特許異議申立
2023-700216
熱膨張性マイクロカプセル、発泡用樹脂組成物及び発泡体
- 審判番号
- 2023-700216
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-015011
- 登録番号
- 7128372
- 請求日
- 2023年02月24日
- 審決日
- 2023年09月06日
- 公報発行日
- 2023年10月27日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】積水化学工業株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人WisePlus
- 【異議申立人】彦野 友子
- 審判長/審判官
- 審判長 門前 浩一
- 審判官 塩見 篤史
- 審判官 瀬下 浩一
- 分類
- P1651.113-Y (B01J) / P1651.121-Y (B01J) / P1651.536-Y (B01J) / P1651.537-Y (B01J)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7128372号発明「熱膨張性マイクロカプセル、発泡用樹脂組成物及び発泡体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7128372号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。
理由
理 由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7128372号の請求項1~8に係る特許についての出願は、令和4年2月2日(優先権主張 令和4年1月21日)の出願であって、令和4年8月22日に特許権の設定登録(請求項の数8)がされ、同年同月30日に特許掲載公報が発行された。その後、令和5年2月24日に特許異議申立人である彦野 友子(以下「申立人」という。)により、請求項1~8に係る特許について異議申立てがなされたものである。
第2 本件発明及び明細書の記載
1 本件特許の請求項1~8に係る発明(以下「本件発明1」~「本件発明8」といい、まとめて、「本件発明」ともいう。)は、その特許請求の範囲の請求項1~8に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
重合体からなるシェルに、コア剤として揮発性膨張剤が内包された熱膨張性マイクロカプセルであって、
前記シェルは、カルボニル基含有モノマーを含有するモノマー組成物を重合させてなる重合体、及び、二酸化ケイ素を含み、
温度70℃で1時間静置した際の揮発分が0.55重量%以上、2重量%以下である、熱膨張性マイクロカプセル。
【請求項2】
温度210℃で20分間静置した際の揮発分が20重量%以上、30重量%以下である、請求項1に記載の熱膨張性マイクロカプセル。
【請求項3】
温度210℃で20分間静置した際の揮発分に対する温度70℃で1時間静置した際の揮発分の比率が8%以下である、請求項1又は2に記載の熱膨張性マイクロカプセル。
【請求項4】
温度50℃、湿度80%以上で12時間静置した際の重量増加率が60重量%以下である、請求項1~3のいずれかに記載の熱膨張性マイクロカプセル。
【請求項5】
平均粒子径が10μm以上、45μm以下である、請求項1~4のいずれかに記載の熱膨張性マイクロカプセル。
【請求項6】
最大発泡温度(Tmax)が180℃以上、225℃以下である、請求項1~5のいずれかに記載の熱膨張性マイクロカプセル。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載の熱膨張性マイクロカプセル及び熱可塑性樹脂を含有する、発泡性樹脂組成物。
【請求項8】
請求項7に記載の発泡性樹脂組成物を用いて得られる、発泡体。」
2 本件特許明細書には次の記載がある。
「【0006】
本発明は、発泡倍率が高く、軽量かつ外観に優れる成形体を製造することが可能な熱膨張性マイクロカプセル、及び、該熱膨張性マイクロカプセルを用いた発泡用樹脂組成物及び発泡体を提供することを目的とする。」
「【0010】
本発明では、熱膨張性マイクロカプセルの成分を調整することや、熱膨張性マイクロカプセルを製造する際の反応工程、洗浄工程、乾燥工程を調整することにより、温度70℃で1時間静置した際の揮発分、後述する温度210℃で20分間静置した際の揮発分、揮発分の比率、重量増加率を制御することができる。」
「【0022】
上記カルボニル基含有モノマーとしては、上記炭素数が3~8のラジカル重合性不飽和カルボン酸モノマー、炭素数が3~8のラジカル重合性不飽和カルボン酸エステルモノマー、多官能性カルボン酸エステルモノマー等が挙げられる。」
「【0040】
上記二酸化ケイ素を含有する分散安定剤としては、コロイダルシリカが挙げられる。
上記コロイダルシリカとしては、コロイド溶液(水分散液)のpHが7を超えるアルカリ性コロイダルシリカを用いてもよく、pHが7未満の酸性コロイダルシリカを用いてもよい。なかでも、アルカリ性コロイダルシリカがより好ましい。
また、上記コロイダルシリカとしては、固形分としての二酸化ケイ素を10~50重量%含有し、単分散であることが好ましい。」
「【0066】
(実施例1)
(熱膨張性マイクロカプセルの作製)
固形分20重量%のコロイダルシリカ330重量部(平均粒子径20nm)、ポリビニルピロリドン12重量部、塩化ナトリウム1096重量部、亜硝酸ナトリウム0.85重量部をイオン交換水3300重量部に加え混合した後、水系分散媒体を調製した。なお、コロイダルシリカ(水分散液)としては、アルカリ性コロイダルシリカを用いた。
アクリロニトリル390重量部(28重量%)、メタクリロニトリル585重量部(42重量%)、メタクリル酸420重量部(29.9重量%)、メタクリル酸メチル1.4重量部(0.1重量%)を混合して均一溶液のモノマー組成物(括弧内はモノマー組成物全体に対する重量%)とした。これに2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)11.1重量部、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)8.3重量部、nペンタン440重量部を添加してタンク1の中に仕込み混合した。
次いで、水系分散媒体をタンク2の中に仕込み、タンク1の油性混合物をタンク2に投入、混合し一次分散液を得た。この時、一次分散液のpHは3.5~4.0となる。得られた一次分散液を静的管内混合器(スタティックミキサー、株式会社フジキン社製、分散君)を用いて、流速が200L/min、圧力1.5MPaで通過させた。通過した液はオートクレーブ中に仕込んだ。
なお、使用したエレメント式静止型分散器は、板状エレメントが厚さ5mm、有効直径15mm、板状エレメントの孔径2mmで杵状の形状をしており、隣り合う異なる種類の板状エレメントの間で少なくとも一部が対向することができる孔数が78個のものを使用した。そして、第1エレメントと第2エレメントの組合せで構成されるユニットの数は10組で各板状エレメントの孔を通過する流体となるようにセットした。
その後、窒素置換し、反応温度60℃で15時間反応させた。反応圧力は0.5MPa、攪拌は200rpmで行った。
その後、得られた重合スラリー8000Lを圧搾脱水装置(石垣社製、フィルタープレス)に分割して供給し、脱水した後に洗浄水の所定量を脱水機に供給し、洗浄工程を行い、乾燥前熱膨張性マイクロカプセルを得た。なお、洗浄工程は、重合スラリー300Lに対して、1000Lの洗浄水を用いて洗浄を行った。
【0067】
得られた乾燥前熱膨張性マイクロカプセルについて、加熱真空振動乾燥機(中央化工機社製、VU型)を用いて真空乾燥(総乾燥時間:12.5時間、真空値:-0.085MPa)を行うことにより、熱膨張性マイクロカプセルを得た。
真空乾燥について、具体的には、設定温度45、50、55℃で5.5時間乾燥(第1乾燥工程)を行い、(いずれも10℃/hrで昇温)その後、設定温度60、65℃で1.5時間乾燥(第2乾燥工程)を行った。(いずれも10℃/hrで昇温)次いで、5℃/hrで昇温した後、設定温度70℃、乾燥温度(初期)43℃、乾燥温度(終了時)60℃で5.5時間乾燥(第3乾燥工程)を行った。なお、設定温度とは乾燥機のジャケット設定温度、乾燥時間とは実際の乾燥時間のことをいう。各設定温度での乾燥温度、時間を表2及び表3に示す。
