特許異議申立
2024-701183
呈味増強用組成物、その製造方法、及び、食品の呈味を増強する方法
- 審判番号
- 2024-701183
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2024-512207
- 登録番号
- 7498381
- 請求日
- 2024年12月10日
- 審決日
- 2026年02月13日
- 公報発行日
- 2026年05月29日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】ハウス食品株式会社
- 【権利者代理人】遠藤 真治
- 【権利者】ハウス食品グループ本社株式会社
- 【権利者代理人】遠藤 真治
- 【異議申立人】齊藤 雄一
- 【異議申立人】森田 宏司
- 審判長/審判官
- 審判長 植前 充司
- 審判官 加藤 友也
- 審判官 宮久保 博幸
- 分類
- P1651.113-YAA(A23L) / P1651.121-YAA(A23L) / P1651.537-YAA(A23L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
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特許第7498381号発明「呈味増強用組成物、その製造方法、及び、食品の呈味を増強する方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7498381号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-17〕について訂正することを認める。
特許第7498381号の請求項1~17に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7498381号(以下、「本件特許」という。)についての出願は、2024年(令和6年)1月31日(優先権主張 令和5年1月31日、3件、令和5年4月28日、1件)を国際出願日とする出願であって、令和6年6月3日にその特許権の設定登録(請求項の数17)がされ、同年同月11日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、その特許に対して、令和6年12月10日に特許異議申立人 齊藤 雄一(以下、「特許異議申立人A」という。)により、特許異議の申立て(対象請求項:全請求項)がされ、同年同月11日に特許異議申立人 森田 宏司(以下、「特許異議申立人B」という。)により、特許異議の申立て(対象請求項:全請求項)がされ、令和7年3月6日に特許異議申立人Bより特許異議申立書に対する手続補正書(方式)が提出され、同年5月23日付けで取消理由が通知され、同年7月22日に特許権者 ハウス食品株式会社及びハウス食品グループ本社株式会社(以下、「特許権者」という。)より訂正の請求がなされるとともに意見書の提出がされ、同年同月30日に訂正請求書に対する手続補正書が提出され、同年8月4日付けで特許法第120条の5第5項に基づく訂正請求があった旨の通知を行ったところ、同年9月4日に特許異議申立人Aより意見書が提出され、同年同月5日に特許異議申立人Bより意見書が提出され、同年11月5日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、同年12月25日に特許権者から訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)がされるとともに意見書が提出されたものである。
なお、令和7年7月22日にされた訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。
また、既に特許異議申立人に意見書の提出の機会が与えられており、下記第2 1のとおり、令和7年12月25日にされた訂正請求によって特許請求の範囲が相当程度減縮され、下記第6及び7のとおり、提出された全ての証拠や意見等を踏まえて更に審理を進めたとしても特許を維持すべきとの結論となると合議体は判断し、特許法第120条の5第5項ただし書に規定された特別の事情があるときといえるから、特許異議申立人に再度の意見書の提出の機会を与えていない。
第2 訂正の適否についての判断
1 請求の趣旨
本件訂正請求の趣旨は、「特許第7498381号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~17について訂正することを求める。」というものである。
2 訂正の内容等
本件訂正請求による訂正の内容は、以下の(1)ないし(7)のとおりである。(下線は、訂正箇所について合議体が付したものである。)
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「加熱処理したクミンを含有する、」
と記載されているのを、
「加熱処理したクミンを含有する、
前記加熱処理したクミンが、ホール種子の形態又はホール種子を粉砕した粉砕物の形態であり、
前記加熱処理したクミンが、
クミンのみ又は水とクミンとの混合物を、油脂を添加することなく、加熱後の25℃で測定した水分活性が0.85以下となる条件で加熱することにより得られたものである、或いは、
クミンを、クミン100質量部に対して10質量部以上200質量部以下の油脂とともに加熱することにより得られたものである、」
に訂正する。
請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2~17も同様に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項5に
「クミンを、油脂を添加することなく」
と記載されているのを、
「クミンのみ又は水とクミンとの混合物を、油脂を添加することなく」
に訂正する。
請求項5の記載を直接又は間接的に引用する請求項6、13、14、17も同様に訂正する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項5に
「加熱価が15以上となる条件で加熱する」
と記載されているのを、
「加熱価が15以上となり、加熱後の25℃で測定した水分活性が0.85以下となる条件で加熱する」
に訂正する。
請求項5の記載を直接又は間接的に引用する請求項6、13、14、17も同様に訂正する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項7に
「クミンを油脂とともに加熱価が1以上となる条件で加熱する」
と記載されているのを、
「クミンを、クミン100質量部に対して10質量部以上200質量部以下の油脂とともに加熱価が1以上となる条件で加熱する」
に訂正する。
請求項7の記載を直接又は間接的に引用する請求項8、15~17も同様に訂正する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項13に
「クミンを、油脂を添加することなく」
と記載されているのを、
「クミンのみ又は水とクミンとの混合物を、油脂を添加することなく」
に訂正する。
請求項13の記載を引用する請求項14も同様に訂正する。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項13に
「加熱価が15以上となる条件で加熱して」
と記載されているのを、
「加熱価が15以上となり、加熱後の25℃で測定した水分活性が0.85以下となる条件で加熱して」
に訂正する。
請求項13の記載を引用する請求項14も同様に訂正する。
(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項15に
「クミンを油脂とともに加熱価が1以上となる条件で加熱して」
と記載されているのを、
「クミンを、クミン100質量部に対して10質量部以上200質量部以下の油脂とともに加熱価が1以上となる条件で加熱して」
に訂正する。
請求項15の記載を引用する請求項16も同様に訂正する。
(8)一群の請求項について
訂正前の請求項1~17について、請求項2~17は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであるから、訂正前の請求項1~17に対応する訂正後の請求項1~17は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
3 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1に係る請求項1の訂正は、加熱処理したクミンにつき、「ホール種子の形態又はホール種子を粉砕した粉砕物の形態であり、」「クミンのみ又は水とクミンとの混合物を、油脂を添加することなく、加熱後の25℃で測定した水分活性が0.85以下となる条件で加熱することにより得られたものである、或いは、クミンを、クミン100質量部に対して10質量部以上200質量部以下の油脂とともに加熱することにより得られたものである、」と限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項1に係る請求項1の訂正は、本件特許の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の【0128】、【0091】、【0093】、【0106】及び【0100】の記載からみて、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。
請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2~17についても同様である。
(2)訂正事項2及び3について
訂正事項2及び3に係る請求項5の訂正は、加熱の対象となるクミンの形態を「クミンのみ又は水とクミンとの混合物」と限定し、その加熱条件を「加熱後の25℃で測定した水分活性が0.85以下となる」と限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項2及び3に係る請求項5の訂正は、本件明細書の【0093】及び【0106】の記載からみて、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。
請求項5の記載を直接又は間接的に引用する請求項6、13、14、17についても同様である。
(3)訂正事項4について
訂正事項4に係る請求項7の訂正は、クミンを油脂とともに加熱する際の油脂の比率について、「クミン100質量部に対して10質量部以上200質量部以下の」と限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項4に係る請求項7の訂正は、本件明細書の【0100】の記載からみて、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。
請求項7の記載を直接又は間接的に引用する請求項8、15~17についても同様である。
(4)訂正事項5及び6について
訂正事項5及び6に係る請求項13の訂正は、加熱の対象となるクミンの形態を「クミンのみ又は水とクミンとの混合物」と限定し、その加熱条件につき、「加熱後の25℃で測定した水分活性が0.85以下となる」と限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項5及び6に係る請求項13の訂正は、本件明細書の【0093】及び【0106】の記載からみて、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。
請求項13の記載を引用する請求項14についても同様である。
(5)訂正事項7
訂正事項7に係る請求項15の訂正は、クミンを油脂とともに加熱する際の油脂の比率について、「クミン100質量部に対して10質量部以上200質量部以下の」と限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項7に係る請求項15の訂正は、本件明細書の【0100】の記載からみて、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。
請求項15の記載を引用する請求項16についても同様である。
4 独立特許要件について
本件においては、訂正前の全ての請求項1~17に対して特許異議の申立てがされているので、上記訂正事項に係る訂正については、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
5 訂正についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-17〕について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
上記第2のとおり、訂正後の請求項〔1-17〕について訂正することを認めるので、本件特許の請求項1ないし17に係る発明(以下、これらの発明を順に「本件特許発明1」、「本件特許発明2」などといい、総称して「本件特許発明」という。)は、令和7年12月25日に提出された訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし17に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
加熱処理したクミンを含有する、
前記加熱処理したクミンが、ホール種子の形態又はホール種子を粉砕した粉砕物の形態であり、
前記加熱処理したクミンが、
クミンのみ又は水とクミンとの混合物を、油脂を添加することなく、加熱後の25℃で測定した水分活性が0.85以下となる条件で加熱することにより得られたものである、
或いは、
クミンを、クミン100質量部に対して10質量部以上200質量部以下の油脂とともに加熱することにより得られたものである、
食品に配合して前記食品が有する呈味を増強するための、呈味増強用組成物。
【請求項2】
前記呈味が、塩味、甘味、酸味、苦味、旨味、コク味、甘旨味、辛味、渋味、及び、味の広がりから選択される1以上の呈味である、請求項1に記載の呈味増強用組成物。
【請求項3】
前記呈味が、食塩、ショ糖、クエン酸、酒石酸、ナリンギン、グルタミン酸又はその塩、アスパラギン酸又はその塩、コハク酸又はその塩、イノシン酸又はその塩、グアニル酸又はその塩、グリシン又はその塩、アラニン又はその塩、唐辛子、黒コショウ、動物又は植物由来エキス、及び、調味料から選択される1以上の呈味成分に由来する呈味である、請求項1に記載の呈味増強用組成物。
【請求項4】
80質量%以上100質量%以下の前記加熱処理したクミンを含有する、請求項1に記載の呈味増強用組成物。
【請求項5】
前記加熱処理したクミンが、クミンのみ又は水とクミンとの混合物を、油脂を添加することなく加熱価が15以上となり、加熱後の25℃で測定した水分活性が0.85以下となる条件で加熱することにより得られたものである、請求項1に記載の呈味増強用組成物。
【請求項6】
前記加熱価が60以上500以下である、請求項5に記載の呈味増強用組成物。
【請求項7】
前記加熱処理したクミンが、クミンを、クミン100質量部に対して10質量部以上200質量部以下の油脂とともに加熱価が1以上となる条件で加熱することにより得られたものである、請求項1に記載の呈味増強用組成物。
【請求項8】
前記加熱価が20以上4000以下である、請求項7に記載の呈味増強用組成物。
【請求項9】
前記加熱処理したクミンが、環状(Phe-Tyr)、環状(Phe-Ala)、環状(Tyr-Ser)、環状(Leu/Ile-Ser)、環状(Ala-Tyr)、環状(Gly-Tyr)、環状(Ala-Pro)、環状(Gly-Val)、環状(hyPro-Pro)及び環状(Glu-Glu)からなる群から選択される1以上を含有する、請求項1に記載の呈味増強用組成物。
【請求項10】
前記加熱処理したクミンが、前記加熱処理したクミンに47μg/gのL-リシン-13C6一塩酸塩を添加し、下記方法による液体クロマトグラフィー質量分析法(LC-MS/MS)により分析して得られるクロマトグラムにおいて、L-リシン-13C6一塩酸塩に由来するピーク面積に対する比として、
(1)環状(Phe-Phe)に由来するピーク面積が0.024以上であり、
(2)環状(Phe-Leu/Ile)に由来するピーク面積が0.040以上であり、
(3)環状(Leu/Ile-Val)に由来するピーク面積が0.015以上であり、
(4)環状(Phe-Pro)に由来するピーク面積が0.020以上であり、
(5)環状(Phe-Tyr)に由来するピーク面積が0.0020以上であり、
(6)環状(Pro-Leu/Ile)に由来するピーク面積が0.040以上であり、
(7)環状(Val-Val)に由来するピーク面積が0.004以上であり、
(8)環状(Phe-Ala)に由来するピーク面積が0.002以上であり、
(9)環状(Tyr-Ser)に由来するピーク面積が0.002以上であり、
(10)環状(Pro-Val)に由来するピーク面積が0.013以上であり、
(11)環状(Pro-Tyr)に由来するピーク面積が0.009以上であり、
(12)環状(Pro-Pro)に由来するピーク面積が0.050以上であり、
(13)環状(Leu/Ile-Ser)に由来するピーク面積が0.010以上であり、
(14)環状(Arg-Leu/Ile)に由来するピーク面積が0.10以上であり、
(15)環状(Ala-Tyr)に由来するピーク面積が0.007以上であり、
(16)環状(Gly-Tyr)に由来するピーク面積が0.002以上であり、
(17)環状(Ala-Pro)に由来するピーク面積が0.020以上であり、
(18)環状(Gly-Val)に由来するピーク面積が0.001以上であり、
(19)環状(hyPro-Pro)に由来するピーク面積が0.010以上であり、
(20)環状(Thr-Pro)に由来するピーク面積が0.040以上であり、
(21)環状(Val-Arg)に由来するピーク面積が0.060以上であり、
(22)環状(Pro-Asp)に由来するピーク面積が0.040以上であり、
(23)環状(Arg-Pro)に由来するピーク面積が0.035以上であり、
(24)環状(Glu-Tyr)に由来するピーク面積が0.050以上であり、
(25)環状(Pro-His)に由来するピーク面積が0.020以上であり、
(26)環状(Glu-Asp)に由来するピーク面積が0.080以上であり、
(27)環状(Gly-Arg)に由来するピーク面積が0.50以上であり、
(28)環状(Gly-His)に由来するピーク面積が0.005以上であり、
(29)環状(Leu/Ile-Leu/Ile)に由来するピーク面積が0.070以上であり、
(30)環状(Glu-Glu)に由来するピーク面積が0.010以上であり、
(31) 環状(Leu/Ile-Asp)に由来するピーク面積が0.010以上であり、
(32)環状(Phe-Asp)に由来するピーク面積が0.012以上であり、
