特許異議申立
2024-700740
食品組成物及び食品組成物の製造方法
- 審判番号
- 2024-700740
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-081887
- 登録番号
- 7429669
- 請求日
- 2024年08月06日
- 審決日
- 2025年10月10日
- 公報発行日
- 2026年01月30日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】ハウス食品株式会社
- 【権利者代理人】田中 伸一郎
- 【権利者代理人】▲吉▼田 和彦
- 【権利者代理人】須田 洋之
- 【権利者代理人】山崎 一夫
- 【権利者代理人】市川 さつき
- 【権利者代理人】服部 博信
- 【権利者代理人】松田 七重
- 【異議申立人】池田 弥生
- 審判長/審判官
- 審判長 植前 充司
- 審判官 加藤 友也
- 審判官 天野 宏樹
- 分類
- P1651.121-YAA(A23L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第9項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7429669号発明「食品組成物及び食品組成物の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7429669号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~3〕について訂正することを認める。
特許第7429669号の請求項1~3に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7429669号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~3に係る特許についての出願は、令和3年5月13日の出願であって、令和6年1月31日にその特許権の設定登録がされ、同年2月8日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対して、同年8月6日に特許異議申立人池田弥生(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立て(対象:全請求項)がされたものである。
その後の手続の経緯は以下のとおりである。
令和6年12月 6日付け:取消理由通知
令和7年 2月10日 :訂正請求書及び意見書(特許権者)
同年 同月17日付け:訂正請求があった旨の通知
(特許法第120条の5第5項)
同年 4月 3日 :意見書(申立人)
同年 5月23日付け:取消理由通知(決定の予告)
同年 7月25日 :意見書(特許権者)
同年 8月21日 :上申書(申立人)
以下、令和7年2月10日に提出された訂正請求書を「本件訂正請求書」といい、本件訂正請求書による訂正の請求を「本件訂正請求」といい、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。
第2 訂正請求について
1.訂正の内容
本件訂正請求の趣旨は、「特許第7429669号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~3について訂正することを求める。」というものであり、本件訂正の内容は以下のとおりである。
なお、以下において、隅付き括弧は「[ ]」と表記した。
●訂正事項
特許請求の範囲の請求項1に「前記脱水された大根を、大根に由来しない水である非大根由来水及び増粘多糖類0.01~3質量%と混合し、ペースト化して食品組成物を得る工程」と記載されているのを、「前記脱水された大根を、大根に由来しない水である非大根由来水、増粘多糖類0.01~3質量%及びサイクロデキストリン0.05~3質量%と混合し、ペースト化して食品組成物を得る工程」に訂正する。
請求項1を引用する請求項2及び3も同様に訂正する。
なお、上記訂正事項に係る訂正前の請求項1~3について、請求項2及び3は請求項1を引用する関係にあり、本件訂正により対応する請求項1~3に訂正される。
よって、本件訂正は一群の請求項1~3について請求されたものである。
