特許異議申立
2025-700827
水洗大便器
- 審判番号
- 2025-700827
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2023-204099
- 登録番号
- 7630776
- 請求日
- 2025年08月18日
- 審決日
- 2026年05月11日
- 公報発行日
- 2026年08月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】TOTO株式会社
- 【権利者代理人】▲吉▼田 和彦
- 【権利者代理人】須田 洋之
- 【権利者代理人】山崎 一夫
- 【権利者代理人】弟子丸 健
- 【権利者代理人】山本 泰史
- 【権利者代理人】鈴木 博子
- 【権利者代理人】深田 孝徳
- 【権利者代理人】倉澤 伊知郎
- 【異議申立人】藤江 桂子
- 審判長/審判官
- 審判長 澤田 真治
- 審判官 家田 政明
- 審判官 土屋 真理子
- 分類
- P1651.113-YAA(E03D) / P1651.121-YAA(E03D) / P1651.537-YAA(E03D)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条、特許法第36条、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7630776号発明「水洗大便器」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7630776号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-9〕について訂正することを認める。
特許第7630776号の請求項1~9に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7630776号(以下「本件特許」という。)の請求項1~9に係る特許についての出願は、令和5年12月1日(優先権主張 令和5年2月28日)に出願され、令和7年2月7日にその特許権の設定登録がされ、同月18日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和7年8月18日 :特許異議申立人 藤江 桂子(以下「申立
人」という。)による請求項1~9に係る特
許に対する特許異議の申立て
同年10月 1日 :手続補正書
同月28日付け:取消理由通知書
同年12月26日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和8年 2月18日 :申立人による意見書の提出
第2 訂正の適否
1 令和8年2月18日提出の訂正請求書による訂正の内容
令和8年2月18日提出の訂正請求書(以下「本件訂正請求書」という。)による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は以下のとおりである(下線部は訂正箇所を示す。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「上記吐水口の縦幅は、上記吐水口の近傍における上記通水路の縦幅と略同一になるように設定されていることを特徴とする」と記載されているのを、
「上記吐水口の縦幅は、上記吐水口の近傍における上記通水路の縦幅と略同一になるように設定され、
上記下方通水路の流路断面積は、上流から上記吐水口に向かって減少していることを特徴とする」に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に
「上記通水路の下流側では、上記下方通水路の上面が上流から上記吐水口に向かって下方へ傾斜している、請求項1に記載の水洗大便器。」と記載されているのを、
「洗浄水により洗浄して汚物を排出する水洗大便器であって、
汚物を受ける汚物受け面と、
この汚物受け面の上部に形成されたリム部と、
上記汚物受け面の下部に形成されその内部に溜水面が形成されるツボ部と、を備えたボウル部と、
上記リム部に形成されリム部の内周面に沿って洗浄水を吐水する吐水口と、
洗浄水を上記吐水口へ導く通水路と、
上記ボウル部の底部に接続された排水管路と、を有し、
上記通水路は、縦長の矩形形状に形成された下方通水路と、この下方通水路よりも横幅が小さく形成され上記下方通水路から上方へ延びる上方通水路と、を有し、
上記吐水口の縦幅は、上記吐水口の近傍における上記通水路の縦幅と略同一になるように設定され、
上記通水路の下流側では、上記下方通水路の上面が上流から上記吐水口に向かって下方へ傾斜していることを特徴とする水洗大便器。」に訂正する(請求項2の記載を引用する請求項3及び4も同様に訂正する)。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項5に
「上記吐水口は、上記ボウル部の前後方向の中心線よりも前方側に配置されている、請求項1に記載の水洗大便器。」と記載されているのを、
「洗浄水により洗浄して汚物を排出する水洗大便器であって、
汚物を受ける汚物受け面と、
この汚物受け面の上部に形成されたリム部と、
上記汚物受け面の下部に形成されその内部に溜水面が形成されるツボ部と、を備えたボウル部と、
上記リム部に形成されリム部の内周面に沿って洗浄水を吐水する吐水口と、
洗浄水を上記吐水口へ導く通水路と、
上記ボウル部の底部に接続された排水管路と、を有し、
上記通水路は、縦長の矩形形状に形成された下方通水路と、この下方通水路よりも横幅が小さく形成され上記下方通水路から上方へ延びる上方通水路と、を有し、
上記吐水口の縦幅は、上記吐水口の近傍における上記通水路の縦幅と略同一になるように設定され、
上記吐水口は、上記ボウル部の前後方向の中心線よりも前方側に配置されていることを特徴とする水洗大便器。」に訂正する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項6に
「上記吐水口は、縦長の矩形形状に形成された下方開口と、この下方開口よりも横幅が小さく形成され上記下方開口から上方へ延びる上方開口と、を有している、請求項1に記載の水洗大便器。」と記載されているのを、
「洗浄水により洗浄して汚物を排出する水洗大便器であって、
汚物を受ける汚物受け面と、
この汚物受け面の上部に形成されたリム部と、
上記汚物受け面の下部に形成されその内部に溜水面が形成されるツボ部と、を備えたボウル部と、
上記リム部に形成されリム部の内周面に沿って洗浄水を吐水する吐水口と、
洗浄水を上記吐水口へ導く通水路と、
上記ボウル部の底部に接続された排水管路と、を有し、
上記通水路は、縦長の矩形形状に形成された下方通水路と、この下方通水路よりも横幅が小さく形成され上記下方通水路から上方へ延びる上方通水路と、を有し、
上記吐水口の縦幅は、上記吐水口の近傍における上記通水路の縦幅と略同一になるように設定され、
上記吐水口は、縦長の矩形形状に形成された下方開口と、この下方開口よりも横幅が小さく形成され上記下方開口から上方へ延びる上方開口と、を有していることを特徴とする水洗大便器。」に訂正する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項7に
「上記上方通水路の横幅は、上記吐水口よりも上流側の所定位置から上記吐水口に向かって拡大し始め、上記吐水口の近傍位置において上記下方通水路の横幅と略同一になるように設定されている、請求項1に記載の水洗大便器。」と記載されているのを、
「洗浄水により洗浄して汚物を排出する水洗大便器であって、
汚物を受ける汚物受け面と、
この汚物受け面の上部に形成されたリム部と、
上記汚物受け面の下部に形成されその内部に溜水面が形成されるツボ部と、を備えたボウル部と、
上記リム部に形成されリム部の内周面に沿って洗浄水を吐水する吐水口と、
洗浄水を上記吐水口へ導く通水路と、
上記ボウル部の底部に接続された排水管路と、を有し、
上記通水路は、縦長の矩形形状に形成された下方通水路と、この下方通水路よりも横幅が小さく形成され上記下方通水路から上方へ延びる上方通水路と、を有し、
上記吐水口の縦幅は、上記吐水口の近傍における上記通水路の縦幅と略同一になるように設定され、
