特許異議申立
2024-700783
金属セラミック基材を製造するための方法
- 審判番号
- 2024-700783
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-092781
- 登録番号
- 7434420
- 請求日
- 2024年08月20日
- 審決日
- 2025年08月06日
- 公報発行日
- 2025年10月31日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】ヘレーウス エレクトロニクス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング ウント コンパニー コマンディートゲゼルシャフト
- 【権利者代理人】林 一好
- 【異議申立人】安藤 宏
- 審判長/審判官
- 審判長 深草 祐一
- 審判官 金 公彦
- 審判官 増山 淳子
- 分類
- P1651.121-YAA(C04B) / P1651.536-YAA(C04B) / P1651.537-YAA(C04B) / P1651.851-YAA(C04B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第9項、特許法第36条、特許法第2条、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7434420号発明「金属セラミック基材を製造するための方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7434420号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~13〕について訂正することを認める。
特許第7434420号の請求項1~12に係る特許を維持する。
特許第7434420号の請求項13に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7434420号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~13に係る特許についての出願は、令和4年6月8日(パリ条約による優先権主張 2021年6月29日 (EP)欧州特許庁)を出願日として、出願人ヘレウス ドイチェラント ゲーエムベーハー ウント カンパニー カーゲーにより出願されたものであって、令和6年2月9日にその特許権の設定登録がされ、同年同月20日に特許掲載公報が発行され、その後、同年8月20日に、請求項1~13に係る特許について、特許異議申立人 安藤 宏(以下、「申立人」という。)により、甲第1~16号証を証拠方法として特許異議の申立てがなされ、同年12月3日付けで当審より取消理由の通知及び審尋がされ、同年同月16日に、出願人がヘレーウス エレクトロニクス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング ウント コンパニー コマンディートゲゼルシャフトに名称変更され(以下、「特許権者」という。)、前記取消理由通知の指定期間内である令和7年2月28日に特許権者より参考資料1を添付して意見書の提出及び訂正の請求がされたので、特許法第120条の5第5項の規定に従い、申立人に相当の期間を指定して意見を求めたところ、申立人からは当該期間内に何ら応答がなかったものであり、その後、同年6月3日付けで当審より取消理由の通知(決定の予告)がされ、前記取消理由通知(決定の予告)の指定期間内である同年7月10日に特許権者より意見書の提出及び訂正の請求がされたものである。
なお、令和7年7月10日に特許権者により訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)がされたので、同年2月28日にされた訂正の請求(以下、「先の訂正請求」という。)については、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。
また、申立人には、先の訂正請求に対する意見書の提出の機会が与えられており、本件訂正請求による訂正の内容は、後記第2の1のとおり、先の訂正請求による訂正の内容である訂正事項1に訂正事項2を加えたものであって、前記訂正事項2に係る訂正は、特許請求の範囲の請求項13を削除するものであるから、本件訂正請求については、申立人に意見書を提出する機会を与える必要がないと認められる特別な事情があるといえるので(特許法第120条の5第5項ただし書)、申立人に再度の意見書を提出する機会を与えなかった。
更に、特許権者は、前記取消理由通知(決定の予告)の指定期間の経過前に異議の決定を行うことを了承した。
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容及び一群の請求項について
本件訂正請求(以下、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。)は、請求の趣旨を「特許第7434420号の特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~13について訂正することを求める。」とするものであって、その訂正の内容は、次のとおりである(当審注:下線は訂正箇所であり、当審が付与した。)。
(1) 訂正事項1
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に
「b)前記積層体を加熱するステップであって、
b1)前記積層体が、加熱の際に、少なくともピーク温度-250℃に相当する温度に曝される持続期間を指す高温加熱持続期間が、60分以下である条件、
b2)前記積層体が、加熱の際に、少なくともピーク温度-50℃に相当する温度に曝される持続期間を指すピーク温度加熱持続期間が、30分以下である条件、
b3)前記積層体が、100℃の温度から開始して、ピーク温度に到達するために必要とする期間を示す加熱持続期間が、60分以下である条件
のうちの少なくとも1つが満たされる、前記積層体を加熱するステップと
を含み、」
と記載されているのを、
「b)前記積層体を加熱するステップであって、
b1)前記積層体が、加熱の際に、少なくともピーク温度-250℃に相当する温度に曝される持続期間を指す高温加熱持続期間が、60分以下である条件、
b2)前記積層体が、加熱の際に、少なくともピーク温度-50℃に相当する温度に曝される持続期間を指すピーク温度加熱持続期間が、30分以下である条件
のうちの少なくとも1つが満たされる、前記積層体を加熱するステップと
を含み、」
に訂正する(請求項1を直接的又は間接的に引用する請求項2~12も同様に訂正する)。
(2) 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項13を削除する。
(3) 一群の請求項について
本件訂正前の請求項2~13は、直接的又は間接的に請求項1を引用するものであるから、本件訂正前の請求項1~13は特許法第120条の5第4項に規定される一群の請求項であり、前記訂正事項1~2に係る特許請求の範囲の訂正は、特許法第120条の5第4項所定の規定に従い、この一群の請求項1~13を訂正の単位として請求されたものである。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否、独立特許要件について
(1) 訂正事項1について
前記1(1)の訂正事項1に係る訂正は、本件訂正前に、「b)前記積層体を加熱するステップ」が、「b1)前記積層体が、加熱の際に、少なくともピーク温度-250℃に相当する温度に曝される持続期間を指す高温加熱持続期間が、60分以下である条件、b2)前記積層体が、加熱の際に、少なくともピーク温度-50℃に相当する温度に曝される持続期間を指すピーク温度加熱持続期間が、30分以下である条件、b3)前記積層体が、100℃の温度から開始して、ピーク温度に到達するために必要とする期間を示す加熱持続期間が、60分以下である条件のうちの少なくとも1つが満たされる」ものとされていたのを、「b3)前記積層体が、100℃の温度から開始して、ピーク温度に到達するために必要とする期間を示す加熱持続期間が、60分以下である条件」を削除して、「b)前記積層体を加熱するステップ」が、「b1)前記積層体が、加熱の際に、少なくともピーク温度-250℃に相当する温度に曝される持続期間を指す高温加熱持続期間が、60分以下である条件、b2)前記積層体が、加熱の際に、少なくともピーク温度-50℃に相当する温度に曝される持続期間を指すピーク温度加熱持続期間が、30分以下である条件のうちの少なくとも1つが満たされる」ものに訂正するものであるから、選択的発明特定事項の一部を削除するものといえる。
そうすると、前記訂正事項1に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(2) 訂正事項2について
前記1(2)の訂正事項2に係る訂正は、特許請求の範囲の請求項13を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(3) 独立特許要件について
本件特許異議の申立ては本件訂正前の全ての請求項についてされているので、前記訂正事項に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
3 小括
したがって、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものに該当し、同法同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~13〕について訂正することを認める。
第3 本件発明について
本件訂正が認められることは前記第2に記載したとおりであるので、本件訂正により訂正された請求項1~12に係る発明(以下、「本件発明1」などといい、まとめて「本件発明」ということがある。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~12に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
金属セラミック基材を製造するための方法であって、
a)積層体を準備するステップであって、前記積層体が、
a1)セラミック体と、
a2)金属箔と、
a3)前記セラミック体及び前記金属箔と接触したはんだ材料であって、前記はんだ材料が、
(i)少なくとも700℃の融点を有する金属と、
(ii)700℃未満の融点を有する金属と、
(iii)活性金属と
を含む、はんだ材料と
を含有する、積層体を準備するステップと、
b)前記積層体を加熱するステップであって、
b1)前記積層体が、加熱の際に、少なくともピーク温度-250℃に相当する温度に曝される持続期間を指す高温加熱持続期間が、60分以下である条件、
b2)前記積層体が、加熱の際に、少なくともピーク温度-50℃に相当する温度に曝される持続期間を指すピーク温度加熱持続期間が、30分以下である条件
のうちの少なくとも1つが満たされる、前記積層体を加熱するステップと
