特許異議申立
2025-700258
チョコレート類用油脂
- 審判番号
- 2025-700258
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2023-052974
- 登録番号
- 7544171
- 請求日
- 2025年03月03日
- 審決日
- 2026年06月08日
- 公報発行日
- 2026年09月25日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】不二製油株式会社
- 【異議申立人】中野 圭二
- 審判長/審判官
- 審判長 植前 充司
- 審判官 宮久保 博幸
- 審判官 水野 明梨
- 分類
- P1651.113-YAA(A23D) / P1651.121-YAA(A23D) / P1651.536-YAA(A23D) / P1651.537-YAA(A23D)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第5項、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第2条第3項第1号、特許法第2条第3項第3号、特許法第2条第3項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7544171号発明「チョコレート類用油脂」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7544171号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-7〕、8及び9について訂正することを認める。
特許第7544171号の請求項1~9に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7544171号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~9に係る特許についての出願は、令和5年3月29日の出願であって、令和6年8月26日にその特許権の設定登録(請求項の数9)がされ、同年9月3日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対して、令和7年3月3日に特許異議申立人 中野 圭二(以下「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:全請求項)がされたものである。
その後の手続の経緯は以下のとおりである。
令和7年 6月 4日付け:取消理由通知
同年 8月12日 :訂正請求書及び意見書(特許権者)
同年 同月22日付け:訂正請求があった旨の通知
(特許法第120条の5第5項)
同年 9月24日 :意見書(申立人)
令和8年 1月 5日付け:取消理由通知(決定の予告)
同年 2月27日 :訂正請求書及び意見書(特許権者)
以下、令和8年2月27日に提出された訂正請求書を「本件訂正請求書」といい、本件訂正請求書による訂正の請求を「本件訂正請求」といい、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。
なお、令和7年8月12日になされた訂正請求については、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。
また、本件は、既に特許異議申立人に意見書を提出する機会が与えられている場合であって、訂正請求によって特許請求の範囲が相当程度減縮され、事件において提出された全ての証拠や意見等を踏まえてさらに審理を進めたとしても特許を維持すべきとの結論となると合議体が判断したため、特許法第120条の5第5項ただし書きの「特別の事情があるとき」に該当し、改めて特許異議申立人に意見書を提出する機会を与えないものとする。
第2 訂正の適否についての判断
1 請求の趣旨
本件訂正請求の趣旨は、「特許第7544171号の特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~9について訂正することを求める。」というものである。
2 訂正の内容
(1) 訂正事項1
訂正前の特許請求の範囲の請求項1を、
「下記(a)~(f)を全て満たし、全トリグリセリドに占めるSSS(S(炭素数16~20の飽和脂肪酸)が3分子結合しているトリグリセリドを示す。)含有量が、2重量%以下であり、ランダムエステル交換を含む処理に付された、チョコレート類用油脂。
(a) 全構成脂肪酸に占める、トランス脂肪酸含有量が5重量%以下
(b) 全構成脂肪酸に占める、炭素数16以上の鎖長を有する飽和脂肪酸含有量が20~60重量%
(c) 全トリグリセリドに占める、CN38~CN46のトリグリセリド含有量が40重量%以下
(d) 全トリグリセリドに占める、SO2トリグリセリド含有量が40重量%以下
(e) 全トリグリセリドに占める、S2Oトリグリセリド含有量が10~40重量%
(f) 10℃のSFCが5~40%
ただし、「CN38~CN46のトリグリセリド」とは、油脂中のトリグリセリドの構成脂肪酸の総炭素数が38~46のトリグリセリドを示し、SO2トリグリセリドとは、S(炭素数16~20の飽和脂肪酸を示す。以下同じ。)が1分子、O(オレイン酸を示す。以下同じ。)が2分子結合しているトリグリセリドを示し、S2Oトリグリセリドとは、Sが2分子、Oが1分子結合しているトリグリセリドを示す。」に訂正する。
請求項1の記載を直接または間接的に引用する請求項2~7についても同様に訂正する。
(2) 訂正事項2
訂正前の特許請求の範囲の請求項8を、
「構成脂肪酸中のラウリン酸含有量が25重量%以下で、かつパルミチン酸含有量/ステアリン酸含有量の比が1.5~5となるようランダムエステル交換により得られたエステル交換油を、分別により高融点部を除去することを特徴とする、下記(a)~(f)を全て満たす、チョコレート類用油脂の製造方法。
(a) 全構成脂肪酸に占める、トランス脂肪酸含有量が5重量%以下
(b) 全構成脂肪酸に占める、炭素数16以上の鎖長を有する飽和脂肪酸含有量が20~60重量%
(c) 全トリグリセリドに占める、CN38~CN46のトリグリセリド含有量が40重量%以下
(d) 全トリグリセリドに占める、SO2トリグリセリド含有量が40重量%以下
(e) 全トリグリセリドに占める、S2Oトリグリセリド含有量が10~40重量%
(f) 10℃のSFCが5~40%
ただし、「CN38~CN46のトリグリセリド」とは、油脂中のトリグリセリドの構成脂肪酸の総炭素数が38~46のトリグリセリドを示し、SO2トリグリセリドとは、S(炭素数16~20の飽和脂肪酸を示す。以下同じ。)が1分子、O(オレイン酸を示す。以下同じ。)が2分子結合しているトリグリセリドを示し、S2Oトリグリセリドとは、Sが2分子、Oが1分子結合しているトリグリセリドを示す。」に訂正する。
(3) 訂正事項3
訂正前の特許請求の範囲の請求項9を、
「下記(a)~(f)を全て満たし、全トリグリセリドに占めるSSS(S(炭素数16~20の飽和脂肪酸)が3分子結合しているトリグリセリドを示す。)含有量が、2重量%以下であり、ランダムエステル交換を含む処理に付された、チョコレート類用油脂を配合することによる、テンパリング型チョコレート類のブルーム発現を抑制する方法。
(a) 全構成脂肪酸に占める、トランス脂肪酸含有量が5重量%以下
(b) 全構成脂肪酸に占める、炭素数16以上の鎖長を有する飽和脂肪酸含有量が20~60重量%
(c) 全トリグリセリドに占める、CN38~CN46のトリグリセリド含有量が40重量%以下
(d) 全トリグリセリドに占める、SO2トリグリセリド含有量が40重量%以下
(e) 全トリグリセリドに占める、S2Oトリグリセリド含有量が10~40重量%
(f) 10℃のSFCが5~40%
ただし、「CN38~CN46のトリグリセリド」とは、油脂中のトリグリセリドの構成脂肪酸の総炭素数が38~46のトリグリセリドを示し、SO2トリグリセリドとは、S(炭素数16~20の飽和脂肪酸を示す。以下同じ。)が1分子、O(オレイン酸を示す。以下同じ。)が2分子結合しているトリグリセリドを示し、S2Oトリグリセリドとは、Sが2分子、Oが1分子結合しているトリグリセリドを示す。」に訂正する。
3 一群の請求項について
訂正前の請求項1~7について、請求項2~7はそれぞれ請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであるから、訂正前の請求項1~7に対応する訂正後の請求項1~7は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
4 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否等
(1) 訂正事項1について
訂正事項1による、請求項1についての訂正は、本件訂正前の請求項1に記載されていた「(a)~(f)を全て満たす、チョコレート類用油脂。」という発明特定事項を、「下記(a)~(f)を全て満たし、全トリグリセリドに占めるSSS(S(炭素数16~20の飽和脂肪酸)が3分子結合しているトリグリセリドを示す。)含有量が、2重量%以下であり、ランダムエステル交換を含む処理に付された、チョコレート類用油脂。」に限定するものであるから、特許請求の範囲を減縮するものである。そして、訂正事項1に係る請求項1の訂正は、明細書の発明の詳細な説明の【0024】、【0040】等の記載からみて、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
請求項1の記載を直接または間接的に引用して特定する請求項2~7の訂正についても同様である。
(2) 訂正事項2について
訂正事項2に係る請求項8の訂正は、本件訂正前の請求項8に記載されていた「エステル交換油」という発明特定事項を、「ランダムエステル交換により得られたエステル交換油」に限定するものであるから、特許請求の範囲を減縮するものである。そして、訂正事項2に係る請求項8の訂正は、明細書の発明の詳細な説明の【0040】等の記載からみて、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3) 訂正事項3について
訂正事項3による、請求項9についての訂正は、本件訂正前の請求項9に記載されていた「(a)~(f)を全て満たすチョコレート類用油脂」と言う発明特定事項を、「下記(a)~(f)を全て満たし、全トリグリセリドに占めるSSS(S(炭素数16~20の飽和脂肪酸)が3分子結合しているトリグリセリドを示す。)含有量が、2重量%以下であり、ランダムエステル交換を含む処理に付された、チョコレート類用油脂」に限定するものであるから、特許請求の範囲を減縮するものである。そして、訂正事項3に係る請求項9の訂正は、明細書の発明の詳細な説明の【0024】、【0040】等の記載からみて、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
5 訂正についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
また、本件においては、訂正前の全ての請求項である請求項1~9に対して特許異議申立がされているので、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-7〕、8及び9について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
上記第2のとおり、訂正後の請求項〔1-7〕、8及び9について訂正することを認めるので、本件特許の請求項1~9に係る発明(以下、「本件特許発明1」~「本件特許発明9」という。)は、令和8年2月27日に提出された訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~9に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
下記(a)~(f)を全て満たし、全トリグリセリドに占めるSSS(S(炭素数16~20の飽和脂肪酸)が3分子結合しているトリグリセリドを示す。)含有量が、2重量%以下であり、ランダムエステル交換を含む処理に付された、チョコレート類用油脂。
(a) 全構成脂肪酸に占める、トランス脂肪酸含有量が5重量%以下
(b) 全構成脂肪酸に占める、炭素数16以上の鎖長を有する飽和脂肪酸含有量が20~60重量%
(c) 全トリグリセリドに占める、CN38~CN46のトリグリセリド含有量が40重量%以下
(d) 全トリグリセリドに占める、SO2トリグリセリド含有量が40重量%以下
(e) 全トリグリセリドに占める、S2Oトリグリセリド含有量が10~40重量%
(f) 10℃のSFCが5~40%
ただし、「CN38~CN46のトリグリセリド」とは、油脂中のトリグリセリドの構成脂肪酸の総炭素数が38~46のトリグリセリドを示し、SO2トリグリセリドとは、S(炭素数16~20の飽和脂肪酸を示す。以下同じ。)が1分子、O(オレイン酸を示す。以下同じ。)が2分子結合しているトリグリセリドを示し、S2Oトリグリセリドとは、Sが2分子、Oが1分子結合しているトリグリセリドを示す。
【請求項2】
構成脂肪酸組成中、パルミチン酸含有量/ステアリン酸含有量比が7以下である、請求項1記載のチョコレート類用油脂。
【請求項3】
全構成脂肪酸に占める、ラウリン酸含有量が13重量%以下である、請求項1記載のチョコレート類用油脂。
【請求項4】
全構成脂肪酸に占める、ラウリン酸含有量が13重量%以下である、請求項2記載のチョコレート類用油脂。
【請求項5】
下記SFC%を全て満たす、請求項1記載のチョコレート類用油脂。
・0℃のSFCが、10~60%
・5℃のSFCが、5~50%
・20℃のSFCが、9%以下
【請求項6】
請求項1~5いずれか1項に記載のチョコレート類用油脂を0.2~15重量%使用してなるチョコレート類。
【請求項7】
請求項1~5いずれか1項に記載のチョコレート類用油脂を含むブルーム抑制剤。
【請求項8】
構成脂肪酸中のラウリン酸含有量が25重量%以下で、かつパルミチン酸含有量/ステアリン酸含有量の比が1.5~5となるようランダムエステル交換により得られたエステル交換油を、分別により高融点部を除去することを特徴とする、下記(a)~(f)を全て満たす、チョコレート類用油脂の製造方法。
(a) 全構成脂肪酸に占める、トランス脂肪酸含有量が5重量%以下
(b) 全構成脂肪酸に占める、炭素数16以上の鎖長を有する飽和脂肪酸含有量が20~6 0重量%
(c) 全トリグリセリドに占める、CN38~CN46のトリグリセリド含有量が40重量%以下
(d) 全トリグリセリドに占める、SO2トリグリセリド含有量が40重量%以下
(e) 全トリグリセリドに占める、S2Oトリグリセリド含有量が10~40重量%
(f) 10℃のSFCが5~40%
