特許異議申立
2024-701065
被覆用油性食品
- 審判番号
- 2024-701065
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2023-054499
- 登録番号
- 7477007
- 請求日
- 2024年10月31日
- 審決日
- 2025年02月28日
- 公報発行日
- 2025年04月25日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】不二製油株式会社
- 【異議申立人】根本 未果
- 審判長/審判官
- 審判長 天野 宏樹
- 審判官 宮久保 博幸
- 審判官 松本 陶子
- 分類
- P1651.121-Y (A23D) / P1651.537-Y (A23D) / P1651.538-Y (A23D)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条4項1号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7477007号発明「被覆用油性食品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7477007号の請求項1~9に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7477007号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~9に係る特許についての出願は、
令和 5年 3月30日の出願であって、
令和 6年 4月22日にその特許権の設定登録(請求項の数9)がされ、
令和 6年 5月 1日に特許掲載公報が発行され、
その後、その特許に対し、
令和 6年10月31日に特許異議申立人 根本 未果(以下、「特許異議申立人」という。)から特許異議の申立て(対象請求項:全請求項)がされたものである。
第2 本件特許発明
本件特許の請求項1~9に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいう。)は、それぞれ、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1~9に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
油性食品であって、以下1)~5)をすべて満たす被覆用油性食品。
1)油分が35~70質量%、
2)主要構成脂肪酸が炭素数16~24の飽和脂肪酸である、HLB3~17のショ糖脂肪酸エステルを含み、
3)50℃で融解された状態の降伏値が0.1~10Pa
4)油性食品中のカカオバター含有量が5質量%以下
5)無脂カカオ固形分3質量%以下かつ乳製品の含量が5~20質量%である
ただし、ショ糖脂肪酸エステルの主要構成脂肪酸とは、構成脂肪酸中に60質量%以上含まれる脂肪酸のことを示す。
【請求項2】
油分中の全構成脂肪酸に占める炭素数12および炭素数14の飽和脂肪酸の合計の含量が、15~50質量%である、請求項1に記載の被覆用油性食品。
【請求項3】
水分が0.4質量%混入した場合に、50℃において、
水分混入前の降伏値に対する水分混入後の降伏値の比が0.5~5であり、
水分混入前のB型粘度計の粘度に対する水分混入後のB型粘度計の粘度の比が0.5~5である、請求項1または請求項2に記載の被覆用油性食品。
【請求項4】
被覆対象の食品が含水食品であって、水分活性が0.75以上である、請求項1または請求項2に記載の被覆用油性食品。
【請求項5】
請求項1または請求項2に記載の被覆用油性食品が含水食品に被覆された複合食品。
【請求項6】
以下1)~5)の要件をすべて満たす油性食品の製造方法であって、
2)のショ糖脂肪酸エステルを粉砕工程以前に配合し、混合及び粉砕処理を行う、被覆用油性食品の製造方法。
1)油分が35~70質量%
2)主要構成脂肪酸が炭素数16~24の飽和脂肪酸である、HLB3~17のショ糖脂肪酸エステルを含む
3)製造後の50℃での降伏値が0.1~10Pa
4)油性食品中のカカオバター含有量が5質量%以下、
5)無脂カカオ固形分3質量%以下かつ乳製品の含量が5~20質量%である
ただし、ショ糖脂肪酸エステルの主要構成脂肪酸とは、構成脂肪酸中に60質量%以上 含まれる脂肪酸のことを示す。
【請求項7】
請求項6の製造方法で得られた被覆用油性食品を含水食品に被覆する複合食品の製造方法。
【請求項8】
請求項6の製造方法で得られる被覆用油性食品を用いて、以下のA)及びB)要件を満たすように被覆用油性食品の流動性を維持する方法。
水分が0.4質量%混入した場合に、50℃において、
A)水分混入前の降伏値に対する水分混入後の降伏値の比が0.5~5であり、
B)水分混入前のB型粘度計の粘度に対する水分混入後のB型粘度計の粘度の比が0.5~ 5である
【請求項9】
油性食品であって、
無脂カカオ固形分3質量%以下かつ乳製品の含量が5~20質量%であり、
カカオバター含有量が5質量%以下であり、
油分が35~70質量%、
主要構成脂肪酸が炭素数16~24の飽和脂肪酸である、HLB3~17のショ糖脂肪酸エステルを含み、
50℃で融解された状態の降伏値が0.1~10Paである、
被覆用油性食品を表面に被覆する、複合食品のツヤ向上方法。」
第3 特許異議申立書に記載した特許異議申立理由の概要
令和 6年10月31日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。なお、判断の便宜上、進歩性に関する申立理由については、主引用文献となる証拠毎に申立理由を整理した。
1 申立理由1(甲第1号証に基づく進歩性)
本件特許の請求項1~9に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基いて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
2 申立理由2(甲第2号証に基づく進歩性)
本件特許の請求項1~9に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第2号証に記載された発明に基いて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
3 申立理由3(甲第3号証に基づく進歩性)
本件特許の請求項1~9に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第3号証に記載された発明に基いて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
4 申立理由4(甲第4号証に基づく進歩性)
本件特許の請求項1~9に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第4号証に記載された発明に基いて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
5 申立理由5(甲第5号証に基づく進歩性)
本件特許の請求項1~9に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第5号証に記載された発明に基いて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
6 申立理由6(サポート要件)
本件特許の請求項1~9に係る特許は、以下のとおり、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
(1)油分が35~70質量%の要件について
本発明中の油分が35~70質量%の要件について、本件の明細書の実施例には、油分が43.3質量%~60.2質量%の範囲についての例が記載されるのみです。そして、本発明中のこの35~70質量%の全体にわたって所定の効果を得ることができる根拠は不明です。実施例に示された具体的数値以外の油分の含有量に関しては、本発明による効果を確認できません。
本発明は油分が35~70質量%の範囲を満たす要件を備えることにより、明細書の0012段落の記載の効果を奏するとされていますが、限られた実施例の結果からこの範囲全体にわたる効果までを確認できないことは明らかです。
(2)主要構成脂肪酸が炭素数16~24の飽和脂肪酸である、HLB3~17のショ糖脂肪酸エステルの要件について
本発明中の主要構成脂肪酸が炭素数16~24の飽和脂肪酸である、HLB3~17のショ糖脂肪酸エステルの要件について、本件の明細書の実施例には、HLB5、7及び16の主要構成脂肪酸が炭素数16の飽和脂肪酸エステルの例が記載されるのみです。そして、本発明中の飽和脂肪酸の炭素数が16~24全体、かつ、HLBが3~17全体の組み合わせ全般にわたって所定の効果を得ることができる根拠は不明です。実施例に具体的に示されたもの以外のショ糖脂肪酸エステル全体にわたる本発明による効果を確認できません。
本発明は特定のショ糖脂肪酸エステルである要件を備えることにより、優れた効果を奏するとされていますが、本発明中の特定のショ糖脂肪酸エステルは多岐にわたるので、極めて限られた実施例の結果からこの範囲全体にわたる効果までを確認できないことは明らかです。
(3)降伏値が0.1~10Paの要件について
本発明中の降伏値が0.1~10Paの要件について、本件の明細書の実施例には、0.5~8.7Paの例が記載されるのみです。そして、この限定された実施例の結果から、本発明中の降伏値が0.1~10Pa全体にわたって所定の効果を得ることができる根拠は不明です。実施例に示された具体的数値以外の降伏値の範囲全般にわたる本発明による効果を確認できません。
本発明は降伏値が0.1~10Paの要件を備えることにより、優れた効果を奏するとされていますが、極めて限られた降伏値の結果からこの範囲全体にわたる効果までを確認できないことは明らかです。
(4)油性食品中のカカオバター含有量が5質量%以下の要件について
本発明中の油性食品中のカカオバター含有量が5質量%以下の要件について、本件の明細書の実施例には、最大で2.8質量%の例が記載されるのみです。そして、この限定された実施例の結果から、本発明中の油性食品中のカカオバター含有量が5質量%以下全般にわたって所定の効果を得ることができる根拠は不明です。実施例に示された油性食品中のカカオバターの具体的数値以外の含有量の範囲全般にわたる本発明による効果を確認できません。
