相当1.2部とを混合し、NMPで固形分濃度を調整した正極活物質スラリー」と本件発明1とは、「リン酸鉄リチウム系正極活物質、重合体、バインダー樹脂、及び溶媒を含」む「正極膜用スラリー」である点で共通する。
但し、重合体が、本件発明1は「分散剤」であるのに対して、甲1発明の「重合体a」にそのような特定がない点で相違する。
d 甲1発明の「重合体aは、アクリロニトリル単量体とブタジエン単量体を有する不飽和重合体の水素化物であり、ヨウ素価10以下である」と本件発明1とは、「前記重合体は、ニトリル基を有する構造単位と、不飽和結合が部分的に水素化されている共役ジエン由来の構造単位とを有する」点で共通する。
但し、重合体が、本件発明1は「残留二重結合の質量比(RDB)が0.05~5質量%を満たす共重合体(A)を含む」のに対して、甲1発明は「ヨウ素価10以下である」点で相違する。
e 甲1発明の「導電性カーボン」は、本件発明1の「導電助剤としての炭素材料」に相当する。
したがって、本件発明1と甲1発明とは、「導電助剤としての炭素材料」を含有する点で共通する。
但し、甲1発明は、リン酸鉄リチウム100部、導電性カーボン5部、重合体X-1の固形分相当0.3部、重合体aの固形分相当1.2部であるから、「導電性カーボン」の含有量は、固形分量の100質量部に対し約4.7質量部(5/(100+5+0.3+1.2))である。
そうすると、導電助剤としての炭素材料の含有量が、本件発明1は「固形分量の100質量部に対し1質量部以下である」のに対して、甲1発明は固形分量の100質量部に対し約4.7質量部である点で相違する。
すると、本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点は以下のとおりである。
(一致点)
「リン酸鉄リチウム系正極活物質、重合体、バインダー樹脂、及び溶媒を含み、
前記重合体は、ニトリル基を有する構造単位と、不飽和結合が部分的に水素化されている共役ジエン由来の構造単位とを有し、
導電助剤としての炭素材料を含有する、正極膜用スラリー。」
(相違点1a)
重合体が、本件発明1は「分散剤」であるのに対して、甲1発明の「重合体a」にそのような特定がない点。
(相違点2a)
重合体が、本件発明1は「残留二重結合の質量比(RDB)が0.05~5質量%を満たす共重合体(A)を含む」のに対して、甲1発明は「ヨウ素価10以下である」点。
(相違点3a)
導電助剤としての炭素材料の含有量が、本件発明1は「固形分量の100質量部に対し1質量部以下である」のに対して、甲1発明は固形分量の100質量部に対し約4.7質量部である点。
(イ)判断
a 第29条第1項第3号について
本件発明1と甲1発明とは相違点1aないし3aを有しているので、本件発明1は甲第1号証に記載された発明でない。
b 第29条第2項について
事案に鑑み、まず、上記相違点3aについて検討する。
甲第1号証には、導電性カーボンの含有割合について「電極活物質100重量部に対して、好ましくは0.1~15重量部、より好ましくは1~10重量部、さらにより好ましくは1~7重量部とすることができる。導電性カーボンの割合を前記上限以下とすることにより、電池としての容量の低下を防ぐことができる。導電性カーボンの割合を前記下限以上とすることにより、出力特性の向上の効果を良好に得ることができる。」(【0015】)と記載されているが、導電性カーボンの上限値を1質量部以下にすることは想定しておらず、甲1発明において「導電性カーボン」を固形分量の100質量部に対し1質量部以下に限定する理由はない。
また、本件発明の明細書には「正極膜用スラリーに、活物質表面の被覆炭素以外に、炭素材料が導電助剤として含まれると、分散剤である共重合体(A)が導電助剤にも作用し、リン酸鉄リチウム系正極活物質への作用が低下し、リン酸鉄リチウム系正極活物質の分散性が低下することがある。例えば、導電助剤として、比表面積が大きい炭素材料が正極膜用スラリーに含まれると、共重合体(A)がリン酸鉄リチウム系正極活物質よりも炭素材料により吸着しやすく、リン酸鉄リチウム系正極活物質の分散性の低下を引き起こすことがある。」(【0024】)、「このような観点から、正極膜用スラリーにおいて、導電助剤としての炭素材料の含有量は、固形分量の100質量部に対し30質量部以下、10質量部以下、又は1質量部以下が好ましく、リン酸鉄リチウム系活物質の分散性への影響をより低減するために、0.5質量部以下、又は0.1質量部以下がより好ましく、正極膜用スラリーに導電助剤は実質的に含まれないことがより好ましい。」(【0025】)と、導電助剤としての炭素材料の含有量を、固形分量の100質量部に対し1質量部以下にすることにより、分散剤である共重合体(A)が導電助剤にも作用し、リン酸鉄リチウム系正極活物質への作用が低下し、リン酸鉄リチウム系正極活物質の分散性が低下することを防止する効果が記載されている。そして、上記効果は甲第1号証の記載からは、予測し得ないことである。
したがって、上記相違点3aに係る構成は、甲1発明に基づいて、当業者が容易になし得たこととはいえない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ 本件発明2について
(ア)対比
本件発明1と甲1発明との対比を踏まえると、本件発明2と甲1発明との相違点は以下のとおりである。
