特許異議申立
2025-700754
起泡性水中油型乳化油脂組成物
- 審判番号
- 2025-700754
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-116611
- 登録番号
- 7620398
- 請求日
- 2025年07月23日
- 審決日
- 2025年11月17日
- 公報発行日
- 2025年12月26日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】株式会社ADEKA
- 【権利者代理人】弁理士法人翔和国際特許事務所
- 【異議申立人】河野 広明
- 審判長/審判官
- 審判長 天野 宏樹
- 審判官 壷内 信吾
- 審判官 宮久保 博幸
- 分類
- P1651.121-Y (A23D)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7620398号発明「起泡性水中油型乳化油脂組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7620398号の請求項1~11に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7620398号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~11に係る特許についての出願は、令和2年7月6日の出願であって、令和7年1月15日にその特許権の設定登録(請求項の数11)がされ、同年同月23日に特許掲載公報が発行され、その後、当該特許に対し、同年7月23日に特許異議申立人 河野 広明(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1~11)がされ、同年9月5日に手続補正書(方式)が提出されたものである。
第2 本件特許発明
本件特許の請求項1~11に係る発明(以下、順に「本件発明1」のようにいう。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1~11に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
白キクラゲ多糖を0.001~2質量%含有する起泡性水中油型乳化油脂組成物であって、白キクラゲ多糖が当該起泡性水中油型乳化油脂組成物中で均質化された状態で加熱殺菌されている起泡性水中油型乳化油脂組成物。
【請求項2】
非還元水飴を固形分として1~20質量%含有する請求項1記載の起泡性水中油型乳化油脂組成物。
【請求項3】
油脂分含量が40質量%未満である請求項1又は2記載の起泡性水中油型乳化油脂組成物。
【請求項4】
乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が2質量%以上である乳原料を含有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の起泡性水中油型乳化油脂組成物。
【請求項5】
乳清ミネラルを含有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の起泡性水中油型乳化油脂組成物。
【請求項6】
キサンタンガム及び/又はグアーガムを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の起泡性水中油型乳化油脂組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の水中油型乳化油脂組成物と生クリームとを含む生クリーム含有起泡性水中油型乳化油脂組成物。
【請求項8】
白キクラゲ多糖を0.001~2質量%含有する起泡性水中油型乳化油脂組成物の製造方法であって、白キクラゲ多糖を乳化油脂組成物中に均質化し、次いで加熱殺菌する、起泡性水中油型乳化油脂組成物の製造方法。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか一項に記載の起泡性水中油型乳化油脂組成物又は請求項8に記載の製造方法で得られた起泡性水中油型乳化油脂組成物を起泡してなるホイップドクリーム。
【請求項10】
