特許異議申立
2022-701257
シールドセグメントのグラウトホール用止水構造
- 審判番号
- 2022-701257
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-204307
- 登録番号
- 7097634
- 請求日
- 2022年12月16日
- 審決日
- 2023年04月06日
- 公報発行日
- 2023年05月26日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】早川ゴム株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人前田特許事務所
- 【異議申立人】藤下 万実
- 審判長/審判官
- 審判長 前川 慎喜
- 審判官 ▲高▼橋 祐介
- 審判官 澤田 真治
- 分類
- P1651.113-Y (E21D) / P1651.121-Y (E21D)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7097634号発明「シールドセグメントのグラウトホール用止水構造」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7097634号の請求項1~5に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7097634号の請求項1~5に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願は、令和2年12月9日に特許出願されたものであって、その後の手続の概要は、以下のとおりである。
令和 3年12月17日付け:拒絶理由通知
令和 4年 1月26日 :意見書及び手続補正書の提出
令和 4年 5月26日付け:特許査定
令和 4年 6月30日 :特許権の設定登録
令和 4年 7月 8日 :特許掲載公報発行
令和 4年12月16日 :特許異議の申立て(特許異議申立人藤下万実)
第2 本件特許発明
本件特許の請求項1~5に係る発明は、令和4年1月26日提出の手続補正書によって補正された特許請求の範囲に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下「本件特許発明1」等という。)。なお、AからJの記号は、分説するため合議体が付与した。以下A等を付した事項を「特定事項A」等という。
【請求項1】
A トンネルの支保工となるシールドセグメントに設けられているグラウト材注入用のグラウトホールを止水するシールドセグメントのグラウトホール用止水構造において、
B 前記シールドセグメントの内面で開口する前記グラウトホールの開口部よりも大きく形成され、当該開口部を閉塞可能な金属製の閉塞板と、
C 前記閉塞板と前記シールドセグメントとの間に配置されるゴム製の中間板と、
D 前記グラウトホールの開口部を閉塞する位置に配置された前記閉塞板を前記中間板と共に前記シールドセグメントに固定する固定部材とを備え、
E 前記中間板は、前記閉塞板における前記シールドセグメント側の面の中央部から周縁部まで連続して延びるとともに当該面に貼り付けられた状態で前記シールドセグメントの内面に接触するように配置されていることを特徴とする
A シールドセグメントのグラウトホール用止水構造。
【請求項2】
請求項1に記載のシールドセグメントのグラウトホール用止水構造において、
G 前記グラウトホールの開口部の周縁部には、シーリング材が配設されていることを特徴とするシールドセグメントのグラウトホール用止水構造。
【請求項3】
請求項2に記載のシールドセグメントのグラウトホール用止水構造において、
H 前記シーリング材は、水の吸収によって膨張する水膨張シーリング材であることを特徴とするシールドセグメントのグラウトホール用止水構造。
【請求項4】
請求項3に記載のシールドセグメントのグラウトホール用止水構造において、
I1 前記グラウトホールの内周面は、前記シールドセグメントの内面に近づくほど大径となるように傾斜した傾斜面を有しており、
I2 前記傾斜面と、前記シールドセグメントの内面との境界部分に、前記水膨張シーリング材が配設されていることを特徴とするシールドセグメントのグラウトホール用止水構造。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1つに記載のシールドセグメントのグラウトホール用止水構造において、
J 前記固定部材は、前記シールドセグメントに固定されるとともに前記中間板及び前記閉塞板を貫通するアンカーボルトと、前記アンカーボルトにおける前記閉塞板から突出した部分に螺合するナットとを有していることを特徴とするシールドセグメントのグラウトホール用止水構造。
第3 特許異議の申立てについて
特許異議申立人(以下「申立人」という。)は、下記甲第1号証から甲第4号証(以下、申立人が提出した各甲号証を「甲1」等と略して示す。)を提出した。
甲1:特開2020-159180号公報
甲2:特許第2605104号公報
甲3:特開2002-188395号公報
甲4:特開2020-159181号公報
そして、特許異議申立書(以下「申立書」という。)の第6頁から第7頁の「3 申立ての理由」「(3)申立ての根拠」の項、及び、第26頁の「(5)結び」の項に記載された条文に鑑み、申立理由を整理すると、以下の申立理由を申立人は主張している。
(1)申立理由1(新規性)
本件特許発明1、2及び5は、甲1記載の発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
(2)申立理由2(進歩性)
本件特許発明1~5は、甲1記載の発明、又は、甲1記載の発明及び甲2記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明1~5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(3)申立理由3(進歩性)
本件特許発明1~5は、甲2記載の発明及び甲3記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明1~5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
第4 当審合議体の判断
1 各甲号証の記載事項
(1)甲1に記載された事項及び甲1発明
ア 甲1に記載された事項
本件特許の出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1(特開2020-159180号公報)には、以下の事項が記載されている(下線は、合議体により付加した。以下同様)。
(ア)「【0001】
本発明は、セグメント用止水部材及びセグメント用止水構造に関する。」
(イ)「【0004】
