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特許異議申立

2025-700473

3D印刷のための難燃性ポリアミド及びコポリアミド

審判番号
2025-700473
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2021-556486
登録番号
7576560
請求日
2025年04月25日
審決日
2025年07月29日
公報発行日
2025年08月29日
結論
維持
当事者
  • 【権利者】アルケマ フランス
  • 【権利者代理人】弁理士法人川口國際特許事務所
  • 【異議申立人】中水 麻衣
審判長/審判官
  • 審判長 ▲吉▼澤 英一
  • 審判官 松本 直子
  • 審判官 加藤 幹
分類
P1651.113-Y (C08L) / P1651.121-Y (C08L) / P1651.536-Y (C08L) / P1651.537-Y (C08L)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号
データ出所
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特許第7576560号発明「3D印刷のための難燃性ポリアミド及びコポリアミド」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7576560号の請求項1~18に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7576560号(以下「本件特許」という。)に係る出願は、令和2年3月17日を国際出願日(パリ条約に基づく優先権主張 平成31年3月18日 フランス(FR))とする出願(特願2021-556486)であって、令和6年10月23日にその特許権の設定登録(請求項の数18)がされ、同年同月31日に特許掲載公報が発行されたものである。 その後、令和7年4月25日に、本件特許の請求項1~18に係る特許に対して、特許異議申立人 中水 麻衣(以下「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされた。 第2 本件発明 本件特許の請求項1~18に係る発明(以下「本件発明1」~「本件発明18」といい、これらをまとめて「本件発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1~18に記載された事項により特定される次のとおりのものである。また、本件特許の願書に添付された明細書を「本件明細書」という。 「【請求項1】 粉末床溶融による難燃性部品の製造方法であって、粉末は少なくとも1種のポリアミド及び/又はコポリアミド並びに環状ホスホン酸エステル型の少なくとも1種の難燃剤を含み、環状ホスホン酸エステル型の難燃剤は一般式(I) 【化1】 [図:0001425818000001.jpg] [式中、 j、k、l及びmは同一であるか又は異なり、1~3の整数を表し、 A1及びA2は同一であるか又は異なり、1~4個の炭素原子のアルキル基又は5~7個の炭素原子のアリール基を表す。]のものであり、 当該粉末は、少なくとも1種のポリアミド及び/又はコポリアミドと、環状ホスホン酸エステル型の少なくとも一種の難燃剤とを乾式混合することによって調製される、方法。 【請求項2】 前記方法が3D印刷方法であり、粉末が3D印刷用粉末である、請求項1に記載の方法。 【請求項3】 前記方法が粉末のレーザー焼結による3D印刷の方法である、請求項1又は2に記載の方法。 【請求項4】 前記ポリアミドが、ポリアミド6(PA6)、ポリアミド66(PA66)、ポリアミド610(PA610)、ポリアミド612(PA612)、ポリアミド11(PA11)及びポリアミド12(PA12)からなる群から選択される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。 【請求項5】 前記ポリアミドがPA11である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。 【請求項6】 前記環状ホスホン酸エステル型の難燃剤が一般式(II) 【化2】 [図:0001425818000002.jpg] [式中、 A1及びA2は同一であるか又は異なり、1~4個の炭素原子のアルキル基又は5~7個の炭素原子のアリール基を表す。]のものである、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。 【請求項7】 前記環状ホスホン酸エステル型の難燃剤が次式(III) 【化3】 [図:0001425818000003.jpg] のものである、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。 【請求項8】 前記粉末が、該粉末の全重量に対して、5~40重量%の環状ホスホン酸エステル型の難燃剤を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。 【請求項9】 前記粉末が、該粉末の総重量に対して、少なくとも50重量%のポリアミド及び/又はコポリアミドを含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。 【請求項10】 前記粉末が、環状ホスホン酸エステル型の難燃剤の協力剤、顔料、染料、可塑剤、酸化防止剤、注入剤、及びUV吸収剤からなる群から選択される少なくとも1種の他の添加剤を含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。 【請求項11】 粉末床溶融による難燃性部品の製造を目的とする粉末であって、少なくとも1種のポリアミド及び/又はコポリアミド並びに環状ホスホン酸エステル型の少なくとも1種の難燃剤を含み、該環状ホスホン酸エステル型の難燃剤が一般式(I) 【化4】 [図:0001425818000004.jpg] [式中、 j、k、l及びmは同一であるか又は異なり、1~3の整数を表し、 A1及びA2は同一であるか又は異なり、1~4個の炭素原子のアルキル基又は5~7個の炭素原子のアリール基を表す。]のものであり、 当該粉末は、少なくとも1種のポリアミド及び/又はコポリアミドと、環状ホスホン酸エステル型の少なくとも一種の難燃剤とを乾式混合することによって調製される、 粉末。 【請求項12】 3D印刷方法を意図した、請求項11に記載の粉末。 【請求項13】 前記環状ホスホン酸エステル型の難燃剤が一般式(II) 【化5】 [図:0001425818000005.jpg] [式中、 A1及びA2は同一であるか又は異なり、1~4個の炭素原子のアルキル基又は5~7個の炭素原子のアリール基を表す。]のものである、 請求項11又は12に記載の粉末。 【請求項14】 前記粉末が、該粉末の全重量に対して、5~40重量%の環状ホスホン酸エステル型の難燃剤を含む、請求項11~13のいずれか一項に記載の粉末。 【請求項15】 前記粉末が、該粉末の総重量に対して、少なくとも50重量%のポリアミド及び/又はコポリアミドを含む、請求項11~14のいずれか一項に記載の粉末。 【請求項16】 前記粉末が、環状ホスホン酸エステル型の難燃剤の協力剤、顔料、染料、可塑剤、酸化防止剤、注入剤、及びUV吸収剤からなる群から選択される少なくとも1種の他の添加剤を含む、請求項11~15のいずれか一項に記載の粉末。 【請求項17】 難燃性部品を製造するための、粉末床溶融方法における請求項11~16のいずれか一項に記載の粉末の使用。 【請求項18】 少なくとも1種のポリアミド及び/又はコポリアミド並びに環状ホスホン酸エステル型の少なくとも1種の難燃剤を混合することを含み、該環状ホスホン酸エステル型の難燃剤が一般式(I) 【化6】 [図:0001425818000006.jpg] [式中、 j、k、l及びmは同一であるか又は異なり、1~3の整数を表し、 A1及びA2は同一であるか又は異なり、1~4個の炭素原子のアルキル基又は5~7個の炭素原子のアリール基を表す。]のものであり、 前記混合が乾式混合により行われる、 請求項11~16のいずれか一項に記載の粉末の調製方法。」 (当審注:以下、一般式(I)~(III)について記載する際に、構造式及び式の注釈は省略し、単に「一般式(I)」等と表記することがある。) 第3 申立理由の概要 申立人は、証拠方法として甲第1~9号証(以下「甲第1号証」等を、「甲1」等という。)を提出し、特許異議申立書(以下「申立書」という。)において、概略、以下の申立理由を主張する。 1 申立理由1(甲1を主引例とする新規性及び進歩性) 本件発明1~5、8~12、15~18は、その優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであり、また、本件発明1~18は、甲1に記載された発明及び甲4に記載された事項に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、これらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 2 申立理由2(甲2を主引例とする新規性及び進歩性) 本件発明1~6、8~18は、その優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲2に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであり、また、本件発明1~18は、甲2に記載された発明及び甲4に記載された事項に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、これらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 3 申立理由3(甲3を主引例とする新規性及び進歩性) 本件発明1~3、6~18は、その優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲3に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであり、また、本件発明1~18は、甲3に記載された発明並びに甲1及び甲2に記載された事項に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、これらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 4 申立理由4(実施可能要件) 本件特許の請求項1~18に係る特許は、下記(a)~(d)の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 (a)「粉末床溶融による難燃性部品の製造方法」について 甲1に記載されるように、「粉末床溶融による難燃性部品の製造方法」それ自体は従来技術にすぎない。また、本件明細書の【0017】~【0022】の記載から、本件発明1は、より好ましくは、粉末のレーザー等の焼結による3D印刷のための方法が含まれ、「3D印刷」とは、粉末を層ごとに付加又は凝集させること、つまり「焼結」による部品の大量生産のための任意の方法を意味する。 しかし、本件明細書の実施例3(【0085】~【0092】)には、本件発明による粉末から部品を作製したことが記載されているが、焼結により作製したのか否かに関する記載はない。 そうすると、発明の詳細な説明の記載をみても、任意の「粉末床溶融による難燃性部品の製造方法」を用いていかなる難燃性部品を作製しうるかは把握できない。 さらに、本件発明2及び3は、3D印刷方法又は粉末のレーザー焼結による3D印刷の方法の工程についていかなる特定もない。 したがって、本件明細書の発明の詳細な説明は、本件発明1~18を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。 (b)「少なくとも1種のポリアミド及び/又はコポリアミド」について 本件発明1の「ポリアミド及び/又はコポリアミド」のうち、本件明細書の実施例、比較例で用いられているのは、「ポリアミド11」のみであり、少なくとも本件明細書の【0025】~【0045】に記載された全ての「ポリアミド及び/又はコポリアミド」が、「ポリアミド11」と同等の効果を奏するか不明であり、そのような本件特許の出願当時の技術常識もなかった。 さらに、「少なくとも1種のポリアミド及び/又はコポリアミド」は難燃性ポリアミドに適するものであるべきであるが、全てのポリアミドが難燃性を備えているのか、その場合、その難燃性の程度にどの程度の相違があるのか、また、いかなる成形品に対して難燃性を付与しうるのか、ポリアミドの性質は多様と考えられる。 したがって、本件明細書の発明の詳細な説明は、本件発明1~4、6~18を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。 (c)「環状ホスホン酸エステル型の少なくとも1種の難燃剤」について 本件明細書の実施例1、3及び4において、式(III)の環状ホスホン酸エステル型の難燃剤が用いられており、実施例2では「難燃剤Antiblaze 1045(R)と同じ分子を有する市販の難燃剤Technirez(R) FR-001」が用いられており、実施例1では比較例にてポリリン酸メラミン型の難燃剤(Melapur(商標) 200、BASF)が用いられている。ここで、Antiblaze1045(R)とは、甲7に記載の構造を有する化合物であり、本件発明1の一般式(I)で表される化合物である。つまり本件発明1は、実施例1にて、「【0079】本発明による粉末は完全に滑らかな部品を得ることを可能にするが、比較粉末で得られた部分は合体問題を示すことが観察される。このように比較粉末は3D印刷には不適切である。」と結論づけられた発明であり、当業者が、本件発明が奏されるとされている技術的利点を備えた難燃剤を本件明細書から選択するのは不可能である。 