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特許異議申立

2023-701404

ハードバター

審判番号
2023-701404
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2021-074747
登録番号
7303242
請求日
2023年12月28日
審決日
2024年12月13日
公報発行日
2025年04月25日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】株式会社ADEKA
  • 【権利者代理人】弁理士法人翔和国際特許事務所
  • 【異議申立人】石井 悠太
審判長/審判官
  • 審判長 植前 充司
  • 審判官 加藤 友也
  • 審判官 松本 陶子
分類
P1651.113-YAA(A23D) / P1651.121-YAA(A23D) / P1651.536-YAA(A23D) / P1651.537-YAA(A23D)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法36条6項2号特許法113条4号
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第9項、特許法第29条第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第4項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7303242号発明「ハードバター」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7303242号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし3〕について訂正することを認める。 特許第7303242号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7303242号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし3に係る特許についての出願は、平成28年10月4日を出願日とする特願2016-196780号の一部を令和3年4月27日に新たな特許出願としたものであって、令和5年6月26日にその特許権の設定登録(請求項の数3)がされ、同年7月4日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、同年12月28日に特許異議申立人 石井 悠太(以下、「特許異議申立人」という。)から特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし3)がされ、令和6年3月7日付けで取消理由が通知され、同年4月25日に特許権者 株式会社ADEKA(以下、「特許権者」という。)から訂正請求がされるとともに意見書が提出され、同年5月16日付けで訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)が通知され、同年6月19日に特許異議申立人から意見書が提出され、同年8月1日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、同年9月24日に特許権者から訂正請求がされるとともに意見書が提出されたものである。 なお、令和6年4月25日にされた訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。 また、既に特許異議申立人に意見書の提出の機会が与えられており、下記第2 1のとおり、令和6年9月24日にされた訂正請求によって特許請求の範囲が相当程度減縮され、下記第6及び7のとおり、提出された全ての証拠や意見等を踏まえて更に審理を進めたとしても特許を維持すべきとの結論となると合議体は判断し、特許法第120条の5第5項ただし書に規定された特別の事情があるときといえるから、特許異議申立人に再度の意見書の提出の機会を与えていない。 第2 本件訂正について 1 訂正の内容 令和6年9月24日にされた訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、次のとおりである。下線は訂正箇所を示すものである。 訂正事項 特許請求の範囲の請求項1に「SUS型トリグリセリドを50~90質量%」とあるのを、「SUS型トリグリセリドを50~80質量%」に訂正する。併せて請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2及び3も同様に訂正する。 2 訂正の目的、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内か否か及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)請求項1についての訂正について 訂正事項による請求項1についての訂正は、「SUS型トリグリセリド」の含有量の数値範囲を狭くするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、訂正事項による請求項1についての訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (2)請求項2及び3についての訂正について 訂正事項による請求項2及び3についての訂正は、請求項1についての訂正と同様に特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、訂正事項による請求項2及び3についての訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 3 むすび 以上のとおり、訂正事項による請求項1ないし3についての訂正は、いずれも、特許法120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものである。 そして、訂正事項による請求項1ないし3についての訂正は、いずれも、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合する。 なお、訂正前の請求項1ないし3は一群の請求項に該当するものであり、訂正事項による請求項1ないし3についての訂正は、それらについてされたものであるから、一群の請求項ごとにされたものであり、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。 そして、特許異議の申立ては、訂正前の請求項1ないし3に対してされているので、訂正を認める要件として、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。 したがって、本件訂正は適法なものであり、結論のとおり、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし3〕について訂正することを認める。 第3 本件特許発明 上記第2のとおりであるから、本件特許の請求項1ないし3に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいい、総称して「本件特許発明」という。)は、それぞれ、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 SUS型トリグリセリドを50~80質量%、SSS型トリグリセリドを1~5質量%含有し、SSS型トリグリセリドに占めるStStSt型トリグリセリドの割合が5~65質量%であり、SSS型トリグリセリドに占めるP2St型トリグリセリドとPSt2型トリグリセリドの合計が25~65質量%であり、StOSt型トリグリセリドをSUS型トリグリセリドを基準として30~50質量%含有し、P2St型トリグリセリドとPSt2型トリグリセリドの合計量に占めるP2St型トリグリセリドの割合が35~90質量%である、カカオ脂を非含有であるハードバター。 (Sは炭素数16~22の飽和脂肪酸残基を示し、Uは炭素数16~22の一価不飽和脂肪酸残基を示し、Stはステアリン酸残基を示し、SUS型トリグリセリドは1、3位にS、2位にUが結合しているトリグリセリドを示し、SSS型トリグリセリドはSが3分子結合しているトリグリセリドを示し、StStSt型トリグリセリドはステアリン酸残基が3分子結合しているトリグリセリドを示す。