特許異議申立
2024-701167
カーボンナノチューブ及びその精製方法、カーボンナノチューブ分散液、バインダー組成物、電極用組成物、並びに二次電池
- 審判番号
- 2024-701167
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-211319
- 登録番号
- 7495475
- 請求日
- 2024年12月04日
- 審決日
- 2025年09月30日
- 公報発行日
- 2026年01月30日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】artience株式会社
- 【権利者代理人】三好 秀和
- 【権利者代理人】高橋 俊一
- 【権利者代理人】伊藤 正和
- 【異議申立人】安藤 宏
- 審判長/審判官
- 審判長 宮澤 尚之
- 審判官 増山 淳子
- 審判官 塩谷 領大
- 分類
- P1652.113-YAA(C01B) / P1652.121-YAA(C01B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第29条第1項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7495475号発明「カーボンナノチューブ及びその精製方法、カーボンナノチューブ分散液、バインダー組成物、電極用組成物、並びに二次電池」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7495475号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~10〕について訂正することを認める。
特許第7495475号の請求項1~10に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7495475号の請求項1~12に係る特許(以下、それぞれ「本件特許1」などといい、まとめて「本件特許」という。)についての出願は、令和4年12月28日に出願され、令和6年5月27日にその特許権の設定登録がされ、同年6月4日に特許掲載公報が発行された。
その後、本件特許1~10に対して、令和6年12月4日に特許異議申立人安藤宏(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、令和7年3月11日付けで取消理由が通知され、同年4月17日に特許権者により意見書及び訂正請求書の提出がされた。
なお、令和7年4月17日提出の訂正請求書に対して、申立人に期間を指定して意見書を提出する機会を設けたが、指定期間内に意見書は提出されなかった。
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
令和7年4月17日付けの訂正請求書における訂正の請求(以下、「本件訂正請求」といい、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。)は、特許法第120条の5第4項の規定に従い、一群の請求項を構成する請求項〔1~10〕を訂正の単位として訂正することを求めるものであり、その内容(訂正事項)は、次のとおりである(訂正箇所に下線を付した。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「 下記(1)~(3)を満たし、多層カーボンナノチューブを含むカーボンナノチューブ。
(1)200℃から1000℃まで10℃/分で昇温した際の示差熱分析において、600℃以上800℃以下に発熱ピークを有する。
(2)ラマンスペクトルにおいて1560~1600cm-1の範囲内での最大ピーク強度をG、1310~1350cm-1の範囲内での最大ピーク強度をDとした際にG/D比が、0.5以上3.0以下である。
(3)コバルト、鉄、銅、亜鉛、ニッケル、クロム、マンガン及びモリブデンの総含有量が5000ppm以下である。」
と記載されているのを、
「 下記(1)~(3)を満たし、多層カーボンナノチューブを含むカーボンナノチューブ。
(1)200℃から1000℃まで10℃/分で昇温した際の示差熱分析において、600℃以上800℃以下に発熱ピークを有する。
(2)ラマンスペクトルにおいて1560~1600cm-1の範囲内での最大ピーク強度をG、1310~1350cm-1の範囲内での最大ピーク強度をDとした際にG/D比が、0.5以上1.5以下である。
(3)コバルト、鉄、銅、亜鉛、ニッケル、クロム、マンガン及びモリブデンの総含有量が5000ppm以下である。」
に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2~10も同様に訂正する。)。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項6に