したがって、本件明細書の発明の詳細な説明は、本件発明1~6、8~18を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。 (d)「粉末」について 本件明細書の「【0011】3D印刷用の粉末及び本発明の難燃剤の混合物は、合体問題を示さない、したがって良好な機械的特性を保証する十分に焼成された難燃性部品を得ることを可能にすることが観察された。」との記載の根拠は、実施例3及び4において本件発明の効果が確認された、実施例1に記載のポリアミド11及び式(III)の環状ホスホン酸エステル型の難燃剤の組合せにあると考えるしかない。 しかしながら、実施例1に記載の粉末(【0074】)と、比較粉末(【0076】)の成分の組合せをみても、本件明細書の【0079】において、比較粉末の技術的効果が劣っていると結論付ける原因が、難燃剤の相違のためであるのか、その比率(80重量%のポリアミド11と20重量%のポリリン酸メラミン型の難燃剤)の相違に基づくものであるのかは、実施例の記載からは判断できない。そして、本件発明1はポリアミドと難燃剤の比率すら特定されておらず、本件効果が奏されるとされている技術的利点を備えた難燃剤を選択するのは不可能である。 したがって、本件明細書の発明の詳細な説明は、本件発明1~7、10~13、16~18を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。 なお、本件発明8、9、14、15は、各々「前記粉末が、該粉末の全重量に対して、5~40重量%の環状ホスホン酸エステル型の難燃剤を含む」こと、「前記粉末が、該粉末の総重量に対して、少なくとも50重量%のポリアミド及び/又はコポリアミドを含む」ことが特定されているが、実施例の結果を検討してもなお、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明8、9、14、15を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。 さらに、本件明細書の【0022】等に粉末の特性の記載があるが、本件発明1の粉末は、これらの条件や特性は特定されておらず、実施例においても、これらの条件について何ら試験をした旨の記載もなく、実施例で用いられた粉末がどのような条件の粉末であったかの記載もない。 ここで、甲8の分析からは、SLS応用に有望なポリマー粉末を生成するためには、ポリマー固有の特性 (熱的、光学的、レオロジー的)と外在的な特性 (粒子と粉末)を考慮する必要があるところ、外在的な特性は事前に処理することで制御されることができる特性であり、特にこれらの特性の組み合わせを制御することが必要であるが、本件明細書の実施例には、粉末の特性も何ら記載されておらず、比較に用いた粉末の特性も不明である。 また、実施例2で用いられる「難燃剤Technirez(R) FR-001」は、甲9及び甲7によれば、「Antiblaze1045(R)」とは関連がなく、「Technirez(R) FR-001」それ自体は、一般式(I)で特定される化合物に含まれるから、実施例2によれば、本件発明1の粉末は、難燃剤が加熱されたか否かにかかわらず、薄片状であり、焼結プロセスによる部品の構造を可能にしないことを実証するものである。 つまり、本件明細書の実施例で行われた実験は、比較実験の体をなしておらず、当業者が実施例に記載された粉末のうち、技術的効果があると記載されている粉末を本件明細書の記載から作製することは不可能である。 したがって、本件明細書の発明の詳細な説明は、本件発明1~18を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。 5 申立理由5(サポート要件) 本件特許の請求項1~18に係る特許は、下記(e)~(h)の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 (e)「粉末床溶融による難燃性部品の製造方法」について 本件明細書の「【0094】本発明は、このように、ハロゲン化添加剤を含まない粉末を提供し、これは、調製が容易であり、3D機器で使用するのが容易であり、機械的特性を保持しながら、より良好な難燃特性を有する部品を製造することを可能にする。」との記載から、実施例は、3D機器で用いるための、ハロゲン化添加剤を含まない粉末により部品を製造する発明に適する実施例と考えられ、そうであれば、本件発明1~18は本件明細書によりサポートされていない。 (f)「少なくとも1種のポリアミド及び/又はコポリアミド」について 本件明細書の実施例は、「ポリアミド11」のみしか用いられておらず、それ以外の「少なくとも1種のポリアミド及び/又はコポリアミド」に関する発明が技術的効果を奏することに関する記載はないから、本件発明1~4、6~18は本件明細書によりサポートされていない。 (g)「環状ホスホン酸エステル型の少なくとも1種の難燃剤」について 本件明細書の実施例のうち、技術的効果を奏することが示されているのは、「式(III)の環状ホスホン酸エステル型の難燃剤」のみであり、それ以外の「環状ホスホン酸エステル型の少なくとも1種の難燃剤」に関する発明が技術的効果を奏することに関する記載はなく、むしろ、一般式(I)には、本件明細書の比較例にて用いられている難燃剤が含まれるため、本件発明1~6、8~18は、本件の技術的効果を奏しない発明も含むものであり、本件明細書によりサポートされていない。 (h)「粉末」について 本件明細書の実施例のうち、技術的効果を奏することが示されているのは、「83重量%のポリアミド11と17重量%の式(III)の環状ホスホン酸エステル型の難燃剤」のみであり、それ以外の粉末に関する発明が技術的効果を奏することに関する記載がなく、上記4の(d)と同様の理由により、本件発明1~18は、本件明細書によりサポートされていない。 6 申立理由6(明確性要件) 本件特許の請求項8、9、14及び15に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 ・本件発明8、9、14、15は、各々「前記粉末が、該粉末の全重量に対して、5~40重量%の環状ホスホン酸エステル型の難燃剤を含む」こと、「前記粉末が、該粉末の総重量に対して、少なくとも50重量%のポリアミド及び/又はコポリアミドを含む」ことが特定されているが、上記の特定の重量比において技術的効果を奏することに関する裏付けを証明するような実験結果は本件明細書には何ら開示されておらず、これらの重量比の値の臨界的な意義が不明であり、明確性要件を満たしていない。 7 申立書に添付して提出された証拠方法 甲1:特開2018-197000号公報 甲2:米国特許出願公開第2005/0027047号明細書及び抄訳 甲3:国際公開第2018/137883号及び抄訳 甲4:中国特許出願公開第1888013号公報及び抄訳 甲5:特開2017-214575号公報 甲6:「3Dプリンターの造形方式を比較~それぞれのメリットと デメリット_リコー」 https://www.ricoh.co.jp/3dp/lineup/byMethod、 令和7年3月25日(出力日) 甲7:「ChemSpider Search term:antiblaze 1045 (Found by Approved Synonyms)」 https://www.chemspider.com/Chemical- Structure.85302.html 及び抄訳、令和7年3月25日(出力日) 甲8:Manfred Schmid; Antonio Amado; Konrad Wegener, Polymer powders for selective laser sintering (SLS) AIP Conf. Proc. 1664, 160009 MAY 22 2015 https://doi.org/10.1063/1.4918516 及び抄訳 甲9:「ACCI Specialty Materials Safety Data Sheet EC-Legislation 91/155/EEC」April 22 2015 https://www.ac-catalysts.com/DOCS/TECHNIREZ/ Technirez_FR-001_SDS_5.pdf 及び抄訳 第4 当審の判断 以下に述べるとおり、上記申立理由1~6は、いずれもその理由がない。 1 申立理由1(甲1を主引例とする新規性及び進歩性)について (1)甲1に記載された事項及び発明 ア 甲1には、以下の記載がある。 「【請求項1】 柱体の粒子を含み、 前記柱体の粒子の底面における直径又は長辺に対する高さの比が、0.5倍以上2倍以下であり、 50%累積体積粒径が5μm以上200μm以下であり、かつ体積平均粒径/個数平均粒径が2.00以下であることを特徴とする立体造形用樹脂粉末。・・・ 【請求項18】 請求項1から16のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末を含む層を形成する成膜工程と、 前記成膜された膜に電磁照射し、溶融させた後に冷却後硬化する硬化工程とを繰り返すことを特徴とする立体造形物の製造方法。」 「【0002】粉末床溶融(PBF:powder bed fusion)方式は、選択的にレーザーを照射して立体造形物を形成するSLS(selective leser sintering)方式や、マスクを使い平面状にレーザーを当てるSMS(selective mask sintering)方式などが知られている。 【0003】 前記PBF方式は、レーザー光線を金属やセラミックス又は樹脂の薄層に選択的にレーザーを選択的に照射することにより粉末を溶融接着させ、成膜した後、前記成膜した膜の上に別の層を形成して同様の操作を繰り返すことにより順次積層して立体造形物を得ることができる(例えば、特許文献1~3参照)。・・・ 【0005】 現在、PBF方式には、ポリアミド樹脂が多く用いられ、特に、ポリアミド12は、ポリアミドの中でも比較的低い融点を有し、熱収縮率が小さい点や吸水性が低い点から好適に用いることができる。 近年では、試作用途の他に、造形物を最終製品として使用する需要が増えてきており、様々な樹脂を使用したい要望が増えてきている。・・・ 【0006】リサイクル性に優れ、粒子をより密に詰めることができ、得られる立体造形物の引張強度を向上するとともに、オレンジピール性を良好にし、複雑かつ精細な立体造形物を簡便かつ効率よく製造することができる立体造形用樹脂粉末を提供することを目的とする。」 「【0035】 前記粒子としては、例えば、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリエステル、ポリアリールケトン、ポリフェニレンスルフィド、液晶ポリマー(LCP)、ポリアセタール(POM、融点:175℃)、ポリイミド、フッ素樹脂等のポリマーなどが挙げられる。・・・」 「【0037】 前記ポリアミドとしては、例えば、ポリアミド410(PA410)、ポリアミド6(PA6)、ポリアミド66(PA66、融点:265℃)、ポリアミド610(PA610)、ポリアミド612(PA612)、ポリアミド11(PA11)、ポリアミド12(PA12);・・・などが挙げられる。・・・」 「【0047】 前記立体造形用樹脂粉末としては、任意の流動化剤、粒度化剤、強化剤、酸化防止剤、難燃剤等を含有していてもよい。・・・」 「【0058】 前記難燃剤としては、例えば、ハロゲン系、リン系、無機水和金属化合物系、窒素系、シリコーン系などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。前記難燃剤を2種以上併用する場合は、ハロゲン系と無機水和金属化合物系との組合せが、難燃性能を高くすることができ好ましい。」 「【0060】 前記立体造形用樹脂粉末の難燃性は、例えば、JIS K6911、JIS L1091(ISO 6925)、JIS C3005、発熱性試験(コーンカロリメータ)などにより評価することができる。 【0061】 前記難燃剤の含有量としては、立体造形用樹脂粉末全量に対して、1質量%以上50質量%以下が好ましく、より難燃性を高めることができる点から、10質量%以上30質量%以下がより好ましい。前記含有量が、1質量%以上であると、十分な難燃性を実現できる。また、前記含有量が、50質量%以下であると、立体造形用樹脂粉末の溶融固化特性が変化することを抑制し、造形精度低下や造形物の物性劣化が発生することを防止できる。」 「【0092】 (実施例1) ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂(商品名:ノバデュラン5020、三菱エンジニアリングプラスチック株式会社製、融点:218℃、ガラス転移温度:43℃)98.5質量%に、フェノール系酸化防止剤(商品名:AO-80、株式会社ADEKA製)を0.5質量%、及びホスフェート系酸化防止剤(商品名:PEP-36、株式会社ADEKA製)を1.0質量%添加し、押し出し加工機(株式会社日本製鋼所製)を用いて、融点より30℃高い温度にて撹拌後、ノズル口が円形形状のものを用い、繊維状に立体造形用樹脂溶融物を押し出して伸ばした。ノズルから出る糸の本数は100本にて実施した。4倍程度延伸し、繊維直径が60μmにて精度が±4μmの繊維にした後に0.08mm(80μm)で押し切り方式の裁断装置(株式会社荻野精機製作所製、NJシリーズ1200型)を用いて裁断し、略円柱体の粒子を得、これを立体造形用樹脂粉末とした。・・・」 「【0106】 (精度) 得られた立体造形用樹脂粉末について、SLS方式造形装置(株式会社リコー製、AM S5500P)を使用し、立体造形物の製造を行った。設定条件は、0.1mmの層平均厚み、10ワット以上150ワット以下のレーザー出力を設定し、0.1mmのレーザー走査スペース、融点より-3℃の温度にて部品床温度を使用した。1辺5cm、平均厚み0.5cmの直方体の立体造形物(寸法用サンプル)(mm)のCAD等のデータに基づいて、前述した寸法用サンプルを製造した。寸法用サンプルのCAD等のデータと、造形したサンプルとの各辺の長さの差を求め、差の平均値を寸法性差とし、「精度」を評価した。」 