特許異議申立
2025-700925
大豆麺及びその製造方法
- 審判番号
- 2025-700925
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-005819
- 登録番号
- 7653264
- 請求日
- 2025年09月26日
- 審決日
- 2026年02月25日
- 公報発行日
- 2026年03月27日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】ハウス食品株式会社
- 【権利者代理人】▲吉▼田 和彦
- 【権利者代理人】須田 洋之
- 【権利者代理人】山崎 一夫
- 【権利者代理人】服部 博信
- 【権利者代理人】松田 七重
- 【異議申立人】細田 浩一
- 審判長/審判官
- 審判長 天野 宏樹
- 審判官 壷内 信吾
- 審判官 松田 成正
- 分類
- P1651.121-Y (A23L) / P1651.537-Y (A23L)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条6項1号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7653264号発明「大豆麺及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7653264号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7653264号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし6に係る特許についての出願は、令和 3年 1月18日を出願日とする出願であって、令和 7年 3月19日にその特許権の設定登録(請求項の数6)がされ、同年同月28日に特許掲載公報が発行され、その後、当該特許に対し、同年 9月26日に特許異議申立人 細田 浩一(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし6)がされたものである。
第2 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし6に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいい、総称して「本件特許発明」という。)は、それぞれ、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲(以下、「特許請求の範囲」という。)の請求項1ないし6に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
大豆粉と、
タピオカ澱粉と、
を含み、
前記大豆粉の量が、大豆粉と澱粉質原料との合計量100質量部に対して、40質量部以上60質量%以下であり、
前記大豆粉1質量部に対して、前記タピオカ澱粉の含有量が0.7質量部以上であり、
実質的に小麦を含まず、かつ、トランスグルタミナーゼ又はアルギン酸類のいずれも含まない、大豆麺。
【請求項2】
更に、酸味料を含む、請求項1に記載の大豆麺。
【請求項3】
更に、食塩を含む、請求項1又は2に記載の大豆麺。
【請求項4】
水分量が15質量%以上である、請求項1~3のいずれか一項に記載の大豆麺。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の大豆麺を含む食品。
【請求項6】
大豆粉とタピオカ澱粉とを混合し、混合物を得る工程と、
前記混合物を圧延して生地を得る工程と、
前記生地を線状に切り出し、麺を得る工程と、
を備え、
前記大豆粉の量が、大豆粉と澱粉質原料との合計量100質量部に対して、40質量部以上60質量%以下であり、
前記大豆粉1質量部に対して、前記タピオカ澱粉の含有量が0.7質量部以上であり、
実質的に小麦を含まない、大豆麺の製造方法。」
第3 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
申立人は、証拠方法として下記3に示す甲第1号証~甲第5号証(以下、「甲1」~「甲5」という。)を提出し、概略、以下の特許異議申立理由を主張している。
1 申立理由1(進歩性)
