特許異議申立
2025-700710
包装体用積層体、包装体、および、包装体用樹脂フィルム
- 審判番号
- 2025-700710
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-044019
- 登録番号
- 7619109
- 請求日
- 2025年07月09日
- 審決日
- 2026年03月19日
- 公報発行日
- 2026年07月31日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】TOPPANホールディングス株式会社
- 【権利者代理人】恩田 誠
- 【権利者代理人】恩田 博宣
- 【異議申立人】鈴木 多香子
- 【異議申立人】早川 いづみ
- 審判長/審判官
- 審判長 金丸 治之
- 審判官 長清 吉範
- 審判官 長谷川 一郎
- 分類
- P1651.121-YAA(B32B) / P1651.536-YAA(B32B) / P1651.537-YAA(B32B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7619109号発明「包装体用積層体、包装体、および、包装体用樹脂フィルム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7619109号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~7〕、〔8、9〕について訂正することを認める。
特許第7619109号の請求項1~9に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
1 本件特許の出願から特許掲載公報の発行までの手続の経緯
特許第7619109号(以下「本件特許」という。)について、出願から特許掲載公報の発行までの手続の経緯の概略は、以下のとおりである。
令和3年 3月17日 :特許出願
令和7年 1月14日 :特許権の設定登録
同年 1月22日 :特許掲載公報の発行
2 本件特許異議申立ての手続の経緯
本件特許異議申立ての手続の経緯は、以下のとおりである。
令和7年 7月 9日 :特許異議申立人鈴木多香子(以下「申立人1」という。)による請求項1~9に係る特許に対する本件特許異議の申立て
同年 7月18日 :特許異議申立人早川いづみ(以下「申立人2」という。)による請求項1~9に係る特許に対する本件特許異議の申立て
同年 8月29日付け:取消理由通知書
同年10月31日 :特許権者による訂正請求書、意見書の提出
令和8年 1月16日 :申立人2による意見書(以下「申立人2意見書」という。)の提出の提出
令和7年12月16日付けで申立人1及び申立人2に対して、訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)を、期間を指定して行ったものであるが、当該期間内に申立人1からは応答がなかった。
以下、令和7年10月31日に提出された訂正請求書を「本件訂正請求書」といい、本件訂正請求書による訂正の請求を「本件訂正請求」といい、本件訂正請求書による訂正を「本件訂正」という。
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
本件訂正の「請求の趣旨」は、「特許第7619109号の特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1から9について訂正することを求める。」ものであり、その内容は以下の訂正事項1、2のとおりである。なお、下線は、当審において訂正箇所に付したものであり、「・・・」は文章の省略を表す。以下同様。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)を用いて分析したときに、C7H4O+(m/z=104)のピーク強度をC3H5+(m/z=41)のピーク強度によって除算した規格値が、0.1以上0.5以下の範囲内に含まれる
包装体用積層体。」
と記載されているのを、
「飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)を用いて分析したときに、C7H4O+(m/z=104)のピーク強度をC3H5+(m/z=41)のピーク強度によって除算した規格値が、0.1以上0.5以下の範囲内に含まれ、
ジカルボン酸単位およびジオール単位の合計量に対するイソフタル酸単位のモル比率が2×10-1mol%以上9×10-1mol%以下であり、
前記ジカルボン酸単位および前記ジオール単位の前記合計量に対するナフタレンジカルボン酸単位モル比率が1×10-2mol%以上6×10-2mol%以下である
包装体用積層体。」に訂正する。また、請求項1の記載を直接的または間接的に引用する請求項2から7も同様に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項8に
「飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)を用いて分析したときに、C7H4O+(m/z=104)のピーク強度をC3H5+(m/z=41)のピーク強度によって除算した規格値が、0.1以上0.5以下の範囲内に含まれる
包装体用樹脂フィルム。」
と記載されているのを、
「飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)を用いて分析したときに、C7H4O+(m/z=104)のピーク強度をC3H5+(m/z=41)のピーク強度によって除算した規格値が、0.1以上0.5以下の範囲内に含まれ、
ジカルボン酸単位およびジオール単位の合計量に対するイソフタル酸単位のモル比率が2×10-1mol%以上9×10-1mol%以下であり、
前記ジカルボン酸単位および前記ジオール単位の前記合計量に対するナフタレンジカルボン酸単位モル比率が1×10-2mol%以上6×10-2mol%以下である
包装体用樹脂フィルム。」に訂正する。また、請求項8の記載を直接的に引用する請求項9も同様に訂正する。
2 一群の請求項について
訂正前の請求項1~7について、請求項2~7は、請求項1を直接的又は間接的に引用する関係にあるから、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであり、本件訂正は一群の請求項〔1~7〕について請求されたものである。
訂正前の請求項8、9について、請求項9は、請求項8を直接的に引用する関係にあるから、訂正事項2によって記載が訂正される請求項8に連動して訂正されるものであり、本件訂正は一群の請求項〔8、9〕について請求されたものである。