(相違点1b)
重合体が、本件発明2は「分散剤」であるのに対して、甲1発明の「重合体a」にそのような特定がない点。
(相違点2b)
重合体が、本件発明2は「残留二重結合の質量比(RDB)が0.05~5質量%を満たす共重合体(A)を含む」のに対して、甲1発明は「ヨウ素価10以下である」点。
(相違点3b)
本件発明2は「前記リン酸鉄リチウム系正極活物質が炭素被覆されている」のに対して、甲1発明はそのような特定がない点。
(イ)判断
事案に鑑み、まず、上記相違点3bについて検討する。
甲第2号証(【0003】)には、リン酸リチウムの一次粒子表面に炭素被覆を行い導電性を改善する技術が記載されている。
一方、本件発明の明細書には、「リン酸鉄リチウム系正極活物質表面の被覆炭素には、共重合体(A)のニトリル基が吸着サイトとなって吸着しやすく、共役ジエン由来の構造単位による弾性が反発部位として作用し、その分散性および分散安定性その分散性をより高めることができる。」(【0024】)と、炭素被覆されたリン酸鉄リチウム系正極活物質と分散剤(共重合体(A))の相互作用による効果が示されている。
ここで、甲第1号証には、甲1発明の「重合体a」((12-4)で得た重合体)が、リン酸鉄リチウムの分散性を高めることの記載も示唆もない。
そうすると、例え甲1発明に甲第2号証に記載された技術を適用しても、炭素被覆された「リン酸鉄リチウム」の分散性を、「重合体a」が高める効果は予測できないものである。
したがって、本件発明2は、甲1発明及び甲第2号証に記載された技術からは予測できない顕著な効果を有しており、上記相違点3bに係る構成は、甲1発明及び甲第2号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易になし得たこととはいえない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明2は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 本件発明3、4について
本件発明3、4は、本件発明2の構成を全て含み、更に他の構成を付加したものであるから本件発明2と同様の理由により、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
エ 本件発明5について
(ア)対比
本件発明1と甲1発明との対比を踏まえると、本件発明5と甲1発明との相違点は以下のとおりである。
(相違点1c)
重合体が、本件発明5は「分散剤」であるのに対して、甲1発明の「重合体a」にそのような特定がない点。
(相違点2c)
重合体が、本件発明5は「残留二重結合の質量比(RDB)が0.05~5質量%を満たす共重合体(A)を含む」のに対して、甲1発明は「ヨウ素価10以下である」点。
(相違点3c)
導電助剤の含有量が、本件発明5は「正極膜用スラリーの固形分量100質量部に対し」「0.5質量%以下である」のに対して、甲1発明は固形分量の100質量部に対し約4.7質量部である点。
(イ)判断
事案に鑑み、まず、上記相違点3cについて検討する。
甲第1号証には、導電性カーボンの含有割合について「電極活物質100重量部に対して、好ましくは0.1~15重量部、より好ましくは1~10重量部、さらにより好ましくは1~7重量部とすることができる。導電性カーボンの割合を前記上限以下とすることにより、電池としての容量の低下を防ぐことができる。導電性カーボンの割合を前記下限以上とすることにより、出力特性の向上の効果を良好に得ることができる。」(【0015】)と記載されているが、導電性カーボンの上限値を0.5質量部以下にすることは想定しておらず、甲1発明において、導電助剤である「導電性カーボン」を、固形分量100質量部に対し0.5質量%以下に限定する理由はない。
また、本件発明の明細書には「正極膜用スラリーに、活物質表面の被覆炭素以外に、炭素材料が導電助剤として含まれると、分散剤である共重合体(A)が導電助剤にも作用し、リン酸鉄リチウム系正極活物質への作用が低下し、リン酸鉄リチウム系正極活物質の分散性が低下することがある。例えば、導電助剤として、比表面積が大きい炭素材料が正極膜用スラリーに含まれると、共重合体(A)がリン酸鉄リチウム系正極活物質よりも炭素材料により吸着しやすく、リン酸鉄リチウム系正極活物質の分散性の低下を引き起こすことがある。」(【0024】)、「このような観点から、正極膜用スラリーにおいて、導電助剤としての炭素材料の含有量は、固形分量の100質量部に対し30質量部以下、10質量部以下、又は1質量部以下が好ましく、リン酸鉄リチウム系活物質の分散性への影響をより低減するために、0.5質量部以下、又は0.1質量部以下がより好ましく、正極膜用スラリーに導電助剤は実質的に含まれないことがより好ましい。」(【0025】)と、導電助剤としての炭素材料の含有量を、固形分量の100質量部に対し0.5質量部以下にすることにより、分散剤である共重合体(A)が導電助剤にも作用し、リン酸鉄リチウム系正極活物質への作用が低下し、リン酸鉄リチウム系正極活物質の分散性が低下することを防止する効果が記載されている。そして、上記効果は甲第1号証の記載からは、予測し得ないことである。