ただし、「CN38~CN46のトリグリセリド」とは、油脂中のトリグリセリドの構成脂肪酸の総炭素数が38~46のトリグリセリドを示し、SO2トリグリセリドとは、S(炭素数16~20の飽和脂肪酸を示す。以下同じ。)が1分子、O(オレイン酸を示す。以下同じ。)が2分子結合しているトリグリセリドを示し、S2Oトリグリセリドとは、Sが2 分子、Oが1分子結合しているトリグリセリドを示す。
【請求項9】
下記(a)~(f)を全て満たし、全トリグリセリドに占めるSSS(S(炭素数16~20 の飽和脂肪酸)が3分子結合しているトリグリセリドを示す。)含有量が、2重量%以下であり、ランダムエステル交換を含む処理に付された、チョコレート類用油脂を配合することによる、テンパリング型チョコレート類のブルーム発現を抑制する方法。
(a) 全構成脂肪酸に占める、トランス脂肪酸含有量が5重量%以下
(b) 全構成脂肪酸に占める、炭素数16以上の鎖長を有する飽和脂肪酸含有量が20~6 0重量%
(c) 全トリグリセリドに占める、CN38~CN46のトリグリセリド含有量が40重量%以下
(d) 全トリグリセリドに占める、SO2トリグリセリド含有量が40重量%以下
(e) 全トリグリセリドに占める、S2Oトリグリセリド含有量が10~40重量%
(f) 10℃のSFCが5~40%
ただし、「CN38~CN46のトリグリセリド」とは、油脂中のトリグリセリドの構成脂肪酸の総炭素数が38~46のトリグリセリドを示し、SO2トリグリセリドとは、S(炭素数16~20の飽和脂肪酸を示す。以下同じ。)が1分子、O(オレイン酸を示す。以下同じ。)が2分子結合しているトリグリセリドを示し、S2Oトリグリセリドとは、Sが2
分子、Oが1分子結合しているトリグリセリドを示す。」
第4 特許異議申立人が主張する特許異議申立理由について
特許異議申立人は、令和7年3月3日に提出した特許異議申立書において、証拠方法として下記7に示す甲第1号証~甲第12号証を提出し、概略、以下の申立理由1~5並びに申立理由6の(1)及び(2)を主張している。
また、令和7年9月24日に提出した意見書において、下記7に示す甲第13号証~甲第19号証を提出し、更に以下の申立理由6の(3)及び(4)を主張している。
なお、特許異議申立理由は当審でまとめ、番号を仮に付与した。
1 申立理由1(甲第1号証に基づく新規性・進歩性)
本件特許の請求項1ないし5及び7に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであり、本件特許の請求項1ないし8に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基いて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
2 申立理由2(甲第2号証に基づく新規性・進歩性)
本件特許の請求項1ないし5に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであり、本件特許の請求項1ないし8に係る発明は、甲第2号証に記載された発明に基いて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
3 申立理由3(甲第3号証に基づく新規性・進歩性)
本件特許の請求項1ないし4及び7に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第3号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであり、本件特許の請求項1ないし8に係る発明は、甲第3号証に記載された発明に基いて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
4 申立理由4(甲第4号証に基づく新規性・進歩性)
本件特許の請求項1、3、5及び6に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第4号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲第4号証に記載された発明に基いて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1、3、5及び6に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
5 申立理由5(実施可能要件)
本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、下記の点で特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
本件特許の請求項1の(a)~(e)で特定されたパラメータでトリグリセリド及び脂肪酸を含むように任意の油脂を種々の割合で混合して製造する際に、何らかの製造条件を追加する等して追加のパラメータの操作をして本件特許の請求項1の(f)を更に満たすような油脂が得られる条件をスクリーニングして製造した上で、その追加のパラメータが発明の効果に影響しないことを確認するべくチョコレート類に当該油脂を配合した際に所望の効果が得られるものを更にスクリーニングしなければならず、このことは、当業者に期待しうる程度を超える試行錯誤を要するものである。
請求項1を引用する請求項2~7及び本件特許の請求項1と同じ(a)~(f)が規定されている本件特許の請求項8及び9も同様である。
6 申立理由6(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対して特許されたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
(1)
実施例1~3の油脂には、請求項1の(a)~(e)で特定された脂肪酸及びトリグリセリド以外にも、実施例1~3の油脂の原料油脂由来のその他の脂肪酸及びトリグリセリドが多く含まれ、実施例1~2の油脂には、その他の脂肪酸が約60重量%、その他のトリグリセリドが30~35重量%含まれ、特に実施例3の油脂には、その他の脂肪酸が約60重量%、その他のトリグリセリドが約50重量%含まれる。そして、技術常識(ブルーム抑制効果は脂肪酸及びトリグリセリド組成に影響を受ける)に鑑みて、実施例1~3の油脂が課題を解決できたことには、実施例1~3の油脂の原料油脂由来のその他の脂肪酸及びトリグリセリドが寄与している可能性が極めて高いといえる。そうしてみると、請求項1の(a)~(f)を満たすだけでは、本件特許発明の課題を解決できるとはいえず、すなわち、請求項1の(a)~(f)を満たす油脂の全てが本件特許発明の課題を解決できるとはいえない。
請求項1を引用する請求項2~7及び本件特許の請求項1と同じ(a)~(f)が規定されているにすぎない本件特許の請求項8及び9も同様である。
(2)
本件特許の請求項1の(a)~(f)の数値範囲は、本件特許発明の課題が解決できている実施例1~3の請求項1の(a)~(f)の数値と比較してかなり広いので、請求項1の範囲全体にわたって、本件特許発明の課題が解決できるかどうかは不明である。
本件特許の請求項1と同じ(a)~(f)が規定されている請求項8及び9も同様である。
また、本件特許の請求項2~6の数値範囲も、本件特許発明の課題が解決できている実施例1~6の数値と比較してかなり広いので、請求項2~6の範囲全体にわたって、本件特許発明の課題が解決できるかどうかは不明である。
請求項1~5を引用する請求項6及び7も同様である。
(3)
SSS含量が増加すると、ブルームに悪影響を及ぼすことは技術常識と言える。
上記技術常識に鑑みれば、0.2重量%及び0.4重量%の実施例をもって、2重量%にて本件特許発明の課題が解決できると推認することができないため、本件特許発明1の範囲全体にわたって、本件特許発明の課題が解決できるかどうかは不明であるから、当該範囲まで発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化しうるものとは認められない。
(4)
ブルーム発現を抑制するという本件特許発明の課題解決のためには、ランダムエステル交換されていること又はSO2中のSOOの比率及びS2O中のSSOの比率が高いことが必要であると解されるところ、そのような点が特定されていない本件特許発明1~9は、その範囲全体にわたって本件特許発明の課題が解決できるとは言えず、サポート要件違反である。なお、請求項8はエステル交換油であることは特定されているが、ランダムエステル交換油まで特定されていないため、サポート要件違反である。
7 証拠方法
甲第1号証:特表2018-529355号公報
甲第2号証:特開2021-177757号公報
甲第3号証:特表2020-528273号公報
甲第4号証:国際公開第2020/235170号
甲第5号証:特開2019-37224号公報
甲第6号証:国際公開第2019/026670号
甲第7号証:特開2008-228641号公報
甲第8号証:特開2013-201907号公報
甲第9号証:特開平5-41948号公報
甲第10号証:国際公開第2010/113969号
甲第11号証:特開2021-168707号公報
甲第12号証:国際公開第2011/077975号
甲第13号証:JAOCS, Vol. 76, no. 2 (1999), p237-242, “Composition and Thermal Profile of Crude Palm Oil and Its Products”、1999年2月、AOCS Press
甲第14号証:J Am Oil Chem Soc (2007) 84: p885-891, “Phase Composition During Palm Olein Fractionation and its Effect on Soft PMF and Superolein Quality”、2007年8月18日、AOCS
甲第15号証:日本油化学会誌 第45巻 第1号(1996)、p29-36、「植物油のトリアシルグリセリン組成の分析と油脂の配合推定への応用」、1996年1月、公益社団法人日本油化学会
甲第16号証:「パーム油・パーム核油の利用」、加藤秋男編著、p.40、41、47、1990年7月31日、株式会社 幸書房
甲第17号証:JAOCS, Vol. 62, no. 2 (February 1985), p376-385, “Fractionation of Palm Oil”、1985年2月、AOCS
甲第18号証:「製菓用油脂ハンドブック」、著者:Ralph E. Timms、監修:佐藤清隆、目次、p.1-7、187、198-202、266-273、293-299、2010年2月14日、株式会社 幸書房
甲第19号証:「油脂・脂質の基礎と応用-栄養・健康から工業まで-」、日本油化学会編、p.219-222、平成17年4月1日、社団法人 日本油化学会
なお、証拠の表記は、特許異議申立書及び意見書の記載におおむね従った。
第5 令和8年1月5日付け取消理由通知(決定の予告)で特許権者に通知した取消理由の要旨
本件特許の請求項1~9に係る特許に対して、当審が令和8年1月5日付け取消理由通知(決定の予告)で特許権者に通知した取消理由の要旨は次のとおりである。
1 取消理由2(甲第2号証に基づく新規性・進歩性) 本件特許の請求項1ないし5に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであり、また、本件特許の請求項1ないし5に係る発明は、甲第2号証に記載された発明に基づいて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし5に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
2 取消理由4(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対して特許されたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
ブルーム発現を抑制するという本件特許発明の課題解決のためには、ランダムエステル交換されていることが必要であると解されるところ、そのような点が特定されていない本件特許発明1~9は、その範囲全体にわたって本件特許発明の課題が解決できるとは言えず、サポート要件違反である。なお、請求項8はエステル交換油であることは特定されているが、ランダムエステル交換油まで特定されていないため、サポート要件違反である。
第6 当審の判断
当審は、令和8年1月5日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)及び申立理由のいずれによっても、本件特許発明1~9に係る特許を取り消すことはできないものと判断する。
なお、令和8年1月5日付けで特許権者に通知した取消理由と、申立理由について、以下、根拠となる条文ごと、主たる証拠ごとに、まとめて判断する。
1 申立理由1(甲第1号証に基づく新規性・進歩性)について
(1)甲第1号証に記載された事項等
ア 甲第1号証に記載された事項
甲第1号証には、「耐熱性チョコレートスプレッドまたはフィリング及び調整の方法」に関して、おおむね次の事項が記載されている。
「【請求項1】
ヘーゼルナッツペースト、ココアバター、ココアマス、ココアパウダー、乳脂肪、粉乳、バニラ、及びレシチンから選択される1つ以上の原料と、
2重量%~40重量%の脂肪組成物と、
30重量%~50重量%の砂糖と、
を含む、チョコレートスプレッド及び/またはフィリング組成物であって、
前記脂肪組成物は、少なくとも40重量%のエステル交換されたシアオレフィン及び任意選択で最大60重量%の液体植物油を含み、
前記エステル交換されたシアオレフィンは、
-前記エステル交換されたシアオレフィンに存在する全C12~C20の脂肪酸に基づいて、
少なくとも50重量%のオレイン酸含有量、及び
-少なくとも25重量%のステアリン酸含有量、を有し、
-前記エステル交換されたシアオレフィンは、10℃で少なくとも10%、20℃で少なくとも6%、及び30℃で少なくとも3%の固形脂肪含有量を有する、チョコレートスプレッド及び/またはフィリング組成物。
【請求項2】
前記脂肪組成物は、少なくとも80重量%、好ましくは少なくとも90重量%のエステル交換されたシアオレフィンを含む、請求項1に記載のチョコレートスプレッド。」
「【0005】
十分なチョコレートフレーバーを有するチョコレートスプレッドを調製することは特に難しい。少量のチョコレートを添加する場合、チョコレート味の強さは不十分である。しかしながら、より高い割合のチョコレートでは、混合物は不安定になる場合があり、保存の延長後に再結晶挙動を示す。表面での結晶の形成によって、スプレッドの外観は美味しそうではなくなり、味と食感に影響を及ぼし得る。」
「【0009】