を含み、
銀の割合が、前記はんだ材料の総金属重量に対して、3.0重量パーセント未満であり、
前記はんだ材料は、有機媒体を含有するペーストであり、有機媒体の割合は、前記ペーストの総重量に対して、5~80重量%である、方法。
【請求項2】
前記セラミック体の前記セラミックが、窒化アルミニウムセラミック、窒化ケイ素セラミック、及び酸化アルミニウムセラミックからなる群から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記金属箔の前記金属が、銅であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記はんだ材料が、少なくとも700℃の融点を有する金属と、700℃未満の融点を有する金属と、活性金属とを有する(a)少なくとも1つの金属成分と、(b)有機媒体とを含むペーストであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
少なくとも700℃の融点を有する前記金属が、銅であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項6】
700℃未満の融点を有する前記金属が、錫、ビスマス、インジウム、ガリウム、亜鉛、アンチモン、及びマグネシウムからなる群から選択されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項7】
前記活性金属が、ハフニウム、チタン、ジルコニウム、ニオブ、タンタル、バナジウム、及びセリウムからなる群から選択されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項8】
前記積層体が、加熱のための加熱ゾーンを通過することを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項9】
非酸化性雰囲気が、前記加熱ゾーン内に存在することを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
窒素雰囲気が、前記加熱ゾーン内に存在することを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記加熱が、連続炉において起こることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項12】
前記ピーク温度が、700~1100℃の範囲であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項13】(削除)」
第4 特許異議申立理由の概要
申立人の特許異議の申立て理由の概要は、以下のとおりである。
1 特許法第29条第2項所定の規定違反(進歩性欠如)について
設定登録時の特許請求の範囲の請求項1~13に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証~甲第14号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、前記請求項1~13に係る発明の特許は、特許法第29条第2項所定の規定に違反してされたものである(25/40ページ1行~32/40ページ下から4行)。
2 特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反)について
(1) 「はんだ材料」について
本件特許に係る発明は、はんだ材料を使用して製造された金属セラミック基材の熱及び電流伝導率の改善を課題とするものである。
ここで、甲第16号証(85ページ表1)の記載からも知られるとおり、はんだ材料はろう付けの接合対象とするセラミックごとに適用可能な金属の組合せが限定されることは技術常識であり、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、「はんだ材料」として「銅、錫、及びチタンを金属として含有する標準的なペースト」のみが記載されている。
ところが、設定登録時の特許請求の範囲の請求項1においては、対象とするセラミックの限定はなく、このとき、当業者は、前記技術常識により適用可能な金属の組合せのみならず、あらゆる「(i)少なくとも700℃の融点を有する金属」、「(ii)700℃未満の融点を有する金属」及び「(iii)活性金属」の組み合わせにおいて前記課題を解決できることを理解できない。
したがって、設定登録時の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、前記課題を解決できないものを含むから、発明の詳細な説明に記載された発明であるとはいえない。
更に、設定登録時の特許請求の範囲の請求項2~13に係る発明について検討しても事情は同じである(33/40ページ9行~34/40ページ21行)。
(2) 「積層体を加熱するステップ」について
甲第15号証の記載(25ページ)から、本件特許に係る発明において銅-錫間で想定される700℃~1100℃周辺の温度範囲での拡散係数は1.1×10-5m2/sであることが知られている。
また、本件特許明細書の段落【0051】(下記第6の2(2)ウ)に記載されるとおり、金属箔内への「少なくとも700℃の融点を有する金属」及び「700℃未満の融点を有する金属」の過度の拡散を回避するには、「b2)前記積層体が、加熱の際に、少なくともピーク温度-50℃に相当する温度に曝される持続期間を指すピーク温度加熱持続期間」を短時間にするべきであることは技術常識であるから、前記条件「b2)」は、前記課題を解決するための必須の要件である。
更に、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、前記課題を解決できる実施例として、条件「b1)」、「b2)」及び「b3)」の全てを満足した場合しか記載されていないから、当業者は、前記課題を解決するには、条件「b1)」、「b2)」及び「b3)」の全てを満足する必要があると理解するので、条件「b1)」、「b2)」及び「b3)」の何れかを満足するだけで前記課題を解決できることを理解できない。
また、設定登録時の特許請求の範囲の請求項1においては、条件「b1)」の「高温加熱持続期間」は「60分以下」と特定されているのに、前記実施例では、前記課題を解決できることが裏付けられている「高温加熱持続期間」は13分と17分のみであるから、発明の詳細な説明の記載を、実施例の約4~5倍の「60分以下」と特定される前記請求項1まで拡張ないし一般化することはできないし、前記実施例では、伝導率の評価が「高」、「低」でしか評価されていないから、当業者は、「高温加熱持続期間」を13分や17分から「60分以下」としたときにも前記課題を解決できることを理解できない。
そして、条件「b2)」の「ピーク温度加熱持続期間」について検討しても事情は同じであるから、設定登録時の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、前記課題を解決できないものを含むので、発明の詳細な説明に記載された発明であるとはいえない。
更に、設定登録時の特許請求の範囲の請求項2~13に係る発明について検討しても事情は同じである(34/40ページ22行~36/40ページ下から5行)。
3 特許法第36条第6項第2号所定の規定違反(明確性要件違反)について
(1) 設定登録時の特許請求の範囲の請求項1の「少なくともピーク温度-250℃に相当する温度に曝される持続期間を指す高温加熱持続期間」は、「ピーク温度-250℃」から「ピーク温度」を経て「ピーク温度-250℃」へと降温される際の降温時間を意味する場合と、「ピーク温度-250℃」から「ピーク温度」までの時間だけを意味する場合との解釈が可能であるから、前記請求項1の発明特定事項は意味が不明確であるので、前記請求項1に係る発明は明確でない(37/40ページ5行~23行)。
(2) 設定登録時の特許請求の範囲の請求項1の「ピーク温度加熱持続期間」について検討しても、(1)と事情は同じである(37/40ページ24行~26行)。
(3) 設定登録時の特許請求の範囲の請求項1の「b3)前記積層体が、100℃の温度から開始して、ピーク温度に到達するために必要とする期間を示す加熱持続期間が、60分以下である条件」について、本件特許明細書の段落【0072】~【0074】(下記第6の2(2)エ)には2種類の「加熱持続期間」が記載されているから、前記発明特定事項における「加熱持続期間」の意味が不明確であるので、前記請求項1に係る発明は明確でない(37/40ページ27行~38/40ページ7行)。
(4) 更に、設定登録時の特許請求の範囲の請求項2~13について検討しても、前記(1)~(3)の事情は同じである(38/40ページ8行~9行)。
4 特許法第36条第4項第1号所定の規定違反(実施可能要件違反)について
設定登録時の特許請求の範囲の請求項1の発明特定事項からみれば、「活性金属」がチタンである場合、「少なくとも700℃の融点を有する金属」と「700℃未満の融点を有する金属」との組合せとして、「銅、ニッケル、タングステン、及びモリブデン」と、「錫、ビスマス、インジウム、ガリウム、亜鉛、アンチモン、及びマグネシウム」との中から任意の組合せが可能であると解されるが、このうち実現可能な組合せは、甲第16号証の記載によれば、銅、錫、チタンの組合せのみである。
そして、これ以外の組合せにより「はんだ材料」を用意することは、当業者に過度の試行錯誤を強いることとなるから、前記請求項1に係る発明は実施不可能な範囲を含むので、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が、前記請求項1に係る発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載したものでない。
更に、設定登録時の特許請求の範囲の請求項2~13について検討しても事情は同じである(38/40ページ10行~39/40ページ20行)。
5 証拠方法
甲第1号証:特表2020-527461号公報
甲第2号証:特開平5-32463号公報
甲第3号証:特開2003-55058号公報
甲第4号証:特開2002-274964号公報
甲第5号証:特開平11-157952号公報
甲第6号証:特開平10-245267号公報
甲第7号証:特開2001-48670号公報
甲第8号証:特開平3-290378号公報
甲第9号証:特開平2-196074号公報
甲第10号証:国際公開第2019/022133号
甲第11号証:特開2009-170930号公報
甲第12号証:国際公開第2018/199060号
甲第13号証:特開平7-187839号公報
甲第14号証:特開2004-115310号公報
甲第15号証:社団法人日本金属学会編,「改訂2版 金属データブック」,昭和59年1月30日,丸善株式会社,p.10,11,24,25
甲第16号証:田中 俊一郎,「活性金属法によるセラミックスの接合」,溶接技術,1989年9月号,p.84-89
第5 取消理由及び審尋の概要
1 令和6年12月3日付けの取消理由通知書における取消理由及び審尋の概要
