特許異議申立
2025-700504
補強材及び補強構造
- 審判番号
- 2025-700504
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-180192外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 登録番号
- 7581601
- 請求日
- 2025年05月09日
- 審決日
- 2025年09月25日
- 公報発行日
- 2025年10月31日
- 結論
- 維持
- 分類
- P1651.121-Y (E21D)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第113条第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7581601号発明「補強材及び補強構造」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7581601号の請求項1~5に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7581601号(以下「本件特許」という。)は、令和2年10月28日に特許出願され(特願2020-180192)、令和6年11月5日にその特許権の設定登録がされ、同年11月13日に特許掲載公報が発行された。
その後、本件特許の請求項1~5に係る特許に対して、令和7年5月9日に特許異議申立人 岩部 英臣(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされた。
第2 本件発明
本件特許の請求項1~5に係る発明(以下「本件発明1」等という。)は、特許請求の範囲の請求項1~5に記載された、次の事項により特定されるとおりのものである。なお、本件発明1における符号A等は分説のため当審で付与した。また、分説された本件発明1の発明特定事項を、符号に基づき以下「発明特定事項A」等という。
「 【請求項1】
A 内部に水が導入され、円弧状の内壁面に形成された覆工コンクリートに水圧が作用する導水路トンネルの補強構造であって、
B 前記覆工コンクリートの内壁面上に展設した補強材と、
C 前記補強材を前記覆工コンクリート内壁面上に固定する固定手段と、
D 前記補強材及び前記固定手段を前記覆工コンクリートの内壁面上に一体に埋設した被覆層とを備え、
E 前記補強材は、並列配置した複数の第1帯体及び第2帯体を交差して格子状に形成し、前記導水路トンネルの軸方向に沿って配設される前記第1帯体の軸剛性が、前記導水路トンネルの周方向に沿って配設される前記第2帯体の軸剛性より小さくなっており、
F 前記補強材を前記導水路トンネルの軸方向に沿って並列する場合は、軸方向に隣接する他の補強材と重複する領域を設けないように並列し、前記補強材を前記導水路トンネルの周方向に沿って並列する場合は、周方向に隣接する他の補強材と重複する重複領域を形成するように並列し、当該重複領域においては、前記第1帯体が、隣接する他の補強材の第1帯体と重ならないようにずらした状態で前記補強材が前記覆工コンクリートの内壁面に展設され、
G 前記補強材は、前記重複領域における前記第1帯体及び第2帯体の格子寸法が、前記重複領域ではない非重複領域の格子寸法より小さくなっている
H ことを特徴とする補強構造。
【請求項2】
請求項1に記載の補強構造において、
前記補強材は、
前記第1帯体が、複数層に束ねた第1連続繊維と当該第1連続繊維に含侵した固化樹脂とで形成され、前記第2帯体が、複数層に束ねた第2連続繊維と当該第2連続繊維に含侵した前記固化樹脂とで形成され、
前記第1帯体及び前記第2帯体の交点において、前記第1連続繊維と前記第2連続繊維とが相互に積層して前記固化樹脂によって一体化されている補強構造。
【請求項3】
請求項2に記載の補強構造において、
前記第1連続繊維が前記第2連続繊維より弾性係数が小さい素材である補強構造。
【請求項4】
請求項3に記載の補強構造において、
前記第1連続繊維がガラス繊維であり、前記第2連続繊維が炭素繊維である補強構造。
【請求項5】
請求項2に記載の補強構造において、
前記第1連続繊維の弾性係数と前記第2連続繊維の弾性係数が同一であり、前記第1帯体の長手方向に直交する断面積が、前記第2帯体の長手方向に直交する断面積より小さい補強構造。」