本発明は、ヘーゼルナッツペースト、ココアバター、ココアマス、ココアパウダー、乳脂肪、粉乳、バニラ、及びレシチンから選択される原料のうちの1つ以上と、2重量%~40重量%の脂肪組成物と、30重量%~50重量%の砂糖とを含み、脂肪組成物は、少なくとも40重量%のエステル交換されたシアオレフィン及び任意選択で最大60重量%の液体植物油を含み、エステル交換されたシアオレフィンは、エステル交換されたシアオレフィンに存在する全C12~C20の脂肪酸に基づいて、少なくとも50重量%のオレイン酸含有量、及び少なくとも25重量%のステアリン酸含有量を有し、エステル交換されたシアオレフィンは、10℃で少なくとも10%、20℃で少なくとも6%、及び30℃で少なくとも3%の固形脂肪含有量を有する。チョコレートスプレッドは、チョコレートフィリングとしても使用され得る。」
「【0019】
本発明は、また脂肪組成物を他のチョコレートスプレッド原料と混合させるステップを含むチョコレートスプレッド組成物の調製の方法に関し、脂肪組成物は、少なくとも60重量%のエステル交換されたシアオレフィン及び任意選択で最大40重量%の液体植物油を含み、エステル交換されたシアオレフィンは、エステル交換されたシアオレフィンに存在する全C12~C20の脂肪酸に基づいて、少なくとも50重量%のオレイン酸含有量及び少なくとも25重量%のステアリン酸含有量を有し、エステル交換されたシアオレフィンは、10℃で少なくとも10%、20℃で少なくとも6%、及び30℃で少なくとも3%の固形脂肪含有量を有する。」
「【0022】
実施例1:脂肪ブレンドの調製
A:エステル交換されたシアオレフィン
約5000グラムのシアオレフィンを化学的にエステル交換した。油を110℃まで加熱し、約50mbarの圧力で30分間乾燥させた。この乾燥させた油にナトリウムメトキシド(0.10%w/w)を添加し、その混合物を約100mbarで30分間撹拌した。その後、クエン酸を添加することで反応を止め、その後石鹸を本質的に含まなくなるまで水で洗浄した。エステル交換されたシアオレフィンを、さらなる使用のために標準的な精製手順(漂白及び脱臭)に従ってさらに精製した。分析結果を表1の脂肪ブレンドAの下に示す。エステル交換されたシアオレフィンA(inShf)を菜種油(RP)とブレンドしてブレンドB及びCを産出した。その分析結果も表1に示す。参照脂肪として、Loders Croklaan BV、the Netherlandsから入手した、市販の完全精製脂肪Durkex102を使用した。この参照脂肪は、パームオレイン画分に基づき、市販のチョコレートスプレッドに使用される。その分析結果も表1に示す。
【0023】
実施例2:脂肪ブレンド分析データ
固形脂肪含有量(SFC)は、IUPAC2.150aに従ってNMR分光法を使用して決定される。x℃の固形脂肪含有量をNxと示す。例えば、20℃の固形脂肪含有量は、N20と表現される。
【0024】
脂肪酸残基組成を、ISO15304に従って脂肪酸メチルエステル分析(FAME)ガスクロマトグラフィーを使用して決定した。Cx:yは、x個の炭素原子及びy個の2重結合を有する脂肪酸を指し、拡張子「c」はシス脂肪酸を指し、「t」はトランス脂肪酸を指す。脂肪酸は、8~24個の炭素原子及び任意選択で1つ以上の2重結合を有する直鎖カルボン酸である。
【0025】
脂肪酸組成物は、飽和脂肪酸(SAFA)、一価不飽和脂肪酸(MUFA)、及び多価不飽和脂肪酸(PUFA)の含有量で特徴付けられる。SAFAは、パルミチン酸(C16:0)及びオレイン酸(C18:0)等の不飽和結合を含まない脂肪酸である。本明細書に規定するように、SAFAは、C12:0、C14:0、C16:0、C17:0、C18:0、C20:0、C22:0、C24:0の全てである。一価不飽和脂肪酸(MUFA)は、単一の炭素-炭素2重結合を有する脂肪酸であり、これは、シス構成またはトランス構成のどちらでもよい。全トランスは、トランス脂肪酸の総量である。
【0026】
MUFAの群は、パルミトレイン酸(C16:1シス)及びオレイン酸(C18:1シス)を含むがこれらに限定されない。本明細書に規定するように、MUFAは、C16:1c/t、C18:1c/t、C20:1c/t、C22:1c/t、及びC24:1c/tの全てであり、c/tは、その特定数の炭素原子についてシス脂肪酸及びトランス脂肪酸の混合量を示す。多価不飽和脂肪酸(PUFA)は、2つまたは3つの2重結合等の2つ以上の炭素-炭素2重結合を有する。SAFA値、MUFA値、及びPUFA値は、FAME分析によって決定されるように、それぞれの化合物の量を合計することによって計算される。
【0027】
ISO15304に従って脂肪酸メチルエステル分析(FAME)ガスクロマトグラフィーを使用して決定されるように、ヨウ素価(IV)を、脂肪酸組成物に基づいて、AOCS Cd 1c-85に従って計算した。IVFAMEは、計算されたヨウ素価を指す。
【0028】
トリグリセリド組成物を、ISO23275に従ってガスクロマトグラフィーを使用して決定した。表において、トリグリセリドは、脂肪酸残基に従って3文字のコード化名として識別され、A=アラキドイル-、L=リノレオイル-、M=ミリストイル-、P=パルミトイル、O=オレオイル-、St=ステアロイル
-である。例えばStOStは、2-オレオイル-1,3-ジステアロイルグリセリドを意味する。SUMSOSは、全SOS(Sはステアリン酸またはパルミチン酸及びOはオレイン酸)を指す。
【表1-1】
[図:0001439184000001.jpg]
【表1-2】
[図:0001439184000002.jpg]
【0029】
実施例3:チョコレートスプレッド
ボールミルを240rpmで45分間使用して以下の原料を混合させることによって、チョコレートスプレッドを調製した。脂肪ブレンドBを使用した。参照スプレッドに関し、脂肪ブレンドは、標準的なチョコレートスプレッド脂肪、Loders Croklaan BV、Wormerveer、the Netherlandsから入手したDurkex102に置き換えられた。
【表2】
[図:0001439184000003.jpg]
【0030】
実施例4:ヘーゼルナッツペーストを含むチョコレートスプレッド
ボールミルを240rpmで45分間使用して以下の原料を混合させることによって、ヘーゼルナッツペーストを含むチョコレートスプレッドを調製した。
【表3】
[図:0001439184000004.jpg]
【0031】
表Iに従う脂肪ブレンドを使用してチョコレートスプレッドを調製した。参照として、脂肪ブレンドDurkex102を使用した。チョコレートスプレッドを表2にまとめる。
【表4】
[図:0001439184000005.jpg]
【0032】
実施例5:保存トライアル:再結晶
実施例3に従って調製したスプレッドを50℃で容器に堆積させ、少なくとも20分間静的冷却キャビネット(12℃)で冷却した。初期冷却後、さらなる評価のためにスプレッドを異なる温度で保存した。スプレッドを、15℃、20℃、25℃、30℃、及び15℃で12時間と25℃で12時間との間の温度サイクル条件下で保存し、周囲温度(20℃)で一晩、及び1、2、または3週間、及び1、2、または3ヶ月後すぐに評価した。再結晶結果を表3にまとめる。
【0033】
以下の特性:外観(再結晶、油滲出、及び光沢)ならびに感覚評価に関して試料を評価した。
【表5】
[図:0001439184000006.jpg]
【0034】
脂肪ブレンドBに基づくチョコレートスプレッドについて再結晶は発生しなかったが、チョコレート/ヘーゼルナッツスプレッドを含む他のチョコレートスプレッドについて、再結晶が明確に視認できた。実施例2に従うチョコレートスプレッドとして同一の脂肪ブレンドを使用するチョコレート/ヘーゼルナッツスプレッドを含む、再結晶が発生した試料は、表面上に結晶を示した。
【0035】
これらのデータによって、実施例3に従うヘーゼルナッツペーストを添加しない全てのチョコレートスプレッドにおける再結晶を回避する解決策を脂肪ブレンドBが提供することが示される。」
イ 甲第1号証に記載された発明
甲第1号証に記載された事項を、特に実施例1の脂肪ブレンドAに関して整理すると、甲第1号証には次の発明(以下、順に「甲1発明」「甲1方法発明」という。)が記載されていると認める。
<甲1発明>
「化学的にエステル交換する工程に付された、下記表1-1及び1-2に示される脂肪ブレンドA。
【表1-1】
[図:0001439184000007.jpg]
【表1-2】
[図:0001439184000008.jpg]
」
<甲1製法発明>
「化学的にエステル交換したシアオレフィンを、標準的な手順(漂白及び脱水)に従ってさらに精製することで、上記表1-1及び1-2に示される脂肪ブレンドAを製造する方法。」
(2)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲1発明を対比する。
甲1発明は、チョコレートスプレッド組成物に使用される(【0019】)ことから、本件特許発明1における「チョコレート類用油脂」に相当する。
甲1発明は、全トランスが0.3重量%であり(表1-2)、10℃の固形脂肪含有量が14.1%である(表1-1)ことから、本件特許発明1における「(a) 全構成脂肪酸に占める、トランス脂肪酸含有量が5重量%以下」及び「(f) 10℃のSFCが5~40%」との特定事項を満たす。
そうすると、両者の一致点、相違点は以下の通りである。
(一致点)
「下記(a)及び(f)を全て満たす、チョコレート類用油脂。
(a) 全構成脂肪酸に占める、トランス脂肪酸含有量が5重量%以下
(f) 10℃のSFCが5~40%」
(相違点)
・相違点1-1
本件特許発明1は、「(b) 全構成脂肪酸に占める、炭素数16以上の鎖長を有する飽和脂肪酸含有量が20~60重量%」とあるのに対して、甲1発明は、そのようには特定されていない点。
・相違点1-2
本件特許発明1は、「(c) 全トリグリセリドに占める、CN38~CN46のトリグリセリド含有量が40重量%以下」及び「「CN38~CN46のトリグリセリド」とは、油脂中のトリグリセリドの構成脂肪酸の総炭素数が38~46のトリグリセリドを示」すとあるのに対して、甲1発明は、そのようには特定されていない点。
・相違点1-3
本件特許発明1は、「(d) 全トリグリセリドに占める、SO2トリグリセリド含有量が40重量%以下」及び「SO2トリグリセリドとは、S(炭素数16~20の飽和脂肪酸を示す。以下同じ。)が1分子、O(オレイン酸を示す。以下同じ。)が2分子結合しているトリグリセリドを示」すとあるのに対して、甲1発明は、そのようには特定されていない点。
・相違点1-4
本件特許発明1は、「(e) 全トリグリセリドに占める、S2Oトリグリセリド含有量が10~40重量%」及び「S2Oトリグリセリドとは、Sが2分子、Oが1分子結合しているトリグリセリドを示す」とあるのに対して、甲1発明は、そのようには特定されていない点。
・相違点1-5
本件特許発明1は、チョコレート類用油脂が「全トリグリセリドに占めるSSS(S(炭素数16~20の飽和脂肪酸)が3分子結合しているトリグリセリドを示す。)含有量が、2重量%以下である」と特定されているのに対し、甲1発明には、そのような特定がされていない点。
・相違点1-6
本件特許発明1は、チョコレート類用油脂が「ランダムエステル交換を含む処理に付された」と特定されているのに対し、甲1発明は化学的にエステル交換する工程に付されたものである点。
イ 判断
事案に鑑み、相違点1-5について検討する。
甲第1号証の【表1-1】によれば、脂肪ブレンドAは、SSS(S(炭素数16~20の飽和脂肪酸)が3分子結合しているトリグリセリド)であるPPStを0.2重量%、PStStを2.1重量%、StStStを3重量%含み、これらの合計は5.3(=0.2+2.1+3)重量%である。
してみると、甲1発明のSSS含有量は少なくとも5.3重量%であり、相違点1-5は実質的な相違点である。また、甲第1号証の全ての記載及び他の証拠の記載をみても、甲1発明において、SSS含有量を2重量%以下とする動機はない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1発明ではなく、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(3)本件特許発明2~7について
本件特許発明2~7は、本件特許発明1の発明特定事項を全て有し、更に限定するものである
そして、本件特許発明1は、甲1発明ではなく、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明2~5、7は甲1発明ではなく、また、本件特許発明2~7は、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(4)本件特許発明8について
ア 対比
本件特許発明8と、甲1製法発明とを対比すると、上記(2)と同様のことがいえるので、両者の一致点、相違点は以下の通りである。
(一致点)
「ランダムエステル交換により得られたエステル交換油を用い、下記(a)及び(f)を全て満たす、チョコレート類用油脂の製造方法。
(a) 全構成脂肪酸に占める、トランス脂肪酸含有量が5重量%以下
(f) 10℃のSFCが5~40%」
・相違点1-7
本件特許発明8は、「構成脂肪酸中のラウリン酸含有量が25重量%以下」とあるのに対して、甲1製法発明は、そのようには特定されていない点。
・相違点1-8
本件特許発明8は、「パルミチン酸含有量/ステアリン酸含有量の比が1.5~5」とあるのに対して、甲1製法発明は、そのようには特定されていない点。
・相違点1-9
本件特許発明8は、「分別により高融点部を除去することを特徴とする」とあるのに対し、甲1製法発明は、そのようには特定されていない点
・相違点1-10
本件特許発明8は、「(b) 全構成脂肪酸に占める、炭素数16以上の鎖長を有する飽和脂肪酸含有量が20~60重量%」とあるのに対して、甲1製法発明は、そのようには特定されていない点。
・相違点1-11
本件特許発明8は、「(c) 全トリグリセリドに占める、CN38~CN46のトリグリセリド含有量が40重量%以下」及び「「CN38~CN46のトリグリセリド」とは、油脂中のトリグリセリドの構成脂肪酸の総炭素数が38~46のトリグリセリドを示」すとあるのに対して、甲1製法発明は、そのようには特定されていない点。
・相違点1-12
本件特許発明8は、「(d) 全トリグリセリドに占める、SO2トリグリセリド含有量が40重量%以下」及び「SO2トリグリセリドとは、S(炭素数16~20の飽和脂肪酸を示す。以下同じ。)が1分子、O(オレイン酸を示す。以下同じ。)が2分子結合しているトリグリセリドを示」すとあるのに対して、甲1製法発明は、そのようには特定されていない点。
・相違点1-13
本件特許発明8は、「(e) 全トリグリセリドに占める、S2Oトリグリセリド含有量が10~40重量%」及び「S2Oトリグリセリドとは、Sが2分子、Oが1分子結合しているトリグリセリドを示す」とあるのに対して、甲1製法発明は、そのようには特定されていない点。