Pはパルミチン酸残基を示し、P2St型トリグリセリドはパルミチン酸残基2分子とステアリン酸残基1分子が結合しているトリグリセリドを示し、PSt2型トリグリセリドはパルミチン酸残基1分子とステアリン酸残基2分子が結合しているトリグリセリドを示す。StOSt型トリグリセリドは、上記SUS型トリグリセリドとして、Sがステアリン酸残基(St)、Uがオレイン酸残基(O)であるトリグリセリドを示す。) 【請求項2】 請求項1記載のハードバターを含有する、チョコレート。 【請求項3】 複合菓子用である、請求項2に記載のチョコレート。」 第4 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要等 令和5年12月28日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要及び証拠方法は次のとおりである。 1 申立理由1(甲第1号証に基づく新規性・進歩性) 本件特許発明1ないし3は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲第1号証に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 2 申立理由2(甲第2号証に基づく新規性・進歩性) 本件特許発明1及び2は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、本件特許発明1ないし3は、甲第2号証に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 3 申立理由3(甲第3号証に基づく新規性・進歩性) 本件特許発明1及び2は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第3号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、本件特許発明1ないし3は、甲第3号証に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 4 申立理由4(甲第7号証に基づく進歩性) 本件特許発明1ないし3は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第7号証に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 5 申立理由5(実施可能要件) 本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、下記の点で特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 (1)Sがパルミチン酸残基やベヘン酸残基である場合は実施可能要件を満たさないこと 一般的なハードバター中のPOP含有量が30~35%であるところ、ハードバター中のPOP含有量が40~45%と一般的なハードバター中の含有量よりも高いと、当該ハードバターを含むチョコレートは、常温で結晶が堅固でないため、ブルームを発生しやすくなることは、技術常識である(要すれば、甲第11号証の段落0010、0013参照)。また、ハードバター中のBOB含有割合が高いと、当該ハードバターを含むチョコレートが軟らかくなりすぎてしまうことも、技術常識である(要すれば、甲第12号証の2頁右下9行~3頁左上9行、表-1、表-2のハードバターAとハードバターBのC22(ベヘン酸)含有量と各温度での硬さ測定値の結果、及び、甲第13号証(段落0043、段落0095表5、段落0097表6、段落0100表7のBOB型トリグリセリドを含む組成番号IXと他のSUS型トリグリセリドを含む他の組成とのR-値(グリセリド含量およびグリセリド組成のSTFA含量に関する硬度)の結果を参照)。ましてこれらのPOPやBOBがハードバター全体に対して63質量%もの量で含まれた場合、本件特許発明の目的である「ブルームが抑制され、良好な噛み出しを有するチョコレートを得る」ことができなくなることは容易に想像できる。従って、Sがパルミチン酸残基やベヘン酸残基である場合は、本件特許発明は実施可能要件を満たさない蓋然性が高い。 (2)SUS型トリグリセリド及びSSS型トリグリセリド以外のその他のトリグリセリドの種類によっては実施可能要件を満たさなくなること 本件特許発明のハードバターは、1分子に二重結合を2つ以上持つトリグリセリド(いわゆる液状油脂)のような成分を含むことができるが、SUS型トリグリセリド及びSSS型トリグリセリド以外のトリグリセリドとして、前記液状油脂の含有量が少なすぎる場合や前記液状油脂の含有量が多すぎる場合は、本件特許発明の効果を奏しない可能性が非常に高くなる。例えば、甲第14号証に示されている比較例2は、本件特許発明1の構成要件[a]のSUSトリグリセリド含有量と本件特許発明1の構成要件[e]のStOSt型トリグリセリドのSUS型トリグリセリドを基準とした含有量が本件特許発明1の範囲を満たすものの、液体油脂(1分子に二重結合を2つ以上持つトリグリセリド)が13.8質量%と少なすぎるため、当該比較例2を使用する比較例5のチョコレート製品はブルームが発生した(表8の「ブルーム」が2:ブルームの発生がみられる)ことが確認されている。また、甲第14号証の比較例3は、本件特許発明1の構成要件[a]のSUSトリグリセリド含有量が本件特許発明1の範囲を満たすものの、液体油脂(1分子に二重結合を2つ以上持つトリグリセリド)が38.3質量%と多すぎるため、当該比較例3を使用する比較例6のチョコレート製品は、チョコレートが軟らかくなり、べたべたして形状が崩れやすいとの評価を受けている(表8の「チョコ食味」が2:チョコレートが軟らかくなり、べたべたして形状が崩れやすい)。つまり、甲第14号証の比較例2、3、5、及び6からみても、SUS型トリグリセリド及びSSS型トリグリセリド以外のトリグリセリドとして、前記液状油脂の含有量が13.8質量%と少なすぎる場合や前記液状油脂の含有量が38.3質量%と多すぎる場合は、本件特許発明は実施できなくなることが明らかである。従って、SUS及びSSS以外のその他のトリグリセリンの種類によっては、本件特許発明は実施可能要件を満たさなくなる蓋然性が高い。 (3)本件特許発明はPOP型トリグリセリドの含有量を規定する必要があること 甲第7号証によれば、SUS成分の中でPOP成分も構成成分として必要であるが多量に存在することは好ましくない、とされている(第6頁右上7行~左下1行)。 本件特許発明の目的である、ブルームの発生を抑制するためには、POP型トリグリセリドの含有量を特定すべきであり、甲第7号証に基づけばその量は、全SUS組成中20モル%以下であるべきである(6頁右上19行~左下1行)。従って、本件特許発明で、POP型トリグリセリドの含有量が多量に存在する場合、本件特許発明は実施可能要件を満たさなくなる蓋然性が高い。 (4)本件特許発明はPOSt型トリグリセリドの含有量を規定する必要があること 本特許の課題は、対称型トリグリセリドを主体とするチョコレートにおいて、POSt型トリグリセリドが少ない場合にブルームが抑制され、良好な噛み出しを有するチョコレートを得るというものである(段落[0007])。しかし、POSt型トリグリセリドが多い場合、上記のようなブルームの発生や噛み出しの悪さといった本件特許発明の課題はそもそも存在しないことは技術常識である。従って、本件特許発明の課題である「POSt型トリグリセリドが「少ない場合」というためには、本件特許発明1のハードバターは、本件特許明細書段落番号0033に開示されている「油分中のPOSt型トリグリセリドが20質量%以下のチョコレート用」に限定されるべきである。 6 申立理由6(サポート要件) 本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 (1)上記5(1)ないし(4)で説明した点は、サポート要件違反の理由にも援用される。本件特許発明は、上記5(1)ないし(4)で説明した理由と同じ理由により、明細書にサポートされているとは言えないため、特許法第36条第6項第1号の要件を満たしているとは言えない。 (2)請求項1に記載された数値範囲の全範囲において、本件特許発明の課題が解決できるか否か不明であること 本件特許発明の明細書を見ると、本件特許発明の条件を満たす実施例は、表1の実施例12~16の5種類である。 さらに、本件特許明細書に、具体例がなくとも、これらの数値範囲と得られる効果(性能)との関係の技術的な意味が、特許出願時において当業者に理解できる程度に記載された部分はない。 よって、これら実施例12~16でサポートされていない数値範囲において、本件特許発明の課題を解決できない蓋然性が高い。 7 申立理由7(明確性要件) 本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 ・本発明における、SSS型トリグリセリド、StStSt型トリグリセリド、P2St型トリグリセリド、PSt2型トリグリセリド、SUS型トリグリセリド、StOSt型トリグリセリド、等のトリグリセリドの含有量は、基準油脂分析試験法(2、4、6、2・2013 トリアシルグリセリン組成(高速液体クロマトグラフ法))と銀イオン-高速液体クロマトグラフ法のどちらか、又は2つの方法を併用することにより測定される(本件特許明細書段落番号0017)。しかし、この基準油脂分析試験法(甲第15号証参照)の解析方法の5.3.2には「PN38~50のトリアシルグリセリンについて、1.0%以上のピーク面積を求める。」と記載されていることから、1.0%未満の量の分析に対して、基準油脂分析試験法を使用しないこととなっていた。また、基準油脂分析試験法につき、甲第16号証では「試験した植物油中のほとんどのTAG分子種は、10%未満の変動係数(CV)であるが、含有量が2%未満のものは10%を超えるCVを示した。」と記載され(453頁右欄2~4行)、1.0%未満の場合は分析精度が悪いことが示唆されている。実際に甲第16号証では、1.0%未満のピークは同定されていない。このように、甲第15号証及び甲第16号証の記載からみても、1.0%未満の量のトリグリセリドの分析において、基準油脂分析試験法が使用されないのが本件特許出願時の技術常識であった。従って、基準油脂分析試験法(2、4、6、2・2013トリアシルグリセリン組成(高速液体クロマトグラフ法))による分析では、1.0%未満の場合は分析精度が悪いことから、本件特許明細書において1.0%未満の数値として記載されているStStSt、P2St、PSt2は、本来計算されない値であるか、または誤差の大きい値であると言える。また、本来計算されない値であるか、または誤差の大きい値を用いて計算された、SSS型トリグリセリドに占めるStStSt型トリグリセリドの割合、SSS型トリグリセリドに占めるP2St型トリグリセリドとPSt2型トリグリセリドの合計及びP2St型トリグリセリドとPSt2型トリグリセリドの合計量に占めるP2St型トリグリセリドの割合は、誤差による影響が大きいため、信頼に足る数値ではなく、本件特許発明は不明確である。 8 証拠方法 甲第1号証:Ray,Joydeep.“Production and Characterisation of Cocoa Butter Equivalents from High Oleic Sunflower Oil by Enzymatic Rearrangement”、2013年、Loughborough University 甲第1-1号証:「Production and characterization of cocoa butter equivalents from high oleic sunflower oil by enzymatic rearrangement 」(Web ページのタイトル)、https://repository.lboro.ac.uk/articles/thesis/Production_and_characterisation_of_cocoa_butter_equivalents_from_high_oleic_sunflower_oil_by_enzymatic_rearrangement/9237824、令和5年12月27日(出力日) 甲第2号証:The use and applicability of cocoa butter equivalents (CBEs) in chocolate products、2011年、Universiteit Gent 甲第2-1号証:「The use and applicability of cocoa butter equivalents (CBEs) in chocolate products」(Web ページのタイトル)、https://lib.ugent.be/catalog/rug01:001789812、令和5年12月27日(出力日) 甲第3号証:国際公開第2009/031680号 甲第4号証:特開2001-197858号公報 甲第5号証:特開平11-169191号公報 甲第6号証:製菓用油脂ハンドブック、2010年2月14日、株式会社幸書房、表紙、第1ないし7、145、146、154ないし159、169ないし186、213、224ないし228、266ないし279、308、309ページ及び奥付きページ 甲第7号証:特開昭53-115863号公報 甲第8号証:英国特許出願公開第2168071号明細書 甲第9号証:特開2014-90695号公報 甲第10号証:特開2010-142153号公報 甲第11号証:特表2013-507117号公報 甲第12号証:特開昭62-134043号公報 甲第13号証:特表2009-525735号公報 甲第14号証:国際公開第2011/115063号 甲第15号証:基準油脂分析試験法、2.4.6.2-2013 トリアシルグリセリン組成(高速液体クロマトグラフ法)、2013年、公益社団法人 日本油化学会 甲第15-1号証:基準油脂分析法=Standard methods for the analysis of facts,oils and related materials:日本油化学会制定 2013年版(Web ページのタイトル)、https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I024679191-00、令和5年12月27日(出力日) 甲第16号証:Journal of Oleo Science, 60 (9)451-456 頁、2011年、Japan Oil Chemists’ Society 資料1:特許第7303242号公報 甲第17号証:特願2017-026815の拒絶理由通知書 甲第18号証:特願2017-049962の拒絶理由通知書 甲第19号証:特願2019-540034の拒絶理由通知書 甲第20号証:特願2021-501083の拒絶理由通知書 甲第21号証:特願2016-144775の拒絶理由通知書 甲第22号証:特願2019-164502の拒絶理由通知書 甲第23号証:特願2019-207526の拒絶理由通知書 なお、甲第17ないし23号証は、令和6年6月19日に特許異議申立人から提出された意見書に添付されたものである。 証拠の表記は、特許異議申立書に添付された証拠説明書及び上記意見書に添付された証拠説明書の記載におおむね従った。以下、順に「甲1」のようにいう。 第5 取消理由(決定の予告)の概要 令和6年8月1日付けで通知した取消理由(決定の予告)(以下、「取消理由(決定の予告)」という。)の概要は次のとおりである。なお、該取消理由(決定の予告)は申立理由1とおおむね同旨である。 取消理由(決定の予告)(甲1に基づく新規性・進歩性) 本件特許発明1ないし3は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲1に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 第6 取消理由(決定の予告)についての当審の判断 1 甲1に記載された事項等 (1)甲1に記載された事項 甲1は、「Production and Characterisation of Cocoa Butter Equivalents from High Oleic Sunflower Oil by Enzymatic Rearrangement」(訳:酵素転移によるハイオレイックひまわり油からのココアバター代用脂の製造及び特性」)というタイトルの論文であり、おおむね次の事項が記載されている。なお、甲1は外国語のため、訳文(甲1の抄訳として提出されたもの)のみを摘記する。