特許異議申立
2025-700998
トンネル用注入システム
- 審判番号
- 2025-700998
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-118010
- 登録番号
- 7664109
- 請求日
- 2025年10月16日
- 審決日
- 2026年01月26日
- 公報発行日
- 2026年02月27日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】フジモリ産業株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人湧泉特許事務所
- 【異議申立人】山内 慶子
- 審判長/審判官
- 審判長 秋田 将行
- 審判官 太田 恒明
- 審判官 ▲吉▼川 康史
- 分類
- P1651.121-Y (E21D) / P1651.537-Y (E21D)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7664109号発明「トンネル用注入システム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7664109号の請求項1~4に係る特許を維持する。
理由
理 由
1 手続の経緯
特許第7664109号の請求項1~4に係る特許についての出願は、令和3年7月16日に出願され、令和7年4月9日にその特許権の設定登録がされ、同月17日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、同年10月16日に特許異議申立人 山内 慶子(以下「申立人」という。)は、特許異議の申立てを行った。
2 本件発明
特許第7664109号の請求項1~4の特許に係る発明(以下、それぞれを「本件発明1」等という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1~4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。なお、符号A等は、分説のため合議体が付し、それぞれの符号により分説された事項を以下「構成A」等という。
「【請求項1】
A トンネルの周りの空間又は地山へ充填材を注入するシステムであって、
B 注入ポンプと、該注入ポンプから延びる注入管と、該注入管の先端部に設けられたノズルを含む注入装置と、
C 前記注入装置を制御する制御系と、を備え、前記制御系が、
C1 前記注入装置における注入量又は注入圧を含む注入データを取得する1又は複数の注入センサと、
C2 前記注入ポンプの運転開始及び停止を含むポンプ操作入力を受け付けるポンプ操作入力部と、
C3 前記ポンプ操作入力に応じて前記注入ポンプを制御するポンプ制御部と、前記注入データを受け取り、シリアルに出力するデータ中継部とを有する制御基板と、
C4 前記データ中継部からの注入データをシリアルに受け取り、蓄積注入データとして記憶するとともに、前記蓄積注入データを所定タイミング又は出力指令に応じて出力するコンピューターデバイスと、
を含み、
C5 前記制御基板又は前記コンピューターデバイスが、前記注入量又は注入圧が設定値に達したか否かを前記注入データに基づいて判定する判定部と、前記設定値に達したと判定されたとき発報指令を出す発報指令部とを含み、
C6 前記ポンプ操作入力部と、前記発報指令を受けて作動する発報部とが、携行可能なリモートコントロールユニットに設けられている
D ことを特徴とするトンネル用注入システム。
【請求項2】
C7 前記コンピューターデバイスが、前記制御基板と接続されたスマートフォン又はタブレットである
D2 ことを特徴とする請求項1に記載のトンネル用注入システム。
【請求項3】
C8 前記コンピューターデバイスが、前記設定値の設定入力部を含む
D3 請求項1又は2に記載のトンネル用注入システム。
【請求項4】
C9 前記リモートコントロールユニットには、前記注入量のリセット指令を受け付けるリセット入力部が設けられ、
C10 前記コンピューターデバイスが、前記制御基板を介して受け取った時間的に隣接する2つのリセット指令の間の注入データを一群の蓄積注入データとして区画する
D4 ことを特徴とする請求項1~3の何れか1項に記載のトンネル用注入システム。」
3 申立理由の概要
申立人は、証拠方法として甲第1~9号証(以下「甲1」等という。)を提出し、特許異議申立書(以下「申立書」という。)において、概要、以下の申立ての理由を主張する。
(証拠方法)
甲第1号証:特開2020-204189号公報
甲第2号証:トンネル補助工法向けウレタン注入機開発(fair-system)に関するウェブサイト
https://www.fujimori.co.jp/technology/9
甲第3号証:トンネル補助工法向け注入システム「fair-system」
(NETIS登録品KK-200059-A)に関する ウェブサイト1丸
https://www.netis.mlit.go.jp/netis/pubsearch/details?regNo=KK-200059%20
(なお、算用数字の直後に「丸」と記載した箇所は、当該数字を丸(「○」で囲んだ表記を表す。以下同様。)
甲第4号証:トンネル補助工法向け注入システム「fair-system」
(NETIS登録品KK-200059-A)に関する ウェブサイト2丸
https://www.fujimori.co.jp/products/civil_engineering/116
甲第5号証:特開2020-20156号公報
甲第6号証:株式会社 立花エレテックのウェブサイト1丸 (URLは現存せず)
甲第7号証:月刊養殖ビジネス 2020年7月号