請求項1~6のいずれか一項に記載の起泡性水中油型乳化油脂組成物又は請求項8に記載の製造方法で得られた起泡性水中油型乳化油脂組成物と生クリームをブレンドし、起泡する工程を有するホイップドクリームの製造方法。
【請求項11】
請求項1~7の何れか一項に記載の起泡性水中油型乳化油脂組成物又は請求項8に記載の製造方法で得られた起泡性水中油型乳化油脂組成物を使用したホイップドクリームの冷凍耐性付与方法。」
第3 特許異議申立書に記載した特許異議申立理由の概要
令和7年7月23日に申立人が提出し、同年9月5日に提出された手続補正書(方式)により補正された特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。なお、特許異議申立書では取消理由1~3に分けられているが、主たる証拠が同じ理由はまとめて記載した。
1 申立理由(甲第1号証を主たる証拠とする進歩性)
本件特許の請求項1~11に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基いて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
2 証拠方法
・甲第1号証:特開2018-157803号公報
・甲第2号証:「乳及び乳製品の成分規格等に関する命令」、厚生省令第五十二号、令六厚労令六五・改称、昭和26年12月27日(公布日)、令和6年3月29日改正省令公布
・甲第3号証:特開2016-86739号公報
・甲第4号証:特開2011-10574号公報
・甲第5号証:特開2012-75430号公報
・甲第6号証:特開2016-86739号公報
・甲第7号証:国際公開第2009/034818号
・甲第8号証:Jian Zhang et al., "Emulsifying Properties of Tremella Fuciformis: A Novel Promising Food Emulsifier", International Journal of Food Engineering, 2019年3月12日, vol.15, no.3-4, 20180217, pp.1-12
・甲第9号証:特開2016-178883号公報
・甲第10号証:特開2006-223176号公報
証拠の表記はおおむね特許異議申立書の記載に従った。以下、順に「甲1」等という。
第4 当審の判断
当審は、申立人が申し立てた特許異議申立理由によって、本件発明1~11に係る特許を取り消すことはできないと判断する。理由は以下のとおり。
1 甲1に記載された事項等
(1)甲1に記載された事項
甲1には「離水抑制剤」に関し、次の事項が記載されている(下線は当審が付した。以下同様。)。
・「【請求項1】
平均分子量が300万Mw以上のシロキクラゲ多糖体を有効成分とする離水抑制剤。」
・「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、冷凍解凍耐性を有する新たな離水抑制剤の提供を課題とする。」
・「【0016】
1.離水抑制剤
離水抑制剤として、次の2つのシロキクラゲ多糖体を用いた。
1)UT-WC(ユニテックフーズ社)
2)UT-WS(ユニテックフーズ社)」
・「【0035】
[実施例4]
1.ホイップクリームの調製
1)表7に記載の配合となるように、グラニュー糖およびシロキクラゲ多糖体を混合した。
2)上記1)の混合物をクリーム(脂肪分40%の植物性脂肪)に加え、氷水で冷却しながらハンドミキサーでオーバーランが150%となるよう攪拌し、ホイップクリームを調製した。
【0036】
【表7】
[図:0001430035000001.jpg]
【0037】
2.ホイップクリームの冷凍解凍耐性評価
上記にて調製したホイップクリームについて、次の2つの場合において、滑らかさ、保形性および離水について、次の評価基準に従って冷凍解凍耐性を評価した。
1)造花後冷凍
ホイップクリームを袋に充填し、トレー上に絞り出して花の形状にした。この段階(冷凍前)のホイップクリームについて、滑らかさの官能評価を行い、目視にて保形性および離水を評価した。また、造花したホイップクリームを-20℃にて24時間冷凍保存した後、冷蔵(10℃)で6時間解凍した。冷凍後解凍したホイップクリームについても滑らかさ、保形性および離水を評価した。コントロール、比較例についても同様に評価した。
2)冷凍後造花
