特許拒絶査定不服審判
2023-012210
電磁波シールド材及びこれを備える信号処理ユニット
- 審判番号
- 2023-012210
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2019-546052
- 請求日
- 2023年07月20日
- 審決日
- 2024年03月25日
- 公報発行日
- 2024年04月26日
- 結論
- 原査定取消(特許/登録すべき)
- 当事者
- 【請求人】株式会社新日本電波吸収体
- 【請求人代理人】山内 博明
- 【請求人】トーヨーカラー株式会社
- 【請求人代理人】山内 博明
- 【請求人】artience株式会社
- 【請求人代理人】山内 博明
- 【請求人】伊藤忠ケミカルフロンティア株式会社
- 【請求人代理人】山内 博明
- 【請求人】株式会社タケチ
- 【請求人代理人】山内 博明
- 審判長/審判官
- 審判長 篠塚 隆
- 審判官 山澤 宏
- 審判官 富澤 哲生
- 分類
- P18 .121-WY (H05K) / P18 .55 -WY (H05K)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第17条の2第3項、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2019-546052「電磁波シールド材及びこれを備える信号処理ユニット」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年12月12日国際公開、WO2019/235561、請求項の数(7)〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
原査定を取り消す。
本願の発明は、特許すべきものとする。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2019年6月6日(優先権主張 平成30年6月6日(以下、「優先日」という。))を国際出願日とする出願であって、その後の手続の概要は、以下のとおりである。
令和4年 4月12日 :手続補正書の提出
令和4年 5月24日付け:拒絶理由通知書
令和4年 7月29日 :意見書、手続補正書の提出
令和4年10月17日付け:拒絶理由通知書(最後)
令和5年 2月22日 :意見書、手続補正書の提出
令和5年 5月16日付け:令和5年2月22日の手続補正についての補正の却下の決定、拒絶査定(以下、「原査定」という。)
令和5年 7月20日 :審判請求書、手続補正書の提出
第2 原査定の概要
原査定(令和5年5月16日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。
1 理由1(新規事項)令和4年7月29日付け手続補正書でした補正は、下記の点で願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。
・請求項 1-7
出願時の特許請求の範囲における、
電磁波の反射損失を50%以上低下させる分量で前記樹脂に含有される電磁波遮蔽物質1と、
電磁波の透過損失を80%以上低下させる分量で前記樹脂に含有される電磁波遮蔽物質2と、
という記載が、「損失」自体ではなく、「損失」の変化前後の状況について規定していたのに対し、上記補正書による補正後の特許請求の範囲における、
電磁波の反射損失が50%以上になる分量で前記樹脂に含有される電磁波遮蔽物質1と、
電磁波の透過損失が80%以上になる分量で前記樹脂に含有される電磁波遮蔽物質2と、
という記載は、「損失」自体について規定しており、両者は明らかに概念が異なっている。
以上のとおりであるから、請求項1に関する上記補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲、図面に記載した事項の範囲内で行われたものでなく、新規事項を追加するものであると判断せざるを得ない。
2 理由2(進歩性)
本願請求項1-3、6、7に係る発明は、以下の引用文献1に記載された発明に基づいて、本願請求項4、5に係る発明は、以下の引用文献1に記載された発明、及び引用文献2、3に記載された技術事項に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
1.特開2009-144000号公報
2.特開2009-19204号公報(周知技術を示す文献)
3.特表2013-519745号公報(周知技術を示す文献)
第3 本願発明