(33)スルフロール(4-メチル-5-チアゾールエタノール)に由来するピーク面積が0.30以上であり、
(34)酢酸スルフロールに由来するピーク面積が0.025以上である、
のうち1以上を満たす、請求項1に記載の呈味増強用組成物。
(LC-MS/MSの測定方法)
前記加熱処理したクミン200mgと水5mLとを収容した10mL容試験管を、80℃の恒温水浴中で30分間加温して、水抽出物を調製する。前記試験管中の前記水抽出物にアセトニトリル5mL及び前記加熱処理したクミンに対して47μg/gとなる量のL-リシン-13C6一塩酸塩を添加し、撹拌した後、固体成分を除去し液体成分を回収して、検体試料を作成する。前記検体試料をLC-MS/MSにより分析してクロマトグラムを得る。
【請求項11】
前記加熱処理したクミンが、前記加熱処理したクミンに99μg/gのリビトールを添加し、下記方法による液体クロマトグラフィー質量分析法(LC-MS/MS)により分析して得られるクロマトグラムにおいて、リビトールに由来するピーク面積に対する比して、
(35)cis-アコニット酸に由来するピーク面積が0.180以上であり、
(36)trans-アコニット酸に由来するピーク面積が0.250以上であり、
(37)酒石酸に由来するピーク面積が0.550以上であり、
(38)リンゴ酸に由来するピーク面積が22.0以上であり、
(39)クエン酸に由来するピーク面積が35.0以上である、
のうち1以上を満たす、請求項1に記載の呈味増強用組成物。
(LC-MS/MSの測定方法)
前記加熱処理したクミン200mgと水5mLとを収容した10mL容試験管を、80℃の恒温水浴中で30分間加温して、水抽出物を調製する。前記試験管中の前記水抽出物にアセトニトリル5mL及び前記加熱処理したクミンに対して99μg/gとなる量のリビトールを添加し、撹拌した後、固体成分を除去し液体成分を回収して、検体試料を作成する。前記検体試料をLC-MS/MSにより分析してクロマトグラムを得る。
【請求項12】
前記加熱処理したクミンが、前記加熱処理したクミンに625μg/gの4-メチルチアゾールを添加し、下記方法によるガスクロマトグラフィー質量分析法(GC-MS)により分析して得られるクロマトグラムにおいて、4-メチルチアゾールに由来するピーク面積に対する比として、
(40)カルベオールに由来するピーク面積が0.05以上であり
(41)ネロリドールに由来するピーク面積が0.18以上であり、
(42)α-テルピネン-7-オールに由来するピーク面積が100以上である、
のうち1以上を満たす、請求項1に記載の呈味増強用組成物。
(GC-MSの測定方法)
前記加熱処理したクミン15mgと、前記加熱処理したクミンに対して625μg/gとなる量の4-メチルチアゾールと、アセトン5mLと、メタノール5mLとを収容した10mL容試験管を撹拌した後、固体成分を除去し液体成分を回収し、前記液体成分0.1mLあたりアセトン1mLを加えて、GC-MS検体試料を作成する。前記GC-MS検体試料をGC-MSにより分析してクロマトグラムを得る。
【請求項13】
請求項1~6及び9~12のいずれか1項に記載の呈味増強用組成物の製造方法であって、
クミンのみ又は水とクミンとの混合物を、油脂を添加することなく加熱価が15以上となり、加熱後の25℃で測定した水分活性が0.85以下となる条件で加熱して前記加熱処理したクミンを得ること、
を含む方法。
【請求項14】
前記加熱価が60以上500以下である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
請求項1~4及び7~12のいずれか1項に記載の呈味増強用組成物の製造方法であって、
クミンを、クミン100質量部に対して10質量部以上200質量部以下の油脂とともに加熱価が1以上となる条件で加熱して前記加熱処理したクミンを得ること、
を含む方法。
【請求項16】
前記加熱価が20以上4000以下である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
請求項1~12のいずれか1項に記載の呈味増強用組成物を、食品に配合することを含む、
食品の呈味を増強する方法。」
第4 特許異議申立理由の要旨
1 特許異議申立人Aが申し立てた特許異議申立理由の要旨
特許異議申立人Aが申し立てた請求項1ないし17に係る特許に対する特許異議申立理由の要旨は、次のとおりである。
(1)申立理由A1-1(甲第A1号証を主たる証拠とする新規性)
本件特許発明1ないし3、5、6、13、14及び17は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第A1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(2)申立理由A1-2(甲第A7号証を主たる証拠とする新規性)
本件特許発明1、2、7、8及び15ないし17は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第A7号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(3)申立理由A2-1(甲第A1号証を主たる証拠とする進歩性)
本件特許発明1ないし6、9ないし14及び17は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第A1号証に記載された発明に基づいて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(4)申立理由A2-2(甲第A7号証を主たる証拠とする進歩性)
本件特許発明1、2、7、8及び15ないし17は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第A7号証に記載された発明に基づいて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(5)申立理由A2-3(甲第A8号証を主たる証拠とする進歩性)
本件特許発明7は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第A8号証に記載された発明に基づいて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(6)申立理由A3(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし17に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
申立理由A3の具体的理由は次のとおりである。
ア 本件特許発明1の「加熱処理したクミンを含有する」について
(ア)本件特許発明1における呈味増強用組成物は「加熱処理したクミンを含有する」ことのみが要件となっており、加熱処理の条件やクミンの含有量は特定されていない。一方、本件発明の詳細な説明には、クミンの加熱条件として[0270]の表8の条件(油脂を添加しない実施例301~314では120~140℃で20~60分、加熱価53~168、油脂を添加した実施例315~319では100℃達温~200℃5分、加熱価1~4340)が例示されている。そして、[0290]~[0291]の表9、10に実施例301~319の「トップの塩角」の評価」及び「ミドルの膨らみ」の評価が示され、[0308]の表15に実施例305を使用した場合の各試料の呈味の評価結果が示されている。
(イ)しかしながら、いかなる加熱条件でも本件発明の効果が奏されることは確認されていない。また、加熱処理されたクミンをごくわずかに含有する場合でも呈味増強効果を奏するのかは不明である。従って、単に「加熱処理したクミンを含有する」ことのみを要件としている本件特許発明1は確認されていない加熱の条件やクミンの配合量を含んでいるため、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものであり、サポート要件を満たしていない。請求項1を引用する請求項2~4、17も同様である。
イ 本件特許発明2の「呈味」について
(ア)本件特許発明2は「呈味」について「塩味、甘味、酸味、苦味、旨味、コク味、甘旨味、辛味、渋味、及び、味の広がりから選択される1以上の呈味」と特定しており、加熱処理したクミンはこれらの呈味を増強するとされている。そして、発明の詳細な説明の[0308]には表15として実施例305における「基本味」、「出汁原料」、「調味料」、「原料」、「食品」のそれぞれの評価結果が示されている。
(イ)しかしながら、表15に示された呈味増強の効果については、実施例305(クミン130℃30分、加水無し)の1例しか示されていない。しかも、その評価は「甘味」における「グラニュー糖」、「旨味」における「グルタミン酸Na(MSG)」、同「イノシン酸Na」、「甘旨味」における「イノシン+アラニン」、「辛味」における「一味唐辛子」、同「黒胡椒」、「出汁原料」における「ビーフエキス」、同「ポークエキス」、同「かつおエキス」、「原料」における「カラメル」、同「リンゴペースト」、同「たんぱく加水分解物」、同「カレーパウダーA」では、いずれも評価者3名のうち2名が「評価1(陰性対照試料と同程度)」としている。そうとすれば、「甘味」、「旨味」、「甘旨味」、「辛味」について本当に呈味増強効果が認められるのかが疑問であり、また「苦味」「コク味」、「渋味」、「味の広がり」については評価結果すら示されていない。
(ウ)また、「酒石酸」の評価は、評価者1、2は4.0であるが、評価者3は1.0である。また、「グルタミン酸Na(MSG)」の評価は、評価者1、3は1.0であるが、評価者2は4.0であり、「イノシン酸Na」の評価は、評価者1、2は1.0であるが、評価者3は4.0であり、「イノシン酸Na+グアニル酸Na」の評価は、評価者2、3は4.0であるが、評価者1は1.0である。また、「一味唐辛子」の評価は、評価者1、3は1.0であるが、評価者2は4.0である。また、「ビーフエキス」の評価は、評価者1、3は1.0であるが、評価者2は4.5である。また、「しょうゆ」の評価は、評価者2、3は4.0であるが、評価者1は1.0である。官能評価を行う場合には、その評価をどのようにして行うのか、例えば、評点を「0.1」又は「1」上げ下げするにはどの程度の呈味の違いが必要か等について予め評価者の間で確認しておく必要があるが、本件の場合、そのような確認が予めなされていたのかが不明である。
(エ)例えば、「評価者1」は「グラニュー糖」、「グルタミン酸Na(MSG)」等の多数の項目についていずれも「評価1(陰性対照試料と同程度)」としている。そもそも、呈味に関する官能検査を行う場合に、たった3名の評価者で行うことで正しい評価がなされるのか疑問である。しかも、評価者1はその多くが陰性対照試料と同程度の味との評価をしている。この場合、仮に、評価者1が正しい評価を行っていたとすれば、他の評価者の評価をそのまま採用してもよいのか疑問であり、反対に、評価者1の評価が信頼性の低いものであった場合には各実施例の評価は信頼性に欠けるものとなる。この点、官能評価については、例えば、甲A3には、官能試験の手順が詳細に説明され、評価者の人数も35名と客観性が担保されている。また、甲A9では、評価者を適性等により選定し、評価者の人数も47名と客観性を確保している。これに対し、本件発明の官能検査は、甲A7、A8に示すような、客観性が確保されていることを示す記載も無く、たった3名の評価によるものであり、各実施例の評価は信頼性に欠ける。
(オ)従って、本件特許発明2はもちろん、本件特許発明1についても、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものであり、サポート要件を満たしていない。また、呈味増強の効果を奏するとする請求項3~17も同様である。
ウ 本件特許発明3の「呈味」について
(ア)本件特許発明3は「呈味」について「前記呈味が、食塩、ショ糖、クエン酸、酒石酸、ナリンギン、グルタミン酸又はその塩、アスパラギン酸又はその塩、コハク酸又はその塩、イノシン酸又はその塩、グアニル酸又はその塩、グリシン又はその塩、アラニン又はその塩、唐辛子、黒コショウ、動物又は植物由来エキス、及び、調味料から選択される1以上の呈味成分に由来する呈味である」と特定しており、加熱処理したクミンはこれらの呈味を増強するとされている。
(イ)しかしながら、上記イにおいて述べたように、発明の詳細な説明に記載された官能評価の結果は客観性が認められず、受け入れることはできない。
(ウ)また、本件特許発明3は「呈味」として示されている「ナリンギン」、「アスパラギン酸又はその塩」、「グアニル酸又はその塩」については実施例がなく、それらの呈味が増強されるのかは不明である。
(エ)従って、本件特許発明3は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものであり、サポート要件を満たしていない。また、呈味増強の効果を奏するとする請求項13~17も同様である。
エ 「食品の呈味を増強する方法」について
(ア)本件特許発明17には、呈味増強用組成物の配合量は特定されていない。
(イ)本件特許発明17における構成要件Eは、呈味増強用組成物の配合量を特定していないため、クミンの含有量が多い呈味増強用組成物を多量に配合したような場合には、食品が有する呈味を増強する以前に、クミンが有する香気によって当該食品の風味に影響を与えてしまうと考えられる。そのため、食品に対して配合される呈味増強組成物の配合量、言い換えればクミンの配合量には限界があると考えられる。このように、呈味増強用組成物にクミンがどの程度含有されているかによってその配合量も変わるものであるから、呈味増強用組成物の配合量はクミンの含有量に着目した配合量で特定される必要がある。
(ウ)従って、クミンの含有量に基づいた呈味増強用組成物の配合量が特定されていない本件特許発明17は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものであり、サポート要件を満たしていない。
(7)申立理由A4(明確性要件)
本件特許の請求項3、5ないし8及び13ないし17に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
申立理由A4の具体的理由は次のとおりである。
ア 「加熱価」について
(ア)本件特許発明5~8、13~16及び本件特許発明5~8を引用する本件特許発明17では「加熱価」が要件となっている。「加熱価」については甲第10号証の[0040]~「0041」に計算方法が記載されている。すなわち、加熱価は以下の式によって表される値(以下「CV値」)を加熱時間(分)で積分した値として求められる。
(式):CV値=10[(品温-基準温度)/Z値]
尚、「基準温度」は110℃、「Z値」は30(℃)である。
(イ)一方、甲A10の[0269]には「クミンのホール種子(クミンシード)を下記表に示す条件で加熱処理した。加熱価は、既述の通り前記式(「基準温度」は110℃、「Z値」は30(℃))によるCV値を加熱時間(分)で積分した値である。加熱条件の欄に記載の温度及び時間は最高到達温度及びその保持時間であるのに対し、加熱価の計算には温度上時及び降下時の温度及び時間を含む温度の経時変化も考慮した。」と記載され、実施例301~319における加熱価も経時変化を考慮したものと考えられる。また、実施例301~314は加圧下で加熱が行われているのに対し、実施例315~319は常圧下で加熱が行われている。しかしながら、温度上昇時及び降下時の温度及び時間を含む温度の経時変化や加圧条件をどのように考慮して加熱価を算出するのかについて具体的な記載がなく不明である。そうとすれば、本件特許発明5~8、13~16における「加熱価」は、甲A10の[0040]~「0041」に記載の計算方法によって単に算出したものでよいのか、それとも温度上昇時及び降下時の温度及び時間を含む温度の経時変化や加圧条件等を考慮する必要があるのかが不明である。
(ウ)従って、本件特許発明5~8、13~16及び本件特許発明5~8を引用する本件特許発明17に係る発明は、明確性要件を満たしていない。
イ 「調味料」について
(ア) 本件特許発明3は構成要件B2として「前記呈味が、食塩、ショ糖、クエン酸、酒石酸、ナリンギン、グルタミン酸又はその塩、アスパラギン酸又はその塩、コハク酸又はその塩、イノシン酸又はその塩、グアニル酸又)はその塩、グリシン又はその塩、アラニン又はその塩、唐辛子、黒コショウ、動物又は植物由来エキス、及び、調味料から選択される1以上の呈味成分に由来する呈味である、」と特定されている。そして、甲第10号証(本件詳細な説明)の[0031]には「前記調味料としては、トマトペースト、バナナペースト、リンゴペースト、ハチミツ、醤油、味噌、ケチャップ、ウスターソース、マヨネーズ、チーズ、めんつゆ、脱脂大豆、脱脂粉乳、酵母エキス、タンパク質加水分解物、及び、カレーパウダーから選択される1以上が挙げられる。」と記載されている。一方、実施例として同[0308]の「表15」に示された各実施例においては「脱脂大豆」は示されておらず、呈味増強効果の有無は確認されていない。また、表15によれば「トマトペースト」は「出汁原料」に分類され、「バナナペースト」、「リンゴペースト」、「ハチミツ」、「脱脂粉乳」、「酵母エキス」、「タンパク質加水分解物」、「カレーパウダー」は「原料」に分類されており、これらは「調味料」には分類されていない。そのため、「調味料」には具体的にどのようなものが含まれるのかその範囲が不明であり、明確でない。
(イ)従って、本件特許発明3及び本件特許発明3を引用する本件特許発明13~17に係る発明は、明確性要件を満たしていない。
(8)証拠方法
・甲第A1号証:特開2011-72307公報
・甲第A2号証:特開2020-202765公報
・甲第A3号証:佐々木公子、亀山菜美子、園部菜穂、濱野香里、植野洋志、「GAD67の活性に影響を与える食品成分と味覚の伝達との関連 -ハーブに含まれる食品成分による酸味と甘味に与える影響-」、美作大学・美作大学短期大学部紀要、第58巻、第1~10頁、2013年
・甲第A4号証:「ヘルシーでスパイスの恵みたっぷり!クミンのカロリーと栄養」2020年2月7日、<URL: https://www.olive-hitomawashi.com/column/2019/03/post-4221.html>
・甲第A5号証:「減塩に使えそうなスパイスランキング」(2020年3月31日)、<URL: https://www.atpress.ne.jp/news/209345>
・甲第A6号証:佐藤幸子、田中楓子、長岡麻紀、「クミン(Cuminun cyminum L.)の香気成分に及ぼす乾煎りおよび油炒めの影響」、実践女子大学生活科学部紀要、第57巻、第9~13頁、2020年
・甲第A7号証:米国特許出願公開第2017/0306263号明細書
・甲第A8号証:特開2023-1775公報
・甲第A9号証:坂本千科絵、深田茉莉絵、久木久美子、植野洋志、上田由喜子、曽田俊哉、「味覚情報伝達への影響が期待される香辛料を用いた料理への減塩効果および添加香辛料の探索方法」、日本食育学会誌、第12巻、第2号、第147~155頁(2018年)
