特許異議申立
2024-700861
焼結用炭材、焼結鉱及び焼結用炭材の製造方法
- 審判番号
- 2024-700861
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2024-501581
- 登録番号
- 7456560
- 請求日
- 2024年09月10日
- 審決日
- 2025年05月23日
- 公報発行日
- 2025年08月29日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】JFEスチール株式会社
- 【権利者代理人】磯村 哲朗
- 【権利者代理人】熊坂 晃
- 【権利者代理人】坂井 哲也
- 【権利者代理人】森 和弘
- 【異議申立人】岩部 英臣
- 審判長/審判官
- 審判長 井上 猛
- 審判官 佐藤 陽一
- 審判官 粟野 正明
- 分類
- P1652.113-YAA(C22B) / P1652.121-YAA(C22B) / P1652.536-YAA(C22B) / P1652.537-YAA(C22B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第9項、特許法第126条第7項、特許法第36条第4項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7456560号発明「焼結用炭材、焼結鉱及び焼結用炭材の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7456560号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、2〕について訂正することを認める。
特許第7456560号の請求項1、2に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本件の特許第7456560号(以下「本件特許」という。)の請求項1~4に係る特許についての出願(特願2024-501581号。以下「本願」という。)は、2023年(令和 5年)11月 6日(優先権主張:令和 4年11月14日)を国際出願日とする出願であって、令和 6年 3月18日にその特許権の設定登録がされ、同年 3月27日に特許掲載公報が発行され、その後、令和 6年 9月10日に、その請求項1、2に係る特許について、特許異議申立人である岩部 英臣(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、同年11月29日付けで取消理由が通知され、令和 7年 1月30日に特許権者により訂正請求書及び意見書が提出され、同年 3月28日に申立人により意見書が提出されたものである。
第2 本件訂正請求について
1 請求の趣旨、及び訂正の内容
令和 7年 1月30日提出の訂正請求書により特許権者が行った訂正請求(以下「本件訂正請求」という。)に係る請求の趣旨は、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、2について訂正することを求める、というものであり、本件訂正請求に係る訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである。なお、訂正箇所には、当合議体が下線を付した。
(1)訂正事項1
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に「乾留後の前記石炭及び前記バイオマス炭の固定炭素に対する前記バイオマス炭の固定炭素の割合(質量%)は0より大きく30質量%以下であり、」と記載されているのを、「乾留後の前記石炭及び前記バイオマス炭の固定炭素に対する前記バイオマス炭の固定炭素の割合(質量%)は10質量%以上30質量%以下であり、」に訂正する。
(2)訂正事項2
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に「乾留後の揮発分含有量が5.0質量%以下である」と記載されているのを、「乾留後の揮発分含有量が2.5質量%以上5.0質量%以下である」に訂正する。
(3)一群の請求項について
本件訂正前の請求項2は訂正前の請求項1を直接引用するものであって、訂正事項1、2に係る請求項1の訂正に連動して訂正されるものであるから、本件訂正前の請求項1、2は、一群の請求項である。
そして、本件訂正請求は、当該一群の請求項ごとに訂正の請求をするものであって、特定の請求項に係る訂正事項について別の訂正単位とする求めもないから、訂正後の請求項〔1、2〕を訂正単位とする訂正を請求するものである。
2 訂正の適否についての当合議体の判断
(1)訂正の目的、特許請求の範囲の拡張、変更の存否、及び新規事項の有無について
ア 訂正事項1について
(ア)訂正の目的
訂正事項1に係る訂正は、訂正前の請求項1に「乾留後の前記石炭及び前記バイオマス炭の固定炭素に対する前記バイオマス炭の固定炭素の割合(質量%)は0より大きく30質量%以下であり、」と記載されているのを、「乾留後の前記石炭及び前記バイオマス炭の固定炭素に対する前記バイオマス炭の固定炭素の割合(質量%)は10質量%以上30質量%以下であり、」に訂正するものであって、上記固定炭素の割合(質量%)の範囲を「0より大きく30質量%以下」から「10質量%以上30質量%以下」に減縮するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
(イ)特許請求の範囲の拡張、変更の存否
訂正事項1に係る訂正は、上記(ア)のとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものとはいえない。
(ウ)新規事項の有無
本願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件明細書等」という。)の【0028】の「表1に示す通り、バイオマス炭としてバイオマスA(ウッドチップ)を用いて乾留後のバイオマスAの固定炭素の割合を0より大きく30質量%以下とする発明例1~3においては、歩留評価が「良(○)」となることが確認できた。」との記載、同じく【0030】の「また、表2に示す通り、バイオマス炭としてバイオマスB(ヤシ種殻)を用いて、乾留後のバイオマスBの固定炭素の割合を0より大きく30質量%以下とする発明例4~6においては、歩留評価が「良(○)」又は「普通(△)」となることが確認できた。」との記載、及び【表1】の「発明例1」及び【表2】の「発明例4」について、「バイオマスA(バイオマスB)の固定炭素の割合(質量%)」がいずれも「10」と記載されていることから、固定炭素の割合(質量%)の範囲を「0より大きく30質量%以下」から「10質量%以上30質量%以下」とする訂正事項1に係る訂正は、本件明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものとはいえない。
したがって、訂正事項1に係る訂正は、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。
イ 訂正事項2について
(ア)訂正の目的
訂正事項2に係る訂正は、訂正前の請求項1に「乾留後の揮発分含有量が5.0質量%以下である」と記載されているのを、「乾留後の揮発分含有量が2.5質量%以上5.0質量%以下である」に訂正するものであって、上記乾留後の揮発分含有量の範囲を「5.0質量%以下」から「2.5質量%以上5.0質量%以下」に減縮するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
(イ)特許請求の範囲の拡張、変更の存否
訂正事項2に係る訂正は、上記(ア)のとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものとはいえない。
(ウ)新規事項の有無