甲第8号証:MSTODAY 2019年春号
甲第9号証:株式会社 立花エレテックのウェブサイト2丸 (URLは現存せず)
(申立ての理由)
(1) 申立ての理由1: 進歩性の欠如
申立人は、主たる証拠とし甲1を提出し、従たる証拠として甲2~甲4を提出するとともに、周知技術の例として甲5~甲9を提出し、請求項1~4に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものであると主張する。
(2) 申立ての理由2:サポート要件違反
本件特許の請求項1、3及び4に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものではないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、その特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものであると主張する。
4 甲1に記載された発明
(1) 記載事項
甲1には、以下の記載がある(下線は合議体が付した。以下同様。)
「【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネルの施工の管理システム及び方法、並びにプログラムに関し、特にNATM(New Austrian Tunneling Method)工法などによる山岳トンネルの施工中に周辺の地山に注入材を注入する際における注入管理システム、注入管理方法及びプログラムに関する。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
作業内容を手書きで記録したりそれをパソコンに入力し直したりする作業は手間がかかり、書き間違いや入力間違いも起こり得る。
そこで、注入機の注入ポンプなどを制御するプログラマブルロジックコントローラ(以下、適宜「PLC」と称す)を含む注入管理システムで得られる制御データから注入孔ごとの注入量、注入圧その他の注入データを自動的に作成することが考えられる。その場合でも、どの注入孔に注入しているか等の自動取得不能又は困難な情報については、作業者が注入管理システムに入力する必要がある。ここで入力を間違えると、正確な状況を注入管理システムが認識できないまま注入作業が進み、作成された注入データが実状と異なる状況が生まれる可能性がある。そのようなデータでは正確な帳票を作成して適確な分析をすることができない。
本発明は、かかる事情に鑑み、施工中のトンネルの周辺の地山に注入材を注入する注入工法における注入管理において、注入データの信頼度を高めることを目的とする。
・・・
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、施工中のトンネルの周辺の地山に注入材を注入する注入工法のための注入管理における注入データの信頼度を高めることができる。」
「【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を図面にしたがって説明する。
図1は、例えばNATM工法によって施工中の山岳トンネル1において、周辺の地山に注入材2を注入する様子を示したものである。注入材2としては、シリカレジン等のウレタン系発泡樹脂が用いられている。該注入材2は、A液とB液を出発物質とする。これら2液が混合されて発泡しながら地山に注入されて硬化する。これによって、トンネル周辺の地山が安定化される。
【0015】
図1及び図2に示すように、トンネル1の周辺の地山には、長尺の先受け鋼管20が多数打設されている。図においては、注入工程を実施中のトンネル断面の先受け鋼管20だけを図示する。先受け鋼管20は、トンネル軸に対して斜めに打設されている。先受け鋼管20の内部空間が、注入孔21を構成している。各先受け鋼管20ひいては各注入孔21は、直線状に延びている。
なお、注入孔21の長さによっては、長さ方向に複数(例えば3つ)の注入領域が設定され、注入領域ごとに注入材2の注入がなされる。
【0016】
図2に示すように、複数の先受け鋼管20からなる複数の注入孔21がトンネル1のアーチ部1aの周方向に間隔を置いて配置されている。図2において一部の注入孔21内に丸囲み数字にて例示するように、施工管理上、注入孔21には、前記周方向の並び順に、例えば向かって左端のものから順次1番、2番、3番…等のように孔番号が付されている。
【0017】
図1に示すように、前記注入材2のための注入機10と注入材供給源15がトラック4に搭載されて、トンネル1内に配置されている。
注入機10には、1又は複数の注入ポンプ11と、操作盤13と、プログラマブルロジックコントローラ(PLC)30が設けられている。注入材供給源15が注入ポンプ11の供給ポートに接続されている。
なお、図においては図示の都合上、注入ポンプ11及び注入材供給源15はそれぞれ1つであるが、実際の2液混合の注入材用の場合、注入ポンプ11及び注入材供給源15はそれぞれA液用とB液用の組になっている。場合によっては、前記注入領域ごとに1組(2台)の注入ポンプ11が設けられている。注入領域が3つの場合、6台の注入ポンプが設けられている。
【0018】
注入ポンプ11の吐出ポートから注入管16が延び出ている。注入ポンプ11及び注入管16によって注入系統が構築されている。注入管16は、注入工程を行う注入孔21に挿し入れられている。
注入管16の先端部には、歪センサなどの注入圧センサ17が設けられている。
図において、注入孔21の口径は、軸長に対して誇張されている。
【0019】
操作盤13には、操作つまみ13a~13e、設定部13f、表示部13gなどが設けられている。
操作つまみ13aは、注入ポンプ11の運転開始ひいては注入開始指令を出す運転開始ボタンである。