・甲第A10号証:特許第7498381号公報
また、特許異議申立人Aは、令和7年9月4日に提出した意見書に添付して、次の甲第A11号証ないし甲第A16号証を提出している。
・甲第A11号証:久木久美子、「味覚情報伝達を利用した減塩に役立つ食品の探索と同定」、奈良女子大学大学院、2014年
・甲第A12号証:特開平2-92253公報
・甲第A13号証:佐藤幸子 他、「クミンの香気成分に及ぼす乾煎りおよび油炒めの影響」、実践女子大学 生活科学部紀要、第57号、p.9~13、2020年
・甲第A14号証:河合崇行、「食品における塩味の増強効果とその評価」、日本醸造協会誌、第112巻、第1号、p.22~28,2017年
・甲第A15号証:佐々木公子、「味覚情報伝達機構からみたGADとGABAの味覚への関連および味覚改変物質の探索」、奈良女子大学大学院、2014年
・甲第A16号証:「【スパイス豆知識】失敗しないテンパリングの方法~ホールスパイス編~」、スパイス・ハーブのネット通販専門店 SPICE LUCK-スパイスラック ブログ、2014年9月2日、<URL:https://www.spiceluck.jp/spice/knowledge/2640/>
なお、証拠の表記については、特許異議申立人Aが提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書A」という。)及び上記意見書における記載におおむね従った。以下、順に「甲A1」のようにいう。
2 特許異議申立人Bが申し立てた特許異議申立理由の要旨
特許異議申立人Bが申し立てた請求項1ないし17に係る特許に対する特許異議申立理由の要旨は、次のとおりである。
(1)申立理由B1-1(甲第B1号証を主たる証拠とする新規性)
本件特許発明1は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第B1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、その発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(2)申立理由B1-2(甲第B2号証を主たる証拠とする新規性)
本件特許発明1及び17は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第B2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(3)申立理由B1-3(甲第B3号証を主たる証拠とする新規性)
本件特許発明1及び2は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第B3号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(4)申立理由B1-4(甲第B4号証を主たる証拠とする新規性)
本件特許発明1、2及び17は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第B4の1ないしB4の4号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(5)申立理由B1-5(甲第B5号証を主たる証拠とする新規性)
本件特許発明1及び2は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第B5の1ないしB5の2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(6)申立理由B2-1(甲第B1号証を主たる証拠とする進歩性)
本件特許発明1、4ないし8及び13ないし16は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第B1号証に記載された発明に基づいて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(7)申立理由B2-2(甲第B2号証を主たる証拠とする進歩性)
本件特許発明1、4ないし8及び13ないし17は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第B2号証に記載された発明に基づいて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(8)申立理由B2-3(甲第B3号証を主たる証拠とする進歩性)
本件特許発明1、2、4ないし8及び13ないし16は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第B3号証に記載された発明に基づいて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(9)申立理由B2-4(甲第B4号証を主たる証拠とする進歩性)
本件特許発明1ないし8及び13ないし17は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第B4の1ないしB4の4号証に記載された発明に基づいて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(10)申立理由B2-5(甲第B5号証を主たる証拠とする進歩性)
本件特許発明1、2、4ないし8及び13ないし16は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第B5の1ないしB5の2号証に記載された発明に基づいて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(11)申立理由B3(明確性要件)
本件特許の請求項1ないし17に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
申立理由B3の具体的理由は次のとおりである。
本件特許発明1は、加熱処理したクミンを含有する、食品に配合して前記食品が有する呈味を増強するための、呈味増強用組成物である。
甲第4号証に示すとおり、食品の呈味を増強するために、加熱処理したクミンを含有するクミン組成物を含有する製品が種々市場にて販売されている。そうとすると、これら製品はいずれも本件特許発明1と同等のものといえ、特許要件を具備するとして成立した本件特許発明1とこれら製品との境界不明確であると言わざるを得ない。してみれば、本件特許発明1は、特許を受けようとする発明が明確であることを要件とする明確性要件を満たすとは到底いえない。
したがって、本件特許発明1は不明確である。また、本件特許発明2ないし17は、すべて本件特許発明1に従属するものであるため、同様に不明確である。
(12)証拠方法
・甲第B1号証:「プロに学ぶ 新カレー教本」、第9~11、112~114頁、旭屋出版、2015年8月18日
・甲第B2号証:水野仁輔、「カレーの教科書」、第18~20頁、NHK出版、2013年5月13日
・甲第B3号証:渡辺玲、「カレー大全 カレー伝道師の160話」、第244~245頁、株式会社講談社、2009年8月27日
・甲第B4の1号証:ヤマザキ製カレーパン 商品写真、山崎製パン、2020年
・甲第B4の2号証:「MOS NEWS」、株式会社モスフードサービス、2019年7月9日
・甲第B4の3号証:「新宿中村屋ニュースリリース」、株式会社中村屋、2022年2月10日
・甲第B4の4号証:「ハウス食品グループニュースリリース」、ハウス食品グループ本社株式会社、2022年1月28日
・甲第B4の5号証:「エスビー食品株式会社 NEWS RELEASE」、エスビー食品株式会社、2016年2月15日
・甲第B5の1号証:「クミンを知ろう|書籍【カレー CURRY】から」、マサキキッチン スパイスカレーブログ、2022年9月9日、<URL: https://masamasapanic.com/クミンを知ろう|書籍【カレー-curry】から/>
・甲第B5の2号証:「クミン~スパイスの魅力を引き出すカレー、その他のレシピ~」、buono編集部、2019年7月13日、<URL: https://funq.jp/buono/article/494754/>
・甲第B6号証:「スパイスが織りなす香りの魔法 カレー」、第56~57頁、株式会社エイ出版社、2016年12月30日
また、特許異議申立人Bは、令和7年9月5日に提出した意見書に添付して、次の甲第B7号証ないし甲第B12号証を提出している。
・甲第B7号証:「クミン~スパイスの魅力を引き出すカレー、その他のレシピ~」、buono編集部、2019年7月13日、<URL: https://funq.jp/buono/article/494754/>
・甲第B8号証:クックパッド、「減塩カレー」、2018年3月25日、<URL:https://cookpad.com/jp/recipes/20223190>
・甲第B9号証:エスビー食品株式会社、「おかげさまで発売50周年 「ゴールデンカレー」シリーズ 2月1日からリフレッシュ」、PR TIMES、2016年1月19日、<URL:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000028.000003092.html>
・甲第B10号証:毎日グリル部 コラム・特集、「スパイスの世界~クミン~」、株式会社ノーリツ、2019年11月11日、<URL:https://www.mainichigrillbu.com/column/111>
・甲第B11号証:「スパイスが織りなす香りの魔法 カレー」、第34、88~89、158~159頁、株式会社エイ出版社、2016年12月30日
・甲第B12号証:クックパッド、「クミンとしょうがのスパイスきんぴら」、2020年10月15日、<URL:https://cookpad.com/jp/recipes/21264093>
なお、証拠の表記については、特許異議申立人Bが提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書B」という。)及び上記意見書における記載におおむね従った。また、システム上表記できない文字はカタカナで表記した。以下、順に「甲B1」のようにいう。
第5 取消理由通知に記載した取消理由(決定の予告)の概要
本件訂正前の請求項1~17に係る発明についての特許に対して、令和7年11月5日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の概要は、以下のとおりである。
取消理由1-4(甲A11を主たる証拠とする新規性)
本件特許発明1ないし4、9ないし12及び17は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲A11に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
取消理由2-4(甲A11を主たる証拠とする進歩性)
本件特許発明1ないし4及び9ないし17は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲A11に記載された発明に基づいて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
第6 当審の判断
以下で検討するとおり、当審は、令和7年11月5日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の理由並びに特許異議申立人A及びBが申し立てた特許異議申立理由では、本件特許発明1ないし17に係る特許を取り消すことはできないものと判断する。
1 取消理由1-4及び取消理由2-4(甲A11を主たる証拠とする新規性・進歩性)について
(1)甲A11の記載事項等
ア 甲A11の記載事項
甲A11には「味覚情報伝達を利用した減塩に役立つ食品の探索と同定」に関し、次の記載がある。下線は当審で付したものである(他の証拠についても同様)。また、摘記にあたり、段組に関しては、反映していない部分がある。
・「以上のことから味蕾細胞内においてGAD/GABA関与の情報伝達機構,すなわちグルタミン酸を基質としてGADにより産生されたGABAが細胞外に放出されてパラクライン,あるいはオートクライン的にクロライドイオンチャネルに作用あるいはGATを介してナトリウムイオンとクロライドイオンの輸送を行うことで塩味に働きかける味覚情報伝達の可能性が考えられた(Shigesato and Shimamoto 2006).そこでもし,私たちが口にする食品によりGAD67が働き(GAD活性) をコントロールできるなら,塩味の錯覚を起こさせる,あるいは塩味を強めることができる食品「減塩に役立つ食品」となりえる.
ただし,はじめに述べたように味蕾には2つのアイソフォームが異なる場所に発現しており(GAD65は細胞表面あるいはI型に,GAD67はIII型味蕾細胞に),働きもI型で合成されたGABAは機能性を持たず,III型で合成されたGABAはGABAレセプターを介し何らかの機能性をもつとの報告もされている (Huang et al., 2011).
そこで,本研究はまず,GABAの味覚への働きかけについて検証後,GADアイソフォームによる味覚,特に塩味への働きかけに違いがあるのか,食品成分によるGADアイソフォームへの効果と味覚との関連性から検討を行い(Fig. 1.10参照),GAD/GABAを介した減塩に役立つ食品の探索を行い,一定の結果を得たので報告する.」(第9頁第4行~第22行)
・「4.1. 食品成分によるGAD65活性について
4. 1 .1 実験方法
(1) 食品成分の抽出
食品は香辛料Spices and herbs,茶Teas,スプラウトSprouts,キノコ類Fuing,藻類Algaeを用いた.食品に含まれる成分(以下食品成分と略す)は,食品の粉末(もしくは粉砕)のg重量に対し5倍の蒸留水を加え4~6℃で一晩抽出後上清を得,これを食品成分とした.食品成分のpHは弱酸性の4.4~7.6であった.探索に用いた食品は以下の通りである.
香辛料 Spices and Harbs
タラゴンtarragon,バジルbasil,レモングラスlemongrass,ハッカmint,チャービルchervil,ローレルbay leaf,レモンバームlemon balm,パセリparsley,ヤロウyarrow,ペパーミントpeppermint(以上葉 leaf),メースmace(仮種皮 aril),クチナシgardenia fruit,パプリカpaprika(以上果実 fruit),ケシノミpoppy seed,クミンcumin,アニスanise(以上種実 seed),ターメリックturmeric,ショウガ(以上根茎root and rizome)の18種類.」(第54頁第8行~第55頁第2行)
・「第5章 香辛料や茶の成分が味覚に与える影響について
5.1. 緒論
香辛料や茶の成分によりGAD活性が制御され,GABA合成量が変化することがわかったことから,それらの食品成分が塩味にどのような影響を与えるのか,塩味との関係性を探るため,官能検査を用い検討することにした.また,甘味についても実験を行うことにした.甘味はII型味蕾細胞にあるG-タンパク質共役型受容体(GPCR)に結合し受容される.塩はよく知られているように甘味に対し隠し味として働く.しかしながら外来性GABAは第2章および第4章により甘味に対し塩味のような隠し味の効果をもたないとの結果が得られたことから,味蕾細胞内でGADより合成されたGABAもII型細胞で感知される甘味の信号を増幅させる働きを持たないと推測される.そこでこれを検証するため甘味についても検討することにした.
5.2. 実験方法
5.2.1. 官能検査に用いた食品成分の種類と特徴
食品成分の抽出は4.2.1と同様である.また,成分の特徴はTable 4.1 に示す.
5.2.2. 官能検査の実施方法
官能検査は18歳から25歳までの健康な女性を対象に実施した.塩味は0.8% NaCl,甘味は3% sucroseを,食品成分は官能検査が可能な濃度に希釈したものを用いた.官能検査の方法は次の通りである.
1. 水で口をすすぎ,吐き出す.
2. 塩味/甘味5mlを舌の上にのせ転がし,よく味わったら吐き出す.
3. 水で口をすすぎ,吐き出す.
4. 食品成分0.5~1mlを舌の上にのせ転がす(飲み込んでも可).
5. 塩味/甘味5mlを口に含み吐き出す.
被験者には,食品成分を口に含んだ後の味の強さを3段階,強まった「strong」,変わらない「same」,弱まった「weak」で評価してもらった.なお,被験者にはあらかじめ官能検査の趣旨を説明し,同意を得たうえで実施した.
5.3. 結果
官能検査の結果をTable 5.1に示す.
食品成分を味わった後,塩味が弱まると被験者の5割以上が評価した食品成分は,lemongrass, oolong,oreganoであった.塩味が「strong」と評価した人数と「weak」と評価した人数で有意差検定を行ったところ(「おいしさを測る 官能検査の実際」 吉川秀子著 幸書房 p129 2点比較法 (嗜好)の検定表-両側検定-を利用), oreganoについてはp<0.01で有意差が認められた.塩味が強まると評価されたのはcelery,anise,rose rugosa,cuminで,同様に検定を行ったところ,celeryについてp<0.05で有意差が認められた.
また,甘味については,甘味が弱まると被験者の5割以上が評価した食品成分はoreganoでp<0.01で有意差が認められた.甘味が強まると評価されたのは16種類中eucalyptus,mace,poppy seed,anise,celery,oolong,lemongrassの7種類で,celery,mace,poppy seedについてはp<0.001,anise,lemongrassはp<0.01,oolong,eucalyptusはp<0.05で有意差が認められた.
5.4. 図表
Table 5.1 食品成分の味覚に及ぼす影響 (官能検査を用いて)
[図:0001435171000001.jpg]
[図:0001435171000002.jpg]
Table 5.1【A】【B】
食品成分を味わった後の味の強さを3段階,強まった「strong」,変わらない「same」,弱まった「weak」で評価.
* p<0.05, **p<0.01, ***p<0.001:「strong」 vs「weak」で2点比較法による有意差検定をした結果である.」(第72頁~第76頁)
・「
[図:0001435171000003.jpg]
」(第81頁)
・「第7章 減塩に役立つ食品成分の評価系の検討:GAD67/GABAの塩味情報伝達から
7.1. 減塩に役立つ食品成分の評価系および食品成分の同定
塩味の受容は,現在上皮性ナトリウムイオンチャネル(ENaC)が第一候補として考えられており,ナトリウムイオンがこのチャネル構造から取り込まれる事で味が受容されるとしているが,陰イオンであるクロライドイオンがヨウ素イオンに変われば,全く塩味と異なる味となる事から,塩味としてクロライドイオンの関与も無視する事はできない.