本件特許発明1ないし6は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲1ないし甲5に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし6に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
2 申立理由2(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし6に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
なお、申立理由2の具体的理由は、次のとおりである。
(1)本件特許発明の解決しようとする課題は、本件特許明細書によれば、大豆由来たんぱく質の量が多い大豆麺において、大豆臭さやエグミを抑制することのできる技術を提供することである。その課題を解決するための手段として「タピオカ澱粉は、大豆由来の不快な風味をマスキングするために使用されている。」と記載されている。この大豆由来の不快な風味の原因である大豆粉に対してマスキング効果を奏するタピオカ澱粉の量は、本件特許発明1では、大豆粉1質量部に対して、0.7質量部以上と記載されているが、本件明細書の実施例でマスキング効果が確認されているのは、大豆粉1600質量部とタピオカ澱粉1400質量部とを混合した、大豆粉1質量部に対してタピオカ澱粉0.9質量部使用した場合のみである。
マスキング効果は、対象物に対して有効な特定量以上のマスキング剤を用いる場合に限られることは技術常識であるから、大豆粉1質量部に対してタピオカ澱粉0.9質量部使用した場合のマスキング効果が確認されていても、大豆粉1質量部に対してタピオカ澱粉0.7質量部程度使用した場合にもマスキング効果があるかは不明であることが、当業者の技術常識である。
したがって、大豆粉1質量部に対してタピオカ澱粉0.7質量部程度用いる場合を包含する本件特許発明1~6については、その課題を解決できることが本願明細書に記載されているとも、本願出願時の技術常識を参酌してもその課題を解決できることを当業者が理解できるように記載されているとはいえない。
(2)さらに、大豆麺に係る発明である本件特許発明1において、原料の一部である大豆粉とタピオカ澱粉の含有量が、大豆麺中の含有量で特定されておらず、「大豆粉の量が、大豆粉と澱粉質原料との合計量100質量部に対して、40質量部以上60質量%以下であり、前記大豆粉1質量部に対して、前記タピオカ澱粉の含有量が0.7質量部以上であり」と特定されている。このように、本件特許発明1には、大豆麺中における大豆粉と澱粉質原料との合計の含有量は、特定されていないし、大豆粉とタピオカ澱粉のそれぞれの大豆麺中における含有量も、特定されていない。
しかしながら、本件特許発明1は大豆粉を含むものであるが、大豆粉以外の大豆由来たんぱく質含有材料を含むことを排除するものではないから、大豆麺中に大豆粉以外の例えば大豆たんぱく質も多く含まれている場合には、大豆粉1質量部に対しての含有量が有効量以上であるタピオカ澱粉によっても、大豆由来たんぱく質含有材料の大豆臭さやエグミを抑制することをできない態様が包含されることは、明らかである。
以上の理由から、本件特許明細書には、本件特許発明1ないし6の全般にわたり、その課題を解決できることが記載されておらず、また、本願出願時の技術常識を参酌してもその課題を解決できることを当業者が認識できるように本件特許明細書に記載されていない。
3 証拠方法
甲1:International Food Research Journal (April 2019) 26 (2) p.421-428
甲2及び甲2-2:特開昭58-179451号公報
甲3:特公平2-39226号公報
甲4:特許第5640152号公報
甲5:特開平10-337167号公報
証拠の表記は、特許異議申立書の記載におおむね従った。
第4 当審の判断
1 申立理由1(進歩性)について
(1)甲1に記載された事項等
ア 甲1に記載された事項
甲1には、「大豆麺」に関して、おおむね次の記載がある。
なお、甲1は外国語文献のため、訳文のみ摘記する。
・「しかし、セリアック病患者やグルテンを避けたい一般の人々には、グルテンフリーの穀物製品が求められている。より多様な健康食品への需要が高まっているため、新しいタイプの麺の開発が求められている。タンパク質や食物繊維の含有量を高めるために、小麦粉の代わりに、オート麦粉(Kudake et al., 2017)、キビ粉(Dissanayake and Jayawardena, 2016)、大豆粉(Collins and Pangloli, 1997)などの穀物粉を使用することができる。大豆は栄養価が高く、健康増進に効果的な成分を多く含んでいる。」(p.421左欄14行-最終行)
