特許異議申立
2024-700418
積層体および包装袋
- 審判番号
- 2024-700418
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2023-030284
- 登録番号
- 7373683
- 請求日
- 2024年05月01日
- 審決日
- 2025年08月29日
- 公報発行日
- 2025年12月26日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】大日本印刷株式会社
- 【権利者代理人】宮嶋 学
- 【権利者代理人】浅野 真理
- 【権利者代理人】高田 泰彦
- 【権利者代理人】柏 延之
- 【異議申立人】青山 裕樹
- 【異議申立人】齊藤 恵美子
- 審判長/審判官
- 審判長 金丸 治之
- 審判官 田口 傑
- 審判官 木原 裕二
- 分類
- P1651.113-YAA(B32B) / P1651.121-YAA(B32B) / P1651.537-YAA(B32B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7373683号発明「積層体および包装袋」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7373683号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~16〕について訂正することを認める。
特許第7373683号の請求項1~16に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
1 本件特許の出願から特許掲載公報の発行までの手続の経緯
特許第7373683号(以下「本件特許」という。)について、出願から特許掲載公報の発行までの手続の経緯の概略は、以下のとおりである。
令和5年 2月28日 :特許出願(特願2023-17907号を原出願とする分割出願、原出願日 令和5年2月8日)
同年10月25日 :特許権の設定登録
同年11月 2日 :特許掲載公報の発行
2 本件特許異議申立ての手続の経緯
本件特許異議申立ての手続の経緯は、以下のとおりである。
令和6年 5月 1日 :特許異議申立人青山裕樹(以下「申立人1」という。)による請求項1~16に係る特許に対する本件特許異議の申立て
同年 5月 1日 :特許異議申立人齊藤恵美子(以下「申立人2」という。)による請求項1~16に係る特許に対する本件特許異議の申立て
同年10月11日付け:取消理由通知書
同年12月16日 :特許権者による訂正請求書、意見書の提出
令和7年 3月18日 :申立人1による意見書の提出
同年 3月19日 :申立人2による意見書の提出
以下、令和6年12月16日に提出された訂正請求書を「本件訂正請求書」といい、本件訂正請求書による訂正の請求を「本件訂正請求」といい、本件訂正請求書による訂正を「本件訂正」という。
また、令和6年12月16日に特許権者から提出された意見書を「意見書」という。
そして、本件訂正請求書に記載の訂正事項1をそのまま訂正事項1という。
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
本件訂正の「請求の趣旨」は、「特許第7373683号の特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~16について訂正することを求める。」ものであり、その内容は以下の訂正事項1のとおりである(下線は訂正箇所を示す。以下同様。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「第1の基材と、
第1の接着剤層と、
第2の基材と、
第2の接着剤層と、
シーラント層と、
を厚さ方向にこの順に備える積層体であって、
前記第1の基材が、ポリプロピレンを主成分として含有する延伸基材を備え、前記第2の基材が、ポリプロピレンを主成分として含有する延伸基材を備え、前記第1の基材および前記第2の基材から選択される少なくとも一方が、無機酸化物層をさらに備えるバリア性基材であり、
前記シーラント層が、ポリプロピレンを主成分として含有し、
前記第2の接着剤層を形成する接着剤が、ポリエステル系接着剤であり、
前記第2の接着剤層の断面について原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定される弾性率が、30.0MPa以上であり、前記第2の接着剤層の厚さが、0.5μm以上3.0μm以下である、
積層体。」と記載されているのを、
「第1の基材と、