「 前記カーボンナノチューブは、ラマンスペクトルにおいて1560~1600cm-1の範囲内での最大ピーク強度をG、1310~1350cm-1の範囲内での最大ピーク強度をDとした際にG/D比が、0.5以上2.5以下である、請求項1に記載のカーボンナノチューブ。」
と記載されているのを、
「 前記カーボンナノチューブは、ラマンスペクトルにおいて1560~1600cm-1の範囲内での最大ピーク強度をG、1310~1350cm-1の範囲内での最大ピーク強度をDとした際にG/D比が、0.5以上1.3以下である、請求項1に記載のカーボンナノチューブ。」
に訂正する(請求項6の記載を引用する請求項7~10も同様に訂正する。)。
2 訂正要件(訂正の目的の適否、新規事項の追加の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について)の判断
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、本件特許の願書に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、それぞれを「本件明細書」などといい、まとめて「本件明細書等」という。)の【0025】の「CNTは、ラマンスペクトルにおいて1560~1600cm-1の範囲内での最大ピーク強度をG、1310~1350cm-1の範囲内での最大ピーク強度をDとした際に、G/D比が、0.5以上3.0以下であり、0.5以上2.5以下であることがより好ましく、0.5以上2.0以下であることがさらに好ましく、0.5以上1.5以下であることが特に好ましく、0.5以上1.3以下が一層好ましい。」との記載に基づき、「カーボンナノチューブ」の「ラマンスペクトルにおいて1560~1600cm-1の範囲内での最大ピーク強度をG、1310~1350cm-1の範囲内での最大ピーク強度をDとした際」の「G/D比」をさらに限定するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、上記(1)での検討と同様に、本件明細書等の【0025】の記載に基づき、「カーボンナノチューブ」の「ラマンスペクトルにおいて1560~1600cm-1の範囲内での最大ピーク強度をG、1310~1350cm-1の範囲内での最大ピーク強度をDとした際」の「G/D比」をさらに限定するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~10〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
前記第2のとおり、本件訂正請求は適法にされたものであるから、本件特許の請求項1~10に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」などといい、まとめて「本件発明」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~10に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
下記(1)~(3)を満たし、多層カーボンナノチューブを含むカーボンナノチューブ。
(1)200℃から1000℃まで10℃/分で昇温した際の示差熱分析において、600℃以上800℃以下に発熱ピークを有する。
(2)ラマンスペクトルにおいて1560~1600cm-1の範囲内での最大ピーク強度をG、1310~1350cm-1の範囲内での最大ピーク強度をDとした際にG/D比が、0.5以上1.5以下である。
(3)コバルト、鉄、銅、亜鉛、ニッケル、クロム、マンガン及びモリブデンの総含有量が5000ppm以下である。
【請求項2】
下記(4)を満たす請求項1に記載のカーボンナノチューブ。
(4)表面酸素量が、2.5atm%以下である。
【請求項3】
前記カーボンナノチューブは、(i)コバルト及び鉄の総含有量が5000ppm以下をさらに満たす、請求項1に記載のカーボンナノチューブ。
【請求項4】
前記カーボンナノチューブは、(ii)コバルト及び鉄の総含有量が1000ppm以下をさらに満たす、請求項3に記載のカーボンナノチューブ。
【請求項5】
前記カーボンナノチューブは、コバルト、鉄、銅、亜鉛、ニッケル、クロム、マンガン及びモリブデンの総含有量が830ppm以下である、請求項1に記載のカーボンナノチューブ。
【請求項6】
前記カーボンナノチューブは、ラマンスペクトルにおいて1560~1600cm-1の範囲内での最大ピーク強度をG、1310~1350cm-1の範囲内での最大ピーク強度をDとした際にG/D比が、0.5以上1.3以下である、請求項1に記載のカーボンナノチューブ。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブと、分散剤と、分散媒とを含むカーボンナノチューブ分散液。
【請求項8】
カーボンナノチューブ分散液と、バインダーとを含み、
