特許異議申立
2026-700119
ガスバリア性フィルム
- 審判番号
- 2026-700119
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2024-226978
- 登録番号
- 7750368
- 請求日
- 2026年02月09日
- 審決日
- 2026年06月30日
- 公報発行日
- 2026年07月31日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】TOPPANホールディングス株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人小笠原特許事務所
- 【異議申立人】鈴木 多香子
- 審判長/審判官
- 審判長 田口 傑
- 審判官 長清 吉範
- 審判官 笹木 俊男
- 分類
- P1651.121-Y (B32B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7750368号発明「ガスバリア性フィルム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7750368号の請求項1~12に係る特許を維持する。
理由
理 由
1 手続の経緯
特許第7750368号(以下「本件特許」という。)の請求項1~12に係る特許についての出願は、令和2年6月11日に出願した特願2020-101540号の一部を、令和6年12月24日に新たな特許出願としたものであって、令和7年9月29日に特許権の設定登録がされ、令和7年10月7日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について、令和8年2月9日に特許異議申立人鈴木多香子(以下「申立人」という。)は、特許異議の申立てを行った。
2 本件発明
本件特許の請求項1~12に係る発明(以下「本件発明1」等といい、まとめて「本件発明」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1~12に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
ポリプロピレンを主成分とする基材と、
前記基材の第一面側に酸素バリア性皮膜(ただし、無機層状化合物を含むものを除く)を有し、
前記基材と前記酸素バリア性皮膜の間に下地層、または下地層および無機酸化物層の両方を備え、
前記第一面の赤外分光測定において、1360~1390cm-1に存在するピーク強度I1と、1440~1480cm-1に存在するピーク強度I2との比が下記式(1)を満たし、
I1/I2≦1.55 …(1)
前記第一面上には、ポリプロピレン以外の材料からなる微粒子が突出しており、
前記微粒子の数が、257μm×259μmの領域(面積0.067mm2)あたり100個以下であり、
前記微粒子の平均突出高さが2.5μm以下である、ガスバリア性フィルム。
【請求項2】
前記基材は
基層と前記第一面を構成する表層とを含む2以上の樹脂層を有し、
前記第一面と反対側の第二面の樹脂層の赤外分光測定における前記I1/I2の値が、
前記第一面における前記I1/I2の値よりも大きい、請求項1に記載のガスバリア性フィルム。
【請求項3】
前記下地層の厚みが0.01~1μmである、請求項1または2に記載のガスバリア性フィルム。
【請求項4】
前記下地層は、主成分として有機高分子を含み、
前記有機高分子は、ポリアクリル系樹脂、ポリオール系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリアミド系樹脂、またはこれらの有機高分子の反応生成物の少なくとも1つを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のガスバリア性フィルム。
【請求項5】
前記基材と前記酸素バリア性皮膜の間に前記下地層および前記無機酸化物層の両方を備え、
前記無機酸化物層の厚みが1~200nmである、請求項1~4のいずれか一項に記載のガスバリア性フィルム。
【請求項6】
前記基材と前記酸素バリア性皮膜の間に前記下地層および前記無機酸化物層の両方を備え、
前記無機酸化物層が、酸化アルミニウムまたは酸化ケイ素である、請求項1~5のいずれか一項に記載のガスバリア性フィルム。
【請求項7】
前記酸素バリア性皮膜の厚みが0.05~1μmである、請求項1~6のいずれか一項に記載のガスバリア性フィルム。
【請求項8】
前記酸素バリア性皮膜が、金属アルコキシド及びその加水分解物、乃至はその反応生成物の少なくとも1つと、水溶性高分子を含む皮膜である、請求項1~7のいずれか一項に記載のガスバリア性フィルム。
【請求項9】
前記酸素バリア性皮膜が、シランカップリング剤及びその加水分解物、乃至はその反応生成物の少なくとも1つをさらに含む、請求項8に記載のガスバリア性フィルム。