ホイップクリームを袋に充填し、-20℃にて24時間冷凍保存した。その後、冷蔵(10℃)で6時間解凍した後、トレー上に絞り出して花の形状とした。造花後10分程度経過したホイップクリームについて、滑らかさの官能評価を行い、目視にて保形性および離水を評価した。コントロール、比較例についても同様に評価した。
【0038】
3.官能評価
5名のパネラーにより、次の評価基準に従って滑らかさ、保形性および離水について官能評価を行った。5名の評価の平均値を評価結果とした。
(1)滑らかさ
4点:ザラツキをまったく感じない滑らかな食感である。
3点:ややザラツキがあるが滑らかな食感である。
2点:ザラツキがあり、滑らかさは弱く感じる食感である。
1点:ザラツキやバサつき感が強く滑らかとは言い難い食感である。
(2)保形性
4点:造花後の保形性が非常に良好である。
3点:造花後の保形性が良い。
2点:造花後の保形性が悪い。
1点:造花後の保形性が非常に悪い。
(3)離水
4点:離水がまったく見られない。
3点:離水がやや見られるがほとんどない。
2点:離水が見られる。
1点:離水が大量に見られる。
【0039】
4.結果
1)造花後冷凍
表8のA~Cに示されるように、シロキクラゲ多糖体としてUT-WSを配合した場合、調製時(冷凍前)においてはシロキクラゲ多糖体を全く配合しないコントロールやキサンタンガムを配合した比較例と同等の滑らかさを有するのに対して、冷凍後解凍した後はコントロールや比較例よりも滑らかさが維持できることが確認できた。
また、コントロールや比較例に対して、冷凍後解凍した後においても保形性が維持され、離水が抑制されることが確認できた。
2)冷凍後造花
表8のA~Cに示されるように、シロキクラゲ多糖体としてUT-WSを配合した場合、シロキクラゲ多糖体を全く配合しないコントロールやキサンタンガムを配合した比較例と比べて滑らかさや保形性が維持され、離水が抑制されることが確認できた。
【0040】
【表8】
[図:0001430035000002.jpg]
」
(2)甲1に記載された発明
上記(1)の記載事項を、特に実施例4のホイップクリームA~Cの調製における、攪拌される直前のものについて整理すると、甲1には次の発明が記載されていると認める。
「クリーム(脂肪分40%の植物性脂肪)92.5重量%に対してグラニュー糖が7.4~7.499重量%、離水抑制剤UT-WSが0.001~0.1重量%の配合となるように、グラニュー糖及び離水抑制剤UT-WSの混合物をクリーム(脂肪分40%の植物性脂肪)に加えたもの。」(以下、「甲1発明」という。)
「クリーム(脂肪分40%の植物性脂肪)92.5重量%に対してグラニュー糖が7.4~7.499重量%、離水抑制剤UT-WSが0.001~0.1重量%の配合となるように、グラニュー糖及び離水抑制剤UT-WSの混合物をクリーム(脂肪分40%の植物性脂肪)に加える工程を有する、甲1発明の製造方法。」(以下、「甲1製法発明」という。)
さらに、甲1には、甲1発明を撹拌してホイップクリームを調製すること、及び、甲1発明を用いることによりホイップクリームに冷凍解凍耐性を付与することが記載されているから、甲1には次の発明も記載されている。
「甲1発明を氷水で冷却しながらハンドミキサーでオーバーランが150%となるよう攪拌して調製した、ホイップクリーム。」(以下、「甲1起泡物発明」という。)
「甲1発明を氷水で冷却しながらハンドミキサーでオーバーランが150%となるよう攪拌する工程を有する、ホイップクリームの製造方法。」(以下、「甲1起泡物製法発明」という。)
「甲1発明を使用したホイップクリームの冷凍解凍耐性付与方法。」(以下、「甲1方法発明」という。)
2 対比・判断
(1)本件発明1について
ア 本件発明1と甲1発明との対比
甲1発明は攪拌してオーバーランが150%のホイップクリームを調製するためのものであるから(【0035】)、本件発明1における「起泡性」の組成物に相当し、甲1発明における「クリーム(脂肪分40%の植物性脂肪)」は、植物性油脂を用いて、乳等省令(甲2)の「クリーム」(生乳、牛乳又は特別牛乳から乳脂肪分以外の成分を除去したもの)と同様の状態にしたものと解されるから、本件発明1における「水中油型乳化油脂組成物」に相当する。
甲1発明における「離水抑制剤UT-WS」は、「シロキクラゲ多糖体」(甲1の【0016】)であるから、本件発明1における「白キクラゲ多糖」に相当する。そして、甲1発明は「離水抑制剤UT-WS」を「0.001~0.1重量%」含有するから、本件発明1における「白キクラゲ多糖を0.001~2質量%含有する」との特定事項を満たす。