本発明は油性食品中のカカオバター含有量が5質量%以下の要件を備えることにより、優れた効果を奏するとされていますが、極めて限られたカカオバター含有量の結果からこの範囲全体にわたる効果までを確認できないことは明らかです。
7 申立理由7(実施可能要件)
本件特許の請求項1~9に係る特許は、以下のとおり、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
・本発明は、被覆用油性食品が、50℃で融解された状態の降伏値が0.1~10Paであることを要件とします。そして、本件の明細書の実施例には、0.5~8.7Paの例が記載されるのみです。しかしながら、この実施例の記載を基にして、降伏値が0.1~10Pa全体に調製するための説明が十分になされておらず、また、当業者がこのような明細書に記載の事項に基づいて、降伏値が0.1~10Pa全体に調製することができるとはいえません。よって、本件は実施可能要件を満たしません。
8 証拠方法
・甲第1号証:特開平6-237694号公報
・甲第2号証:特開平4-173055号公報
・甲第3号証:特開2012-152113号公報
・甲第4号証:特開2018-126081号公報
・甲第5号証:特開2022-133048号公報
・甲第6号証:JFRLNEWS Vol.2 No.38 Oct.2003、水分活性について ~食品の保存性パラメーター~、https://www.jfrl.or.jp/storage/file/news_no38.pdf、2003年10月15日
・甲第7号証:特開2022-166862号公報
・甲第8号証:「三菱ケミカル株式会社 フード・ヘルスケア事業部 リョートーTMシュガーエステル 製品一覧」、https://www.mfc.co.jp/product/nyuuka/ryoto_syuga/list.html
・甲第9号証:乳化剤/ショ糖脂肪酸エステル リョートーTMシュガーエステルパンフレット、三菱ケミカル株式会社ライフソリューション事業部、2022年11月15日発行
・甲第10号証:特開2005-73613号公報
・甲第11号証:特開2021-177782号公報
なお、証拠の表記は、特許異議申立書及び証拠説明書の記載におおむね従った。以下、順に「甲1」のようにいう。
第4 当審の判断
当審は以下に述べるように、申立理由1~7によっては、本件特許を取り消すことはできないと判断する。
1 申立理由1(甲1に基づく進歩性)について
(1)甲1の記載事項等
ア 甲1の記載事項
甲1には、含水チョコレートの製造法に関し、おおむね次の事項が記載されている。
・「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、含水チョコレートの製造法に関し、特に水分を添加しても固形分の凝集によるザラツキや粘度上昇がなく、作業性が良好で、かつ風味の良好な含水チョコレートを製造する方法に関する。」
・「【0009】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、水分含有成分を何ら加工することなく、そのまま添加することができ、且つ低水分域でもチョコレートがボテ現象を呈することなく、通常のチョコレートと同様の物性を呈した含水チョコレートを容易に製造することを課題とするものである。」
・「【0022】本発明の一般的な製法としては、チョコレート生地の粉体原料にHLB5以上の蔗糖脂肪酸エステルを添加し、常法どおりロール掛け、コンチング処理し、HLB3以下の蔗糖脂肪酸エステルを添加して得たチョコレート生地を加温融解し、これに水性成分を加え均一に分散するよう混合する。」
・「【0025】本発明における含水チョコレートは、水分が混入しているにもかかわらず通常のチョコレートと同様、テンパリングやモールディング及びコーティングなどの成形作業が可能である。また、使用する油脂を変えることにより洋菓子やアイスバーなどにコーティングすることも可能な含水チョコレートを得ることができる。」
・「【0029】実施例2
油脂(カカオ脂3部、植物性油脂45部を混合したテンパリング型油脂)48部、全脂粉乳と脱脂粉乳の混合粉乳を13部、砂糖39部、HLB値2で主要構成脂肪酸がエルカ酸である蔗糖脂肪酸エステル1.5 部およびHLB16の蔗糖脂肪酸エステル0.7 部から成る配合にて、常法に従い油分50.5%、融点30℃のホワイトチョコレート生地を調製した。このホワイトチョコレート生地90部を35~40℃に加温し、これに市販の果汁(糖濃度50%)10部を加え均一なるように混合して水分5%の含水ホワイトチョコレートを製造した。このチョコレートは粘度上昇も少なく、コーティングできる粘性であった。また顕微鏡下で観察したところ、果汁添加前と添加後でチョコレート固形分は何ら変化が見られなかった。これをバターケーキにコーティングし、20℃で固化させたところ5分程度で乾き、艶も良好であった。なお、前例と同様にして測定した50%粒子径は10μm、80%粒子径は15μmであって、ザラツキのないものであった。」
・「【0032】
【発明の効果】以上のように、HLB値の異なる特定の二種類の蔗糖脂肪酸エステルを併用することにより、水分が混入しているにもかかわらず通常のチョコレートと同様、テンパリングやモールディング及びコーティングなどの成形作業が可能な含水チョコレートを得ることができるようになった。」
イ 甲1に記載された発明
上記アの記載のうち、実施例2を中心にまとめると、甲1には次の発明(以下、「甲1発明」、「甲1製法発明」、「甲1方法発明」という。)が記載されていると認める。
<甲1発明>
「油脂(カカオ脂3部、植物性油脂45部を混合したテンパリング型油脂)48部、全脂粉乳と脱脂粉乳の混合粉乳を13部、砂糖39部、HLB値2で主要構成脂肪酸がエルカ酸である蔗糖脂肪酸エステル1.5部およびHLB16の蔗糖脂肪酸エステル0.7部から成る配合にて、常法に従い油分50.5%、融点30℃に調整されたホワイトチョコレート生地90部を35~40℃に加温し、これに市販の果汁(糖濃度50%)10部を加え均一になるように混合された、含水ホワイトチョコレート。」
<甲1製法発明>
「甲1発明の製造方法。」
<甲1方法発明>
「油脂(カカオ脂3部、植物性油脂45部を混合したテンパリング型油脂)48部、全脂粉乳と脱脂粉乳の混合粉乳を13部、砂糖39部、HLB値2で主要構成脂肪酸がエルカ酸である蔗糖脂肪酸エステル1.5部およびHLB16の蔗糖脂肪酸エステル0.7部から成る配合にて、常法に従い油分50.5%、融点30℃に調整されたホワイトチョコレート生地90部を35~40℃に加温し、これに市販の果汁(糖濃度50%)10部を加え均一になるように混合された、含水ホワイトチョコレートをコーティングする、バターケーキのコーティング方法。」
(2)検討
ア 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「含水ホワイトチョコレート」は油脂を含有し、テンパリングやモールディング及びコーティングなどの成形作業が可能なものであるから(【0032】)、本件特許発明1の「油性食品」及び「被覆用油性食品」に相当する。
また、甲1発明のホワイトチョコレート生地は、油分50.5%であり、HLB16の蔗糖脂肪酸エステルを含有し、無脂カカオ固形分を含有しないものであるから、本件特許発明1の「1)油分が35~70質量%」である点、「HLB3~17のショ糖脂肪酸エステルを含」む点、「5)無脂カカオ固形分3質量%以下」である点と一致する。
そうすると、本件特許発明1と甲1発明との一致点は以下のとおりである。
<一致点>
「油性食品であって、以下をすべて満たす被覆用油性食品。
1)油分が35~70質量%、
2)HLB3~17のショ糖脂肪酸エステルを含み、
5)無脂カカオ固形分3質量%以下である」
また、両者は以下の点で相違する。
<相違点1-1>
本件特許発明1には、「主要構成脂肪酸が炭素数16~24の飽和脂肪酸である」、「ショ糖脂肪酸エステルを含」み、かつ「ただし、ショ糖脂肪酸エステルの主要構成脂肪酸とは、構成脂肪酸中に60質量%以上含まれる脂肪酸のことを示す」ことが特定されているのに対して、甲1発明には、そのような特定がない点。
<相違点2-1>
本件特許発明1には、「3)50℃で融解された状態の降伏値が0.1~10Pa」であることが特定されているのに対して、甲1発明には、そのような特定がない点。
<相違点3-1>
本件特許発明1には、「4)油性食品中のカカオバター含有量が5質量%以下」であること及び「乳製品の含量が 5~20質量%である」ことが特定されているのに対して、甲1発明には、そのような特定がない点。
事案に鑑みて、相違点2-1について検討する。
本件発明の【0021】及び【0023】等の記載を参酌すると、本件特許発明1における「50℃で融解された状態の降伏値」は、水分混入前である融解時の降伏値を意味するところ、甲1発明は果汁10部を加えたものであるから、水分混入前の融解時の降伏値を特定できるものではない。
また、甲1及び他の全ての証拠の記載を見ても、甲1発明において、果汁を加える前のホワイトチョコレート生地の50℃で融解された状態の降伏値を0.1~10Paとする動機付けがあるとはいえない。
よって、甲1発明において、相違点2-1に係る本件特許発明1の発明特定事項を満たすものとすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1発明並びに甲1及び他の証拠に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
なお、特許異議申立人は特許異議申立書において、上記相違点2-1について、以下のとおりの主張をしている。
・「甲2に記載の発明は、コーティングに使用する前から含水のチョコレートです。このようなチョコレートであっても、コーティングを継続できることは、コーティングが可能な流動性(粘度)を有することを意味します。
このような状態は、本件明細書の各実施例における0040段落、0044段落、0048段落に記載されたような、0.2%又は0.4%の水分混入後であっても、流動性が維持されている旨の効果と同程度の効果を発揮していることを意味します。
そうすると、甲1には、具体的な降伏値が記載されていなくても、その効果や物性を考慮すると、本発明中の降伏値で示した物性を有するといえます。」(異議申立書第60頁(相違点2について(理由その1)))
・「本発明における降伏値の限定は、含水してもコーティングを円滑に行うための条件です。そうすると、上記の(相違点1について(理由その2))において示したように、チョコレートに、甲9に記載のHLB値が3又は5のショ糖ステアリン酸エステルを採用すると、含水しても安定であり、粘度を低下する以上、甲1に記載の発明に対して甲 9の記載を基に得られたチョコレート組成物は、結果的に本発明中の降伏値を有するといえます。