「【0113】 (実施例9) 実施例1において、押し出し加工機にPBT樹脂を投入する際にリン系難燃剤(商品名:ノンネン75、丸菱油化工業株式会社製)を30質量%添加した以外は、実施例1と同様にして、略円柱体の粒子を得、これを立体造形用樹脂粉末とした。」 「【0120】 得られた立体造形用樹脂粉末について、実施例1と同様にして、「精度」、「オレンジピール性」、「リサイクル性」、及び「引張強度」を評価した。また、以下のようにして、「難燃性」を評価した。結果を下記表3に示す。」 イ 甲1の実施例9において調製される「立体造形用樹脂粉末」(【0113】、【0092】)と、精度を評価するための当該粉末を使用した「立体造形物」の製造(【0120】、【0106】)に着目すると、甲1には以下の発明が記載されているものと認める。 「立体造形用樹脂粉末を用い、SLS方式造形装置(株式会社リコー製、AM S5500P)を使用して、立体造形物を製造する方法であって、 当該立体造形用樹脂粉末が、以下の調製方法により調製される、方法。 <立体造形用樹脂粉末の調製方法> ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂(商品名:ノバデュラン5020、三菱エンジニアリングプラスチック株式会社製、融点:218℃、ガラス転移温度:43℃)98.5質量%に、フェノール系酸化防止剤(商品名:AO-80、株式会社ADEKA製)を0.5質量%、及びホスフェート系酸化防止剤(商品名:PEP-36、株式会社ADEKA製)を1.0質量%、並びにリン系難燃剤(商品名:ノンネン75、丸菱油化工業株式会社製)を30質量%添加し、押し出し加工機を用いて、融点より30℃高い温度にて撹拌後、ノズル口が円形形状のものを用い、繊維状に立体造形用樹脂溶融物を押し出して伸ばし、4倍程度延伸し、繊維直径が60μmにて精度が±4μmの繊維にした後に0.08mm(80μm)で押し切り方式の裁断装置を用いて裁断して、略円柱体の粒子を得、これを立体造形用樹脂粉末とした。」(以下「甲1製法発明」という。) 「SLS方式造形装置(株式会社リコー製、AM S5500P)を使用して、立体造形物を製造するために使用される立体造形用樹脂粉末であって、 当該立体造形用樹脂粉末が、以下の調製方法により調製される、粉末。 <立体造形用樹脂粉末の調製方法> ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂(商品名:ノバデュラン5020、三菱エンジニアリングプラスチック株式会社製、融点:218℃、ガラス転移温度:43℃)98.5質量%に、フェノール系酸化防止剤(商品名:AO-80、株式会社ADEKA製)を0.5質量%、及びホスフェート系酸化防止剤(商品名:PEP-36、株式会社ADEKA製)を1.0質量%、並びにリン系難燃剤(商品名:ノンネン75、丸菱油化工業株式会社製)を30質量%添加し、押し出し加工機を用いて、融点より30℃高い温度にて撹拌後、ノズル口が円形形状のものを用い、繊維状に立体造形用樹脂溶融物を押し出して伸ばし、4倍程度延伸し、繊維直径が60μmにて精度が±4μmの繊維にした後に0.08mm(80μm)で押し切り方式の裁断装置を用いて裁断して、略円柱体の粒子を得、これを立体造形用樹脂粉末とした。」(以下「甲1粉末発明」という。) (2)本件発明1について ア 対比 本件発明1と甲1製法発明とを対比する。 甲1の【0002】には、「選択的にレーザーを照射して立体造形物を形成するSLS(selective leser sintering)方式」が、「粉末床溶融(PBF:powder bed fusion)方式」の一種であることが記載されているから、甲1製法発明における「SLS方式造形装置(株式会社リコー製、AM S5500P)を使用」することは、本件発明1の「粉末床溶融による」ことに相当する。 また、甲1製法発明の立体造形用樹脂粉末は、「ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂」と「リン系難燃剤(商品名:ノンネン75、丸菱油化工業株式会社製)」を含むものであるから、当該粉末を用いて製造される「立体造形物」は、本件発明1の「難燃性部品」に相当する。 そうすると、甲1製法発明の「立体造形用樹脂粉末を用い、SLS方式造形装置(株式会社リコー製、AM S5500P)を使用して、立体造形物を製造する方法」は、本件発明1の「粉末床溶融による難燃性部品の製造方法」に相当する。 次に、甲1製法発明の「リン系難燃剤(商品名:ノンネン75、丸菱油化工業株式会社製)」は、甲5(【0134】、【0064】)に、「化合物(16)、商品名「ノンネン75」(丸菱油化工業(株)製)」の構造式が以下のものであることが記載されているように、その構造からみて、本件発明1の「一般式(I)」のものである「環状ホスホン酸エステル型の難燃剤」とは、「環状ホスホン酸エステル型の難燃剤」の限りにおいて一致する。 [図:0001425818000007.jpg] そうすると、甲1製法発明の立体造形用樹脂粉末が、「ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂」と「リン系難燃剤(商品名:ノンネン75、丸菱油化工業株式会社製)」を含むものであることは、本件発明1の「粉末は少なくとも1種のポリアミド及び/又はコポリアミド並びに環状ホスホン酸エステル型の少なくとも1種の難燃剤を含」むものであることと、「粉末はポリマー並びに環状ホスホン酸エステル型の少なくとも1種の難燃剤を含」むものである限りにおいて一致する。 以上のことから、本件発明1と甲1製法発明とは、 「粉末床溶融による難燃性部品の製造方法であって、粉末はポリマー並びに環状ホスホン酸エステル型の少なくとも1種の難燃剤を含む、方法。」 である点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点1A> ポリマーが、本件発明1では「少なくとも1種のポリアミド及び/又はコポリアミド」であるのに対し、甲1製法発明では「ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂」である点 <相違点1B> 環状ホスホン酸エステル型の難燃剤が、本件発明1では「一般式(I)」のものであるのに対し、甲1製法発明では「ノンネン75」である点 <相違点1C> 粉末が、本件発明1では「少なくとも1種のポリアミド及び/又はコポリアミドと、環状ホスホン酸エステル型の少なくとも一種の難燃剤とを乾式混合することによって調製される」ものであるのに対し、甲1製法発明では、そのような特定がない点 イ 相違点についての判断 事案に鑑み、相違点1Bについて検討する。 (ア)甲1製法発明の「ノンネン75」は、上記アに示した構造(甲5参照)を有するものであるから、本件発明1の「一般式(I)」のものには該当しない。 したがって、相違点1Bは実質的な相違点である。 (イ)次に、甲1の【0058】には、「前記難燃剤としては、例えば、ハロゲン系、リン系、無機水和金属化合物系、窒素系、シリコーン系などが挙げられる」と記載されているが、「リン系難燃剤」としては、「ノンネン75」以外に具体的な化合物又は商品は記載されておらず、本件発明1の「一般式(I)」のものである難燃剤は記載も示唆もされていない。 また、甲1には、難燃剤の種類が、得られた立体造形物の外観に影響するといった記載もない。 一方、甲4(原文は中国語であるので、以降、当審による訳文で示す。)には、「ペンタエリスリトールを原料として合成されたスピロ環状ホスホン酸(リン酸)エステルは、耐熱性、耐湿性に優れ、毒性も非常に低く、近年広く注目されている新規ホスホン酸(リン酸)エステル系難燃剤である」(3頁12~14行)こと、合成された「二環式ホスホン酸エステル系難燃剤」の構造式は「以下: [図:0001425818000008.jpg] のとおり」であること(4頁下から5~3行)、「この難燃剤は、リン含有量が高く、室温で固体であり、熱安定性が高く、ポリマーとの相溶性が良いという利点を有する。この難燃剤は、ポリオレフィンのハロゲンフリー難燃システムだけでなく、ポリエステルやポリアミドなどのエンジニアリングプラスチックのハロゲンフリー難燃システムにも使用することができる」(5頁下から3行~最終行)ことが記載されている。ここで、上記構造式は、本件発明1の「一般式(I)」に包含されるものである。 しかし、甲4には、上記構造式を有する二環式ホスホン酸エステル系難燃剤を、「粉末床溶融」による立体造形物の製造方法に適用できることは記載も示唆もされてない。 また、「ノンネン75」と、甲4に記載の難燃剤は、環状ホスホン酸エステル型の難燃剤という点では共通するものの、スピロ環構造の有無など、骨格構造には違いがあり、当業者が容易に置換可能なものであると認識していたとまではいえない。 そうすると、甲1製法発明において、「SLS方式」を含む「粉末床溶融」に用いる難燃剤として、粉末床溶融における良好な外観を有する立体造形物を得るという観点から、「ノンネン75」に代えて、公知の難燃剤の中から、「ノンネン75」とは骨格構造が異なる甲4に記載の上記構造式を有する二環式ホスホン酸エステル系難燃剤をあえて選択する動機を見いだせない。 したがって、甲4の記載を考慮したとしても、甲1製法発明において、本件発明1の「一般式(I)」のものである「環状ホスホン酸エステル型の難燃剤」を採用することは、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。 ウ 本件発明1の効果について 本件明細書の記載(【0009】)によれば、本件発明1の効果は、「先行技術に応じて得られるものと同等以上の難燃性を部品に付与しながら、3D印刷で良質な部品を得ることを可能にする」ことと認められる。 そして、本件明細書の実施例1(【0074】~【0079】)には、粉末の重量に対して83重量%のポリアミド11と、17重量%の「式(III)」(本件発明1の「一般式(I)」に包含される。)の環状ホスホン酸エステル型の難燃剤の粉末を乾式混合して得られる「本発明による粉末」を、Formiga(R) P 100(Eos)3Dプリンタに供給し、所定寸法を有する棒の型の部品を印刷するために用いたところ、図1に示されるように、「完全に滑らかな部品」が得られたが、80重量%のポリアミド11と、20重量%のポリリン酸メラニン型の難燃剤を含む「比較粉末」を用いた場合には、図2に示されるように、「合体問題」を示し、「3D印刷には不適切」であったことが記載されている。 また、実施例3(【0085】~【0090】)には、「実施例1に定義する本発明による粉末から得た部品を、規格UL 94Vに従って試験した」ところ、「本発明による部品」は「V-0」に分類されたことが記載されており、【0092】に、「本発明による混合物は、3D印刷において良好な品質の部品を得るのに適している一方で、それらに先行技術に従って得られたものと同等以上の難燃性を付与する」と記載されているように、上記の本件発明1の効果が確認されている。 そして、難燃剤として、本件発明1の「一般式(I)」のものを用いたことによる、特に実施例で確認された「滑らかな部品」を得るといった、「3D印刷で良質な部品を得る」という効果は、甲1及び甲4の記載から、当業者が予測することができるものではない。 エ 小括 以上のとおり、相違点1B以外の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1に記載された発明ではなく、甲1に記載された発明及び甲4に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (3)本件発明2~5、8~10について 本件発明2~5、8~10は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであって、上記(2)アに挙げたものと同一の相違点を少なくとも有するから、上記(2)イ~エにおいて述べたように、いずれも甲1に記載された発明ではなく、甲1に記載された発明及び甲4に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (4)本件発明6、7について 本件発明6及び7は、難燃剤がそれぞれ「一般式(II)」及び「式(III)」のものに特定されているところ、甲1製法発明では「ノンネン75」である点で少なくとも相違する。 ここで、上記(2)イに記載される甲4の構造式は、本件発明6の「一般式(II)」に包含され、本件発明7の「式(III)」と一致するものであるから、上記相違点については、上記(2)イにおける相違点1Bと同様の理由により、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。 そして、難燃剤として、本件発明6及び7の「一般式(II)」及び「式(III)」のものを用いたことによる、特に「3D印刷で良質な部品を得る」という効果は、上記(2)ウにおいて述べたとおり、甲1及び甲4の記載から、当業者が予測することができるものではない。 したがって、本件発明6及び7は、甲1に記載された発明及び甲4に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (5)本件発明11について ア 対比 本件発明11と甲1粉末発明とを対比する。 上記(2)アにおける相当関係を踏まえると、甲1粉末発明における「SLS方式造形装置(株式会社リコー製、AM S5500P)を使用して、立体造形物を製造するために使用される立体造形用樹脂粉末」は、本件発明11の「粉末床溶融による難燃性部品の製造を目的とする粉末」に相当する。 また、甲1粉末発明の立体造形用樹脂粉末が、「ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂」と「リン系難燃剤(商品名:ノンネン75、丸菱油化工業株式会社製)」を含むものであることは、本件発明11の粉末が、「少なくとも1種のポリアミド及び/又はコポリアミド並びに環状ホスホン酸エステル型の少なくとも1種の難燃剤を含」むものであることと、「粉末はポリマー並びに環状ホスホン酸エステル型の少なくとも1種の難燃剤を含」むものである限りにおいて一致する。 