したがって、上記相違点3cに係る構成は、甲1発明に基づいて、当業者が容易になし得たこととはいえない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明5は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
オ 本件発明8~10について
本件発明1を引用する本件発明8~10は、本件発明1の構成を全て含み、更に他の構成を付加したものであるから本件発明1と同様の理由により、甲第1号証に記載された発明でない。また、甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
また、本件発明2、3又は5を引用する本件発明8~10は、本件発明2、3又は5と同様の理由により、甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
カ 本件発明12~16について
本件発明12~16は、本件発明4の構成を全て含み、更に他の構成を付加したものであるから本件発明4と同様の理由により、甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2)申立理由3(第29条の2)
ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲3発明を対比すると、次のことがいえる。
a 甲3発明の「HNBR分散剤」、「バインダー(PVDF)」、「NMP溶媒」、「導電材」は、それぞれ、本件発明1の「分散剤」、「バインダー樹脂」、「溶媒」、「導電助剤」に相当する。
b 甲3発明の「一次粒子LiFePO4」と本件発明1の「リン酸鉄リチウム系正極活物質」とは、「リン酸鉄リチウム」である点で共通する。
但し、リン酸鉄リチウムが、本件発明1は「正極活物質」であるのに対して、甲3発明はそのような特定がない点で相違する。
c 甲3発明の「HNBR」は水素化ニトリルブタジエンゴムのことであるので(甲第4号証、【0040】)、甲3発明の「HNBR分散剤(RDB0~5%)」は、本件発明1の「前記分散剤は、ニトリル基を有する構造単位と、不飽和結合が部分的に水素化されている共役ジエン由来の構造単位とを有」することに相当する。
但し、分散剤が、本件発明1は「残留二重結合の質量比(RDB)が0.05~5質量%を満たす共重合体(A)を含む」のに対して、甲3発明は「RDB0~5%」である点で相違する。
d 甲3発明の「導電材(カーボンブラック)」は、本件発明1の「導電助剤としての炭素材料」に相当する。
したがって、本件発明1と甲3発明とは、「導電助剤としての炭素材料」を含有する点で共通する。
但し、甲3発明は「一次粒子LiFePO4、HNBR分散剤(RDB0~5%)、導電材(カーボンブラック)、およびバインダー(PVDF)を、重量を基準として94.5:1:1.5:3」であるから、「導電材(カーボンブラック)」は、固形分量の100質量部に対し1.5質量部である。
そうすると、導電助剤としての炭素材料の含有量が、本件発明1は「固形分量の100質量部に対し1質量部以下である」のに対して、甲3発明は固形分量の100質量部に対し1.5質量部である点で相違する。
e 甲3発明は、リン酸鉄リチウム化合物プライマー層を含むリチウム二次電池用正極に関するものなので(甲第4号証、【0002】)、甲3発明の「プライマースラリー」は、本件発明1の「正極膜用スラリー」に相当する。
すると、本件発明1と甲3発明との一致点及び相違点は以下のとおりである。
(一致点)
「リン酸鉄リチウム、分散剤、バインダー樹脂、及び溶媒を含み、
前記分散剤は、ニトリル基を有する構造単位と、不飽和結合が部分的に水素化されている共役ジエン由来の構造単位とを有し、
導電助剤としての炭素材料を含有する、正極膜用スラリー。」
(相違点1d)
リン酸鉄リチウムが、本件発明1は「正極活物質」であるのに対して、甲3発明はそのような特定がない点。
(相違点2d)
分散剤が、本件発明1は「残留二重結合の質量比(RDB)が0.05~5質量%を満たす共重合体(A)を含む」のに対して、甲3発明は「RDB0~5%」である点。
(相違点3d)
導電助剤としての炭素材料の含有量が、本件発明1は「固形分量の100質量部に対し1質量部以下である」のに対して、甲3発明は固形分量の100質量部に対し1.5質量部である点。
(イ)判断
本件発明1と甲3発明とは相違点1dないし3dを有しているので、本件発明1は甲第3号証に記載された発明と同一でない。
イ 本件発明8~10について
本件発明1を引用する本件発明8~10は、本件発明1の構成を全て含み、更に他の構成を付加したものであるから本件発明1と同様の理由により、甲第3号証に記載された発明と同一でない。
(3)まとめ
したがって、特許異議申立人の申立理由1ないし3にかかる主張は、採用することができない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した異議申立理由によっては、請求項1~5、8~10、12~16に係る特許を取り消すことはできない。さらに、他に請求項1~5、8~10、12~16に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-701267