本件明細書等の【0028】の「表1に示す通り、バイオマス炭としてバイオマスA(ウッドチップ)を用いて、・・・(中略)・・・発明例1~3においては、乾留後の揮発分含有量(質量%)が5.0質量%以下となることが確認できた。このため、発明例1~3は、何れも排ガス設備評価が「良(○)」となることが確認できた。」との記載、同じく【0030】の「また、表2に示す通り、バイオマス炭としてバイオマスB(ヤシ種殻)を用いて、・・・(中略)・・・発明例4~6においては、乾留後の揮発分含有量(質量%)が5.0質量%以下となることが確認できた。このため、発明例4~6は、何れも排ガス設備評価が「良(○)」となった。」との記載、及び【表2】の「発明例4」について、「乾留後の揮発分含有量(質量%)」が「2.5」と記載されていることから、乾留後の揮発分含有量の範囲を「5.0質量%以下」から「2.5質量%以上5.0質量%以下」とする訂正事項2に係る訂正は、本件明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものとはいえない。
したがって、訂正事項2に係る訂正は、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。
(2)独立特許要件について
本件は、訂正事項1、2に係る訂正前の請求項1、2について特許異議の申立てがされているので、訂正事項1、2について、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
3 本件訂正請求についてのむすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、2〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2の3のとおり、本件訂正請求による訂正は認められるから、本件訂正請求によって訂正された特許請求の範囲の請求項1~4に係る発明は、訂正特許請求の範囲の請求項1~4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。なお、以下において、本願の請求項1~4に係る発明をそれぞれ「本件発明1」~「本件発明4」といい、総称して、「本件発明」という。また、本願の願書に添付した明細書を「本件明細書」という。
「【請求項1】
鉄鉱石の焼結プロセスに使用される焼結用炭材であって、
配合材として石炭及びバイオマス炭を有し、
乾留後の前記石炭及び前記バイオマス炭の固定炭素に対する前記バイオマス炭の固定炭素の割合(質量%)は10質量%以上30質量%以下であり、
乾留後の揮発分含有量が2.5質量%以上5.0質量%以下である、
焼結用炭材。
【請求項2】
請求項1に記載の焼結用炭材を用いて製造された、焼結鉱。
【請求項3】
鉄鉱石の焼結プロセスに使用される焼結用炭材の製造方法であって、
石炭及びバイオマス炭を配合材とする塊成物を形成し、
前記塊成物について、窒素雰囲気下において1000℃以上の温度にて6時間以上保持して乾留する、
焼結用炭材の製造方法。
【請求項4】
前記乾留はコークス炉にて実施される、請求項3に記載の焼結用炭材の製造方法。」
第4 申立理由の概要
申立人は、証拠方法として下記6の甲第1号証~甲第8号証を提出し、以下の理由により、本件訂正前の請求項1、2に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。また、申立人は、令和 7年 3月28日提出の意見書とともに、甲第9号証~甲第14号証を提出している(以下、甲第1号証~甲第14号証を順に「甲1」等という。)。
1 申立理由1(新規性)
(1)申立理由1-1(取消理由として採用)
本件訂正前の請求項1、2に係る発明は、甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)申立理由1-2(取消理由として不採用)
本件訂正前の請求項1、2に係る発明は、甲2に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
2 申立理由2(進歩性)
(1)申立理由2-1(取消理由として不採用)
本件訂正前の請求項1、2に係る発明は、甲5に記載された発明及び甲6に記載された事項に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)申立理由2-2(取消理由として不採用)
本件訂正前の請求項1、2に係る発明は、甲7に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
3 申立理由3(実施可能要件:取消理由として不採用)
本件明細書には、本件訂正前の請求項1、2に係る発明について、どのような条件で塊成物を形成するか、どのような形状、大きさの塊成物にするかは一切記載されていないところ、本件訂正前の請求項1、2に係る発明の技術分野において、焼結用炭材を製造するために石炭とバイオマス炭を配合材として塊成物を形成することは、本願出願時の技術常識でもないから、当業者であっても過度な負担なしに、歩留まりの低下を抑制できる焼結用炭材を得るための、塊成物の製造条件を決定することができない。
したがって、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、本件訂正前の請求項1、2に係る発明について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえず、特許法第36条第4項第1号に適合しないものであるから、同請求項に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
4 申立理由4(サポート要件)
(1)申立理由4-1(取消理由として不採用)
本件訂正前の請求項1、2に係る発明の対象物である「焼結用炭材」としては、
ア 石炭とバイオマス炭を配合した状態で一緒に乾留した物、及び
イ 石炭とバイオマス炭を別々に乾留した後、配合した物
の両方を含み得るところ、本件特許の発明の詳細な説明には、上記アの焼結用炭材のみが記載されており、上記イの焼結用炭材については記載されておらず、サポートされていない。
したがって、本件訂正前の特許請求の範囲の記載は、本件訂正前の請求項1、2に係る発明について、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものとはいえず、特許法第36条第6項第1号に適合しないものであるから、同請求項に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)申立理由4-2(取消理由として不採用)
本件訂正前の請求項1、2に係る発明には、塊成物状である焼結用炭材と、塊成物状でない焼結用炭材の両方が含まれるところ、本件特許の発明の詳細な説明において、後者はサポートされていない。
したがって、本件訂正前の特許請求の範囲の記載は、本件訂正前の請求項1、2に係る発明について、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものとはいえず、特許法第36条第6項第1号に適合しないものであるから、同請求項に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
5 申立理由5(明確性)
(1)申立理由5-1(取消理由として不採用)
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に記載の「バイオマス炭」は、バイオマスの炭化物を指しているのか、炭化する前のバイオマス材を指しているのか、多義的であり、本件明細書の記載や本願出願時の技術常識を参酌しても、その意味を一義的に導き出すことができず、不明確である。請求項1を引用する請求項2についても同様である。
