特許異議申立
2024-700769
排ガス浄化触媒
- 審判番号
- 2024-700769
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2023-568454
- 登録番号
- 7437572
- 請求日
- 2024年08月14日
- 審決日
- 2025年07月01日
- 公報発行日
- 2025年10月31日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】株式会社キャタラー
- 【権利者代理人】青木 篤
- 【権利者代理人】三橋 真二
- 【権利者代理人】関根 宣夫
- 【権利者代理人】青木 修二郎
- 【権利者代理人】村上 智史
- 【権利者代理人】勝又 秀夫
- 【異議申立人】岩部 英臣
- 審判長/審判官
- 審判長 原 賢一
- 審判官 金 公彦
- 審判官 田口 裕健
- 分類
- P1651.121-YAA(B01J) / P1651.536-YAA(B01J) / P1651.537-YAA(B01J) / P1651.851-YAA(B01J) / P1651.853-YAA(B01J) / P1651.857-YAA(B01J)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第9項、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7437572号発明「排ガス浄化触媒」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7437572号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~13〕について訂正することを認める。
特許第7437572号の請求項1~6、8~13に係る特許を維持する。
特許第7437572号の請求項7に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7437572号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~13に係る特許についての出願は、2023年(令和5年)6月20日(優先権主張 令和4年8月25日)を国際出願日とするものであって、令和6年2月14日にその特許権の設定登録がされ、同年同月22日に特許掲載公報が発行され、その後、同年8月14日に、請求項1~13に係る特許について、特許異議申立人 岩部 英臣(以下、「申立人」という。)により、甲第1~5号証を証拠方法として特許異議の申立てがなされ、令和7年2月10日付で当審より取消理由が通知され、その指定期間内である同年4月4日に特許権者より意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)がされ、同年5月19日に申立人より甲第6~8号証を添付して意見書(以下、「申立人意見書」という。)が提出されたものである。
第2 本件訂正請求による訂正の適否
1 訂正の内容及び一群の請求項について
本件訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)は、請求の趣旨を、「特許第7437572号 の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~13に訂正することを求めます。」とするものであって、その訂正の内容は、以下のとおりである(当審注:下線は訂正箇所であり、当審が付与した。)。
(1) 訂正事項1
訂正前の特許請求の範囲の請求項1に
「(A1+A2)/A0の値が0.47未満であり、」
と記載されているのを、
「(A1+A2)/A0の値が0.45以下であり、」
に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2~6、8~13も同様に訂正する。)
(2) 訂正事項2
訂正前の特許請求の範囲の請求項3に
「前記(A1+A2)/A0の値が0.45以下である、」
と記載されているのを、
「前記(A1+A2)/A0の値が0.30を超えて0.45以下である、」
に訂正する(請求項3の記載を直接的又は間接的に引用する請求項5、6、8~13も同様に訂正する。)
(3) 訂正事項3
訂正前の特許請求の範囲の請求項5に
「請求項1~4のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒の製造方法であって、」
と記載されているのを、
「BEA型ゼオライトを含む排ガス浄化触媒の製造方法であって、
前記BEA型ゼオライトは、
FT―IR測定における、
3,730cm-1以上3,740cm-1以下にピークトップがあるピークの面積A1と、
3,720cm-1以上3,725cm-1以下にピークトップがあるピークの面積A2と、
1,978cm-1以上1,983cm-1以下にピークトップがあるピークの面積A0と
を用いて計算される、(A1+A2)/A0の値が 0.47未満であり、かつ、
XRD測定における2θ=22.5±0.1°の回折ピークの半値全幅が0.30°以下であり、
前記方法は、」
に訂正し、
訂正前の特許請求の範囲の請求項5に
「BEA型ゼオライトを、650℃以上900℃以下の温度で焼成することを含む、
方法。」
と記載されているのを、
「BEA型ゼオライトを、650℃以上900℃以下の温度で焼成することを含み、
前記焼成のときの雰囲気中の、焼成の温度における水分量が、1.00体積%以下である、
方法。」
に訂正する。
(請求項5の記載を引用する請求項6、8も同様に訂正する。)
(4) 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項7を削除する。
(5) 訂正事項5
訂正前の特許請求の範囲の請求項9に
「前記触媒コート層が1~4のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒を含む、」
と記載されているのを
「前記触媒コート層が請求項1~4のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒を含む、」
に訂正する(請求項9の記載を直接的又は間接的に引用する請求項10~13も同様に訂正する。)
(6) 一群の請求項について
訂正前の請求項2~13は、いずれも訂正前の請求項1を引用するものであるから、訂正前の請求項1~13は一群の請求項であるので、訂正事項1~5による特許請求の範囲の訂正は、特許法第120条の5第4項所定の規定に従い、この一群の請求項1~13を訂正の単位として請求されたものである。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否、独立特許要件について
(1) 訂正事項1について
訂正事項1は、本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項3、段落【0020】の記載に基づいて、請求項1における「(A1+A2)/A0の値」を「0.45以下」に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正といえ、また、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
(2) 訂正事項2について
訂正事項2は、本件特許明細書の段落【0020】の記載に基づいて、請求項3における「(A1+A2)/A0の値」を「0.30を超えて0.45以下」として、下限値を限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正といえ、また、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
なお、前記段落【0020】では「(A1+A2)/A0の値」として「0.30以上」と記載されているが、「0.30を超えて」は、「0.30以上」の範囲に含まれるもので、新たな技術的事項を導入するものとはなっていない。
(3) 訂正事項3について
ア 訂正事項3のうち、「請求項1~4のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒の製造方法であって、」と記載されているのを「BEA型ゼオライトを含む排ガス浄化触媒の製造方法であって、・・・前記方法は、」とする訂正は(当審注:「・・・」は記載の省略を表す。以下、同様である。)、請求項1の排ガス浄化触媒の内容を加えるものであって、本件訂正前の請求項5が請求項1~4のいずれか一項を引用していたところ、その引用関係を解消し、請求項1を引用する請求項5について書き下して、独立形式請求項へ改めるものである。
そうすると、前記訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮及び同条同項ただし書第4号に掲げる他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正といえ、また、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
イ 訂正事項3のうち、「BEA型ゼオライトを、650℃以上900℃以下の温度で焼成することを含む、方法。」と記載されているのを、「BEA型ゼオライトを、650℃以上900℃以下の温度で焼成することを含み、前記焼成のときの雰囲気中の、焼成の温度における水分量が、1.00体積%以下である、方法。」とする訂正は、本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項7、段落【0033】の記載に基づいて、「BEA型ゼオライト」の「前記焼成のときの雰囲気中の、焼成の温度における水分量」を「1.00体積%以下」に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正といえ、また、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
ウ 前記ア及びイによれば、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮及び同条同項ただし書第4号に掲げる他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正といえ、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
(4) 訂正事項4について
訂正事項4は、請求項7を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正といえ、また、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
(5) 訂正事項5について
訂正事項5は、本件訂正前の請求項9の「1~4のいずれか一項」の記載の意味が明確でなかったのを、「請求項1~4のいずれか一項」と訂正して記載の意味を明確にするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正といえ、また、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
(6) 独立特許要件について
本件特許異議の申立ては本件訂正前の全ての請求項についてされているので、訂正事項1~5に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
3 小括
したがって、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号及び第4号に掲げる事項を目的とするものに該当し、同法同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~13〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
本件訂正が認められることは前記第2に記載したとおりであるから、本件訂正により訂正された請求項1~6及び8~13に係る発明(以下、「本件発明1」などといい、まとめて「本件発明」ということがある。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~6及び8~13に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
BEA型ゼオライトを含む排ガス浄化触媒であって、
前記BEA型ゼオライトのFT―IR測定における、
3,730cm-1以上3,740cm-1以下にピークトップがあるピークの面積A1と、
3,720cm-1以上3,725cm-1以下にピークトップがあるピークの面積A2と、
1,978cm-1以上1,983cm-1以下にピークトップがあるピークの面積A0と
を用いて計算される、(A1+A2)/A0の値が0.45以下であり、かつ、
前記BEA型ゼオライトのXRD測定における2θ=22.5±0.1°の回折ピークの半値全幅が0.30°以下である、
排ガス浄化触媒。
【請求項2】
前記BEA型ゼオライトのシリカ/アルミナ比(SAR)が20以上である、請求項1に記載の排ガス浄化触媒。
【請求項3】
前記(A1+A2)/A0の値が0.30を超えて0.45以下である、請求項1に記載の排ガス浄化触媒。
【請求項4】
前記2θ=22.5±0.1°の回折ピークの半値全幅が0.29°未満である、請求項1に記載の排ガス浄化触媒。
【請求項5】
BEA型ゼオライトを含む排ガス浄化触媒の製造方法であって、
前記BEA型ゼオライトは、
FT―IR測定における、
3,730cm-1以上3,740cm-1以下にピークトップがあるピークの面積A1と、
3,720cm-1以上3,725cm-1以下にピークトップがあるピークの面積A2と、
1,978cm-1以上1,983cm-1以下にピークトップがあるピークの面積A0と
を用いて計算される、(A1+A2)/A0の値が0.47未満であり、かつ、
XRD測定における2θ=22.5±0.1°の回折ピークの半値全幅が0.30°以下であり、
前記方法は、
前記(A1+A2)/A0の値が0.50以上であり、かつ、前記2θ=22.5±0.1°の回折ピークの半値全幅が0.30°以下である、BEA型ゼオライトを、650℃以上900℃以下の温度で焼成することを含み、
前記焼成のときの雰囲気中の、焼成の温度における水分量が、1.00体積%以下である、
方法。
【請求項6】
前記焼成の温度が700℃以上800℃以下である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
(削除)
【請求項8】
前記焼成のときの雰囲気中の、焼成の温度における水分量が、0.80体積%以下である、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
基材、及び前記基材上の触媒コート層を有する排ガス浄化触媒装置であって、