特許文献1には、地中に形成されたコンクリート構造体の壁面等に発生したクラック等漏水部を補修するための地中コンクリート構造体の漏水部止水構造が開示されている。コンクリート構造体の表面には、表面に発生した漏水部を塞ぐパッキンが設けられ、かつパッキンの背面側には、少なくともパッキンと同等以上の寸法を有し、コンクリート構造体に先端部を埋設される複数本のアンカーボルトによって押圧される加圧板が設けられる。
【0005】
この地中コンクリート構造体の漏水部止水構造によれば、アンカーボルトに係止・押圧される加圧板によってパッキンがコンクリート構成体の表面に発生した漏水部に圧接・密着されることにより、漏水が確実に止水される。その場合、施工後、コンクリート構造体が種々の外力を受けてクラック(漏水部)の間隙が開くような状態となっても、パッキンがクラックの両側に強く密着されているものであるから、構造体内部への漏水を発生させることはない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第2605104号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記した地中コンクリート構造体の漏水部止水構造は、グラウト孔に適用すると、加圧板によってパッキンがグラウトプラグやグラウトプラグを覆うモルタル等に圧接・密着する。このため、グラウトプラグやグラウトプラグを覆うモルタル等の止水工が圧接力・密着力により割れる場合がある。このような不具合は、グラウトプラグが樹脂製であったり、パッキンが平板状の水膨張性材料であったりする場合に特に顕著となる。
【0008】
本発明は上記状況に鑑みてなされたもので、その目的は、従来構造に比べさらに高い止水性能を得ることができるセグメント用止水部材及びセグメント用止水構造を提供することにある。」
(ウ)「【0046】
以下、本発明に係る実施形態を図面を参照して説明する。
図1は本発明の実施形態に係るセグメント用止水構造に用いられるセグメント用止水部材11をセグメント13と共に表した分解斜視図である。
本実施形態に係るセグメント用止水部材11を用いたセグメント用止水構造は、シールドトンネル用のセグメント13のグラウト孔15に適用した場合の一例を説明する。セグメント用止水部材11を用いたセグメント用止水構造は、この他、セグメント13において止水性能を維持したい部分、例えば、セグメント同士を連結固定するためのボルトが貫通するボルトボックス等にも好適に用いることができる。
【0047】
図2は図1に示したセグメント用止水部材11の組付けられた状態の側断面図である。
本実施形態に係るセグメント用止水部材11は、シール部材17と、閉塞部材19と、固定部材21と、を主要な構成として有する。
【0048】
セグメント用止水部材11は、施工時(トンネル覆工時)に、モルタル23等の止水工が完了したグラウト孔15に対して二重に止水を行うために設けられる。なお、セグメント用止水部材11は、既設のグラウト孔15に対する追加の止水構造や、経年劣化などを起こした際の修復のための構造としても使用可能である。
【0049】
図3は図1に示したセグメント用止水構造が適用されるシールドトンネル25の断面図である。
シールドトンネル25は、構築する際に、掘削後にセグメント13を組み込み、セグメント同士を連結させて組み立て、その後、トンネル坑内27からセグメント13に形成されているグラウト孔15を通じてグラウトの注入作業を行う。これにより、地山29とセグメント外周面との隙間を塞ぐ。その後、グラウト孔15に、グラウトプラグ31が螺合される。グラウト孔15には、グラウトプラグ31を覆うモルタル23がさらに充填される。セグメント用止水部材11は、このモルタル23を覆って設けられる。
【0050】
シール部材17は、セグメント13の内面33に開口して地山29と通じる経路が止水構造で水密シールされる開口部35を包囲して環状に形成され、内面33に密着する。ここで、「地山29と通じる経路」とは、グラウト注入口を構成する注入管37の注入路等を言う。注入管37は、内面33でグラウト孔15となって開口する。「止水構造」とは、注入管37のグラウト孔15に螺合されるグラウトプラグ31、Oリング39、モルタル23等からなる構造を言う。厳密には、グラウト孔15は、内面33で拡径するテーパー穴41を有する。テーパー穴41には、内面33と略面一となるようにモルタル23が充填される。開口部35とは、「セグメント13を貫通し地山29から坑内27へと通ずる漏水発生可能箇所」と言うことができる。従って、本実施形態において、開口部35は、モルタル23が充填された後のテーパー穴41の拡径側となる。シール部材17は、このテーパー穴41の拡径側を包囲する。シール部材17は、防水リングとも称すことができる。
【0051】
シール部材17は、水膨張性ゴムからなる。水膨張性ゴムの材質としては、例えばクロロプレンゴムを用いることができる。シール部材17は、リング状に加工し、閉塞部材19に貼り付けてもよい。
【0052】
閉塞部材19は、シール部材17を挟んで、セグメント13の内面33の反対側で、シール部材17に密着する。閉塞部材19は、シール部材17より外側に張り出す周縁部43を有する。従って、閉塞部材19は、シール部材17を挟んで開口部35を覆う。本実施形態において、閉塞部材19は、セグメント13の内面33に沿う平板で形成される。
【0053】
固定部材21は、閉塞部材19の周縁部43に周方向の複数箇所で配置される。本実施形態において、固定部材21には、アンカーボルトが用いられる。固定部材21は、一端側がセグメント13に設けられた下孔に固着する。固定部材21は、他端側が周縁部43を貫通する。この固定部材21の他端側には、雄ねじ部が形成される。周縁部43を貫通した雄ねじ部には、ナット45が螺合される。これにより、固定部材21は、閉塞部材19と内面33とでシール部材17を挟持して閉塞部材19をセグメント13の内面33に固定する。」
(エ)「【0057】
本実施形態に係るセグメント用止水部材11では、環状に形成されて内面33に密着するシール部材17により、開口部35が包囲される。開口部35は、セグメント13の内面33に開口する。この開口部35は、地山29と通じる経路が止水構造で水密シールされている。」
(オ)「【0068】
セグメント用止水部材55では、成形材料が取り付けられる面、すなわち、セグメント13の内面33に合わせ、成形材料からなる閉塞部材57を、施工現場にて曲げ加工して使用することができる。例えば、セグメント13の内面33の曲率は様々なものがあり、施工現場にて、対応させる内面33の曲率に応じた曲率となる湾曲面で形成させる。
【0069】
成形材料としては、例えば剛性の高い金属板が挙げられる。金属板の素材としては、例えば防錆性、防食性の高いSUSが挙げられる。曲げ加工は、例えばローラーを用いた冷間曲げ加工とすることができる。その結果、シール部材17の変形量を全周囲で均等にでき、安定した止水性能を得ることができる。」
(カ)「【図1】
[図:0001397222000001.jpg]
」
(キ)「【図2】
[図:0001397222000002.jpg]