【請求項10】
前記酸素バリア性皮膜が、ポリカルボン酸系重合体(A)のカルボキシ基と多価金属化合物(B)との反応生成物であるカルボン酸の多価金属塩を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載のガスバリア性フィルム。
【請求項11】
前記基材が熱融着可能なシーラント層をさらに備え、前記シーラント層が接着剤層により前記酸素バリア性皮膜に接合されている、請求項1~10のいずれか一項に記載のガスバリア性フィルム。
【請求項12】
120℃、30分の熱水処理後において、
酸素透過度が5.0cc/m2・day以下であり、
前記基材と前記シーラント層との剥離強度が1.0N/15mm以上である、請求項11に記載のガスバリア性フィルム。」
3 申立理由の概要
申立人は、以下に示す甲第1号証~甲第3号証(以下「甲第〇号証」を「甲1」等という。)を提出し、本件発明1~12は、甲1~甲3に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~12に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである旨主張する。
<証拠一覧>
甲1 特開平10-67079号公報
甲2 Frank Higgins、「キャストフィルムFT-IR手法を用いたポリエチレン/ポリプロピレン混合物中のポリエチレン比率の測定」、アジレント・テクノロジー株式会社、[online]、2012年1月19日、取得先<https://www.chem-agilent.com/appnote/pdf/5990-9785JAJP_LR.pdf>
甲3 特開平10-76593号公報
4 証拠について
(1)甲1について
ア 甲1の記載
甲1には、以下の記載がある(なお、下線は当審で付したものであり、「・・・」は記載の省略を示す。以下同様。)。
・「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、バリアー性フイルム及びその製造方法に関し、更に詳しくは、ポリプロピレン系ポリマー層とPVDC(塩化ビニリデン系ポリマー)等のバリアー性を有する樹脂層との密着性が改善されたバリアー性フイルム及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】・・・また、酸素ガスや水蒸気等に対するバリアー性やヒートシール性を付与するために、塩化ビニリデン系共重合体等をコーティングする場合が多い。
【0003】しかし、ポリプロピレン系フイルムに塩化ビニリデン系共重合体等をコーティングする場合、密着性を向上させるために接着剤を使用したり、フイルム表面にコロナ放電処理や荷電プラズマ処理などを施している。しかし、このような方法でも、ポリプロピレン系フイルムとコーティング層の密着性は充分でない場合が多い。・・・
【0004】
【発明が解決しようとする課題】従って、本発明の目的は、ポリプロピレン系フイルムの優れた特性を維持しつつ、塩化ビニリデン系ポリマー等のバリアー性を有する樹脂層との密着性が改善されたバリアー性フイルム及びその製造方法を提供することにある。
【0005】
【発明の実施の形態】本発明者らは、前記目的を達成するため鋭意検討の結果、ポリプロピレン系フイルムの表面におけるエチレン成分又は/及びブテン成分の含有量が、コーティング層との密着性に大きく関与していることを見出した。
【0006】即ち、本発明のバリアー性フイルムは、基材ポリプロピレン系ポリマー層の少なくとも一方の面に、エチレン成分又は/及びブテン成分を0.1~16重量部含有したポリプロピレン系ポリマーを含む被覆層が複合化されているとともに、更にその上にポリプロピレン系以外のバリアー性を有するポリマーを主成分とするコーティング層が積層されていることを特徴とするバリアー性フイルムである。 なお、本明細書において、基材ポリプロピレン系ポリマー層の上に形成される層を「被覆層」と称し、この被覆層にコーティング等の方法で形成される層を「コーティング層」と称する。また、「複合」とは、基材ポリプロピレン系フイルムの表面に被覆層を形成することを称し、「積層とは、該複合フイルムの表面にコーティング層を形成することを称する。更に「フイルム」とは、特に言及しない限り、実質的に二次元的構造を有する「シート」も含む。」
・「【0010】本発明の特徴は、基材ポリプロピレン系フイルム層の少なくとも一方の面に、エチレン成分を含有したポリプロピレン系コポリマーを含む被覆層が積層されている点にある。エチレン成分又は/及びブテン成分の含有量としては、0.1~16重量部が良く、好ましくは0.3~8重量部、更に好ましくは1~6重量部程度である。これら含有量が、少なすぎる場合には、フイルム表面上の無定型領域が減少するためにコーティング用樹脂との密着性が低下し、多すぎる場合には生産が困難になる。」