3 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的の適否について
訂正事項1は、訂正前請求項1の「樹脂フィルム」について、イソフタル酸単位とナフタレンジカルボン酸単位とを含むことを特定し、また、ジカルボン酸単位およびジオール単位の合計量に対するイソフタル酸単位のモル比率、および、ジカルボン酸単位およびジオール単位の合計量に対するナフタレンジカルボン酸単位のモル比率を具体的に特定しようとするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項の有無について
訂正事項1は、訂正前請求項1の「樹脂フィルム」について、「ジカルボン酸単位およびジオール単位の合計量に対するイソフタル酸単位のモル比率が2×10-1mol%以上9×10-1mol%以下であり、前記ジカルボン酸単位および前記ジオール単位の前記合計量に対するナフタレンジカルボン酸単位モル比率が1×10-2mol%以上6×10-2mol%以下である」という構成を加える訂正は、本件明細書の【0033】の記載に基づくものであり、明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係で、新たな技術的事項の導入をするものとはいえない。
したがって、本件訂正の訂正事項1に係る訂正は、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件特許明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてするものである。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
上記訂正は、特許請求の範囲を減縮した訂正であって、かつ発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的の適否について
訂正事項2は、訂正前請求項8の「包装体用樹脂フィルム」について、イソフタル酸単位とナフタレンジカルボン酸単位とを含むことを特定し、また、ジカルボン酸単位およびジオール単位の合計量に対するイソフタル酸単位のモル比率、および、ジカルボン酸単位およびジオール単位の合計量に対するナフタレンジカルボン酸単位のモル比率を具体的に特定しようとするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項の有無について
訂正事項2は、訂正前請求項8の「包装体用樹脂フィルム」について、「ジカルボン酸単位およびジオール単位の合計量に対するイソフタル酸単位のモル比率が2×10-1mol%以上9×10-1mol%以下であり、前記ジカルボン酸単位および前記ジオール単位の前記合計量に対するナフタレンジカルボン酸単位モル比率が1×10-2mol%以上6×10-2mol%以下である」という構成を加える訂正は、本件明細書の【0033】の記載に基づくものであり、明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係で、新たな技術的事項の導入をするものとはいえない。
したがって、本件訂正の訂正事項2に係る訂正は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
上記訂正は、特許請求の範囲を減縮した訂正であって、かつ発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
4 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~7〕、〔8、9〕について訂正することを認める。
第3 訂正後の本件発明
上記第2のとおり本件訂正が認められたから、本件特許の請求項1~9に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」等といい、総称して「本件発明」ともいう。)は、それぞれ、その訂正特許請求の範囲の請求項1~9に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
樹脂フィルムと、
ガスバリア層と、を備える包装体用積層体であって、
前記樹脂フィルムは、
ポリエチレンテレフタレートを含み、
飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)を用いて分析したときに、C7H4O+(m/z=104)のピーク強度をC3H5+(m/z=41)のピーク強度によって除算した規格値が、0.1以上0.5以下の範囲内に含まれ、
ジカルボン酸単位およびジオール単位の合計量に対するイソフタル酸単位のモル比率が2×10-1mol%以上9×10-1mol%以下であり、
前記ジカルボン酸単位および前記ジオール単位の前記合計量に対するナフタレンジカルボン酸単位モル比率が1×10-2mol%以上6×10-2mol%以下である
包装体用積層体。
【請求項2】
前記ガスバリア層が蒸着層を備え、前記蒸着層は無機酸化物膜または金属膜である
請求項1に記載の包装体用積層体。
【請求項3】
前記ガスバリア層は、塗布膜を備える
請求項2に記載の包装体用積層体。
【請求項4】
前記蒸着層と前記塗布膜とが接している
請求項3に記載の包装体用積層体。
【請求項5】
前記塗布膜は、Si(OR1)4、または、R2Si(OR3)3(OR1およびOR3は加水分解性基であり、R2は有機官能基である)で表されるケイ素化合物、または、ケイ素化合物の加水分解物を1種類以上と、水酸基を有する水溶性高分子と、を含む
請求項3または4に記載の包装体用積層体。
【請求項6】
前記ポリエチレンテレフタレートとしてリサイクルポリエチレンテレフタレートを含み、
前記リサイクルポリエチレンテレフタレートが、メカニカルリサイクルにより再生されたポリエチレンテレフタレート、および、ケミカルリサイクルにより再生されたポリエチレンテレフタレートの少なくとも一方である、
請求項1から5のいずれか一項に記載の包装体用積層体。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載の包装体用積層体を備える
包装体。
【請求項8】
樹脂フィルムとガスバリア層とを備えた包装体用積層体が備える包装体用樹脂フィルムであって、
ポリエチレンテレフタレートを含み、
飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)を用いて分析したときに、C7H4O+(m/z=104)のピーク強度をC3H5+(m/z=41)のピーク強度によって除算した規格値が、0.1以上0.5以下の範囲内に含まれ、
ジカルボン酸単位およびジオール単位の合計量に対するイソフタル酸単位のモル比率が2×10-1mol%以上9×10-1mol%以下であり、