・相違点1-14
本件特許発明8は、チョコレート類用油脂が「ランダムエステル交換により得られた」と特定されているのに対し、甲1製法発明は化学的にエステル交換して得られたと特定している点。
イ 判断
事案に鑑み、相違点1-8について検討する。
甲第1号証の【表1-1】には、脂肪ブレンドAの脂肪酸組成について、パルミチン酸であるC16:0が4.2%、ステアリン酸であるC18:0が29.7%であることが記載されている。よって、甲1製法発明のパルミチン酸含有量/ステアリン酸含有量の比はおよそ0.14(=4.2/29.7)であり、相違点1-8は実質的な相違点である。
また、甲第1号証及び他の全ての証拠の記載をみても、甲1製法発明において、パルミチン酸含有量/ステアリン酸含有量の比が1.5~5となるように調節する動機があったとは言えない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明8は、甲1製法発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(特許異議申立理由の主張について)
特許異議申立人は、異議申立書の70~71頁において、上記相違点1-8について、以下のように主張している。
「(分別前の)エステル交換油のパルミチン酸含有量/ステアリン酸含有量の比を適宜調整することは周知技術である。
例えば、甲第5号証(特開2019-37224号公報)には、
「【0023】・・・本発明においてはエステル交換処理の後、さらに水素添加や分別を行つていてもよく、本発明ではこの場合もエステル交換油脂として扱う。
【0024】ここで、本発明のチョコレート改良材に好ましく用いられるエステル交換油脂の製造方法について述べる。上記(1)~(4)を全て満たすエステル交換油脂は、例えば以下の方法に則って得ることが出来る。まず、パルミチン酸とステアリン酸の含有量の和が、構成脂肪酸中の飽和脂肪酸の含有量の95質量%以上であり、パルミチン酸とステアリン酸の質量比(St/P)が好ましくは0.05~8、より好ましくは0.2~2.0、最も好ましくは0.3~1.5である油脂配合物を調製する。・・・」
と記載されているので、
分別前のエステル交換油のパルミチン酸含有量/ステアリン酸含有量の比は、好ましくは0.125~20、好ましくは0.5~5、最も好ましくは0.7~3.3となる。
また、甲第5号証の製造例4(【0057】)はエステル交換油のSt/Pが0.6であるから、エステル交換油のパルミチン酸含有量/ステアリン酸含有量の比は1.7であり、実施例4~6(【0066】~【0068】)では、製造例4はエステル交換油を分別して、高融点部を分別により除去することにより得られる低融点部をチョコレート改良材として使用している。また、甲第5号証の段落【0007】には「本発明の課題は以下の2点にある。1)ソフトチョコレートに使用した場合であっても、強くカカオ風味を感じられる、チョコレートを得ること2)ソフトチョコレートに使用した場合であっても、良好な口溶けと噛みだしを有する、チョコレートを得ること」と記載があることから、ソフトチョコレートに関するものである。
したがって、ソフトチョコレートに使用するチョコレート改良材の分別前のエステル交換油のパルミチン酸含有量/ステアリン酸含有量の比を0.125~20(好ましくは0.5~5)とすることは、周知技術である(少なくとも公知技術である)といえる。また、「0.125~20(好ましくは0.5~5)」には本件特許発明8の「1.5~5」が包含されており、当該範囲とすることも周知技術である(少なくとも公知技術である)といえる。さらに、当該範囲に限定することによる顕著な効果も本件特許の明細書において立証されていない。
ここで、甲第1号証の段落【0007】に「より広い温度範囲にわたって望ましい特性を呈するチョコレートスプレッドを可能にすることが本発明の目的である。」と記載があることから、甲1発明もソフトチョコレートに関するものである。ソフトチョコレートに使用するチョコレート改良材の分別前のエステル交換油のパルミチン酸含有量/ステアリン酸含有量の比を「0.125~20(好ましくは0.5~5)」あるいは「1.5~5」にするという周知技術を、ソフトチョコレートに使用する甲1発明の実施例A、実施例B、実施例C、参照脂肪に適用を試みることは、当業者が容易に想到するものである。」
ここで、甲1製法発明の脂肪ブレンドAは、エステル交換されたシアオレフィンである。また、甲第1号証には、脂肪組成物が、エステル交換されたシアオレフィンと、任意選択で菜種油等の液体植物油を含むことが記載されている(甲第1号証の請求項1、請求項2、【0022】)。
一方、甲第5号証に記載の油脂は、パーム系油脂を原料とするものである。
一般に、油脂の脂肪酸組成は、原料によって異なるものであるところ、エステル交換されたシアオレフィンからなる甲1製法発明の脂肪ブレンドAの組成を、パーム系油脂を原料とする甲第5号証のエステル交換油の組成を参考に調節する動機があったとは言えない。
よって、上記特許異議申立人の主張は、上記イの判断を覆すものではない。
(5)申立理由1についてのむすび
上記(2)~(4)のとおり、本件特許発明1~5、7は、甲第1号証に記載された発明ではなく、また、本件特許発明1~8は、甲第1号証に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
2 取消理由2及び申立理由2(甲第2号証に基づく新規性・進歩性)について
(1)甲第2号証に記載された事項等
ア 甲第2号証に記載された事項
甲第2号証には、「油性食品用油脂組成物」に関して、おおむね次の事項が記載されている。
「【0004】
また、チョコレートに多くの液状油が配合されると、チョコレート中のココアバターやココアバター代用脂に含まれる油脂結晶が結晶型転移を起こし易くなることが知られている。チョコレート中のココアバターやココアバター代用脂に含まれる油脂結晶が結晶型転移を起こすと、油脂結晶が粗大化し、その結果、チョコレートはグレインを発生することになる。そのため、ソフトチョコレートは、グレインの発生が問題になることがあった。従って、ソフトチョコレートの製造に使用される油脂には、粗大結晶が発生しにくいことが求められる。」
「【0007】
本発明の目的は、油脂の分離及び粗大結晶が発生しにくい油性食品用油脂組成物を提供することにある。」
「【0009】
すなわち、本発明の第1の発明は、下記の(a)から(f)の条件を満たす油性食品用油脂組成物である。
(a)Y3を1~15質量%含有する。
(b)C50以上のY3/Y3の質量比が0.35以上である。
(c)X2Uを5~30質量%含有する。
(d)XXU/XUXの質量比が0.30以上である。
(e)XU2+U3を60~84質量%含有する。
(f)P/Stの質量比が2.35以上である。
上記の(a)から(f)の条件において、X、Y、U、P、St、Y3、C50以上のY3、X2U、XUX、XXU、XU2、U3はそれぞれ以下のものを示す。
X:炭素数16~18の飽和脂肪酸
Y:炭素数8~22の飽和脂肪酸
U:炭素数18の不飽和脂肪酸
P:パルミチン酸
St:ステアリン酸
Y3:Yが3分子結合しているトリグリセリド
C50以上のY3:構成する脂肪酸残基の総炭素数が50以上であるY3
X2U:Xが2分子、Uが1分子結合しているトリグリセリド
XUX:1位と3位にX、2位にUが結合しているトリグリセリド
XXU:1位及び2位にX、3位にUが結合しているトリグリセリド、又は2位及び3位にX、1位にUが結合しているトリグリセリド
XU2:Xが1分子、Uが2分子結合しているトリグリセリド
U3:Uが3分子結合しているトリグリセリド
本発明の第2の発明は、油脂の固体脂含量が、10℃で3~30%、20℃で15%以下、35℃で10%以下である第1の発明に記載の油性食品用油脂組成物である。
本発明の第3の発明は、前記油性食品が、チョコレートである第1の発明又は第2の発明に記載の油性食品用油脂組成物である。
本発明の第4の発明は、第1の発明~第3の発明のいずれか1つの発明に記載の油性食品用油脂組成物を使用して得られる油性食品である。
本発明の第5の発明は、前記油性食品が、チョコレートである本発明の第4の発明に記載の油性食品。」
「【0013】
本発明の実施の形態の油性食品用油脂組成物は、Y3を1~15質量%含有し、好ましくは1.2~12質量%含有し、より好ましくは1.5~9質量%含有する(条件(a))。
なお、本発明でY3は、Yが3分子結合しているトリグリセリド(YYY)である。また、本発明でトリグリセリドとは、グリセロールに3分子の脂肪酸が結合したトリアシルグリセロールのことである。また、本発明でYは、炭素数8~22の飽和脂肪酸である。
【0014】
本発明の実施の形態の油性食品用油脂組成物は、C50以上のY3/Y3の質量比が0.35以上であり、好ましくは0.40~0.95であり、より好ましくは0.45~0.90である(条件(b))。なお、本発明でC50以上のY3/Y3の質量比は、Y3含有量(質量%)に対するC50以上のY3含有量(質量%)の比のことである。また、本発明でC50以上のY3は、構成する脂肪酸残基の総炭素数が50以上であるY3のことである。
【0015】
本発明の実施の形態の油性食品用油脂組成物は、X2Uを5~30質量%含有し、好ましくは7~28質量%含有し、より好ましくは10~25質量%含有する(条件(c))。
なお、本発明でX2Uは、Xが2分子、Uが1分子結合しているトリグリセリド(XXU+XUX+UXX)である。また、本発明でXは、炭素数16~18の飽和脂肪酸である。また、本発明でUは、炭素数18の不飽和脂肪酸である。」
「【0017】
本発明の実施の形態の油性食品用油脂組成物は、XU2+U3を60~84質量%含有し、好ましくは66~84質量%含有し、より好ましくは70~83質量%含有し、さらに好ましくは70~82.5質量%含有する(条件(e))。
なお、本発明でXU2+U3は、XU2含有量とU3含有量の合計含有量のことである。また、本発明でXU2は、Xが1分子、Uが2分子結合しているトリグリセリド(XUU+UXU+UUX)である。また、本発明でU3は、Uが3分子結合しているトリグリセリド(UUU)である。
【0018】
本発明の実施の形態の油性食品用油脂組成物は、P/Stの質量比が2.35以上であり、好ましくは2.38~5.85であり、より好ましくは2.40~5.35である(条件(f))。
なお、本発明でP/Stの質量比は、構成脂肪酸中のSt含有量(質量%)に対するP含有量(質量%)の比のことである。また、本発明でPは、パルミチン酸(炭素数16の飽和脂肪酸)のことである。また、本発明でStは、ステアリン酸(炭素数18の飽和脂肪酸)のことである。」
「【0024】
本発明の実施の形態の油性食品用油脂組成物は、X2O/X2Uの質量比が好ましくは0.40以上であり、より好ましくは0.45~0.85であり、さらに好ましくは0.50~0.75である
なお、本発明でX2O/X2Uの質量比は、X2U含有量(質量%)に対するX2O含有量(質量%)の比のことである。また、本発明でX2OはXが2分子、Oが1分子結合しているトリグリセリド(XXO+XOX+OXX)である。また、本発明でOは、オレイン酸(炭素数18の1価の不飽和脂肪酸)である。」
「【0029】
本発明の実施の形態の油性食品用油脂組成物は、構成脂肪酸としてZを好ましくは0~10質量%含有し、より好ましくは0.5~8質量%含有し、さらに好ましくは1.0~5質量%含有する。
なお、本発明でZは、炭素数20~22の飽和脂肪酸である。
【0030】
本発明の実施の形態の油性食品用油脂組成物は、構成脂肪酸としてMを好ましくは5質量%以下含有し、より好ましくは3質量%以下含有し、さらに好ましくは1質量%以下含有する。
なお、本発明でMは、炭素数14以下の飽和脂肪酸である。」
「【0032】
本発明の実施の形態の油性食品用油脂組成物は、構成脂肪酸として、トランス脂肪酸を好ましくは5質量%以下含有し、より好ましくは3質量%以下含有し、さらに好ましくは2質量%以下含有する。
なお、本発明でトランス脂肪酸は、TFAと記載することもある。」
「【0067】
本発明の実施の形態の油性食品用油脂組成物は、好ましくはチョコレート、フィリング、バタークリーム、ショートニング、マーガリン、ファットスプレッド等の油性食品の製造に使用される。また、本発明の実施の形態の油性食品用油脂組成物は、より好ましくはノンテンパリング型チョコレートの製造に使用される。また、本発明の実施の形態の油性食品用油脂組成物は、ソフトチョコレートの製造に使用される。
なお、本発明でソフトチョコレートとは、25℃での性状がカスタードクリームのようなクリーム状で可塑性があり、食感が軟らかいチョコレートのことである。」
「【0073】
本発明の実施の形態の油性食品は、油性食品に含まれる油脂が本発明の実施の形態の油性食品用油脂組成物を好ましくは30~100質量%含有し、より好ましくは50~100質量%含有し、さらに好ましくは70~98質量%含有し、最も好ましくは85~95質量%含有する。
なお、本発明で油性食品に含まれる油脂は、油性食品に含まれる油脂の全てを合わせた全油脂分である。例えば、油性食品がカカオマス、全脂粉乳、油脂aを含む場合、油脂は、カカオマスに含まれるココアバターと、全脂粉乳に含まれる乳脂と、油脂aとの混合油である。すなわち、本発明で油性食品に含まれる油脂は、配合される油脂の他に、含油原料(カカオマス、ココアパウダー、全脂粉乳等)に含まれる油脂(ココアバター、乳脂等)を含む。
【0074】
本発明の実施の形態の油性食品は、油脂を好ましくは20~65質量%含有し、より好ましくは25~60質量%含有し、さらに好ましくは30~57質量%含有し、最も好ましくは40~50質量%含有する。」
「【0079】
本発明の実施の形態の油性食品は、油脂の分離及びグレインが発生しにくい。
なお、本発明でグレインとは、油性食品に発生する粒(油脂の粗大結晶)のことをいう。」
「【0086】
〔ランダムエステル交換油D1の製造〕
パーム中融点部(沃素価:45)65質量部とパームステアリン(沃素価:11)35質量部を混合した。得られた混合油を、ランダムエステル交換することにより、ランダムエステル交換油D1(X3含有量:31.2質量%、X2U含有量:43.1質量%、XU2含有量:19.7質量%、U3含有量:2.6質量%、XXU/XUX質量比:1.88、X2O/X2U質量比:0.842、P/St質量比:12.2、X含有量:64.7質量%、U含有量:33.7質量%)を得た。
エステル交換は、常法に従い、原料油脂を十分に乾燥させ、ナトリウムメトキシドを原料油脂に対して0.2質量%添加した後、減圧下、120℃で0.5時間攪拌しながら反応を行った。
【0087】
〔油脂A1の製造〕