操作つまみ13bは、注入ポンプ11の運転停止ひいては注入停止指令を出す運転停止ボタンである。
操作つまみ13cは、1の注入孔21に関する注入管理をリセット(完了)するリセットボタンである。
操作つまみ13dは、次に注入管理する注入孔21を指定する孔指定つまみである。
操作つまみ13eは、1のトンネル断面におけるすべての注入孔21に関する注入管理をリセット(完了)するトータルリセットボタンである。
図示は省略するが、操作盤13には、更にA液用の注入ポンプとB液用の注入ポンプを個別に操作するか両方の注入ポンプをまとめて同時に操作するかを選択するための操作つまみなどが設けられていてもよい。
・・・
【0021】
図3は、前記注入材2の注入工法のための注入管理システム3を示したものである。注入管理システム3は、3つのコンピュータすなわちPLC30と記憶端末31と遠隔無線端末32を含む。これらコンピュータ30,31,32が、ハブ33を介した有線又は無線のローカルエリアネットワーク(LAN)によって相互にデータ通信可能に接続されている。
【0022】
PLC30(制御手段)は、演算処理部30aと、入出力部30bと、保持部30m(記憶部)を含む。演算処理部30aは、マイクロプロセッサやマイクロコントロールユニットによって構成されている。入出力部30bには、操作盤13及び注入圧センサ17等の入力機器、注入ポンプ11及び報知部34等の出力機器、並びにハブ33が接続されている。PLC30によって注入ポンプ11が制御される。
【0023】
図4に示すように、保持部30mは、注入管理プログラム35、注入管理データ36、注入データ37などを保持する記憶装置である。注入管理プログラム35は、注入作業プログラム35a、注入量算出プログラム35b、孔指定対応プログラム35cなどを含む。
【0024】
注入作業プログラム35aは、運転開始ボタン13aによる運転開始指令を受けたときは、更に所定の運転開始許容条件が満たされていれば注入ポンプ11に対し駆動信号を出力し、運転停止ボタン13bによる運転停止指令を受けたときは、注入ポンプ11に対し停止信号を出力する等、注入作業を実行するためのメインプログラムである。
【0025】
注入量算出プログラム35bは、注入孔21ごとの注入量(注入データ)を算出する。
注入量(kg)は注入流速と注入時間とによって算出される。
注入流速(kg/min)としては、設定部13fで設定した値が用いられる。注入管16に流量計を設けて注入流速を検知してもよい。該注入流速の時間積分によって注入量(kg)を算出してもよい。注入ポンプ11の1回転あたりの吐出流量と回転回数とによって注入量(kg)を算出してもよい。
算出中の注入量がどの注入孔21のものであるかは、孔指定つまみ13dによる孔指定情報に基づく。
【0026】
孔指定対応プログラム35cは、前記孔指定情報の当否を判定し、判定結果に応じてアラーム発報の要否、注入ポンプ11の運転の許否など所定の対応を実行するためのプログラムである。
【0027】
注入管理データ36としては、前記設定部13fによる各種設定データ36a、注入済データ36b(孔管理情報)、孔指定データ36c(孔指定情報)などが挙げられる。設定データ36aとしては、注入流速設定値、最終注入量目標値、注入圧上限値などが挙げられる。注入済データ36bは、注入済の注入孔21の孔番号等の識別情報である。注入済と判定され次第、その注入孔21の例えば孔番号が注入済データ36bに加えられる。
なお、注入済の注入孔21は当然に注入開始済であり、注入済データ36bは注入開始済の注入孔21の情報でもある。
孔指定データ36cは、前記孔指定つまみ13dによって指定された注入孔21の孔番号等の識別情報である。
注入データ37は、注入孔21ごとの最終注入量(kg)及び最終注入圧(MPa)のデータである。その他、注入データ37は、注入開始日時、注入終了日時などを含んでいてもよい。
【0028】
図3に示すように、注入機10の収容スペース内に記憶端末31(データロガー)が収容されている。記憶端末31は、ノートパソコンなどのパーソナルコンピュータ(PC)によって構成されている。記憶端末31の記憶部31mには、PLC30と同じ注入データ37がバックアップ保存されている。さらに記憶部31mには、PLC30と同じ注入管理データ36a,36b,36cが保存されていてもよい。
【0029】
遠隔無線端末32は、タブレットやノートPCなどの携帯可能な無線通信機能付きのPCによって構成されている。注入機10に設置されたアンテナ39を介して、遠隔無線端末32とPLC30及び記憶端末31との間で無線通信可能である。好ましくは、遠隔無線端末32は、操作盤13と同じ機能を持ち、注入機10を遠隔操作できる。更に好ましくは、遠隔無線端末32の記憶部32mには、記憶端末31の保存データと同じデータが保存されている。
【0030】
詳細な図示は省略するが、報知部34は、例えば警告灯などの光出力部、スピーカなどの音声出力部、ディスプレイなどの画像表示部などを含む。これら光出力部、音声出力部、画像表示部のうち少なくとも1つがあればよい。操作盤13の表示部13gが、報知部34の画像表示部を兼ねていてもよい。
【0031】
トンネル1は次のようにして施工される。
トンネル1をあるスパンだけ掘進して覆工(図示せず)を構築するとともに、ドリルジャンボ(図示せず)によって先受け鋼管20を打設することで注入孔21を形成する。
その後、前記ドリルジャンボを後退させ、入れ替わりにトラック4を切羽1e側へ前進させる。
トラック4の注入機10から延びる注入管13を注入孔21に差し入れる。続いて、注入ポンプ11を駆動することによって、注入材2を注入孔21から地山に注入する。
一般に先ず奇数番の注入孔21へ順に注入を行い、次に偶数番の注入孔21へ順に注入を行う。つまり、例えば1番、3番、5番…、2番、4番、6番…の順に注入を行う。