前記ジカルボン酸単位および前記ジオール単位の前記合計量に対するナフタレンジカルボン酸単位モル比率が1×10-2mol%以上6×10-2mol%以下である
包装体用樹脂フィルム。
【請求項9】
前記ポリエチレンテレフタレートとしてリサイクルポリエチレンテレフタレートを含み、
前記リサイクルポリエチレンテレフタレートが、メカニカルリサイクルにより再生されたポリエチレンテレフタレート、および、ケミカルリサイクルにより再生されたポリエチレンテレフタレートの少なくとも一方である
請求項8に記載の包装体用樹脂フィルム。」
第4 取消理由通知の概要
本件訂正前の請求項1~9に係る特許に対して、当審において令和7年8月29日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は次のとおりである。
取消理由1(サポート要件)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
・本件発明は、「包装体用積層体、包装体、および、包装体用樹脂フィルム」(【0001】)に関するもので、本件発明の解決しようとする課題は、ガスバリア性を高めるだけでなく、変形に対する耐性をも高めて、包装体の気密性を包括的に向上させる包装体用積層体、包装体、および、包装体用樹脂フィルムを提供すること(【0004】)であり、樹脂フィルムに関して、「ジカルボン酸単位およびジオール単位の合計量に対するイソフタル酸単位のモル比率が2×10-1mol%以上9×10-1mol%以下であり、ナフタレンジカルボン酸単位モル比率が1×10-2mol%以上6×10-2mol%以下である」所定量のイソフタル酸とナフタレンジカルボン酸を含むポリエチレンテレフタレートを用いることにより、上記の課題を解決できると当業者であれば認識できる。
しかしながら、請求項1~9には、樹脂フィルムについて上記構成が十分特定されておらず、特許請求の範囲で記載された発明が、発明の詳細な説明の記載から把握される課題が解決できると当業者が認識できる範囲のものとはいえない。
取消理由2(実施可能要件)
本件特許は、明細書の記載が以下の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
・本件発明1及び本件発明8は樹脂フィルムが「規格値が、0.1以上0.5以下の範囲内に含まれる」という発明特定事項を有するものである。
そして、本件特許明細書において「規格値」に関して、規格値を当該範囲とするための要因として、面配向係数を大きくすることにより、樹脂フィルム自体のガスバリア性を高めることが記載され、本件発明1及び本件発明8の樹脂フィルムは面配向係数が大きいものである必要がある。
実施例1~4に記載の樹脂フィルムの面配向係数の値は、いずれも、0.170~0.171であり、【0063】~【0074】の記載によれば、これらはいずれも延伸されずに製造されたフィルムである。無延伸ポリエステルフィルムの面配向係数の値は、0~0.05程度であることが技術常識である。
実施例1~4に記載の延伸されずに製造された樹脂フィルムについて、どのようにして2軸延伸フィルムよりも高い面配向係数の樹脂フィルムを得るのか当業者は理解することができず、本件発明1及び本件発明8を実施することができない。なお、実施例5~8と比較例2に記載の樹脂フィルムについても同様である。
よって、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、本件発明1及び本件発明8を製造し、使用することができる程度の記載があるとはいえない。
以上より、本件発明1及び本件発明1を直接または間接的に引用する本件発明2~7、本件発明8及び本件発明8を直接引用する本件発明9に関して、発明の詳細な説明の記載は実施可能要件に適合しない。
第5 当審の判断
当審合議体は、以下のとおり、上記取消理由で通知した理由によっては、訂正後の請求項1~9に係る特許は取り消されるべきものではないと判断する。
1 取消理由1(サポート要件)
(1) サポート要件の考え方について
特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。以下、この観点に立って、特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かについて検討する。
(2) 発明の課題
本件特許明細書の【0004】の記載から、本件発明1及び8が解決しようとする課題は、ガスバリア性を高めるだけでなく、変形に対する耐性をも高めて、包装体の気密性を包括的に向上させる包装体用積層体、包装体、および、包装体用樹脂フィルムを提供することである。
(3) 本件発明1~9について
本件発明1及び8には、「飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)を用いて分析したときに、C7H4O+(m/z=104)のピーク強度をC3H5+(m/z=41)のピーク強度によって除算した規格値が、0.1以上0.5以下の範囲内に含まれる」ことが特定されている。
本件特許明細書において「規格値」に関して、【0030】には、「・・・TOF-SIMSは、試料表面に一次イオンを照射し、表面から放出される二次イオンの質量を測定するものであり、試料表面極近傍から発生する二次イオンを測定することができるものであるが、TOF-SIMSにおける二次イオン発生機構は極めて複雑である。本発明者らは、規格値を当該範囲とするための要因として以下の2つの要因の寄与が大きいものと推定する。」(下線は当審において付した。「・・・」は摘記の省略を示す。以下同様。)、【0031】には「(要因1)樹脂フィルムに含まれるイソフタル酸量・・・」、【0032】には「(要因2)樹脂フィルムに含まれるナフタレンジカルボン酸・・・」、【0033】には「本開示の樹脂フィルムにあっては、ジカルボン酸単位およびジオール単位の合計量に対するイソフタル酸単位のモル比率が2×10-1mol%以上9×10-11.0mol%以下であり、ナフタレンジカルボン酸単位モル比率が1×10-2mol%以上6×10-2mol%以下であることにより、・・・規格値を、0.1以上0.5以下の範囲内とすることができる。」と記載されている。
そして、本件特許明細書【0063】~【0109】に記載されている実施例1~8では、規格値が0.1以上0.5以下の範囲内である包装体用積層体により気密性が高められることが示されているものの、その実施例1~8はいずれも「ジカルボン酸単位およびジオール単位の合計量に対するイソフタル酸単位のモル比率が2×10-1mol%以上9×10-11.0mol%以下であり、ナフタレンジカルボン酸単位モル比率が1×10-2mol%以上6×10-2mol%以下である」所定量のイソフタル酸とナフタレンジカルボン酸を含むポリエチレンテレフタレートを用いているものと認められる。