2.訂正の適否
(1)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
●訂正事項について
訂正事項に係る請求項1の訂正は、本件訂正前の請求項1に記載されていた脱水された大根と非大根由来水とを混合する工程において、願書に添付した明細書の[0014]~[0016]及び[0029]等の記載に基づいて「サイクロデキストリン0.05~3質量%」を混合する成分としてさらに特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。また、訂正事項に係る請求項1の訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。
よって、訂正事項に係る請求項1の訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
訂正事項に係る請求項2及び3の訂正についても同様である。
(2)独立特許要件について
本件においては、訂正前のすべての請求項1~3に対して特許異議の申立てがされているので、訂正前の請求項1~3を訂正する上記訂正事項に係る訂正については、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
3.訂正請求についてのまとめ
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
よって、結論のとおり、本件特許の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~3〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2のとおり、本件訂正は認められるので、本件訂正請求により訂正された特許請求の範囲の請求項1~3に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明3」という。まとめて、「本件発明」ということもある。)は、それぞれ、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~3に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「[請求項1]
細断した大根を加熱処理する工程と、
前記加熱処理した大根をおろす工程と、
前記おろされた大根を、物理的圧力を加えることにより脱水して、前記おろされた大根に含まれる異臭及び変色の原因となる物質を水と共に除去する工程と、
前記脱水された大根を、大根に由来しない水である非大根由来水、増粘多糖類0.01~3質量%及びサイクロデキストリン0.05~3質量%と混合し、ペースト化して食品組成物を得る工程と、
を備える、常温で保存するチューブ状容器入り食品組成物の製造方法。
[請求項2]
前記ペースト化して食品組成物を得る工程は、前記食品組成物の粘度を5000~50000mpa・sに調整する工程を備える、請求項1に記載の製造方法。
[請求項3]
前記増粘多糖類はキサンタンガムである、請求項1に記載の製造方法。」
第4 特許異議申立理由の概要
申立人は、特許異議申立書とともに、証拠方法として下記2.に示す甲第1号証~甲第6号証(以下、「甲1」~「甲6」という。)を提出し、概略、以下の特許異議申立理由を主張している。また、令和7年4月3日に提出した意見書とともに、下記2.に示す参考資料1及び参考資料2(以下、「参考1」及び「参考2」という。)を提出し、訂正により生じた相違点について主張している。
なお、特許異議申立理由の番号は当審が仮に付与した。
1.特許異議申立理由
申立理由(甲1に基づく進歩性欠如)
本件発明1~3は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲1に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができるものではなく、それらの発明についての特許は、同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
2.証拠方法
甲1:特開昭60-58055号公報
甲2:特開2002-142705号公報
甲3:特開2020-10642号公報