してみると、両者の一致点、相違点は以下の通りである。
(一致点)
「白キクラゲ多糖を0.001~2質量%含有する起泡性水中油型乳化油脂組成物。」
(相違点)
・相違点1
起泡性水中油型乳化油脂組成物について、本件発明1は、「白キクラゲ多糖が当該起泡性水中油型乳化油脂組成物中で均質化された状態で加熱殺菌されている」と特定するのに対し、甲1発明はそのように特定されていない点。
イ 相違点についての判断
相違点1について検討する。
甲1の【0035】には、シロキクラゲ多糖体をクリームに加えたことが記載されているが、起泡前に均質化したことは記載されていない。また、「ハンドミキサーでオーバーランが150%となるよう攪拌」する前に、起泡前の組成物を均質化することの動機となる記載も見いだせない。さらに、他の全ての証拠の記載をみても、甲1発明において、起泡前に均質化処理及び加熱殺菌処理を行い、相違点1に係る本件発明1の発明特定事項を満たすものとする動機があったとは認められない。
そして、本件特許明細書の発明の詳細な説明の、以下の記載を参酌すると、本件発明1は当業者が予測することのできなかった顕著な効果を奏するものである。
・「【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、低油脂分、とくに油脂分含量が40質量%未満であっても乳化安定性及び起泡後の冷凍耐性が良好であり、且つ、生クリームとの混合ホイップに適した起泡性水中油型乳化油脂組成物を得ることができる。
また本発明によれば、冷凍耐性、口溶け(シャープさとみずみずしさ)、風味(乳風味とコク味)が良好であるホイップドクリームを得ることができる。」
・「【0083】
<起泡性水中油型乳化油脂組成物の製造>
〔実施例1〕
上記エステル交換油脂a5質量部、パーム核油80質量部、パーム分別中部油15質量部からなる混合油脂35質量%、レシチン0.15質量%、グリセリンモノステアリン酸エステル0.05質量%からなる油相を混合し、65℃に加温溶解し、油相とした。一方、水50.45質量%、非還元水飴(マルトトリオース含量50質量%、固形分73.4質量%)5質量%、白キクラゲ多糖(重量平均分子量300万)0.1質量%、乳糖5質量%、乳清ミネラルA(固形分97%)0.4質量%、トータルミルクプロテイン0.5質量%、クリームからバターオイルを製造する際に生じる水相成分の濃縮物(固形分30質量%、固形分中のリン脂質9.8質量%)3質量%、ショ糖脂肪酸エステル(HLB=16)0.15質量%、グアーガム0.15質量%、キサンタンガム0.05質量%を混合し、65℃に加温溶解し、水相とした。上記水相と上記油相を混合、乳化して、水中油型の予備乳化物を調製し、バルブ式ホモジナイザー(アルファラバル社製:ホモジナイザー)を用いて、3MPaの圧力で均質化した後、VTIS殺菌機(アルファラバル社製UHT殺菌機)で140℃、4秒間殺菌し、再度5MPaの圧力で均質化後5℃まで冷却した。その後、冷蔵庫で24時間エージングを行い、油脂分含量が35質量%である本発明の起泡性水中油型乳化油脂組成物Aを得た。」
・「【0091】
〔比較例1〕
白キクラゲ多糖の添加量を無添加に変更し、水の配合量を50.45質量%から50.55質量%に変更した以外は、実施例1と同様の配合及び製法で、比較例の起泡性水中油型乳化油脂組成物Iを得た。」
・「【0095】
<起泡性水中油型乳化油脂組成物の評価>
得られた起泡性水中油型乳化油脂組成物A~Lに関し、保管中の乳化安定性について、下記の方法で評価を行なった。結果を下記表1及び表2に示す。更に、得られた起泡性水中油型乳化油脂組成物A~L100質量部に上白糖8質量部を添加してミキサーボウルに投入し、たて型ミキサーを使用して毎分450回転の速度で最適起泡状態に達するまで起泡させ、起泡時間、オーバーランを測定し、結果を表1及び表2に記載した。また、得られたホイップドクリームA~Lについて、耐熱保形性、口溶け(シャープさとみずみずしさ)、風味(乳風味とコク味)について、下記の方法で評価を行った。結果を下記表1及び表2に記した。
【0096】