前記カーボンナノチューブ分散液は、請求項1から6のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブと、分散剤と、分散媒とを含む、バインダー組成物。
【請求項9】
カーボンナノチューブ分散液と、電極活物質とを含み、
前記カーボンナノチューブ分散液は、請求項1から6のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブと、分散剤と、分散媒とを含む、電極用組成物。
【請求項10】
電極膜を含み、前記電極膜は、
請求項1から6のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブと、分散剤と、分散媒とを含むカーボンナノチューブ分散液、
前記カーボンナノチューブ分散液とバインダーとを含むバインダー組成物、又は
前記カーボンナノチューブ分散液と電極活物質とを含む電極用組成物を用いて得られる、二次電池。」
第4 特許異議申立理由、取消理由の概要
1 特許異議申立理由の概要
申立人が主張する特許異議申立理由は、概略、以下の(1)、(2)のとおりである。
ここで、申立人が提出した証拠方法は、次のものである。
甲第1号証:HUANG Wei et al., 99.9% purity multi-walled carbon nanotubes by vacuum high-temperature annealing, Carbon, 2003年09月24日, 掲載日, Vol.41, P. 2585-2590
甲第2号証:I SRIKANTH et al., Effect of high-temperature heat treatment duration on the purity and microstructure of MWCNTs, Bullletin of materials Science, 2016年2月, 掲載日, Vol.39, No.1, P.41-46
甲第3号証:特表2022-529987号公報
甲第4号証:島津アプリケーションニュース 熱分析 No.T137, 「熱重量測定によるCNTの純度と耐熱性の評価」, 2005年3月発行、[online]、取得先<URL:https://www.an.shimadzu.co.jp/sites/an.shimadzu.co.jp/files/pim/pim_document_file/an_jp/applications/application_note/18907/an_t137.pdf>
甲第5号証:MATTHEWS M. J. et al., Origin of dispersive effects of the Raman D band in carbon materials, PHYSICAL REVIEW B, 1999年3月1日, 掲載日, Vol.59, No.10, P.R6585-R6588
甲第6号証:「長尺多層カーボンナノチューブの研究」, 高圧ガス工業株式会社、[online]、取得先<URL:https://www.koatsugas.co.jp/rd/cnt/>
甲第7号証:国際公開第2013/133292号
(1)申立理由1(新規性欠如、進歩性欠如)
ア 設定登録時の請求項1~6に係る発明は、甲第1号証に記載された発明である、又は甲第1号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
イ 設定登録時の請求項7~10に係る発明は、甲第1号証に記載された事項及び甲第3号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(2)申立理由2(新規性欠如、進歩性欠如)
ア 設定登録時の請求項1~6に係る発明は、甲第2号証に記載された発明である、又は甲第2号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
イ 設定登録時の請求項7~10に係る発明は、甲第2号証に記載された事項及び甲第3号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
2 取消理由の概要
令和7年3月11日付けで通知した取消理由は、要するに、以下の(1)、(2)に示した取消理由である。
(1)取消理由1(新規性欠如、進歩性欠如)
ア 設定登録時の請求項1~6に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、その特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。また、設定登録時の請求項1~6に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