第1の接着剤層と、
第2の基材と、
第2の接着剤層と、
シーラント層と、
を厚さ方向にこの順に備える積層体であって、
前記第1の基材が、ポリプロピレンを主成分として含有する延伸基材を備え、前記第2の基材が、ポリプロピレンを主成分として含有する延伸基材を備え、前記第2の基材が、無機酸化物層をさらに備えるバリア性基材であり、
前記シーラント層が、ポリプロピレンを主成分として含有し、
前記第2の接着剤層を形成する接着剤が、ポリエステル系接着剤であり、
前記第2の接着剤層を直接挟んで前記バリア性基材の前記延伸基材と前記シーラント層が配置されており、
前記第2の接着剤層の断面について原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定される弾性率が、30.0MPa以上であり、前記第2の接着剤層の厚さが、0.72μm以上2.25μm以下である、
積層体。」に訂正する。また、請求項1を引用する請求項2~16も同様に訂正する。
2 一群の請求項について
訂正前の請求項1~16について、請求項2~16は、請求項1を直接的又は間接的に引用する関係にあるから、本件訂正は一群の請求項1~16について請求されたものである。
3 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的の適否について
訂正事項1は、「前記第1の基材および前記第2の基材から選択される少なくとも一方が、無機酸化物層をさらに備えるバリア性基材」を「前記第2の基材が、無機酸化物層をさらに備えるバリア性基材」に限定し、「積層体」について「前記第2の接着剤層を直接挟んで前記バリア性基材の前記延伸基材と前記シーラント層が配置されており、」という構成を加え、「前記第2の接着剤層の厚さ」について「0.5μm以上3.0μm以下」を「0.72μm以上2.25μm以下」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項の有無について
訂正事項1のうち、「前記第1の基材および前記第2の基材から選択される少なくとも一方が、無機酸化物層をさらに備えるバリア性基材」を「前記第2の基材が、無機酸化物層をさらに備えるバリア性基材」に限定する訂正は、本件明細書の【0015】、【0017】、【0056】の記載に基づくものであり、「積層体」について「前記第2の接着剤層を直接挟んで前記バリア性基材の前記延伸基材と前記シーラント層が配置されており、」という構成を加える訂正は、本件明細書の【0015】、【0160】、【0161】の記載に基づくものであり、「前記第2の接着剤層の厚さ」について「0.5μm以上3.0μm以下」を「0.72μm以上2.25μm以下」に限定する訂正は、本件明細書の【0181】の【表1】に基づくものであり、明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係で、新たな技術的事項の導入をするものとはいえない。
したがって、本件訂正の訂正事項1に係る訂正は、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであるか否かについて
上記訂正は、特許請求の範囲を減縮した訂正であって、かつ発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
4 訂正請求についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
よって、明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~16〕について訂正することを認める。
第3 特許請求の範囲の記載
上記第2のとおり、本件訂正は認められるので、本件訂正により訂正された特許請求の範囲の請求項1~16に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1~16に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。以下、請求項1に係る発明を、「本件発明1」のようにいい、他も同様にいう。また、それらを総称して「本件発明」ともいう。
「【請求項1】
第1の基材と、
第1の接着剤層と、
第2の基材と、
第2の接着剤層と、
シーラント層と、
を厚さ方向にこの順に備える積層体であって、
前記第1の基材が、ポリプロピレンを主成分として含有する延伸基材を備え、前記第2の基材が、ポリプロピレンを主成分として含有する延伸基材を備え、前記第2の基材が、無機酸化物層をさらに備えるバリア性基材であり、
前記シーラント層が、ポリプロピレンを主成分として含有し、