甲4:石田正彦,森光康次郎,"4-メチルチオ-3-ブテニルグルコシノレート欠失性ダイコン加工品におけるグルコシノレート分解物の化学的変化 -におい・黄変のない大根加工品の開発を目指して-",におい・かおり環境学会誌,公益社団法人におい・かおり環境学会,2013年9月25日,44巻5号,p.307-314
甲5:江崎秀男,小野崎博通,"大根中の辛味成分の比色定量法",栄養と食糧,公益社団法人日本栄養・食糧学会,1980年12月10日,33巻3号,p.161-167
甲6:特開2003-299458号公報
参考1:特開2005-160314号公報
参考2:特開平2-60554号公報
証拠の表示は概ね申立人の記載に従った。
第5 取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由の概要
本件発明1~3についての特許に対して、令和7年5月23日付け取消理由通知(決定の予告)で特許権者に通知した取消理由の概要は以下のとおりである。
●取消理由(甲1に基づく進歩性欠如)
本件発明1~3は、本件特許の出願前に日本国内または外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができるものではなく、それらの発明についての特許は、同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
取消理由は、上記第4に記載した申立理由(甲1に基づく進歩性欠如)と同じ理由であり、取消理由通知(決定の予告)では、全ての特許異議申立理由を採用した。
第6 取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由及び特許異議申立理由について
当審は、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由及び特許異議申立理由(甲1に基づく進歩性欠如)のいずれによっても、本件発明1~3についての特許を取り消すことはできないと判断する。理由は以下のとおり。
1.甲1に記載された事項
甲1には以下の事項が記載されている。なお、数字は全角とし、「さんずいに戸」と書く漢字はひらがなの「ろ」と表記した。
(1-1)「2.特許請求の範囲
(1)大根おろしの製造工程中で生じる固形分と液体分とを分離し、この液体又は/及び飲料水中にリンゴ酸、クエン酸、酒石酸、フマル酸、フイチン酸、アスコルビン酸、乳酸、酢酸、食酢、リン酸、又はそれらの塩類及び明ばんから選ばれた1種若しくは2種以上を添加し溶解した後、前記固形分に対して、この溶液を添加し混合することを特徴とする大根おろしの変色防止法。
(2)大根おろしの製造工程中で生ずる固形分と液体分とを分離し、この分離した液体分75~33部と、別に設けた飲料水25~67部を混合し、この混合液中にリンゴ酸、クエン酸、酒石酸、フマール酸、フイチン酸、アスコルビン酸、乳酸、酢酸、食酢、リン酸、又はそれらの塩類及び明ばんから選ばれた1種若しくは2種以上を添加し溶解した後、前記固形分に対してこの溶液を添加し混合することを特徴とする特許請求の範囲第1項記載の大根おろしの変色防止法。」(第1頁「2.特許請求の範囲」の欄)
(1-2)「従来から、大根など野菜類の変色は、それらの中に含有されるチロシン、クロロゲン酸、カテキンなどのモノ或はポリフェノール化合物が酵素によって酸化され、褐変物質を生成することなどに起因することは知られている。
この為、大根などの野菜類の変色防止に効果的な有機酸や無機酸からなる変色防止剤を大根などの野菜類に添加し変色を防止する方法などが提示されているが、これらの場合、変色防止剤は大根などの野菜類と一緒に混合される為、溶解が困難であり、この為溶解されるまでにかなりの時間を要し、この溶解過程で野菜類は大気中の酸素と接触する機会が多くなるばかりでなく、溶解させた変色防止剤含有溶液中にも溶存酸素が増え、反つて野菜類の変色が促進されたり、又大根などの野菜類の味覚を損うことなどの問題があり、欠点となつていた。
本発明は、このような現況に鑑み開発されたものであり、大根おろしの味覚に悪影響を与えずに、しかも鮮度を長期間保持させる新しい大根おろしの変色防止法を提供することを目的とし、その要旨とするところは大根おろし製造工程中に生じる液体分を固形分と分離して、この液体分にリンゴ酸、クエン酸、酒石酸、フマール酸、フイチン酸、アスコルビン酸、乳酸、酢酸、食酢、リン酸、又はそれらの塩類及び明ばんから選ばれた1種又は2種以上の変色防止剤を添加し溶解すること、
