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特許異議申立

2023-700835

3D印刷された半結晶性及びアモルファスのポリマー物品

審判番号
2023-700835
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2021-518613
登録番号
7223126
請求日
2023年08月15日
審決日
2024年05月30日
公報発行日
2024年08月30日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】アルケマ フランス
  • 【権利者代理人】弁理士法人川口國際特許事務所
  • 【異議申立人】エボニック オペレーションズ ゲーエムベーハー
  • 【異議申立人代理人】伊東 忠重
  • 【異議申立人代理人】伊東 忠彦
  • 【異議申立人代理人】宮崎 修
審判長/審判官
  • 審判長 里村 利光
  • 審判官 井口 猶二
  • 審判官 植前 充司
分類
P1651.113-YAA(B29C) / P1651.121-YAA(B29C) / P1651.537-YAA(B29C)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条、特許法第36条、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第113条
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7223126号発明「3D印刷された半結晶性及びアモルファスのポリマー物品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7223126号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-16〕、17について訂正することを認める。 特許第7223126号の請求項1~17に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7223126号(以下「本件特許」という。)の請求項1~17に係る特許についての出願(特願2021-518613号)は、2019年(令和元年)10月3日の国際特許出願(パリ条約に基づく優先権主張 2018年10月4日 2018年11月12日 米国)であって、令和5年2月7日にその特許権の設定登録がされ、同年同月15日に特許掲載公報が発行された。 本件特許について、特許掲載公報発行の日から6月以内である令和5年8月15日に特許異議申立人 エボニック オペレーションズ ゲーエムベーハー(以下「異議申立人」という。)から全請求項に対して特許異議の申立てがされた。その後の手続の経緯の概要は、以下のとおりである。 令和5年10月20日付け:取消理由通知書 令和6年 1月22日 :意見書の提出(特許権者) 令和6年 1月22日 :訂正請求書の提出(この訂正請求書による訂正の請求を、以下「本件訂正請求」という。) 令和6年 3月27日 :意見書の提出(異議申立人) 第2 本件訂正請求について 1 訂正の趣旨及び訂正の内容 (1)訂正の趣旨 本件訂正請求の趣旨は、特許第7223126号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~17について訂正することを求める、というものである。 (2)訂正の内容 本件訂正請求において特許権者が求める訂正の内容は、以下のとおりである。 なお、下線は当合議体が付したものであり、訂正箇所を示す。 ア 訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に、「熱可塑性ポリマーを含む3D印刷された物品であって、前記熱可塑性ポリマーが平行平板レオロジーによって測定される140℃未満のクロスオーバー温度(G’/G”)を有し、XY方向の破断点伸びが少なくとも50%である、3D印刷された物品。」とあるのを、「熱可塑性ポリマーを含む3D印刷された物品であって、前記熱可塑性ポリマーが平行平板レオロジーによって測定される140℃未満のクロスオーバー温度(G’/G”)を有し、XY方向の破断点伸びが少なくとも50%であり、材料押出3D印刷により形成され、10重量パーセント以下のフィラーを含む、3D印刷された物品。」に訂正する(請求項1の記載を引用して記載された請求項2~16についても、同様に訂正する。)。 イ 訂正事項2 特許請求の範囲の請求項17に、「少なくとも1種の熱可塑性ポリマーを含み、平行平板レオロジーによって測定される140℃未満のクロスオーバー温度(G’/G”)を有する、3D印刷プロセスで使用するためのフィラメントであって、少なくとも50%のXY方向における破断点伸びを有するフィラメント。」とあるのを、「少なくとも1種の熱可塑性ポリマーを含み、平行平板レオロジーによって測定される140℃未満のクロスオーバー温度(G’/G”)を有する、3D印刷プロセスで使用するためのフィラメントであって、少なくとも50%のXY方向における破断点伸びを有し、材料押出3D印刷で使用するためのものであり、10重量パーセント以下のフィラーを含む、フィラメント。」に訂正する。 2 訂正の適否 (1)訂正事項1について ア 訂正の目的 訂正事項1に係る訂正は、特許請求の範囲の請求項1に記載された「3D印刷された物品」について「材料押出3D印刷により形成され、10重量パーセント以下のフィラーを含む」ことを限定するものであり、訂正事項1による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。 請求項2~16についてみても、同じである。 イ 新規事項の有無 訂正事項1における「材料押出3D印刷により形成され」ることについて、本件特許明細書の【0002】には、「装置の進歩と価格の低下のため、3D印刷は、特注の最終用途部品を試作モデル化して製造するための迅速でシンプルな、且つ多くの場合安価である方法として、家庭、学校、及び産業界で広く採用されるようになった。具体的には、材料押出3D印刷(溶融フィラメント製造又は熱溶解積層法とも呼ばれる)は、操作が最も容易であり、廃棄物を最も少ししか生成せず、また従来の3D印刷技術の所要時間を最短にすることから、直接消費者向け、大スケール製造向け、及び迅速な熱可塑性樹脂の試作モデル化に最適なプロセスとして台頭してきた。」と記載されている(下線は当合議体で付与した。以下、同様である。)。 また、訂正事項1における「10重量パーセント以下のフィラーを含む」ことについて、本件特許明細書の【0022】、【0060】及び【0061】には、それぞれ、「3D印刷された物品は、1~50重量パーセント、好ましくは1~40重量パーセント、より好ましくは1~30重量パーセント、より好ましくは1~20重量パーセント、より好ましくは2~10重量パーセントの1種以上の添加剤を更に含み得る。」