イ 設定登録時の請求項7~10に係る発明は、甲第1号証に記載された発明、及び甲第3号証に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(2)取消理由2(新規性欠如、進歩性欠如)
ア 設定登録時の請求項1~6に係る発明は、甲第2号証に記載された発明であるから、その特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。また、設定登録時の請求項1~6に係る発明は、甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
イ 設定登録時の請求項7~10に係る発明は、甲第2号証に記載された発明、及び甲第3号証に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
第5 各証拠について
1 甲第1号証について
甲第1号証には、次の事項が記載されている。なお、甲第1号証の記載は英語であるが、ここでは当審訳で示す。
(1)「超高純度の多層カーボンナノチューブを得た。これは触媒化学蒸着法によって製造され、その後、真空圧力10-3Paから10Pa、温度1500℃から2150℃の範囲でアニールした。比較のために酸処理も行った。SEM、TEM、エネルギー分散型スペクトルを用いて試料を特性評価した。純度は示差熱分析法によって評価した。ラマン分光法の結果も報告している。高温真空プロセスは、残留金属触媒や金属酸化物キャリアを効率的に除去し、多層カーボンナノチューブのグラファイト化を促進した。作製された多層カーボンナノチューブの最高純度は約99.9%であった。この手法は、カーボンナノチューブの非破壊的で商業的に実行可能な精製方法を提供する。」(Abstract欄)
(2)「本研究では、示差熱分析法を使用して、金属及び金属酸化物の含有量の観点から、MWNTの純度を推定した。」(3.2 Analysis of MWNT purity欄(2588頁左欄第12行~第14行))
(3)「
[図:0001431135000001.jpg]
」(Fig.4、2588頁)
(4)「黒鉛結晶構造は1580cm-1に特徴的なピークを有するが、多結晶または非結晶炭素材料は1360cm-1に異なるピークを有している。」(3.3 Raman analysis欄(2589頁左欄第39行~第41行))
(5)「
[図:0001431135000002.jpg]
」(Fig.5、2589頁)
2 甲第2号証について
甲第2号証には、次の事項が記載されている。なお、甲第2号証の記載は英語であるが、ここでは当審訳で示す。
(1)「高温熱処理が多層カーボンナノチューブ(MWCNT)の純度及び構造変化に与える影響を調査するために、原料MWCNTを2600℃で60分及び120分加熱した。示差熱分析法、X線回析、ラマン分光法、TEM、SEMを用いて、熱処理時間がMWCNTの純度及び構造変化に与える影響を研究した。結果は、高温熱処理が適切な処理温度の最適化によりMWCNTを精製するために使用できることを示した。60分の熱処理はMWCNTに高い純度と構造的完全性を与える一方で、120分の熱処理はMWCNTの構造的劣化を引き起こし、最内層のシェルが崩壊することが観察された。本研究は、金属不純物がMWCNTの劣化を一定の期間まで制御する調整因子として機能し、金属不純物が完全に逃げた後は、さらなる熱処理がMWCNTの構造を劣化させることを示している。」(Abstract欄)
(2)「約200gのMWCNTを1000mlの容量を持つグラファイト坩堝に充填した。グラファイト坩堝は高温炉に置かれ、窒素雰囲気下で2600℃まで加熱された。・・・炉の温度が2600℃に達すると、炉の温度が保持された。MWCNTは60分及び120分の異なる時間で加熱された。・・・炉が室温まで冷却された後、MWCNTのサンプルを収集し、MWCNTの純度を示差熱分析法により測定した。示差熱分析法は、室温から850℃までの加熱速度10℃/分で、圧縮空気流下で行った。」(3.Experimental欄(43頁左欄第12行~右欄第13行))
(3)「60分熱処理されたMWCNTのTGAパターンからは、残留重量が基準値に低下していることがわかる。これは金属不純物が存在しないことを示している。」(4.Results and discussion欄(43頁右欄第33行~44頁左欄第3行))
(4)「
[図:0001431135000003.jpg]
」(Fig.2、43頁)
(5)「
[図:0001431135000004.jpg]
」(Fig.3、44頁)
(6)「
[図:0001431135000005.jpg]
」(table3、46頁)
3 甲第3号証について
甲第3号証には、次の事項が記載されている。
「【0046】
電極の製造方法
次に、本発明の電極の製造方法について説明する。
本発明の電極の製造方法は、多層カーボンナノチューブ単位体分散液およびカーボンナノチューブ構造体分散液を準備するステップ(S1)と、前記多層カーボンナノチューブ単位体分散液、前記カーボンナノチューブ構造体分散液、および電極活物質を含む電極スラリーを形成するステップ(S2)と、を含むことができる。