以上のことから、本件発明11と甲1粉末発明とは、 「粉末床溶融による難燃性部品の製造を目的とする粉末であって、 ポリマー並びに環状ホスホン酸エステル型の少なくとも1種の難燃剤を含む、粉末。」 である点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点1D> ポリマーが、本件発明11では「少なくとも1種のポリアミド及び/又はコポリアミド」であるのに対し、甲1粉末発明では「ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂」である点 <相違点1E> 環状ホスホン酸エステル型の難燃剤が、本件発明11では「一般式(I)」のものであるのに対し、甲1粉末発明では「ノンネン75」である点 <相違点1F> 粉末が、本件発明11では「少なくとも1種のポリアミド及び/又はコポリアミドと、環状ホスホン酸エステル型の少なくとも一種の難燃剤とを乾式混合することによって調製される」ものであるのに対し、甲1粉末発明では、そのような特定がない点 イ 相違点についての判断 事案に鑑み、相違点1Eについて検討すると、相違点1Eは、上記(2)アの相違点1Bと同一であるから、上記(2)イにおいて述べたように、実質的な相違点であり、また、甲4の記載を考慮したとしても、甲1粉末発明において、本件発明11の「一般式(I)」のものである「環状ホスホン酸エステル型の難燃剤」を採用することは、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。 ウ 本件発明11の効果について 本件発明11の効果については、上記(2)ウにおいて述べたとおりである。 エ 小括 以上のとおり、相違点1E以外の相違点について検討するまでもなく、本件発明11は、甲1に記載された発明ではなく、甲1に記載された発明及び甲4に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (6)本件発明12、14~18について 本件発明12、14~18は、本件発明11を直接又は間接的に引用するものであって、上記(5)アに挙げたものと同一の相違点を少なくとも有するから、上記(5)イ~エにおいて述べたように、いずれも甲1に記載された発明ではなく、甲1に記載された発明及び甲4に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (7)本件発明13について 本件発明13は、難燃剤が「一般式(II)」のものに特定されているところ、甲1粉末発明では「ノンネン75」である点で少なくとも相違する。 ここで、上記(2)イに記載される甲4の構造式は、本件発明13の「一般式(II)」に包含されるものであるから、上記相違点については、上記(5)イにおける相違点1Eと同様の理由により、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。 そして、難燃剤として、本件発明13の「一般式(II)」のものを用いたことによる、特に「3D印刷で良質な部品を得る」という効果は、上記(2)ウにおいて述べたとおり、甲1及び甲4の記載から、当業者が予測することができるものではない。 したがって、本件発明13は、甲1に記載された発明及び甲4に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (8)申立人の主張について ア 申立人は、以下の点を主張する。 (ア)甲1の各記載によれば、本件発明1の特定事項を備えた発明が記載されている。 なお、甲1には、「ノンネン75、丸菱油化工業(株)製)」を用いた実施例19(当審注:「実施例9」の誤記と解される。)が記載されており、甲5の【0134】及び【0064】に、その構造式が記載されているところ、当業者であれば、これが本件発明1の一般式(I)で表される化合物に含まれることを理解する。すなわち、甲1には、「環状ホスホン酸エステル型の難燃剤」が開示されており、本件発明1は甲1に開示されているに等しい。(申立書12頁下から12行~15頁20行、25頁11行~26頁6行) (イ)甲1発明には、本件発明6及び7で特定された環状ホスホン酸エステル型の難燃剤の記載はなく、この点は相違点であるが、甲4には、難燃剤として使用可能なスピロシクロペンタエリスリトールメチルホスホネート及びその合成方法に関して記載されており、具体的な化合物は、本件発明の式(I)~(III)として示された化合物と同一である。 そして、甲4が解決する課題や課題解決手段は、非ハロゲン化系の難燃剤を用いるという本件発明の課題とその課題解決手段である難燃剤について共通するから、当業者は、甲1発明と甲4の記載及び技術常識から容易に本件発明に想到し得た。 また、本件特許の優先日前に、本件発明で用いられている難燃剤は従来技術であり、本件明細書の記載をみても、本件発明が格別顕著な効果を奏するものとは認められない。(申立書28頁21行~30頁22行) イ 上記アの主張について検討する。 (ア)「ノンネン75」の構造は、上記(2)アでも述べたとおり、本件発明1の「一般式(I)」に包含されるものではない。 すなわち、甲1に記載の「ノンネン75」の構造は、申立人が主張するように、甲5に記載の [図:0001425818000009.jpg] という構造式を有するものであり、「環状ホスホン酸エステル型の難燃剤」に相当するものであったとしても、本件発明1の「一般式(I) [図:0001425818000010.jpg] 」 とは明らかに異なる構造であり、当業者といえども、本件発明1の一般式(I)で表される化合物に含まれるものと理解することはできない。 なお、申立人は、甲1に記載の「ノンネン75」は、本件発明13の「一般式(II)で表される化合物」でもある旨の主張もしているが(申立書60頁14行~61頁3行)、一般式(II)とも明らかに異なる構造である。 したがって、甲1に、本件発明1等の特定事項を備えた発明が記載されているものと認定することはできない。 (イ)上記(4)及び(2)イにおいて述べたように、難燃剤を「一般式(II)」及び「式(III)」に特定した本件発明6及び7についても、当業者が容易に想到することができたものではない。 なお、申立人は、本件発明1については、難燃剤を「一般式(I)」に特定することの容易想到性に関しては具体的な主張をしていないものの、実質的に、上記ア(イ)と同様の主張をしていると解して検討すると、上記(2)イにおいて述べたとおりである。 そして、上記(2)ウにおいて述べたように、本件発明の効果は、「先行技術に応じて得られるものと同等以上の難燃性を部品に付与しながら、3D印刷で良質な部品を得ることを可能にする」ことと認められるところ、難燃剤を特定したことによる、特に「3D印刷で良質な部品を得る」という効果は、甲1及び甲4の記載から、当業者が予測することができるものではない。 以上のとおりであるから、上記アの主張はいずれも採用できない。 (9)申立理由1についてのまとめ よって、本件発明1~5、8~12、15~18は、甲1に記載された発明ではなく、また、本件発明1~18は、甲1に記載された発明及び甲4に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、申立理由1によっては本件発明1~18に係る特許を取り消すことはできない。 2 申立理由2(甲2を主引例とする新規性及び進歩性)について (1)甲2に記載された事項及び発明 ア 甲2には、以下の記載がある(原文は英語であるので、表2を除き、当審による訳文で示す。)。 「1.選択的に領域を溶融するか、または選択的に領域同士を結合する層状プロセスで処理するためのポリマー粉末であって、少なくとも1種のポリマー粉末と、ホスホネート含有難燃剤を含む少なくとも1種の難燃剤とを含むポリマー粉末。 2.請求項1に記載のポリマー粉末であって、少なくとも1つのポリマー粉末が、カルボンアミド基当たり少なくとも8個の炭素原子を有するポリアミドを含む、ポリマー粉末。・・・ 8.請求項1に記載のポリマー粉末であって、ホスホネート含有難燃剤が環状エステルを含む、ポリマー粉末。」(特許請求の範囲) 「[0002] ホスホネート含有難燃剤を含む、ポリアミドまたはコポリアミド、好ましくはナイロン-12をベースとするポリマー粉末、この粉末の製造方法、およびこの粉末から、領域を選択的に溶融するか、または領域を選択的に互いに結合させる層状プロセスによって製造される成形品」 「[0004] 選択的レーザー焼結は、ラピッドプロトタイピングに特に適したプロセスである。チャンバー内のポリマー粉末にレーザービームが選択的に短時間照射され、レーザービームが当たった粉末粒子が溶解する。溶融粒子は再び融合して固まり、固体塊になる。このプロセスでは、繰り返し新しい層を重ねて照射することで、複雑な形状も含めた三次元物体を簡単かつ迅速に製造できる」 「[0025] 本発明のポリマー粉末中に存在するホスホネート含有難燃剤は、好ましくは市販されており、Rhodiaから購入できるAntiblaze1045である。」 「[0073] 実施例6 乾式混合におけるAntiblaze(商標)1045の配合 [0074] 4444g(10重量%)のAntiblaze(商標)1045を、DE2906647に従って製造された、平均粒径d50が53μm(レーザー回折)、かつ、DIN53466による嵩密度が443g/Lであるナイロン12粉末40kgと、Schugi Flexomix(3000rpm)を用いた乾式混合プロセスで混合した。これは、直径100mmの垂直チューブで、その中にスプレーノズルを備えた可動ローターがある。」 「[0084] さらなるプロセス [0085] 実施例1~7のすべての試験片は、CM50 D Mixacoミキサー(150rpm)で、0.1重量%のAerosil 200と共に1分間処理された。これらの粉末は、EOSINT P360レーザー焼結システムを用いて、ISO 3167に準拠したダンベル試験片と、80×3.2×10mm(長さ=幅=高さ)の耐火試験片を作製するために使用された。EN ISO 527に準拠した引張試験を用いて、部品の機械的特性値を測定した(表2)。密度は、簡略化された内部法によって測定した。この測定では、ISO 3167(多目的試験片)に準拠した引張試験片を測定し、これらの測定値から体積を算出し、引張試験片の重量を測定し、体積と重量から密度を算出した。」 「 [図:0001425818000011.jpg] 」 (「TABLE 2」の部分訳: 表2 実施例1~7による試験片のUL(登録商標)規格 実施例番号の 粉末を用いて 作製された UL規格 弾性係数、 厚さ、 試験片 N/mm2 mm ・・・ 実施例6f V-0 1632 3.9 ・・・ f乾式混合、コポリアミド) 「[0086] 表2に示されるように、ホスホネート含有難燃剤を混合して配合すると、次のような改善が達成される。ホスホネート含有難燃剤の濃度が10%からUL(登録商標) V-0分類が達成される。部品はわずかに厚くなるものの、レーザーによって導入されるエネルギーの量を減らすことでこれを修正できる。」 イ 甲2の実施例6の乾式混合プロセス及びそれによって得られた粉末を用いて作製された試験片([0073]、[0074]、[0085])に着目すると、甲2には、以下の発明が記載されているものと認める。 「以下の乾式混合プロセスによって調製された粉末を、CM50 D Mixacoミキサー(150rpm)で、0.1重量%のAerosil 200と共に1分間処理し、これらの粉末から、EOSINT P360レーザー焼結システムを用いて、ISO 3167に準拠したダンベル試験片と、80×3.2×10mm(長さ=幅=高さ)の耐火試験片を製造する方法。 <乾式混合プロセス> 4444g(10重量%)のAntiblaze(商標)1045を、平均粒径d50が53μm(レーザー回折)、かつ、DIN53466による嵩密度が443g/Lであるナイロン12粉末40kgと、Schugi Flexomix(3000rpm)を用いた乾式混合プロセスで混合する。」(以下「甲2製法発明」という。) 「EOSINT P360レーザー焼結システムを用いて、ISO 3167に準拠したダンベル試験片と、80×3.2×10mm(長さ=幅=高さ)の耐火試験片を製造するために使用される粉末であって、 以下の乾式混合プロセスによって調製された粉末を、CM50 D Mixacoミキサー(150rpm)で、0.1重量%のAerosil 200と共に1分間処理した粉末。 <乾式混合プロセス> 4444g(10重量%)のAntiblaze(商標)1045を、平均粒径d50が53μm(レーザー回折)、かつ、DIN53466による嵩密度が443g/Lであるナイロン12粉末40kgと、Schugi Flexomix(3000rpm)を用いた乾式混合プロセスで混合する。」(以下「甲2粉末発明」という。) (2)本件発明1について ア 対比 本件発明1と甲2製法発明とを対比する。 甲2の[0004]には、「チャンバー内のポリマー粉末にレーザービームが選択的に短時間照射され、レーザービームが当たった粉末粒子が溶解する。溶融粒子は再び融合して固まり、固体塊になる。このプロセスでは、繰り返し新しい層を重ねて照射することで、複雑な形状も含めた三次元物体を簡単かつ迅速に製造できる」ことが記載されているから、甲2製法発明における「粉末」に対し、「EOSINT P360レーザー焼結システム」を用いることは、本件発明1の「粉末床溶融による」ことに相当する。 そして、甲2製法発明の「耐火試験片」は、甲2の表2([0085])において、「UL規格」が「V-0」であると評価されているから、「難燃性部品」に相当する。 そうすると、甲2製法発明における「粉末から、EOSINT P360レーザー焼結システムを用いて、ISO 3167に準拠したダンベル試験片と、80×3.2×10mm(長さ=幅=高さ)の耐火試験片を製造する方法」は、本件発明1の「粉末床溶融による難燃性部品の製造方法」に相当する。 