遺伝子改変マウスを用いた研究で,味蕾細胞III型にうま味物質であるグルタミン酸を基質としたGABA合成酵素であるGAD67が発現し,GABAを産生している事,またGABAをリガンドとするクロライドイオン型受容体のGABAAレセプターやナトリウムイオンとクロライドイオンを共輸送するGABAトランスポーターが味蕾細胞で発現が報告されたことから,GABAを介した味覚情報伝達,特に塩味の情報伝達が存在するのではないかと考えられた.
そこで,GABAが味覚にどのような働きかけをするのか,GABAの味覚における効果を検討したところ,GABAは無臭であるが無味ではなく,特に酸味を感じる傾向にあった.また,基本五味に対するGABAの効果は(基本五味として3% sucrose, 0.5% citric acid,0.6% NaCl,0.00125% quinine sulfate,0.06% MSGを使用,またGABAは閾値程度の0.0025% GABAを使用し,GABA添加のものと無添加のものとの味の強さを比較),甘味,苦味,酸味についてはGABAの添加による効果は認められなかった(甘味p<0.05,苦味p<0.001で有意差あり)が,塩味やうま味についてはGABAの添加により味が強まり(有意差はなし),特に塩味については味質を変えることなく塩味を強めるという結果が得られた.このことからもGABAが塩味に何らかの影響を与えるもの推測できた.
そこで,もし,III型味蕾細胞に発現するGAD67を私たちが食事でとる食べ物で働きを促進する事ができるなら,GAD67より産生されたGABAにより塩味を強める,あるいは塩味のような錯覚を起こす事ができるのではないか?すなわち,GAD67に働きかける食品成分は減塩に役立つ食品成分になりえると考えられた.そこでGABA合成酵素の働きを制御する食品成分について探索し,その食品成分が塩味にどのような影響をあたえるのか,1) 食品成分によるGAD67の活性度についてはin vitroで,2) 食品成分が塩味に与える影響については動物実験で行うことが難しいことから,ヒトによる味覚官能検査を用い両者の関連性を検討した.
GAD67の活性測定には香辛料や茶などの17種類用いた.食品成分を添加したものと添加しなかったものにそれぞれ基質であるL-glutamteと補酵素のPLP含む緩衝液(pH7.1)とGAD67を反応させ,PCAで反応を止めた.反応時間1分当たりのに生成したGABA量(タンパク質1mg当たり)を比較しGAD67活性[GAD67 activity]% として求めた.
なお,食品成分そのものにもGABAが含まれる可能性が考えられたことから,GAD67を加え反応させる前にPCAを加え反応をストップさせたもの(反応時間0時)を用意しその影響は取り除き,GAD67活性を求めている.
その結果(Fig. 4.2),rose rugosa,eucalyptusについては80%以上活性が阻害され,oolong,oregano,peppermintについては60%以上の活性が阻害された.一方yuzu peel,anise,cumin,celeryについてはGAD67の活性が促進された.
次に,GAD67活性測定に用いた食品成分が,塩味にどのような影響を与えるのか,味覚官能検査を用い検討した.
官能検査の方法としては,食品成分を口に含んでもらい,食品成分を味わう前より,塩味が強まった「strong」,変わらない「same」,弱まった「weak」の3段階で評価してもらった(Table 5.1).食品成分が塩味に与える影響度合いを「塩味増強度Enhancing effect of salty taste ponts」として,塩味が強まった「strong」と評価した人数から,塩味が弱まった「weak」と評価した人数を引き,それを被験者数nで割った割合をpointとして求めた(Table 6.1).これをGAD67活性%と比較し,両者の関連性を検討した.
なお,塩味増強度とGAD67活性 との関連性を検討するにあたって,食品成分由来のGABA量が塩味の強弱に影響を与える可能性が考えられたため,あらかじめ食品成分中のGABA量を測定し(Table 4.1に示す),味覚への影響(すなわち,塩味増強度Table 6.1)との関連を見た.その結果,GABA量が多く含まれるcelery,peppermint,gingerについては必ずしも塩味増強度効果を示さず,また,GABA量の少ないpoppy seed,eucalyptus,mace,basil,cumin,oreganoについてもoreganoをのぞき塩味増強効果は中等度であったことから,食品に含まれるGABAは味覚に影響を与えないものと示唆された.
GAD67活性と塩味増強度との関連性をみた結果をFig. 6.2に示す.GAD67活性を横軸に,塩味増強度を縦軸にとり,交点を●でプロットした.なおGAD67活性が+になれば,活性が促進されたことを示し,-になれば活性が阻害されたことを示す.Fig. 6.2によるとGAD67活性が促進すれば塩味増強度も高くなる傾向がみられた(R2=0.278).
以上のことから,GAD67活性を促進する食品は塩味増強度も高くなる傾向が見られたことから,これらの食品は減塩に役立つ食品になり得る可能性があることがわかった.この評価系を確立すれば食品の塩味増強度を簡易に知ることができる.
食品成分よりGAD67より合成されたGABAが塩味を強めると考えられるなら,香辛料,茶の成分の中にはGAD67の酵素阻害率の非常に高いものはGABAをほとんど産生しないと考えられる.そこでGAD67活性-80%以上のeucalyptus,rose rugosaを除き塩味増強度との関連性をみた.結果をFig. 7.1に示す.
食品成分のGAD67 活性-80%以上のものを除くとGAD67活性と塩味増強度の間に正の相関性(R2=0.6707)が認められた.本研究の目的であった食品成分の減塩に役立つ食品成分の評価法として,GAD67活性を測定することで(ただし,GAD67 acitivty-80%以上のものは除けば),塩味増強度の度合いが容易に判定できることが示唆された.
そこでこの評価系を用い塩味増強効果のある食品,すなわち減塩に役立つ食品は,今回実験をした17種類の食品のうちyuzu peel,anise,cumin,celeryの4種類であると同定された.
7.2. 減塩に役立つ食品を用いた減塩食への取り組み
減塩に役立つ食品と同定されたyuzu peel,anise, cumin,celeryのうち料理に使用しやすくかつカレー粉に必ず使用されるcuminを用いて,塩味濃度を下げても塩味増強効果が実際あるのか,第5章の実験で用いた0.8% NaCl濃度を0.6%へ下げ官能検査を行った.なお,cumin抽出液は第4章4.1.1の通り得たものである.
7.2.1. 官能検査の実施方法
官能検査は18歳から20歳までの健康な女性を対象に実施した.塩味は0.6% NaCl,cumin抽出液は官能検査が可能な濃度に希釈したものを用いた.官能検査の方法は次の通りである.
1. 水で口をすすぎ,吐き出す.
2. 塩味5mlを舌の上にのせ転がし,よく味わったら吐き出す.
3. 水で口をすすぎ,吐き出す.
4. cumin抽出液0.5~1mlを舌の上にのせ転がす(飲み込んでも可).
5. 塩味5mlを口に含み吐き出す.
被験者subjectには,食品成分を口に含んだ後の味の強さを3段階(強まる「strong」,同じ「same」,弱まる「weak」)で評価してもらった.なお,被験者にはあらかじめ官能検査の趣旨を説明し,同意を得たうえで実施した.
7.2.2. 結果
結果Table 7.1に示す.
0.8% NaClの官能検査結果は,Table7.1より再掲したものである.有意差は出なかったものの,cuminをは塩味を強めると回答した被験者の割合が高く,また塩味増強度についても,塩味濃度が高い0.8% NaClより0.6% NaClの時の方が高く,塩味を強める効果が認められた.
7.2.3. 減塩食への応用
Cuminの減塩効果が認められたことから,現在cuminを用いた料理,豚肉のソテーとプチパンの二品の試作を行い試食会を開いたところ,参加者からの一定の評価が得られた.
そこで,この料理を臨床現場で利用できるのか,来年度の実習を通し検討していく予定である.なお,次に豚肉のソテーとプチパンのレシピとその評価を示す.
[図:0001435171000004.jpg]
[図:0001435171000005.jpg]
[図:0001435171000006.jpg]
」(第84頁~第92頁)
イ 甲A11に記載された発明
上記アの記載、特にクミンについて確認された塩味増強効果と、減塩食として試作された豚肉のソテーとプチパンに含まれるクミンパウダーに着目して整理すると、甲A11には次の発明が記載されていると認める。
「豚肉の肩ロース1枚 100g、塩 0.6g、クミンパウダー 0.1g、こしょう 少々、濃口しょう油 1gを材料として調製された豚肉のクミンソテーに含まれる、塩味増強効果のある食品であるクミンパウダー。」(以下、「甲A11発明1」という。)
「甲A11発明1の製造方法。」(以下、「甲A11製法発明1」という。)
「甲A11発明1を豚肉のソテーに添加することを特徴とする、豚肉のソテーの塩味増強方法。」(以下、「甲A11方法発明1」という。)
「強力粉 100ベーカーズ%、ドライイースト 1.5ベーカーズ%、塩 1ベーカーズ%、クミンパウダー 0.2ベーカーズ%、砂糖 5ベーカーズ%、スキムパウダー 5ベーカーズ%、ショートニング 5ベーカーズ%、水 65ベーカーズ%を材料として調製されたプチパンに含まれる、塩味増強効果のある食品であるクミンパウダー。」(以下、「甲A11発明2」という。)
「甲A11発明2の製造方法。」(以下、「甲A11製法発明2」という。)
「甲A11発明2をプチパンに添加することを特徴とする、プチパンの塩味増強方法。」(以下、「甲A11方法発明2」という。)
(2)対比・判断
ア 本件特許発明1について
(ア)本件特許発明1と甲A11発明1との対比
甲A11発明1の「クミンパウダー」は、「塩味増強効果のある食品」であって、食品である豚肉のソテーに添加されることでその塩味を増強させるものであるから、本件特許発明1の「食品に配合して前記食品が有する呈味を増強するための、呈味増強用組成物」に相当する。
また、甲A11発明1のクミンパウダーは、クミンの粉砕物であって、ソテーの調理過程において加熱されているから、甲A11発明1は本件特許発明1の「加熱処理したクミンを含有する、前記加熱処理したクミンが、ホール種子の形態又はホール種子を粉砕した粉砕物の形態であり、」との特定事項を満たす。
してみると、両者の一致点、相違点は以下の通りである。
(一致点)
「加熱処理したクミンを含有する、
前記加熱処理したクミンが、ホール種子の形態又はホール種子を粉砕した粉砕物の形態である、
食品に配合して前記食品が有する呈味を増強するための、呈味増強用組成物。」
(相違点)
・相違点11
加熱処理したクミンについて、本件特許発明1は、
「クミンのみ又は水とクミンとの混合物を、油脂を添加することなく、加熱後の25℃で測定した水分活性が0.85以下となる条件で加熱することにより得られたものである、
或いは、
クミンを、クミン100質量部に対して10質量部以上200質量部以下の油脂とともに加熱することにより得られたものである、」
と特定するのに対し、甲A11発明1はそのように特定されていない点。
(イ)相違点11についての判断
甲A11発明1におけるソテーの各材料の分量からみて、甲A11発明1が相違点11に係る本件特許発明1の特定事項を満たさないことは明らかであり、相違点11は実質的な相違点である。よって、本件特許発明1は甲A11発明1ではない。
また、甲A11には、油脂を添加することなくクミンのみ又は水とクミンとの混合物を加熱すること、あるいは、クミンを、クミン100質量部に対して10質量部以上200質量部以下の油脂とともに加熱することを動機付ける記載はなく、甲A11発明1の調理レシピを変更し、相違点11に係る本件特許発明1の特定事項を満たすものとする動機はない。
そして、本件特許発明1は、加熱処理したクミンを含有することにより、加熱していないクミンよりも高い呈味増強作用を有する(本件明細書の【0289】)という効果を奏するものであり、その効果は、甲A11発明1並びに甲A1及び他の全ての証拠に記載された事項からみて、本件特許発明1の構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである。
したがって、甲A11発明1において、上記相違点11に係る本件特許発明1の発明特定事項を満たすものとすることは、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
(ウ)本件特許発明1と甲A11発明2との対比、判断
本件特許発明1と甲A11発明2とを対比すると、上記(ア)と同様の相当関係をとることができ、両者は相違点11と同様の相違点を有する。そして、当該相違点については上記(イ)と同様に判断される。
よって、本件特許発明1は、甲A11発明2ではなく、甲A11発明2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ 本件特許発明2~4及び9~12について
本件特許発明2~4及び9~12は、請求項1の記載を引用して特定されるものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て備えるものである。そうすると、本件特許発明1と同様の理由により、本件特許発明2~4及び9~12は、甲A11発明1又は甲A11発明2ではなく、甲A11発明1又は甲A11発明2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 本件特許発明13について
本件特許発明13は「請求項1~6及び9~12のいずれか1項に記載の呈味増強用組成物の製造方法」であるから、本件特許発明13と甲A11製法発明1及び甲A11製法発明2とを対比すると、少なくとも上記相違点11と同様の相違点があり、当該相違点については上記ア(イ)と同様に判断される。
したがって、他の相違点について判断するまでもなく、本件特許発明13は、甲A11製法発明1又は甲A11製法発明2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
エ 本件特許発明14について
本件特許発明14は、請求項13の記載を引用して特定されるものであり、本件特許発明13の発明特定事項を全て備えるものである。そうすると、本件特許発明13と同様の理由により、本件特許発明14は、甲A11製法発明1又は甲A11製法発明2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
オ 本件特許発明15について
本件特許発明15は「請求項1~4及び7~12のいずれか1項に記載の呈味増強用組成物の製造方法」であるから、本件特許発明15と甲A11製法発明1及び甲A11製法発明2とを対比すると、少なくとも上記相違点11と同様の相違点があり、当該相違点については上記ア(イ)と同様に判断される。
したがって、他の相違点について判断するまでもなく、本件特許発明15は、甲A11製法発明1又は甲A11製法発明2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
カ 本件特許発明16について
本件特許発明16は、請求項15の記載を引用して特定されるものであり、本件特許発明15の発明特定事項を全て備えるものである。そうすると、本件特許発明15と同様の理由により、本件特許発明16は、甲A11製法発明1又は甲A11製法発明2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
キ 本件特許発明17について
本件特許発明17は「請求項1~12のいずれか1項に記載の呈味増強用組成物を、食品に配合することを含む」方法であるから、本件特許発明17と甲A11方法発明1及び甲A11方法発明2とを対比すると、少なくとも上記相違点11と同様の相違点があり、当該相違点については上記ア(イ)と同様に判断される。
したがって、本件特許発明17は、甲A11方法発明1又は甲A11方法発明2ではなく、甲A11方法発明1又は甲A11方法発明2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)取消理由1-4及び取消理由2-4についてのまとめ
上記(2)のとおりであるから、取消理由1-4及び取消理由2-4では、本件特許の請求項1~4及び9~17に係る特許を取り消すことはできない。