」
イ 甲1発明
上記アより、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認める。なお、a等の符号は、本件特許発明1等に概略対応させて分説するため合議体が付与した。
「a シールドトンネル用のセグメント13のグラウト孔15に適用したセグメント用止水部材11を用いる(【0046】)セグメント用止水構造であって(【0001】)、
セグメント用止水部材11は、シール部材17と、閉塞部材19と、固定部材21と、を構成として有し(【0047】)、セグメント13にグラウト孔15が形成され(【0049】)、グラウト孔15は、セグメント13の内面33で拡径するテーパー穴41を有し、テーパー穴41には、内面33と略面一となるようにモルタル23が充填され、モルタル23が充填された後のテーパー穴41の拡径側が開口部35とされ(【0050】)、
ce シール部材17は、セグメント13の内面33に開口して地山29と通じる経路が止水構造で水密シールされる開口部35を包囲して環状に形成され(【0050】)、水膨張性ゴムからなり(【0051】)、閉塞部材19に貼り付けられ(【0051】)、
b 閉塞部材19は、シール部材17を挟んで、セグメント13の内面33の反対側で、シール部材17に密着し、シール部材17より外側に張り出す周縁部43を有し、セグメント13の内面33に沿う平板で形成され(【0052】)、
d 固定部材21は、閉塞部材19の周縁部43に周方向の複数箇所で配置され、固定部材21には、アンカーボルトが用いられ、一端側がセグメント13に設けられた下孔に固着し、他端側が周縁部43を貫通し、この他端側には、雄ねじ部が形成され、周縁部43を貫通した雄ねじ部には、ナット45が螺合され、これにより、閉塞部材19と内面33とでシール部材17を挟持して閉塞部材19をセグメント13の内面33に固定する(【0053】)、
a セグメント用止水構造(【0001】)。」
ウ 甲1記載事項
上記ア(オ)より、甲1には、次の発明(以下「甲1記載事項」という。)が記載されていると認める。
「セグメント用止水部材55の閉塞部材57の成形材料として、金属板を用いる点。」
(2)甲2に記載された事項及び甲2発明
ア 甲2に記載された事項
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲2(特許第2605104号公報)には、以下の事項が記載されている。
(ア)「【発明の詳細な説明】
〔産業上の利用分野〕
本発明は、トンネル等地中に形成されたコンクリート構造体の壁面等に発生したクラック等漏水部を補修するための、地中コンクリート構造体の漏水部止水構造に関する。」(第2欄第11行-第3欄第1行)
(イ)「〔実施例〕
以下、本発明の実施例を図面を参照しながら説明する。
第1図は本発明の第1実施例を示すもので、上述の第7図等に示したものと同じ構成要素には同符号を付してその説明を省略する。
同図中符号5で示すものはクラックcをその長手方向、幅方向共に十分に覆うことのできる寸法を有したパッキンで、クラックcを塞ぐべく構造体1の表面(内面)1aに付設けられている。このパッキン5は、良好な弾性とコンクリート構造体表面の凹凸に十分馴染む厚さとを有したゴム製のもので、水膨張性を有したものであれば最適である。
前記パッキン5の背面側、すなわち前記コンクリート構造体の表面1aに当接した面と反対側の面には、少なくともパッキン5と同等以上の寸法を有する加圧板6がパッキン5を覆う如く設けられている。図示例のものでは、該加圧板6がパッキン5に対して大きく、端部がパッキン5より外方にはみ出るものとなっている。また、この加圧板6は本実施例においてはガラス繊維強化コンクリート(以下、“GRC"と称す)より構成したものとなっている。
前記加圧板6における幅方向両端付近には、それぞれ、複数のアンカ挿通孔6a,6a,…が、該加圧板6の長手方向にほぼ等間隔で2列に形成されており、それら各アンカ挿通孔6aにはアンカボルト8が挿通されている。ただし、これらアンカ挿通孔6aのうち一方の列(図において右側列)のものは、図示の如く加圧板6の幅方向に若干の長孔となるように形成されている。前記アンカボルト8の一端(先端)は前記コンクリート構造体1の表面1a側から構造体1内に埋設される一方、他端にはネジ部8aが形成され、このネジ部8aにナット9が螺合されている。そして、前記加圧板6は、座金10を介して該ナット9を締め付けることによりコンクリート構造体1側に押圧されたものとなっている。」(第4欄第35行-第5欄第19行)
(ウ)「さらに実施例のものでは、加圧板6をGRC製のものとしているため、耐食性・耐火性に優れながら高い剛性を有し、しかもGRCは、現場での切断加工等が容易であることに加え、構造体1と同種の材質であるため、補修後においても美観を大きく損なうことがない、等の効果を得ることができる。ただし、該加圧板6は上記の如くGRC製のものに限定されるものではなく、その他、鋼板、ステンレス板等で構成しても無論差し支えない。」(第6欄第21行-第28行)
(エ)「次に第3図は本発明の第3実施例を示すもので、上記第1、第2実施例に示したものと同じ構成要素には同符号を付してある。
本第3実施例のものでは、構造体1のクラックcの発生部に、構造体1の表面側より断面V字状を呈する溝15が前記クラックcの全長にわたり形成されるともに該溝15には粘弾性を有するコーキング材16が充填されたものとなっている。その他の構成は、上記第1実施例のものとほぼ同一構成である。ただし、図示例のものでは、パッキン5が加圧板6と同寸法となっており、従って、パッキン5にもアンカボルト8を貫通させるためのアンカ挿通孔5aが形成されたものとなっている。」(第7欄第10行-第21行)
(オ)「【第3図】
[図:0001397222000003.jpg]
」
(カ)上記(エ)の記載を踏まえ、第3図より、パッキン5は、板状の部材であることが看取できる。
イ 甲2発明
上記アより、甲2には、次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認める。
「c クラックcをその長手方向、幅方向共に十分に覆うことのできる寸法を有した板状のゴム製のパッキン5を、クラックcを塞ぐべくコンクリート構造体1の表面(内面)1aに付設し((イ)、(カ))、
b 前記パッキン5の背面側、すなわち前記コンクリート構造体の表面1aに当接した面と反対側の面には、前記パッキン5と同寸法の加圧板6が前記パッキン5を覆う如く設けられ、該加圧板6は鋼板、ステンレス板等で構成され((イ)、(ウ)、(エ))、
d 前記加圧板6における幅方向両端付近には、それぞれ、複数のアンカ挿通孔6a,6a,…が、該加圧板6の長手方向にほぼ等間隔で2列に形成されており、それら各アンカ挿通孔6aにはアンカボルト8が挿通され((イ))、