或は前記変色防止剤を別に設けた飲料水中に添加溶解すること、
更には前記分離した液体分と別に設けた飲料水とを混合し、前記変色防止剤を添加溶解すること、の何れかの方法により調整した適正濃度の溶液を前記固形分に対応して添加混合する大根おろしの変色防止法にある。」(第1頁右下欄15行~第2頁右上欄8行)
(1-3)「以下、本発明の詳細を説明すると、先ず各種の大根を手動又は機械的におろして大根おろしを作成するが、その大根おろしは各種用途に応じた用量の容器に、前記大根おろしの製造工程中に生じた液体分と固形分とに分離し収納させる。この分離操作は、ろ布などを用いて行えばよく適宜、加圧、吸引などの手段を用いれば迅速に行うことができる。
次に分離した液体分に大根おろし成分の変色防止に効果的なリンゴ酸、クエン酸、酒石酸、フマル酸、フイチン酸、アスコルビン酸、乳酸、酢酸、食酢、リン酸、又はそれらの塩類、及び明ばんから選ばれた1種若しくは2種以上を所望量添加し撹拌させ溶解させる。
しかして、大根おろしの前記固形分を収納させた容器にこの溶液を添加し、混合させれば大根おろしの風味と香りを保持させながらその変色防止が実施できるのである。
又、前記大根おろしの固、液分離後、別の容器に設けた飲料水中に前記本発明に係る変色防止剤を所望量添加し溶解後前記固形分に混合してもよい。
更に、前記大根おろしの固液分離後、この分離した液体分と別に設けた飲料水とを混合し、この混合液中に前記本発明に係る変色防止剤を所望量添加し溶解後、前記固形分に混合しても本発明の目的は達成できる。
上述のように本発明に係る前記変色防止剤は、大根おろしの製造工程中で生じる固形分と液体分とを分離し、この液体分、或は別は設けた飲料水、更には前記大根おろしの液体分と飲料水とを混合した混合液、即ち各々固形分を含まない溶解度積の大きい液体を溶媒として前記限定された変色防止剤を溶解させるようにしているので、その溶解が迅速かつ容易であり、かつ、大根おろしの変色の要因となる酸素の溶存量を少なくさせることができる。」(第2頁右上欄9行~右下欄5行)
(1-4)「即ち、上述の変色防止剤の添加濃度は、大根おろし本来の風味を維持させ、かつ大根おろしの変色防止作用を行わせるとともに、この防止剤が保有する酸味、塩辛味によつて影響を受けない最適範囲に調整させる必要があり、この為前記本発明に係る変色防止剤の固有の特性や、2種以上の混合製剤の相乗特性などを考慮して種々実験を行つたところ、次表の結果を得た。」(第2頁右下欄末行~第3頁左上欄7行)
(1-5)「これらの実験結果を総合してみると、
少なくとも添加剤として表示した本発明に係る変色防止剤の濃度によつて各々変色防止効果の差異があり、結局変色防止剤が略0.1~3.0重量%の範囲の含有溶液が前記大根おろしの固形分と相容性があり、又、固液混合後の大根おろしの酸味や塩辛味或は水くささを感じさせない範囲であることがわかる。
なお、特に前記変色防止剤を大根おろしの液体分或は飲料水中もしくはそれらの混合液中で0.1重量%以下の濃度にすると、大根おろしに対して変色防止効果は小さく、又水くささを感じさせるものとなり、一方添加剤組成に応じた最大3.0重量%以上の添加量にすると酸味がきつくなり食用上好ましくない。
又、大根おろしの固形分に対する添加液量は、前記実験においては固形分量に対して液量は200重量%に設定したが、本発明においては、固形分に対して適度な流動性を与え、かつ変色防止作用が行える範囲、即ち前記濃度の液体を固形分に対し、50~200重量%の範囲で添加すれば、大根おろしに強い酸味や水くささを与えることなく好適な大根おろしを作成できることがわかつた。
この際、前記濃度の液体を固形分に対し50重量%以下にすると大根の繊維を主体とした固形分が多くなり、いわゆる大根汁が不足し、大根おろしの風味がなくなるものである。
反面、200重量%以上にすると水くさくなり不適となる。