上記上方通水路の横幅は、上記吐水口よりも上流側の所定位置から上記吐水口に向かって拡大し始め、上記吐水口の近傍位置において上記下方通水路の横幅と略同一になるように設定されていることを特徴とする水洗大便器。」に訂正する。(請求項7の記載を引用する請求項8及び9も同様に訂正する)。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的
訂正事項1に係る訂正は、「下方通水路」について、訂正前においては、流路断面積に関して何ら特定されていなかったものを、訂正事項1に係る訂正によって、「下方通水路の流路断面積は、上流から上記吐水口に向かって減少している」と特定して限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする。
イ 新規事項の有無
願書に添付した明細書(以下「本件明細書」といい、特許請求の範囲、図面とあわせて「本件明細書等」という。)の段落【0030】には「下方通水路36の流路断面積は、上流から第1吐水口24に向かって徐々に縮小している」と記載されている。
したがって、訂正事項1に係る訂正は、本件明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるから、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1に係る訂正は、上記アのとおり特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、請求項1に係る発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しない。
(2)訂正事項2~5について
訂正事項2~5に係る訂正は、それぞれ、請求項2、5、6及び7が請求項1の記載を引用する記載であったものを、請求項間の引用関係を解消して請求項1を引用しないものとし、独立形式の請求項へ改めるものであるから、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とする。
そして、訂正事項2~5に係る訂正は、請求項間の引用関係を解消して請求項1を引用しないものとし、独立形式の請求項へ改めるものであって実質的な内容の変更を伴うものではないから、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しないものであることは明らかである。
(3)訂正の単位(一群の請求項)について
訂正前の請求項2~9は、訂正前の請求項1を直接または間接的に引用するものであり、訂正事項1に係る訂正によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項1~9に対応する訂正後の請求項1~9は、特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
3 訂正の適否のまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号又は4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合する。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-9〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2で示したとおり、本件訂正請求による訂正は認められるので、本件特許の請求項1~9に係る発明(以下、それぞれ、請求項番号により「本件発明1」等といい、これらを併せて「本件発明」という。)は、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~9に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
洗浄水により洗浄して汚物を排出する水洗大便器であって、
汚物を受ける汚物受け面と、
この汚物受け面の上部に形成されたリム部と、
上記汚物受け面の下部に形成されその内部に溜水面が形成されるツボ部と、を備えたボウル部と、
上記リム部に形成されリム部の内周面に沿って洗浄水を吐水する吐水口と、
洗浄水を上記吐水口へ導く通水路と、
上記ボウル部の底部に接続された排水管路と、を有し、
上記通水路は、縦長の矩形形状に形成された下方通水路と、この下方通水路よりも横幅が小さく形成され上記下方通水路から上方へ延びる上方通水路と、を有し、
上記吐水口の縦幅は、上記吐水口の近傍における上記通水路の縦幅と略同一になるように設定され、
上記下方通水路の流路断面積は、上流から上記吐水口に向かって減少していることを特徴とする水洗大便器。
【請求項2】
洗浄水により洗浄して汚物を排出する水洗大便器であって、
汚物を受ける汚物受け面と、
この汚物受け面の上部に形成されたリム部と、
上記汚物受け面の下部に形成されその内部に溜水面が形成されるツボ部と、を備えたボウル部と、
上記リム部に形成されリム部の内周面に沿って洗浄水を吐水する吐水口と、
洗浄水を上記吐水口へ導く通水路と、
上記ボウル部の底部に接続された排水管路と、を有し、
上記通水路は、縦長の矩形形状に形成された下方通水路と、この下方通水路よりも横幅が小さく形成され上記下方通水路から上方へ延びる上方通水路と、を有し、
上記吐水口の縦幅は、上記吐水口の近傍における上記通水路の縦幅と略同一になるように設定され、
上記通水路の下流側では、上記下方通水路の上面が上流から上記吐水口に向かって下方へ傾斜していることを特徴とする水洗大便器。
【請求項3】
上記通水路の下流側では、上記下方通水路の上面が上流から上記吐水口に向かって徐々に下方へ傾斜している、請求項2に記載の水洗大便器。
【請求項4】
上記通水路の下流側では、上記上方通水路の上面が上流から上記吐水口に向かって水平方向に延びている、請求項2又は3に記載の水洗大便器。
【請求項5】
洗浄水により洗浄して汚物を排出する水洗大便器であって、
汚物を受ける汚物受け面と、
この汚物受け面の上部に形成されたリム部と、
上記汚物受け面の下部に形成されその内部に溜水面が形成されるツボ部と、を備えたボウル部と、
上記リム部に形成されリム部の内周面に沿って洗浄水を吐水する吐水口と、
洗浄水を上記吐水口へ導く通水路と、
上記ボウル部の底部に接続された排水管路と、を有し、
上記通水路は、縦長の矩形形状に形成された下方通水路と、この下方通水路よりも横幅が小さく形成され上記下方通水路から上方へ延びる上方通水路と、を有し、
上記吐水口の縦幅は、上記吐水口の近傍における上記通水路の縦幅と略同一になるように設定され、
上記吐水口は、上記ボウル部の前後方向の中心線よりも前方側に配置されていることを特徴とする水洗大便器。
【請求項6】
洗浄水により洗浄して汚物を排出する水洗大便器であって、
汚物を受ける汚物受け面と、
この汚物受け面の上部に形成されたリム部と、
上記汚物受け面の下部に形成されその内部に溜水面が形成されるツボ部と、を備えたボウル部と、
上記リム部に形成されリム部の内周面に沿って洗浄水を吐水する吐水口と、
洗浄水を上記吐水口へ導く通水路と、
上記ボウル部の底部に接続された排水管路と、を有し、
上記通水路は、縦長の矩形形状に形成された下方通水路と、この下方通水路よりも横幅が小さく形成され上記下方通水路から上方へ延びる上方通水路と、を有し、
上記吐水口の縦幅は、上記吐水口の近傍における上記通水路の縦幅と略同一になるように設定され、
上記吐水口は、縦長の矩形形状に形成された下方開口と、この下方開口よりも横幅が小さく形成され上記下方開口から上方へ延びる上方開口と、を有していることを特徴とする水洗大便器。
【請求項7】
洗浄水により洗浄して汚物を排出する水洗大便器であって、
汚物を受ける汚物受け面と、
この汚物受け面の上部に形成されたリム部と、
上記汚物受け面の下部に形成されその内部に溜水面が形成されるツボ部と、を備えたボウル部と、
上記リム部に形成されリム部の内周面に沿って洗浄水を吐水する吐水口と、
洗浄水を上記吐水口へ導く通水路と、
上記ボウル部の底部に接続された排水管路と、を有し、
上記通水路は、縦長の矩形形状に形成された下方通水路と、この下方通水路よりも横幅が小さく形成され上記下方通水路から上方へ延びる上方通水路と、を有し、
上記吐水口の縦幅は、上記吐水口の近傍における上記通水路の縦幅と略同一になるように設定され、