【0068】
(発泡体前駆体の製造)
表1に示す配合にてヘンシェルミキサー(120℃でドライアップ)を用いて混合を行い、発泡性樹脂組成物を得た。
得られた発泡性樹脂組成物300gを8インチのラボロール機にて3分間加熱混錬した。ロール温度は発泡体の発泡開始温度から30℃~50℃以下の温度とした。
次に、混錬後のロールシートを材料として、ロールと同じ温度設定のプレス機にて厚み1~2mm、縦150mm×横150mmに成形しプレスシート(発泡前駆体)を得た。なお、プレス条件は予熱3分間、加圧3分間、冷却3分間で、面圧が予熱時は5~8MPa、加圧時と冷却時は20MPaとした。
【0069】
(実施例2~6、比較例1~5)
得られた乾燥前熱膨張性マイクロカプセルについて、表2及び表3に示す乾燥条件(第1~第3乾燥工程、総乾燥時間、真空値)、洗浄条件(重合スラリー300Lに対する洗浄水量)で乾燥工程、洗浄工程を行った以外は実施例1と同様にして熱膨張性マイクロカプセル、発泡前駆体を得た。
【0070】
【表1】
[図:0001402783000001.jpg]
【0071】
(1)熱膨張性マイクロカプセルの評価
(1-1)発泡開始温度、最大発泡温度、最大変位量
熱機械分析装置(TMA)(TMA2940、TA instruments社製)を用い、発泡開始温度(Ts)、最大変位量(Dmax)及び最大発泡温度(Tmax)を測定した。具体的には、試料25μgを直径7mm、深さ1mmのアルミ製容器に入れ、上から0.1Nの力を加えた状態で、5℃/minの昇温速度で80℃から220℃まで加熱し、測定端子の垂直方向における変位を測定し、変位が上がり始める温度を発泡開始温度、その変位の最大値を最大変位量とし、最大変位量における温度を最大発泡温度とした。
【0072】
(1-2)平均粒子径(体積平均粒子径)
粒度分布径測定器(LA-950、HORIBA社製)を用い、体積平均粒子径を測定した。
【0073】
(1-3)揮発分(70℃で1時間、210℃で20分間)
熱膨張性マイクロカプセル約10gをアルミカップに計量し、70℃で1時間加熱した後、デシケーター中で40℃以下まで放冷し、その重量を量る。次の式により揮発分を算出した。
また、210℃で20分間加熱した後の揮発分についても同様に測定した。また、温度210℃で20分間静置した際の揮発分に対する温度70℃で1時間静置した際の揮発分の比率([温度70℃で1時間静置した際の揮発分/温度210℃で20分間静置した際の揮発分]×100)を算出した。
V=[(B-C)/(B-A)]×100
V:揮発分(重量%)
A:アルミカップの重量(g)
B:試料の入ったアルミカップの質量(g)
C:試料の入ったアルミカップの加熱放冷後の重量(g)」
「【0080】
【表2】
[図:0001402783000002.jpg]
【0081】
【表3】
[図:0001402783000003.jpg]
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明によれば、発泡倍率が高く、軽量かつ外観に優れる成形体を製造することが可能な熱膨張性マイクロカプセル、及び、該熱膨張性マイクロカプセルを用いた発泡用樹脂組成物及び発泡体を提供することができる。」
第3 申立の理由及び証拠方法
申立人は、全請求項(請求項1~8)に係る発明の特許を取り消すべきであると主張し、その理由として、後記1の申立ての理由を主張し、また、後記2の証拠方法を提出している。
また、申立ての理由1、2は、主たる刊行物等として甲第1号証又は甲第2号証を引用するものである。
1 申立ての理由
(1)申立ての理由1
本件発明1~3、5~8は、その出願前日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであり、本件特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(2)申立ての理由2
本件発明1~8は、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が、その出願前日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(3)申立ての理由3
本件特許の明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、本件特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、本件発明1~8に係る特許は取り消すべきものである。
(4)申立ての理由4
本件特許の特許請求の範囲の請求項1~8の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、本件発明1~8に係る特許取り消すべきものである。
2 証拠方法
特許異議申立人は、次の甲第1号証~甲第2号証を提出した。甲第1号証~甲第2号証を、以下「甲1」~「甲2」ともいう。
甲第1号証:特開2012-56992号公報
甲第1-1号証:国際公開2010/143512号
甲第1-2号証:J. Zhang et al, “Synthesis and characterization of high temperature resistant thermal expansion microsopheres with P(acrylonitrile/methacrylic acid/N,N-dimethylamide/n-butylacrylate) shell”, SN Applied Sciences,[online], 2019年7月26日, インターネット<https://doi.org/10.1007/s42452-01900976-4>
甲第1-2-1号証:甲第1-2号証の部分翻訳文
甲第1-3号証:徳村幸子、“熱膨張性マイクロカプセルの特徴と応用展開”、プラスチックエージ、株式会社プラスチックエージ、平成31年4月1日、第65巻、4月号、p.42
甲第1-4号証:特開2005-232274号公報
甲第1-5号証:国際公開第2012/032991号
甲第1-6号証:山田岳大、外3名、“超臨界流体を用いた微細発泡射出成形におけるCELL成長挙動に関する研究(2)”、埼玉県産業技術総合センター研究報告、2010年、第8巻、p.73-77
甲第2号証:特開2017-43766号公報
第4 当審の判断
1 申立ての理由1、2について
(1)証拠の記載事項
ア 甲1の記載事項
甲1には、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】
熱可塑性樹脂及び熱膨張性マイクロカプセルを含有する発泡性熱可塑性樹脂マスターバッチであって、
水分量が1重量%以下であり、
前記熱膨張性マイクロカプセルは、カルボキシル基含有モノマーを含有する重合性モノマーを重合することにより得られる共重合体からなるシェルに、コア剤として揮発性液体を内包する
ことを特徴とする発泡性熱可塑性樹脂マスターバッチ。
【請求項2】
熱膨張性マイクロカプセルは、水分量が1重量%以下であることを特徴とする請求項1記載の発泡性熱可塑性樹脂マスターバッチ。」
「【0007】
本発明は、高い成形温度でも高発泡倍率で発泡成形を行うことができ、かつ、シルバーストリークを抑制して外観の良好な成形体を製造することのできる発泡性熱可塑性樹脂マスターバッチを提供することを目的とする。また、本発明は、該発泡性熱可塑性樹脂マスターバッチを用いて製造される発泡成形体を提供することを目的とする。」
「【0014】
上記重合性モノマーは、カルボキシル基含有モノマーを含有する。
上記重合性モノマーが上記カルボキシル基含有モノマーを含有することにより、上記熱膨張性マイクロカプセルの耐熱性が向上し、本発明の発泡性熱可塑性樹脂マスターバッチは、高い成形温度でも高発泡倍率で発泡成形を行うことができる。」
「【0020】
上記重合性モノマーは、上記カルボキシル基含有モノマー、上記ニトリル系モノマー等と共重合することのできる他のモノマー(以下、単に、他のモノマーともいう)を含有してもよい。
