特許異議申立
2021-700018
コンクリート構造物の剥落防止構造及びその施工方法
- 審判番号
- 2021-700018
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2016-175328
- 登録番号
- 6721238
- 請求日
- 2021年01月07日
- 審決日
- 2022年10月24日
- 公報発行日
- 2023年01月27日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】株式会社シクソン
- 【権利者代理人】弁理士法人英知国際特許商標事務所
- 【異議申立人】渋谷 都
- 審判長/審判官
- 審判長 長井 真一
- 審判官 住田 秀弘
- 審判官 土屋 真理子
- 分類
- P1651.121-YAA(E21D) / P1651.537-YAA(E21D)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6721238号発明「コンクリート構造物の剥落防止構造及びその施工方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6721238号の明細書、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、2、3、4、5、6について訂正することを認める。
特許第6721238号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6721238号(以下「本件特許」という。)の請求項1ないし4に係る特許についての出願は、平成28年9月8日に出願され、令和2年6月22日にその特許権の設定登録がされ、同年7月8日に特許掲載公報が発行された。その特許についての本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和 3年 1月 7日 :特許異議申立人 渋谷都(以下「申立人」と
いう。)による請求項1~4に係る特許に対
する特許異議の申立て
令和 3年 4月12日付け:取消理由通知書
令和 3年 6月14日 :特許権者による訂正の請求及び意見書の提出
令和 3年 8月16日 :申立人による意見書の提出
令和 3年12月 3日付け:訂正拒絶理由通知書
令和 3年12月24日 :特許権者による意見書及び手続補正書(訂正
請求書)の提出
令和 4年 4月 1日付け:取消理由通知書(決定の予告)
令和 4年 5月31日 :特許権者による訂正の請求及び意見書の提出
令和 4年 8月 3日 :申立人による意見書の提出
なお、令和4年5月31日にされた訂正の請求により、令和3年6月14日にされた先の訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。
第2 訂正の請求について
1 訂正事項
令和4年5月31日になされた訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。)は、本件特許の明細書および特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、2、3、4、5、6について訂正することを求めるものであって、その内容(以下「本件訂正」という。)は以下のとおりである。(下線は訂正箇所を示す。)
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「前記透過層は、不燃性及び透過性並びに硬化性を有する液剤が、前記網状体に含侵した状態で硬化されてなる」と記載されているのを、「前記透過層は、不燃性及び透過性を有し、並びに、硬化性を有する液剤が、前記網状体に含侵した状態で硬化されてなる」に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に「請求項1記載のコンクリート構造物の剥落防止構造」とあるのを、独立項形式に改め、
「 コンクリート構造物の表面に該表面を視認可能な透光性を備えて積層された透過層と、前記透過層内に介在するように積層された網状体とを備え、前記透過層は、不燃性及び透過性を有し、並びに、硬化性を有する液剤が、前記網状体に含侵した状態で硬化されてなることを特徴とするコンクリート構造物の剥落防止構造であり、
前記液剤がシランカップリング剤であることを特徴とするコンクリート構造物の剥落防止構造」に訂正する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に請求項1を引用するところの「請求項2記載のコンクリート構造物の剥落防止構造」とあるのを、独立項形式に改め、
「 コンクリート構造物の表面に該表面を視認可能な透光性を備えて積層された透過層と、前記透過層内に介在するように積層された網状体とを備え、前記透過層は、不燃性及び透過性を有し、並びに、硬化性を有する液剤が、前記網状体に含侵した状態で硬化されてなることを特徴とするコンクリート構造物の剥落防止構造であり、
前記液剤がシランカップリング剤であり、
前記シランカップリング剤が、アルコキシシランを主成分とするものであることを特徴とするコンクリート構造物の剥落防止構造。」に訂正する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に「請求項1乃至3いずれか1項記載のコンクリート構造物の剥落防止構造の施工方法」とあるうち、請求項1を引用するものについて、独立項形式に改め、
「 コンクリート構造物の表面に該表面を視認可能な透光性を備えて積層された透過層と、前記透過層内に介在するように積層された網状体とを備え、前記透過層は、不燃性及び透過性を有し、並びに、硬化性を有する液剤が、前記網状体に含侵した状態で硬化されてなることを特徴とするコンクリート構造物の剥落防止構造の施工方法であって、