上記上方通水路の横幅は、上記吐水口よりも上流側の所定位置から上記吐水口に向かって拡大し始め、上記吐水口の近傍位置において上記下方通水路の横幅と略同一になるように設定されていることを特徴とする水洗大便器。
【請求項8】
上記吐水口は、上記ツボ部の前端よりも前方側に配置され、
上記上方通水路の横幅が拡大し始める上記所定位置が、前後方向において、上記ツボ部の前端と略同一の位置になるように設定されている、請求項7に記載の水洗大便器。
【請求項9】
上記上方通水路の横幅が拡大している部分は、通水路が略直線状に延びる通水路直線部に設けられている、請求項7又は8に記載の水洗大便器。」
第4 特許異議申立理由及び取消理由の概要
1 特許異議申立理由の概要
(1)令和7年10月1日付け手続補正書により補正された令和7年8月18日提出の特許異議申立書(以下「申立書」という。)による特許異議申立理由の概要は以下のとおりである。
ア 申立理由1(特許法29条1項3号または2項)
本件特許の請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるか、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法29条1項または2項の規定に違反してされたものである。
甲第1号証 特開2020-165172号公報
イ 申立理由2(特許法36条6項1号及び2号)
(ア)本件特許の請求項1~9に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。
(イ)本件特許の請求項1~9に係る発明は、発明が明確でない。
2 取消理由の概要
当審において令和7年10月28日付け取消理由通知書により特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
1.(新規性)本件特許の請求項1に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法29条1項3号に該当するから、その特許は、特許法29条1項の規定に違反してされたものである。
2.(進歩性)本件特許の請求項1に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。
甲第1号証 特開2020-165172号公報
第5 取消理由通知において通知した取消理由についての当審の判断
1 証拠の記載
(1)甲第1号証(特開2020-165172号公報)
ア 甲第1号証の記載
申立人が申立書に添付して提出した甲第1号証(特開2020-165172号公報)には、以下の記載がある。
(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、水洗大便器に係り、特に、洗浄水源から供給される洗浄水によって洗浄されて汚物を排出する水洗大便器に関する。」
(イ)「【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態による水洗大便器の概略平面図である。
【図2】図1のII-II線に沿った断面図である。
【図3】図1のIII-III線に沿った断面図である。
【図4】図1のIV-IV線に沿った断面図である。
【図5】図1のV-V線に沿った断面図である。
【図6】図1のVI-VI線に沿った断面図である。
【図7】図1のVII-VII線に沿った断面図である。
【図8】本発明の一実施形態による水洗大便器のボウル内の洗浄水の流れを概略的に説明した概略平面図である。」
(ウ)「【発明を実施するための形態】
【0015】
つぎに、図1~図8を参照して、本発明の一実施形態による水洗大便器について説明する。
まず、図1は、本発明の一実施形態による水洗大便器の概略平面図である。
図1に示すように、本発明の第1実施形態による水洗大便器1は、陶器製の便器本体2と、その後方側に設けられたタンク装置4と、を備えている。
便器本体2は、ボウル形状のボウル6を備えている。このボウル6は、汚物を受ける汚物受け面8と、この汚物受け面8の上縁に形成されるリム10と、汚物受け面の下方に形成される壺12と、この壺12の底部から延びてボウル6内の汚物を排出する排水トラップ14と、を備えている。
図1に示すように本実施形態の水洗大便器1は、便器本体2のボウル6内の水の落差による流水作用で汚物を排水トラップ14へ押し流す、いわゆる、「洗い落し式の水洗大便器」である。
ここで、図1に示す本発明の一実施形態による水洗大便器1においては、便器本体2のボウル6の平面視において、ボウル6を前後方向に二等分するように水平左右方向に延びる中心軸線を「X」で示し、ボウル6を左右方向に二等分するように水平前後方向に延びる中心軸線を「Y」で示している。
さらに、図1に示すように、水洗大便器1の前後左右の方向については、「前」、「後」、「左」、「右」でそれぞれ示している。
・・・
【0018】
つぎに、図1に示すように、導水路18は、ボウル6の背面側に設けられている。この導水路18の上流側は、タンク装置4のポンプ20から延びる給水管路22に接続されている。
また、導水路18の下流側は、第1リム導水路24及び第2リム導水路26のそれぞれに分岐している。
さらに、第1リム導水路24は、その上流側が導水路18に接続される上流側第1リム導水路28と、この上流側第1リム導水路28の下流側に一体的に形成される下流側第1リム導水路30と、を備えている。
また、下流側第1リム導水路30及び第2リム導水路26のそれぞれの下流端には、第1リム吐水口32及び第2リム吐水口34がそれぞれ設けられている。
【0019】
つぎに、図1に示すように、第1リム吐水口32は、ボウル6内の左前方領域LFのリム10に設けられており、壺部12の前端位置P1よりも前方に配置されている。
また、図1に示すように、上流側第1リム導水路28及び下流側第1リム導水路30は、ボウル6の外周面を迂回しながら前方の第1リム吐水口32まで延びるようにリム10の内部に形成されている。
これにより、導水路18から第1リム導水路24に供給された洗浄水W1は、第1リム吐水口32から前方の棚面36に吐水された後、ボウル6内の左前方領域LFから右前方領域RFを経て右側方領域RMへと旋回する旋回流を形成するようになっている。
一方、図1に示すように、第2リム吐水口34は、ボウル6内の右側方領域RMのリム10に設けられており、壺部12の前端位置P1よりも後方且つ後端位置P2よりも前方に配置されている。
また、第2リム吐水口34は、壺部12の前後方向の中央(図1に示す壺部12の前後後方向の中心O1)よりも後方に配置されている。
さらに、図1に示すように、第2リム導水路26は、ボウル6の外周面を迂回しながら前方のボウル6の右側方領域RMのリム10まで延びるように形成されている。その後、第2リム導水路26は、ボウル6の右側方領域RMのリム10の内部において、後方側にUターンして後方に延びるように形成された後、第2リム吐水口34に向けて斜め後方に屈曲して第2リム吐水口34まで延びるように形成されている。
・・・
【0021】
つぎに、図1~図3に示すように、上流側第1リム導水路28の下流端D1における鉛直流路断面C1は、その外側面(外側壁面46)の最大高さ寸法H1が、鉛直流路断面C1の内側面(内側壁面48)の最大高さ寸法H2よりも大きくなるように形成されている(H2<H1)。
これにより、上流側第1リム導水路28は、その下流端D1の鉛直流路断面C1において、外側壁面46の上端46aが内側壁面48の上端48aよりも高い位置になるように形成されている。
また、図1~図3に示すように、下流側第1リム導水路30は、上流側第1リム導水路28の下流端D1から第1リム吐水口32までに亘って形成され、下流側第1リム導水路30の鉛直流路断面C2の断面積A2(図3参照)が、上流側第1リム導水路28の下流端D1の鉛直流路断面C1の断面積A1(図2参照)よりも大きくなるように形成されている(A2>A1)。
【0022】
つぎに、図2に示すように、上流側第1リム導水路28の下流端D1の鉛直流路断面C1を形成する下側リム部40は、底面部40aと、この底面部40aの左右両側にそれぞれに一体的に形成された下側内壁部40b及び下側外壁部40cと、を備えている。
また、図2に示すように、上流側第1リム導水路28の下流端D1の鉛直流路断面C1を形成する上側リム部38は、下側リム部40の下側内壁部40bの上方に設けられた上側内壁部38aと、この上側内壁部38aの上側に一体的に形成された第1上面部38bと、この第1上面部38bの外側に一体的に形成された上側外壁部38cと、この上側外壁部38cの上側に一体的に形成された第2上面部38dと、を備えている。
