特許異議申立
2025-700729
積層体及び包装袋
- 審判番号
- 2025-700729
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2024-071607
- 登録番号
- 7616593
- 請求日
- 2025年07月17日
- 審決日
- 2026年03月13日
- 公報発行日
- 2026年07月31日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】大日本印刷株式会社
- 【権利者代理人】宮嶋 学
- 【権利者代理人】浅野 真理
- 【権利者代理人】高田 泰彦
- 【権利者代理人】柏 延之
- 【権利者代理人】伏見 俊介
- 【異議申立人】齊藤 恵美子
- 審判長/審判官
- 審判長 金丸 治之
- 審判官 神山 茂樹
- 審判官 稲葉 大紀
- 分類
- P1651.537-YAA(B32B) / P1651.536-YAA(B32B) / P1651.121-YAA(B32B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第4項第1号、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7616593号発明「積層体及び包装袋」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7616593号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~13〕について訂正することを認める。
特許第7616593号の請求項1~13に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7616593号(以下「本件特許」という。)の請求項1~13に係る特許についての出願は、令和5年9月28日に出願した特願2023-167754号の一部を令和6年4月25日に新たな特許出願としたものであって、令和7年1月8日にその特許権の設定登録がされ、令和7年1月17日に特許掲載公報が発行された。その後、請求項1~13に係る特許に対し、令和7年7月17日に特許異議申立人齊藤恵美子(以下「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされたものである。それ以降の経緯は以下のとおりである。
令和7年 8月29日 特許異議申立書についての手続補正書(方式)(申立人)
令和7年11月11日付け 取消理由通知書
令和8年 1月 6日 訂正請求書及び意見書(特許権者)
令和8年 2月18日 意見書(申立人)
第2 訂正の適否
1 訂正の内容
訂正請求書による訂正の請求(以下「本件訂正請求」といい、訂正自体を「本件訂正」という。)は、「特許第7616593号の特許請求の範囲を、本件請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~13について訂正することを求める。」ものであり、本件訂正の内容は、次の訂正事項からなるものである。なお、下線は、当審において訂正箇所に付したものである。
(1)訂正事項
特許請求の範囲の請求項1に「前記シーラント層は、ポリプロピレンの含有割合が50質量%超であり、複合弾性率が900MPa以下である」とあるのを、
「前記シーラント層は、ポリプロピレンの含有割合が50質量%超であり、複合弾性率が300MPa以上900MPa以下である」に訂正する。
(請求項1の記載を引用する請求項2~13も同様に訂正する。)
(2)一群の請求項について
訂正前の請求項1~13は、請求項2~13が、本件訂正請求の対象である請求項1の記載を引用する関係にあるから、本件訂正は、一群の請求項〔1~13〕について請求されたものである。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項は、請求項1に記載のシーラント層の複合弾性率の数値範囲の下限値を特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、本件特許明細書の【0132】の記載に基づく訂正であるから新規事項の追加に該当しない。
また、訂正事項は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しない。
3 訂正の適否のまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~13〕について訂正することを認める。
第3 訂正後の本件発明
上記のとおり、本件訂正は認められるから、本件訂正後の請求項1~13に係る発明(以下「本件発明1」等といい、まとめて「本件発明」ということもある。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~13に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
基材と接着剤層とシーラント層とを厚さ方向にこの順に備える積層体であって、