したがって、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1、2の記載は、特許を受けようとする発明が明確であるとはいえず、特許法第36条第6項第2号に適合しないものであるから、同請求項に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)申立理由5-2(取消理由として不採用)
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1には、乾留前の配合材として石炭とバイオマス炭を有することが記載されており、経時的な要素が含まれる。よって、請求項1の記載は、製造方法によって生産物を特定しようとする記載があり、生産物の特徴(構造、性質等)を当業者が理解することができないものであって、しかも、本願の出願時において、請求項1に係る「焼結用炭材」をその構造又は特性により直接特定することが不可能又は実際的でないという事情も存在しない。
また、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項2においては、請求項1に記載の焼結用炭材を用いて製造するという製造方法によって生産物である焼結鉱が特定されているため、請求項2に係る「焼結鉱」の構造や特性は不明であって、しかも、本願の出願時において、請求項2に係る「焼結鉱」をその構造又は特性により直接特定することが不可能又は実際的でないという事情も存在しない。
したがって、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1、2の記載は、特許を受けようとする発明が明確であるとはいえず、特許法第36条第6項第2号に適合しないものであるから、同請求項に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
6 証拠方法
甲1:特開昭57-19338号公報
甲2:特開2003-328044号公報
甲3:LU Liming, 外5名, “IRON ORE SINTERING WITH CHARCOAL”, The 6th International Congress on the Science and Technology of Ironmaking - ICSTI, 42nd International Meeting on Ironmaking and 13th International Symposium on Iron Ore, 2012年10月, p.1121-1131及びその抄訳文
甲4:里中聖一、「木材炭化の基礎的研究」、北海道大学農学部演習林研究報告、1963年10月、第22巻、第2号、p.609-814
甲5:特開2014-218713号公報
甲6:GAN M., 外7名, “Application of biomass fuel in iron ore sintering: influencing mechanism and emission reduction”, Ironmaking & Steelmaking, 2014年5月1日, Volume 42, Issue 1, p.27-33
(https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1179/1743281214Y.0000000194)
甲7:特開2005-272569号公報
甲8:特開2018-3081号公報
甲9:特開2012-26016号公報
甲10:特開2013-87342号公報
甲11:特開2015-199976号公報
甲12:特開2010-254929号公報
甲13:LU Liming, 外6名, “Substitution of Charcoal for Coke Breeze in Iron Ore Sintering”, ISIJ International, Vol.53(2013), No.9, p.1607-1616
甲14:岩波理化学辞典、第3版増補版、岩波書店、1981年、p.1346-1347
第5 取消理由の概要
当合議体は、上記第4の申立理由1-1を採用し、また、職権による理由を追加して、令和6年11月29日付けで以下の取消理由を通知した。
1 取消理由1(新規性:申立理由1-1と同旨)及び取消理由2(進歩性:職権)(甲1を主たる引用文献とするもの)
本件訂正前の請求項1、2に係る発明は、甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
また、本件訂正前の請求項1、2に係る発明は、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
第6 当合議体の判断
当合議体は、以下に述べるとおり、令和6年11月29日付けで通知した取消理由、及び特許異議申立ての理由のいずれによっても、本件特許の請求項1、2に係る特許を取り消すことはできないと判断する。
1 取消理由1(新規性:申立理由1-1と同旨)及び取消理由2(進歩性)(甲1を主たる引用文献とするもの)について
(1)甲1に記載された発明
本願優先日前に公知となった甲1(発明の名称:木炭等を燃料とした焼結鉱の製造方法)の第1頁左欄第4~14行、同頁右欄第4行~第3頁右上欄第3行、第1表、及び第1図~第4図の記載を総合勘案し、特に、特許請求の範囲に記載された「焼結鉱の製造方法」に用いられる炭材であって、粉コークスの10重量%又は20重量%を乾留イピルイピルで置換した炭材、及び当該炭材を用いて製造された焼結鉱に着目すると、甲1には、以下の発明が記載されていると認められる。
「鉱石等の原料に混合されて焼結され、焼結鉱の製造方法に用いられる炭材であって、固定炭素84.4%、揮発分1.6%を含有する粉コークスの一部を、10重量%又は20重量%の置換率で、固定炭素89.8%、揮発分4.9%を含有する乾留イピルイピルで置換した、炭材。」(以下「甲1発明1」という。)
「甲1発明1の炭材を用いて製造された焼結鉱。」(以下「甲1発明2」という。)
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明1とを対比する。
(ア)甲1発明1の「鉱石等の原料に混合されて焼結され、焼結鉱の製造方法に用いられる炭材」は、本件発明1の「鉄鉱石の焼結プロセスに使用される焼結用炭材」に相当する。
(イ)本願優先日当時の技術常識によれば、甲1発明1の「炭材」に含有される「粉コークス」は、石炭を乾留して製造されたものと認められる。
(ウ)甲1の「イピルイピル木炭とはフイリピン等で産される植物であつて、このイピルイピルを通常の木炭と同様に炭化したイピルイピル木炭のほか、更に、乾留して乾留イピルイピルであつて、」(第1頁右欄下から1行~第2頁左上欄第4行)との記載によれば、甲1発明1の「炭材」に含有される「乾留イピルイピル」は、乾留される前の「イピルイピル木炭」を乾留して製造されたものと認められる。
(エ)ここで、本件特許の請求項3の記載及び本件明細書【0015】~【0017】を考慮すれば、本件発明1における「配合材として」の「バイオマス炭」は、バイオマス材由来の炭化物ではあるものの、乾留される前のものを意味すると解するのが相当である。
(オ)また、本件発明1の「焼結用炭材」には、石炭及びバイオマス炭を配合材とする塊成物を形成し、これを乾留して製造されたもののみならず、石炭とバイオマス炭とをそれぞれ乾留した後、これらを配合したものも包含されると解するのが相当である。
(カ)上記(イ)~(オ)の検討からすると、甲1発明1の「炭材」が石炭を乾留して製造された「粉コークス」、及びイピルイピル木炭を乾留して製造された「乾留イピルイピル」を含有することは、本件発明1の「焼結用炭材」が「配合材として石炭及びバイオマス炭を有」すること、及び「乾留後」の「前記石炭」及び「前記バイオマス炭」を含有することに相当する。