95質量部のランダムエステル交換油D1と5質量部のパーム中融点部(沃素価45、X3含有量:2.3質量%、X2U含有量:67.8質量%、XU2含有量:22.8質量%、U3含有量:3.0質量%、XXU/XUX質量比:0.124、X2O/X2U質量比:0.849、P/St質量比:9.37、X含有量:53.0質量%、U含有量:45.2質量%)を混合した。得られた混合油をドライ分別し、高融点部を除去することで低融点部を得た。該低融点部に脱臭処理を行ったものを油脂A1(X3含有量:8.6質量%、X2U含有量:57.8質量%、XXU/XUX質量比:1.449、XU2含有量:26.0質量%、U3含有量:3.4質量%、XUX含有量:23.6質量%、XXU含有量:34.2質量%、X2O含有量:48.3質量%、X2O/X2U質量比:0.836、X含有量:55.2質量%、Z含有量:0.4質量%、M含有量:1.1質量%、U含有量:43.2質量%、TFA含有量:0.1質量%)とした。
【0088】
〔その他の原料油脂〕
パーム中融点部(沃素価45、X3含有量:2.3質量%、X2U含有量:67.8質量%、XU2含有量:22.8質量%、U3含有量:3.0質量%、XXU/XUX質量比:0.124、X2O/X2U質量比:0.849、P/St質量比:9.37、X含有量:53.0質量%、U含有量:45.2質量%)を油脂a1とした。
大豆油(性状:20℃で液状)を油脂B1とした。
ハイエルシン酸菜種油の極度硬化油(X+Z合計含有量:98.8質量%、St+Z合計含有量:95.0質量%、Z含有量:55.2質量%)を油脂C1とした。
パーム油の極度硬化油(X+Z合計含有量:98.2質量%、St+Z合計含有量:54.8質量%、Z含有量:0.6質量%)を油脂C2とした。
菜種油の極度硬化油(X+Z合計含有量:99.6質量%、St+Z合計含有量:94.0質量%、Z含有量:2.8質量%)を油脂C3とした。
パーム核オレインの極度硬化油50質量部とパームステアリンの極度硬化油50質量部の混合油のランダムエステル交換油(X+Z合計含有量:69.0質量%、St+Z合計含有量:35.0質量%、Z含有量:0.5質量%)を油脂c1とした。
【0089】
〔油脂組成物の製造〕
表1~4に示す配合で融解させた油脂を混合することで、油脂組成物を製造した。
得られた油脂組成物の脂肪酸含有量、トリグリセリド含有量を前述の分析方法に従って測定した。測定結果を表5~8に示した。なお、配合の単位は質量部であり、含有量の単位は質量%である(質量比の単位はなし)。」
「【0092】
〔油脂結晶の評価〕
各油脂組成物37.2gとココアバター2.8gを100mLのビーカーに充填し、60℃で融解させた後、混合することで得られる混合油を評価試料とした。各評価試料を、下記1)~5)の順に調温することで冷却固化させた。冷却固化させた各評価試料を20℃で1週間保存した後、評価試料の油脂結晶の状態を観察した。観察は、カバーガラスへ評価試料を1滴のせ、さらにカバーガラスを上から挟んだ試料を作成し、目視で観察することで、粗大結晶の有無を評価した。評価は下記評価基準に従い評価した。評価結果が◎又は○の場合、粗大結晶が発生しにくいと判断した。評価結果を表5~8に示した。
1)5時間かけて50℃から25℃へ冷却する。
2)5時間かけて25℃から15℃へ冷却する。
3)5時間かけて15℃から10℃へ冷却する。
4)15時間かけて10℃から5℃へ冷却する。
5)5℃で15時間以上、冷却する。
【0093】
<油脂結晶の評価基準>
◎:全体的に細かい結晶である。
○:部分的に粗い結晶もあるが、全体的には細かい結晶である。
△:全体的に粗い結晶である。
×:全体的に結晶が粗大化している」
「【0096】
【表3】
[図:0001439184000009.jpg]
」
「【0100】
【表7】
[図:0001439184000010.jpg]
」
イ 甲第2号証に記載された発明
甲第2号証に記載された発明を、表3および表7に記載の比較例5に着目して整理すると、甲第2号証には、次の発明が記載されていると認める。
<甲2-C5発明>
「パーム中融点部(沃素価45、X3含有量:2.3質量%、X2U含有量:67.8質量%、XU2含有量:22.8質量%、U3含有量:3.0質量%、XXU/XUX質量比:0.124、X2O/X2U質量比:0.849、P/St質量比:9.37、X含有量:53.0質量%、U含有量:45.2質量%)である油脂a1を19.2質量%と、大豆油(性状:20℃で液状)である油脂B1を76.8質量%と、ハイエルシン酸菜種油の極度硬化油(X+Z合計含有量:98.8質量%、St+Z合計含有量:95.0質量%、Z含有量:55.2質量%)である油脂C1を4.0質量%の割合で混合することで製造した、下記表7の比較例5に記載の組成を有する油脂組成物。
【表7】
[図:0001439184000011.jpg]
」
また、表3および表7に記載の実施例6に着目して整理すると、甲第2号証には、次の発明が記載されていると認める。
<甲2-6発明>
「パーム中融点部(沃素価:45)65質量部とパームステアリン(沃素価:11)35質量部を混合し、得られた混合油を、ランダムエステル交換することにより得られた、ランダムエステル交換油D1(X3含有量:31.2質量%、X2U含有量:43.1質量%、XU2含有量:19.7質量%、U3含有量:2.6質量%、XXU/XUX質量比:1.88、X2O/X2U質量比:0.842、P/St質量比:12.2、X含有量:64.7質量%、U含有量:33.7質量%)95質量部とパーム中融点部5質量部とを混合し、得られた混合油をドライ分別し、高融点部を除去することで得た低融点部に脱臭処理を行って油脂A1(X3含有量:8.6質量%、X2U含有量:57.8質量%、XXU/XUX質量比:1.449、XU2含有量:26.0質量%、U3含有量:3.4質量%、XUX含有量:23.6質量%、XXU含有量:34.2質量%、X2O含有量:48.3質量%、X2O/X2U質量比:0.836、X含有量:55.2質量%、Z含有量:0.4質量%、M含有量:1.1質量%、U含有量:43.2質量%、TFA含有量:0.1質量%)を得て、上記油脂A1と、大豆油(油脂B1)とを、表3の実施例6に記載の組成で混合することで製造した、上記表7の実施例6に記載の組成を有する油脂組成物。」
<甲2-6製法発明>
「パーム中融点部(沃素価:45)65質量部とパームステアリン(沃素価:11)35質量部を混合し、得られた混合油を、ランダムエステル交換することにより、ランダムエステル交換油D1(X3含有量:31.2質量%、X2U含有量:43.1質量%、XU2含有量:19.7質量%、U3含有量:2.6質量%、XXU/XUX質量比:1.88、X2O/X2U質量比:0.842、P/St質量比:12.2、X含有量:64.7質量%、U含有量:33.7質量%)を得たのち、95質量部のランダムエステル交換油D1と5質量部のパーム中融点部を混合し、得られた混合油をドライ分別し、高融点部を除去することで得た低融点部に脱臭処理を行って油脂A1(X3含有量:8.6質量%、X2U含有量:57.8質量%、XXU/XUX質量比:1.449、XU2含有量:26.0質量%、U3含有量:3.4質量%、XUX含有量:23.6質量%、XXU含有量:34.2質量%、X2O含有量:48.3質量%、X2O/X2U質量比:0.836、X含有量:55.2質量%、Z含有量:0.4質量%、M含有量:1.1質量%、U含有量:43.2質量%、TFA含有量:0.1質量%)を得て、上記油脂A1と、大豆油(油脂B1)とを、表3の実施例6に記載の組成で混合し、上記表7の実施例6に記載の組成を有する油脂組成物を得る方法。」
(2)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲2-C5発明を対比する。
甲2-C5発明は、チョコレートの製造に使用される(【0067】)ことから、本件特許発明1における「チョコレート類用油脂」に相当する。
甲2発明は、トランス脂肪酸の含有量が1.0質量%であり、10℃の固体脂含量が6.7%である(表7)ことから、本件特許発明1における「(a) 全構成脂肪酸に占める、トランス脂肪酸含有量が5重量%以下」及び「(f) 10℃のSFCが5~40%」との特定事項を満たす。
そうすると、両者の一致点、相違点は以下の通りである。
(一致点)
「下記(a)及び(f)を全て満たす、チョコレート類用油脂。
(a) 全構成脂肪酸に占める、トランス脂肪酸含有量が5重量%以下
(f) 10℃のSFCが5~40%」
(相違点)
・相違点2-C5-1
本件特許発明1は、チョコレート類用油脂が「全トリグリセリドに占めるSSS(S(炭素数16~20の飽和脂肪酸)が3分子結合しているトリグリセリドを示す。)含有量が、2重量%以下である」とあるのに対し、甲2-C5発明には、そのような特定がされていない点。
・相違点2-C5-2
本件特許発明1は、チョコレート類用油脂が「(b) 全構成脂肪酸に占める、炭素数16以上の鎖長を有する飽和脂肪酸含有量が20~60重量%」を満たすとあるのに対し、甲2-C5発明には、そのような特定がされていない点。
・相違点2-C5-3
本件特許発明1は、チョコレート類用油脂が「(c) 全トリグリセリドに占める、CN38~CN46のトリグリセリド含有量が40重量%以下」を満たすとあるのに対し、甲2-C5発明には、そのような特定がされていない点。
・相違点2-C5-4
本件特許発明1は、チョコレート類用油脂が「(d) 全トリグリセリドに占める、SO2トリグリセリド含有量が40重量%以下」を満たすとあるのに対し、甲2-C5発明には、そのような特定がされていない点。
・相違点2-C5-5
本件特許発明1は、チョコレート類用油脂が「(e) 全トリグリセリドに占める、S2Oトリグリセリド含有量が10~40重量%」を満たすとあるのに対し、甲2-C5発明には、そのような特定がされていない点。
・相違点2-C5-6
本件特許発明1は、「ランダムエステル交換を含む処理に付された」とあるのに対し、甲2-C5発明には、そのような特定がされていない点。
イ 判断
事案に鑑み、相違点2-C5-6について検討する。
甲2-C5発明は、パーム中融点部、大豆油、ハイエルシン酸菜種油の極度硬化油を混合してなる油脂組成物であり、ランダムエステル交換を含む処理に付されたものではない。よって、相違点2-C5-6は実質的な相違点である。
そして、甲第5号証の記載全体と、他の全ての証拠の記載をみても、比較例である甲2-C5発明において、さらにランダムエステル交換を含む処理を行う動機付けはない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲2-C5発明ではなく、甲2-C5発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(特許異議申立人の主張について)
特許異議申立人は、異議申立書の76~77頁において、甲第2号証に基づく新規性・進歩性について以下のように主張している。
「そして、【0100】【表7】からの計算値等から導き出される実施例6、実施例7、比較例4、比較例5の油脂組成物における本件特許発明で規定された請求項1の(a)~(f)及び請求項2~5のパラメータは、下記表Bの通りとなる。
[図:0001439184000012.jpg]
表Bから明らかなとおり、本件特許発明1と甲2-1発明(実施例6、実施例7、比較例4、比較例5)とは、本件特許発明1の(a)~(f)の発明特定事項において一致する。」
しかしながら、比較例5(甲2-C5発明)は少なくとも相違点2-C5-6で相違することは、上記イのとおりである。
また、甲第2号証の実施例6(甲2-6発明)は、SSS含有量が2重量%以下であることが特定されていない点で、一応相違する。
ここで、実施例6は、油脂A1(X3含有量:8.6質量%、X2U含有量:57.8質量%、XXU/XUX質量比:1.449、XU2含有量:26.0質量%、U3含有量:3.4質量%、XUX含有量:23.6質量%、XXU含有量:34.2質量%、X2O含有量:48.3質量%、X2O/X2U質量比:0.836、X含有量:55.2質量%、Z含有量:0.4質量%、M含有量:1.1質量%、U含有量:43.2質量%、TFA含有量:0.1質量%)を29.7質量%含有する。上記油脂A1のX3は、炭素数16~18の飽和脂肪酸が3分子結合しているトリグリセリドであり(甲第2号証の【0009】)、本願のSSSに包含される。してみると、実施例6は、XXXを2.55(=8.6×29.7/100)質量%含み、SSS含有量が、少なくとも2.55質量%を超える。
よって、実施例6のSSS含有量が2重量%以下であることが特定されていない点は、実質的な相違点である。また、甲第2号証の明細書全体の記載と、他の全ての証拠の記載をみても、甲第2号証の実施例6において、SSS含有量を2重量%以下とする動機はない。比較例4、実施例7についても、実施例6と同様である。
よって、特許異議申立人の主張は、上記イの判断を覆すものではない。
(3)本件特許発明2~7について
本件特許発明2~7は、本件特許発明1の発明特定事項を全て有し、更に限定するものである
そして、本件特許発明1は、甲2-C5発明ではなく、甲2-C5発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明2~5は甲2-C5発明ではなく、また、本件特許発明2~7は、甲2-C5発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(4)本件特許発明8について
ア 対比
本件特許発明8と、甲2-6製法発明とを対比する。
甲2-6製法発明は、ランダムエステル交換により得られたランダムエステル交換油D1から、分別により高融点文献を除去する工程を含んでおり、本件特許発明8における「ランダムエステル交換により得られたエステル交換油を、分別により高融点部を除去する」に相当する。
甲2-6製法発明は、チョコレートの製造に使用される油脂の製造方法である(【0067】)ことから、本件特許発明8における「チョコレート類用油脂の製造方法」に相当する。
甲2-6製法発明で得られる実施例6の油脂組成物は、トランス脂肪酸の含有量が0.9質量%であり、10℃の固体脂含量が15.9%である(表7)ことから、本件特許発明8における「(a) 全構成脂肪酸に占める、トランス脂肪酸含有量が5重量%以下」及び「(f) 10℃のSFCが5~40%」との特定事項を満たす。
そうすると、両者の一致点、相違点は以下の通りである。
(一致点)
「ランダムエステル交換により得られたエステル交換油を、分別により高融点部を除去することを特徴とする、下記(a)及び(f)を全て満たす、チョコレート類用油脂の製造方法。
(a) 全構成脂肪酸に占める、トランス脂肪酸含有量が5重量%以下
(f) 10℃のSFCが5~40%」
(相違点)
・相違点2-6-1
本件特許発明8にはエステル交換油について「構成脂肪酸中のラウリン酸含有量が25重量%以下」とあるのに対し、甲2-6製法発明には、そのような特定がない点。
・相違点2-6-2