尚、その際、起泡性水中油型乳化油脂組成物Iのホイップ時に上白糖8質量部に加え、白キクラゲ多糖0.1質量部を加え、同様にして得られたホイップドクリームM(比較例5)についても、同様の評価を行い、結果を表2に記した。
・・・(略)・・・
【0105】
【表1】
[図:0001430035000003.jpg]
【0106】
【表2】
[図:0001430035000004.jpg]
【0107】
<生クリーム含有起泡性水中油型乳化油脂組成物、及び生クリーム含有ホイップドクリームの製造>
【0108】
上記起泡性水中油型乳化油脂組成物A~Lを、下記の方法で生クリームとブレンドして生クリーム含有ホイップドクリームを製造し、乳風味の発現性、造花性、耐熱性の評価を行った。
ミキサーボウルに上記起泡性水中油型乳化油脂組成物A~Lをそれぞれ500g、生クリーム500g、グラニュー糖80gを投入し、ワイヤーホイッパーを使用して中速で最適起泡状態までホイップし、生クリーム含有ホイップドクリームA~Lを得た。
尚、その際、起泡性水中油型乳化油脂組成物Iのホイップ時に上白糖80gに加え、白キクラゲ多糖1gを加え、同様にして生クリーム含有ホイップドクリームMを得た。」
・・・(略)・・・
【0116】
【表3】
[図:0001430035000005.jpg]
【0117】
【表4】
[図:0001430035000006.jpg]
」
これらの記載、特に白キクラゲ多糖を含む乳化物を均質化後に殺菌して得た乳化油脂組成物Aを起泡した実施例1と、白キクラゲ多糖を含まない乳化物を均質化後に殺菌して得た乳化油脂組成物Iに白キクラゲ多糖を加えて起泡した比較例5の各評価結果から、本件発明1は、相違点1に係る発明特定事項を有することにより、「低油脂分、とくに油脂分含量が40質量%未満であっても乳化安定性及び起泡後の冷凍耐性が良好であり、且つ、生クリームとの混合ホイップに適した起泡性水中油型乳化油脂組成物を得ることができる。」という、当業者が予測することのできなかった顕著な効果を奏するものであるといえる。
以上のことから、相違点1は甲1発明及び全ての証拠の記載に基づいても当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
したがって、本件発明1は、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 申立人の主張について
申立人は、特許異議申立書23~24頁において、以下のとおり主張(以下、順に「主張1」のようにいう。)する。
(ア)主張1
「甲第2号証の記載イ1、イ2に示されるように、ホイップクリームのような乳製品は、牛乳の製造方法に準じ、所定の条件で加熱殺菌することが法例で定められており、甲第1号証に記載されるホイップクリームも、所定の条件で加熱殺菌することは、製造業者に課せられた義務である。」
(イ)主張2
「さらに、ホイップクリームのような起泡性水中油型乳化油脂組成物の加熱殺菌を、均質化工程後の均質化された状態で行うことも、当該技術分野における周知慣用手段である。
例えば、
・甲第3号証では、低置換度カルボキシメチルセルロースを含有する起泡性水中油型乳化油脂組成物(記載ウ1)の製造にあたり、水相と油相を混合、乳化し、3MPaの圧力で均質化した後、VTIS殺菌機(アルファラバル社製UHT殺菌機)で140℃、4秒間殺菌している(記載ウ5)。
・甲第4号証では、キサンタンガムやグアーガムを含有する起泡性水中油型乳化油脂組成物(記載エ1、2)の製造に際し、水相と油相を混合、乳化し、3MPaの圧力で均質化した後、VTIS殺菌機(アルファラバル社製UHT殺菌機)で140℃、4秒間殺菌している(記載エ3)。
・甲第5号証では、カスタード風味を呈する起泡性水中油型乳化油脂組成物(記載オ1)の製造にあたり、水性相に該油性相を加え、混合攪拌して予備乳化物を調製し、5MPaの圧力で均質化した後、VTIS殺菌機(アルファラバル社製UHT殺菌機)で142℃、4秒間殺菌している(記載オ3)。
・甲第6号証では、低置換度カルボキシメチルセルロースを含有する起泡性水中油型乳化油脂組成物(記載カ1)の製造にあたり、バルブ式ホモジナイザー、ホモミキサー、コロイドミル等の均質化装置により圧力0~100MPaの範囲で均質化すること、UHT・HTST低温殺菌、バッチ式、レトルト、マイクロ波加熱等の加熱滅菌もしくは加熱殺菌処理を施しても良く、直火等の加熱調理により加熱しても良いとしている(記載カ3)。