・・・
【0048】
2)カーボンナノチューブ構造体分散液の準備
前記カーボンナノチューブ構造体分散液の準備は、分散媒、分散剤、および束型単層カーボンナノチューブ(単層カーボンナノチューブ単位体の結合体~凝集体)が含まれた混合液を準備するステップ(S1-1)と、前記混合液に剪断力を加えて、前記束型単層カーボンナノチューブを分散させて2個~5,000個の単層カーボンナノチューブ単位体が並んで結合されたカーボンナノチューブ構造体を形成するステップ(S1-2)と、を含むことができる。
・・・
【0062】
(2)前記多層カーボンナノチューブ単位体分散液、前記カーボンナノチューブ構造体分散液、および電極活物質を含む電極スラリーを形成するステップ(S2)
上記のような過程を通じて、多層カーボンナノチューブ単位体分散液およびカーボンナノチューブ構造体分散液が製造されると、前記分散液と電極活物質とを含む電極スラリーを形成する。この際、前記電極活物質としては、上述した電極活物質が用いられてもよい。
【0063】
この際、電極活物質を前記カーボンナノチューブ構造体分散液と先に混合し、その後、多層カーボンナノチューブ単位体分散液を追加することができる。
・・・
【0064】
また、前記電極スラリーには、必要に応じて、バインダーおよび溶媒がさらに含まれてもよい。
・・・
【0065】
次に、上記のように製造された電極スラリーを乾燥させて電極活物質層を形成する。具体的には、前記電極活物質層は、電極集電体上に電極スラリーを塗布した後に乾燥する方法、または電極スラリーを別の支持体上に塗布した後、該支持体から剥離して得たフィルムを集電体上にラミネートするは方法を通じて形成することができる。必要に応じて、上記のような方法を通じて電極活物質層を形成した後、圧延する工程をさらに施すことができる。この際、乾燥および圧延を最終的に製造しようとする電極の物性を考慮して適切な条件で行ってもよく、特に限定されない。
【0066】
二次電池
本発明のまた他の実施形態に係る二次電池は、負極、正極、前記正極と負極との間に介在したセパレータ、および電解質を含んでもよく、前記正極および前記負極のうち少なくとも何れか1つは上述した他の実施形態の電極であってもよい。より具体的には、上述した他の実施形態の電極は、本実施形態の正極であってもよい。」
4 甲第4号証について
甲第4号証には、次の事項が記載されている。
「■DTG-60によるCNT(SWNT)の測定
Measurement of CNT(SWNT) by DTG-60
DTG-60(上皿式天秤)は質量変化とともに示差熱分析(DTA)を同時に測定できる装置です。Fig.3にアーク放電法により得られたSWNT(単層カーボンナノチューブ)を測定した結果を示します。
TGでは500℃付近よりCNT(SWNT)の燃焼による質量減少が見られます。DTA曲線では682.7℃にCNT(SWNT)の燃焼による発熱ピークが見られますが、それより低い322℃にも発熱ピークが見られます。これはアモルファスカーボンの燃焼によると考えられます。DTAの2つのピークに対応する2段の重量減少率より、アモルファスカーボンとCNT(SWNT)の比率を求めることが可能です。
[図:0001431135000006.jpg]
」(第1頁第17行~第30行)
5 甲第5号証について
甲第5号証には、次の事項が記載されている。なお、甲第5号証の記載は英語であるが、ここでは当審訳で示す。
(1)「このいわゆる無秩序誘起バンド(Dバンドともいう)は、レーザー励起波長(λL)488nmの場合、約1350cm-1で発生し、その強度(ID)はグラファイト粒子のサイズに反比例する。任意のλLについて、強度IDを定量的にラマン散乱が可能なE2g2モード(IG)の強度と比較し、面内結晶子サイズLaを算出することができる。Vidanoらは、レーザー励起エネルギーεLまたは波長λLを変えることで、さまざまな種類の炭素材料のラマンスペクトルを系統的に調査し、εLの増加に伴い、このDバンドの周波数が急速に上昇することを観察した。」(R6585頁左欄第4行~第15行)
(2)「D及びG‘ラマンバンドのレーザーエネルギー依存性は、グラフェンカーボンブラック、水素化アモルファスカーボン、ガラス状炭素および結晶性グラファイト、多成分炭素膜、カーボンナノチューブなど、さまざまな種類の炭素材料でも同様に見られることが分かっている。実際、これらの特徴は、縮合芳香族構造を含むすべての種類の炭素材料に共通している」(R6585頁左欄下から第7行~最終行)
(3)
「
[図:0001431135000007.jpg]
」(R6586頁左欄)
(4)「E2g2のグラファイトバンドの1580cm-1(Gバンド)の位置はレーザーエネルギーεLに依存しないが、1350cm-1付近のDバンドのピーク周波数はレーザーエネルギーの増加とともに増加する。」(R6586頁左欄下から第6行~下から第2行)