(キ)そして、本願優先日当時の技術常識によれば、固定炭素の割合が質量%によるものであることは、明らかであるから、甲1発明1の「炭材」において、「固定炭素84.4%」の「粉コークス」の「10重量%」を「固定炭素89.8%」の「乾留イピルイピル」により置換した場合の、粉コークス及び乾留イピルイピルの固定炭素に対する乾留イピルイピルの固定炭素の割合(質量%)を算出すると、[10%×0.898/(90%×0.844+10%×0.898)]×100=10.57%となる。
(ク)同様に、甲1発明1の「炭材」において、「固定炭素84.4%」の「粉コークス」の「20重量%」を「固定炭素89.8%」の「乾留イピルイピル」により置換した場合の、粉コークス及び乾留イピルイピルの固定炭素に対する乾留イピルイピルの固定炭素の割合(質量%)を算出すると、[20%×0.898/(80%×0.844+20%×0.898)]×100=21.01%となる。
(ケ)上記(カ)~(ク)の検討からすると、甲1発明1の「炭材」が、「固定炭素84.4%」「を含有する粉コークスの一部を、10重量%又は20重量%の置換率で、固定炭素89.8%」「を含有する乾留イピルイピルで置換した」ものであることは、本件発明1の「乾留後の前記石炭及び前記バイオマス炭の固定炭素に対する前記バイオマス炭の固定炭素の割合(質量%)は10質量%以上30質量%以下であ」ることに相当する。
(コ)また、本願優先日当時の技術常識によれば、揮発分の割合が質量%によるものであることは、明らかであるから、甲1発明1の「炭材」において、「揮発分1.6%」の「粉コークス」の「10重量%」を「揮発分4.9%」の「乾留イピルイピル」により置換した場合の、揮発分の含有量(質量%)を算出すると、1.6%×0.9+4.9%×0.1=1.93%となる。
(サ)同様に、甲1発明1の「炭材」において、「揮発分1.6%」の「粉コークス」の「20重量%」を「揮発分4.9%」の「乾留イピルイピル」により置換した場合の、揮発分の含有量(質量%)を算出すると、1.6%×0.8+4.9%×0.2=2.26%となる。
(シ)上記(カ)、(コ)及び(サ)の検討からすると、本件発明1の「焼結用炭材」と甲1発明1の「炭材」とは、「乾留後の揮発分含有量が」「5.0質量%以下である」限りにおいて一致する。
(ス)そうすると、本件発明1と甲1発明1とは、
「鉄鉱石の焼結プロセスに使用される焼結用炭材であって、
配合材として石炭及びバイオマス炭を有し、
乾留後の前記石炭及び前記バイオマス炭の固定炭素に対する前記バイオマス炭の固定炭素の割合(質量%)は10質量%以上30質量%以下であり、
乾留後の揮発分含有量が5.0質量%以下である、
焼結用炭材。」
である点で一致し、次の点で相違する。
<相違点1>
乾留後の揮発分含有量について、本件発明1は、「2.5質量%以上5.0質量%以下である」のに対して、甲1発明1は、1.93質量%又は2.26質量%であって、「2.5質量%以上5.0質量%以下で」はない点。
イ 相違点についての検討
(ア)本件明細書の記載や、本願優先日当時の技術常識を考慮しても、甲1発明1の「炭材」の「乾留後の揮発分含有量」が「2.5質量%以上5.0質量%以下」の範囲内であることが明らかであると認められる程の根拠を見出せないから、上記相違点1は、実質的な相違点である。
(イ)したがって、本件発明1は、甲1発明1であるとはいえない。
(ウ)次に、上記相違点1の容易想到性について検討する。
a 甲1には、「本発明方法はコークス等の炭材の一部をイピルイピル木炭等で置換して焼結するものであるから、安価なイピルイピル木炭等が有効に利用でき経済性が向上するほか、焼結鉱の品質や生産性も十分である。」(第3頁左欄第14~18行)との記載があり、また、「置換率と焼結鉱成品歩留の関係は第2図に示す通りであって、イピルイピル木炭の場合は10%をこえると歩留が低下するが、乾留イピルイピルはその置換によって歩留が向上し、とくに、20%置換したときは、粉コークス100%(置換率0%)よりも2~4%歩留が向上し、置換によってその効果が一層高められることがわかった。」(第2頁左下欄第1~8行)との記載もある。
b ここで、甲1発明1において、炭材に含まれる粉コークスの一部を置換するために用いられる「乾留イピルイピル」は、フィリピン等で産される植物であるイピルイピルを通常の木炭と同様に炭化して得たイピルイピル木炭を、更に、乾留して得たもの(甲1の第1頁右欄下から1行~第2頁左上欄第3行)であって、揮発分が4.9%含まれ、乾留される前のイピルイピル木炭に含まれる揮発分が33.2%である(第1表)のに比べて著しく揮発分が低減されたものである。
c そうすると、焼結用炭材として、「乾留イピルイピル」を用い、乾留後の揮発分含有量が1.93質量%又は2.26質量%と十分低減され、歩留が向上した甲1発明1において、該「乾留イピルイピル」よりも揮発分が多く含まれた炭材を用いて、乾留後の揮発分含有量が「2.5質量%以上5.0質量%以下」の範囲内となるように増加させることには阻害要因が存在すると言わざるを得ず、そのように変更する動機付けがあるともいえない。
d したがって、甲1発明1において、上記相違点1に係る特定事項を備えようとすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
(エ)よって、本件発明1によって奏される効果について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明1に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)本件発明2について
ア 本件発明2と甲1発明2とを対比すると、両者は、上記(2)ア(ス)の相違点1と同様の点で相違する。
イ そして、上記相違点1については、上記(2)イにおいて検討したとおりであるから、本件発明2は、甲1発明2であるとはいえず、また、甲1発明2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
(4)申立人の主張について
ア 申立人は、令和 7年 3月28日提出の意見書において、「木炭」が「木材を乾留して得られる炭質物」と定義されるものであること(甲14)からすると、甲1の記載の「イピルイピル木炭」についても、本件発明1の「乾留後の」「バイオマス炭」に相当するものであることは、明らかであると主張し(第5頁第5~19行)、これを根拠として、甲1において、焼結鉱の製造に用いるコークスの一部を「イピルイピル木炭」で置換した炭材に基づいて認定した甲1A発明(1)、甲1A発明(2)(当合議体注:「(1)」、「(2)」は、丸の中に「1」、「2」を記載したものをそれぞれ表す。)(特許異議申立書第15頁)に対して、本件発明1、2は新規性がない旨(特許異議申立書第98~99頁)改めて主張している。
イ そこで、上記アの主張について検討する。
(ア)本願優先日当時の技術常識によれば、木材を炭化して木炭を生産する方法としては、木炭生産を主とする炭窯法等の製炭法と、ガスや木酢、木タール等の採取を主とする乾留法とが存在する(日本大百科全書(ニッポニカ)の「木炭」の項目参照。)と認められる。
(イ)そうすると、「木炭」には、乾留を経て得られるものとはいえない炭質物も含まれる可能性を否定できない。
(ウ)そして、甲1には、「イピルイピル木炭」が「イピルイピルから製造された木炭」(第1頁左欄第11~12行)とは記載されているものの、乾留によって製造されたことは明記されておらず、揮発分を33.2%含有している(第1表)こと、及び上記(イ)の事情を考慮すると、乾留して得られたものと断言することはできない。
(エ)したがって、上記アの主張は、根拠を欠くものと言わざるを得ないから、採用しない。
(5)取消理由1(申立理由1-1と同旨)及び取消理由2についてのまとめ
以上のとおり、本件発明1、2は、甲1に記載された発明であるとはいえず、また、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえないから、取消理由1、申立理由1-1、及び取消理由2によっては、本件発明1、2に係る特許を取り消すことはできない。