本件特許発明8には、エステル交換油について「パルミチン酸含有量/ステアリン酸含有量の比が1.5~5」とあるのに対し、甲2-6製法発明には、そのような特定がない点。
・相違点2-6-3
本件特許発明8には「(b) 全構成脂肪酸に占める、炭素数16以上の鎖長を有する飽和脂肪酸含有量が20~60重量%」とあるのに対し、甲2-6製法発明には、そのような特定がない点。
・相違点2-6-4
本件特許発明8には「(c) 全トリグリセリドに占める、CN38~CN46のトリグリセリド含有量が40重量%以下」とあるのに対し、甲2-6製法発明には、そのような特定がない点。
・相違点2-6-5
本件特許発明8には「(d) 全トリグリセリドに占める、SO2トリグリセリド含有量が40重量%以下」とあるのに対し、甲2-6製法発明には、そのような特定がない点。
・相違点2-6-6
本件特許発明8には「(e) 全トリグリセリドに占める、S2Oトリグリセリド含有量が10~40重量%」とあるのに対し、甲2-6製法発明には、そのような特定がない点。
イ 判断
事案に鑑み、相違点2-6-2について検討する。
甲2-6製法発明のランダムエステル交換油D1は、パルミチン酸含有量/ステアリン酸含有量の比(P/St質量比)が12.2であり、相違点2-6-2は実質的な相違点である。
そして、甲第2号証の明細書全体の記載と、他の全ての証拠をみても、甲2-6製法発明において、ランダムエステル交換油D1のパルミチン酸含有量/ステアリン酸含有量の比を1.5~5とする動機はない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明8は、甲2-6発明ではなく、甲2-6発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(特許異議申立人の主張について)
特許異議申立人は、異議申立書の90頁において、申立理由2について以下のように主張している。
「ここで、本件特許発明8と、甲第2号証の実施例6、実施例7、比較例4の油脂組成物に使用されている油脂Alとを対比すると、エステル交換油のパルミチン酸含有量/ステアリン酸含有量の比が相違する。しかしながら、当該相違点は、前述のとおり、(分別前の)エステル交換油のパルミチン酸含有量/ステアリン酸含有量の比を適宜調整することや、チョコレート改良材の分別前のエステル交換油のパルミチン酸含有量/ステアリン酸含有量の比を「0.125~20(好ましくは0.5~5)」あるいは「1.5~ 5」にすることは周知技術であるから、当業者が容易に想到するものである。」
なお、上記主張のうち、「前述のとおり」とは、上記1(4)の(特許異議申立理由の主張について)で引用した、異議申立書の70~71頁の主張を指すものとして、以下検討する。
甲2-6製法発明の油脂組成物と、甲第5号証の油脂は、いずれもチョコレート用油脂組成物であるが、互いに組成は異なるものであるところ、パルミチン酸含有量/ステアリン酸含有量の比のみに着目し、甲2-6製法発明の油脂組成物のパルミチン酸含有量/ステアリン酸含有量の比を、甲第5号証の油脂を参考に変更するという動機があるとは言えない。
よって、特許異議申立人の主張は、上記イの判断を覆すものではない。
(5)取消理由2及び申立理由2についてのむすび
上記(2)~(4)のとおり、本件特許発明1~5は、甲第2号証に記載された発明ではなく、また、本件特許発明1~8は、甲第2号証に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
3 申立理由3(甲第3号証に基づく新規性・進歩性)について
(1)甲第3号証に記載された事項等
ア 甲第3号証に記載された事項
甲第3号証には、「非硬化脂肪組成物、使用およびプロセス」に関して、おおむね次の事項が記載されている。
・「【0012】
好ましくは、脂肪組成物は、安定化脂肪中の40未満のN10を有する固体脂肪含量(SFC)を有する。N10は、ISO8292-1に準じた安定化脂肪のNMRを使用して測定した10℃のSFCである。そのような脂肪は、特に脂肪組成物が典型的には8℃以下の温度にある冷却貯蔵庫から取り出される場合、良好な加工性を示す。より好ましくは、脂肪組成物は、25~40のN10、35未満のN20、15未満のN30、10未満のN35、および8未満のN40を有する。」
「【0014】
さらに別の好ましい実施形態では、組成物は、パーム油又はパーム油画分の脂肪酸残基を含まないか、本質的に含まない。「本質的に含まない(essentially free)」とは、組成物がパーム油又はパーム油画分の脂肪酸残基を1重量%未満含むことを意味する。」
・「【実施例1】
【0027】
シアオレイン/シアバター混合物
【0028】
本明細書で使用される、シアバターおよびエステル交換シアオレインの典型的な組成物を以下に示す。
[図:0001439184000013.jpg]
上記の表において、
Cx:yは、x個の炭素原子とy個の二重結合を持つ脂肪酸を指し、GC-FAME(ISO12966-2およびISO12966-4)によってレベル測定される。
IVFAMEは、計算されたヨウ素値を指す。
FFAは、遊離脂肪酸の量を指す。
トランスは、トランス脂肪酸を指す。
SAFAは、飽和脂肪酸を指す。
O、P、St、L、およびAは、それぞれオレイン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、リノール酸、およびアラキジン酸を指す。
トリグリセリド組成物:POSt、およびその他のトリグリセリドはGC(ISO23275)により測定され、各GCピークには、異なる位置に同じ脂肪酸を持つトリグリセリドが含まれる。例えば、POStは、PStOおよびStPOと同じシグナルピークにある。
【0029】
化学的にエステル交換されたシアオレインは、80/20(w/w)と60/40(w/w)の2つの異なる比率を使用してシアバターと混合された。脂肪組成物は、漂白および脱臭後の混合から得られた。製菓用途試験の基準脂肪として、オランダのIOI Loders Croklaan BVから入手した市販の脂肪Biscuitine300を使用した。ベーカリー用途試験の基準脂肪として、比率50/50(w/w)のパーム油とパームステアリン(IV~35)の脂肪混合物を使用した。基準脂肪および本発明の脂肪組成物の分析結果を表1に示す。
脂肪組成物80/20エステル交換シアオレイン/シアバター、Biscuitine300、60/40エステル交換シアオレイン/シアバター、および50/50パーム油/パームステアリン。
[図:0001439184000014.jpg]
上記の表において、
Cx:yは、x個の炭素原子とy個の二重結合を持つ脂肪酸を指し、GC-FAME(ISO12966-2およびISO12966-4)によってレベル測定される。
IVFAMEは、計算されたヨウ素値を指す。
SAFAは、飽和脂肪酸を指す。
トランスは、トランス脂肪酸を指す。
O、P、St、L、およびAは、それぞれオレイン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、リノール酸、およびアラキジン酸を指す。
トリグリセリド組成物:POSt、およびその他のトリグリセリドはGC(ISO23275)により測定され、各GCピークには、異なる位置に同じ脂肪酸を持つトリグリセリドが含まれる。例えば、POStは、PStOおよびStPOと同じシグナルピークにある。
S20-Nxは、x℃(ISO8292-1)で20℃安定化脂肪のNMRで測定された固体脂肪含有量を指す。
【実施例2】
【0030】
エステル交換シアオレイン/シアバター配合
【0031】
60重量%のシアオレインと40重量%のシアバターの混合物200kgを、ナトリウムメトキシドを使用して化学的にエステル交換した後、漂白と脱臭を行った。この脂肪を、実施例1.3とする。脂肪組成物は、次の組成物である(表2)。
60/40シアオレイン/シアバターにエステル交換された脂肪組成物
[図:0001439184000015.jpg]
上記の表において、
Cx:yは、x個の炭素原子とy個の二重結合を持つ脂肪酸を指し、GC-FAME(ISO12966-2およびISO12966-4)によってレベル測定される。
IVFAMEは、計算されたヨウ素値を指す。
SAFAは、飽和脂肪酸を指す。
トランスは、トランス脂肪酸を指す。
O、P、St、L、およびAは、それぞれオレイン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、リノール酸、およびアラキジン酸を指す。
トリグリセリド組成物:POSt、およびその他のトリグリセリドはGC(ISO23275)により測定され、各GCピークには、異なる位置に同じ脂肪酸を持つトリグリセリドが含まれる。例えば、POStは、PStOおよびStPOと同じシグナルピークにある。
S20-Nxは、x℃(ISO 8292-1)で測定した20℃安定化脂肪のNMRで測定された固体脂肪含有量を指す。
【実施例3】
【0032】
菓子フィリング
【0033】
ココア含有菓子フィリングは、ボールミルを使用して240rpmで40分間、表3の以下の成分を混合して調製した。脂肪混合物1.1を使用した。基準フィリング脂肪として、脂肪混合物を基準フィリング脂肪であるオランダウォルメルフェールのLoders Croklaan BVから入手したBiscuitine300に置き換えた。
ココア・フィリングのレシピ
[図:0001439184000016.jpg]
【0034】
ヘーゼルナッツ入り菓子フィリングは、ボールミルを使用して240rpmで40分間、以下の成分を混合して調製した。脂肪混合物1.1を使用した。基準フィリング脂肪として、脂肪混合物を基準フィリング脂肪であるオランダウォルメルフェールのLoders Croklaan BVから入手したBiscuitine300に置き換えた。
ヘーゼルナッツ・フィリングのレシピ
[図:0001439184000017.jpg]
【0035】
菓子フィリングを表5にまとめる。
上記レシピによる菓子フィリング
[図:0001439184000018.jpg]
【実施例4】
【0036】
貯蔵試験
【0037】
実施例3に従って調製した菓子フィリングを、ダークチョコレートシェルに入れ(実施例1.1では23~26℃、基準1.1では30~33℃)、固定冷却キャビネット(12℃)で少なくとも15分間冷却した。最初の冷却後、チョコレートシェルの底にダークチョコレートを入れ、固定冷却キャビネット(12℃)で少なくとも15分間冷却した。その後、フィリングを含むチョコレートシェルを、さらに評価するために異なる温度で保管した。チョコレートシェルは、15℃で12時間、25℃で12時間の温度サイクル条件下で、20℃、25℃で保管された。
【0038】
次の表で示すとおり、1日後、2週間後、1か月後、3か月後に外観を評価した。外観は、光沢およびブルームで評価された。
【0039】
光沢およびブルーム
【0040】
光沢は、1~5の範囲の光沢係数で示され、1はマット(光沢なし)、5は非常に光沢であることを示す。ブルームは、A~Cの範囲のブルーム係数で示され、Aはブルームなし、Cは大きなブルームであることを示す。
【0041】
結果を表6a、6b、6c、および6dに示す。
1日後の光沢とブルーム
[図:0001439184000019.jpg]
2週間後の光沢とブルーム
[図:0001439184000020.jpg]
1か月後の光沢とブルーム
[図:0001439184000021.jpg]
3か月後の光沢とブルーム
[図:0001439184000022.jpg]
」
イ 甲第3号証に記載された発明
甲第3号証に記載された事項を、特に実施例1.1に関して整理すると、甲第3号証には次の発明が記載されていると認める。
<甲3発明>
「化学的にエステル交換されたシアオレインと、シアバターとの混合物である、下記表1の実施例1.1の脂肪組成物。
[図:0001439184000023.jpg]
」
<甲3製法発明>
「化学的にエステル交換されたシアオレインを、シアバターと混合して、上記表1の実施例1.1の脂肪組成物を調整する方法。」
(2)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と、甲3発明とを対比する。
甲3発明は、ココア含有菓子フィリングに使用される(【0032】ないし【0035】)ことから、本件特許発明1における「チョコレート類用油脂」に相当する。
甲3発明は、総トランスが0.5重量%であり、10℃の固体脂肪含有量が30%である(表1)ことから、本件特許発明1における「(a) 全構成脂肪酸に占める、トランス脂肪酸含有量が5重量%以下」及び「(f) 10℃のSFCが5~40%」との特定事項を満たす。
そうすると、両者の一致点、相違点は以下の通りである。
(一致点)
「下記(a)及び(f)を全て満たす、チョコレート類用油脂。
(a) 全構成脂肪酸に占める、トランス脂肪酸含有量が5重量%以下
(f) 10℃のSFCが5~40%」
(相違点)
・相違点3-1
本件特許発明1は、「(b) 全構成脂肪酸に占める、炭素数16以上の鎖長を有する飽和脂肪酸含有量が20~60重量%」とあるのに対して、甲3発明は、そのようには特定されていない点。
・相違点3-2
本件特許発明1は、「(c) 全トリグリセリドに占める、CN38~CN46のトリグリセリド含有量が40重量%以下」及び「「CN38~CN46のトリグリセリド」とは、油脂中のトリグリセリドの構成脂肪酸の総炭素数が38~46のトリグリセリドを示」すとあるのに対して、甲3発明は、そのようには特定されていない点。
・相違点3-3
本件特許発明1は、「(d) 全トリグリセリドに占める、SO2トリグリセリド含有量が40重量%以下」及び「SO2トリグリセリドとは、S(炭素数16~20の飽和脂肪酸を示す。以下同じ。)が1分子、O(オレイン酸を示す。以下同じ。)が2分子結合しているトリグリセリドを示」すとあるのに対して、甲3発明は、そのようには特定されていない点。
・相違点3-4
本件特許発明1は、「(e) 全トリグリセリドに占める、S2Oトリグリセリド含有量が10~40重量%」及び「S2Oトリグリセリドとは、Sが2分子、Oが1分子結合しているトリグリセリドを示す」とあるのに対して、甲3発明は、そのようには特定されていない点。
・相違点3-5
本件特許発明1は、チョコレート類用油脂が「全トリグリセリドに占めるSSS(S(炭素数16~20の飽和脂肪酸)が3分子結合しているトリグリセリドを示す。)含有量が、2重量%以下である」と特定されているのに対し、甲3発明には、そのような特定がされていない点。
・相違点3-6
本件特許発明1は、チョコレート類用油脂が「ランダムエステル交換を含む処理に付された」と特定されているのに対し、甲3発明は化学的にエステル交換する工程に付されたものである点。
イ 判断
事案に鑑み、相違点3-5について検討する。