前記コンクリート構造物の表面に前記液剤を塗布する下塗り工程と、下塗り面に前記網状体を被着する被着工程と、前記網状体に被せるように前記下塗り面に前記液剤を塗布する上塗り工程とを備えていることを特徴とするコンクリート構造物の剥落防止構造の施工方法。」に訂正する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項4に「請求項1乃至3いずれか1項記載のコンクリート構造物の剥落防止構造の施工方法」とあるうち、請求項1を引用するところの請求項2を引用するものについて、独立項形式に改め、新たな請求項5とし、
「 コンクリート構造物の表面に該表面を視認可能な透光性を備えて積層された透過層と、前記透過層内に介在するように積層された網状体とを備え、前記透過層は、不燃性及び透過性を有し、並びに、硬化性を有する液剤が、前記網状体に含侵した状態で硬化されてなることを特徴とするコンクリート構造物の剥落防止構造の施工方法であって、
前記液剤がシランカップリング剤であり、
前記コンクリート構造物の表面に前記液剤を塗布する下塗り工程と、下塗り面に前記網状体を被着する被着工程と、前記網状体に被せるように前記下塗り面に前記液剤を塗布する上塗り工程とを備えていることを特徴とするコンクリート構造物の剥落防止構造の施工方法。」に訂正する。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項4に「請求項1乃至3いずれか1項記載のコンクリート構造物の剥落防止構造の施工方法」とあるうち、請求項1を引用する請求項2をさらに引用するところの請求項3を引用するものについて、独立項形式に改め、新たな請求項6とし、
「 コンクリート構造物の表面に該表面を視認可能な透光性を備えて積層された透過層と、前記透過層内に介在するように積層された網状体とを備え、前記透過層は、不燃性及び透過性を有し、並びに、硬化性を有する液剤が、前記網状体に含侵した状態で硬化されてなることを特徴とするコンクリート構造物の剥落防止構造の施工方法であって、
前記液剤がシランカップリング剤であり、
前記シランカップリング剤が、アルコキシシランを主成分とするものであり、
前記コンクリート構造物の表面に前記液剤を塗布する下塗り工程と、下塗り面に前記網状体を被着する被着工程と、前記網状体に被せるように前記下塗り面に前記液剤を塗布する上塗り工程とを備えていることを特徴とするコンクリート構造物の剥落防止構造の施工方法。」に訂正する。
(7)訂正事項7
明細書の【0011】に、
「コンクリート構造物の表面に該表面を視認可能な透光性を備えて積層された透過層と、前記透過層内に介在するように積層された網状体を備え、前記透過層は、不燃性及び透過性並びに硬化性を有する液剤が、前記網状体に含侵した状態で硬化されてなることを特徴とするコンクリート構造物の剥落防止構造にしたことである。」と記載されているのを、
「コンクリート構造物の表面に該表面を視認可能な透光性を備えて積層された透過層と、前記透過層内に介在するように積層された網状体を備え、前記透過層は、不燃性及び透過性を有し、並びに、硬化性を有する液剤が、前記網状体に含侵した状態で硬化されてなることを特徴とするコンクリート構造物の剥落防止構造にしたことである。」に訂正する。
2 訂正の適否の判断
(1)訂正事項1
ア 訂正の目的
訂正前の請求項1に記載された「前記透過層は、不燃性及び透過性並びに硬化性を有する液剤が、前記網状体に含侵した状態で硬化されてなること」との記載は、不燃性及び透過性を有するものが透過層であるのか液剤であるか不明であるところ、訂正事項1は、不燃性及び透過性が透過層が有するものであることを明確にしたものであるから、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。
イ 特許請求の範囲の拡張・変更
訂正事項1は、上記アのとおり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるから、特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではない。
ウ 新規事項
本件特許の明細書の段落【0027】の「このような剥落防止構造Aによると、網状体3が介在された透過層2が表面10に積層されることによって、コンクリート構造物1を補強することができると共に、剥落しようとするコンクリート片を透過層2で保持することができ、且つ透過層2を介して表面10の状態を視認することができる。その上、トンネル内で自動車事故による火災が発生した場合でも、不燃性の透過層2に燃え移らないため、火災の被害を抑制することができる。」との記載からみて、不燃性及び透過性を有するものは透過層であるから、訂正事項1は願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「特許明細書等」という。)のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものであって、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
(2)訂正事項2
訂正事項2は、訂正前の請求項2が請求項1の記載を引用するものであったところ、上記訂正事項1により訂正された請求項1の記載を引用する請求項2を独立項形式に改める訂正であるから、「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とし、さらに上記(1)アで説示した「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。
そして、上記の目的を踏まえると、訂正事項2は、特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではなく、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであることは明らかである。
(3)訂正事項3