6 甲第6号証について
甲第6号証には、次の事項が記載されている。
「
[図:0001431135000008.jpg]
」
7 甲第7号証について
甲第7号証には、次の事項が記載されている。
(1)「[0309]参考例1-1(表面処理していないカーボンナノチューブ)
原料であるカーボンナノチューブAをそのまま使用した。」
(2)「[0323]
[表4]
[図:0001431135000009.jpg]
」
第6 新規性・進歩性欠如(取消理由1、2、申立理由1、2)についての当審の判断
1 甲第1号証を主たる証拠とした新規性・進歩性欠如について
(1)甲第1号証に記載された発明
甲第1号証には、上記第5の1(3)によれば、サンプル番号6の多層カーボンナノチューブは、示差熱分析法により得られた曲線の傾きが最大となる温度が650℃以上720℃以下であると見てとれる(Fig.4)。
また、甲第1号証には、上記第5の1(4)、(5)によれば、ラマンスペクトルにおいて1580cm-1のピークと1360cm-1のピークを有し(2589頁左欄第39行~第41行)、サンプル番号6のI1360/I1580の値が0.4程度、すなわちI1580/I1360比が2.5程度であることが見てとれる(Fig.5(b))。
また、甲第1号証には、上記第5の1(3)によれば、サンプル番号6の多層カーボンナノチューブは、熱処理後の残滓が0.0wt%、すなわち、金属および金属酸化物の残滓が0.0wt%であることが記載されている(Fig.4)
これらの記載をサンプル番号6の「多層カーボンナノチューブ」に着目して整理すると、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
〔甲1発明〕
「示差熱分析法により得られた曲線の傾きが最大となる温度が650℃以上720℃以下であり、ラマンスペクトルにおいて1580cm-1におけるピーク強度をI1580、1360cm-1におけるピーク強度をI1360とした際に、I1580/I1360比が2.5程度であり、金属および金属酸化物の残滓が0.0wt%である、多層カーボンナノチューブ。」
(2)本件発明1について
ア 本件発明1と甲1発明との対比
(ア)甲第1号証には、示差熱分析法の具体的な昇温速度、昇温範囲について記載されておらず、示差熱分析法において昇温速度の違いは、分析結果の精度に一定の影響があるとは認められるものの、昇温速度が異なることによって、全く異なる分析結果が得られるとは認められない。したがって、甲1発明の多層カーボンナノチューブにおいて「示差熱分析法により得られた曲線の傾きが最大となる温度が650℃以上720℃以下であり」との構成は、本件発明1の「(1)200℃から1000℃まで10℃/分で昇温した際の示差熱分析において、600℃以上800℃以下に発熱ピークを有する」に相当する。
(イ)甲1発明の「多層カーボンナノチューブ」は、本件発明1の「多層カーボンナノチューブを含むカーボンナノチューブ」に相当する。
(ウ)したがって、本件発明1と甲1発明とは、「下記(1)」「を満たし、多層カーボンナノチューブを含むカーボンナノチューブ。(1)200℃から1000℃まで10℃/分で昇温した際の示差熱分析において、600℃以上800℃以下に発熱ピークを有する。」の点で一致し、本件発明1のカーボンナノチューブは「(2)ラマンスペクトルにおいて1560~1600cm-1の範囲内での最大ピーク強度をG、1310~1350cm-1の範囲内での最大ピーク強度をDとした際にG/D比が、0.5以上1.5以下」であるのに対し、甲1発明は、「ラマンスペクトルにおいて1580cm-1におけるピーク強度をI1580、1360cm-1におけるピーク強度をI1360とした際に、I1580/I1360比が2.5程度」である点(以下、「相違点1」という。)で相違し、また、本件発明1のカーボンナノチューブは「(3)コバルト、鉄、銅、亜鉛、ニッケル、クロム、マンガン及びモリブデンの総含有量が5000ppm以下」であるのに対し、甲1発明は「金属および金属酸化物の残滓が0.0wt%」である点(以下、「相違点2」という。)で相違する。
イ 相違点についての判断
相違点1について検討する。
(ア)上記(1)で検討したとおり、甲第1号証には、サンプル番号6のI1360/I1580の値が0.4程度、すなわちI1580/I1360比が2.5程度であることが見てとれるものの、この値は、本件発明1の「ラマンスペクトルにおいて1560~1600cm-1の範囲内での最大ピーク強度をG、1310~1350cm-1の範囲内での最大ピーク強度をDとした際にG/D比が、0.5以上1.5以下」の範囲外である。
したがって、相違点2は、実質的な相違点である。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明ではない。