甲第3号証の表1(【0029】)によれば、実施例1-1は、SSS(S(炭素数16~20の飽和脂肪酸)が3分子結合しているトリグリセリド)であるPPSt+PStPを0.6重量%、PStSt+StPStを1.1重量%、StStStを2.2重量%、AStSt+StAStを0.3重量%含み、これらの合計は4.2(=0.6+1.1+2.2+0.3)重量%である。
してみると、甲3発明のSSS含有量は少なくとも4.2重量%であり、相違点3-5は実質的な相違点である。また、甲第3号証の全ての記載及び他の証拠の記載をみても、甲3発明において、SSS含有量を2重量%以下とする動機はない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲3発明ではなく、甲3発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(3)本件特許発明2~7について
本件特許発明2~7は、本件特許発明1の発明特定事項を全て有し、更に限定するものである
そして、本件特許発明1は、甲3発明ではなく、甲3発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明2~4、7は、甲3発明ではなく、また、本件特許発明1~7は、甲3発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(4)本件特許発明8について
ア 対比
本件特許発明8と、甲3製法発明とを対比すると、上記(2)と同様のことがいえるので、両者の一致点、相違点は以下の通りである。
(一致点)
「ランダムエステル交換により得られたエステル交換油を用い、下記(a)及び(f)を全て満たす、チョコレート類用油脂の製造方法。
(a) 全構成脂肪酸に占める、トランス脂肪酸含有量が5重量%以下
(f) 10℃のSFCが5~40%」
・相違点3-7
本件特許発明8は、「構成脂肪酸中のラウリン酸含有量が25重量%以下」とあるのに対して、甲3製法発明は、そのようには特定されていない点。
・相違点3-8
本件特許発明8は、「パルミチン酸含有量/ステアリン酸含有量の比が1.5~5」とあるのに対して、甲3製法発明は、そのようには特定されていない点。
・相違点3-9
本件特許発明8は、「分別により高融点部を除去することを特徴とする」とあるのに対し、甲3製法発明は、そのようには特定されていない点
・相違点3-10
本件特許発明8は、「(b) 全構成脂肪酸に占める、炭素数16以上の鎖長を有する飽和脂肪酸含有量が20~60重量%」とあるのに対して、甲3製法発明は、そのようには特定されていない点。
・相違点3-11
本件特許発明8は、「(c) 全トリグリセリドに占める、CN38~CN46のトリグリセリド含有量が40重量%以下」及び「「CN38~CN46のトリグリセリド」とは、油脂中のトリグリセリドの構成脂肪酸の総炭素数が38~46のトリグリセリドを示」すとあるのに対して、甲3製法発明は、そのようには特定されていない点。
・相違点3-12
本件特許発明8は、「(d) 全トリグリセリドに占める、SO2トリグリセリド含有量が40重量%以下」及び「SO2トリグリセリドとは、S(炭素数16~20の飽和脂肪酸を示す。以下同じ。)が1分子、O(オレイン酸を示す。以下同じ。)が2分子結合しているトリグリセリドを示」すとあるのに対して、甲3製法発明は、そのようには特定されていない点。
・相違点3-13
本件特許発明8は、「(e) 全トリグリセリドに占める、S2Oトリグリセリド含有量が10~40重量%」及び「S2Oトリグリセリドとは、Sが2分子、Oが1分子結合しているトリグリセリドを示す」とあるのに対して、甲3製法発明は、そのようには特定されていない点。
・相違点3-14
本件特許発明8は、チョコレート類用油脂が「ランダムエステル交換により得られた」と特定されているのに対し、甲3発製法明は化学的にエステル交換して得られたと特定している点。
イ 判断
事案に鑑み、相違点3-8について検討する。
甲第3号証の【0029】の表には、本件のエステル交換油に相当する精製エステル交換シアオレインについて、パルミチン酸であるC16:0が7.8%、ステアリン酸であるC18:0が27.3%であることが記載されている。よって、甲3製法発明のパルミチン酸含有量/ステアリン酸含有量の比はおよそ0.29(=7.8/27.3)であり、相違点3-8は実質的な相違点である。
また、甲第3号証及び他の全ての証拠の記載をみても、甲3製法発明において、パルミチン酸含有量/ステアリン酸含有量の比が1.5~5となるように調節する動機があったとは言えない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明8は、甲3製法発明ではなく、甲3製法発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(特許異議申立理由の主張について)
特許異議申立人は、異議申立書の105頁において、上記相違点3-8について、以下のように主張している。
「・・・前述のとおり、(分別前の)エステル交換油のパルミチン酸含有量/ステアリン酸含有量の比を適宜調整することや、チョコレート改良材の分別前のエステル交換油のパルミチン酸含有量/ステアリン酸含有量の比を「0.125~20(好ましくは0.5~5)」あるいは「1.5~5」にすることは周知技術であるから、当業者が容易に想到するものである。」
なお、上記主張のうち、「前述のとおり」とは、上記1(4)の(特許異議申立理由の主張について)で引用した、異議申立書の70~71頁の主張を指すものとして、以下検討する。
甲3製法発明の実施例1.1は、エステル交換油として、エステル交換されたシアオレインを用いている。また、甲第3号証には、脂肪組成物がパーム油又はパーム油画分の脂肪酸残基を含まないことが好ましいと記載されている(【0014】)。
一方、甲第5号証に記載の油脂は、パーム系油脂を原料とするものである。
一般に、油脂の脂肪酸組成は、原料によって異なるものであるところ、甲3製法発明のエステル交換されたシアオレインの組成を、パーム系油脂を原料とする甲第5号証のエステル交換油の組成を参考に調節する動機があったとは言えない。
よって、上記特許異議申立人の主張は、上記イの判断を覆すものではない。
(5)申立理由3についてのむすび
上記(2)~(4)のとおり、本件特許発明1~4、7は、甲第3号証に記載された発明ではなく、また、本件特許発明1~8は、甲第3号証に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
4 申立理由4(甲第4号証に基づく新規性・進歩性)について
(1)甲第4号証に記載された事項等
ア 甲第4号証に記載された事項
甲第4号証には「冷菓用油脂組成物及び冷菓用チョコレート類」について、おおむね次の事項が記載されている。
「[0044]油脂Bは、パームオレイン(不二製油株式会社製、ヨウ素価:57.0、飽和脂肪酸:45.8重量%)とした。」
「[0047]表1 油脂の組成とSFC値
[図:0001439184000024.jpg]
[0048]「冷菓用チョコレート類の調製方法」 下表2、3、5及び6の配合に従い、冷菓用チョコレート類を調製した。なお、チョコレート類の調製条件は、公知の方法に従った。すなわち、ココア(油分11.0重量%)、カカオマス、全粉乳、乳糖、砂糖に適量の植物性油脂とレシチンを加え、ミキサーで加温しながら混和しドウを作成する。このドウをロールリファイナー(BUHLER社製Three-roll mill SDY300)により、約20μmの粒度に微粒化し、ここへ残余の油脂とレシチンを全量加え、コンチングマシン(コンチェ)にて均一に練り上げ、チョコレート類を得た。
[0049] 表2 冷菓被覆用チョコレートの配合
[図:0001439184000025.jpg]
[0050]表3 冷菓被覆用チョコレートの油脂配合
[図:0001439184000026.jpg]
」
イ 甲第4号証に記載された発明
甲第4号証に記載された事項を、特に油脂に関して整理すると、甲第4号証には次の発明が記載されていると認める。
<甲4発明>
「下記表1に記載の組成を有するパームオレイン(不二製油株式会社製、ヨウ素価:57.0、飽和脂肪酸:45.8重量%)である油脂B。
表1 油脂の組成とSFC値
[図:0001439184000027.jpg]
」
(2)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と、甲4発明とを対比する。
甲4発明は、冷菓被覆用チョコレートに使用されることから、本件特許発明1における「チョコレート類用油脂」に相当する。
甲4発明は、飽和脂肪酸含量が48.5%であり、炭素数16の飽和脂肪酸であるパルミチン酸含量が40.5%であり、炭素数18の飽和脂肪酸であるステアリン酸含量が4.0%である。してみると、甲4発明の炭素数16以上の鎖長を有する飽和脂肪酸含有量は、少なくとも44.5(40.5+4.0)%であり、最大でも48.5%であるから、「(b) 全構成脂肪酸に占める、炭素数16以上の鎖長を有する飽和脂肪酸含有量が20~60重量%」を満たす。
そうすると、両者の一致点、相違点は以下の通りである。
(一致点)
「下記(b)を満たす、チョコレート類用油脂。
(b) 全構成脂肪酸に占める、炭素数16以上の鎖長を有する飽和脂肪酸含有量が20~60重量% 」
(相違点)
・相違点4-1
本件特許発明1には「全トリグリセリドに占めるSSS(S(炭素数16~20の飽和脂肪酸)が3分子結合しているトリグリセリドを示す。)含有量が、2重量%以下」とあるのに対し、甲4発明にはそのような特定がない点。
・相違点4-2
本件特許発明1には「ランダムエステル交換を含む処理に付された」とあるのに対し、甲4発明にはそのような特定がない点。
・相違点4-3
本件特許発明1には「(a) 全構成脂肪酸に占める、トランス脂肪酸含有量が5重量%以下
」とあるのに対し、甲4発明にはそのような特定がない点。
・相違点4-4
本件特許発明1には「(c) 全トリグリセリドに占める、CN38~CN46のトリグリセリド含有量が40重量%以下 」とあるのに対し、甲4発明にはそのような特定がない点。
・相違点4-5
本件特許発明1には「(d) 全トリグリセリドに占める、SO2トリグリセリド含有量が40重量%以下」とあるのに対し、甲4発明にはそのような特定がない点。
・相違点4-6
本件特許発明1には「(e) 全トリグリセリドに占める、S2Oトリグリセリド含有量が10~40重量% 」とあるのに対し、甲4発明にはそのような特定がない点。
・相違点4-7
本件特許発明1には「(f) 10℃のSFCが5~40% 」とあるのに対し、甲4発明にはそのような特定がない点。
イ 判断
事案に鑑み、相違点4-2について検討する。
甲4発明は、ランダムエステル交換により得られたものではなく、相違点4-2は実質的な相違点である。また、甲第4号証の明細書全体の記載や他の全ての証拠の記載をみても、甲4発明においてランダムエステル交換を含む処理に付する動機付けがあるとは言えない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲4発明ではなく、甲4発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(特許異議申立人の主張について)
特許異議申立人は、異議申立書の108頁において、甲第4号証に基づく新規性・進歩性について、以下のように主張している。
「ここで、甲第4号証には、油脂Bのトリグリセリド組成の開示はない。しかしながら、甲第4号証と同一出願人によりほぼ同時期に出願された甲第11号証(特開2021-168707号公報(公開日:2021年(令和3年)10月28日)の段落【0029】、【0033】【表1】には、油脂Cとしてヨウ素価57のパームオレインのトリグリセリド組成が開示されている。甲第4号証の油脂Bと甲第11号証の油脂Cとは、同一出願人が製造ないし保有するヨウ素価が全く同じパームオレインであるため、甲第4号証の油脂Bのトリグリセリド組成は、甲第11号証の油脂Cのトリグリセリド組成と同じである蓋然性が高い。ゆえに、甲第11号証の【0032】より、POP、POS及びSOSは、本件特許発明(請求項1)の(e)におけるS2Oトリグリセリドに相当し、POO及びSOOは、本件特許発明(請求項1)の(d)におけるSO2トリグリセリドに相当するといえる。」
しかしながら、甲第4号証に記載された油脂Bと、甲第11号証の油脂Cとは、ヨウ素価以外の特性が一致しておらず、同一商品でもなく、出願時の技術常識や全ての証拠の記載を考慮しても、単にヨウ素価が同一であれば、トリグリセリドの組成も同一であるとまでは言えず、上記出願人の主張は採用できない。
そして、上記出願人の主張は、上記イの判断を覆すものでもない。
(3)本件特許発明3、5及び6について
本件特許発明3、5及び6は、本件特許発明1の発明特定事項を全て有し、更に限定するものである
そして、本件特許発明1は、甲4発明ではなく、甲4発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明3、5及び6は、甲3発明ではなく、甲3発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(4)申立理由4についてのむすび
上記(2)~(3)のとおり、本件特許発明1、3、5及び6は、甲第4号証に記載された発明ではなく、甲第4号証に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
5 申立理由5(実施可能要件)について
(1)実施可能要件の判断手法
物の発明における実施とは、物の生産、使用等の行為をいうから(特許法第2条第3項第1号)、物の発明について、実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、その物を生産し、かつ、その物を使用できる程度の記載があれば、実施可能要件を満たすということができる。
また、物を生産する方法の発明における実施とは、その物を生産する方法の使用をする行為のほか、その方法により生産した物の使用等をする行為をいうから(特許法第2条第3項第3号)、例えば、明細書等にその物を生産する方法を使用することができること及びその方法により生産した物の使用等をすることができることの具体的な記載があるか、そのような記載がなくても、出願時の技術常識に基づいて当業者がその物を生産する方法を使用することができ、かつその方法により生産した物の使用等をすることができるのであれば、実施可能要件を満たすということができる。
さらに、方法の発明における実施とは、その方法の使用をする行為をいうから(特許法第2条第3項第2号)、方法の発明について、例えば、明細書等に当業者がその方法を使用することができる程度の記載があるか、そのような記載がなくても、出願時の技術常識に基づいて当業者がその方法を使用することができるのであれば、実施可能要件を満たすということができる。