(1) 特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反)について
本件特許明細書の記載によれば、本件特許に係る発明は、「少なくとも700℃の融点を有する金属」と、「700℃未満の融点を有する金属」と、「活性金属」とを含有する「はんだ材料」を使用して製造された「金属セラミック基材」の熱及び電流伝導率を更に改善する必要性の増大がある、という課題を解決するものであって、積層体が加熱され、条件「b1)」、「b2)」及び「b3)」のうちの少なくとも1つが満たされる場合、改善された熱及び電流伝導率を有する「金属セラミック基材」が得られるものとされており、これは、積層体が、制限されたエネルギー入力のみを経験し、該制限されたエネルギー入力が、はんだ材料によるセラミック体と金属箔との間の材料接合を生成するのに十分である一方、該制限されたエネルギー入力が、金属箔内への「少なくとも700℃の融点を有する金属」及び「700℃未満の融点を有する金属」の過度の拡散が回避されるように制限されていることに起因し得るものであり、この低減された拡散は、次いで、完成した「金属セラミック基材」における改善された電流及び熱伝導率を生じさせることができることによるものとされている。
ところが、前記条件「b1)」、「b2)」及び「b3)」のうち条件「b3)」は、「100℃の温度から開始して、ピーク温度に到達するために必要とする期間を示す加熱持続期間」を「60分以下」とするものにすぎず、ピーク温度に到達して以降の加熱時間を何ら特定していないから、前記条件「b3)」のみを満たしたとしても、金属箔内への「少なくとも700℃の融点を有する金属」及び「700℃未満の融点を有する金属」の過度の拡散が回避できるほどにエネルギー入力が制限されるとはいえないので、改善された熱及び電流伝導率を有する「金属セラミック基材」が得られて、本件課題を解決できるとはいえない。
また、本件特許明細書の段落【0069】~【0077】(下記第6の2(2)エ)の実施例の記載をみても、このことは裏付けられていないから、本件発明において、条件「b1)」、「b2)」及び「b3)」のうちの少なくとも1つが満たされたとしても、改善された熱及び電流伝導率を有する「金属セラミック基材」が得られて、本件課題を解決できるとはいえないので、設定登録時の請求項1に係る発明の発明特定事項により本件課題を解決できるとはいえない。
したがって、前記請求項1に係る発明は発明の詳細な説明に記載された発明であるとはいえない。
更に、設定登録時の特許請求の範囲の請求項2~13に係る発明について検討しても事情は同じであるから、本件特許請求の範囲の記載はサポート要件を満たさない。
(2) 審尋について
本件特許明細書の実施例1(段落【0070】~【0072】。下記第6の2(2)エ。)には、「加熱持続期間」として17分と29.5分の二つが記載されており、これら二つの「加熱持続期間」がそれぞれどのような期間を意味するのかが明らかでない。
なお、本件特許明細書の段落【0044】(下記第6の2(2)ウ)には、「加熱持続期間」として、積層体が、加熱の際に、少なくとも200℃の温度に曝される期間を指すものが記載され、同段落【0049】(下記第6の2(2)ウ)には、「加熱持続期間」として、積層体が、100℃の温度から開始して、ピーク温度を達成するために必要とする期間(すなわち条件「b3)」の「加熱持続期間」)を示すものが記載されているが、前記実施例1における17分と29.5分が、前記段落【0044】及び【0049】の「加熱持続期間」に相当するものであるか否かは明らかでないし、そうであるとしても、それぞれどちらの「加熱持続期間」に相当するのかは明らかでない。
そして、本件特許明細書には、ほかにこのことを明らかにする記載はないから、本件特許明細書の記載をとおしてみても、前記実施例1に記載された二つの「加熱持続期間」がそれぞれどのような期間を意味するのかが明らかでない。
更に、実施例2(段落【0073】。下記第6の2(2)エ。)について検討しても事情は同じであるから、前記実施例1及び2に記載された二つの「加熱持続期間」がそれぞれどのような期間を意味するのかを明らかにされたい。
2 令和7年6月3日付けの取消理由通知書(決定の予告)における取消理由の概要
(1) 特許法第36条第6項第2号所定の規定違反(明確性要件違反)について
先の訂正請求により訂正された特許請求の範囲の請求項13の「前記加熱持続期間」との記載について、前記請求項13が引用する先の訂正請求により訂正された特許請求の範囲の請求項1又は2には、「加熱持続期間」は記載されていないから、「前記加熱持続期間」の意味が不明確であるので、前記請求項13に係る発明は明確でない。
第6 特許異議申立理由、取消理由及び審尋についての当審の判断
事案に鑑み、前記第4の特許異議申立理由、第5の取消理由及び審尋についてまとめて判断する。
1 特許法第29条第2項所定の規定違反(進歩性欠如)について
(1) 甲各号証の記載事項
ア 甲第1号証の記載事項及び甲第1号証に記載された発明
(ア) 甲第1号証には、以下のa~cの記載がある(当審注:下線は当審が付与した。また、「・・・」は記載の省略を表す。以下、同様である。)。
a 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性ハンダ付けのため、詳細にはセラミックを含むキャリア層(2)に金属被膜(3)を活性ハンダ付けするための、ハンダ付け材料(1)であって、銅を含み、かつ実質的に銀を含まない、ハンダ付け材料(1)。
・・・
【請求項8】
ペーストまたは箔である、請求項1~7のうちいずれか一項に記載のハンダ付け材料(1)。
【請求項9】
実質的に、
-64重量%の銅、34重量%のマンガン、及び2重量%のチタン、
-64重量%の銅、34重量%のインジウム、及び2重量%のチタン、
-75重量%の銅、23重量%の錫、及び2重量%のチタン、
-69重量%の銅、13重量%の錫、16重量%のインジウム、及び2重量%のチタン、
-66重量%の銅、16重量%の錫、16重量%のマンガン、及び2重量%のチタン、
-66重量%の銅、16重量%のインジウム、16重量%のマンガン、及び2重量%のチタン、または、
-69重量%の銅、12重量%の錫、7重量%のマンガン、10重量%のインジウム、及び2重量%のチタンであり、
別途0.5重量%未満の不可避の不純物を有する請求項1~8のうちいずれか一項に記載のハンダ付け材料(1)。
・・・
【請求項11】
金属被膜(3)をキャリア層(2)、詳細にはセラミックを含むキャリア層(2)に接着する方法であって、請求項1~9のうちいずれか一項に記載のハンダ付け材料(1)が使用される、方法。
【請求項12】
接着は、1000℃未満、好ましくは900℃未満のハンダ付け温度で実現される、請求項11に記載の方法。」
b 「【0012】
従来技術と対照的に、銀は、本発明によるロウ付け材料から有利に除外され、製造コストを軽減することができ、銀マイグレーションを防止することができる。銀の代わりに、銅または銅合金がハンダ付け材料の主成分である。「実質的に銀を含まない」とは、詳細にはハンダ付け材料が、不純物の範囲の銀含有量、すなわちハンダ付け材料の0.5重量%未満、好ましくは0.1重量%未満、特に好ましくは0.05重量%未満の銀含有量を有することを意味する。・・・
・・・
【0014】
例えば金属層または金属箔を接合するため、詳細にはセラミック材料を伴う銅層または銅箔も接合するための活性ハンダ付け方法は、例えば銅箔などの金属箔と、例えば窒化アルミニウムセラミックなどのセラミック基板との間の接続が、ハンダ付け材料を用いて約650~1000℃の温度で生成される方法である、と理解されている。・・・
・・・
【0021】
詳細には、ハンダ付け材料はペーストまたは箔であり得る。例えばペーストは、好ましくは粉末の組成物として提供され、銅及び活性金属に加えて、相手材料及び有機物も含む。有機物は、ペーストをスクリーン印刷可能かつ硬化可能にする。・・・」
c 「【0026】
接着は、1000℃未満、好ましくは900℃未満、特に好ましくは850℃未満のハンダ付け温度で実施するのが好ましい。好ましくは、ハンダ付け材料はそれに従って、所望の温度を実現するために、例えば適切な量の活性金属または相手金属を加えることによって設計される。特に850℃未満の低温でハンダ付けすることによって、ハンダ付け中のエネルギー消費を比較的低く維持することが可能である。」
(イ) 前記(ア)aの記載によれば、甲第1号証には、金属被膜をキャリア層、詳細にはセラミックを含むキャリア層に接着する方法であって、ハンダ付け材料が使用される、方法が記載されている(【請求項11】)。
そして、前記方法における接着は、1000℃未満、好ましくは900℃未満のハンダ付け温度で実現されるものであり(【請求項12】)、前記ハンダ付け材料は、銅を含み、かつ実質的に銀を含まず(【請求項1】)、ペースト又は箔であり(【請求項8】)、実質的に、-64重量%の銅、34重量%のマンガン、及び2重量%のチタン、-64重量%の銅、34重量%のインジウム、及び2重量%のチタン、-75重量%の銅、23重量%の錫、及び2重量%のチタン、-69重量%の銅、13重量%の錫、16重量%のインジウム、及び2重量%のチタン、-66重量%の銅、16重量%の錫、16重量%のマンガン、及び2重量%のチタン、-66重量%の銅、16重量%のインジウム、16重量%のマンガン、及び2重量%のチタン、または、-69重量%の銅、12重量%の錫、7重量%のマンガン、10重量%のインジウム、及び2重量%のチタンであり、別途0.5重量%未満の不可避の不純物を有するものである(【請求項9】)。
また、前記(ア)bの記載によれば、前記ハンダ付け材料が「実質的に銀を含まない」とは、前記ハンダ付け材料が、不純物の範囲の銀含有量、すなわち前記ハンダ付け材料の0.5重量%未満の銀含有量を有することを意味するものであり(段落【0012】)、前記ハンダ付け材料は、銅箔などの金属箔と、例えば窒化アルミニウムセラミックなどのセラミック基板とを接続するものであり(段落【0014】)、前記ペーストは、好ましくは粉末の組成物として提供され、銅及び活性金属に加えて、相手材料及び有機物も含むものであり(段落【0021】)、前記(ア)cの記載によれば、前記方法は、低温でハンダ付けすることによって、ハンダ付け中のエネルギー消費を比較的低く維持することが可能であるものである(段落【0026】)。
(ウ) 前記(イ)によれば、甲第1号証には、以下の発明が記載されているといえる。
「金属被膜をキャリア層、詳細にはセラミックを含むキャリア層に接着する方法であって、ハンダ付け材料が使用される、方法であり、
前記方法における接着は、1000℃未満、好ましくは900℃未満のハンダ付け温度で実現されるものであり、
前記ハンダ付け材料は、銅を含み、かつ実質的に銀を含まず、
ペースト又は箔であり、
実質的に、
-64重量%の銅、34重量%のマンガン、及び2重量%のチタン、
-64重量%の銅、34重量%のインジウム、及び2重量%のチタン、
-75重量%の銅、23重量%の錫、及び2重量%のチタン、