本願の請求項1ないし7に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明7」という。)は、令和5年7月20日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定される発明であり、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
主成分となる樹脂と、
電磁波の反射損失の絶対値が大きくなることに寄与する前記樹脂に含有される電磁波遮蔽物質1と、
電磁波の透過損失の絶対値が大きくなることに寄与する前記樹脂に含有される電磁波遮蔽物質2と、
を含む、電磁波シールド材であって、
前記各電磁波遮蔽物質(ただし、銀微粒子で焼結されていない)を前記樹脂に対して分散させる分散剤を含み、
その厚さが2mmである場合に、75GHz~110GHzの周波数帯域全体に亘り、反射損失の絶対値が5dB以上であり、かつ、透過損失の絶対値が15dB以上である、電磁波シールド材。
【請求項2】
前記樹脂は熱可塑性樹脂であり、
前記各電磁波遮蔽物質はナノカーボンである、請求項1記載の電磁波シールド材。
【請求項3】
前記樹脂は、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリアルキレンテレフタレート樹脂、アクリル系樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリフェニレンスルファイド、ポリオレフィン、ポリスチレン樹脂、シンジオタクチックポリスチレン樹脂、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂、ポリフェニレンオキシド樹脂、ポリブチレン、液晶重合体樹脂のいずれか又はこれらのうちいくつかの任意の組合せであり、
前記各電磁波遮蔽物質は、カーボンナノチューブ、カーボンブラック、カーボンナノコイル、カーボンナノファイバー、グラフェン、フラーレンのうち、電磁波の反射損失の絶対値が大きくなることに寄与する前記電磁波遮蔽物質1と、電磁波の透過損失の絶対値が大きくなることに寄与する前記電磁波遮蔽物質2との任意の組合せである、請求項1記載の電磁波シールド材。
【請求項4】
前記分散剤は天然・半合成・合成ワックスのいずれかである、請求項1記載の電磁波シールド材。
【請求項5】
前記分散剤は、パラフィンワックス、モンタンワックス、アマイドワックス、エチレン-ビス-ステアラミド、脂肪酸金属塩、シリコーン、ポリオレフィンワックスなどのいずれか又はこれらのうちいくつかの任意の組合せである、請求項1記載の電磁波シールド材。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか記載の電磁波シールド材を備える信号処理ユニットであって、
前記電磁波シールド材の厚さは2mm以上である、信号処理ユニット。
【請求項7】
前記電磁波シールド材を有する自動車用近接レーダー、携帯電話機・スマートフォン・PDA・タブレット端末・パーソナルコンピュータを含む通信機器、各種近接レーダーである、請求項6記載の信号処理ユニット。」
第4 引用文献、引用発明等
1 引用文献1について
(1)引用文献1記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている。(下線は当審により付与。以下同様。)
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、高い放熱性、電気伝導性、電磁波遮蔽性および強度を有する樹脂炭素複合材料に関する。」
イ 「【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記課題を解決するために様々な検討を行った結果、炭素繊維と黒鉛粉末を一定の割合で樹脂に均一に混合することによって、放熱性に優れ、広帯域の電磁波を遮蔽できるとともに、電気抵抗値が低く電気伝導性に優れ、かつ強度が高く耐衝撃性に優れた材料を製造することに成功し、前記課題を解決した。
【0012】
すなわち本発明は、樹脂中に(a)炭素繊維と(b)黒鉛粉末とが均一に分散された樹脂炭素複合材料であって、当該樹脂炭素複合材料中における(a)の割合が10体積%以上60体積%以下であり、(b)の割合が10体積%以上60体積%以下であり、(a)と(b)の総和が20体積%以上80体積%以下であることを特徴とする。
【0013】
炭素繊維および黒鉛粉末はともにカーボン材料であり、熱伝導性と電磁波吸収性に優れている。また、黒鉛粉末は電気伝導性が高く、炭素繊維は、材料の強度を高め、耐衝撃性を向上させることができる。樹脂中に上記割合で黒鉛粉末と炭素繊維を均一に分散させることにより、黒鉛粉末が、炭素繊維の隙間に均一に分散し、炭素繊維と黒鉛粉末の一部が接し、炭素繊維同士が絡み合う事により放熱性及び電気伝導性をさらに高めることができる。
【0014】
前記(a)の炭素繊維は、100W/m・K以上の熱伝導率を有することが好ましい。