訂正事項3は、訂正前の請求項3が、請求項1の記載を引用する請求項2の記載を引用するものであったところ、上記訂正事項1により訂正された請求項1の記載を引用する請求項2の記載をさらに引用する請求項3を独立項形式に改める訂正であるから、「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とし、さらに上記(1)アで説示した「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。
そして、上記の目的を踏まえると、訂正事項3は、特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではなく、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであることは明らかである。
(4)訂正事項4
訂正事項4に係る訂正は、訂正前の請求項4が請求項1乃至3の記載を引用するものであったところ、上記訂正事項1により訂正された請求項1の記載を引用する請求項4を独立項形式に改める訂正であるから、「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とし、さらに上記(1)アで説示した「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。
そして、上記の目的を踏まえると、訂正事項4は、特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではなく、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであることは明らかである。
(5)訂正事項5
訂正事項5に係る訂正は、訂正前の請求項4が請求項1乃至3の記載を引用するものであったところ、上記訂正事項1により訂正された請求項1の記載を引用する請求項2の記載をさらに引用する請求項4を独立項形式に改める訂正であるから、「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とし、さらに上記(1)アで説示した「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。
そして、上記の目的を踏まえると、訂正事項5は、特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではなく、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであることは明らかである。
(6)訂正事項6
訂正事項6に係る訂正は、訂正前の請求項4が請求項1乃至3の記載を引用するものであったところ、上記訂正事項1により訂正された請求項1の記載を引用する請求項2の記載を引用する請求項3の記載をさらに引用する請求項4を独立項形式に改める訂正であるから、「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とし、さらに上記(1)アで説示した「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。
そして、上記の目的を踏まえると、訂正事項6は、特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではなく、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであることは明らかである。
(7)訂正事項7
訂正事項7は、請求項1が訂正事項1により訂正されたことに伴い、明細書の記載を訂正後の請求項1の記載に整合させる訂正であるから、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであり、特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではなく、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであることは明らかである。
(8)訂正の単位について
訂正前の請求項1~4について、請求項2~4は請求項1の記載を直接又は間接的に引用するものであるところ、請求項1に係る訂正により、請求項2~4についても同様に訂正するものであるから、訂正前の請求項1~4に対応する訂正後の請求項1~6は、一群の請求項について請求するものである。
なお、特許権者は、訂正後の請求項1~6について、当該請求項についての訂正が認められる場合は、一群の請求項の他の請求項とは別途訂正することを求めている。
3.むすび
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号または第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、明細書、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、2、3、4、5、6について訂正することを認める。
第3 訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1ないし6に係る発明(以下「本件訂正発明1」ないし「本件訂正発明6」といい、全体の発明を「本件訂正発明」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
コンクリート構造物の表面に該表面を視認可能な透光性を備えて積層された透過層と、前記透過層内に介在するように積層された網状体とを備え、前記透過層は、不燃性及び透過性を有し、並びに、硬化性を有する液剤が、前記網状体に含侵した状態で硬化されてなることを特徴とするコンクリート構造物の剥落防止構造。
【請求項2】
コンクリート構造物の表面に該表面を視認可能な透光性を備えて積層された透過層と、前記透過層内に介在するように積層された網状体とを備え、前記透過層は、不燃性及び透過性を有し、並びに、硬化性を有する液剤が、前記網状体に含侵した状態で硬化されてなることを特徴とするコンクリート構造物の剥落防止構造であり、
前記液剤がシランカップリング剤であることを特徴とするコンクリート構造物の剥落防止構造。