e 前記アンカボルト8の一端(先端)は前記コンクリート構造体1の表面1a側から構造体1内に埋設される一方、他端にはネジ部8aが形成され、このネジ部8aにナット9が螺合され、前記加圧板6は、座金10を介して該ナット9を締め付けることによりコンクリート構造体1側に押圧されたものとなっている((イ))、
a トンネル等地中に形成されたコンクリート構造体の壁面等に発生したクラック等漏水部を補修するための地中コンクリート構造体の漏水部止水構造((ア))。」
(3)甲3に記載された事項
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲3(特開2002-188395号公報)には、以下の事項が記載されている。
(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、トンネル覆工用コンクリートセグメントのグラウトホールに関するものである。」
(イ)「【0012】
【発明の実施の形態】以下、この発明のグラウトホールを図示する一実施形態によって説明する。グラウトホール1は、図1~図3に示すように、内外面に多条ネジ2aとして略一定肉厚のネジ山部を形成しているネジ山付き合成樹脂管2と、このネジ山付き合成樹脂管2の一端の内面に螺合している合成樹脂栓3と、ネジ山付き合成樹脂管2の他端の内面に螺合している逆止弁4とからなる合成樹脂組立て体5を、合成樹脂栓3がコンクリートセグメント6の内面側になるように、コンクリートセグメント6の厚さ方向に沿って埋設し、雌ネジ管を有する空洞として形成している。」
(ウ)「【0025】また、このコンクリートセグメント6の組立てを行った後は組立て用吊り金具を取外すが、すぐにグラウトホール1へ裏込め材(図示せず)を注入する場合以外は、合成樹脂製栓3を再びネジ山付き合成樹脂管2に螺合して取付けて、グラウトホール1に栓をすることになる。」
(エ)上記(ア)から(ウ)より、甲3には、以下の事項(以下「甲3記載事項」という。)が記載されていると認める。
「内外面に多条ネジ2aとして略一定肉厚のネジ山部を形成しているネジ山付き合成樹脂管2と、このネジ山付き合成樹脂管2の一端の内面に螺合している合成樹脂栓3と、ネジ山付き合成樹脂管2の他端の内面に螺合している逆止弁4とからなる合成樹脂組立て体5を、コンクリートセグメント6の厚さ方向に沿って埋設し、雌ネジ管を有する空洞として形成し(【0012】)、コンクリートセグメント6の組立てを行った後に、合成樹脂製栓3をネジ山付き合成樹脂管2に螺合して取付けて、グラウトホール1に栓をした(【0025】)トンネル覆工用コンクリートセグメントのグラウトホール(【0001】)。」
(4)甲4に記載された事項
本件特許の出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲4(特開2020-159181号公報)には、以下の事項が記載されている。
(ア)「【0001】
本発明は、目地状部分の止水部材及び目地状部分の止水構造に関する。」
(イ)「【0045】
以下、本発明に係る実施形態を図面を参照して説明する。
図1は本発明の実施形態に係る目地状部分の止水構造に用いられる目地状部分の止水部材11を構造体13と共に表した分解斜視図である。
本実施形態に係る目地状部分の止水部材11を用いた目地状部分の止水構造は、コンクリート構造体の表面15に経年劣化などで生じたヒビ17に適用した場合の一例を説明する。目地状部分の止水部材11を用いた目地状部分の止水構造は、この他、構造体13おいて止水性能を維持したい部分、例えば、防火水槽や貯水槽などのコンクリート製水槽、コンクリート擁壁や斜面などの壁構造体等にも好適に用いることができる。
【0046】
図2は図1に示した目地状部分の止水部材11の組付けられた状態の平断面図である。
本実施形態に係る目地状部分の止水部材11は、シール部材19と、閉塞部材21と、固定部材23と、を主要な構成として有する。
【0047】
シール部材19は、構造体13の表面15に開口して漏水の出口となる目地状部分を包囲して環状に形成され、構造体13の表面15に密着する。ここで、「目地状部分」とは、構造体13の表面15に開口する目地25(図3)やヒビ17などの連続した線状の隙間部分を言う。本実施形態では、目地状部分が、ヒビ17である。ヒビ17からは、構造体13の表面15と反対側の背面が臨む貯水域や地山に繋がる「みずみち」を伝う漏水が流れ出る、若しくは流れ出る可能性を有している。
【0048】
シール部材19は、水膨張性ゴムからなる。水膨張性ゴムの材質としては、例えばクロロプレンゴムを用いることができる。シール部材19は、リング状に形成される。シール部材19は、閉塞部材21に貼り付けてもよい。
【0049】
本実施形態において、目地状部分の止水部材11は、閉塞部材21が、構造体13の表面15に沿う平らな板状部材である。すなわち、閉塞部材21が構造体13の表面15に沿う平板で形成されている。
【0050】
閉塞部材21は、シール部材19を挟んで、構造体13の表面15の反対側で、シール部材19に密着する。閉塞部材21は、シール部材19より外側に張り出す周縁部27を有する。従って、閉塞部材21は、シール部材19を挟んでヒビ17を覆う。
【0051】
固定部材23は、閉塞部材21の周縁部27に周方向の複数箇所で配置される。本実施形態において、固定部材23は、アンカーからなる。アンカーは、アンカー本体29と、ナット31とからなる。アンカー本体29は、構造体13の表面15に穿設された下穴33に挿入固定される。固定部材23は、一端側が構造体13に設けられた下孔に固着する。固定部材23は、他端側が周縁部27を貫通する。この固定部材23の他端側には、雄ねじ部が形成される。周縁部27を貫通した雄ねじ部には、ナット31が螺合される。これにより、固定部材23は、閉塞部材21と構造体13の表面15とでシール部材19を挟持して閉塞部材21を構造体13の表面15に固定する。」
(ウ)「【図2】
[図:0001397222000004.jpg]
」
(エ)上記(ア)から(ウ)より、甲4には、以下の事項(以下「甲4記載事項」という。)が記載されていると認める。
「コンクリート構造体の表面15に経年劣化などで生じたヒビ17に適用した目地状部分の止水部材11を用いる(【0045】)止水構造であって(【0001】)、
目地状部分の止水部材11は、シール部材19と、閉塞部材21と、固定部材23と、を構成として有し(【0046】)、
シール部材19は、構造体13の表面15に開口して漏水の出口となる目地状部分を包囲して環状に形成され(【0047】)、水膨張性ゴムからなり(【0048】)、シール部材19は、閉塞部材21に貼り付けられ(【0048】)、
閉塞部材21は、シール部材19を挟んで、構造体13の表面15の反対側で、シール部材19に密着し、閉塞部材21は、シール部材19より外側に張り出す周縁部27を有し(【0050】)、