このように、本発明においては、大根おろしに対する酸味成分抑制と、水くささを軽減させながら適量な変色防止剤を添加し、好適なpH値を保持させて前記有機酸及びその塩類等のキレート作用や還元能により大根おろしの変色防止を行うものであり、大根おろし本来の風味を有する前記固液分離後の大根おろし液体分75~33部と別に設けた前記変色防止剤の溶解能力のよい飲料水25~67部の混合液は、前記両者の接点の領域となるものである。
なお、前記固液分離後の大根汁は、変色の原因となる酵素による酸化を受け易いので、目的により前記調整液への大根汁の混和を少くし、飲料水の添加量を多くすれば更に変色防止効果は高くなる。」(第5頁左上欄1行~左下欄4行)
(1-6)「実施例-2
原料大根1500gを用いて常法により大根おろしを作成した後、ろ布を用いて軽く圧しながら固形分約500gと液体分約1000gを分離し、別に設けた飲料水500gに
リンゴ酸・・・・・・・・・・・10g
リンゴ酸ナトリウム・・・・・・13g
酸性メタリン酸ナトリウム・・・ 2g
アスコルビン酸ナトリウム・・・50g
明ばん・・・・・・・・・・・・25g
からなる混合製剤を5.0g添加し溶解後、この溶液を前記固形分と混合して大根おろしを調整した。
実施例-3
原料大根1500g を用いて常法により大根おろしを作成した後、ろ布を用いて軽く圧しながら固形分約500gと液体分約1000g を分離した。
この液体分500gを採取し、別に設けた飲料水500gに
リンゴ酸・・・・・・・・・・・10g
リンゴ酸ナトリウム・・・・・・13g
酸性メタリン酸ナトリウム・・・ 2g
アスコルビン酸ナトリウム・・・50g
明ばん・・・・・・・・・・・・25g
からなる混合製剤6.0gを添加し溶解後、この溶液と前記大根おろしの液体分500gとを混合後、前記固形分に添加して大根おろしを調整した。
次に上述の各実施例で得た大根おろしと、従来の大根おろし(無添加)との経日変色試験を行つたところ表8の結果を得た。
即ち従来の大根おろしは作成後2日経過すると変色が始まり、5日経過以後は著しく褐変し食用には供せられなくなるが、本発明に係る大根おろしは作成後5日経過してもなお変色は見られず充分食用に使用できるものであり、従来の大根おろしに比しその保存効果は著しく向上している。」(第5頁左下欄下から4行~第6頁左上欄11行及び表8)
(1-7)「以上のように本発明の大根おろしの変色防止法は大根おろしの変色防止に有効な変色防止剤を固液分離した大根おろしの液体分或は別に設けた飲料水、更にはそれらの混合溶液中に適量添加し溶解させ、続いて大根おろしの固形分量に対し、この変色防止剤含有溶液を適正量添加混合させることにより大根おろし本来の風味の保持と変色防止作用を行わさせるものであり、よつて作成した大根おろしは鮮度を有し麺、或はサシミなどに添えて味覚を堪能させるものとなるのである。」(第7頁左下欄7~16行)
2.甲1に記載された発明
甲1の特許請求の範囲の請求項1(摘記1-1)には、「大根おろしの製造工程中で生じる固形分と液体分とを分離し、この液体又は/及び飲料水中にリンゴ酸、クエン酸、酒石酸、フマル酸、フイチン酸、アスコルビン酸、乳酸、酢酸、食酢、リン酸、又はそれらの塩類及び明ばんから選ばれた1種若しくは2種以上を添加し溶解した後、前記固形分に対して、この溶液を添加し混合することを特徴とする大根おろしの変色防止法。」が記載されており、第2頁左上欄12行~右上欄8行(摘記1-2)には、「その要旨とするところは大根おろし製造工程中に生じる液体分を固形分と分離して、この液体分にリンゴ酸、クエン酸、酒石酸、フマール酸、フイチン酸、アスコルビン酸、乳酸、酢酸、食酢、リン酸、又はそれらの塩類及び明ばんから選ばれた1種又は2種以上の変色防止剤を添加し溶解すること、或は前記変色防止剤を別に設けた飲料水中に添加溶解すること、更には前記分離した液体分と別に設けた飲料水とを混合し、前記変色防止剤を添加溶解すること、の何れかの方法により調整した適正濃度の溶液を前記固形分に対応して添加混合する」ことにあることが記載され、第2頁右上欄9行~左下欄15行(摘記1-3)には、「先ず各種の大根を手動又は機械的におろして大根おろしを作成するが、その大根おろしは各種用途に応じた用量の容器に、前記大根おろしの製造工程中に生じた液体分と固形分とに分離し収納させる。分離操作は、ろ布などを用いて行えばよく適宜、加圧、吸引などの手段を用いれば迅速に行うことができる」こと、及び「前記大根おろしの固、液分離後、別の容器に設けた飲料水中に前記本発明に係る変色防止剤を所望量添加し溶解後前記固形分に混合してもよい。