-69重量%の銅、13重量%の錫、16重量%のインジウム、及び2重量%のチタン、
-66重量%の銅、16重量%の錫、16重量%のマンガン、及び2重量%のチタン、
-66重量%の銅、16重量%のインジウム、16重量%のマンガン、及び2重量%のチタン、または、
-69重量%の銅、12重量%の錫、7重量%のマンガン、10重量%のインジウム、及び2重量%のチタンであり、
別途0.5重量%未満の不可避の不純物を有するものであり、
「実質的に銀を含まない」とは、前記ハンダ付け材料が、不純物の範囲の銀含有量、すなわち前記ハンダ付け材料の0.5重量%未満の銀含有量を有することを意味するものであり、
前記ハンダ付け材料は、銅箔などの金属箔と、例えば窒化アルミニウムセラミックなどのセラミック基板とを接続するものであり、
前記ペーストは、好ましくは粉末の組成物として提供され、銅及び活性金属に加えて、相手材料及び有機物も含むものであり、
低温でハンダ付けすることによって、ハンダ付け中のエネルギー消費を比較的低く維持することが可能である、方法。」(以下、「甲1発明」という。)
イ 甲第2号証の記載事項
甲第2号証には、以下の(ア)~(イ)の記載がある。
(ア) 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 セラミックスと金属とをろう接するろう材であって、Snを30~40wt%、Tiを10~20wt%、Niを3~10wt%含み、残部はCuと不可避的不純物とからなることを特徴とする金属・セラミックス接合用ろう材。」
(イ) 「【0013】
【実施例】表1のろう材Aに示す組成を有する本発明合金を溶製したものを粉砕して、大きさ100μm以下の粉末状ろう材とした。ろう接するときに直径13mm、高さ5mmのアルミナ円盤を真空チャンバー内で、加熱装置中心部にある台の上にセットし、その上に上記ろう材Aを約30mg載せて、直径10mm、高さ10mmの銅の円柱体を重ね置いた。
【0014】
【表1】
[図:0001427955000001.jpg]
【0015】ろう接は5×10-5torrの真空中、圧力0.75MPa、加熱および冷却速度20℃/min、保持温度923K~1173K、保持時間10分間の条件で行った。このようにろう接した接合体を図1に示す治具で剪断強度を測定し、その結果を図2に示した。」
なお、甲第3~14号証の摘記は省略する。
(2) 特許法第29条第2項所定の規定違反(進歩性欠如)についての判断
ア 対比
(ア) 本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明において「金属皮膜」を「セラミックを含むキャリア層」に「接着」したものは、本件発明1における「金属セラミック基材」に相当するから、甲1発明における「金属被膜をキャリア層、詳細にはセラミックを含むキャリア層に接着する方法」は、本件発明1における「金属セラミック基材を製造するための方法」に相当する。
また、甲1発明における「セラミックを含むキャリア層」すなわち「セラミック基板」、「金属皮膜」すなわち「金属箔」、及び「ハンダ付け材料」は、それぞれ、本件発明1における「セラミック体」、「金属箔」、及び「前記セラミック体及び前記金属箔と接触したはんだ材料」に相当し、本件特許明細書の段落【0016】~【0018】(下記2(2)イ)の記載からみれば、本件特許明細書には、「少なくとも700℃の融点を有する金属」として「銅」が例示され、「700℃未満の融点を有する金属」として「錫」や「インジウム」が例示され、「活性金属」として「チタン」が例示されているから、甲1発明における「銅」は、本件発明1における「少なくとも700℃の融点を有する金属」に相当し、甲1発明における「インジウム」及び「錫」は、本件発明1における「700℃未満の融点を有する金属」に相当し、甲1発明における「チタン」は、本件発明1における「活性金属」に相当する。
そして、甲1発明において、「銅箔などの金属箔と、例えば窒化アルミニウムセラミックなどのセラミック基板とを」「ハンダ付け材料」で「接着」することは、前記「接着」の際には、「金属箔」、「セラミック基板」及び「ハンダ付け材料」は積層されて「積層体」となることと、前記「接着」は「1000℃未満、好ましくは900℃未満のハンダ付け温度で実現」されることから、本件発明1における、「a)積層体を準備するステップであって、前記積層体が、a1)セラミック体と、a2)金属箔と、a3)前記セラミック体及び前記金属箔と接触したはんだ材料であって、前記はんだ材料が、(i)少なくとも700℃の融点を有する金属と、(ii)700℃未満の融点を有する金属と、(iii)活性金属とを含む、はんだ材料とを含有する、積層体を準備するステップ」、及び、「b)前記積層体を加熱するステップ」に相当する。
更に、甲1発明において、「ハンダ付け材料」が「実質的に銀を含ま」ないことは、「ハンダ付け材料が、不純物の範囲の銀含有量、すなわちハンダ付け材料の0.5重量%未満の銀含有量を有することを意味する」のであるから、本件発明1において「銀の割合が、前記はんだ材料の総金属重量に対して、3.0重量パーセント未満」であることを満たし、甲1発明において、「ハンダ付け材料」が「ペースト」「であり」、「ペーストは、好ましくは粉末の組成物として提供され、銅及び活性金属に加えて、相手材料及び有機物も含むものである」ことは、本件発明1において、「前記はんだ材料は、有機媒体を含有するペースト」であることを満たす。
(イ) 前記(ア)によれば、本件発明1と甲1発明とは、
「金属セラミック基材を製造するための方法であって、
a)積層体を準備するステップであって、前記積層体が、
a1)セラミック体と、
a2)金属箔と、
a3)前記セラミック体及び前記金属箔と接触したはんだ材料であって、前記はんだ材料が、
(i)少なくとも700℃の融点を有する金属と、
(ii)700℃未満の融点を有する金属と、
(iii)活性金属と
を含む、はんだ材料と
を含有する、積層体を準備するステップと、
b)前記積層体を加熱するステップ
を含み、
銀の割合が、前記はんだ材料の総金属重量に対して、3.0重量パーセント未満であり、
前記はんだ材料は、有機媒体を含有するペーストである、方法。」
の点で一致し、以下の点で相違する。
・相違点1:「金属セラミック基材を製造するための方法」の「b)前記積層体を加熱するステップ」が、本件発明1においては、「b1)前記積層体が、加熱の際に、少なくともピーク温度-250℃に相当する温度に曝される持続期間を指す高温加熱持続期間が、60分以下である条件、b2)前記積層体が、加熱の際に、少なくともピーク温度-50℃に相当する温度に曝される持続期間を指すピーク温度加熱持続期間が、30分以下である条件のうちの少なくとも1つが満たされる」ものであるのに対して、甲1発明においては、「1000℃未満、好ましくは900℃未満のハンダ付け温度で実現」され、「低温でハンダ付けすることによって、ハンダ付け中のエネルギー消費を比較的低く維持することが可能である」ものである点。
・相違点2:本件発明1に係る方法は、「はんだ材料」の「有機媒体の割合」が、「前記ペーストの総重量に対して、5~80重量%である」のに対して、甲1発明における「有機物」の割合は明らかでない点。
イ 判断
(ア) 始めに、前記ア(イ)の相違点1の容易想到性について検討すると、甲1発明は、「金属箔」を「セラミック基板」に「ハンダ付け材料」で「接着」する際に、単に「低温でハンダ付けすることによって、ハンダ付け中のエネルギー消費を比較的低く維持することが可能である」ものにすぎず、「前記積層体が、加熱の際に、少なくともピーク温度-250℃に相当する温度に曝される持続期間を指す高温加熱持続期間」及び「前記積層体が、加熱の際に、少なくともピーク温度-50℃に相当する温度に曝される持続期間を指すピーク温度加熱持続期間」(以下、それぞれ「高温加熱持続期間」及び「ピーク温度加熱持続期間」という。)に注目したものではないから、甲1発明を、前記相違点1に係る発明特定事項を有するものとする動機付けはもとより存在しない。
(イ) また、前記(1)イ(ア)の記載によれば、甲第2号証には、セラミックスと金属とをろう接するろう材であって、Snを30~40wt%、Tiを10~20wt%、Niを3~10wt%含み、残部はCuと不可避的不純物とからなる、金属・セラミックス接合用ろう材が記載されている。
具体的には、前記(1)イ(イ)の記載によれば、甲第2号証には、Cu:45wt%、Ti:14wt%、Sn:35wt%、Ni:6wt%の組成を有する合金を溶製したものを粉砕して、大きさ100μm以下の粉末状ろう材Aとし、ろう接するときには、直径13mm、高さ5mmのアルミナ円盤を真空チャンバー内で、加熱装置中心部にある台の上にセットし、その上に前記ろう材Aを約30mg載せて、直径10mm、高さ10mmの銅の円柱体を重ね置いて、ろう接を、5×10-5torrの真空中、圧力0.75MPa、加熱及び冷却速度20℃/min、保持温度923K~1173K、保持時間10分間の条件で行うことが記載されている。
ところが、甲第2号証には、そもそも、「高温加熱持続期間」や「ピーク温度加熱持続期間」に着目して、これらをそれぞれ「60分以下」、「30分以下」とすることは記載も示唆もされていない。
また、甲1発明における「ハンダ付け材料」は、「銅を含み、かつ実質的に銀を含まず、実質的に、-64重量%の銅、34重量%のマンガン、及び2重量%のチタン、-64重量%の銅、34重量%のインジウム、及び2重量%のチタン、-75重量%の銅、23重量%の錫、及び2重量%のチタン、-69重量%の銅、13重量%の錫、16重量%のインジウム、及び2重量%のチタン、-66重量%の銅、16重量%の錫、16重量%のマンガン、及び2重量%のチタン、-66重量%の銅、16重量%のインジウム、16重量%のマンガン、及び2重量%のチタン、または、-69重量%の銅、12重量%の錫、7重量%のマンガン、10重量%のインジウム、及び2重量%のチタンであり、別途0.5重量%未満の不可避の不純物を有するもの」であり、甲第2号証に記載された前記ろう材Aに含まれるNiを含まないし、銅、チタン及び錫の含有量も、Cu:45wt%、Ti:14wt%、Sn:35wt%の組成を有する前記ろう材Aとは異なるから、甲1発明における「ハンダ付け材料」と甲第2号証に記載されたろう材Aは組成が合致しない。
そして、仮に、甲第2号証に記載された加熱及び冷却速度や保持温度、保持時間といった加熱条件(以下、「加熱条件」という。)が、本件発明1における条件「b1」及び「b2」のいずれかを満たすとしても、当業者は、組成が合致しないろう材Aにおける加熱条件をそのまま甲1発明に適用しないから、甲1発明と甲第2号証に記載された加熱条件を組み合わせることは想定されないので、甲1発明を前記相違点1に係る発明特定事項を有するものとすることが、甲第2号証に記載された事項に基づいて容易想到であるとはいえない。
また、甲第2号証に記載されたろう材B、ろう材C(段落【0014】、【表1】。前記(1)イ(イ)。)についてみても、甲1発明における「ハンダ付け材料」と組成が合致しないことに変わりはないから、事情は同じである。