【0032】
図5のフローチャートに示すように、前記注入工程において、注入機10及び注入管理システム3は次のように動作し、又は使用される。
いま、孔番号1番(図2において左下端)の注入孔21への注入が終了したものとする。孔指定つまみ13dによって孔番号1番が指定されている。
<運転停止工程>
作業者は、運転停止ボタン13bを押す。
これによって、操作盤13から注入停止指令が出される(ステップ101)。これを受けたPLC30は、注入ポンプ11を停止させる(ステップ102)。
【0033】
<リセット指令受付工程>
次に、作業者は、リセットボタン13cを押す。
これによって、操作盤13からリセット指令が出される(ステップ103)。これを受付けたPLC30(リセット受付部)は、直前まで積算した注入量(kg)を最終注入量とし、かつ圧力センサ17による検出圧力(MPa)を最終注入圧とし、さらに日時などのメタデータをも含め、孔番号1番の注入孔21の注入データ37を保持部30m及び記憶部31m,32mに記憶させる(ステップ104)。
かつ、前記注入量の積算をリセットして0に戻す(ステップ105)。
要するに、前記リセット指令は、直前まで注入管理中であった注入孔の注入完了情報ないしは注入管理終了情報に相当する。
【0034】
<注入済情報保持工程>
さらに、PLC30は、直前まで注入管理していた注入孔21の識別情報(孔番号1番)を注入済データ36bの1つとして保持部30mに保持させる(ステップ106)。同じ情報を記憶部31m,32mにも記憶させてもよい。
注入済情報保持ステップ106は、他のリセット処理ステップ104,105の前に行ってもよく、リセット処理ステップ104,105と同時併行して行ってもよい。
【0035】
<孔指定情報受付工程>
次に、作業者は、孔指定つまみ13dによって、次に注入しようとする注入孔21の孔番号を指定する。
これによって、操作盤13から注入孔の孔指定情報が出される(ステップ107)。該孔指定情報は、PLC30(孔指定受付部)によって受け付けられ、孔指定データ36cとして、保持部30mに一時記憶される(ステップ108)。
【0036】
<次の注入準備>
前述したように、一般に孔番号1番の次に注入すべき注入孔21は孔番号3番である。
作業者は、3番の注入孔21に注入管16を挿し入れる等、次の注入の準備を行う。
【0037】
<注入指令受付工程>
準備完了後、作業者は、運転開始ボタン13aを押す。
これによって、操作盤13から注入開始指令が出され、PLC30(注入指令受付部)がこれを受け付ける(ステップ109)。
【0038】
<判定工程>
PLC30(判定部)は、前記注入開始指令に応じるのに先立ち、孔指定つまみ13dによって指定された注入孔が注入済のものでないか否かを保持部30mの保持データ36b,36cに基づいて判定する(ステップ110)。つまり、孔指定データ36cが注入済データ36bに含まれていないか否かを判定する。
PLC30自体の記憶データによって判定できるから、即応性が高い。
<注入開始工程>
作業者が次の孔番号(3番)を正しく指定していた場合、注入済のものでないと判定される。このとき、PLC30は、注入ポンプ11の運転を開始させる(ステップ110)。
【0039】
<否時対応工程>
作業者が孔指定つまみ13dによる次の孔番号の指定を失念していた場合、孔指定データ36cは孔番号1番のままになっている。一方、孔番号1番は注入済データ36bに挙げられているから、前記判定工程において否と判定される。このときPLC30(否時対応部)は、否時対応として(ステップ111)、報知部34からアラームを発報することで、孔番号指定の誤りを作業者に報知させる。警告灯を作動させてもよく、スピーカから警報音を出力してもよく、孔番号指定の誤りの旨の自動音声を出力してもよく、ディスプレイに孔番号指定の誤りの旨を表示してもよい。
・・・
【0041】
<注入工程>
注入ポンプ11の運転によって、次の孔番号(3番)の注入孔21に注入材2が注入される。PLC30(注入データ取得部)は、孔指定つまみ13dで正しく指定された孔番号(3番)の注入量を積算していく。これによって、注入データの信頼性を高めることができる。
操作盤13の表示部13gには、注入量や注入圧がリアルタイムで表示される。
注入ポンプ11の運転中は、リセットボタン13cを押してもリセット処理されず、孔指定つまみ13dで孔指定情報を変更できない。
【0042】
注入ポンプ11の運転中、PLC3が注入量及び注入圧を監視する。注入量又は注入圧が所定を越えたときは、PLC3によって注入ポンプ11が自動停止される。また、運転停止ボタン13bを押すことで(ステップ101)、注入ポンプ11を手動停止できる(ステップ102)。
・・・
【0045】
1のトンネル断面のすべての注入孔21について注入材2の注入を完了したとき、作業者はトータルリセットボタン13eを押す。・・・」
「【0059】
・・・
13 操作盤
13X,13Y 操作盤
13a 運転開始ボタン(操作つまみ)
13b 運転停止ボタン(操作つまみ)
13c リセットボタン(操作つまみ)
13d 孔指定つまみ(操作つまみ)
13e トータルリセットボタン(操作つまみ)
・・・」
「
[図:0001432103000001.jpg]
」
なお、上に摘記した記載のうち、【0042】における「PLC3」は、「PLC30」の誤記であると認める。