更に、前記大根おろしの固液分離後、この分離した液体分と別に設けた飲料水とを混合し、この混合液中に前記本発明に係る変色防止剤を所望量添加し溶解後、前記固形分に混合しても本発明の目的は達成できる」ことが記載されている。そして、第5頁左下欄下から4行~第6頁左上欄11行(摘記1-6)には、上記方法のうち飲料水を用いる場合の実施例である実施例-2及び実施例-3が記載されており、実施例-2においては「原料大根1500gを用いて常法により大根おろしを作成した後、ろ布を用いて軽く圧しながら固形分約500gと液体分約1000gを分離し、別に設けた飲料水500gに、リンゴ酸10g、リンゴ酸ナトリウム13g、酸性メタリン酸ナトリウム2g、アスコルビン酸ナトリウム50g、明ばん25gからなる混合製剤を5.0g添加し溶解後、この溶液を前記固形分と混合して大根おろしを調整した。」ことが記載されている。
そうすると、甲1には、実施例-2等に基づいて以下の発明が記載されている。
「原料大根1500gを手動又は機械的におろして大根おろしを製造する工程、得られた大根おろしをろ布を用いて軽く圧しながら製造中に生じた固形分約500gと液体分約1000gとに分離し容器に収納する工程、別の容器に設けた飲料水500g中にリンゴ酸10g、リンゴ酸ナトリウム13g、酸性メタリン酸ナトリウム2g、アスコルビン酸ナトリウム50g及び明ばん25gからなる変色防止剤の混合製剤を5.0g添加し溶解する工程、並びに得られた溶液を前記固形分に添加し混合する工程を備える、大根おろしの製造方法。」(以下、「甲1発明」という。)
3.本件発明1について
(1)本件発明1と甲1発明との対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明における「原料大根1500gを手動又は機械的におろして大根おろしを製造する工程」、「得られた大根おろしをろ布を用いて軽く圧しながら製造中に生じた固形分約500gと液体分約1000gとに分離し容器に収納する工程」、「別の容器に設けた飲料水500g」、「リンゴ酸10g、リンゴ酸ナトリウム13g、酸性メタリン酸ナトリウム2g、アスコルビン酸ナトリウム50g及び明ばん25gからなる変色防止剤の混合製剤を5.0g添加し溶解する工程、並びに得られた溶液を前記固形分に添加し混合する工程」及び「大根おろしの製造方法。」は、それぞれ本件発明1における「大根をおろす工程」、「前記おろされた大根を、物理的圧力を加えることにより脱水」する工程、「大根に由来しない水である非大根由来水」、「混合し、・・・食品組成物を得る工程」及び「食品組成物の製造方法。」に相当する。また、甲4の308頁には、大根を機械的に細断する等により細胞が破壊されると細胞内の酵素ミロシナーゼの作用によってイソチオシアネートをはじめとする様々な化合物を生じ、臭気や黄変の元となることが記載され、甲5の104頁には大根磨砕物搾汁液にイソチオシアナートが含まれていることが記載されているから、甲1発明における「固形分約500gと液体分約1000gとに分離し容器に収納する工程」は、固形分から臭気及び黄変の元となる成分を含む液体分を分離する工程であるということができ、したがって、本件発明1における「前記おろされた大根に含まれる異臭及び変色の原因となる物質を水と共に除去する工程」に相当する。
そうすると、両者は、
「大根をおろす工程と、
前記おろされた大根を、物理的圧力を加えることにより脱水して、前記おろされた大根に含まれる異臭及び変色の原因となる物質を水と共に除去する工程と、
前記脱水された大根を、大根に由来しない水である非大根由来水と混合し、食品組成物を得る工程と、
を備える、食品組成物の製造方法。」
の点で一致し、
相違点1:本件発明1は「細断した大根を加熱処理する工程」を備え、「増粘多糖類0.01~3質量%及びサイクロデキストリン0.05~3質量%と混合し、ペースト化」することを特定するのに対し、甲1発明はそのように特定されていない点
相違点2:「食品組成物」に関して、本件発明1は「常温で保存するチューブ状容器入り」と特定するのに対し、甲1発明はそのように特定されていない点
で相違する。そこで、上記相違点1及び2について検討する。
(2)相違点1及び2について