前記触媒コート層が請求項1~4のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒を含む、
排ガス浄化触媒装置。
【請求項10】
アンダーフロア触媒である、請求項9に記載の排ガス浄化触媒装置。
【請求項11】
請求項9に記載の排ガス浄化触媒装置を含む、排ガス浄化触媒システム。
【請求項12】
内燃機関の排気系に請求項9に記載の排ガス浄化触媒装置を配置して、前記内燃機関から排出される排ガスを浄化することを含む、排ガス浄化方法。
【請求項13】
内燃機関の排気系に請求項11に記載の排ガス浄化触媒システムを配置して、前記内燃機関から排出される排ガスを浄化することを含む、排ガス浄化方法。」
第4 特許異議申立理由の概要
1 特許法第29条第2項所定の規定違反(進歩性欠如)について
設定登録時の特許請求の範囲の請求項1~13に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、又は、甲第1号証に記載された発明及び本件特許の優先日当時の技術常識(甲第2~3号証を引用)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、前記請求項1~13に係る発明の特許は、特許法第29条第2項所定の規定に違反してされたものである。
2 特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反)について
(1) 設定登録時の特許請求の範囲の請求項1に係る発明の「排ガス浄化触媒」について、本件特許明細書においては具体的に定義されていないから、前記「排ガス浄化触媒」は、炭化水素吸着触媒だけでなく、窒素酸化物を還元するSCR触媒や、一酸化炭素を二酸化炭素に酸化する酸化触媒も包含すると解される。
これに対して、本件特許明細書においては、前記請求項1で特定された「BEA型ゼオライト」について、コールド時の炭化水素吸着性能を評価する試験は行っているものの、窒素酸化物を還元する還元性能や、一酸化炭素を二酸化炭素に酸化する酸化性能を評価する試験は行われていないし、本件特許明細書の記載から、前記請求項1に係る「排ガス浄化触媒」が、窒素酸化物を還元する還元性能や、一酸化炭素を二酸化炭素に酸化する酸化性能を示すことを理解することもできない。
また、コールド時の炭化水素吸着性能が、窒素酸化物を還元する還元性能や、一酸化炭素を二酸化炭素に酸化する酸化性能と直接的な相関性がないことは、本件特許の出願時における技術常識であるから、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載を、窒素酸化物を還元するSCR触媒や、一酸化炭素を二酸化炭素に酸化する酸化触媒も包含する前記請求項1に係る「排ガス浄化触媒」まで拡張ないし一般化することはできないので、前記請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載された発明とはいえない。
更に、前記請求項1を引用する設定登録時の特許請求の範囲の請求項2~13に係る発明について検討しても事情は同じである。
(2) 設定登録時の特許請求の範囲の請求項1に係る発明の課題は、本件特許明細書の段落【0009】(後記第6の2(2)ア)等の記載から、構造欠陥が少なく、コールド時のHC吸着能に優れ、コールド領域におけるHCエミッションを低減させ得る、排ガス浄化触媒を提供することであるといえる。
これに対して、前記請求項1においては、所定のパラメータを満足するBEA型ゼオライトを含むことが特定される一方で、前記BEA型ゼオライト以外の物質を含むことを特定していないから、前記請求項1に係る発明は、前記BEA型ゼオライトのみからなる「排ガス浄化触媒」を包含するものと解される。
ところが、本件特許明細書においては、前記BEA型ゼオライトのみからなる「排ガス浄化触媒」によって、コールド領域におけるHCエミッションを低減できることが何ら実証されていないから、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載を、前記BEA型ゼオライトのみからなる「排ガス浄化触媒」を包含する前記請求項1に係る「排ガス浄化触媒」まで拡張ないし一般化することはできないので、前記請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載された発明とはいえない。
更に、前記請求項1を引用する設定登録時の特許請求の範囲の請求項2~13に係る発明について検討しても事情は同じである。
(3) 前記(2)の課題に対して、設定登録時の特許請求の範囲の請求項1においては、所定のパラメータを満足するBEA型ゼオライトを含むことが特定される一方で、前記BEA型ゼオライトのシリカ/アルミナ比が特定されていない。
ところが、本件特許明細書においては、シリカ/アルミナ比が40のBEA型ゼオライトでしか炭化水素の排出を確認しておらず、シリカ/アルミナ比が40よりも高い、又は低いBEA型ゼオライトでは、炭化水素の排出を確認していない。
ここで、BEA型ゼオライトのシリカ/アルミナ比がHC吸着能に影響することは、本件特許の出願時における技術常識である(甲第4~5号証を引用)から、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載を、前記BEA型ゼオライトのシリカ/アルミナ比が特定されていない前記請求項1に係る「排ガス浄化触媒」まで拡張ないし一般化することはできないので、前記請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載された発明とはいえない。
更に、前記請求項1を引用する設定登録時の特許請求の範囲の請求項2~13に係る発明について検討しても事情は同じである。
(4) 前記(2)の課題に対して、設定登録時の特許請求の範囲の請求項1においては、(A1+A2)/A0の値が0.47未満であることが特定されている。
ところが、本件特許明細書において炭化水素排出量を確認しているのは、(A1+A2)/A0の値が0.33である実施例2と、(A1+A2)/A0の値が0.41である実施例7だけであり、そうでないBEA型ゼオライトの炭化水素排出量については何ら確認されていない。
また、本件特許明細書の段落【0018】~【0019】(後記第6の2(2)ウ)に記載された、A1、A2及びA0の技術的意味は全て推測にすぎず、(A1+A2)/A0の値が0.47未満であれば、前記(2)の課題を解決できるとはいえないし、前記実施例2及び7から、(A1+A2)/A0の値が0.47未満であれば、前記(2)の課題を解決できることを推認できるものでもないから、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載を、(A1+A2)/A0の値が0.47未満とすることしか特定されていない前記請求項1に係る「排ガス浄化触媒」まで拡張ないし一般化することはできないので、前記請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載された発明とはいえない。
更に、前記請求項1を引用する設定登録時の特許請求の範囲の請求項2~13に係る発明について検討しても事情は同じである。
(5) したがって、設定登録時の特許請求の範囲の請求項1~13に係る発明の特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号所定の規定を満たしていない特許出願に対してされたものである。
3 特許法第36条第6項第2号所定の規定違反(明確性要件違反)について
(1) 設定登録時の特許請求の範囲の請求項5に係る「排ガス浄化触媒の製造方法」は、「請求項1~4のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒」の「製造方法」であるから、前記請求項5に係る「製造方法」によれば、設定登録時の特許請求の範囲の請求項1に係る「排ガス浄化触媒」が製造できるものと解される。
そして、前記請求項5においては、その製造手段として「前記(A1+A2)/A0の値が0.50以上であり、かつ、前記2θ=22.5±0.1°の回折ピークの半値全幅が0.30°以下である、BEA型ゼオライトを、650℃以上900℃以下の温度で焼成する」ことが特定されているから、「(A1+A2)/A0の値が0.50以上であり、かつ」、「2θ=22.5±0.1°の回折ピークの半値全幅が0.30°以下である、BEA型ゼオライト」を「650℃以上900℃以下の温度で焼成」しさえすれば、前記請求項1に係る「排ガス浄化触媒」が製造できるものと解される。
ところが、本件特許明細書の実施例8(段落【0066】~【0072】。後記第6の2(2)エ。)においては、「(A1+A2)/A0の値が0.50以上であり、かつ」、「2θ=22.5±0.1°の回折ピークの半値全幅が0.30°以下である、BEA型ゼオライト」を「650℃以上900℃以下の温度で焼成」しているにもかかわらず、(A1+A2)/A0の値が0.47であるBEA型ゼオライトが得られており、(A1+A2)/A0の値が0.47未満であるBEA型ゼオライトが得られていないから、前記請求項5の発明特定事項と本件特許明細書の記載が整合していないので、前記請求項5に係る発明は不明確である。
更に、前記請求項5を引用する設定登録時の特許請求の範囲の請求項6に係る発明について検討しても事情は同じである。
(2) 設定登録時の特許請求の範囲の請求項9の「1~4のいずれか一項」の記載の意味が不明確であるから、前記請求項9に係る発明は不明確である。
更に、前記請求項9を引用する設定登録時の特許請求の範囲の請求項10~13に係る発明について検討しても事情は同じである。
4 証拠方法
甲第1号証:特開2021-143119号公報
甲第2号証:特許第3827143号公報
甲第3号証:特開2005-21818号公報
甲第4号証:Masao NAKANO et al., "Zeolite Based Adsorbents and Catalysts for Environmental Applications Utilizing a Function of Hydrocarbon-adsorption", 2001年, 東ソー研究・技術報告, 第45巻, p. 29-35
甲第5号証:特開2000-126590号公報
第5 取消理由の概要
1 特許法第29条第2項所定の規定違反(進歩性欠如)について
設定登録時の特許請求の範囲の請求項1~6及び9~13に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第1号証に記載された事項に基づいて、又は、甲第1号証に記載された発明及び甲第1~3号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
2 特許法第36条第6項第2号所定の規定違反(明確性要件違反)について
設定登録時の特許請求の範囲の請求項9の「1~4のいずれか一項」の記載の意味が不明確であるから、前記請求項9に係る発明は不明確である。
更に、前記請求項9を引用する設定登録時の特許請求の範囲の請求項10~13に係る発明について検討しても事情は同じである。
第6 特許異議申立理由についての当審の判断
事案に鑑み、前記第4の特許異議申立理由及び第5の取消理由についてまとめて検討する。
1 特許法第29条第2項所定の規定違反(進歩性欠如)について
(1) 甲第1号証に記載された事項及び甲第1号証に記載された発明
ア 甲第1号証には、以下の(ア)~(カ)の記載がある(当審注:下線は当審が付与した。以下、同様である。)。
(ア) 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
25℃、相対湿度60%における水分吸着量が(8g/ゼオライト100g)以下、かつ25℃、0.01kPaにおけるトルエン吸着量が(9g/ゼオライト100g)以上、かつSiO2/Al2O3モル比が10~100の範囲であることを特徴とする疎水性ゼオライト。
【請求項2】
BEA構造を有することを特徴とする請求項1に記載の疎水性ゼオライト。
【請求項3】
1H MAS NMRの化学シフト1.8ppm付近のピークと2.2ppm付近のピークの積分値の和から算出したヒドロキシ基の量が3×1020個/g以下であり、かつ0.7ppm付近のピークの積分値から算出したヒドロキシ基の量が0.1×1020個/g以下であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の疎水性ゼオライト。
・・・
【請求項5】
母材となるゼオライトを500℃~900℃の温度で水蒸気と接触させることを特徴とする請求項1~請求項4のいずれかに記載の疎水性ゼオライトの製造方法。」
(イ) 「【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、従来の低SiO2/Al2O3モル比のゼオライトでは得られなかった、高い疎水性と高い有機化合物吸着能を兼ね備えた疎水性ゼオライトを提供することを目的とする。
・・・
【0013】
本発明の疎水性ゼオライトは、生産性の向上及び廃酸の低減の観点から、SiO2/Al2O3モル比が10~100の範囲であり、15~90の範囲であることが好ましく、30~80の範囲であることがより好ましい。
・・・
【0022】
母材となるゼオライトとしては、SiO2/Al2O3モル比が10~100の合成ゼオライトが好適に使用できる。
・・・
【0032】
本発明の疎水性ゼオライトは、母材となるゼオライトを好ましくは20~100容量%、より好ましくは40~100容量%の水蒸気と、500℃~900℃、より好ましくは600~850℃の温度で、30分から5時間の時間接触させることにより好適に製造することができる。水蒸気の濃度が20容量%~100容量%のとき、より優れた疎水性を発現することができる。また、接触させる温度が600℃~850℃のとき、より優れた疎水性及びより高い結晶度を発現することができる。」
(ウ) 「【0035】
本発明の疎水性ゼオライトを含有する有機化合物吸着剤は、特に揮発性有機化合物吸着剤として優れた効果を有する。・・・従って、該有機化合物吸着剤は、少なくとも1種の有機化合物を含む流体と接触させ、流体から該有機化合物を除去する有機化合物の除去方法として有用であり、例えば、塗装設備、印刷設備、工業製品の洗浄設備等から排出される排ガス、又は排水中の有機化合物の吸着除去/回収に使用される吸着剤や、自動車排ガス中の有機炭化水素成分を吸着除去する吸着剤として有用に使用できる。
【0036】
本発明の疎水性ゼオライトを含有する触媒は、水が共存、または副生する反応系中で炭化水素の反応をおこなう際に、ゼオライト触媒上への反応物の吸着過程が水との競争吸着となる反応において、水による反応阻害を低減する触媒として有用に使用できる。」
(エ) 「【実施例】
【0041】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0042】