また、上の摘記においては、符号「13a」~「13e」に対応する用語について、例えば、【0019】では、「操作つまみ13a」、「操作つまみ13b」、「操作つまみ13c」、「操作つまみ13d」、「操作つまみ13e」と記載される一方、「作業者は、運転開始ボタン13aを押す。」(【0037】)、「作業者は、運転停止ボタン13bを押す。」(【0032】)、「作業者は、リセットボタン13cを押す。」(【0033】)、「作業者はトータルリセットボタン13eを押す。」(【0045】)という操作の具体的な態様を説明する記載も存在する。そこで、【0059】の「符号の説明」も参酌して、符号「13a」~「13e」に対応する用語は、それぞれ、「運転開始ボタン13a」、「運転停止ボタン13b」、「リセットボタン13c」、「操作つまみ13d」、「トータルリセットボタン13e」であると用語を揃えて、甲1発明を認定する。
(2) 認定事項
【0039】に「前記判定工程において否と判定される。このときPLC30(否時対応部)は、否時対応として(ステップ111)、報知部34からアラームを発報することで、孔番号指定の誤りを作業者に報知させる。警告灯を作動させてもよく、スピーカから警報音を出力してもよく、孔番号指定の誤りの旨の自動音声を出力してもよく、ディスプレイに孔番号指定の誤りの旨を表示してもよい。」と記載され、【0030】に「詳細な図示は省略するが、報知部34は、例えば警告灯などの光出力部、スピーカなどの音声出力部、ディスプレイなどの画像表示部などを含む。これら光出力部、音声出力部、画像表示部のうち少なくとも1つがあればよい。操作盤13の表示部13gが、報知部34の画像表示部を兼ねていてもよい。」と記載され、【0029】に「好ましくは、遠隔無線端末32は、操作盤13と同じ機能を持ち、注入機10を遠隔操作できる。」と記載されるから、
甲1には、前記判定工程において否と判定されると、PLC30(否時対応部)は、否時対応として、報知部34からアラームを発報することに加え、操作盤13の表示部13g及び操作盤13と同じ機能を持つ遠隔無線端末32の画像表示部のいずれにも、孔番号指定の誤りの旨を表示することで、孔番号指定の誤りを作業者に報知させることが記載されている(認定事項)。
(3) 甲1発明
上記(1)の記載事項及び上記(2)の認定事項によれば、甲1には次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
甲1発明
「施工中の山岳トンネル1において、周辺の地山に注入材2を注入する注入材2の注入工法のための注入管理システム3であって(【0014】、【0021】)、
前記注入材2のための注入機10と注入材供給源15がトラック4に搭載されて、トンネル1内に配置され、注入機10には、1又は複数の注入ポンプ11と、操作盤13と、プログラマブルロジックコントローラ(PLC)30が設けられ、注入材供給源15が注入ポンプ11の供給ポートに接続され(【0017】)、注入ポンプ11の吐出ポートから注入管16が延び出ていて、注入管16の先端部には、歪センサなどの注入圧センサ17が設けられ(【0018】)、加えて、注入管16に流量計を設けて注入流速を検知して、注入流速と注入時間とによって注入孔21ごとの注入量(注入データ)を算出し(【0025】)、
注入管理システム3は、3つのコンピュータすなわちPLC30と記憶端末31と遠隔無線端末32を含み、これらコンピュータ30,31,32が、ハブ33を介した有線又は無線のローカルエリアネットワーク(LAN)によって相互にデータ通信可能に接続され(【0021】)、
PLC30(制御手段)は、演算処理部30aと、入出力部30bと、保持部30mを含み、演算処理部30aは、マイクロプロセッサやマイクロコントロールユニットによって構成されていて、入出力部30bには、操作盤13及び注入圧センサ17等の入力機器、注入ポンプ11及び報知部34等の出力機器、並びにハブ33が接続され、PLC30によって注入ポンプ11が制御され(【0022】)、保持部30mは、注入管理プログラム35、注入管理データ36、注入データ37などを保持する記憶装置であり(【0023】)、注入データ37は、注入孔21ごとの最終注入量(kg)及び最終注入圧(MPa)のデータであって(【0027】)、
記憶端末31の記憶部31mには、PLC30と同じ注入データ37がバックアップ保存されていて(【0028】)、
操作盤13には、運転開始ボタン13a、運転停止ボタン13b、リセットボタン13c、操作つまみ13d、トータルリセットボタン13e、設定部13f、表示部13gなどが設けられていて、運転開始ボタン13aは、注入ポンプ11の運転開始ひいては注入開始指令を出す運転開始ボタンであり、運転停止ボタン13bは、注入ポンプ11の運転停止ひいては注入停止指令を出す運転停止ボタンであり、リセットボタン13cは、1の注入孔21に関する注入管理をリセット(完了)するリセットボタンであり、操作つまみ13dは、次に注入管理する注入孔21を指定する孔指定つまみであり(【0019】)、
作業者は、孔指定つまみ13dによって、次に注入しようとする注入孔21の孔番号を指定し(【0035】)、運転開始ボタン13aを押すと、操作盤13から注入開始指令が出され、PLC30(注入指令受付部)がこれを受け付けるが(【0037】)、PLC30(判定部)は、前記注入開始指令に応じるのに先立ち、孔指定つまみ13dによって指定された注入孔が注入済のものでないか否かを保持部30mの保持データ36b,36cに基づいて判定し(【0038】)、前記判定工程において否と判定されると、PLC30(否時対応部)は、否時対応として、報知部34からアラームを発報することに加え、及び、操作盤13の表示部13g及び操作盤13と同じ機能を持つ遠隔無線端末32の画像表示部のいずれにも、孔番号指定の誤りの旨を表示することで、孔番号指定の誤りを作業者に報知させ(認定事項)、
また、注入ポンプ11の運転中、PLC30が注入量及び注入圧を監視し、注入量又は注入圧が所定を越えたときは、PLC30によって注入ポンプ11が自動停止され、また、運転停止ボタン13bを押すことで、注入ポンプ11を手動停止でき(【0042】)、