これにより、上流側第1リム導水路28の下流端D1における内側リム接着部42は、下側リム部40の下側内壁部40bの上端と上側リム部38の上側内壁部38aの下端とを接着する内側リム接着面S1を形成している。
さらに、図2に示すように、上流側第1リム導水路28の下流端D1における外側リム接着部44は、下側リム部40の下側外壁部40cの上端と上側リム部38の第2上面部38dの下端外側とを接着する外側リム接着面S2を形成している。」
(エ)図1、図2、図3及び図8
「
[図:0001438290000001.jpg]
」
「
[図:0001438290000002.jpg]
」
「
[図:0001438290000003.jpg]
」
「
[図:0001438290000004.jpg]
」
(オ)看取事項
上記(ウ)の段落【0021】の「上流側第1リム導水路28・・・は、その外側面(外側壁面46)の最大高さ寸法H1が、鉛直流路断面C1の内側面(内側壁面48)の最大高さ寸法H2よりも大きくなるように形成され・・・これにより、上流側第1リム導水路28は、その下流端D1の鉛直流路断面C1において、外側壁面46の上端46aが内側壁面48の上端48aよりも高い位置になるように形成されている。」、段落【0022】の「上流側第1リム導水路28・・・は、底面部40aと、この底面部40aの左右両側にそれぞれに一体的に形成された下側内壁部40b及び下側外壁部40cと、を備え」、及び同段落の「上流側第1リム導水路28・・・は、第1上面部38bと、この第1上面部38bの外側に一体的に形成された上側外壁部38cと、この上側外壁部38cの上側に一体的に形成された第2上面部38dと、を備え」との記載を踏まえると、上記(エ)の【図2】より、上流側第1リム導水路28は、底面部40a、内側壁面48、内側壁面48の上端48aより底面部40aと略平行に延びる第1上面部38b、外側壁面46のうち、底面部40aから第1上面部38bの延長線との交点までの部分で囲繞される、上流側第1リム導水路28の下側にある縦長の矩形形状の領域と、上側外壁部38c、第2上面部38d、第2上面部38dの延長線、外側壁面46のうち、第2上面部38dから第1上面部38bの延長線との交点までの部分で囲繞される領域を有し、後者の領域の横幅は、前者の縦長の矩形形状の領域の横幅よりも小さいことが看取される。
イ 甲1発明
上記アより、甲第1号証には、以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
(甲1発明)
洗浄水によって洗浄されて汚物を排出する水洗大便器であって、(【0001】)
水洗大便器1は、便器本体2を備え、便器本体2は、ボウル形状のボウル6を備え、このボウル6は、汚物を受ける汚物受け面8と、この汚物受け面8の上縁に形成されるリム10と、汚物受け面の下方に形成される壺12と、この壺12の底部から延びてボウル6内の汚物を排出する排水トラップ14と、を備えており、(【0015】)
第1リム導水路24は、上流側第1リム導水路28と、この上流側第1リム導水路28の下流側に一体的に形成される下流側第1リム導水路30と、を備えており、下流側第1リム導水路30の下流端には、第1リム吐水口32が設けられており、(【0018】)
第1リム吐水口32は、リム10に設けられており、上流側第1リム導水路28及び下流側第1リム導水路30は、ボウル6の外周面を迂回しながら前方の第1リム吐水口32まで延びるようにリム10の内部に形成されており、これにより、導水路18から第1リム導水路24に供給された洗浄水W1は、第1リム吐水口32から前方の棚面36に吐水された後、ボウル6内の左前方領域LFから右前方領域RFを経て右側方領域RMへと旋回する旋回流を形成するようになっており、(【0019】)
上流側第1リム導水路28は、底面部40a、内側壁面48、内側壁面48の上端48aより底面部40aと略平行に延びる第1上面部38b及びその延長線、外側壁面46のうち、底面部40aから第1上面部38bの延長線との交点までの部分で囲繞される、上流側第1リム導水路28の下側にある縦長の矩形形状の領域と、上側外壁部38c、第2上面部38d、第1上面部38bの延長線、外側壁面46のうち、第2上面部38dから第1上面部38bの延長線との交点までの部分で囲繞される領域を有し、後者の領域の横幅は、前者の縦長の矩形形状の領域の横幅よりも小さい、(【図2】)
水洗大便器1。
(2)甲第2号証(特開2018-80504号公報)
ア 甲第2号証の記載
申立人が令和8年2月18日提出の意見書(以下「意見書」という。)に添付して提出した甲第2号証(特開2018-80504号公報)には、以下の記載がある。
(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、水洗大便器に係り、特に、洗浄水源から供給される洗浄水によって洗浄されて汚物を排出する水洗大便器に関する。」
(イ)「【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態による水洗大便器の便器本体の中央側面断面図である。
【図2】本発明の一実施形態による水洗大便器の便器本体の平面図である。
【図3】本発明の一実施形態による水洗大便器の便器本体の分解斜視図である。
【図4】図2に示す本発明の一実施形態による水洗大便器の便器本体において、リム部の内部に形成されるリム通水路の部分を拡大した部分拡大平面図である。
【図5】本発明の一実施形態による水洗大便器の便器本体における胴部とリム部との接合面、及び、リム通水路の経路の傾斜について概略的に示す模式図である。
【図6】図2のVI-VI線に沿った断面図である。
【図7】図2のVII-VII線に沿った断面図である。
【図8】図2のVIII-VIII線に沿った断面図である。
【図9】図2のIX-IX線に沿った断面図である。
【図10】図2のX-X線に沿った断面図である。
【図11】図2のXI-XI線に沿った断面図である。
【図12】図2のXII-XII線に沿った断面図である。」
(ウ)「【発明を実施するための形態】
【0012】
つぎに、図1~図12を参照して、本発明の一実施形態による水洗大便器について説明する。
まず、図1は、本発明の一実施形態による水洗大便器の便器本体の中央側面断面図であり、図2は、本発明の一実施形態による水洗大便器の便器本体の平面図であり、図3は、本発明の一実施形態による水洗大便器の便器本体の分解斜視図である。
図1~図3に示すように、本発明の第1実施形態による水洗大便器1は、陶器製の便器本体2を備えており、この便器本体2は、胴部4と、この胴部4の上端に接合されるリム部6とからなる。
ここで、図1及び図2に示す本実施形態の水洗大便器1においては、便器本体2の上面に便座及び便蓋が設けられていると共に、その後方側には、使用者の局部を洗浄する衛生洗浄部や便器本体2への給水機能に関与する給水系機能部等の機能部等が設けられているが、これらについては図示せず、説明を省略する。
【0013】
つぎに、図1~図3に示すように、便器本体2の胴部4は、その内部にボウル面の半分以上(大半)を形成する胴部内壁部であって、汚物受け面8を形成すると共に、この汚物受け面8の上縁8aの外側に棚面10を形成する内壁部12を備えている。
また、図1及び図3に示すように、胴部4は、その外観面を形成する外壁部14と、この外壁部14と内壁部12とを連結する連結部16とを備えており、これらの胴部4の内壁部12、外壁部14、及び連結部16は互いに一体に形成されている。
【0014】
つぎに、図1~図3に示すように、便器本体2のリム部6は、ボウル面の一部であるリム内壁面を形成する内壁部(リム部内壁部)18を備えている。
また、胴部4の内壁部12の上端にリム部6の内壁部18の下端が接合された状態では、ボウル部20が形成され、このボウル部20により便器本体2の内部にボウル面が形成されるようになっている。
さらに、胴部4とリム部6との接合部の詳細については後述するが、図1~図3に示すように、胴部4の内壁部12の上端にリム部6の内壁部18の下端が接合された状態で、かつ、胴部4の外壁部14の上端にリム部6の外縁が接合された状態では、ボウル部20内に洗浄水を吐水するリム吐水部の一部として機能するリム通水路22(詳細は後述する)が形成されるようになっている。