、「添加剤:フィラーは、ポリマーとフィラーの合計量を基準として0.01~50重量パーセント、好ましくは0.1~40体積パーセント、より好ましくは1~30体積パーセント、1~20体積パーセント、及び2~10パーセントの有効レベルでポリアミドブロックコポリマーに添加することができる。」と記載されている。 してみると、訂正事項1に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「出願当初明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてしたものであって、出願当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである。 請求項2~16についても、同じである。 ウ 特許請求の範囲の拡張、変更の存否 訂正事項1は、上記アのとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり、これらの訂正が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しないことが明らかである。よって、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合する。 請求項2~16についても、同じである。 (2)訂正事項2について ア 訂正の目的 訂正事項2による訂正は、特許請求の範囲の請求項17に記載された「フィラメント」について「材料押出3D印刷で使用するためのものであり、10重量パーセント以下のフィラーを含む」ことを限定するものであり、訂正事項2による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。 イ 新規事項の有無 訂正事項2における「材料押出3D印刷で使用するためのものであ」ることについて、本件特許明細書の【0002】には、「装置の進歩と価格の低下のため、3D印刷は、特注の最終用途部品を試作モデル化して製造するための迅速でシンプルな、且つ多くの場合安価である方法として、家庭、学校、及び産業界で広く採用されるようになった。具体的には、材料押出3D印刷(溶融フィラメント製造又は熱溶解積層法とも呼ばれる)は、操作が最も容易であり、廃棄物を最も少ししか生成せず、また従来の3D印刷技術の所要時間を最短にすることから、直接消費者向け、大スケール製造向け、及び迅速な熱可塑性樹脂の試作モデル化に最適なプロセスとして台頭してきた。」と記載されている。 また、訂正事項2における「10重量パーセント以下のフィラーを含む」ことについて、本件特許明細書の【0022】、【0023】、【0060】、【0061】及び【0063】には、それぞれ、「3D印刷された物品は、1~50重量パーセント、好ましくは1~40重量パーセント、より好ましくは1~30重量パーセント、より好ましくは1~20重量パーセント、より好ましくは2~10重量パーセントの1種以上の添加剤を更に含み得る。」、「一実施形態では、3D印刷プロセスで使用するためのフィラメントであって、少なくとも1種の半結晶性ポリマーを含み、140℃未満、好ましくは130℃未満、より好ましくは125℃未満のクロスオーバー温度(G’/G”)を有するフィラメントである。」、「添加剤:フィラーは、ポリマーとフィラーの合計量を基準として0.01~50重量パーセント、好ましくは0.1~40体積パーセント、より好ましくは1~30体積パーセント、1~20体積パーセント、及び2~10パーセントの有効レベルでポリアミドブロックコポリマーに添加することができる。」、「本発明のポリアミドブロックコポリマーは、そのエラストマー特性のために通常使用されることから、好ましい実施形態では、印刷された部品の剛性を高めるフィラーは使用されない。エラストマー特性を低下させる添加剤は、使用されるとしても低レベルでのみ使用されるであろう。紫外線吸収剤、染料、及び顔料などの、エラストマー性の効果にほとんど影響を与えない添加剤は通常使用することができる。」、及び「プロセス ポリアミドブロックコポリマー、又は本発明の他のポリマーは、通常は押出プロセスによりフィラメントやペレットへと形成される。フィラメントは単相であっても多相であってもよい。組成物又は樹脂は、フィラメント(1.75mm、2.85mm、又はその他のサイズを含む任意のサイズの直径)の有無に関わらず、任意のサイズのノズルを用いて、フィラメント、ペレット、粉末、又はその他の形態のポリアミドブロックコポリマーを使用できる任意の速度で、材料押し出し(熱溶解積層法、溶融フィラメント製造)形式の3Dプリンタで3D印刷される。」と記載されている。 してみると、訂正事項2による訂正は、出願当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであって、出願当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである。 ウ 特許請求の範囲の拡張、変更の存否 訂正事項2は、上記アのとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり、これらの訂正が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しないことが明らかである。よって、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合する。 (3)一群の請求項 本件訂正は、一群の請求項〔1~16〕及び17に対して請求されたものである。 (4)異議申立人の主張について 異議申立人は、令和6年3月27日に提出された意見書(異議申立人)の2~3頁において、「本件特許発明1、17に関する、「10重量パーセント以下のフィラーを含む」との規定を追加する訂正は、本件特許明細書の記載の範囲内で行うものではありません。」と主張している。 しかしながら、上記(1)及び(2)で述べたとおりであり、異議申立人の上記主張は、採用されない。 (5)むすび 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書、同法同条9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合するので、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項〔1~16〕及び17について訂正することを認める。 第3 本件特許発明 上記「第2」のとおり、本件訂正請求による訂正は認められた。 したがって、本件特許の特許請求の範囲の請求項1~17に係る発明(以下、項番に従って「本件特許発明1」などといい、これらの発明を総称して「本件特許発明」という。)は、本件訂正請求による訂正後の特許請求の範囲の請求項1~17に記載された事項により特定される、次のものである。 