・「【0028】更に密着性を向上するために、コーティングに先だって、基材ポリプロピレン系ポリマー層の表面にチタン系、ポリエチレンイミン系、ウレタン系等のアンカーコート剤が必要に応じて使用されるが、特にウレタン系のものが好ましい。アンカーコート層の厚みとしては、密着性を確保できる広い範囲で選択でき、例えば0.01~5μm、好ましくは0.05~2.5μm程度である。」
・「【0034】
【実施例】
(実施例1)基材ポリプロピレン系ポリマー層の原料(A)及び被覆層の原料(B)として、下記組成物を用いた。
【0035】基材ポリプロピレン系ポリマー層の原料(A):アイソタクティクポリプロピレン(MI=2g/10分、アイソタクティック指数94%、融点162℃、結晶化度約56%)100重量部に、酸化防止剤として2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール(BHT)を0.2重量部、テトラキス[メチレン-3-(3´,5´-ジ-t-ブチル-4´-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンを0.05重量部、アンチブロッキング剤として平均粒径2.2μmのシリン0.13重量部を加えた組成物。
【0036】被覆層の原料(B):エチレン成分3.6%含有のポリプロピレン系ランダムコポリマー(MI=8、融点140℃、結晶化度45%)100重量部に、酸化防止剤として2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール(BHT)を0.2重量部、テトラキス[メチレン-3-(3´,5´-ジ-t-ブチル-4´-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン0.05重量部、アンチブロッキング剤として平均粒径2.2μmのシリカ0.13重量部を加えた組成物。
【0037】前記原料(A)(B)をTダイを備えた押出機にそれぞれ供給し、250~260℃の温度で共押出して成形し、層構造が(B)/(A)の2種2層のシートを作成した。得られたシートを130~160℃で縦方向に5倍に延伸し、続いて160℃で横方向に10倍に延伸した後、160℃で10秒間熱処理した。さらにフイルムの(B)層の表面をコロナ放電処理し、表面濡れ張力40dyne/cmの複合フイルムを作成した。得られた複合フイルムの厚みは、21μm(A層の厚み20μm、B層の厚み1μmであった。
・・・
【0044】そして、前記実施例及び比較例で得られたフイルムの被覆層に対する接着剤の接着強度及び複合フイルムの製膜性を次のようにして評価した。
・・・
【0049】・・・
[接着強度の測定法1]AD335AE(東洋モートン(株)製)90重量%と、CAT10(東洋モートン(株)製)10重量%を混合してアンカーコート剤を調整した。得られた液を各積層フイルムのB層表面に乾燥時のアンカーコート量で0.5g/m2になるように塗布後、PVDCを主成分とするエマルジョン液を乾燥時のPVDC塗布量で4g/m2になるようにコーティングした。その後、コーティング面同士をエポキシ系接着剤で貼り合わせた。貼り合せ部の上に40g/cm2の荷重をかけて、40℃90%RHの雰囲気中に24時間放置した。次いで、接着面の一部を剥離して、引張試験機(東洋ボードウィン(株)製、テンシロン)を用いて300mm/分の速度で剥離強度(g/幅15mm)を測定した。
・・・
【0052】それぞれの結果をまとめたものを表1、表2、表3、表4に示す。表より明らかなように、実施例1~6の積層フイルムは、比較例1~3に比べて、3倍以上の接着強度を示し、製膜性にも優れている。
【0053】
・・・
【表2】
[図:0001437417000001.jpg]
」
イ 甲1の記載から認定できる事項
・【0006】に記載のバリアー性フイルムの層構成、及び【0028】に記載のアンカーコート剤の役割からみて、【0049】に記載の「各積層フイルムのB層表面に乾燥時のアンカーコート量で0.5g/m2になるように塗布後、PVDCを主成分とするエマルジョン液を乾燥時のPVDC塗布量で4g/m2になるようにコーティングした」ことで、各積層フイルムのB層表面に、アンカーコート層、PVDCを主成分とするコーティング層をこの順に形成してバリアー性フイルムが作成されたといえる。
・基材ポリプロピレン系ポリマー層の原料(A)及び被覆層の原料(B)の各組成物は、酸化防止剤として2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール(BHT)を0.2重量部、テトラキス[メチレン-3-(3´,5´-ジ-t-ブチル-4´-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン0.05重量部を加えたものである(【0035】、【0036】)から、各組成物に加えた酸化防止剤の量は0.25重量部(=0.2重量部+0.05重量部)である。