2 申立理由1-2(新規性)(甲2を主たる引用文献とするもの)について
(1)甲2に記載された発明
本願優先日前に公知となった甲2(発明の名称:バイオマス炭化物を利用した焼結鉱製造方法及び下方吸引式焼結鉱製造装置)の【請求項1】、【0003】、【0007】、【0009】、【0014】~【0023】の記載を総合勘案すると、甲2には、以下の発明が記載されていると認められる。
「下方吸引式焼結機で焼結鉱を製造するのに用いられ、鉄鉱石とともに焼結原料に含まれるコークス及びバイオマス炭化物であって、
窒素を2.3質量%-dry未満かつ硫黄を1質量%-dry未満含むバイオマス炭化物が上記焼結原料に0.1~9.0質量%含有される、
コークス及びバイオマス炭化物。」(以下「甲2発明1」という。)
「甲2発明1のコークス及びバイオマス炭化物を用いて製造された焼結鉱。」(以下「甲2発明2」という。)
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲2発明1とを対比する。
(ア)甲2発明1の「コークス」は、本件発明1の「配合材として」の「石炭」に相当し、同じく甲2発明1の「バイオマス炭化物」は、本件発明1の「配合材として」の「バイオマス炭」に相当する。
(イ)甲2発明1の「下方吸引式焼結機で焼結鉱を製造するのに用いられ、鉄鉱石とともに焼結原料に含まれるコークス及びバイオマス炭化物」は、本件発明1の「鉄鉱石の焼結プロセスに使用される焼結用炭材」に相当する。
(ウ)そうすると、本件発明1と甲2発明1とは、
「鉄鉱石の焼結プロセスに使用される焼結用炭材であって、
配合材として石炭及びバイオマス炭を有する、
焼結用炭材。」
である点で一致し、次の各点で相違する。
<相違点2>
本件発明1は、乾留後の石炭及びバイオマス炭の固定炭素に対する前記バイオマス炭の固定炭素の割合(質量%)が「10質量%以上30質量%以下」であるのに対して、甲2発明1は、上記割合(質量%)が不明である点。
<相違点3>
本件発明1に係る焼結用炭材は、乾留後の揮発分含有量が2.5質量%以上5.0質量%以下であるのに対して、甲2発明1に係る「コークス及びバイオマス炭化物」は、乾留後の揮発分含有量が不明である点。
イ 相違点についての検討
(ア)事案に鑑みて、上記相違点2についてまず検討する。
a 甲2には、甲2発明1に係る「コークス及びバイオマス炭化物」の乾留後の固定炭素の量についての記載はないから、本願優先日当時の技術常識を考慮しても、甲2発明1に係る「コークス及びバイオマス炭化物」の乾留後の固定炭素の量は不明である。
b この点に関し、申立人は、特許異議申立書の第101頁第1行~第102頁第7行において、甲3の表3に記載されるタイプ1~4の木炭の固定炭素量とC量の関係から、甲2の表1に示されるC量が97.5%の場合の、バイオマス炭化物の固定炭素量は、約90%と導出され、同じく甲3の表3に粉コークスの固定炭素量が84.6%であることが記載されていることから、例えば、甲2の表2の試験例No.2の配合の場合における、コークス及びバイオマス炭化物の固定炭素に対するバイオマス炭化物の固定炭素の割合(質量%)は2.23%と求められるので、本件訂正前の請求項1に係る発明の「乾留後の前記石炭及び前記バイオマス炭の固定炭素に対する前記バイオマス炭の固定炭素の割合(質量%)は0より大きく30質量%以下であり」に相当する旨主張している。
c そこで、上記bの主張について検討するに、そもそも木炭をはじめとするバイオマス炭化物といっても、原材料や製造方法によって含有する固定炭素の量は通常異なるはずであるから、甲3の表3に記載される各種木炭の固定炭素量とC量の関係をそのまま甲2に係るバイオマス炭化物に当てはめることはできないし、仮に当てはめることが可能であるとしても、本件訂正により、本件発明1の「乾留後の前記石炭及び前記バイオマス炭の固定炭素に対する前記バイオマス炭の固定炭素の割合(質量%)は」「10質量%以上30質量%以下」となっているから、甲2の表2の試験例No.2の配合の場合における、コークス及びバイオマス炭化物の固定炭素に対するバイオマス炭化物の固定炭素の割合(質量%)である、2.23%は、「10質量%以上30質量%以下」の範囲外である。
d したがって、いずれにしても、上記bの主張は、根拠を欠くものと言わざるを得ないから、採用しない。
e よって、上記相違点2は、実質的な相違点である。
(イ)以上のとおりであるから、上記相違点3について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明1であるとはいえない。
(3)本件発明2について
ア 本件発明2と甲2発明2とを対比すると、両者は、上記(2)ア(ウ)の相違点2、3と同様の点で相違する。
イ そして、上記相違点2については、上記(2)イにおいて検討したとおりであるから、本件発明2は、甲2発明2であるとはいえない。
(4)申立理由1-2についてのまとめ
以上のとおり、本件発明1、2は、甲2に記載された発明であるとはいえないから、申立理由1-2によっては、本件発明1、2に係る特許を取り消すことはできない。
3 申立理由2-1(進歩性)(甲5を主たる引用文献とするもの)について
(1)甲5に記載された発明
本願優先日前に公知となった甲5(発明の名称:焼結鉱の製造方法)の【請求項1】~【請求項4】、【0015】、【0024】~【0026】、【0029】、【0036】~【0037】、【0050】~【0054】、【0105】~【0108】の記載を総合勘案し、特に、実施例において、炭材のうち70%をアブラ椰子核殻炭(PKS炭)に置換した配合1の焼結原料に係る「本発明例1」及び「本発明例2」に着目すると、甲5には、以下の発明が記載されていると認められる。
「鉄鉱石を含む焼結原料を使用して焼結鉱を製造する実験で使用される炭材であって、
上記炭材のうち30%を粉コークス、70%をPKS炭とし、
上記粉コークスは、固定炭素87.7%、揮発分1.0%を含有するものであり、
上記PKS炭は、固定炭素85.9%、揮発分6.5%を含有するものであって、平均粒径4.2mmのPKS炭Aか、または、固定炭素87.9%、揮発分2.6%を含有するものであって、平均粒径4.9mmのPKS炭Bである、
炭材。」(以下「甲5発明1」という。)
「甲5発明1の炭材を用いて製造された焼結鉱。」(以下「甲5発明2」という。)
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲5発明1とを対比する。
(ア)甲5発明1の「鉄鉱石を含む焼結原料を使用して焼結鉱を製造する実験で使用される炭材」は、本件発明1の「鉄鉱石の焼結プロセスに使用される焼結用炭材」に相当する。
(イ)甲5発明1の「炭材」に含まれる「粉コークス」及び「PKS炭」は、それぞれ本件発明1の「配合材として」の「石炭」及び「バイオマス炭」に相当する。
(ウ)そうすると、本件発明1と甲5発明1とは、
「鉄鉱石の焼結プロセスに使用される焼結用炭材であって、
配合材として石炭及びバイオマス炭を有する、
焼結用炭材。」
である点で一致し、次の各点で相違する。
<相違点4>
本件発明1は、「乾留後の前記石炭及び前記バイオマス炭の固定炭素に対する前記バイオマス炭の固定炭素の割合(質量%)は10質量%以上30質量%以下であ」るのに対して、甲5発明1は、炭材に含まれる「粉コークス」及び「PKS炭」が所定の「固体炭素」を含有するものではあるものの、乾留後の上記割合が不明である点。
<相違点5>
本件発明1は、「乾留後の揮発分含有量が2.5質量%以上5.0質量%以下である」のに対して、甲5発明1は、炭材に含まれる「粉コークス」及び「PKS炭」が所定の「揮発分」を含有するものではあるものの、乾留後の揮発分含有量が不明である点。
イ 相違点についての検討