第3 特許異議申立理由の概要
申立人による異議申立理由の概要は、次のとおりである。
本件発明1~5は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証~甲第10号証の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1~5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
第4 証拠
1 証拠一覧
申立人により、特許異議申立書とともに提出された証拠は、次のとおりである。
甲第1号証:中辻照幸、建築用新素材の現状と今後の展望、溶接学会誌、第57巻第3号、一般社団法人 溶接学会、1988年、第171頁~第177頁
甲第2号証:溶接学会誌、URL:https://www.jstage.jst.go.jp/browse/jjws/_pubinfo/-char/ja#information(甲第1号証の発行者を立証するもの)
甲第3号証:特開平5-231095号公報
甲第4号証:やませいリフォーム便り、FRPグリット再び、URL:http://yamasei3112.blog.fc2.com/blog-entry-84.html
甲第5号証:特開2004-360360号公報
甲第6号証:登録実用新案第3130451号公報
甲第7号証:特開2007-39886号公報
甲第8号証:特開2009-126730号公報
甲第9号証:辻幸和、小田切芳春、岡村雄樹、佐藤貢一、継手部を有する連続繊維補強材を用いたRCはりの下面増厚補強効果、土木学会論文集、公益社団法人 土木学会、No.788/V-67、2005年、第67頁~第80頁
甲第10号証:土木学会論文集、URL:https://www.jstage.jst.go.jp/browse/jscej/_pubinfo/-char/ja#information(甲第9号証の発行者を立証するもの)
以下、甲第1号証~甲第10号証を、それぞれ、「甲1」等という。
2 甲1について
甲1には、次の事項が開示されている。なお、下線は当審で付与した。
(1)記載事項
ア 記載事項1-1(第171頁左欄~第172頁左欄)
「1. はじめに
近年,建設の分野での新素材開発が活発化している.……本稿では建設用構造材,特に鉄鋼に代わる新素材をとりあげる.建設の構造の分野で使用される鉄鋼材料は,コンクリート補強用材料(鉄筋,PC鋼線)および鉄骨材料である.
鉄鋼材料の代わりになる新素材として,最近開発された高機能繊維がクローズアップされている.現在,この高機能繊維を直接コンクリートに混入したり,繊維強化プラスチック(FRP)に成形してコンクリートを補強したり,FRPのままで建設用構造材として利用する技術の研究・開発が盛んに行われている.」
イ 記載事項1-2(第174頁左欄~右欄)
「3.2 鉄筋,PC鋼線代替材料
鉄筋 PC鋼線代替材料としての主なものは2種類あり,1つはアラミド繊維を組紐状に編んで樹脂を含浸させて棒状にかためた材料2)(以下FiBRA(図2参照))で,他は高機能繊維(主としてガラス繊維(GF)とCF)に樹脂を含浸させながら格子状に編んで硬化させた材料3)(以下NEFMAC(図3参照))である.以下これらについて概説する.」
ウ 記載事項1-3(第175頁左欄)
「
[図:0001428006000001.jpg]
」
エ 記載事項1-4(第175頁右欄)
「一方,NEFMACは,格子状に成形し横筋と縦筋との交点強度を確保することによって,縦筋は横筋で横筋は縦筋でそれぞれ付着をとっている.この材料の引張特性を図6に示す.図6のG6,H6という材料は,径が6mmの鉄筋の引張荷重と同等の引張荷重を有するもので,GはGFのみを使用した材料,HはGFとCFをハイブリッドにして使用した材料のことである.Hの材料では,鉄筋と同様な降状現象(いわゆるハイブリッド効果)があらわれている。なお,NEFMACは格子状に成形されているので現場での配筋手間が大幅に削減され,また現場でのジョイントは格子間隔(L)以上ラップさせるだけで応力は十分伝達されるという特徴を持っている.図7はコンクリート版中央部に重ね継手(継手長さをパラメータとしている)をもうけて,コンクリート版の曲げ実験を行った結果を示しており,L以上のラップでジョイントのできることがわかる。NEFMACは,土木分野ではトンネル覆工コンクリートの補強筋(図8参照)を中心に,建築の分野ではGRC製フリーアクセスフロアの補強筋を中心に,次第に適用範囲が広がってきている.」