(ウ) 前記(ア)及び(イ)によれば、甲1発明を前記相違点1に係る発明特定事項を有するものとすることは、甲第2号証に記載された事項に基づいて当業者が容易になし得ることではないから、前記ア(イ)の相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲第2号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
更に、本件発明1の発明特定事項を全て有する本件発明2~12について検討しても事情は同じである。
(エ) また、摘記を省略した甲第3~14号証にも、「高温加熱持続期間」や「ピーク温度加熱持続期間」に着目してこれらを最適化することは記載も示唆もされていないし、甲1発明における「ハンダ付け材料」と組成が合致する「ハンダ付け材料」も記載されていないから、前記(ウ)に記載したのと同様の理由により、甲1発明を前記相違点1に係る発明特定事項を有するものとすることは、甲第3~14号証に記載された事項に基づいて当業者が容易になし得ることでもないので、前記ア(イ)の相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲第3~14号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
更に、本件発明1の発明特定事項を全て有する本件発明2~12について検討しても事情は同じである。
ウ 小括
したがって、本件発明1~12は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2~14号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3) 申立人の主張について
ア 申立人は、特許異議申立書において、設定登録時の請求項1に係る発明と甲第1号証に記載された発明を対比したとき、以下の相違点1’~2’の点で相違しており、これら相違点1’~2’は、甲第2号証に記載された事項、又は甲第2~11号証に記載された事項に基づいてそれぞれ容易想到であるから、前記請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された事項に基づいて、又は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2~11号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである旨を主張している。
・相違点1’:積層体を加熱するステップのうち、前記請求項1に係る発明は、
「b1)前記積層体が、加熱の際に、少なくともピーク温度-250℃に相当する温度に曝される持続期間を指す高温加熱持続期間が、60分以下である条件、
b2)前記積層体が、加熱の際に、少なくともピーク温度-50℃に相当する温度に曝される持続期間を指すピーク温度加熱持続期間が、30分以下である条件、
b3)前記積層体が、100℃の温度から開始して、ピーク温度に到達するために必要とする期間を示す加熱持続期間が、60分以下である条件のうちの少なくとも1つが満たされる」ことを発明特定事項としているところ、甲第1号証に記載された発明では、「1000℃未満のハンダ付け温度」で加熱していることが開示されるのみである点。
・相違点2’:前記請求項1に係る発明では、「前記はんだ材料は、有機媒体を含有するペーストであり、有機媒体の割合は、前記ペーストの総重量に対して、5~80重量%である」が、甲第1号証に記載された発明ではハンダ付け材料は「有機物を含むペースト」であるものの、その含有量の範囲を特定していない点(25/40ページ1行~29/40ページ6行)。
イ そこで、前記アの主張について検討すると、前記アの相違点1’は、条件「b1)」、「b2)」に係る相違点である点で前記相違点1と共通するから、前記(2)イ(ウ)及び(エ)に記載したのと同様の理由により、甲第2号証に記載された事項、又は甲第2~11号証に記載された事項に基づいて容易想到であるとはいえない。
してみれば、前記アの相違点2’について検討するまでもなく、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された事項に基づいて、又は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2~11号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、前記アの主張は採用できない。
(4) まとめ
よって、前記第4の1の特許法第29条第2項所定の規定違反(進歩性欠如)についての特許異議の申立て理由は理由がない。
2 特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反)について
(1) サポート要件の判断手法
特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に記載された要件(サポート要件)に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載を対比し、特許請求の範囲で特定された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきであるから、以下、この観点に立って検討する。
(2) 本件特許明細書の記載事項
本件特許明細書には、以下のア~エの記載がある。
ア 「【0001】
本発明は、金属セラミック基材を製造するための方法に関する。
【0002】
金属セラミック基材は、パワーエレクトロニクスの分野において重要な役割を果たす。金属セラミック基材は、電子構成要素の設計における重要な要素であり、これらの構成要素の動作中の大量の熱の迅速な放散を確実にする。金属セラミック基材は通常、セラミック層と、セラミック層に結合(connect)された金属層とからなる。
・・・
【0005】
パワーエレクトロニクスの分野における着実に増加する要求に起因して、少なくとも700℃の融点を有する金属と、700℃未満の融点を有する金属と、活性金属とを含有するはんだ材料を使用して製造された金属セラミック基材の熱及び電流伝導率を更に改善する必要性の増大もある。
【0006】
金属セラミック基材の熱及び電流伝導率を増加させるための以前の手法は、金属層とセラミック層との間の接合層の組成を変化させることに集中してきた。しかしながら、いくつかの理由から、接合層の組成が変更されないままであることが有利であり得る。したがって、例えば、接合層の所与の組成は、理想的には、熱及び電流伝導率以外の技術的要件を満たすことができる、又は容易に生成され得る、又は更により費用効果があることができる。したがって、適切なプロセス方策により、接合層の所与の組成について、金属セラミック基材の熱及び電流伝導率を改善することが有利である。
【0007】
したがって、本発明の目的は、増加した熱及び電流伝導率を有する金属セラミック基材が、少なくとも700℃の融点を有する金属と、700℃未満の融点を有する金属と、活性金属とを含有するはんだ材料を使用して得られ得る方法を提供することである。
【0008】
この目的は、請求項1に記載の方法により達成される。したがって、本発明は、金属セラミック基材を製造するための方法を提供し、該方法は、
a)積層体を準備するステップであって、積層体が
a1)セラミック体と、
a2)金属箔と、
a3)セラミック体及び金属箔と接触したはんだ材料であって、はんだ材料が、
(i)少なくとも700℃の融点を有する金属と、
(ii)700℃未満の融点を有する金属と、
(iii)活性金属とを含む、はんだ材料と
を含有する、積層体を準備するステップと、
b)積層体を加熱するステップであって、
b1)積層体が、加熱の際に、少なくともピーク温度-250℃に相当する温度に曝される持続期間を指す高温加熱持続期間が、60分以下である条件、
b2)積層体が、加熱の際に、少なくともピーク温度-50℃に相当する温度に曝される持続期間を指すピーク温度加熱持続期間が、30分以下である条件、
b3)積層体が、100℃の温度から開始して、ピーク温度に到達するために必要とする期間を示す加熱持続期間が、60分以下である条件
のうちの少なくとも1つが満たされる、積層体を加熱するステップとを含む。」
イ 「【0009】
本発明による方法では、積層体が、最初に準備され、積層体は、セラミック体と、金属箔と、セラミック体及び金属箔と接触したはんだ材料とを含有する。
【0010】
したがって、はんだ材料は、好ましくは、積層体内のセラミック体と金属箔との間に位置する。・・・
・・・
【0016】
はんだ材料は、(i)少なくとも700℃の融点を有する金属を含む。少なくとも700℃の融点を有する金属は、好ましくは少なくとも850℃の融点を有し、特に好ましくは少なくとも1000℃の融点を有する。好ましい実施形態によれば、少なくとも700℃の融点を有する金属は、銅、ニッケル、タングステン、及びモリブデンからなる群から選択される。特に好ましい実施形態によれば、金属は、少なくとも700℃の融点を有する銅である。・・・
【0017】
はんだ材料は、(i)700℃未満の融点を有する金属を含む。700℃未満の融点を有する金属は、好ましくは600℃未満の融点を有し、特に好ましくは550℃未満の融点を有する。好ましい実施形態によれば、700℃未満の融点を有する金属は、錫、ビスマス、インジウム、ガリウム、亜鉛、アンチモン、及びマグネシウムからなる群から選択される。特に好ましい実施形態によれば、金属は、700℃未満の融点を有する錫である。・・・
【0018】
はんだ材料は、活性金属を含む。活性金属は、好ましくは、はんだ材料の成分から形成されたはんだとセラミックとの間の接合を化学反応によって生成する金属である。好ましい実施形態によれば、活性金属は、ハフニウム、チタン、ジルコニウム、ニオブ、タンタル、バナジウム、及びセリウムからなる群から選択される。・・・とりわけ好ましい実施形態によれば、活性金属は、チタンである。・・・
・・・
【0020】
はんだ材料は、好ましくは、銀を含まない、又は低銀である。したがって、銀の比は、はんだ材料の総金属重量に対して、好ましくは3.0重量パーセント未満、特に好ましくは1.0重量パーセント未満、とりわけ好ましくは0.2重量パーセント未満である。・・・
・・・
【0023】
はんだ材料は、ペーストであってもよい。ペーストは、好ましくは、少なくとも700℃の融点を有する金属と、700℃未満の融点を有する金属と、活性金属とを有する(a)少なくとも1つの金属成分と、(b)有機媒体とを含有する。
・・・
【0028】
・・・更に好ましい実施形態によれば、有機媒体の割合は、ペーストの総重量に対して、5~80重量パーセント、より好ましくは5~70重量パーセント、特に好ましくは5~25重量パーセントである。」
ウ 「【0041】
積層体を加熱する際に、条件のうちの少なくとも1つ、特に好ましくは少なくとも2つ(すなわち、条件b1及び条件b2、又は条件b1及び条件b3、又は条件b2及び条件b3)、とりわけ好ましくは以下の条件の全てが満たされる。
【0042】