(ア)事案に鑑みて、上記相違点4についてまず検討する。
a 上記1(4)において検討したのと同様に、アブラ椰子核殻炭(PKS炭)といっても、必ずしも乾留によって製造されたものとはいえないから、甲5発明1における「PKS炭A」又は「PKS炭B」が所定の固定炭素を含有しているからといって、申立人が特許異議申立書の第107頁第4行~下から2行において主張するように、そのデータのみを根拠として、「乾留後の前記石炭及び前記バイオマス炭の固定炭素に対する前記バイオマス炭の固定炭素の割合(質量%)」を算出することはできない。
b したがって、上記相違点4は実質的な相違点である。
c 次に、上記相違点4の容易想到性について検討する。
(a)甲5発明1は、「バイオマスとしてアブラ椰子核殻(PKS)を加熱処理して炭化させたPKS炭を焼結用固体炭材として利用することにより、地球温暖化ガスである炭酸ガス排出量を抑制するとともに、好ましい操業条件を見出し、適正な操業技術を確立して、焼結生産性を向上させることができる焼結鉱の製造方法を提供すること」(【0029】)を目的としたものではあるものの、より具体的には、PKS炭のような燃焼性の良好な炭材を使用するに際し、既存炭材である粉コークスや無煙炭よりも粗粒化することにより、燃焼時間を延長して、成品歩留の低下を抑えつつ焼結生産率を向上させることを狙ったものであって、焼結原料に含まれる炭材の乾留後の固定炭素の含有量に着目したものではない。
(b)そうすると、甲5発明1において、乾留後の固定炭素の含有量に着目して、上記相違点4に係る特定事項を備えようとする動機付けがあるとはいえない。この点については、甲6の記載を参照しても同様である。
d また、仮に、甲5発明1における「粉コークス」、「PKS炭A」及び「PKS炭B」の「固定炭素」の含有量が、乾留後のものであるとして、「乾留後の前記石炭及び前記バイオマス炭の固定炭素に対する前記バイオマス炭の固定炭素の割合(質量%)」を計算すると、以下のとおりであり、「10質量%以上30質量%以下」の範囲外である。なお、本願優先日当時の技術常識によれば、甲5発明1におけるPKS炭による置換割合、固体炭素含有量は、いずれも「質量%」を基準としたものであることは、明らかである。
(a)炭材のうち30%を粉コークス、70%をPKS炭Aとした場合
(70%×0.859)/(30%×0.877+70%×0.859)×100=69.6%
(b)炭材のうち30%を粉コークス、70%をPKS炭Bとした場合
(70%×0.879)/(30%×0.877+70%×0.879)×100=70.0%
e そして、甲5には、「PKS炭の配合は、通常は、固体炭材の一部をPKS炭に置き換えることにより行うが、固体炭材の全部をPKS炭に置き換えてもよい。」(【0078】)と記載されていることも考慮すれば、甲5発明1において、「乾留後の前記石炭及び前記バイオマス炭の固定炭素に対する前記バイオマス炭の固定炭素の割合(質量%)」を「10質量%以上30質量%以下」となるように低下させる動機付けがあるとはいえない。この点についても甲6の記載を参照しても同様である。
f したがって、いずれにしても、甲5発明1において、上記相違点4に係る特定事項を備えようとすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
(イ)よって、上記相違点5について検討するまでもなく、本件発明1は、甲5発明1及び甲6に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)本件発明2について
ア 本件発明2と甲5発明2とを対比すると、両者は、上記(2)ア(ウ)の相違点4、5と同様の点で相違する。
イ そして、上記相違点4については、上記(2)イにおいて検討したとおりであるから、本件発明2は、甲5発明2及び甲6に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(4)申立理由2-1についてのまとめ
以上のとおり、本件発明1、2は、甲5に記載された発明及び甲6に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、申立理由2-1によっては、本件発明1、2に係る特許を取り消すことはできない。
4 申立理由2-2(進歩性)(甲7を主たる引用文献とするもの)について
(1)甲7に記載された発明
本願優先日前に公知となった甲7(発明の名称:木質系バイオマスを用いた高炉用コークスの製造方法)の【請求項1】、【0027】、【0029】~【0031】、【0050】の記載を総合勘案し、実施例の高炉用コークスに着目すると、甲7には、以下の発明が記載されていると認められる。
「杉の廃材を原料とし、乾燥及び加熱処理した後、破砕機により粒度が10mm以下になるように破砕処理を行った木質系バイオマス原料を、石炭に対して質量比で2%混合した後、コークス炉に装入して、1200℃で18時間乾留を行って製造された、高炉用コークス。」(以下「甲7発明」という。)
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲7発明とを対比する。
(ア)甲7発明の「木質系バイオマス原料」と、本件発明1の「バイオマス炭」とは、「配合材として」のバイオマス原料である限りにおいて一致する。
(イ)甲7発明の「高炉用コークス」と、本件発明1の「焼結用炭材」とは、炭材である限りにおいて一致する。
(ウ)そうすると、本件発明1と甲7発明とは、
「配合材として石炭及びバイオマス原料を有する炭材。」
である点で一致し、次の各点で相違する。
<相違点6>
本件発明1の炭材は、「鉄鉱石の焼結プロセスに使用される焼結用炭材」であるのに対して、甲7発明の炭材は、「高炉用コークス」であって、焼結用炭材ではない点。
<相違点7>
本件発明1の「焼結用炭材」が配合材として有するバイオマス原料は、「バイオマス炭」であるのに対して、甲7発明の「高炉用コークス」に原料として混合されるのは、「木質系バイオマス原料」であって、「バイオマス炭」ではない点。
<相違点8>
本件発明1は、「乾留後の前記石炭及び前記バイオマス炭の固定炭素に対する前記バイオマス炭の固定炭素の割合(質量%)は10質量%以上30質量%以下であ」るのに対して、甲7発明は、乾留後の上記固定炭素の割合(質量%)が不明である点。
<相違点9>
本件発明1は、「乾留後の揮発分含有量が2.5質量%以上5.0質量%以下である」のに対して、甲7発明は、乾留後の揮発分含有量が不明である点。
イ 相違点についての検討
(ア)事案に鑑みて、上記相違点8についてまず検討する。
a 申立人は、特許異議申立書において、甲7発明の認定の根拠となった実施例に関し、「この実施例を本件特許明細書の表1(段落0025)に示される発明例および比較例と比較すると、当該実施例はバイオマスの配合率が2%であるので、本件特許明細書における比較例1(バイオマスAの配合率0%)と発明例1(バイオマスAの配合率24%)の間に該当する。そして、当該実施例における乾留の温度(1200℃)や時間(18時間)も、本件特許明細書の段落0022に記載の条件(1000℃以上の温度にて6時間以上)を満たす。そうすると、上記甲第7号証に記載される木質系バイオマス原料を2%配合して乾留して得られた実施例は、本件特許発明1の構成C(当合議体注:上記相違点8に対応する構成)及びDの条件を満たす蓋然性が高い。」(第110頁)と主張している。
しかしながら、甲7発明の認定の根拠となった実施例と、本件明細書における比較例1及び発明例1とは、バイオマス炭の原材料や乾留の具体的な条件が同じものであるとはいえない。そして、バイオマス炭の原材料や乾留の具体的な条件の違いに応じて、固体炭素の割合が異なるものとなることは、明らかであって、これらの違いを捨象する上記主張は前提を欠くものといえるから、採用しない。