前記基材は、ポリプロピレンの含有割合が50質量%超である延伸基材と、無機酸化物層とを厚さ方向にこの順に備えるバリア性基材であり、
前記延伸基材は、第1表面樹脂層とポリプロピレン層と第2表面樹脂層とを厚さ方向にこの順に備える多層構造を有し、前記第1表面樹脂層が前記無機酸化物層と対向し、前記第2表面樹脂層が前記接着剤層と対向するように配置され、
前記第2表面樹脂層は、プロピレンとプロピレン以外のα-オレフィンとのランダム共重合体を、当該第2表面樹脂層の総量に対して50質量%以上含み、
前記接着剤層は、厚さが1μm以上4.5μm以下、かつ弾性率が20MPa以上50MPa以下であり、
前記シーラント層は、ポリプロピレンの含有割合が50質量%超であり、複合弾性率が300MPa以上900MPa以下である、積層体。
【請求項2】
前記ランダム共重合体として、プロピレン-エチレンランダム共重合体およびプロピレン-エチレン-ブテンランダム共重合体のうち、少なくとも1種以上を含む、請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記ポリプロピレン層が、プロピレン単独重合体の含有割合が50質量%超である、請求項1に記載の積層体。
【請求項4】
前記第1表面樹脂層は、前記第2表面樹脂層と同一の構成を有する、請求項1に記載の積層体。
【請求項5】
前記接着剤層の、弾性率(MPa)と厚み(μm)とを乗じた値が、35以上95以下である、請求項1に記載の積層体。
【請求項6】
前記基材は、前記無機酸化物層における前記延伸基材に向かう面とは反対の面上に、被覆層をさらに備える、請求項1に記載の積層体。
【請求項7】
前記積層体が、第1基材と、第2基材と、前記接着剤層と、前記シーラント層と、を厚さ方向にこの順に備え、
前記第2基材が、前記バリア性基材であり、
前記延伸基材は、前記第1表面樹脂層が前記無機酸化物層と対向し、前記第2表面樹脂層が前記接着剤層と対向するように配置される、請求項1に記載の積層体。
【請求項8】
前記第1基材が、ポリプロピレンの含有割合が50質量%超である延伸基材である、請求項7に記載の積層体。
【請求項9】
前記第1基材と前記第2基材との間に位置する第1接着剤層と、
前記第2基材と前記シーラント層との間に位置する第2接着剤層と、を備え、
前記第2接着剤層は、厚さが1μm以上4.5μm以下、かつ弾性率が20MPa以上50MPa以下であり、
前記第2基材を構成する前記延伸基材は、前記第1表面樹脂層が前記無機酸化物層と対向し、前記第2表面樹脂層が前記第2接着剤層と対向するように配置される、請求項7に記載の積層体。
【請求項10】
前記積層体に含まれる樹脂材料の総量に対するポリプロピレンの含有割合が、80質量%以上である、請求項1~9のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項11】
包装材料である、請求項10に記載の積層体。
【請求項12】
請求項11に記載の積層体を備える包装袋。
【請求項13】
レトルトパウチまたはボイルパウチである、請求項12に記載の包装袋。」
第4 取消理由通知について
1 取消理由の概要
訂正前の特許請求の範囲の請求項1~13に対し、当審において通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
取消理由(サポート要件)本件特許は、特許請求の範囲の記載が以下の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消すべきものである。
発明の詳細な説明には、本件発明の課題として、「レトルト処理後の耐衝撃性に優れる積層体を提供することにある。」(【0006】)と記載され、発明の詳細な説明には「シーラント層の複合弾性率は、・・・例えば300MPa以上900MPa以下である。」(【0132】)と記載されている。
しかしながら、シーラント層について、弾性率に類するパラメータである複合弾性率が低ければ積層体の耐衝撃性への寄与も小さくなることは技術常識であるところ、請求項1~13の記載においてシーラント層の複合弾性率の下限値は特定されていない。
よって、本件発明は、発明の詳細な説明に記載したものではない。
2 当審における判断
当審合議体は以下のとおり、上記取消理由で通知した理由(サポート要件)によっては、本件発明1~13に係る特許は取り消されるべきものではないと判断する。
本件訂正により、本件発明に係る積層体のシーラント層の複合弾性率の下限値が「300MPa」であることが特定された。
よって、上記取消理由は解消した。
第5 取消理由通知に採用しなかった特許異議申立理由について
1 申立理由の概要
特許異議申立書(以下「申立書」という。)において申立人が主張する申立理由のうち、取消理由で採用しなかったものの概要は、次の通りである。
(以下、申立人が提出した甲第○号証を「甲○」という。)
(1)申立理由1(明確性要件)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が以下の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消すべきものである。