2 申立理由A1-1、申立理由A2-1(甲A1を主たる証拠とする新規性、進歩性)について
(1)甲A1の記載事項等
ア 甲A1の記載事項
甲A1には「塩味増強剤及び塩味増強方法」に関し、次の記載がある。
・「【請求項1】
グルタミン酸デカルボキシラーゼ促進成分を有効成分として含有する塩味増強剤。
【請求項2】
植物又は微生物由来の抽出物を含む請求項1に記載の塩味増強剤。
【請求項3】
抽出物が、クミン、パプリカ、バジル、ケシノミ、アニス、パセリ、メース、ショウガから選択される1以上を水及び/又は親水性溶媒で抽出することにより得られる抽出物である請求項2に記載の塩味増強剤。
【請求項4】
請求項1~3の何れかの項に記載の塩味増強剤を含有することを特徴とする飲食物。
【請求項5】
請求項1~3の何れかの項に記載の塩味増強剤を飲食物に添加することを特徴とする塩味増強方法。」
・「【0007】
本発明は、飲食物の風味を良好に維持しつつ、その塩味を効果的に増強させて、結果的に塩化ナトリウム添加量を削減することができる塩味増強剤、該塩味増強剤を含有する飲食物又は医療用食品、該塩味増強剤を用いた塩味増強方法の提供を課題とする。
また、上記塩味増強剤を、手間と時間がかかる官能試験に依らず明確な指標で容易且つ効率的に選抜する方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、舌のIII型味蕾細胞に存在するグルタミン酸デカルボキシラーゼの活性が塩味と相関関係があることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、グルタミン酸デカルボキシラーゼ促進成分を有効成分として含有する新規な塩味増強剤であり、好ましくは、植物又は微生物由来の抽出物を含む塩味増強剤であり、特に好ましくは、該抽出物がクミン、パプリカ、バジル、ケシノミ、アニス、パセリ、メース、ショウガから選択される1以上を水及び/又は親水性溶媒で抽出することにより得られる抽出物を含有することを特徴とする塩味増強剤である。
【0010】
さらに、本発明は、前記塩味増強剤を含有することを特徴とする飲食物であり、前記塩味増強剤を飲食物に添加することを特徴とする塩味増強方法である。
【0011】
さらにまた本発明は、グルタミン酸デカルボキシラーゼ活性の促進作用を指標とする塩味増強剤の選抜方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る塩味増強剤によると、塩化ナトリウムを含有する飲食物に添加することで、塩味を増強させ、結果として使用する塩化ナトリウムを低減することができる。また、一般飲食物だけでなく、塩分の摂取量を制限する必要がある高血圧や腎臓病患者等の飲食物に添加することも可能であり、塩分の摂取量を削減しつつ、美味しい食事を摂ることができ生活の質(QOL)の向上に寄与することができる。」
・「【0022】
本発明に係る塩味増強剤としては、消費者の天然志向の高さから天然物であることが好ましく、なかでも植物又は微生物由来の抽出物を含有することが好ましい。また、入手が容易で、従来から食経験があり、広く使用されてきているため、安全、安心な汎用素材として産業上広く使用することができる点で、香辛料原料となる植物の抽出物を含有することが好ましく、特に、グルタミン酸デカルボキシラーゼ活性の促進作用が強い点で、バジル(Ocimum basilicum)、パプリカ(Capsicum annuum cv.)、クミン(Cuminum cyminum)、ケシノミ(Papaver somniferum)、パセリ(Petroselium crispum)、アニス(Pimpinella anisum)、メース(Myristiba fragrans)、ショウガ(Zingiber officinale)から選択される1以上の抽出物を含むこと好ましく、特に、クミン(Cuminum cyminum)抽出物を含むこと好ましい。」
・「【0024】
また、天然物の抽出物の抽出温度としては、原料となる天然物の種類に応じて適宜調整することができ、例えば、0℃以上、好ましくは20℃以上である。なお、抽出温度の上限は200℃である。さらに、天然物の抽出物の抽出時間としては、抽出温度などにより適宜調整することができ、速やかに抽出してもよく、1分以上をかけて抽出してもよい。例えば、90~100℃の熱水で抽出する場合は、1分~10分程度、水抽出の場合は、8~14時間程度が好ましい。抽出時間が上記範囲を下回ると、抽出効率が低下する傾向がある。
【0025】
本発明に係る塩味増強剤は、塩味を必要とする飲食物等に添加することにより使用することができる。添加する飲食物等としては、例えば、一般食材や食品、及び飲料全般(例えば、塩、味噌、醤油、ケチャップ、マヨネーズ、ドレッシング、だしの素等の調味料、菓子類、加工食品、コンビニエンスストア等で販売される弁当、総菜などの調理済み食品);病院食、介護食等の医療用食材や食品;生活習慣病対策用食材や食品;高齢者用食材や食品等;経腸栄養剤、輸液製剤などの医薬品などを挙げることができる。その添加量は必要に応じて適宜調整することができる。」
・「【0032】
実施例1
乾燥させたクミンシード(ハウス食品(株)製)1gを粉砕し、水を10mL加え、4℃に保持した状態で一晩撹拌したものを遠心分離し、その上清を分取し、凍結乾燥することによりクミンシード抽出物を0.15g得た。得られたクミンシート抽出物を水2mLに溶解させ、クミンシート抽出液を得た。」
・「【0048】
また、実施例及び比較例で得られた抽出液の塩味増強作用について、習熟した16名のパネリストにより官能試験を行った。すなわち、実施例及び比較例で得られた抽出液約2mLを1~2秒間口に含んだ後(舌に転がす程度)、0.8%食塩水溶液を味わった際の塩味について、抽出物を口に含む前に味わった0.8%食塩水溶液との塩味の感じ方について「強まった」、「変わらない」、「弱まった」の何れに該当するかを判断し、塩味を「強まった」と感じたパネリストの割合から、「弱まった」と感じたパネリストの割合を引いた値を塩味増強効果(%)とした。
【0049】
上記の結果を下記表2にまとめて示す。なお、表中のGADはグルタミン酸デカルボキシラーゼを意味する。
【表2】
[図:0001435171000007.jpg]
【0050】
また、実施例及び比較例の結果について、塩味増強効果(%)を縦軸に、グルタミン酸デカルボキシラーゼ活性に及ぼす影響を横軸に取り、グルタミン酸デカルボキシラーゼ活性と塩味増強作用についての関連性を、図1に示す。
【0051】
グルタミン酸デカルボキシラーゼ活性を抑制するウーロン茶葉、レモングラス葉、ペパーミントの抽出物を口に含んだ後には、塩味が「弱まった」と感じる人の割合が「強まった」と感じる人の割合に勝ったのに対し、グルタミン酸デカルボキシラーゼ活性を促進するクミンシード、パプリカ実、バジル葉、ケシノミ、アニス、パセリ、メース、ショウガの抽出物を口に含んだ後では、塩味が「強まった」と感じる人の割合が「弱まった」と感じる人の割合に勝った。また、グルタミン酸デカルボキシラーゼ活性をより促進する作用を有するものは、より優れた塩味増強作用を有する傾向があることがわかった。すなわち、グルタミン酸デカルボキシラーゼ活性と塩味増強効果には相関関係があることが明らかとなった。」
イ 甲A1に記載された発明
上記アの記載、特に請求項1~4、【0022】、【0024】~【0025】の記載について整理すると、甲A1には次の発明が記載されていると認める。
「クミン、パプリカ、バジル、ケシノミ、アニス、パセリ、メース、ショウガから選択される1以上の天然物を水及び/又は親水性溶媒で抽出することにより得られる抽出物を含み、グルタミン酸デカルボキシラーゼ促進成分を有効成分として含有する、飲食物に添加することで塩味を増強させる塩味増強剤であって、
前記抽出物は好ましくはクミン抽出物であり、
前記天然物の抽出物の抽出温度は0℃以上、好ましくは20℃以上であり、抽出温度の上限は200℃であって、90~100℃の熱水で抽出する場合は、1分~10分程度、水抽出の場合は、8~14時間程度である、
塩味増強剤。」(以下、「甲A1発明」という。)
「甲A1発明の製造方法。」(以下、「甲A1製法発明」という。)
「甲A1発明を飲食物に添加することを特徴とする塩味増強方法。」(以下、「甲A1方法発明」という。)
(2)対比・判断
ア 本件特許発明1について
(ア)本件特許発明1と甲A1発明1との対比
甲A1発明の「塩味増強剤」は、「塩味」という呈味を増強する組成物であるといえるから、本件特許発明1の「呈味増強用組成物」に相当する。
また、甲A1発明は、「飲食物に添加することで塩味を増強させる」ものであるから、本件特許発明1の「食品に配合して前記食品が有する呈味を増強するための、」との特定事項を満たす。
さらに、甲A1発明は、「クミン、パプリカ、バジル、ケシノミ、アニス、パセリ、メース、ショウガから選択される1以上の天然物」から得られる「抽出物」を含み、さらに当該抽出物は「クミン抽出物」を含むことが好ましいものであるから、甲A1発明と本件特許発明1は、「クミンを含有する、」との限りにおいて一致する。
してみると、両者の間の一致点及び相違点は次のとおりである。
(一致点)
「クミンを含有する、食品に配合して前記食品が有する呈味を増強するための、呈味増強用組成物。」
(相違点)
・相違点1-1
クミンに関して、本件特許発明1は「加熱処理した」と特定し、さらに加熱条件として、
「クミンのみ又は水とクミンとの混合物を、油脂を添加することなく、加熱後の25℃で測定した水分活性が0.85以下となる条件で加熱することにより得られたものである、
或いは、
クミンを、クミン100質量部に対して10質量部以上200質量部以下の油脂とともに加熱することにより得られたものである、」
と特定するのに対し、甲A1発明はそのように特定しない点。
・相違点1-2
クミンの形態に関して、本件特許発明1は「ホール種子の形態又はホール種子を粉砕した粉砕物の形態であり、」と特定するのに対し、甲A1発明は「水及び/又は親水性溶媒で抽出することにより得られる抽出物」である点。
(イ)相違点についての判断
事案に鑑み、相違点1-2について検討する。
相違点1-2が実質的な相違点であることは明らかであり、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲A1発明ではない。
また、甲A1及び他の全ての証拠の記載を見ても、甲A1発明における「クミン」について、抽出物の形態に代えてホール種子の形態又はホール種子を粉砕した粉砕物の形態とすることを動機付ける記載はない。
よって、甲A1発明において、相違点1-2に係る本件特許発明1の発明特定事項を満たすものとすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲A1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(ウ)特許異議申立人の主張について
a 特許異議申立人A及びBの主張内容
特許異議申立人Aは、令和7年9月4日に提出した意見書において、概略以下の点を主張している。
(a)甲A1には、塩味増強剤はグルタミン酸デカルボキシラーゼの活性を促進する成分を有効成分として含有し、好ましくはその抽出物であると記載されている。従って、抽出物であることが必須の構成ではない。そして、甲A1の実施例1によれば、乾燥させたクミンシードから抽出物を得ていることから、クミンシードの粉砕物も当然にグルタミン酸デカルボキシラーゼ促進成分を含有する。従って、訂正後の請求項1は、依然として甲A1に記載された発明であるか、甲A1に記載された発明から当業者が容易に想到し得る。(意見書4~5頁)
(b)甲A11には、クミンの粉砕物を加熱したものに減塩効果があることが記載されている。クミンそのもの又はその粉砕物を料理に使用することは従来から普通に行われており、その過程において加熱処理が行われることは自明であって、甲A11に記載のように加熱されたクミンも塩味増強強効果を奏する。また、クミンを予め加熱処理することは、甲A12にも示されている。従って、訂正後の請求項1は、依然として甲A1に記載された発明であるか、甲A1に記載された発明から当業者が容易に想到し得る。(意見書6~7頁)
(c)甲A13には、クミンは乾煎り又は油炒め等の加熱により香気成分の香りが強くなることが記載されている。甲A14に記載されているように、香りも塩味増強に寄与することから、ホール種子の形態又はホール種子を粉砕した形態のクミンが加熱されたものである場合にはその際に生成される香気成分によっても塩味増強効果が期待できることは当業者であれば容易に想到し得る。(意見書7~8頁)
また、特許異議申立人Bは、令和7年9月5日に提出した意見書において、概略以下の点を主張している。
(d)甲B7~甲B10に記載のように、「ホール種子の形態又はホール種子を粉砕した粉砕物の形態のクミンを加熱処理すること」は、出願前から当業者のみならず一般消費者によって普通に行われている事項である。したがって、訂正後の本件特許発明1は、単に周知の技術を限定事項として加えたものであり、依然として特許法第29条第2項に該当する発明である。(意見書4~5頁)
b 特許異議申立人の主張についての判断
そこで、上記主張について検討する。
特許異議申立人Aは、上記aの主張(a)~(c)として、甲A1のグルタミン酸デカルボキシラーゼ促進成分は抽出処理前のクミンシードの粉砕物にも含まれるとの点、甲A11に記載のようにクミンそのもの又はその粉砕物を料理に使用することは一般的な手法であるとの点、及び、甲A13及び甲A14を参酌すればホール種子の形態又はホール種子を粉砕した形態のクミンが加熱された場合には香気成分によって塩味増強効果を期待できるとの点をそれぞれ主張している。また、特許異議申立人Bは、上記aの主張(d)として、ホール種子の形態又はホール種子を粉砕した粉砕物の形態のクミンを加熱処理することは、出願前から普通に行われているとの点を主張している。
しかしながら、甲A1には、課題を解決するための手段として、塩味増強剤を天然物から得る場合には抽出物を用いることが一貫して記載(請求項1~3、【0008】~【0011】、【0017】~【0024】)されており、種子やその粉砕物をそのまま塩味増強剤として用いることは記載されていない。そうすると、甲A1では塩味増強剤の有効成分が天然物由来である場合には抽出物であることが必須とされており、特許異議申立人A及びBの主張内容を参酌しても、甲A1発明においてクミンをホール種子の形態又はホール種子を粉砕した粉砕物の形態とすることが動機付けられるとはいえない。
以上のとおり、上記aの特許異議申立人Aの主張(a)~(c)及び特許異議申立人Bの主張(d)は、いずれも採用できない。
(エ)本件特許発明1についてのまとめ
以上のとおり、本件特許発明1は甲A1発明ではなく、甲A1発明並びに甲A1及び他の全ての証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ 本件特許発明2~6及び9~12について
本件特許発明2~6及び9~12は、請求項1の記載を引用して特定されるものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て備えるものである。そうすると、本件特許発明1と同様の理由により、本件特許発明2~6及び9~12は甲A1発明ではなく、甲A1発明並びに甲A1及び他の全ての証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 本件特許発明13について
本件特許発明13は「請求項1~6及び9~12のいずれか1項に記載の呈味増強用組成物の製造方法」であるから、本件特許発明13と甲A1製法発明とを対比すると、少なくとも上記相違点1-2と同様の相違点があり、当該相違点については上記アと同様に判断される。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明13は甲A1製法発明ではなく、甲A1製法発明並びに甲A1及び他の全ての証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
エ 本件特許発明14について
本件特許発明14は、請求項13の記載を引用して特定されるものであり、本件特許発明13の発明特定事項を全て備えるものである。そうすると、本件特許発明13と同様の理由により、本件特許発明14は、甲A1製法発明ではなく、甲A1製法発明並びに甲A1及び他の全ての証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
オ 本件特許発明17について