・「大豆麺サンプルの調製
大豆麺サンプルは、Kim et al.(2011)およびXin et al.(2018)が発表した方法に若干の改変を加え、大豆粉(90g、S)にHPMCを異なる割合(SH1:0.5%、SH2:1%、SH3:1.5%)で添加して調製した。対照として、大豆粉75gとグルテン15gを用いてグルテン添加大豆麺(SG)を調製した。タピオカ澱粉(10g)は全ての麺に使用した。食塩を除く全ての乾燥材料は、ミキサー(Model 5K5SS、Kitchen Aid、米国ミシガン州セントジョセフ)を用いて低速(レベル1)で2分間混合した。食塩3gと水45mL(75℃)を加えた後、全ての材料を低速(レベル1)でさらに2分間混練した。ミキサーの速度は、最高速度(レベル6)に達するまで、1分ごとに1段階ずつ上げた。1分ごとに1段階ずつ減速し、15分間の混合後に完全に停止した。生地をビニール袋に入れ、室温で2時間休ませた後、パスタ製造機(ATLAS 150、Marcato社、カンポダルセゴ、イタリア)でシート状にした。同じ機械で麺をスライスした。」(p.422左欄18行-40行)
・「大豆麺の製造工程中にタピオカ澱粉を添加すると、大豆粉懸濁液の粘度が向上した(表1)。これはLeeら(2012)の結果と一致する。タピオカを添加した大豆懸濁液のPVは104cP、HPVは100cP、SBは152cPであった。キャッサバ澱粉と大豆のブレンド(Chinmaら、2013)では、タピオカの添加によりブレンド中のアミロース含量が低下し、ピーク粘度が高くなることが知られている。親水性基を含むタンパク質は、澱粉との架橋形成に適しているこれらの架橋は、ペースト粘度の上昇につながる可能性がある(Goelら、1999)。タピオカ添加後、大豆懸濁液のCPVも252cPに増加した。本研究では、全ての大豆麺サンプルにタピオカを大豆粉総量の10%の割合で添加した。」(p.423右欄1行-16行)
・「結論
タンパク質強化グルテンフリー麺を開発するため、麺の主原料として大豆粉(麺総重量の90%)を使用した。麺の形状を良好にするため、タピオカ澱粉を10%添加した。食感改良剤としてHPMCを添加することで、大豆麺の食感特性と調理品質、特に調理ロスが改善された。本研究では、HPMCの添加がグルテン添加と同様の作用を示すことが示された。」(p.426左欄25行-34行)
イ 甲1に記載された発明
甲1に記載された事項を、特に上記「大豆麺サンプルの調製」及び「結論」における記載を中心に整理すると、甲1には次の発明が記載されていると認める。
<甲1発明>
「麺の主原料として大豆粉(麺総重量の90%)を使用し、タピオカ澱粉を10%添加した、タンパク質強化グルテンフリー麺。」
さらに、甲1には次の発明が(以下、「甲1製法発明」という。)が記載されていると認める。
<甲1製法発明>
「大豆粉(90g、S)及びタピオカ澱粉(10g)を使用し、食塩を除く全ての乾燥材料を、ミキサーを用いて混合する工程と、食塩3gと水45mLを加えた後、全ての材料をさらに混練する工程と、生地をビニール袋に入れ、室温で2時間休ませた後、パスタ製造機でシート状にする工程と、麺をスライスする工程とを備え、麺の原料として大豆粉(麺総重量の90%)を使用し、タピオカ澱粉を10%添加した、タンパク質強化グルテンフリー麺の製造方法。」
(2)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明における「大豆粉」及び「タピオカ澱粉」は、それぞれ本件特許発明1における「大豆粉」及び「タピオカ澱粉」に相当する。
また、甲1発明は大豆粉を主原料としたグルテンフリー麺であるから、本件特許発明1における「実質的に小麦を含まず、かつ、トランスグルタミナーゼ又はアルギン酸類のいずれも含まない」ことを満たしている。
さらに、甲1発明は、麺総重量の90%、すなわち主原料として「大豆粉」を使用していることから、甲1発明における「タンパク質強化グルテンフリー麺」は、本件特許発明1における「大豆麺」に相当する。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「大豆粉と、タピオカ澱粉と、を含み、実質的に小麦を含まず、かつ、トランスグルタミナーゼ又はアルギン酸類のいずれも含まない、大豆麺。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点1>