ア 請求項9の「第2接着剤層」が請求項1の「接着剤層」のことを指すのか否かが不明確である。(申立書30ページ)
イ 請求項13の包装袋はレトルト処理されたものであるところ、レトルト処理後の接着剤層の弾性率からレトルト前の弾性率は知ることはできないから、ある具体的な包装袋が請求項13に係る発明の範囲に入るか否かを当業者が理解できない。(申立書30~31ページ)
ウ よって、請求項9~13に係る発明は、明確でない。
(2)申立理由2(サポート要件)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が以下の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消すべきものである。
ア シーラント層の複合弾性率について、課題(耐衝撃性)が解決していることを示す実施例は「691.1MPa」のみであり、課題解決の機序も記載されていないから、691.1MPaより小さい場合や、691.lMPaより大きく900MPa以下の場合を含む請求項1~13に係る発明の範囲まで発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。(申立書32~33ページ)
イ シーラント層の厚みについて、課題(耐衝撃性)が解決していることを示す実施例は「60μm」のみであり、CPPフィルムの厚みが小さくなると落袋強度が低下する技術常識(甲8の8ページ)からみて、厚みの特定のない請求項1~13に係る発明の範囲まで発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。(申立書34~36ページ)
上記ア、イのとおり、請求項1~13に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものではない。
(3)申立理由3(実施可能要件)
本件特許は、発明の詳細な説明の記載が以下の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消すべきものである。
請求項1ではシーラント層の複合弾性率が900MPa以下と特定されているが、実施例で使用されるCPPフィルムについて【0175】の記載を参酌してもどのようにして実施例の691.1MPaに調整したのか不明であるし、調整方法に係る【0136】の記載を参酌しても、シーラント層がプロピレンブロックコポリマーを含有しない場合にどうやって調整するのかも不明である。
よって、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1~13に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではない。(申立書36~38ページ)
(4)申立理由4(進歩性)
本件特許の請求項1~13に係る発明は、甲1に記載された発明及び甲2~甲7に記載された事項に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消すべきものである。(申立書39~58ページ)
[証拠一覧]
甲1:国際公開第2023/013768号
甲2:国際公開第2023/095915号
甲3:特開2017-154498号公報
甲4:特開2018-168314号公報
甲5:田中幸美、「ナノインデンテーション法を用いた微小領域の機械特性評価技術に関する調査研究」、産総研計量標準報告、2019年6月、Vol.10、No.1、7~21ページ
甲6:「トレファン〇R(当審注:〇の中にR。以下同じ。)NO 無延伸ポリプロピレンフィルム」、東レフィルム加工株式会社、2022年12月1日
甲7:金子堅司、ほか2名、「押込み試験法によるポリプロピレンの非弾性変形特性の同定」、第61回理論応用力学講演会、[online]一般社団法人日本機械学会、2012年3月28日公開、インターネット<URL:https://www.jstage.jst.go.jp/article/japannctam/61/0/61_0_152/_article/-char/ja/>
甲8:松岡洋一、「耐衝撃レトルト用CPPフィルムの展開」、[online]、一般社団法人日本食品包装協会、2021年5月25日公開、インターネット<URL:https://shokuhou.jp/news/news1529/><URL:https://shokuhou.jp/wp-content/uploads/2021/05/2964b580f71931a544ef9061c33fe810.pdf>
2 当審における判断
当審合議体は以下のとおり、上記申立理由1~4によっては、本件発明1~13に係る特許は取り消されるべきものではないと判断する。
(1)申立理由1(明確性要件)について
ア 判断規範について
特許請求の範囲の記載が、明確性要件を満たすか否かは、特許請求の範囲に記載された発明が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かを検討して判断すべきものである。以下、この点について検討する。