上記他のモノマーは特に限定されず、目的とする熱膨張性マイクロカプセルに必要とされる特性に応じて適宜選択することができる。上記他のモノマーとして、例えば、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、分子量が200~600のポリエチレングリコールのジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリアリルホルマールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジメチロール-トリシクロデカンジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。また、上記他のモノマーとして、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、ジシクロペンテニルアクリレート等のアクリル酸エステル類、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、イソボルニルメタクリレート等のメタクリル酸エステル類、塩化ビニル、塩化ビニリデン、酢酸ビニル、スチレン等のビニルモノマー等も挙げられる。これらは単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。」
「【0033】
上記熱膨張性マイクロカプセル中の上記揮発性液体の含有量は特に限定されないが、好ましい下限は10重量%、好ましい上限は25重量%である。上記揮発性液体の含有量が10重量%未満であると、得られる熱膨張性マイクロカプセルは、シェルが厚くなりすぎ、発泡性能が低下することがある。上記揮発性液体の含有量が25重量%を超えると、得られる熱膨張性マイクロカプセルは、シェルの強度が低下し、高温において、破裂及び収縮を生じやすく、高発泡倍率で発泡できないことがある。
【0034】
上記熱膨張性マイクロカプセルは、水分量が1重量%以下であることが好ましい。
上記熱膨張性マイクロカプセルの水分量が1重量%以下であることにより、上述したような発泡性熱可塑性樹脂マスターバッチの水分量を達成することが容易となる。
なお、本明細書中、熱膨張性マイクロカプセルの水分量は、カールフィッシャー水分計を用いて測定することができる。」
「【0044】
上記コアシェル粒子が分散したスラリーに2価以上の金属塩を添加した後、攪拌する工程を行った後には、更に、上記低分子量ポリマー、未反応モノマー等の水溶性物質又はその凝集物等の不純物を除去するために、得られた熱膨張性マイクロカプセルの洗浄とろ過とを繰り返し行う工程を行うことが好ましい。
また、得られた熱膨張性マイクロカプセルに対して、更に上述のような予備乾燥を行うことが好ましい。
【0045】
上記熱膨張性マイクロカプセルの最大発泡温度(Tmax)は特に限定されないが、好ましい下限が200℃である。上記最大発泡温度が200℃未満であると、得られる発泡性熱可塑性樹脂マスターバッチは、高い成形温度では高発泡倍率で発泡成形を行えないことがある。また、上記最大発泡温度が200℃未満であると、マスターバッチの製造時の剪断力により上記熱膨張性マイクロカプセルの発泡が生じてしまい、未発泡の発泡性熱可塑性樹脂マスターバッチを安定して製造できないことがある。上記熱膨張性マイクロカプセルの最大発泡温度は、より好ましい下限が210℃である。
なお、本明細書中、上記最大発泡温度は、熱膨張性マイクロカプセルを常温から加熱しながらその径を測定したときに、熱膨張性マイクロカプセルが最大変位量となったときの温度を意味する。
【0046】
上記熱膨張性マイクロカプセルの体積平均粒子径は特に限定されないが、好ましい下限が10μm、好ましい上限が50μmである。上記体積平均粒子径が10μm未満であると、得られる発泡性熱可塑性樹脂マスターバッチを用いると、成形体の気泡が小さすぎ、軽量化が不充分となることがある。上記体積平均粒子径が50μmを超えると、得られる発泡性熱可塑性樹脂マスターバッチを用いると、成形体の気泡が大きくなりすぎ、強度等の面で問題となることがある。上記体積平均粒子径は、より好ましい下限が15μm、より好ましい上限が40μmである。」
「【0051】
本発明の発泡性熱可塑性樹脂マスターバッチの用途は特に限定されず、例えば、本発明の発泡性熱可塑性樹脂マスターバッチに、熱可塑性樹脂等のマトリックス樹脂を加えた樹脂組成物を、射出成形、押出成形等の成形方法を用いて成形し、成形時の加熱により発泡させることにより発泡成形体を製造することができる。
また、このとき、本発明の発泡性熱可塑性樹脂マスターバッチを、事前に、例えば80℃2時間程度、加熱乾燥機等で乾燥させて水分を減少させておくことが好ましい。」
「【0054】
以下に実施例を掲げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されない。
なお、以下の実施例及び比較例において、熱膨張性マイクロカプセル及び発泡性熱可塑性樹脂マスターバッチの水分量は、カールフィッシャー水分計(MKC-510、京都電子社製)を用いて、サンプル1gを、チャンバー内揮発条件を70℃60分間加熱として測定することにより求めた。
【0055】
(実施例1)
(1)熱膨張性マイクロカプセルの製造
重合反応容器に、水250重量部と、分散安定剤として塩化ナトリウム85重量部、コロイダルシリカ(旭電化社製20重量%)25重量部及びポリビニルピロリドン(BASF社製)0.2重量部とを投入し、水性分散媒体を調製した。
次いで、重合性モノマーとしてアクリロニトリル(AN)30重量部、メタクリロニトリル(MAN)50重量部及びメタクリル酸(MAA)20重量部と、水酸化亜鉛0.5重量部と、エポキシ樹脂(商品名JER630、ジャパンエポキシレジン社製)0.2重量部と、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル1.0重量部と、揮発性液体としてイソペンタン20重量部及びイソオクタン10重量部とからなる油性物質を、水性分散媒体に添加し、懸濁させて、分散液を調製した。
【0056】
得られた分散液をホモジナイザーで攪拌混合し、窒素置換した加圧重合器内へ仕込み、加圧(0.5MPa)しながら60℃で5時間、その後、80℃で4時間反応させることより、コアシェル粒子が分散したスラリーを得た。得られたコアシェル粒子が分散したスラリーに、塩化アルミニウム(20℃における溶解度45.8)を0.5重量%となるように添加し、マグネチックスターラーを用いて10分間攪拌し、次いで、ろ過と水洗を繰り返した後、70℃24時間乾燥させて、水分量0.6重量%の熱膨張性マイクロカプセルを得た。
更に、得られた水分量0.6重量%熱膨張性マイクロカプセルを、発泡性熱可塑性樹脂マスターバッチを製造する直前に80℃2時間予備乾燥することにより、水分量0.3重量%の予備乾燥済み熱膨張性マイクロカプセルを得た。
【0057】
(2)発泡性熱可塑性樹脂マスターバッチの製造
低密度ポリエチレン(LDPE)50重量部と、滑剤としてステアリン酸10重量部とを、バンバリーミキサーで混練し、約100℃になったところで、得られた水分量0.3重量%の予備乾燥済み熱膨張性マイクロカプセル50重量部を添加し、更に30秒混練した後、押し出すと同時にペレット化することにより、水分量0.3重量%の発泡性熱可塑性樹脂マスターバッチを得た。
【0058】
(実施例2)
コアシェル粒子が分散したスラリーに、塩化アルミニウム(20℃における溶解度45.8)を添加しなったこと以外は実施例1と同様にして、水分量0.9重量%の熱膨張性マイクロカプセルを得た。
更に、得られた水分量0.9重量%の熱膨張性マイクロカプセルを、発泡性熱可塑性樹脂マスターバッチを製造する直前に80℃2時間予備乾燥することにより、水分量0.6重量%の予備乾燥済み熱膨張性マイクロカプセルを得た。
得られた水分量0.6重量%の予備乾燥済み熱膨張性マイクロカプセルを用いたこと以外は実施例1と同様にして、水分量0.6重量%の発泡性熱可塑性樹脂マスターバッチを得た。
【0059】
(実施例3)
予備乾燥を行なわず、水分量0.6重量%の熱膨張性マイクロカプセルを用いたこと以外は実施例1と同様にして、水分量0.7重量%の発泡性熱可塑性樹脂マスターバッチを得た
【0060】
(比較例1)
コアシェル粒子が分散したスラリーに、塩化アルミニウム(20℃における溶解度45.8)を添加しなかったこと以外は実施例1と同様にして、水分量1.2重量%の熱膨張性マイクロカプセルを得た。
予備乾燥を行なわず、水分量1.2重量%の熱膨張性マイクロカプセルを用いたこと以外は実施例1と同様にして、水分量1.1重量%の発泡性熱可塑性樹脂マスターバッチを得た。」
「【0065】
【表1】