又は、甲1の実施例2に記載のHLB値2で主要構成脂肪酸がエルカ酸である庶糖脂肪酸エステルは、甲7の0047段落の「ショ糖脂肪酸エステル(ER-290、HLB2、エルカ酸、三菱化学フーズ株式会社製)」の記載、甲8の「ショ糖エルカ酸エステル」の項の記載、甲9の「ショ糖エルカ酸エステル」の欄の記載からみて、三菱ケミカル株式会社製のER-290です。そして甲9の第5頁図ー7の降伏値と乳化剤量のグラフによれば、ER-290の配合量を増加させても、降伏値は変化しません。
そうすると、甲1の実施例2は降伏値に実質的に影響する乳化剤はHLB16の庶糖脂肪酸エステルのみです。上記(相違点1について(理由その1))にて記載したように、甲1に記載の発明に記載のHLBが5以上のショ糖脂肪酸エステルとして、甲2に記載のHLB16のショ糖ステアリン酸エステルを採用することが容易であり、その結果として得られたチョコレートは、本発明中の降伏値と同程度の降伏値を有するといえます。」(異議申立書第60頁(相違点2について(理由その2)))
本件発明が「水分が混入した場合にも流動性を維持することで、被覆量を制御することができ、被覆後のツヤが良好である外観を得ること」を課題とするのに対し、甲1発明はコーティングに使用する前に果汁が加えられ、含水した状態で流動性を有するように粘度が調整されたものであるから、本件発明とは課題及び解決手段が異なるものであり、単にショ糖ステアリン酸エステルを含有する点のみをみて、「50℃で融解された状態の降伏値が0.1~10Pa」であるとはいえない。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
イ 本件特許発明2~5について
本件特許発明2~5は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであって、本件特許発明1の発明特定事項を全て備えるものであるから、本件特許発明1と同様に判断される。
よって、本件特許発明2~5は、甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 本件特許発明6について
本件特許発明6と甲1製法発明を対比すると、少なくとも上記アで指摘した相違点2-1と同様の点で相違するものである。
そして、上記第アの判断と同様に、甲1製法発明並びに甲1及び他の証拠をみても、甲1製法発明において、相違点2-1に係る本件特許発明6の構成を備えたものとすることは、当業者といえども容易になし得たとはいえない。
そして、本件特許発明6における「水分が混入した場合にも流動性を維持することができることによって、連続生産においても被覆後のツヤが良好である品質を維持することができる」という効果も、甲1及び他の証拠の記載から当業者が予測できるものとはいえない。
したがって、相違点2-1以外の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明6は、甲1製法発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
エ 本件特許発明7、8について
本件特許発明7、8は、請求項6を直接又は間接的に引用して特定するものであって、本件特許発明6の発明特定事項を全て備えるものであるから、本件特許発明6と同様に判断される。
よって、本件特許発明7、8は、甲1製法発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
オ 本件特許発明9について
本件特許発明9と甲1方法発明を対比すると、少なくとも上記第アで指摘した相違点2-1と同様の点で相違するものである。
そして、上記第アの判断と同様に、甲1方法発明並びに甲1及び他の証拠をみても、甲1方法発明において、相違点2-1に係る本件特許発明9の構成を備えたものとすることは、当業者といえども容易になし得たとはいえない。
そして、本件特許発明9における「被覆量が制御され、ツヤが良好な外観の複合食品を提供することができる」という効果も、甲1及び他の証拠の記載から当業者が予測できるものとはいえない。
したがって、相違点2-1以外の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明9は、甲1方法発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)申立理由1のまとめ
上記のとおり、本件特許発明1~9は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、申立理由1の理由では、本件特許の請求項1~9に係る特許を取り消すことはできない。
2 申立理由2(甲2に基づく進歩性)について
(1)甲2の記載事項等
ア 甲2の記載事項
甲2には、冷菓用チョコレート類の製造法に関し、おおむね次の事項が記載されている。
・「また、一般的なコーティング作業としては浸漬するアイスクリーム類の溶解を最小限にする為に、チョコレート類の温度を30~45℃に下げて用いるが、この温度域においてチョコレート類は良好な流動性を有する必要があり、チョコレート類の油脂含量を40~80%にして用いるのが常であって、その為に口溶け時に非常にオイリー(油っぽい)な食感を呈する。
この発明は、以上のような欠点の解決を指向したものであって、冷菓用として使用したとき水分の混入による風味、物性変化が少なく、オイリーな食感を呈さない冷菓用チョコレート類を製造する方法を提供するものである。」(第2頁左上欄第11行~第2頁右上欄第3行)
・「実施例1
カカオマス23部、砂糖22部、レシチン0.4部および蔗糖脂肪酸エステル(商品名:シュガーエステルS1670、三菱化成食品社製)3部を混合し、ロール掛けを行った後にココアバター20部、大豆油31.6部を添加し、コンチング処理を行って冷菓用チョコレートを得た。
このチョコレートは40℃にて250cp(BM型粘度計、2号ローター、30rpm)の粘度であり、市販のアイスクリームバーヘコーティング作業を行う、約8gのチョコレートがアイスクリームバー表面にコーティングされた。
また、このチョコレートに2%の水分を添加、混合を行ったが、粘度の変化は全くなく、また同様のコーティング作業を行ってもアイスクリームバー表面へのコーティング量は同等であった。」(第2頁右下欄第18行~第3頁左上欄第13行)
・「(効果)
以上の如く、この発明における冷菓用チョコレート類は、当該チョコレート類中にアイスクリーム等の冷菓類を浸漬してコーティングしても水分混入による油分分離現象やボテ現象が起こり難く、オイリーな食感を呈しないという効果を有するのであって、この発明は業界に多大の貢献をもたらすものである。」(第3頁右上欄第18行~左下欄第5行)
イ 甲2に記載された発明
上記アの記載のうち、実施例1を中心にまとめると、甲2には次の発明(以下、「甲2発明」、「甲2製法発明」、「甲2方法発明」という。)が記載されていると認める。
<甲2発明>
「カカオマス23部、砂糖22部、レシチン0.4部および蔗糖脂肪酸エステル(商品名:シュガーエステルS1670、三菱化成食品社製)3部を混合し、ロール掛けを行った後にココアバター20部、大豆油31.6部を添加した、冷菓用チョコレート。」
<甲2製法発明>
「甲2発明の製造方法。」
<甲2方法発明>
「カカオマス23部、砂糖22部、レシチン0.4部および蔗糖脂肪酸エステル(商品名:シュガーエステルS1670、三菱化成食品社製)3部を混合し、ロール掛けを行った後にココアバター20部、大豆油31.6部を添加した、冷菓用チョコレートを、アイスクリームバーの表面にコーティングする方法。」
(2)検討
ア 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲2発明とを対比する。
甲2発明の「冷菓用チョコレート」はアイスクリームバー表面にコーティングされるものであるから、本件特許発明1の「油性食品」及び「被覆用油性食品」に相当する。
また、甲2発明の「蔗糖脂肪酸エステル(商品名:シュガーエステルS 1670、三菱化成食品社製)」は、甲8及び9より、HLB16のショ糖ステアリン酸エステル(炭素数 18)であることは明らかだから、本件特許発明1の「2)主要構成脂肪酸が炭素数16~24の飽和脂肪酸である、HLB3~17のショ糖脂肪酸エステルを含み」、かつ、「ただし、ショ糖脂肪酸エステルの主要構成脂肪酸とは、構成脂肪酸中に60質量%以上含まれる脂肪酸のことを示す。」点に相当する。
そうすると、本件特許発明1と甲2発明との一致点は以下のとおりである。
<一致点>
「油性食品であって、以下を満たす被覆用油性食品。
2)主要構成脂肪酸が炭素数16~24の飽和脂肪酸である、HLB3~17のショ糖脂肪酸エステルを含む
ただし、ショ糖脂肪酸エステルの主要構成脂肪酸とは、構成脂肪酸中に60質量%以上含まれる脂肪酸のことを示す。」
また、両者は以下の点で相違する。
<相違点1-2>
本件特許発明1には、「1)油分が35~70質量%」であることが特定されているのに対して、甲2発明には、そのような特定がない点。
<相違点2-2>
本件特許発明1には、「3)50℃で融解された状態の降伏値が0.1~10Pa」であることが特定されているのに対して、甲2発明には、そのような特定がない点。
<相違点3-2>
本件特許発明1には、「4)油性食品中のカカオバター含有量が5質量%以下」であり、「5)無脂カカオ固形分3質量%以下かつ乳製品の含量が5~20質量%である」ことが特定されているのに対して、甲2発明には、そのような特定がない点。
事案に鑑みて、相違点2-2について検討する。
甲2には、「一般的なコーティング作業としては浸漬するアイスクリーム類の溶解を最小限にする為に、チョコレート類の温度を30~45℃に下げて用いる」と記載されているから、甲2発明は30~45℃における粘度を調整しようとする発明であり、したがって、当業者が「50℃で融解された状態の降伏値」を特定することを動機付けるものではない。
また、甲2及び他の全ての証拠の記載を見ても、甲2発明において、50℃で融解された状態の降伏値を0.1~10Paとする動機付けがあるとはいえない。
よって、甲2発明において、相違点2-2に係る本件特許発明1の発明特定事項を満たすものとすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲2発明並びに甲2及び他の証拠に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