他の外国語の証拠についても同様。また、他の証拠を含め、下線は当審で付したものである。 ・「脂肪相は全チョコレート組成物の30~40%(w/w)含まれ、非脂肪粒子の表面を被覆し、温度の上昇で流動して非ニュートン挙動を示す。これは、チョコレートの性質において主要な影響を有するが、これは、スナップ性、光沢、熱安定性、口当たり及びフレーバーリリースの要因であるためである。」(第9ページ下から第7行ないし末行) ・「ファットブルーム及び油脂移行も、脂肪又は脂肪の組み合わせによって影響される。」(第10ページ第1及び2行) ・「複合構造を有するチョコレート(ナッツベースのフィリング)は、CBの逆方向への移行によってブルームを生じ、中央部が硬くなる。」(第35ページ第27及び28行) ・「CB(ココアバター)は、一般的にココアバター代用油脂(CBAs)として知られる他の植物脂によって置き換えられる。CBAsは、それらの機能性およびCBとの類似性に従って異なるカテゴリーに分類される(リッピおよびアンクラム、1998)。CBの代用油脂は主に3つのタイプがあり、ココアバター置換脂(CBSs)又はラウリル代替品、ココアバター代替脂(CBRs)又は非ラウリル代替品、及びココアバター代用脂(CBEs)がある(スミス、2001年)。」(第42ページ第16ないし20行) ・「チョコレート中5%置換」(第42ページTable 2.7右下欄) ・「調製したCBEは、CBと、異なる比(0、5、15、25、50、75及び100%CBE)でブレンドした。」(第146ページ第22及び23行) ・「 [図:0001421345000001.jpg] 」(第104ページ) ・「 [図:0001421345000002.jpg] 」(第149ページ) (2)甲1に記載された発明 甲1に記載された事項を、特にTable 7.2に関して整理すると、甲1には次の発明(以下、順に「甲1発明1」及び「甲1発明2」という。)が記載されていると認める。 <甲1発明1> 「甲1のTable 7.2に記載されたCBE 1A、CBE 1B、CBE 1C、CBE 2A、CBE 2B又はCBE 2C。」(当審注:「甲1のTable 7.2」については、上記(1)参照。) <甲1発明2> 「甲1発明1を脂肪相として含む複合構造を有するチョコレート。」 2 本件特許発明1について (1)対比 甲1のTable 7.2に記載されたPOP、POSt、StOSt及びAOStは本件特許発明1における「SUS型トリグリセリド」に相当する。 甲1のTable 7.2に記載されたPPP、PPSt、PStSt、StStSt及びAStStは本件特許発明1における「SSS型トリグリセリド」に相当する。 甲1のTable 7.2に記載されたStStStは本件特許発明1における「StStSt型トリグリセリド」に相当する。 甲1のTable 7.2に記載されたPPStは本件特許発明1における「P2St型トリグリセリド」に相当する。 甲1のTable 7.2に記載されたPStStは本件特許発明1における「PSt2型トリグリセリド」に相当する。 そうすると、甲1のTable 7.2に記載されたCBE 1A、CBE 1B、CBE 1C、CBE 2A、CBE 2B及びCBE 2Cの各CBEに含まれる各種トリグリセリドの割合は、本件特許発明1における各種トリグリセリド毎に整理すると、以下の表B-3のとおり計算することができる。 [図:0001421345000003.jpg] なお、上記表B-3の左端の構成要件は本件特許発明1における「トリグリセリド」に関する発明特定事項のことであり、[a]は「SUS型トリグリセリド」の含有量、[b]は「SSS型トリグリセリド」の含有量、[c]は「SSS型トリグリセリドに占めるStStSt型トリグリセリドの割合」、[d]は「SSS型トリグリセリドに占めるP2St型トリグリセリドとPSt2型トリグリセリドの合計」、[e]は「StOSt型トリグリセリド」の「SUS型トリグリセリドを基準として」の「含有量」及び[f]は「P2St型トリグリセリドとPSt2型トリグリセリドの合計量に占めるP2St型トリグリセリドの割合」のことであり、その横の数値範囲は、それぞれ、本件特許発明1において特定された数値範囲である。ただし、[a]は本件訂正前の本件特許発明1のものである。 甲1によると、甲1のTable 7.2に記載されたCBE 1A、CBE 1B、CBE 1C、CBE 2A、CBE 2B及びCBE 2Cは、「ココアバター代用脂」のことであり、その製造方法からみて、「カカオ脂を非含有である」ことは当業者に明らかである。 甲6(第5ページの「表1.1 いろいろなタイプのチョコレート菓子用油脂の定義」)によると、「ハードバター」とは「ココアバターを置き換えるのに使われる全ての油脂」のことであるから、甲1のTable 7.2に記載されたCBE 1A、CBE 1B、CBE 1C、CBE 2、CBE 2B及びCBE 2Cは「ハードバター」である。 以上を踏まえて、本件特許発明1と甲1発明1を対比する。 両者は次の点で一致する。 <一致点> 「SUS型トリグリセリドを50質量%以上、SSS型トリグリセリドを1~5質量%含有し、SSS型トリグリセリドに占めるStStSt型トリグリセリドの割合が5~65質量%であり、SSS型トリグリセリドに占めるP2St型トリグリセリドとPSt2型トリグリセリドの合計が25~65質量%であり、StOSt型トリグリセリドをSUS型トリグリセリドを基準として30~50質量%含有し、P2St型トリグリセリドとPSt2型トリグリセリドの合計量に占めるP2St型トリグリセリドの割合が35~90質量%である、カカオ脂を非含有であるハードバター。 (Sは炭素数16~22の飽和脂肪酸残基を示し、Uは炭素数16~22の一価不飽和脂肪酸残基を示し、Stはステアリン酸残基を示し、SUS型トリグリセリドは1、3位にS、2位にUが結合しているトリグリセリドを示し、SSS型トリグリセリドはSが3分子結合しているトリグリセリドを示し、StStSt型トリグリセリドはステアリン酸残基が3分子結合しているトリグリセリドを示す。Pはパルミチン酸残基を示し、P2St型トリグリセリドはパルミチン酸残基2分子とステアリン酸残基1分子が結合しているトリグリセリドを示し、PSt2型トリグリセリドはパルミチン酸残基1分子とステアリン酸残基2分子が結合しているトリグリセリドを示す。StOSt型トリグリセリドは、上記SUS型トリグリセリドとして、Sがステアリン酸残基(St)、Uがオレイン酸残基(O)であるトリグリセリドを示す。)」 そして、両者は次の点で一応相違する。 <相違点1> 本件特許発明1においては「SUS型トリグリセリドを50~80質量%含有し」と特定されているのに対して、甲1発明1においてはそのようには特定されていない点。 (2)判断 相違点1について検討する。 甲1発明1の認定の根拠である甲1のTable 7.2に記載されたCBE 1A、CBE 1B、CBE 1C、CBE 2A、CBE 2B又はCBE 2Cは「SUS型トリグリセリド」を「50~80質量%」含有するものではないし、甲1には、「SUS型トリグリセリド」を「50~80質量%」含有することは記載されていないことから、相違点1は実質的な相違点である。 また、甲1には、甲1発明1において、「SUS型トリグリセリド」を「50~80質量%」含有するようにする動機付けとなる記載はないし、他の証拠にもない。 したがって、甲1発明1において、相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。 そして、本件特許発明1の奏する「対称型トリグリセリドを主体とするチョコレートにおいて、POSt型トリグリセリドが少ない場合であっても効果的にブルームを抑制することができ、良好な噛み出しを有するチョコレートを得ることができる。」(本件特許の発明の詳細な説明(以下、「発明の詳細な説明」という。)の【0009】)という効果は、甲1発明1並びに甲1及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明1の構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである。 (3)まとめ したがって、本件特許発明1は甲1発明1であるとはいえない。 