[図:0001402783000004.jpg]
」
イ 甲1-1の記載事項
甲1-1には、以下の事項が記載されている。
「[0101] 熱膨張性微小球には、一般に、それを製造する工程等に由来した水分が含まれていることは周知である。したがって、上記熱膨張性微小球の重量減少の測定では、加熱初期の時間において、水の蒸発が観察されるので、発泡剤ではない水による重量減少を無視することはできず、水分蒸発による重量減少を考慮して評価する必要がある。このことを踏まえて、上記熱膨張性微小球の重量減少に関する評価方法を以下に詳しく説明する。
まず、熱膨張性微小球の重量減少率を説明する。最初に、熱膨張性微小球の膨張開始温度(Ts1)、最大膨張温度(Tmax1)を測定する(実施例の該当項目を参照)。熱膨張性微小球は、一般に、膨張開始温度(Ts1)と最大膨張温度(Tmax1)との間の温度域で使用されるため、Ts1およびTmax1の平均値の温度(Th)で、熱膨張性微小球の重量減少率を測定する。」
ウ 甲1-2の記載事項
甲1-2には、以下の事項が記載されている。なお、原文は、外国語なので、その日本語訳として、申立人が提出した甲1-2-1に記載された抄訳を採用し、括弧を付して付記する。
「
[図:0001402783000005.jpg]
」(日本語訳:図3 熱膨張マイクロスフェアのTMA曲線)(第3頁 図3)
「
[図:0001402783000006.jpg]
」(日本語訳:図6 熱膨張マイクロスフェアのTG及びDTG曲線)(第4頁 図6)
「
[図:0001402783000007.jpg]
」(日本語訳:2.5熱安定性解析
図6は、膨張性マイクロクロスフェアのTGおよびDTG曲線を示す。205℃でのマイクロスフェアの重量減少量は約4.4%であった。これは、マイクロスフェアのシェル内の少量の残留モノマーと少量の水が原因であると考えられる。
マイクロスフェア202~295℃の重量減少量は約14.62%であった。これは、マイクロスフェアの膨張中のシェルの破裂とn-ペンタンの漏れに起因すると考えられる。マイクロスフェアに内包されたn-ペンタンの量は14.62%であると結論付けられ、)(第4頁左欄 2.5 熱安定性解析)
エ 甲1-3の記載事項
甲1-3には、以下の事項が記載されている。
「
[図:0001402783000008.jpg]
」(第42頁中欄第1行~右欄第4行 1.熱膨張性マイクロカプセルとは)
「
[図:0001402783000009.jpg]
」(第42頁 図1)
オ 甲1-4の記載事項
甲1-4には、以下の事項が記載されている。
「【0015】
また、本発明のシェルを構成するモノマー中には、架橋剤が用いられても良く、架橋剤を用いることによりセル壁の強度を強化することができ熱膨張時にセル壁が破泡し難くなる。上記架橋剤としては特に限定はされないが、基本的にはラジカル重合性二重結合を2以上持つモノマーが好適に用いられる。上記架橋剤の具体例としては、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、分子量が200~600のポリエチレングリコールのジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリアリルホルマールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジメチロール-トリシクロデカンジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの内、ポリエチレングリコール等の2官能架橋剤は、200℃を超える高温領域でも熱膨張したマイクロカプセルが収縮しにくく膨張した状態を維持しやすくさせることができやすい(いわゆる「へたり」を抑制し易い)ので好適に用いられる。
これら架橋剤の量は全モノマー中の0.1~3重量%、好ましくは0.1~1重量%が好ましい。
本発明の熱膨張性マイクロカプセルは、(メタ)アクリロニトリルとメタアクリル酸とを含有し、メタクリル酸の全モノマー成分に占める割合が少なくとも10重量%以上であるモノマー混合物を重合させて形成したシェルの内部に、揮発性膨張剤をコア剤として内包する熱膨張性マイクロカプセルであって、前記熱膨張性マイクロカプセルの体積平均粒径は25μm未満であることを特徴とする。そしてシェルのガスバリアー性の指標である加熱減量比(200℃20分/180℃20分の加熱減量値の比)が1.10以上であり、シェル厚さが2.5μm以下であることを特徴とする。」
「【0034】
【表1】
[図:0001402783000010.jpg]
【0035】
〔測定方法および定義〕
(1)体積平均粒子径
粒度分布径測定器LA-910(HORIBA社製)を用いて測定した。
(2)発泡開始温度、最大発泡温度、最大変位、半値幅
TMA(TMA2940、TA instruments社製)を使用し、試料25μgを直径7mm、深さ1mmのアルミカップに入れ、上から0.1Nの力を加えた状態で、5℃/minの昇温速度で80℃から220℃まで加熱し、引加圧子の垂直方向における変位を測定し、変位が上がり始める温度を発泡開始温度、その変位の最大値を最大変位量とし、その最大変位量における温度を最大発泡温度とした。また、最大変位量の半値(最大発泡温度前後)にそれぞれ対応した温度について、最大発泡温度以降の温度から最大発泡温度以前の温度を引いた値の温度幅を半値幅とした。
(3)加熱減量比
熱膨張性マイクロカプセルを1gをアルミカップに精秤後、加熱前、180℃で20分加熱後の重量、200℃で20分加熱後の重量を測定し、下記式により加熱減量(A)、(B)を求め、加熱減量比を算出した。
加熱減量(A)=(加熱前の重量-180℃×20分後の重量)/(加熱前の重量)×100
加熱減量(B)=(加熱前の重量-200℃×20分後の重量)/(加熱前の重量)×100
加熱減量比=(B)/(A)
(4)シェル厚さ
熱膨張性マイクロカプセルの断面を電子顕微鏡で観察し、シェル厚さを測定する。平均粒径の大きさの粒子を3個任意に選び、3個の粒子のシェル厚さをそれぞれ測定し、3サンプルの平均値をシェルの厚さとした。」
カ 甲1-5の記載事項
甲1-5には、以下の事項が記載されている。
「[0066](実施例1)
(1)熱膨張性マイクロカプセルの製造
重合反応容器に、水250重量部と、分散安定剤として塩化ナトリウム85重量部、コロイダルシリカ(旭電化社製20重量%)25重量部及びポリビニルピロリドン(BASF社製)0.2重量部とを投入し、水性分散媒体を調製した。
次いで、重合性モノマーとしてアクリロニトリル(AN)30重量部、メタクリロニトリル(MAN)50重量部及びメタクリル酸(MAA)20重量部と、水酸化亜鉛0.5重量部と、エポキシ樹脂(商品名JER630、ジャパンエポキシレジン社製)0.2重量部と、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル1.0重量部と、揮発性液体としてイソペンタン20重量部及びイソオクタン10重量部とからなる油性物質を水性分散媒体に添加し、懸濁させて、分散液を調製した。
[0067]得られた分散液をホモジナイザーで攪拌混合し、窒素置換した加圧重合器内へ仕込み、加圧(0.5MPa)しながら60℃で5時間、その後、80℃で4時間反応させることにより、反応生成物を得た。得られた反応生成物について、ろ過と水洗を繰り返した後、乾燥することにより、熱膨張性マイクロカプセル(Ts=156℃、Tmax=209℃)を得た。」
キ 甲1-6の記載事項
甲1-6には、以下の事項が記載されている。
「
[図:0001402783000011.jpg]
[図:0001402783000012.jpg]
」(第75頁右欄下第4行~第76頁左欄第12行 3.2 入れ子温度と樹脂圧力プロファイル)
「
[図:0001402783000013.jpg]
」(第75頁 図6)
ク 甲2の記載事項
甲2には、以下の事項が記載されている。
「【0006】
このように、無機充填剤を配合した発泡成形用組成物であって、熱膨張性微小球の破壊を抑制して、十分な発泡倍率を有する発泡成形体を製造できる発泡成形用組成物はこれまでなかった。
本発明の目的は、無機充填剤を配合した発泡成形用組成物であって、成形時の熱膨張性微小球の破壊による成形体表面の凹みを抑制でき、かつ高い発泡倍率を有する発泡成形用組成物、該発泡成形用組成物を成形してなる発泡成形体及び該発泡成形用組成物に好適に用いることができる熱膨張性微小球を提供することである。」