本件特許発明1においては、「前記大豆粉の量が、大豆粉と澱粉質原料との合計量100質量部に対して、40質量部以上60質量%以下であり、前記大豆粉1質量部に対して、前記タピオカ澱粉の含有量が0.7質量部以上」と特定されているのに対し、甲1発明においては、大豆粉の量が麺総重量の90%であり、タピオカ澱粉を10%添加したと特定される点。
イ 判断
上記相違点1について検討する。
甲1には、「本研究では、全ての大豆麺サンプルにタピオカを大豆粉総量の10%の割合で添加した」と記載されており、タピオカ澱粉の添加割合を10%以外に変更することは記載されていないから、「前記大豆粉の量が、大豆粉と澱粉質原料との合計量100質量部に対して、40質量部以上60質量%以下であり、前記大豆粉1質量部に対して、前記タピオカ澱粉の含有量が0.7質量部以上」を満たす割合にタピオカ澱粉の添加割合を変更することは、当業者が動機付けられないことである。また、大豆麺において、前記相違点1に係る割合でタピオカ澱粉を添加することが、本件特許の出願時の技術常識であったともいえない。
そして、甲1及び他の全ての証拠に記載された事項を考慮しても、甲1発明における「大豆粉」、「タピオカ澱粉」それぞれの含有量を相違点1に係る範囲とする動機は見いだせない。さらに、本件特許発明1の奏する「大豆由来たんぱく質の量が多い大豆麺において、大豆臭さやエグミを抑制することのできる技術が提供される。」(本件特許明細書の発明の詳細な説明【0006】)という効果は、甲1発明の奏する効果である「麺の形状を良好にする」(p.426左欄28-29行)とは全く異なるものであり、また、甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明1の構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである。
したがって、甲1発明において、上記相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
ウ 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、特許異議申立書の15~19頁において、おおむね次のとおり主張する。
(ア)甲2には、穀粉とタピオカ生澱粉と食塩を含み、穀粉とタピオカ生澱粉からなる原料粉の重量に基づいて、穀粉の量が1~50重量%で、タピオカ生澱粉の量が3~50重量%である食味と食感に優れた麺が記載され、麺の製造において、原料粉中の穀粉とタピオカ生澱粉の含有量を同量程度にすることにより、麺の食味が良好で、麺類の滑らかさおよび粘弾性について優れた効果があることが記載されている。
ここで、グルテンフリーの麺においても、麺の味や食感を向上させることは、本件出願前自明の技術的課題であるから、甲1発明のグルテンフリー大豆麺においても、麺の味や食感を向上させるため、原料粉中のタピオカ澱粉の含有量を増加させて、穀粉の大豆粉の含有量を同量程度にすることは、甲2の記載から当業者が容易になし得たことであり、そのことにより、「大豆粉の量が、大豆粉と澱粉質原料との合計量100質量部に対して40質量部以上60質量%以下で、タピオカ澱粉の含有量が大豆粉1質量部に対して0.7質量部以上である」という本件特許発明1に到達するものである。
(イ)また、甲3には、粉末豆乳、穀粉、でんぷん類を所定の量の範囲で組み合わせることにより、豆乳のもつ青臭みや苦味をほぼ完全に隠すことができ、しかもめん製品特有のコシ、歯ざわり等を得ることができることが記載され、具体的に、粉末豆乳50部、タピオカでんぷん30部、小麦粉10部を含む、粉末豆乳と澱粉質原料との合計量100質量部に対して、粉末豆乳を55質量部含むめんが記載されている。
そうすると、麺の味や食感を向上させるために、甲1発明の大豆麺のタピオカ澱粉の含有量を増大させることにより、粉末豆乳と同じく大豆由来の甲1発明の大豆粉の量を、大豆粉とタピオカ澱粉との合計量100質量部に対して40質量部以上60質量%以下とすることは、甲3の記載から当業者が容易に想到し得たことであり、そのようにして、「大豆粉の量が、大豆粉と澱粉質原料との合計量100質量部に対して40質量部以上60質量%以下で、タピオカ澱粉の含有量が大豆粉1質量部に対して0.7質量部以上である」という本件特許発明1に到達する。