また、図1及び図3に示すように、便器本体2の胴部4は、ボウル部20の下方に入口部24aが接続されて、ボウル部20内の汚物を排出する排水路である排水トラップ管路24を備えている。
【0015】
ここで、図1及び図2に示す本発明の一実施形態による水洗大便器1においては、便器本体2のボウル部20の平面視において、ボウル部20を前後方向に二等分するように水平左右方向に延びる中心軸線を「X」で示し、ボウル部20を左右方向に二等分するように水平前後方向に延びる中心軸線を「Y」で示し、ボウル部20の中心Oを通る鉛直方向に延びる中心軸線を「Z」で示している。
また、図2に示すように、水洗大便器1の前後左右の方向については、「前」、「後」、「左」、「右」でそれぞれ示している。
そして、図1及び図2に示すように、水洗大便器1のボウル部20における中心O、水平左右方向の中心軸線X、及び鉛直方向の中心軸線Zに対して、前方側、後方側のそれぞれの領域について、「前方側領域F」、「後方側領域B」とそれぞれ定義している。
さらに、図2に示すように、水洗大便器1のボウル部20における中心O、水平前後方向の中心軸線Yに対して、前方から見て左側、右側のそれぞれの領域について、「左側領域L」、「右側領域R」とそれぞれ定義している。
【0016】
つぎに、図1及び図2に示すように、胴部4とリム部6とが接合された状態におけるボウル部20の前方側領域F内の右側領域Rのリム部6の内部には、リム吐水部の一部として機能するリム通水路22が形成されている。
また、このリム通水路22の下流端には、ボウル部20内に洗浄水を後方に吐水して旋回流を形成するリム吐水部の一部として機能する単一のリム吐水口26が形成されている。
すなわち、リム吐水部は、ボウル部20のリム部6に設けられて洗浄水を吐水するリム吐水口26をリム部6の全周において1つ形成し、このリム吐水口26はボウル部20の前方側領域F内の右側領域Rのリム部6に設けられて洗浄水を後方に吐水するものである。
さらに、図2に示すように、リム通水路22の上流側は、導水管28に接続されている。この導水管28の上流側は、洗浄水源である水道(図示せず)に直結されており、この水道の給水圧力を利用して、導水管28からリム通水路22内に供給された洗浄水は、リム通水路22内で前方へ導かれ、その後、内側且つ後方側に屈曲し、下流側のリム吐水口26まで導かれるようになっている。
そして、リム吐水口26に導かれた洗浄水は、後方に向けて吐水(リム吐水)され、ボウル部20内を旋回することにより、ボウル部20内に旋回流が形成されるようになっている。
なお、本実施形態の水洗大便器1においては、リム通水路22がボウル部20の右側領域Rのリム部6の内部に設けられていると共に、単一のリム吐水口26がボウル部20の前方側領域F且つ右側領域Rのリム部6の内周側に形成された形態について説明するが、このような形態に限られず、他の形態として、リム通水路22がボウル部20の左側領域Lのリム部6の内部に設けられていると共に、単一のリム吐水口26がボウル部20の前方側領域F且つ左側領域Lのリム部6の内周側に設けられて、リム吐水口26から後方に向けて吐水(リム吐水)が行われるような形態であってもよい。」
(エ)「【0019】
まず、図4及び図5に示すように、リム通水路22は、導水管28に接続される入口部22aからリム部6の内部を前方に向かって延びる外側部22bと、この外側部22bの下流端から内側に屈曲する屈曲部22cと、この屈曲部22cから後方に向かってリム吐水口26まで延びる内側部22dとを備えている。特に、図4に示すように、平面視におけるリム通水路22の外側部22bから屈曲部22cを経て内側部22dに差し掛かる区間では、いわゆる、U字形でターンした形状(いわゆる、「Uターン形状」)となっている。
また、図4に示すように、リム吐水口26の下流側には、リム吐水部の一部としても機能する通水路32が形成されている。
さらに、図5に示す便器本体2においては、胴部4の内壁部12とリム部6の内壁部18との接合面S1を実線で示しており、リム通水路22の入口部22aから外側部22b、屈曲部22c、及び内側部22dを経て、リム吐水口26に至るリム通水路22の底面S2が描く軌道を破線で概略的に示している。
【0020】
つぎに、図4~図12に示すように、リム通水路22を形成する胴部4の内壁部12及びリム部6の内壁部18の互いの接合面S1については、ボウル部20の後方側から前方側に向かって低い位置に設定されている(特に、図5参照)。
また、リム通水路22の外側部22bの底面S2については、図6~図8に示すように、胴部4の内壁部18と外壁部14とを連結する連結部16の上面となっており、或いは、図9及び図11に示すように、胴部4の内壁部18と外壁部14とを連結する連結部16のうちの外側連結部16aの上面となっている。
さらに、リム通水路22の屈曲部2cの底面S2については、図10に示すように、胴部4の内壁部12と外壁部14とを連結する連結部16の上面となっており、リム通水路22の内側部22dの底面S2については、図9及び図11に示すように、胴部4の内壁部12と外壁部14とを連結する連結部16のうちの内側連結部16bの上面となっている。
これらのリム通水路22の各部22a~22d及びリム吐水口26の底面S2については、リム通水路22の上流端(入口部22a)から下流端(リム吐水口26)に向かって低い位置に設定されており、入口部22aから外側部22b、屈曲部22c、及び内側部22dを経て、リム吐水口26に至るリム通水路22の全経路が比較的長くなり易い経路であっても、リム通水路22の入口部22aからリム吐水口26までの流路に沿ってリム通水路22の底面S2全体を傾斜角度α(図5参照)で大きく下り傾斜させることができるようになっている。
すなわち、図5に示すように、立面視におけるリム通水路22の底面S2は、リム通水路22の入口部22aからリム吐水口26までの全区間において上流側から下流側の流路方向に向かって水平面に対して傾斜角度αで下り傾斜している。
なお、リム通水路22の底面S2の傾斜角度αについては、例えば、1°以上に設定されていることが好ましく、3°以上に設定されていることが最も好ましい。
【0021】
つぎに、図6~図12に示すように、胴部4の外壁部14の上端とリム部6の上壁部34との接合面S3は、胴部4の内壁部12の上端とリム部6の内壁部18の下端との接合面S1よりも上方に位置している。そして、胴部4とリム部6とが互いの接合面S1,S3で接合された状態では、リム通水路22の外側部22bは、リム部6の内壁部18、外壁部36、この外壁部36と内壁部18とを連結する連結部38、及び、上壁部34、並びに、胴部4の内壁部12、外壁部14及び連結部16により取り囲まれることにより形成される。
また、図6~図9に示すように、リム通水路22の外側部22bの底面S2のそれぞれの位置高さをH1~H4とし、図10に示すように、リム通水路22の屈曲部22cの底面S2の位置高さをH5とし、図11に示すように、リム通水路22のリム吐水口26の底面S2の位置高さをH6とし、図12に示すように、リム吐水口26の下流側の通水路32の位置高さをH7とすると、リム通水路22の底面S2は、リム通水路22の入口部22aからリム吐水口36までの全区間において上流側から下流側に向かって水平面に対して傾斜角度αで下り傾斜しているため、リム通水路22の屈曲部22cの底面S2の位置高さは、図6に示す高さH1から、図7~図11に示す高さH2~H6を経て、図12に示す高さH7まで徐々に低くなる(H1>H2>H3>H4>H5>H6>H7)。
【0022】
一方、図6~図12に示すように、胴部4の内壁部12とリム部6の内壁部18との接合面S1のそれぞれの位置高さをG1~G7とすると、接合面S1の位置高さは、図6に示す高さG1から、図7及び図8にそれぞれ示す高さG2,G3を経て、図9に示す高さG4まで徐々に低くなる(G1>G2>G3>G4)。また、図10~図12にそれぞれ示す高さG5,G6,G7は、図9に示す高さG4となる(G4=G5=G6=G7)。