「【0014】
[発泡成形用組成物]
本発明の発泡成形用組成物は、特定の熱膨張性微小球、塩化ビニル系樹脂を除く基材成分及び無機充填剤を含有し、発泡成形用組成物に占める無機充填剤の重量割合が20~70重量%である。以下に詳細に説明する。」
「【0019】
(発泡成形用熱膨張性微小球)
本発明で用いる熱膨張性微小球は、発泡成形用であって、無機充填剤と併用するものである。熱膨張性微小球は、図1に示すように、熱可塑性樹脂からなる外殻(シェル)11と、それに内包され且つ加熱することによって気化する発泡剤(コア)12とから構成される熱膨張性微小球である。この熱膨張性微小球はコア-シェル構造をとっており、熱膨張性微小球は微小球全体として熱膨張性(微小球全体が加熱により膨らむ性質)を示す。」
「【0028】
熱膨張性微小球の外殻を形成する熱可塑性樹脂は、重合性成分の重合体である(重合性成分を重合して得られる)。また、重合性成分は、単量体成分を必須とし架橋剤を含むことがある成分である。単量体成分は、重合性二重結合を1個有するラジカル重合性単量体を意味し、付加重合可能な成分である。また、架橋剤は重合性二重結合を複数有するラジカル重合性単量体を意味し、橋架け構造を熱可塑性樹脂に導入する成分である。」
「【0031】
重合性成分は、溶融温度又は軟化温度の高い基材成分を用いて発泡成形体を製造できる点から、カルボキシル基含有単量体をさらに含んでもよい。
カルボキシル基含有単量体としては、遊離カルボキシル基を1分子当たり1個以上有するものであれば特に限定はないが、アクリル酸、メタクリル酸、エタクリル酸、クロトン酸、ケイ皮酸等の不飽和モノカルボン酸;マレイン酸、イタコン酸、フマル酸、シトラコン酸、クロロマレイン酸等の不飽和ジカルボン酸;不飽和ジカルボン酸の無水物;マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、マレイン酸モノブチル、フマル酸モノメチル、フマル酸モノエチル、イタコン酸モノメチル、イタコン酸モノエチル、イタコン酸モノブチル等の不飽和ジカルボン酸モノエステル等が挙げられる。これらのカルボキシル基含有単量体は、1種又は2種以上を併用してもよい。カルボキシル基含有単量体は、一部又は全部のカルボキシル基が重合時や重合後に中和されていてもよい。」
「【0034】
重合性成分は、膨張挙動をコントロールしやすくなる点から、(メタ)アクリル酸エステル系単量体をさらに含んでもよい。なお、(メタ)アクリルは、アクリル又はメタクリルを意味する。
(メタ)アクリル酸エステル系単量体としては、特に限定はないが、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等が挙げられる。」
「【0043】
熱膨張性微小球の最大膨張温度(Tmax)は、好ましくは175~275℃、より好ましくは180~260℃、さらに好ましくは185~250℃、特に好ましくは190~240℃である。熱膨張性微小球の最大膨張温度が175℃未満であると十分な耐熱性が得られず、成形時に熱膨張性微小球に内包されている発泡剤が熱膨張性微小球の外殻となる熱可塑性樹脂から外部へ抜け出てしまい、所望の軽量化された発泡成形体がえられないことがある。一方、熱膨張性微小球の最大膨張温度が275℃を超えると、熱膨張性微小球の耐熱性が高くなり、成形時に熱膨張性微小球が十分に膨張せず、得られる発泡成形体の軽量化が不十分になることがある。
【0044】
熱膨張性微小球の平均粒子径については特に限定されないが、好ましくは0.5~200μm、より好ましくは1~100μm、さらに好ましくは3~80μm、特に好ましくは7~60μm、最も好ましくは10~50μmである。平均粒子径が0.5μmより小さい場合、熱膨張性微小球の膨張性能が低くなることがある。一方、平均粒子径が200μmより大きい場合、熱膨張性微小球の強度が低下し、成形時に熱膨張性微小球が破壊される場合がある。」
「【0055】
水性分散媒は、電解質や水溶性化合物以外に、分散安定剤や分散安定補助剤を含有していてもよい。
分散安定剤としては、特に限定はないが、例えば、第三リン酸カルシウム、複分解生成法により得られるピロリン酸マグネシウム、ピロリン酸カルシウムや、コロイダルシリカ、アルミナゾル、水酸化マグネシウム等を挙げることができる。これらの分散安定剤は、1種又は2種以上を併用してもよい。
分散安定剤の配合量は、重合性成分100重量部に対して、好ましくは0.1~30重量部、さらに好ましくは0.5~20重量部である。
分散安定補助剤としては、特に限定はないが、例えば、高分子タイプの分散安定補助剤、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、両性イオン界面活性剤、ノニオン性界面活性剤等の界面活性剤を挙げることができる。これらの分散安定補助剤は、1種又は2種以上を併用してもよい。」
「【0061】
得られたスラリーを遠心分離機、加圧プレス機、真空脱水機等により濾過し、含水率10~50重量%、好ましくは15~45重量%、更に好ましくは20~40重量%のケーキ状物とし、ケーキ状物を、棚型乾燥機、間接加熱乾燥機、流動乾燥機、真空乾燥機、振動乾燥機、気流乾燥機等により乾燥し、含水率6重量%以下、好ましくは5重量%以下である。
イオン性物質の含有量を低減させる目的で、ケーキ状物を水洗及び/又は再分散後に再濾過し、乾燥させても構わない。また、スラリーを噴霧乾燥機、流動乾燥機等により乾燥し、乾燥粉体を得てもよい。」
「【0072】
上記コンパウンドの製造方法としては、無機充填剤、熱可塑性微小球、基材成分及びその他必要な成分をあらかじめリボンミキサーにより混合し、バンバリーミキサーを使用して基材成分の融点又は軟化点以上、熱膨張性微小球の膨張開始温度以下の温度にて溶融混練し、無機充填剤、熱膨張性微小球及び基材成分のコンパウンドを作成する方法等が挙げられる。
製造したコンパウンドを単軸押出機や二軸押出機等に供給し加熱成形することにより、発泡成形体を製造することが可能である。また、製造したコンパウンドをニーダーや単軸押出機や二軸押出機等を使用して造粒し、単軸押出機や二軸押出機や射出成形機等に供給し加熱成形することにより、発泡成形体を製造することが可能である。」
「【0097】
〔熱膨張性微小球の調製〕
〔製造例1〕
イオン交換水600gに、塩化ナトリウム120g、シリカ有効成分20重量%であるコロイダルシリカ50g、ジエタノールアミン-アジピン酸縮合物3g及び5%水溶液のエチレンジアミン四酢酸・4Na塩0.1gを加え、pHを2.8~3.2に調整し、水性分散媒を調製した。
これとは別に、アクリロニトリル155g、メタクリロニトリル79g、メタアクリル酸メチル15g、エチレングリコールジメタクリレート1g、2-2’-アゾビス(2-メチルプロピオニトリル)1.5g、イソペンタン30g、イソオクタン25g、イソドデカン15gを混合して油性混合物を調整した。
水性分散媒と油性混合物を混合し、得られた混合物をホモミキサー(特殊機化工業社製、TKホモミキサー)により分散して、懸濁液を調製した。この懸濁液を容量1.5リットルの加圧反応器に移して窒素置換をしてから反応初期圧0.5MPaにし、80rpmで攪拌しつつ重合温度60℃で20時間重合した。重合後に得られた重合液を濾過、乾燥して得られた熱膨張性微小球を微小球1とした。得られた微小球1の物性を表1に示す。
【0098】
〔製造例2~20〕
製造例1で用いた各種成分および量を、表1、2に示すものに変更する以外は製造例1と同様にして微小球2~20をそれぞれ得た。得られた微小球2~20のそれぞれの物性を表1、2に示す。なお、表1、2の各種成分の略号の詳細を表3に示す。
「【0099】
【表1】
[図:0001402783000014.jpg]
【0100】
【表2】
[図:0001402783000015.jpg]
【0101】
【表3】
[図:0001402783000016.jpg]
」
「【0106】
【表4】
[図:0001402783000017.jpg]
【0107】
【表5】
[図:0001402783000018.jpg]
」
「【0111】
【表6】
[図:0001402783000019.jpg]
【0112】
【表7】
[図:0001402783000020.jpg]
」
(2)証拠に記載された発明
ア 甲1に記載された発明