(イ)甲1発明のラマンスペクトルにおいて、I1580/I1360比は、2.5程度であり、甲第1号証において、サンプル番号6のI1580/I1360比の値を「0.5以上1.5以下」にすることは記載も示唆もされていない。
また、甲第2号証~甲第7号証の記載を踏まえても、甲第1号証のサンプル番号6のI1580/I1360比を調整し、「0.5以上1.5以下」とすることは、記載も示唆もされていない。
したがって、甲1発明のラマンスペクトルにおいて「1580cm-1におけるピーク強度をI1580、1360cm-1におけるピーク強度をI1360とした際に、I1580/I1360比」を「0.5以上1.5以下」とすること、すなわち、相違点1に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明に基づいて、又は甲1発明及び甲第2号証~甲第7号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)本件発明2~10について
本件発明2~10は、本件発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、上記(2)と事情は同じである。
したがって、本件発明2~10は、甲第1号証に記載された発明でなく、また、甲第1号証に記載されている発明、及び甲第2号証~甲第7号証に記載されている事項に基づき当業者が容易に想到し得た発明ではない。
2 甲第2号証を主たる証拠とした新規性・進歩性欠如について
(1)甲第2号証に記載された発明
甲第2号証には、上記第5の2(4)によれば、精製された多層カーボンナノチューブは、示差熱分析法により得られた曲線の傾きが最大となる温度が700℃以上800℃以下であると見てとれる(Fig.2)。
また、甲第2号証には、上記第5の2(6)によれば、ラマンスペクトルにおいてGバンドである1564cm-1のピークとDバンドである1321cm-1のピークを有し(Table3)、ID/IGの値が0.692と記載されており、当該記載からIG/ID比は1.45であると認められる(Fig.5(b))。
また、甲第2号証には、上記第5の2(3)によれば、60分熱処理されたMWCNTのTGAパターンから、金属不純物が存在しないと記載されていることから、多層カーボンナノチューブは金属を含有しないものと認められる。
これらの記載を「多層カーボンナノチューブ」に着目して整理すると、次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
〔甲2発明〕
「示差熱分析法により得られた曲線の傾きが最大となる温度が700℃以上800℃以下であり、ラマンスペクトルにおいて1564cm-1におけるピーク強度をIG、1321cm-1におけるピーク強度をIDとした場合のIG/ID比が1.45であり、金属を含有しない、多層カーボンナノチューブ。」
(2)本件発明1について
ア 本件発明1と甲2発明との対比
(ア)甲第2号証には、上記第5の2(2)によると、示差熱分析法において、室温から850℃まで、加熱速度10℃/分で実施することが記載されている。しかしながら、示差熱分析法において昇温の温度範囲の違いは、分析結果の精度に一定の影響があるとは認められるものの、昇温の温度範囲が異なることによって、全く異なる分析結果が得られるとは認められない。したがって、甲2発明の多層カーボンナノチューブにおいて「示差熱分析法により得られた曲線の傾きが最大となる温度が700℃以上800℃以下であり」との構成は、本件発明1の「(1)200℃から1000℃まで10℃/分で昇温した際の示差熱分析において、600℃以上800℃以下に発熱ピークを有する」に相当する。
(イ)甲2発明の「ラマンスペクトルにおいて1564cm-1におけるピーク強度をIG、1321cm-1におけるピーク強度をIDとした場合のIG/ID比が1.45であり」は、本件発明1の「(2)ラマンスペクトルにおいて1560~1600cm-1の範囲内での最大ピーク強度をG、1310~1350cm-1の範囲内での最大ピーク強度をDとした際にG/D比が、0.5以上1.5以下である」に相当する。
(ウ)甲2発明の「多層カーボンナノチューブ」は、本件発明1の「多層カーボンナノチューブを含むカーボンナノチューブ」に相当する。
(エ)したがって、本件発明1と甲2発明とは、「下記(1)」、(2)「を満たし、多層カーボンナノチューブを含むカーボンナノチューブ。(1)200℃から1000℃まで10℃/分で昇温した際の示差熱分析において、600℃以上800℃以下に発熱ピークを有する。(2)ラマンスペクトルにおいて1560~1600cm-1の範囲内での最大ピーク強度をG、1310~1350cm-1の範囲内での最大ピーク強度をDとした際にG/D比が、0.5以上1.5以下である。」の点で一致し、本件発明1のカーボンナノチューブは、「(3)コバルト、鉄、銅、亜鉛、ニッケル、クロム、マンガン及びモリブデンの総含有量が5000ppm以下」であるのに対し、甲2発明は「金属を含有しない」点(以下、「相違点3」という。)で相違する。