次に、甲2製法発明の「Antiblaze(商標)1045」は、甲7に、「antiblaze 1045」の構造式が以下のものであることが記載されているように、甲2の請求項8に記載される「環状エステル」を含む「ホスホネート含有難燃剤」であるから、本件発明1の「一般式(I)」のものである「環状ホスホン酸エステル型の難燃剤」とは、「環状ホスホン酸エステル型の難燃剤」の限りにおいて一致する。 [図:0001425818000012.jpg] そうすると、甲2製法発明の粉末が、「ナイロン12粉末」と「Antiblaze(商標)1045」を含むものであり、両者が「乾式混合プロセス」によって調製されたものであることは、本件発明1の「粉末は少なくとも1種のポリアミド及び/又はコポリアミド並びに環状ホスホン酸エステル型の少なくとも1種の難燃剤を含」み、「当該粉末は、少なくとも1種のポリアミド及び/又はコポリアミドと、環状ホスホン酸エステル型の少なくとも一種の難燃剤とを乾式混合することによって調製される」ことに相当する。 以上のことから、本件発明1と甲2製法発明とは、 「粉末床溶融による難燃性部品の製造方法であって、粉末は少なくとも1種のポリアミド及び/又はコポリアミド並びに環状ホスホン酸エステル型の少なくとも1種の難燃剤を含み、 当該粉末は、少なくとも1種のポリアミド及び/又はコポリアミドと、環状ホスホン酸エステル型の少なくとも一種の難燃剤とを乾式混合することによって調製される、方法。」 である点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点2A> 環状ホスホン酸エステル型の難燃剤が、本件発明1では「一般式(I)」のものであるのに対し、甲2製法発明では「Antiblaze(商標)1045」である点 イ 相違点についての判断 相違点2Aについて検討する。 (ア)甲2製法発明の「Antiblaze(商標)1045」は、上記アに示した構造(甲7参照)を有するものであるから、本件発明1の「一般式(I)」のものには該当しない。 したがって、相違点2Aは実質的な相違点である。 (イ)また、甲2の請求項1には、「ホスホネート含有難燃剤」を含むこと、請求項8には「ホスホネート含有難燃剤が環状エステル」を含むことが記載されているが、「Antiblaze(商標)1045」以外に具体的な化合物又は商品は記載されておらず、本件発明1の「一般式(I)」のものである難燃剤は記載も示唆もされていない。 また、甲2には、難燃剤の種類が、得られた立体造形物の外観に影響するといった記載もない。 一方、上記1(2)イ(イ)において述べたように、甲4には、 [図:0001425818000013.jpg] という構造式(上記構造式は、本件発明1の「一般式(I)」に包含される。)を有する二環式ホスホン酸エステル系難燃剤が記載されているが、「粉末から、領域を選択的に溶融するか、または領域を選択的に互いに結合させる層状プロセス」による成形品の製造方法に適用できることは記載も示唆もされていない。 また、「Antiblaze(商標)1045」と、甲4に記載の難燃剤は、環状ホスホン酸エステル型の難燃剤という点では共通するものの、スピロ環構造の有無など、骨格構造には違いがあるから、当業者が容易に置換可能なものであると認識していたとまではいえない。 そうすると、甲2製法発明において、「EOSINT P360レーザー焼結システム」を含む「粉末から、領域を選択的に溶融するか、または領域を選択的に互いに結合させる層状プロセス」に用いる難燃剤として、粉末床溶融における良好な外観を有する立体造形物を得るという観点から、「Antiblaze(商標)1045」に代えて、公知の難燃剤の中から、「Antiblaze(商標)1045」とは骨格構造が異なる甲4に記載の上記構造式を有する難燃剤をあえて選択する動機を見いだせない。 したがって、甲4の記載を考慮したとしても、甲2製法発明において、本件発明1の「一般式(I)」のものである「環状ホスホン酸エステル型の難燃剤」を採用することは、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。 ウ 本件発明1の効果について 本件発明1の効果については、上記1(2)ウにおいて述べたとおりである。 そして、難燃剤として、本件発明1の「一般式(I)」のものを用いたことによる、特に「3D印刷で良質な部品を得る」という効果は、上記1(2)ウにおいて述べたのと同様に、甲2及び甲4の記載から、当業者が予測することができるものではない。 エ 小括 以上のとおり、本件発明1は、甲2に記載された発明ではなく、甲2に記載された発明及び甲4に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (3)本件発明2~5、8~10について 本件発明2~5、8~10は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであって、上記(2)アに挙げたものと同一の相違点を少なくとも有するから、上記(2)イ~エにおいて述べたように、いずれも甲2に記載された発明ではなく、甲2に記載された発明及び甲4に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (4)本件発明6、7について 本件発明6及び7は、難燃剤がそれぞれ「一般式(II)」及び「式(III)」のものに特定されているところ、甲2製法発明では「ノンネン75」である点で少なくとも相違する。 ここで、上記(2)イに記載される甲4の構造式は、本件発明6の「一般式(II)」に包含され、本件発明7の「式(III)」と一致するものであるから、上記相違点については、上記(2)イにおける相違点2Aと同様の理由により、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。 そして、難燃剤として、本件発明6及び7の「一般式(II)」及び「式(III)」のものを用いたことによる、特に「3D印刷で良質な部品を得る」という効果は、上記1(2)ウにおいて述べたのと同様に、甲2及び甲4の記載から、当業者が予測することができるものではない。 したがって、本件発明6は、甲2に記載された発明ではなく、本件発明6及び7は、甲2に記載された発明及び甲4に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (5)本件発明11について ア 対比 本件発明11と甲2粉末発明とを対比する。 上記(2)アにおける相当関係を踏まえると、甲2粉末発明における「EOSINT P360レーザー焼結システムを用いて、ISO 3167に準拠したダンベル試験片と、80×3.2×10mm(長さ=幅=高さ)の耐火試験片を製造するために使用される粉末」は、本件発明11の「粉末床溶融による難燃性部品の製造を目的とする粉末」に相当する。 また、甲2粉末発明の粉末が、「ナイロン12粉末」と「Antiblaze(商標)1045」を含むものであり、両者が「乾式混合プロセス」によって調製されたものであることは、本件発明11の「少なくとも1種のポリアミド及び/又はコポリアミド並びに環状ホスホン酸エステル型の少なくとも1種の難燃剤を含」み、「当該粉末は、少なくとも1種のポリアミド及び/又はコポリアミドと、環状ホスホン酸エステル型の少なくとも一種の難燃剤とを乾式混合することによって調製される」ことに相当する。 以上のことから、本件発明11と甲2粉末発明とは、 「粉末床溶融による難燃性部品の製造を目的とする粉末であって、 少なくとも1種のポリアミド及び/又はコポリアミド並びに環状ホスホン酸エステル型の少なくとも1種の難燃剤を含み、 当該粉末は、少なくとも1種のポリアミド及び/又はコポリアミドと、環状ホスホン酸エステル型の少なくとも一種の難燃剤とを乾式混合することによって調製される、粉末。」 である点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点2B> 環状ホスホン酸エステル型の難燃剤が、本件発明11では「一般式(I)」のものであるのに対し、甲2粉末発明では「Antiblaze(商標)1045」である点 イ 相違点についての判断 相違点2Bは、上記(2)アの相違点2Aと同一であるから、上記(2)イにおいて述べたように、実質的な相違点であり、また、甲4の記載を考慮したとしても、甲2粉末発明において、本件発明11の「一般式(I)」のものである「環状ホスホン酸エステル型の難燃剤」を採用することは、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。 ウ 本件発明11の効果について 本件発明11の効果については、上記(2)ウにおいて述べたとおりである。 エ 小括 以上のとおり、本件発明11は、甲2に記載された発明ではなく、甲2に記載された発明及び甲4に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (6)本件発明12、14~18について 本件発明12、14~18は、本件発明11を直接又は間接的に引用するものであって、上記(5)アに挙げたものと同一の相違点を少なくとも有するから、上記(5)イ~エにおいて述べたように、いずれも甲2に記載された発明ではなく、甲2に記載された発明及び甲4に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (7)本件発明13について 本件発明13は、難燃剤が「一般式(II)」のものに特定されているところ、甲1粉末発明では「ノンネン75」である点で少なくとも相違する。 ここで、上記(2)イに記載される甲4の構造式は、本件発明13の「一般式(II)」に包含されるものであるから、上記相違点については、上記(5)イにおける相違点2Bと同様の理由により、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。 そして、難燃剤として、本件発明13の「一般式(II)」のものを用いたことにより、特に「3D印刷で良質な部品を得る」という効果は、上記1(2)ウにおいて述べたのと同様に、甲2及び甲4の記載から、当業者が予測することができるものではない。 したがって、本件発明13は、甲2に記載された発明ではなく、甲2に記載された発明及び甲4に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (8)申立人の主張について ア 申立人は、以下の点を主張する。 (ア)甲2には、ポリマー粉末中に存在するホスホネート含有難燃剤であって、環状エステル構造を含むホスホネートである、Rhodiaから購入できるAntiblaze1045が記載されており、甲7にその構造式が記載されているところ、本件発明1の一般式(I)及び本件発明6の一般式(II)で表される化合物である。つまり、本件発明1及び6は甲2に記載されているに等しい。(申立書39頁下から2行~40頁下から2行、45頁下から5行~46頁下から8行) (イ)甲2発明には、本件発明7で特定された環状ホスホン酸エステル型の難燃剤の記載はなく、この点は相違点であるが、甲4には、難燃剤として使用可能なスピロシクロペンタエリスリトールメチルホスホネート及びその合成方法に関して記載されており、具体的な化合物は、本件発明の式(III)として示された化合物と同一である。 そして、甲4が解決する課題や課題解決手段は、非ハロゲン化系の難燃剤を用いるという本件発明の課題とその課題解決手段である難燃剤について共通するから、当業者は、甲2発明と甲4の記載及び技術常識から容易に本件発明に想到し得た。 また、本件特許の優先日前に、本件発明で用いられている難燃剤は従来技術であり、本件明細書の記載をみても、本件発明が格別顕著な効果を奏するものとは認められない。(申立書49頁下から4行~54頁21行) イ 上記アの主張について検討する。 (ア)「Antiblaze(商標)1045」の構造は、上記(2)アでも述べたとおり、本件発明1及び6の「一般式(I)」及び「一般式(II)」に包含されるものではない。 すなわち、甲2に記載の「Antiblaze(商標)1045」の構造は、申立人が主張するように、甲7に記載の [図:0001425818000014.jpg] という構造式を有するものであり、「環状ホスホン酸エステル型の難燃剤」に相当するものであったとしても、本件発明1の「一般式(I) 【化1】 [図:0001425818000015.jpg] 」及び本件発明6の「一般式(II) 【化2】 [図:0001425818000016.jpg] 」 とは明らかに異なる構造であり、当業者といえども、本件発明1及び6の「一般式(I)」及び「一般式(II)」で表される化合物に含まれるものと理解することはできない。 したがって、甲2に、本件発明1~6、8~18の特定事項を備えた発明が記載されているものと認定することはできない。 (イ)上記(4)において述べたとおり、難燃剤を「式(III)」に特定した本件発明7についても、当業者が容易に想到することができたものではない。 なお、申立人は、本件発明1及び6については、難燃剤を「一般式(I)」及び「一般式(II)」に特定することの容易想到性に関しては具体的な主張をしていないものの、実質的に、上記ア(ウ)と同様の主張をしていると解して検討すると、上記(2)イ及び(4)において述べたとおりである。 そして、上記(2)ウにおいて述べたように、本件発明の難燃剤を特定したことによる、特に「3D印刷で良質な部品を得る」という効果は、甲2及び甲4の記載から、当業者が予測することができるものではない。 以上のとおりであるから、上記アの主張はいずれも採用できない。 (9)申立理由2についてのまとめ よって、本件発明1~6、8~18は、甲2に記載された発明ではなく、また、本件発明1~18は、甲2に記載された発明及び甲4に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、申立理由2によっては本件発明1~18に係る特許を取り消すことはできない。 3 申立理由3(甲3を主引例とする新規性及び進歩性)について (1)甲3に記載された事項及び発明 ア 甲3には、以下の記載がある(原文はドイツ語であるので、表1を除き、当審による訳文で示す。)