b1)積層体が、加熱の際に、少なくともピーク温度-250℃に相当する温度に曝される持続期間を指す高温加熱持続期間が、60分以下である条件、
b2)積層体が、加熱の際に、少なくともピーク温度-50℃に相当する温度に曝される持続期間を指すピーク温度加熱持続期間が、30分以下である条件、
b3)積層体が、100℃の温度から開始して、ピーク温度に到達するために必要とする期間を示す加熱持続期間が、60分以下である条件。
【0043】
加熱の際に、積層体は、ピーク温度に加熱される。ピーク温度は、更に限定されず、好ましくは、少なくとも700℃の融点を有する金属の融点以下であり、金属箔の金属の融点よりも低い。好ましい実施形態によれば、ピーク温度は、金属箔の金属の融点を、少なくとも10℃、特に好ましくは少なくとも50℃下回る。更に好ましい実施形態によれば、ピーク温度は、少なくとも700℃である。ピーク温度は、好ましくは700~1100℃の範囲、特に好ましくは750~1050℃の範囲、とりわけ好ましくは800~1000℃の範囲である。本明細書で使用される場合、ピーク温度とは、熱電対によって積層体において測定される温度を指す。したがって、ピーク温度は、積層体において測定される最大温度である。溶融金属の流動性が高すぎることに起因する溶融金属の過度の収縮又は滲出などの不利な効果を防止するために、当業者は、過度に高いピーク温度を回避しようとする。
【0044】
加熱の際に、積層体は、加熱持続期間の間、温度チャージング(temperature charging)を経験する。本明細書では、加熱持続期間とは、好ましくは、積層体が、加熱の際に、少なくとも200℃の温度に曝される期間を指す。加熱持続期間は、加熱持続期間が、結合される表面の濡れ、及び結合される表面の材料可用性を確実にするのに十分である限り、更に限定されない。好ましい実施形態によれば、加熱持続期間は、少なくとも5分、特に好ましくは少なくとも10分である。更に好ましい実施形態によれば、加熱持続期間は、5時間以下、特に好ましくは2時間以下、とりわけ好ましくは90分以下である。加熱持続期間は、好ましくは5分~5時間の範囲、特に好ましくは5分~2時間の範囲、とりわけ好ましくは10~90分の範囲である。
【0045】
加熱の際に、積層体は、高温加熱持続期間の間、温度チャージングを経験する。本明細書では、高温加熱持続期間とは、好ましくは、積層体が、加熱の際に、少なくともピーク温度-250℃に相当する温度に曝される持続期間を指す。したがって、900℃の例示的なピーク温度を考慮すれば、高温加熱持続期間は、積層体が、加熱の際に、少なくとも650℃の温度に曝される持続期間に相当する。好ましい実施形態(条件b1)によれば、高温加熱持続期間は、60分以下、より好ましくは50分以下、特に好ましくは45分以下、とりわけ好ましくは40分以下である。高温加熱持続期間は、好ましくは2~60分の範囲、より好ましくは3~50分の範囲、特に好ましくは5~45分の範囲、とりわけ好ましくは10~40分の範囲である。
【0046】
加熱の際に、積層体は、ピーク温度加熱持続期間の間、温度チャージングを経験する。本明細書では、ピーク温度加熱持続期間とは、好ましくは、積層体が、加熱の際に、少なくともピーク温度-50℃に相当する温度に曝される持続期間を指す。したがって、900℃の例示的なピーク温度を考慮すれば、ピーク温度加熱持続期間は、積層体が、加熱の際に、少なくとも850℃の温度に曝される持続期間に相当する。好ましい実施形態(条件b2)によれば、ピーク温度加熱持続期間は、30分以下、より好ましくは25分以下、特に好ましくは20分以下、とりわけ好ましくは15分以下である。ピーク温度加熱持続期間は、好ましくは1~30分の範囲、より好ましくは1~25分の範囲、特に好ましくは2~20分の範囲、とりわけ好ましくは3~15分の範囲である。
・・・
【0049】
加熱の際に、温度チャージングが、加熱持続期間の間、起こる。したがって、加熱持続期間とは、好ましくは、積層体が、100℃の温度から開始して、ピーク温度を達成するために必要とする期間を示す。好ましい実施形態(条件b3)によれば、加熱持続期間は、60分以下、特に好ましくは45分以下、とりわけ好ましくは30分以下である。加熱持続期間は、好ましくは1~60分の範囲、より好ましくは5~45分の範囲、特に好ましくは10~30分の範囲である。
【0050】
驚くべきことに、積層体が加熱され、したがって、条件b1、b2、及びb3のうちの少なくとも1つが満たされ、したがって、60分の高温加熱持続期間が超えられず、30分のピーク温度が超えられず、及び/又は60分の加熱持続期間が超えられない場合、改善された熱及び電流伝導率を有する金属セラミック基材が得られ得ることが見出された。
【0051】
理論に拘束されないが、これは、積層体が、低い高温加熱持続期間、低いピーク温度加熱持続期間、及び/又は低い加熱持続期間において、制限されたエネルギー入力のみを経験し、該制限されたエネルギー入力が、はんだ材料によるセラミック体と金属箔との間の材料接合を生成するのに十分である一方、該制限されたエネルギー入力が、金属箔内への少なくとも700℃の融点を有する金属及び700℃未満の融点を有する金属の過度の拡散が回避されるように、制限されていることに起因し得る。この低減された拡散は、次いで、完成した金属セラミック基材における改善された電流及び熱伝導率を生じさせることができる。」
エ 「【実施例】
【0069】
実施例では、金属セラミック基材が、様々な条件下で製造された。したがって、セラミック体と、金属箔と、セラミック体及び金属箔と接触したはんだ材料とを含有する積層体のそれぞれが、準備され、その後、加熱された。はんだ材料は、銅、錫、及びチタンを金属として含有する標準的なペーストであった。次いで、電流及び熱伝導率が、定性的に評価された。同等の結果(comparable results)がまた、他の材料の組み合わせで達成され得る
【0070】
実施例1
金属セラミック基材の製造のために、最初に、31.67重量パーセントのSnCu0.7粉末、7.24重量パーセントの水素化チタン、及び、Texanolを含有する9.50重量パーセントの有機賦形剤が、35Hzで20分間、スタンドミキサーにおいて混合された。その後、51.59重量パーセントの銅粉末が、徐々に(in increments)添加された。このようにして生成された混合物は、均質なペーストが得られるまで高速で撹拌された。
【0071】
このようにして生成されたペーストを使用して、セラミック体は、セラミック体の対向する表面上で、銅箔に両側上で接合された。このために、(Tosiba Materialsから入手可能な)寸法177.8×139.7×0.32mmを有するセラミック体のそれぞれが、使用され、該セラミック体は、同一の前側及び後側調達を有した。ペーストは、165メッシュスクリーンによって、このようなセラミック体の後側上の寸法137×175mm2の領域にスクリーン印刷され、125℃で15分間予備乾燥を受けた。予備乾燥後のペーストの厚さは、35±5μmであった。その後、このようにして生成された配置(arrangement)は、反転され、ペーストは、同様に、セラミック体の前側上に印刷され、予備乾燥を受けた。その後、ペーストが両側上に提供されたセラミックには、両側上で、99.99%の純度及び174×137×0.3mmの寸法を有する無酸素高導電性銅から作製された銅箔が提供されて、銅箔-予備乾燥済みペースト-セラミック-予備乾燥済みペースト-銅箔の構造を有する積層体が得られた。
【0072】
次いで、積層体は、連続炉において加熱された。このために、最初に、グラファイト箔がその上に適用された炭化ケイ素板が、連続炉のコンベヤチェーン上に置かれた。積層体は、グラファイト箔上に置かれ、次いで、該積層体は、更なるグラファイト箔で覆われ、該積層体には、更なる炭化ケイ素板(重量=600g)で重みがかけられた。その後、構造体は、連続炉の加熱ゾーンを通過してコンベヤチェーン上で移送された。(Temperatur Messelemente Hettstedt GmbH社から入手可能なタイプK熱電対で、積層体において測定された)ピーク温度は、935℃であり、加熱持続期間は、17分であった。加熱持続期間は、29.5分であり、高温加熱持続期間は、13分であり、ピーク温度加熱持続期間は、6.5分であった。その後、このようにして得られた金属-セラミック基材は、室温に冷却されて、金属セラミック基材が得られ、金属セラミック基材は、両側上で接合層により銅層に結合されたセラミック層を含有した。
【0073】
実施例2
実施例2は、変更された加熱パラメータで、実施例1に類似して実施された。(Temparatur Messelemente Hettstedt GmbH社から入手可能なタイプK熱電対で、積層体において測定された)ピーク温度は、910℃であり、加熱持続期間は、21.5分であった。加熱持続期間は、41分であり、高温加熱持続期間は、17分であり、ピーク温度加熱持続期間は、7分であった。
【0074】
比較例
比較例は、実施例1と類似して実施されたが、積層体は、連続炉の代わりに、バッチ炉において加熱された。(Temperatur Messelemente Hettstedt GmbH社から入手可能なタイプK熱電対で、積層体において測定された)ピーク温度は、910℃であり、加熱持続期間は、230分であった。加熱持続期間は、380分であり、高温加熱持続期間は、120分であり、ピーク温度加熱持続期間は、35分であった。その後、このようにして得られた金属-セラミック基材は、室温に冷却されて、金属セラミック基材が得られ、金属セラミック基材は、両側上で接合層により銅層に結合されたセラミック層を含有した。
【0075】
その後、実施例において得られた金属セラミック基材の熱及び電流伝導率は、以下のように評価された。
【0076】
【表1】
[図:0001427955000002.jpg]
【0077】
金属セラミック基材の伝導率は、本発明による方法の適用を考慮すれば、著明に改善され得ることが見出された。理論に拘束されないが、これは、700℃未満の融点を有する金属(実施例において、錫)が、本発明による方法では、従来の方法による場合よりも金属箔内に深く浸透しないことに起因し得る。したがって、700℃未満の融点を有する金属(実施例において、錫)は、本発明による方法では、従来の方法による場合よりも金属箔内に深く浸透しないことが示され得る。実施例1及び実施例2において得られた金属セラミック基材について、深さ方向分析(depth profile analysis)は、銅箔内への錫の拡散が、比較例の金属セラミック基材と比較して、30%超で低減されたことをもたらした。したがって、実施例1及び実施例2において、完成した金属セラミック基材の伝導率は、より少ない強さで損なわれている。」
(3) サポート要件についての判断
ア 前記(2)アの記載によれば、本件発明は、「金属セラミック基材」を製造するための方法に関するものであって(段落【0001】)、「金属セラミック基材」は、パワーエレクトロニクスの分野において重要な役割を果たすものであり、通常、セラミック層と、セラミック層に結合(connect)された金属層とからなるのであるが(段落【0002】)、パワーエレクトロニクスの分野における着実に増加する要求に起因して、「少なくとも700℃の融点を有する金属」と、「700℃未満の融点を有する金属」と、「活性金属」とを含有する「はんだ材料」を使用して製造された「金属セラミック基材」の熱及び電流伝導率を更に改善する必要性の増大があるものである(段落【0005】)。