固定部材23は、閉塞部材21の周縁部27に周方向の複数箇所で配置され、固定部材23は、アンカーからなり、アンカーは、アンカー本体29と、ナット31とからなり、固定部材23は、一端側が構造体13に設けられた下孔に固着し、他端側が周縁部27を貫通し、この他端側には、雄ねじ部が形成され、周縁部27を貫通した雄ねじ部には、ナット31が螺合され、これにより、固定部材23は、閉塞部材21と構造体13の表面15とでシール部材19を挟持して閉塞部材21を構造体13の表面15に固定する(【0051】)、
目地状部分の止水構造(【0001】)。」
2 検討
(1)申立理由1について
ア 対比
申立理由1を検討するにあたって、本件特許発明1と甲1発明との対比を行う。
(ア)本件特許発明1の特定事項Aに関して
甲1発明のaにおける「シールドトンネル用のセグメント13」は、トンネルの支保工となることは技術常識であるから、本件特許発明1の特定事項Aにおける「トンネルの支保工となるシールドセグメント」に相当する。
また、甲1発明のaにおける「セグメント13のグラウト孔15」は、本件特許発明1の特定事項Aにおける「シールドセグメントに設けられているグラウト材注入用のグラウトホール」に相当する。
そして、甲1発明のaにおける「セグメント用止水構造」は、本件特許発明1の特定事項Aにおける「シールドセグメントのグラウトホール用止水構造」に相当する。
してみると、甲1発明のaにおける「シールドトンネル用のセグメント13のグラウト孔15に適用したセグメント用止水部材11を用いる」「セグメント用止水構造」は、本件特許発明1の特定事項Aにおける「トンネルの支保工となるシールドセグメントに設けられているグラウト材注入用のグラウトホールを止水するシールドセグメントのグラウトホール用止水構造」に相当する。
よって、甲1発明は、本件特許発明1の特定事項Aに相当する構成を有する。
(イ)本件特許発明1の特定事項Bに関して
甲1発明のaにおける「セグメント13の内面33で拡径するテーパー穴41」「の拡径側とされ」る「開口部35」は、本件特許発明1の特定事項Bにおける「前記シールドセグメントの内面で開口する前記グラウトホールの開口部」に相当する。
また、甲1発明のbにおいて「閉塞部材19」は、「シール部材17より外側に張り出す周縁部43を有」する点が特定されており、甲1発明はceにおいて「シール部材17」が、「止水構造で水密シールされる開口部35を包囲して環状に形成され」たものである点が特定されていることから、本件特許発明1の特定事項Bにおける「前記シールドセグメントの内面で開口する前記グラウトホールの開口部よりも大きく形成され、当該開口部を閉塞可能な金属製の閉塞板」と、甲1発明のb及びceにおける「開口部35を包囲して環状に形成され」た「シール部材17より外側に張り出す周縁部43を有」した「閉塞部材19」とは、シールドセグメントの内面で開口する前記グラウトホールの開口部よりも大きく形成され、当該開口部を閉塞可能な閉塞板である点で一致する。
(ウ)本件特許発明1の特定事項Cに関して
甲1発明のceにおける「セグメント13の内面33に開口して地山29と通じる経路が止水構造で水密シールされる開口部35を包囲して環状に形成され」る「シール部材17」は、「セグメント13の内面33」の「開口部35を包囲」するものであるから、「セグメント13の内面33」に設けられるものであり、「シール部材17」が「閉塞部材19に貼り付けられ」ていることを勘案すると、「シール部材17」は、「閉塞部材19」と「セグメント13の内面33」との間に存在すると認められ、さらに、「シール部材17」は、「水膨張性ゴムからな」ることから、本件特許発明1の特定事項Cにおける「前記閉塞板と前記シールドセグメントとの間に配置されるゴム製の中間板」と、甲1発明のceにおける「シール部材17」とは、閉塞板とシールドセグメントとの間に配置されるゴム製の部材である点で一致する。
(エ)本件特許発明1の特定事項Dに関して
甲1発明は、bにおいて「閉塞部材19は、シール部材17を挟んで、セグメント13の内面33の反対側で、シール部材17に密着」する点が特定され、ceにおいて「シール部材17は、」「開口部35を包囲して環状に形成され」る点が特定されていることから、「閉塞部材19は、」「開口部35」を閉塞する位置に配置されるものであると認められる。
したがって、甲1発明のb及びceにおける「開口部35を包囲して環状に形成され」る「シール部材17を挟んで、セグメント13の内面33の反対側で、シール部材17に密着」する「閉塞部材19」は、本件特許発明1の構成Dにおける「前記グラウトホールの開口部を閉塞する位置に配置された前記閉塞板」に相当する。
また、甲1発明のdにおける「固定部材21」は、「閉塞部材19の周縁部43に周方向の複数箇所で配置され、」「閉塞部材19と内面33とでシール部材17を挟持して閉塞部材19をセグメント13の内面33に固定する」ものであるから、本件特許発明1の特定事項Dにおける「前記グラウトホールの開口部を閉塞する位置に配置された前記閉塞板を前記中間板と共に前記シールドセグメントに固定する固定部材」と、甲1発明のdにおける「固定部材21」とは、閉塞板をゴム製の部材と共にシールドセグメントに固定する固定部材である点で一致する。
よって、甲1発明と本件特許発明1の特定事項Dとは、グラウトホールの開口部を閉塞する位置に配置された閉塞板をゴム製の部材と共にシールドセグメントに固定する固定部材を備える点で一致する。
(オ)本件特許発明1の特定事項Eに関して
甲1発明のceにおける「シール部材17」は、「閉塞部材19に貼り付けられ」ていることから、本件特許発明1の特定事項Eにおける「前記中間板は、前記閉塞板における前記シールドセグメント側の面の中央部から周縁部まで連続して延びるとともに当該面に貼り付けられた状態で前記シールドセグメントの内面に接触するように配置されている」ことと、甲1発明のceにおける「シール部材17は、」「閉塞部材19に貼り付けられ」て「開口部35を包囲して環状に形成され」ることとは、ゴム製の部材は、閉塞板におけるシールドセグメント側の面に貼り付けられた状態でシールドセグメントの内面に接触するように配置されている点で一致する。
(カ)一致点及び相違点
上記(ア)から(オ)より、本件特許発明1と甲1発明とは、以下の点で一致する。
<一致点>
A トンネルの支保工となるシールドセグメントに設けられているグラウト材注入用のグラウトホールを止水するシールドセグメントのグラウトホール用止水構造において、
B’前記シールドセグメントの内面で開口する前記グラウトホールの開口部よりも大きく形成され、当該開口部を閉塞可能な金属製の閉塞板と、
C’前記閉塞板と前記シールドセグメントとの間に配置されるゴム製の部材と、
D’前記グラウトホールの開口部を閉塞する位置に配置された前記閉塞板を前記ゴム製の部材と共に前記シールドセグメントに固定する固定部材とを備え、
E’ 前記ゴム製の部材は、前記閉塞板における前記シールドセグメント側の面に貼り付けられた状態で前記シールドセグメントの内面に接触するように配置されている
A シールドセグメントのグラウトホール用止水構造。
そして、以下の点で両者は相違する。
<相違点1> (本件特許発明1の特定事項Bに関して)