本件特許発明17は「請求項1~12のいずれか1項に記載の呈味増強用組成物を、食品に配合することを含む」方法であるから、本件特許発明17と甲A1方法発明とを対比すると、少なくとも上記相違点1-2と同様の相違点があり、当該相違点については上記アと同様に判断される。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明17は、甲A1方法発明ではなく、甲A1方法発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)申立理由A1-1、申立理由A2-1についてのまとめ
上記(2)のとおりであるから、申立理由A1-1、申立理由A2-1では、本件特許の請求項1~6、9~14及び17に係る特許を取り消すことはできない。
3 申立理由A1-2、申立理由A2-2(甲A7を主たる証拠とする新規性、進歩性)について
(1) 甲A7の記載事項等
ア 甲A7の記載事項
甲A7には「クミンによる脂質活性化」に関し、次の記載がある。記載事項は特許異議申立人Aが提出した翻訳文に基づいて示す。
・「[0002]
脂肪や油などの脂質の酸化により、ヘキサナール、2-オクテナール、2-ノネナール、2,4-ノナジエナール、2,4-デカジエナール、トランス-4,5-エポキシ-2-デカナールなどの多くの天然風味化合物が生成されることが知られている。食品業界では、これらの風味化合物を有効に活用し、たとえば、より肉っぽい風味や脂肪っぽい風味など、特定の風味の生成を強化するために、メイラード反応などの風味反応プロセスに組み込むことに関心がある。脂質の酸化は、たとえば、熱誘導自動酸化、光酸化、重金属触媒、活性酸素、酵素触媒によって加速される可能性がある。」
・「[0007]
その結果、油脂組成物の自然な風味、例えば揚げたての風味を、より効率的な方法で、より低温で、したがって、より費用対効果が高く、より短い反応時間で油脂を酸化することにより高めたいというニーズも依然として存在している。このような油脂組成物を食品に使用すれば、官能的な風味への影響を低下させることなく、油脂の量を減らすことができる。
[0008]
本発明の目的は、従来技術を改善し、上記の不都合の少なくとも一部を克服する改善された解決策を提供することである。特に、本発明の目的は、工業的に実現可能であり、当該技術分野で既知の方法よりも費用対効果が高く、すべての原料が天然で本物の原料である脂質酸化の新しい方法を提供することである。
[0009]
本発明の目的は、独立請求項の主題によって達成され、従属請求項は、本発明の思想をさらに発展させる。
[0010]
したがって、本発明の第一の態様は、脂質組成物をクミンの存在下で80℃~180℃の温度で30分~6時間保持する工程を含む、脂質の酸化を促進する方法を提供する。
[0011]
第二の態様において、本発明は、本発明の方法によって得られる脂質組成物に関する。
[0012]
本発明の第三の態様は、本発明の脂質組成物を食品組成物に添加し、次いで、必要に応じて、例えばメイラード反応プロセスなどの風味反応プロセスで食品組成物をさらに処理して風味反応生成物を得る工程を含む、食品組成物の風味を改善する方法に関する。
[0013]
さらに別の態様は、本発明の脂質組成物を含む食品、または本発明の脂質組成物を用いて製造された風味反応生成物である。
[0014]
発明者は、化学塩の形態および様々な天然源の形態で提供される鉄を、脂肪および油の酸化プロセスで使用する成分として使用することについて評価した。これにより、発明者は、鉄が塩として遊離化学形態で提供されると、油および脂肪の酸化が促進されることを最初に観察した。第2段階では、発明者は、脂肪および/または油組成物に、鉄の天然含有量と等モル量で提供される様々なハーブおよびスパイスの触媒活性を試験した。これにより、発明者は、驚くべきことに、遊離鉄および他のハーブおよびスパイスと比較して、クミンが加水分解脂肪、非加水分解脂肪および油に対して優れた強力な触媒酸化効果を有することを発見した。したがって、脂肪および/または油を含む組成物との酸化反応においてクミンを天然触媒として使用すると、反応時間を大幅に短縮し、反応温度を下げて、良好な酸化結果を達成することができる。結果の詳細は、以下の実施例のセクションに記載されている。
[0015]
したがって、クミンを例えば食品グレードの粉末の形で油および/または脂肪との活性化熱処理反応に加えることにより、油および脂肪の酸化を、単純かつ自然な本物の方法で大幅に加速することができる。これにより、一方では酸化反応の速度が加速され、他方では風味および味の化合物およびその前駆体がより容易にかつより効率的に生成される。したがって、本発明は、油および脂肪組成物の熱活性化に使用される温度および時間を低減することができる。また、本発明のプロセスにより、i)熱処理中に反応組成物から揮発性の低分子量風味化合物がはるかに少なくなり、その結果、風味がより豊富な活性化油脂組成物が得られるため、より強力で新しい風味が豊富な活性化脂肪組成物が得られる。ii)加熱反応のエネルギーコストが低いため処理コストが削減され、処理反応が短いため時間が節約される。さらに、クミンスパイスの使用は非常に自然であり、化合物として宣言されておらず、消費者によく受け入れられると考えられる。」
・「[0023]
本発明は、脂質組成物をクミンの存在下で80℃~180℃の温度で30分~6時間保持する工程を含む、脂質の酸化を促進する方法に関する。
[0024]
本明細書において、「脂質」という用語は、脂肪酸、脂肪、油、ワックス、ステロール、脂溶性ビタミンを含む、天然に存在する疎水性分子のグループとして定義される。特に、本明細書においてこれらの用語は、食用脂肪および食用油、ならびにそれらの組み合わせを指す。」
・「例2
[0043]
スパイスによるヒマワリ油の活性化:方法と結果
[0044]
温度制御された反応容器内で、スパイス触媒とともにひまわり油の酸化を140℃で1時間行った。油に加えた粉末スパイス触媒の量は、表IIに指定された量に従って、1回の試験あたり5ppmの鉄で標準化した。強化によく使用されるピロリン酸鉄を対照として加えた。その後、混合物、すなわち活性化油組成物を室温まで冷却した。
[0045]
本実施例で使用した各触媒について、適切な鉄含有量を標準技術に従って決定し、その結果を表IIに示す。
[図:0001435171000008.jpg]
[0046]
次に、油組成物中の酸化度(p-AV)を、国際標準化機構(1S06885:2006(E))によって規定された公式方法に従って、すなわち、アルデヒドやケトンなどの二次酸化生成物の存在を、これらをpーアニシジンと反応させて350nmの波長で吸収する生成物を形成することによって測定することによって決定した。次に、さまざまな混合物のP-AV吸収値を決定した。脂質組成物中に二次酸化生成物が多く生成されているほど、p-AV値は高くなる。高いp-AV値は、油混合物中に存在する二次酸化生成物の量、したがって油の活性化度を示す。結果を表IIIに示す。
[図:0001435171000009.jpg]
[0047]
本実施例で使用した各触媒について、適切な鉄含有量は標準的な技術に従って決定され、表nに示されているとおりである。
[0048]
結果は、油だけを140℃で1時間加熱すると、サンプルにすでに明らかなローストの香りがし、p-AV値が32.1になったことを示している。スパイスは酸化を促進または抑制する効果があることが観察された。選択した10種類のスパイスのうち、ニンニク、唐辛子、白コショウのp-AV値は対照サンプルよりわずかに低く、残りのスパイスは酸化を促進した。クミン入りの油はすべてのサンプルの中で最も高いp-AV値を示し、対照サンプルより50%高くなった。
[0049]
比較すると、同じFeレベルで、ピロリン酸第二鉄を含むサンプルではp-AVがわずかに増加しただけで、揚げたような風味は感じられなかった。
[0050]
これらの結果から、クミンは触媒として非常に優れた性能を発揮し、本発明の最も好ましい溶液であることが明らかである。」
・「例9
[0072]
調理補助エマルジョンに添加されたスパイス添加活性油の官能プロファイリング
[0073]
調理補助エマルジョンに配合する前に、キッチンで3種類の油を活性化した。ひまわり油(SO)、コーン油(CO)、オリーブ油(OO)である。新鮮な油(SO、CO、OO)と加熱活性化油(ASO、ACO、AOO)のp-アニシジン値を測定したものを図6に示す。クミンを含まない活性化油は、新鮮な油に比べてp-AV値が高かった。クミン活性化油サンプルのp-AV値はさらに高く、クミンを含まない対応する活性油の約2倍であった。これは、油とクミンの組み合わせが酸化を促進し、同じ加熱条件でより揚げたような風味を生成したことを示す。
[0074]
次に、クミンを加えた活性化油をエマルジョンの形で調理補助剤に使用した。このような調理補助剤のプロトタイプレシピを表VIに示す。このペースト状製品は、油、乳化剤、米粉、加工デンプン、塩、水でできている。活性化油をテストするために、レシピの油の部分を、非活性化油、活性化油、クミン活性化油に置き換えた。コーン油(CO)、オリーブ油(OO)、ひまわり油(SO)の3種類の油を使用し、油の活性化を助けるためにクミンを選択した。ひまわり油とコーン油200gを140℃で40分間加熱し、オリーブ油は煙点が低く安定しているため120℃で30分間加熱した。各加熱試験で7wt%のクミンを加えた。次に、レシピサンプルあたりの成分をすべて混ぜ合わせてペースト状に乳化させた。次に、さまざまなサンプルのPーアニシジン値(p-AV)を決定し、表VIIに示す。
[図:0001435171000010.jpg]
[0075]
活性化された油はその後、鶏肉の揚げ物に使用した。調理中、ペーストは鶏肉に均等に塗布され、制御された温度と時間でフライパンで揚げた。10人のグループで調理補助剤を使用して揚げた鶏肉の揚げ味を評価するために官能分析を行った。各サンプルの官能評価を表VIIに示す。
[0076]
活性化オイルを含むサンプル(No.2-7)では揚げたような風味が認められ、クミンが配合されている場合(No.5-7)にはさらに顕著であった。サンプルNo.5-7では、望ましい揚げた風味とローストした風味が容易に認められた。さらに、サンプルNo.8とNo.9では、オイルの活性化後にクミンの味のコントロールとして新鮮なクミンを加えた。これら2つのサンプルでは、クミンのスパイス風味がはっきりと感じられ、揚げた風味よりも優勢になった。これは、パネリストがクミンの香りと揚げた風味をはっきりと区別できたことを示している。したがって、これは、サンプルNo.5-7で知覚された揚げた風味がクミン本来の香りによるものではないことを示す良い証拠である。
[0077]
さらに、クミン活性化ひまわり油(サンプル番号10)を使用して脂肪低減試験を行った。食用油エマルジョンに添加された油は12%少なくなっている(表VIの配合に基づく)。それでも、対照サンプル番号1と比較して、揚げ物の風味が強まっていた。これは、クミンによる脂肪活性化は、揚げ物の風味を同じレベルに維持しながら、脂肪低減の用途に適用できることを示している。
[0078]
したがって、クミン活性化オイルを調理補助ペーストに組み込むことで、最終製品の揚げ物の香りと味のレベルが高まる。オイル含有量が合計で12%減少したにもかかわらず、最終製品の揚げ物の風味はテストされたサンプルの中で依然として高い評価を受けた。これは、脂質活性化により、典型的な脂っこい揚げ物の風味を損なうことなく、食品中の脂肪や油を減らすことができる可能性があることを示している。」
・「
[図:0001435171000011.jpg]
」
・「
[図:0001435171000012.jpg]
」
・「1.脂質組成物をクミンの存在下で80℃~180℃の温度で30分~6時間保持する工程を含む、脂質の酸化を促進する方法。
2.請求項1に記載の方法であって、
脂質組成物は、脂肪、油およびそれらの組み合わせからなる群から選択される成分を少なくとも75重量%含む。
3.請求項1に記載の方法であって、クミンが脂質組成物中に0.1~20重量%の量で存在する方法。
4.請求項1に記載の方法であって、温度が120℃~160℃の範囲であることを特徴とする方法。
5.請求項2に記載の方法であって、脂肪が動物性脂肪である方法。
6.請求項5に記載の方法であって、脂肪が牛脂肪、鶏脂肪、子羊脂肪および豚脂肪からなる群から選択される方法。
7.請求項2に記載の方法であって、前記油は、コーン油、オリーブ油、大豆油、ヒマワリ油、ピーナッツ油、クルミ油、パーム油、籐胡椒油、菜種油、ゴマ油、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、方法。
8.請求項1に記載の方法であって、脂質組成物を加水分解する工程を含む方法。
9.請求項8に記載の方法であって、脂質組成物の加水分解が酵素加水分解である方法。
10.請求項1に記載の方法であって、クミンが、Cuminum cyminumの乾燥した種子の粉末形態である、方法。
11.請求項1に記載の方法によって得られる脂質組成物。
12.脂質の酸化を促進することによって製造された脂質組成物を添加する工程と、脂質組成物をクミンの存在下で80℃から180℃の温度で30分から6時間保持する工程とを含む、食品組成物の風味を改善する方法。
13.請求項12に記載の方法であって、添加された脂質組成物を含む食品組成物が、風味反応プロセスにおいてさらに処理される、方法。
14-15.(キャンセル)」(第6頁右欄)
イ 甲A7に記載された発明
上記アの記載、特に実施例9([0072]~[0078])のサンプル5の記載について整理すると、甲A7には次の発明が記載されていると認める。
「7wt%のクミンを加えたひまわり油200gを140℃で40分間加熱して得たクミン活性化油であって、
油、乳化剤、米粉、加工デンプン、塩、水からなるペースト状製品を鶏肉に均等に塗布し、フライパンで揚げた揚げ物において、前記クミン活性化油を油の代替として用いることにより、揚げ物の香りと味のレベルを高める、
クミン活性化油。」(以下、「甲A7発明」という。)
「甲A7発明の製造方法。」(以下、「甲A7製法発明」という。)
「甲A7発明を揚げ物の材料に用いることを特徴とする、揚げ物の香りと味のレベルを高める方法。」(以下、「甲A7方法発明」という。)
(2)対比・判断
ア 本件特許発明1について
(ア)本件特許発明1と甲A7発明との対比
甲A7発明の「クミン活性化油」は、揚げ物の材料として用いるものであるから、本件特許発明1と甲A7発明とは、「食品に配合する、組成物」である限りにおいて一致する。
また、甲A7発明のクミン活性化油は、「7wt%のクミンを加えたひまわり油200gを140℃で40分間加熱して得た」ものであるから、本件特許発明1の
「加熱処理したクミンを含有する、
前記加熱処理したクミンが、ホール種子の形態又はホール種子を粉砕した粉砕物の形態であり、」
との特定事項を満たす。
してみると、両者の間の一致点及び相違点は次のとおりである。
(一致点)
「加熱処理したクミンを含有する、
前記加熱処理したクミンが、ホール種子の形態又はホール種子を粉砕した粉砕物の形態である、
食品に配合する、組成物。」
(相違点)
・相違点7-1
クミンの加熱条件について、本件特許発明1は、「クミンのみ又は水とクミンとの混合物を、油脂を添加することなく、加熱後の25℃で測定した水分活性が0.85以下となる条件で加熱することにより得られたものである、
或いは、
クミンを、クミン100質量部に対して10質量部以上200質量部以下の油脂とともに加熱することにより得られたものである、」
と特定するのに対し、甲A7発明は「7wt%のクミンを加えたひまわり油200gを140℃で40分間加熱して得た」ものである点。
・相違点7-2
組成物の用途について、本件特許発明1は、「食品に配合して前記食品が有する呈味を増強するための、呈味増強用」と特定するのに対し、甲A7発明は「前記クミン活性化油を油の代替として用いることにより、揚げ物の香りと味のレベルを高める」ためのものである点。
(イ)相違点についての判断
事案に鑑み、相違点7-2について検討する。
甲A7発明においてクミンは脂肪の酸化を加速する作用を有し(甲A7の[0015])、甲A7発明により高められる揚げ物の香りと味は、脂質の酸化により生成される風味化合物によってもたらされる(甲A7の[0002], [0007])。すなわち、甲A7発明のクミン活性化油は、それ自体が揚げたての風味のような香りと味を有しており、揚げ物に配合することにより揚げ物の香りと味のレベルを上乗せして感じさせるものであって、クミン活性化油を配合する前の揚げ物がもともと有する香りと味を増強させる用途に用いられるものとはいえない。そうすると、相違点7-2は実質的な相違点であり、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲A7発明ではない。