前記第2の接着剤層を形成する接着剤が、ポリエステル系接着剤であり、
前記第2の接着剤層を直接挟んで前記バリア性基材の前記延伸基材と前記シーラント層が配置されており、
前記第2の接着剤層の断面について原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定される弾性率が、30.0MPa以上であり、前記第2の接着剤層の厚さが、0.72μm以上2.25μm以下である、
積層体。
【請求項2】
前記第2の接着剤層の断面についてサーマルプローブを用いた局所熱分析で測定される軟化点が、200℃以上330℃以下である、請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記第1の接着剤層の断面について原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定される弾性率が、30.0MPa以上であり、前記第1の接着剤層の厚さが、0.5μm以上3.0μm以下である、請求項1に記載の積層体。
【請求項4】
前記第1の接着剤層の断面についてサーマルプローブを用いた局所熱分析で測定される軟化点が、200℃以上330℃以下である、請求項3に記載の積層体。
【請求項5】
前記第1の接着剤層の前記弾性率が、前記第2の接着剤層の前記弾性率よりも大きい、請求項3に記載の積層体。
【請求項6】
前記第1の接着剤層の厚さが、前記第2の接着剤層の厚さよりも大きい、請求項3に記載の積層体。
【請求項7】
前記第1の接着剤層の断面について原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定される弾性率が、30.0MPa未満であり、前記第1の接着剤層の断面についてサーマルプローブを用いた局所熱分析で測定される軟化点が、200℃以上330℃以下である、請求項1に記載の積層体。
【請求項8】
前記第1の接着剤層の厚さが、2.0μm以上5.0μm以下である、請求項7に記載の積層体。
【請求項9】
前記第1の接着剤層の厚さが、前記第2の接着剤層の厚さよりも大きい、請求項7に記載の積層体。
【請求項10】
前記バリア性基材が、前記無機酸化物層における前記延伸基材に向かう面とは反対の面上に、被覆層をさらに備える、請求項1に記載の積層体。
【請求項11】
前記第1の基材が、前記延伸基材であり、
前記第2の基材が、前記延伸基材と前記無機酸化物層とを備える前記バリア性基材であり、前記無機酸化物層が前記第1の基材側を向き、前記延伸基材が前記シーラント層側を向くように、前記第2の基材が配置されている、
請求項1に記載の積層体。
【請求項12】
前記第1の基材が、前記延伸基材と前記無機酸化物層とを備える前記バリア性基材であり、前記無機酸化物層が前記第2の基材側を向き、前記延伸基材が外側を向くように、前記第1の基材が配置されており、
前記第2の基材が、前記延伸基材である、
請求項1に記載の積層体。
【請求項13】
前記積層体に含まれる樹脂材料の総量に対するポリプロピレンの含有割合が、80質量%以上である、請求項1~12のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項14】
包装材料である、請求項1~12のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項15】
請求項1~12のいずれか一項に記載の積層体を備える包装袋。
【請求項16】
レトルトパウチまたはボイルパウチである、請求項15に記載の包装袋。」
第4 取消理由の概要
本件訂正前の請求項1~16に係る特許に対して、当審合議体が令和6年10月11日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は次のとおりである。
1 取消理由1(サポート要件)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
具体的には、本件発明は、「積層体および包装袋」(【0001】)に関するもので、本件発明の解決しようとする課題は、「ポリプロピレンを主成分として含有する延伸基材および無機酸化物層を備えるバリア性基材と、ポリプロピレンを主成分として含有するシーラント層と、を備える積層体を用いて作製される包装袋の、耐落下破袋性を向上させること」(【0005】)であるところ、請求項1~16には、第2の接着剤層の厚さ、積層体の層構成、第2の接着剤層を形成する接着剤等について十分特定されておらず、特許請求の範囲で記載された発明が、発明の詳細な説明の記載から把握される課題が解決できると当業者が認識できる範囲のものとはいえないものである。