ウ 甲1発明
上記ア、イより、接着強度の測定法1において実施例1の積層フイルムを用いたものに着目すると、甲1には次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認める。なお、括弧書きは特に参照した段落を示す。
「基材ポリプロピレン系ポリマー層の原料(A)として、アイソタクティクポリプロピレン100重量部に、酸化防止剤を0.25重量部、アンチブロッキング剤を加えた組成物を用いるとともに、被覆層の原料(B)として、エチレン成分3.6%含有のポリプロピレン系ランダムコポリマー100重量部に、酸化防止剤を0.25重量部、アンチブロッキング剤として平均粒径2.2μmのシリカ0.13重量部を加えた組成物を用い、(【0034】~【0036】)
前記原料(A)(B)を共押出して成形し、層構造が(B)/(A)の2種2層のシートを作成し、得られたシートを縦方向に5倍、横方向に10倍に延伸した後、熱処理し、さらにフイルムの(B)層の表面をコロナ放電処理し、複合フイルムを作成し、(【0037】)
前記複合フイルムの(B)層表面に、アンカーコート層、PVDCを主成分とするコーティング層をこの順に積層して作成された、バリアー性フイルム。(上記イ)」
(2)甲2について
ア 甲2の記載
(ア)第1ページ、表題
「
[図:0001437417000002.jpg]
」
(イ)第1ページ、概要欄
「
[図:0001437417000003.jpg]
」
(ウ)第2ページ、実験欄
「
[図:0001437417000004.jpg]
」
(エ)第2ページ、結果および考察欄
「
[図:0001437417000005.jpg]
」
(オ)第3ページ「図1」及び「図2」
「
[図:0001437417000006.jpg]
[図:0001437417000007.jpg]
」
イ 甲2に記載の事項
上記アより、甲2には以下の事項(以下「甲2記載事項」という。)が記載されていると認める。
「キャストフィルムFT-IR手法を用いたポリエチレン/ポリプロピレン混合物中のポリエチレン比率の測定において、1462cm-1バンドに対する1376cm-1バンドのピーク高さの吸光度比率は、ポリエチレン比率が35~85重量%の範囲でポリエチレン比率の低下に伴い線形的に増加し、ポリエチレン比率が35重量%のとき1.15よりも高いこと。」
5 当審の判断
(1)本件発明1について
ア 対比
(ア)甲1発明の「複合フイルム」は、「基材ポリプロピレン系ポリマー層の原料(A)」及び「ポリプロピレン系ランダムコポリマー」を主成分とする「被覆層の原料(B)」から作成されたものであるから、本件発明1の「ポリプロピレンを主成分とする基材」に相当する。
(イ)甲1発明の「前記複合フイルムの(B)層表面」は、本件発明1の「前記基材の第一面」に相当する。また、甲1発明の「コーティング層」は、「PVDC」(ポリ塩化ビニリデン)を主成分とするもので、酸素に対するバリア性が高いものである。したがって、甲1発明の「前記複合フイルムの(B)層表面に、」「PVDCを主成分とするコーティング層を」積層したことは、本件発明1の「前記基材の第一面側に酸素バリア性皮膜(ただし、無機層状化合物を含むものを除く)を有し」という事項と、「前記基材の第一面側に酸素バリア性皮膜を有し」の限りで一致する。
(ウ)甲1発明の「アンカーコート層」は、本件発明1の「下地層」に相当し、甲1発明の「バリアー性フイルム」は、「PVDCを主成分とするコーティング層」を含むから、本件発明1の「ガスバリア性フィルム」に相当する。したがって、甲1発明の「バリアー性フイルム」において「前記複合フイルムの(B)層表面に、アンカーコート層、PVDCを主成分とするコーティング層をこの順に積層し」たことは、本件発明1の「ガスバリア性フイルム」が「前記基材と前記酸素バリア性皮膜の間に下地層、または下地層および無機酸化物層の両方を備え」ることに相当する。
そうすると、甲1発明と本件発明1との一致点及び相違点は、次のとおりである。
[一致点]
「ポリプロピレンを主成分とする基材と、
前記基材の第一面側に酸素バリア性皮膜を有し、
前記基材と前記酸素バリア性皮膜の間に下地層、または下地層および無機酸化物層の両方を備える、ガスバリア性フィルム。」
[相違点1]
酸素バリア性皮膜に関して、本件発明1では「酸素バリア性皮膜(ただし、無機層状化合物を含むものを除く)」であるのに対し、甲1発明の「コーティング層」は、そのような無機層状化合物を含むか否かが不明である点。
[相違点2]
本件発明1では「前記第一面の赤外分光測定において、1360~1390cm-1に存在するピーク強度I1と、1440~1480cm-1に存在するピーク強度I2との比が下記式(1)を満た」すのに対し、甲1発明の「複合フイルム」は、そのようなものであるかが不明である点。