遠隔無線端末32は、タブレットやノートPCなどの携帯可能な無線通信機能付きのPCによって構成され、注入機10に設置されたアンテナ39を介して、遠隔無線端末32とPLC30及び記憶端末31との間で無線通信可能であり、遠隔無線端末32は、操作盤13と同じ機能を持ち、注入機10を遠隔操作できる(【0029】)
施工中の山岳トンネル1において、周辺の地山に注入材2を注入する注入材2の注入工法のための注入管理システム3(【0014】、【0021】)。」
5 対比
分説に従い、甲1発明と本件発明1を対比する。
(1) 構成A、Dについて
甲1発明の「施工中の山岳トンネル1において、周辺の地山に注入材2を注入する注入材2の注入工法のための注入管理システム3」は、本件発明1の「トンネルの周りの空間又は地山へ充填材を注入するシステム」及び「トンネル用注入システム」に相当し、甲1発明は、本件発明1の構成A、Dに相当する構成を備える。
(2) 構成Bについて
甲1発明の「注入ポンプ11」、「注入ポンプ11の吐出ポートから」「延び出てい」る「注入管16」はそれぞれ、本件発明1の「注入ポンプ」、「該注入ポンプから延びる注入管」に相当するとともに、甲1発明の「注入管16の先端部」に、注入材2を吐出するための部材を具備することは当然であるから、甲1発明の「注入管16」は、「該注入管の先端部に設けられたノズル」に相当する構成を備えることは明らかであり、そして、甲1発明の「注入ポンプ11」及び「注入管16」は、本件発明1の「注入装置」に相当する。
よって、甲1発明は、本件発明1の構成Bに相当する構成を備える。
(3) 構成C、C1について
上記(2)に加え、甲1発明の「入出力部30bには、操作盤13及び注入圧センサ17等の入力機器、注入ポンプ11及び報知部34等の出力機器、並びにハブ33が接続され」た「PLC30」と「記憶端末31」は、本件発明1の「注入装置を制御する制御系」に相当する。
甲1発明の「注入流速と注入時間とによって注入孔21ごとの注入量(注入データ)を算出」するために用いる「注入管16に」設けられた「流量計」は、本件発明1の「注入量」「を含む注入データを取得する」「注入センサ」に相当し、甲1発明の「注入圧センサ17」は、本件発明1の「注入圧を含む注入データを取得する」「注入センサ」に相当する。
よって、甲1発明は、本件発明1の構成C、C1に相当する構成を備える。
(4) 構成C2について
甲1発明の「注入ポンプ11の運転開始ひいては注入開始指令を出す運転開始ボタンであ」る「運転開始ボタン13a」及び「注入ポンプ11の運転停止ひいては注入停止指令を出す運転停止ボタンであ」る「運転停止ボタン13b」は、本件発明1の「注入ポンプの運転開始及び停止を含むポンプ操作入力を受け付けるポンプ操作入力部」に相当する。
よって、甲1発明は、本件発明1の構成C2に相当する構成を備える。
(5) 構成C3について
上記(2)より、甲1発明の「注入ポンプ11」が本件発明1の「注入ポンプ」に相当し、上記(4)の対比を踏まえると、甲1発明の「注入ポンプ11の運転開始」及び「注入ポンプ11の運転停止」の契機が、「運転開始ボタン13aを押す」こと、及び、「運転停止ボタン13bを押すこと」であることは、本件発明1の「ポンプ操作入力に応じて」いることに相当する。
また、甲1発明の「注入ポンプ11が制御され」ること、「演算処理部30a」はそれぞれ、本件発明1の「注入ポンプを制御する」こと、「ポンプ制御部」に相当する。
そして、甲1発明において、「演算処理部30a」のほかに、「入出力部30bと、保持部30mを含」む「PLC30(制御手段)」は、「ポンプ制御部と」「データ中継部とを有する」本件発明1の「制御基板」と、「ポンプ制御部」「を有する」制御手段である点で共通する。
以上より、甲1発明と本件発明の構成C3とは、「前記ポンプ操作入力に応じて前記注入ポンプを制御するポンプ制御部」「を有する」制御手段である点で共通する。
(6) 構成C4について
甲1発明の「注入データ37」、「注入孔21ごとの最終注入量(kg)及び最終注入圧(MPa)のデータ」、「保持する」ことはそれぞれ、本件発明1の「注入データ」、「蓄積注入データ」、「記憶する」ことに相当し、甲1発明の「記憶端末31」と、本件発明1の「コンピューターデバイス」とは、「コンピューター」である点で共通する。
以上より、甲1発明と本件発明の構成C4とは、「注入データを」「蓄積注入データとして記憶する」コンピューターを有する点で共通する。
(7) 構成C5について
甲1発明の「注入ポンプ11の運転中、PLC30が注入量及び注入圧を監視し、注入量又は注入圧が所定を越えたとき」には、「PLC30によって注入ポンプ11が自動停止され」るから、甲1発明は、本件発明1の「前記注入量又は注入圧が設定値に達したか否かを前記注入データに基づいて判定する判定部」に相当する構成を備えるといえる。
甲1発明の「PLC30(否時対応部)」が、「否時対応として、報知部34からアラームを発報することに加え、及び、操作盤13の表示部13g及び操作盤13と同じ機能を持つ遠隔無線端末32の画像表示部のいずれにも、孔番号指定の誤りの旨を表示することで、孔番号指定の誤りを作業者に報知させ」ることは、「PLC30」が、本件発明1の「発報指令を出す発報指令部」に相当する機能を有するといえる。
また、上記(5)より、甲1発明の「PLC30」と本件発明1の「制御基板」とは、制御手段である点で共通する。
以上より、甲1発明と本件発明の構成C5とは、制御手段が、「前記注入量又は注入圧が設定値に達したか否かを前記注入データに基づいて判定する判定部と、」「発報指令を出す発報指令部とを含」むという点で共通する。
(8) 構成C6について