2 取消理由2(新規性)
請求項1~16に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された以下の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、当該請求項に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
3 取消理由3(進歩性)
請求項1~16に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された以下の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、当該請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
[引用文献等]
申立人1が提出した甲第1号証を「甲1-1」のようにいい、申立人2が提出した甲第1号証を「甲2-1」のようにいい、他も同様にいう。
甲2-1:国際公開第2022/054892号
甲2-5:特開2018-12209号公報
甲2-6:特開2020-15545号公報
第5 当審の判断
当審合議体は、取消理由通知に記載した取消理由1~3によって、本件特許の請求項1~16に係る特許を取り消すことはできないと判断する。
1 取消理由1(サポート要件)について
特許請求の範囲が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、発明の詳細な説明の記載から把握される課題が解決できることを当業者が認識できるものであるか否かを検討して判断すべきものであり、パラメータ発明においては、発明の詳細な説明は、その数式が示す範囲と得られる効果(性能)との関係の技術的な意味が、特許出願時において、具体例の開示がなくとも当業者に理解できる程度に記載するか、又は、特許出願時の技術常識を参酌して、当該パラメータが満たす範囲内であれば、所望の効果(性能)が得られると当業者が認識できる程度に、具体例を開示して記載することを要するところ、以下検討する。
(1)本件発明が解決しようとする課題
本件明細書の記載についてみると、本件発明は、「積層体および包装袋」(【0001】)に関するもので、本件発明の解決しようとする課題は、「ポリプロピレンを主成分として含有する延伸基材および無機酸化物層を備えるバリア性基材と、ポリプロピレンを主成分として含有するシーラント層と、を備える積層体を用いて作製される包装袋の、耐落下破袋性を向上させること」(【0005】)である。
(2)本件課題を解決できると認識できるか否かについて
本件明細書には、この課題を解決する手段として、「第2の接着剤層の断面について原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定される弾性率が、30.0MPa以上であり、第2の接着剤層の厚さが、0.5μm以上3.0μm以下である。」(【0006】、【0095】、【0102】)ことが記載されている。
さらに、本件明細書の実施例(【0150】~【0181】)の記載についてみると、OPPフィルム(20μm)/印刷層(1μm)/第1の接着剤層/透明バリア性基材(バリアコート層(300nm)、炭素含有酸化ケイ素(シリカ)蒸着膜(12nm)、表面コート層(0.5μm)、2軸延伸ポリプロピレンフィルム(20μm)の順)/第2の接着剤層/CPPフィルム(60μm)の順に積層された積層体について、次の例1~例8の具体例(【0159】~【0165】)が記載され、それぞれ、引裂き性及び落下破袋が評価されており、当該結果から、上記積層体の層構成において、弾性率が35.3MPaの場合、「厚さ」については、0.72~2.25μmの範囲について、引裂き性と落下破袋が良好な結果が得られることが分かる。
また、上記実施例の当該結果から、厚さが1.35μmの場合、「弾性率」については、35.3MPaと67.2MPaの2点について、引裂き性と落下破袋が良好な結果が得られることが確認され、「弾性率は、弾性変形における応力とひずみの間の比例定数(応力/ひずみ)であり、これが大きいほど耐衝撃性(延いては、耐落下破袋性)が高くなることは技術常識から推認可能」であること(意見書7頁18行~20行)を踏まえると、「弾性率」については、30.0MPa以上であれば、引裂き性と落下破袋が良好な結果が得られることが推察される。