イ 上記判断規範を満たすか否かについて
請求項9~13は「積層体」の構成について規定するものでありその記載は明確で、ある具体的な物や方法が請求項9~13に係る発明の範囲に入るか否かを当業者が理解できるものである。
すなわち、請求項9~13の記載は、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえず、明確性要件を満たす。
ウ 申立人の主張について
(ア)申立人は上記1(1)アのとおり主張する。
しかしながら、請求項9が引用する請求項1は、それ自体明確であるし、請求項9において「第2接着剤層」が請求項1及び7で特定される「接着剤層」と同じものであるとも別のものであるとも解釈され得るとしても、いずれの解釈においても請求項1及び7の記載と矛盾するものではない。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。
(イ)申立人は上記1(1)イのとおり主張する。
しかしながら、技術常識及び【0146】の記載を踏まえると、「レトルトパウチまたはボイルパウチ」とは、加熱処理後のパウチを意味することは明確である。
そして、包装袋が加熱処理後のパウチであることを特定する本件発明13において、接着剤層の弾性率が加熱処理前の値であると限定解釈する合理的理由はないから、申立人の主張はその前提を欠くものである。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。
エ 明確性要件についての小括
よって、本件発明1~13は、明確である。
(2)申立理由2(サポート要件)について
ア 判断規範について
特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件を満たすか否かは、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明であって、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。以下、この点について検討する。
イ 上記判断規範を満たすか否かについて
本件明細書には、【0006】に本件発明の課題(以下「本件課題」という。)として「レトルトパウチ等の包装袋に用いた際、レトルト処理後の耐衝撃性に優れる積層体を提供すること」が記載されており、【0007】に本件課題を解決するための手段が記載されている。
そして、当該手段のうち、特に「接着剤層は、厚さが1μm以上4.5μm以下、かつ弾性率が20MPa以上50MPa以下」であることについて、【0106】~【0107】、【0159】~【0160】には、接着剤層が薄すぎると層間密着性が不足し、厚すぎると接着剤がはみ出してブロッキングや巻きずれが発生することが記載され、その適正範囲が「1.0μm以上4.5μm以下」であることが記載されている。
また、上記手段のうち、特に「シーラント層は・・・複合弾性率が900MPa以下」であることについて、【0132】には、その適正範囲が「300MPa以上900MPa以下」であり、その範囲内において包装袋の耐衝撃性が高まることが記載されている。
そして、【0162】~【0195】の実施例において、上記の接着剤層の厚さと弾性率及びシーラント層の複合弾性率の数値範囲満たす実施例1~7は耐落下衝撃性が良好であり、同数値範囲のいずれかを満たさない比較例1~7は耐落下衝撃性が不良であることが示されている。
そして、上記の各数値範囲は本件発明1で特定されているから、本件発明1~13は、発明の詳細な説明に記載されたものであって、本件課題を解決できると当業者は認識できるものである。
ウ 申立人の主張について
(ア)申立人は上記1(2)アのとおり主張する。
しかしながら、作用機序について説明はないものの、複合弾性率に関する技術常識及びその測定方法や調整方法に係る【0132】~【0136】の記載を踏まると、シーラント層の複合弾性率が耐破袋性に影響するものであることが理解できる。そして、本件発明は、シーラント層の複合弾性率の数値範囲のみならず、接着剤層の厚さと弾性率の数値範囲も併せることで、本件課題を解決するものであるから、シーラント層の複合弾性率が691.1MPaの実施例しかないことをもって「300MPa以上900MPa以下」の範囲において本件発明が本件課題を解決できないとすることはできない。
(イ)申立人は上記1(2)イのとおり主張する。
しかしながら、本件発明のシーラント層は、そのシーラント層としての役割を果たす程度の厚みは当然有しているし、そもそも、上記イで示したとおり、本件課題の解決においてシーラント層の厚みの特定は要しないものである。
そうすると、請求項1の記載においてシーラント層の厚みが特定されていないことをもって本件発明が本件課題を解決することができないとすることはできない。
エ サポート要件についての小括
よって、本件発明1~13は、発明の詳細な説明に記載したものである。
(3)申立理由3(実施可能要件)について