また、本件特許発明1は甲1発明1並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 3 本件特許発明2及び3について 甲1発明2についても甲1発明1と同様のことがいえるから、本件特許発明2及び3と甲1発明2を対比するに、両者の間には相違点1と同様の相違点があり、その相違点についての判断も同様である。 すなわち、本件特許発明2及び3は甲1発明2であるとはいえない。 また、本件特許発明2及び3は甲1発明2並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 4 取消理由(決定の予告)についての当審の判断のむすび したがって、本件特許発明1ないし3は特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえないし、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえないから、本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものではなく、同法第113条第2号に該当せず、取消理由(決定の予告)によっては取り消すことはできない。 第7 取消理由(決定の予告)として採用しなかった特許異議申立書に記載した特許異議申立ての理由について 取消理由(決定の予告)として採用しなかった特許異議申立書に記載した特許異議申立ての理由は次のとおりである。 ・申立理由2(甲2に基づく新規性・進歩性) ・申立理由3(甲3に基づく新規性・進歩性) ・申立理由4(甲7に基づく新規性・進歩性) ・申立理由5(実施可能要件) ・申立理由6(サポート要件) ・申立理由7(明確性要件) 以下、順に検討する。 1 申立理由2(甲2に基づく新規性・進歩性)について (1)甲2に記載された事項等 ア 甲2に記載された事項 甲2は、「The use and applicability of cocoa butter equivalents (CBEs) in chocolate products」(訳:チョコレート製品でのココアバター代用脂(CBEs)の利用と用途)というタイトルの論文であり、おおむね次の事項が記載されている。 ・「ココアバターは、チョコレートの連続相として作用し、非脂質成分をサポートする(Smith,2001)。この連続相はチョコレートの特性に主要な影響を有し、「スナップ性」、光沢、熱安定性、口溶け感及びフレーバーリリースに重要である。チョコレートの保存期間は使用した脂質によっても決まる。ファットブルーム及び油脂移行は油脂または油脂の組み合わせによって影響される(Norberg,2006)。」(第2ページ第17ないし21行) ・「1.3.2 CBEの供給源 最も一般的に使用されるエキゾチックな植物油脂は、パーム油、イリッペ脂、およびシア脂である。これらの油脂の他にも、コクム脂およびマンゴー核油が許容される。ヨーロッパの法律では、これらの5つの脂肪のみが認められているが、他の脂肪、例えばアセイツーノ油およびドゥーパ脂は、CBEとしての使用に成功している。(ティムス,2003)」(第9ページ第13ないし17行) ・「ソフトPMFのステアリン分画であるハードPMFは、頻繁にチョコレートおよび他の菓子製品に使用される(フェーレッケン,2010)。」(第9ページ第27ないし30行) ・「シア脂は、SatOSatトリアシルグリセロールが低含有量(±39%)で、主なSatOSatトリアシルグリセロールはStOStである。したがって、シア脂のステアリン画分が、大抵使用される。」(第10ページ第27ないし29行) ・「PMFがイリッペおよびシア脂と混合される場合、CBEは、SatOSat型トリアシルグリセロールがココアバターと同量となるが、POStはココアバターより少なく、POPはココアバターより多い。3成分図(図1.3)から、CBEのトリアシルグリセロール組成は、CBと全く同じである必要はないことが明らかである。」(第11ページ第15ないし18行) ・「EU指令2000/36/ECに従うCBEを含むチョコレートを調製するため、ブレンドを作製した。このプレンド中、56.9%(w/w)のココアバター、それ以外の43.1%はCBEであり、プロダクトベースで5%の置換となる。」(第21ページ第16ないし18行) ・「 [図:0001421345000004.jpg] 」 イ 甲2に記載された発明 甲2に記載された事項を整理すると、甲2には次の発明(以下、順に「甲2発明1」及び「甲2発明2」という。)が記載されていると認める。 <甲2発明1> 「甲2のTable 3.3に記載されたCBE1、CBE3、CBE6及びCBE8。」(当審注:「甲2のTable 3.3」については、上記ア参照。) <甲2発明2> 「甲2発明1を含むチョコレート製品。」 (2)本件特許発明1について ア 対比 甲2のTable 3.3に記載されたCBE1、CBE3、CBE6及びCBE8の各CBEに含まれる各種トリグリセリドの割合は、本件特許発明1における各種トリグリセリド毎に整理すると、以下の表C-3のとおり計算することができる。 [図:0001421345000005.jpg] なお、上記表C-3における[a]ないし[f]及びそれらの横の数値範囲は、上記第6 2(1)の表B-3と同様のものを指す。 以上を踏まえて、本件特許発明1と甲2発明1を対比する。 両者は次の点で一応相違し、それ以外の点で一致する。 <相違点2-1> 本件特許発明1においては「SUS型トリグリセリドを50~80質量%含有し」と特定されているのに対して、甲2発明1においてはそのようには特定されていない点。 <相違点2-2> 本件特許発明1においては「SSS型トリグリセリドに占めるStStSt型トリグリセリドの割合が5~65質量%であり」と特定されているのに対して、甲2発明1においてはそのようには特定されていない点。 イ 判断 相違点2-1について検討する。 甲2発明1の認定の根拠である甲2のTable 3.3に記載されたCBE1、CBE3、CBE6及びCBE8は「SUS型トリグリセリド」を「50~80質量%」含有するものではないし、甲2には、「SUS型トリグリセリド」を「50~80質量%」含有することは記載されていないことから、相違点2-1は実質的な相違点である。 また、甲2には、甲2発明1において、「SUS型トリグリセリド」を「50~80質量%」含有するようにする動機付けとなる記載はないし、他の証拠にもない。 したがって、甲2発明1において、相違点2-1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。 そして、本件特許発明1の奏する「対称型トリグリセリドを主体とするチョコレートにおいて、POSt型トリグリセリドが少ない場合であっても効果的にブルームを抑制することができ、良好な噛み出しを有するチョコレートを得ることができる。」という効果は、甲2発明1並びに甲2及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明1の構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである。 ウ まとめ したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲2発明1であるとはいえない。 また、本件特許発明1は甲2発明1並びに甲2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 (3)本件特許発明2及び3について 甲2発明2についても甲2発明1と同様のことがいえるから、本件特許発明2及び3と甲2発明2を対比するに、両者の間には相違点2-1及び2-2と同様の相違点があり、それらの相違点についての判断も同様である。 すなわち、本件特許発明2は甲2発明2であるとはいえない。 また、本件特許発明2及び3は甲2発明2並びに甲2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 (4)申立理由2についてのむすび したがって、本件特許発明1及び2は特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえないし、本件特許発明1ないし3は同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえないから、本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものではなく、同法第113条第2号に該当せず、申立理由2によっては取り消すことはできない。 