してみると、「前記第2の接着剤層を直接挟んで前記バリア性基材の前記延伸基材と前記シーラント層が配置されており、」という層構成を規定し、「前記第2の接着剤層の断面について原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定される弾性率が、30.0MPa以上であり、」という「弾性率」の数値範囲を規定し、「前記第2の接着剤層の厚さが、0.72μm以上2.25μm以下である、」という「厚さ」の数値範囲を規定する本件特許の請求項1の記載より、発明の課題を解決できると認識できるものである。
請求項1を引用する請求項2~16も同様である。
なお、「前記第2の基材が、無機酸化物層をさらに備えるバリア性基材」に関し、無機酸化物層が耐落下破袋性との関係で不可欠なものではない旨の主張(意見書9頁16行~10頁6行)を踏まえて、無機酸化物層の形成方法は、上記課題を解決する手段として必須ではないと判断した。
また、「前記第2の接着剤層を形成する接着剤が、ポリエステル系接着剤であ」ることに関し、接着剤層の材質はあくまでも弾性率と軟化点を調整するための手段である旨の主張(意見書13頁21行~14頁15行)を踏まえて、「第2の接着剤層を形成する接着剤」を、「ウレタン結合を有する」ポリエステル系接着剤であるとまで特定することは、上記課題を解決する手段として必須ではないと判断した。
(3)これらを踏まえると、本件訂正により訂正された特許請求の範囲は、明細書のサポート要件に適合するものであり、取消理由1(サポート要件)は解消したといえる。
2 取消理由2(新規性)及び取消理由3(進歩性)について
(1)甲2-1に記載された発明
甲2-1の実施例1の「接着剤」は、ポリエステルポリオール/ポリイソシアネート/酢酸エチルを66:6.3:70の比で混合したものであり([0083])、フィルムへの塗布量は固形物量で約3.5g/m2としたものである([0085])ところ、フィルム上に接着剤の層として積層される樹脂の主成分はポリエステルであり、ポリエステル(PETの場合)の比重が概ね「1.4」(「比重とは(specific gravity)」、主なプラスチックの比重一覧、[online]、樹脂プラスチック材料環境協会、[令和6年9月20日検索]、インターネット<URL:https://www.jushiplastic.com/specific-gravity>)であることから、層の厚さは「2.5μm」と概算される。
上記を踏まえ、甲2-1には、特に実施例1([0063]~[0094]、[表7])の積層体に着目すると、次の「甲2-1発明」が記載されているといえる。
<甲2-1発明>
「基材フィルムA/接着剤の層/延伸フィルムA/接着剤の層/ヒートシール性樹脂層用フィルム(シーラント)の順に積層された積層体であって([0074]、[0085]、[0094])、
基材フィルムAは、無機系被膜が設けられた透明蒸着延伸ポリプロピレンフィルムであり([0064])、
延伸フィルムAは、ポリプロピレン樹脂と接着性樹脂(三井化学社製QB550)と補強用樹脂(ポリアミド樹脂)を1:1:1の比で溶融混練して得たフィルムを延伸したものであり([0065]~[0070]、[0073]、[0074])、
ヒートシール性樹脂層用フィルム(シーラント)はCPPフィルムで厚さ70μmであり([0076])、
接着剤は、ポリエステルポリオール/ポリイソシアネート/酢酸エチルを66:6.3:70の比で混合したものであり、フィルムへの塗布量は固形物量で約3.5g/m2とし([0083]~[0085])、
ポリプロピレン樹脂の含有率が80質量%以上であり([0103][表7]「実施例1」)、
前記接着剤の層の厚さが約2.5μmである、
積層体。」
(2)本件発明1について
ア 本件発明1と甲2-1発明を対比する。
甲2-1発明の「基材フィルムA」は、「透明蒸着延伸ポリプロピレンフィルム」であり、本件発明1の「ポリプロピレンを主成分として含有する延伸基材を備え」る「第1の基材」に相当する。
甲2-1発明の「ヒートシール性樹脂層用フィルム(シーラント)」は、「CPPフィルム」であり、本件発明1の「ポリプロピレンを主成分として含有」する「シーラント層」に相当する。
甲2-1発明の「延伸フィルムA」は、「ポリプロピレン樹脂と接着性樹脂(三井化学社製QB550)と補強用樹脂(ポリアミド樹脂)を1:1:1の比で溶融混練して得たフィルムを延伸したもの」であるところ、「接着性樹脂(三井化学社製QB550)」は、甲2-5(【0046】)及び甲2-6(【0074】)によると無水マレイン酸変性ポリプロピレンであり、「延伸フィルムA」の過半の樹脂はポリプロピレンとなるから、本件発明1の「ポリプロピレンを主成分として含有する延伸基材を備え」る「第2の基材」に相当する。