b また、甲7のその他の記載、甲8の記載事項、及び本願優先日当時の技術常識を考慮しても、甲7発明が「乾留後の前記石炭及び前記バイオマス炭の固定炭素に対する前記バイオマス炭の固定炭素の割合(質量%)は10質量%以上30質量%以下であ」るとの特定事項を備えていると認められる根拠を見出せない。
したがって、上記相違点8は、実質的な相違点である。
c 次に、上記相違点8の容易想到性について検討する。
(a)甲7には、甲7発明に係る「高炉用コークス」に関し、その固体炭素の量に着目した記載は見当たらないから、甲7発明において、上記相違点8に係る特定事項を備えようとする動機付けがあるとはいえない。このことは、甲8に記載された周知技術を参照しても同様である。
(b)したがって、甲7発明において、上記相違点8に係る特定事項を備えようとすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
(イ)よって、上記相違点6、7、9について検討するまでもなく、本件発明1は、甲7発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)本件発明2について
ア 本件発明2と甲7発明とを対比すると、両者は、少なくとも上記(2)ア(ウ)の相違点6~9と同様の点で相違する。
イ そして、上記相違点8については、上記(2)イにおいて検討したとおりであるから、本件発明2は、甲7発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(4)申立理由2-2についてのまとめ
以上のとおり、本件発明1、2は、甲7に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、申立理由2-2によっては、本件発明1、2に係る特許を取り消すことはできない。
5 申立理由3(実施可能要件)について
(1)本件明細書には、本件発明1に係る「焼結用炭材」、及び本件発明2に係る「焼結鉱」の製造に用いられる「焼結用炭材」について、以下の記載がある。
ア 「鉄鉱石の焼結プロセスに使用される焼結用炭材の製造方法は、先ず、石炭及びバイオマス炭を配合材とする塊成物を形成する。そして、塊成物について、窒素雰囲気下において1000℃以上の温度にて6時間以上保持して乾留する。」(【0019】)
イ 「焼結用炭材は、石炭及びバイオマス炭を配合した塊成物の乾留を、乾留後の焼結用炭材の揮発分含有量(質量%)が5.0質量%以下となるまで実施する。」(【0018】)
ウ 「鉄鉱石の焼結プロセスは、焼結機を用いて行う。焼結プロセスは、先ず、鉄鉱石である鉄源にフラックス等の副原料及び焼結用炭材を加えた焼結用原料を、焼結機上に連続的に装入して焼結ベッドを形成する。そして、焼結ベッドの上端の焼結用炭材を点火した後、下端から排ガスを吸引することで、焼結用炭材の燃焼が焼結ベッドの上端から下端へ伝播し、その燃焼熱によって鉄源と副原料との燃焼反応が発生し、焼結用原料が焼き固められる。焼結用ベッドの下端からの排ガスの吸引は、ブロワーを用いて行われる。吸引された排ガスは、ブロワーを介してダクト内を流通し、集塵機や、脱硫設備、脱硝設備等を経て、煙突から排出される。」(【0020】)
(2)そうすると、上記(1)ア、イの記載、及び本願出願時の技術常識を考慮することにより、当業者であれば、本件発明1に係る「焼結用炭材」、及び本件発明2に係る「焼結鉱」の製造に用いられる「焼結用炭材」を製造することは、十分可能であるといえる。
(3)この点、申立人は、特許異議申立書において、本件明細書には、本件発明1、2について、どのような条件で塊成物を形成するか、どのような形状、大きさの塊成物にするかは一切記載されていないところ、本件発明1、2の技術分野において、焼結用炭材を製造するために石炭とバイオマス炭を配合材として塊成物を形成することは、本願出願時の技術常識でもないから、当業者であっても過度な負担なしに、歩留まりの低下を抑制できる焼結用炭材を得るための、塊成物の製造条件を決定することができない旨主張している(第112頁)が、本件明細書中に、本件発明1、2に係る「焼結用炭材」を製造する過程における塊成物の形状、大きさ及び製造条件が明記されていなくても、当業者であれば、本願出願時の技術常識を踏まえ、通常の塊成物製造条件を参考にして、上記塊成物を得ることは、十分可能であるといえる。
したがって、上記主張は採用しない。
(4)また、上記(1)ウの記載を参照することにより、当業者であれば、本件発明1に係る「焼結用炭材」、及び本件発明2に係る「焼結鉱」の製造に用いられる「焼結用炭材」を用いて「焼結鉱」を製造することは、十分可能であるといえる。
(5)したがって、本件明細書の記載は、本件発明1、2について、その物を作れ、かつ、その物を使用できるように記載したものといえる。
(6)申立理由3についてのまとめ
以上のとおり、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、本件発明1、2について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるから、申立理由3によっては、本件発明1、2に係る特許を取り消すことはできない。
6 申立理由4-1、4-2(サポート要件)について
(1)本件明細書の【0011】の記載によれば、本件発明が解決しようとする課題は、「焼結鉱の製造において、環境負荷の低減を図ると共に、焼結鉱の歩留まりの低下及び設備トラブルを抑制できる焼結用炭材、焼結鉱及び焼結用炭材の製造方法を提供すること」にあると認められる。
(2)そして、本件明細書の【0015】の「鉄鉱石の焼結プロセスに使用される焼結用炭材は、石炭及びバイオマス炭を配合材とする。粉コークスや無煙炭等からなる石炭のみとする従来の配合に対し、部分的にバイオマス炭による代替(配合)を行うことで、石炭の相対的な使用を削減し、環境負荷の低減が可能となる。」との記載、【0016】の「バイオマス炭の固定炭素の割合(質量%)を0より大きく30質量%以下とすることで、焼結鉱の歩留まりの低下を抑制できる。そして、焼結鉱の歩留まりの低下の抑制を踏まえ、バイオマス炭の固定炭素の割合の最大化を図ると共に、石炭の固定炭素の割合の最小化を図り、二酸化炭素の排出量の削減を最大化できる。」との記載、及び【0018】の「焼結用炭材は、石炭及びバイオマス炭を配合した塊成物の乾留を、乾留後の焼結用炭材の揮発分含有量(質量%)が5.0質量%以下となるまで実施する。これにより、焼結用炭材を焼結プロセスに使用したとしても、熱反応に伴う水分等の揮発が抑えられ、タールの揮発も抑えることができる。この結果、タールの付着等に起因する設備トラブルを抑制できる。」との記載によれば、「鉄鉱石の焼結プロセスに使用される焼結用炭材は、石炭及びバイオマス炭を配合材と」とし、「バイオマス炭の固定炭素の割合(質量%)を0より大きく30質量%以下と」し、「石炭及びバイオマス炭を配合した塊成物の乾留を、乾留後の焼結用炭材の揮発分含有量(質量%)が5.0質量%以下となるまで実施する」ことにより「焼結用炭材」を得ることによって、上記(1)の課題を解決できることを当業者であれば認識できるといえる。
(3)一方、本件発明1、2は、上記第3のとおり、鉄鉱石の焼結プロセスに使用される焼結用炭材であって、配合材として石炭及びバイオマス炭を有し、乾留後の前記石炭及び前記バイオマス炭の固定炭素に対する前記バイオマス炭の固定炭素の割合(質量%)は10質量%以上30質量%以下であり、乾留後の揮発分含有量が2.5質量%以上5.0質量%以下である、焼結用炭材に係るものであるから、上記(2)のとおりの、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものとはいえない。
(4)この点、申立人は、特許異議申立書において、本件発明1、2の対象物である「焼結用炭材」としては、
ア 石炭とバイオマス炭を配合した状態で一緒に乾留した物、及び
イ 石炭とバイオマス炭を別々に乾留した後、配合した物