また、甲A7には、甲A7発明を、食品が有する呈味を増強する用途に用いることを動機付ける記載はない。そして、本件特許発明1は、加熱処理したクミンが加熱していないクミンよりも高い呈味増強作用を有する(本件明細書の【0289】)という、本件特許の出願前に未知であった属性を発見し、この属性により「食品に配合して前記食品が有する呈味を増強するための、呈味増強用」という新たな用途に適することを見いだした発明ということができ、その作用効果は、甲A7発明並びに甲A7及び他の全ての証拠に記載された事項からみて、本件特許発明1の構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである。
したがって、甲A7発明において、上記相違点7-2に係る本件特許発明1の発明特定事項を満たすものとすることは、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
(ウ)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人Aは、令和7年9月4日に提出した意見書において、概略以下の点を主張している。
甲A7の[0010], [0035]等の記載からみて、甲A7にはクミンを脂質に加えて加熱することにより脂質の酸化を促進し、それによって得られた活性化脂肪組成物が少なくとも呈味の向上に寄与することが示されており、この点において訂正後の請求項1は甲A7発明となんら変わるものではない。このように、取消理由通知書における本件特許発明1と甲A7発明との間に相違は認められない、とする認定に誤りはなく、訂正後の請求項1は、依然として甲A7に記載された発明であるか、甲A7に記載された発明から当業者が容易に想到し得る。(意見書12~14頁)
上記主張について検討する。特許異議申立人Aは、要するに、上記相違点7-2が実質的な相違点でない旨を主張している。しかしながら、上記(イ)で検討したとおり、甲A7発明のクミン活性化油は、それ自体が揚げたての風味のような香りと味を有しており、揚げ物に配合することにより揚げ物の香りと味のレベルを上乗せして感じさせるものであって、クミン活性化油を配合する前の揚げ物がもともと有する香りと味を増強させるためのものとはいえない。そうすると、相違点7-2は実質的な相違点であり、本件特許発明1は甲A7発明ではない。
よって、特許異議申立人Aの主張は、採用できない。
(エ)本件特許発明1についてのまとめ
以上のとおり、本件特許発明1は甲A7発明ではなく、甲A7発明並びに甲A7及び他の全ての証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ 本件特許発明2、7及び8について
本件特許発明2、7及び8は、請求項1の記載を引用して特定されるものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て備えるものである。そうすると、本件特許発明1と同様の理由により、本件特許発明2、7及び8は甲A7発明ではなく、甲A7発明並びに甲A7及び他の全ての証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 本件特許発明15について
本件特許発明15は「請求項1~4及び7~12のいずれか1項に記載の呈味増強用組成物の製造方法」であるから、本件特許発明15と甲A7製法発明とを対比すると、少なくとも上記相違点7-2と同様の相違点があり、当該相違点については上記アと同様に判断される。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明15は甲A7製法発明ではなく、甲A7製法発明並びに甲A7及び他の全ての証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
エ 本件特許発明16について
本件特許発明16は、請求項15の記載を引用して特定されるものであり、本件特許発明15の発明特定事項を全て備えるものである。そうすると、本件特許発明15と同様の理由により、本件特許発明16は、甲A7製法発明ではなく、甲A7製法発明並びに甲A7及び他の全ての証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
オ 本件特許発明17について
本件特許発明17は「請求項1~12のいずれか1項に記載の呈味増強用組成物を、食品に配合することを含む」方法であるから、本件特許発明17と甲A7方法発明とを対比すると、少なくとも上記相違点7-2と同様の相違点があり、当該相違点については上記アと同様に判断される。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明17は、甲A7方法発明ではなく、甲A7方法発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)申立理由A1-2、申立理由A2-2についてのまとめ
上記(2)のとおりであるから、申立理由A1-2、申立理由A2-2では、本件特許の請求項1、2、7、8及び15~17に係る特許を取り消すことはできない。
4 申立理由A2-3(甲A8を主たる証拠とする進歩性)について
(1)甲A8の記載事項等
ア 甲A8の記載事項
甲A8には「油脂組成物、及び食品の塩味増強方法」に関し、次の記載がある。
・「【請求項1】
クミン、グリーンチリから選ばれる香辛料抽出物を1種又は2種以上含有し、20℃で液状である、油脂組成物。
【請求項2】
前記香辛料抽出物が油性成分である、請求項1に記載の油脂組成物。
【請求項3】
油脂組成物中に香辛料抽出物を0.003~0.1質量%含有する、請求項1又は2に記載の油脂組成物。
【請求項4】
食品の塩味を増強する、請求項1~3のいずれか1項に記載の油脂組成物。
【請求項5】
食品にコーティング、及び/又は、添加して用いる、請求項1~4のいずれか1項に記載の油脂組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の油脂組成物を、食品にコーティングする、及び/又は、食品に添加することを特徴とする、食品の塩味増強方法。」
・「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、塩味を増強する有機酸や有機酸塩は、水溶性であり、油脂への溶解性が悪く、水を含まない食用油脂への利用に問題があった。
【0006】
そこで、本発明は、食用油脂として用いることができる、塩味を増強できる油脂組成物を提供することを目的とする。また、油脂組成物を用いる食品の塩味増強方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決するために、鋭意研究を重ねた結果、クミン、グリーンチリから選ばれる香辛料抽出物を含有し、20℃で液状である油脂組成物を用いることで食品中の塩味を強く感じることができることを見出し、以下の本発明を完成させた。
[1] クミン、グリーンチリから選ばれる香辛料抽出物を1種又は2種以上含有し、20℃で液状である、油脂組成物。
[2] 前記香辛料抽出物が油性成分である、[1]の油脂組成物。
[3] 油脂組成物中に香辛料抽出物を0.003~0.1質量%含有する、[1]又は[2]の油脂組成物。
[4] 食品の塩味を増強する、[1]~[3]のいずれかの油脂組成物。
[5] 食品にコーティング、及び/又は、添加して用いる、[1]~[4]のいずれかの油脂組成物。
[6] [1]~[5]のいずれかの油脂組成物を、食品にコーティングする、及び/又は、食品に添加することを特徴とする、食品の塩味増強方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、油脂組成物により食品の塩味をより強く感じることができるので、塩分を多く配合しなくても、より強い塩味を有する食品、あるいは塩分を減少させた食品を提供することができる。
なお、本発明において、塩分とは、食品中に含まれる食塩の含有量であり、塩味とは、塩分を含む食品を口に入れた時に味覚で感じた食塩由来の味である。」
・「【0011】
<油脂組成物>
(香辛料抽出物)
本発明の油脂組成物は、クミン、グリーンチリから選ばれる香辛料抽出物を1種又は2種以上含有する。これらの香辛料抽出物を含有することで、塩味を強く感じることができる。セリ科のクミン、及び/又はグリーンチリ(青唐辛子)の種子を、必要に応じて焙煎し、溶媒抽出、あるいは超臨界抽出/亜臨界抽出した香辛料抽出物を用いることができる。これらの香辛料抽出物は、油性成分であることが、油脂への溶解性を高くする点で好ましい。メカニズムを限定するものではないが、油性成分であると、食した時に、油脂と共に口内に広くいきわたりやすくなるので、塩味増強効果が高くなると考えられる。香辛料抽出物として、例えば、溶剤抽出し、溶剤を除いて半流動性に抽出したオレオレジンとして市販されているものを用いることができる。」
・「【0019】
<食品の塩味増強方法>
本発発明の油脂組成物は、塩分を有する食品の塩味を強く感じさせることができる。本発明の油脂組成物は、食品へコーティング、及び/又は、添加して用いることができる。コーティング方法、添加方法は特に限定するものではないが、食品にかける(そそぐ)、スプレーする、及び炒め油・離形油として用いるなどの方法により、食品に付着させる方法がある。また、食品に添加し、混合することで、食品内部に浸漬させてもよい。本発明の油脂組成物は、食品の加熱調理前、及び/又は、加熱調理中に食品にコーティング、及び/又は、添加して用いることができるが、油脂組成物中の香辛料抽出物由来の風味を活かすために、食品にコーティング、及び/又は、添加して、加熱せずに食すことが好ましい。
【実施例】
【0020】
以下、本発明について、実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0021】
[油脂組成物]
油脂及び香辛料抽出物を表1の配合で混合し、油脂組成物を得た。なお、油脂及び香辛料は以下の通りである。
精製菜種油(日清キャノーラ油、日清オイリオグループ株式会社製)
クミン抽出物(Cumin Oleoresin:Plant Lipids社製)
グリーンチリ抽出物(Green Chilli Oleoresin:Plant Lipids社製)
【0022】
[塩味評価]
150gの絹豆腐を16等分したものに、表2の配合で食塩を添加し、各油脂組成物0.25gを滴下して、塩味評価サンプルを得た。
塩味評価サンプルを口に含み、塩味の強さを1~10点で評価した(数値が大きいほど塩味を強く感じる)。なお、評価にあたって、参考1の塩味を2点、参考2(参考例1の1.6倍の塩分量)の塩味を5点として、塩味の基準を設定し、試験1~5の評価を行った。パネラー6名で塩味評価を行い、評価点数の平均値を表1に示した。
【0023】
【表1】
[図:0001435171000013.jpg]
【0024】
表1に示す通り、クミン抽出物、グリーンチリ抽出物を含有する油脂組成物を用いた試験1~7は、参考1と同食塩量にも関わらず、強い塩味を感じることが確認できた。
なお、試験2及び5において、それぞれの油脂組成物中のクミン抽出物、あるいはグリーンチリ抽出物の含有量を倍にしても、塩味評価が5を超えることは見込めないが、クミン抽出物とグリーンチリ抽出物を用いた試験7は、食塩量が1.6倍の参考2を超える強い塩味を感じることが確認できた。即ち、クミン抽出物とグリーンチリ抽出物の両者を含有することで、より強い塩味を感じる相乗効果があることが確認できた。」
イ 甲A8に記載された発明
上記アの記載、特に特許請求の範囲、【0011】及び【0019】の記載について整理すると、甲A8には次の発明が記載されていると認める。
「クミン、グリーンチリから選ばれる香辛料抽出物を1種又は2種以上含有し、20℃で液状である、食品に添加して食品の塩味を増強する油脂組成物であって、
前記香辛料抽出物は、クミン、及び/又はグリーンチリの種子を、必要に応じて焙煎し、溶媒抽出、あるいは超臨界抽出/亜臨界抽出した香辛料抽出物である、
油脂組成物。」(以下、「甲A8発明」という。)
(2) 対比
本件特許発明7と甲A8発明とを対比する。
甲A8発明の、「食品に添加して食品の塩味を増強する油脂組成物」は、本件特許発明7が引用する請求項1の「食品に配合して前記食品が有する呈味を増強するための、呈味増強用組成物」に相当する。
甲A8発明は、「クミン、グリーンチリから選ばれる香辛料抽出物を1種又は2種以上含有」し、クミンの抽出物を含有する形態を含むものであるから、本件特許発明7が引用する請求項1の「クミンを含有する、」との特定事項を満たす。
してみると、両者の間の一致点・相違点は次のとおりである。
(一致点)
「クミンを含有する、食品に配合して前記食品が有する呈味を増強するための、呈味増強用組成物。」
(相違点)
・相違点8-1
組成物に含有されるクミンの処理条件について、本件特許発明7は「加熱処理した」と特定し、さらに加熱条件として、「クミンを、クミン100質量部に対して10質量部以上200質量部以下の油脂とともに加熱価が1以上となる条件で加熱することにより得られたものである、」と特定するのに対し、甲A8発明では加熱処理することが必須とされておらず、加熱処理する場合の条件も「焙煎」である点。
・相違点8-2
組成物に含有されるクミンの形態について、本件特許発明7が引用する請求項1は「ホール種子の形態又はホール種子を粉砕した粉砕物の形態」と特定するのに対し、甲A8発明では「種子を」「溶媒抽出、あるいは超臨界抽出/亜臨界抽出した香辛料抽出物」の形態である点。
(3) 判断
事案に鑑み、相違点8-2について検討する。
相違点8-2が実質的な相違点であることは明らかであり、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明7は甲A8発明ではない。
また、甲A8及び他の全ての証拠の記載を見ても、甲A8発明におけるクミンの形態を、抽出物に代えてホール種子の形態又はホール種子を粉砕した粉砕物の形態とすることを動機付ける記載はない。
よって、甲A8発明において、相違点8-2に係る本件特許発明7の発明特定事項を満たすものとすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明7は、甲A8発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)特許異議申立人の主張について
ア 特許異議申立人A及びBの主張内容
特許異議申立人Aは、令和7年9月4日に提出した意見書において、概略以下の点を主張している。
(ア)甲第A8号証でクミン抽出物を用いているのは、上記甲A1に関して述べたように、原料から有効成分を取り出してその作用を効果的に引き出すためであり、有効成分を含む原料であるクミンの種子又はその粉砕物には当然に有効成分が含まれているのであるから、抽出物でなく原料そのものを使用してもよいことは容易に想到し得る。訂正後の請求項1は甲A8発明から容易に想到し得るものであるとの取消理由通知書における認定は何ら変わるものではない。(意見書17~18頁)
(イ)特許権者は意見書において、本件特許発明1に係る呈味増強用組成物は、一般的なスパイスとして利用されるクミンと同様に利用することができる旨を主張しているが、甲A8発明もその用途は本件特許発明1と同じである。(意見書18頁)
(ウ)特許権者は意見書において、加熱処理したクミンが、クミン100質量部に対して10質量部以上200質量部以下の油脂とともに加熱価が1以上となる条件で加熱することにより得られたものである点を本件特許発明7の特徴として挙げ、その新規性、進歩性を主張している。しかしながら、好ましい塩味増強効果を得るために香辛料抽出物の含有量を検討することは当業者であれば当然に行うべきことである。甲A10(本件明細書)には数値限定の有効性に関する記載はなく、訂正後の請求項7に係る発明が有利な効果を奏するか否か不明である。従って、訂正後の請求項7は依然として特許法第29条第2項に該当する。(意見書18~19頁)
また、特許異議申立人Bは、令和7年9月5日に提出した意見書において、概略以下の点を主張している。
(エ)甲B7~甲B10に記載のように、「ホール種子の形態又はホール種子を粉砕した粉砕物の形態のクミンを加熱処理すること」は、出願前から当業者のみならず一般消費者によって普通に行われている事項である。したがって、訂正後の本件特許発明1は、単に周知の技術を限定事項として加えたものであり、依然として特許法第29条第2項に該当する発明である。(意見書4~5頁)