また、炭素繊維として、ピッチ系炭素繊維を用いる事で、放熱性をより向上させることが可能であり、さらに、カーボンナノチューブを併用することにより、電磁波遮蔽特性をより向上させることができる。カーボンナノチューブは添加量2~5%と少量においても効果を発揮する。ピッチ系炭素繊維とカーボンナノチューブを併用する場合、樹脂炭素複合材料中におけるピッチ系炭素繊維の割合は10体積%以上50体積%以下、カーボンナノチューブの割合は0.1体積%以上10体積%以下が好適である。
【0015】
また、黒鉛粉末として、固定炭素量が95%以上の球状黒鉛粉末を用いれば、より放熱性を向上させ、電気抵抗値を低減させることができる。さらに、カーボンブラックを添加することにより、放熱性および電磁波吸収特性をより向上させることができる。この際、樹脂炭素複合材料中における黒鉛粉末の割合が10体積%以上50体積%以下であり、カーボンブラックの割合が0.1体積%以上10体積%以下であることが好ましい。
【0016】
上記の樹脂炭素複合材料からなる成型品は金属に比べて軽量であり、押出成形、射出成形、またはプレス成形することにより、肉厚の薄い製品や複雑形状の製品を一体形成することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明にかかる樹脂炭素複合材料は、優れた放熱性と電磁波遮蔽性を有し、且つ高い導電性と強度を有する。特に本発明にかかる樹脂炭素複合材料は、広帯域で良好な電磁波遮蔽特性を有する。」
ウ 「【0027】
以下、実施例に基づき、本発明の材料を詳細に説明する。
【実施例】
【0028】
[樹脂炭素複合材料の調製]
実施例に用いた材料の配合を表1に示す。用いる樹脂をあらかじめ0.5Lの加熱混練機で、ポリブチレンテレフタレート(PBT)の場合には260℃、ナイロン樹脂(PA)の場合には250℃及びポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂の場合には330℃に設定して10分間混合し十分溶融させた後に黒鉛粉末及び炭素繊維を徐々に添加して1時間加熱混練を行い、取り出した塊をシート状にした後、粉砕機にかけて成形材料とした。
得られた成形材料を型締め力20トンの射出成形機を用いて、電気抵抗値の測定及び放熱特性の測定に関しては35mm×35mm×厚み2mmの成形体を製造してこれを用いた。電磁波遮蔽性の測定には100mm×100mm×厚み1.5mmの成形体を製造してこれを用いた。曲げ強度、曲げ弾性率の測定には長さ100mm、幅5mmの短冊状試験片を作成し、万能試験機を用いて測定を行った。
比較例についても同様の手順により成形体を作成した。
【0029】
実施例および比較例において用いた原料は次の通りである。
黒鉛粉末には、平均粒子径10μmの球状黒鉛粉末(固定炭素量98%)を用いた。
カーボンブラックには平均粒子径40nmのケッチェンブラックEC-600JDを用いた。
炭素繊維には、ピッチ系炭素繊維である三菱化学産資株式会社のK6371T:140W/m・K(平均長さ:6.3mm、収束剤[エポキシ樹脂]添着率2wt%)、ピッチ系超高弾性炭素繊維である三菱化学産資株式会社のK223HG:700W/m・K(平均長さ:6mm、収束剤無添加)、カーボンナノチューブであるナノカーボンテクノロジーズ株式会社の多層カーボンナノチューブ(平均長さ:約20μm)を用いた。
【0030】
[特性の測定]
電磁波の測定に関してはアドバンテスト製、スペクトラムアナライザR3132を用いて1MHz~1GHzの電磁波遮蔽特性を測定した。表中に示す電磁波遮蔽性は透過損失であり、対応する樹脂のみで作製したシートにおける透過量を基準値とし、実施例あるいは比較例のシートにおける透過量の減少値を示す。
放熱特性の測定については下記に示す方法により測定を行った。幅15mm、厚み2mm、長さ100mmの銅板を、熱源を使用して80℃まで温度を上げて、30分均熱を確認した後、試料(35mm角、2mm厚)を前記銅板の上に置いて、試料から5mm後方の銅板の30分後の温度を測定した。
電気抵抗値は四探針法式の測定器(三菱化学(株)製直流四端子法測定装置)を用いて測定した。
曲げ強度、曲げ弾性率の測定については、曲げ試験片を作成しJISK7171に準じて試験を行った。
【0031】
実施例の結果を表1に、比較例の結果を表2に示す。
【表1】
[図:0001408964000001.jpg]
」
エ 上記ウによれば、実施例7として、樹脂としてポリブチレンテレフタレート(PBT)を50体積%と、炭素繊維としてピッチ系超高弾性炭素繊維を18体積%及びカーボンナノチューブを2体積%と、黒鉛粉末を28体積%と、カーボンブラックを2体積%と、を含み、厚みが1.5mmであり、1MHz~1GHzの透過損失としての電磁波遮蔽特性が、1MHzで-31dB、500MHzで-30dB、1GHzで-30dBである樹脂炭素複合材料、が記載されている。