。 「1.以下の意味を有する成分(A)及び(B)の混合物を含む組成物: (A)は、以下の一般式 [図:0001425818000017.jpg] に従う少なくとも1つのホスホネート化合物であり、ここでA1及びA2は、互いに独立して、1~4個の炭素原子を有する置換若しくは非置換の直鎖又は分岐アルキル基、置換若しくは非置換のベンジル基、又は置換若しくは非置換のフェニル基を表す。 (B)は、硫化亜鉛、ポリフェニレンスルフィド、ヒドロキシスズ酸亜鉛、およびスズ酸亜鉛からなる群から選択される少なくとも1種の化合物、又は2種以上の化合物の混合物である。・・・ 10.請求項1~9のいずれかに記載の組成物のポリマーの難燃処理における使用。 11.請求項10に記載の使用であって、ポリマーがポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド及びABSポリマーから選択される使用。」(特許請求の範囲) 「従来技術に鑑み、本発明の目的は、さらに高度な難燃性を有する難燃性組成物を提供することである。本発明の難燃性組成物の各成分は相乗的に相互作用するように設計されており、したがって、同時に使用する場合、各成分に必要な濃度と比較してより低い濃度で使用することができる。 本発明は、以下の意味を有する成分(A)及び(B)の混合物、又はこれらの混合物を含む難燃性組成物によってこの目的を達成する。」(2頁3~12行) 「本発明の特に好ましい実施形態によれば、ホスホネート化合物は、上記式の置換基A1及びA2がメチル基であるジメチルスピロホスホネートである。この化合物は、以下の式: [図:0001425818000018.jpg] に対応する。 この化合物は、・・・THOR GmbH(ドイツ、シュパイアー)からAFLAMMIT PCO 900の商品名で入手可能である。」(4頁5~15行) 「本発明による難燃性組成物を含む難燃性ポリマーは、既知の方法、例えば、カレンダー、ミキサー、ニーダー、押出機などの装置を使用して、前述の添加剤及び必要に応じてさらなる添加剤をポリマーと混合することにより製造することができる。添加剤は、個別に添加することも、互いに混合して添加することもできる。いわゆるマスターバッチを使用することもできる。このような方法においては、例えば、ポリマーは、粉末、顆粒、溶液、懸濁液、またはラテックスの形態で使用することができる。このようにして得られた難燃性ポリマー組成物は、既知の方法によって所望の形状にすることができる。このようなプロセスとしては、例えば、カレンダー加工、押出成形、射出成形、スプレーコーティング、ナイフコーティング、紡糸、圧縮成形、回転成形、熱成形、または押出ブロー成形が挙げられる。完成した難燃性ポリマーは、発泡物品に加工することもできる。これにより製造されるポリマー物品としては、例えば、繊維、フィルム、成形品、および発泡成形品が挙げられる。 本発明による添加剤及び必要に応じてさらなる成分は、ポリマー材料に個別に添加することも、互いに混合することもできる。必要に応じて、個々の成分は、ポリマーに組み込む前に、例えばドライブレンド、圧縮、又は溶融状態において互いに混合することができる。さらなる実施形態によれば、本発明は、ポリマーに難燃性を付与するプロセスに関し、このプロセスは、成分(A)、(B)及び必要に応じて(C)をポリマーに添加することを含む。」(14頁15行~15頁3行) 「以下の実施例は本発明を例示するものである。 本発明を例示するために、異なる難燃性組成物を混合したポリプロピレンロッドを作製した。 1.ポリプロピレンロッドの作製: ポリプロピレン(Moplen HP500N;230℃におけるメルトフローインデックス12g、重量2.16kg)と、各実施例に係る対応する難燃性組成物を、Brabender ZSK 20/40を用いて、スクリュー回転数40rpmで200℃で押し出し、厚さ1.6mmの試験片を作製した。 難燃性組成物は、予め実験室用ミキサーで均一に混合し、サイドフィードを介してポリマー溶融物に計量供給した。冷却後、試験片を長さ125mmに切断し、試験片全体の寸法は125×13×1.6mmとする。配合ごとに5個ずつ2組の試験片を作製する。作製後、試験片は23℃、相対湿度50%で48時間保管する。 2.効果の評価: 各難燃性組成物の有効性を試験するため、1.に従って作製した試験片をUL 94に準拠した燃焼試験に供する。 3.成分(A)と(B)の相乗作用 下記表1に示す試験結果は、成分(A)と(B)を組み合わせた場合に、予想外の相乗効果が得られることを明確に示している。個々の成分は濃度7重量%(n.k.)ではUL-94防火規格に適合しなかったが、成分(A)と(B)を合計濃度7重量%で併用することで、UL-94クラスV2を達成した。」(15頁14行~16頁7行) 「表1: [図:0001425818000019.jpg] V:比較例;NBZ:残燃焼時間(秒);表中のすべての値は重量%;PP-12:Moplen HP500N;メルトフローインデックス 12g、230℃/2.16kg;PCO900:AFLAMMIT PCO 900(THOR GmbH製);ZnS:硫化亜鉛;PPS:ポリフェニレンスルフィド;ZS:スズ酸亜鉛。」(16頁8~12行) イ 甲3の表1における実施例1に係るポリプロピレンと難燃性組成物を用いて得られた試験片に着目すると、甲3には、以下の発明が記載されているものと認める。 「(A)PCO900(AFLAMMIT PCO 900(THOR GmbH製))5重量%及び(B)ZS(スズ酸亜鉛)2重量%からなる、予め実験室用ミキサーで均一に混合した難燃性組成物を、サイドフィードを介して、ポリプロピレン(Moplen HP500N;230℃におけるメルトフローインデックス12g、重量2.16kg)93重量%からなるポリマー溶融物に計量供給し、Brabender ZSK 20/40を用いて、スクリュー回転数40rpmで200℃で押し出し、冷却後、長さ125mmに切断し、寸法を125×13×1.6mmとする試験片を作製する方法。」(以下「甲3製法発明」という。) 「Brabender ZSK 20/40を用いて、スクリュー回転数40rpmで200℃で押し出し、冷却後、長さ125mmに切断し、寸法を125×13×1.6mmとする試験片を作製するための、ポリプロピレン(Moplen HP500N;230℃におけるメルトフローインデックス12g、重量2.16kg)93重量%からなるポリマー溶融物に、(A)PCO900(AFLAMMIT PCO 900(THOR GmbH製))5重量%及び(B)ZS(スズ酸亜鉛)2重量%からなる難燃性組成物を計量供給したものである混合物。」(以下「甲3混合物発明」という。) (2)本件発明1について ア 対比 本件発明1と甲3製法発明とを対比する。 甲3製法発明における「(A)PCO900(AFLAMMIT PCO 900(THOR GmbH製))」は、上記アに示した構造を有するジメチルスピロホスホネートであるから、本件発明1の「一般式(I)」のものである「環状ホスホン酸エステル型の難燃剤」に相当する。 甲3製法発明における「PCO900(AFLAMMIT PCO 900(THOR GmbH製))5重量%及び(B)ZS(スズ酸亜鉛)2重量%からなる、予め実験室用ミキサーで均一に混合した難燃性組成物を、サイドフィードを介して、ポリプロピレン(Moplen HP500N;230℃におけるメルトフローインデックス12g、重量2.16kg)93重量%からなるポリマー溶融物に計量供給」して得られた混合物は、本件発明1の「粉末は少なくとも1種のポリアミド及び/又はコポリアミド並びに環状ホスホン酸エステル型の少なくとも1種の難燃剤を含み、環状ホスホン酸エステル型の難燃剤は一般式(I)・・・のものであり」とは、「混合物が、ポリマー並びに環状ホスホン酸エステル型の少なくとも1種の難燃剤を含み、環状ホスホン酸エステル型の難燃剤は一般式(I)・・・のものである」限りにおいて一致する。 甲3製法発明の「試験片」は、「難燃性組成物」を含むものであるから、甲3製法発明の「試験片を作製する方法」は、本件発明1の「難燃性部品の製造方法」に相当する。 以上のことから、本件発明1と甲3製法発明とは、 「難燃性部品の製造方法であって、混合物が、ポリマー及び環状ホスホン酸エステル型の少なくとも1種の難燃剤を含み、環状ホスホン酸エステル型の難燃剤は一般式(I)・・・のものである、方法。」 である点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点3A> 難燃性部品の製造方法が、本件発明1では「粉末床溶融による」のに対し、甲3製法発明では、「ポリマー溶融物」を「Brabender ZSK 20/40を用いて、スクリュー回転数40rpmで200℃で押し出し」て作製する点 <相違点3B> 混合物の形態が、本件発明1では「粉末」であるのに対し、甲3製法発明では、「ポリマー溶融物」である点 <相違点3C> ポリマーが、本件発明1では「少なくとも1種のポリアミド及び/又はコポリアミド」であるのに対し、甲3製法発明では「ポリプロピレン(Moplen HP500N;230℃におけるメルトフローインデックス12g、重量2.16kg)」である点 <相違点3D> 本件発明1では「当該粉末は、少なくとも1種のポリアミド及び/又はコポリアミドと、環状ホスホン酸エステル型の少なくとも一種の難燃剤とを乾式混合することによって調製される」のに対し、甲3製法発明では、「難燃性組成物」を「ポリマー溶融物に計量供給」している点 イ 相違点についての判断 事案に鑑み、相違点3A及び相違点3Bについてまとめて検討する。 (ア)甲3には、甲3製法発明の方法以外の成形法について、「難燃性ポリマー組成物は、既知の方法によって所望の形状にすることができる。このようなプロセスとしては、例えば、カレンダー加工、押出成形、射出成形、スプレーコーティング、ナイフコーティング、紡糸、圧縮成形、回転成形、熱成形、または押出ブロー成形が挙げられる。」(14頁22~27行)と記載されているが、混合物を「粉末」にし、かつ、「粉末床溶融による」成形法を採用する点については記載も示唆もされていない。 したがって、相違点3A及び相違点3Bは実質的な相違点である。 (イ)甲1及び甲2には、上記1(1)及び2(1)に記載したとおり、「粉末床溶融による」成形法が記載されており、本件優先日当時、当該方法は公知であるが、粉末床溶融による成形法は、樹脂の薄層に選択的にレーザー照射することにより粉末を溶融接着させ、成膜し、その上に別の層を形成して同様の操作を繰り返すことにより順次積層して立体造形物を形成する方法であり(例えば、甲1の【0002】、【0003】)、甲3に記載されるような、ポリマー全体を溶融物としてから成形する方法とは、成形の原理が異なるものであり、求められるポリマー混合物の物性や成分組成も異なるといえるから、ポリマー全体を溶融物としてから成形する方法に用いられる既知のポリマー混合物を、直ちに「粉末床溶融による」成形法のために適用することができるとはいえない。 そして、甲1及び甲2には、難燃剤の種類が、「粉末床溶融」により得られた成形品の外観に影響するといった記載もなく、甲3製法発明における「(A)PCO900(AFLAMMIT PCO 900(THOR GmbH製))」が、「粉末床溶融による」成形法に適するといった他の根拠も見いだせない。 そうすると、甲3製法発明において、混合物を「粉末」にし、かつ、「粉末床溶融による」成形法を採用することは、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。 ウ 本件発明1の効果について 本件発明1の効果については、上記1(1)ウにおいて述べたとおりである。 そして、本件発明1の「一般式(I)」のものである難燃剤を用いて、粉末床溶融による難燃性部品を製造したことによる、特に「3D印刷で良質な部品を得る」という効果は、甲3並びに甲1及び甲2の記載から、当業者が予測することができるものではない。 エ 小括 以上のとおり、相違点3A及び相違点3B以外の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲3に記載された発明ではなく、甲3に記載された発明並びに甲1及び甲2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (3)本件発明2~10について 本件発明2~10は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであって、上記(2)アに挙げたものと同一の相違点を少なくとも有するから、上記(2)イ~エにおいて述べたように、本件発明2、3、6~10は甲3に記載された発明ではなく、また、本件発明2~10は、甲3に記載された発明並びに甲1及び甲2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (4)本件発明11について ア 対比 本件発明11と甲3混合物発明とを対比する。 上記(2)アにおける相当関係を踏まえると、甲3混合物発明における「Brabender ZSK 20/40を用いて、スクリュー回転数40rpmで200℃で押し出し、冷却後、長さ125mmに切断し、寸法を125×13×1.6mmとする試験片を作製するための」「混合物」は、本件発明11の「粉末床溶融による難燃性部品の製造を目的とする粉末」とは、「難燃性部品の製造を目的とする」「混合物」である限りにおいて一致する。 また、甲3混合物発明が、「ポリプロピレン(Moplen HP500N;230℃におけるメルトフローインデックス12g、重量2.16kg)」と「(A)PCO900(AFLAMMIT PCO 900(THOR GmbH製))」を含むものであることは、本件発明11の粉末が、「少なくとも1種のポリアミド及び/又はコポリアミド並びに環状ホスホン酸エステル型の少なくとも1種の難燃剤を含」むものであることと、「混合物」が、「ポリマー並びに環状ホスホン酸エステル型の少なくとも1種の難燃剤を含」むものである限りにおいて一致する。 