【請求項3】
コンクリート構造物の表面に該表面を視認可能な透光性を備えて積層された透過層と、前記透過層内に介在するように積層された網状体とを備え、前記透過層は、不燃性及び透過性を有し、並びに、硬化性を有する液剤が、前記網状体に含侵した状態で硬化されてなることを特徴とするコンクリート構造物の剥落防止構造であり、
前記液剤がシランカップリング剤であり、
前記シランカップリング剤が、アルコキシシランを主成分とするものであることを特徴とするコンクリート構造物の剥落防止構造。
【請求項4】
コンクリート構造物の表面に該表面を視認可能な透光性を備えて積層された透過層と、前記透過層内に介在するように積層された網状体とを備え、前記透過層は、不燃性及び透過性を有し、並びに、硬化性を有する液剤が、前記網状体に含侵した状態で硬化されてなることを特徴とするコンクリート構造物の剥落防止構造の施工方法であって、
前記コンクリート構造物の表面に前記液剤を塗布する下塗り工程と、下塗り面に前記網状体を被着する被着工程と、前記網状体に被せるように前記下塗り面に前記液剤を塗布する上塗り工程とを備えていることを特徴とするコンクリート構造物の剥落防止構造の施工方法。
【請求項5】
コンクリート構造物の表面に該表面を視認可能な透光性を備えて積層された透過層と、前記透過層内に介在するように積層された網状体とを備え、前記透過層は、不燃性及び透過性を有し、並びに、硬化性を有する液剤が、前記網状体に含侵した状態で硬化されてなることを特徴とするコンクリート構造物の剥落防止構造の施工方法であって、
前記液剤がシランカップリング剤であり、
前記コンクリート構造物の表面に前記液剤を塗布する下塗り工程と、下塗り面に前記網状体を被着する被着工程と、前記網状体に被せるように前記下塗り面に前記液剤を塗布する上塗り工程とを備えていることを特徴とするコンクリート構造物の剥落防止構造の施工方法。
【請求項6】
コンクリート構造物の表面に該表面を視認可能な透光性を備えて積層された透過層と、前記透過層内に介在するように積層された網状体とを備え、前記透過層は、不燃性及び透過性を有し、並びに、硬化性を有する液剤が、前記網状体に含侵した状態で硬化されてなることを特徴とするコンクリート構造物の剥落防止構造の施工方法であって、
前記液剤がシランカップリング剤であり、
前記シランカップリング剤が、アルコキシシランを主成分とするものであり、
前記コンクリート構造物の表面に前記液剤を塗布する下塗り工程と、下塗り面に前記網状体を被着する被着工程と、前記網状体に被せるように前記下塗り面に前記液剤を塗布する上塗り工程とを備えていることを特徴とするコンクリート構造物の剥落防止構造の施工方法。」
第4 取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
令和3年6月14日にされた訂正の請求により訂正された請求項1ないし4に係る特許に対して、当審が令和4年4月1日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の概要は、次のとおりである。
(1)(進歩性)請求項1ないし4に係る発明は、本件特許の出願前に頒布された引用文献1ないし引用文献3に記載された発明または技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(2)(サポート要件)請求項1ないし4に係る特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36項第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
〔引用文献〕
引用文献1:特開2011-169085号公報
引用文献2:「透明性防汚性塗料「GAF」」カタログ、朝日電材株式会社
、平成28年3月
引用文献3:「橋梁構造物設計要領 コンクリート片剥落防止編」、首都高
速道路株式会社、平成18年8月
第5 当審の判断
1 証拠の記載
(1)引用文献1
本件特許の出願前に頒布された引用文献1には、図面と共に以下の事項が記載されている。(下線は当審で付した。以下、同様。)
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明はコンクリート構造物表面の強化コーティング方法及びコンクリート構造物の強化コーティング構造、並びに強化コンクリート構造物に関する。詳しくは、コンクリート構造物表面のひび割れの発生やその進展、剥落防止を目的としたコンクリート構造物表面の強化コーティング方法及びコンクリート構造物の強化コーティング構造、並びに強化コンクリート構造物に係るものである。
【背景技術】
【0002】
コンクリート構造物では、施工後から時間の経過に伴いその表面にヘアークラック等のひび割れが発生することがある。
そのため、例えばトンネルの覆工壁コンクリートなどの長期にわたって高い安全性を確保することが必須であり、剥落などの事故が許されないコンクリート構造物等においては、定期的にひび割れ発生の有無やその程度、経時変化等の監視が行われている。
【0003】
ここで、ひび割れが発見され、発見されたひび割れに対処する必要があると判断された場合には、構造物の補修が行われることとなる。また、構造物の耐震性能を向上させることを目的として補強が行われることもある。」
イ 「【0007】
ここで、特許文献1に記載の方法では、コンクリート表面を被覆する劣化したモルタルを除去清掃しており、その除去作業は極めて大変である。
また、遮水シート部材として、ポリスチレン系の不織布層及び不織布層の上部に形成したポリプロピレン系の不透水性シート層を一体形成しているが、こうした遮水シートではコンクリートの補強が充分ではない。
【0008】
更に、コンクリート構造物の表面を補修や補強を行った後にも、構造物の経時変化の監視を継続する必要がある場合も多いのであるが、従来のいずれの表面補修補強工法(アラミド繊維シートをエポキシ樹脂により含浸接着させて補強する工法が一般的である)においてもその監視を簡易な方法によって行うことはできていなかった。即ち、補修や補強を行ったコンクリート構造物の表面は不透明なコーティング剤やシート部材などの補強層によって覆われており、外部からコンクリート構造物の素地の状態を目視によって観察することが困難であった。