オ 記載事項1-5(第176頁右欄)
「
[図:0001428006000002.jpg]
」
(2)認定事項
ア 認定事項1-1
上記(1)ア、イ及び技術常識を踏まえて上記(1)オを見ると、甲1には、
「円弧状の内壁面に形成された覆工コンクリートを有するトンネルの補強構造であって、
覆工コンクリートの内壁面上に展設した、鉄筋、PC鋼線代替材料としてのNEFMACと、
NEFMACを覆工コンクリートの内壁面上に固定する固定手段と、
NEFMAC及び固定手段を覆工コンクリートの内壁面上に一体に埋設した被覆層を備える
補強構造。」(以下「認定事項1-1」という。)
が開示されているといえる。
イ 認定事項1-2
上記(1)エによれば、「現場でのジョイントは格子間隔(L)以上ラップさせる」ところ、NEFMAC同士を格子間隔以上ラップさせてジョイントすることに着目して上記ア(オ)を見ると、甲1には、
「NEFMAC同士がトンネルの周方向に沿って並列し、
この場合に、一方のNEFMACは、周方向に隣接する他のNEFMACと重複する重複領域を成形するように並列し、
当該重複領域においては、横筋が、隣接する他のNEFMACの横筋と重ならないようにずらした状態でNEFMACが覆工コンクリートの内壁面に展設されること。」(以下「認定事項1-2」という。)
が開示されているといえる。
(3)甲1発明
以上のことから、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が開示されていると認められる。なお、発明特定事項A等に概ね対応させたa等を含む符号を付与し、構成の根拠となる記載事項や認定事項を併記した。
「a,b,c,d
円弧状の内壁面に形成された覆工コンクリートを有するトンネルの補強構造であって、
覆工コンクリートの内壁面上に展設した、鉄筋、PC鋼線代替材料としてのNEFMACと、
NEFMACを覆工コンクリートの内壁面上に固定する固定手段と、
NEFMAC及び固定手段を覆工コンクリートの内壁面上に一体に埋設した被覆層を備え(認定事項1-1)、
e
NEFMACは、格子状に成形し横筋と縦筋との交点強度を確保することによって、縦筋は横筋で横筋は縦筋でそれぞれ付着をとっており(記載事項1-4)、
f
NEFMAC同士がトンネルの周方向に沿って並列し、この場合に、一方のNEFMACは、周方向に隣接する他のNEFMACと重複する重複領域を成形するように並列し、当該重複領域においては、横筋が、隣接する他のNEFMACの横筋と重ならないようにずらした状態でNEFMACが覆工コンクリートの内壁面に展設される(認定事項1-2)、
h
補強構造(認定事項1-1)。」
第5 当審の判断
1 本件発明1と甲1発明との対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
(1)発明特定事項Aについて
甲1発明の「円弧状の内壁面に形成された覆工コンクリート」、「補強構造」は、それぞれ、本件発明1の「円弧状の内壁面に形成された覆工コンクリート」、「補強構造」に相当する。
また、甲1発明の「円弧状の内壁面に形成された覆工コンクリートを有するトンネル」と本件発明1の「内部に水が導入され、円弧状の内壁面に形成された覆工コンクリートに水圧が作用する導水路トンネル」とは、「円弧状の内壁面に形成された覆工コンクリートを有するトンネル」である点で共通する。
よって、甲1発明の「補強構造」と本件発明1の「補強構造」とは、発明特定事項Aにおける「円弧状の内壁面に形成された覆工コンクリートを有するトンネルの補強構造」である点で共通する。
(2)発明特定事項Bについて
甲1発明の「覆工コンクリートの内壁面上に展設した、鉄筋、PC鋼線代替材料としてのNEFMAC」は、本件発明1の「前記覆工コンクリートの内壁面上に展設した補強材」に相当する。
よって、甲1発明は、発明特定事項Bに相当する構成を含む。
(3)発明特定事項Cについて
甲1発明の「NEFMACを覆工コンクリートの内壁面上に固定する固定手段」は、本件発明1の「前記補強材を前記覆工コンクリート内壁面上に固定する固定手段」に相当する。
よって、甲1発明は、発明特定事項Cに相当する構成を含む。
(4)発明特定事項Dについて