甲2-1発明の「基材フィルムA/接着剤/延伸フィルムA/接着剤/CPPフィルムの順に積層された積層体」は、本件発明1の「第1の基材と、第1の接着剤層と、第2の基材と、第2の接着剤層と、シーラント層と、を厚さ方向にこの順に備える積層体」に相当する。
イ そうすると、本件発明1と甲2-1発明は、
「第1の基材と、
第1の接着剤層と、
第2の基材と、
第2の接着剤層と、
シーラント層と、
を厚さ方向にこの順に備える積層体であって、
前記第1の基材が、ポリプロピレンを主成分として含有する延伸基材を備え、
前記第2の基材が、ポリプロピレンを主成分として含有する延伸基材を備え、
前記シーラント層が、ポリプロピレンを主成分として含有し、
前記第2の接着剤層を形成する接着剤が、ポリエステル系接着剤である、
積層体。」で一致し、
少なくとも、次の相違点で相違するものである。
<相違点2-1>
第2の接着剤層について、本件発明1が、「第2の接着剤層の断面について原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定される弾性率が、30.0MPa以上であり、前記第2の接着剤層の厚さが、0.72μm以上2.25μm以下である」のに対し、甲2-1発明の接着剤の層は、弾性率が不明であり、厚さが約2.5μmである点。
ウ 上記相違点2-1について検討する。
甲2-1発明の接着剤の層について、弾性率は本件発明1の数値範囲内であるか否か不明であり、厚さは本件発明1の数値範囲内のものではないことから、相違点2-1は実質的な相違点である。
ここで、甲2-1発明の積層体は、パウチに製袋して落袋試験を行ったときに、容易に破袋しないことが確認されている(甲2-1の[0086]、[0089]、[表7])。
しかしながら、積層体の破袋強度は基材の各種特性に大きく依存するという技術常識(意見書16頁17行~18行)を踏まえると、甲2-1発明の積層体が耐落下破袋性を有しているとしても、そのことをもって「接着剤の層の断面について原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定される弾性率が、30.0MPa以上であ」るとまでいえず、甲2-1発明において、接着剤の層の弾性率を30.0MPa以上にする動機付けもない。
さらに、甲2-1発明の接着剤の層の厚さが約2.5μmであるところ、この厚さを減らして「0.72μm以上2.25μm以下」にする動機付けも見い出せない。
そして、その他の証拠にも、耐落下破袋性を向上させるために、第2の接着剤層の断面について原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定される弾性率を、30.0MPa以上にし、厚さを0.72μm以上2.25μm以下にすることについて、記載も示唆もない。
よって、本件発明1は、甲2-1発明ではないし、甲2-1発明及び申立人1、2が提示した証拠に基いて、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
オ 小括
よって、本件発明1は、その他の相違点について検討するまでもなく、甲2-1発明ではないし、甲2-1発明及び申立人1、2が提示した証拠に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)本件発明2~16について
本件発明2~16は、直接的又は間接的に本件発明1を引用し、本件発明1の発明特定事項を全て有した上でさらに限定する発明である。
したがって、上記に示したことと同様に、本件発明2~16は、甲2-1発明ではないし、甲2-1発明及び申立人1、2が提示した証拠に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
第6 取消理由通知に採用しなかった特許異議申立書に記載の申立理由について
1 取消理由通知に採用しなかった特許異議申立書に記載の申立理由の概要
取消理由通知に採用しなかった特許異議申立書に記載の申立理由の概要は以下のとおりである。
(1)申立理由1(申立人1による進歩性)
本件特許の請求項1~16に係る発明は甲1-1に記載された発明、周知技術(甲1-2~甲1-4)、及び甲1-5に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
[引用文献等]
甲1-1:特開2022-113738号公報
甲1-2:特表2022-549776号公報
甲1-3:特開2022-141665号公報
甲1-4:特開2021-195514号公報
甲1-5:特開2016-083930号公報
(2)申立理由2(申立人2による明確性)