閉塞板に関して、本件特許発明1は、閉塞板が金属製であるのに対して、甲1発明では、その点が不明である点。
<相違点2> (本件特許発明1の特定事項C、D及びEに関して)
閉塞板とシールドセグメントとの間に配置されるゴム製の部材に関して、本件特許発明1は、当該ゴム製の部材が「ゴム製の中間板」であり、「前記中間板は、前記閉塞板における前記シールドセグメント側の面の中央部から周縁部まで連続して延びる」ものであるのに対して、甲1発明は、ゴム製の部材が開口部35を包囲して環状に形成されたシール部材17である点。
イ 判断
事案に鑑みて上記相違点2について検討する。
本件特許発明1と甲1発明とは、閉塞板とシールドセグメントとの間に配置されるゴム製の部材の形状が異なり、その形状を変更することが、設計上の微差であるとはいえないことから、本件特許発明1の上記相違点2に係る構成は、実質的な相違点であると認められる。
してみると、本件特許発明1と甲1発明とは、実質的な相違点が存在するから、本件特許発明1は、甲1発明ではない。
また、本件特許発明2及び本件特許発明5は、本件特許発明1に、さらに構成要件を加えたものであるから、本件特許発明1と同様に、甲1発明ではない。
ウ 小括
したがって、本件特許発明1、2及び5は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえない。
(2)申立理由2について
ア 対比
上記1において検討したとおり、本件特許発明1と甲1発明とは、上記相違点1及び2において相違する。
イ 相違点2についての検討
(ア)甲1発明に基づく容易性について
上記(1)イにおいて検討したように、本件特許発明1と甲1発明とは、閉塞板とシールドセグメントとの間に配置されるゴム製の部材の形状が異なるものである。
そして、その形状を、開口部を包囲する環状に形成されたものから、シールドセグメント側の面の中央部から周縁部まで連続して延びる形状のもの変更することについての示唆は、甲1には何ら記載されていないことから、本件特許発明1の上記相違点2に係る構成を、甲1発明に基づいて当業者が容易に想到し得るものとは認められない。
してみると、本件特許発明1の他の相違点に係る構成について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1発明に基づいて当業者が容易に想到し得るものとは認められない。
また、本件特許発明2~5は、本件特許発明1に、さらに構成要件を加えたものであるから、本件特許発明1と同様に、甲1発明に基づいて当業者が容易に想到し得るものとは認められない。
(イ)甲1発明及び甲2発明に基づく容易性について
甲2には、上記1(2)イに示した甲2発明が記載されている。
そして、甲2発明のc及びbにおける「クラックcをその長手方向、幅方向共に十分に覆うことのできる寸法を有し」「加圧板6」と「同寸法」の「板状のゴム製のパッキン5」は、本件特許発明1の上記相違点2に係る構成における「中央部から周縁部まで連続して延びる」「ゴム製の中間板」に相当する。
そこで、甲2発明における「クラックcをその長手方向、幅方向共に十分に覆うことのできる寸法を有し」「加圧板6」と「同寸法」の「板状のゴム製のパッキン5」を、甲1発明に適用することが容易か否かについて検討すると、甲2発明は、「コンクリート構造体の表面15に経年劣化などで生じたヒビ17に適用した目地状部分の止水部材11を用いる」「止水構造」に関するものであって、本件特許発明1の「シールドセグメントのグラウトホール用止水構造」とは異なり、また、甲1及び甲2の記載を参照しても、甲1発明におけるシールドセグメントとの間に配置されるゴム製の部材の形状を、開口部を包囲する環状に形成されたものから、シールドセグメント側の面の中央部から周縁部まで連続して延びる形状のものに変更することの動機となり得る記載は存在しない。
反対に、甲1は、甲2を先行技術文献として示し、加えて、甲2に記載された「地中コンクリート構造体の漏水部止水構造」に関して、上記1(1)ア(イ)に示した【0007】において、「上記した地中コンクリート構造体の漏水部止水構造は、グラウト孔に適用すると、加圧板によってパッキンがグラウトプラグやグラウトプラグを覆うモルタル等に圧接・密着する。このため、グラウトプラグやグラウトプラグを覆うモルタル等の止水工が圧接力・密着力により割れる場合がある。このような不具合は、グラウトプラグが樹脂製であったり、パッキンが平板状の水膨張性材料であったりする場合に特に顕著となる。」と記載されていることから、甲2発明をそのままグラウト孔の止水構造に適用すると、「グラウトプラグやグラウトプラグを覆うモルタル等の止水工が圧接力・密着力により割れる場合があ」り、不具合が発生するすることがある旨が記載されており、そのままグラウト孔に適用することについての否定的な記載が存在する。
してみると、甲2発明を甲1発明に適用する動機は見いだせず、甲2発明を甲1発明に適用することによって、本件特許発明1の上記相違点2に係る構成を成すことは、甲1及び甲2に記載された事項を参酌しても、当業者にとって容易とはいえない。
したがって、本件特許発明1の他の相違点に係る構成について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1発明及び甲2発明に基づいて当業者が容易に想到し得るものとは認められない。
また、本件特許発明2~5は、本件特許発明1に、さらに構成要件を加えたものであるから、本件特許発明1と同様に、甲1発明及び甲2発明に基づいて当業者が容易に想到し得るものとは認められない。
ウ 小括
したがって、本件特許発明1~5は、甲1発明、又は、甲1発明及び甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでない。
(3)申立理由3について
ア 対比
申立理由3を検討するにあたって、本件特許発明1と甲2発明との対比を行う。
(ア)本件特許発明1の特定事項Aに関して
甲2発明のaにおける「トンネル等地中に形成されたコンクリート構造体の壁面等に発生したクラック等漏水部を補修するための地中コンクリート構造体の漏水部止水構造」は、「トンネル等」とトンネルが例示されていることから、本件特許発明1の特定事項Aにおける「シールドセグメントのグラウトホール用止水構造」とは、トンネルにおける止水すべき構造体の止水構造である点で共通する。
(イ)本件特許発明1の特定事項Bに関して
甲2発明のcにおける「クラックc」は漏水部を生じ得る止水すべき対象であると認められるから、本件特許発明1の特定事項Bにおける「シールドセグメントの内面で開口する」「グラウトホールの開口部」と、甲2発明のcにおける「クラックc」とは、止水すべき対象である点で両者は共通する。