甲1発明の「NEFMAC及び固定手段を覆工コンクリートの内壁面上に一体に埋設した被覆層」は、本件発明1の「前記補強材及び前記固定手段を前記覆工コンクリートの内壁面上に一体に埋設した被覆層」に相当する。
よって、甲1発明は、発明特定事項Dに相当する構成を含む。
(5)発明特定事項Eについて
上記(2)で述べたことから、甲1発明の「NEFMAC」は、本件発明1の「前記補強材」に相当する。
また、甲1発明の「横筋」、「縦筋」は、それぞれ、本件発明1の「第1帯体」、「第2帯体」に相当する。
また、甲1発明では、「NEFMACは、格子状に成形し横筋と縦筋との交点強度を確保することによって、縦筋は横筋で横筋は縦筋でそれぞれ付着をとって」いるから、技術常識を踏まえると、甲1発明の「NEFMAC」は、本件発明1の「前記補強材」と同様に、「並列配置した複数の第1帯体及び第2帯体を交差して格子状に形成」するといえる。
よって、甲1発明は本件発明1と、発明特定事項Eにおける「前記補強材は、並列配置した複数の第1帯体及び第2帯体を交差して格子状に形成」する点で共通する。
(6)発明特定事項Fについて
上記(1)で述べたことから、甲1発明の「覆工コンクリート」は、本件発明1の「前記覆工コンクリート」に相当し、また、甲1発明の「トンネル」は、本件発明1の「前記導水路トンネル」と、「トンネル」である点で共通する。
また、上記(2)で述べたことから、甲1発明の「NEFMAC」は、本件発明1の「前記補強材」に相当する。
また、上記(5)で述べたことから、甲1発明の「横筋」、「縦筋」は、それぞれ、本件発明1の「前記第1帯体」、「前記第2帯体」に相当する。
ここで、甲1発明では、「NEFMAC同士がトンネルの周方向に沿って並列し、この場合に、一方のNEFMACは、周方向に隣接する他のNEFMACと重複する重複領域を成形するように並列し、当該重複領域においては、横筋が、隣接する他のNEFMACの横筋と重ならないようにずらした状態でNEFMACが覆工コンクリートの内壁面に展設される」から、甲1発明は、本件発明1のように、「前記補強材を前記導水路トンネルの周方向に沿って並列する場合は、周方向に隣接する他の補強材と重複する重複領域を形成するように並列し、当該重複領域においては、前記第1帯体が、隣接する他の補強材の第1帯体と重ならないようにずらした状態で前記補強材が前記覆工コンクリートの内壁面に展設され」るといえる。
よって、甲1発明は本件発明1と、発明特定事項Fにおける「前記補強材を前記トンネルの周方向に沿って並列する場合は、周方向に隣接する他の補強材と重複する重複領域を形成するように並列し、当該重複領域においては、前記第1帯体が、隣接する他の補強材の第1帯体と重ならないようにずらした状態で前記補強材が前記覆工コンクリートの内壁面に展設され」る点で共通する。
(7)発明特定事項Hについて
甲1発明の「補強構造」は、本件発明1の「補強構造」に相当する。
よって、甲1発明は、発明特定事項Hに相当する構成を含む。
(8)一致点・相違点
上記(1)~(7)からみて、本件発明1と甲1発明とは、
「A’円弧状の内壁面に形成された覆工コンクリートを有するトンネルの補強構造であって、
B 前記覆工コンクリートの内壁面上に展設した補強材と、
C 前記補強材を前記覆工コンクリート内壁面上に固定する固定手段と、
D 前記補強材及び前記固定手段を前記覆工コンクリートの内壁面上に一体に埋設した被覆層とを備え、
E’前記補強材は、並列配置した複数の第1帯体及び第2帯体を交差して格子状に形成し、
F’前記補強材を前記トンネルの周方向に沿って並列する場合は、周方向に隣接する他の補強材と重複する重複領域を形成するように並列し、当該重複領域においては、前記第1帯体が、隣接する他の補強材の第1帯体と重ならないようにずらした状態で前記補強材が前記覆工コンクリートの内壁面に展設される、
H 補強構造。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点1(発明特定事項A)>
本件発明1と甲1発明とは、「円弧状の内壁面に形成された覆工コンクリートを有するトンネルの補強構造」である点で共通するものの、
本件発明1の「トンネル」は、「内部に水が導入され、円弧状の内壁面に形成された覆工コンクリートに水圧が作用する導水路トンネル」であるのに対し、
甲1発明の「トンネル」は、そのようなものであるのか明らかでない点。
<相違点2(発明特定事項E)>
本件発明1と甲1発明とは、「前記補強材は、並列配置した複数の第1帯体及び第2帯体を交差して格子状に形成」する点で共通するものの、