<水分吸着量及びトルエンの吸着量の測定>
吸着量の測定は、定容量式吸着測定装置(BELSORP MAXII:マイクロトラックベル社製)を使用した。各実施例及び比較例で用いた試料は350℃で2時間、10Pa以下の真空下で前処理した。吸着温度は25℃で測定した。
【0043】
<1H MAS NMRの測定>
1H MAS NMRの測定は固体NMR:Varian社製核磁気共鳴装置VNMRS-400を使用、試料管を15kHzの回転数で回転させながら測定した。化学シフトはテトラメチルシランを化学シフト基準(0ppm)とした。ヒドロキシ基の定量は、重水素化したジメチルスルホキシド中のベンゼンにより作成した水素量の検量線により定量化をおこなった。また試料は、あらかじめ400℃において5時間真空排気して脱水した試料を用いて測定をおこなった。
【0044】
実施例1
市販のプロトンタイプBEA型ゼオライト(HSZ-940HOA:東ソー製、SiO2/Al2O3モル比40)10gを、780℃、70容量%水蒸気雰囲気で2時間熱処理(水蒸気と接触)することにより本発明の疎水性ゼオライトを得た。SiO2/Al2O3モル比は40であった。また、25℃における水分吸着量およびトルエン吸着量を図1、2、および表1にそれぞれ示した。
【0045】
実施例1で得られた本発明の疎水性ゼオライトについて、1H MAS NMRスペクトルを測定した。結果を図3に示した。さらにこの図のスペクトル強度(Y軸)を5倍に拡大して図4に示した。また化学シフト0.7ppm付近のピーク、1.8ppm付近のピークと2.2ppm付近のピークの積分値の和から算出したヒドロキシ基の量を表2に示した。
【0046】
図3から明らかなように、実施例1で得られた本発明の疎水性ゼオライトは、1.8ppm付近にメインピークを有し、2.2ppm付近にショルダーピークを有していた。また図4から明らかなように、実施例1で得られた本発明の疎水性ゼオライトは、化学シフト4ppm付近、5ppm付近の何れにもピークを有していなかった。
・・・
【0053】
【表1】
[図:0001427953000001.jpg]
【0054】
【表2】
[図:0001427953000002.jpg]
【0055】
図1、図2および表1から明らかなように、本発明の疎水性ゼオライトは高い疎水性と高い有機化合物吸着性能を兼ね備えていた。」
(オ) 「【図3】
[図:0001427953000003.jpg]
」
(カ) 「【図4】
[図:0001427953000004.jpg]
」
イ 前記ア(ア)の記載によれば、甲第1号証には、25℃、相対湿度60%における水分吸着量が(8g/ゼオライト100g)以下、かつ25℃、0.01kPaにおけるトルエン吸着量が(9g/ゼオライト100g)以上、かつSiO2/Al2O3モル比が10~100の範囲である疎水性ゼオライトが記載されており、前記疎水性ゼオライトは、BEA構造を有するものであり、1H MAS NMRの化学シフト1.8ppm付近のピークと2.2ppm付近のピークの積分値の和から算出したヒドロキシ基の量が3×1020個/g以下であり、かつ0.7ppm付近のピークの積分値から算出したヒドロキシ基の量が0.1×1020個/g以下であるものである(【請求項1】~【請求項3】)。
また、前記ア(ウ)の記載によれば、前記疎水性ゼオライトを含有する有機化合物吸着剤は、自動車排ガス中の有機炭化水素成分を吸着除去する吸着剤として有用に使用できるものであり、前記疎水性ゼオライトを含有する触媒は、水が共存、または副生する反応系中で炭化水素の反応をおこなう際に、ゼオライト触媒上への反応物の吸着過程が水との競争吸着となる反応において、水による反応阻害を低減する触媒として有用に使用できるものである(段落【0035】~【0036】)。
更に、前記ア(エ)~(カ)に記載された実施例1に注目すると、前記疎水性ゼオライトは、市販のプロトンタイプBEA型ゼオライト(HSZ-940HOA:東ソー製、SiO2/Al2O3モル比40)10gを、780℃、70容量%水蒸気雰囲気で2時間熱処理(水蒸気と接触)することにより得たものであり、SiO2/Al2O3モル比は40であったものである(段落【0044】)。
また、前記疎水性ゼオライトは、定容量式吸着測定装置(BELSORP MAXII:マイクロトラックベル社製)を使用し、試料を350℃で2時間、10Pa以下の真空下で前処理し、吸着温度を25℃で測定したときの水分吸着量及びトルエン吸着量が、それぞれゼオライト100g当たり4.1g(RH60)及び10.4g(0.01kPa)であったものであり(段落【0042】、【0044】、【0053】【表1】)、1H MAS NMRスペクトルの測定を、固体NMR:Varian社製核磁気共鳴装置VNMRS-400を使用し、試料管を15kHzの回転数で回転させながら測定し、化学シフトはテトラメチルシランを化学シフト基準(0ppm)とし、ヒドロキシ基の定量は、重水素化したジメチルスルホキシド中のベンゼンにより作成した水素量の検量線により定量化を行い、試料は、あらかじめ400℃において5時間真空排気して脱水した試料を用いたとき、化学シフト0.7ppm付近のピーク及び1.8ppm付近のピークと2.2ppm付近のピークの積分値の和から算出したヒドロキシ基の量が、化学シフト0.7ppm付近で0.02×1020個/g、化学シフト1.8ppm付近+2.2ppm付近で1.48×1020個/gであり、1.8ppm付近にメインピークを有し、2.2ppm付近にショルダーピークを有しており、化学シフト4ppm付近、5ppm付近の何れにもピークを有していなかったものである(段落【0043】、【0045】、【0046】、【0054】【表2】、【図3】、【図4】)。
そして、前記疎水性ゼオライトは、高い疎水性と高い有機化合物吸着性能を兼ね備えていたものである(段落【0055】)。
ウ 前記イによれば、甲第1号証には、以下の発明が記載されているといえる。
「25℃、相対湿度60%における水分吸着量が(8g/ゼオライト100g)以下、かつ25℃、0.01kPaにおけるトルエン吸着量が(9g/ゼオライト100g)以上、かつSiO2/Al2O3モル比が10~100の範囲である疎水性ゼオライトであって、
前記疎水性ゼオライトは、BEA構造を有するものであり、1H MAS NMRの化学シフト1.8ppm付近のピークと2.2ppm付近のピークの積分値の和から算出したヒドロキシ基の量が3×1020個/g以下であり、かつ0.7ppm付近のピークの積分値から算出したヒドロキシ基の量が0.1×1020個/g以下であり、
前記疎水性ゼオライトを含有する有機化合物吸着剤は、自動車排ガス中の有機炭化水素成分を吸着除去する吸着剤として有用に使用できるものであり、また、前記疎水性ゼオライトを含有する触媒は、水が共存、または副生する反応系中で炭化水素の反応をおこなう際に、ゼオライト触媒上への反応物の吸着過程が水との競争吸着となる反応において、水による反応阻害を低減する触媒として有用に使用できるものであり、
前記疎水性ゼオライトは、市販のプロトンタイプBEA型ゼオライト(HSZ-940HOA:東ソー製、SiO2/Al2O3モル比40)10gを、780℃、70容量%水蒸気雰囲気で2時間熱処理(水蒸気と接触)することにより得たものであり、SiO2/Al2O3モル比は40であったものであり、
定容量式吸着測定装置(BELSORP MAXII:マイクロトラックベル社製)を使用し、試料を350℃で2時間、10Pa以下の真空下で前処理し、吸着温度を25℃で測定したときの水分吸着量及びトルエン吸着量が、それぞれゼオライト100g当たり4.1g(RH60)及び10.4g(0.01kPa)であったものであり、
1H MAS NMRスペクトルの測定を、固体NMR:Varian社製核磁気共鳴装置VNMRS-400を使用し、試料管を15kHzの回転数で回転させながら測定し、化学シフトはテトラメチルシランを化学シフト基準(0ppm)とし、ヒドロキシ基の定量は、重水素化したジメチルスルホキシド中のベンゼンにより作成した水素量の検量線により定量化を行い、試料は、あらかじめ400℃において5時間真空排気して脱水した試料を用いたとき、化学シフト0.7ppm付近のピーク及び1.8ppm付近のピークと2.2ppm付近のピークの積分値の和から算出したヒドロキシ基の量が、化学シフト0.7ppm付近で0.02×1020個/g、化学シフト1.8ppm付近+2.2ppm付近で1.48×1020個/gであり、1.8ppm付近にメインピークを有し、2.2ppm付近にショルダーピークを有しており、化学シフト4ppm付近、5ppm付近の何れにもピークを有していないものであり、
高い疎水性と高い有機化合物吸着性能を兼ね備えたものである、疎水性ゼオライト。」(以下、「甲1-1発明」という。)
エ また、前記ア(ア)の記載によれば、前記疎水性ゼオライトの製造方法は、母材となるゼオライトを500℃~900℃の温度で水蒸気と接触させるものであり(【請求項5】)、前記ア(イ)の記載によれば、前記製造方法は、母材となるゼオライトを好ましくは20~100容量%、より好ましくは40~100容量%の水蒸気と、500℃~900℃、より好ましくは600~850℃の温度で、30分から5時間の時間接触させることにより好適に製造することができるものである(段落【0032】)。
このことと、前記イによれば、甲第1号証には、以下の発明が記載されているといえる。
「25℃、相対湿度60%における水分吸着量が(8g/ゼオライト100g)以下、かつ25℃、0.01kPaにおけるトルエン吸着量が(9g/ゼオライト100g)以上、かつSiO2/Al2O3モル比が10~100の範囲である疎水性ゼオライトであり、
前記疎水性ゼオライトは、BEA構造を有するものであり、1H MAS NMRの化学シフト1.8ppm付近のピークと2.2ppm付近のピークの積分値の和から算出したヒドロキシ基の量が3×1020個/g以下であり、かつ0.7ppm付近のピークの積分値から算出したヒドロキシ基の量が0.1×1020個/g以下である疎水性ゼオライトの製造方法であって、
前記疎水性ゼオライトの製造方法は、母材となるゼオライトを500℃~900℃の温度で水蒸気と接触させるものであり、母材となるゼオライトを好ましくは20~100容量%、より好ましくは40~100容量%の水蒸気と、500℃~900℃、より好ましくは600~850℃の温度で、30分から5時間の時間接触させることにより好適に製造することができるものであり、
前記疎水性ゼオライトを含有する有機化合物吸着剤は、自動車排ガス中の有機炭化水素成分を吸着除去する吸着剤として有用に使用できるものであり、また、前記疎水性ゼオライトを含有する触媒は、水が共存、または副生する反応系中で炭化水素の反応をおこなう際に、ゼオライト触媒上への反応物の吸着過程が水との競争吸着となる反応において、水による反応阻害を低減する触媒として有用に使用できるものであり、
前記疎水性ゼオライトは、市販のプロトンタイプBEA型ゼオライト(HSZ-940HOA:東ソー製、SiO2/Al2O3モル比40)10gを、780℃、70容量%水蒸気雰囲気で2時間熱処理(水蒸気と接触)することにより得たものであり、SiO2/Al2O3モル比は40であったものであり、
定容量式吸着測定装置(BELSORP MAXII:マイクロトラックベル社製)を使用し、試料を350℃で2時間、10Pa以下の真空下で前処理し、吸着温度を25℃で測定したときの水分吸着量及びトルエン吸着量が、それぞれゼオライト100g当たり4.1g(RH60)及び10.4g(0.01kPa)であったものであり、
1H MAS NMRスペクトルの測定を、固体NMR:Varian社製核磁気共鳴装置VNMRS-400を使用し、試料管を15kHzの回転数で回転させながら測定し、化学シフトはテトラメチルシランを化学シフト基準(0ppm)とし、ヒドロキシ基の定量は、重水素化したジメチルスルホキシド中のベンゼンにより作成した水素量の検量線により定量化を行い、試料は、あらかじめ400℃において5時間真空排気して脱水した試料を用いたとき、化学シフト0.7ppm付近のピーク及び1.8ppm付近のピークと2.2ppm付近のピークの積分値の和から算出したヒドロキシ基の量が、化学シフト0.7ppm付近で0.02×1020個/g、化学シフト1.8ppm付近+2.2ppm付近で1.48×1020個/gであり、1.8ppm付近にメインピークを有し、2.2ppm付近にショルダーピークを有しており、化学シフト4ppm付近、5ppm付近の何れにもピークを有していないものであり、
高い疎水性と高い有機化合物吸着性能を兼ね備えたものである、疎水性ゼオライトの製造方法。」(以下、「甲1-2発明」という。)
なお、甲第2~3号証の摘記は省略する。
(2) 特許法第29条第2項所定の規定違反(進歩性欠如)の判断
ア 本件発明1~4、9~13について
(ア) 本件発明1と甲1-1発明とを対比すると、甲1-1発明における「疎水性ゼオライト」は、「BEA構造を有する」ものであるから、本件発明1における「BEA型ゼオライト」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲1-1発明とは、
「BEA型ゼオライト。」
の点で一致し、以下の点で相違する。
・相違点1:本件発明1は、「排ガス浄化触媒」に係るものであるのに対して、甲1-1発明は、「疎水性ゼオライト」に係るものであって、「疎水性ゼオライトを含有する有機化合物吸着剤」が、「自動車排ガス中の有機炭化水素成分を吸着除去する吸着剤として有用に使用できる」ものであるが、「疎水性ゼオライトを含有する触媒」としては、「水が共存、または副生する反応系中で炭化水素の反応をおこなう際に、ゼオライト触媒上への反応物の吸着過程が水との競争吸着となる反応において、水による反応阻害を低減する触媒として有用に使用できるものであ」るものにとどまり、「排ガス浄化触媒」に係るものであることは記載されていない点。