そのため、こうした従来の表面補修補強工法による補強層で覆われたコンクリート構造物では、素地の状態を外部から目視によって観察する際には表面に施された既存の補強層の一部を除去し、素地を露出させるための点検用窓を形成する必要があった。
【0009】
しかし、コンクリート構造物の素地の状態を観察するための点検用窓が形成されると、その部分の強度が低下してしまうといった懸念や、点検用窓の部分が補強層の劣化の起点となり得るという懸念があった。
【0010】
こうした点に鑑みて、特許文献2では、コンクリート構造物表面に透明ポリウレタン樹溶液を塗り付けた後にガラス連続繊維シートを貼着し、その上から透明ポリウレタン樹脂溶液を塗り付けてガラス連続繊維シートに含浸させ、これを乾燥させることで固化させて透明または半透明のコーティング層を形成するコンクリート構造物表面の強化コーティング方法が提案されている。
【0011】
そして、こうした技術によって、コンクリート構造物の表面を補強することができると共に、補強されたコンクリート構造物の素地の状態を外部から目視によって観察することができる。
【0012】
なお、特許文献2に記載されたガラス連続繊維シートとしては、繊維糸(ヤーン)を0°、±45°及び90°に配列して格子状に組み合わせ、同一箇所で4本の繊維糸(ヤーン)が交差する様に編み込まれたものが開示されている。」
ウ 「【発明が解決しようとする課題】
【0014】
ところで、コンクリート構造物の素地の表面状態をより鮮明に目視で確認したいというニーズが現に存在し、更なる改良が求められている。
【0015】
本発明は以上の点に鑑みて創案されたものであって、より一層鮮明にコンクリート構造物の素地の表面状態を外部から目視することが可能であるコンクリート構造物表面の強化コーティング方法及びコンクリート構造物の強化コーティング構造、並びに強化コンクリート構造物を提供することを目的とするものである。」
エ 「【発明の効果】
【0025】
本発明のコンクリート構造物表面の強化コーティング方法及びコンクリート構造物の強化コーティング構造、並びに強化コンクリート構造物では、ガラス連続繊維シートの薄膜化が実現し、より一層鮮明にコンクリート構造物の素地の表面状態を外部から目視することが可能となる。」
オ 「【0028】
<1.第1の実施の形態>
[強化コンクリート構造の説明]
図1は本発明を適用した強化コンクリート構造の一例を説明するための模式図であり、ここで示す強化コンクリート構造物1は、コンクリート構造物2と、コンクリート構造物2の表面に透明ポリウレタン樹脂3を介して貼着されたガラス連続繊維シート4と、ガラス連続繊維シート4を封止する透明ポリウレタン樹脂5と、ファイナルコーティングとしての透明ポリウレタン樹脂6を備える。
【0029】
なお、透明ポリウレタン樹脂3、ガラス連続繊維シート4及び透明ポリウレタン樹脂5、6で構成される構造が、コンクリート構造物の強化コーティング構造の一例であり、透明(半透明)を呈している。また、透明ポリウレタン樹脂5は樹脂材料の一例である。
【0030】
コンクリート構造物2は、例えば、トンネル、橋桁、橋脚、ボックスカルバート、建築建物等が挙げられる。
【0031】
透明ポリウレタン樹脂3、5、6としては、例えば、Liquid Plastics Limited(LPL)社製の「デカサンクリアグレイズ」(英国登録商標)が挙げられる。
【0032】
ここで、「デカサンクリアグレイズ」は、無色透明の脂肪族ポリウレタンコーティング剤であり、その塗膜は耐久性に富み、建物を効果的に水分の浸透から守り、セメント・コンクリートの中性化を防ぐことができる。また、透明でウェット感のある美しい光沢性を有する仕上がりを実現でき、黄ばむことがない。更に、一液性で化学反応を起こしにくい脂肪族であり、優れた接着力、加水分解が起こりにくい性質、ブラシまたはローラーにより簡単に塗布可能であり、熱や紫外線に強く年中施工可能であり、部分補修が簡単であるといった特徴を有するものである。」
カ 「【0035】
ガラス連続繊維シート4は、補強用繊維シートとして機能するもので耐薬品性、耐久性に優れており、図2で示す様に、平帯状のガラス繊維糸が縦横斜めに編み込まれた構造となっている。具体的には、ガラス繊維糸が横方向に配置された第1のガラス繊維11と、ガラス繊維糸が斜め方向(第1のガラス繊維を構成するガラス繊維糸と45度の角度をなす方向)に配置された第2のガラス繊維12と、ガラス繊維糸が縦方向に配置された第3のガラス繊維13と、ガラス繊維糸が斜め方向(第1のガラス繊維を構成するガラス繊維糸を135度の角度をなす方向)に配置された第4のガラス繊維14が編み込まれた構造となっている。」
キ 「【0041】
[製造方法]
以下、上記の様に構成された強化コンクリート構造の製造方法について説明を行う。即ち、本発明を適用したコンクリート構造物の強化コーティング方法の一例について説明を行う。
【0042】
本発明を適用したコンクリート構造物の強化コーティング方法の一例では、先ず、コーティングを施すコンクリート構造物2の表面の汚れ(ここでの汚れには劣化した素地をも含む)を、水を高圧で吹き付けて洗浄を行ったり、ワイヤブラシで擦りケレンにより除去したりする等の下地処理を行う(図3(a)参照)。
【0043】
次に、下地処理を施したコンクリート構造物の表面にプライマーをローラー刷毛等の適切な道具を用いて均一に塗布する(図3(b)参照)。なお、プライマーとしては、無溶剤型エポキシ樹脂系プライマー(例えば、アイカ工業株式会社製の商品名「クリーンコートEXプライマー」)等を使用することができる。
・・・
【0046】
次に、プライマーを塗布したコンクリート構造物2の表面に、ハンドローラ等を用いて透明ポリウレタン樹脂3を塗布する(図3(c)参照)。なお、透明ポリウレタン樹脂3の塗布は樹脂液が垂れ落ちない程度にコンクリート構造物2の表面に均一に行う必要がある。