また、図6~図9に示すように、胴部4の内壁部12において、リム通水路22の外側部22bの底面S2の高さ位置から接合面S1まで上方に突出する脚部40の高さをそれぞれt1~t4とし、図10に示すように、リム通水路22の屈曲部22cの底面S2の高さ位置から接合面S1まで上方に突出する脚部40の高さをt5とし、図11に示すように、リム通水路22のリム吐水口26の底面S2の高さ位置から接合面S1まで上方に突出する脚部40の高さをt6とし、図12に示すように、リム吐水口26の下流側の通水路32の底面S2の高さ位置から接合面S1まで上方に突出する脚部40の高さをt7とすると、脚部40の高さは、図6に示す高さt1から図9に示す高さt4までは同一となる(t1=t2=t3=t4)。
しかしながら、脚部40の高さは、図9に示す高さt4から、図10~図12に示す高さt5~t7まで徐々に高くなる(t4<t5<t6<t7)。
なお、図8に示す高さG3及び図9に示す高さG4については、互いの位置が近いため、同一であってもよく(G3=G4)、この場合、図8に示す高さt3は、図9に示す高さt4よりも小さくなる(t3<t4)。
このように脚部40の高さを可変にする理由としては、リム通水路22の全体がリム部6の内部の限られたスペースに形成されることにより、リム通水路22内の流量を確保するために、外側部22bから屈曲部22cで内側部22dに向かってUターンで折り返す形状となり、リム通水路22の全経路が比較的長くなり易く、リム通水路22内の残水対策を兼ねて、リム通水路22の底面S2を上流側から下流側に向かって可能な限り大きく下り傾斜させる必要がある。また、特に、リム通水路22が外側部22bから屈曲部22cで内側部22dに向かってUターンで折り返した後の区間についても、リム通水路22の底面S2がリム吐水口26に向かって下り傾斜しているため、リム通水路22の底面S2から接合面S1までの脚部40の高さt1~t7をリム通水路22の底面S2の位置高さH1~H7に応じて変化させることにより、リム通水路22の上流端(入口部22a)から下流端(リム吐水口26)までの流路に沿ったリム通水路22の底面S2全体を可能な限り大きく下り傾斜させることができるようになっている。
例えば、本実施形態では、図6~図9に示す脚部40の高さt1~t4については、例えば、1mm~6mmに設定されていることが好ましく、2mm~4mmに設定されていることが最も好ましい。さらに、図10に示す脚部40の高さt5については、例えば、4mm~11mmに設定されていることが好ましく、6mm~8mmに設定されていることが最も好ましい。
また、図11に示す脚部40の高さt6については、例えば、5mm~12mmに設定されていることが好ましく、7mm~9mmに設定されていることが最も好ましい。
さらに、図12に示す脚部40の高さt7については、例えば、6mm~13mmに設定されていることが好ましく、8mm~10mmに設定されていることが最も好ましい。」
(オ)図2、図4、図6、図7、図8、図11
「
[図:0001438290000005.jpg]
」
「
[図:0001438290000006.jpg]
」
「
[図:0001438290000007.jpg]
」
「
[図:0001438290000008.jpg]
」
「
[図:0001438290000009.jpg]
」
「
[図:0001438290000010.jpg]
」
(カ)上記(エ)の記載を踏まえると、上記(オ)の図2、図4、図6~8、図11から、入口部22aからリム部6の内部を前方に向かって延びるリム通水路22の外側部22bは、略矩形形状に形成された下側部分と、この下側部分よりも横幅が小さく形成され、下側部分から上方へ延びる部分を有し、下側部分の断面積は、入口部22aから前方に向かって減少していること、屈曲部22cから後方に向かってリム吐水口26まで延びる内側部22dは、略略矩形形状に形成された部分を有するが、該部分は外側部22bの前方における断面積より大きく、また、該部分から上方へ延びる部分を有しないものであることが看取される(以下「看取事項」という。)。
イ 甲2記載技術事項
上記アより、甲第2号証には、以下の事項(以下「甲2記載技術事項」という。)が記載されていると認められる。
(甲2記載技術事項)
胴部4と、この胴部4の上端に接合されるリム部6とからなる便器本体2を備える水洗大便器1の、(【0012】)
胴部4の内壁部12の上端にリム部6の内壁部18の下端が接合され、かつ、胴部4の外壁部14の上端にリム部6の外縁が接合された状態でリム部6の内部に形成されたボウル部20内に洗浄水を吐水するリム吐水部の一部として機能するリム通水路22は、(【0014】、【0016】)
導水管28に接続される入口部22aからリム部6の内部を前方に向かって延びる外側部22bと、この外側部22bの下流端から内側に屈曲する屈曲部22cと、この屈曲部22cから後方に向かってリム吐水口26まで延びる内側部22dとを備え、平面視におけるリム通水路22の外側部22bから屈曲部22cを経て内側部22dに差し掛かる区間では、いわゆるUターン形状となっているものとしたものであって、(【0019】)
入口部22aからリム部6の内部を前方に向かって延びるリム通水路22の外側部22bは、略矩形形状に形成された下側部分と、この下側部分よりも横幅が小さく形成され、下側部分から上方へ延びる部分を有し、下側部分の断面積は、入口部22aから前方に向かって減少しており、屈曲部22cから後方に向かってリム吐水口26まで延びる内側部22dは、略矩形形状に形成された部分を有するが、該部分は外側部22bの前方における断面積より大きく、また、該部分から上方へ延びる部分を有しないものであること(看取事項)。
(3)甲第3号証(特開2009-46835号公報)
ア 甲第3号証の記載
申立人が意見書に添付して提出した甲第3号証(特開2009-46835号公報)には、以下の記載がある。
(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、水洗便器のリム吐水口構造に係り、特に、水洗便器本体に形成されたリム部及びこのリム部に洗浄水を供給するリムノズルを有する水洗便器のリム吐水口構造に関する。」
(イ)「【0039】
次に、図9により、本発明の第3実施形態によるリムノズル及び空間部の構造を説明する。図9は、本発明の第3実施形態によるリムノズル及び空間部を側方から見た断面図である。
図9に示すように、リム吐水部60は、陶器吐水口62、空間部(陶器導水路)Sb、リムノズル取付口64及びこのリムノズル取付口64に取り付けられたリムノズル66を有する。リムノズル66には、リム側給水路が接続されており、洗浄時には、洗浄水が、リム側給水路、リムノズル66、空間部Sbを順に通って、陶器吐水口62から吐出されるようになっている。
【0040】
リムノズル66は、上述した第1実施形態のノズル本体30と同様の構成をしており、そのノズル本体30を空間部Sbに向けて延ばしたものであり、第1実施形態と同様の導水路66a(第1実施形態では、30a)がそのまま空間部Sbで開口している。
空間部Sbには、このリムノズル66に対向するようにリム遮蔽壁部68が形成されている。図9に示すように、リム遮蔽壁部68は、側方から見ると、上方から下方に向けて斜めに延び、その下方部分から、洗浄水が通り陶器吐水口62に至るリム導水管Sb1が形成されている。
【0041】
さらに、この第3実施形態では、空間部Sbの上方に空気ポート70が設けられている。この空気ポート70は、空間部Sb内の空気が孔部72を通り、空気入りのボール74の側方を通って、孔部76から、通路78へと空気が逃げるようにしたものである。そして、空間部Sbが満水になると、ボール74が上昇して孔部76を塞ぎ、洗浄水が通路78へ逃げることを防止するようになっている。
なお、第2実施形態で説明した遮蔽部材58をこの第3実施形態による空間部Sb内に設置しても良い。
【0042】
次に、図10により本発明の第3実施形態の作用効果を説明する。図10は、図9と同様に示すリムノズル及び空間部の断面図に、洗浄水の流れの様子を模式的に示したものである。
第3実施形態では、先ず、洗浄水Wb1が、リムノズル導水路66aを通り、その水圧で、勢いよくリム遮蔽壁部68に衝突する。この衝突により、洗浄水Wb1の流速は一時的に0(ゼロ)となり、その後、洗浄水Wb2のように、洗浄水Wb1の流れとは逆の方向に且つ洗浄水Wb1の流速より小さい流速で流れ、そして、隙間Sb1を経て陶器吐水口62に吐出される。」
(ウ)「【0048】