(2)引用発明
上記(1)から、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「樹脂中に(a)炭素繊維と(b)黒鉛粉末とが均一に分散され、さらに、カーボンブラックを添加されている、高い放熱性、電気伝導性、電磁波遮蔽性および強度を有する樹脂炭素複合材料であって、
樹脂としてポリブチレンテレフタレート(PBT)を50体積%と、
炭素繊維としてピッチ系超高弾性炭素繊維を18体積%及びカーボンナノチューブを2体積%と、
黒鉛粉末を28体積%と、
カーボンブラックを2体積%と、
を含み、
厚みが1.5mmであり、1MHz~1GHzの透過損失として電磁波遮蔽特性が、1MHzで-31dB、500MHzで-30dB、1GHzで-30dBである樹脂炭素複合材料。」
2 引用文献2について
(1)引用文献2記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2には、次の事項が記載されている。
ア 「【0007】
〔樹脂組成物〕
本発明に係る発泡用樹脂組成物(以下、単に樹脂組成物という)は、(A)ポリオレフィン樹脂と、(B)発泡剤と、(C)黒色顔料と、(D)変性ポリオレフィンと、を含有する。以下、詳細に説明する。」
イ 「【0059】
また、上記方法(1)~方法(5)において、(B)発泡剤の分散性をより良好なものとするために、加工顔料をさらに添加してもよい。
ここで、加工顔料とは、(C)黒色顔料と分散剤を、事前に、スーパーミキサーやタンブラー、過熱式ロールなどの混合機を用いて、混合又は混練したものをいう。
【0060】
分散剤としては、ワックス、変性ワックス、脂肪酸塩、金属石鹸、低分子量ポリエチレン、低分子量ポリプロピレン等が挙げられる。これらは単独又は2種以上併用して用いてもよい。
ワックスとしては、パラフィンワックス、ポリオレフィンワックス等が挙げられる。変性ワックスとしては、例えば、分子構造中に酸性基を有するワックスが挙げられる。具体的には、マレイン酸変性ワックス、フマル酸変性ワックス、アクリル酸変性ワックス、メタクリル酸変性ワックス、クロトン酸変性ワックス等が挙げられる。また、脂肪酸塩としては、ステアリン酸、ヒドロキシステアリン酸、ベヘン酸、モンタン酸、ラウリン酸、セバシン酸等の脂肪酸のナトリウム塩、カルシウム塩、亜鉛塩、マグネシウム塩、アルミニウム塩等が挙げられる。
金属石鹸としては、ステアリン酸、ヒドロキシステアリン酸、ベヘン酸、モンタン酸、ラウリン酸、セバシン酸等の脂肪酸のナトリウム塩、カルシウム塩、亜鉛塩、マグネシウム塩、アルミニウム塩が挙げられる。
加工顔料は、加工化学発泡剤と同様に、ビヒクルで希釈してマスターバッチを作成し、このマスターバッチを、(A)成分へ混合し、配合してもよい。」
3 引用文献3について
(1)引用文献3記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3には、次の事項が記載されている。
ア 「【0004】
分散の問題は、強い微粒子間(interparticular)結合力(分子間力)を有する顔料で特に生じる。多くの産業用途、例えば、黒色着色、組成物の電気的または熱伝導率を増加させるため、機械的に強化させるため、または低分子量有機化合物、例えば残留モノマーまたは臭物質の不安定さを拘束させ減少させるために使用される、カーボン系顔料、例えば、カーボンブラック、グラファイト、フラーレン、グラフェン、活性炭およびカーボンナノチューブは、特に強い粒子間結合力により区別される。したがって、これらは、熱可塑性ポリマー内に組み込まれて困難を伴ってのみ再び崩壊させることが出来る塊を形成するといった、特に顕著な傾向を有する。
【0005】
熱可塑性ポリマー組成物中にこのような顔料の分散性を改良させるための先行技術から、様々な方法が既知である。」
イ 「【0008】
第3の方法は、顔料凝集体内の顔料集合体または各顔料分子間における分子間相互作用を減少させ、それにより化合物を調製する間に凝集体の崩壊を促進させる分散助剤を用いることを含む。使用される分散助剤は、特に表面活性ワックスまたはオイル、例えば、ポリオレフィンワックス、パラフィンワックス、またはパラフィンオイルであり、それらは、ビニルモノマーを導入するか、またはこのようなビニルモノマー、脂肪酸、脂肪酸エステル、脂肪アルコール、脂肪酸アミドおよびモンタンワックスなどでグラフト化させることにより所望により変性されるか所望により酸化され(極性)される。このような分散助剤を使用することの欠点は、調製されるポリマー組成物中にそれらが残存することであり、それによって、対象となる製品における用途に関する特性に悪影響を及ぼし得る。例えば、複数のポリマー(例えば耐衝撃性改質ポリマー)の多相ブレンド組成物中におけるこのようなワックスは、種々のポリマー成分の相間相溶性に悪影響を及ぼし、その結果として、ブレンド組成物の機械的特性は界面に集中されるようになる。同様に、このような添加剤は、あるポリマー系において所望でないエージング工程、例えば、重縮合ポリマー中の加水分解反応を触媒する。」