【0047】
ここで、コンクリート構造物2に塗布したプライマー層が白化した場合には、プライマー施工面をサンドペーパー等で目荒らしを行い、シンナー拭きした後に透明ポリウレタン樹脂を塗布する。
【0048】
続いて、塗布した透明ポリウレタン樹脂3が固化する前に、ガラス連続繊維シート4を貼着する(図3(d)参照)。なお、透明ポリウレタン樹脂3は30分~1時間程度で固化するために、ガラス連続繊維シート4はそれ以前に貼着する必要がある。
【0049】
次に、コンクリート構造物2に貼着したガラス連続繊維シート4の上にハンドローラ等を用いて透明ポリウレタン樹脂を塗り付けることで、ガラス連続繊維シート4に透明ポリウレタン樹脂を充分に含浸させ、その後1時間以上乾燥させる(図3(e)参照)。
【0050】
ここで、透明ポリウレタン樹脂を含浸する前のガラス連続繊維シート4は白色であるが、透明ポリウレタン樹脂を含浸することで透明(半透明)となり、これを乾燥して透明ポリウレタン樹脂を固化することで透明または半透明を呈することとなる。
【0051】
その後、ファイナルコーティングとして更に透明ポリウレタン樹脂6を塗り付けてこれを乾燥し固化することによって(図3(f)参照)、図1に示す強化コンクリート構造を得ることができる。」
ク 上記アないしキからみて、引用文献1には次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているものと認める。
「コンクリート構造物2と、コンクリート構造物2の表面に透明ポリウレタン樹脂3を介して貼着された、平帯状のガラス繊維糸が縦横斜めに編み込まれた構造となっているガラス連続繊維シート4と、ガラス連続繊維シート4を封止する透明ポリウレタン樹脂5と、ファイナルコーティングとしての透明ポリウレタン樹脂6を備える強化コンクリート構造物1において、
プライマーを塗布したコンクリート構造物2の表面に、ハンドローラ等を用いて透明ポリウレタン樹脂3を塗布し、
塗布した透明ポリウレタン樹脂3が固化する前に、ガラス連続繊維シート4を貼着し、
次に、ガラス連続繊維シート4の上にハンドローラ等を用いて透明ポリウレタン樹脂を塗り付けることで、ガラス連続繊維シート4に透明ポリウレタン樹脂を充分に含浸させ、その後1時間以上乾燥させ、
その後、ファイナルコーティングとして更に透明ポリウレタン樹脂6を塗り付けてこれを乾燥し固化することによって得ることできる、
コンクリート構造物の素地の表面状態をより鮮明に目視で確認して、
コンクリート構造物表面のひび割れの発生やその進展、剥落防止を目的としたコンクリート構造物表面の強化コーティング方法。」
(2)引用文献2
本件特許の出願前に頒布された引用文献2には、図面とともに以下の事項が記載されている。
ア 「●透明性防汚性「GAF」
GAF Series 透明+防汚性
Transparent Antifouling Paint」(1枚目最上段)
イ 「「GAFシリーズ」の塗膜が素材をコーティングし、様々な外部刺激(雨・紫外線・排気ガス等)からブロックします。
常温乾燥にてガラス質のほぼ完全な無機質の塗膜を形成する塗料(GAF-01A:2液湿気硬化型塗料)を中心に、有機/無機のハイブリット塗料や、無溶剤型や水性タイプなど無機の特性を活かした各種塗料をシリーズ化しています。
・非常に高硬度な薄膜を形成し、耐摩耗性などに優れております。
・不燃性であり、火災時の有毒ガス発生もありません。
・気体・液体の不透過性に優れ、防錆効果も抜群です。
・耐薬品性・耐候性に優れ酸性雨にも強く、塗膜の高い劣化防止効果もあります。
・超撥水性で離型性が高く、落書き防止や張り紙防止などにも非常に高い効果があります。」(上段の「特徴・効果」の欄)
ウ 「◎無機塗料(GAF-01A,02A)について
塗料材料に使用しているポリオルガノシロキサンを硬化させた塗膜は各ユニットのバランス設計により、表面付近にDユニット、内部にTユニット・Qユニットが集まった構造となる。」(中段左の「防汚塗料のしくみ」の欄)
エ 下段右側の「用途例/採用例」の表に以下の記載がある。
「石造物」に、
「劣化防止コーティングとして有効」と記載され、
「ビル 大型構造物」に、
「汚れ防止・長期光沢保持・劣化防止
美観維持やメンテナンス・コストの大幅削減などが可能」と記載され、
「道路関係(トンネル・壁紙・橋梁)」に、
「長期安定性の確保による素材保護
メンテナンスの回数の減少
ブラシ清掃での摩耗防止などの効果を発揮」と記載されている。
オ 「●このカタログの制作は平成28年3月です。」(最下段左側)
カ 上記アないしオからみて、引用文献2には次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されているものと認める。
「ガラス質のほぼ完全は無機質の塗膜を形成する塗料2液湿気硬化型塗料により形成した非常に高硬度な塗膜であって、
塗料材料に使用しているポリオルガノシロキサンを硬化させたものであり、
素材をコーティングし、様々な外部刺激(雨・紫外線・排気ガス等)からブロックし、
透明及び不燃性であり、
耐候性に優れ、塗膜の高い劣化防止効果があり、
トンネルに使用される、
塗膜。」
また、引用文献2(「透明性防汚性「GAF」」のカタログ)が本件特許の出願前に頒布されたことからみて、硬化後に上記引用発明2の塗膜の構成を備える、無機塗料(GAF-01A,02A)(以下「引用文献2無機塗料」という。)は、本件特許の出願前に公然実施されたものと認める。
(3)引用文献3
本件特許の出願前に頒布された引用文献3には、図面とともに以下の事項が記載されている。
ア 「4.剥落防止工
4.1剥落防止工に要求する性能
剥落防止工は以下に示す性能を有していなければならない。
・・・(中略)・・・
5)火災に対する安全性
トンネル内に適用する場合については、火災の発生に対して十分な安全性があること.」(7頁1~13行)
2 進歩性について
(1)本件訂正発明1について
ア 対比
本件訂正発明1と引用発明1を対比する。