なお、特許異議申立人は特許異議申立書において、上記相違点2-2について、甲2発明のチョコレートは本発明の被覆用油性食品と同様の効果を発揮する以上、本発明と同様の物性を潜在的に有するといえると主張をしている。しかしながら、上記のとおり、甲2発明は30~45℃における粘度を調整しようとする発明であり、実施例1においても40℃における粘度を測定するものであるから、甲2発明と、50℃における降伏値を調整しようとする本件発明とは、課題及び解決手段が異なるものである。そうすると、技術分野や効果が類似するとしても、甲2発明においても「50℃で融解された状態の降伏値が0.1~10Pa」であると一義的に認められるものではない。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
イ 本件特許発明2~5について
本件特許発明2~5は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであって、本件特許発明1の発明特定事項を全て備えるものであるから、本件特許発明1と同様に判断される。
よって、本件特許発明2~5は、甲2発明並びに甲2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 本件特許発明6について
本件特許発明6と甲2製法発明を対比すると、少なくとも上記アで指摘した相違点2-2と同様の点で相違するものである。
そして、上記第アの判断と同様に、甲2製法発明並びに甲2及び他の証拠をみても、甲2製法発明において、相違点2-2に係る本件特許発明6の構成を備えたものとすることは、当業者といえども容易になし得たとはいえない。
そして、本件特許発明6における効果も、甲2及び他の証拠の記載から当業者が予測できるものとはいえない。
したがって、相違点2-2以外の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明6は、甲2製法発明並びに甲2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
エ 本件特許発明7、8について
本件特許発明7、8は、請求項6を直接又は間接的に引用して特定するものであって、本件特許発明6の発明特定事項を全て備えるものであるから、本件特許発明6と同様に判断される。
よって、本件特許発明7、8は、甲2製法発明並びに甲2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
オ 本件特許発明9について
本件特許発明9と甲2方法発明を対比すると、少なくとも上記第アで指摘した相違点2-2と同様の点で相違するものである。
そして、上記第アの判断と同様に、甲2方法発明並びに甲2及び他の証拠をみても、甲2方法発明において、相違点2-2に係る本件特許発明9の構成を備えたものとすることは、当業者といえども容易になし得たとはいえない。
そして、本件特許発明9における効果も、甲2及び他の証拠の記載から当業者が予測できるものとはいえない。
したがって、相違点2-2以外の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明9は、甲2方法発明並びに甲2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)申立理由2のまとめ
上記のとおり、本件特許発明1~9は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、申立理由2の理由では、本件特許の請求項1~9に係る特許を取り消すことはできない。
3 申立理由3(甲3に基づく進歩性)について
(1)甲3の記載事項等
ア 甲3の記載事項
甲3には、コーティング用油脂組成物に関し、おおむね次の事項が記載されている。
・「【書類名】特許請求の範囲
【請求項1】
ランダムエステル交換油脂を、油相中に45~90質量%(油相基準)含有し、且つ該油相のSFC(固体脂含量)が10℃で44~66%、20℃で25~44%、30℃で5~25%、40℃で0~5%であることを特徴とするコーティング用油脂組成物。
【請求項2】
上記ランダムエステル交換油脂が、その全構成脂肪酸組成における炭素数14以下の飽和脂肪酸含量が20~60質量%であり、炭素数16以上の飽和脂肪酸含量が30~70質量%である油脂配合物(I)をランダムエステル交換してなるエステル交換油脂(I)を含有することを特徴とする請求項1記載のコーティング用油脂組成物。
・・・
【請求項8】
チョコレートであることを特徴とする請求項1~7の何れかに記載のコーティング用油脂組成物。
【請求項9】
ベーカリー食品コーティング用であることを特徴とする請求項1~8の何れかに記載のコーティング用油脂組成物。」
・「【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、口溶け及び固化性が良好であり、しかも、パン・ケーキ等の表面が軟らかいベーカリー食品にコーティングした場合であっても、経日的なべたつき、或いは、ひび割れや剥離を抑えることができるベーカリー食品コーティング用油脂組成物を提供することにある。」
・「【0035】
本発明のコーティング用油脂組成物は、上記ランダムエステル交換油脂に、その他の油脂を添加し、上記油相のSFC(固体脂含量)が10℃で44~66%、20℃で25~44%、30℃で5~25%、40℃で0~5%、好ましくは10℃で45~60%、20℃で27~43%、30℃で7~22%、40℃で0~4%とする。SFCが10℃で44%未満及び/又は20℃で25%未満であると、コーティング用油脂組成物としての適切な硬さが得られない。一方、SFCが10℃で66%超、及び/又は20℃で44%超であると、保存時にひび割れしやすいものとなり、また口溶けも悪くなる。尚、SFCが30℃で5%未満であると、経日的にべたつきが生じやすく、25%超であると口溶けが悪くなる。また、SFCが40℃で5%超であると、口溶けが悪く、後味の良くないものとなる。」
・「【0045】
本発明のコーティング用油脂組成物における油脂分含量は、好ましくは35~80質量%、より好ましくは40~70質量%である。油脂分含量が35質量%未満であると、コーティング時のコーティング用油脂組成物の粘度が高くなり薄く均一なコーティングが不可能となるおそれがあり、80質量%超であると、コーティング用油脂組成物が薄く均一となるが呈味成分の味が薄くコーティング用油脂組成物には適さないおそれがあることに加え、油性感が強い食感となってしまうおそれがある。尚、この油脂分含量は、直接配合する油脂以外に、油脂分を含有する食品素材や食品添加物を使用した場合には、それらに含まれる油脂分をあわせて算出するものとする。
【0046】
本発明のコーティング用油脂組成物において、油相の含量は、好ましくは35~83質量%、より好ましくは40~72質量%である。本発明における油相は、以下の操作によりコーティング用油脂組成物から抽出される部分である。通常、油相には、上述のエステル交換油脂、その他の油脂、及び食品素材や食品添加物に含有される油脂分が含まれるほか、油溶性の任意成分(例えば、油溶性の乳化剤、酸化防止剤、着色料、着香料)を使用した場合には、これらも含まれる。
油相抽出方法:基準油脂分析法に記載のソックスレー抽出法。すなわち、試料10gを、ソックスレー抽出器で、ジエチルエーテルを用いて抽出する。」
・「【0050】
本発明のコーティング用油脂組成物は、上記乳化剤の中でも、結合脂肪酸の主体が飽和脂肪酸であるポリグリセリン脂肪酸エステル及び/又はショ糖脂肪酸エステルを、油相中に油相基準で好ましくは0.01~3質量%、より好ましくは0.1~2質量%含有することが好ましい。ここでいう「結合脂肪酸の主体が飽和脂肪酸である」とは、その結合脂肪酸の脂肪酸組成において、飽和脂肪酸の割合が好ましくは65質量%以上、より好ましくは80質量%以上、更に好ましくは90質量%以上、最も好ましくは100質量%であることを意味する。
【0051】
上記飽和脂肪酸の種類は、好ましくは炭素数16以上の飽和脂肪酸、より好ましくは炭素数18以上の飽和脂肪酸、更に好ましくは炭素数20以上の飽和脂肪酸である。飽和脂肪酸の炭素数の上限は、特に制限されるものではないが、通常は多くても24である。
【0052】
また、結合脂肪酸の主体が飽和脂肪酸であるポリグリセリン脂肪酸エステル及び/又はショ糖脂肪酸エステルのHLBは、好ましくは6以下であり、更に好ましくは5以下である。HLBの下限は、特に制限されるものではないが、通常小さくても0である。」
イ 甲3に記載された発明
上記アの記載のうち、請求項9を中心にまとめると、甲3には次の発明(以下、「甲3発明」、「甲3製法発明」、「甲3方法発明」という。)が記載されていると認める。
<甲3発明>
「ランダムエステル交換油脂を、油相中に45~90質量%(油相基準)含有し、且つ該油相のSFC(固体脂含量)が10℃で44~66%、20℃で25~44%、30℃で5~25%、40℃で0~5%であり、上記ランダムエステル交換油脂が、その全構成脂肪酸組成における炭素数14以下の飽和脂肪酸含量が20~60質量%であり、炭素数16以上の飽和脂肪酸含量が30~70質量%である油脂配合物(I)をランダムエステル交換してなるエステル交換油脂(I)を含有し、ベーカリー食品コーティング用チョコレートであるコーティング用油脂組成物。」
<甲3製法発明>
「甲3発明の製造方法。」
<甲3方法発明>
「ランダムエステル交換油脂を、油相中に45~90質量%(油相基準)含有し、且つ該油相のSFC(固体脂含量)が10℃で44~66%、20℃で25~44%、30℃で5~25%、40℃で0~5%であり、上記ランダムエステル交換油脂が、その全構成脂肪酸組成における炭素数14以下の飽和脂肪酸含量が20~60質量%であり、炭素数16以上の飽和脂肪酸含量が30~70質量%である油脂配合物(I)をランダムエステル交換してなるエステル交換油脂(I)を含有する、ベーカリー食品コーティング用チョコレートをベーカリー食品表面にコーティングする、チョコレート被覆ベーカリー食品の経日的なべたつき、或いは、ひび割れや剥離を抑える方法。」
(2)検討
ア 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲3発明とを対比する。
甲3発明の「ベーカリー食品コーティング用チョコレート」は、本件特許発明1の「油性食品」及び「被覆用油性食品」に相当する。
そうすると、本件特許発明1と甲3発明との一致点は以下のとおりである。