イ 相違点についての判断
相違点3について検討する。
(ア)本件明細書等の【0027】には、金属の総含有量について、「<(3)金属総含有量>本実施形態のCNTは、コバルト、鉄、銅、亜鉛、ニッケル、クロム、マンガン及びモリブデンの総含有量が5000ppm以下であることが好ましく」と記載されており、その測定方法として、【0033】には、「CNTに含まれる金属の含有量は、例えば、CNTを酸分解し、CNTに含まれる金属を抽出して、抽出物を高周波誘導結合プラズマ(Inductively Coupled Plasma、ICP)を用いて分析することにより算出することができる。CNTに含まれるコバルト、鉄、銅、亜鉛、ニッケル、クロム、マンガン及びモリブデンの総含有量は、金属抽出前のCNTの質量に対し、抽出されたコバルト、鉄、銅、亜鉛、ニッケル、クロム、マンガン及びモリブデンの総含有量の質量割合(ppm)で表す。ここで、コバルト、鉄、銅、亜鉛、ニッケル、クロム、マンガン及びモリブデンの総含有量は、それぞれの金属について金属単体に換算した場合の質量を求め、その合計量とする。」と記載されている。
つまり、本件発明1の「(3)コバルト、鉄、銅、亜鉛、ニッケル、クロム、マンガン及びモリブデンの総含有量が5000ppm以下」は、高周波誘導結合プラズマを用いて分析することにより算出することで測定されたものといえる。
一方、甲2発明の「金属を含有しない」は、上記(1)で検討したとおり、甲第2号証には、金属不純物が存在しないことをMWCNTのTGAパターンから読み取っているものである。
よって、本件発明1と甲2発明とでは、カーボンナノチューブにおける金属の含有量の測定方法が異なるものである。
そして、第5の2(5)によると、甲第2号証には、120分間熱処理したMWCNTのTGAパターンが記載されており、このTGAパターンから、加熱後の残渣が一定程度存在しているものと見て取れるところ、通常120分間熱処理したMWCNTに残渣が存在する場合、60分間熱処理したMWCNTも同様に残渣が存在しないものとはいえず、甲2発明の「金属を含有しない」との構成は、金属を全く含有しないものではなく、TGAパターンにおける測定限度の下限付近である蓋然性が高い。
加えて、甲第2号証のMWCNTを高周波誘導結合プラズマ(Inductively Coupled Plasma、ICP)を用いて分析した場合に、「(3)コバルト、鉄、銅、亜鉛、ニッケル、クロム、マンガン及びモリブデンの総含有量が5000ppm以下」との構成を満たしていることを示す証拠もない。
したがって、相違点3は、実質的な相違点である。
よって、本件発明1は、甲2発明ではない。
(イ)甲2発明の金属不純物について、甲第2号証には、「コバルト、鉄、銅、亜鉛、ニッケル、クロム、マンガン及びモリブデンの総含有量が5000ppm以下にする」ことは記載も示唆もされていない。
また甲第1号証、甲第3号証~甲第7号証の記載を踏まえても、甲第2号証の60分熱処理されたMWCNTの金属不純物について、「コバルト、鉄、銅、亜鉛、ニッケル、クロム、マンガン及びモリブデンの総含有量が5000ppm以下にする」とすることは、記載も示唆もされていない。
したがって、甲2発明の金属不純物において「コバルト、鉄、銅、亜鉛、ニッケル、クロム、マンガン及びモリブデンの総含有量が5000ppm以下にする」とすること、すなわち、相違点3に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
よって、本件発明1は、甲2発明に基づいて、又は甲2発明及び甲第1号証、甲第3号証~甲第7号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)本件発明2~10について
本件発明2~10は、本件発明1の発明特定事項を全て含むから、上記(2)と事情は同じである。
したがって、本件発明2~10は、甲第2号証に記載された発明でなく、また、甲第2号証に記載されている発明、及び甲第1号証、甲第3号証~甲第7号証に記載されている事項に基づき当業者が容易に想到し得た発明ではない。
3 新規性・進歩性(取消理由1、2、申立理由1、2)についてのまとめ
以上のとおりであるから、取消理由1、2、申立理由1、2に理由はない。
第7 むすび
以上のとおりであるから、本件特許1~10は、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由、及び、取消理由通知書に記載した取消理由によっては、取り消すことができない。
また、他に本件特許1~10を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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