したがって、本件発明の目的は、増加した熱及び電流伝導率を有する「金属セラミック基材」が、「少なくとも700℃の融点を有する金属」と、「700℃未満の融点を有する金属」と、「活性金属」とを含有する「はんだ材料」を使用して得られ得る方法を提供することであり(段落【0007】)、この目的は、
「a)積層体を準備するステップであって、積層体が
a1)セラミック体と、
a2)金属箔と、
a3)セラミック体及び金属箔と接触したはんだ材料であって、はんだ材料が、
(i)少なくとも700℃の融点を有する金属と、
(ii)700℃未満の融点を有する金属と、
(iii)活性金属とを含む、はんだ材料と
を含有する、積層体を準備するステップと、
b)積層体を加熱するステップであって、
b1)積層体が、加熱の際に、少なくともピーク温度-250℃に相当する温度に曝される持続期間を指す高温加熱持続期間が、60分以下である条件、
b2)積層体が、加熱の際に、少なくともピーク温度-50℃に相当する温度に曝される持続期間を指すピーク温度加熱持続期間が、30分以下である条件、
b3)積層体が、100℃の温度から開始して、ピーク温度に到達するために必要とする期間を示す加熱持続期間が、60分以下である条件
のうちの少なくとも1つが満たされる、積層体を加熱するステップとを含む」方法により達成されるものである(段落【0008】)。
イ ここで、前記(2)ウの記載によれば、本件発明は、「b)前記積層体を加熱するステップ」において、「b1)積層体が、加熱の際に、少なくともピーク温度-250℃に相当する温度に曝される持続期間を指す高温加熱持続期間が、60分以下である条件、b2)積層体が、加熱の際に、少なくともピーク温度-50℃に相当する温度に曝される持続期間を指すピーク温度加熱持続期間が、30分以下である条件」のうちの少なくとも1つが満たされることで、加熱の際に制限されたエネルギー入力のみを経験し、該制限されたエネルギー入力が、「はんだ材料」による「セラミック体」と「金属箔」との間の材料接合を生成するのに十分である一方、該制限されたエネルギー入力が、「金属箔」内への「少なくとも700℃の融点を有する金属」及び「700℃未満の融点を有する金属」の過度の拡散が回避されるように制限され、この低減された拡散は、次いで、完成した「金属セラミック基材」における改善された電流及び熱伝導率を生じさせることができるものである(段落【0041】~【0042】、【0051】)。
なお、前記アの条件「b3)」は、「100℃の温度から開始して、ピーク温度に到達するために必要とする期間を示す加熱持続期間」を「60分以下」とするものにすぎず、ピーク温度に到達して以降の加熱時間を何ら特定していないから、前記条件「b3)」のみを満たしたとしても、金属箔内への「少なくとも700℃の融点を有する金属」及び「700℃未満の融点を有する金属」の過度の拡散が回避できるほどにエネルギー入力が制限されるとはいえないので、改善された熱及び電流伝導率を有する「金属セラミック基材」が得られるとはいえない。
ウ 前記ア及びイによれば、本件特許明細書の記載に接した当業者は、本件発明は、「少なくとも700℃の融点を有する金属」と、「700℃未満の融点を有する金属」と、「活性金属」とを含有する「はんだ材料」を使用して製造された「金属セラミック基材」の熱及び電流伝導率を更に改善する必要性の増大がある、という課題(以下、「本件課題」という。)を解決するものであって、前記「金属セラミック基材」を製造する際に、「セラミック体」と、「金属箔」と、前記「セラミック体」及び「金属箔」と接触した前記「はんだ材料」を含有する「積層体」が加熱され、前記条件「b1)」、及び「b2)」のうちの少なくとも1つが満たされた場合、前記「積層体」が制限されたエネルギー入力のみを経験し、該制限されたエネルギー入力が、前記「はんだ材料」による「セラミック体」と「金属箔」との間の材料接合を生成するのに十分である一方、「金属箔」内への「少なくとも700℃の融点を有する金属」及び「700℃未満の融点を有する金属」の過度の拡散が回避されるように制限されて、完成した「金属セラミック基材」における改善された電流及び熱伝導率を生じさせることで、本件課題を解決できることを理解できる。
そして、本件発明1の発明特定事項は、「少なくとも700℃の融点を有する金属」と、「700℃未満の融点を有する金属」と、「活性金属」とを含有する「はんだ材料」を使用して「金属セラミック基材」を製造する際に、「セラミック体」と、「金属箔」と、前記「セラミック体」及び「金属箔」と接触した前記「はんだ材料」を含有する「積層体」が加熱され、前記条件「b1)」及び「b2)」のうちの少なくとも1つが満たされることを満足するから、本件発明1の発明特定事項により本件課題を解決できることも理解できるのであり、このことを前記(1)の判断手法に当てはめれば、本件特許請求の範囲の請求項1の記載は、サポート要件に適合する。
更に、本件発明1の発明特定事項を全て有する本件発明2~12について検討しても事情は同じである。
(4) 申立人の主張について
ア 「はんだ材料」について
本件特許明細書の段落【0006】(前記(2)ア)の記載によれば、金属セラミック基材の熱及び電流伝導率を増加させるための以前の手法は、金属層とセラミック層との間の接合層の組成を変化させることに集中してきたのであるが、接合層の組成が変更されないままであることが有利であり得ることから、本件発明は、適切なプロセス方策により、接合層の所与の組成について、金属セラミック基材の熱及び電流伝導率を改善するものであり、段落【0069】(前記(2)エ)の記載によれば、実施例における「はんだ材料」は標準的なペーストであったものである。
すると、本件発明における「はんだ材料」は、従来から通常用いられている標準的な「はんだ材料」と解される。
そして、甲第16号証(摘記は省略する。)の記載から、対象セラミックスに応じて、特定の「はんだ材料」の系でしか「はんだ材料」として成立し得ないことが技術常識といえることと、本件発明における「はんだ材料」は、従来から通常用いられている標準的な「はんだ材料」と解されることからみれば、本件発明においては、対象セラミックスに対して「はんだ材料」として成立しない系は、もとより排除されていると解するのが妥当である。
更に、本件発明1の発明特定事項により本件課題を解決できることを理解できることは前記(3)ウに記載したとおりであるから、本件発明1に課題を解決できないものが含まれるとはいえないので、前記第4の2(1)の主張は採用できない。
イ 「積層体を加熱するステップ」について
甲第15号証(摘記は省略する。)の記載から、銅-錫間の700℃~1000℃の温度領域での拡散係数が1.1×10-5m2/sであることが知られているとしても、「金属箔」内への「少なくとも700℃の融点を有する金属」及び「700℃未満の融点を有する金属」の過度の拡散が回避されるように制限するためには、「ピーク温度加熱持続時間」を短時間にすべきであることが技術常識であるとはいえないし、このことを裏付ける証拠もないから、前記条件「b2)」が、本件課題を解決するための必須の要件であるとはいえない。
また、本件特許明細書の実施例に、前記条件「b1)」、「b2)」、「b3)」の全てを満足した場合しか記載されていないとしても、前記(3)ウに記載した理由により、本件発明1の発明特定事項により本件課題を解決できることを理解できることに変わりはない。
更に、前記実施例における「高温加熱持続期間」が13分及び17分であり、前記実施例及び本件特許明細書の比較例において、伝導率が高、低の2水準のみで評価されているものの、どのように高又は低と判別していたかの基準が不明であり、前記比較例において、「ピーク温度加熱持続期間」が35分では効果が無いとされているとしても、前記条件「b1)」及び「b2)」によって「高温加熱持続期間」及び「ピーク温度加熱持続期間」の上限が特定されている本件発明1の発明特定事項により、加熱の際にエネルギー入力が制限されて本件課題を解決できることに変わりはないので、本件発明1の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できないともいえない。
そうすると、本件発明1に課題を解決できないものが含まれるとはいえないから、前記第4の2(2)の主張も採用できない。
(5) 令和6年12月3日付けの取消理由通知書における取消理由について
本件発明1は、「100℃の温度から開始して、ピーク温度に到達するために必要とする期間を示す加熱持続期間」を「60分以下」とする条件「b3)」のみを満たすものを含むものではない。そして、本件発明1の発明特定事項により本件課題を解決できることは前記(3)ウに記載したとおりであるから、前記第5の1(1)の取消理由は理由がない。
(6) 小括
よって、本件特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第1号所定の規定に適合するから、前記第4の2の特許異議の申立て理由及び第5の1(1)の取消理由はいずれも理由がない。
3 特許法第36条第6項第2号所定の規定違反(明確性要件違反)について
(1) 明確性要件の判断手法
特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に記載された要件(明確性要件)に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきであるから、以下、この観点に立って検討する。
(2) 明確性要件についての判断
ア 始めに、前記第4の3(1)の特許異議の申立て理由について検討すると、本件特許明細書の段落【0045】(前記2(2)ウ)の記載からみれば、本件発明においては、加熱の際に、「積層体」は、「高温加熱持続期間」の間、温度チャージングを経験するのであり、「高温加熱持続期間」とは、積層体が、加熱の際に、少なくともピーク温度-250℃に相当する温度に曝される持続期間を指すのであり、900℃の例示的なピーク温度を考慮すれば、「高温加熱持続期間」は、積層体が、加熱の際に、少なくとも650℃の温度に曝される持続期間に相当するものである。
してみれば、本件発明1における「高温加熱持続期間」は、「積層体」がピーク温度まで加熱される際に、少なくともピーク温度-250℃に相当する温度に曝される持続期間を意味することを理解できるから、その意味は明確であるので、本件発明1が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるということはできない。
そして、このことを前記(1)の判断手法に当てはめれば、本件特許請求の範囲の請求項1の記載は明確性要件に適合するから、前記第4の3(1)の特許異議の申立て理由は理由がない。