・相違点2:本件発明1は、「排ガス浄化触媒」が、「前記BEA型ゼオライトのFT―IR測定における、3,730cm-1以上3,740cm-1以下にピークトップがあるピークの面積A1と、3,720cm-1以上3,725cm-1以下にピークトップがあるピークの面積A2と、1,978cm-1以上1,983cm-1以下にピークトップがあるピークの面積A0とを用いて計算される、(A1+A2)/A0の値が0.45以下」であるのに対して、甲1-1発明は、「疎水性ゼオライト」が、「25℃、相対湿度60%における水分吸着量が(8g/ゼオライト100g)以下」であり、具体的には、「定容量式吸着測定装置(BELSORP MAXII:マイクロトラックベル社製)を使用し、試料を350℃で2時間、10Pa以下の真空下で前処理し、吸着温度を25℃で測定したときの水分吸着量」が「ゼオライト100g当たり4.1g(RH60)」であり、また、「1H MAS NMRの化学シフト1.8ppm付近のピークと2.2ppm付近のピークの積分値の和から算出したヒドロキシ基の量が3×1020個/g以下であり、かつ0.7ppm付近のピークの積分値から算出したヒドロキシ基の量が0.1×1020個/g以下」であり、具体的には、「1H MAS NMRスペクトルの測定を、固体NMR:Varian社製核磁気共鳴装置VNMRS-400を使用し、試料管を15kHzの回転数で回転させながら測定し、化学シフトはテトラメチルシランを化学シフト基準(0ppm)とし、ヒドロキシ基の定量は、重水素化したジメチルスルホキシド中のベンゼンにより作成した水素量の検量線により定量化を行い、試料は、あらかじめ400℃において5時間真空排気して脱水した試料を用いたとき、化学シフト0.7ppm付近のピーク及び1.8ppm付近のピークと2.2ppm付近のピークの積分値の和から算出したヒドロキシ基の量が、化学シフト0.7ppm付近で0.02×1020個/g、化学シフト1.8ppm付近+2.2ppm付近で1.48×1020個/gであり、1.8ppm付近にメインピークを有し、2.2ppm付近にショルダーピークを有しており、化学シフト4ppm付近、5ppm付近の何れにもピークを有していない」ものであり、「高い疎水性と高い有機化合物吸着性能を兼ね備えたものである」が、「(A1+A2)/A0の値」は明らかでない点。
・相違点3:本件発明1は、「排ガス浄化触媒」が、「前記BEA型ゼオライトのXRD測定における2θ=22.5±0.1°の回折ピークの半値全幅が0.30°以下である」のに対して、甲1-1発明は、「疎水性ゼオライト」の「前記BEA型ゼオライトのXRD測定における2θ=22.5±0.1°の回折ピークの半値全幅」が明らかでない点。
(イ) 事案に鑑み、始めに、前記(ア)の相違点2が実質的な相違点であるか否かについて検討すると、本件特許明細書の段落【0018】~【0019】(下記2(2)ウ)の記載によれば、本件発明においては、「BEA型ゼオライト」のFT―IR測定において、3,730cm-1以上3,740cm-1以下にピークトップがあるピークは、孤立Si-OH結合の伸縮振動に由来すると考えられ、3,720cm-1以上3,725cm-1以下にピークトップがあるピークは、水素結合したSi-OH結合の伸縮振動に由来すると考えられ、1,978cm-1以上1,983cm-1以下にピークトップがあるピークは、Si-O結合の伸縮振動に由来すると考えられることから、「(A1+A2)/A0の値」が「0.45以下」であることは、「BEA型ゼオライト」が有するSi-O結合に対するSi-OH基の割合が少ないことを意味し、そのような「BEA型ゼオライト」は、構造欠陥に伴うSi-OH基の量が少ないから、コールド時であっても、Si-OH基に吸着する吸着水の影響が少なく、所期のHC吸着能を発現することができるものである。
一方、甲1-1発明に係る「疎水性ゼオライト」の「25℃、相対湿度60%における水分吸着量」が「(8g/ゼオライト100g)以下」、具体的には「ゼオライト100g当たり4.1g(RH60)」であり、「1H MAS NMRの化学シフト1.8ppm付近のピークと2.2ppm付近のピークの積分値の和から算出したヒドロキシ基の量が3×1020個/g以下であり、かつ0.7ppm付近のピークの積分値から算出したヒドロキシ基の量が0.1×1020個/g以下」、具体的には、「化学シフト0.7ppm付近のピーク及び1.8ppm付近のピークと2.2ppm付近のピークの積分値の和から算出したヒドロキシ基の量が、化学シフト0.7ppm付近で0.02×1020個/g、化学シフト1.8ppm付近+2.2ppm付近で1.48×1020個/g」であり、更に、甲1-1発明に係る「疎水性ゼオライト」が、「1.8ppm付近にメインピークを有し、2.2ppm付近にショルダーピークを有しており、化学シフト4ppm付近、5ppm付近の何れにもピークを有していない」ものであり、特に、ゼオライトにおけるヒドロキシ基の量を規定しているとしても、これらのヒドロキシ基と本件発明1における構造欠陥に伴うSi-OH基との関係は明らかでないことから、「高い疎水性と高い有機化合物吸着性能を兼ね備えたものである」としても、甲1-1発明において、前記「疎水性ゼオライト」の「(A1+A2)/A0の値」が「0.45以下」となっているということはできないし、このことを裏付ける証拠もない。
そうすると、甲1-1発明が、前記相違点2に係る本件発明1の発明特定事項を有しているとはいえない。
(ウ) ここで、仮に、本件発明1に係る「排ガス浄化触媒」と甲1-1発明に係る「疎水性ゼオライト」の製造方法が合致していれば、甲1-1発明に係る「疎水性ゼオライト」の「(A1+A2)/A0の値」が「0.45以下」である蓋然性が高いといえるので、以下、検討すると、本件特許明細書の段落【0033】(下記2(2)ウ)の記載によれば、本件発明1に係る「排ガス浄化触媒」は、原料ゼオライトを焼成するとき、周囲雰囲気中の水分が少ない方が、原料ゼオライトの有するSi-OH基の脱水がスムースに進む点で、好適であるものであり、焼成のときの雰囲気中の、焼成温度における水分量は、10.0体積%以下とするのがよいものである。
これに対して、甲1-1発明に係る「疎水性ゼオライト」は、「市販のプロトンタイプBEA型ゼオライト(HSZ-940HOA:東ソー製、SiO2/Al2O3モル比40)10gを、780℃、70容量%水蒸気雰囲気で2時間熱処理(水蒸気と接触)することにより得た」ものであり、ここで、「70容量%水蒸気雰囲気」は、焼成温度における水分量が70体積%であるものといえる。
そうすると、本件発明1に係る「排ガス浄化触媒」は、焼成温度における水分量を10.0体積%以下とするのが好適であるのに対して、甲1-1発明に係る「疎水性ゼオライト」は、焼成温度における水分量が70体積%なのであるから、これらの製造方法は、焼成のときの雰囲気中の水分量が大きく異なるものである。
そして、焼成のときの雰囲気中の水分量が大きく異なる本件発明1に係る「排ガス浄化触媒」と甲1-1発明に係る「疎水性ゼオライト」とは、製造方法が合致しているとはいえないから、甲1-1発明に係る「疎水性ゼオライト」の「(A1+A2)/A0の値」が「0.45以下」である蓋然性が高いとはいえないので、甲1-1発明が、前記相違点2に係る本件発明1の発明特定事項を有しているとはいえない。
(エ) 前記(イ)及び(ウ)によれば、甲1-1発明が、前記相違点2に係る本件発明1の発明特定事項を有しているとはいえないから、前記相違点2は実質的な相違点である。
(オ) 次に、前記相違点2の容易想到性について検討すると、甲1-1発明は、そもそも、「(A1+A2)/A0の値」に着目したものではないから、甲1-1発明において、「(A1+A2)/A0の値」を「0.45以下」とする動機付けは存在しないし、摘記を省略した甲第2~3号証にも、「(A1+A2)/A0の値」を「0.45以下」とすることは記載されていないので、前記相違点2は容易想到とはいえない。
したがって、甲1-1発明を、前記相違点2に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとすることは、当業者が容易になし得ることではないので、前記(ア)のそのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1-1発明に基づいて、又は、甲1-1発明及び甲第1号証に記載された事項に基づいて、あるいは、甲1-1発明及び甲第1~3号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
更に、本件発明1の発明特定事項を全て有する本件発明2~4及び9~13について検討しても事情は同じである。
イ 本件発明5、6、8について
(ア) 前記ア(ア)と同様にして本件発明5と甲1-2発明とを対比すると、本件発明5と甲1-2発明とは、
「BEA型ゼオライトの製造方法。」の点で一致し、以下の点で相違する。
・相違点1’:本件発明5は、「排ガス浄化触媒の製造方法」に係るものであるのに対して、甲1-2発明は、「疎水性ゼオライト」の製造方法に係るものであって、「疎水性ゼオライトを含有する有機化合物吸着剤」が、「自動車排ガス中の有機炭化水素成分を吸着除去する吸着剤として有用に使用できる」ものであるが、「疎水性ゼオライトを含有する触媒」としては、「水が共存、または副生する反応系中で炭化水素の反応をおこなう際に、ゼオライト触媒上への反応物の吸着過程が水との競争吸着となる反応において、水による反応阻害を低減する触媒として有用に使用できるものであ」るものにとどまり、「排ガス浄化触媒の製造方法」に係るものであることは記載されていない点。
・相違点2’:本件発明5は、「排ガス浄化触媒の製造方法」において、「前記BEA型ゼオライトは、FT―IR測定における、3,730cm-1以上3,740cm-1以下にピークトップがあるピークの面積A1と、3,720cm-1以上3,725cm-1以下にピークトップがあるピークの面積A2と、1,978cm-1以上1,983cm-1以下にピークトップがあるピークの面積A0とを用いて計算される、(A1+A2)/A0の値が0.45以下」であるのに対して、甲1-2発明は、「疎水性ゼオライトの製造方法」において、「疎水性ゼオライト」が、「25℃、相対湿度60%における水分吸着量が(8g/ゼオライト100g)以下」であり、具体的には、定容量式吸着測定装置(BELSORP MAXII:マイクロトラックベル社製)を使用し、試料を350℃で2時間、10Pa以下の真空下で前処理し、吸着温度を25℃で測定したときの水分吸着量」が「ゼオライト100g当たり4.1g(RH60)」であり、「1H MAS NMRの化学シフト1.8ppm付近のピークと2.2ppm付近のピークの積分値の和から算出したヒドロキシ基の量が3×1020個/g以下であり、かつ0.7ppm付近のピークの積分値から算出したヒドロキシ基の量が0.1×1020個/g以下」であり、具体的には、「1H MAS NMRスペクトルの測定を、固体NMR:Varian社製核磁気共鳴装置VNMRS-400を使用し、試料管を15kHzの回転数で回転させながら測定し、化学シフトはテトラメチルシランを化学シフト基準(0ppm)とし、ヒドロキシ基の定量は、重水素化したジメチルスルホキシド中のベンゼンにより作成した水素量の検量線により定量化を行い、試料は、あらかじめ400℃において5時間真空排気して脱水した試料を用いたとき、化学シフト0.7ppm付近のピーク及び1.8ppm付近のピークと2.2ppm付近のピークの積分値の和から算出したヒドロキシ基の量が、化学シフト0.7ppm付近で0.02×1020個/g、化学シフト1.8ppm付近+2.2ppm付近で1.48×1020個/gであり、1.8ppm付近にメインピークを有し、2.2ppm付近にショルダーピークを有しており、化学シフト4ppm付近、5ppm付近の何れにもピークを有していない」ものであり、「高い疎水性と高い有機化合物吸着性能を兼ね備えたものである」が、「(A1+A2)/A0の値」は明らかでない点。
・相違点3’:本件発明5は、「排ガス浄化触媒の製造方法」において、「前記BEA型ゼオライトのXRD測定における2θ=22.5±0.1°の回折ピークの半値全幅が0.30°以下である」のに対して、甲1-2発明は、「疎水性ゼオライトの製造方法」における、「前記BEA型ゼオライトのXRD測定における2θ=22.5±0.1°の回折ピークの半値全幅」が明らかでない点。
・相違点4:本件発明5は、「排ガス浄化触媒の製造方法」が、「前記(A1+A2)/A0の値が0.50以上であり、かつ、前記2θ=22.5±0.1°の回折ピークの半値全幅が0.30°以下である、BEA型ゼオライトを、650℃以上900℃以下の温度で焼成することを含み、前記焼成のときの雰囲気中の、焼成の温度における水分量が、1.00体積%以下である」ものであるのに対して、甲1-2発明は、「疎水性ゼオライトの製造方法」が、「母材となるゼオライトを500℃~900℃の温度で水蒸気と接触させるものであり、母材となるゼオライトを好ましくは20~100容量%、より好ましくは40~100容量%の水蒸気と、500℃~900℃、より好ましくは600~850℃の温度で、30分から5時間の時間接触させることにより好適に製造することができるものであり」、具体的には、「市販のプロトンタイプBEA型ゼオライト(HSZ-940HOA:東ソー製、SiO2/Al2O3モル比40)10gを、780℃、70容量%水蒸気雰囲気で2時間熱処理(水蒸気と接触)することにより得た」ものである点。
(イ) 事案に鑑み、始めに、前記(ア)の相違点2’から検討すると、前記相違点2’は、「(A1+A2)/A0の値」に関する相違点である点で前記相違点2と共通するから、前記ア(エ)に記載したのと同様の理由により、甲1-2発明が、前記相違点2’に係る本件発明1の発明特定事項を有しているとはいえないので、前記相違点2’は実質的な相違点であるし、前記ア(オ)に記載したのと同様の理由により、甲1-2発明を、前記相違点2’に係る本件発明5の発明特定事項を有するものとすることは、当業者が容易になし得ることではない。
したがって、前記(ア)のそのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明5は、甲1-2発明に基づいて、又は、甲1-2発明及び甲第1号証に記載された事項に基づいて、あるいは、甲1-2発明及び甲第1~3号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
更に、本件発明5の発明特定事項を全て有する本件発明6及び8について検討しても事情は同じである。
ウ 申立人の主張について
(ア) 特許異議申立書における、「(A1+A2)/A0の値」についての特許異議申立人の主張の内容は、概略、以下のとおりである。
本件特許明細書の段落【0030】、【0066】~【0072】(下記2(2)ウ、エ)の記載によれば、本件発明においては、東ソー(株)製の「BEA型ゼオライト」HSZ-940HOAを650℃以上900℃以下で焼成すれば、設定登録時の請求項1に係る「排ガス浄化触媒」に含まれる「BEA型ゼオライト」が得られるものと解される。そして、甲第1号証に記載された発明においては、東ソー(株)製の「BEA型ゼオライト」HSZ-940HOAを780℃で熱処理しているから、甲第1号証に記載された発明は、「(A1+A2)/A0の値」が0.50未満である蓋然性が高い。
また、前記請求項1に係る「排ガス浄化触媒」に含まれる「BEA型ゼオライト」を得るには、そのほかの焼成条件を特定の範囲とすることが必要であったとしても、排ガス中の炭化水素をより効果的に吸着除去できる疎水性や結晶性を得るため、甲第1号証に記載された発明における熱処理の時間や雰囲気中の水分含有量を調整して、本件特許明細書の実施例1等に記載されるように、処理時間を300分としたり、雰囲気中の水分含有量を0.20体積%~0.90体積%としたりすることは、当業者が容易になし得ることであるから、前記請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第1号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである(21ページ21行~24ページ5行)。