上記(4)より、甲1発明の「運転開始ボタン13a」及び「運転停止ボタン13b」が本件発明1の「ポンプ操作入力部」に相当するところ、甲1発明の「運転開始ボタン13a」及び「運転停止ボタン13b」が設けられた「操作盤13と同じ機能を」「遠隔無線端末32」が持つことは、本件発明1の「前記ポンプ操作入力部」「が、携行可能なリモートコントロールユニットに設けられている」ことに相当する。
次に、上記(7)を踏まえると、甲1発明の「遠隔無線端末32の画像表示部」に、「孔番号指定の誤りの旨を表示することで、孔番号指定の誤りを作業者に報知させ」ることは、本件発明1の「前記発報指令を受けて作動する発報部」「が、携行可能なリモートコントロールユニットに設けられている」ことに相当する。
以上を併せると、甲1発明は、本件発明1の構成C6に相当する構成を備える。
(9)一致点及び相違点
以上より、本件発明1と甲1発明とは、
「A トンネルの周りの空間又は地山へ充填材を注入するシステムであって、
B 注入ポンプと、該注入ポンプから延びる注入管と、該注入管の先端部に設けられたノズルを含む注入装置と、
C 前記注入装置を制御する制御系と、を備え、前記制御系が、
C1 前記注入装置における注入量又は注入圧を含む注入データを取得する1又は複数の注入センサと、
C2 前記注入ポンプの運転開始及び停止を含むポンプ操作入力を受け付けるポンプ操作入力部と、
C3’ 前記ポンプ操作入力に応じて前記注入ポンプを制御するポンプ制御部を有する制御手段と、
C4’ 注入データを、蓄積注入データとして記憶するコンピューターと、
を含み、
C5’ 制御手段が、前記注入量又は注入圧が設定値に達したか否かを前記注入データに基づいて判定する判定部と、発報指令を出す発報指令部とを含み、
C6 前記ポンプ操作入力部と、前記発報指令を受けて作動する発報部とが、携行可能なリモートコントロールユニットに設けられている
D トンネル用注入システム。」
である点で一致し、次の相違点で相違する。
[相違点]
ア 相違点1(構成C3)
ポンプ制御部を有する制御手段が、本件発明1では、「注入データを受け取り、シリアルに出力するデータ中継部を有する制御基板」であるのに対し、甲1発明の「PLC30」がそのような構成であるか不明な点。
イ 相違点2(構成C4)
注入データを蓄積注入データとして記憶するコンピューターについて、本件発明1では、「データ中継部から」注入データを「シリアルに受け取」るコンピューターが、「前記蓄積注入データを所定タイミング又は出力指令に応じて出力するコンピューターデバイス」であるのに対し、甲1発明はそのような構成を備えていない点。
ウ 相違点3(構成C5)
発報指令部が発報指令を出す主体及び契機について、本件発明1は、その主体が「前記制御基板又は前記コンピューターデバイス」であるとともに、その契機が「前記設定値に達したと判定されたとき」であるのに対し、甲1発明は、「PLC30(否時対応部)」が、「孔番号指定の誤りを作業者に報知させ」る「否時対応」を実行するときである点。
6 判断
(1) 事案に鑑み、相違点1、2をまとめて検討する。
ア 甲1発明の「注入管理システム3は、3つのコンピュータすなわちPLC30と記憶端末31と遠隔無線端末32を含み、これらコンピュータ30,31,32が、ハブ33を介した有線又は無線のローカルエリアネットワーク(LAN)によって相互にデータ通信可能に接続され」ているものであるところ、本件発明1の「制御基板」に対応する甲1発明の「PLC30(制御手段)」は、「演算処理部30aと、入出力部30bと、保持部30mを含」んでいる。
ここで、甲1の【0023】の「注入管理プログラム35は、注入作業プログラム35a、注入量算出プログラム35b、孔指定対応プログラム35cなどを含む。」という記載、及び、【0025】の「注入量算出プログラム35bは、注入孔21ごとの注入量(注入データ)を算出する。」という記載に照らせば、甲1発明の「PLC30」が注入データを算出しているといえる。
そして、甲1発明は、「PLC30」の「保持部30m」に、「注入孔21ごとの最終注入量(kg)及び最終注入圧(MPa)のデータであ」る「注入データ37」を保持し、「記憶端末31の記憶部31mには、PLC30と同じ注入データ37がバックアップ保存され」ている。
イ そうすると、甲1発明は、「PLC30」が注入データを算出し、「PLC30」の「保持部30m」に、「注入孔21ごとの最終注入量(kg)及び最終注入圧(MPa)のデータであ」る「注入データ37」を保持することで「PLC30によって注入ポンプ11が制御され」るものであって、「PLC30」とは別のコンピュータである「記憶端末31の記憶部31m」に記憶された「注入データ37」は、各注入孔毎の最終注入量及び最終注入圧をバックアップ保存したものであるから、甲1発明においては、PLC30により実行される注入ポンプ11の制御に際し、「記憶端末31の記憶部31m」に記憶された「注入データ37」を、PLC30に出力してその制御に用いるものではない。
したがって、甲1発明の「PLC30」は、本件発明1の「注入データを受け取り、シリアルに出力するデータ中継部を有する制御基板」に対応する構成を備えていないし(相違点1)、かつ、甲1発明は、本件発明1の「データ中継部から」注入データを「シリアルに受け取」るとともに、「前記蓄積注入データを所定タイミング又は出力指令に応じて出力するコンピューターデバイス」に対応する構成も備えていない(相違点2)。