(ア)甲1(上記(1)ア参照。)の請求項1を引用する請求項2には、「熱可塑性樹脂及び熱膨張性マイクロカプセルを含有する発泡性熱可塑性樹脂マスターバッチであって、水分量が1重量%以下であり、前記熱膨張性マイクロカプセルは、カルボキシル基含有モノマーを含有する重合性モノマーを重合することにより得られる共重合体からなるシェルに、コア剤として揮発性液体を内包する、発泡性熱可塑性樹脂マスターバッチ」であって、「熱膨張性マイクロカプセルは、水分量が1重量%以下である」ことが記載されている。
(イ)また、甲1の実施例2、3、比較例1にはそれぞれ、分散剤としてコロイダルシリカを投入した水性分散媒体に、重合性モノマーとしてアクリロニトリル、メタクリロニトリル及びメタクリル酸を、揮発性液体としてイソペンタン及びイソオクタンを含有する油性物質を添加し、攪拌混合し、反応させることでコアシェル粒子が分散したスラリーを得て、スラリーをろ過、水洗、乾燥させて、熱膨張性マイクロカプセルを得たこと、熱膨張性マスターバッチに用いる熱膨張性マイクロカプセルの水分量がそれぞれ0.6重量%(実施例2、3)、1.2重量%(比較例1)であることが記載されている(甲1の段落【0055】~【0060】、【0065】【表1】)。
(ウ)甲1の段落【0033】の「上記揮発性液体の含有量が10重量%未満であると、得られる熱膨張性マイクロカプセルは、シェルが厚くなりすぎ」という記載から、揮発性液体がコアであり、重合性モノマーとしてアクリロニトリル、メタクリロニトリル及びメタクリル酸による共重合体がシェルとなることが理解できる。
(エ)すると、甲1には次の発明(以下「甲1a発明」、「甲1b発明」という。)が記載されているものと認められる。
(甲1a発明)
「アクリロニトリル、メタクリロニトリル及びメタクリル酸を含有する重合性モノマーを重合することによって得られる共重合体からなるシェルに、コア剤として揮発性液体であるイソペンタン及びイソオクタンを内包する熱膨張性マイクロカプセルであって、コロイダルシリカを含有し、水分量が0.6重量%である、熱膨張性マイクロカプセル」
(甲1b発明)
「アクリロニトリル、メタクリロニトリル及びメタクリル酸を含有する重合性モノマーを重合することによって得られる共重合体からなるシェルに、コア剤として揮発性液体であるイソペンタン及びイソオクタンを内包する熱膨張性マイクロカプセルであって、コロイダルシリカを含有し、水分量が1.2重量%である、熱膨張性マイクロカプセル」
イ 甲2に記載された発明
(ア)甲2(上記(1)ク参照。)の段落【0019】には、「熱可塑性樹脂からなる外殻(シェル)11と、それに内包され且つ加熱することによって気化する発泡剤(コア)12とから構成される熱膨張性微小球」が記載されており、同段落【0028】には「熱膨張性微小球の外殻を形成する熱可塑性樹脂は、重合性成分の重合体である」こと、同段落【0031】には、重合性成分は「カルボキシル基含有単量体をさらに含んでもよい」ことが記載されている。
(イ)そして、甲2の段落【0061】には、熱膨張性微小球の製造方法において、「得られたスラリーを・・・濾過し、含水率10~50重量%・・・のケーキ状物とし、ケーキ状物を・・・乾燥し、含水率6重量%以下、好ましくは5重量%以下である」ことが記載されている。
(ウ)また、甲2の製造例2、3、9、13、15、16、19にはそれぞれ、コロイダルシリカを含有する水性分散媒に、重合性成分としてアクリロニトリル、メタクリロニトリル、並びに、メタクリル酸メチル(製造例2、3、13、15、16のみ)又はメタクリル酸(製造例9、19のみ)を、発泡剤としてイソペンタン等を含有する油性混合物を混合し、ホモミキサーにより分散させた懸濁液を加圧反応器に移して反応させ、得られた重合液を濾過、乾燥して熱膨張性微小球を得ること、得られた熱膨張性微小球の含水率がそれぞれ2重量%(製造例2、3、9、13、15)、1重量%(製造例16、19)であることが記載されている(甲2の段落【0055】、【0097】、【0098】、【0099】【表1】、【0100】【表2】、【0101】【表3】)。
(エ)すると、甲2には次の発明(以下「甲2a発明」、「甲2b発明」、「甲2c発明」、「甲2d発明」という。)が記載されているものと認められる。
(甲2a発明)
「アクリロニトリル、メタクリロニトリル及びメタクリル酸メチルを含む重合性成分の重合体である熱可塑性樹脂からなる外殻(シェル)11と、それに内包され且つ加熱することによって気化するイソペンタン等の発泡剤(コア)12とから構成される熱膨張性微小球であって、コロイダルシリカを含有し、含水率が2重量%である、熱膨張性微小球」
(甲2b発明)
「アクリロニトリル、メタクリロニトリル及びメタクリル酸メチルを含む重合性成分の重合体である熱可塑性樹脂からなる外殻(シェル)11と、それに内包され且つ加熱することによって気化するイソペンタン等の発泡剤(コア)12とから構成される熱膨張性微小球であって、コロイダルシリカを含有し、含水率が1重量%である、熱膨張性微小球」
(甲2c発明)
「アクリロニトリル、メタクリロニトリル及びメタクリル酸を含む重合性成分の重合体である熱可塑性樹脂からなる外殻(シェル)11と、それに内包され且つ加熱することによって気化するイソペンタン等の発泡剤(コア)12とから構成される熱膨張性微小球であって、コロイダルシリカを含有し、含水率が2重量%である、熱膨張性微小球」
(甲2d発明)
「アクリロニトリル、メタクリロニトリル及びメタクリル酸を含む重合性成分の重合体である熱可塑性樹脂からなる外殻(シェル)11と、それに内包され且つ加熱することによって気化するイソペンタン等の発泡剤(コア)12とから構成される熱膨張性微小球であって、コロイダルシリカを含有し、含水率が1重量%である、熱膨張性微小球」
(3)本件発明1について
ア 甲1を主引用例とする検討
(ア) 本件発明1と甲1a発明、甲1b発明を対比すると、甲1a発明、甲1b発明の「メタクリル酸」は、本件明細書の段落【0022】の定義によるとカルボニル基を含有することから、本件発明1の「カルボニル基含有モノマー」に相当する。
また、甲1a発明、甲1b発明の「揮発性液体であるイソペンタン及びイソオクタン」が膨張剤であることは明らかであることから、本件発明1の「揮発性膨張剤」に相当する。
さらに、甲1a発明、甲1b発明の「コロイダルシリカ」は、コロイド状ケイ素酸化物を意味し、ケイ素の酸化物は、二酸化ケイ素であることが技術常識である。
すると、本件発明1と甲1a発明、甲1b発明の一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「重合体からなるシェルに、コア剤として揮発性膨張剤が内包された熱膨張性マイクロカプセルであって、前記シェルは、カルボニル基含有モノマーを含有するモノマー組成物を重合させてなる重合体、及び二酸化ケイ素を含む、熱膨張性マイクロカプセル。」
<相違点1>
本件発明1では、熱膨張マイクロカプセルを「温度70℃で1時間静置した際の揮発分が0.55重量%以上、2重量%以下」であるのに対し、甲1a発明、甲1b発明では水分量が特定されているが、温度70℃で1時間静置した際の揮発分について特定されていない点
(イ) 相違点1について検討する。甲1には、熱膨張性マイクロカプセルから揮発する成分やその量について記載されておらず、どの程度の温度でどの位の時間加熱するとどの成分がどの程度の量揮発するのか不明である。
ここで、甲1-1の段落【0101】には、「熱膨張性微小球の重量減少の測定では、加熱初期の時間において、水の蒸発が観察される」ことが記載されており、甲1-2の2.5熱安定性解析の項には、図6に示された205℃でのマイクロスフェアの約4.4%の重量減少量について、「少量の残留モノマーと少量の水が原因であると考えられる」ことが記載されている。これらの記載から、熱膨張性マイクロカプセルに含まれる水が加熱初期に揮発することが示唆されることがいえる。しかしながら、甲1-1、甲1-2のいずれも70℃で水が揮発することは示されておらず、仮に70℃で1時間静置した際に熱膨張性マイクロカプセルに含有される水が揮発するとしても、含水量のうちどの程度の割合の水が揮発するのか、水以外の成分、例えば、甲1-2に記載されているような、残留モノマー成分は揮発しないのか、甲1、甲1-1、甲1-2のいずれにも何ら記載も示唆もない。してみると、甲1a発明、甲1b発明の熱膨張性マイクロカプセルに含有される水分量から、温度70℃で1時間静置した際の揮発分の重量割合を算出することはできず、相違点1は実質的な相違点である。