(イ) 特許権者意見書における、「(A1+A2)/A0の値」についての特許異議申立人の主張の内容は、概略、以下のとおりである。
a 甲第1号証の段落【0032】(前記(1)ア(イ))の記載からみれば、当業者は、甲第1号証に記載された発明の疎水性をより向上させるために、焼成条件を、甲第1号証に記載された焼成条件の範囲内である900℃、20容量%水蒸気雰囲気で300分間加熱処理するものに調整することを、容易に想到できる。
そして、本件特許明細書の実施例の記載からみれば、実施例9において、東ソー(株)製の「BEA型ゼオライト」HSZ-940HOAを、焼成温度を900℃、H2O濃度を20.0体積%、時間を300分として焼成したときの「(A1+A2)/A0の値」は0.426未満となる蓋然性が高いことが予測されるから、甲第1号証に記載された発明において、東ソー(株)製の「BEA型ゼオライト」HSZ-940HOAを、焼成温度を900℃、H2O濃度を20.0体積%、時間を300分として焼成したときの「(A1+A2)/A0の値」も0.426未満となる蓋然性が高いことが予測されるので、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明及び甲第1号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである(1ページ下から3行~6ページ1行)。
b 甲第1号証の段落【0003】~【0006】、【0022】(前記(1)ア(イ))の記載からみれば、甲第1号証に記載された発明において、SiO2/Al2O3モル比を22に調整することは、容易に想到できる。
そして、甲第6号証の記載(238ページの表1、244ページの図9、左欄27行~33行)からみれば、SiO2/Al2O3モル比が18減少することでシラノール基が20%程度低下することが読み取れるところ、本件発明における「(A1+A2)/A0の値」も、シラノール量の評価指標であるから、「(A1+A2)/A0の値」も、SiO2/Al2O3モル比が18減少することで20%程度低下する蓋然性が高い。
すると、甲第1号証に記載された東ソー(株)製の「BEA型ゼオライト」HSZ-940HOAのSiO2/Al2O3モル比を40から18減少させて22としたとき、「(A1+A2)/A0の値」は0.51(本件特許明細書に記載された比較例1)から20%程度減少して0.408となる蓋然性が高いから、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
なお、甲第7号証(段落【0053】)及び甲第8号証(段落【0044】)によれば、SiO2/Al2O3モル比が18であるベータ型ゼオライト(HSZ-920NHA)や、SiO2/Al2O3モル比が27.0であるベータ型ゼオライト(HSZ930HOA)や、SiO2/Al2O3モル比が28.3であるベータ型ゼオライト(HSZ931HOA)等、甲第1号証に記載された発明において母材として用いるBEA型ゼオライト(HSZ-940HOA)よりも大幅にSiO2/Al2O3モル比が低いBEA型ゼオライトが市販されており、モル比が減少することで「(A1+A2)/A0の値」も低下することを考慮すると、SiO2/Al2O3モル比が低いこれらのゼオライトは、焼成処理をしなくても、それ自体で「(A1+A2)/A0の値」が「0.45以下」である蓋然性が高いから、これらのゼオライトは本件発明1に該当する蓋然性が高い(6ページ2行~9ページ16行)。
甲第6号証:S. Mintova et al., "Variation of the Si/Al ratio in nanosized zeolite Beta crystals", Microporous and Mesoporous Materials, 2006年, Vol. 90, p. 237-245
甲第7号証:特開2019-99391号公報
甲第8号証:特開2016-145138号公報
ただし、甲第6~8号証は、申立人意見書に添付して提出されたものである。また、これらの摘記は省略する。
(ウ) 始めに、前記(ア)の主張について検討すると、本件発明1に係る「排ガス浄化触媒」は、原料ゼオライトを焼成するとき、周囲雰囲気中の水分が少ない方が、原料ゼオライトの有するSi-OH基の脱水がスムースに進む点で、好適であるものであり、焼成のときの雰囲気中の、焼成温度における水分量は、10.0体積%以下とするのがよいものであることは、前記ア(ウ)に記載したとおりである。
そして、このことからみれば、本件発明における「BEA型ゼオライト」は、原料ゼオライトの焼成温度のみならず、ほかに、当該焼成温度における雰囲気中の水分量を適切なものとすることで得られると解されるのであり、原料ゼオライトを単に650℃以上900℃以下で焼成すれば得られるものとはいえない。
更に、焼成のときの雰囲気中の水分量が大きく異なる本件発明1に係る「排ガス浄化触媒」と甲1-1発明に係る「疎水性ゼオライト」とは、製造方法が合致しているとはいえず、甲1-1発明に係る「疎水性ゼオライト」の「(A1+A2)/A0の値」が「0.45以下」である蓋然性が高いとはいえないことは、前記ア(ウ)に記載したとおりであるから、同様の理由により、甲第1号証に記載された発明における「(A1+A2)/A0の値」が0.50未満である蓋然性が高いともいえない。
また、甲第1号証の段落【0032】(前記(1)ア(イ))の記載によれば、甲第1号証に記載された「疎水性ゼオライト」の製造方法は、母材となるゼオライトを好ましくは20~100容量%、より好ましくは40~100容量%の水蒸気と、500℃~900℃、より好ましくは600℃~850℃の温度で接触させることにより好適に製造することができるものである。
そして、そのような甲第1号証に記載された発明において、焼成温度における水分量を10体積%以下とすることは、「疎水性ゼオライト」を好適に製造できる水蒸気量を逸脱することとなり、もとより想定されないから、雰囲気中の水分含有量を、10体積%以下よりも更に少ない0.20体積%~0.90体積%とすることは、到底、当業者が容易になし得ることではない。
したがって、前記(ア)の主張はいずれも採用できない。
(エ) 次に、前記(イ)aの主張について検討すると、甲第1号証に記載された発明においては、母材となるゼオライトを好ましくは20~100容量%、より好ましくは40~100容量%の水蒸気と、500℃~900℃、より好ましくは600℃~850℃の温度で接触させることにより好適に製造することができることは、前記(ウ)に記載したとおりであり、甲第1号証に記載された発明においては、東ソー(株)製の「BEA型ゼオライト」HSZ-940HOAは、より好ましい温度である780℃及びより好ましい水蒸気量である70容量%水蒸気雰囲気で熱処理されるものである。
そして、当業者は、そのような甲第1号証に記載された発明において、より好ましい範囲を逸脱して、温度900℃、20容量%水蒸気雰囲気で熱処理することはしないし、仮に、そうしたとしても、熱処理後の東ソー(株)製の「BEA型ゼオライト」HSZ-940HOAの「(A1+A2)/A0の値」が「0.45以下」となっていることを裏付ける証拠もないから、甲第1号証に記載された発明において、「(A1+A2)/A0の値」を「0.45以下」とすることは、当業者が容易になし得ることではなく、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって、前記(イ)aの主張も採用できない。
(オ) 最後に、前記(イ)bの主張について検討すると、甲第1号証の段落【0013】の記載(前記(1)ア(イ))によれば、甲第1号証に記載された発明における「疎水性ゼオライト」は、生産性の向上及び廃酸の低減の観点から、SiO2/Al2O3モル比が10~100の範囲であり、15~90の範囲であることが好ましく、30~80の範囲であることがより好ましいものであり、東ソー(株)製の「BEA型ゼオライト」HSZ-940HOAは、SiO2/Al2O3モル比がより好ましい範囲である40であるものである。
そして、当業者は、そのような甲第1号証に記載された発明において、より好ましい範囲を逸脱して、SiO2/Al2O3モル比を22とすることはしないし、仮に、そうしたとしても、東ソー(株)製の「BEA型ゼオライト」HSZ-940HOAの「(A1+A2)/A0の値」が「0.45以下」となっていることを裏付ける証拠もないから、甲第1号証に記載された発明において、「(A1+A2)/A0の値」を「0.45以下」とすることは、当業者が容易になし得ることではなく、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
更に、甲第7~8号証に記載されたベータ型ゼオライトの「(A1+A2)/A0の値」が「0.45以下」であることを裏付ける証拠もないから、これらのゼオライトが本件発明1に該当する蓋然性が高いともいえないので、前記(イ)bの主張も採用できない。
(カ) したがって、申立人の前記(ア)、(イ)の主張はいずれも採用できない。
(3) 小括
よって、本件発明1~6及び8~13は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、又は、甲第1号証に記載された発明及び本件特許の優先日当時の技術常識(甲第2~3号証を引用)に基づいて、あるいは、甲第1号証に記載された発明及び甲第1~3号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、前記第4の1の特許異議の申立て理由及び第5の1の取消理由はいずれも理由がない。
2 特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反)について
(1) サポート要件の判断手法
特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明であって、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも、当業者が本件特許の出願時の技術常識に照らして当該発明の課題を解決できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。以下、この観点により検討する。
(2) 本件特許明細書の記載事項
本件特許明細書の発明の詳細な説明及び図面には、以下のア~エの記載がある。
ア 「【0001】
本発明は、排ガス浄化触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車エンジン等の内燃機関からの排ガス中には、窒素酸化物(NOX)、一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)等が含まれる。これらの排ガスは、CO及びHCを酸化し、かつNOXを還元する排ガス浄化触媒を含む、排ガス浄化触媒装置によって浄化したうえで、大気中に放出されている。
【0003】
このうち、HCについては、エンジン始動時等の触媒が暖まっていないコールド時には、HCを触媒的に浄化することは困難である。そのため、排ガス浄化触媒装置にHC吸着材を含有させて、コールド時にはHCを吸着させ、ホット時にはHCを徐放して、触媒的な浄化に供することが行われている。
【0004】
例えば、特許文献1には、SiO2/Al2O3のモル比(SAR)が200未満のBEA型ゼオライトと、SARが200~1,000のBEA型ゼオライトとを含む、炭化水素吸着材が提案されており、これを排ガス浄化触媒装置に含有させることにより、総炭化水素(THC)エミッションが低減されると説明されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007-275877号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に提案されているように、HC吸着材としてBEA型ゼオライトを用いることは、HCエミッションの低減に有効であると考えられる。しかし、BEA型ゼオライトは、合成時に構造欠陥ができ易い。BEA型ゼオライトの構造欠陥では、Si-O-Si結合が切断されて、Si-OH基が生成していると考えられる。このSi-OH基は、水との親和性が強いため、構造欠陥を有するBEA型ゼオライトを排ガス浄化触媒として使用すると、Si-OH基に水が吸着して細孔の一部が閉塞されて、所期のHC吸着能が発現されない。
【0007】
吸着水による細孔の閉塞は触媒が暖まると解消するが、コールド時には吸着水の影響が顕著に表れ、コールド領域におけるHCエミッションの低減を著しく阻害する。
【0008】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものである。
【0009】
本発明の目的は、構造欠陥が少なく、コールド時のHC吸着能に優れ、コールド領域におけるHCエミッションを低減させ得る、排ガス浄化触媒を提供することである。」
イ 「【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下のとおりである。
【0011】
《態様1》BEA型ゼオライトを含む排ガス浄化触媒であって、
前記BEA型ゼオライトのFT―IR測定における、
3,730cm-1以上3,740cm-1以下にピークトップがあるピークの面積A1と、
3,720cm-1以上3,725cm-1以下にピークトップがあるピークの面積A2と、
1,978cm-1以上1,983cm-1以下にピークトップがあるピークの面積A0と
を用いて計算される、(A1+A2)/A0の値が0.50未満であり、かつ、
前記BEA型ゼオライトのXRD測定における2θ=22.5±0.1°の回折ピークの半値全幅が0.30°以下である、
排ガス浄化触媒。
・・・
【発明の効果】
【0012】
本発明の排ガス浄化触媒は、構造欠陥が少なく、コールド時のHC吸着能に優れるので、コールド領域におけるHCエミッションを、効果的に低減させることができる。」
ウ 「【発明を実施するための形態】
・・・
【0014】
本発明の排ガス浄化触媒に含まれるBEA型ゼオライトは、FT―IR測定における面積A1と、面積A2と、面積A0とを用いて計算される、(A1+A2)/A0の値が0.50未満である。本発明の排ガス浄化触媒におけるBEA型ゼオライトは、この要件により、構造欠陥に伴うSi-OH基の量が少ないBEA型ゼオライトであることが担保される。
【0015】
また、本発明の排ガス浄化触媒に含まれるBEA型ゼオライトは、XRD測定における2θ=22.5±0.1°の回折ピークの半値全幅が0.30°以下である。本発明の排ガス浄化触媒におけるBEA型ゼオライトは、この要件により、結晶構造が十分に維持されているBEA型ゼオライトであることが担保される。
【0016】
本発明の排ガス浄化触媒に含まれるBEA型ゼオライトは、上記の2つの要件により、構造欠陥の少ないBEA型ゼオライトであることが担保されている。したがって、このようなBEA型ゼオライトを含む本発明の排ガス浄化触媒は、コールド時のHC吸着能に優れており、これを排ガス浄化触媒装置に含有させると、コールド時のHCエミッションを効果的に低減することができる。