第5 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「樹脂」は、「ポリブチレンテレフタレート(PBT)」であって「樹脂炭素複合材料」において「50体積%」をしめており、主成分といえることから、本願発明1の「主成分となる樹脂」に相当する。
イ 本願の明細書の段落【0033】には、「以下、本発明の実施例の電磁波シールド材について、樹脂としてポリプロピレンを主成分としたもの、電磁波遮蔽物質1としてカーボンナノチューブ、電磁波遮蔽物質2としてカーボンブラックを用いて行った場合を例に説明する。・・・」と記載されており、本願の実施例においては、本願発明1の「電磁波の反射損失の絶対値が大きくなることに寄与する・・・電磁波遮蔽物質1」としては、「カーボンナノチューブ」が、「電磁波の透過損失の絶対値が大きくなることに寄与する・・・電磁波遮蔽物質2」が用いられるものである。
ここで、引用発明においては「1MHz~1GHzの透過損失」について規定されて反射損失については規定されていない。しかしながら、透過されなかった電磁波の全てが反射されるものではなく、一部は樹脂炭素複合材料中に吸収され反射損失が少なからず生じることは技術常識であって、引用発明においても、反射損失が少なからず生じているものと認められる。また、カーボンナノチューブ、カーボンブラックが電磁波遮蔽物質であることも技術常識である。
してみると、引用発明の「電磁波遮蔽性」「を有する樹脂炭素複合材料」における「カーボンナノチューブ」は、少なからず電磁波の反射損失の絶対値を大きくしているものと、また、「カーボンブラック」は、少なからず電磁波の透過損失の絶対値を大きくしているものと認められる。
したがって、引用発明の「カーボンナノチューブ」は、本願発明1の「電磁波の反射損失の絶対値が大きくなることに寄与する前記樹脂に含有される電磁波遮蔽物質1」に相当し、また、引用発明の「カーボンブラック」は、本願発明1の「電磁波の透過損失の絶対値が大きくなることに寄与する前記樹脂に含有される電磁波遮蔽物質2」に相当する。
ウ 引用発明の「樹脂炭素複合材料」は、「樹脂」と、「カーボンナノチューブ」と、「カーボンブラック」とを含み、「電磁波遮蔽性」「を有する」ものであるから、後記の点で相違するものの、本願発明1の「電磁波シールド材であ」る「電磁波シールド材」に対応する。
したがって、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。
〈一致点〉
「主成分となる樹脂と、
電磁波の反射損失の絶対値が大きくなることに寄与する前記樹脂に含有される電磁波遮蔽物質1と、
電磁波の透過損失の絶対値が大きくなることに寄与する前記樹脂に含有される電磁波遮蔽物質2と、
を含む、電磁波シールド材である、電磁波シールド材。」
〈相違点〉
「電磁波シールド材オレフィン系樹脂」が、本願発明1では、「前記各電磁波遮蔽物質(ただし、銀微粒子で焼結されていない)を前記樹脂に対して分散させる分散剤を含み、その厚さが2mmである場合に、75GHz~110GHzの周波数帯域全体に亘り、反射損失の絶対値が5dB以上であり、かつ、透過損失の絶対値が15dB以上である」のに対して、引用発明では、分散剤を含んでおらず、75GHz~110GHzの周波数帯域全体に亘っての反射損失の絶対値及び透過損失の絶対値は特定されていない点。
(2)相違点についての判断
本願発明は、本願の段落【0005】に「なお、本発明者らの知見に基づき、上記のような条件の数値が必要であるという根拠は、以下のとおりである。すなわち、電磁波の透過損失に着目すると、電磁波の透過損失が例えば20dBであれば、電磁波の遮蔽率は90%であるから、電磁波シールド材の第1面から入射した電磁波は、電磁波シールド材の第2面から出射する際には90%が減衰され10%となる。」と、段落【0009】に「一方、電磁波の反射損失に着目してみると、電磁波の反射損失が5dBであれば、電磁波の吸収率は50%であり、更に透過損失が20dBであれば、吸収率は90%であるから、100という電磁波のうち50%が反射されるとともに、残りの50%の電磁波のうち90%が遮蔽されるので、結果的には電磁波シールド材の出射面から出射される電磁波は5%まで低減されるとも考えられる。」と、そして、段落【0010】に「したがって、電磁波の反射損失は約5dB以上、電磁波の透過損失は約15dB以上であることが必要であるということがいえるのである。」と記載されるように、本願発明は、「75GHz~110GHzの周波数帯域全体に亘り、反射損失の絶対値が5dB以上であり、かつ、透過損失の絶対値が15dB以上」とすることで、90%以上の遮蔽を行ったものである。