(ア)引用発明1は、「コンクリート構造物2の表面に透明ポリウレタン樹脂3を介して貼着されたガラス連続繊維シート4と、ガラス連続繊維シート4を封止する透明ポリウレタン樹脂5と、ファイナルコーティングとしての透明ポリウレタン樹脂6を備える」ものであって、「コンクリート構造物の素地の表面状態をより鮮明に目視で確認する」ことができるから、引用発明1の「透明ポリウレタン3」、「透明ポリウレタン5」及び「透明ポリウレタン6」は、本件訂正発明1の「コンクリート構造物の表面に該表面を視認可能な透光性を備えて積層された透過層」に相当する。
(イ)引用発明1の「ガラス連続繊維シート4」は、「平帯状のガラス繊維糸が縦横斜めに編み込まれた構造となっている」ことから、網状体といえるので、引用発明1の「透明ポリウレタン樹脂5」に「封止」された「ガラス連続繊維シート4」は、本件訂正発明1の「透過層内に介在するように積層された網状体」に相当する。
(ウ)引用発明1の「透明ポリウレタン3」、「透明ポリウレタン5」及び「透明ポリウレタン6」は、塗布あるいは塗り付けられるものであって、その後、乾燥・固化されるものであるから、乾燥・固化される前は、硬化性を有する液剤といえる。
また、引用発明1は、「コンクリート構造物の素地の表面状態をより鮮明に目視で確認する」ものであるから、引用発明1の「透明ポリウレタン3」、「透明ポリウレタン5」及び「透明ポリウレタン6」は、その名称も勘案すると、その乾燥・固化されたものは、透明な性質、つまり透過性を有するといえる。
上述の性質・機能及び上記(イ)からみて、本件訂正発明1の「前記透過層は、不燃性及び透過性を有し、並びに硬化性を有する液剤が、前記網状体に含侵した状態で硬化されてなる」ものである点と、引用発明1の「透明ポリウレタン3」、「ガラス連続繊維シート4を封止する透明ポリウレタン5」及び「透明ポリウレタン6」とは、「前記透過層は、透過性を有し、並びに硬化性を有する液剤が、前記網状体に含侵した状態で硬化されてなる」ものである点で共通する。
(エ)引用発明1の「コンクリート構造物表面のひび割れの発生やその進展、剥落防止を目的としたコンクリート構造物表面の強化コーティング方法」により強化された「強化コンクリート構造物1」は、本件訂正発明1の「コンクリート構造物の剥離防止構造」に相当する。
(オ)上記(ア)ないし(エ)からみて、本件訂正発明1と引用発明1とは、「コンクリート構造物の表面に該表面を視認可能な透光性を備えて積層された透過層と、前記透過層内に介在するように積層された網状体とを備え、前記透過層は透過性を有し、並びに、硬化性を有する液剤が、前記網状体に含侵した状態で硬化されてなるコンクリート構造物の剥離防止構造。」で一致するものの、以下の相違点を有している。
〔相違点1〕液剤について、本件訂正発明1は、不燃性を備えるのに対し、引用発明1は、不燃性を備えるかどうか不明な点。
イ 判断
上記相違点1について検討する。
(ア)不燃性を備える液剤について、引用文献2をみると、上記1(2)カで示した引用発明2が記載されており、また引用文献2無機塗料が示されている。
しかしながら、上記の引用発明2の「塗膜」及び公然実施された引用文献2無機塗料は、不燃性を有しているものの「塗膜」又は「無機塗料」であって、何らかの部材を接着するものではないから、引用発明1の「ガラス連続繊維シート4」を「コンクリート構造物2の表面」に「貼着」し、「封止」し、「ファイナルコーティング」する「透明ポリウレタン樹脂3」、「透明ポリウレタン樹脂5」、「透明ポリウレタン樹脂6」に代えて適用するものとは認められない。
また、引用発明1に適用するべき不燃性を備える透明な接着剤は、申立人が提示するその他の証拠には記載も示唆もされていない。
(イ)申立人は、令和4年8月3日付け意見書において、参考資料5(特開2017-66761号公報)を提示してコンクリート構造物を強化する際に接着層を塗料によって形成することが記載されており、接着剤と塗料は組成が類似していることから、同様な作用効果を奏することは技術常識である旨、主張している。
しかしながら、塗料に接着剤としての機能を求めることは本件特許の出願前に公知または周知の技術であったとしても、すべての塗料について接着剤としての機能を求めることができるとはいえないし、少なくとも、引用文献2にはそのような機能は記載されておらず、示唆するものでもない。
よって、上記(ア)で示したとおり、引用発明2の塗膜又は引用文献2無機塗料には接着剤としての機能が備えられておらず、引用発明1に適用する動機付けは存在しないから、申立人の主張は採用できない。
(ウ)以上のとおり、引用発明2又は引用文献2無機塗料に基いて、上記相違点1に係る本件訂正発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たことではないから、本件訂正発明1は、引用発明1及び、引用発明2又は引用文献2無機塗料に係る公然実施発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2)本件訂正発明2及び3について
本件訂正発明2及び3は、実質的に本件訂正発明1の構成をすべて備え、さらに限定を付加した発明であるから、上記(1)で検討した理由と同じ理由により、引用発明1及び、引用発明2または引用文献2無機塗料に係る公然実施発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)本件訂正発明4ないし6について
本件訂正発明4ないし6は、本件訂正発明1のコンクリート構造物の剥離防止構造の構成をすべて備え、さらに限定を付加して当該コンクリート構造物の剥離防止構造の施工方法とする発明であるから、上記(1)で検討した理由と同じ理由により、引用発明1及び、引用発明2または引用文献2無機塗料に係る公然実施発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
3 サポート要件について