の両方を含み得るところ、本件特許の発明の詳細な説明には、上記アの焼結用炭材のみが記載されており、上記イの焼結用炭材については記載されておらず、サポートされていない旨主張している(第112~113頁)が、上述のとおり、石炭とバイオマス炭についてどの順序で配合及び乾留を実施するかによらず、上記(2)の解決手段を採用することにより上記(1)の課題が解決されることは、当業者であれば十分認識できるから、上記主張は採用しない。
(5)また、申立人は、特許異議申立書において、本件発明1、2には、塊成物状である焼結用炭材と、塊成物状でない焼結用炭材の両方が含まれるところ、本件特許の発明の詳細な説明において、後者はサポートされていない旨主張している(第113~114頁)が、上述のとおり、得られる焼結用炭材が塊成物状か否かによらず、上記(2)の解決手段を採用することにより上記(1)の課題が解決されることは、当業者であれば十分認識できるから、上記主張は採用しない。
(6)申立理由4-1、4-2についてのまとめ
以上のとおり、本件特許の特許請求の範囲の請求項1、2の記載は、本件発明1、2について、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるから、申立理由4-1、4-2によっては、本件発明1、2に係る特許を取り消すことはできない。
7 申立理由5-1、5-2(明確性)について
(1)申立理由5-1について
ア 本件特許の特許請求の範囲の請求項1には、「焼結用炭材」が「配合材として石炭及びバイオマス炭を有し」、「乾留後の前記石炭及び前記バイオマス炭の固定炭素に対する前記バイオマス炭の固定炭素の割合(質量%)は10質量%以上30質量%以下である」との記載がある。
イ そして、本件明細書の【0022】には、「バイオマス炭」に関して、「バイオマス炭として、ウッドチップのバイオマス材(以下、「バイオマスA」という。)、及び、ヤシ種殻のバイオマス材(以下、「バイオマスB」という。)を用意し、各々石炭と所定の割合で配合して乾留炉(コークス炉)にて乾留を行い、焼結用炭材を製造した。」との記載がある。
ウ ここで、上記イの記載を参照すると、本件発明1、2に係る「焼結用炭材」に含まれる「バイオマス炭」が、バイオマスの炭化物を指しているのか、それとも炭化する前のバイオマス材を指しているのかが一見不明確であるともいえるが、「バイオマス炭」というからには、何らかの炭化工程を経て得られたものであることは、明らかである。
エ したがって、本件発明1、2に係る「焼結用炭材」に含まれる「バイオマス炭」を炭化する前のバイオマス材と解する余地はなく、本件特許の請求項1、2の記載は、この点で特許を受けようとする発明が明確であるといえる。
(2)申立理由5-2について
ア 請求項1の記載について
(ア)本件特許の請求項1には、「鉄鉱石の焼結プロセスに使用される焼結用炭材であって、配合材として石炭及びバイオマス炭を有し、乾留後の前記石炭及び前記バイオマス炭の固定炭素に対する前記バイオマス炭の固定炭素の割合(質量%)は10質量%以上30質量%以下であり、乾留後の揮発分含有量が2.5質量%以上5.0質量%以下である、焼結用炭材」との記載があり、この記載における「配合材として石炭及びバイオマス炭を有し」との記載は、乾留後の「焼結用炭材」が、乾留前に、「配合材」として、「石炭及びバイオマス炭」を有することを意味しているから、経時的な要素を含む記載と認められる。
(イ)そうすると、本件特許の請求項1の記載は、「焼結用炭材」という物の発明について、その物の製造方法が記載されている場合に該当するから、その請求項の記載が「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは、出願時においてその物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情(以下「不可能・非実際的事情」という。)が存在するときに限られると解する余地がある。
(ウ)そこで、本件特許の請求項1の記載について検討するに、本件発明1に係る「焼結用炭材」は、請求項1の記載からすると、乾留後のものであることは、明らかであって、配合材として含まれる「石炭」及び「バイオマス炭」が乾留された構造を備えていることは、明確である。
(エ)したがって、上記(イ)の不可能・非実際的事情の有無にかかわらず、請求項1の記載は、この点で特許を受けようとする発明が明確であるといえるから、明確性要件との関係で問題とされるべきプロダクトバイプロセスクレームには該当しない。
イ 請求項2の記載について
(ア)本件特許の請求項2には、「請求項1に記載の焼結用炭材を用いて製造された、焼結鉱」との記載があり、この記載は、経時的な要素を含む記載であって、「焼結鉱」という物の発明について、その物の製造方法が記載されている場合に該当する。
(イ)そうすると、上記ア(イ)において検討したのと同様、請求項2の記載が「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは、出願時においてその物をその構造又は特性により直接特定することについて不可能・非実際的事情が存在するときに限られると解する余地がある。
(ウ)ここで、当合議体が職権により発見した「佐々木 稔 他1名、“焼結反応からみた焼結鉱の組織と品質”、鉄と鋼、第68年(1982)、第6号、第563~571頁」(以下「参考文献」という。)には、鉄鉱石、返鉱、石灰石粉、珪石や蛇紋岩の粉、ならびに粉コークスをよく混合して得た焼結原料(第563頁右欄第1~4行)を焼結機により焼結する際の、焼結鉱製造工程の概要(図1)、及び焼結層内の温度分布と化学組成分布(図2)に関して、以下の記載がある。
「
[図:0001425753000001.jpg]
」
(エ)上記(ウ)の図2によれば、焼結鉱製造の焼結完了帯においても、焼結原料に含まれていたコークス由来の炭素が微量ながら含有されていることが見て取れる。
(オ)そうすると、本件特許の請求項2に係る「焼結鉱」においても、焼結原料に含まれていた焼結用炭材に由来する炭素が微量であっても含まれている蓋然性が高く、当該焼結鉱が、そのような焼結用炭材の痕跡を含む構造を備えていることは、明確である。
(カ)したがって、上記(イ)の不可能・非実際的事情の有無にかかわらず、請求項2の記載は、この点で特許を受けようとする発明が明確であるといえるから、明確性要件との関係で問題とされるべきプロダクトバイプロセスクレームには該当しない。
(3)申立理由5-1、5-2についてのまとめ
以上のとおり、本件特許の特許請求の範囲の請求項1、2の記載は、本件発明1、2について、特許を受けようとする発明が明確であるといえるから、申立理由5-1、5-2によっては、本件発明1、2に係る特許を取り消すことはできない。
8 甲13に係る申立人の主張について
申立人は、令和 7年 3月28日提出の意見書において、「甲13に記載の処理木炭を25%配合した炭材は、固定炭素の割合及び揮発分含有量について、訂正特許発明1に規定される範囲に該当する。よって、甲13に記載の発明は訂正特許発明1に該当するため、訂正特許発明1は新規性がない。」(第5頁第1~4行)と主張しているが、当該主張に係る理由は、訂正により追加された事項についての見解など訂正の請求の内容に付随して生じる理由である場合、及び適切な取消理由を構成することが一見して明らかな場合のいずれにも該当せず、実質的に新たな理由及び証拠を追加するものであるから、採用しない。
第7 むすび
以上のとおりであるから、令和 6年11月29日付け取消理由通知書に記載した取消理由、及び申立人による特許異議の申立ての理由によっては、本件特許の請求項1、2に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1、2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700861