イ 特許異議申立人の主張についての判断
そこで、上記各主張について検討する。
(ア)特許異議申立人Aの主張(ア)について
甲A8には、クミン抽出物を含有する油脂組成物が塩味増強効果を有する旨が記載(【0011】)されていることから、原料であるクミンの種子又はその粉砕物にも塩味増強効果を有する成分が含まれているものと認められる。しかしながら、甲A8発明は、「食用油脂として用いることができる、塩味を増強できる油脂組成物を提供すること」(【0006】)を課題とし、甲A8には、課題を解決するための手段として、油脂組成物にクミン、グリーンチリから選ばれる香辛料抽出物を含有させることが一貫して記載(請求項1、【0011】、【0019】~【0024】)されているものの、種子やその粉砕物をそのまま塩味増強剤として用いることは記載されていない。すると、甲A8では油脂組成物に含まれるクミンは抽出物の形態であることが必須と理解できる。してみると、クミンの種子又はその粉砕物にも塩味を増強する有効成分が含まれているとしても、甲A8発明においてクミンの形態を抽出物に代えてホール種子の形態又はホール種子を粉砕した粉砕物の形態とすることの動機付けがあるとはいえない。
(イ)特許異議申立人Aの主張(イ)、(ウ)について
上記主張(ア)についてで検討したとおり、甲A8発明において、相違点8-2に係る本件特許発明7の発明特定事項を満たすものとすることは、特許権者の主張を参酌するまでもなく当業者が容易になし得たこととはいえない。よって特許異議申立人Aの主張(イ)、(ウ)が妥当であるか否かにかかわらず、本件特許発明7は、甲A8発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(ウ)特許異議申立人Bの主張(エ)について
特許異議申立人Bが主張するとおり、「ホール種子の形態又はホール種子を粉砕した粉砕物の形態のクミンを加熱処理すること」そのものは、本件出願前において一般的な手法であると認められる。しかしながら、上記主張(ア)についてで検討したとおり、甲A8では油脂組成物に含まれるクミンは抽出物の形態であることが必須と理解されるものであるから、ホール種子の形態又はホール種子を粉砕した粉砕物の形態のクミンを加熱処理することが一般的な手法であるとしても、甲A8発明においてクミンの形態を抽出物に代えてホール種子の形態又はホール種子を粉砕した粉砕物の形態とすることの動機付けがあるとはいえない。
(エ)特許異議申立人の主張についてのまとめ
以上のとおり、上記アの特許異議申立人Aの主張(ア)~(ウ)及び特許異議申立人Bの主張(エ)は、いずれも採用できない。
(5)申立理由申立理由A2-3についてのまとめ
上記(2)~(4)のとおりであるから、申立理由A2-3では、本件特許の請求項7に係る特許を取り消すことはできない。
5 申立理由A3(サポート要件)について
(1)サポート要件の判断手法
特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
(2)本件発明の課題について
特許請求の範囲及び本件特許の明細書の発明の詳細な説明(以下、「発明の詳細な説明」という。)の【0010】等の記載からみて、本件特許発明1~12の課題は、食品に配合することにより前記食品の呈味を増強することができる呈味増強用組成物を提供することにあり、本件特許発明13~16の課題は、当該呈味増強用組成物の製造方法を提供することにあり、本件特許発明17の課題は、食品の呈味を増強する方法を提供することにあるものと認められる。
(3)本件明細書の記載について
発明の詳細な説明には、「本発明の第2態様の第1の実施形態は、加熱処理したクミンを含有する呈味増強用組成物、に関する。」(【0087】)との記載、「本実施形態に係る呈味増強用組成物は、食品に配合することにより、前記食品の呈味を増強することができる。」(【0088】)との記載、「加熱処理に供するクミン種子は、ホール種子であってもよいし、ホール種子を粉砕して得られた粉砕物であってもよい。」(【0090】)、「前記加熱処理したクミンの製造のための加熱処理は、クミンを、油脂を添加することなく加熱することを含む加熱処理(以下「第1加熱処理」と称する場合がある)、又は、クミンを油脂とともに加熱することを含む加熱処理(以下「第2加熱処理」と称する場合がある)であることが好ましい。」(【0091】)との記載があり、さらに、【0092】~【0107】には第1加熱処理及び第2加熱処理について、加熱条件等の好ましい実施形態の記載がある。
そして、【0269】~【0308】には、実施例として未加熱のクミン試料を用いた比較例301と、油脂を添加せず120~140℃で20~60分加熱した加熱価53~168のクミン試料を用いた実施例301~314及び油脂を添加し100℃達温~200℃5分加熱した加熱価1~4340のクミン試料を用いた実施例315~319を調製して試験を行った結果が記載され、減塩カレーを用いた呈味増強効果の試験において、「トップの塩角」と「ミドルの膨らみ」の呈味増強効果が、実施例301~319のいずれも比較例301に比して高かったことが示され、また、各種の食材に対する呈味増強効果の試験において、実施例305(クミン130℃30分、加水無)のクミンはさまざまな食材の味を増強する作用が高いことが示されている。
(4)サポート要件の判断
上記(3)の発明の詳細な説明の記載に接した当業者であれば、加熱処理したクミンを含有するとの特定事項を満たす組成物であれば食品の呈味を増強することができ、また、クミンを加熱処理することにより食品の呈味を増強する組成物を製造でき、さらに、加熱処理したクミンを含有する組成物を食品に配合することで食品の呈味を増強でき、本件特許発明1~17の各発明の課題を解決できると認識できる。
そして、本件特許発明1~17はいずれも、上記の発明の課題を解決できると認識できる特定事項の全てを有し、さらに限定するものであるから、当然、発明の課題を解決できると認識できる。
よって、本件特許発明1~17に関して、特許請求の範囲の記載は明細書のサポート要件に適合するものである。
(5) 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人Aは申立理由A3として、第4 1(6)ア~エのように主張しているので、以下、各点について検討する。
ア 第4 1(6)アの主張について
発明の詳細な説明の実施例をみると、加熱処理しないクミン試料(比較例301)、油脂を添加せず加熱価53~168となる条件で加熱処理したクミン試料(実施例301~314)、及び、油脂とともに加熱価1~4340となる条件で加熱処理したクミン試料(実施例315~319)の各試料が調製され、比較例301の試料が一定の呈味(塩味)増強効果を有しており、さらに、各種の加熱条件で得られた実施例301~319の試料はいずれも比較例301より高い呈味増強効果を有することが示されている。当該実施例の記載に接した当業者は、加熱処理したクミンであれば、その加熱条件によらず、加熱しないクミンに比べて高い呈味増強効果を有することを理解する。また、組成物に加熱処理したクミンが含まれていれば、その含有量が少ない場合であっても、程度の差はあれ呈味増強効果を有するものと理解する。よって当業者は、クミンの加熱条件及び含有量にかかわらず、本件特許発明1~4、17は、発明の課題を解決できると認識できる。
また、特許異議申立人Aは、本件特許発明1~4、17に係る発明において、クミンの加熱条件または含有量によっては発明の課題を解決し得ないことを具体的な根拠を示して主張するものでもない。
よって、特許異議申立人Aの第4 1(6)アの主張は採用できない。
イ 第4 1(6)イ、ウの主張について
特許異議申立人Aは、要するに、発明の詳細な説明の実施例における官能試験について、本件特許発明2及び3に列挙された味覚のうち評価されていない味覚があること、及び、評価値のばらつきが大きく、評価者が3名で少ないことから官能試験の結果が信頼できないことを、主張している。
当該主張について検討する。
実施例における官能試験について検討すると、発明の詳細な説明の【0280】~【0291】には、減塩カレールウの湯溶き品と通常のカレールウの湯溶き品を比較対象として、各サンプルの呈味を3名の評価者が1点~5点の0.1点刻みで評価して平均点を求め、「トップの塩角」及び「ミドルの膨らみ」の呈味増強効果を確認したこと、また、【0305】~【0308】には、各種の食材の希釈液である陰性対照試料及び陽性対照試料を比較対象として、各試料の味の強さを3名の評価者が1点~5点の0.5点刻みで評価して平均点を求め、各種の食材の対する呈味増強効果を確認したことが記載されている。当該官能評価は、複数の者が評価の基準として共通のものを認識した上で行われ、評点を平均することによって揺れを抑制する措置も取られたものといえる。そうすると、個々の評価結果には多少のばらつきがみられるものの、当業者は、発明の詳細な説明に記載された官能評価の結果が、一定の客観性を備えた信頼に足るものと理解することができる。
また、発明の詳細な説明の【0305】~【0308】に示された官能評価の結果から、加熱処理したクミンは、さまざまな食材に対し幅広く呈味増強効果を有するものといえるから、本件特許発明2及び3に列挙された呈味のうち直接には官能評価の対象とされていないものについても呈味増強効果を有するものと当業者は理解する。また、上記(2)に記載したとおり、本件特許発明2及び3の課題は、食品に配合することにより前記食品の呈味を増強することができる呈味増強用組成物を提供することであって、本件特許発明2及び3に列挙された個々の呈味のそれぞれにおいて呈味増強効果を得ることではないから、仮に列挙された呈味の一部について実施例における検証が不十分であるとしても、当業者が発明の課題を解決できると認識できないとまではいえない。
よって、特許異議申立人Aの第4 1(6)イ、ウの主張は採用できない。
ウ 第4 1(6)エの主張について
特許異議申立人Aは、クミンの含有量が多い呈味増強用組成物を多量に配合したような場合には、クミンの香気によって食品の風味に影響を与えてしまう旨を主張しているが、仮にクミンの香気によって食品の風味が影響を受けたとしても、クミンによる呈味増強効果が消失するわけではないから、当業者は、本件特許発明17においてクミンの含有量が多い呈味増強用組成物を多量に配合した場合であっても発明の課題を解決できると認識できる。
また、特許異議申立人Aは、本件特許発明17において、具体的に呈味増強用組成物を多量に配合した場合に発明の課題を解決し得ないことを具体的な根拠を示して主張するものでもない。
よって、特許異議申立人Aの第4 1(6)エの主張は採用できない。
(6)申立理由A3についてのまとめ
上記(4)及び(5)のとおりであるから、申立理由A3の理由では、本件特許の請求項1~17に係る特許を取り消すことはできない。
6 申立理由A4、申立理由B3(明確性要件)について
(1)明確性要件の判断基準
特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
(2)明確性要件の判断
本件特許の請求項1~17の記載は、上記第3のとおりであり、それ自体に不明確な記載はなく、本件特許の明細書の記載及び図面とも整合する。
したがって、本件特許発明1~17に関して、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。
(3)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人Aは、本件特許発明3、5~8及び13~17について、上記第4 1(7)ア、イのとおり主張し、特許異議申立人Bは本件特許発明1ないし17について、上記第4 1(11)のとおり主張しているので、以下、検討する。
ア 第4 1(7)アの主張について
本件特許発明5~8及び13~16で特定される「加熱価」について、発明の詳細な説明の【0040】~【0041】には、具体的な計算方法が記載されており、当業者は、当該計算方法に従い、加熱処理を行う際の品温の経時変化を測定し、記載された式により表されるCV値を加熱時間(分)で積分することで「加熱価」を求められると理解できる。
特許異議申立人Aは、発明の詳細な説明の【0269】の記載を挙げ、温度上昇時及び降下時の温度及び時間を含む温度の経時変化や加圧条件をどのように考慮して加熱価を算出するのかについて具体的な記載がなく不明である、との旨を主張しているが、当業者は、温度上昇時及び降下時の温度の経時変化を考慮するにあたり【0040】~【0041】に記載の式に従って温度上昇時及び降下時のCV値を積分値に含めればよく、加圧条件は加熱価の算出式には含まれておらず考慮する必要はないことが理解できる。そうすると、発明の詳細な説明の【0269】の記載を考慮しても、本件特許発明5~8及び13~16で特定される「加熱価」について、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確な点はない。
よって、特許異議申立人Aの第4 1(7)アの主張は採用できない。
イ 第4 1(7)イの主張について
本件特許発明3の特定事項に含まれる「調味料」との用語は、料理に味付けや風味、コクを加えるための材料の総称であり、それ自体不明瞭な記載ではなく、出願時の技術常識からみて明確である。
特許異議申立人Aは、発明の詳細な説明の【0031】に調味料として列記されたものが、実施例の表15には「原料」に分類されている点を指摘しているが、上記のとおり「調味料」は、料理に味付け等を行うための材料であるから「原料」であるということもでき、当該発明の詳細な説明の記載を考慮しても、本件特許発明3で特定される「調味料」について、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確な点はない。
よって、特許異議申立人Aの第4 1(7)イの主張は採用できない。
ウ 第4 1(11)の主張について
特許異議申立人Bは、要するに、本件特許発明1と市場にて販売されている各種製品との境界が不明確である旨を主張している。しかしながら、特許法第36条第6項第2号は、特許請求の範囲の記載に関し、特許を受けようとする発明が明確でなければならない旨を規定するものであり、特許を受けようとする発明と公知技術との境界が明確であるか否かとは関係がない。そして、上記(2)で検討したとおり、本件特許の請求項1~17の記載は、それ自体に不明確な記載はなく、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。
よって、特許異議申立人Bの第4 1(11)の主張は採用できない。
7 申立理由B1-1~B1-5、申立理由B2-1~B2-5(甲B1~甲B5を主たる証拠とする新規性、進歩性)について
申立理由B1-1~B1-5及び申立理由B2-1~B2-5は、概略同旨の申立理由と認められるので、まとめて検討する。
特許異議申立人Bは、甲B1~甲B5の2には、クミンを加熱すること、及び、加熱したクミンを食品(料理)に用いることによって呈味が増強されることが記載されているとして、本件特許発明1~8及び13~17は新規性又は進歩性を欠如する旨を主張している(特許異議申立書Bの6頁~10頁)。
当該主張について検討すると、甲B1~甲B5の2には、加熱したクミンを調理又は食品の材料として用いることにより、良好な呈味の食品が得られることが概略記載されている。しかしながら、各証拠の記載はいずれも、クミン自体が有する呈味又は風味が食品に付加されることを述べるにとどまり、加熱されたクミンを食品に配合することにより、当該食品がもともと有している呈味が増強されるという知見を開示するものとはいえない。
そうすると、本件特許発明1~8及び13~17は、甲B1~甲B5の2のいずれかに記載の発明ではなく、甲B1~甲B5の2のいずれかに記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
よって、特許異議申立人Bの主張は採用できず、申立理由B1-1~B1-5、申立理由B2-1~B2-5では、本件特許の請求項1~8及び13~17に係る特許を取り消すことはできない。
第7 むすび
上記第6のとおり、本件特許の請求項1~17に係る特許は、取消理由(決定の予告)並びに特許異議申立書A及びBに記載した特許異議申立ての理由によっては取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1~17に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-701183