甲2には、「おろしの製造方法及びおろし含有食品」に関し、「水洗し、剥皮した生の大根を、フードカッターで10mm角の大きさに細断し、この大根片を、90℃の熱水中に投入し、1~2分間保持して大根片に加熱処理を施し(中心品温は75℃を達成)、加熱処理済み大根片を得」る工程を採用すること、及び大根おろしの長期保存を可能とする手段である、適量の増粘物質を添加した組成物として樹脂製チューブなどの容器に封入することが記載され(甲2の[0013]、[0016]、[0018]及び[0020]~[0023])、甲3には、「調味組成物」に関し、植物由来原料に適量の増粘物質を添加した組成物を樹脂製チューブなどの容器に封入することが記載され(甲3の[0013]、[0033]~[0034]及び[0038])、参考1には、「大根おろし」に関し、大根おろしにサイクロデキストリンを添加することが記載され(参考1の請求項1~3)、参考2には、「ペースト状食品の製造法」に関し、練り梅にβ-サイクロデキストリンを添加することが記載されている(参考2の第4頁左上欄8~10行)。しかし、いずれの証拠にも、相違点1に係る加熱処理、増粘多糖類及びサイクロデキストリンの混合、ペ-スト化、並びに相違点2に係る常温で保存するチューブ状容器入りとすることの全てを同時に採用することは記載されていない。また、甲1発明は、「鮮度を長期間保持させる新しい大根おろしの変色防止法を提供する」(第2頁左上欄13~15行)という課題を解決した発明であるところ、甲1及び他の全ての証拠の記載を参照しても、当業者が甲1発明にさらに甲2、甲3、参考1及び参考2に記載された事項の全てを追加併用し、相違点1及び2に係る本件発明1の特定事項を採用することの動機となる記載はない。
そして、本件発明1が、50℃で3週間(常温一年相当の加速試験)の保存後において、異臭の発生、変色及び離水が抑制されるという効果を発揮することは、当業者が予測できなかったことである。
よって、甲1及び他の全ての証拠の記載を参酌しても、相違点1及び2に係る本件発明1の特定事項は当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
(3)申立人の主張について
ア 申立人は、令和7年4月3日に提出した意見書の3~4頁において、「本件特許明細書の比較例1,2は、β-サイクロデキストリンが添加されているのにも関わらず、臭気は××となっており、β-サイクロデキストリンが顕著な異臭発生抑制効果を有するとは認められません。また、参考資料1には、生のすりおろし直後の大根と色調ばかりでなく食感や食味も変わらないものが得られるという効果が記載されているので、異臭発生抑制効果についても、当業者が予測できた程度の効果にすぎません。」と主張している。
しかし、比較例1及び2は、いずれも加熱処理及び脱水処理を行わなかった比較例であり、「脱水時に、大根そのものに含まれている異臭、変色の原因となる物質が、水と共に除去される」ことも、熱による酵素の失活も行われていないことが明らかであるから、実施例と同量しかβ-サイクロデキストリンを添加していない比較例1及び2において顕著な異臭発生抑制効果が見られなかったとしても、本件明細書の[0016]における「サイクロデキストリンには、異臭発生抑制効果がある。」との記載が否定されるものではない。また、参考1に記載された保存効果は、「冷凍品にあっては6ヶ月以上、また冷蔵品にあっては10日以上、製造直後の色調を維持し、変色を防止できるばかりでなく食味や食感においても作りたてと遜色ない」(参考1の[0008])というものにすぎず、他の全ての証拠の記載と合わせても、本件発明1により「50℃で3週間(常温一年相当の加速試験)の保存後」においてまで、異臭の発生、変色及び離水が抑制されるという効果が得られることは、当業者が予測できなかったことといえる。
よって、申立人の主張を採用することはできない。
イ また、申立人は、令和7年8月21に提出した上申書の1~3頁において、「サイクロデキストリンを添加することにより、グルコシノレート(からし油配糖体)がその環状体の内側に包接されて、酵素が作用し難い構造となることにより、変色が抑制されるのであるが、その際に、グルコシノレートの酵素分解によって生じるメチルメルカプタン等の臭気の放出(当審注:甲4)も抑制されることは、当業者であれば容易に理解できることである」こと、及び「臭気の発生が抑制されるという効果は、甲第1号証、甲第2号証にも実質的に記載されている」ことを主張している。