以上のことから、本件発明11と甲3混合物発明とは、 「難燃性部品の製造を目的とする混合物であって、 少なくとも1種のポリマー並びに環状ホスホン酸エステル型の少なくとも1種の難燃剤を含み、環状ホスホン酸エステル型の難燃剤は一般式(I)・・・のものである、粉末。」 である点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点3E> 難燃性部品の製造が、本件発明11では「粉末床溶融による」のに対し、甲3混合物発明では、「ポリマー溶融物」を「Brabender ZSK 20/40を用いて、スクリュー回転数40rpmで200℃で押し出し」て作製する点 <相違点3F> 混合物の形態が、本件発明11では「粉末」であるのに対し、甲3混合物発明では、「ポリマー溶融物」である点 <相違点3G> ポリマーが、本件発明11では「少なくとも1種のポリアミド及び/又はコポリアミド」であるのに対し、甲3混合物発明では「ポリプロピレン(Moplen HP500N;230℃におけるメルトフローインデックス12g、重量2.16kg)」である点 <相違点3H> 本件発明11では「当該粉末は、少なくとも1種のポリアミド及び/又はコポリアミドと、環状ホスホン酸エステル型の少なくとも一種の難燃剤とを乾式混合することによって調製される」のに対し、甲3混合物発明では、「ポリマー溶融物」に、「難燃性組成物を計量供給したもの」である点 イ 相違点についての判断 相違点3E及び相違点3Fは、上記(2)アの相違点3A及び3Bと同一であるから、上記(2)イにおいて述べたように、いずれも実質的な相違点であり、また、甲1及び甲2の記載を考慮したとしても、甲3混合物発明において、混合物を「粉末」にし、かつ、「粉末床溶融による」成形法を採用することは、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。 ウ 本件発明11の効果について 本件発明11の効果については、上記(2)ウにおいて述べたとおりである。 エ 小括 以上のとおり、相違点3E及び相違点3F以外の相違点について検討するまでもなく、本件発明11は、甲3に記載された発明並びに甲1及び甲2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (5)本件発明12~18について 本件発明12~18は、本件発明11を直接又は間接的に引用するものであって、上記(4)アに挙げたものと同一の相違点を少なくとも有するから、上記(4)イ~エにおいて述べたように、いずれも甲1に記載された発明ではなく、甲3に記載された発明並びに甲1及び甲2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (6)申立人の主張について ア 申立人は、以下の点を主張する。 (ア)甲3は、難燃性ポリマー組成物を、既知の方法によって所望の形状にすることができる発明であり(14頁21~22行)、このようなプロセスには、熱成形が含まれる(同24~28行)。甲1及び2にも記載されているように、粉末床溶融による難燃性部品の製造方法は、本件特許の優先日当時には公知の方法であったから、甲3発明には、「粉末床溶融による難燃性部品の製造方法」が記載されているに等しい。(申立書74頁8~12行) (イ)甲3発明のポリマーは粉末の形で使用することができる(14頁21~22行)から、「粉末」である。また、甲3発明は、必要に応じて、個々の成分は、例えばドライブレンドでポリマーに組み込む前に一緒に混合することができることが記載されている(14頁33~37行)。したがって、甲3発明と本件発明1は一致する。(申立書74頁13~14行) イ 上記アの主張について検討する。 (ア)甲3(14頁22~27行)には、「粉末床溶融による」成形法は記載されておらず、当該方法が甲1及び甲2に記載される公知の成形法であったとしても、「熱成形」が「粉末床溶融による」成形法と同義であることを示すものではないから、甲3に記載されているに等しいともいえない以上、甲3発明として認定することはできない。 そして、上記(2)イにおいて述べたとおり、甲1及び甲2を考慮したとしても、甲3製法発明において、混合物を「粉末」にし、かつ、「粉末床溶融による」成形法を採用することは、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。 (イ)甲3には、「ポリマーは、粉末、顆粒、溶液、懸濁液、またはラテックスの形態で使用することができる。」(14頁21~22行)、「必要に応じて、個々の成分は、ポリマーに組み込む前に、例えばドライブレンド、圧縮、又は溶融状態において互いに混合することができる。」(14頁34~37行)と記載されているが、ポリマーを粉末とすることや、個々の成分をドライブレンドにより混合することは、複数のポリマー形状及び混合様式の一例として記載されているに過ぎず、実施例において具体的に開示されているのは、甲3製法発明として認定したとおり、ポリマー溶融物を、溶融状態において難燃剤組成物と混合することのみであるから、上記の各選択肢から、寄せ集めて甲3発明を認定することはできない。 そして、上記(ア)のとおり、甲3には、「粉末床溶融による」成形法は記載されていない以上、甲3製法発明において、「粉末床溶融による」成形法を行うために用いられる「粉末」が記載されているともいえない。 以上のとおりであるから、上記アの主張はいずれも採用できない。 (7)申立理由3についてのまとめ よって、本件発明1~3、6~18は、甲3に記載された発明ではなく、また、本件発明1~18は、甲3に記載された発明並びに甲1及び甲2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、申立理由3によっては本件発明1~18に係る特許を取り消すことはできない。 4 申立理由4(実施可能要件)について (1)実施可能要件の判断基準 発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に適合するというためには、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、物の発明の場合には、その物を生産し、使用することができる程度の記載があること、方法の発明の場合には、その方法を使用することができる程度の記載があること、物を生産する方法の発明の場合には、その方法を使用し、その方法により生産した物を使用することができる程度の記載があることを要する。 そこで、検討する。 (2)実施可能要件の判断 本件明細書の発明の詳細な説明には、「粉末床溶融による方法は、本発明による粉末床の特定の領域の選択的溶融によって物体又は部品が得られる付加製造方法である」(【0016】)ことが記載されており、その具体的な方法が、【0017】~【0022】に記載されている。また、ポリアミド及び/又はコポリアミドについては、【0025】~【0045】に、一般式(I)~式(III)のものである環状ホスホン酸エステル型の難燃剤については、【0046】~【0052】に具体的に記載されており、粉末の乾式混合による調製や配合割合、他の添加剤については、【0058】~【0066】に記載され、【0068】には、「本発明の粉末は、特に乾式混合方法によって調製された場合、良好なリサイクル性を示すことが観察された」と記載されている。 また、【0070】には、難燃性部品について、「粉末床溶融、特に3D印刷、より具体的にはレーザー焼結による3D印刷によって製造され得る任意の種類のものであることができる」と記載されている。 以上のとおり、発明の詳細な説明には、本件発明1~10の粉末床溶融による難燃性部品の製造方法、本件発明11~16の粉末、本件発明17の難燃性部品を製造するための、粉末の使用、本件発明18の粉末の調製方法について、具体的に記載されている。 そして、発明の詳細な説明の実施例1(【0074】~【0079】)には、粉末の重量に対して83重量%のポリアミド11と、17重量%の「式(III)」(本件発明1の「一般式(I)」に包含される。)の環状ホスホン酸エステル型の難燃剤の粉末を乾式混合して得られる「本発明による粉末」を、Formiga(R) P 100(Eos)3Dプリンタに供給し、長さ127mm、幅12.7mm及び厚さ2.5mmを有する棒の型の部品を印刷するために用いたところ、図1に示されるように、「完全に滑らかな部品」が得られたが、80重量%のポリアミド11と、20重量%のポリリン酸メラニン型の難燃剤を含む「比較粉末」を用いた場合には、図2に示されるように、「合体問題」を示し、「3D印刷には不適切」であったことが記載されている。 また、実施例3(【0085】~【0090】)には、「実施例1に定義する本発明による粉末から得た部品を、規格UL 94Vに従って試験した」ところ、「本発明による部品」は「V-0」に分類されたことが記載されており、【0092】に、「本発明による混合物は、3D印刷において良好な品質の部品を得るのに適している一方で、それらに先行技術に従って得られたものと同等以上の難燃性を付与する」と記載されているように、「先行技術に応じて得られるものと同等以上の難燃性を部品に付与しながら、3D印刷で良質な部品を得ることを可能にする」という本件発明の効果が確認されている。 したがって、本件明細書の発明の詳細な説明には、当業者が、本件明細書の記載及び本件出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、本件発明1~10について、その方法を使用することができる程度の記載があり、本件発明11~16について、その物を生産でき、かつ、使用できる程度の記載があり、本件発明17及び18について、その方法を使用し、その方法により生産した物を使用することができる程度の記載があるといえる。 (3)申立人の主張について ア 申立人の主張は、上記第3の4の(a)~(d)(以下「主張(a)」~「主張(d)」という。)に示したとおりである。(申立書89頁9行~100頁下から3行) イ 検討 (ア)主張(a)「粉末床溶融による難燃性部品の製造方法」について 上記(2)において説示したとおり、発明の詳細な説明には、「粉末床溶融による方法は、本発明による粉末床の特定の領域の選択的溶融によって物体又は部品が得られる付加製造方法である」(【0016】)ことが記載されており、その具体的な方法が、【0017】~【0022】に記載されており、「3D印刷」又は「付加製造」といった、粉末を層ごとに付加又は凝集させることによる部品の大量生産のための任意の方法を意味する。 そして、「粉末床溶融」による成形法は、甲1の【0002】~【0003】及び実施例、甲2の特許請求の範囲、[0004]及び実施例にも記載されているように、当業者に公知の方法である。 そうすると、本件発明1~18について、特定された各成分を乾式混合して粉末を調製し、粉末床溶融により、難燃性部品を製造し、使用することは、当業者が過度の試行錯誤を要することなくなし得ることといえる。 発明の詳細な説明の実施例3には、「実施例1に定義する本発明による粉末から得られた部品」と記載されていることから、実施例1の方法により部品を作製したことが記載されているといえるところ、実施例1(【0074】~【0077】)には、乾式混合により本発明による粉末を製造したことや、「Formiga(R) P 100(Eos)3Dプリンタ」に当該粉末を供給して、所定寸法を有する棒の型の部品を印刷により作製したことが記載されている。 そうすると、本件発明1の「粉末床溶融による難燃性部品の製造方法」や本件発明2及び3の「3D印刷方法又は粉末のレーザー焼結による3D印刷の方法」について、発明の詳細な説明の記載に照らして、当業者であれば、それらの発明を過度の試行錯誤を要することなく実施することができるといえる。 そして、申立人は、本件発明1~3に、その工程の詳細が発明特定事項として特定されていないことを主張するに過ぎず、当該発明が実施できないとする具体的な根拠を示していないことから、上記主張(a)は上記(2)の判断に影響しない。 (イ)主張(b)「少なくとも1種のポリアミド及び/又はコポリアミド」について 発明の詳細な説明においては、「ポリアミド及び/又はコポリアミド」については、【0025】~【0045】に、種々のものが例示されているから、当業者は実施例において用いられる「ポリアミド11」と同様に、これらの例示された「ポリアミド及び/又はコポリアミド」を用いて、粉末を調製することができ、当該粉末を粉末床溶融による難燃性部品の製造方法に使用できるといえる。 甲1の【0005】には「ポリアミド樹脂が多く用いられ、特に、ポリアミド12」が好適であることや、甲2の[0019]にも、好ましいポリアミドとして、「ナイロン-6,12(PA612)、ナイロン-11(PA11)及びナイロン12(PA12)」が挙げられているから、「ポリアミド11」でなければ、粉末床溶融による難燃性部品の製造方法に使用できないという本件特許の出願当時の技術常識があったともいえない。 また、発明の詳細な説明においては、「難燃性ポリアミド及び/コポリアミド粉末」の製造には、従来から「難燃性添加剤」を用いることが記載されており(【0002】~【0007】)、本件発明1~18においても、「一般式(I)」のものである「環状ホスホン酸エステル型の難燃剤」の添加によって、「難燃性部品」が、その「難燃性」の機能を呈するものであり、ポリアミド自体の性質として、「難燃性」の有無やその程度を特定しなければ、「難燃性部品」を製造できないといった事情が存在するとはいえない。 (ウ)主張(c)「環状ホスホン酸エステル型の少なくとも1種の難燃剤」について 発明の詳細な説明には、の実施例1、3及び4において、式(III)の環状ホスホン酸エステル型の難燃剤が用いられており、これは本件発明1、6における一般式(I)及び一般式(II)に包含されるものであり、本件発明7の式(III)のものであるから、本件発明1~18の「環状ホスホン酸エステル型の少なくとも1種の難燃剤」が具体的に開示されているといえる。 