2 申立理由3(甲3に基づく新規性・進歩性)について (1)甲3に記載された事項等 ア 甲3に記載された事項 甲3には、「1,3-ジ飽和-2-不飽和トリグリセリドの分別方法」に関して、おおむね次の事項が記載されている。 ・「[0049] 実施例11 ハイオレイックヒマワリ油(商品名:オレインリッチ、昭和産業(株)製)6000gに、ステアリン酸エチル8(商品名:エチルステアレート、(株)井上香料製造所製)9000gを混合し、粉末リパーゼ組成物1を0.3質量%添加し、40℃で20時間攪拌反応させた。ろ過処理により酵素粉末を除去し、反応物11-1を14700g得た。得られた反応物11-1(14500g)を薄膜蒸留にかけ、蒸留温度140℃にて反応物から脂肪酸エチルを除去し、脂肪酸エチル含量が3.5質量%である蒸留残渣11-1を5795g得た(表X1)。 得られた蒸留残渣11-1(5000g)に留出物11-1(906g)を混合し、脂肪酸エチル含量が18.3質量%である晶析原料11-1を5906g得た。得られた晶析原料11-1(2001g)を50℃にて完全溶解後、攪拌を行いながら、27℃にて3時間冷却し、圧搾ろ過(第1圧搾ろ過:圧搾圧力7kgf/cm 2 、日清オイリオ自作加圧ろ過機使用)にて固液分離を行い、固形部11-1(450g)及び液状部11-1(1904g)を得た(表16及び17)。得られた液状部11-1(1845g)を薄膜蒸留にかけ、蒸留温度140℃にて反応物から脂肪酸エチルを除去し、脂肪酸エチル含量が5.2質量%である蒸留残渣11-2を1389g得た。得られた蒸留残渣11-2(1351g)を蒸留温度20℃にて水蒸気蒸留を行い、脂肪酸エチルを除去し、脂肪酸エチル含量が痕跡量%である蒸留残渣11-3を1227g得た。得られた蒸留残渣11-3(1197g)にアセトン(4788g)を加え、溶解した後、5℃に冷却し得られた固形部をろ別し固形部11-2(555g)、液状部11-2(651g)を得た。得られた固形部11-2(530g)、定法によりアセトン除去及び精製を行いハードバター11-1(500g)を得た(表18と19)。」 ・「[0052] 表18 組成分析結果 [図:0001421345000006.jpg] 注1)TAG組成は、全トリグリセリド中の各トリグリセリドの組成を示す。 XOX/(XXO+OXX)は、2つの飽和脂肪酸残基および1つのオレオイル基を有するトリグリセリドの内、1位及び3位に飽和脂肪酸残基を有するトリグリセリドと2位に飽和脂肪酸残基を有するトリグリセリドの比である。 P:パルミチン酸残基、S:ステアリン酸残基、O:オレイン酸残基、L:リノール酸残基、tr:微量(trace) 注2)SS-DAG含量は、全成分中のジステアロイルグリセリンの質量%を示す。 GLCにより測定を行なった。 注3) 脂肪酸エチル含量は、全成分中の脂肪酸エチルの質量%を示す。」 ・「[0053]実施例12 上記ハードバター11-1を用い、表19の配合にて、混合、レファイン、コンチングを以下の装置を用いて行なった後、50℃→29℃→32℃のテンパリングを行いチョコレートを試作し評価を行った。 製造時の粘度や型抜けなどに特に問題はなかった。得られたチョコレートは20℃にて1週間保存した後にスナップ性、艶、口溶けの評価を行った。その結果、ハードバター11-1を用いたチョコレート1は、口どけが良くかつスナップ性に優れていた。 (チョコレート試作使用機器) 混合:万能混合攪拌機((株)ダルトン製5DM-L) レファイン:3本ローラーミル((株)ビューラー製SDY300型) コンチング:万能混合攪拌機((株)ダルトン製5DM-L) [0054]表19 チョコレートの配合(重量%) [図:0001421345000007.jpg] 」 イ 甲3に記載された発明 甲3に記載された事項を、特に実施例11に関して整理すると、甲3には次の発明(以下、順に「甲3発明1」及び「甲3発明2」という。)が記載されていると認める。 <甲3発明1> 「甲3の実施例11のハードバター11-1。」(当審注:「ハードバター11-1」については、上記ア参照。) <甲3発明2> 「甲3発明1を用いて試作した、チョコレート。」 (2)本件特許発明1について ア 対比 甲3の実施例11のハードバター11-1に含まれるSUS型各種トリグリセリドの割合は、本件特許発明1における各種トリグリセリド毎に整理すると、以下のとおり計算することができる。 SUS型トリグリセリド 89.4 SSS型トリグリセリド 1.1 StStSt型トリグリセリド 0.9 P2St型トリグリセリド 0 PSt2型トリグリセリド 0.2 StOSt型トリグリセリド 85.0 以上を踏まえて、本件特許発明1と甲3発明1を対比する。 両者は次の点で一応相違し、それ以外の点で一致する。 <相違点3-1> 本件特許発明1においては「SUS型トリグリセリドを50~80質量%含有し」と特定されているのに対して、甲3発明1においてはそのようには特定されていない点。 <相違点3-2> 本件特許発明1においては「SSS型トリグリセリドに占めるStStSt型トリグリセリドの割合が5~65質量%であり」と特定されているのに対して、甲3発明1においてはそのようには特定されていない点。 <相違点3-3> 本件特許発明1においては「SSS型トリグリセリドに占めるP2St型トリグリセリドとPSt2型トリグリセリドの合計が25~65質量%であり」と特定されているのに対して、甲3発明1においてはそのようには特定されていない点。 <相違点3-4> 本件特許発明1においては「StOSt型トリグリセリドをSUS型トリグリセリドを基準として30~50質量%含有し」と特定されているのに対して、甲3発明1においてはそのようには特定されていない点。 <相違点3-5> 本件特許発明1においては「P2St型トリグリセリドとPSt2型トリグリセリドの合計量に占めるP2St型トリグリセリドの割合が35~90質量%である」と特定されているのに対して、甲3発明1においてはそのようには特定されていない点。 イ 判断 相違点3-1について検討する。 甲3発明1の認定の根拠である甲3の実施例11のハードバター11-1は「SUS型トリグリセリド」を「50~80質量%」含有するものではないし、甲3には、「SUS型トリグリセリド」を「50~80質量%」含有することは記載されていないことから、相違点3-1は実質的な相違点である。 また、甲3には、甲3発明1において、「SUS型トリグリセリド」を「50~80質量%」含有するようにする動機付けとなる記載はないし、他の証拠にもない。 したがって、甲3発明1において、相違点3-1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。 そして、本件特許発明1の奏する「対称型トリグリセリドを主体とするチョコレートにおいて、POSt型トリグリセリドが少ない場合であっても効果的にブルームを抑制することができ、良好な噛み出しを有するチョコレートを得ることができる。」という効果は、甲3発明1並びに甲3及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明1の構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである。 ウ まとめ したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲3発明1であるとはいえない。 また、本件特許発明1は甲3発明1並びに甲3及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 (3)本件特許発明2及び3について 甲3発明2についても甲3発明1と同様のことがいえるから、本件特許発明2及び3と甲3発明2を対比するに、両者の間には相違点3-1ないし3-5と同様の相違点があり、それらの相違点についての判断も同様である。 すなわち、本件特許発明2は甲3発明2であるとはいえない。 