本件特許は、請求項1~16の記載が以下の点で明確でないから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
本件特許請求項1における「前記第2の接着剤層の断面について原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定される弾性率が、30.0MPa以上であり」とは、レトルト処理等の前の弾性率と解するべきなのか、レトルト処理等の後の弾性率と解するべきなのか明確ではない。
(3)申立理由3(申立人2によるサポート要件)
本件特許は、請求項1~16の記載が発明の詳細な説明に記載したものではなく、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
ア 本件発明には、レトルト処理等の熱により、第2の接着剤層の弾性率が低くなりラミネート強度が低下し破袋し易くなる場合や、第2の接着剤層の弾性率が高くなり密着性が低下し破袋し易くなる場合が含まれ、このような場合には、「包装袋の、耐落下破袋性を向上させること」という本件発明の課題が解決できない。
イ 本件発明は、第2の接着剤層の断面について原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定される弾性率の上限値が特定されていない。
ウ 本件発明は、シーラント層の厚さや材料等について特定されていない。
2 当審の判断
(1)申立理由1(申立人1による進歩性)について
甲1-1には、特に実施例2(【0059】、【0077】~【0091】)の積層体に着目すると、次の「甲1-1発明」が記載されているといえる。
<甲1-1発明>
「第2基材層のガスバリア性被覆層上に、第1基材層を、2液型の接着剤(三井化学株式会社製、商品名:主剤A525/硬化剤A52)を介してドライラミネート法によってラミネートし、第2基材層の非コロナ処理面にシーラント層を同様にラミネートして得た、第1基材層/接着剤層/第2基材層(ガスバリア性基材層)/接着剤層/シーラント層の積層構造を有する積層体において(【0087】)、
前記第1基材層及び前記第2基材層は、延伸ポリプロピレンフィルムであり(【0077】)、
前記第2基材層は、無機酸化物層をさらに備えるガスバリア性基材層であり(【0081】~【0084】、【0087】)、
前記シーラント層は、ポリプロピレンフィルムであり(【0085】)、
前記第2基材層のバリア面は、前記第1基材層側である(【0088】【表1】)、
積層体。」
本件発明1と甲1-1発明を対比する。
甲1-1発明の「第1基材層」は、「延伸ポリプロピレンフィルム」であり、本件発明1の「ポリプロピレンを主成分として含有する延伸基材を備え」る「第1の基材」に相当する。
甲1-1発明の「第2基材層」は、「延伸ポリプロピレンフィルム」であり、本件発明1の「ポリプロピレンを主成分として含有する延伸基材を備え」る「第2の基材」に相当する。
甲1-1発明の「前記第2基材層は、無機酸化物層をさらに備えるガスバリア性基材層であ」ることは、本件発明1の「前記第2の基材が、無機酸化物層をさらに備えるバリア性基材であ」ることに相当する。
甲1-1発明の「シーラント層」は、「ポリプロピレンフィルム」であり、本件発明1の「ポリプロピレンを主成分として含有」する「シーラント層」に相当する。
甲1-1発明の第1基材層と第2基材層の間にある「接着剤層」は、本件発明1の「第1の接着剤層」に相当する。
甲1-1発明の第2基材層とシーラント層の間にある「接着剤層」は、本件発明1の「第2の接着剤層」に相当する。
そうすると、甲1-1発明の「第1基材層/接着剤層/第2基材層(ガスバリア性基材層)/接着剤層/シーラント層の積層構造を有する積層体」は、本件発明1の「第1の基材と、第1の接着剤層と、第2の基材と、第2の接着剤層と、シーラント層と、を厚さ方向にこの順に備える積層体」に相当する。
甲1-1発明の「積層体」は、「第1基材層/接着剤層/第2基材層(ガスバリア性基材層)/接着剤層/シーラント層の積層構造」であり、「前記第2基材層のバリア面は、前記第1基材層側である」ことを踏まえると、第2基材層の延伸ポリプロピレンフィルムは接着剤層(第2の接着剤層)と直接接しており、本件発明1の「前記第2の接着剤層を直接挟んで前記バリア性基材の前記延伸基材と前記シーラント層が配置されており」を満たすものである。
イ そうすると、本件発明1と甲1-1発明は、
「第1の基材と、
第1の接着剤層と、
第2の基材と、
第2の接着剤層と、
シーラント層と、
を厚さ方向にこの順に備える積層体であって、
前記第1の基材が、ポリプロピレンを主成分として含有する延伸基材を備え、前記第2の基材が、ポリプロピレンを主成分として含有する延伸基材を備え、前記第2の基材が、無機酸化物層をさらに備えるバリア性基材であり、