<一致点>
「油性食品である、被覆用油性食品。」
また、両者は以下の点で相違する。
<相違点1-3>
本件特許発明1には、「1)油分が35~70質量%」であることが特定されているのに対して、甲3発明には、そのような特定がない点。
<相違点2-3>
本件特許発明1には、「2)主要構成脂肪酸が炭素数16~24の飽和脂肪酸である、HLB3~17のショ糖脂肪酸エステルを含み」、かつ「ただし、ショ糖脂肪酸エステルの主要構成脂肪酸とは、構成脂肪酸中に60質量%以上含まれる脂肪酸のことを示す。」ことが特定されているのに対して、甲3発明には、そのような特定がない点。
<相違点3-3>
本件特許発明1には、「3)50℃で融解された状態の降伏値が0.1~10Pa」であることが特定されているのに対して、甲3発明には、そのような特定がない点。
<相違点4-3>
本件特許発明1には、「4)油性食品中のカカオバター含有量が5質量%以下」であることが特定されているのに対して、甲3発明には、そのような特定がない点。
<相違点5-3>
本件特許発明1には、「5)無脂カカオ固形分3質量%以下かつ乳製品の含量が5~20質量%である」ことが特定されているのに対して、甲3発明には、そのような特定がない点。
事案に鑑みて、相違点3-3について検討する。
甲3発明は「口溶け及び固化性が良好であり、しかも、パン・ケーキ等の表面が軟らかいベーカリー食品にコーティングした場合であっても、経日的なべたつき、或いは、ひび割れや剥離を抑えることができるベーカリー食品コーティング用油脂組成物を提供する」ことを課題とし(【0008】)、「油相のSFC(固体脂含量)が10℃で44~66%、20℃で25~44%、30℃で5~25%、40℃で0~5%」となるように調整した発明であり、したがって、当業者が体温を大幅に上回る50℃の温度に着目し、当該温度で融解させた状態の降伏値を特定することを動機付けるものではない。
また、甲3及び他の全ての証拠の記載を見ても、甲3発明において、50℃で融解された状態の降伏値を0.1~10Paとする動機付けがあるとはいえない。
さらに、甲3の【0008】に「口溶け及び固化性が良好であり、しかも、パン・ケーキ等の表面が軟らかいベーカリー食品にコーティングした場合であっても、経日的なべたつき、或いは、ひび割れや剥離を抑えることができるベーカリー食品コーティング用油脂組成物を提供する」と記載されていることからみても、本件特許発明の「水分が混入した場合にも流動性を維持することで、被覆量を制御することができ、被覆後のツヤが良好である外観を得る」という効果は甲3から予測できないものである。
よって、甲3発明において、相違点3-3に係る本件特許発明1の発明特定事項を満たすものとすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲3発明並びに甲3及び他の証拠に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
なお、特許異議申立人は特許異議申立書において、上記相違点3-3について、甲3発明は本件特許発明と同様にコーティング用油脂組成物を良好に塗布する態様及び意義が共通する以上、本件特許発明と同様の物性を潜在的に有するといえると主張をしている。しかしながら、上記のとおり、本件特許発明1と甲3発明とは、課題及び効果が異なるものであり、また、着目している温度も異なるものであるから、甲3発明においても「50℃で融解された状態の降伏値が0.1~10Pa」であるとは認められない。
したがって、上記主張は採用できない。
イ 本件特許発明2~5について
本件特許発明2~5は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであって、本件特許発明1の発明特定事項を全て備えるものであるから、本件特許発明1と同様に判断される。
よって、本件特許発明2~5は、甲3発明並びに甲3及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 本件特許発明6について
本件特許発明6と甲3製法発明を対比すると、少なくとも上記アで指摘した相違点3-3と同様の点で相違するものである。
そして、上記第アの判断と同様に、甲3製法発明並びに甲3及び他の証拠をみても、甲3製法発明において、相違点3-3に係る本件特許発明6の構成を備えたものとすることは、当業者といえども容易になし得たとはいえない。
そして、本件特許発明6における効果も、甲3及び他の証拠の記載から当業者が予測できるものとはいえない。
したがって、相違点3-3以外の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明6は、甲3製法発明並びに甲3及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
エ 本件特許発明7、8について
本件特許発明7、8は、請求項6を直接又は間接的に引用して特定するものであって、本件特許発明6の発明特定事項を全て備えるものであるから、本件特許発明6と同様に判断される。
よって、本件特許発明7、8は、甲3製法発明並びに甲3及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
オ 本件特許発明9について
本件特許発明9と甲3方法発明を対比すると、少なくとも上記第アで指摘した相違点3-3と同様の点で相違するものである。
そして、上記第アの判断と同様に、甲3方法発明並びに甲3及び他の証拠をみても、甲3方法発明において、相違点3-3に係る本件特許発明9の構成を備えたものとすることは、当業者といえども容易になし得たとはいえない。
そして、本件特許発明9における効果も、甲3及び他の証拠の記載から当業者が予測できるものとはいえない。
したがって、相違点3-3以外の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明9は、甲3方法発明並びに甲3及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)申立理由3のまとめ
上記のとおり、本件特許発明1~9は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、申立理由3の理由では、本件特許の請求項1~9に係る特許を取り消すことはできない。
4 申立理由4(甲4に基づく進歩性)について
(1)甲4の記載事項等
ア 甲4の記載事項
甲4には、チョコレート用油脂組成物に関し、おおむね次の事項が記載されている。
・「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、ひび割れ及びべたつきの少ない被覆用に適したチョコレート及び該チョコレートを得るためのチョコレート用油脂組成物を提供することである。」
・「本発明におけるチョコレートは、「チョコレート類の表示に関する公正競争規約」(全国チョコレート業公正取引協議会)乃至法規上で規定されたチョコレートに限定されない。本発明においてチョコレートとは、食用油脂、糖類を主原料とし、必要によりカカオ成分(カカオマス、ココアパウダー等)、乳製品、香料、乳化剤等を加え、チョコレート製造の工程(混合工程、微粒化工程、精練工程、成形工程、冷却工程等の全部乃至一部)を経て製造され、油脂が連続相をなし、実質的に水を含有しない食品(好ましくは水分含量が3質量%以下である。)である。また、本発明におけるチョコレートは、ダークチョコレート、ミルクチョコレートの他に、ホワイトチョコレート、カラーチョコレートも含む。」
・「【実施例】
【0056】
次に実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
〔分析方法〕
トリグリセリド組成の分析は、ガスクロマトグラフ法(JAOCS,vol70,11,1111-1114(1993)準拠)及び銀イオンカラム-HPLC法(J.High Resol.Chromatogr.,18,105-107(1995)準拠)を用いて行った。また、油脂の構成脂肪酸の分析は、ガスクロマトグラフ法(AOCS Ce1f-96準拠)を用いて行った。
【0057】
〔ラウリン系油脂1〕
融点34℃のヤシ油の硬化油(La含有量:45.6質量%)をラウリン系油脂1とした。
〔液状油1〕
大豆油(20℃で液状である。)を液状油1とした。
〔植物油の極度硬化油1〕
高エルシン酸菜種油の極度硬化油(La含有量:0質量%、C20~22SFA含有量:57.3質量%)を植物油の極度硬化油1とした。
〔植物油の極度硬化油2〕
大豆油の極度硬化油(La含有量:0質量%、C20~22SFA含有量:1.0質量%)を植物油の極度硬化油2とした。
【0058】
〔油脂A1〕
パーム系油脂を72.4質量%含む原料油脂を常法でランダムエステル交換した後、得られたランダムエステル交換油を常法の分別方法で高融点部及び低融点部を除去することにより油脂A1(XXO含有量:44.0質量%、X3含有量:13.2質量%、X2U含有量:76.2質量%、X2O含有量:67.7質量%、XU2+U3含有量:7.2質量%、XXO/X2O質量比:0.650、C16~24FA含有量:98.9質量%、SFA含有量:68.6質量%、C16~18SFA含有量:66.9質量%、UFA含有量:31.2質量%、P/St質量比:2.17)を得た。
【0059】
〔乳化剤A1〕
HLB1のショ糖ステアリン酸エステルを乳化剤A1とした。
〔乳化剤A2〕
HLB4.2のソルビタンパルミチン酸・ステアリン酸エステルを乳化剤A2とした。〔乳化剤B1〕
HLB15のショ糖ステアリン酸エステルを乳化剤B1とした。
〔乳化剤a1〕
HLB7のショ糖ステアリン酸エステルを乳化剤a1とした。
【0060】
〔油脂組成物の製造〕
表1~5に示す配合で融解させた油脂を混合することで、油脂組成物を製造した。
得られた油脂組成物の脂肪酸含有量、トリグリセリド含有量を前述の分析方法に従って測定した。測定結果を表1~5に示した。なお、配合の単位は質量部であり、含有量の単位は質量%である(質量比の単位はなし)。
【0061】
〔チョコレートの製造〕
得られた油脂組成物を使用し、表6に示された配合のチョコレートを、通常のチョコレートの製造方法(混合、微粒化、精練、冷却)を用いることにより製造した(チョコレート中の油脂含有量は39.7質量%だった。チョコレート中の水分含有量は3質量%以下だった。チョコレートに含まれる油脂中の実施例の油脂組成物又は比較例の油脂組成物の含有量は93.2質量%だった。)。なお、配合の単位は質量部である。