ア 判断規範について
発明の詳細な説明の記載が実施可能要件を満たすか否かは、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、当業者が過度の試行錯誤を要することなく、その発明を実施することができる程度の記載があるか否かを検討して判断すべきものである。以下、この点について検討する。
イ 上記判断規範を満たすか否かについて
本件明細書の【0162】~【0195】には実施例が記載されており、特に【0162】~【0175】には実施例に用いる透明バリア性基材、接着剤及び未延伸ポリプロピレンフィルムの作成方法等について説明されており、特に【0176】~【0195】には具体的な実施例及び比較例について説明されている。そして、シーラント層の複合弾性率の調整方法については【0136】に記載されている。
そうすると、本件明細書の発明の詳細な説明には、当業者が過度の試行錯誤を要することなく本件発明を実施することができる程度の記載があるといえる。
ウ 申立人の主張について
申立人は上記1(3)のとおり主張する。
しかしながら、申立人も認めるとおり【0136】にはシーラント層がプロピレンブロックコポリマーを含有する場合にラバーらやエラストマーの含有量を調整することで複合弾性率の調整できることが記載されている。
よって、申立人の上記主張は採用できない。
エ 実施可能要件についての小括
よって、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1~13に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものである。
(4)申立理由4(進歩性)について
ア 各甲号証について
(ア)甲1について
甲1の特に[0370]~[0371]、[0376]及び[0378]の記載を参照し、積層順序については[0041]及び[図6]の記載を参照すると、甲1には以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。
「厚さ20μmの2軸延伸ポリプロピレンフィルム22に、厚さ0.5μmの表面コート層23を形成して樹脂基材を得、当該樹脂基材の表面コート層上に、厚さ12nmの炭素含有酸化珪素(シリカ)蒸着膜24を形成し、当該蒸着膜上に、厚さ300nmのバリアコート層25を形成して透明バリア性基材20を得、([0370]~[0371]、[0376])
第1の基材としての厚さ20μmの2軸延伸ポリプロピレンフィルム10と、第2の基材としての上記透明バリア性基材20と、シーラント層としての厚さ60μmの未延伸ポリプロピレンフィルム30を、第1の基材10と第2の基材20のバリアコート層25との間、及び、第2の基材20の2軸延伸ポリプロピレンフィルム22とシーラント層30との間に、溶剤型ポリエステルウレタン接着剤を介してこの順にドライラミネートして得たバリア性積層体1であって、
溶剤型ポリエステルウレタン接着剤により形成された接着層40A、40Bの厚さは、4μmであり、
バリア性積層体1におけるポリプロピレンの含有割合は、89質量%である、([0378]。[0041]、[図6])
バリア性積層体1。」
(イ)甲2について
甲2の特に請求項1、4、10、20~22、[0038][0041]、[0103]、[図3]の記載を参照すると、甲2には以下の技術的事項(以下「甲2記載事項」という。)が記載されている。
「バリアフィルムと、ポリオレフィンを含むシーラント層と、前記バリアフィルムの前記シーラント層とは反対側の面上にポリオレフィンを含む第2基材層を更に備えた、包装袋用積層体において、(請求項20~22)
前記バリアフィルムは、ポリプロピレンからなる基材層と、無機酸化物を含む蒸着層と、ガスバリア層と、をこの順に備え、前記基材層が、少なくとも第1スキン層、コア層及び第2スキン層の3層をこの順に備える多層構造を有しており、(請求項1)
前記コア層はポリプロピレンからなり、([0041])
前記第1スキン層及び前記第2スキン層が、プロピレンとα-オレフィンとの共重合体を含み、(請求項4)
前記第1スキン層の前記コア層とは反対側の面上に、前記蒸着層が形成されていること。(請求項10)」
イ 本件発明1について
(ア)対比
本願発明1と甲1発明を対比する。
<基材について>
甲1発明の「厚さ20μmの2軸延伸ポリプロピレンフィルム22に、厚さ0.5μmの表面コート層23を形成して」なる「樹脂基材」は本件発明1の「ポリプロピレンの含有割合が50質量%超である延伸基材」に相当し、以下同様に、「厚さ12nmの炭素含有酸化珪素(シリカ)蒸着膜24」は「無機酸化物層」に相当する。
そうすると、甲1発明の「厚さ20μmの2軸延伸ポリプロピレンフィルム22に、厚さ0.5μmの表面コート層23を形成して樹脂基材を得、当該樹脂基材の表面コート層上に、厚さ12nmの炭素含有酸化珪素(シリカ)蒸着膜24を形成し、当該蒸着膜上に、厚さ300nmのバリアコート層25を形成して」なる「透明バリア性基材20」は、本件発明1の「ポリプロピレンの含有割合が50質量%超である延伸基材と、無機酸化物層とを厚さ方向にこの順に備えるバリア性基材であ」る「基材」に相当する。