これらの記載を総合すると、「ジカルボン酸単位およびジオール単位の合計量に対するイソフタル酸単位のモル比率が2×10-1mol%以上9×10-11.0mol%以下であり、ナフタレンジカルボン酸単位モル比率が1×10-2mol%以上6×10-2mol%以下である」所定量のイソフタル酸とナフタレンジカルボン酸を含むポリエチレンテレフタレートを用いることにより、上記(2)の課題を解決できると当業者であれば認識できる。
本件発明1の「樹脂フィルム」及び本件発明8の「包装体用樹脂フィルム」は本件訂正により「ジカルボン酸単位およびジオール単位の合計量に対するイソフタル酸単位のモル比率が2×10-1mol%以上9×10-11.0mol%以下であり、ナフタレンジカルボン酸単位モル比率が1×10-2mol%以上6×10-2mol%以下である」所定量のイソフタル酸とナフタレンジカルボン酸を含むポリエチレンテレフタレートを用いることについて、特定されている。
そうすると、本件発明1及び8は、発明の詳細な説明に記載されたものであって、上記(2)に示した課題を解決できると認識できる範囲のものといえる。
以上のとおり、本件発明1及び本件発明1を直接または間接的に引用する本件発明2~7、本件発明8及び本件発明8を直接引用する本件発明9について、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
よって、本件発明1及び本件発明1を直接または間接的に引用する本件発明2~7、本件発明8及び本件発明8を直接引用する本件発明9に関して、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合する。
(4) 取消理由1についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1~9に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしているから、取消理由1は理由がない。
2 取消理由2(実施可能要件)について
(1) 実施可能要件
物の発明について実施可能要件を充足するためには、当業者が、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を製造し、使用することができる程度の記載があることを要し、また、方法の発明について実施可能要件を充足するためには、当業者が、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その方法の使用をすることができる程度の記載があることを要するものである。以下、この観点に立って、発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に適合するか否かについて検討する。
(2) 本件発明1~9について
本件発明1及び本件発明8はフィルムが「飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)を用いて分析したときに、C7H4O+(m/z=104)のピーク強度をC3H5+(m/z=41)のピーク強度によって除算した規格値が、0.1以上0.5以下の範囲内に含まれる」という発明特定事項を有するものである。
そして、本件特許明細書において「規格値」に関して、【0030】には、「・・・TOF-SIMSは、試料表面に一次イオンを照射し、表面から放出される二次イオンの質量を測定するものであり、試料表面極近傍から発生する二次イオンを測定することができるものであるが、TOF-SIMSにおける二次イオン発生機構は極めて複雑である。本発明者らは、規格値を当該範囲とするための要因として以下の2つの要因の寄与が大きいものと推定する。」、【0031】には「(要因1)樹脂フィルムに含まれるイソフタル酸量・・・」、【0032】には「(要因2)樹脂フィルムに含まれるナフタレンジカルボン酸・・・」と記載され、【0033】の「本開示の樹脂フィルムにあっては、ジカルボン酸単位およびジオール単位の合計量に対するイソフタル酸単位のモル比率が2×10-1mol%以上9×10-11.0mol%(当審注:「9×10-11.0mol%」は、「9×10-1mol%」の誤記と認められる。)以下であり、ナフタレンジカルボン酸単位モル比率が1×10-2mol%以上6×10-2mol%以下であることにより、C7H4O+(m/z=104)のピーク強度をC3H5+(m/z=41)のピーク強度によって除算した規格値を、0.1以上0.5以下の範囲内とすることができる。」によれば、上記本件発明1及び本件発明8の発明特定事項を有するものを実施することができることは、明らかである。
よって、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、本件発明1及び本件発明8を製造し、使用することができる程度の記載があるといえる。
以上より、本件発明1及び本件発明1を直接または間接的に引用する本件発明2~7、本件発明8及び本件発明8を直接引用する本件発明9に関して、発明の詳細な説明の記載は実施可能要件に適合する。
(3) 申立人2の主張
申立人2は申立人2意見書において、おおむね以下のとおり主張する(申立人2意見書の第2ページ)。
・本件特許の実施例1~4のフィルムは延伸せずに製造されることが記載され(【0063】)、また、樹脂フィルムは無延伸フィルムでよいことが記載され(【0038】)、さらに、ナフタレンジカルボン酸単位を調整することにより、樹脂フィルムの面配係数を大きくすることができることが記載されていることから(【0032】)、特許権者が主張する、実施例1~4の樹脂フィルムが延伸フィルムであり、これらの樹脂フィルムが延伸により高い面配向係数を得ているとのことを当業者が理解することができない。
仮に当業者が実施例1~4の樹脂フィルムが延伸フィルムであると推測したとしても、本件特許には高い面配向係数を得るための延伸フィルムの製造方法および製造条件について、何ら記載されていない。また、本件特許の比較例1に記載の「東レ(株)製、ルミラーP60 12μm」について、該フィルムの製造方法および製造条件は公開されておらず、当業者でも知ることはできず推測することも容易ではないから、当業者が過度の試行錯誤を要することは明らかである。
(4) 申立人2の主張についての判断