「I1/I2≦1.55 …(1)」
[相違点3]
本件発明1では「前記第一面上には、ポリプロピレン以外の材料からなる微粒子が突出しており、前記微粒子の数が、257μm×259μmの領域(面積0.067mm2)あたり100個以下であり、前記微粒子の平均突出高さが2.5μm以下である」のに対し、甲1発明の「(B)層」は「アンチブロッキング剤として平均粒径2.2μmのシリカ0.13重量部」を含むが、そのような態様でシリカ粒子を含んでいるかが不明である点。
イ 判断
事案に鑑み、相違点2について検討すると、いずれの証拠にも、甲1発明の複合フイルムとして、(B)層表面での赤外線分光測定において、1360~1390cm-1に存在するピーク強度I1と、1440~1480cm-1に存在するピーク強度I2との比が、I1/I2≦1.55の範囲内のものとすることは、記載も示唆もされておらず、また周知技術でもない。
仮に、甲1発明において、I1/I2の値を適宜設定し得たとしても、I1/I2≦1.55とする動機付けはない上、本件発明1は、当該数値の範囲内とすることでガスバリア性フィルムの熱水処理に対する耐性が高いという格別な効果を得たものであるから、甲1発明の複合フイルムとして、相違点2に係る本件発明1のピーク強度の関係を満たすものを得ることが、単なる設計変更であったともいえない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 申立人の主張について
申立人は、特許異議申立書において相違点2に関し、以下の旨主張する。
・甲1の【0010】には、コーティング用樹脂との密着性を向上させるという課題を解決するために、エチレン成分の含有量を調整することの記載がある。
・甲2の図2から読み取ったデータに基づく近似式y=-0.0164×x+1.7343において、エチレン含有量が約11.5重量%のときにIR比が1.55となる。この値は、甲1の請求項1に記載された0.1~16重量部という範囲に含まれるから、甲1に記載された被覆層において、上記の課題解決のために、エチレン成分の含有量を甲1の請求項1に記載された範囲内で適宜選択し、より高いエチレン含有量(例えば、11.5重量%以上)とすることは、当業者の通常の創作能力の発揮にすぎない。
・本件明細書の実施例を参酌してもIR比を1.55以下とすることにより、1.55を超える場合と比較して格別顕著な効果が得られることを示す記載は見当たらず、IR比1.55という数値に臨界的意義は認められない。
しかしながら、仮に申立人の主張のとおり、甲2の図2から得られた近似式を用いることで、甲1に記載された被覆層におけるエチレン含有量が11.5重量%のときにIR比が1.55となる関係を見いだすことができるとしても、甲1発明のポリプロピレン系ランダムコポリマーのエチレン成分の含有量は3.6%と低いものである上、甲1の【0010】には、当該エチレン成分の含有量としては0.3~8重量部が好ましいと記載されているにすぎない。してみると、甲1発明において、ポリプロピレン系ランダムコポリマーのエチレン成分の含有量を11.5重量%以上にし、1.55以下のIR比となる複合フイルムを得ることの動機付けがない。
また、上記イで説示したとおり本件発明1には格別な効果が認められるから、甲1発明において、より高いエチレン含有量(例えば、11.5重量%以上)とし、相違点2に係る本件発明1のIR比のものを得ることが、設計変更等の当業者の通常の創作能力の発揮であるともいえない。
したがって、申立人の主張を採用することはできない。
エ 小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2)本件発明2~12について
本件発明2~12は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定するものである。したがって、上記(1)と同様に、本件発明2~12は、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)まとめ
本件発明1~12は甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、請求項1~12に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものでないから、同法第113条第2号に該当しない。
6 むすび
以上のとおり、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1~12に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1~12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2026-700119