<接着剤層について>
甲1発明の「溶剤型ポリエステルウレタン接着剤により形成された」「厚さは、4μmであ」る「接着層40A、40B」は、本件発明1の「厚さが1μm以上4.5μm以下」である「接着剤層」に相当する。
<シーラント層について>
甲1発明の「厚さ60μmの未延伸ポリプロピレンフィルム30」である「シーラント層」は、本件発明1の「ポリプロピレンの含有割合が50質量%超であ」る「シーラント層」に相当する。
<積層体について>
甲1発明の「第1の基材としての厚さ20μmの2軸延伸ポリプロピレンフィルム10と、第2の基材としての上記透明バリア性基材20と、シーラント層としての厚さ60μmの未延伸ポリプロピレンフィルム30を、第1の基材10と第2の基材20のバリアコート層25との間、及び、第2の基材20の2軸延伸ポリプロピレンフィルム22とシーラント層30との間に、溶剤型ポリエステルウレタン接着剤を介してこの順にドライラミネートして得たバリア性積層体1」は、本件発明1の「基材と接着剤層とシーラント層とを厚さ方向にこの順に備える積層体」に相当する。
以上を総合すると、本件発明1と甲1発明の一致点及び相違点は以下のとおりである。
[一致点]
「基材と接着剤層とシーラント層とを厚さ方向にこの順に備える積層体であって、
前記基材は、ポリプロピレンの含有割合が50質量%超である延伸基材と、無機酸化物層とを厚さ方向にこの順に備えるバリア性基材であり、
前記接着剤層は、厚さが1μm以上4.5μm以下であり、
前記シーラント層は、ポリプロピレンの含有割合が50質量%超である、積層体。」
[相違点1]
延伸基材について、本件発明1では「第1表面樹脂層とポリプロピレン層と第2表面樹脂層とを厚さ方向にこの順に備える多層構造を有し、前記第1表面樹脂層が前記無機酸化物層と対向し、前記第2表面樹脂層が前記接着剤層と対向するように配置され、前記第2表面樹脂層は、プロピレンとプロピレン以外のα-オレフィンとのランダム共重合体を、当該第2表面樹脂層の総量に対して50質量%以上含」むのに対し、甲1発明では、樹脂基材がそのような構成を有していない点。
[相違点2]
接着剤層について、本件発明1では「弾性率が20MPa以上50MPa以下」であるのに対し、甲1発明では、接着層40A、40Bがそのような物性を有するか不明な点。
[相違点3]
シーラント層について、本件発明1では「複合弾性率が300MPa以上900MPa以下」であるのに対し、甲1発明では、シーラント層がそのような物性を有するか不明な点。
(イ)判断
事案に鑑み相違点1について検討する。
甲1の[0007]の記載と甲2の[0007]の記載を踏まえると、両者は、加熱処理後においてもガスバリア性を良好に保つガスバリア性積層体に関する技術である点で共通する。
しかしながら、上記課題を解決するための手段が、甲1では、その請求項1及び[0008]で特定するように、バリア性積層体のMD方向及びTD方向の熱収縮率を小さくすることに対し、甲2では、その請求項1、[0008]~[0009]で特定するように、基材層を構成する第1スキン層、コア層及び第2スキン層の軟化温度の数値範囲を特定することで、加熱処理後においても各層間に十分な密着強度を持たせることにある。
すなわち、加熱処理後においてもガスバリア性を良好に保つという課題について、甲1発明はバリア性積層体の熱収縮率を小さくすることで解決しているのであるところ、これと異なる手段である、基材層を構成する各層の軟化温度の数値範囲を特定するという甲2記載事項の課題解決手段を適用する動機付けはない。
してみると、甲1発明において、甲2記載事項のほか、申立人が提出した他の証拠を踏まえても、相違点1に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。
(エ)小括
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲2~甲7に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 本件発明2~13について
本件発明2~13は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定を加える発明であるから、上記イ(イ)と同様の理由により、甲1発明及び甲2~甲7に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
エ 進歩性についての小括
よって、本件発明1~13は、甲1に記載された発明及び甲2~甲7に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
第6 むすび
以上のとおり、請求項1~13に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。
また、他に請求項1~13に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2025-700729