一方、上記1(1)イで検討したように、引用発明においても反射損失及び透過損失のいずれもが生じているものと認められるが、「75GHz~110GHzの周波数帯域全体に亘り、反射損失の絶対値が5dB以上であり、かつ、透過損失の絶対値が15dB以上」とすることで、90%以上の遮蔽を行うことは、引用文献1ないし3には記載されておらず、また、周知の技術であったも認められない。
引用文献1には、反射損失を最適化することについては記載も示唆もされていないから、引用発明において透過損失及び反射損失の数値範囲は単なる設計的事項であるとはいえない。
したがって、本願発明1は、当業者であっても引用文献1に記載された発明、及び引用文献2、3に記載された技術事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。
2 本願発明2-7について
本願発明2-7は、本願発明1を減縮した発明であり、相違点に係る発明特定事項を含むことから、本願発明2-7は、本願発明1と同様の理由により、当業者であっても引用文献1に記載された発明及び引用文献2、3に記載された技術事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
第6 原査定についての判断
1 理由1(新規事項)について、
令和6年7月20日付けの補正により、原査定による拒絶の対象となった請求項1の
「電磁波の反射損失を50%以上低下させる分量で前記樹脂に含有される電磁波遮蔽物質1と、
電磁波の透過損失を80%以上低下させる分量で前記樹脂に含有される電磁波遮蔽物質2と」の記載は
「電磁波の反射損失の絶対値が大きくなることに寄与する前記樹脂に含有される電磁波遮蔽物質1と、
電磁波の透過損失の絶対値が大きくなることに寄与する前記樹脂に含有される電磁波遮蔽物質2と」
に補正された。
願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「当初明細書等」という。)において、明細書の段落【0042】には、「図1は、実施例1の電磁波シールド材の透過損失を示す図である。図1の横軸には周波数[GHz]を示し、図1の縦軸には透過損失[dB]を示している。図1に示すように、実施例1の電磁波シールド材は、75GHz~110GHzの周波数帯域全体に亘り、透過損失が20dB以上であることがわかる。」と、段落【0043】には、「図2は、実施例1の電磁波シールド材の反射損失を示す図である。図2の横軸には周波数[GHz]を示し、図2の縦軸には反射損失[dB]を示している。図2に示すように、実施例1の電磁波シールド材は、75GHz~110GHzの周波数帯域全体に亘り、反射損失が6dB以上であることがわかる。」と記載され、さらに、図1には、透過損失が負の値で示され-20dB以下であること、また、図2にも、反射損失が負の値で示され-6dB以下であることが記載されている。
ここで、電磁波シールドにおける損失[dB]は入射に対する反射又は透過の割合を対数で表したものであるから、負の値をとるものであるが、符号を省略して絶対値を用いて、実際の負の値としては低下するものを、絶対値として増加しているという表現を用いることが慣用的に行われている。
してみると、当初明細書等には、「透過損失」(%)及び「反射損失」(%)自体が大きくなることは記載されていないが、「透過損失[dB]」及び「反射損失[dB]」自体の絶対値が大きくなることが記載されていたものと認められる。
したがって、原査定の理由1を維持することはできない。
2 理由2(進歩性)について
本件補正により補正された請求項1-7は、上記「第5」で判断したとおり、当業者であっても引用文献1に記載された発明及び引用文献2、3に記載された技術事項に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
したがって、原査定の理由2を維持することはできない。
第6 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
なお、審判請求人より、令和6年3月19日付けで審理再開申立書が提出されたが、同申立書に記載された申立て理由をみても、審理再開の必要があるとは認められない。
よって、結論のとおり審決する。
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2023-012210