「【請求項1】 熱可塑性ポリマーを含む3D印刷された物品であって、前記熱可塑性ポリマーが平行平板レオロジーによって測定される140℃未満のクロスオーバー温度(G’/G”)を有し、XY方向の破断点伸びが少なくとも50%であり、材料押出3D印刷により形成され、10重量パーセント以下のフィラーを含む、3D印刷された物品。 【請求項2】 前記熱可塑性ポリマーが半結晶性ポリマー又はアモルファスポリマーである、請求項1に記載の3D印刷された物品。 【請求項3】 前記半結晶性ポリマーが、直鎖ポリエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレンテレフタレート、アイソタクチックポリプロピレン、ポリアミド、ポリフッ化ビニリデン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルブロックポリアミド、ポリエステルブロックポリアミド、コポリアミド(copolymaide)、熱可塑性ポリウレタン、軟質ポリオレフィン、及びこれらの混合物からなる群から選択される、請求項2に記載の3D印刷された物品。 【請求項4】 前記半結晶性ポリマーが2種以上のポリマーのブレンドである、請求項2に記載の3D印刷された物品。 【請求項5】 前記半結晶性ポリマーが、ポリアミドブロックとポリエーテルブロック又はポリエステルブロックのいずれかとを含むポリアミドブロックコポリマーである、請求項2に記載の3D印刷された物品。 【請求項6】 前記ポリエーテルブロックがポリテトラメチレングリコールを含む、請求項5に記載の3D印刷された物品。 【請求項7】 前記ポリエーテル及び/又はポリアミドブロックの数平均分子量が3,000g/mol未満である、請求項5に記載の3D印刷された物品。 【請求項8】 前記半結晶性ポリマーが、160℃未満の融点を有するポリアミドブロックコポリマーを含む、請求項5に記載の3D印刷された物品。 【請求項9】 前記半結晶性ポリマーが、145℃未満の結晶化温度を有するポリアミドブロックコポリマーを含む、請求項2に記載の3D印刷された物品。 【請求項10】 前記アモルファスポリマーが、少なくとも51重量パーセントのメタクリル酸メチルモノマー単位を含むアクリルホモポリマー又はコポリマーである、請求項2に記載の3D印刷された物品。 【請求項11】 前記熱可塑性ポリマーが、ASTM C965に準拠して回転粘度計によって測定した場合、230℃の温度で100,000Pa-s未満の、1sec-1のせん断における粘度、並びに230℃の温度及び100sec-1のせん断速度において20~2,000Pa-sの粘度を有する、請求項1に記載の3D印刷された物品。 【請求項12】 前記物品が、ASTM D1003によって測定される70%未満のヘイズ及び75を超える全白色光透過(TWLT)を有する、請求項1に記載の3D印刷された物品。 【請求項13】 前記物品が、35℃超の有効硬化点を有する、請求項1に記載の3D印刷された物品。 【請求項14】 前記物品が、少なくとも50%のZ方向の破断点伸びを有する、請求項1に記載の3D印刷された物品。 【請求項15】 前記物品が、降伏点又は破断点のXY応力の少なくとも80パーセントの、Z方向における破断点伸びを有する、請求項1に記載の3D印刷された物品。 【請求項16】 前記物品が、1~50重量パーセントの1種以上の添加剤を更に含有する、請求項1に記載の3D印刷された物品。 【請求項17】 少なくとも1種の熱可塑性ポリマーを含み、平行平板レオロジーによって測定される140℃未満のクロスオーバー温度(G’/G”)を有する、3D印刷プロセスで使用するためのフィラメントであって、少なくとも50%のXY方向における破断点伸びを有し、材料押出3D印刷で使用するためのものであり、10重量パーセント以下のフィラーを含む、フィラメント。」 第4 取消しの理由の概要 1 異議申立人が提示した証拠方法 甲第1号証:特表2013-517344号公報(以下「甲1」という。) 甲第2号証:特表2002-512645号公報(以下「甲2」という。) 甲第3号証:特開2017-222169号公報(以下「甲3」という。) 甲第4号証:特表2010-511766号公報(以下「甲4」という。) 甲第5号証:特表2017-531057号公報(以下「甲5」という。) 甲第6号証:VESTAMID(R) E Polyamide 12 Ellastomers,ドイツ,2012年3月(以下「甲6」という。) 甲第7号証:特開2018-104633号公報(以下「甲7」という。) 参考文献1:CAMPUS(R)Datasheet Hytrel(R)4056-TPC Dupont Engineering Polymers,ドイツ,2022年9月1日 2 当合議体が通知した取消しの理由 令和5年10月20日付け取消理由通知書により特許権者に通知した取消しの理由は、概略、以下のとおりである。 理由1:(新規性)本件特許の請求項1~17に係る発明は、パリ条約に基づく優先権主張の日(以下「本件優先日」という。)前に日本国内又は外国において頒布された甲1に記載された発明であるから、特許法29条1項3号に該当し特許を受けることができない。 理由2:(進歩性)本件特許の請求項1~17に係る発明は、本件優先日前に日本国内又は外国において頒布された甲1に記載された発明に基づいて、本件優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、本件特許は、特許法113条2号に該当し、取り消されるべきものである。 なお、令和5年10月20日付け取消理由通知書は、本件訂正請求により訂正する前の本件特許の請求項1~17に係る発明に対してなされたものである。 第5 令和5年10月20日付け取消理由通知書により特許権者に通知した取消しの理由についての当合議体の判断 1 甲1の記載 取消理由で引用された甲1には、以下の事項が記載されている。なお、下線は、品名や項目名を除いて当合議体が付したもので発明の認定に用いた。 (1)「【特許請求の範囲】 【請求項1】 下記(1)~(3)から成るD50が100μm以下の粉末の熱可塑性組成物: (1)溶融温度が180℃以下の少なくとも一種のブロック共重合体、 (2)組成物の全重量の15~50重量%のモーズ硬度が6以下で、D50が20μm以下の少なくとも一種の粉末充填剤、 (3)組成物の全重量の0.1~5重量%のD50が20μm以下である粉末流動剤。」 (2)「【発明の詳細な説明】 【技術分野】 【0001】 本発明は、熱可塑性粉末組成物と、その溶融または焼結によって可撓性三次元物品を製造するための、レーヤーバイーレーヤー(一層毎、layer-by-layer)粉末アグロメレーション(凝集)プロセスでの使用とに関するものである。 ・・・省略・・・ 【発明が解決しようとする課題】 【0011】 本発明の目的は、焼結によって下記(1)~(3)の特徴を有する三次元物品を得るための、180℃以下のTmを有する焼結可能な粉末の熱可塑性組成物を提供することにある: (1)理論密度(ISO規格1183に従って測定される密度)の80%以上の密度を有し、従って、インフィルトレーション(溶浸)が不要。 (2)可撓性に優れ、弾性係数が1000MPa以下(ISO規格527-2:93-1BAに従って測定)、 (3)定義が良好、すなわち平滑かつ均一で平らな表面外観と正確なエッジを有する。 【0012】 本発明の他の目的は、可撓性で、高密度で、解像度に優れた物品を焼結によって直接製造するためのプロセスを提供することにある。 【課題を解決するための手段】 【0013】 本発明の一つの対象は、下記(1)~(3)から成るD50が100μm以下の粉末の熱可塑性組成物にある: (1)溶融温度が180℃以下(以下、Tm<180℃と略記)の少なくとも一種のブロック共重合体、 (2)組成物の全重量の15~50重量%のモーズ硬度が6以下で、D50が20μm以下の少なくとも一種の粉末充填剤、 (3)組成物の全重量の0.1~5重量%のD50が20μm以下である粉末流動剤。 ・・・省略・・・ 【0026】 本発明組成物での粉末充填剤はモーズ硬度が6以下である。これはモーズ硬度が6以上の粉末状充填剤は本発明では使用が難しく、特に、低温(cryogenic)粉砕が不可能であり、粉砕装置を破損させるということを意味する。モーズ硬度(Mohs hardness)スケールは容易に入手可能な10種類の無機材料をベースにしたものである。これは順番スケールで、硬度が既に公知である2つの他の無機材料と比較したもの(一方が他方に傷を付ける能力)である。 【0027】 本発明で使用する粉末充填剤はさらに、D50が20μm以下である。D50が20μmを超える充填剤は標準的なレーザー焼結条件下で粉末の流動性にネガティブなインパクトを与える。 【0028】 本発明の粉末充填剤は無機または有機の起源の物質にすることができ、単独または混合物として使うことができる。本発明組成物で使われる充填剤はラメラ(lamellae)、小球(globule)、球、繊維またはこれら定義の形の中間の他の任意の形にすることができる。充填剤は表面被覆を有していてもよい。特に、シリコーン、アミノ酸、フッ素化誘導体、組成物中の充填剤の分散および相容性を促進するその他任意の物質で表面処理されていてもよい。【0029】 上記の少なくとも一種の充填剤は炭酸塩ベースの無機充填剤、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイト、方解石、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、ドロマイト、カオリン、タルク、ミクロマイカ、アルミナ水化物、ウォラストナイト、モンモリロナイト、ゼオライト、真珠岩、ナノフィラー(ナノメータスケールの充填剤)、例えばナノクレー(nanoclays)またはカーボンナノチューブ、顔料、例えば酸化チタン(IV)、特にルチルまたはアナターゼ酸化チタン(IV)、遷移金属酸化物、グラファイト、カーボンブラック、シリカ、アルミナ、ホスフェート、ボレート、シリケートの無機充填剤、ポリマー粉末、特にモジュラスが1000 MPa以上のポリマー粉末のような有機の充填剤を選択するのが有利である。粉末有機充填剤はポリマー、コポリマー、エラストマー、熱可塑性プラスチックまたは熱硬化性樹脂の粉末の中から選択し、単独または混合物として使用するのが好ましい。 【0030】 一般に、無機充填剤は本発明組成物を補強する役目をするので好ましい。さらに、無機充填剤は低温ミリング(cryomilling)することで、有機充填剤より容易に、本発明組成物に要求される粒径(D50 <100μm)にすることができる。 【0031】 上記の少なくとも一種の粉末充填剤はD50が10μm以下の無機充填剤であるのが有利である。上記の少なくとも一種の粉末充填剤は炭酸カルシウムおよび/または炭酸マグネシウムから成るのが有利である。本発明組成物はドロマイトを含むのが好ましい。 【0032】 上記粉末充填剤は本発明組成物の15~50重量%を占める。充填剤含有量が15重量%以下の場合には低温ミリングで粉末のD50を十分に小さくできない。 【0033】 逆に、充填剤含有量を高くし、組成物の50重量%を超えると、組成物を焼結して得られる最終材料の弾性機械特性が低下し、特に、材料の破断伸びが100%以下になる。少なくとも一種の粉末充填剤は組成物の総重量の15~35重量%、好ましくは20~30重量%であるのが好ましい。以下の実施例で示すように、上記の好ましい充填剤含有量にすることで焼結加工時の本発明粉末組成物のD50を最適化でき、さらに最終物品の密度および定義を最適化することができる。 【0034】 本発明組成物は、組成物を流動させ、平滑な層を形成させるために(特にレーヤーバイレーヤー焼結時に)、充分な量の流動剤(組成物の0.1~5重量%)を含む。この流動剤はポリマー粉末焼結の分野で一般的に使用されているものの中から選択される。この流動剤は実質的に球面であるのが好ましく、例えばシリカ、沈殿シリカ、水和シリカ、石英ガラス、ヒュームドシリカ、火成シリカ、ガラス質ホスフェート、ガラス質ボレート、ガラス質オキサイド、非晶質アルミナ、酸化チタン(IV)、タルク、マイカ、カオリン、アタパルジャイト、珪酸カルシウム、アルミナおよび珪酸マグネシウムの中から選択される。 【0035】 本発明組成物はさらに、焼結で使用されるポリマー粉末に適した任意タイプの添加剤、特に、アグロメレーション用粉末の性質を改良するための添加剤および/または溶融で得られる物品の機械特性(引張強度および破断伸び)または風合(色)を改良するための添加剤を含むことができる。本発明組成物は特に、染料、着色顔料、TiO2、赤外吸収顔料、カーボンブラック、難燃剤、ガラス繊維、炭素繊維、その他を含むことができる。」 (3)「【実施例】 【0042】 以下、本発明の実施例を示すが、本発明が下記実施例に限定されるものではない。特に断らないかぎり、全ての百分比および部は重量で表される。 以下のテスト(実施例および比較例)で使用する組成物のコポリマー(アルケマ (Arkema) 社のペバックス(Pebax)、登録商標)は下記のものである:ペバックス(Pebax)1: Mn =600グラム/モルのPA-11ブロックと、Mn =1000グラム/モルのPTMGブロックとをベースにしたペバックス(Pebax)、硬いブロック/軟いブロックの比:0.6。ペバックス(Pebax)2:Mn =1000 g/モルのPA-11ブロックと、Mn =1000 g/モルのPTMGブロックとをベースにしたペバックス(Pebax)、硬いブロック/軟いブロック比:1.ペバックス(Pebax)3:Mn =1000 g/モルのPA-12ブロックと、Mn =の1000グラム/モルのPTMGブロックとをベースにしたペバックス(Pebax)、硬いブロック/軟いブロック比:1. 【0043】 下記のテストはPEBA(ペバックス(Pebax)、登録商標)をベースにした組成物であるが、本発明組成物がこの実施例に限定されず、任意タイプのブロック共重合体の単独または混合物にできるということは理解できよう。 