【0017】
上述したように、本発明の排ガス浄化触媒に含まれるBEA型ゼオライトは、FT―IR測定における面積A1と、面積A2と、面積A0とを用いて計算される、(A1+A2)/A0の値が0.50未満である。
【0018】
BEA型ゼオライトのFT―IR測定において、3,730cm-1以上3,740cm-1以下にピークトップがあるピークは、孤立Si-OH結合の伸縮振動に由来すると考えられる。3,720cm-1以上3,725cm-1以下にピークトップがあるピークは、水素結合したSi-OH結合の伸縮振動に由来すると考えられる。また、1,978cm-1以上1,983cm-1以下にピークトップがあるピークは、Si-O結合の伸縮振動に由来すると考えられる。
【0019】
したがって、BEA型ゼオライトのFT―IR測定における、各ピークのピーク面積比(A1+A2)/A0の値が0.50未満であるとは、当該BEA型ゼオライトが有するSi-O結合に対するSi-OH基の割合が少ないことを意味する。したがって、(A1+A2)/A0の値が0.50未満であるBEA型ゼオライトは、構造欠陥に伴うSi-OH基の量が少ないから、コールド時であっても、Si-OH基に吸着する吸着水の影響が少なく、所期のHC吸着能を発現することができる。
【0020】
BEA型ゼオライトのFT―IR測定における面積比(A1+A2)/A0の値は、0.48以下、0.47以下、0.47未満、0.45以下、0.40以下、又は0.35以下であってもよい。しかしながら、この面積比(A1+A2)/A0の値を必要以上に小さくしようとすると、調製時の焼成温度を高くする必要が生じ、BEA型ゼオライトの結晶構造が破壊されて、HC吸着能が損なわれることが懸念される。この観点から、面積比(A1+A2)/A0の値は、0.10以上、0.15以上、0.20以上、0.25以上、又は0.30以上であってよい。
【0021】
BEA型ゼオライトのFT―IR測定における、面積A1、A2、及びA0は、得られたFT-IRスペクトルに基づいて、後述の実施例に記載したピークフィッティングによって定量されてよい。
【0022】
本発明の排ガス浄化触媒に含まれるBEA型ゼオライトは、XRD測定における2θ=22.5±0.1°の回折ピークの半値全幅が0.30°以下である。XRD測定における2θ=22.5±0.1°の回折ピークは、BEA型ゼオライトに特徴的なピークである。この回折ピークの半値全幅が0.30°以下であるとは、本発明におけるBEA型ゼオライトが、BEA型の結晶構造が十分に発達したゼオライトであることが担保される。
・・・
【0024】
本発明の排ガス浄化触媒に含まれるBEA型ゼオライトのシリカ/アルミナ比(SAR)は、合成の容易性を確保するため、20以上であってよく、25以上、30以上、35以上、又は40以上であってもよい。BEA型ゼオライトのSARは、HCの吸着能を高くする観点から、100以下、80以下、60以下、又は50以下であってよい。このSARは、シリカ(SiO2)/アルミナ(Al2O3)のモル比として定義される値である。
・・・
【0029】
《排ガス浄化触媒の製造方法》
本発明の排ガス浄化触媒は、上述の特性を有する限り、どのような方法によって製造されてもよい。
【0030】
本発明の排ガス浄化触媒は、例えば、
FT―IR測定における上述のピーク面積比(A1+A2)/A0の値が0.50以上であり、かつ、
XRD測定における2θ=22.5±0.1°の回折ピークの半値全幅が0.30°以下である、
BEA型ゼオライト(原料ゼオライト)を、650℃以上900℃以下の温度で焼成することを含む、
方法によって製造されてよい。
【0031】
上記のような原料ゼオライトは、BEA型ゼオライトの結晶構造を有するが、構造欠陥が比較的多く、したがって、Si-OH基の含有量が多いゼオライトである。この原料ゼオライトを650℃以上で焼成することにより、Si-OH基の脱水が起こり、Si-O-Si結合が生成して構造欠陥が修復される。一方、原料ゼオライトの焼成温度を900℃以下に留めることにより、BEA型ゼオライトの結晶構造の熱による破壊が回避される。原料ゼオライトの焼成温度は、670℃以上、700℃以上、720℃以上、又は750℃以上であってよく、880℃以下、850℃以下、830℃以下、又は800℃以下であってよい。
【0032】
原料ゼオライトの焼成温度は、典型的には、例えば、700℃以上800℃以下であってよい。
【0033】
原料ゼオライトを焼成するとき、周囲雰囲気中の水分が少ない方が、原料ゼオライトの有するSi-OH基の脱水がスムースに進む点で、好適である。この観点から、焼成のときの雰囲気中の、焼成温度における水分量は、10.0体積%以下、5.00体積%以下、3.00体積%以下、1.00体積%以下、0.90体積%以下、0.80体積%以下、0.60体積%以下、0.40体積%以下、若しくは0.20体積%以下であってよく、又は0体積%であってよい。
【0034】
原料ゼオライトの焼成時間は、10分以上、・・・であってよく、1,500分以下、・・・であってよい。」
エ 「【実施例】
【0049】
《実施例1~9及び比較例1~5》
実施例1~9及び比較例1~5では、ゼオライトのSiOH量、BEA型ゼオライト由来の回折ピークの半値全幅、及び水共存下のデカン吸着量が、焼成条件によってどう変わるかを調べた。ゼオライトのSiOH量、及び回折ピークの半値全幅は、それぞれ、以下のようにして測定した。
【0050】
1.ゼオライトのSiOH量
ゼオライトのSiOH量は、FT-IRを用い、JIS K0117:2017(赤外分光分析通則)に準拠して、以下の手順によって測定した。
各実施例又は比較例で得られたゼオライト試料を乳鉢で粉砕した。粉砕物10mgを10MPaの圧力下で圧縮成形して、直径10mmのディスク試料を作製した。得られたディスク試料のFT-IR測定を、下記の条件にて行った。
測定装置:日本分光(株)製、フーリエ変換赤外分光光度計、「FT/IR-6600」
測定法:透過法
測定波長範囲:4,000~1,000cm-1
分解能:4cm-1
検出器:ミッドバンド テルル化カドミウム水銀(MCT)検出器
積算回数:64回
測定温度:500℃
測定雰囲気:10体積%-O2/N2流通下
【0051】
ゼオライトのスペクトルについては、上記のディスク試料を測定装置の試料室に装填し、10体積%-O2/N2流通下、室温から20℃/分の昇温速度で500℃まで昇温し、500℃の温度において10分間保持した後、測定を行った。
【0052】
バックグラウンドスペクトルについては、ディスク試料の代わりに空セルを試料室に装填した他は、ゼオライトのスペクトルと同様にして測定を行った。
【0053】
得られたゼオライトのFT-IRスペクトルは、日本分光(株)製の解析ソフトウエア、「JASCOスペクトルマネージャ Ver.2」を用いて、試料のスペクトルからバックグラウンドのスペクトルを減じたうえで、以下のように解析を行った。
【0054】
(1)SiOH由来ピーク面積(A1、A2)の算出
波数4,000cm-1における吸光度と波数3,000cm-1における吸光度とを直線で結ぶ2点間補正により、ベースラインを設定した。波数3,900~3,500cm-1の範囲のスペックトルにつき、表1に記載のピーク番号1~5のピークにてフィッティングを行った。そして、ピーク番号1のピークの面積A1、及びピーク番号2のピークの面積A2を、それぞれ、ゼオライト外表面のSiOH量、及びゼオライト内表面のSiOH量と定義した。このフィッティングは、非特許文献「Materials Today:Proceedings 42(2021)pp211-216」を参考にして行った。
【0055】
【表1】
[図:0001427953000005.jpg]
【0056】
(2)SiO由来ピーク面積A0の算出
波数2,120cm-1における吸光度による1点補正により、ベースラインを設定した。波数2,000~1,500cm-1の範囲のスペックトルにつき、表2に記載のピーク番号1~3のピークにてフィッティングを行った。そして、ピーク番号1のピークの面積A0をゼオライトのSiO量と定義した。このフィッティングは、非特許文献「Applied Catalysis A:General 200(2000)pp125-134」を参考にして行った。
【0057】
【表2】
[図:0001427953000006.jpg]
【0058】
(3)ゼオライト試料に含まれるSiOH量の算出
ゼオライトの骨格(SiO)に含まれるSiOH量(外表面SiOH量及び内表面SiOH量の合計)を、下記数式によって算出した。
SiOH量=(A1+A2)/A0
【0059】
2.BEA型ゼオライト由来の回折ピークの半値全幅
BEA型ゼオライト由来の回折ピークの半値全幅は、JIS K0131:1996(X線回折分析通則)に準拠して、下記の条件にて測定したX線回折(XRD)の結果から、後述の手法によって求めた。
測定装置:(株)リガク製、X旋回折装置、「RINT-TTR III」
走査軸:2θ/θ
線源:CuKα
測定方式:連続式
電圧:40kV
電流:250mA
測定範囲:2θ=5~85°
サンプリング幅:0.02°
スキャン速度:8.00°/分
発散スリット:1°
発散縦制限スリット:10mm
散乱スリット:8mm
受光スリット:13mm
【0060】
得られたXRDパターンについて、(株)リガク製の統合粉末X線解析ソフトウエア、「PDXL2」を用い、下記の条件でデータ処理を行った。
データ処理モード:自動
ピークサーチ条件
σカット値:3.00
σカット範囲:0.50~20.00
【0061】
得られたピークのうち、ピークトップが2θ=22.5±0.1°のピークをBEA型ゼオライト由来の回折ピークとして、その半値全幅を算出した。
【0062】
3.水共存下のデカン吸着量
各実施例又は比較例で得られたゼオライト試料について、水共存下のデカン吸着量を、以下の手順により調べた。
【0063】
ゼオライト試料を乳鉢で粉砕した。粉砕物3.0gを26MPaの圧力下で1分間圧縮成形して、直径35mmのディスク試料を作製した。得られたディスク試料を乳鉢で粗く粉砕した後、分級して、0.5~1.0mmサイズのペレット試料を得た。
【0064】
ペレット試料を乾燥機中で250℃、30分間静置して、乾燥したペレット試料を得た。乾燥質量0.5gのペレット試料を吸着装置((株)堀場製作所製の触媒評価装置「SIGU-1000」)に装填して、10体積%-O2/N2流通下で室温から25℃/分の昇温速度で500℃まで昇温して、500℃で10分間保持した。これにより、ゼオライト試料の細孔内に残存する炭化水素類及び水を除去する前処理を行った。試料温度を100℃まで降温した後、吸着装置に下記組成のデカン含有モデルガスを流量5L/分にて15分間流通させて、ゼオライト試料にデカンを吸着させた。このときのガス濃度は、(株)堀場製作所のFTIR法エンジン排ガス測定装置「MEXA-ONE-FT」を用いて測定した。
デカン:3,000ppm-C(炭素質量換算で3,000ppm)
水:3体積%
窒素:バランス
【0065】
デカン含有モデルガスを15分間流通させた後、流通ガスを窒素100%に切り替えて、100℃にて5分間保持した。その後、窒素の流通を維持したまま、20℃/分の昇温速度で試料温度を550℃まで昇温して、ゼオライト試料からデカンを脱離させた。この脱離デカンの積算量を、水共存下のデカン吸着量(mg/g-ゼオライト)とした。
【0066】
〈実施例1〉
原料として市販のBEA型ゼオライト(東ソー(株)製、ハイシリカゼオライト「HSZ-940HOA」SiO2/Al2O3(SAR)=40)を用い、これを、大気圧下、700℃において、300分間焼成した。この焼成は、電気炉を用いて、大気圧下、室温から25℃/分の昇温速度で目的温度(700℃)まで昇温し、目的温度において300分間保持することによって行った。その後、電気炉のヒーターを消し、電気炉中で試料を室温まで放冷した。目的温度(700℃)における焼成雰囲気のH2O濃度は、0.90体積%であった。
【0067】
得られた焼成後のゼオライトについて、上述の測定を行った。結果を表3示す。
【0068】
〈実施例2~9及び比較例1~5〉
焼成条件を表3に記載のとおりに変更した他は、実施例1と同様に焼成を行って、それぞれ、ゼオライト試料を得た。得られたゼオライト試料について、上記の各種の測定を行った。
・・・
【0071】
結果を表3に示す。
【0072】
【表3】
[図:0001427953000007.jpg]
【0073】
表3から、以下のことが理解される。
【0074】
原料BEA型ゼオライトを焼成しない比較例1、並びに焼成温度が650℃未満である比較例2及び3の試料は、XRDにおける2θ=22.5±0.1°のピークの半値全幅が0.30以下であり、BEA型ゼオライトの結晶構造は維持されていたが、SiOH量が0.50以上と多かった。これらの試料についての、水存在下のデカン吸着量は、低い値であった。
【0075】
一方、原料BEA型ゼオライトの焼成温度が900℃を超える、比較例4及び5の試料は、SiOH量は0.50未満であり、低かったが、XRDにおける2θ=22.5±0.1°のピークの半値全幅が0.30超であるか、又は2θ=22.5±0.1°のピークが検出されず、BEA型ゼオライトの結晶構造が破壊されていることが示唆された。これらの試料についての、水存在下のデカン吸着量は極めて低い値であった。これは、BEA型ゼオライトの細孔構造が破壊されたことにより、デカンの吸着ができなくなったためであると考えられる。
【0076】
これらに対して、原料BEA型ゼオライトの焼成温度が650~900℃である実施例1~9の試料は、XRDにおける2θ=22.5±0.1°のピークの半値全幅が0.29未満であり、BEA型ゼオライトの結晶構造は維持されており、かつ、SiOH量は0.50未満であり、低かった。これらの試料についての、水存在下のデカン吸着量は、高い値を示した。また、実施例2~8の比較から、焼成温度が同じである場合、焼成時の雰囲気中の水分量(H2O濃度)が少ないほど、水存在下のデカン吸着量が多くなる傾向が見られた。
【0077】
《実車評価》
実施例2及び7、並びに比較例1それぞれ得られたゼオライト試料を用いて、実車評価におけるHCエミッション量を調べ、本発明の排ガス浄化触媒を含む排ガス浄化触媒システムの効果を検証した。
【0078】
排ガス浄化触媒システムは、
コージェライト製のストレート型ハニカム基材上に、Pdを含む触媒コート層(下層)及びRhを含む触媒コート層(上層)をこの順に形成したスタートアップ触媒装置と、
上記と同じハニカム基材上に、実施例2若しくは7、又は比較例1のゼオライト試料を含む触媒コート層(下層)、Pdを含む触媒コート層(中間層)、及びRhを含む触媒コート層(上層)をこの順に形成したアンダーフロア触媒装置と
から成る。
【0079】
また、比較例6として、
上記のスタートアップ触媒装置と、