【0062】
〔食品の製造及び評価〕
チョコレートを完全溶解後50℃に調温し、ドーナツに被覆した後、室温にて固化させた。完全に固化させた後、手で触った際のべたつきの程度及び、ナイフで切断し生じたひび割れの程度について評価を行った。
評価は、0~4点の5段階で評価した。評価の点数は、点数が高いほど、ひび割れ、べたつきが少ないとした。評価結果が2~4点である場合、チョコレートはひび割れ、べたつきが少なく良好であるとした。評価結果は表1~5に示した。」
・「【0066】
【表4】
[図:0001421385000001.jpg]
【0067】
【表5】
[図:0001421385000002.jpg]
【0068】
【表6】
[図:0001421385000003.jpg]
【0069】
表2~5から分かるように、実施例のチョコレートが被覆されたドーナツは、チョコレートのひび割れ及びべたつきが少なかった。
一方、表1~3、5から分かるように、比較例のチョコレートが被覆されたドーナツは、チョコレートのひび割れ又はべたつきが多かった。」
イ 甲4に記載された発明
上記アの記載のうち、実施例5~7、9及び比較例10、11を中心にまとめると、甲4には次の発明(以下、「甲4発明」、「甲4製法発明」、「甲4方法発明」という。)が記載されていると認める。
<甲4発明>
「HLB15のショ糖ステアリン酸エステルからなる乳化剤B1、又は、HLB7のショ糖ステアリン酸エステルからなる乳化剤a1を表4の実施例5~7並びに表5の実施例9及び比較例10、11の配合で含む油脂組成物を37質量部、全脂粉乳1.8質量部、脱脂粉乳1.8質量部、ココアバター2.2重量部含まれ、油脂含有量が39.7質量%である、被覆用チョコレート。」(当審注:表4及び表5については、上記アを参照。以下、同様。)
<甲4製法発明>
「甲4発明の製造方法。」
<甲4方法発明>
「HLB15のショ糖ステアリン酸エステルからなる乳化剤B1、又は、HLB7のショ糖ステアリン酸エステルからなる乳化剤a1を表4の実施例5~7並びに表5の実施例9及び比較例10、11の配合で含む油脂組成物を37質量部、全脂粉乳1.8質量部、脱脂粉乳1.8質量部、ココアバター2.2重量部含まれ、油脂含有量が39.7質量%である被覆用チョコレートでドーナツを被覆する、ドーナツのひび割れ及びべたつきが少ないようにする方法。」
(2)検討
ア 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲4発明とを対比する。
甲4発明の「被覆用チョコレート」は本件特許発明1の「油性食品」及び「被覆用油性食品。」に相当する。
また、甲4発明は「油脂含有量が39.7質量%であ」るから、本件特許発明1における「1)油分が35~70質量%」に相当する。
さらに、甲4発明は「HLB15のショ糖ステアリン酸エステルからなる乳化剤B1、又は、HLB7のショ糖ステアリン酸エステルからなる乳化剤a1」を含むものであるから、本件特許発明1における「2)主要構成脂肪酸が炭素数16~24の飽和脂肪酸である、HLB3~17のショ糖脂肪酸エステルを含み」、「ただし、ショ糖脂肪酸エステルの主要構成脂肪酸とは、構成脂肪酸中に60質量%以上含まれる脂肪酸のことを示す。」に相当する。
そして、甲4発明には、無脂カカオ固形分は含有されていないから、本件特許発明1における「5)無脂カカオ固形分3質量%以下」に相当する。
そうすると、本件特許発明1と甲4発明との一致点は以下のとおりである。
<一致点>
「 油性食品であって、以下をすべて満たす被覆用油性食品。
1)油分が35~70質量%、
2)主要構成脂肪酸が炭素数16~24の飽和脂肪酸である、HLB3~17のショ糖脂肪酸エステルを含み、
4)油性食品中のカカオバター含有量が5質量%以下
5)無脂カカオ固形分3質量%以下である
ただし、ショ糖脂肪酸エステルの主要構成脂肪酸とは、構成脂肪酸中に60質量%以上含まれる脂肪酸のことを示す。」
また、両者は以下の点で相違する。
<相違点1-4>
本件特許発明1には、「3)50℃で融解された状態の降伏値が0.1~10Pa」であることが特定されているのに対して、甲4発明には、そのような特定がない点。
<相違点2-4>
本件特許発明1には、「乳製品の含量が5~20質量%である」であることが特定されているのに対して、甲4発明には、そのような特定がない点。
相違点1-4について検討する。
甲4には、50℃で融解された状態のチョコレートの降伏値に着目する動機となる記載は見出せない。
また、甲4及び他の全ての証拠の記載を見ても、甲4発明において、50℃で融解された状態の降伏値が0.1~10Paとする動機付けがあるとはいえない。
さらに、甲4の【0044】に「好ましくは水分含量が3質量%以下である」と記載されていることからみても、本件発明の「水分が混入した場合にも流動性を維持することができることによって、連続生産においても被覆後のツヤが良好である」という効果は、甲4及び他の証拠から当業者が予測し得ないものである。
よって、甲4発明において、相違点1-4に係る本件特許発明1の発明特定事項を満たすものとすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲4発明並びに甲4及び他の証拠に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
なお、特許異議申立人は特許異議申立書において、上記相違点1-4について、甲4発明は本件特許発明と同様に被覆用チョコレートを良好に塗布する態様及び意義が共通する以上、本件特許発明と同様の物性を潜在的に有するといえると主張をしている。しかしながら、甲4には、50℃で融解された状態のチョコレートの降伏値に着目する動機となる記載もなく、課題も異なるものであるから、甲4発明においても「50℃で融解された状態の降伏値が0.1~10Pa」であるとは認められない。
したがって、上記主張は採用できない。
イ 本件特許発明2~5について
本件特許発明2~5は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであって、本件特許発明1の発明特定事項を全て備えるものであるから、本件特許発明1と同様に判断される。
よって、本件特許発明2~5は、甲4発明並びに甲4及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 本件特許発明6について
本件特許発明6と甲4製法発明を対比すると、少なくとも上記第アで指摘した相違点1-4と同様の点で相違するものである。
そして、上記アの判断と同様に、甲4製法発明並びに甲4及び他の証拠をみても、甲4製法発明において、相違点1-4に係る本件特許発明6の構成を備えたものとすることは、当業者といえども容易になし得たとはいえない。
そして、本件特許発明6における効果も、甲4及び他の証拠の記載から当業者が予測できるものとはいえない。
したがって、相違点1-4以外の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明6は、甲4製法発明並びに甲4及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
エ 本件特許発明7、8について
本件特許発明7、8は、請求項6を直接又は間接的に引用して特定するものであって、本件特許発明6の発明特定事項を全て備えるものであるから、本件特許発明6と同様に判断される。
よって、本件特許発明7、8は、甲4製法発明並びに甲4及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
オ 本件特許発明9について
本件特許発明9と甲4方法発明を対比すると、少なくとも上記アで指摘した相違点1-4と同様の点で相違するものである。
そして、上記アの判断と同様に、甲4方法発明並びに甲4及び他の証拠をみても、甲4方法発明において、相違点1-4に係る本件特許発明9の構成を備えたものとすることは、当業者といえども容易になし得たとはいえない。
そして、本件特許発明9における効果も、甲4及び他の証拠の記載から当業者が予測できるものとはいえない。
したがって、相違点1-4以外の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明9は、甲4方法発明並びに甲4及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)申立理由4のまとめ
上記のとおり、本件特許発明1~9は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、申立理由4の理由では、本件特許の請求項1~9に係る特許を取り消すことはできない。
5 申立理由5(甲5に基づく進歩性)について
(1)甲5の記載事項等
ア 甲5の記載事項
甲5には、チョコレートに関し、おおむね次の事項が記載されている。
・「【0003】
チョコレートが被覆された食品は、経時的に、チョコレートの表面に液状の粒が発生することがある。このチョコレートの表面に発生する液状の粒は、チョコレートが被覆された食品中の水分が、チョコレートの表面に移行することで発生するとされている。また、このチョコレートの表面に発生する液状の粒は、密封された包装袋において、チョコレートが被覆された食品から蒸発した水分が、チョコレートの表面の付着することでも発生するとされている。チョコレートの表面に液状の粒が発生する現象は、汗かきと呼ばれている。チョコレートが被覆された食品に、汗かきが発生すると、外見が悪くなるばかりか、持ちにくい、袋から出しにくいといった不具合を生じるので、商品価値が大きく損なわれる。従って、被覆用のチョコレートには、食品に被覆された後、汗かきし難いことが必要である。
【0004】
以上のような背景から、汗かきし難い被覆用のチョコレートの開発が求められていた。」
・「【実施例】
【0054】
次に実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
〔油脂の脂肪酸分析方法〕
油脂の脂肪酸含有量は、AOCS Ce1f-96に準じて、ガスクロマトグラフィー法で測定した。
〔油脂のトリグリセリド分析方法〕
油脂のトリグリセリド含有量は、AOCS Ce5-86に準じて、ガスクロマトグラフィー法で測定した。
〔油脂のヨウ素価測定方法〕
油脂のヨウ素価は、「基準油脂分析試験法(社団法人日本油化学会編)」の「2.3.4.1-1996 ヨウ素価(ウィイス-シクロヘキサン法)」に準じて測定した。
【0055】
〔ランダムエステル交換油脂A1の製造〕