【0044】 使用した粉末充填剤はドロマイト(メーカ:Imerys)で、化学組成CaMg(CO3)2を有するカルシウムとマグネシウムの複炭酸塩で、そのモーズ硬度は3で、そのD50は10μm以下である。使用した充填剤の量(重量%)は実施例および比較例の組成に応じて変えた(0~30%)。[表2]を参照。 【0045】 全てのテストで使用した流動剤はヒュームドシリカCabOSil TS610である(メーカー:カボート(Cabot)社)で、各組成物の0.2重量%にした。そのD50は20μgm以下である。 【0046】 実施例1~4、比較例1~3 [表2]に示すテスト組成物を製造した。コンパウンディング: [表2]のテストでは、粉末充填剤(比較例3、実施例1、2、3、4)、ペバックス(Pebax)1、2または3の顆粒を押出機(ウエルナー(Werner)40)を用いて所定量の充填剤(それぞれ10%、20%、30%および22%のドロマイト)とコンパウンディングした。 【0047】 低温ミリング: ペバックス(Pebax)(比較例1または2)またはペバックス(Pebax)2(比較例4)または予め得た化合物(比較例3および実施例1~4)を低温ミリング(cryomilled)してD50が<100μmの粉末を製造した。低温ミリングは下記特数を有するMikropul D2H低温ミル(ハンマーミル)である:モーター速度:2930回転数/分、ミルプーリー直径:115mm、駆動プーリ直径:270mm、空のときの粉砕速度:6870回転数/分、ツインスクリューモーター速度:1360回転数/分、ツインスクリュー減速比:1/10、ツインスクリュー直径:78mm、ツインスクリューピッチ:50mm。低温ミリング後に必要に応じて粉末を8時間の回転ドラム乾燥器(Heraeus、Jouanin)で60℃の温度、20-25 mbarの圧力下で乾燥できる。 【0048】 スクリーニング(篩分け): 低温ミリング後に、粉末をスクリーニング(濾別)して大きな粒子を除去し、粒子の平均粒径およびD50を下げた。使用したPerfluxスクリーンはステンレス鋼の金網製で、全てのテストでメッシュは200μmであるが、比較例2の追加のスクリーニングでは145μmメッシュ、実施例4では110μmメッシュである。 【0049】篩分け効率の測定: この効率は導入した粉末の量に対するスクリーンのメッシュを通過した低温ミリング済み粉末の量の比(重量百分比)を表す。低温ミリングおよびスクリーニング後に得られた粉末には0.2重量%のヒュームドシリカ(Cab-O-Sil TS610)を加えた。 【0050】 得られた組成物を焼結機へ送る: Formiga P100(EOS)レーザー焼結機を使用した。このレーザー機械へ送る条件は一定であり、全ての組成物に共通で、以下の通りである:輪郭(contour)速度=1500mm/秒、ハッチング(hatching)速度=2500mm/秒、「ビームオフセット」ハッチング(hatching)=0.15mm。 [表2]のテストで変えた条件は[表1]に示した。 【0051】 【表1】 [図:0001413321000001.jpg] 【0052】 全てのテストで、各組成物を焼結させて製造した部品の引張試験用試験片は亜鈴型(寸法150×25×3mm)である。 【0053】 得られた3D物品の表面外観: [表2]の「表面外観」の欄で「OK」は平ら、平滑かつ均一な表面外観で、正確なエッジを有することに対応する。「KO」はそれとは逆の外観に対応し、表面外観のグレードが低いことに対応する。 【0054】 得られた三次元物品(試験片)の密度の測定: レーザー焼結で形成した各試験片の真密度をISO規格1183に従って測定し、射出成形で製造した同じ形の対応する試験片の同じ組成物の理論密度と比較した。 [表2]の真密度/理論密度比はレーザー焼結で得られた不品が理論密度の80%以上の密度か否かを示す。 【0055】 焼結で得た亜鈴型試験片の弾性係数(縦弾性係数)の測定: 縦弾性係数はISO規格527-2:93-1Bに従って測定した。全てのテストで1000 MPa以下のモジュラスを得た。篩分け効率、焼結処理した粉末の粒径、得られた3D物品の表面外観、真密度/理論密度比およびモジュラスは[表2]にまとめて示した。 【0056】 【表2】 [図:0001413321000002.jpg] 【0057】 比較例1 ペバックス(Pebax)1のポリマーの顆粒(硬いブロック/軟いブロックの比:0.6、最初の加熱時の溶融温度Tm1:146℃)を低温ミリングし、200μmに濾別した。得られた粉末に0.2重量%の流動剤(Cab-O- Sil TS610、ヒュームドシリカ)を加えた。粉末組成物のD50は105μmで、それをレーザー焼結して(Formiga P100レーザー機械)、三次元部品(引張試験試験片)を作った。得られた部品は理論密度の80%以下の密度を有し、表面外観は不均等で、エッジの定義は不正確であった。 【0058】 比較例2 ペバックス(Pebax)1のポリマーの顆粒(硬いブロック/軟いブロックの比:0.6、最初の加熱時の溶融温度Tm1:146℃)を低温ミリングし、145μmに濾別した。得られた粉末に0.2重量%の流動剤(Cab-O- Sil TS610、ヒュームドシリカ)を加えた。粉末組成物のD50は80μmで、それをレーザー焼結して(Formiga P100レーザー機械)、三次元部品(引張試験試験片)を作った。 【0059】 得られた部品は理論密度の80%以下の密度を有し、表面外観は平ら、平滑かつ均一な表面外観で、エッジの定義も正確であったが、D50が100μm以下の粉末を低温ミリングで収率(50%以下)で工業的に得られなかった。すなわち、低温ミリングした比較例2の粉末組成物は2回のスクリーニング段階を必要とする。これは低温ミリングで得られた粉末の(50%を超える「スクリーン篩上」)の50%以上をロスすることを意味する。 【0060】 比較例3 ペバックス(Pebax)1のポリマーの顆粒(硬いブロック/軟いブロックの比:0.6、最初の加熱時の溶融温度Tm1:146℃)を1重量%の無機充填剤(ドロマイト)とコンパウンディングした。得られた化合物を低温ミリングし、スクリーニングして200μmにした。得られた粉末に0.2重量%の流動剤(Cab-O- Sil TS610、ヒュームドシリカ)を加えた。粉末組成物のD50は104μmである。この粉末組成物からレーザー焼結によって三次元部品(引張試験試験片)を作った(Formiga P100レーザー機械)。得られた部品は理論密度の80%以下の密度を有し、表面外観は不均質で、エッジの定義も不正確であった。 【0061】 実施例1 ペバックス(Pebax)1のポリマーの顆粒(硬いブロック/軟いブロックの比:0.6、最初の加熱時の溶融温度Tm1:146℃)を20重量%の無機充填剤(ドロマイト)とコンパウンディングした。得られた化合物を低温ミリングし、スクリーニングして200μmにした。