ハニカム基材上に、Pdを含む触媒コート層(下層)、及びRhを含む触媒コート層(上層)をこの順に形成したアンダーフロア触媒装置と
から成る排ガス浄化触媒システムを用いて、実車評価を行った。
【0080】
上記の各排ガス浄化触媒システムを、排気量1,500ccのガソリンエンジン車両に搭載し、アンダーフロア触媒装置の出側に全炭化水素(THC)濃度測定装置を装着した。シャシダイナモメータ上で、WLTCモードにしたがってこの車両を運転し、LOWフェーズ(WLTCモードの0~600秒)におけるTHCの積算排出量を求め、これをコールド領域のHCエミッション量(mg/km)とした。結果を表4に示す。
【0081】
[図:0001427953000008.jpg]
【0082】
ゼオライトを含む触媒コート層を有さないアンダーフロア触媒装置を用いた、比較例6の排ガス浄化触媒システムのコールド領域のHCエミッションは、16.81mg/kmであった。
【0083】
一方、本発明の規定を満たさない比較例1のゼオライトを含む触媒コート層を有するアンダーフロア触媒装置を用いた排ガス浄化触媒システムのHCエミッションは、14.16mg/kmであった。すなわち、比較例1の排ガス浄化触媒システムのアンダーフロア触媒装置によるHCエミッションの低減量は、比較例6のアンダーフロア触媒装置に比べて、2.65mg/km改善されている(16.81-14.16=2.65(mg/km))。
【0084】
これに対して、本発明の規定を満たす実施例2及び7のゼオライトを含む触媒コート層を有するアンダーフロア触媒装置を用いた排ガス浄化触媒システムのHCエミッションは、実施例2では13.00mg/kmであり、実施例7では13.26mg/kmであった。すなわち、比較例6のアンダーフロア触媒装置に比べて、
実施例2のゼオライトを含む触媒コート層を有するアンダーフロア触媒装置によるHCエミッションの低減量は、3.81mg/km(=16.81-13.00=3.81(mg/km))であり、
実施例7のゼオライトを含む触媒コート層を有するアンダーフロア触媒装置によるHCエミッションの低減量は、3.55mg/km(=16.81-13.26=3.55(mg/km))であった。
【0085】
したがって、本発明の規定を満たす実施例2及び7のゼオライトを用いることにより、本発明の規定を満たさない比較例1のゼオライトを用いる場合と比較して、HCエミッションが大きく改善されたことが分かる。HCエミッションの改善率は、
実施例2では、43.8%({3.81-2.65)/2.65}×100=43.8(%))であり、
実施例7では、34.0%({3.55-2.65)/2.65}×100=34.0(%))であった。
【0086】
表4の結果により、本発明の排ガス浄化触媒を含む排ガス浄化触媒システムは、コールド領域のHCエミッション量の低減に有効であることが検証された。」
(3) サポート要件の判断
ア 前記(2)アの記載によれば、本件発明は、「排ガス浄化触媒」に関するものであって、自動車エンジン等の内燃機関からの排ガス中には、窒素酸化物(NOX)、一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)等が含まれ、これらの排ガスは、CO及びHCを酸化し、かつNOXを還元する「排ガス浄化触媒」を含む、排ガス浄化触媒装置によって浄化したうえで、大気中に放出されているのであるが、このうち、HCについては、エンジン始動時等の触媒が暖まっていないコールド時には、HCを触媒的に浄化することは困難であるため、排ガス浄化触媒装置にHC吸着材を含有させて、コールド時にはHCを吸着させ、ホット時にはHCを徐放して、触媒的な浄化に供することが行われているものである。
そして、従来、SiO2/Al2O3のモル比(SAR)が200未満のBEA型ゼオライトと、SARが200~1,000のBEA型ゼオライトとを含む、炭化水素吸着材が提案されており、これを排ガス浄化触媒装置に含有させることにより、総炭化水素(THC)エミッションが低減されると説明されており、HC吸着材としてBEA型ゼオライトを用いることは、HCエミッションの低減に有効であると考えられるものである。
ところが、BEA型ゼオライトは、合成時に構造欠陥ができ易く、BEA型ゼオライトの構造欠陥では、Si-O-Si結合が切断されて、Si-OH基が生成していると考えられ、このSi-OH基は、水との親和性が強いため、構造欠陥を有するBEA型ゼオライトを「排ガス浄化触媒」として使用すると、Si-OH基に水が吸着して細孔の一部が閉塞されて、所期のHC吸着能が発現されないのであり、そのような吸着水による細孔の閉塞は触媒が暖まると解消するが、コールド時には吸着水の影響が顕著に表れ、コールド領域におけるHCエミッションの低減を著しく阻害することから、本件発明は、構造欠陥が少なく、コールド時のHC吸着能に優れ、コールド領域におけるHCエミッションを低減させ得る、「排ガス浄化触媒」を提供することを目的とするものである(段落【0001】~【0009】)。
そして、前記(2)イの記載によれば、本件発明は、BEA型ゼオライトを含む「排ガス浄化触媒」であって、前記BEA型ゼオライトのFT―IR測定における、3,730cm-1以上3,740cm-1以下にピークトップがあるピークの面積A1と、3,720cm-1以上3,725cm-1以下にピークトップがあるピークの面積A2と、1,978cm-1以上1,983cm-1以下にピークトップがあるピークの面積A0とを用いて計算される、(A1+A2)/A0の値が0.50未満であり、かつ、前記BEA型ゼオライトのXRD測定における2θ=22.5±0.1°の回折ピークの半値全幅が0.30°以下である、「排ガス浄化触媒」に係るものであり、そのような「排ガス浄化触媒」は、構造欠陥が少なく、コールド時のHC吸着能に優れるので、コールド領域におけるHCエミッションを、効果的に低減させることができるものである(段落【0010】~【0012】)。
具体的には、前記(1)ウの記載によれば、本件発明に係る「排ガス浄化触媒」に含まれるBEA型ゼオライトは、FT―IR測定における面積A1と、面積A2と、面積A0とを用いて計算される、(A1+A2)/A0の値が0.50未満であり、前記BEA型ゼオライトは、この要件により、構造欠陥に伴うSi-OH基の量が少ないBEA型ゼオライトであることが担保されるものであり、また、前記BEA型ゼオライトは、XRD測定における2θ=22.5±0.1°の回折ピークの半値全幅が0.30°以下であり、前記BEA型ゼオライトは、この要件により、結晶構造が十分に維持されているBEA型ゼオライトであることが担保されるものであり、前記BEA型ゼオライトは、前記の2つの要件により、構造欠陥の少ないBEA型ゼオライトであることが担保されているものであり、このようなBEA型ゼオライトを含む本発明に係る「排ガス浄化触媒」は、コールド時のHC吸着能に優れており、これを排ガス浄化触媒装置に含有させると、コールド時のHCエミッションを効果的に低減することができるものである(段落【0014】~【0016】)。
ここで、BEA型ゼオライトのFT―IR測定において、3,730cm-1以上3,740cm-1以下にピークトップがあるピークは、孤立Si-OH結合の伸縮振動に由来すると考えられ、3,720cm-1以上3,725cm-1以下にピークトップがあるピークは、水素結合したSi-OH結合の伸縮振動に由来すると考えられ、また、1,978cm-1以上1,983cm-1以下にピークトップがあるピークは、Si-O結合の伸縮振動に由来すると考えられることから、BEA型ゼオライトのFT―IR測定における、各ピークのピーク面積比(A1+A2)/A0の値が0.50未満であるとは、当該BEA型ゼオライトが有するSi-O結合に対するSi-OH基の割合が少ないことを意味するので、(A1+A2)/A0の値が0.50未満であるBEA型ゼオライトは、構造欠陥に伴うSi-OH基の量が少ないことから、コールド時であっても、Si-OH基に吸着する吸着水の影響が少なく、所期のHC吸着能を発現することができるものである(段落【0018】~【0019】)。
また、前記BEA型ゼオライトの、XRD測定における2θ=22.5±0.1°の回折ピークの半値全幅が0.30°以下であることで、前記BEA型ゼオライトが、BEA型の結晶構造が十分に発達したゼオライトであることが担保されるものである(段落【0022】)。
イ 前記アによれば、本件発明は、自動車エンジン等の内燃機関からの排ガスを、CO及びHCを酸化し、かつNOXを還元する「排ガス浄化触媒」を含む排ガス浄化触媒装置によって浄化するにあたって、エンジン始動時等の触媒が暖まっていないコールド時に、HC吸着材として、HCエミッションの低減に有効であると考えられるBEA型ゼオライトを用いる場合、前記BEA型ゼオライトは、合成時に構造欠陥ができ易く、BEA型ゼオライトの構造欠陥では、Si-O-Si結合が切断されて、Si-OH基が生成していると考えられ、このSi-OH基は、水との親和性が強いため、構造欠陥を有するBEA型ゼオライトを排ガス浄化触媒として使用すると、Si-OH基に水が吸着して細孔の一部が閉塞されて、所期のHC吸着能が発現されない、という課題や、そのような吸着水による細孔の閉塞は、コールド時には吸着水の影響が顕著に表れ、コールド領域におけるHCエミッションの低減を著しく阻害する、という課題(以下、「本件課題」という。)を解決するものである。
そして、本件発明は、BEA型ゼオライトを含む「排ガス浄化触媒」において、前記BEA型ゼオライトのFT―IR測定における、3,730cm-1以上3,740cm-1以下にピークトップがあるピークの面積A1と、3,720cm-1以上3,725cm-1以下にピークトップがあるピークの面積A2と、1,978cm-1以上1,983cm-1以下にピークトップがあるピークの面積A0とを用いて計算される、(A1+A2)/A0の値を0.50未満とし、かつ、前記BEA型ゼオライトのXRD測定における2θ=22.5±0.1°の回折ピークの半値全幅を0.30°以下とすることで、構造欠陥が少なく、コールド時のHC吸着能に優れるものとなり、コールド領域におけるHCエミッションを効果的に低減させることができるものとなって、本件課題を解決できるものである。
ウ 更に、このことは、前記(2)エの実施例の記載からも裏付けられるものである。
すなわち、前記(2)エの実施例の記載(段落【0072】【表3】)によれば、(A1+A2)/A0の値が0.45(実施例1)以下である実施例1~7の水共存下のデカン吸着量は、94.99mg/g(実施例1)~99.61mg/g(実施例2)であり、(A1+A2)/A0の値が0.47である実施例8や、(A1+A2)/A0の値が0.50~0.51である比較例1~3の水共存下のデカン吸着量である87.46mg/g(比較例3)~93.20mg/g(実施例8)よりも多くなることが看取されるものである。
そして、これらの実施例及び比較例は、XRD測定における2θ=22.5±0.1°の回折ピークの半値全幅が、0.20°(比較例2)~0.23°(実施例2~6)の範囲に収まり、大きく異なるものではないことと、デカンがHCであることからみれば、本件発明においては、(A1+A2)/A0の値を0.45以下とすることで、HCの吸着量を増やすことができることが開示されているといえ、HCの吸着量が増えれば、コールド領域におけるHCエミッションを低減できることが推認されるものである。
そうすると、本件発明においては、(A1+A2)/A0の値を0.45以下とすることで、コールド領域におけるHCエミッションを低減でき、本件課題を解決できるものといえる。
また、2θ=22.5±0.1°の回折ピークの半値全幅が0.28°、A1+A2)/A0の値が0.30である実施例9は、水共存下のデカン吸着量が90.11mg/gであるのに対して、2θ=22.5±0.1°の回折ピークの半値全幅が0.40°と大きい比較例4は、(A1+A2)/A0の値が0.11とより小さく、HC吸着を阻害するSi-OH基の量もより少ないことが推認されるにもかかわらず、水共存下のデカン吸着量が0.85mg/gと大幅に少なくなっているから、本件発明においては、2θ=22.5±0.1°の回折ピークの半値全幅を0.30°以下とすることで、HCの吸着量を増やすことができることが開示されているといえ、HCの吸着量が増えれば、コールド領域におけるHCエミッションを低減できることが推認されるものである。
そうすると、本件発明においては、2θ=22.5±0.1°の回折ピークの半値全幅を0.30°以下とすることで、コールド領域におけるHCエミッションを低減でき、本件課題を解決できるものといえる。
これらのことからみれば、本件発明において、(A1+A2)/A0の値を0.45以下とし、かつ、2θ=22.5±0.1°の回折ピークの半値全幅を0.30°以下とすることで、コールド領域におけるHCエミッションを低減でき、本件課題を解決できることは、前記(2)エの実施例の記載からも裏付けられるものである。
エ 前記イ及びウによれば、本件特許明細書の記載に接した当業者は、BEA型ゼオライトを含む「排ガス浄化触媒」において、前記BEA型ゼオライトの前記(A1+A2)/A0の値を0.50未満、特に0.45以下とし、かつ、前記BEA型ゼオライトのXRD測定における2θ=22.5±0.1°の回折ピークの半値全幅を0.30°以下とすることで、本件課題を解決できることを理解することができる。
そして、本件発明1は、前記BEA型ゼオライトの前記(A1+A2)/A0の値を0.45以下とし、かつ、前記BEA型ゼオライトのXRD測定における2θ=22.5±0.1°の回折ピークの半値全幅を0.30°以下とすることを満たすから、その発明特定事項により本件課題を解決できるものであり、このことを前記(1)の判断手法に当てはめてみれば、本件特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合する。
更に、本件発明1と同様に、前記BEA型ゼオライトの前記(A1+A2)/A0の値を0.45以下とし、かつ、前記BEA型ゼオライトのXRD測定における2θ=22.5±0.1°の回折ピークの半値全幅を0.30°以下とすることを満たす本件発明2~6、8~13について検討しても、事情は同じである。
(4) 申立人の主張について
ア 始めに、前記第4の2(1)の主張について検討するが、サポート要件に関する判断は、前記(1)に記載した判断手法に従って判断するものである。そして、前記(3)イによれば、本件発明は、自動車エンジン等の内燃機関からの排ガスを、CO及びHCを酸化し、かつNOXを還元する「排ガス浄化触媒」を含む、排ガス浄化触媒装置によって浄化することを前提として、コールド領域におけるHCエミッションの低減に関する本件課題を解決しようとするものといえる。
そうすると、本件発明は、そもそも、COの酸化やNOXの還元に関する課題を解決するものではないから、本件特許明細書において、窒素酸化物を還元する還元性能や、一酸化炭素を二酸化炭素に酸化する酸化性能を評価する試験が行われていないとしても、また、コールド時の炭化水素吸着性能が、窒素酸化物を還元する還元性能や、一酸化炭素を二酸化炭素に酸化する酸化性能と直接的な相関性がないとしても、このことから、本件発明により本件課題を解決できないということはできない。