前記シーラント層が、ポリプロピレンを主成分として含有し、
前記第2の接着剤層を直接挟んで前記バリア性基材の前記延伸基材と前記シーラント層が配置されている、
積層体。」で一致し、
少なくとも、次の相違点で相違するものである。
<相違点1-1>
本件発明1が、「前記第2の接着剤層の断面について原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定される弾性率が、30.0MPa以上であ」るのに対し、甲1-1発明の接着剤層は、そうであるか特定されていない点。
ウ 上記相違点1-1について検討する。
甲1-1発明の積層体は、「ポリオレフィン系のフィルムを主構成とする場合であっても、包装袋としたときに高温のレトルト処理が可能な積層体を提供することを目的と」(【0006】)しており、本件発明のように、包装袋の耐落下破袋性を向上させることを目的としておらず、接着剤層の弾性率や厚みを所望の値に設定する動機付けがない。
また、包装袋の耐落下破袋性を向上させることが、自明の課題であり、甲1-1発明においても内在する課題であるとしても、積層体の破袋強度は基材の各種特性に大きく依存するという技術常識を踏まえれば、第1基材層や第2基材層ではなく、あえて接着剤層に着目することにはならず、その上、接着剤層の弾性率や厚みを相違点1-1の数値範囲にすることは当業者であっても容易に想到し得るものではない。
そして、その他の証拠にも、耐落下破袋性を向上させるために、第2の接着剤層の断面について原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定される弾性率を、30.0MPa以上にすることについて、記載も示唆もない。
よって、本件発明1は、甲1-1発明及び示された他の証拠に基いて、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
(2)申立理由2(申立人2による明確性)
請求項に係る発明が明確に把握されるためには、請求項に係る発明の範囲が明確であること、すなわち、ある具体的な物や方法が請求項に係る発明の範囲に入るか否かを当業者が理解できるように記載されていることが必要である。
ここで、「前記第2の接着剤層の断面について原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定される弾性率」は、レトルト処理等の前の弾性率であることが明らかであり、「前記第2の接着剤層の断面について原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定される弾性率が、30.0MPa以上であり」という記載を含む、本件特許の請求項1の記載は明確であり、ある具体的な物や方法が請求項に係る発明の範囲に入るか否かを当業者が理解できるものである。
なお、申立人は、レトルト処理等の前の弾性率と解するべきなのか、レトルト処理等の後の弾性率と解するべきなのか明確ではない旨を主張する。しかしながら、本件発明において、レトルト処理等の有無は必須の構成ではないので、弾性率がレトルト処理等の前後のいずれであるかという特定はそもそも必要なく、申立人の主張は採用できない。
(3)申立理由3(申立人2によるサポート要件)について
特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かの判断については、上記第5 2に示したとおりである。
ア 本件発明において、耐落下破袋性を向上させるという課題を解決するための手段として、レトルト処理等の有無は必須の構成ではないから、申立人の主張は採用できない。
イ 「弾性率は、弾性変形における応力とひずみの間の比例定数(応力/ひずみ)であり、これが大きいほど耐衝撃性(延いては、耐落下破袋性)が高くなることは技術常識から推認可能」であることを踏まえると、耐落下破袋性を向上させるという観点から、弾性率の上限値を特定する必要がなく、申立人の主張は採用できない。
ウ 本件発明は、耐落下破袋性を向上させるという課題を解決するため、第2の接着剤層の弾性率や厚さに着目したものであり、シーラント層の厚さや材料等について特定する必要がなく、申立人の主張は採用できない。
第7 むすび
以上のとおり、請求項1~16に係る特許は、取消由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。
さらに、他に請求項1~16に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700418