また、本件特許発明2及び3は甲3発明2並びに甲3及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 (4)申立理由3についてのむすび したがって、本件特許発明1及び2は特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえないし、本件特許発明1ないし3は同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえないから、本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものではなく、同法第113条第2号に該当せず、申立理由3によっては取り消すことはできない。 3 申立理由4(甲7に基づく進歩性)について (1)甲7に記載された事項等 ア 甲7に記載された事項 甲7には、「カカオ代用脂」に関して、おおむね次の事項が記載されている。 ・「本発明の第1の目的はテンパー型カカオ代用脂として従来公知のカカオ脂類似カカオ代用脂が有する上記の如き欠点を解消したテンパー型カカオ代用脂、すなわちカカオ脂の配合性が良好であって、カカオ脂と併用して製造したチョコレートのフアツトブルーム耐性を非常に大きく改善することができ、がつ口どけ、その他の物性においてもすぐれたテンパー型カカオ代用脂を提供することにある。」(第4ページ左上欄第5ないし13行) ・「実施例1~4 有機合成および溶剤分別および/あるいはカラムクロマトグラフィーにより、トリグリセリド組成の異なるSSS、SSU、SUB、SUU、USUおよびUUU構造のトリグリセリド組成物を得た。これら6種のトリグリセリド部分を、適当な割合で配合し、トリグリセリド組成物4種を得た。第1表には、これら4種のトリグリセリド組成物I(実施例1)、II(実施例2)、III(実施例3)およびIV(実施例4)の組成データーを示した。」(第7ページ左上欄第5ないし末行) ・「 [図:0001421345000008.jpg] 」(第7ページ下欄) イ 甲7に記載された発明 甲7に記載された事項を、特に実施例3に関して整理すると、甲7には次の発明(以下、順に「甲7発明1」及び「甲7発明2」という。)が記載されていると認める。 <甲7発明1> 「甲7の第1表に記載された実施例3のカカオ代用脂(III)。」(当審注:「甲7の第1表」及び「実施例3」については、上記ア参照。) <甲7発明2> 「甲7発明1とカカオ脂を併用して製造したチョコレート。」 (2)本件特許発明1について ア 対比 甲7の実施例3のカカオ代用脂(III)に含まれるSUS型各種トリグリセリドの割合は、本件特許発明1における各種トリグリセリド毎に整理すると、以下のとおり計算することができる。 [図:0001421345000009.jpg] なお、上記表E-3における[a]ないし[f]及びそれらの横の数値範囲は、上記第6 2(1)の表B-3と同様のものを指す。 以上を踏まえて、本件特許発明1と甲7発明1を対比する。 両者は次の点で相違し、それ以外の点で一致する。 <相違点7-1> 本件特許発明1においては「SSS型トリグリセリドに占めるStStSt型トリグリセリドの割合が5~65質量%であり」、「SSS型トリグリセリドに占めるP2St型トリグリセリドとPSt2型トリグリセリドの合計が25~65質量%であり」、「P2St型トリグリセリドとPSt2型トリグリセリドの合計量に占めるP2St型トリグリセリドの割合が35~90質量%である」と特定されているのに対して、甲7発明1においてはそのようには特定されていない点。 イ 判断 相違点7-1について検討する。 甲7には、甲7発明1において、「SSS型トリグリセリドに占めるStStSt型トリグリセリドの割合」、「SSS型トリグリセリドに占めるP2St型トリグリセリドとPSt2型トリグリセリドの合計」及び「P2St型トリグリセリドとPSt2型トリグリセリドの合計量に占めるP2St型トリグリセリドの割合」に着目し、それぞれ、「5~65質量%」、「25~65質量%」及び「35~90質量%」にする動機付けとなる記載はないし、他の証拠にもない。 したがって、甲7発明1において、相違点7-1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。 そして、本件特許発明1の奏する「対称型トリグリセリドを主体とするチョコレートにおいて、POSt型トリグリセリドが少ない場合であっても効果的にブルームを抑制することができ、良好な噛み出しを有するチョコレートを得ることができる。」という効果は、甲7発明1並びに甲7及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明1の構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである。 ウ まとめ したがって、本件特許発明1は甲7発明1であるとはいえない。 また、本件特許発明1は甲7発明1並びに甲7及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 (3)本件特許発明2及び3について 本件特許発明2及び3と甲7発明2を対比するに、両者の間には相違点7-1と同様の相違点があり、その相違点についての判断も同様である。 すなわち、本件特許発明2及び3は甲7発明2並びに甲7及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (4)特許異議申立人の令和6年6月19日に提出された意見書における主張について 特許異議申立人は、令和6年6月19日に提出された意見書において、「本件特許発明のハードバターは、・・・(略)・・・甲第7号証と甲第8号証とを組み合わせる動機付けがある。してみると、ブルーム抑制効果を期待して、甲第7号証のSUSを多く含む油脂に、甲第8号証のブルーム抑制剤であるSSSからなるパーム極度硬化油を0.5~3%添加することは、当業者が想到するものである。従って、訂正後の請求項に記載された発明は、甲第7号証に記載された発明及び甲第8号証に記載された発明から、当業者が容易に発明をすることができたものである。」(上記意見書第6及び7ページ)と主張する。 そこで、該主張について検討する。 甲7及び8のいずれにも、甲7発明1において、「SSS型トリグリセリドに占めるStStSt型トリグリセリドの割合」、「SSS型トリグリセリドに占めるP2St型トリグリセリドとPSt2型トリグリセリドの合計」及び「P2St型トリグリセリドとPSt2型トリグリセリドの合計量に占めるP2St型トリグリセリドの割合」に着目し、それぞれ、「5~65質量%」、「25~65質量%」及び「35~90質量%」にする動機付けとなる記載はない。 したがって、仮に、「甲第7号証と甲第8号証とを組み合わせる動機付けがある」といえたしても、相違点7-1に係る本件特許発明1の発明特定事項にはいたらない。 よって、該主張は採用できない。 (5)申立理由4についてのむすび したがって、本件特許発明1ないし3は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものではなく、同法第113条第2号に該当せず、申立理由4によっては取り消すことはできない。 4 申立理由5(実施可能要件)について (1)実施可能要件の判断基準 上記第3のとおり、本件特許発明1ないし3は物の発明であるところ、物の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産し、使用をすることができる程度の記載があることを要する。 そこで、検討する。 (2)実施可能要件の判断 発明の詳細な説明の【0010】ないし【0014】には本件特許発明1の各発明特定事項について具体的に記載され、同【0017】には本件特許発明1における各トリグリセリドの含有量を測定する方法について具体的に記載されており、同【0018】ないし【0042】には本件特許発明1ないし3を得るための方法が具体的に記載されており、同【0043】ないし【0056】には本件特許発明1ないし3の実施例について具体的に記載されている。 したがって、発明の詳細な説明に、当業者が過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明1ないし3を生産し、使用をすることができる程度の記載があるといえる。 よって、本件特許発明1ないし3に関して、発明の詳細な説明の記載は実施可能要件を充足する。 (3)特許異議申立人の特許異議申立書における主張について 特許異議申立人の上記第4 5(1)ないし(4)における主張について検討する。 