次に、第3実施形態では、空間部Sbの上方に設けられ空間部Sb内に滞留した空気を排出する空気ポート70を有し、陶器吐水口62の断面積は空間部Sbの断面積よりも小さく、空間部Sbにはノズル本体の開口部に対向して遮蔽部となる壁面部68が形成され、空間部Sb内に吐出された洗浄水が空間部Sbに溜まるにつれて空間部Sbに残留した空気が空気ポートから吐出されるようになっている。このような構成によれば、リムノズル66から吐出された洗浄水が隙間Sb1及び陶器吐水口62で圧損を受けるが、この場合でも、さらにリムノズル66から洗浄水が吐出されるため、空間部Sb内の空気を、洗浄水と置換されるように、空気ポート70から排出させることが出来る。」
(エ)図9、図10
「
[図:0001438290000011.jpg]
」
「
[図:0001438290000012.jpg]
」
2 新規性、進歩性の判断
(1)本件発明1
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
(ア)甲1発明の「洗浄水によって洗浄されて汚物を排出する水洗大便器」は、本件発明1の「洗浄水により洗浄して汚物を排出する水洗大便器」に相当する。
(イ)甲1発明の「汚物を受ける汚物受け面8」及び「この汚物受け面8の上縁に形成されるリム10」は、それぞれ、本件発明1の「汚物を受ける汚物受け面」及び「この汚物受け面の上部に形成されたリム部」に相当する。
(ウ)甲1発明の「汚物受け面の下方に形成される壺12」であって「底部から」「ボウル6内の汚物を排出する排水トラップ14」が「延び」る「壺12」は、その内部に溜水面が形成されることは技術常識であるから、本件発明1の「上記汚物受け面の下部に形成されその内部に溜水面が形成されるツボ部」に相当する。
(エ)甲1発明の「汚物を受ける汚物受け面8と、この汚物受け面8の上縁に形成されるリム10と、汚物受け面の下方に形成される壺12と」を「備え」る「ボウル6」は、上記(イ)及び(ウ)の対比を踏まえると、本件発明1の「汚物を受ける汚物受け面と、この汚物受け面の上部に形成されたリム部と、上記汚物受け面の下部に形成されその内部に溜水面が形成されるツボ部と、を備えたボウル部」に相当する。
(オ)甲1発明の「リム10に設けられており」、「洗浄水W1は、第1リム吐水口32から前方の棚面36に吐水された後、ボウル6内の左前方領域LFから右前方領域RFを経て右側方領域RMへと旋回する旋回流を形成するようになって」いる「第1リム吐水口32」は、上記(イ)の対比を踏まえると、本件発明1の「上記リム部に形成されリム部の内周面に沿って洗浄水を吐水する吐水口」に相当する。
(カ)甲1発明の「第1リム導水路24」は、「上流側第1リム導水路28と、この上流側第1リム導水路28の下流側に一体的に形成される下流側第1リム導水路30と、を備えており、下流側第1リム導水路30の下流端には、第1リム吐水口32が設けられ」たものであって、「導水路18から」「供給された」「洗浄水W1」を、「第1リム吐水口32」に導くものであるから、本件発明1の「洗浄水を上記吐水口へ導く通水路」に相当する。
(キ)甲1発明の「壺12の底部から延びてボウル6内の汚物を排出する排水トラップ14」は、本件発明1の「上記ボウル部の底部に接続された排水管路」に相当する。
(ク)甲1発明の「底面部40a、内側壁面48、内側壁面48の上端48aより底面部40aと略平行の延びる第1上面部38b及びその延長線、外側壁面46のうち、底面部40aから第1上面部38bの延長線との交点までの部分で囲繞される、上流側第1リム導水路28の下側にある縦長の矩形形状の領域」は、本件発明1の「縦長の矩形形状に形成された下方通水路」に相当する。
(ケ)甲1発明の「上側外壁部38c、第2上面部38d、第1上面部38bの延長線、外側壁面46のうち、第2上面部38dから第1上面部38bの延長線との交点までの部分で囲繞される領域」は、「第1上面部38bの延長線」の部分において「縦長の矩形形状の領域」から「上方へ延びる」といえ、その「領域の横幅」は、「縦長の矩形形状の領域横幅よりも小さい」ものであるから、本件発明1の「この下方通水路よりも横幅が小さく形成され上記下方通水路から上方へ延びる上方通水路」に相当する。
(コ)上記(ア)~(ケ)より、本件発明1と甲1発明とは、以下の一致点で一致し、相違点で一応相違する。
(一致点)
洗浄水により洗浄して汚物を排出する水洗大便器であって、
汚物を受ける汚物受け面と、
この汚物受け面の上部に形成されたリム部と、
上記汚物受け面の下部に形成されその内部に溜水面が形成されるツボ部と、を備えたボウル部と、
上記リム部に形成されリム部の内周面に沿って洗浄水を吐水する吐水口と、
洗浄水を上記吐水口へ導く通水路と、
上記ボウル部の底部に接続された排水管路と、を有し、
上記通水路は、縦長の矩形形状に形成された下方通水路と、この下方通水路よりも横幅が小さく形成され上記下方通水路から上方へ延びる上方通水路と、を有する、
水洗大便器
(相違点1)
本件発明1は、「上記吐水口の縦幅は、上記吐水口の近傍における上記通水路の縦幅と略同一になるように設定され」ているのに対し、甲1発明は、そのように特定されていない点。
(相違点2)
本件発明1は、「上記下方通水路の流路断面積は、上流から上記吐水口に向かって減少している」のに対し、甲1発明は、そのように特定されていない点。
イ 新規性の判断
上記相違点2は、実質的な相違点であるから、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明ではない。
ウ 進歩性の判断
上記相違点について検討する。
(ア)相違点1について
a 「近傍」とは、一般に「近所。近辺。」を意味する(広辞苑第3版)。
b 本件明細書の段落【0052】には、「吐水口」とその「近傍」の位置に関し、第2実施形態による水洗大便器の説明として、「また、本発明の第2実施形態による水洗大便器1においては、上方通水路138の横幅は、第1吐水口124よりも上流側の所定位置(IXA断面の位置)から第1吐水口124に向かって拡大し始め、第1吐水口124の近傍位置(IXD断面の位置)において下方通水路136の横幅(W105)と略同一になるように設定されている」との記載がある。
そして、「本発明の第2実施形態による水洗大便器の平面断面図」である、本件明細書等の【図7】をみると、「第1吐水口124の近傍位置」とされる「IXD断面の位置」は、「第1吐水口124」のすぐ近くであって「近辺」といえるものであり、上記アの一般的な意味と整合する。
「
[図:0001438290000013.jpg]
」
c 「近傍」については、上記a及びbにおいて検討したとおりである。
甲1発明には、「第1リム吐水口32」の近傍における通水路の縦幅について、明示的な特定はないが、甲1発明の「第1リム吐水口32」は、「導水路18」から「供給された」「洗浄水W1」を、「第1リム吐水口32」に導く「通水路」の「下流側第1リム導水路30の下流端」に設けられたものであって、「第1リム吐水口32」とそのすぐ近くの「第1リム吐水口32」の「近傍」すなわち近辺において、流水量等が大きく変化するものではなく、特段の事情がなければ「通水路の縦幅」を「略同一」でないようにする理由はないところ、甲第1号証には、「通水路の縦幅」を「第1リム吐水口32」とそのすぐ近くの「第1リム吐水口32」の「近傍」において「略同一」でないものとすることについて、記載も示唆もされていない。
d そうすると、甲1発明も「第1リム吐水口32」の縦幅は、「上記吐水口の近傍における上記通水路の縦幅と略同一になるように設定されている」蓋然性が高い。
e よって、本件発明1と甲1発明との対比において、「上記吐水口の縦幅は、上記吐水口の近傍における上記通水路の縦幅と略同一になるように設定されている」ことは、一応の相違点として検討したが、相違点ではなく、一致点である。
(イ)相違点2について
a 甲2記載技術事項は、導水管28に接続される入口部22aからリム部6の内部を前方に向かって延びる外側部22bと、この外側部22bの下流端から内側に屈曲する屈曲部22cと、この屈曲部22cから後方に向かってリム吐水口26まで延びる内側部22dとを備え、平面視におけるリム通水路22の外側部22bから屈曲部22cを経て内側部22dに差し掛かる区間では、いわゆるUターン形状となっているものとしたリム通水路22のうち、外側部22bについて、略矩形形状に形成された下側部分と、この下側部分よりも横幅が小さく形成され、下側部分から上方へ延びる部分を有し、下側部分の断面積は、入口部22aから前方に向かって減少しているものとすることを開示するが、屈曲部22cから後方に向かってリム吐水口26まで延びる内側部22dについては、外側部22bの下側部分の断面積よりも大きいものであるから、甲2記載技術事項は、相違点2に係る本件発明1の「上記下方通水路の流路断面積は、上流から上記吐水口に向かって減少している」構成を備えない。