しかし、甲1及び甲2に記載された保存効果は「作成後5日経過してもなお変色は見られず充分食用に使用できる」(甲1の第6頁左上欄9~10行)、「容器に充填密封して10℃で14日間保存したところ、試料1~試料4には黄変は認められず、磨砕処理直後の白さを維持していた」(甲2の[0023])というものにすぎず、他の全ての証拠の記載と合わせても、本件発明1により「50℃で3週間(常温一年相当の加速試験)の保存後」においてまで、異臭の発生、変色及び離水が抑制されるという効果が得られることは、当業者が予測できなかったことといえる。
よって、申立人の主張を採用することはできない。
ウ さらに、申立人は、令和7年8月21に提出した上申書の3~4頁において、「このように(当審注:甲2の[0016]及び甲3の[0002])、植物由来原料を含む粘体状の調味組成物を、樹脂製チューブなどの容器に封入して常温で長期保存できるようにした商品は、本件特許の出願前から数多く販売されている。これらの商品は、いずれも長期保存しても変色や異臭の発生が抑制されることを確認する試験を経て販売されていると思料される。そのような試験として、50℃で3週間などの条件で保存した後の変色や異臭の発生を調べることは、当業界では常識的に行われていることにすぎない。特許権者が主張する、50℃で3週間(常温で一年相当の加速試験)保存において異臭や変色を抑制できるという効果は、樹脂製チューブなどの容器に封入して常温で長期保存できるようにした商品にしようとしたときに、品質上求められる条件であって、当業者が予期し得なかった効果ではない。・・・甲第1~3号証及び参考資料1に記載された作用効果を考慮すれば、上記周知技術を組合せることによって、樹脂製チューブなどの容器に封入して常温で長期保存できるようにした商品に求められる変色や異臭抑制効果が得られる可能性があることは、当業者であれば十分に予測できたことである。」と主張している。
しかし、甲1、甲2及び参考1に記載された保存効果は上記ア及びイに記載したとおりのものにすぎず、いずれも「50℃で3週間(常温一年相当の加速試験)の保存後」の効果ではなく、より負荷の低い状態で保存したときの効果にすぎない。また、甲3には大根おろしを用いた実施例の記載はなく、保存条件、保存期間及び評価項目を確認できるような実験データも記載されていない。そして、他の全ての証拠の記載を参照しても、本件発明1により「50℃で3週間(常温一年相当の加速試験)の保存後において異臭や変色を抑制できる」という効果が得られることを予期できたと言えるに足る根拠は、いずれの証拠にも見いだせない。
よって、申立人の主張を採用することはできない。
(4)本件発明1についてのまとめ
以上のことから、本件発明1は甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
4.本件発明2及び3について
本件発明2及び3は、いずれも請求項1を引用し、本件発明1の発明特定事項を全て備えるものである。そうすると、上記3.で検討した本件発明1と同様の理由により、本件発明2及び3は、いずれも甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
5.取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由及び特許異議申立理由についてのまとめ
以上まとめると、本件発明1~3は、いずれも甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。
よって、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由及び特許異議申立理由(甲1に基づく進歩性欠如)により本件発明1~3についての特許を取り消すことはできない。
第7 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由のいずれによっても、本件発明1~3についての特許を取り消すことはできない。また、他に、これらの特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700740