特許異議申立人の主張は、いずれもトリグリセリドの種類や含有量によっては「ブルームが抑制され、良好な噛み出しを有するチョコレートを得る」という効果を奏しない蓋然性が高いから、実施可能でないというものであるが、具体的な証拠を伴うものではない。 また、実施可能要件の判断は上記(1)の判断基準に従って行われるものであって、トリグリセリドの種類や含有量によっては効果を奏しない蓋然性が高いかどうかは、実施可能要件の判断を左右するものではない。 したがって、特許異議申立人の上記第4 5(1)ないし(4)における主張はいずれも採用できない。 (4)特許異議申立人の令和6年6月19日に提出された意見書における主張について 特許異議申立人の令和6年6月19日に提出された意見書における主張(上記意見書第7ないし9ページ)は、特許異議申立書における主張と同旨であるから、上記(3)と同様であり、採用できない。 (5)申立理由5についてのむすび したがって、本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当せず、申立理由5によっては取り消すことはできない。 5 申立理由6(サポート要件)について (1)サポート要件の判断基準 特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 そこで、検討する。 (2)サポート要件の判断 ア 特許請求の範囲の記載 本件特許の特許請求の範囲の記載は上記第3のとおりである。 イ 判断 発明の詳細な説明の【0001】ないし【0007】によると、本件特許発明1の解決しようとする課題は「対称型トリグリセリドを主体とするチョコレートにおいて、POSt型トリグリセリドが少ない場合であってもブルームが抑制され、良好な噛み出しを有するチョコレートを得る」ための「ハードバター」を提供することであり、本件特許発明2及び3の解決しようとする課題は「称型トリグリセリドを主体とするチョコレートにおいて、POSt型トリグリセリドが少ない場合であってもブルームが抑制され、良好な噛み出しを有するチョコレート」を提供することである(以下、総称して「発明の課題」という。)。 他方、発明の詳細な説明の【0008】には「本発明者らは上記課題を解決すべく種々検討した結果、チョコレートに用いるハードバターについて、対称型トリグリセリドを主体とし、さらに特定のトリ飽和トリグリセリドを含有させた場合、上記課題を解決できることを知見した。本発明は上記知見に基づくものである。 すなわち、SUS型トリグリセリドを40~90質量%、SSS型トリグリセリドを1~5質量%含有し、SSS型トリグリセリドに占めるStStSt型トリグリセリドの割合が5~65質量%であるハードバターである。 (Sは炭素数16~22の飽和脂肪酸残基を示し、Uは炭素数16~22の一価不飽和脂肪酸残基を示し、Stはステアリン酸残基を示し、SUS型トリグリセリドは1、3位にS、2位にUが結合しているトリグリセリドを示し、SSS型トリグリセリドはSが3分子結合しているトリグリセリドを示し、StStSt型トリグリセリドはステアリン酸残基が3分子結合しているトリグリセリドを示す。)」と記載され、同【0010】ないし【0014】、同【0027】及び同【0037】には、本件特許発明1ないし3に対応する記載及び本件特許発明1ないし3の各発明特定事項の技術的意義を説明する記載がある。 また、発明の詳細な説明の【0043】ないし【0056】において、「SUS型トリグリセリドを40~90質量%、SSS型トリグリセリドを1~5質量%含有し、SSS型トリグリセリドに占めるStStSt型トリグリセリドの割合が5~65質量%である」という条件を満たす「ハードバター」を使用して得た「チョコレート」が上記条件を満たさない「ハードバター」を使用して得た「チョコレート」よりも、「ブルーム評価」及び「噛み出し評価」に優れていることを確認している。 そうすると、発明の詳細な説明の上記記載から、当業者は「SUS型トリグリセリドを40~90質量%、SSS型トリグリセリドを1~5質量%含有し、SSS型トリグリセリドに占めるStStSt型トリグリセリドの割合が5~65質量%であるハードバター」及び該「ハードバター」を使用して得た「チョコレート」は、発明の課題を解決できると認識できる。 そして、本件特許発明1は、当業者が発明の課題を解決できると認識できる上記「ハードバター」をさらに限定したものであり、本件特許発明2及び3は、当業者が発明の課題を解決できると認識できる上記「チョコレート」をさらに限定したものである。 したがって、本件特許発明1ないし3は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえ、本件特許発明1ないし3に関して、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合する。 (3)特許異議申立人の特許異議申立書における主張について 特許異議申立人の上記第4 6(1)及び(2)における主張について検討する。 ア 上記第4 6(1)について 特許異議申立人の上記第4 6(1)における主張は具体的な証拠を伴うものではない。 また、サポート要件の判断は上記(1)の判断基準に従って行われるものであって、トリグリセリドの種類や含有量によっては「ブルームが抑制され、良好な噛み出しを有するチョコレートを得る」という効果を奏しない蓋然性が高いかどうかは、サポート要件の判断を左右するものではない。 したがって、特許異議申立人の上記第4 6(1)における主張は採用できない。 イ 上記第4 6(2)について 特許異議申立人の上記第4 6(2)における主張は具体的な証拠を伴うものではない。 そして、上記(2)のとおり、本件特許発明1ないし3は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。 したがって、特許異議申立人の上記第4 6(2)における主張は採用できない。 (4)特許異議申立人の令和6年6月19日に提出された意見書における主張について 特許異議申立人の令和6年6月19日に提出された意見書における主張(上記意見書第7ないし9ページ)は、特許異議申立書における主張と同旨であるから、上記(3)と同様であり、採用できない。 (5)申立理由6についてのむすび したがって、本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当せず、申立理由6によっては取り消すことはできない。 6 申立理由7(明確性要件)について (1)明確性要件の判断基準 特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。 そこで、検討する。 (2)明確性要件の判断 本件特許の請求項1ないし3の記載は、それら自体に不明確な記載はなく、また、発明の詳細な説明の記載とも整合している。 したがって、本件特許発明1ないし3に関して、特許請求の範囲の記載は、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。 (3)特許異議申立人の特許異議申立書における主張について 特許異議申立人の上記第4 7における主張は、発明の詳細な説明に記載された測定方法では「StStSt」、「P2St」及び「PSt2」を正確に測定できないことについて、具体的な証拠を伴うものではない。 また、たとえば、甲1に、「StStSt」、「P2St」及び「PSt2」の含有量が記載されていることからみても、当業者であれば、何らかの測定方法でこれらを測定することはできるといえる。 したがって、特許異議申立人の上記第4 7における主張は採用できない。 (4)申立理由7についてのむすび したがって、本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当せず、申立理由7によっては取り消すことはできない。 第8 結語 上記第6及び7のとおり、本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、取消理由(決定の予告)及び特許異議申立書に記載した特許異議申立ての理由によっては取り消すことはできない。 また、他に本件特許の請求項1ないし3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2023-701404

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