(ウ)甲3記載事項には、「本発明では原料として粉末豆乳10~50%、穀粉10~45%、でんぷん類10~40%、および必要により粉末グルテンを20%以下用いる。特に粉末豆乳、穀粉、でんぷん類を前記の量の範囲で組み合わせることにより、豆乳のもつ青臭みや苦味をほぼ完全に隠すことができ、しかもめん製品特有のコシ、歯ざわり等を得ることができる。」と記載されている。豆乳由来の青臭みや苦味は、大豆粉の青臭み等と同じく大豆由来である。また、甲3の穀粉としては、小麦粉以外のものを用いることができることが記載されているから、グルテンフリーの大豆麺の大豆粉の青臭みや苦味は、穀粉とでんぷん類の組み合わせによりマスキングできることは、甲3の記載から当業者が予測できる範囲のものであり、本件特許発明1において奏される効果は、甲1~3の記載から当業者が予測できる範囲内のものである。
(エ)また、本件明細書において、大豆臭さやエグミを抑制することが確認されているのは、大豆粉1質量部に対して、タピオカ澱粉0.7質量部以上のうち、タピオカ澱粉0.9質量部使用した場合のみである。仮に被申立人が、本件特許発明1の効果の非予測性を主張するのであれば、本件明細書には、当業者でも予測できない格別な効果が、本件特許発明1の全般にわたり奏されることが確認されていないことになり、本件特許発明1の効果が格別なものということできない。あるいは、本件特許発明1は、審査基準の上記(i)と(iii)の場合には該当しないから、本件特許発明1は、進歩性を有しないともいえる。
(オ)以上の理由から、本件特許発明1は、甲1から甲3の記載に基づき当業者が容易になし得たものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
エ 特許異議申立人の主張についての判断
上記主張について検討する。
特許異議申立人は、上記ウ(ア)において、グルテンフリーの麺においても、麺の味や食感を向上させることは、本件出願前自明の技術的課題である。そのため、甲1発明においても、麺の味や食感を向上させるため、原料粉中のタピオカ澱粉の含有量を増加させて、穀粉の大豆粉の含有量を同量程度にすることは、甲2の記載から当業者が容易になし得たことである旨を主張している。
さらに、上記ウ(イ)において、麺の味や食感を向上させるために、甲1発明の大豆麺のタピオカ澱粉の含有量を増大させることは、甲3の記載から当業者が容易に想到し得たことである旨を主張している。
しかしながら、甲1発明は「タンパク質強化グルテンフリー麺を開発する」ことを目的として「麺の主原料として大豆粉(麺総重量の90%)を使用した」ものであり、その背景には、「セリアック病患者やグルテンを避けたい一般の人々には、グルテンフリーの穀物製品が求められている」こと、「タンパク質や食物繊維の含有量を高めるために、小麦粉の代わりに、オート麦粉(Kudake et al., 2017)、キビ粉(Dissanayake and Jayawardena, 2016)、大豆粉(Collins and Pangloli, 1997)などの穀物粉を使用することができる」こと、及び「大豆は栄養価が高く、健康増進に効果的な成分を多く含んでいる」ことがある。
そうすると、甲1発明における大豆粉の割合を90%より減らすことは、甲1発明の目的に反することになるから、当業者が甲2、甲2-2、及び甲3に記載された添加割合を適用することには阻害要因があるといえる。
よって、上記主張は採用できない。
オ まとめ
したがって、本件特許発明1は、甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)本件特許発明2ないし5について
本件特許発明2ないし5は、請求項1を直接又は間接的に引用し、本件特許発明1の発明特定事項を全て備えるものである。そうすると、上記(2)で検討した本件特許発明1と同様に、甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(4)本件特許発明6について
ア 対比
本件特許発明6と甲1製法発明とを対比する。
甲1製法発明における「大豆粉」及び「タピオカ澱粉」は、それぞれ本件特許発明6における「大豆粉」及び「タピオカ澱粉」に相当する。
また、甲1製法発明は大豆粉を主原料としたグルテンフリー麺であるから、本件特許発明6における「実質的に小麦を含まない」ことを満たしている。
さらに、甲1製法発明は、麺総重量の90%、すなわち主原料として「大豆粉」を使用していることから、「タンパク質強化グルテンフリー麺の製造方法」は、本件特許発明6の「大豆麺の製造方法」に相当する。