(1)本件訂正発明1の「前記透過層は、不燃性及び透過性を有し、並びに、硬化性を有する液剤が・・・硬化されてなる」ことについて、本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、シランカップリング剤、及びそのうちのアルコキシシランを主成分とするものが挙げられ、また、「透過層2を構成する素材は、シランカップリング剤に限らず、不燃性及び透過性を有する共に、空気に触れることで硬化する性質を有するものであればよい。」(段落【0021】)と記載されている程度であって、上記「液剤」として、「シランカップリング剤」及び、そのうち「アルコキシシランを主成分とするもの」が挙げられているのみである。
しかしながら、「空気に触れることで硬化する性質を有する」「液剤」であって、硬化した後に「不燃性及び透過性を有する」「透過層」となるものは、シランカップリング剤以外にも、無機系バインダー、不燃性の添加剤を添加したもの等が知られており、それらのうちから、製造される「コンクリート構造物」において求められる不燃性や透過性に応じて、適宜選択することができるものと認められる。
したがって、シランカップリング剤を含めたあらゆる不燃性及び透過性を有する硬化性組成物まで開示されていないとしても、詳細な説明の他の記載や技術常識を参酌することにより、本件訂正発明1の範囲まで、発明の詳細に開示された内容を拡張ないし一般化できるといえる。
以上のことから、本件訂正発明1は、発明の詳細な説明に記載したものである。
また、本件訂正発明2ないし6についても、同様の理由により発明の詳細な説明に記載したものである。
第6 取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由について
1 進歩性(29条2項)について
(1)甲1発明に記載された透明ポリウレタン樹脂として例示されたPLP社製の「デカサンクリアグレイズ」は、「熱や紫外線に強く」と記載されており、不燃性材料であるポリウレタン樹脂は、甲第2号証(「ウレタン系材料による初の「不燃材料」国土交通大臣認定取得について、積水化学工業株式会社、2014年5月19日、インターネット<URL:https://www.sekisui.co.jp/news/2014/1244359_20166.html」)に記載のとおり業界内でよく知られているから、甲1発明において、さらなる耐熱性を目的として、甲第2号証に記載の不燃性のポリウレタン樹脂を採用することは、容易に想到し得る旨、主張する。
しかしながら、甲第2号証に記載された「不燃性ポリウレタン」は、その2枚目の写真をみると透明なものではないから、「コンクリート構造物の素地の表面状態をより鮮明に目視で確認」するものである甲1発明において、透明ポリウレタン樹脂3、5、6を、甲第2号証に記載された「不燃性ポリウレタン」に代えることには阻害要因があるものと認められる。
よって、申立人の主張を採用することはできない。
(2)また、申立人は、甲第4号証(「大中口径管路の目地補修に適したPPSライニング工法」、「No-Dig Today」 No.69 2009 Oct.、「No-Dig Today」編集委員会、平成21年10月1日)を主引用例として検討し、本件発明1と甲4発明とを対比すると、少なくとも、液剤が本件発明1は不燃性を有するのに対し、甲4発明はそのような特定がなされていない点で相違するが、コンクリート構造物において不燃性を要求することは、当業者が必要に応じてなし得ることに過ぎない旨、主張する。
しかしながら、仮にコンクリート構造物において不燃性を要求することが当業者にとって周知の課題であって、甲第4号証に記載の発明(以下「甲4発明」という。)の大中口径管路において、不燃性を備えるという課題が実質的に内在しているとしても、コンクリート構造物に適用され、網状体に含侵した状態で硬化して透過性及び不燃性を有することとなる液剤は、申立人が提示した証拠には記載も示唆もされていないから、甲4発明のエポキシアクリレート樹脂を不燃性を有する樹脂に代えることは、当業者が適宜なし得たことではない。
したがって、この相違点に係る本件訂正発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たことではないから、本件訂正発明1は、甲4発明を主引用発明としてその他の証拠を適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
よって、申立人の主張を採用することはできない。
2 明確性(36条6項2号)について
(1)申立人は、請求項1に「不燃性及び透過性並びに硬化性を有する液剤」との記載があり、明細書には、不燃性を有するものは液剤ではなく硬化物である記載があり、不燃性を有するものが何であるのか特定できず、不明確である旨、主張している。
しかしながら、本件訂正請求により、請求項1の上記記載は、「前記透過層は、不燃性及び透過性を有し、並びに、硬化性を有する液剤が、・・・硬化されてなる」(下線は訂正箇所を示す。)ものに訂正することにより、不燃性を有するものが硬化物である透過層であることが明確になった。
よって、本件訂正後の上記記載は明確であるから、申立人の主張は採用できない。
(2)また申立人は、本件明細書には、不燃性の定義がなく、不燃性の技術的な意味が不明確である旨、主張する。
しかしながら、「不燃性」でいうところの「不燃」の程度については、全く燃えないことを求めているのではなく、当該「コンクリート構造物」が使用される環境や使用目的に応じて「不燃」であると評価されるものを意味するところ、当業者であればかかる「不燃」の程度を理解することができるから、本件特許の明細書に「不燃性」の定義が記載されていないとしても、本件訂正発明の「不燃性」の技術的な意味が不明確となるものではない。
よって、本件訂正発明の「不燃性」の意味は明確であるから、申立人の主張は採用できない。
第7 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、請求項1ないし6に係る特許を取り消すことはできない。
さらに、他に請求項1ないし6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2021-700018