申立人2が主張の根拠としている【0038】、【0063】は、ことさら延伸フィルムを排除したものではなく、申立人2の主張は前提において正解していない。そして、発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に適合することについては、上記(2)で検討したとおりである。加えて、延伸工程やナフタレンジカルボン酸単位を調整することにより、樹脂フィルムの面配係数を大きくすることができることから、当業者であれば、延伸工程や樹脂フィルムのイソフタル酸単位およびナフタレンジカルボン酸単位がそれぞれ所定のモル比率を満たすことによって、比較例1の樹脂フィルムよりも高い面配向係数を有するものとして、過度の試行錯誤を要することなく、本件特許の樹脂フィルムや包装体用樹脂フィルムを製造することができるといえる。
よって、申立人2の上記主張は採用できない。
(5) 取消理由2についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1~9に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしているから、取消理由2は理由がない。
第6 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 申立理由の概要
申立人1は、以下に示す甲第1号証~甲第2号証(以下、申立人○が提出した甲第△号証を「○甲△」という。以下同様。)を提出し、また、申立人2は、以下に示す2甲1~2甲2を提出し、本件発明1~9に係る特許は、以下の理由(以下、異議申立人番号と理由番号により「申立1理由1」等という。以下同様。)により、取り消すべきものである旨を主張する。
(1)申立1理由1(進歩性)
本件特許の請求項1、2、6~9に係る発明は、1甲1に記載された発明から当業者が容易に想到し得たものであり、本件特許の請求項3~5に係る発明は、1甲1に記載された発明及び1甲2に記載の事項から当業者が容易に想到し得たものであるから、特許法第29条第2項に該当し、特許を受けることができない(申立書1の第23~35ページ)。
(2)申立1理由2(明確性要件)
本件特許の請求項1~9の特許請求の範囲の記載が次の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである(申立書1の第35、36ページ)。
本件発明1、8では、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)を用いて分析したときに、C7H4O+(m/z=104)のピーク強度をC3H5+(m/z=41)のピーク強度によって除算した規格値が特定されている。しかしながら、以下の第1~第3により、規格値の技術的意義が不明確である。本件発明1、8を引用する本件発明2~7、本件発明9も同様である。
第1に、明細書では規格値はイソフタル酸量とナフタレンジカルボン酸量の指標とされているが、テレフタル酸とイソフタル酸は、ベンゼン環上のカルボキシル基の位置(1,4-位と1,3-位)のみが異なる構造異性体であり、TOF-SIMSにおいてm/z=104の同一フラグメントを生成するため区別できないこと。
第2に、ナフタレンジカルボン酸から何故C7H4O+(m/z=104)フラグメントが生成されるのか技術的に理解することができないこと。
第3に、明細書の実施例においても「規格値」と「樹脂フィルムに含まれるイソフタル酸量」や「樹脂フィルムに含まれるナフタレンジカルボン酸」との間に相関が認められないこと。
(3)申立2理由3(サポート要件)
本件特許は、請求項1~9の記載が次の点で発明の詳細な説明に記載したものではなく、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである(申立書2の第14、15ページ)。
・本件特許の課題である、外力の印加に起因した積層体におけるガスバリア性の低下を抑制すること(【0004】)について、本件特許明細書の実施例では、酸化アルミニウムからなる気相堆積膜と、テトラエトキシシランとポリビニルアルコールを含む溶液からなる塗布膜を積層した実施例(1~4)に記載の積層体において、ゲルボフレックス試験後の酸素透過度と水蒸気透過度が比較例1に比べて改善していることが記載されている(【0081】【表1】、【0082】)。なお、本件特許実施例(5~8)と比較例2に記載の積層体についても同様である。
上記課題を解決するための手段として、前記気相堆積膜と所定の組成を有する塗布膜の両方を組み合わせることが必須の達成手段と解されるところ、本件特許請求項1~9においては、所定の組成を有する塗布膜が要件に含まれておらず、明細書に記載された範囲を超えるものである。
(4)申立人が提出した証拠
1甲1:特開2017-210002号公報
1甲2:特開2008-6747号公報
2甲1:特開2020-32596号公報
2甲2:特開2005-298540号公報
2 当審の判断
(1)引用発明
ア 1甲1の記載
1甲1には、以下の記載がある。
・「【0081】
(実施例1)
(ペットボトルからリサイクルされたポリエステル樹脂の調整)
飲料用ペットボトルから残りの飲料などの異物を洗い流した後、粉砕して得たフレークを押出機で溶融し、順次目開きサイズの細かなものにフィルタを変えて2回更に細かな異物を濾別し、3回目に50μmの最も小さな目開きサイズのフィルタで濾別して、ポリエステル再生原料を得た。得られた樹脂の構成は、テレフタル酸/イソフタル酸//エチレングリコール=97.0/3.0//100(モル%)で、樹脂の極限粘度は0.70dl/gであった。これをポリエステルAとする。
【0082】
(フィルムの作製)
ポリエステルBとしてテレフタル酸//エチレングリコール=100//100(モル%)からなる極限粘度0.62dl/gのポリエチレンテレフタレート樹脂を、ポリエステルCとして、ポリエステルBに平均粒子径1.5μmの不定形シリカを0.3%含有するマスターバッチとしてものを作製した。各原料は、33Paの減圧下、125℃で8時間乾燥した。それらをA/B/C=70/20/10(重量比)となるよう混合したものを、一軸押出機に投入した。押出機から、メルトライン、フィルタおよびT-ダイまでは樹脂の温度が280℃となるように温度設定した。ただし、押出機のスクリューの圧縮部の開始点から30秒間は樹脂の温度が305℃となるように設定し、その後は再び、280℃となるようにした。
【0083】
T-ダイから押し出された溶融物を冷却ロールに密着させ、未延伸シートとし、それを引き続き118℃に加熱した周速差のあるロールにて縦方向に1.41倍延伸し(MD1)、さらに128℃に加熱した周速差のあるロールにて縦方向に2.92倍延伸(MD2)した。その縦延伸したシートをテンターに導き、121℃で予熱した後に、131℃で4.3倍横延伸した。引き続き熱固定として、180℃、リラックスなし(0%)で2.5秒行った(TS1)後に引き続き231℃、リラックス5%、3.0秒行った(TS2)後に引き続き222℃、リラックスなしで2.5秒行った(TS3)。引き続き、同じテンター内で、120℃で6.0秒間の冷却を行い、最終的にワインダーで巻き取ることで厚さ18μmの二軸延伸ポリエステルフィルムを得た。