そして、甲1製法発明は、「生地をビニール袋に入れ、室温で2時間休ませた後、パスタ製造機でシート状にする工程と、麺をスライスする工程とを備えて」いることから、「混合物を圧延して生地を得る工程と、前記生地を線状に切り出し、麺を得る工程」を備えていることが分かる。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「大豆粉とタピオカ澱粉とを混合し、混合物を得る工程と、
前記混合物を圧延して生地を得る工程と、
前記生地を線状に切り出し、麺を得る工程と、
を備え、
実質的に小麦を含まない、大豆麺の製造方法。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点2>
本件特許発明6の大豆麺の製造方法においては、「前記大豆粉の量が、大豆粉と澱粉質原料との合計量100質量部に対して、40質量部以上60質量%以下であり、前記大豆粉1質量部に対して、前記タピオカ澱粉の含有量が0.7質量部以上」と特定されているのに対し、甲1製法発明においては、大豆粉の量が大豆麺の総重量の90%であり、タピオカ澱粉を10%添加したと特定される点。
イ 判断
上記相違点2について検討する。
相違点2は実質的に相違点1と同じ内容の相違点であるから、上記(2)イと同様に判断される。
ウ 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、特許異議申立書19頁において、おおむね次のとおり主張する。
「本件特許発明3~6(当審注:「本件特許発明2~6」の誤記であると合議体は判断した。)の特定事項は、甲第1から3号証に記載されているから、本件特許発明3~6(当審注:「本件特許発明2~6」の誤記であると合議体は判断した。)も本件特許発明1と同様の理由により、甲第1号証から甲第3号証の記載に基づき当業者が容易になし得たものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」
エ 特許異議申立人の主張についての判断
上記主張について検討する。
特許異議申立人の主張は実質的に本件特許発明1についての主張(上記(2)ウ)と同旨であるところ、その判断は上記(2)エのとおりである。
よって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
オ まとめ
したがって、本件特許発明6は、甲1製法発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(5)申立理由1(進歩性)についてのまとめ
したがって、本件特許発明1ないし6は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1ないし6に係る特許は、同法第113条第2号に該当せず、申立理由1によっては取り消すことはできない。
2 申立理由2(サポート要件)について
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
そこで、検討する。
(2)特許請求の範囲の記載
本件特許の特許請求の範囲の記載は上記第2のとおりである。
(3)サポート要件の判断
本件特許明細書の発明の詳細な説明の【0004】に記載されているとおり、本件特許発明の課題(以下、「本件発明の課題」という。)は、「大豆由来たんぱく質の量が多い大豆麺において、大豆臭さやエグミを抑制することのできる技術を提供すること」である。
本件特許明細書の発明の詳細な説明の【0007】~【0027】には特許請求の範囲の各発明特定事項に対応する具体的な記載があり、【0010】~【0011】には、大豆麺全体を100質量部としたときの大豆由来たんぱく質含有材料の量は、より好ましくは40質量部以上であり、好ましくは60質量部以下、そして、大豆由来たんぱく質含有材料としては、大豆粉等を用いることができることについて、【0012】~【0013】には、タピオカ澱粉は、大豆由来の不快な風味をマスキングするために使用され、タピオカ澱粉の量は、大豆由来たんぱく質含有材料1質量部に対して、より好ましくは0.7質量部以上であることについて、それぞれ記載されている。
また、【0030】~【0037】の実施例1、2、3(「大豆粉+澱粉質原料」100質量部に対する「大豆粉」の含有量が53.3質量部であり、大豆粉1質量部に対するタピオカ澱粉の量が0.9質量部)では、大豆の臭さやエグミが感じられにくく、風味が良好であった。すなわち、タピオカ澱粉により、大豆の臭さやエグミのマスキング効果があることが確認され、一方、馬鈴薯澱粉やコーンスターチを用いた比較例1及び2(大豆粉1質量部に対するタピオカ澱粉の量が0.0質量部)では、風味は改善されなかった結果が示されているから、上記【0010】~【0011】及び【0012】~【0013】の記載は実施例を通じた検証もなされている。