得られた粉末に0.2重量%の流動剤(Cab-O- Sil TS610、ヒュームドシリカ)を加えた。粉末組成物のD50は84μmである。この粉末組成物からレーザー焼結によって三次元部品(引張試験試験片)を作った(Formiga P100レーザー機械)。得られた部品は理論密度の80%以上の密度を有し、表面外観は平ら、平滑かつ均一で、正確なエッジであった。 【0062】 実施例2 ペバックス(Pebax)1のポリマーの顆粒(硬いブロック/軟いブロックの比:0.6、最初の加熱時の溶融温度Tm1:146℃)を30重量%の無機充填剤(ドロマイト)とコンパウンディングした。得られた化合物を低温ミリングし、スクリーニングして200μmにした。得られた粉末に0.2重量%の流動剤(Cab-O- Sil TS610、ヒュームドシリカ)を加えた。粉末組成物のD50は69μmである。この粉末組成物からレーザー焼結によって三次元部品(引張試験試験片)を作った(Formiga P100レーザー機械)。得られた部品は理論密度の80%以上の密度を有し、表面外観は平ら、平滑かつ均一で、正確なエッジであった。 【0063】 比較例4 ペバックス(Pebax)2のポリマーの顆粒(硬いブロック/軟いブロックの比:1、最初の加熱時の溶融温度Tm1:148℃)を低温ミリングし、スクリーニングして200μmにした。得られた粉末に0.2重量%の流動剤(Cab-O- Sil TS610、ヒュームドシリカ)を加えた。粉末組成物のD50は114μmである。この粉末組成物からレーザー焼結によって三次元部品(引張試験試験片)を作った(Formiga P100レーザー機械)。得られた部品は理論密度の80%以下の密度を有し、表面外観は不均質で、エッジの定義も不正確であった。【0064】実施例3ペバックス(Pebax)2のポリマーの顆粒(硬いブロック/軟いブロックの比:1、最初の加熱時の溶融温度Tm1:148℃)を22重量%の無機充填剤(ドロマイト)とコンパウンディングした。を低温ミリングし、スクリーニングして200μmにした。得られた粉末に0.2重量%の流動剤(Cab-O- Sil TS610、ヒュームドシリカ)を加えた。粉末組成物のD50は61μmである。この粉末組成物からレーザー焼結によって三次元部品(引張試験試験片)を作った(Formiga P100レーザー機械)。得られた部品は理論密度の80%以上の密度を有し、表面外観は平ら、平滑かつ均一で、正確なエッジであった。 【0065】 実施例4 ペバックス(Pebax)3のポリマーの顆粒(硬いブロック/軟いブロックの比:1、最初の加熱時の溶融温度Tm1:147℃)を22重量%の無機充填剤(ドロマイト)とコンパウンディングした。を低温ミリングし、スクリーニングして110μmにした。得られた粉末に0.2重量%の流動剤(Cab-O- Sil TS610、ヒュームドシリカ)を加えた。さらに、無機顔料(0.3重量%のMonarch 120 Black)も加えた。粉末組成物のD50は70μmである。この粉末組成物からレーザー焼結によって三次元部品(引張試験試験片)を作った(Formiga P100レーザー機械)。得られた部品は理論密度の90%以上の密度を有し、表面外観は平ら、平滑かつ均一で、正確なエッジであった。 【0066】 実施例1~4の本発明粉末組成物は、レーザー焼結法で加工することで理論値の80%以上の密度を有し、正確な定義の可撓性部品を後処理(インフィルトレート)なしに直接得ることができる。」 (2)甲1に記載された発明 ア 甲1粉末発明 甲1には、実施例3として記載された、「粉末」として次の発明(以下「甲1粉末発明」という。)が記載されている。 「ペバックス(Pebax)2のポリマーの顆粒(硬いブロック/軟いブロックの比:1、最初の加熱時の溶融温度Tm1:148℃)を22重量%の無機充填剤(ドロマイト)とコンパウンディングして得られた粉末であって、 ペバックス(Pebax)2は、Mn =1000 g/モルのPA-11ブロックと、Mn =1000 g/モルのPTMGブロックとをベースにしたペバックス(Pebax)、硬いブロック/軟いブロック比:1である、粉末。」 イ 甲1部品発明 また、甲1には、実施例3として記載された、「三次元部品」として次の発明(以下「甲1部品発明」という。)が記載されている。 「ペバックス(Pebax)2のポリマーの顆粒(硬いブロック/軟いブロックの比:1、最初の加熱時の溶融温度Tm1:148℃)を22重量%の無機充填剤(ドロマイト)とコンパウンディングし得られた粉末に0.2重量%の流動剤(Cab-O- Sil TS610、ヒュームドシリカ)を加え、この粉末組成物からレーザー焼結によって作った三次元部品であって、 ペバックス(Pebax)2は、Mn =1000 g/モルのPA-11ブロックと、Mn =1000 g/モルのPTMGブロックとをベースにしたペバックス(Pebax)、硬いブロック/軟いブロック比:1である、三次元部品。」 (3)本件特許発明1 ア 対比 本件特許発明1と甲1部品発明とを対比する。 (ア)熱可塑性ポリマーについて 甲1部品発明の「ペバックス(Pebax)2」は、「Mn =1000 g/モルのPA-11ブロックと、Mn =1000 g/モルのPTMGブロックとをベースにしたペバックス(Pebax)、硬いブロック/軟いブロック比:1である」。 ここで、「PA」は、甲1の【0021】の記載からポリアミドの略語であり、「PTMG」は、甲1の【0019】の記載からポリ(テトラメチレングリコール)の略語である。これらの組成から、甲1部品発明の「ペバックス(Pebax)2」は、熱可塑性ポリマーである。 そうしてみると、甲1部品発明の「ペバックス(Pebax)2」は、本件特許発明1の「熱可塑性ポリマー」に相当する。 (イ)フィラーについて 甲1部品発明の「粉末」は、「22重量%の無機充填剤(ドロマイト)とコンパウンディングして得られた」ものである。 上記構成からみて、甲1部品発明は、「22重量%の無機充填剤(ドロマイト)」を含むといえる。 ここで、本件特許明細書の【0062】等に記載されているように、フィラーは剛性を高める機能があるところ、甲1の【0030】に「一般に、無機充填剤は本発明組成物を補強する役目をするので好ましい」と記載されていることからみて、甲1部品発明の「無機充填剤(ドロマイト)」と本件特許発明1の「フィラー」はその機能が共通するものといえる。 そうしてみると、甲1部品発明の「無機充填剤(ドロマイト)」は、本件特許発明1の「フィラー」に相当する。また、本件特許発明1と甲1部品発明は、「10重量パーセント以下のフィラーを含む」との要件のうち「フィラーを含む」という点においてのみ共通する。 (ウ)3D印刷された物品について 上記(ア)及び(イ)を総合すると、甲1部品発明の「三次元部品」は、本件特許発明1の「3D印刷された物品」に相当する。 イ 一致点 上記アによると、本件特許発明1と甲1部品発明は次の点で一致する。 「熱可塑性ポリマーを含む3D印刷された物品であって、フィラーを含む、3D印刷された物品。」 