パームステアリン(ヨウ素価32)15質量部とパーム中融点部(ヨウ素価45)35質量部とパーム核油の極度硬化油(ラウリン酸含有量48.4質量%)50質量部を混合した。得られた混合油を、ランダムエステル交換反応を行うことにより、ランダムエステル交換油脂A1(ヨウ素価23)を得た。
エステル交換反応は、常法に従い、原料油脂を十分に乾燥させ、ナトリウムメトキシドを原料油脂に対して0.2質量%添加した後、減圧下、120℃で0.5時間攪拌しながら反応を行った。反応は50質量%のクエン酸水溶液を添加して中和することで終了し、その後等量の熱湯で3回洗浄して脱水乾燥し、常法により脱色、脱臭してエステル交換油脂とした。
【0056】
〔パーム系油脂1〕
沃素価56のパームオレインのランダムエステル交換油脂をパーム系油脂1とした。
〔ラウリン系油脂1〕
パーム核ステアリンの極度硬化油(ラウリン酸含有量53.9質量%)をラウリン系油脂1とした。
〔極度硬化油1〕
ハイエルシン菜種油の極度硬化油(炭素数16以上の脂肪酸含有量99.9質量%)を極度硬化油1とした。
【0057】
〔チョコレートの製造1〕
表1~2に示された配合のチョコレートを、通常のチョコレートの製造方法(混合、微粒化、精練、冷却)により、テンパリングを行わずに製造した(チョコレートに含まれる水分は3質量%以下だった。)。チョコレート中のPGPR及び油脂含有量、チョコレート中の糖質の含有量に対する乳糖の含有量の質量比、チョコレートに含まれる油脂中の脂肪酸組成及びトリグリセリド組成を表3~4に示した。なお、配合及び含有量の単位は質量%である(質量比の単位はなし)。
得られたチョコレートを、下記汗かき評価1及び汗かき評価2で評価した。評価結果を表3~4に示した。
【0058】
〔汗かき評価1〕
下記1)~5)の手順に従い、チョコレートの汗かきを下記評価基準に従って評価した。評価結果が1点又は2点の場合、チョコレートは汗かきし難いと判断した。
1)チョコレートを55℃まで加熱し完全に融解させる。
2)チョコレート及びドーナツを40℃に調温する。
3)ドーナツにチョコレートをコーティングする。
4)20℃で送風して、チョコレートを固化させる。
5)チョコレートがコーティングされたドーナツをクリスタルパックに入れ、20℃で
1日間保存し、チョコレート表面を目視にて観察する。
【0059】
〔汗かき評価2〕
下記1)~4)の手順に従い、チョコレートの汗かきを下記評価基準に従って評価した。評価結果が1点又は2点の場合、チョコレートは汗かきし難いと判断した。
1)チョコレートを55℃まで加熱し完全に融解させる。
2)シャーレ(内径3.5cm)にチョコレートを約1.5g入れ、タッピングし表面
を均一する。
3)20℃で送風して、チョコレートを固化させる。
4)シャーレを飽和水蒸気密閉容器に入れ、20℃で1日間保存し、チョコレート表面
を目視にて観察する。
【0060】
〔汗かき評価の評価基準〕
1点:汗かきの発生なし
2点:うっすら汗かきが発生している
3点:細かい汗かきが発生している
4点:顕著に汗かきが発生している
5点:激しく汗かきが発生している
【0061】
【表1】
[図:0001421385000004.jpg]
」
・「【0063】
【表3】
[図:0001421385000005.jpg]
」
・「【0065】
表3、4から分かるように、実施例のチョコレートは、汗かきし難かった。
一方、表3から分かるように、比較例のチョコレートは、汗かきし易かった。」
イ 甲5に記載された発明
上記アの記載のうち、実施例1を中心にまとめると、甲5には次の発明(以下、「甲5発明」、「甲5製法発明」、「甲5方法発明」という。)が記載されていると認める。
<甲5発明>
「表1中の実施例1に示された配合のチョコレートであって、チョコレート中の油脂含有量36.2質量%、油脂中のココアバター含有量4.1質量%であるチョコレート。」(当審注:表1については、上記アを参照。以下、同様。)
<甲5製法発明>
「甲5発明の製造方法。」
<甲5方法発明>
「表1中の実施例1に示された配合のチョコレートであって、チョコレート中の油脂含有量36.2質量%、油脂中のココアバター含有量4.1質量%であるチョコレートをコーティングして、ドーナツを汗かきし難くする方法。」
(2)検討
ア 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲5発明とを対比する。
甲5発明の「チョコレート」はドーナツにコーティングするものであるから、本件特許発明1の「油性食品」及び「被覆用油性食品。」に相当する。
また、甲5発明は「油脂含有量36.2質量%、油脂中のココアバター含有量4.1質量%である」であるから、本件特許発明1における「1)油分が35~70質量%」及び「4)油性食品中のカカオバター含有量が5質量%以下」に相当する。
さらに、甲5発明は、表1より無脂カカオ固形分を含有していないことは明らかであるから、本件特許発明1における「5)無脂カカオ固形分3質量%以下」に相当する。
そうすると、本件特許発明1と甲5発明との一致点は以下のとおりである。
<一致点>
「 油性食品であって、以下をすべて満たす被覆用油性食品。
1)油分が35~70質量%、
4)油性食品中のカカオバター含有量が5質量%以下
5)無脂カカオ固形分3質量%以下である」
また、両者は以下の点で相違する。
<相違点1-5>
本件特許発明1には、「2)主要構成脂肪酸が炭素数16~24の飽和脂肪酸である、HLB3~17のショ糖脂肪酸エステルを含み」、かつ、「ただし、ショ糖脂肪酸エステルの主要構成脂肪酸とは、構成脂肪酸中に60質量%以上含まれる脂肪酸のことを示す。」ことが特定されているのに対して、甲5発明には、そのような特定がない点。
<相違点2-5>
本件特許発明1には、「3)50℃で融解された状態の降伏値が0.1~10Pa」であることが特定されているのに対して、甲5発明には、そのような特定がない点。
<相違点3-5>
本件特許発明1には、「乳製品の含量が5~20質量%である」であることが特定されているのに対して、甲5発明には、そのような特定がない点。
事案に鑑みて、相違点2-5について検討する。
甲5には、50℃で融解された状態のチョコレートの降伏値に着目する動機となる記載は見出せない。
また、甲5及び他の全ての証拠の記載を見ても、甲5発明において、50℃で融解された状態の降伏値が0.1~10Paとする動機付けがあるとはいえない。
さらに、本件発明の「水分が混入した場合にも流動性を維持することができることによって、連続生産においても被覆後のツヤが良好である」という効果は、甲5及び他の証拠から当業者が予測し得ないものである。
よって、甲5発明において、相違点2-5に係る本件特許発明1の発明特定事項を満たすものとすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲5発明並びに甲5及び他の証拠に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
なお、特許異議申立人は特許異議申立書において、上記相違点2-5について、甲5発明は本件特許発明と同様に被覆用チョコレートを良好に塗布する態様及び意義が共通する以上、本件特許発明と同様の物性を潜在的に有するといえると主張をしている。しかしながら、甲5には、50℃で融解された状態のチョコレートの降伏値に着目する動機となる記載もなく、課題も異なるものであるから、甲5発明においても「50℃で融解された状態の降伏値が0.1~10Pa」であるとは認められない。
したがって、上記主張は採用できない。
イ 本件特許発明2~5について
本件特許発明2~5は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであって、本件特許発明1の発明特定事項を全て備えるものであるから、本件特許発明1と同様に判断される。
よって、本件特許発明2~5は、甲5発明並びに甲5及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 本件特許発明6について
本件特許発明6と甲5製法発明を対比すると、少なくとも上記アで指摘した相違点2-5と同様の点で相違するものである。
そして、上記アの判断と同様に、甲5製法発明並びに甲5及び他の証拠をみても、甲4製法発明において、相違点2-5に係る本件特許発明6の構成を備えたものとすることは、当業者といえども容易になし得たとはいえない。
そして、本件特許発明6における効果も、甲5及び他の証拠の記載から当業者が予測できるものとはいえない。
したがって、相違点2-5以外の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明6は、甲5製法発明並びに甲5及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
エ 本件特許発明7、8について
本件特許発明7、8は、請求項6を直接又は間接的に引用して特定するものであって、本件特許発明6の発明特定事項を全て備えるものであるから、本件特許発明6と同様に判断される。
よって、本件特許発明7、8は、甲5製法発明並びに甲5及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
オ 本件特許発明9について
本件特許発明9と甲5方法発明を対比すると、少なくとも上記アで指摘した相違点2-5と同様の点で相違するものである。
そして、上記アの判断と同様に、甲5方法発明並びに甲5及び他の証拠をみても、甲5方法発明において、相違点2-5に係る本件特許発明9の構成を備えたものとすることは、当業者といえども容易になし得たとはいえない。
そして、本件特許発明9における効果も、甲5及び他の証拠の記載から当業者が予測できるものとはいえない。
したがって、相違点2-5以外の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明9は、甲5方法発明並びに甲5及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)申立理由5のまとめ
上記のとおり、本件特許発明1~9は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、申立理由5の理由では、本件特許の請求項1~9に係る特許を取り消すことはできない。
6 申立理由6(サポート要件)について
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
(2)特許請求の範囲の記載