【0084】
(無機薄膜層の形成)
次に、得られた二軸延伸ポリエステルフィルムの片面に、無機薄膜層として二酸化ケイ素と酸化アルミニウムの複合無機酸化物層を電子ビーム蒸着法で形成した。蒸着源としては、3mm~5mm程度の粒子状SiO2(純度99.9%)とA12O3(純度99.9%)を用いた。ここで複合酸化物層の組成は、SiO2/A12O3(質量比)=60/40であった。またこのようにして得られたフィルム(無機薄膜層/二軸延伸ポリエステルフィルム)における無機薄膜層(SiO2/A12O3複合酸化物層)の膜厚は13nmであった。
以上のようにして、二軸延伸ポリエステルフィルムの上に無機薄膜層を備えた本発明の積層フィルムを得た。得られた積層フィルムについて、上記の通り、酸素透過度、水蒸気透過度を評価した。」
イ 1甲1に記載された発明
1甲1には、特に実施例1(【0081】~【0084】)の積層フィルムに着目すると、次の「1甲1発明」が記載されている。
「ポリエステルAとして、樹脂の構成が、テレフタル酸/イソフタル酸//エチレングリコール=97.0/3.0//100(モル%)で、樹脂の極限粘度は0.70dl/gであり、
ポリエステルBとしてテレフタル酸//エチレングリコール=100//100(モル%)からなる極限粘度0.62dl/gのポリエチレンテレフタレート樹脂を、ポリエステルCとして、ポリエステルBに平均粒子径1.5μmの不定形シリカを0.3%含有するマスターバッチとしたものを作製し、
それらをA/B/C=70/20/10(重量比)となるよう混合したものを、一軸押出機に投入し、
T-ダイから押し出された溶融物を冷却ロールに密着させ、未延伸シートとし、それを引き続き118℃に加熱した周速差のあるロールにて縦方向に1.41倍延伸し(MD1)、さらに128℃に加熱した周速差のあるロールにて縦方向に2.92倍延伸(MD2)し、
最終的にワインダーで巻き取ることで厚さ18μmの二軸延伸ポリエステルフィルムを得て、
得られた二軸延伸ポリエステルフィルムの片面に、無機薄膜層として二酸化ケイ素と酸化アルミニウムの複合無機酸化物層を電子ビーム蒸着法で形成し、
二軸延伸ポリエステルフィルムの上に無機薄膜層を備えた
積層フィルム。」
(2) 申立1理由1(進歩性)
ア 本件発明1について
(ア) 対比
本件発明1と1甲1発明を対比する。
1甲1発明の「二軸延伸ポリエステルフィルム」は、本件発明1の「樹脂フィルム」に相当する。
1甲1発明の「無機薄膜層」及び「二酸化ケイ素と酸化アルミニウムの複合無機酸化物層」は、本件発明1の「ガスバリア層」に相当する。
1甲1発明の「積層フィルム」は、本件発明1の「包装体用積層体」と、「積層体」の限りで相当する。
1甲1発明の「二軸延伸ポリエステルフィルム」は、「ポリエステルBとして」「ポリエチレンテレフタレート樹脂を、ポリエステルCとして、ポリエステルBに平均粒子径1.5μmの不定形シリカを0.3%含有するマスターバッチとしたものを作製し、それらを」「混合したものを、一軸押出機に投入し、T-ダイから押し出された溶融物を冷却ロールに密着させ、未延伸シートとし、それを」「縦方向に」「延伸し」たものであるから、本件発明1の「前記樹脂フィルムは、ポリエチレンテレフタレートを含」む構成を備える。
そうすると、本件発明1と1甲1発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
[一致点1]
「 樹脂フィルムと、
ガスバリア層と、を備える積層体であって、
前記樹脂フィルムは、
ポリエチレンテレフタレートを含む、
積層体。」
[相違点1]
樹脂フィルムについて、本件発明1は「飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)を用いて分析したときに、C7H4O+(m/z=104)のピーク強度をC3H5+(m/z=41)のピーク強度によって除算した規格値が、0.1以上0.5以下の範囲内に含まれ、
ジカルボン酸単位およびジオール単位の合計量に対するイソフタル酸単位のモル比率が2×10-1mol%以上9×10-1mol%以下であり、
前記ジカルボン酸単位および前記ジオール単位の前記合計量に対するナフタレンジカルボン酸単位モル比率が1×10-2mol%以上6×10-2mol%以下である」のに対し、1甲1発明ではそのような特定がなされていない点。
[相違点2]
積層体について、本件発明1は「包装体用積層体」であるのに対し、1甲1発明では「積層体」である点。
(イ) 判断
a 相違点1について検討する。
1甲1には、「二軸延伸ポリエステルフィルム」に関して、本件発明1の「飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)を用いて分析したときに、C7H4O+(m/z=104)のピーク強度をC3H5+(m/z=41)のピーク強度によって除算した規格値が、0.1以上0.5以下の範囲内に含まれ、
ジカルボン酸単位およびジオール単位の合計量に対するイソフタル酸単位のモル比率が2×10-1mol%以上9×10-1mol%以下であり、
前記ジカルボン酸単位および前記ジオール単位の前記合計量に対するナフタレンジカルボン酸単位モル比率が1×10-2mol%以上6×10-2mol%以下である」点は、記載も示唆もされていない。
また、1甲1発明の「二軸延伸ポリエステルフィルム」において、「飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)を用いて分析したときに、C7H4O+(m/z=104)のピーク強度をC3H5+(m/z=41)のピーク強度によって除算した規格値が、0.1以上0.5以下の範囲内に含まれ、
ジカルボン酸単位およびジオール単位の合計量に対するイソフタル酸単位のモル比率が2×10-1mol%以上9×10-1mol%以下であり、
前記ジカルボン酸単位および前記ジオール単位の前記合計量に対するナフタレンジカルボン酸単位モル比率が1×10-2mol%以上6×10-2mol%以下である」構成である蓋然性が高いとはいえず、また、そのような構成とする動機付けはない。
そして、「二軸延伸ポリエステルフィルム」において、「飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)を用いて分析したときに、C7H4O+(m/z=104)のピーク強度をC3H5+(m/z=41)のピーク強度によって除算した規格値が、0.1以上0.5以下の範囲内に含まれ、