イ 次に、前記第4の3(2)の特許異議の申立て理由について検討すると、本件特許明細書の段落【0046】(前記2(2)ウ)の記載からみれば、本件発明においては、加熱の際に、「積層体」は、「ピーク温度加熱持続期間」の間、温度チャージングを経験するのであり、「ピーク温度加熱持続期間」とは、「積層体」が、加熱の際に、少なくともピーク温度-50℃に相当する温度に曝される持続期間を指すのであり、900℃の例示的なピーク温度を考慮すれば、「ピーク温度加熱持続期間」は、積層体が、加熱の際に、少なくとも850℃の温度に曝される持続期間に相当するものである。
してみれば、本件発明1における「ピーク温度加熱持続期間」は、「積層体」が、「積層体」がピーク温度まで加熱される際に、少なくともピーク温度-50℃に相当する温度に曝される持続期間を意味することを理解できるから、その意味は明確であるので、本件発明1が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるということはできない。
そして、このことを前記(1)の判断手法に当てはめれば、本件特許請求の範囲の請求項1の記載は明確性要件に適合するから、前記第4の3(2)の特許異議の申立て理由も理由がない。
ウ 次に、前記第4の3(3)の特許異議の申立て理由について検討すると、本件訂正により、「b3)前記積層体が、100℃の温度から開始して、ピーク温度に到達するまでに必要とする期間を示す加熱持続期間が、60分以下である条件」、との発明特定事項は削除されたから、本件特許請求の範囲の請求項1の記載は明確性要件に適合するので、前記第4の3(3)の特許異議の申立て理由も理由がない。
エ そして、本件特許請求の範囲の請求項2~12について検討しても前記ア~ウの事情は同じであるから、前記第4の3(4)の特許異議の申立て理由も理由がない。
オ 最後に、前記第5の2(1)の取消理由について検討すると、本件訂正により特許請求の範囲の請求項13は削除されたから、本件特許請求の範囲の記載は明確性要件に適合するので、前記第5の2(1)の取消理由も理由がない。
(3) 小括
よって、本件特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第2号所定の規定に適合するから、前記第4の2の特許異議の申立て理由及び前記第5の2(1)の取消理由はいずれも理由がない。
4 特許法第36条第4項第1号所定の規定違反(実施可能要件違反)について
(1) 実施可能要件の判断手法
特許法36条4項1号は、明細書の発明の詳細な説明の記載は、「その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したもの」でなければならないと定める。そして、方法の発明における発明の実施とは、その方法を使用する行為をいうから(特許法2条3項2号)、同法36条4項1号の「その実施をすることができる」とは、その方法を使用できることであり、明細書にその方法を使用することについての具体的な記載が必要であるが、そのような記載がなくても、明細書及び図面の記載並びに出願当時の技術常識に基づき、当業者がその方法を使用できるのであれば、実施可能要件を満たすということができるので、以下、この観点に立って検討する。
(2) 実施可能要件についての判断
ア 前記2(2)イの記載によれば、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件発明による方法では、積層体が、最初に準備され、積層体は、セラミック体と、金属箔と、セラミック体及び金属箔と接触したはんだ材料とを含有するものであり、したがって、はんだ材料は、好ましくは、積層体内のセラミック体と金属箔との間に位置するものであり(段落【0009】~【0010】)、はんだ材料は、少なくとも700℃の融点を有する金属、700℃未満の融点を有する金属、及び活性金属を含むものであり(段落【0016】~【0018】)、好ましくは、銀を含まない、又は低銀であり、銀の比は、はんだ材料の総金属重量に対して、好ましくは3.0重量パーセント未満であり(段落【0020】)、はんだ材料は、ペーストであってもよく、ペーストは、好ましくは、少なくとも700℃の融点を有する金属と、700℃未満の融点を有する金属と、活性金属とを有する(a)少なくとも1つの金属成分と、(b)有機媒体とを含有するものであり(段落【0023】)、有機媒体の割合は、ペーストの総重量に対して、5~80重量パーセントである(段落【0028】)ことが記載されている。
また、前記2(2)ウの記載によれば、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件発明による方法では、積層体を加熱する際に、b1)積層体が、加熱の際に、少なくともピーク温度-250℃に相当する温度に曝される持続期間を指す高温加熱持続期間が、60分以下である条件、b2)積層体が、加熱の際に、少なくともピーク温度-50℃に相当する温度に曝される持続期間を指すピーク温度加熱持続期間が、30分以下である条件、のうちの少なくとも1つが満たされることが記載されている(段落【0041】~【0042】)。
イ 更に、前記2(2)エの記載によれば、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、前記アに記載された方法にのっとった具体的な実施例が記載されているといえる。
ウ そして、前記アに記載された方法は、本件発明1の発明特定事項を満たすものであるから、本件特許明細書の記載に接した当業者は、本件発明1に係る「金属セラミック基材を製造するための方法」を、過度の試行錯誤を要することなく、使用することができるのであって、このことを前記(1)の判断手法に当てはめれば、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件に適合する。
更に、本件発明2~12について検討しても事情は同じである。
(3) 申立人の主張について
前記第3の4の申立人の主張は、要するに、「はんだ材料」に利用可能な金属元素の組合せは制限されることが技術常識であるから、前記実施例1及び2に記載された銅、錫及びチタンの組合せからなる「はんだ材料」以外の「はんだ材料」を用意するには過度の試行錯誤を要するので、本件発明1は実施不可能なものを包含する旨をいうものと解される。
ところが、本件発明においては、対象セラミックスに対して「はんだ材料」として成立しない系は、もとより排除されていると解するのが妥当であることは、前記2(4)アに記載したとおりである。
そして、当業者は、例えば甲第16号証に開示される技術常識に基づいて、対象セラミックスに応じた「はんだ材料」を過度の試行錯誤を要することなく用意できるから、本件発明1が実施不可能なものを包含するとはいえない。
更に、本件発明2~12について検討しても事情は同じであるので、前記第3の4の主張は採用できない。
(4) 小括
よって、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は特許法第36条第4項第1号所定の規定に適合するから、前記第3の4の特許異議の申立て理由は理由がない。
5 審尋について
(1) 本件特許明細書の段落【0044】(前記2(2)ウ)には、「加熱持続期間」として、積層体が、加熱の際に、少なくとも200℃の温度に曝される期間を指すものが記載され、更に、ここでの「加熱持続期間」は、好ましくは5分~5時間の範囲、特に好ましくは5分~2時間の範囲、とりわけ好ましくは10~90分の範囲であることが記載されている。
一方、同段落【0049】(前記2(2)ウ)には、「加熱持続期間」として、積層体が、100℃の温度から開始して、ピーク温度を達成するために必要とする期間(すなわち条件「b3)」の「加熱持続期間」)を示すものが記載され、更に、ここでの「加熱持続期間」は、好ましくは1~60分の範囲、より好ましくは5~45分の範囲、特に好ましくは10~30分の範囲であることが記載されている。
そして、これらの記載からみれば、前記段落【0044】の「加熱持続期間」、すなわち、積層体が、加熱の際に、少なくとも200℃の温度に曝される期間であって、好ましくは5分~5時間の範囲である期間は、前記段落【0049】の「加熱持続期間」、すなわち、積層体が、100℃の温度から開始して、ピーク温度を達成するために必要とする期間であって、好ましくは1~60分の範囲である期間よりも、おおむね長時間となることが推認されるものである。
そうすると、本件特許明細書の段落【0072】(前記2(2)エ)における実施例1の17分の「加熱持続期間」及び29.5分の「加熱持続期間」は、それぞれ、前記段落【0049】の「加熱持続期間」及び前記段落【0044】の「加熱持続期間」に相当することが推認され、段落【0073】(前記2(2)エ)における実施例2の21.5分の「加熱持続期間」及び41分の「加熱持続期間」は、それぞれ、前記段落【0049】の「加熱持続期間」及び前記段落【0044】の「加熱持続期間」に相当することが推認され、段落【0074】(前記2(2)エ)における比較例の230分の「加熱持続期間」及び380分の「加熱持続期間」は、それぞれ、前記段落【0049】の「加熱持続期間」及び前記段落【0044】の「加熱持続期間」に相当することが推認されるものである。
(2) これについて、特許権者は、令和7年2月28日に提出した意見書において、段落【0072】における実施例1の17分の「加熱持続期間」及び29.5分の「加熱持続期間」は、それぞれ、前記段落【0049】の「加熱持続期間」及び前記段落【0044】の「加熱持続期間」に相当し、段落【0073】における実施例2の21.5分の「加熱持続期間」及び41分の「加熱持続期間」は、それぞれ、前記段落【0049】の「加熱持続期間」及び前記段落【0044】の「加熱持続期間」に相当し、段落【0074】における比較例の230分の「加熱持続期間」及び380分の「加熱持続期間」は、それぞれ、前記段落【0049】の「加熱持続期間」及び前記段落【0044】の「加熱持続期間」に相当する旨を主張しているから(4ページ2行~5ページ最終行)、前記(1)の推認は、前記主張からも裏付けられるものである。
(3) したがって、前記実施例1及び2に記載された二つの「加熱持続期間」がそれぞれどのような期間を意味するのかが明らかになったので、前記第5の2の審尋における不明な点は解消した。
第7 むすび
以上のとおりであるから、申立人の特許異議申立書に記載した特許異議の申立て理由及び取消理由通知書に記載した取消理由によっては、本件発明1~12に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1~12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、本件訂正により請求項13は削除されたから、請求項13に係る特許異議の申立てについては対象となる請求項が存在しなくなったので、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する
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2024-700783