上記第2のとおりである。
(3)サポート要件についての判断
本件特許発明の課題(以下、「本件発明の課題」という。)は、「被覆用油性食品において、水分が混入した場合にも流動性を維持することで、被覆量を制御することができ、被覆後のツヤが良好である外観を得ること」(【0006】)であり、本件明細書の発明の詳細な説明には、「油分が35~70質量%である油性食品であって、特定の主要構成脂肪酸及びHLBのショ糖脂肪酸エステルを含み、流動性の指標である降伏値を50℃において0.1~10Paに調整した油性食品で本発明の課題を解決することができる」(【0007】)ことが記載されている。
また、【0011】には油性食品について、【0012】~【0013】には被覆用油性食品中に含まれる油分を、被覆用油性食品全体に対して35~70質量%とすることで油性食品を含水食品に被覆する作業を簡便にすることができることが記載され、【0015】にはショ糖脂肪酸エステルを適切な量含有させることで、被覆用油性食品に水分が混入した場合にも流動性を維持することができ、また、流動性が維持できた被覆用油性食品を含水食品に被覆した場合の良好なツヤを維持することができることが記載され、【0016】には本発明で含有するショ糖脂肪酸エステルのHLBを3~17とすることで、被覆用油性食品に水分が混入した場合にも流動性を維持することができ、また、流動性が維持できた被覆用油性食品を含水食品に被覆した場合の良好なツヤを維持することができることが記載されており、【0017】には本発明で含有するショ糖脂肪酸エステルの主要構成脂肪酸が炭素数16~24の飽和脂肪酸であり、本発明において主要構成脂肪酸とは、構成脂肪酸中に60質量%以上含まれる脂肪酸のことをいうことが記載されており、【0019】には含水食品について、【0020】には流動性の測定方法が記載されており、【0021】には50℃で融解された状態の降伏値を0.1~10Paとすることで被覆用途に用いることができることが記載されており、【0024】には無脂カカオ固形分が少ない場合に特にツヤを維持する効果が発揮され、好ましい無脂カカオ固形分の含有量は3質量%以下であることが記載されており、【0025】には乳製品の好ましい含有量が5~20質量%であることが記載されており、【0027】にはカカオバターが油性食品中に5質量%以下である場合に、テンパリングせずにより良好なツヤと良好な口溶けを得ることができることが記載され、【0028】にはツヤの評価方法が記載されており、【0029】には製造法が記載されている。
また、【0031】~【0055】の実施例では、油分の含有量が43.3~60.7%、乳製品の含有量が0.9~14.9%、カカオバター含有量が4.7%以下、無脂カカオ固形分が9.8%以下であり、主要構成脂肪酸が炭素数16の飽和脂肪酸である、HLB5~16のショ糖脂肪酸エステルa、c、eを含有させ、50℃で融解させた状態の降伏値を0.5~8.7とした被覆用油性食品により、上記課題が解決できることの確認がされている。
そうすると、これらの記載に接した当業者であれば、油分が35~70質量%、主要構成脂肪酸が炭素数16~24の飽和脂肪酸である、HLB3~17のショ糖脂肪酸エステルを含み、50℃で融解された状態の降伏値が0.1~10Paである被覆用油性食品とすれば、本件発明の課題が解決できると認識できる。
また、本件特許発明1~5は、いずれも、上記の発明の課題を解決できると認識できる特定事項の全てを有し、さらに限定するものであるから、発明の課題を解決できると認識できる。
さらに、請求項1と同様の特定を有する本件特許発明6及び9、並びに請求項6の記載を引用して特定される本件特許発明7及び8も、本件特許発明1と同様の理由により、発明の詳細な説明に記載された発明であり、発明の詳細な説明の記載により、当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
よって、本件特許発明1~9はいずれも、特許法第36条第6項第1号に規定する要件に適合する。
(4)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、上記第3 6(1)~(4)のとおり、本件特許発明には油性食品に含まれる成分の含有量や物性を特定の数値範囲とすることが特定されているものの、本件明細書の実施例に記載されている以外の数値範囲全てにわたって所定の効果を得ることが出来る根拠が不明であり、実施例に示された具体的な数値以外の数値範囲については、本件特許発明による効果を確認できないから、本件特許発明1~9は、本件発明の課題を解決できると認識できるものではない旨を主張する。
しかしながら、上記(3)のとおり、本件特許の明細書全体の記載を参酌すれば、成分の含有量や物性が実施例を含む一定の数値範囲内にあり、発明の詳細な説明において好ましいとされている本件特許発明の数値範囲を満たす被覆用油性食品であれば、実施例以外の数値範囲を有する被覆用油性食品であっても、実施例と同様に発明の課題を解決できると認識できるものであるといえる。また、特許異議申立人は本件特許発明の範囲内で課題が解決できないとする具体的な証拠を示すものでもないから、上記の特許異議申立人の主張はいずれも採用できない。
(5)申立理由6のまとめ
上記(3)及び(4)のとおりであるから、本件特許発明1~9は、いずれも特許法第36条第6項第1号の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、申立理由6の理由では、本件特許の請求項1~9に係る特許を取り消すことはできない。
7 申立理由7(実施可能要件)について
(1)実施可能要件の判断手法
本件特許発明1~5は物の発明であるところ、物の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産し、使用することができる程度の記載があることを要する。
本件特許発明6~8は物を生産する方法の発明であるところ、物を生産する方法の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産する方法を使用し、その物を生産する方法により生産した物の使用をすることができる程度の記載があることを要する。
本件特許発明9は方法の発明であるところ、方法の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その方法を使用することができる程度の記載があることを要する。
(2)本件明細書の記載事項
本件明細書には、上記6(3)に記載した事項が記載されている。
(3)実施可能要件についての判断
本件明細書には、上記6(3)に記載したとおり、【0011】~【0017】には被覆用油性食品の含有成分及び含有量が具体的に記載されており、【0020】には流動性を評価するための指標である降伏値の測定法及び計算法が、【0028】にはツヤの評価法が、【0029】には被覆用油性食品の製造法などが記載されており、発明の詳細な説明の【0031】~【0055】には、上記段落で説明されている成分及び製法を用いて具体的な実施例及び比較例の被覆用油性食品を製造することできることが記載されている。
また、上記6(3)に記載したとおり、実施例及び比較例の実験データ等を参照すると、「油性食品であって、以下1)~5)をすべて満たす被覆用油性食品。 1)油分が35~70質量%、 2)主要構成脂肪酸が炭素数16~24の飽和脂肪酸である、HLB3~17のショ糖 脂肪酸エステルを含み、 3)50℃で融解された状態の降伏値が0.1~10Pa 4)油性食品中のカカオバター含有量が5質量%以下 5)無脂カカオ固形分3質量%以下かつ乳製品の含量が5~20質量%である ただし、ショ糖脂肪酸エステルの主要構成脂肪酸とは、構成脂肪酸中に60質量%以上含まれる脂肪酸のことを示す。」は、水分が混入した場合にも流動性を維持することができ、連続生産においても被覆後のツヤが良好である品質を維持することができることによって、被覆量が制御され、ツヤが良好な外観を有する複合食品を製造するための被覆用油性食品として使用することができることが記載されている。
よって、本件明細書の発明の詳細な説明は、「油性食品であって、以下1)~5)をすべて満たす被覆用油性食品。 1)油分が35~70質量%、 2)主要構成脂肪酸が炭素数16~24の飽和脂肪酸である、HLB3~17のショ糖 脂肪酸エステルを含み、 3)50℃で融解された状態の降伏値が0.1~10Pa 4)油性食品中のカカオバター含有量が5質量%以下 5)無脂カカオ固形分3質量%以下かつ乳製品の含量が5~20質量%である ただし、ショ糖脂肪酸エステルの主要構成脂肪酸とは、構成脂肪酸中に60質量%以上含まれる脂肪酸のことを示す。」を生産し、使用することができることが示されている。請求項1を直接又は間接的に引用して特定させる本件特許発明2~5、請求項1と同様の特定を有する本件特許発明6及び9、並びに請求項6の記載を引用して特定される本件特許発明7及び8も同様である。
したがって、本件発明の詳細な説明には、当業者が過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明1~5を生産及び使用し、本件特許発明6~8により生産した物の使用をし、また、本件特許発明9の方法を使用することができる程度の記載があるといえ、本件特許発明1~9に関して、発明の詳細な説明の記載は実施可能要件を充足する。
(4)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、上記第3 7のように主張しているが、上記(3)並びに6(3)及び(4)において記載したことを踏まえると、本件明細書の記載に接した当業者は降伏値が0.1~10Paの被覆用油性食品を調製することができるといえ、また、特許異議申立人は、本件特許発明1~9に実施できない範囲があることを具体的な証拠や理論的な根拠に基づいて証明していない。
よって、特許異議申立人の主張は採用することができない。
(5)申立理由7のまとめ
上記(3)及び(4)のとおりであるから、本件特許発明1~9は、いずれも特許法第36条第4項第1号の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、申立理由7の理由では、本件特許の請求項1~9に係る特許を取り消すことはできない。
第5 結語
以上のとおり、本件特許発明1~9に係る特許は、上記のいずれの特許異議申立理由によっても取り消すことはできない。
また、他に、これらの特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-701065