ジカルボン酸単位およびジオール単位の合計量に対するイソフタル酸単位のモル比率が2×10-1mol%以上9×10-1mol%以下であり、
前記ジカルボン酸単位および前記ジオール単位の前記合計量に対するナフタレンジカルボン酸単位モル比率が1×10-2mol%以上6×10-2mol%以下である」構成は、本件特許に係る出願前において周知技術であるとはいえない。
また、この相違点1に係る本件発明1の構成を、記載あるいは示唆する証拠は提出されていない。
そして、本件発明1の当該構成により、積層体のガスバリア性における低下が抑えられ、積層体から形成された包装体は、商品の輸送時に包装体に印加される振動などに起因した包装体におけるガスバリア性の低下が抑えられ、包装体によって包装された対象物の品質における低下が抑えられ、これにより、包装材としての利用に対する積層体の適性が高められるという効果を奏するものである。
よって、1甲1発明において、相違点1に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
b 申立人1の主張
申立人1は申立書1において、おおむね以下のとおり主張する(申立書1の第24~26ページ)。
・本件明細書の実施例1~8、比較例1、2の記載からは「TOF-SIMSの分析によって算出される規格値」と、「樹脂フィルムに含まれるイソフタル酸量」や「樹脂フィルムに含まれるナフタレンジカルボン酸」との間に相関がない。
そして、本件明細書の記載では、ジカルボン酸としてテレフタル酸及びイソフタル酸を含むものについて、「TOF-SIMSの分析によって算出される規格値」がどのようなものになるのかが示されていない。
すると、1甲1発明において、TOF-SIMSを用いて分析したときに、規格値が、0.1以上0.5以下の範囲内に含まれることは実質的な差異点と認められるものではなく、また容易想到である。
c 申立人1の主張の検討
本件明細書には、本件発明1の「包装体用積層体」の「二軸延伸ポリエステルフィルム」として、「飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)を用いて分析したときに、C7H4O+(m/z=104)のピーク強度をC3H5+(m/z=41)のピーク強度によって除算した規格値が、0.1以上0.5以下の範囲内に含まれ、
ジカルボン酸単位およびジオール単位の合計量に対するイソフタル酸単位のモル比率が2×10-1mol%以上9×10-1mol%以下であり、
前記ジカルボン酸単位および前記ジオール単位の前記合計量に対するナフタレンジカルボン酸単位モル比率が1×10-2mol%以上6×10-2mol%以下である」実施例が記載されている。
そして、本件明細書の記載からは「TOF-SIMSの分析によって算出される規格値」と、「樹脂フィルムに含まれるイソフタル酸量」や「樹脂フィルムに含まれるナフタレンジカルボン酸」との間に相関がないこと、ジカルボン酸としてテレフタル酸及びイソフタル酸を含むものについて、「TOF-SIMSの分析によって算出される規格値」がどのようなものになるのかが示されていないことをもって、直ちに相違点1に係る本件発明1の構成が実質的な相違点ではないとか、容易想到であるとはいえない。
1甲1に相違点1に係る本件発明1の構成が記載されていないことは、上記aで検討したとおりである。
よって、1甲1発明において、相違点1に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
したがって、申立人1の上記主張は採用できない。
d 小括
以上のとおりであるから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、1甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ 本件発明2、6~7について
本件発明2、6~7は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定するものであるから、上記アと同様の理由により、1甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 本件発明3~5について
本件発明3~5は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定するものであるから、上記アと同様の理由により、1甲1発明及び1甲2に記載の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
エ 本件発明8について
(ア) 対比
本件発明8と1甲1発明を対比する。
上記ア(ア)と同様である。
さらに、1甲1発明の「積層フィルム」は、本件発明8の「包装体用積層体」と、「積層体」の限りで相当する。
1甲1発明の「積層フィルム」は、本件発明8の「包装体用樹脂フィルム」と、「フィルム」の限りで相当する。
1甲1発明の「積層フィルム」は、本件発明8の「包装体用積層体が備える包装体用樹脂フィルム」と、「積層体が備えるフィルム」の限りで相当する。
そうすると、本件発明8と1甲1発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
[一致点2]
「 樹脂フィルムと、
ガスバリア層と、を備える積層体が備えるフィルムであって、
ポリエチレンテレフタレートを含む、
フィルム。」
[相違点3]
フィルムについて、本件発明8は「飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)を用いて分析したときに、C7H4O+(m/z=104)のピーク強度をC3H5+(m/z=41)のピーク強度によって除算した規格値が、0.1以上0.5以下の範囲内に含まれ、
ジカルボン酸単位およびジオール単位の合計量に対するイソフタル酸単位のモル比率が2×10-1mol%以上9×10-1mol%以下であり、
前記ジカルボン酸単位および前記ジオール単位の前記合計量に対するナフタレンジカルボン酸単位モル比率が1×10-2mol%以上6×10-2mol%以下である
」のに対し、1甲1発明ではそのような特定がなされていない点。
[相違点4]
積層体、包装体用樹脂フィルムについて、本件発明8は「包装体用積層体」、「包装体用積層体が備える包装体用樹脂フィルム」であるのに対し、1甲1発明ではそのような特定がなされていない点。
(イ) 判断
a 相違点3について検討する。
上記ア(イ)と同様である。
よって、1甲1発明において、相違点3に係る本件発明8の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
b 小括