ウ 相違点 本件特許発明1と甲1部品発明は次の点で相違する。 <相違点1> 「熱可塑性ポリマー」について、本件特許発明1は、「平行平板レオロジーによって測定される140℃未満のクロスオーバー温度(G’/G”)を有」するのに対して、甲1部品発明の「ペバックス(Pebax)2」のクロスオーバー温度は明らかでない点。 <相違点2> 本件特許発明1は、「XY方向の破断点伸びが少なくとも50%であ」るのに対して、甲1部品発明の破断点伸びは明らかでない点。 <相違点3> 本件特許発明1は、「材料押出3D印刷により形成され」るのに対して、甲1部品発明は、「レーザー焼結によって作った」点。 <相違点4> 「フィラー」について、本件特許発明1は、「10重量パーセント以下」「を含む」のに対して、甲1部品発明は、「22重量%の無機充填剤(ドロマイト)」を含む点。 エ 新規性及び進歩性についての判断 (ア)新規性について 上記ウのとおりであって、少なくとも上記相違点4は実質的な差異であることは明らかであるから、本件特許発明1は、甲1部品発明と同一ではない。 (イ)進歩性について 事案に鑑み、上記相違点4について検討する。 甲1には、特許請求の範囲の請求項1において、「下記(1)~(3)から成るD50が100μm以下の粉末の熱可塑性組成物:(1)溶融温度が180℃以下の少なくとも一種のブロック共重合体、(2)組成物の全重量の15~50重量%のモーズ硬度が6以下で、D50が20μm以下の少なくとも一種の粉末充填剤、(3)組成物の全重量の0.1~5重量%のD50が20μm以下である粉末流動剤。」と記載されていることからみて、甲1部品発明における「粉末充填剤」は、「組成物の全重量の15~50重量%」とすることを必須とするものである。また、同様の記載は、【0013】にもあり、実施例としても、充填材(ドロマイド)の重量%は、20%、30%及び22%のいずれかである。 そうしてみると、甲1部品発明において、「無機充填剤(ドロマイト)」を15重量%よりも少なくすることに阻害要因があるといえるから、当業者であっても、甲1部品発明の「無機充填剤(ドロマイト)」の量を減じ、「10重量パーセント以下」とする動機付けはない。 したがって、当業者であっても、甲1部品発明に基づいて上記相違点4に係る本件特許発明1の構成を満たすものとすることは、容易に想到し得たこととはいえない。 オ 本件特許発明1についての小括 以上のことから、他の相違点については検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1に記載された発明であるとはいえない。また、本件特許発明1は、当業者であっても、甲1に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。 (4)本件特許発明2~16 本件特許発明2~16は、本件特許発明1の構成を全て備えるものであるから、本件特許発明2~16も、本件特許発明1と同じ理由により、甲1に記載された発明であるとはいえず、また、当業者であっても、甲1に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。 (5)本件特許発明17 本件特許発明17と甲1粉末発明とを対比すると、本件特許発明17と甲1粉末発明とは、少なくとも、本件特許発明17は、「10重量パーセント以下のフィラー」「を含む」のに対して、甲1粉末発明は、「22重量%の無機充填剤(ドロマイト)」を含む点で相違する。 そうすると、本件特許発明17も、本件特許発明1と同じ理由により、甲1に記載された発明であるとはいえず、また、当業者であっても、甲1に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。 (6)他の実施例 実施例4を引用発明とした場合も同様に判断される。 (7)異議申立人の主張 異議申立人は、令和6年3月27日に提出された意見書において、「本件明細書において、「フィラー」として、甲第1号証に開示された「ドロマイト」は具体的に挙げられておらず、仮に特許権者が主張するように、本件特許発明1、17において、10重量%以下のフィラーを含む旨を規定していたとしても、ドロマイトを22重量%の割合で含有することを排除するものではありません。」と主張している(以下「主張」という。)。 そこで、上記主張について検討するに、本件特許の特許請求の範囲の記載からみて、本件特許発明1及び17においては、「フィラー」の量を特定されているものの、「フィラー」として用いるられる材料は何ら限定されていない(この点は、本件特許明細書の【0062】に「非限定的な例」と記載されていることからも明らかである。)。そして、上記(3)ア(イ)で検討したとおり、甲1部品発明及び甲1粉末発明の「無機充填剤(ドロマイト)」は、本件特許発明1及び17の「フィラー」に相当するものであるといえるから、本件特許発明1及び17の「フィラー」には、甲1部品発明及び甲1粉末発明の「無機充填剤(ドロマイト)」は含まないとする、上記主張は採用できない。 (8)小括 以上のことから、本件特許発明1~17は、甲1に記載された発明であるとはいえず、また、当業者であっても、甲1に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。 第6 取消理由通知書により通知しなかった特許異議の申立ての理由の概要 1 令和5年10月20日付け取消理由通知書により特許権者に通知しなかった特許異議申立書に記載された特許異議の申立ての理由は、概略、以下のとおりである。 (1)進歩性(甲2を主引例とした場合) 本件特許の請求項1~17に係る発明は、本件優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された、甲2に記載された発明並びに甲1及び4に記載された事項に基づいて、本件優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 (2)新規性及び進歩性(甲3を主引例とした場合) 本件特許の請求項1~4、9及び14~17に係る発明は、本件優先日前に日本国内又は外国において電気通信回線通じて公衆に利用可能となった甲3に記載された発明であるから特許法29条1項3号に該当し、また、甲3に基づいて当業者が容易に発明をすることがら、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができない。 (3)サポート要件 本件特許は、特許請求の範囲の請求項1~17の記載が、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない。 なお、特許異議申立書に記載された特許異議の申立ての理由は、本件訂正請求により訂正する前の本件特許の請求項1~17に係る発明に対してなされたものである。 2 令和6年3月27日に提出された意見書(異議申立人)の主張の概要 (1)明確性要件 本件特許は、特許請求の範囲の請求項1~17の記載が、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない。 (2)サポート要件 本件特許は、特許請求の範囲の請求項1~17の記載が、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない。 第7 取消理由通知書により通知しなかった特許異議の申立ての理由についての合議体の判断 1 進歩性(甲2を主引例とした場合) 甲2には、本件特許発明1に係る「140℃未満のクロスオーバー温度(G’/G”)を有」すること、及び「XY方向の破断点伸びが少なくとも50%であ」ること、並びに本件特許発明17に係る「140℃未満のクロスオーバー温度(G’/G”)を有する」こと及び「少なくとも50%のXY方向における破断点伸びを有」することは、記載も示唆もされていない。そして、甲2の実施例等(特に16~20頁)として記載された「レーザ焼結可能な熱可塑性粉末」の組成から、本件特許発明1に係る「140℃未満のクロスオーバー温度(G’/G”)を有」すること、及び「XY方向の破断点伸びが少なくとも50%であ」ること、並びに本件特許発明17に係る「140℃未満のクロスオーバー温度(G’/G”)を有する」こと及び「少なくとも50%のXY方向における破断点伸びを有」すること、となる蓋然性が高いとはいえない。 さらに、甲2には、クロスオーバー温度を下げること及びXY方向の破断点伸びを大きくするという動機付けはないことから、甲2に記載された発明並びに甲1及び4に記載された事項によっては、本件特許発明1に係る「140℃未満のクロスオーバー温度(G’/G”)を有」すること、及び「XY方向の破断点伸びが少なくとも50%であ」ること、並びに本件特許発明17に係る「140℃未満のクロスオーバー温度(G’/G”)を有する」こと及び「少なくとも50%のXY方向における破断点伸びを有」することの構成には、当業者であっても至らない。 したがって、本件特許発明1~17は、当業者であっても、甲2に記載された発明並びに甲1及び4に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。 2 新規性及び進歩性(甲3を主引例とした場合) 甲3には、本件特許発明1に係る「XY方向の破断点伸びが少なくとも50%であ」ること、及び本件特許発明17に係る「少なくとも50%のXY方向における破断点伸びを有」することは、記載も示唆もされていない。そして、甲3の特許請求の範囲や実施例(特に【0082】~【0102】)として記載された「フィラメント」の組成から、本件特許発明1に係る「XY方向の破断点伸びが少なくとも50%であ」ること、及び本件特許発明17に係る「少なくとも50%のXY方向における破断点伸びを有」すること、となる蓋然性が高いとはいえない。さらに、甲3には、XY方向の破断点伸びを大きくするという動機付けはないことから、甲3に記載された発明において、本件特許発明1に係る「XY方向の破断点伸びが少なくとも50%であ」ること、及び本件特許発明17に係る「少なくとも50%のXY方向における破断点伸びを有」することの構成には、当業者であっても至らない。 したがって、本件特許発明1~17は、甲3に記載された発明であるとはいえず、また、当業者であっても、甲3に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。 3 サポート要件 異議申立人は、異議申立書の110頁において、「本件特許明細書の表1等に開示された、PA11またはPA12とPTMGとのコポリマーを用いた場合から、あらゆる熱可塑性ポリマーの場合をも包含し、本件特許発明の課題を解決できる場合も包含すると考えられる、本件特許発明1、17、および本件特許発明17に従属する本件特許発明2~16の範囲にまで拡張乃至一般化し得るものではなく、本件特許発明1~17はサポート要件を充足しない。」と主張している。また、異議申立人は、令和6年3月27日に提出された意見書(異議申立人)の6頁において、「本件特許明細書には、フィラーを含有する実施例は開示されておらず、「10重量パーセント以下のフィラーを含む」場合に、本件特許明細書[0005]等に開示された本件特許発明の課題を解決できるのかが明らかではありません。」と主張している。 しかしながら、本件特許発明は、熱可塑性ポリマーから構成される3D印刷された部品において、「Z方向の高い相対強度及び高い破断点伸びを有する」材料を提供することを発明の課題とする(【0005】~【00096】)ものであって、本件特許明細書の【0054】~【0058】には、材料となるポリマーのクロスオーバー温度及びその調整指針が示されており、さらに、同【0075】~【0090】には具体的に効果を確認した実施例の記載もある。 してみると、上記の記載に接した当業者であれば、熱可塑性ポリマーから構成される3D印刷される部品において、所定のクロスオーバー温度条件を満たす材料を用いる、との特定事項を満たすことで、発明の課題を解決できると認識できる。 そして、本件特許発明1~17はいずれも、上記の発明の課題を解決できると認識できる特定事項の全てを有し、さらに限定するものであるから、当然、発明の課題を解決できると認識できる。 したがって、本件特許は、特許請求の範囲の請求項1~17の記載が、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしている。 なお、異議申立人の上記の主張は、発明の課題を解決し得ないとする具体的な証拠を挙げるものではないから、採用することができない。 4 明確性要件 異議申立人は、令和6年3月27日に提出された意見書(異議申立人)の6頁において、「フィラーの含有量について、下限値が記載されておらず、フィラーの種類も特定されていないため、どのようなフィラーをどの程度含むのかが明らかではありません。」と主張している。 しかしながら、本件特許発明は、「10重量パーセント以下のフィラーを含む」と特定するものであって、「フィラー」の種類(材料)を特定するものではないことも明らかである。したがって、異議申立人が主張する点が、本件特許発明で特定されていないとしても、そのことによって本件特許発明が不明確とはいえない。 そうすると、本件特許発明は、明確であり、第三者に不測の不利益をもたらすとはいえない。 したがって、本件特許は、特許請求の範囲の請求項1~17の記載が、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしている。 第8 むすび 本件特許発明1~17は、取消理由通知書に記載した取消しの理由及び特許異議申立書に記載された特許異議の申立ての理由によっては、取り消すことができない。 また、他に本件特許発明1~17を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2023-700835

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