また、甲2発明のbにおける「鋼板、ステンレス板等で構成され」た「加圧板」は、b及びcにおいて「クラックcをその長手方向、幅方向共に十分に覆うことのできる寸法を有した板状のゴム製のパッキン5」と「同寸法」である点が特定されていることから、特許発明1の特定事項Bにおける「前記シールドセグメントの内面で開口する前記グラウトホールの開口部よりも大きく形成され、当該開口部を閉塞可能な金属製の閉塞板」と、甲2発明のbにおける「加圧板」とは、止水すべき対象よりも大きく形成され、当該対象を閉塞可能な金属製の閉塞板である点で一致する。
(ウ)本件特許発明1の特定事項Cに関して
甲2発明のbにおける「コンクリート構造体1」は止水すべき構造体といえるから、本件特許発明1の特定事項Cにおける「シールドセグメント」と、甲2発明のcにおける「コンクリート構造体1」とは、止水すべき構造体である点で共通する。
また、甲2発明のbにおける「板状のゴム製のパッキン5」は、本件特許発明1の特定事項Cにおける「ゴム製の中間板」に相当する。
そして、甲2発明のbにおける「コンクリート構造体の表面1aに当接した面と反対側」に「加圧板6が」「覆う如く設けられ」ることは、「コンクリート構造体の表面1a」と「加圧板6」との間に「板状のゴム製のパッキン5」が設けられることであると認められる。
よって、本件特許発明1の特定事項Cにおける「前記閉塞板と前記シールドセグメントとの間に配置されるゴム製の中間板」と、甲2発明のbにおける「コンクリート構造体の表面1aに当接した面と反対側」に「加圧板6が」「覆う如く設けられ」る「板状のゴム製のパッキン5」とは、閉塞板と止水すべき構造体との間に配置されるゴム製の中間板である点で一致する。
(エ)本件特許発明1の特定事項Dに関して
甲2発明のc、b及びdにおける「板状のゴム製のパッキン5を、クラックcを塞ぐべく構造体1の表面(内面)1aに付設し」、「前記パッキン5の」「前記コンクリート構造体の表面1aに当接した面と反対側の面に」「設け」た「加圧板6における幅方向両端付近に」「長手方向にほぼ等間隔で2列に形成され」た「複数のアンカ挿通孔」に「挿通され」る「アンカボルト8」及び「アンカボルト8」の「他端」に「螺合され」る「ナット9」は、「加圧板6」と「板状のゴム製のパッキン5」を「クラックcを塞ぐべく」固定するためのものである。
よって、本件特許発明1の特定事項Dにおける「前記グラウトホールの開口部を閉塞する位置に配置された前記閉塞板を前記中間板と共に前記シールドセグメントに固定する固定部材」と、甲2発明のdにおける「アンカボルト8」及び「ナット9」は、止水すべき対象を閉塞する位置に配置された閉塞板を中間板と共に止水すべき構造体に固定する固定部材である点で一致する。
(オ)本件特許発明1の特定事項Eに関して
甲2発明のc及びbにおける「板状のゴム製のパッキン5」が「クラックcをその長手方向、幅方向共に十分に覆うことのできる寸法を有」し、「クラックcを塞ぐべく構造体1の表面(内面)1aに付設し」、「加圧板6が」「前記パッキン5と同寸法」であることは、「クラックcをその長手方向、幅方向共に十分に覆うことのできる寸法」の「パッキン5」は、「クラックc」を連続的に覆うものであるから、本件特許発明1の特定事項Eにおける「前記中間板は、前記閉塞板における前記シールドセグメント側の面の中央部から周縁部まで連続して延びる」ことと、甲2発明のc及びbにおける「板状のゴム製のパッキン5」が「クラックcをその長手方向、幅方向共に十分に覆うことのできる寸法を有」し、「クラックcを塞ぐべく構造体1の表面(内面)1aに付設し」、「加圧板6が」「前記パッキン5と同寸法」であることとは、中間板は、閉塞板における止水すべき構造体側の面の中央部から周縁部まで連続して延びる点で一致する。
また、甲2発明のcにおける「パッキン5を、クラックcを塞ぐべく構造体1の表面(内面)1aに付設」することは、「パッキン5」を「構造体1の表面(内面)1a」に接触させることは明らかであるから、本件特許発明1の特定事項Eにおける「前記中間板は、」「前記閉塞板における前記シールドセグメント側の」「面に貼り付けられた状態で前記シールドセグメントの内面に接触するように配置されていること」と、甲2発明のcにおける「パッキン5を、クラックcを塞ぐべく構造体1の表面(内面)1aに付設」することとは、中間板は、止水すべき構造体の内面に接触するように配置されている点で一致する。
(カ)一致点及び相違点
上記(ア)から(オ)より、本件特許発明1と甲2発明とは、以下の点で一致する。
<一致点>
A’止水すべき構造体の止水構造において、
B’止水すべき対象よりも大きく形成され、当該対象を閉塞可能な金属製の閉塞板と、
C’前記閉塞板と前記止水すべき構造体との間に配置されるゴム製の中間板と、
D’前記止水すべき対象を閉塞する位置に配置された前記閉塞板を前記中間板と共に前記止水すべき構造体に固定する固定部材とを備え、
E’前記中間板は、前記閉塞板における前記止水すべき構造体側の面の中央部から周縁部まで連続して延びるとともに当該面に貼り付けられた状態で前記止水すべき構造体側の面に接触するように配置されている
A’ トンネルにおける止水すべき構造体の止水構造。
そして、以下の点で両者は相違する。
<相違点3> (本件特許発明1の特定事項AからEに関して)
止水すべき構造体及び止水すべき対象に関して、本件特許発明1は、止水すべき構造体がトンネルの支保工となるシールドセグメントであり、止水すべき対象がシールドセグメントに設けられ、前記シールドセグメントの内面で開口するグラウト材注入用のグラウトホールの開口部であるのに対して、甲2発明は、止水すべき構造体が地中コンクリート構造体であり、止水すべき対象がクラックcである点。
イ 判断
上記相違点3について検討する。
甲3には、上記1(3)(エ)に示した甲3記載事項が記載されている。
そして、甲3記載事項における「コンクリートセグメント6」は、本件特許発明1の上記相違点3に係る構成における「トンネルの支保工となるシールドセグメント」に相当し、甲3記載事項における「グラウトホール」は、本件特許発明1の上記相違点3に係る構成における「シールドセグメントに設けられ、前記シールドセグメントの内面で開口するグラウト材注入用のグラウトホールの開口部」に相当する。
そこで、甲2発明を、甲3記載事項である「トンネル覆工用コンクリートセグメントのグラウトホール」に適用することが容易であるか否かについて検討すると、甲2には、甲2発明を「トンネル覆工用コンクリートセグメントのグラウトホール」に適用し得るものであることは記載されておらず、また、甲3には、「トンネル覆工用コンクリートセグメントのグラウトホール」に、止水のための構成が必要である旨の記載は存在しないことから、甲2及び甲3の記載を参酌しても、甲2発明を、甲3記載事項である「トンネル覆工用コンクリートセグメントのグラウトホール」に適用するための動機は見いだせず、本件特許発明1が、甲2発明及び甲3記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
また、本件特許発明2~5は、本件特許発明1に、さらに構成要件を加えたものであるから、本件特許発明1と同様に、甲2発明及び甲3記載事項に基づいて当業者が容易に想到し得るものとは認められない。