本件発明1では、「前記導水路トンネルの軸方向に沿って配設される前記第1帯体の軸剛性が、前記導水路トンネルの周方向に沿って配設される前記第2帯体の軸剛性より小さくなって」いるのに対し、
甲1発明では、そのように構成されているか明らかでない点。
<相違点3(発明特定事項F)>
本件発明1と甲1発明とは、「前記補強材を前記トンネルの周方向に沿って並列する場合は、周方向に隣接する他の補強材と重複する重複領域を形成するように並列し、当該重複領域においては、前記第1帯体が、隣接する他の補強材の第1帯体と重ならないようにずらした状態で前記補強材が前記覆工コンクリートの内壁面に展設され」ている点で共通するものの、
本件発明1では、「前記補強材を前記導水路トンネルの軸方向に沿って並列する場合は、軸方向に隣接する他の補強材と重複する領域を設けないように並列」するのに対し、
甲1発明では、そのように構成されているか明らかでない点。
<相違点4(発明特定事項G)>
本件発明1では、「前記補強材は、前記重複領域における前記第1帯体及び第2帯体の格子寸法が、前記重複領域ではない非重複領域の格子寸法より小さくなっている」のに対し、
甲1発明では、そのように構成されていない点。
2 本件発明1についての判断
(1)相違点4について
事案に鑑み、相違点4から検討する。
ア 甲9の記載事項
甲9には、次の事項が開示されている。
(ア)記載事項9-1(第67頁左欄~第68頁左欄)
「1.はじめに
鉄筋コンクリート(RC)床版の耐荷性能の向上には,これまで様々な工法が提案されている.その中で,軽量で,耐腐食性に優れ,引張強度が大きい連続繊維補強材を用いた補強工法に関する研究開発が多く実施されている.既往の研究においても1),これまでに,道路橋床版の補強を目的として,RCはりを用いた格子形状の炭素繊維の連続繊維補強材(以下,CFRPと称する)による下面増厚補強実験を実施してきた.……
実施工においては,CFRPが一体で用いられることは少なく,複数のCFRPを既設RC床版に設置し,継ぎ目部をもう一枚のCFRPで補った補強がなされることが多い.……
本研究では,1)CFRPの継手の有無および継手交点数がRCはりの下面増厚補強効果に及ぼす影響,2)繰返し荷重作用下における固定アンカーの種類(リベット,M-8アンカー)と本数がRCはりの下面増厚補強効果に及ぼす影響について,実験的に検討した結果を報告する.実験は2シリーズに分けて行い,Aシリーズは繰返し載荷の応力振幅を下面増厚補強したRCはりの引張鉄筋の応力度で140N/mm2を採り,CFRPの継手の有無と固定アンカーの種類が及ぼす影響を,Bシリーズでは応力振幅を180N/mm2に増加し,継手部の交点の数とリベットの数が及ぼす影響を,それぞれ主として検討している.」
(イ)記載事項9-2(第68頁)
「
[図:0001428006000003.jpg]
」
(ウ)記載事項9-3(第69頁左欄)
「表-1に試験体の種類を示す.試験体の要因は,Aシリーズでは,載荷試験方法,CFRPの継手の有無,アンカーの種類と本数である.Bシリーズでは,載荷試験方法,CFRPの継手の有無,継手交点数の相違,リベットの本数である.……
……CFRPの継手とそれを補強する継手用CFRPの相互配置を示したのが,写真-1である.また,図-2には,CFRPの継手の有無と交点およびリベット,M-8アンカーの設置位置と本数を示す.……」
(エ)記載事項9-4(第69頁右欄)
「
[図:0001428006000004.jpg]
」
(オ)記載事項9-5(第70頁)
「
[図:0001428006000005.jpg]
」
イ 甲9で開示された技術事項
(ア)甲9技術事項1
上記ア(ア)、(ウ)及び技術常識を踏まえると、上記ア(エ)から、甲9には、
「CFRPでは、左側のCFRPにおける継手と右側のCFRPにおける継手に、甲9技術事項CFRPを補強する継手用CFRPを重ねることで、これらが重なった部分の格子寸法を小さくすること。」(以下「甲9技術事項1」という。)
が開示されているといえる。
(イ)甲9技術事項2
上記ア(イ)及び(オ)から、甲9には、
「CFRPを補強する継手用CFRPにおける継手交点数を増加させることで、当該継手用CFRP全体の格子寸法を小さくすること。」(以下「甲9技術事項2」という。)
が開示されているといえる。
ウ 判断