そうすると、これらの記載に接した当業者であれば、「大豆粉と、タピオカ澱粉と、を含み、前記大豆粉の量が、大豆粉と澱粉質原料との合計量100質量部に対して、40質量部以上60質量%以下であり、前記大豆粉1質量部に対して、前記タピオカ澱粉の含有量が0.7質量部以上」
である大豆麺は、発明の課題を解決できると認識できる。
そして、本件特許発明1ないし6はいずれも、上記の本件発明の課題を解決できると認識できる特定事項の全てを有し、さらに限定するものであるから、発明の詳細な説明に記載された発明であって、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
よって、本件特許発明1ないし6の特許請求の範囲の記載は、いずれもサポート要件に適合する。
(4)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、上記第3 2において、(ア)本件明細書の実施例でマスキング効果が確認されているのは、大豆粉1600質量部 とタピオカ澱粉1400質量部とを混合した、大豆粉1質量部に対してタピオカ澱粉0.9質量部使用した場合のみで、タピオカ澱粉0.7質量部程度使用した場合にもマスキング効果があるかは不明であること、(イ)大豆麺に係る発明である本件特許発明1において、原料の一部である大豆粉とタピオカ澱粉の含有量が、大豆麺中の含有量で特定されておらず、大豆粉以外の大豆由来たんぱく質含有材料(例えば大豆たんぱく質)を含むことを排除するものではないから、大豆粉1質量部に対しての含有量が有効量以上であるタピオカ澱粉によっても、大豆由来たんぱく質含有材料の大豆臭さやエグミを抑制することをできない態様が包含されること等を、それぞれ主張する。
しかしながら、上記(ア)の主張について、上記(3)に記載したとおり、本件特許発明の解決しようとする課題は「大豆由来たんぱく質の量が多い大豆麺において、大豆臭さやエグミを抑制すること」であり、課題が解決されるか否かは、マスキング効果があるか否かではなく、具体的には【0035】に記載されるように「大豆の臭さやエグミが抑えられている」か否かによって判断される。また、【0007】には課題解決手段に関し、「タピオカ澱粉には、大豆由来たんぱく質含有材料が有する大豆臭さやエグミ(以下、不快な風味等ということがある)をマスキングする作用がある」と記載されているところ、当該作用は実施例及び比較例の結果によって裏付けられており、本件特許明細書の記載に接した当業者は、大豆粉1質量部に対してタピオカ澱粉0.7質量部程度使用した場合にも、タピオカ澱粉は相応の「大豆由来たんぱく質含有材料が有する大豆臭さやエグミ(以下、不快な風味等ということがある)をマスキングする作用」を発揮し、「大豆由来たんぱく質の量が多い大豆麺において、大豆臭さやエグミを抑制」するという課題を解決できると認識することができる。
上記(イ)の主張について、上記(3)に記載したとおり、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載に接した当業者は、タピオカ澱粉が大豆粉に由来する大豆臭さやエグミをマスキングする作用を発揮することにより、タピオカ澱粉を添加しない場合より「大豆臭さやエグミを抑制」することができると理解することができ、また、当該作用は大豆粉以外の原料が共存していても発揮されるものと理解することができる。
そして、特許異議申立人は大豆粉以外の原料が共存することによって、大豆臭さやエグミをマスキングする作用が発揮されなくなることを示す具体的な証拠を示すものでもない。
したがって、特許異議申立人の上記主張はいずれも採用できない。
(5)申立理由2(サポート要件)についてのまとめ
上記のとおりであるから、本件特許発明1ないし6は、特許法第36条第6項第1号の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、申立理由2の理由では、本件特許の請求項1ないし6に係る特許を取り消すことはできない。
第5 結語
上記第4のとおり、本件特許の請求項1ないし6に係る特許は、特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2025-700925