・甲第7号証では、油脂、糖類、水及び脱乳糖 脱灰分された乳固形分を主要原料として、これらの原料を混合後、予備乳化、殺菌又は滅菌、冷却する全固形分が45~70重量%である起泡性水中油型乳化物の製造法(記載キ1)が記載され、実施例では、油相と水相を65℃で30分間ホモミキサーにより攪拌し、予備乳化した後、超高温滅菌装置(岩井機械工業(株)製)によって、145℃において4秒間の直接加熱方式による滅菌処理を行っている(記載キ2)。
・甲第8号証は、白キクラゲ(TFS)のエマルジョンの乳化特性を、蓮の実(LTS)、紫サツマイモ(PSPP)、アラビアゴム(GA)とともに、食品業界における乳化剤および増粘剤として評価した報文であり、TFSは21℃で21日間保存した後、100℃に20分間インキュベートしているが(記載ク1)、この温度と時間は、例えば甲第3号証における殺菌条件である65℃で30分とほぼ同等であり、食品用途において義務付けられている殺菌処理を想定して行われていることは明らかである。そして、記載ク2によれば、インキュベートされるTFSは、均質化されたエマルジョンである。
このように、ホイップクリームのような起泡性水中油型乳化油脂組成物の加熱殺菌を、均質化工程後の均質化された状態で行うことは、当該技術分野における周知慣用手段であるから、甲第1号証に記載されたホイップクリームの加熱殺菌を、均質化工程後の均質化された状態で行うことは、単なる周知慣用手段の付加にすぎず、当業者であれば容易に想到し得ることにすぎない。」
(ウ)主張3
「なお、甲第1号証は、本件特許の審査過程において通知された拒絶理由で引用された引用文献1である。
この拒絶理由に対し、出願人(現特許権者)は、補正により請求項1に構成Cを追加し、意見書において、引用文献1(甲第1号証)には、「白キクラゲ多糖が起泡性水中油型乳化油脂組成物中で均質化された状態で加熱殺菌されている」(構成C)ことは記載も示唆もされておらず、係る構成を加えたことにより、得られるホイップドクリームが、耐熱安定性が向上し、しかも、口溶け(シャープさとみずみずしさ)、風味(乳風味とコク味)も向上するという作用効果を奏する旨主張して、特許された。
しかし、上記甲第8号証の記載ク3には、均質化した白キクラゲのエマルジョンを加熱処理すると粒径の変化が少なくなる、すなわち安定化することが記載されており、出願人(現特許権者)が主張する上記作用効果も、本件特許の出願前より知られた事実であり、格別顕著な効果とは到底言えない。」
エ 申立人の主張についての判断
そこで、上記主張について検討する。
(ア)主張1について
申立人は、甲2の記載を挙げ、「甲第1号証に記載されるホイップクリームも、所定の条件で加熱殺菌することは、製造業者に課せられた義務である。」と主張するが、甲2の厚生省令における「クリーム」とは、生乳等から乳脂肪分以外の成分を除去したもの(甲2の2頁「14」の項)をいい、甲1における「クリーム(脂肪分40%の植物性脂肪)」とは異なるものであるから、甲2の記載事項は、甲1発明における起泡前の加熱殺菌の要否とは関係がない。また仮に、甲1発明の「クリーム」が甲2のクリームに準じ、加熱殺菌を要するものであるといえるとしても、クリームにグラニュー糖等を加えたホイップ直前の組成物は「クリーム」ではないから、さらに加熱殺菌を行うことは、甲2の記載を参酌しても製造者の義務であるとまではいえない。
(イ)主張2について
甲1には、クリーム(脂肪分40%の植物性脂肪)にグラニュー糖及び離水抑制剤UT-WSの混合物を加え、氷水で冷却しながらハンドミキサーで攪拌してホイップクリームを調製し、官能評価を行ったことが記載されている(【0035】~【0040】)。当該記載に接した当業者であれば、甲1の「クリーム(脂肪分40%の植物性脂肪)」は、その場で製造したものではなく、必要に応じて事前に加熱殺菌された既製品であって、さらなる加熱殺菌を要しないものであると理解する。また、甲3~甲7はいずれも市販のクリームに成分を添加する方法で製造するものではなく、所定の成分からなる油層と水層とを混合、乳化、均質化し、その後殺菌する方法を開示するもの(例えば、甲3の【0036】及び【0042】等)であり、甲8の記載事項(甲8の2頁2.2 Preparation of the fresh TFS, LTS, PSPP and GA emulsionsの項、3頁2.5 Influence of pH and temperature~の項、4頁3.3 Effect of concentration and temperature on droplet size~の項)は白キクラゲを含む水溶液と大豆油からなるエマルジョンの熱に対する安定性を評価したものであって、市販のクリームを用いるものではなく、クリームの加熱殺菌を意図したものともいえない。そうすると、甲3~甲8を参酌しても、クリームにグラニュー糖及び離水抑制剤UT-WSの混合物を加えた状態の組成物である甲1発明において、さらに均質化処理及び加熱殺菌処理を行うことが動機付けられるとはいえない。