そうすると、本件発明1は甲1a発明、甲1b発明と実質的な相違点があるから、甲1に記載された発明ではなく、特許法第29条第1項第3号に規定の発明に該当しない。
(ウ) また、上記(イ)での検討のとおり、甲1-1、甲1-2には、熱膨張性マイクロカプセルに含まれる水が加熱初期に揮発することを示唆する記載があるものの、これらの記載は、熱膨張性マイクロカプセルに含有される水分量と、温度70℃で1時間静置した際の揮発分との関係性を示すものではなく、両者の関係性を特定する技術常識もない。また、熱膨張性マイクロカプセルにおいて、「温度70℃で1時間静置した際の揮発分が0.55重量%以上、2重量%以下である」と特定することが周知の技術ということはできない。そして、甲1には水分量の記載のほかに「温度70℃で1時間静置した際の揮発分が0.55重量%以上、2重量%以下である」と特定することを動機づけるような記載や示唆はない。
そして、本件発明1の効果について、本件特許明細書段落【0009】には、「揮発分が0.55重量%以上であることで、成形品の外観と発泡性向上を両立させることができ」、「2重量%以下であることで、特に成形品の外観を向上させることができる」こと、「発泡時に凝集が起こりにくく、発泡性能の向上に寄与することが可能となる」こと、「多粒子の集合体とした際の流動性にも優れるため、例えば、成形時にホッパー等から安定的に投入することが可能となる」、という効果を奏することが記載されており、同段落【0080】【表2】において、揮発分が0.55重量%以上、2重量%以下の数値範囲内である実施例と数値範囲外である比較例について、マイクロカプセルの発泡時の凝集度及びホッパー流動性の評価、ならびに、成形体の外観および発泡性の評価結果から、前記効果を奏することが確認されている。よって、この効果は当業者といえども予測することができないものであると認められる。
したがって、相違点1は当業者であっても容易に想到しうることということはできず、本件発明1は、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとも認められず、特許法第29条第2項により特許を受けることができないものということはできない。
(エ)申立人は、異議申立書の(4)C.(a-1)の項において、「熱膨張性マイクロカプセルは、後述する甲第1-1号証及び甲第1-2号証に記載されているように「水」を含有し、さらに、最大発泡温度よりも低い温度、特に発泡開始温度以下の温度で加熱した場合、熱膨張性マイクロカプセルから揮発するのは「コア剤である揮発性液体」ではなく、「水」である。よって、甲第1号証の「水分量」が、本件特許発明の「揮発分」と文言が異なるとしても、本件特許発明1及び甲第1号証で製造している熱膨張性マイクロカプセルにおいては、本件特許発明の実施例及び比較例で用いた原料の種類及び量並びに製造方法の記載から、70℃での加熱において揮発する成分は、当然に「水」しか考えられない。」(第17頁第16~24行)ことから、本件発明は、甲第1号証に記載の発明と同一であり、新規性を有さないと主張している。
しかしながら、上記(イ)での検討のとおり、甲1-1、甲1-2のいずれの記載箇所も70℃で水が揮発することは示されておらず、仮に70℃で1時間静置した際に熱膨張性マイクロカプセルに含有される水が揮発するとしても、含水量のうちどの程度の割合の水が揮発するのか、水以外の成分、例えば、甲1-2に記載されているような、残留モノマー成分は揮発しないのか、甲1、甲1-1、甲1-2のいずれにも何ら記載も示唆もない。さらに、甲1-2の図6のグラフでは、205℃での重量減少量が約4.4%であるが、70℃ではそのうちわずかな割合しか重量減少しておらず、揮発分が0.55重量%以上、2重量%以下の数値範囲であると推認することはできない。
また、申立人は、「熱膨張性マイクロカプセルに関する特定条件下で測定した揮発分を規定した本件特許発明1において、上述した規定は、本件特許公報の明細書段落10の「本発明では、熱膨張性マイクロカプセルを製造する際の反応工程、洗浄工程、乾燥工程を調整することにより、温度70℃で1時間静置した際の揮発分、後述する温度210℃で20分間静置した際の揮発分、揮発分の比率、重量増加率を制御することができる」との記載から、結局、反応工程、洗浄の程度、乾燥の程度に基づく、既存の熱膨張性マイクロカプセルに関する特性を言い換えて規定したものに他ならない。」(第17頁第6~14行)ことから、本件特許発明1は、甲第1号証に記載の発明の表現を言い換えたものであり、甲第1号証に記載の発明から容易想到であり、進歩性を有さないと主張している。
しかしながら、本件特許明細書段落0010の記載は、本件発明1の熱膨張性マイクロカプセルを製造することが実施可能であることを示す記載であって、熱膨張性マイクロカプセルに関する既存の特性を表現しているものとはいえず、温度70℃で1時間静置した際の揮発分の重量割合による規定に言い換えたものとはいえない。また、申立人は甲1号証のどの記載箇所から「温度70℃で1時間静置した際の揮発分が0.55重量%以上、2重量%以下」に表現を言い換えることができるのか具体的な根拠を示していない。
上記の主張のほか、申立人は甲1-3、甲1-4、甲1-5、甲1-6を提出しているが、甲1-3は過加熱状態では内部の炭化水素が高分子膜を透過し収縮することを示すものであり、甲1-4はマクロスフェアが最大膨張温度付近まで加熱されるとマイクロスフェアが含有する膨張剤が揮散することを示すものであり、甲1-5は甲1と同じ方法で製造されたマイクロカプセルの膨張開始温度及び最大膨張温度を示すものであり、甲1-6はシルバーストリークは成形体の凹凸により発生していることを示すものであり、いずれの証拠にも「温度70℃で1時間静置した際の揮発分が0.55重量%以上、2重量%以下」の規定に関する記載も示唆もない。
したがって、申立人の主張は採用できない。
イ 甲2を主引用例とする検討
(ア) 本件発明1と甲2a発明~甲2d発明を対比すると、甲2a発明~甲2d発明の「メタクリル酸メチル」、「メタクリル酸」は、本件明細書の段落【0022】の定義によるとカルボニル基を含有することから、本件発明1の「カルボニル基含有モノマー」に相当する。また、甲2a発明~甲2d発明の「加熱することによって気化するイソペンタン等の発泡剤」、「熱膨張性微小球」、本件発明1の「揮発性膨張剤」、「熱膨張性マイクロカプセル」に相当する。
また、甲2a発明~甲2d発明の「コロイダルシリカ」は、コロイド状ケイ素酸化物を意味し、ケイ素の酸化物は、二酸化ケイ素であることが技術常識である。
すると、本件発明1と甲2a発明~甲2d発明の一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「重合体からなるシェルに、コア剤として揮発性膨張剤が内包された熱膨張性マイクロカプセルであって、前記シェルは、カルボニル基含有モノマーを含有するモノマー組成物を重合させてなる重合体、及び二酸化ケイ素を含む、熱膨張性マイクロカプセル。」
<相違点2>
本件発明1では、熱膨張マイクロカプセルを「温度70℃で1時間静置した際の揮発分が0.55重量%以上、2重量%以下」であるのに対し、甲2a発明~甲2d発明では含水率が特定されているが、温度70℃で1時間静置した際の揮発分について特定されていない点
(イ) 相違点2について検討する。甲2には、熱膨張性微小球から揮発する成分やその量について記載されておらず、どの程度の温度でどの位の時間加熱するとどの成分がどの程度の量揮発するのか不明である。
ここで、上記ア(イ)での検討のとおり、甲1-1、甲1-2のいずれも70℃で水が揮発することは示されておらず、仮に70℃で1時間静置した際に熱膨張性マイクロカプセルに含有される水が揮発するとしても、含水量のうちどの程度の割合の水が揮発するのか、水以外の成分は揮発しないのか、甲2、甲1-1、甲1-2のいずれにも何ら記載も示唆もない。してみると、甲2a発明~甲2d発明の熱膨張性微小球に含有される含水率から、温度70℃で1時間静置した際の揮発分の重量割合を算出することはできず、相違点2は実質的な相違点である。
そうすると、本件発明1は甲2a発明~甲2d発明と実質的な相違点があるから、甲2に記載された発明ではなく、特許法第29条第1項第3号に規定の発明に該当しない。