ウ 上記相違点1及び相違点2に係る本件発明1の構成は、申立人が主たる証拠として提出した甲1にも、申立人が従たる証拠として提出した甲2~甲4のいずれにも、及び、申立人が周知技術の例として提出した甲5~甲9のいずれにも記載も示唆もされていないし、上記相違点1及び相違点2に係る本件発明1の構成が周知慣用技術であるという根拠も見出せない。この点、申立人は、甲2~甲4においては、本件発明1における「制御基板」及び「コンピューターデバイス」に相当する構成が開示もしくは示唆されている旨主張するが(申立書20頁下から6行目~最終行)、上記相違点1及び相違点2に係る本件発明1の構成、すなわち、入出力されるデータと関連付けた「制御基板」及び「コンピューターデバイス」の構成は、甲2~甲4のいずれにも記載も示唆もされていない。
そして、本件発明1は、上記相違点1及び相違点2に係る本件発明1の構成に基づき、本件特許の願書に添付された明細書(以下「本件明細書」という。)の【0007】に記載の「安価な構成で作業管理の利便性を高めることができる」という作用効果を奏するものである。
したがって、その余の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明、甲2~甲4に記載された技術的事項及び甲5~甲9に基づき認定される周知技術に基づいて、当業者が容易に想到し得るものではない。
(2) 本件発明2~4は、本件発明1を引用し、さらに構成を限定したものである。よって、上記(1)に示した理由と同様の理由により、本件発明2~4は、甲1発明、甲2~甲4に記載された技術的事項及び甲5~甲9に基づき認定される周知技術に基づいて、当業者が容易に想到し得るものではない。
(3) 小括
以上のとおり、請求項1~4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。
7 本件特許の特許請求の範囲の記載について
(1)申立人の主張
申立人は、本件特許発明が解決すべき課題が、「本発明は、かかる事情に鑑み、トンネルの周りの空間や地山へ充填材を注入するシステムにおいて、安価な構成で作業管理の利便性を高めることを目的とする。」(本件明細書の【0006】)ことであると認定し、
本件発明1~4において規定されている「コンピューターデバイス」について、本件明細書には、実施形態として「スマートフォン50」のみが開示され、「スマートフォン50」以外の「コンピューターデバイス」に関する具体的な記載は本件明細書に含まれていないことに加え、同【0041】の「トンネル用注入システム6によれば、コンピューターデバイスとしてスマートフォン50を用いることによって、安価な構成で的確に作業管理可能な注入システムを構築でき、作業管理の利便性を高めることができる」という記載を引用して、当業者は、「コンピューターデバイス」の種類について規定されていない本件発明1、3及び4によっては、「安価な構成で作業管理の利便性を高める」という課題を解決できると認識できず、本件発明1、3及び4の技術的範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるものではない旨主張している(申立書28、29頁の「(4)申立ての理由2:サポート要件違反」を参照。)。
(2) 合議体の判断
特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。
この点、本件発明1は、制御系が、ポンプ制御部とデータ中継部とを有する制御基板とは別に、「前記データ中継部からの注入データをシリアルに受け取り、蓄積注入データとして記憶するとともに、前記蓄積注入データを所定タイミング又は出力指令に応じて出力するコンピューターデバイス」(構成C4)を含む手段を具備することにより、「安価な構成で作業管理の利便性を高めることができる」という課題を解決するものである。
そして、本件明細書の「コンピューターデバイスは、スマートフォン50に限らず、タブレットでもよく、ノートパソコンでもよく、デスクトップパソコンでもよく、クラウドコンピューティングでもよい。」(【0043】)との記載に照らせば、本件明細書には、本件発明1の「コンピューターデバイス」の具体例として、「スマートフォン50」のほかに、「タブレット」、「ノートパソコン」、「デスクトップパソコン」、「クラウドコンピューティング」等を開示しているところ、実施例においては、もっぱら、「コンピューターデバイス」が、「スマートフォン50」である場合について記載されているとしても、本件明細書の記載に接した当業者であれば、「コンピューターデバイス」として、「スマートフォン50」の代替として、上記【0043】に例された、「タブレット」、「ノートパソコン」、「デスクトップパソコン」、「クラウドコンピューティング」等を採用して実施できることを直ちに理解できるといえるから、特許請求の範囲において、「コンピューターデバイス」の種類について特定されていなくても、「安価な構成で作業管理の利便性を高める」という課題を解決できると認識することができたものと認められる。
したがって、当業者であれば、本件明細書の記載に照らせば、本件発明1、3及び4に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるといえる。
よって、本件発明1、3及び4は、発明の詳細な説明に記載したものである。
(3) 小括
以上のとおり、本件特許の請求項1、3及び4に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものであって、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしている。
6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1~4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1~4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2025-700998