申立人は、Antiblaze1045(R)が、本件発明1の一般式(I)で表される化合物であることを前提として、当業者が、本件発明が奏されるとされている技術的利点を備えた難燃剤を本件明細書から選択するのは不可能であると主張するが、上記2(2)イ及び2(8)イ(ア)でも述べたように、Antiblaze1045(R)は、本件発明1の一般式(I)で表される化合物ではないから、その前提において誤りがあり、主張は採用できない。 (エ)主張(d)「粉末」について まず、各成分の比率に関する主張に関し、発明の詳細な説明の実施例1には、「本発明による粉末」が、「粉末の総重量に対して83重量%のポリアミド11(Rilsan Invent Natural (RIN)、Arkema)、及び粉末の総重量に対して17重量%の次式(III)の環状ホスホン酸エステル型の難燃剤の粉末を乾式混合(ヘンシェルブレンダーを使用)すること」(【0074】)により製造されるものであり、「比較粉末」が、「粉末の総重量に対して80重量%のポリアミド11(Rilsan Invent Natural (RIN)、Arkema)、及び粉末の総重量に対して20重量%のポリリン酸メラミン型の難燃剤(Melapur(商標) 200、BASF)を含む」(【0076】)ものであることが記載されている。 両者の粉末は、ポリアミドの含有量が83重量%と80重量%と差異があるものの、粉末床溶融の工程において、ポリアミドの3重量%の違いが、同条件で溶融した際に溶融及び各層の接着状態に大きな影響を及ぼすとは考えにくく、当業者であれば、両者の粉末による部品についての写真(図1(本発明による粉末)及び図2(比較粉末))に基づいて、「本発明による粉末は完全に滑らかな部品を得ることを可能にするが、比較粉末で得られた部分は合体問題を示すことが観察される。このように比較粉末は3D印刷には不適切である。」(【0079】)と考察された要因が、難燃剤の種類の違いによるものと理解するといえる。 そして、ポリアミド及び難燃剤の配合割合は、「先行技術に応じて得られるものと同等以上の難燃性を部品に付与しながら、3D印刷で良質な部品を得ることを可能にする」という本件発明の効果を達成できる程度に、当業者であれば、適宜調整できるものといえる。 次に、粉末の特性に関する主張に関し、発明の詳細な説明には、上記(2)のとおり、各成分について、また、粉末を乾式混合により調製されることについて具体的に記載されている。また、「粉末床溶融」による成形法は、甲1の【0002】~【0003】及び実施例、甲2の特許請求の範囲、[0004]及び実施例にも記載されているように、当業者に公知の方法である。 そうすると、発明の詳細な説明の記載及び技術常識に基づいて、当業者であれば、ポリアミド及び所定の難燃剤を添加した粉末を調製し、これを「粉末床溶融」による難燃性部品の製造に用いることは過度の試行錯誤なくなし得ることといえる。 申立人は、甲8の記載に基づいて、本件明細書の実施例には、粉末の特性も何ら記載されておらず、比較に用いた粉末の特性も不明である点を指摘する。 しかし、甲8の記載は、当業者が、ポリアミド等を用いた「粉末床溶融」による難燃性部品の製造において、一般的に、ポリマー固有の特性 (熱的、光学的、レオロジー的)と外在的な特性 (粒子と粉末)を考慮に入れる必要があることを述べるに過ぎず、本件発明1~18における「粉末」について、「粉末床溶融」による難燃性部品の製造及び使用ができないとする具体的な根拠を示して主張したものではないから、上記(2)の判断に影響しない。 また、実施例2は、本件発明1の式(I)に包含される難燃剤を用いたものではないから、当該記載をもって、本件発明1~18について実施ができないとする根拠にはならない。 以上のとおりであるから、申立人の主張(a)~(d)はいずれも採用できない。 (4)申立理由4についてのまとめ よって、発明の詳細な説明の記載は、本件発明1~18について実施可能要件を満たしており、特許法第36条第4項第1号に規定する要件に適合するから、申立理由4によっては本件発明1~18に係る特許を取り消すことはできない。 5 申立理由5(サポート要件)について (1)サポート要件の判断基準 特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 そこで、検討する。 (2)サポート要件の判断 ア 本件発明が解決しようとする課題 本件明細書の【0009】の記載及び本件発明1及び11の特定事項からみて、本件発明の解決しようとする課題は「先行技術に応じて得られるものと同等以上の難燃性を部品に付与しながら、3D印刷で良質な部品を得ることを可能にする」粉末床溶融による難燃性部品の製造方法、粉末床溶融による難燃性部品を製造することを目的とする粉末を提供することであると認められる。 イ 本件発明1について 本件明細書には、背景技術として、粉末床溶融技術、特に付加製造のための層ごとに使用することができる難燃性ポリアミド及びコポリアミド粉末の製造において、ポリマーの難燃性は、従来、鉱物充填剤又は難燃性添加剤、特にハロゲン化化合物をベースとする難燃性添加剤の分散により従来提供されてきたが、様々な規制の対象となっていること、非ハロゲン化系であるポリリン酸アンモニウムについては、湿度レベルの変動の際に寸法安定性に悪影響を及ぼすことから、難燃性ポリアミド粉末の必要性を満たすためには、難燃性添加剤の他の代替品を見出すことが依然として必要であることが記載されている(【0003】~【0008】)。 これに対し、本件発明1の一般式(I)に包含される式(III)の環状ホスホン酸エステル型の難燃剤を3D印刷用粉末へ添加したところ、「先行技術に応じて得られるものと同等以上の難燃性を部品に付与しながら、3D印刷で良質な部品を得ることを可能にする」という予期せぬ効果が得られたことが記載されている(【0009】、【0010】)。 そして、発明の詳細な説明の実施例1(【0074】~【0079】)には、粉末の重量に対して83重量%のポリアミド11と、17重量%の「式(III)」の環状ホスホン酸エステル型の難燃剤の粉末を乾式混合して得られる「本発明による粉末」を、Formiga(R) P 100(Eos)3Dプリンタに供給し、長さ127mm、幅12.7mm及び厚さ2.5mmを有する棒の型の部品を印刷するために用いたところ、図1に示されるように、「完全に滑らかな部品」を得られたが、80重量%のポリアミド11と、20重量%のポリリン酸メラニン型の難燃剤を含む「比較粉末」を用いた場合には、図2に示されるように、「合体問題」を示し、「3D印刷には不適切」であったことが記載されている。 また、実施例3(【0085】~【0090】)には、「実施例1に定義する本発明による粉末から得た部品を、規格UL 94Vに従って試験した」ところ、「本発明による部品」は「V-0」に分類されたことも記載されており、【0092】に、「本発明による混合物は、3D印刷において良好な品質の部品を得るのに適している一方で、それらに先行技術に従って得られたものと同等以上の難燃性を付与する」と記載されているように、上記アの課題が解決できることが具体的に確認されている。 したがって、本件発明1は、本件明細書の発明の詳細な説明の記載により、当業者が上記アの課題を解決できると認識できる範囲のものである。 ウ 本件発明2~18について 本件発明2~10は、本件発明1をさらに特定したものであり、本件発明11~18は、本件発明1の製造方法に使用する粉末と同等の特定を有する粉末に係る発明であるから、上記イで述べた本件発明1についての理由と同様に、本件明細書の発明の詳細な説明の記載により、当業者が上記アの課題を解決できると認識できる範囲のものである。 (3)申立人の主張について ア 申立人の主張は、上記第4の4の(e)~(h)(以下「主張(e)」~「主張(h)」という。)に示したとおりである。(申立書89頁9行~100頁下から3行) イ 検討 (ア)主張(e)「粉末床溶融による難燃性部品の製造方法」について 上記(2)イで述べたように、実施例1、3には、本件発明1の製造方法によって得られた難燃性部品の品質及び難燃性の評価が具体的に示されており、【0092】に、「本発明による混合物は、3D印刷において良好な品質の部品を得るのに適している一方で、それらに先行技術に従って得られたものと同等以上の難燃性を付与する」と記載されているように、上記アの課題が解決できることが示されている。 申立人は、【0094】の記載から、実施例は、3D機器で用いるための、ハロゲン化添加剤を含まない粉末により部品を製造する発明に適する実施例と考えられ、そうであれば、本件発明1~18は本件明細書によりサポートされていないと主張するが、【0094】の記載があることにより、本件発明1~18が本件発明の課題を解決できないとする具体的な根拠を示していないことから、上記主張は上記(2)イの判断に影響しない。 (イ)主張(f)「少なくとも1種のポリアミド及び/又はコポリアミド」について 上記4(3)イ(イ)でも述べたように、発明の詳細な説明の記載から、当業者は実施例において用いられる「ポリアミド11」と同様に、これらの例示された「ポリアミド及び/又はコポリアミド」を用いて、同様に、粉末を調製し、粉末床溶融による難燃性部品の製造方法に使用できることを理解することができ、また、甲1及び甲2の記載から、「ポリアミド11」でなければ、粉末床溶融による難燃性部品の製造方法に使用できず、本件発明の課題を解決できないという本件特許の出願当時の技術常識があったともいえない。 申立人は、「ポリアミド11」以外の「ポリアミド及び/又はコポリアミド」を用いた場合に、本件発明1~18が本件発明の課題を解決できないとする具体的な根拠を示していないことから、上記主張は上記(2)イの判断に影響しない。 (ウ)主張(g)「環状ホスホン酸エステル型の少なくとも1種の難燃剤」について 上記4(3)イ(ウ)でも述べたように、本件明細書の比較例に用いられている難燃剤は、一般式(I)で表される化合物に該当しないから、比較例の記載に基づいて、本件発明1~6、8~18が、本件の技術的効果を奏しない発明も含むとする主張は、前提において誤りがあり、採用できない。 そして、本件発明1の「一般式(I)」及び本件発明6の「一般式(II)」は、いずれも実施例で用いられた「式(III)」の構造を包含し、スピロ環の員数及び/又はリンの置換基A1及びA2に選択肢を設けたものであるところ、これらの構造の違いが、難燃性や3D印刷された部品の品質に大きな影響を及ぼすという特許出願時の技術常識は見当たらず、申立人は、「式(III)」以外の「一般式(I)」及び「一般式(II)」のものを用いた場合に、本件発明1~6、8~18が本件発明の課題を解決できないとする具体的な根拠を示していないことから、上記主張は上記(2)イの判断に影響しない。 (エ)主張(h)「粉末」について 上記4(3)イ(エ)でも述べたように、実施例の「本発明による粉末」と「比較粉末」において、「本発明による粉末は完全に滑らかな部品を得ることを可能にするが、比較粉末で得られた部分は合体問題を示すことが観察される。このように比較粉末は3D印刷には不適切である。」(【0079】)と考察された要因が、難燃剤の違いによるものと理解するといえる。 そして、甲8の記載は、当業者が、ポリアミド等を用いた「粉末床溶融」による難燃性部品の製造において、一般的に、ポリマー固有の特性 (熱的、光学的、レオロジー的)と外在的な特性 (粒子と粉末)を考慮に入れる必要があることを述べるに過ぎず、本件明細書の実施例1における「83重量%のポリアミド11と17重量%の式(III)の環状ホスホン酸エステル型の難燃剤」以外の粉末を用いた場合に、本件発明1~18が本件発明の課題を解決できないとする具体的な根拠が示されているとはいえないことから、上記主張は上記(2)イの判断に影響しない。 以上のとおりであるから、上記アの主張はいずれも採用できない。 (4)申立理由5についてのまとめ よって、本件発明1~18は、発明の詳細な説明に記載したものであり、特許法第36条第6項第1号に規定する要件に適合するから、申立理由5によっては本件発明1~15に係る特許を取り消すことはできない。 6 申立理由6(明確性要件)について (1)申立人の主張 申立人は、以下の点を主張する(申立書100頁下から2行~101頁5行)。 本件発明8、9、14、15は、各々「前記粉末が、該粉末の全重量に対して、5~40重量%の環状ホスホン酸エステル型の難燃剤を含む」こと、「前記粉末が、該粉末の総重量に対して、少なくとも50重量%のポリアミド及び/又はコポリアミドを含む」ことが特定されているが、上記の特定の重量比において技術的効果を奏することに関する裏付けを証明するような実験結果は本件明細書には何ら開示されておらず、これらの重量比の値の臨界的な意義が不明であり、明確性要件を満たしていない。 (2)検討 本件発明8、9、14、15は、「粉末の全重量」に対して、「5~40重量%の環状ホスホン酸エステル型の難燃剤を含む」又は「少なくとも50重量%のポリアミド及び/又はコポリアミドを含む」ことを特定するものであり、当業者は、各成分の数値範囲を明確に理解できる。 重量比の裏付けを証明する実験結果や、臨界的意義についての申立人の主張は、明確性要件の判断に影響を及ぼすとはいえず、第三者の利益が不当に害されるほどに発明が不明確であるということにもならない。 また、本件発明8、9、14、15に、その他の不明確な点を見いだせないから、本件発明8、9、14、15は明確である。 (3)申立理由6についてのまとめ したがって、本件発明8、9、14、15は明確であり、特許法第36条第6項第2号に規定する要件に適合するから、申立理由3によっては本件発明8、9、14、15に係る特許を取り消すことはできない。 第5 まとめ 以上のとおりであるから、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件発明1~18に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件発明1~18に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2025-700473

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