以上のとおりであるから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明8は、1甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
オ 本件発明9について
本件発明9は、本件発明8の発明特定事項を全て含み、さらに限定するものであるから、上記エと同様の理由により、1甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
カ 申立1理由1についてのまとめ
申立1理由1からは請求項1~9に係る特許が特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえないから、申立1理由1によっては、請求項1~9に係る特許を取り消すことはできない。
(3)申立1理由2(明確性要件)
ア 明確性要件の考え方
特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載のみならず、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
イ 本件特許請求の範囲の記載
請求項1及び請求項8には「飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)を用いて分析したときに、C7H4O+(m/z=104)のピーク強度をC3H5+(m/z=41)のピーク強度によって除算した規格値が、0.1以上0.5以下の範囲内に含まれ、
ジカルボン酸単位およびジオール単位の合計量に対するイソフタル酸単位のモル比率が2×10-1mol%以上9×10-1mol%以下であり、
前記ジカルボン酸単位および前記ジオール単位の前記合計量に対するナフタレンジカルボン酸単位モル比率が1×10-2mol%以上6×10-2mol%以下である」と記載されている。
ウ 判断
本件特許請求の範囲の請求項1及び請求項8には、「飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)を用いて分析したときに、C7H4O+(m/z=104)のピーク強度をC3H5+(m/z=41)のピーク強度によって除算した規格値が、0.1以上0.5以下の範囲内に含まれ」る点が特定されているところ、「規格値」は求め方も特定されており、その用語自体は記載として明確である。
そして、本件明細書の記載を参照しながら技術常識に基づき、ある具体的な物が請求項1又は請求項8に係る発明の範囲に入るか否かを当業者が理解できるといえる。
そうすると、本件明細書において、「規格値」が「イソフタル酸量とナフタレンジカルボン酸量の指標」であるとする技術的根拠、ナフタレンジカルボン酸からC7H4O+(m/z=104)フラグメントが生成される技術的根拠、実施例において「規格値」と「樹脂フィルムに含まれるイソフタル酸量」や「樹脂フィルムに含まれるナフタレンジカルボン酸」に相関関係が記載されていないとしても、本件明細書の記載を総合すると、「規格値」の技術的意義が不明確とはいえず、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすとはいえない。
エ まとめ
以上のとおり、本件発明1及び本件発明1を直接または間接的に引用する本件発明2~7、本件発明8及び本件発明8を直接引用する本件発明9は、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえず、明確性要件を満たしている。
オ 申立1理由2についてのまとめ
申立1理由2からは本件特許の請求項1~9の特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえないから、申立1理由2によっては、請求項1~9に係る特許を取り消すことはできない。
(4) 申立2理由3(サポート要件)
上記第5の1で説示したとおり、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合する。
本件発明は、その特許請求の範囲に特定されているとおり、樹脂フィルムと、ガスバリア層と、を備える包装体用積層体を備え、ポリエチレンテレフタレートを含み、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)を用いて分析したときに、規格値が、所定の数値範囲であり、ジカルボン酸単位およびジオール単位の合計量に対するイソフタル酸単位のモル比率及びナフタレンジカルボン酸単位モル比率がそれぞれ所定の数値範囲であること1×10-2mol%以上6×10-2mol%以下であるものである。
そして、当該構成により、積層体において、ガスバリア性を高めるだけでなく、変形に対する耐性をも高めて、包装体の気密性を包括的に向上させるという本件特許の課題を解決するものである。
本件明細書の実施例では、酸化アルミニウムからなる気相堆積膜と、テトラエトキシシランとポリビニルアルコールを含む溶液からなる塗布膜を積層した実施例(1~4、5~8)に記載の積層体において、ゲルボフレックス試験後の酸素透過度と水蒸気透過度が比較例1、2に比べて改善していることが記載されている(【0081】【表1】、【0082】、【0103】【表2】、【0104】)。
酸化アルミニウムからなる気相堆積膜と、テトラエトキシシランとポリビニルアルコールを含む溶液からなる塗布膜を積層した構成は、実施例のみならず比較例1、2においても備えるものであるところ、実施例の酸素透過度及び水蒸気透過度の改善は、主として、樹脂フィルムについて、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)を用いて分析したときに、規格値が、所定の数値範囲であり、ジカルボン酸単位およびジオール単位の合計量に対するイソフタル酸単位のモル比率及びナフタレンジカルボン酸単位モル比率がそれぞれ所定の数値範囲であることによるといえる。
そうすると、気相堆積膜と所定の組成を有する塗布膜の両方を組み合わせることが必須の達成手段であるとはいえない。
したがって、本件特許の請求項1~9に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしているから、申立2理由3によっては、請求項1~9に係る特許を取り消すことはできない。
第7 むすび
以上のとおり、請求項1~9に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由並びに特許異議申立書に記載した特許異議申立理由及び証拠によっては、取り消すことができない。
また、他に請求項1~9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2025-700710