b 甲第3号証は、申立人が、水洗大便器のリム吐水構造の技術分野において、空気と洗浄水を分離させて流すことによる空気巻き込み防止抑制の効果が周知のものであることを示すために提示したものであり、相違点2に係る本件発明1の「上記下方通水路の流路断面積は、上流から上記吐水口に向かって減少している」構成を開示しない。
c 相違点2に係る本件発明1の「上記下方通水路の流路断面積は、上流から上記吐水口に向かって減少している」ことは、申立人が提出した甲第1号証ないし甲第3号証のいずれにも記載されておらず、周知技術であるともいえない。
d そうすると、甲1発明において相違点2に係る本件発明1の「上記下方通水路の流路断面積は、上流から上記吐水口に向かって減少している」ものとすることが、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
e そして、本件発明1は、水洗大便器のリム部に形成され、洗浄水を吐出口へ導く通水路を、縦長の矩形形状に形成された下方通水路と、この下方通水路よりも横幅が小さく形成され下方通水路から上方へ延びる上方通水路とを有し、下方通水路の流路断面積は、上流から上記吐水口に向かって減少しているものとすることにより、洗浄水が下方通水路に供給されると下方通水路が洗浄水により満たされ、空気が上方通水路へと押し上げられて、洗浄水が下方通水路を流れると共に空気が上方通水路を流れるため、空気と洗浄水を分離させて流すことができるとともに、上流より流路断面積が減少している吐出側の部位において、下方通水路がより満水になり易くなるという効果を奏する。
(ウ)申立人の主張
申立人は、意見書中において、特許権者の意見に対し、甲1発明における本件発明1の「下方通水路」に相当する部分は、その領域が拡大しているものではない旨の主張(意見書3(2)ア)とともに、訂正事項の構成は、甲第2号証に記載されている周知の技術事項に過ぎず、技術課題(効果)も、甲第3号証に記載された周知のものにすぎない旨(意見書3(2)ア)、主張する。
当該主張について、甲第2号証に、本件発明1の「上記下方通水路の流路断面積は、上流から上記吐水口に向かって減少している」ことに相当する事項が記載されているものとはいえないことは、上記(イ)において説示したとおりである。
よって、申立人の主張を考慮しても、本件発明1が甲1発明及び甲2記載技術事項から容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
エ まとめ
本件発明1は、甲第1号証に記載された発明ではなく、甲1発明及び甲2記載技術事項から容易に発明をすることができたものでもない。
第6 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由についての当審の判断
1 特許法36条6項2号
(1)申立人の具体的主張
申立人は、以下のア~エについて、概略、以下の点を「不明確」と主張している。
ア 通水路のどの断面か不明確
上方通水路と下方通水路が通水路のどの断面において形成されているか請求項から把握することができず、不明確である。
イ 「上方通水路」が不明確
上方通水路の「下方通水路よりも横幅が小さく形成され上記下方通水路から上方へ延びる」との特定は、例えば、通水路の断面が略矩形形状で通水路の上面付近が極わずかに狭くなる態様や通水路の断面において上方に向かって横幅が狭くなるように側面をわずかに傾斜させた態様も含むから、上方通水路がどの部分を指すのか不明確である。また、上記通水路の形状の場合、本願で主張する上方通水路によって空気と洗浄水を分離させて流すことができるという効果が奏される形状であるか不明確である。
ウ 「近傍における」が不明確
「近傍」がどの範囲のことを指すのか不明確である。
エ 「略同一」が不明確
「略同一」の程度が不明確である。
(2)当審の判断
ア 上方通水路と下方通水路が通水路のどの断面において形成されているか
本件発明1~9は、いずれも、
「洗浄水を上記吐水口へ導く通水路と、
・・・
上記通水路は、縦長の矩形形状に形成された下方通水路と、この下方通水路よりも横幅が小さく形成され上記下方通水路から上方へ延びる上方通水路と、を有し、」と特定される。
この記載から、通水路は、「縦長の矩形形状に形成された下方通水路と、この下方通水路よりも横幅が小さく形成され上記下方通水路から上方へ延びる上方通水路と、を有」するものと特定されている。
そうすると、本件発明は、通水路が所定の下方通水路と上方通水路とを有するものであればよく、申立人が主張する「上方通水路と下方通水路が通水路のどの断面において形成されているか」が不明であるという理由によって、本件発明1~9が不明といえるものではなく、本件発明は明確である。
イ 「上方通水路」について
本件発明1~9は、いずれも、「洗浄水を上記吐水口へ導く通水路と、
・・・
上記通水路は、縦長の矩形形状に形成された下方通水路と、この下方通水路よりも横幅が小さく形成され上記下方通水路から上方へ延びる上方通水路と、を有し、」と特定される。
そうすると、「上方通水路」の「横幅」について、「縦長の矩形形状に形成された下方通水路」の「横幅」よりも「横幅が小さく形成され」たものであればよく、申立人が主張する理由によって、本件発明1~9が不明とはいえるものではなく、本件発明は明確である。
ウ 「近傍」について
本件発明の「近傍」は、第5の2(1)ウ(ア)において検討したとおり、通常の語義として理解でき、どの範囲のことを指すのか不明確であるとの理由によって、本件発明が明確でないとはいえない。
エ 「略同一」について
「略」とは、一般に「おおかた。およそ。」を意味する(広辞苑第3版)。
「同一」とは、一般に「同じであること。」を意味する(広辞苑第3版)。
本件発明の「略同一」は、一般の語義どおり、おおかた、同じであることを意味すると理解できる。
そうすると、本件発明は明確であり、「略同一」の程度が不明であるとの理由によって本件発明が不明確となるものではない。
2 特許法36条6項1号
(1)申立人の具体的主張
申立人は、以下のオ、カ(申立書23頁にあわせ、「オ」及び「カ」とした。)について、「サポート要件違反」であると主張している。
オ 「近傍における」について
「近傍」の範囲が明細書等に開示されていない。
カ 「略同一」について
「略同一」の程度が明細書等に開示がない。
(2)当審の判断
オ 「近傍における」について
上記第5の2(1)ウ(ア)において検討したように、本件明細書の段落【0052】には「第1吐水口124の近傍位置(IXD断面の位置)において」と記載され、図7には、IXD断面の位置が図示されている。
そうすると、本件発明は本件明細書等に記載されたものといえ、近傍の範囲が記載されていないとの理由で、本件発明が発明の詳細な説明に記載されたものではないとはいえない。
カ 「略同一」について
本件明細書の段落【0051】には、「第1吐水口124の縦幅(H101)は、第1通水路128の縦幅と略同一になるように設定され、」と記載されている。
そうすると、本件発明は本件明細書等に記載されたものといえ、略同一の程度が記載されていないとの理由で、本件発明が発明の詳細な説明に記載されたものではないとはいえない。
3 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由についての当審の判断のまとめ
本件発明は、明確であり、発明の詳細な説明に記載されたものであるから、特許法36条6項1号及び2号の要件に適合したものである。
第7 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知において通知した取消理由及び特許異議の申立ての理由によっては、本件発明1~9に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1~9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2025-700827