ウ 小括
したがって、本件特許発明1~5は、甲2発明及び甲3記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでない。
3 申立人の主張について
ア 申立理由1及び2に関して
(ア)申立人の主張の概要
申立人は、甲1の背景技術に関する記載である【0004】及び【0005】に着目し、甲1の【0006】に先行技術文献として引用された「地中コンクリート構造体の漏水部止水構造」の発明が記載された「特許第2605104号公報」を甲2として示し、甲1の【0007】における「上記した地中コンクリート構造体の漏水部止水構造は、グラウト孔に適用すると、・・・」の記載に基づいて、甲2に記載された「地中コンクリート構造体の漏水部止水構造」が「グラウト孔に適用」される場合を想定し、甲1に記載された発明を以下のように認定している。
「特許第2605104号公報に記載される地中コンクリート構造体の漏水部止水構造を、グラウト孔に適用した構造であって、
具体的には、
シールドトンネルにおいて、その内側に組み立てられるセグメントに穿設される、グラウトを注入するためのグラウト孔の止水工であって、
表面に発生した漏水部を塞ぐ平板状のパッキンが設けられ、かつパッキンの背面側には、少なくともパッキンと同等以上の寸法を有し、コンクリート構造体に先端部を埋設される複数本のアンカーボルトによって押圧される加圧板が設けられ、アンカーボルトに係止・押圧される加圧板によってパッキンがコンクリート構成体の表面に発生した漏水部に圧接・密着される構造。」(以下「申立人甲1発明」という。)
その上で、本件特許発明1と申立人甲1発明との対比を行い、相違点を、以下のように認定している。
相違点1:本件特許発明1の閉塞板は金属製である(構成要件B)が、甲1発明では記載が無い点
相違点2:本件特許発明1の中間板はゴム製である(構成要件C)が、甲1発明では記載が無い点
そして、上記各相違点に関して、甲2には、閉塞板が金属製である旨、及び、パッキンがゴム製である旨が記載され、申立人甲1発明は甲2に記載された事項をグラウト孔に適用したものであるから、申立人甲1発明における閉塞板が金属製であること、及び、パッキンをゴム製とすることは、甲1に記載されているに等しく、本件特許発明1は甲1に記載された発明であるか、または、甲1及び甲2から容易推考できる旨を主張している。
(イ)申立人の主張の検討
甲1の【0007】には、上記2(2)イ(イ)において検討したように、甲2発明をグラウト孔の止水構造にそのまま適用することについての否定的な記載がされており、甲2発明をグラウト孔の止水構造にそのまま適用すると不具合が発生する場合が想定されることから、甲1における「上記した地中コンクリート構造体の漏水部止水構造は、グラウト孔に適用すると、・・・」との記載が存在することに基づいて、甲2発明をそのままグラウト孔の止水構造に適用した発明である申立人甲1発明が想定できたとしても、申立人甲1発明は、課題の解決が十分に実現できないものであり、加えて、甲1には、申立人甲1発明の実質的な構成が何ら記載されていない。
してみると、申立人甲1発明は、甲1に実質的には記載されていない発明である。
したがって、甲1に実質的に記載されていない申立人甲1発明に基づいた新規性及び進歩性に関する申立人の主張は採用できない。
イ 申立理由3に関して
(ア)申立人の主張の概要
申立人は、甲2に記載された発明を以下のように認定している。
「トンネル等地中に形成されたコンクリート構造体の壁面に発生した漏水部を補修するための漏水部止水構造であって、
表面に発生した漏水部を塞ぐ平板状のゴム製のパッキンが設けられ、かつパッキンの背面側には、少なくともパッキンと同等以上の寸法を有し、コンクリート構造体に先端部を埋設される複数本のアンカーボルトによって押圧される、鋼板又はステンレス板で構成された加圧板が設けられ、アンカーボルトに係止・押圧される加圧板によってパッキンがコンクリート構成体の表面に発生した漏水部に圧接・密着される止水構造。」(以下「申立人甲2発明」という。)
その上で、本件特許発明1と申立人甲2発明との対比を行い、相違点を、以下のように認定している。
相違点3:本件特許発明1はトンネルの支保工となるシールドセグメントに設けられているグラウト材注入用のグラウトホールを止水する止水構造(構成要件A)であり、開口部がグラウトホールの開口部(構成要件B,D)であるが、甲2発明ではトンネル等地中に形成されたコンクリート構造体の壁面に発生した漏水部がグラウトホールにおける漏水部であることの記載が無い点
そして、トンネル完成時には、完全な止水工がなされていても、長期経過すると漏水することは、自明な課題または容易に着想し得る課題であった旨を主張するとともに、申立人甲2発明は、トンネルの壁面に発生した漏水部に対する止水構造であり、具体的には、クラックについて説明されているが、クラックに限定されていない旨を主張し、その根拠として、甲4に記載のクラックに対する止水構造は、甲1に記載のグラウトホールに対する止水構造と全く同じである点を挙げ、このことは、当業者は、クラックに対する止水構造をそのままグラウトホールに適用することを示し、トンネルの壁面の漏水に対する止水構造は、漏水がクラックによるものであってもグラウトホールの劣化によるものであっても、同様に適用できる旨を主張している。
(イ)申立人の主張の検討
甲2には、トンネルの壁面に発生した漏水部として、シールドセグメントのグラウトホールは記載されていない。
ここにおいて、申立人は、甲4を示し、甲4に記載されたクラックに対する止水構造は、甲1発明であるグラウトホールに対する止水構造と全く同じ構造であるから、クラックに対する止水構造をグラウトホールに適用することは当業者が通常行い得るものである旨を主張しているが、そのことは、甲1発明をクラックに対する止水構造に適用可能であることの根拠となり得たとしても、クラックに対する止水構造である甲2発明を、グラウトホールの止水構造として適用可能であることの根拠とはならないと認められる。
してみると、申立理由3についての申立人の主張も採用できない。
4 まとめ
したがって、本件特許発明1、2及び5は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえず、また、本件特許発明1~5は、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえないので、本件特許発明1~5に係る特許は、同法第113条第2号に該当せず、申立理由1、2及び3によっては取り消すことはできない。
第5 むすび
以上のとおり、申立理由1、2及び3にはいずれも理由がなく、特許異議申立の理由及び証拠によっては、本件特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって結論のとおり決定する。
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2022-701257