(ウ)主張3について
甲8において乳化剤として用いられた白キクラゲは、スーパーマーケットで購入された白キクラゲの粉砕物(甲8の2頁2.1 Materialsの項)であって、甲1の【0012】に記載されるシロキクラゲ多糖体とは異なるものであるから、甲8に記載の技術的事項は甲1発明に適用できるものとはいえない。また、甲8には白キクラゲを用いたエマルジョンを100℃、20分間インキュベートした場合に粒径の変化が少なかったことが記載(甲8の3頁2.5 Influence of pH and temperature~の項、4頁3.3 Effect of concentration and temperature on droplet size~の項、7頁4 Conclusionsの項)されているものの、当該記載は乳化剤として白キクラゲを用いたエマルジョンが熱に対し安定であることを示すにとどまり、白キクラゲ多糖を含有する起泡性水中油型乳化油脂組成物について加熱殺菌を行うことを動機付けるものではない。さらに、当該加熱殺菌により起泡性水中油型乳化油脂組成物の物性が良好なものとなることを予測させるものでもない。
すなわち、上記イで検討したように、本件発明1は、相違点1に係る発明特定事項を有することにより、「低油脂分、とくに油脂分含量が40質量%未満であっても乳化安定性及び起泡後の冷凍耐性が良好であり、且つ、生クリームとの混合ホイップに適した起泡性水中油型乳化油脂組成物を得ることができる。」という効果を奏するものであり、そのような効果は、甲1、甲8及び他の全ての証拠の記載を参酌しても当業者が予測することができない顕著なものといえる。
以上のとおり、申立人の主張はいずれも採用することができない。
オ 本件発明1についてのまとめ
以上まとめると、相違点1に係る本件発明1の発明特定事項は、甲1及び他の全ての証拠の記載に基いても当業者が容易に想到することができたものではない。よって、本件発明1は甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2)本件発明2~7について
本件発明2~7は、請求項1を引用し、本件発明1の発明特定事項を全て備えるものである。そうすると、上記(1)と同様の理由により、本件発明2~7は、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)本件発明8について
本件発明8と甲1製法発明とを対比すると、上記(1)アと同様の相当関係がとれるから、両者は、以下の点で相違し、その余の点で一致する。
・相違点8
製造方法について本件発明8は、「白キクラゲ多糖を乳化油脂組成物中に均質化し、次いで加熱殺菌する、」と特定するのに対し、甲1製法発明はそのように特定されていない点。
そして、相違点8は、実質的に相違点1と同じ内容の相違点であるから、上記(1)イと同様に判断される。
よって、本件発明8は甲1製法発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)本件発明9について
本件発明9と甲1起泡物発明とを対比する。
甲1起泡物発明における「氷水で冷却しながらハンドミキサーでオーバーランが150%となるよう攪拌して調製した」は、攪拌により起泡されていることを意味するから、本件発明9における「起泡してなる」に相当する。そして、甲1起泡物発明における「ホイップクリーム」は、起泡されたクリームであるから、本件発明9における「ホイップドクリーム」に相当する。
また、甲1起泡物発明における「甲1発明」は、上記(1)アに記載したとおり、「起泡性水中油型乳化油脂組成物」に相当する。
してみると、両者の一致点、相違点は以下の通りである。
(一致点)