(2)本件明細書の記載事項
本件明細書には、以下の記載がある。
「【0040】
本発明のチョコレート類用油脂は、例えば、原料油脂混合物をランダムエステル交換した後に、分別操作を行い、低融点部の油脂として得ることができる。係る分別操作方法としては、溶剤分別、非溶剤分別などの方法が選択できる。また複数の当該低融点部の油脂を作成し、これらを混合することによっても得ることができる。
ここで原料油脂は、具体的には、パーム油、菜種油、ハイエルシン菜種油、ヒマワリ油、ハイオレイックヒマワリ油、大豆油、こめ油、コーン油、綿実油、落花生油、ベニバナ油、サフラワー油、オリーブ油、ゴマ油、亜麻仁油、パーム核油、ヤシ油、中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)、シア脂、サル脂等の植物性油脂、牛脂、ラード、魚油、鯨油等の動物性油脂、藻類油、微生物発酵由来の油脂、並びに、それらの硬化油、分別油、硬化分別油、分別硬化油、エステル交換等を施した加工油脂、さらにこれらの混合油脂等が例示できる。
そして特に、パーム油、パーム核油、ハイオレイックヒマワリ油のいずれか一種以上を必須原料油脂として、好適に使用することができる。
尚、ハイオレイックヒマワリ油を使用する場合、含まれるオレイン酸含量は、構成脂肪酸組成中、60質量%以上であることが好ましい。」
「【0049】
<実施例1>
パーム分別高融点部(ヨウ素価31)66.5重量%、パーム極度硬化油13.5重量%、パーム核油11.2重量%、菜種極度硬化油5.8重量%、ハイオレイックヒマワリ油1.8重量%、パーム油1.2重量%からなる原料油(原料油中のラウリン酸含有量5.0%、パルミチン酸含有量/ステアリン酸含有量の比3.1)ナトリウムメチラートによりランダムエステル交換を行い、得られたエステル交換油脂をヘキサン分別により高融点部を除去し、得られた分別低融点部を常法に従い脱色脱臭を行い、実施例1を得た。
【0050】
<実施例2>
ランダムエステル交換油の配合油として、パーム分別高融点部(ヨウ素価31)40重量%、パーム油28重量%、パーム極度硬化油25重量%、パーム核油7重量%からなる原料油(原料油中のラウリン酸含有量3.1%、パルミチン酸含有量/ステアリン酸含有量の比3.0)を用いる以外は、実施例2と同様にして実施例2を得た。
【0051】
<実施例3>
パーム油43重量%、パーム分別高融点部(ヨウ素価12)34重量%、ハイオレイックヒマワリ極度硬化油(ヨウ素価2)12重量%、ハイオレイックヒマワリ油11重量%からなる原料油(原料油中のラウリン酸含有量1%未満、パルミチン酸含有量/ステアリン酸含有量の比3.3)、ナトリウムメチラートによりランダムエステル交換を行い、得られたエステル交換油脂をヘキサン及びアセトン分別により、いずれも高融点部を除去し、得られた分別低融点部を常法に従い脱色脱臭を行い、実施例3を得た。」
「【0058】
実施例1~3、比較例1~2について、下記(a)~(f)の数値にて評価を行った。その結果を表5に示す。
・・・
【0059】
(表5)
[図:0001439184000028.jpg]
」
「【0061】
(モデル保存テストによる結晶型解析)
ココアバター90重量部に対し、前記実施例1~3或いは比較例1~2より選ばれる油脂サンプル10重量部を混合し、X線回折装置用ガラスプレートに少量アプライした後、温度調整によりテンパリング操作を行った後、20℃/32℃サイクル条件にて保存し、一定期間ごとに結晶型をX線回折装置にて測定した。測定は、X線回折装置MiniFlex600(株式会社リガク、最大定格出力600W、定格電圧40kV、定格電流15mA)を用い、スキャンモード2θ/θ連動、発散スリット1.25°、受光スリット0.3mm、散光スリット1.25°、モノクロ受光スリット0.8mm、開始角2.1°、終了角30.0°の条件で試料のX線回折像を測定した。得られたX線回折像より結晶型を解析し、V型結晶かVI型結晶への結晶転移が抑制されているか評価した。結果を表6に示す。
【0062】
(表6)モデル保存テスト結果
[図:0001439184000029.jpg]
」
「【0064】
(チョコレート類テスト)
上記で作製したチョコレート類用油脂を使用した、チョコレート類テストを実施した。表7の配合に従い、常法によりロール掛けによる粉砕、及びコンチングによる混練を行い、チョコレート類を作製した。チョコレート類用油脂である実施例1~3、及び比較例1~2を用い、それぞれチョコレート類である実施例4~6、及び比較例3~4を作製した。配合原料中のカカオマスはココアバターを55重量%含有していることから、本チョコレート類の油分は34.7%であり、油分に占めるココアバター、植物油脂の含有率はそれぞれ90.2%、9.8%と計算される。
試作したチョコレート類は完全溶解、冷却後に32℃でシードテンパーを取った後モールドに流し込み、5℃30分冷却し、その後型離れさせた。後述のブルーム評価基準に従いブルーム評価(表8)を行った。
【0065】
(表7)
[図:0001439184000030.jpg]
【0066】
(ブルーム評価基準)
2点以上を合格基準とした。
・5点 ツヤの消失共に観察されない。
・4点 極めて僅かにツヤの消失が観察される。
・3点 僅かにツヤの消失が観察される。
・2点 明らかなツヤの消失が観察される。
・1点 ブルーム発現が観察される。
【0067】
(表8)
[図:0001439184000031.jpg]
」
(3)実施可能要件についての判断
上記(2)のとおり、本件明細書の【0040】には、「本発明のチョコレート類用油脂は、例えば、原料油脂混合物をランダムエステル交換した後に、分別操作を行い、低融点部の油脂として得ることができる。」との記載があり、本件明細書の実施例では、具体的な製造方法が開示され、本件特許発明1~7の発明特定事項を全て満たすチョコレート類用油脂が得られたことが記載されている。さらに、実施例のチョコレート類用油脂を、チョコレート類に配合し、ブルームの発現を抑制したことが記載されている。よって、当業者であれば、上記(2)の記載と出願時の技術常識に基づいて、本件特許発明1~7の発明特定事項を全て満たすチョコレート類用油脂を製造し、使用することができたと考えられる。
そうすると、本件明細書の発明の詳細な説明は、本件特許発明1~7に関し、その物を生産し、かつ、その物を使用することができる程度に具体的に記載されており、本件特許発明8に関し、その物を生産する方法を使用することができること、及び、その方法により生産した物の使用等をすることができる程度に具体的に記載されており、また、本件特許発明9に関し、その方法を使用することができる程度に具体的に記載されているものといえる。 よって、本件特許発明1~9に関して、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件を満たす。
(特許異議申立人の主張について)
特許異議申立人は、上記第4 5のように主張しているので、その点について以下、検討する。
本件明細書の発明の詳細な説明の比較例1には、確かに(a)~(e)を満たし、(f)のみを満たさない油脂が記載されている。このことは、(a)~(e)を満たせば、自動的に(f)を満たすものではないことを示しているのみで、(a)~(e)を満たし、かつ(f)を満たすものを製造することが困難であることまでは示していない。
さらに、実施例1~3には、(a)~(e)を満たし、かつ(f)を満たすチョコレート類用油脂の、具体的な製造方法が記載されており、これらの実施例を参考にすれば、当業者は本件特許発明1~9を実施できると考えられ、当業者に期待しうる程度を超える試行錯誤を要するとまでは言えない。
よって、特許異議申立人の主張は採用できない。
(4)申立理由5についてのまとめ
上記(3)のとおり、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1~9を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるといえるから、特許法第36条第4項第1号に適合するものであり、それらの発明についての特許は、同号に規定する要件を満たしている特許出願に対してされたものである。
よって、申立人が主張する申立理由5によって、本件特許発明1~5についての特許を取り消すことはできない。
6 取消理由4及び申立理由6(サポート要件)について
(1)サポート要件の判断手法
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
(2)本件特許発明の課題について
本件明細書の【0007】等の記載からみて、本件特許発明1~9の課題(以下、「発明の課題」という。)は、「口どけに悪影響を与えることなく、ブルーム抑制効果を有するブルーム抑制用油脂の提供」にあるものと認められる。
(3)本件明細書の記載について
本件明細書には、上記5(2)のとおりの記載がある。
更に、本件明細書の【0013】には「本発明のチョコレート類用油脂は、全構成脂肪酸に占めるトランス脂肪酸含有量が5重量%以下である必要がある。」との記載、【0014】には「本発明のチョコレート類用油脂は、全構成脂肪酸に占める炭素数16以上の鎖長を有する飽和脂肪酸含有量が20~60重量%である必要がある。」との記載、【0015】には「本発明のチョコレート類用油脂は、全トリグリセリドに占める、CN38~CN46のトリグリセリド(油脂中のトリグリセリドの構成脂肪酸の総炭素数が38~46のトリグリセリドを示す。)含有量が、40重量%以下である必要がある。」との記載、【0016】には「本発明のチョコレート類用油脂は、全トリグリセリドに占めるSO2トリグリセリド(S(炭素数16~20の飽和脂肪酸)が1分子、O(オレイン酸)が2分子結合しているトリグリセリドを示す。)含有量が、40重量%以下である必要がある。」との記載、【0017】には「本発明のチョコレート類用油脂は、全トリグリセリドに占めるS2Oトリグリセリド(S(炭素数16~20の飽和脂肪酸)が2分子、O(オレイン酸)が1分子結合しているトリグリセリドを示す。)含有量が、10~40重量%である必要がある。」との記載、【0018】には「本発明のチョコレート類用油脂は、10℃のSFCが5~40%以下である必要がある。」との記載がある。
(4)サポート要件についての判断
本件特許の発明の詳細な説明の記載に接した当業者であれば、発明の課題を解決するためには、結局のところ、本件特許発明1の(a)~(f)で特定される事項を全て満たす必要があることを理解できる。そして、実施例には、ランダムエステル交換により得られたチョコレート類用油脂であって、上記(a)~(f)を全て満たすものが、ブルーム抑制効果を有することが示されている。
してみると、当業者であれば、ランダムエステル交換により得られたチョコレート類用油脂であって、上記(a)~(f)を全て満たすチョコレート類用油脂は、上記発明の課題を解決できると認識できる。
そして、本件特許発明1~9は、上記発明の課題を解決し得るものと認識できる特定事項の全てを有し、さらに限定するものであるから、本件特許発明1~5は、いずれも発明の詳細な説明に記載された発明であり、発明の詳細な説明の記載により、当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
したがって、本件特許発明1~9に関して、特許請求の範囲の記載は、サポート要件に適合する。
(特許異議申立人の主張について)
特許異議申立人は、上記第4 6のように主張しているので、その各点について以下、検討する。
・(1)について
本件特許の発明の詳細な説明の実施例1~3には、ランダムエステル交換を含む処理に付され、(a)~(f)を全て満たす、チョコレート類用油脂が記載されている。これらの油脂は、(a)~(f)で特定されていない脂肪酸やトリグリセリドの組成に差があるものの、いずれもブルーム抑制効果を有することが示されている。
してみると、当業者は、ランダムエステル交換を含む処理に付され、(a)~(f)を全て満たすことにより、他の脂肪酸およびトリグリセリドの組成に関わらず、上記課題を解決できると認識する。
よって、(1)の主張は採用できない。
・(2)について
本件特許の発明の詳細な説明には、(a)~(f)の数値範囲について説明があり(【0013】~【0018】)、実施例ではこれらの数値範囲を満たすものが記載され、比較例ではこれらの数値範囲を満たさないものが記載されていることから、当業者であれば、(a)~(f)の数値範囲であれば、発明の課題を解決できると認識できる。
また、(a)~(f)の数値範囲全体にわたって、発明の課題を解決し得ないという具体的な根拠はない。
よって、(2)の主張は採用できない。
・(3)について
上記(4)サポート要件についての判断のとおり、当業者は、SSS含有量に関わらず、発明の課題を解決できると認識できる。
テンパリング適性の低下とブルーム抑制効果は別のものであり(いずれも、最終的なブルームの発生量には影響を及ぼすと思われるが、テンパリングの不足により発生するブルームと、テンパリングをしたとしても結晶転移により生じるブルームとは、それぞれ別に生じるものであると考えられる)、SSS含有量が実施例よりも多いことで、ブルーム抑制効果が得られなくなるとまでは言えない。
特に、甲第11号証には、SSS含有量が1.4%の場合と3.6%の場合を比較して、3.6%の場合にテンパリング適性が低下したことが示されているところ、SSS含有量が2.0質量%以下の範囲(甲第11号証において、テンパリング適性が低下するとされた3.6%より少ない範囲)で、ブルーム抑制効果が得られなくなる根拠はない。
よって、(3)の主張は採用できない。
・(4)について
本件特許発明1~9は、ランダムエステル交換されていることが特定されたため、(4)の主張は該当しない。
以上より、いずれの主張も、上記判断を覆すものではない。
(5)取消理由4及び申立理由6についてのまとめ
以上のことから、本件特許発明1~9は、いずれも発明の詳細な説明に記載したものであるといえるから、特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第1号に適合するものであり、それらの発明についての特許は、同条第6項に規定する要件を満たしている特許出願に対してされたものである。
よって、取消理由4及び申立理由6によって、本件特許発明1~9についての特許を取り消すことはできない。
第7 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由、及び、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件特許の請求項1~9に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1~9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2025-700258