そして、本件発明1の発明特定事項により本件課題を解決できることは、前記(3)エに記載したとおりであるから、本件特許明細書の記載を本件発明1に係る「排ガス浄化触媒」まで拡張ないし一般化することができないとはいえない。
更に、本件発明2~6、8~13について検討しても事情は同じであるから、前記第4の2(1)の主張は採用できない。
イ 次に、前記第4の2(2)の主張について検討すると、本件発明は、自動車エンジン等の内燃機関からの排ガスを、CO及びHCを酸化し、かつNOXを還元する「排ガス浄化触媒」を含む、排ガス浄化触媒装置によって浄化することを前提として、コールド領域におけるHCエミッションの低減に関する本件課題を解決しようとするものといえることは、前記アに記載したとおりである。
してみれば、当業者は、本件発明に係る「排ガス浄化触媒」は、BEA型ゼオライト以外に、CO及びHCを酸化し、かつNOXを還元して浄化する際に通常用いられる物質を有するものであり、BEA型ゼオライトのみからなる「排ガス浄化触媒」は包含しないと理解するから、本件特許明細書の発明の詳細な説明において、BEA型ゼオライトのみからなる「排ガス浄化触媒」によって、コールド領域におけるHCエミッションを低減できることが実証されていないとしても、本件特許明細書の記載を本件発明1に係る「排ガス浄化触媒」まで拡張ないし一般化することができないとはいえない。
更に、本件発明2~6、8~13について検討しても事情は同じであるから、前記第4の2(2)の主張も採用できない。
ウ 次に、前記第4の2(3)の主張について検討すると、本件発明1は、その発明特定事項により本件課題を解決できるものであることは、前記(3)エに記載したとおりである。
また、本件特許明細書の段落【0018】~【0019】、【0022】の記載(前記(2)ウ)からみれば、当業者は、シリカ/アルミナ比に関わらず、前記BEA型ゼオライトの前記(A1+A2)/A0の値を0.50未満とし、かつ、前記BEA型ゼオライトのXRD測定における2θ=22.5±0.1°の回折ピークの半値全幅を0.30°以下とすることで、ゼオライトの構造欠陥が少なくなり、結晶構造が発達するものとなり、コールド領域におけるHCエミッションが低減されて、本件課題を解決できることを理解できる。
そうすると、本件特許請求の範囲においてシリカ/アルミナ比が特定されておらず、本件特許明細書の発明の詳細な説明において、シリカ/アルミナ比が40以外のBEA型ゼオライトで炭化水素の排出を確認していないとしても、また、BEA型ゼオライトのシリカ/アルミナ比がHC吸着能に影響することが本件特許の出願時における技術常識であるとしても、本件発明1の発明特定事項により本件課題を解決できることに変わりはないから、本件特許明細書の記載を本件発明1に係る「排ガス浄化触媒」まで拡張ないし一般化することができないとはいえない。
更に、本件発明2~6、8~13について検討しても事情は同じであるから、前記第4の2(3)の主張も採用できない。
エ 最後に、前記第4の2(4)の主張について検討すると、本件発明において、(A1+A2)/A0の値を0.45以下とし、かつ、2θ=22.5±0.1°の回折ピークの半値全幅を0.30°以下とすることで本件課題を解決できることは、前記(2)エの実施例の記載からも裏付けられることは、前記(3)ウに記載したとおりであるから、本件特許明細書において炭化水素排出量を確認しているのが(A1+A2)/A0の値が0.33である実施例2と、(A1+A2)/A0の値が0.41である実施例7だけであり、そうでないBEA型ゼオライトの炭化水素排出量を確認していないとしても、また、本件特許明細書の段落【0018】~【0019】(前記(2)ウ)の記載が全て推測にすぎないとしても、本件発明1の発明特定事項により本件課題を解決できることに変わりはないので、本件特許明細書の記載を本件発明1に係る「排ガス浄化触媒」まで拡張ないし一般化することができないとはいえない。
更に、本件発明2~6、8~13について検討しても事情は同じであるから、前記第4の2(4)の主張も採用できない。
オ したがって、申立人の前記第4の2の主張はいずれも採用できない。
(5) 小括
よって、本件特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号所定の規定に適合するから、前記第4の2の特許異議の申立て理由は理由がない。
3 特許法第36条第6項第2号所定の規定違反(明確性要件違反)について
(1) 明確性要件の判断手法
特許請求の範囲の記載が明確性要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載だけでなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきであるので、以下、この観点に立って検討する。
(2) 明確性要件の判断
ア 始めに、前記第4の3(1)の主張について検討すると、本件発明5は、「排ガス浄化触媒の製造方法」が、「前記(A1+A2)/A0の値が0.50以上であり、かつ、前記2θ=22.5±0.1°の回折ピークの半値全幅が0.30°以下である、BEA型ゼオライトを、650℃以上900℃以下の温度で焼成することを含み、前記焼成のときの雰囲気中の、焼成の温度における水分量が、1.00体積%以下である」ことが理解できるから、そもそも、その発明特定事項が第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるものではない。
また、前記主張は、本件発明5に係る「排ガス浄化触媒の製造方法」が、「(A1+A2)/A0の値が0.50以上であり、かつ、2θ=22.5±0.1°の回折ピークの半値全幅が0.30°以下であるBEA型ゼオライト」を「650℃以上900℃以下の温度で焼成」しさえすれば、本件発明5の発明特定事項を満たす「排ガス浄化触媒」を製造できると解されることを前提としたものといえる。
ところが、本件発明5に係る「排ガス浄化触媒の製造方法」は、「650℃以上900℃以下の温度で焼成」する、との発明特定事項に加えて、「前記焼成のときの雰囲気中の、焼成の温度における水分量が、1.00体積%以下である」、との発明特定事項を有するものであるし、本件発明における「BEA型ゼオライト」は、原料ゼオライトの焼成温度のみならず、ほかに、当該焼成温度における雰囲気中の水分量を適切なものとすることで得られると解されるのであり、原料ゼオライトを単に650℃以上900℃以下で焼成すれば得られるものとはいえないことは、前記1(2)ウ(ウ)に記載したとおりであるから、前記第4の3(1)の主張は、前提において誤っている。
更に、本件特許明細書の実施例8において、(A1+A2)/A0の値が0.47未満であるBEA型ゼオライトが得られていないとしても、本件発明5の発明特定事項との間で記載が整合していないわけではないから、本件発明5の発明特定事項が第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。
そして、このことを前記(1)の判断手法に当てはめてみれば、本件特許請求の範囲の記載は明確性要件に適合する。
更に、本件発明6について検討しても事情は同じであるから、前記第4の3(1)の主張は採用できない。
イ 次に、前記第4の3(2)の主張及び前記第5の2の取消理由について検討すると、本件発明9は、「請求項1~4のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒を含む、排ガス浄化触媒装置。」に係る発明であるから、本件発明9の発明特定事項が第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。
そして、このことを前記(1)の判断手法に当てはめてみれば、本件特許請求の範囲の記載は明確性要件に適合する。
更に、本件発明10~13について検討しても事情は同じであるから、前記第4の3(2)の主張も採用できないし、前記第5の2の取消理由は理由がない。
(3) 小括
よって、本件特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号所定の規定に適合するから、前記第4の3の特許異議の申立て理由及び前記第5の2の取消理由は、いずれも理由がない。
4 特許法第36条第4項第1号所定の規定違反(実施可能要件違反)について
申立人は、申立人意見書において、更に、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は実施可能要件を満たさない旨を主張している。
前記主張は、もともと、特許異議申立書に記載されたものではなく、実質的に新たな内容のものであるから、検討の必要がないが、以下、念のために検討しておく。
(1) 申立人の主張の概要
申立人意見書における実施可能要件に関する申立人の主張は、概略、以下のとおりである。
ア 本件発明1においては、BEA型ゼオライトの(A1+A2)/A0の下限値が特定されていないのに対して、(A1+A2)/A0が最も小さい実施例は、実施例9の0.30であり、本件特許明細書の【表3】(前記2(2)エ)の記載からみれば、実施例9の焼成条件を、H2O濃度0.00体積%としたとしても、(A1+A2)/A0は0.22にしかならない蓋然性が高い。
すると、(A1+A2)/A0が0.22未満のBEA型ゼオライトを製造するには、過度の試行錯誤を要するので、本件特許明細書の記載は実施可能要件を満たさない(9ページ17行~11ページ下から4行)。
イ 本件発明1においては、BEA型ゼオライトのSiO2/Al2O3モル比が特定されていないから、本件発明1は、実施例で製造されたSiO2/Al2O3モル比が40のBEA型ゼオライトよりも、SiO2/Al2O3モル比が大幅に大きいBEA型ゼオライトも包含されるものと解される。
ここで、甲第6号証には、Si/Alモル比が14から23に変化することで、赤外線スペクトルにおけるシラノールに帰属するピーク強度(2158cm-1のピーク強度)が20%程度増加することが示されており(表1(238ページ)、図9(244ページ)、244ページ左欄27行~33行)、係る開示からみれば、SiO2/Al2O3モル比を高くするほど、シラノール量が増加する傾向も看取できるから、本件発明においてSiO2/Al2O3モル比を高くするほど、シラノール量の評価指標である(A1+A2)/A0の値も増加する蓋然性が高い。
すると、SiO2/Al2O3モル比が40よりも大幅に大きい原料BEA型ゼオライトの(A1+A2)/A0の値も増加する蓋然性が高く、(A1+A2)/A0の値が1.0近くまで増加することも想定されるのであるが、本件特許明細書の【表3】(前記2(2)エ)の記載からみれば、焼成処理後のBEA型ゼオライトの(A1+A2)/A0の値は、最大でも0.51(比較例1)-0.30(実施例9)=0.21しか下がらない。
このため、原料BEA型ゼオライトのSiO2/Al2O3モル比が40よりも大幅に大きくなり、(A1+A2)/A0の値も大幅に高くなると、それを焼成してもBEA型ゼオライトの(A1+A2)/A0の値が0.45以下にならない蓋然性が高いから、本件発明1に包含される、SiO2/Al2O3モル比が大幅に大きいBEA型ゼオライトを製造するには、過度の試行錯誤を要するので、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は実施可能要件を満たさない(11ページ下から3行~13ページ13行)。
(2) 実施可能要件の判断
ア 始めに、前記(1)アの主張について検討すると、本件特許明細書の段落【0020】(前記2(2)ウ)の記載によれば、本件発明においては、(A1+A2)/A0の値を必要以上に小さくしようとすると、調製時の焼成温度を高くする必要が生じ、BEA型ゼオライトの結晶構造が破壊されて、HC吸着能が損なわれることが懸念されるから、(A1+A2)/A0の値は、0.10以上、あるいは0.30以上であってよいものである。
このことからみれば、本件発明においては、(A1+A2)/A0の値を必要以上に小さくする必要はなく、「BEA型ゼオライト」のHC吸着能が損なわれない範囲とすればよいのであるから、当業者は、そのような範囲で本件発明に係る「排ガス浄化触媒」を製造することができる。
してみれば、本件発明1において「BEA型ゼオライト」の(A1+A2)/A0の下限値が特定されていないとしても、また、実施例9の焼成条件をH2O濃度0.00体積%としたとしても、(A1+A2)/A0の値が0.22にしかならないとしても、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載が実施可能要件を満たさないということはできない。
したがって、前記(1)アの主張は採用できない。
イ 次に、前記(1)イの主張について検討すると、本件特許明細書の段落【0024】(前記2(2)ウ)の記載によれば、本件発明に係る「排ガス浄化触媒」に含まれるBEA型ゼオライトにおける、シリカ(SiO2)/アルミナ(Al2O3)のモル比として定義される値であるシリカ/アルミナ比(SAR)は、合成の容易性を確保するため、20以上、あるいは40以上であってよいものであり、HCの吸着能を高くする観点から、100以下、あるいは50以下であってよいものである。
このことからみれば、本件発明においては、「BEA型ゼオライト」のシリカ(SiO2)/アルミナ(Al2O3)のモル比は、合成の容易性を確保しつつ、HCの吸着能を高くする範囲であればよいのであるから、当業者は、そのような範囲で本件発明に係る「排ガス浄化触媒」を製造することができる。
してみれば、本件発明1において、「BEA型ゼオライト」のリカ(SiO2)/アルミナ(Al2O3)モル比が特定されていないとしても、また、甲第6号証の記載から、SiO2/Al2O3モル比を高くするほど、(A1+A2)/A0の値も増加する蓋然性が高いとしても、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載が実施可能要件を満たさないということはできない。
したがって、前記(1)イの主張も採用できない。
ウ よって、申立人の前記(1)の主張はいずれも採用できない。
第7 むすび
以上のとおりであるから、申立人の特許異議申立書に記載した特許異議の申立て理由によっては、本件発明1~6及び8~13に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1~6及び8~13に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、本件訂正により請求項7は削除されたから、請求項7に係る特許異議の申立てについては対象となる請求項が存在しなくなったので、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700769