(ウ) また、上記ア(ウ)での検討のとおり、甲1-1、甲1-2には、熱膨張性マイクロカプセルに含有される水分量と、温度70℃で1時間静置した際の揮発分との関係性を示す記載はなく、両者の関係性を特定する技術常識もない。また、熱膨張性マイクロカプセルにおいて、「温度70℃で1時間静置した際の揮発分が0.55重量%以上、2重量%以下である」と特定することが周知の技術ということはできない。そして、甲2には含水率の記載のほかに「温度70℃で1時間静置した際の揮発分が0.55重量%以上、2重量%以下である」と特定することを動機づけるような記載や示唆はない。
そして、本件発明1の効果について、上記ア(ウ)での検討のとおり、当業者といえども予測することができないものであると認められる。
したがって、相違点2は当業者であっても容易に想到しうることということはできず、本件発明1は、甲2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとも認められず、特許法第29条第2項により特許を受けることができないものということはできない。
(エ) 申立人は、異議申立書の(4)C.(b-1)の項(第20~21頁)において本件特許発明1は、甲第2号証に記載の発明と同一、または、甲第2号証に記載の発明から容易想到、と主張しているが、(4)C.(a-1)の項での主張以外に新たな証拠や主張は提示されておらず、(4)C.(a-1)の項での主張の点については上記ア(エ)での検討のとおりである。
したがって、申立人の主張は採用できない。
(4)本件発明2~8について
本件発明2~8は、いずれも、本件発明1を直接または間接的に引用し、さらに限定した発明であるところ、前記(3)のとおり、本件発明1は、甲1又は2に記載された発明ではないし、甲1又は2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとも認められないものである。
そうすると、さらに検討するまでもなく、本件発明2~8も、本件発明1と同様の理由により、甲1又は2に記載された発明ではないし、甲1又は2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとも認められない。
(5)申立ての理由1、2についてのまとめ
以上のとおりであるから、申立ての理由1、2によって本件特許を取り消すべきものとすることはできない。
2 申立ての理由3について
ア 申立ての理由3の概要
申立ての理由3の概要は要するに、
「全ての実施例及び比較例において、1種類の原料組成による熱膨張性マイクロカプセルしか開示されていないために、そのシェルを構成する材料の組成、揮発性膨張剤の種類及び量、カルボニル基含有モノマーの種類及びその量、重合させる場合の条件及び分子量などが全く規定されていない本件特許発明において、当業者は、本件特許発明の熱膨張性マイクロカプセルを、どのように実施するか、つまり製造するか、を発見するために、当業者が期待し得る程度を大きく超える苛酷な試行錯誤等を行う必要がある。」(第35頁下10~下3行)
というものである。
イ 検討
本件特許明細書段落【0010】には、「熱膨張性マイクロカプセルの成分を調整することや、熱膨張性マイクロカプセルを製造する際の反応工程、洗浄工程、乾燥工程を調整することにより、温度70℃で1時間静置した際の揮発分、後述する温度210℃で20分間静置した際の揮発分、揮発分の比率、重量増加率を制御することができる」ことが記載されている。また、同段落【0065】~【0069】には、本件発明の熱膨張マイクロカプセルの具体的な製造方法が記載されており、同一組成の重合体からなるシェルを有する熱膨張性マイクロカプセルについて、3段階の真空乾燥工程の条件を変更することによって、本件特許発明の特定事項を充足する複数の実施例を含む、揮発分の異なる多種の熱膨張性マイクロカプセル(実施例1~6、比較例1~5)が得られることが具体的に記載されている。そして、シェルを構成する重合体の組成についても熱膨張性マイクロカプセルが求められる発泡性能や耐熱性等に応じてモノマーの種類やその量等を調整することは当業者間で通常に一般に行われている。そうすると、本件特許明細書の実施例で製造される特定組成の熱膨張性マイクロカプセルを参考として、本件特許発明の特定事項である揮発分や発泡温度を充足する熱膨張性マイクロカプセルを実際に作ることが、当業者に期待し得る程度を超える過度の試行錯誤を要するものとは認められない。よって、本件特許の発明の詳細な説明は、本件発明1~8について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものであり、申立ての理由3による申立人の主張は採用できない。
3 申立ての理由4
ア 申立ての理由4の概要
申立ての理由4の概要は要するに、
「揮発分の規定「70℃で1時間静置した際の揮発分」は、この条件で揮発分を測定する際の前処理における乾燥工程の温度及び時間や洗浄水量によって、大きく変動する値」であり、「本件特許の明細書に記載された熱膨張性マイクロカプセル自体の構成を適切に規定したものではなく、その物性を示すであろう前提の構成が欠落したもの」(以下「申立ての理由4-1」ともいう。)
「本件特許明細書の段落68には、発泡体前駆体の製造をする際に、ヘンシェルミキサー(120℃でドライアップ)を用いることが記載されているが、仮に本件特許発明1の構成を満たす熱膨張性マイクロカプセルの発泡開始温度が120℃末満となるような構成を有する場合、発泡体前駆体を製造する際に熱膨張性マイクロカプセルが発泡し、続く発泡前駆体を得る際に熱膨張性マイクロカプセルが潰れることとなり、本件特許明細書の第78段落に記載の発泡体を得る際に、高い発泡倍率となることはない」(以下「申立ての理由4-2」ともいう。)
「本件特許の明細書段落78には、200℃のギアオーブン内に入れて10分間加熱して熱膨張性マイクロカプセルを発泡させることが記載されているが、仮に本件特許発明1の構成を満たす熱膨張性マイクロカプセルの最大発泡温度が、例えば、160℃以上200℃末満となるような構成を有する場合、熱膨張性マイクロカプセルは過加熱状態となり、発泡したものは収縮し、発泡体を得る際に、高い発泡倍率となることはない」(以下「申立ての理由4-3」ともいう。)
これにより、本件特許発明は、発明の詳細な説明に記載された範囲を超えるものである、というものである。
イ 判断手法
特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
ウ 検討
本件発明が解決しようとする課題は、「発泡倍率が高く、軽量かつ外観に優れる成形体を製造することが可能な熱膨張性マイクロカプセル、及び、該熱膨張性マイクロカプセルを用いた発泡用樹脂組成物及び発泡体を提供すること」(本件特許明細書の段落【0006】)であると認められる。また、本件発明について揮発分の規定を充足する実施例が6例、充足しない比較例が5例記載されており、これらの熱膨張性マイクロカプセルについて発泡時の凝集度、ホッパー流動性、成形体の外観、発泡性が評価され、その課題を解決することができるものであることが確認されているから、本件発明は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できる範囲のものであると認められる。
そして、申立人の主張のうち、申立ての理由4-1について、本件発明の熱膨張性マイクロカプセルの揮発分の規定は、測定前に乾燥や洗浄をさらに実施するといった前処理を要するものではなく、そのような技術常識もない。なお、本件特許明細書の段落【0066】、【0067】に記載されている洗浄工程や乾燥工程は、製造プロセス中の工程であり、物性値を測定する前に実施する前処理工程ではない。また、申立ての理由4-2、4-3の主張におけるヘンシェルミキサーのドライアップ温度やギアオーブンでの加熱温度はいずれも本件特許明細書に記載された実施例の重合体組成で製造する際のものであり、当業者であれば重合体組成から想定される発泡開始温度や最大発泡温度にあわせて、これらの加熱処理条件を調整して、発泡前駆体の製造時に発泡したり、過加熱状態となって発泡したものが収縮したりすることを防ぐことは通常行うものである。よって、申立ての理由4-1、4-2、4-3による申立人の主張は採用できない。
第5 むすび
したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1~8に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1~8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700216