「起泡性水中油型乳化油脂組成物を起泡してなるホイップドクリーム。」
(相違点)
・相違点9
起泡性水中油型乳化油脂組成物について、本件発明9は「請求項1~7のいずれか一項に記載の」又は「請求項8に記載の製造方法で得られた」と特定するのに対し、甲1起泡物発明における「甲1発明」(起泡性水中油型乳化油脂組成物)はそのように特定されない点。
そして、相違点9についての判断は、実質的に相違点1又は相違点8と同じ内容の相違点についての判断になるから、上記(1)イ及び(3)と同様に判断される。
よって、本件発明9は甲1起泡物発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(5)本件発明10について
本件発明10と甲1起泡物製法発明とを対比する。
甲1起泡物製法発明における「氷水で冷却しながらハンドミキサーでオーバーランが150%となるよう攪拌」する工程は、本件発明10における「起泡する工程」に相当する。そして、甲1起泡物製法発明における「ホイップクリーム」は、起泡されたクリームであるから、本件発明10における「ホイップドクリーム」に相当する。そして、甲1起泡物製法発明における「甲1発明」は、上記(1)アに記載したとおり、「起泡性水中油型乳化油脂組成物」に相当する。
してみると、両者の一致点、相違点は以下の通りである。
(一致点)
「起泡性水中油型乳化油脂組成物を起泡する工程を有するホイップドクリームの製造方法。」
(相違点)
・相違点10-1
起泡性水中油型乳化油脂組成物について、本件発明10は「請求項1~7のいずれか一項に記載の」又は「請求項8に記載の製造方法で得られた」と特定するのに対し、甲1起泡物製法発明における「甲1発明」(起泡性水中油型乳化油脂組成物)はそのように特定されない点。
・相違点10-2
起泡する工程について、本件発明10は「起泡性水中油型乳化油脂組成物と生クリームをブレンドし、」と特定するのに対し、甲1起泡物製法発明は生クリームをブレンドすることが特定されない点。
相違点10-1について検討すると、相違点10-1についての判断は、実質的に相違点1又は相違点8と同じ内容の相違点についての判断になるから、上記(1)イ及び(3)と同様に判断される。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明10は甲1起泡物製法発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(6)本件発明11について
本件発明11と甲1方法発明とを対比する。
甲1方法発明における「ホイップクリーム」、「冷凍解凍耐性付与方法」は、それぞれ本件発明11における「ホイップドクリーム」、「冷凍耐性付与方法」に相当する。そして、甲1方法発明における「甲1発明」は、上記(1)アに記載したとおり、「起泡性水中油型乳化油脂組成物」に相当する。
してみると、両者の一致点、相違点は以下の通りである。
(一致点)
「起泡性水中油型乳化油脂組成物を使用したホイップドクリームの冷凍耐性付与方法。」
(相違点)
・相違点11
起泡性水中油型乳化油脂組成物について、本件発明1は「請求項1~7のいずれか一項に記載の」又は「請求項8に記載の製造方法で得られた」と特定するのに対し、甲1方法発明における「甲1発明」(起泡性水中油型乳化油脂組成物)はそのように特定されない点。
相違点11について検討すると、相違点11についての判断は、実質的に相違点1又は相違点8と同じ内容の相違点についての判断になるから、上記(1)イ及び(3)と同様に判断される。
よって、本件発明11は甲1方法発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
3 申立理由(甲1を主たる証拠とする進歩性)についてのまとめ
上記のとおり、本件発明1~11は、いずれも甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。よって、申立理由により本件特許の請求項1~11に係る特許を取り消すことはできない。
第5 むすび
以上のとおり、本件特許の請求項1~11に係る特許は、特許異議の申立ての理由によっては、取り消すことはできないものである。
また、他に、本件特許の請求項1~11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2025-700754