(ア)甲1発明に甲9技術事項1を適用した場合
相違点4に係る本件発明1の構成は、補強材という一つの部品における格子寸法について、当該補強材における重複領域という部分の格子寸法が当該補強材における非重複領域という部分の格子寸法より小さいことを特定するものである。
これに対し、甲9技術事項1は、CFRPという部品における継手にCFRPを補強する継手用CFRPという部品を重ねることで、これらの部品が重なった部分の格子寸法を小さくすることであるから、複数の部品を重ねることによって格子寸法を小さくする技術である。
そうすると、相違点4に係る本件発明1の構成は一つの部品についての構成であるのに対して、甲9技術事項1は複数の部品についての構成である。
したがって、甲1発明に甲9技術事項1を適用することにより、相違点4に係る本件発明1の構成を導くことはできない。
(イ)甲1発明に甲9技術事項2を適用した場合
相違点4に係る本件発明1の構成は上記(ア)で述べたものであるのに対し、甲9技術事項2は、継手用CFRPという部品全体における継手交点数を増加させることで、当該継手用CFRP全体の格子寸法を小さくすることである。
そうすると、相違点4に係る本件発明1の構成は部品における一部分についての構成であるのに対して、甲9技術事項2は部品全体についての構成である。
したがって、甲1発明に甲9技術事項2を適用することにより、相違点4に係る本件発明1の構成を導くことはできない。
(ウ)甲1発明に甲3~8に開示された技術事項を適用した場合
申立人は、特許異議申立書において、甲3~8には次の技術事項が開示されている旨、主張する。
(甲3)
強化繊維シートを用いて導水路トンネルのコンクリートを補強する補強構造。
(甲4)
FRPグリットを導水路トンネルの補強筋として施工すること。
FRPグリットを基礎にとめて、上から特殊な繊維を混ぜたモルタル(ポリマーセメントモルタル)を塗ること。
トンネル軸方向の補強材の配設に重複部分を設けないこと。
(甲5)
トンネル軸方向の補強材の配設に重複部分を設けないこと。
(甲5~8)
並列配置した複数の第1帯体及び第2帯体を交差して格子状に形成した補強材について、一方の帯体と他方の帯体の軸剛性を異ならせること。
(甲6)
配力筋102が、複数層に束ねた第1連続繊維と当該第1連続繊維に含侵したマトリックス樹脂とで形成され、主筋101が、複数層に束ねた第2連続繊維と当該第2連続繊維に含侵した前記マトリックス樹脂とで形成され、主筋101及び配力筋102の交点において、前記第1連続繊維と前記第2連続繊維とが相互に積層して前記マトリックス樹脂によつて一体化されること。
(甲6)
配力筋102を形成する連続繊維を、主筋101を形成する連続繊維(炭素繊維)よりも弾性係数が小さい素材(ガラス繊維)とすること。
(甲6)
配力筋102を形成する連続繊維としてガラス繊維を採用し、主筋101を形成する連続繊維として炭素繊維を採用すること。
(甲5、8)
補強部材に用いられる連続繊維として、炭素繊維及びガラス繊維が例示されていること。
(甲8)
縦糸と横糸とで、幅や本数(すなわち断面積)を異ならせた同等な糸を用いることによって、(縦糸の引張剛性)/(横糸の引張剛性)=1.5~30を達成する、ネット状のコンクリー卜ひび割れ抑制材。
しかしながら、甲3~8にこれらの技術事項が開示されていたとしても、相違点4に係る本件発明1の構成を導くことはできない。
(2)小括
以上のとおり、相違点4に係る本件発明1の構成をなすことは、当業者が容易になし得たことであるとはいえないから、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1に記載された発明及び甲2~甲10の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
また、本件発明1の全ての構成を有する本件発明2~5も同様に、甲1に記載された発明及び甲2~甲10の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、本件特許の請求項1~5に係る特許は、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては取り消すことができない。
また、他に本件特許の請求項1~5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2025-700504